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【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/07/31(月) 22:38:53.85ID:TwvFk4rz
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
       
新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

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スリーサイズ:(大体の体格でも可)
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簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50
0203ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/09(木) 15:06:44.60ID:DEUu67ZT
>「あれが教団の施設か……行ってみるとしよう」

>「……中に誰か、いる……はずです。気をつけて下さい」

誰もいなくなった村を探索していると、白黒の施設がチェムノタ山へ続く
道のりをふさぐように建っているのがすぐに分かった。
トランキルによれば誰かが建物内にいるらしく、一行は警戒しつつ突入した。

>「貴様ら何者だ!」「関係ない、何者だろうとのして洗脳するまでだ――!」

>「エーテル教団の信徒……!こいつらは純人種だ、オーカゼ村の人々じゃない!」

「だろうな!」

ジャンはそう吐き捨てるように言い、目の前の男が振り下ろさんとした戦槌の柄を掴んだ。
そしてそのまま持ち上げたかと思うと、即座に地面に叩きつけた。
引きずられるように倒れた男の顎を蹴り飛ばし昏倒させると、戦槌についていた埃をぱっぱと払い
そこに刻まれていた銘を確かめる。

「……ハルコンネン、こりゃ近所の爺さんが持ってたもんだぜ」

同じように一行が無力化した信徒たちの武器を確かめると、刻まれた銘はどれも
この村に住むヒトたちが昔から持っていたものだ。

「集会場を勝手に改造して武器までかっぱらうとはひでえ奴らだぜ、ますます許す気がなくなっちまった」

>「村の皆は何処に行ったのだ」

「こちらの御方は執行官だぜ。嘘吐くんじゃねえぞ」

拘束した信徒の頭を掴みトランキルの方を向かせる。
トランキルの顔を知っているかどうかは定かではないが、ダーマに住んでいるならば
執行官が意味するところは分かっているだろう。

>「……闇の指環を目覚めさせる儀式をするとか何とか言って裏山に連れて行かれた」

>「……嘘をついているようには見えません。多分、ですけど……こうなった時の事を、「教わって」いないんだと思います。
  私も……そうだから、きっとそう……な気がします……」

「トランキルさんが言うなら大丈夫だろうな、とっとと山に行くか。
 洗脳されてんなら足跡を偽装する暇もねえ、足跡おっかけりゃすぐに追いつけるさ」
0204ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/09(木) 15:07:19.13ID:DEUu67ZT
チェムノタ山はそれほど険しくはなく、自然もそれなりに豊かな山だ。
年老いたとはいえ龍が住むことから魔物の縄張り争いも激しくはなく、
オーカゼ村の子供は皆、一度はここで遊ぶと言われている。

そのチェムノタ山の中腹、いつもならば狩人たちが休憩に使う広場に
村の住人たちが集まっているのをジャンたちは発見した。

>「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」

「……見覚えのあるやつは全員いる!でも父ちゃんと母ちゃん、それに出稼ぎに行ってる
 いつもの連中はいねえな……そこを狙ったのかもしれねえ」

一行は木々と茂みに紛れて隠れ、集団のリーダーと思しき人間二人が怒鳴っていることに気づいた。

>「おうアドルフ!お前からもなんか言ってやれよこの鈍亀蛮族どもに!
 早くしねえとお前のお姉ちゃんからまた嫌味言われるだろが!あのクソ真っ黒ババア、虚無に呑まれて死ねばいいのに!」

>「……アルマクリス、あまり姉上のことを悪く言うな」

「こいつぁたまげたな、黒騎士様までいらっしゃるときたもんだ。
 ……帝国も一枚噛んでやがるのか?」

ジャンが真っ先に思い出した黒騎士アルバートも指環を探していた。
もしかすると帝国は複数のルートで指環を集めようとしているのかもしれない、
そうジャンが珍しく頭を使って考えた矢先、それは起きた。

>「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

「――先、行くわ」

黒騎士と揉めていた男、アルマクリスが苛立ちをオークの親子二人に矛という形でぶつけようとした瞬間だ。
突如飛来した短剣がアルマクリスの右肩を貫いた。
アルマクリスが力の入らない右手に気づいたときには時既に遅く、矛はぐらりと傾いて地面に落ちた。

「はああぁぁぁぁぁ!!?誰だ短剣投げやがったクソは!?
 蛮族連中皆殺しにすっぞオラァ!」

短剣を引き抜いて投げ捨て、憤怒に満ちた表情で辺りを見回す。
周りにいるのは怯えた村人たちと、剣に手をかけ周囲を警戒しているアドルフ。
そして困惑したように辺りを探している教団の信徒たちだ。

「俺だよ、クソ野郎」

信徒が持っていた戦槌を肩に担ぎ、地面に刺さった短剣を抜いて土を払い、鞘に戻す。
ゆらりと木々の陰から姿を現したのは、ジャンだ。
0205ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/11/09(木) 15:07:48.31ID:DEUu67ZT
「ジャン・ジャック・ジャンソンだ、ようく覚えとけクソ野郎」

「てめえもオークか!?てめえら、そいつはいらねえ!殺しちまえ!」

辺りにいた信徒が各々の得物を手にジャンを取り囲み、やがて一人が飛び掛かったその時。
ブン、という鈍い音と共に、その信徒の頭は砲弾が直撃したかのように砕け散った。

ならば数人で、と信徒たちがそれぞれ異なる方向から襲い掛かれば、
ジャンの姿がぐにゃりと揺らめいて消え、信徒たちは困惑の表情を浮かべる。
直後に信徒たちは激しい水流を浴びて吹き飛ばされ、山道を転げ落ちていく。

「アクア、最初っから全開で行くぜ。纏めて殺されるのはてめえらだ!」

ジャンが姿を現したとき、そこにいたのは一人の竜人。
清流の如く蒼く輝く鱗を身に纏い、手に持つは荒波のような波紋を映し出す大斧。
伝説に語られる指環の勇者、その一人によく似た姿だった。

「指環の勇者か……アルマクリス、お前は足止めをしておけ。
 私は山頂で儀式の準備に入る」

アドルフはそれだけ言うと、おそらくは護衛であろう何人かが信徒の群れから離脱し、共に山頂へと向かう。
アルマクリスはその一方的な態度にさらに怒りを覚えたらしく、矛を拾い上げると
縦横無尽に何度も振り回し、こちらへと威嚇してきた。

「あんのクソ家族殺しがよぉ!偉そうに命令しやがって……
 指環の勇者サマご一行、どうせ他にもいるんだろ?鬱憤晴らしだ!
 ここでてめえら皆殺しにしてやるよぉ!!」

一見矛をがむしゃらに振り回しているように見えるが、
空を切る音の鋭さ、常人では見切れぬほどの手と足の動き、そして体のしなやかさは達人のそれだ。

未だ困惑している村人たちも考えると、かなりの強敵となるだろう。
0206ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 21:49:54.77ID:D2xiIRAZ
>「鍛冶場の炭はまだ十分燃え残っていた。村の人々が連れ去られてそう時間は経ってないはずだ。
 今から全力で登れば追いつける……ジャン、先導を頼む」
>「トランキルさんが言うなら大丈夫だろうな、とっとと山に行くか。
 洗脳されてんなら足跡を偽装する暇もねえ、足跡おっかけりゃすぐに追いつけるさ」

のされた見張りが吐いた情報は信ぴょう性が高いだろうということで、すぐに山に向かう。
予想した通り教団側の行軍ペースはあまり早くは無かったようで、中腹程度で追いつくことが出来た。

>「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」
>「……見覚えのあるやつは全員いる!でも父ちゃんと母ちゃん、それに出稼ぎに行ってる
 いつもの連中はいねえな……そこを狙ったのかもしれねえ」

「つまり村の中で戦える者はここにはおらぬということか――」

ジャンの両親は相当な手練れの戦士なのだろう。
ジャンの言うように普通に不在だっただけの可能性もあるが、村人にかけられた洗脳が一般人向け程度のものだとしたら
鍛錬を積んでいる者達は洗脳を免れて異常事態に気付き、事態を打開するために先に動いている、という可能性もある。

>「まだ連中は俺達の様子に気付いていないようだが……見ろ、誰か出てきたぞ」

帝国の黒騎士と矛使いらしき男が掛け合いを始める。
無駄にハイテンションな矛使いに黒騎士が淡々と突っ込むというスタイルである。
会話の中で黒騎士はアドルフ、と呼ばれた。
ユグドラシア防衛戦の最中現れ、実の妹であるパトリエーゼを葬ったという黒犬騎士アドルフで間違いないだろう。

>「"アドルフ"……?それにあのブラックオリハルコンの鎧、帝国の黒騎士か……!」
>「エーテル教団は帝国黒騎士まで抱き込んでいるのか……!?」

驚愕するスレイブに、ユグドラシア防衛線の後に学長から聞いた事の顛末を思い出しながら説明する。

「というよりアドルフが教団が帝国に一枚噛むために送り込んだ駒、というのが実態なのかもしれぬな。
そもそも黒騎士というのは一枚岩ではなくそれぞれ違う勢力がバックに付いておると言っても過言ではないようだ。
もしかしたら本当の意味での皇帝の腹心はアルバート殿ぐらいなのかもしれぬ――」
0207ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 22:04:50.62ID:D2xiIRAZ
そうこうしている間に、アルマクリスというらしい矛使いがオークの父娘を殺そうとし始めた。
ちなみにオークがあまり住んでいない地域では、オークは男性しかいないとか、
あるいは女性もいわゆるオークと聞いてイメージするオークの外見をしているから男性しかいないように見える、
等という勘違い説も流布しているがそんなことはなく、実際はやはり大柄で筋肉質ではあるが女性と分かる外見をしている。

>「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

>「――先、行くわ」

ジャンの不意打ちが成功し、ジャンが放った短剣がアルマクリスの右肩を貫く。
当然、アルマクリスは激怒するのであった。

>「はああぁぁぁぁぁ!!?誰だ短剣投げやがったクソは!?
 蛮族連中皆殺しにすっぞオラァ!」

>「俺だよ、クソ野郎」
>「ジャン・ジャック・ジャンソンだ、ようく覚えとけクソ野郎」

ジャンが姿を現し、襲い掛かってきた信徒たちを蹴散らすと、アドルフは何人かの護衛を連れて山頂へと向かっていった。

>「指環の勇者か……アルマクリス、お前は足止めをしておけ。
 私は山頂で儀式の準備に入る」

>「あんのクソ家族殺しがよぉ!偉そうに命令しやがって……
 指環の勇者サマご一行、どうせ他にもいるんだろ?鬱憤晴らしだ!
 ここでてめえら皆殺しにしてやるよぉ!!」

「そうだな、家族殺しなどという悪趣味なことをやらせるのはもっての他だ」

地面から生えてきた蔦が一斉に信徒達に巻き付き、信徒達が文字通りの吊るし上げになる。
ここは山であるため、大地の属性であるテッラの力は親和性が高い。
ざっ――と足音を立てて大地の植物の側面を顕現する竜装”ダイナストペタル”を纏ったティターニアが姿を現す。
0208ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 22:06:46.29ID:D2xiIRAZ
「呼ばれた気がしたから出てきてやったぞ。
鬱憤が溜まるのは分かるが関係無い者に当たり散らすのは頂けぬな。
一応言ってみるがそなたの嫌いなメアリもアドルフも幸い我らの敵だ――共に鬱憤を晴らす気はないか?
ちなみに教えといてやるとこちらは指輪持ちだけでもあと二人、総勢だと5人いるが――」
0209ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/10(金) 22:09:14.97ID:D2xiIRAZ
一見ただのハイテンション野郎に見えるアルマクリスだが、アドルフに足止めを任されたことを考えると、相当な達人なのだろう。
メアリに対して文句を言っていた事を考えると、教団信徒ではありえない。
また、アドルフの部下に見えるが、好き好んでアドルフに仕えているわけでもなさそうだ。
たまたまアドルフの下に配属されてしまったばかりにエーテル教団にこき使われる羽目になって鬱憤を募らせている帝国騎士といったところか
この時点ではそう推測するティターニアであった。

「はァー!? バカなの!? ふざけてるの!? 誰がてめぇらに使われてやるかっつーの!!
パトリエーゼを見殺しにしたくせして何が勇者だよ!」

「そなた、パトリエーゼ殿を知っておるのか……!?」

実はこの場で最も心に闇を募らせているのは、他でもないアルマクリスであった。
アルマクリスと、シュレティンガー家の三兄弟は、旧知の仲であった。
幼いころからエーテル属性を始めとする人間離れした魔術の才能を持っていたメアリと、卓越した武術の頭角を現したアドルフ。
彼らは自分とは違う”選ばれし者”なのだ―― その圧倒的な才能に、羨望と仄かな嫉妬を抱き、
一方でそんな姉兄と比べて落ちこぼれとみなされていたパトリエーゼに共感を抱いていた。
意識してかせずか、長大な矛という武器を選んだのも、コンプレックスを隠すため。
やがて嫉妬しつつも羨望の対象だったはずのメアリやアドルフは狂っていき、しかしその時にはすでに部下という立場であったため逆らうことも出来なかった。
そして、パトリエーゼがアドルフによって殺された、しかも最大級の”選ばれし者”であるはずの指輪の勇者と共にいたにも関わらず、
彼らはパトリエーゼを守ってくれなかったと聞いた時、彼の中で決定的に何かが壊れたのだ。

「ああ、少なくともてめぇらよりはずっとよく知ってるわ!!」

アルマクリスが矛を一閃すると、その怒りを体現するように、矛が燃え盛る炎を纏う。
単に長大な矛を振り回すだけではなく、付与魔術の心得もあるらしい。
前線では炎の矛とジャンの水の大斧が激突し、矛が振るわれる度にその余波の炎が全方位に飛ぶ。
余波といっても、その一発一発が火炎級の魔術もかくやと思われるほどの威力だ。
植物属性では分が悪いと思ったティターニアは、竜装を切り替え応戦する。

「――ストーンガード」

味方全員に防御力強化と炎耐性付与の魔術をかける。
緑を基調とした装いから一転、金色にも見える黄土色を基調としたその姿は“クエイクアポストル”――テッラの大地の堅牢そのものを体現する形態だ。
しばらく拮抗状態が続いていたかと思われたが――
アルマクリスが「埒があかねぇな」のような事を呟いたかと思うと、突如姿を消した、
ように見えた。実際には一瞬にして空高くジャンプしたのだ。
狙われたら最後。天空から自由落下を超える速度で舞い降り、相手は貫かれたと認識する間すら無く貫かれて絶命する――
それこそが彼の二つ名、”天戟”の所以。相変わらず姿は見えないが、上の方から声が聞こえてきた。

「まずは指輪も持ってない雑魚から片付けるぜぇ!!」

「シノノメ殿!」

事前にターゲットを教えてくれたのが不幸中の幸いとばかりに、とっさにシノノメにプロテクションをかけるティターニアだが、防ぎきれるかは分からない。
また、実はその言葉はターゲットをシノノメに見せかけるためのフェイクで実際には他の者がターゲットである可能性もあるだろう。
0210シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:21:18.74ID:XO2hQVfk
>「居た……!ジャン、オーカゼ村の住民はあれで全部か?……一人も、欠けていないか?」

山道を登り出してから暫く、私達は前方に大勢のオークが成す集団を見つけました。
スレイブ様が緊迫した声音でジャン様に尋ねます。

>「……見覚えのあるやつは全員いる!でも父ちゃんと母ちゃん、それに出稼ぎに行ってる
  いつもの連中はいねえな……そこを狙ったのかもしれねえ」
 
「……良かった」

私がほっと胸を撫で下ろしていると……集団の先頭から何か声が聞こえてきます。
苛立ちに任せた怒鳴り声……のような。

>「おうアドルフ!お前からもなんか言ってやれよこの鈍亀蛮族どもに!
 早くしねえとお前のお姉ちゃんからまた嫌味言われるだろが!あのクソ真っ黒ババア、虚無に呑まれて死ねばいいのに!」
>「こいつぁたまげたな、黒騎士様までいらっしゃるときたもんだ。
  ……帝国も一枚噛んでやがるのか?」

「伝説の指環が実在して、それを集めるとするならば……黒騎士一人でも少ないくらいですしね」

いえ、それよりも……なんだか雰囲気が剣呑です。
お年寄りの方を集団から引っ張り出して、一体何をするつもり……

>「はぁー?何躊躇ってんだよとっとと殺れって!あのさぁ!一人がそうやって遅れるとみんなが迷惑するんだよ!?
 ほらお爺ちゃんも若者のお荷物になんの嫌でしょ?死のうよ!殺そうよ!頑張ろうよ!!
 応援足りてませんかー?がーんばれっ!がーんばれっ!がーんばれっ!……頑張れっつってんだろ纏めて殺すぞ」

>「――先、行くわ」

「……お譲りします」

あのような輩に裁きを下すのは執行官の使命……ですが。
ジャン様は、私がお仕事の為に雇った冒険者。
だからこれは別に私情を優先した訳じゃない……なんて、一体誰に言い訳してるんでしょうか、私は。
本当はただ……私の仕事ですなんて、言えなかっただけなのに。

>「指環の勇者か……アルマクリス、お前は足止めをしておけ。
  私は山頂で儀式の準備に入る」

黒騎士は……どうやら矛使いの、アルマクリスでしたか、彼の援護はしないようです。
村人達を置いていくという事は、足止めの為の捨て駒という訳でもないのでしょう。
彼が指環の勇者と知っていながら……なおもたった一人にこの場を任せるなんて……。

>「あんのクソ家族殺しがよぉ!偉そうに命令しやがって……
  指環の勇者サマご一行、どうせ他にもいるんだろ?鬱憤晴らしだ!
  ここでてめえら皆殺しにしてやるよぉ!!」

やっぱり……言動こそ粗野なものの、放たれる槍技の冴えは、思わず背筋が凍るほど。
帝国……このダーマにおいては軟弱な純人が数の利に任せて支配する後進国と、
そのような風評ばかりが謳われていますが……あの男は物凄く、出来る。

>「そうだな、家族殺しなどという悪趣味なことをやらせるのはもっての他だ」

ティターニア様もそれを察したのでしょう。
ジャン様に続いて彼の前へと出ていきます。

>「呼ばれた気がしたから出てきてやったぞ。
  鬱憤が溜まるのは分かるが関係無い者に当たり散らすのは頂けぬな。
  一応言ってみるがそなたの嫌いなメアリもアドルフも幸い我らの敵だ――共に鬱憤を晴らす気はないか?
  ちなみに教えといてやるとこちらは指輪持ちだけでもあと二人、総勢だと5人いるが――」
0211シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:21:35.57ID:XO2hQVfk
……説得、出来るのでしょうか。
見ていた限りでは確かに一枚岩ではない様子でしたが。
かくして彼、アルマクリスの返答は……言葉ではなく、閃光。
ジャン様めがけ繰り出された、閃きと見紛うような刺突。
それが彼の答えでした。

>「はァー!? バカなの!? ふざけてるの!? 誰がてめぇらに使われてやるかっつーの!!
 パトリエーゼを見殺しにしたくせして何が勇者だよ!」
0212シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:21:53.64ID:XO2hQVfk
パトリエーゼ……?誰かの、お名前でしょうか。
私が彼らと出会う前の、彼らの冒険の中で、関わった方の?
……そして、見殺しにした、と言うのは。

>「そなた、パトリエーゼ殿を知っておるのか……!?」
 「ああ、少なくともてめぇらよりはずっとよく知ってるわ!!」

言葉通りの意味だとは思いません。
だけど……いくら指環の勇者と言えども、その手で全ての人を救える訳じゃなかった。
きっと、そういう事……。

……いえ、やめましょう。
いつもこういう事を考えているから、私はろくに執行官の職務をこなせない。
目の前の出来事に、ただの現象に、集中しないと。

矛が振るわれる度に迸る火炎が無差別に暴れ狂う。
自分へと迫り来るそれを、私は右手に生み出したショートソードで切り払う。
正しくは……剣では炎は切れない。だけどそれが伝う空気は、切り裂ける。
だけど……

「これでは、オーカゼ村の皆さんまでは……!」

彼らにこの炎から自分の身を守る術があると考えるのは、あまりに浅慮です。
ここは、私は守りに徹するべきか……。
……でも、守り切れるのでしょうか。
目の前の、一つの命を痛めつけ、奪う為の方法。それしか教わってきていない私に。

違う……そんな事考えたって何にもならないのに。
本当はただ、無我夢中にならなきゃいけないのに。
なんで私は、こんな事ばかり考えて……いつもそうだ。処刑台の上でも。
目の前で起きている事に、目の前にいる人達に……真摯に、なれない……。

「……守りは、わたくしが引き受けますの」

……不意に背後から感じた、強烈な熱気。
振り返ればそこには……城塞がそびえ立っていた。
一瞬、そんな錯覚さえ覚えるような……あれは、炎を纏った……巨大な百足?
そしてその炎が、襲い来る炎を薙ぎ払う……指環の力とは、凄まじいものですね。

これで守りの不安要素はなくなった……。
ですがそれでもなお、戦況は拮抗したまま。
ジャン様の斧は、振り下ろすならば瀑布の如く、振り上げるならば波浪のように。
凄まじい暴威を示しています。
だけどアルマクリスはジャン様の攻撃の出だしを見極め、突きを繰り出すそれを見事に凌いでいる。
囲まれないよう常に動き回りながら、あれほど精密に、素早い槍捌きが成し得るなんて。
攻防一体。言葉にしてしまうのは簡単ですが……生半可な鍛錬で至れる技量ではありません。

>「埒があかねぇな」

……これほどの戦いぶりを見せておいて、まだ、不満があるのですか?
私が目を見張った、その瞬間……彼の姿が視界から消えました。
いえ、辛うじてどちらに動いたのかは追えましたが……

「上です!」

あの一瞬で、殆ど力を溜める素振りも見せずにあれほどの跳躍を……。

>「まずは指輪も持ってない雑魚から片付けるぜぇ!!」
 「シノノメ殿!」
0213シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:22:17.96ID:XO2hQVfk
……狙いは、私……ですか?それは……なんとも……

「……困った事に、なりました」

なんて呟く私は、自分でも分かるくらいはっきりと、笑みを浮かべていて。
こんなはしたない事、本当は駄目なのに。
執行官の仕事をしている時こそ、こんな風に笑わなきゃ、いけないのに。

「おいおいどうした!足止めちまって、ビビってんのかァ!?
 それなら……そのまま、喰らいやがれ!!」

……あんなに凄い矛の使い手と、刃を交える事が、楽しみで仕方がない。
0214シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:23:19.09ID:XO2hQVfk
超高速で降下してくるアルマクリスが見えます。加速によって赤熱した矛が。
……どう、対応しましょうか。
防御は困難。躱して包囲するように動いても……彼にとって上空が逃げ場になり得る以上、確かに「埒が明かない」。

「『天』」

だから私は右手のショートソードを、弓を引き絞るように振り被る。
そしてアルマクリスを迎え撃つ形で突きを放った。

「『げ』……」

より正確には……彼が構える矛、その切っ先に剣の腹を当て。

「き……って」

肘と膝の脱力で落下の勢いを殺し……矛先を地面の方向へといなす。

「おいおいマジかよ。半端ねえな。思わず素に戻っちまうぜ」

……そうする事で、一切の破壊を伴わずに、彼は再びその両足を地面に着けた。

「……あなたの、一番派手な技は、確かに見せてもらいました。
 次は……一番練習した技で向かってくる事を……お勧めします」

そう口走ってから……私はまた、顔が明るみを帯びるのを感じました。
ち、違うんです。私、舞い上がってる訳じゃなくて……ええと……
こういう時、どんな風に振る舞えばいいのか分からないから……憧れが、出てきちゃうんです。

……私の言葉に、アルマクリスは一瞬、面食らったように目を見開く。

「おいおいおい、なんだそりゃ!確かにさっきのはわりと驚いたけどよ!」

けれどすぐに……その表情は、業火のような敵意を宿したものに変わります。

「でもぶっちゃけお前、ただガードしただけじゃん!なに上から目線かましてくれてんの!?
 ……いや、でもそれは舐められちまった俺が悪いか!
 分かった分かった!次は二度とそんな口が利けねーようにしてやるよ!」

瞬間、周囲に響く爆音。
見れば私とアルマクリスを取り囲むように、爆炎の柱が地面から迸っていました。
……先ほどから矛先が地面に刺されたままだった事に、気を配るべきでした。

「んじゃ、サクッと終わらせっか!」

……ジャン様達が、あの火柱を取り除くまでの間に、私を仕留める、と?
私は武人ではありませんから、そのように低く見られたって構いませんが……。
彼は指環の勇者一行を相手に、互角の立ち回りをしてみせた。
ならば今度も……私を倒せると、確信した上でああ言っている、はず。
だけど……一体どうやって?

縦横無尽に迫り来る矛は鋭く力強い。
でも眼で追えている。全ていなし、逸らし、弾いている。その上で余裕もある。
油断するつもりはありませんが……私が負けるとも、思えない。
得体の知れない自信に不安を覚えながらも、私は剣を振るう。
殺すのは……したくない。だから急所を外して浅い傷を負わせていく。
出血で動けなくなってくれれば……そんな事を、思っていたら。
不意にアルマクリスが膝を深く曲げた。
いや……フェイントだ。飛び込んでくる訳がない。
だって私はまさに今、剣を突き出している最中で。
そんな事をすれば自分から刃に刺さりに来る事に、
0215シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:24:07.03ID:XO2hQVfk
「――『天戟』」

……炎が爆ぜ、鮮血が飛び散った。
爆炎を推力にアルマクリスが飛び込んできて、私の剣が彼の胸に突き刺さったからだ。
ぱきんと硬質な音が響く。ティターニア様に付与された防御魔法が砕かれた音だ。
もしそれがなかったら、私は矛に貫かれていた。もう次は防いでもらえない。
なのに……私の意識は戦いに集中出来なくなっていた。

なんで、なんでそんな事が出来るんですか。
心臓は外れていたけど、そんなのたまたまです。
死ぬのが、怖くないんですか。
0216シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:24:46.61ID:XO2hQVfk
なんで、なんでそんな事が出来るんですか。
心臓は外れていたけど、そんなのたまたまです。
死ぬのが、怖くないんですか。

「なっ……」

私は動揺を禁じ得なくて……それは私の『マリオネット』の動作を阻害する。
次の瞬間、私の視界が激しく揺れた。
矛の柄で殴られたんだ。叩き付けられる殺気。見えなくても分かる。このままじゃとどめを刺される。

甲高い金属音……襲いかかる矛先を、ショートソードが弾いた。
マリオネットによる自動迎撃だ。
……だけどマリオネットは、私が思い描いた通りの動きをする為の補助魔法。
魔力を介した身体操作を行う事で、反射的な行動の速度も上がるけど。
つまり……目に映っていない攻撃を、正確に防ぐ事が出来るようになる訳じゃない。

「う、あ……」

弾いた矛の刃が、私の脇腹を引き裂いていた。
傷口から、大量の魔素が溢れ出る。
体から力が抜ける。体勢が崩れ……アルマクリスの追撃は更に続く。
五月雨のような刺突。軌跡は見える……剣を合わせる事は出来る。
だけど……力が入らない。十分に軌道を変えられない。
でも……おかしい……なんで……。

「なんで、その深手で、こんな……」

こんなにも凄まじい攻めを、繰り出す事が出来る……。

「気合。つーか別にこんなもん深手でもなんでもねーけどな!」

……事も無げに返ってきたのは、荒唐無稽で、しかし間違いなく、正確な答えでした。
短剣に腕の筋を断たれ、胸部を深く切り裂かれ、それでもまるで衰えない動き。
この世のあらゆる戦場に、魔術師だけが溢れ返っていない理由……。
己が肉体に頼みを置いて戦う者達の……理不尽な精神力。

……私には、無い力。
押し切られる。矛の柄が横薙ぎに、私の腹に叩き込まれる。
踏み留まれ……ない……。

「はいこれにて決着!格付け終了!俺様が本気出しゃてめえなんてこんなもんなの!
 さ、て、と、そんじゃアイツらが来る前に可及的速やかに遺言をどーぞ!とびきり気まずくなる感じの奴頼むわ!なっ!」

アルマクリスが得物の矛先を、倒れた私の胸の上に置く。

「何黙ってんだよ今すぐ死にてえか。……あ、もしかして今考え中?
 なんだよだったらそう言えよ!しょーがねーなー!
 俺様が面白トークで間を持たせてやっから早めにお願いね!」

そしてそのままジャン様達へと振り返った。
それは……私に対する油断を意味してはいない。
もし私が新たに武器を作り出せば、目もくれないままでも、彼は私を殺められるのでしょう。

「……いや、やっぱやめたわ。もっとスカッとするやり方思いついちまった」

……彼は何を、言っているのでしょう。

「おいてめえら。今すぐその指環を寄越して俺様の前に跪きな。
 勿論その後俺様はてめえらを殺す。一人ずつ、散々甚振ってからぶっ殺す。
 全員死んだら……コイツだけは助けてやんよ」
0217シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2017/11/15(水) 04:25:02.89ID:XO2hQVfk
「何を……馬鹿な……そんな事、信じられる訳……」

「そーだよなぁ。信じらんねーよなぁ。あ、別に嫌なら無理に従わなくたっていいんだぜ。
 ……つーか、従うわきゃねーよな!だから可哀想に!てめえはここで見殺しって訳だ!
 なぁそうだろ指環の勇者様よ!見殺しにすんだろ!?いやしろよ!パトリエーゼん時みてーによぉ!」

また、その名前……一体、何があって……彼は、こんな……。

「ほら言えよ!指環は手放せないし殺されたくないから死んで下さいってよ!」

いや、違う。そんな事を考えてる場合じゃない。
私は、まだ、殺されたくもないし……彼らにそんな事を、言わせる訳にもいかない……。
0218シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/11/15(水) 04:26:24.80ID:XO2hQVfk
……アルマクリスの足元から、不意に刃が生えた。
地中を通して移動させた、私の指先から伸びた刃が。
狙いは首筋。今度は、避けざるを得な……

「あーあー!早くしねーからコイツが気を使って味な真似してくれちゃったじゃん!」

アルマクリスの矛が、私の胸を貫いていた。
同時に私の刃も、アルマクリスの首筋を切り裂く。
そして直後に彼は、左手で傷口を抑え……肉の焼ける音と臭い。

「せっこいよなぁそう言うの!かーっ!俺らのせいじゃありませーんって……」

「……げほっ……はぁ……はっ……」

「はぁー!?なんで生きてんのお前!意味分かんねえんだけど!」

……大抵の魔族は、純人種よりもずっと頑丈ですからね。
ナイトドレッサーは身体のどの部位を欠損しても再生が可能です。
体内の魔素が尽きない限りは……ですが、そんな事よりも。

「理解が出来ないのは……私の方……です……。
 あなたは……死ぬ事が、怖くないんですか……」

魔族じゃない、ただの人間の身で、なんであんな戦い方が出来るのか……私には理解出来ません。
私は……今まで、多くのヒトを、魔族を、殺してきました。
だけどこれほどまでに……死を恐れない人を、見た事がありません。

……突き立てられた矛が、赤く染まっていく。
炎の付与魔術……それが何を意味しているかはすぐに分かった。
私を、体内から……焼き尽くすつもりなんだ……。
……怖い。嫌だ。死にたくない。私の心を、暗い感情が埋め尽くしていく。

「……あぁ、ぜーんぜん怖かねえよ。俺にはなんもねえんだからよ。
 だからてめえらも、全部失くしてから死ねや」

……だけどその言葉が聞こえた瞬間、それらがふっと消えていくのを、私は感じました。
だって私は……ジャン様の、スレイブ様の邪魔をする事だけは、したくない。
彼らの冒険の負い目になりたくない。

それに……この人が、こんなにも空虚な声で話をするのも……なんだか、嫌です。
話が聞きたくない訳じゃなくて、むしろ逆で……上手く言葉に、出来ないけど、とにかく嫌なんです。

この気持ちを、失くしたくない。
抱えたまま死んでしまいたくない。
これはきっと……私が変わる為に必要だったものだから。
だから……

「さて、そろそろ決めてくれや!もう半分見殺しにしてるようなもんだけどよ!
 ちゃんとてめえらの言葉で聞きてえんだよなぁ俺ぁ!
 さぁどうするよ!指環を寄越して死ぬか!このアマ見殺しにして生き延びるか!さっさと決めやがれ!」

矛の刺さった傷口から魔素が漏れ続けてて……声は、出せないけど。
彼らの方を、じっと見つめる事しか出来ないけど。
それでも、お願いです。気付いて下さい。

……助けて、下さい。
0219創る名無しに見る名無し
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2017/11/15(水) 14:15:34.54ID:m1E9nLei
シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI

>「はぁー!?なんで生きてんのお前!意味分かんねえんだけど!」

これそのままお前に言いてーわ
なんで生きてんのお前
0223スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/11/21(火) 20:22:17.96ID:VGKZcgVv
地に伏せるシノノメの生殺与奪を握り、アルマクリスは一方的な二者択一を叩き付ける。
焼け焦げた首筋の傷に、ジャンの短剣が作った肩口の出血、悠長な態度とは裏腹に彼自身にも時間がなかった。

「返答まだ!?ああもうイライラするなぁ、おっせーんだよどいつもこいつも!
 俺も忙しいんだからこんなとこでウジウジ悩んでんじゃねーよ。制限時間つけりゃ良かったな。
 じゃああと5秒以内に答えてね?ごー、よん、さん、にー……」

瞬間、アルマクリスの背後の虚空から刃が出現し、彼の右肩目掛けて一閃を放った。

「はい残念」

アルマクリスはそれを顧みることさえせずに上体を曲げて躱した。
空を切った剣が擦過していくさなか、空気に張った"膜"が剥がれて刃の主が姿を現す。

「く……!」

スレイブだ。風属性魔法の一つ、大気を捻じ曲げて姿を覆い隠す『ステルス』を用いた背後からの奇襲。
視覚に加え足音、匂い、気配すら断って接近したにも関わらず、不意打ちはアルマクリスを捉えられない。

「ほんのちょびっとだけ殺気漏れてんだよなぁ。なに?おこなの?このクソ魔族ザクザク刺されて激おこなの?
 だったらさぁ!そういう薄っぺらい仲間意識をさぁ!……なんでパトリエーゼにも持ってやらなかったんだ、テメェらは!!」

アルマクリスは犬歯を剥き出しにして吠える。シノノメの肉体から抜き、呼応するように振るった矛が爆炎を纏う。
スレイブもまた歯噛みしながらそれを受け、捌き、隙を見つけては刃を叩き込むが、有効打を為し得ない。

「あ、やべ。矛抜いちゃった。魔族ちゃんそこ動くなよ、こいつ片したらもっかい刺し直すから!」

「させるか」

スレイブはアルマクリスがシノノメに背を向けるように立ち位置を調整しつつ断続的に剣を振るう。
さらに、攻撃対象が自分に向くよう挑発の言葉を発した。

「お前は助けなかったのか?……その、パトリエーゼという人を」

「ああ?なに人のせいにしてんの?俺そのとき帝国で別任務中だったんだけど?近くにいた奴が助けろよ。
 かーっ!俺があんときユグドラシアにいたらなーっ!お前らみたいに見殺しにするこたぁなかったんだけどなーっ!」

戯言を垂れ続けるアルマクリスを黙らすべくスレイブは鋭く踏み込み、銀の尾を引く刺突を放つ。
アルマクリスは矛の柄でそれを受け流し、返答とばかりに石突で薙いだ。
バックラーで受け止め、矛の下に潜り込むように身体を滑らせたスレイブが、股から上を断つ軌道で剣をかち上げる。

「うーん……ゴミ!あの魔族ちゃんの方が歯応えあったわ」

足捌きだけで重心を逸らし、剣の軌道から脱したアルマクリスが、間断なく引き戻した矛を唐竹割りに振るった。
咄嗟に受け止めたスレイブの足が地面に若干沈み込む。元々の膂力に加え、背丈と遠心力が矛を打ち下ろす威力を底上げしている。

「これほどの力があって……っ!何故黒犬騎士に従い続けている?あいつはお前にとっても仇じゃないのか!?」

ティターニアから掻い摘んで聞いた話では、件のパトリエーゼとやらを殺したのは黒犬騎士アドルフだったと言う。
にも関わらず、パトリエーゼを悼むアルマクリスは、その仇を恨む様子もなく馴れ合っていた。
スレイブにはそれが理解できない。

「ダーマの野蛮人どもはおっくれてんなぁ!先進国の文明人サマが一つ常識を教えてやるよ、謹聴しとけ?
 ――復讐は何も生まないんだぜ」

「知っている……!!」

「あっそ。あといい加減お前の相手飽きたわ。急所外そうとしてんのバレバレなんだよ」
0224スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2017/11/21(火) 20:22:43.92ID:VGKZcgVv
瞬間、スレイブのバックラーが大きく跳ね上がった。
矛ではない。アルマクリスの高身長を支える長くしなやかな脚が、強烈な蹴撃で盾を吹き飛ばした。
まずい、と感じた時には既に、蹴り上げた脚を踏み込みに変えた矛の一閃が、スレイブの胴を捉えていた。
叩き込まれた矛が慣性の全てをスレイブの身体に伝達し、彼は周囲を覆う炎の壁を突き抜けて外へと放り出された。
アルマクリスは引き戻した矛に血が付いていないのを確認して舌打ちする。

「まーた防御魔法かよ、めんどくせぇなあ!ヘボ剣士は急所狙ってこねぇし、命のやり取りにビビってんじゃねえよ。
 死ぬのも殺すのも嫌だっつんならそういう趣味の人達とだけ仲良くペチペチ殴り合ってれば?
 俺はここに人を殺しに来てんの!お前らのそーいう意味不明なこだわりに俺を巻き込むなよ!」

アルマクリスは肩口の血を親指で拭い、それを舐めて口端を歪めた。

「でもそこのオークと魔族は良い感じだわ。ちゃんと殺しに来てくれるからこっちも殺りがいがあるね!
 特にお前、オーク、ジャンだっけ?その水の大斧、殺意がビンビン来て凄く良いよ!俺テンション上がっちゃうわ。
 これ直撃食らったら死ぬだろうなぁ。下手に受けても手足吹っ飛びそうだなぁ。血ィ止まんねえし、俺ここで死ぬのかなぁ」

身体が震えるのは失血のせいだろうが、アルマクリスはこれを武者震いに変える。
双眸はぎらつき、口端はつり上がって犬歯が剥き出しになっていた。
彼は――笑っていた。獰猛で、快活な笑みだ。

「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
 何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
 俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

それは、パトリエーゼの死を境に彼が見出した価値観だった。
生まれながらに何も持たない者も、努力で何かを得られなかった者も、死だけは必ず訪れる。
避け得ないものであるならば、せめてそれを享楽として受け入れよう。パトリエーゼの亡骸を前に、彼はそう決めた。

「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
 お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
 ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

アルマクリスの身体から異様な熱気が発せられ、焦げた血糊が煙と化して立ち上る。
『インシネレイト』。肉体のリミッターを意図的に外し、体温を上げ、負担を度外視して身体能力を発揮する戦士のスキルだ。
ジャンとシノノメによって深手を負わされた今の彼が用いれば、文字通り命を削ることにも成りかねない諸刃の剣。
心臓を始めとした臓器の各部に激痛が奔っているはずだが、アルマクリスは笑顔を絶やさない。

「おら、ノリが悪ぃぞ蛮族共!いつまで転がってんの?地面おいしい?後で好きなだけ舐めさせてやっから立てよ今すぐ!
 これから始まる超絶楽しいパーティに乗り遅れたくなかったら……立ち止まるんじゃねえぞ!!」

刹那、陽炎の尾を引いてアルマクリスは一つの砲弾と化した。
踏み抜いた地面の小石さえも蒸発するほどの熱を纏って、ジャン目掛けて矢の如く吶喊する。
それは言わば、『天戟』の跳躍を水平に敢行する動きであった。


【パトリエーゼの件でぐちぐち陰湿に責めながらテンション爆上げで吶喊。このターンで決着希望】
【遅くなってすみません!】
0226創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/11/23(木) 17:52:42.20ID:4UH3fNZA
カスレイブはガイジだからね
レスが遅い癖に大した文章でもないから救いようがない
0227ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/11/24(金) 21:24:31.16ID:2WMAGVTC
>「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
 何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
 俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

「……ありがとな、みんな。
 時間稼いでくれたおかげでみんなは村に帰せたぜ」

アルマクリスとの激しい打ち合いから一転、彼が空高く飛び上った瞬間
ジャンは真っ先に村人たちの元へ向かい急降下による一撃を防ごうとした。

それはトランキル狙いの一撃だったが、ジャンは他の三人と目線を交わし、頷いたかと思うと
一旦村人たちを村へ誘導するべく走り出したのだ。

「みんな!儀式は一旦中止だから村に帰れってよ!」

村人たちが状況の変化についていけていないところに、ジャンが大声で呼びかける。

「し、しかしアドルフ様は……」

「教団の人たちを殴るなんて!ジャンったら何考えてるんだい!」

(埒があかねえな!洗脳ってやつはこれだから……こうなりゃこうだ!)

「みんなちょっとこっちを向いてくれ……ウオオアアアアァァァァァ!!!!」

指環の魔力によって増幅され、竜の咆哮にも等しいウォークライが村人たちに浴びせられる。
鼓膜が破けんばかりの大音量だが、増幅されたことの意味はそれだけではない。

「……あれ?なんでこんなところにいるんだ?」

「お前見張りはどうした?弓も持ってないが」

「ジャールおじさんだって鍛冶ほっぽりだして何してるんだい」

どこか虚ろな表情をしていた村人たちが、憑き物が落ちたかのように騒ぎ出す。
最初の魔術とも言うべき指環の力をウォークライに乗せることで、他の魔術を打ち消したのだ。

「みんなこんなところにいないで、早く村に帰ろうぜ!」

「お、おう……そうだな。ジャンも後で顔を見せてくれよ」

そうして村人がぞろぞろと山道を降りていく中、陽炎となって幻影を見せていた炎の壁が姿を現す。

「……ジャン様、もうよろしいんですの?」

「ああ、ありがとなフィリア。
 ……アルマクリス!時間稼ぎはおしめえだ!」

ゆらめく炎の壁を通り抜け、吹っ飛んできたスレイブを受け止める。
見た目に怪我はないが、受け止めたときの衝撃からして矛の柄で打ち抜かれたか。

「ありがとな、スレイブ。トランキル!お前も下がって――」
0228ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/11/24(金) 21:25:01.29ID:2WMAGVTC
炎によって囲まれた闘いの場、そこに入った瞬間ジャンが見た光景は壮絶なものだった。
胸から魔素が噴き出し、仰向けに倒れ込んだトランキル。
額に脂汗を滲ませ距離を取るティターニア。そして中央に立って哄笑と共にこちらを見るアルマクリス。

>「でもそこのオークと魔族は良い感じだわ。ちゃんと殺しに来てくれるからこっちも殺りがいがあるね!
 特にお前、オーク、ジャンだっけ?その水の大斧、殺意がビンビン来て凄く良いよ!俺テンション上がっちゃうわ。
 これ直撃食らったら死ぬだろうなぁ。下手に受けても手足吹っ飛びそうだなぁ。血ィ止まんねえし、俺ここで死ぬのかなぁ」

「……喋るんじゃねえ」

ジャンが大斧を肩に担ぐように構え、一歩近づく。
アルマクリスも矛の先を下段に置き、構えて一歩近づく。

>「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
 何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
 俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

「……喋るなって言っただろ」

お互いに二歩、近づいた。

>「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
 お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
 ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

「……てめえのそれは――」

>「おら、ノリが悪ぃぞ蛮族共!いつまで転がってんの?地面おいしい?後で好きなだけ舐めさせてやっから立てよ今すぐ!
 これから始まる超絶楽しいパーティに乗り遅れたくなかったら……立ち止まるんじゃねえぞ!!」

「ただの八つ当たりだアアッッッ!!!!」

アルマクリスが残像すら見えるほど早く、常人には消えたとしか思えないほどの速度でジャンに突撃する。
それに合わせるようにジャンもウォークライを放ち、だが斧は振り下ろさなかった。

増幅されたウォークライによって地面を抉るような衝撃波が放たれ、それに突っ込んだアルマクリスは
衝撃波を丸ごと浴びる形となった。しかしアルマクリスも矛の達人である以上その軌道はわずかにしかぶれることはなく、
速度はほとんど死ぬことなく吶喊は続く。

「「――ウォラアアァァ!!!」」

どちらも雄叫びを挙げる中、アルマクリスはそのわずかな減衰が命取りとなった。
ジャンは竜装によって強化された動体視力でアルマクリスの挙動を捉え、かすかに体を動かしたのだ。
突き出された矛がジャンの脇腹を掠めていき、胸当てと擦れて火花が散る中、その長大な柄をジャンは掴みとった。

掴んだとは言ってもその凄まじい速度は健在であり、ジャンも矛の柄を掴んだまま一緒に後方へと飛ばされていく。
矛から放たれる熱と、指環から放たれる水流がぶつかり激しい水蒸気となって辺りに舞う中、やがて二人の動きは止まる。

「……てめえの手品はそれでおしまいか」

ジャンは全身に火傷を負い、矛の柄を掴んだ手は感覚が感じられないほど酷い火傷を負っていた。
それでもなお立ち続けられるのは、水の指環が放つ水流の加護によるものだ。
0230ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/11/24(金) 21:27:11.94ID:2WMAGVTC
「ゴホッ……まだ終わってねえぞクソオーク!
 これから俺の逆転勝ちが……決まるんだ……なあ……パトリエーゼ……」

一方アルマクリスは口から血を吐き、充血しきった目と全身から立ち上る湯気が
身体が限界であることを伝えている。

こちらも立ってはいるが、ジャンが掴んだ矛の柄によりかかるようにしてようやく立っているような状況だ。

「お前の……その指環があれば……パトリエーゼ……パトラを……」

ふらりと伸ばした手はジャンの指環にはほど遠く、何もない場所を掴んだ。
それと同時にアルマクリスは地に膝をつき、そのままぐらりと倒れていく。

「……とことん身勝手な野郎だ」

ジャンがアルマクリスの顔に近づき、耳を近づけてみるとなんと息があった。
どうやら見た目よりもはるかに頑丈な身体だったらしい、オーク族でもここまで頑強な者はそうそういないだろう。

「ティターニア、こいつの手当頼むぜ。
 村の人たちを殺そうとしたのは許せねえが、こいつは立派に戦った」

そう言ってジャンは手近な石に腰かけ、アルマクリスの横に倒れていた矛を持ち上げてみる。

「……こいつは……なかなかいい重さだ。
 隕鉄とミスリルの合金か。勝利者の特権だ、戦利品としてもらってくぜ」

そう言って矛を火傷が酷くない方の手で担ぎ、立ち上がる。
指環の魔力で武器を作るのは容易だが、維持しつづけるには魔力を使うため
あまり使いたくないというのがジャンの考えだ。

だが、強者ぞろいであろう教団に殴り込むにあたって、街の武器屋で売られているような
量産品では心もとない。バターにナイフを入れるがごとく折られるだろう。
かと言って聖短剣サクラメント一本では戦えるわけもなく、仕方なく指環で武器を作っていたのだが、
この矛はまさにぴったりだった。ジャンにはちょうどいい長さと重さであり、魔力の伝導率が高いミスリルも含まれ指環を活かしやすい。

「さてと……みんな大丈夫か?怪我が酷いなら一旦休むけどよ」
0231ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/11/24(金) 21:28:19.69ID:2WMAGVTC
―――同時刻、チェムノタ山の山頂。
年老いた龍に相談するために、時折オーカゼ村の村人がやってくる場所だ。
山頂と言っても龍が眠る大きなほら穴が、広場に一つ置かれているだけだが。

そしてその年老いた龍は今、帝国の最高戦力たる黒犬騎士、そしてその護衛たちと対峙していた。

『なんじゃあ、この年寄りに何の用じゃ』

「とぼけるな。お前が暗黒龍ニーズヘグであることは分かっている。
 闇の指環を渡してもらおうか、儀式によって目覚めさせた後、正当なる後継者にお渡しせねばならん」

アドルフの脅しめいた要求に、龍はその大きな身体を小刻みに震わせてくつくつと笑った。
その振動で顔に生えてからすっかり色が落ちた髭が二、三本抜け落ち、古くなった鱗も体から剥がれていく。

『正当なる後継者とは面白いことを言う。闇の指環が何を元にして作られたか知っておるのかな?』

「……謎かけか?ヒトの負の感情をかき集めて作られた、光の指環の作りと対を成す指環の一つだろう」

『その通りじゃ。怒り憎しみ悲しみ……そういったものを四属性の指環と同じように集めて作り上げたものじゃな。
 だが炎水風土の四属性とは違い、光と闇は自然からではなくヒト、すなわち人間、魔族、エルフ、ドワーフ、
 その他諸々の知恵を持った種族からできている』

「時間がない、手早く言ってくれ。
 こちらとしては闇の指環がもらえればそれでいい」

『では言ってやろう。光と闇の指環は一つではない、無数に存在する。
 ヒトの感情が無数であるようにな』

「……気が変わった。興味深い話だ、そのまま続けろ」

こうして指環の勇者たちが山頂にたどり着くまでの間、年老いた龍は語り始める。
隠された二つの指環の真実と、その真の能力を。
0232ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2017/11/26(日) 21:36:42.85ID:dVbgDx/p
果たして――シノノメは見事アルマクリスの初撃をしのいでみせた。
それがアルマクリスの闘志に火を付けてしまったらしく、燃え盛る爆炎の壁が二人と周囲を阻む。
ティターニアが水魔法でそれを払うのには、幾何もかからなかったはずだ。
その短い間に何が起こったのか――
視界が開けた時、目に飛び込んできたのは、矛を突きつけられたシノノメの姿だった。

>「おいてめえら。今すぐその指環を寄越して俺様の前に跪きな。
 勿論その後俺様はてめえらを殺す。一人ずつ、散々甚振ってからぶっ殺す。
 全員死んだら……コイツだけは助けてやんよ」

衝撃的な光景だが、状況は見た目ほどは絶望的ではないと分析するティターニア。
魔族と人間では基礎スペックが根本的に違う。
アルマクリスの悪趣味さが結果的にこちらに幸いしているというべきか、
このままもう少しだけ引き延ばして時間稼ぎをすれば、先に倒れるのはアルマクリスの方だ。
逆に下手に刺激を与えれば、このままとどめを刺してしまう危険性がある。
そこで、敢えて答えを返さずに、相手が喋るに任せておく。
しかし――シノノメが抵抗を試み、互いが互いに更なる深手を負わせた。

>「あーあー!早くしねーからコイツが気を使って味な真似してくれちゃったじゃん!」

シノノメの生命力がいかに魔族といえどどこまで持つか分からず、アルマクリスも焦り始めて何をするか分からない。状況は一刻を争う。
シノノメが息も絶え絶えに問いかける。

>「理解が出来ないのは……私の方……です……。
 あなたは……死ぬ事が、怖くないんですか……」
>「……あぁ、ぜーんぜん怖かねえよ。俺にはなんもねえんだからよ。
 だからてめえらも、全部失くしてから死ねや」

何もない――それすなわち虚無。
虚無の勢力にとって洗脳する手間すらいらない忠実な手駒、ということだろうか。
散々主であるはずのメアリの悪口を垂れながら、その実は決して逆らわないこの上なく便利な手駒なのかもしれない。

>「さて、そろそろ決めてくれや!もう半分見殺しにしてるようなもんだけどよ!
 ちゃんとてめえらの言葉で聞きてえんだよなぁ俺ぁ!
 さぁどうするよ!指環を寄越して死ぬか!このアマ見殺しにして生き延びるか!さっさと決めやがれ!」

シノノメが、目線で確かに訴えかける。助けて――と。それは、普通の意味ともう一つ。
この人を助けてあげて――そう言っているようにも感じられた。
スレイブと無言の目くばせを交わし、密かに詠唱無し版のフル・ポテンシャルをかける。
0233ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:38:44.58ID:dVbgDx/p
>「返答まだ!?ああもうイライラするなぁ、おっせーんだよどいつもこいつも!
 俺も忙しいんだからこんなとこでウジウジ悩んでんじゃねーよ。制限時間つけりゃ良かったな。
 じゃああと5秒以内に答えてね?ごー、よん、さん、にー……」

スレイブは見事期待に応え、これ以上無いほどのベストなタイミングで奇襲をかける。
しかし、アルマクリスはそれをあっさりとかわしてみせた。

>「はい残念」
>「ほんのちょびっとだけ殺気漏れてんだよなぁ。なに?おこなの?このクソ魔族ザクザク刺されて激おこなの?
 だったらさぁ!そういう薄っぺらい仲間意識をさぁ!……なんでパトリエーゼにも持ってやらなかったんだ、テメェらは!!」

シノノメから矛を抜かせ攻撃対象を移すことには成功したスレイブは、相手の注意を引き付けようと、何故未だ仇に付き従っているのか問いかける。
それに対する答えは、それはその通りだがお前が言うな、といった感じのものであった。

>「ダーマの野蛮人どもはおっくれてんなぁ!先進国の文明人サマが一つ常識を教えてやるよ、謹聴しとけ?
 ――復讐は何も生まないんだぜ」
>「知っている……!!」
>「あっそ。あといい加減お前の相手飽きたわ。急所外そうとしてんのバレバレなんだよ」

スレイブとの打ち合いは、強い者との戦いを求める武人にとってはこの上なく興味深いもののはずだ。
殺意全開の手負いの獣状態の者を相手取って、殺さないようにしながらこれだけ立ち回れるのは只者ではない。
つまり、アルマクリスが言っているのは生粋の戦士によくある強い者と戦うことへの興味とは全く違う。彼が求めているのは死、そのもの――
彼はパトリエーゼを深く悼んでいる様子がありながらその仇に付き従い、復讐は何も生まないと言いながら命のやり取りを楽しんでいる。
その言動は筋が通っているようでいなくて、一貫性があるようで無くて、どうしようもなく壊れていた。
激しい立ち回りの末に、アルマクリスの矛がスレイブに致命の一撃を叩き込まんとする。

「プロテクション――!」

ティターニアの防御魔法が間一髪で傷を受けるのを阻み、それでも衝撃はもろに受けて吹っ飛ばされていくスレイブ。

>「まーた防御魔法かよ、めんどくせぇなあ!ヘボ剣士は急所狙ってこねぇし、命のやり取りにビビってんじゃねえよ。
 死ぬのも殺すのも嫌だっつんならそういう趣味の人達とだけ仲良くペチペチ殴り合ってれば?
 俺はここに人を殺しに来てんの!お前らのそーいう意味不明なこだわりに俺を巻き込むなよ!」
0234ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:44:01.77ID:dVbgDx/p
スレイブから興味を失ったアルマクリスは、村人の避難誘導を終え戦列に復帰したジャンに標的を移した。
防御や補助を中心とする立ち回りをしているティターニアやフィリアには端からあまり興味が無いようだ。
どうやらアルマクリスが闘志を燃やすのは、殺す気で向かってくる相手限定らしい。
それならそれで、こちらは補助に専念するまでだ。

>「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
 お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
 ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

>「……てめえのそれは――」

>「ただの八つ当たりだアアッッッ!!!!」

アルマクリスの弾丸のような刺突とジャンのウォークライが激突し、凄まじい衝撃波が巻き起こる。
そして二人の動きが止まった時、ジャンの勝利は明らかだった。

「シノノメ殿……!」

シノノメに駆け寄って様子を見ると驚くべきことに、劇的に回復しつつあった。
何故か先程から一帯の闇の魔素の濃度が異常に上昇しており、そのお陰のようだった。

「もう大丈夫だ――」

>「……てめえの手品はそれでおしまいか」
>「ゴホッ……まだ終わってねえぞクソオーク!
 これから俺の逆転勝ちが……決まるんだ……なあ……パトリエーゼ……」
>「お前の……その指環があれば……パトリエーゼ……パトラを……」

「やっと……本心を言ったな……」

アルマクリスが気を失う直前に言った言葉―― 一貫性が無いように思えた彼の言動が、これで繋がった気がした。
憎き仇に付き従っているのは、指輪を手に入れるため。
殺意を向けてくる相手と殺し合いをしたがる――死を望むのは、パトリエーゼがいない世界では生きていけないから。

>「ティターニア、こいつの手当頼むぜ。
 村の人たちを殺そうとしたのは許せねえが、こいつは立派に戦った」

「分かった――」
0235ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/11/26(日) 21:46:19.59ID:dVbgDx/p
アルマクリスは指輪が手に入らない――パトリエーゼが生き返らないのなら死を望むのかもしれないが、敗者は自らの処遇を選べない。
勝者であるこちらが生かすと判断した以上、彼は少なくともこの場では生き延びるしかないのだ。
ティターニアはアルマクリスに回復魔術をかけながら呟いた。

「パトリエーゼ殿を守れなかったことは済まなかったな……。そなたの願いは我らが引き継ごう。
指輪を全て手に入れた者は世界のすべてを手に入れる――もしもそれが真実なら。
全て揃えた暁にはそなたの願いも――」

“復讐は何も生まない”――それは確かに真実で、死んだ者は生き返らないからどうしようもなくて人は復讐するのだ。
でも、もし生き返らせることが出来るとしたら?
指輪の力で誰かを生き返らせるのが目的で刃を交えることになった者はこれで二人目。
いかに指輪の力といえども死んだ者は生き返らない、そう思っていたが、本当に全て揃えれば死者蘇生までも出来るとしたら?
(世の中には超高位神官が大がかりな儀式で執り行う蘇生魔術もあるにはあるが、死亡後すぐの者限定で、必ず成功するとは限らない)
それが正しいことなのかは分からない。
だが、このあまりにも哀しい青年に死ぬことも許さず生きる事を強いた以上、そう言わずにはいられなかった。

>「さてと……みんな大丈夫か?怪我が酷いなら一旦休むけどよ」

シノノメの回復においては幸運であった闇の魔素濃度の上昇だが、それは何らかの状況の変化があったということを意味する。

「シノノメ殿には申し訳ないが急いだ方がよさそうだ――
この者が目を覚ます前に行かねばややこしくなる、というのもあるしな」

こうして山頂に向けて歩みを進める一行。
山頂が近づくにつれて、ますます闇の魔素が濃くなってくるのが分かる。

「アドルフは山頂で儀式の準備に入ると言っていたが……そういえば喋る竜がいるというのも山頂か?
村人がいなくなったゆえ儀式は出来ないとは思うが先に指輪を手に入れられては厄介だ」

この時点のティターニアは、今までと同じように竜が自らの属性を注ぎ込んで作った唯一無二の指輪を守っている、
という構図を信じて疑っていないのであった。
0236シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:41:19.01ID:Let29eWS
不意に虚空から放たれる剣閃。
それが誰によるものなのか、私にはすぐに分かりました。
スレイブ様です。人の身でありながら魔王様の近衛騎士に選ばれた彼の、不意打ちの一撃。
アルマクリスは……それを振り向きもせずに躱してみせた。
その後の剣戟も……スレイブ様が殺しの技術を使っていないとは言え、ずっと優位に立ち続けている。

……彼の強さが見えてきて、そこから、彼の人物が……なんとなくだけど見えてくる。
誰かが戦いに臨む時……その刃や拳には、その人の、人となりが宿るものです。
ただの精神論と言われればそれまでですが……根拠は、あります。

>「あっそ。あといい加減お前の相手飽きたわ。急所外そうとしてんのバレバレなんだよ」

たった今アルマクリスが、スレイブ様の剣から、殺意のなさを読み取ったのがまさにそれです。

……徹底的なまでの、肉を切らせて骨を断つ。
辛うじて殺されないように、だけど最速最短で敵を殺める為の戦術。
そこには積み重ねられた経験と、それを積み上げる為の、勇気と目的があったはず。

>「でもそこのオークと魔族は良い感じだわ。ちゃんと殺しに来てくれるからこっちも殺りがいがあるね!
  特にお前、オーク、ジャンだっけ?その水の大斧、殺意がビンビン来て凄く良いよ!俺テンション上がっちゃうわ。
  これ直撃食らったら死ぬだろうなぁ。下手に受けても手足吹っ飛びそうだなぁ。血ィ止まんねえし、俺ここで死ぬのかなぁ」

だけど今の彼からは……何かを積み上げようとする意思は見えない。

>「楽しんでるかジャン・ジャック・ジャクソン!人はいつか大体死ぬ。わりとポックリ逝っちまう。
  何も持ってねえ俺達にも、唯一平等に手に入るものがこの死って奴だ。
  俺は死ぬことも死なせることも楽しむぜ!エンジョイ&エキサイティングだ!」

そこにあるのは、彼から見えるものは…………あぁ、そうだ。
この人は……自暴自棄になっているんだ。
……こんなにもじっくりと、誰かの事を眺めていたのは、初めてかもしれません。

>「お前はどんな風に俺を殺す?斧か?牙か?それともそのぶっとい腕で絞め殺してくれんのか!?
  お前はどんな風に俺に殺される?心臓を矛で突くのも良いなあ。動脈ぶち抜いてじっくり失血死ってのもオツだなぁ!
  ワクワクするしゾクソクするよな!これだから殺し合いはやめらんねえ。こんな楽しい遊び、やめられっかよ!」

そして……アルマクリスと、ジャン様が、同時に動いた。
彗星の如く尾を引く炎の逆光と水蒸気によって、私には両者の交錯、その瞬間は見えませんでした。
二人の雄叫びが止まり、水蒸気が消えて、見えたのは……
矛を掴み自身の両足で立つジャン様と、倒れ伏したアルマクリスの姿。

>「シノノメ殿……!」

ティターニア様が駆け寄ってくる。
治療の為でしょう……だけど、今はそんな事よりも……

「ま、待って下さい……先に、ジャン様を……止め……」

>「ティターニア、こいつの手当頼むぜ。
  村の人たちを殺そうとしたのは許せねえが、こいつは立派に戦った」

「……へっ?」

……私はてっきり、ジャン様はアルマクリスを殺してしまうと、思っていたのですが。
0237シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:44:13.30ID:Let29eWS
>「さてと……みんな大丈夫か?怪我が酷いなら一旦休むけどよ」
>「シノノメ殿には申し訳ないが急いだ方がよさそうだ――
  この者が目を覚ます前に行かねばややこしくなる、というのもあるしな」

「い、いえ……ご心配なく……。もう、平気みたいです」

少なくとも表面的にはもう、私の胸に穿たれた傷は塞がっていました。
内臓はまだ形が整っただけ、と言った感覚ですが……それもじきに元通りになりそうです。
0238シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:45:03.00ID:Let29eWS
……ティターニア様の魔法があったとは言え、こんなにも早く、再生が終わるなんて。
周囲の闇の魔素が、異様に濃い……嫌な予感がします。
だけど、

「それよりも……あの、ジャン様。良かったんですか?
 その方を……えと、殺して、しまわなくて」

……なんて言えば角が立たないのか一瞬悩んだのですが、結局相応しい言い方が思いつきませんでした。

「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」
0239シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:45:25.29ID:Let29eWS
戦いが始まる前、確かにジャン様は彼を殺す気でいたはずです。
だけど結局そうはしなかった。
良く戦った。槍が本当にただの戦利品だとすれば、彼を殺さなかった理由はただそれだけ。

……私は、彼が同情に値する人間だと分かった……つもりでいます。
だけどそれでも……彼が死すべき人間なのか、そうでないのか、分からないのです。
法に照らし合わせても、ジャン様の心に秤を委ねても、彼が罪を犯したのは明白なのに。
分からない。だから……聞かずにはいられません。

「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」
0240シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:46:47.62ID:Let29eWS
 
 

「……気が変わった。興味深い話だ、そのまま続けろ」

言葉と同時、アドルフは左右の腰に差した剣を抜いた。
その一方、右側の切っ先が年老いた龍に突きつけられる。

「だがその前に答えてもらおうか。我々は既に光の指環を手に入れ、支配している。
 そこに宿る光竜をもだ。その事実は、今のお前と言葉と食い違うのではないのか」

『ほほう、それは大したものだ。そう思っているのであれば、そうなのだろう。
 お主らの許には、お主らの思う指環があり、竜がいる。何もおかしくはない』

「指環に宿る竜までもが、無数に存在すると?
 だがそれで指環の真の力を発揮出来るのか?」

『まさか。指環を無数に作れるなら、四竜が自らを指環に捧げる必要もなかっただろう』

「ならば……どうすれば無数の指環を一つに出来る?」

『さあて、な』

年老いた龍がくつくつと笑った。
アドルフが無言の殺気を漂わせる。

『おお怖い怖い……お主、お伽話を知らんのか?この爺が言って聞かせてやろうか?
 指環が封印された理由を思い出してみろ。祖竜との戦いが終わり、次の争いの火種にならぬようじゃろう?
 一つに戻す必要などないのだから、その術もまた、存在しない』

「詭弁だな。ならば全ての指環を破壊すれば良かっただけの事だ」

『どうかな?単に壊せなかっただけかもしれんのう』

「……話を逸らすのも程々にしろ。方法はある。
 正当なる後継者とは面白い事を言う……だったな。
 お前にはその心当たりがあるのだろう」

『くく……いいや、そんな事は儂にも分からん。
 だからお主が儂にも分からん事を分かった気でいるのが面白いのじゃよ。
 考えてみる事じゃな。そもそもどのようにして光と闇の指環が創り出されたのか……』
0241シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:47:37.17ID:Let29eWS
 
 
 
『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』

それから更に暫しの時を経て、老龍の言葉にアドルフが背後を見る。
彼は何の気配も感じていなかったが……視線の先には確かに追いついてきた客人がいた。
黒犬騎士である彼が、指摘を受けるまでその接近に気付けなかった事には、理由があった。
0242シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/01(金) 22:48:12.98ID:Let29eWS
「……闇の魔素か。結局、下らない時間稼ぎだった訳だ」

アドルフは老龍へと視線を戻し……瞬間、彼の剣が閃いた。
老龍の首が宙を舞う。

「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

彼の言葉に偽りはない。
アドルフは背中を見せたまま右の剣を振るったが、
しかし残る左の剣と、そこに宿った殺気は、確かに指環の勇者達を捉え続けていた。
そして老龍の首が地面に転がり、

『さあて、どうかの。案外当てが外れたのはそっちかもしれんぞ?』

その生首が平然と声を発した。

『くく……くくく……愉快じゃのうお主は。
 何もかもを分かった気でいて、その実何も分かっておらぬ』

「……貴様、一体」

『おや、儂が何者かは分かっていると言っておったではないか。
 暗黒龍ニーズヘグ、じゃったか。外れじゃ、外れ。
 まぁそう呼ばれた事もあるからまるきり間違いではないがの』

老龍の首が、頭部を失った体が、闇色に変化し、溶けるように崩れ落ちる。
そして地面の上に広がって……再び龍の形を描いた。

『儂の名はな、アジダカーハと言うんじゃ。……あれ、いや、ティアマトじゃったか。
 それともファフニール……うむむ、最近物忘れが激しくてのう。
 ……くく、そう睨むな。儂はな、ただの影じゃよ。お主らヒトが見た影に過ぎぬ』

「……影、だと?」

『あぁそうとも。お主は今何を見ておる?地面か?そこに差した影か?
 それとも暗黒龍と呼ばれし存在の、一つの側面に過ぎぬ姿を見ておるのかの?』

アドルフの剣が老龍……最早そうではなく、暗黒龍の影を、斬りつける。
剣閃は確かに暗黒龍の影を切り裂き……しかしその口を噤ませる事は出来なかった。

『闇とは斯様なものよ。お主らはいつもその、ただ黒い、薄っぺらな表面だけを見て、
 それを理解したつもりになる……。
 そんな事では、闇の指環は永劫、手に入らぬよ。くく、くくくく……』



【それっぽい雰囲気が出したかっただけで何も考えてないから後はよろしくお願いします!】
0244スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:24:27.04ID:sJAWv/VK
束の間の微睡みからアルマクリスが醒めた時、戦場に残っているのは彼一人だけだった。
既にジャン達指環の勇者一行はその場を後にして、ここまで連れてきたオーカゼ村の住人たちも消えている。

「えっ?ええ??なんで生きてんの俺」

目覚めた瞬間身体のあちこちに激痛が走ったが、痛みがあるということは五体が十全に機能している証だ。
骨、筋、腱の全てがまともに動き、いつの間にか深手の出血さえも止まっている。
放っておけば確実に死に至る傷だったはずだ。それが塞がっている理由など、一つしか思い至らない。

「クソ……!ざけんじゃねーぞっあいつらっ!俺を助けたってのか……?」

ようやく見つけた死場から引きずり降ろされた怒りが身体を動かし、アルマクリスは跳ね起きる。
すぐさま追撃をかけんと己の得物を手繰り寄せ――られない。彼の愛矛はどこにも転がっていなかった。
思い起こす最後の記憶は、ジャン・ジャック・ジャクソンがアルマクリスの吶喊を止め、矛を掴んでいた光景。
つまり。

「信じらんねえっ!ウソだろあいつ!俺を勝手に生かした挙句――他人の矛パクっていきやがった!!
 なんでそんなひどいことするの!?やっぱ性根が卑しい卑しい蛮族メンタルだよあのクソ野郎!!」

アルマクリスはしばし一人で地団駄を踏んで、傷口が開きかけてきたので大人しくなった。
あの時、ジャンに打ち倒され朦朧とする意識の中で、エルフの魔導師が零した言葉が脳裏に蘇る。

>『パトリエーゼ殿を守れなかったことは済まなかったな……。そなたの願いは我らが引き継ごう。
  指輪を全て手に入れた者は世界のすべてを手に入れる――もしもそれが真実なら。全て揃えた暁にはそなたの願いも――』

「くだらねえ。ンな簡単に人が死んだり生き返ったりしてたまっかよ。俺の死も、パトラの死も……俺達だけのもんだ」

パトリエーゼは死んだ。アルマクリスもまた、戦いの果てに後を追おうとして、しかし失敗した。
この手に最後に残った『死』さえも取り上げられて、この先どうすれば良いのかもはや欠片も分からない。
首と肩を抑えながら蹲り、しばらく押し黙っていた彼はようやく一言漏らす。

「この"借り"は……必ず返すからな、ジャン・ジャック・ジャクソン。当面はそいつが、俺の生きる理由だ」

死に場所が分からないのなら――とりあえず、生きていよう。再び死にたいと願えるその日まで。
独りごちる彼の背後で、複数の足音が連なった。
すわ、村の住民達がお礼参りに来たかと振り向けば、そこにいたのは無数の獣だった。
痩せこけた犬のような容貌をした獣達は、命の気配を感じさせない色を一様に纏っている。

黒。
光を失った死者の漆黒。
――『虚無』の黒だ。
0245スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:24:59.86ID:sJAWv/VK
「アドルフの"猟犬"か。あの生ゴミ野郎、この場は任せたとか言っといてしっかり監視を残してやがる」

帝国最高戦力が一人、黒犬騎士アドルフ・シュレディンガー。
彼の振るう蛮刀『ティンダロス』は、剣がこれまで斬ってきた者達の魂を"猟犬"として隷属させる力を持つ。
黒騎士としての戦歴と、エーテル教団幹部として暗躍してきた日々が、そのまま彼の手駒の豊富さへと繋がっているのだ。
矛術を達人の域にまで修めたアルマクリスと言えども、その単純にして圧倒的な物量差には勝てない。……勝てなかった。
パトリエーゼを殺されてなお、彼がアドルフに従い続けざるを得なかった理由の一つだ。

支配されし亡者の成れの果て、『虚無の猟犬(ヴォイドハウンド)』。
猟犬達はアルマクリスを取り囲み、怨嗟にも似た唸りを上げて牙を剥いた。
無機質な殺意の風に当てられて、アルマクリスの武人としての本能が彼を立ち上がらせる。

「うひゃひゃひゃ!信用されてねーなぁ俺!負けた部下は始末するっつー定番の流れかこりゃ?
 いや、いや、別に責めてねーよ?わりと当然の末路っつーか、俺がアドルフでも同じことしたね、多分。うん、納得しました」

アルマクリスが手を打って受け入れの姿勢をとると同時、猟犬達は一声吠え上げ、彼の元へと飛びかかった。
その牙が喉元へ届かんとした刹那、アルマクリスのしなやかな脚が猟犬の顔面を強かに捉え、蹴り飛ばす。
蹴られた猟犬は悲鳴地味た鳴き声を上げて他の猟犬を巻き込んで地面を転がった。

「……クソ陰険野郎が、俺を舐めてんじゃあねえぞっ!殺したけりゃテメエで来い、パトラにそうしたようによぉっ!!
 テメエ如きに斬られるような雑魚共をどんだけ従えたって、俺のタマは取れねーぞ、アドルフ!!」

猟犬が転がったことで出来た包囲の切れ目から飛び出したアドルフは、地面に落ちた槍を掴み取る。
部下として与えられた信徒、ジャンに斃された彼らの遺品。質は量産品相応だが、扱う武人の腕は超一級品だ。

「来やがれ犬畜生共!あのクソエルフが治療してくれやがったお陰でなぁ!俺ぁまだまだ元気百倍だぜ!!
 可愛がってるワンちゃんの素っ首全部、ご主人様の前に並べてやるよ!!」

言葉とは裏腹に開いた傷口から血を滴らせながら、アルマクリスは槍を構えて疾走する。
猟犬達は混乱からいち早く復帰し、連携をとりつつ四方から牙を突き立てんと跳躍。
アルマクリスの神速の刺突が、猟犬達の胴体を空中で一つ残らず穿ち抜いた。
風穴を開けられた猟犬が人間のような叫声を上げて地に伏せ、漆黒の粒子となって霧散する。

「れ、ん、ど、が足りてませんねぇ〜〜っ!やっぱアドルフ君雑魚専だったんじゃないのぉ?
 それともオキニの一軍は温存したい派か?つーこたぁテメエら、捨て駒ってことじゃん!
 まぁそれは俺も同じか!仲良くしようぜ!俺がテメエらを片付けるほんの数秒の仲だけどよ!」

光の尾を引く刺突が猟犬達の腹をぶち抜き、嵐を思わせる薙ぎ払いが円状に黒の亡骸を飛散させる。
猟犬の牙や爪は確かにアルマクリスの手や脚に裂傷を刻むが、急所へ届くことはない。
苛烈の一言に尽きるアルマクリスの孤軍奮闘は、しかし無数の猟犬の群れを押し返しつつあった。
もはや総崩れとなり、集団としての戦力を為していない群れの中から、一体の猟犬が彼に背を向けて走り出した。
0246スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:25:16.76ID:sJAWv/VK
「おらっイモ引いてんじゃねーよ浮いた駒から狩られるってご主人様は教えてくれなかったか?
 じゃあみんな今日は憶えて帰ろうね!一人だけビビって逃げるとこうなりまーす――」

『アルマクリス』

背後から串刺しにせんと追いすがるアルマクリスの耳に、声が聞こえた。
忘れるはずもない、故郷で別れ、二度と生きて会うことのなかった幼馴染の声。
パトリエーゼの声は――目の前で逃げ惑う猟犬の唸りに混じって聞こえた。

「パトラ――?」

アドルフの剣は、彼の殺してきた者達の魂を猟犬の形に縛りつけて隷属する呪刀だ。
そして……妹のように想っていた幼馴染が死んだあの日、パトリエーゼを殺したのは紛れもなく、アドルフだった。

それは、他愛もないまやかしだったのかもしれない。
アルマクリスに対して幻惑の効果があると、そういう戦術の一環で、パトリエーゼの声色を真似ただけだったのかもしれない。

しかし、アルマクリスは疑いようもなく理解してしまった。彼女とかつて心通わせた彼にだけは、それがわかってしまった。
聞き間違えるわけがない。逃げる猟犬から放たれた声は、声を放った猟犬の魂は、パトリエーゼのものだ。
支配者たるアドルフがこの場へ彼女を寄越した理由など、推し量るまでもない。

「…………本当に、悪趣味なクソ野郎だ」

――アドルフの猟犬達は、アルマクリスの評価とは裏腹に、一体一体が名うての武人の魂を元に造られていた。
彼が集団を相手に一方的な戦いを展開出来たのは、ひとえにアルマクリスが戦闘者として格段に高い位置にあったからだ。
つまり……ほんの僅かな気の緩み、足の踏み外し、ボタンの掛け違えで、容易く逆転し得る優位であった。
そして逆転の契機は、今、訪れた。

「クソ」

束の間の再会に一瞬だけ意識を奪われたアルマクリスは、その一瞬の隙に牙をねじ込まれ、肩口が大きく抉れる。

「クソ」

動かなくなった左腕でカバー出来なくなった脇腹に、別の猟犬の爪が埋まる。

「クソ」

足首を猟犬に食らいつかれ、足捌きが効かなくなり、アルマクリスはもんどり打って地に伏せる。

「クソがぁぁぁぁああああ!!!!」

そこへ残りの猟犬達が折り重なるようにして覆い被さる。
アルマクリスの怨嗟の叫びは、やがて犬の地響きのような唸り声に混じって、消えていった。
0248スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:26:25.20ID:sJAWv/VK
"天戟"のアルマクリスを下した指環の勇者一行は、傷の手当もそこそこに黒犬騎士アドルフを追って山を這走していた。
ティターニアの咄嗟の防御魔法のお陰で深手を免れたスレイブは、最も重傷を負ったシノノメを庇うように最後尾を行く。
しかしと言うべきか、上体を貫かれたはずのシノノメは既に戦闘前と遜色ない程度に快復しているようだった。
この尋常ならざる快復速度を、ティターニアは闇の属性が山頂へ向かうにつれ増している為、と結論付けた。

「怪我の功名……とは言えないだろうな。シノノメ殿の傷が早く塞がるのはありがたいが」

闇の魔素が濃くなる、ということは人の心に闇が深く現れているということでもある。
教団がそもそも何のためにオーカゼ村の住民をここへ連れて来ていたかを思えば、楽観視など出来るはずもなかった。
だがシノノメは、自身の傷の安否よりも気掛かりなことがあるといった風で言葉を零した。

>「それよりも……あの、ジャン様。良かったんですか?その方を……えと、殺して、しまわなくて」

「………………!」

シノノメの問いに、水を向けられたジャンよりも先にスレイブは言葉にならない呻きを上げた。
血潮さえも揮発するような熱波と水流との熾烈な激突を経て、アルマクリスを倒し仰せたジャン。
しかし彼は、家族とも言うべき村人達を傷付けられた怒りとは裏腹に、アルマクリスの治療をティターニアに頼んだ。
あの男を――殺しはしなかった。

>「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」

シノノメにはそれが不可解に思えたのだろう。至極尤もな疑問だとスレイブも思う。
ジャンは己と渡り合った武人に対して敬意を忘れない。前後がどうあれ、拳を交わした相手を貶めることはない。
他ならぬ、スレイブ自身も。シェバトで一方的に襲いかかったにも関わらず、ジャンは破顔してそれを赦してくれた。
まして、スレイブの命を救うために自身の命さえもかけて戦ってくれた。

>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」

同時に、ジャンのこの立ち回りは、スレイブやティターニアへの配慮のような気もした。
元々研究職で殺し合いの場に出る方が珍しいティターニアはともかく、スレイブは王宮護衛官、れっきとした戦闘職だ。
この手で人を殺めたことなど両手足の指を使っても数え切れないし、その為の技術を今日まで砥ぎ上げてきた。

だが――殺せなかった。アルマクリスと対峙して、互いに刃を向けあったにも関わらず。
シノノメを蹂躙されて、ステルス越しにすら感知されるほどに殺意を孕んでいたにも関わらず。
スレイブは彼の急所を狙うことが出来ず、手足の腱や骨を断って無力化する戦運びを選んでしまった。
無様にもその隙を突かれて一矢さえも報いられず、戦闘の負担をジャンへと集中させてしまった。
ジャンの分厚い手のひらがひどい火傷を負ったのは、他ならぬスレイブの落ち度によるものだ。

今のスレイブには、人を殺すことが出来ない。
握った刃の向こうで命の消え行くあの感触を、再び味わうかと思うと全身の筋が石のように硬くなる。
殺さねば、仲間を殺されてしまうかもしれないというのに――女王の騎士を気取っておきながら、酷い有様だ。

きっとこの震えは、怯えは、ジャンにも伝わっているのだろう。共に刃を重ねた者にだけ分かる感覚だ。
本当はアルマクリスの四肢を八つ裂きにしたかったのかもしれない。家族を辱められた者の当然の感情。
その正当な制裁を、スレイブの存在が留めさせてしまったのなら、きっと謝り足りないほどに不甲斐ない。

「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

言葉だけの感謝など到底足りるわけがないと分かっていても、スレイブにはそれ以上の術がなかった。
願わくば……何度でも。感謝を伝えたいと、そう想った。

――――――・・・・・・
0249スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:27:10.04ID:sJAWv/VK
>『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』

チェムノタ山の頂に辿り着いたとき、周辺の闇の魔素はもはや濃霧の如く行先を覆っていた。
深色の帳の向こうから、遠鳴りのような声が聞こえる。この響きは人間の発声器官によるものではない。

「チェムノタ山の主、老竜か――!」

果たして、そこには鱗の褪せた一匹の竜がいた。そして同様に、黒の鎧を纏った男が一人。
黒犬騎士・アドルフは、今しがたようやくこちらの到着に気付いたといった風に眉を立てた。

>「……闇の魔素か。結局、下らない時間稼ぎだった訳だ」
>「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

不愉快そうに鼻を鳴らしたアドルフが、蝿を払うような所作で剣を振るう。
いかなる絶技によるものか、老竜の首は何の抵抗もなく宙を舞った。

「――――!!」

再び命の失われる瞬間を目の当たりにして、スレイブの身体が強張った。
アドルフの口ぶりから察するに、老竜は指環の勇者たちに助けを求める時間稼ぎに闇の魔素を充満させていた。
しかし、間に合わなかった。彼らの目の前で、老竜は殺された。

>『さあて、どうかの。案外当てが外れたのはそっちかもしれんぞ?』
>『くく……くくく……愉快じゃのうお主は。何もかもを分かった気でいて、その実何も分かっておらぬ』

だが悔恨とは裏腹に、老竜の命はまだ終わってなどいなかった。
地面に転がる竜の頭部が、心底愉快そうに含み笑いを漏らす。

>『儂はな、ただの影じゃよ。お主らヒトが見た影に過ぎぬ』
>『闇とは斯様なものよ。お主らはいつもその、ただ黒い、薄っぺらな表面だけを見て、
 それを理解したつもりになる……。そんな事では、闇の指環は永劫、手に入らぬよ。くく、くくくく……』

老竜の異質な言動に、何らかの目的を持って来たはずのアドルフもまた困惑しているようだった。
導かれるがままにここへ辿り着いたスレイブ達はもっと混乱している。

「一体どういうことなんだ。あの老竜は、闇竜テネブラエの眷属か守護聖獣の類だと思っていたが」

闇の名を冠すチェムノタ山に、古くから住まう年老いた竜。
"王の隠し牙"ガレドロのもたらした情報を元に、スレイブは自分なりにいくつかの推論を立てていた。
風竜ウェントゥスが無数の飛竜を眷属としていたように、闇竜テネブラエもまた眷属を従えていたとすれば。
言わば鎮守の要の如く、暗黒大陸の闇の要衝であるチェムノタ山に監視を置いていてもおかしくはない。
あるいはシェバトのケツァクウァトルのような、都市の代わりに山を守護する聖獣か。
たった今首を落とされた老竜こそが、その中の一体だと大まかに予測を立てていたが、しかし――
0250スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:27:46.88ID:sJAWv/VK
『テネブラエは眷属なんぞ作っとらんぞ。あいつそういうの要らない系だし』

スレイブの指環から、幻体のウェントゥスがぴょこりと顔を出した。
シェバトを絶って以来、僅かな残存魔力を節約するためにずっと沈黙を保っていた彼女は、指環からぬるりと這い出る。

『この濃い魔素のおかげでようやく幻体を作れるようになったわい。ちと属性が違うから、髪が黒くなってしもたが』

果てしなくどうでも良い感想を述べるウェントゥスに、老龍の影が愉悦に捩れる。

『久しいのうウェントゥス。お主と最も宜しくやっていたのはどの"儂"じゃったかな?』

『アジ公かヴァジュラちゃんあたりじゃろ。今おるんかそこに?』

『生憎じゃがどちらも席を空けておるな。ウェントゥスが会いたがってたと伝えておくとしよう』

さながら再会を喜ぶ旧知のような二体のやり取りに、スレイブは眉を顰めた。

「旧交を温め合うのは後にしてくれ。あの竜はさっき自分を"影"と言ったな。
 ウェントゥス、あんたの本体が別のところにあるように、あの竜も幻体の一種ということなのか」

『んんー?それはどうじゃろなぁー……あっ、いや誤解じゃ、違うんじゃ、マジで説明が難しいんじゃって!
 はぐらかしとるわけじゃないから指環外して地面に叩きつけようとすんのやめや!』

「時間が惜しい。質問の仕方を変えるぞ。あの竜は何者なんだ、闇竜テネブラエと関係はないのか?」

『見た通りに闇の竜じゃよ。じゃがテネブラエとは違う……ちゅうより、テネブラエ自体がかなり曖昧な存在なんじゃ』

「曖昧……?」

『わしら四竜や光竜みたく、確たる存在の証がない。だって闇じゃもん。逆に聞くけど闇って何じゃ?何をもって闇とするんじゃ』

「闇の定義……光がなく、心に希望のない状態、だろう」

『そう、それ!つまりな、闇と言うのは"何もない"状態そのものを指す概念なんじゃ。光がなく、希望がなく、未来がない。
 本来、闇の指環や闇の竜なんてものは存在するはずがないんじゃ。司るべきものが何もないんじゃからな』

「だが、祖龍との戦いに闇竜は参戦していたはずだ」

『そうじゃな。終末の絶望の中にそれを見出したものがおったから、テネブラエという形で闇竜は顕現した。
 逆に言えば、誰かが闇を観測せん限り、闇の眷属は存在することさえないということじゃ』

「待て、ダーマには王国黎明期から闇を司る魔族が存在している。家系は途切れることなく続いている。
 闇の眷属が本来在るはずのないものだと言うなら、戸籍を有する個人としての彼女たちの存在はどう説明する」

『そんなもん、王国黎明の頃から絶え間ない絶望が人の心にあったからじゃろ。
 積み重ねた絶望の数だけ、闇の眷属は強く長く存在を保つことができる。のう、"首切りトランキル"?』

――――――・・・・・・
0251スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:28:12.66ID:sJAWv/VK
闖入してきた指環の勇者達の会話から、何か有益な推論材料でも得られないかと口を挟まず聞いていたアドルフは、
一つの結論にたどり着いて鼻を鳴らした。

「なるほどな」

『何か得心した風じゃのう。さぁ聞かせておくれ、的はずれな答えも儂を愉快にさせる分には有益じゃ』

「くだらん謎掛けは終わりだニーズヘグ。闇の指環の在り処など、貴様に聞いて分かるはずもない。
 貴様自身、闇の指環がどこにあるかなど知りはしないのだろう?」

『ほう……?』

「知るはずもない。闇の指環などどこにも在りはしないのだから。
 つまりはこういうことだろう。闇の指環は探し出す物ではなく――創り出す物だ」

アドルフは腰に帯びた蛮刀を抜く。
二刀一対の呪剣『ティンダロス』。虚無の色をした魔力の靄が、牙を創り、爪を創り、強靭な四肢を作り出す。

「我が刃を染めし血潮の主よ。鎖の先に隷属せし魂よ。今一度我が牙となり、我が敵を喰らいつくせ」

"虚無の猟犬"、無数の獣達が、アドルフの前にその顎を連ねていく。
怨嗟の叫びに似た唸りを上げ、血走って眼で主の指示を待っている。

「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」

号令に弾かれるようにして、無数の猟犬たちが一斉に疾走を開始した。
その加速の先に居るのは指環の勇者達と――シノノメ・アンリエッタ・トランキル。
アドルフは、闇の眷属たるシノノメの肉体から闇の指環を精製するつもりだ。

一匹一匹が岩をも抉り取る鋭利な牙と爪を携え、虚無の猟犬達がシノノメへと殺到する。


【アルマクリス:犬に噛まれる】
【アドルフ:犬にシノノメを噛ませようとしてる】
0252スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2017/12/05(火) 20:31:13.54ID:sJAWv/VK
【つまりどういうこと?:闇って光とか闇とかと違って絶望を感じる人の心の中から出るものだし、
             絶望の権化みたいなもんで人からめっちゃ恨まれてるトランキルの肉体から指環作れんじゃね?】
0253スレイブ
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2017/12/06(水) 04:36:38.06ID:ftsfZ+O3
【×光とか闇と違って
 ○光とか風と違って】
0254ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/12/10(日) 22:04:43.09ID:CXJeajUp
>「アドルフは山頂で儀式の準備に入ると言っていたが……そういえば喋る竜がいるというのも山頂か?
村人がいなくなったゆえ儀式は出来ないとは思うが先に指輪を手に入れられては厄介だ」

「おう、そうだぜ。村を出る前とか旅の途中で何度も立ち寄ってなあ、
 俺は頭が悪いからよく相談したんだよ」

山頂に続く道は村民たちの手である程度整備されており、歩きやすくはなっている。
だが周りに漂う黒い粒のようなものの密度が、だんだんと濃くなっていることをジャンは感じていた。

>「それよりも……あの、ジャン様。良かったんですか?
 その方を……えと、殺して、しまわなくて」

と、傷が急速に癒されつつあるトランキルから疑問が飛んできた。

「……あいつは戦士だ。ぶつかって分かったが、弱い奴にだけ強く当たるようなヒトじゃない。
 さっきは思わず八つ当たりなんて言っちまったが、家族殺されて冷静なままじゃいられねえよな」

ジャンは毛のない禿頭をぽりぽりと掻いて、ばつが悪そうに喋る。

>「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」

「あいつが村人の誰かをあの槍で突き殺していれば、殺した。
 結果として村人はみんな疲れたが死んじゃいない。だから迷惑料として槍をもらって、それで終わりだ」

>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」

これまでの会話は一番前を歩きながらトランキルの方を向いていなかったが、
この瞬間だけはトランキルと目を合わせて、彼女の金色に輝く瞳を見つめた。

「……そういうのはベテランの傭兵とか、生死の境目について考えているような学者様に聞きな。
 できるなら、死体は増えない方がいいだろうってだけだ」

普段はできるだけ微笑むように心がけているジャンは、この瞬間、一切の表情を見せなかった。

>「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

だがスレイブの発言を聞いてすぐに、不細工な顔を歪ませて笑った。

「なんだってんだ、二人とも急に暗くなりやがって!
 山頂まではまだ時間がかかる。ティターニア、なんか明るい昔話でもしてくれよ!」

こうして山頂に着くまでの間、五人は濃くなっていく闇の魔素が周囲を包むのにも構わず笑い話やほら話を続けていた。
0255ジャン ◆9FLiL83HWU
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2017/12/10(日) 22:05:29.45ID:CXJeajUp
>『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』

「来たぜ爺ちゃん!久しぶりだな。
 ……余計な野郎もいるみてえだが」

>「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

アドルフが手に持つ剣を振るい、音もなく年老いた竜の首は断ち切られた。
だがショックを受けた他の仲間と違い、何回か会ったことのあるジャンは
もう慣れていると言わんばかりに首を振ってため息をつく。

「爺さんの暇つぶしが始まったな。人数もいるしこりゃ長引くぞ……」

他の仲間やアドルフが質問をしているが、年老いた竜は
楽しそうに、だが受け流すように答えを返していく。決定的な答えは何一つ言わずに。

これは相談しに来た村人たちにもよくやる行為であり、前にジャンが理由を聞いたところ
『年寄りの独り身は寂しいから、つい構ってしまうんじゃよ』と分身の芸を見せながら答えていた。

>「くだらん謎掛けは終わりだニーズヘグ。闇の指環の在り処など、貴様に聞いて分かるはずもない。
 貴様自身、闇の指環がどこにあるかなど知りはしないのだろう?」

しばらく続いた会話を打ち切るように、アドルフは殺気を体中に漲らせる。
竜の分身と世間話をしていたジャンはそれに気づくと槍を構えて、アドルフの対面に立った。

>「知るはずもない。闇の指環などどこにも在りはしないのだから。
 つまりはこういうことだろう。闇の指環は探し出す物ではなく――創り出す物だ」

>「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」

『それは無粋じゃよ』

年老いた竜が前足を五本指の手に変化させ、パチンと器用に指を鳴らした。
すると猟犬たちを闇の魔素が包み込み、あっという間にかき消してしまう。

『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』

すると竜は全身の姿を変え、ローブを纏った一人の老いたエルフとなった。

『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』

『試練を乗り越えれば闇の指環を与え、力の解放もできよう。
 しかし、試練に負けたときには……ヒトとしては生きられぬ』

「……最初からそう言ってくれよ、爺さん。
 とっととやらせてくれ」

『試練を与えるのは久しぶりなんじゃ、喋ってるうちに思い出したわ。
 ……これより行うは試練。
 ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』

『汝らに勇気を』
0256ジャン ◆9FLiL83HWU
垢版 |
2017/12/10(日) 22:06:10.15ID:CXJeajUp
老エルフが指をくねらせて空中に小さな陣を描いた瞬間、アドルフと指環の勇者たちは閃光と共に山頂から消え去った。

『さて、彼らはどうするか……これを考えるのもまた暇つぶしじゃな』

そう言って老エルフは寝床にしている洞窟の奥を見る。
寝床のさらに奥、明かりがまったくないそこにあったのは大量の人骨であった。


ジャンが閃光に目がくらみ、目を開けた瞬間に広がった光景は炎だった。
辺りは薄暗いが太陽が出ており、目の前にある民家に火がついて燃え盛っているのだ。

よく見れば民家の周りに人だかりができていて、皆たいまつを持っている。
中には剣や斧など武器を持った者もいて、民家の前で民衆に跪いている人間がいた。

「……みんなはいねえのか?これが試練?」

跪いている人間は女性らしいが、フードを被っていて顔はよく見えない。
そこに男のオークが民衆を割って入ってきて、女性の胸倉を掴んだ。

「お前が俺になすりつけやがったんだな!この魔女め!
 盗んだ金をおばさんに返しやがれ!」

「この魔女が魔術を使って***さんがやったように見せかけたんだ!」

「薬を作ってもらうんじゃなかったよ!」

「村に置いてやったのが間違いだった!」

どうやら民衆はかなりフードの女性に怒っているようだ。
とりあえず落ち着かせた方がいいとジャンは考え、民衆をかき分けてオークに話しかけた。

「何があったか知らねえが落ち着けよ、家まで燃やしてやることじゃ……」

振り向いたオークの顔を見て、ジャンは思い出した。
かつてある村に滞在したとき、強盗の疑いをかけられたこと。
だが住民の一人の協力によって村はずれに住む女性の魔術によるものだと分かったこと。
住民たちを説き伏せて女性の家を焼き、衛兵に魔女だと言って告発したこと。

(だけど……あの女性は結局犯人じゃなかった。
 俺に協力した住民こそが魔女であり、真の犯人だった。
 知り合いの冒険者とそいつを問い詰めて、真実を知ったときにはもう遅かったんだ。
 あの人は拷問に耐え切れず、心を壊して自殺していた……)

『これはお前がやったことだ。ジャン・ジャック・ジャンソン。
 お前のせいで一人の無実の女性が獄中で無残に死んで、ずる賢い人間が生き延びた』

自分そっくりの顔をしたオークが、処刑人が持つような分厚い幅の大剣を持ってそう語る。
ジャンは目の前に広がる吊るしあげの風景の中で、ただ一人立ち竦んでいた。

【試練内容:自分が最も思い出したくない過去との対峙】
0257ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:29:18.71ID:tVZKeyA/
道中でシノノメがジャンに、アルマクリスを生きながらえさせて良かったのかと疑問を口にする。
とはいえ、アルマクリスを生かしたのは、シノノメ自身も望んだ結末であったはずだ。
シノノメはティターニアに、ジャンを止めるように促そうとしていた。
殺そうとするに違いないと思っていたのにあまりにもあっさり許したので、
つい疑問が口を突いて出てしまったのかもしれない。
一方のティターニアはあの時なんとなく予測はついていたのだ。
戦いの最中は手加減はしないが、勝敗が決すればそれ以上追い撃ちをかけることはしないだろうと。

>「……あいつは戦士だ。ぶつかって分かったが、弱い奴にだけ強く当たるようなヒトじゃない。
 さっきは思わず八つ当たりなんて言っちまったが、家族殺されて冷静なままじゃいられねえよな」
>「立派に戦って、槍一本を頂戴して……それで貴方は、彼を許せたのですか?」
>「あいつが村人の誰かをあの槍で突き殺していれば、殺した。
 結果として村人はみんな疲れたが死んじゃいない。だから迷惑料として槍をもらって、それで終わりだ」
>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」
>「……そういうのはベテランの傭兵とか、生死の境目について考えているような学者様に聞きな。
 できるなら、死体は増えない方がいいだろうってだけだ」

二人のやり取りを黙って聞いていたティターニアが、シノノメの肩に手を置いて口を開く。

「そなたの助力が無ければ村人に被害が出ていたかもしれない。
つまりそなたがあの青年をも救った、と言えるのかもしれないな」

シノノメがアルマクリスの攻撃を一身に引き受けている時間があったからこそ、ジャンは村人を全員無事に避難させることが出来たのだ。

>「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

スレイブが、改まった様子でジャンに感謝を伝える。
思えば、スレイブは出会い頭にいきなりこちらの仲間――少なくとも同行者を亡き者としている。
犠牲になったのが、本当にたまたま裏がありそうで素性の疑わしい者達だったというだけだ。
人の生死など、紙一重の巡り会わせなのかもしれない。

>「なんだってんだ、二人とも急に暗くなりやがって!
 山頂まではまだ時間がかかる。ティターニア、なんか明るい昔話でもしてくれよ!」

「そうだな、ユグドラシアに伝わる真夏の夜の悪夢と呼ばれるちょっとした伝説の話でもしようか。
もうかなり昔だが助手のパック殿は以前は魔法薬学研究室の助手でな……
ある日研究室で開発した惚れ薬を効果実験と称して屈強な魔法格闘研究室の面々のまぶたに塗って回るという悪戯をしてしまった。
それがまた悪いことに効き過ぎてな――」

話を振られたティターニアは、パックが考古学研究室に移籍してくる羽目になった事件の話を始めるのだった。
こういう時にその場にいない者がダシにされるのは世の常である。
緊迫した状況ではあるはずなのだが、
端から見ればとてもそうは見えないだろう様子で他愛もない話をしながら一行は山頂へとたどり着く。
そこでは、アドルフと竜が言葉をかわしているようであった。
0258ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:32:47.55ID:tVZKeyA/
>『……おっと、どうやらお主に客人のようじゃぞ』
>「来たぜ爺ちゃん!久しぶりだな。
 ……余計な野郎もいるみてえだが」
>「だが当てが外れたな。お前の首を刎ねる程度の事では、隙にもならん」

闇の竜かもしれない老竜は、ジャンと親しげに挨拶を交わしたかと思うと、いきなりアドルフに首をはねられた。

「お主、何ということを……!」

イグニスがあまりにもあっさりとジュリアンに倒された光景が想起される。
あの時は指輪を完成させるために敢えて殺されたと思われるが、今回もそうなのだろうか。
それにしては、何の御託もなく、指輪の姿すら見えないが――

>『さあて、どうかの。案外当てが外れたのはそっちかもしれんぞ?』
>『くく……くくく……愉快じゃのうお主は。何もかもを分かった気でいて、その実何も分かっておらぬ』

何食わぬ顔で喋り始めた竜の生首を、安堵と驚愕と「やはりそんなに簡単に殺されるわけはないか」という
納得が入り混じった複雑な表情で凝視するティターニアであった。
暫しウェントゥスと老竜の謎めいた問答が繰り広げられ、
そこから闇の指輪は作り出すものだと推測したアドルフが、虚無の猟犬を一行にけしかける。

>「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」

「させぬ――! シノノメ殿、下がれ!」

闇の魔素で体が構成されているシノノメが狙われていることを察しシノノメを下がらせようとするが、その必要は無かった。

>『それは無粋じゃよ』

竜が指を鳴らす、ただそれだけで決して獲物を逃がさぬはずの猟犬が一瞬にして姿を消した。
この竜が人知を超えたとてつもない存在だということを改めて思い知る。
そしてこの竜も今までの例に漏れず、人型に変化して見せた。といっても全般的に若めの今までの竜とは違い、貫禄溢れる老エルフだ。
(外見上老いたエルフというのは実際にはあまり見る機会は無いのだが、老エルフというのはこうだろうな、というイメージど真ん中の姿である)

>『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』
>『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』
>『試練を乗り越えれば闇の指環を与え、力の解放もできよう。
 しかし、試練に負けたときには……ヒトとしては生きられぬ』

>「……最初からそう言ってくれよ、爺さん。
 とっととやらせてくれ」


「やはりそうきたか。やれやれ、普段は試験を出題する方なのだがな……」

イグニスはベヒモスとの戦いの試練で純粋に強さを試し、アクアはクイーンネレイドを地上に送り込み弱き者に手を差し延べる優しさを試した。
テッラは敢えて指輪を求める者同士で争奪戦をするように仕向け盤石の意思を試したと言えるだろうか。
この闇の竜は何を試してくるのだろうか。

>『試練を与えるのは久しぶりなんじゃ、喋ってるうちに思い出したわ。
 ……これより行うは試練。
 ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』
>『汝らに勇気を』

竜のその言葉を最後に、辺りの風景が塗り変わる。
0261ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:42:24.54ID:tVZKeyA/
どうやら故郷の森のようだが、屍累々の戦場と化している。
その惨禍を巻き起こしているのは、たった一人の黒衣の魔女。
0262ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/15(金) 00:43:00.07ID:tVZKeyA/
「指輪の魔女……!?」

メアリとは少なくとも肉体は別人のようだが、もしかしたらミライユの姉の仇とは同じ人物かもしれない。

「聖ティターニア……"そこ”にいるのは分かっている!」

黒衣の魔女が狙っているのは、金髪のエルフの少女。紛れもなく、まだ幼く無力だった頃の自分。

「この女……訳が分からぬことを! 聖ティターニア様はとうの昔に亡くなって久しいというのに!」
「なんでもいいがティターニア様には指一本触れさせん!」

そして、その自分を守るために果敢に魔女に立ち向かうも、その圧倒的な力の前に次々と倒れていく者達。
協和国でエルフ族の代表的な地位を勤めている父親がティターニアを守るように立ちはだかる。

「エリザベート、ティターニアを連れて逃げろ!」
「ぼーっと突っ立っとるんやあらへん! 行くで!」
「行くって……どこへ!?」
「ユグドラシア――行けばアンタのひいじいちゃんがどーにかしてくれはる!」

エルフの森で長を務める母親に半ば引っ張られるようにしてその場を逃れる幼ないティターニア。

「何だこれは……全く覚えておらぬ」

試練の内容は最も嫌っている過去との対峙、とのことだったが、全く身に覚えがない。
しかしあの金髪のエルフの少女は確かに幼い頃の自分なのだが――
そう思っていると場面が移り変わりダグラスと幼いティターニアが対峙していた。

「大丈夫だ、何も心配することは無い。その記憶に決して解けぬ最も深き封印を施そう。
思い出さねば、虚無に堕ちることもない。お前は明日から一介の学園生徒だ」

幼いティターニアが術をかけられ記憶封印されるのとまるで交代のように、ティターニアは全てを思い出した。
元々はティターニアがユグドラシアに来たのは、指輪の魔女から匿うためだった。
聖ティターニアとの間にどこまでの関連性があるのか、
何故今では向こうから取り立てては付け狙われなくなったのかはよく分からない。
ただ一つ確かなのは、指輪の魔女から自分を守るために、たくさんの同郷の者が死んでいったという事実。
そして、指輪の魔女は虚無を伝染させる――指輪の魔女によって近しい者が殺された者は、虚無に堕ちる――
ダグラスがティターニアの記憶に封印を施したのは、それを防ぐために違いない。
永遠に解かれぬはずだったその封印が闇竜の気まぐれによって解かれてしまった今、虚無は何倍にもなって襲い掛かる。
自分がいるばかりに、かつて故郷は襲撃された。最近のユグドラシア襲撃だって、実は自分を狙ってきたものかもしれない。
犠牲者は自分が死なせたようなものではないか、そんな考えが際限なく広がっていく。
0263ティターニア ◆KxUvKv40Yc
垢版 |
2017/12/15(金) 00:45:11.38ID:tVZKeyA/
――ソウダ、ソノトオリダ……

声が聞こえた気がして足元を見ると、無数の亡者の腕が足を掴み漆黒の闇の中に引きずりこまんとしていた。
考えることを放棄し力無くそれに身を委ねようとするティターニア。
次第に肩まで闇に飲まれ、無意識のうちに右手を上に伸ばすもじきに全身が飲み込まれるだろうと思われたが――その手を力強く掴んだ者がいた。

「クソエルフに群がるなんて奇徳な奴らだな。でも握手会なら手を掴むもんだぜ」

「アルマクリス殿……!?」

それは紛れもなくつい先刻倒して治療しておいたはずのアルマクリスで。
しかしその背には漆黒の竜の翼が生えていた。
彼はティターニアを闇の中から引っこ抜き、一方的にまくしたてる。

「お前らクソジジイに試練だとか騙されて暇潰しに殺されかけてるの! マジマヌケ!
つっても俺もクソジジイと同一存在だけど!ありえねー!」

彼は唖然としているティターニアに、ついて来るように促した。

「モタモタしてんじゃねーよ行くぜ! それともまた仲間を見捨てんのか?」

その言葉にはっとする。こんなところで闇に飲まれている場合ではない。
仲間達は他の空間に隔離されているはずだが、彼が老竜と同一存在であるというのが本当ならこの結界間を渡ることも出来るのかもしれない。

「いや――今度こそ……誰一人奪わせぬぞ!」

ティターニアはアルマクリスの後を追って駆け出した。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

老竜は、今回の者達はいつまで持つかな、等と考えていた。
実のところ、試練とはいいながら今までに挑んで生還した者は一人もおらず、闇に飲み込み取り殺す戯れとも言えるものだった。
が、今回はいつもとは一味違うようだ。

「やれやれ、また一つ影が生まれてしまったようじゃな」

老竜は、自らの暇潰しに想定外の事態が起こったことを察知し、ひとりごちた。
結果的には、闇の要素を多く持つ者を虚無の猟犬に襲わせるというのは、闇の指輪を作るにあたって全くもって正しい方法の一つであった。
いかなる偶然が重なり合ったのかは知れぬが、現にその方法で新たな指輪が生まれてしまったのだ。
老竜は、本当に久々に、真に暇が潰せる暇潰しが出来そうだと期待のような感情を抱きながら事態の行く末を俯瞰しているのであった。

【救出隊出動。自分だけでは闇に飲まれそうになった場合は遠慮なく使って貰うと良い】
0264ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2017/12/22(金) 01:28:28.63ID:aJro2sxx
【1週間経ったのでシノノメ殿はいけそうか順番変更した方がいいか連絡をくれると助かる!
スレイブ殿は一応準備をよろしく頼む!】
0266シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:45:00.30ID:mROVqqTY
>「……あいつは戦士だ。ぶつかって分かったが、弱い奴にだけ強く当たるようなヒトじゃない。
 さっきは思わず八つ当たりなんて言っちまったが、家族殺されて冷静なままじゃいられねえよな」

最初の問いかけに、ジャン様はそう答えました。
……戦いを通して上辺の行動だけではなく、彼の人となりを知ったから。
筋は通っています。だけど……彼の人格が分かったとしても、それで罪が消える訳じゃない。

>「あいつが村人の誰かをあの槍で突き殺していれば、殺した。
  結果として村人はみんな疲れたが死んじゃいない。だから迷惑料として槍をもらって、それで終わりだ」

誰も死ななかったから、だから殺さない。
筋は通っている……けど、それはただの結果論です。
彼には明らかな殺意があった。私達が誰も殺されない内に追いつけたのはたまたまです。
……そんな事は、ジャン様にだって分かってるはずなのに。
なのに、何故私と違って……

>「気を悪くしたら、すみません。だけど……どうしてそんなにもあっさりと、生死を割り切れるのですか」

問いを受けたジャン様が足を止める。
そしてあらゆる感情を排した表情で、私を振り返った。

>「……そういうのはベテランの傭兵とか、生死の境目について考えているような学者様に聞きな。
  できるなら、死体は増えない方がいいだろうってだけだ」

静かな、抑揚のない声……。
だからこそかえって、私にはそれが彼の真実の声に聞こえました。
同時に……やっぱり、軽々と……いえ、そんなつもりはなかったのですが、
とにかく……触れてはいけないものに触れてしまったような、気がしました。

……結局分かった事と言えば。
ジャン様には、確かな考えがある。
そして私には、それがない……たったそれだけで。
問いに答えて下さったジャン様に、申し訳ないです……。

「……ありがとう、ございます。それと……すみません。変な事を聞いてしまって」

>「……俺は、あんたに負けて、それでも生かされて、今こうして皆で旅が出来て。すごく救われているよ、ジャン」

>「なんだってんだ、二人とも急に暗くなりやがって!
  山頂まではまだ時間がかかる。ティターニア、なんか明るい昔話でもしてくれよ!」

>「そうだな、ユグドラシアに伝わる真夏の夜の悪夢と呼ばれるちょっとした伝説の話でもしようか。
  もうかなり昔だが助手のパック殿は以前は魔法薬学研究室の助手でな……
  ある日研究室で開発した惚れ薬を効果実験と称して屈強な魔法格闘研究室の面々のまぶたに塗って回るという悪戯をしてしまった。
  それがまた悪いことに効き過ぎてな――」

……私はこっそり歩みを緩めて、一行の一番最後に回りました。
私、その……感情がすぐに体色に出てしまいますから。
私達ナイトストーカーの生態など誰も知ってはいないでしょうけど……。
手の甲を見ると……ほら、青の中に、ほんの僅かにだけど赤が混じっていて。
た、例え皆さんには分からなくてもこんなの、見られる訳にはいきません。
0267シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:45:42.09ID:mROVqqTY
 


……山頂に辿り着くと、そこにいたのは先ほどの黒騎士。
そして首を切り落とされてもなお生きている……闇の竜。

>「くだらん謎掛けは終わりだニーズヘグ。闇の指環の在り処など、貴様に聞いて分かるはずもない。
 貴様自身、闇の指環がどこにあるかなど知りはしないのだろう?」

……闇の指環の在り処。
お伽話では、勇者が指環を捨てたのは誰の手にも渡らないようにですから……
あれ?でも竜は指環に宿ってるんだから、在り処が分からないなんて事は……
えっと、駄目です。考えたって分かる訳がありません。

>「知るはずもない。闇の指環などどこにも在りはしないのだから。
 つまりはこういうことだろう。闇の指環は探し出す物ではなく――創り出す物だ」

ただ……この隠そうともしない、獣よりも更に荒々しい、狂犬のような殺気。
あの男、アドルフと呼ばれていた黒騎士が何を考えているのかは容易く分かります。

>「霊獣よ。汝の疾走を――歓迎する!」
>「させぬ――! シノノメ殿、下がれ!」

「いえ、ご心配なく。魔術師を前に立たせるほど、華奢じゃありません!」

呼び出された霊獣の動きは素早く、数は多い。
攻め筋が広い。実体を持たない霊獣はあらゆる角度から襲い掛かってくる。
だとしても、私に出来る事は一つです。つまり、全て切り落とす……

>『それは無粋じゃよ』

指を弾く音。振るった長剣が空を切る。
……霊獣が、掻き消された?
一体一体が高密度の魔素で構築されていたはずなのに、指を鳴らすだけで?
これが……竜の力。

>『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』
>『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』

「あ、あの……私は、別に、指環が欲しい訳では……」

闇竜は無言で私を見つめ、すぐに顔を背けました。
異論は認めない……という事ですか。

>『試練を与えるのは久しぶりなんじゃ、喋ってるうちに思い出したわ。
  ……これより行うは試練。
  ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』

>『汝らに勇気を』

そして、周囲が闇に包まれました。だけど……完全な暗闇じゃない。
蝋燭の微かな明かり。気づけば私は椅子に座っていて、目の前には上質な木で造られた執務机。
私は……手紙を読んでいました。

……おかしい。これは、私の記憶じゃない。
私がこれまで歩んできた生の中に、こんな場所で、手紙を読んでいた覚えなんてない。
一体どういう……いけない、落ち着かないと。
0268シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:47:33.43ID:mROVqqTY
まずは……この手紙を読んでみれば、何か分かるかも……。

『この土地がまだダーマと呼ばれる前の時代、
 トランキルは執行官ではなかった』

「なっ……」

なんですか、この手紙……一体、どういう事……。

『かつてトランキルは初代魔王の友、戦友だった。
 魔王と共にダーマを建国した八人の友の一人。
 闇より生まれ闇に潜む種であるトランキル。
 彼が担った役割は……言うまでもないだろう。




             君の背後にそれはいる』

「……っ!」

私が手紙を読み終えた瞬間、私の背後に誰かが現れた。
そして振り返る暇も与えず、私の背中に刃が突き立てられる。
……その瞬間に、やっと私は理解しました。

これは……私の記憶じゃない。
だけど最も見たくない過去。
トランキル家の、過去なんだ……。

気づけば私はまた、さっきとは違う、私じゃない誰かになっていました。
ここは……どこかの街並み。人混みの中で……。
その中に紛れて、前方から、また何者かが歩み寄ってくる。
いえ……あれは……

『ダーマの黎明期において、トランキルは暗殺者の役割を担っていました。
 魔王の敵を秘密裏に、事を荒立てる事なく始末する……。
 それはある意味では魔王からの無上の信頼の証だったのでしょう』

……私だ。

『だけどその信頼が、トランキルのその後の運命を決定付けてしまった。
 誰にも任せられない事を、任せる相手として』

短剣が私の腹部に突き刺される。
膝を突き倒れると……また、私は別の誰かに。
今度は……手足を縛られて、跪かされている。

『国が形になり暗殺がさほど必要なくなると、トランキルはもう一つ仕事を与えられました。
 そう、罪に対する罰の、国家の正義の象徴。死刑執行官です。
 素晴らしい名誉です。魔王陛下は国家の威容そのものと言っても過言ではない役割を与えて下さった』

……首を刎ねられる罪人は、こんな景色を見ているんですね。

『言祝ぐべき事です。そうでしょう?トランキルは皆その役割を誇りに思っていた。
 あなたの父も、祖父も、曽祖父も。あなただけです。死刑執行官の職務を厭うているのは』

見えるのは執行官の足元と、振り上げられる剣の、薄い影……。
0269シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:49:29.30ID:mROVqqTY
『言いなさい。罪人の首を刎ねる刃を担うは、至上の名誉、至上の幸福であると。
 それこそが勇気の証明。弱いあなたを否定し、あるべき姿に。
 国家の剣へと生まれ変わるのです。この瞬間を、あなたは待ち望んでいたはず』

……そうだ。私はずっと、待ち望んでいた。
私が、今の自分じゃない、もっと違う私になれる時を。
それはもしかしたら、いやきっと、この瞬間……なのかもしれない。
0270シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:50:05.32ID:mROVqqTY
「わ……」

言わなきゃ、首が飛ぶ。だから否応なしに強く生まれ変われる。

「私は……罪人の首を、斬る事に……喜びを……」

……風切り音。
私のすぐ傍、体を掠めるほど間近に、何かが突き立てられる音。

顔を上げると……目の前には、槍がありました。
この槍は……アルマクリス、彼の……なんで、こんなところに……?
私は無意識に槍に手を伸ばそうとして、手足を縛る縄が断たれている事に気付きました。

首切りの私は……まだ私を見下ろしたまま、動かないでいます。
私が……答えを口にするのが、きっとこの試練の筋書きだから。

「……言えなかった」

首を斬られる心配がなくなれば、もう私が、言葉を強いられる理由はありません。
私は深く、溜息を吐く。
……肺の中の空気を全て吐き出して、同じくらい深く息を吸って。
そして私は気付きました。この溜息は……落胆ではなくて、安堵から来ているのだと。
だから……私はやっぱり、多分ずっと、自分の責務を好きになれない。

だけど……名誉に思わない訳じゃないんです。
私の幻が語った過去は、父も祖父も、何度も言い聞かせてくれたものです。

父も祖父も、曽祖父も、トランキルは皆、死刑を執り行える事を名誉に思っていた。

「……あなたが、一体何者なのかは分かりません。
 あの闇の竜が言う、闇の一つの側面なのか。
 私の心が生み出した幻なのか。だけど……」

私だって、それが誇るべき名誉だって事くらい分かります。
それでも、どうしても好きになれないだけで。だから、だったら……。

「私は……父と祖父を尊敬しています。
 父も祖父も、思想は違えど……立派な、執行官です」

『……深淵を望みたいと。それがあなたの厭う過去なら、試練はそのように』

私の幻がそう言うと、再び周囲の景色が変わりました。
この場所は……見覚えが、あります。
ここは……王都の、トランキルの本家の廊下。

小さな子供がいる。私じゃない。これは……父だ。
父はドアの前にいる。この部屋は……父の、執務室。
鍵穴を覗き込んでいる。

父に触れようとすると、私の手はその体をすり抜けた。
……ドアノブも、やっぱり。
だったら、このドアも……。

執務室の中は、薄暗かった。
窓の外は真っ暗で……あるのは蝋燭の明かりだけ。
まだ若い姿の祖父は、処刑用の長剣を蝋燭にかざしていた。
身体を刃に変えられる私達には不要な、金属の長剣を。
0271シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:54:15.40ID:mROVqqTY
……磨き上げられた剣身が、蝋燭の明かりを反射させている。
その光が、壁を、天井を照らす。
……そこには、礼拝堂があった。
剣身に刻まれた微細な彫刻。それによって生じる、光の陰影が描く礼拝堂が。

祖父は、祈りを捧げていた。
ダーマに生きる数多の種族が、創造神と崇める神々に。
0272シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:57:19.59ID:mROVqqTY
私は身を翻して、執務室を出る。
……父はもう、鍵穴を覗いてはいなかった。
鍵穴から漏れる光。それが描く神の一柱に、祈りを捧げている。

「……見たくない過去は見れました。さっきの続きをしましょう」

虚空に向けて呼びかける。
私の目の前に、私の幻が現れる。
0273シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2017/12/22(金) 11:58:21.35ID:mROVqqTY
『……言いなさい。罪人の首を刎ねる刃を担うは、至上の名誉、至上の幸福であると』

「いいえ……トランキル家の使命は、至上の名誉。
 だけど……決して幸福ではなかった。父も祖父も、私と同じだった。
 二人が、私よりも立派な執行官でいられた理由が、私、分かった気がします」

私は右手に長剣を作り出す。

「苦しいのは、自分だけじゃなかったから。父は、祖父を見て。祖父は、曽祖父を見て。
 皆、苦しんできたから……自分だけが逃げちゃいけないって、思えたんです。
 私が今、そうであるように」

そして、それを振り被り。

「そう、私は出来損ないじゃなかった。
 トランキルも、死神なんかじゃない。
 私はダーマで、きっと一番不運な家に生まれただけの、ただの魔族です」

私の幻の首目掛けて、振り抜いた。

「首を斬るのも、斬られるのも……誰かが被らなきゃいけない、ただの不運。
 だからもう、首を斬るのは怖くない」

今まで多くの罪人の首を斬ってきた。
だけどこんなにも素早く、淡々と……迷いなく剣を振り抜けた事は、なかった。
振り抜いた腕はその先端まで、満月の夜空のような青色に変化していました。
……確かに、今は晴れやかな気分です。

「さぁ、私は勇気を示せたのかは分かりませんが……
 これ以上どんな過去を見たって、もう心は挫けません。
 帰らせて下さい。闇の指環が欲しい訳じゃないけど……次こそは、あの人達の助けにならなくては」

斬り落とされた、私の幻の首を見下ろす。
闇竜がこの試練を見ているのかは分かりませんけど……
声をかけるとしたら、それくらいしか心当たりがなかったものですから。



【遅れてすみません……】
0275スレイブ
垢版 |
2017/12/26(火) 18:35:37.57ID:vb5XTl8v
【あらかじめお伝えしとくっす
 年末ちょーっとビジーなので一週間ギリギリかちょーっとオーバーするかもっす
 年内には投下するっすなので許して欲しいっす】
0278創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/27(水) 09:43:14.81ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

ARCNWH3I0Z
0279スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/01(月) 13:53:58.23ID:7cE8OwVD
>『それは無粋じゃよ』

黒犬騎士アドルフが放った虚無の猟犬を、老龍はにべもなく睥睨した。
漆黒の爪をヒトの手へと変じ、指を鳴らす。圧を伴わない衝撃が風を巻き、猟犬が弾け飛んで消えた。

「今のは……シェバトでジャンが放ったのと同じ――」

『竜轟(ドラグロア)じゃな。ありゃ元々テネブラエの技をアクアがパクった奴じゃから』

咆哮に乗せた波動で発動済みの魔法すらも消し飛ばす竜の御業。
水竜アクアをその身に宿したジャンが全身を震わせて放つ竜轟を、老龍は指先一つで成してみせた。
圧倒的な彼我の能力差を目の当たりにして、アドルフが眉を立てる。

>『だが正解でもある。闇の指環はおぬしらの内にあり、創り出すものじゃ』

「ならば何故邪魔立てするニーズヘグ。あの魔族を腑分けして指輪を取り出せばことは単純だろう」

>『しかし誰かを殺し、その臓物を捧げれば手に入るものではない。
 指環の勇者、そして黒犬騎士アドルフ。お主たちには十分な力がある。
 だがそれに見合う心があるかどうか、それをこの試練にて見極めるとしよう』

>「……最初からそう言ってくれよ、爺さん。とっととやらせてくれ」

老龍と知己であるらしいジャンは、臆した様子もなく先を促す。
試練。旅の道中でティターニアからこれまでの指輪に関するあらましは聞いていた。
火竜も、水竜も、地竜も、指輪の勇者たる資格を問う試練を彼女たちに課してきたという。
ならば、闇の指輪もこの試練を乗り越えた者に与えられるのだろうか。

>「あ、あの……私は、別に、指環が欲しい訳では……」

傍で戸惑っているシノノメは完全に巻き込まれた形になるが、これもまた運命と瞑目する他無い。
呪うべきは神の不明だ。そしてスレイブもまた、他人事ではなかった。

「指環を得る為に必要なら、俺は試練を受けよう。……試されるのには、慣れているつもりだ」

ジュリアンに蒙を啓かれるまで、スレイブの命は常に秤にかけられ続けてきた。
魔族至上主義の王都にあって、尖兵としての存在価値を立証し続けなければ生きることさえ許されなかった。
この剣で証を立てられるのならば、やることは何も変わらない。

>『 ……これより行うは試練。ヒトが最も憎み、嫌っている過去との対峙』

エルフの姿をとった老龍が宙に陣を描き、魔法が発動する。
スレイブの視界はまばゆい光に包まれ、それきり何も見えなくなった。

>『汝らに勇気を』

――――――・・・・・・
0280スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/01(月) 13:54:36.92ID:7cE8OwVD
土砂降りの雨音が耳朶を打って、スレイブは自分が屋外にいることに気がついた。
夕闇がすぐそこまで迫り、息も絶え絶えとなった陽光がこの手に握る剣を照らしている。
磨き抜かれた刃には、今よりも少しだけ幼い自分の姿が写っていた。

(過去との対峙――そう言っていたな。かつての記憶を呼び覚ましているのか)

見回せばあたりの景色にも見覚えがある。
ダーマ領内の小さな村と、近隣都市とをつなぐ街道だ。
かつてここを訪れた『理由』を思い出そうとして、しかし記憶をたどるまでもないことに気がついた。

「私の負けだ……殺せ」

大柄な男が一人、スレイブの足元で膝を着いていた。
苦痛と疲労に喘ぐ顔には玉のような脂汗が光り、肩口と脇腹からは赤黒い血液が大量に噴出している。
十人に問えば十人が致命傷と答えるだろう、正しく死に体となった男。
そして、彼をここまで追い詰め、傷と付け、今まさに命を奪わんとしているのは、スレイブ自身だった。

("任務"の記憶か――腑に落ちないな。何故数ある殺しの中から、この記憶だけが選び取られた?)

過去との相対を迫られて、しかしスレイブは自分でも不思議なほどに落ち着いて状況を把握していた。
予め老龍から試練の内容を伝えられていたおかげで、ある程度推測と覚悟が出来ていたというのが大きい。
何が来るのか分かっていれば、不必要に心を揺さぶられずとも済む。

だが解せないのは、目の前で自分に殺されかけているこの男が何故、最も憎み嫌った過去なのか。
この光景は、バアルフォラスが保管していた記憶の断片の一つに過ぎない。
ダーマ王家の尖兵として、同胞殺しの任を請け負っていた頃の、言ってはなんだがありふれた業務記録だ。

内容も昨日のことのように諳んじられる。
たしかこの男はダーマの前哨地に何度も小競り合いを仕掛けてきていた反抗組織のリーダーだった。
組織は非常に精強な槍術の使い手達で構成されていて、鎮圧にやってきた国軍を尽く蹴散らす快進撃を見せていた。
いたずらな部隊の損耗を嫌った軍部は、使い捨ての暗殺者としてスレイブを送り込んだのだ。

暗殺は苦労せずに終わった。
王都の紋章を掲げて街道を歩けば、勝手に向こうから絡んで来てくれる。
反抗組織の本拠地と目されている村の近辺で槍使いの集団と遭遇し、戦闘になった。
半刻もしないうちに、街道には無数の骸が転がることとなった。

「……何か、言い遺すことはあるか?家族や友人に、伝えておきたいことは?」

最後に残った一人……反抗組織のリーダーの首筋に刃を突きつけて、スレイブは問うた。
男は血泡混じりに言葉を零す。

「よく言う……我が戦友はたった今、貴様が全て殺したではないか」

「……そうだな。家族は?」

「とうの昔に喪ったとも。貴様ら王党派が、我々からどれだけのものを奪ってきたか」

「そうか……」

黙祷でもするかのように目を伏せたスレイブに、死にかけの男は苛立った。

「殺すなら早く殺してくれ。私はいつまで苦しめば良い」

「分かった。……済まない」

男の首を断ち落とさんを振り上げた剣が、半ば反射的に見当違いの方向へと打ち下ろされた。
切り裂いたのは拳大の石。真っ二つに断ち別れた石が地面に落ちたその先に、投擲者の存在があった。
0281スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/01/01(月) 13:54:58.66ID:7cE8OwVD
「おじ様から離れろっ!裏切り者!!」

スレイブへ石を投げつけたのは、横転した馬車に隠れていた一人の少年だった。
その両腕にまだ石をいくつか抱え、涙の溢れる双眸でスレイブを睨みつけながら腕を振り上げる。

「この!」

うなりを付けて放られた石は、やはりスレイブに届く前に断ち落とされた。

「……家族はいないんじゃなかったのか?」

少年から視線を外さずに、スレイブは足元の男へ問うた。
もはや息も絶え絶えの男は震える唇で否定を口にする。

「拾った孤児だ。兵士としての訓練も積ませていない、我々とは関係のない子供だ」

「関係ないなんてことあるかっ!オレにとっちゃみんな家族だったんだよ!おじ様、アンタもだっ!
 よくもみんなを殺したな……!絶対に許さねえ、殺してやる……!」

「失せろッ!!」

男が血を撒き散らしながら叫んだ。少年の肩が大きく震える。

「戦い方も知らぬガキに何が出来る!とっとと戦場から消えろ!!」

命を振り絞るような怒声に弾かれて、少年は両手の石を取り落とした。
何事か反駁しようとしばらく口をぱくぱくさせていたが、やがて背を向けて走り出した。
スレイブもまた応じるように一歩前に出る。
踏み込みとともに剣を放てば、無防備な少年の身体ひとつ、濡れ紙を引き裂くように両断できるだろう。

「待て」

男がスレイブの足に縋り付いた。
誇りも外聞も投げ捨てたその挙動に、スレイブが面食らう番だった。

「王党派が求めているのは私の首級だけだろう。あの子は無関係だ。
 死にゆく戦士の遺言を聞き届けてくれるのならば、後生だ、あの子のことは見逃してやってくれないか」

「………………」

瀕死の男の懇願を、スレイブは跳ね除けることが出来なかった。
彼とて道楽で同胞の命を奪っているわけではない。殺さずに済むならばそれが最良だと思える。
どの道、この地方の抵抗組織は頭目が粛清された時点で瓦解は免れないだろう。
任務は完了しているのだ。これ以上命を奪う意味はないと感じた。

「……見なかったことにする」

「恩に着る……!」

男は自分を殺した者へ感謝を述べて、それを最期に動かなくなった。
本当に、一滴の限りまで命を絞り尽くして……首を撥ねられるまでもなく、息絶えた。

怨嗟と絶望に満ちた、血塗られた戦いの遍歴の中で、唯一他人に感謝された記憶。
"最も憎み、嫌っている過去"などとは結びつかないはずだ。

「ニーズヘグは何故、この記憶を俺に見せた……?」

極論を言ってしまえば、スレイブにとってジュリアンと出逢う前の全ての過去が忌むべき記憶だ。
思いつく限りの罵声を浴びせて死んでいった者や、父母の亡骸の傍で自身の喉に刃を突き立てた子供もいた。
それらに比べてこの記憶は、憎しみの引き合いに出すにはあまりにも穏やかだ。
0282スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/01(月) 13:55:23.52ID:7cE8OwVD
「そりゃおめーが現実から目を背けてっからだろ?だからあのクソ陰険ドラゴンはこの記憶をお前に見せたんだよ」

不意に背後から声を掛けられて、振り向きざまに剣を振るう。
一閃が断ち切ったのは黒い靄――老龍のそれによく似た魔素の凝りは、しかし老龍とは別の声で言葉を発した。
霧散した靄が再び凝集して、ヒトの輪郭を造り始める。やがて現れたのは――

「アルマクリス……!?」

チェムノタ山中腹で戦ったエーテル教団の尖兵、アルマクリスの姿だった。

「何故お前がここに……!」

「あーあー説明メンドいから全部終わってからクソエルフに聞いてね!んなこたぁ今重要じゃないのよ。
 なぁお前、何が『殺した相手に感謝されて嬉しかったです。』だよ作文発表会かここは?ああーっ?」

アルマクリスはスレイブの胸ぐらを掴む。指先ひとつ動かせず、まともに抵抗も適わなかった。

「この話にゃまだ続きがあんだろうがよ。そいつを受け入れなけりゃ、てめーはずっと闇ジジイのお腹の中だぜ」

「お前は何か知っているのか……?」

「俺が知るわけないじゃん!ここはてめーの記憶ン中だろがよ。知ってんのはてめーだし、知らないフリしてんのもてめーだ。
 時間ないからヒント一つあげるね?この後抵抗勢力の拠点になってた村はダーマの地図から消えました。なーぜーでーしょーぅ?」

「………………っ!!」

スレイブは喉の奥で呻いた。

この話には続きがある。見逃した少年は、村へと帰って抵抗組織の壊滅を住民たちに伝えた。
そして、事態はそれで終わりにはならなかった。少年は住民たちを焚き付けて、ダーマ前哨地への一斉蜂起を成し遂げたのだ。
明らかに絶望的な戦いに、どうして他の大人たちが賛同したのかまでは分からない。
しかし、目の前で仲間を殺された少年の怒りと恨み、その執念が大勢を突き動かしたことは確かだった。

結果は――言うまでもない。抵抗組織の息がかかってたとはいえ、大多数はまともに剣の振り方も知らない農民たちだ。
前哨地に詰めていたダーマの軍隊に勝てるはずもなく、反転攻勢を受けて村一つが焦土と化した。
少年はおろか、彼らの村の全ての住民が、一人の例外もなく根絶やしにされたのだった。
0283スレイブ ◆T/kjamzSgE
垢版 |
2018/01/01(月) 13:55:40.02ID:7cE8OwVD
「てめーがあの時クソガキもしっかり殺しとかなかったから、もっと多くの人間がおっ死ぬハメになった。
 くだらねえ情にほだされて、その場限りの悦に浸って!人殺して食うメシは美味かったか?おお?」

「俺は……!」

「山ン中で俺と殺り合った時も、結局おめーは急所狙ってこなかったよなぁ?
 もう人殺したくないんですぅーじゃねーんだよナメてんのか。殺し合いだっつってんだろ。
 おめーのそのクソみてーな拘りで次は誰が死ぬのかな?オークかなエルフかな魔族ちゃんかな!楽しみだね!」

アルマクリスが掴んでいた手を離すと、スレイブは力なく崩折れた。
前哨地での一件は、スレイブが任地を離れた後に起きたことだ。
軍部の記録を当たればあの後村がどうなったかなど容易く知り得たにも関わらず、彼は無意識に頭の中からそれを締め出していた。
自分のしたことの結末を知ろうともせず、耳障りの良い上っ面だけで満足する。
これを偽善と言わずしてなんと言う?

「……あの時の俺の判断は多分、間違ってたんだと思う。あの少年を殺しておかなければならなかった」

握りしめた拳を地面に突き立てて、スレイブは少しずつ身体を持ち上げる。

「それでも……!この先の全ての戦いで、人を救いたいと願う俺の意志が間違いだとは、思いたくない」

どだい、何が正しくて何が間違っているのかなど、答えは自分の中にしかない。
少なくとも、アルマクリスを殺さなかったおかげで、今こうして老龍の思惑の外から彼は手を差し伸べてくれた。
きっと、あの時殺せなかった選択は、間違いなんかじゃなかったはずだ。

「王都にいたころ、78人殺した。あの村の住民215人を加えるならば、俺はこれまで293の同胞をこの手にかけてきた。
 全部覚えてる。忘れるはずもない、293人分の命を奪って繋いできた、これが俺の人生だ」

かつてジュリアンは言った。
『相手を殺すことは、その人の人生の全てを背負うことである』と。
ならば、293人の人生を背負ったスレイブには、293人の想いと願いを代行する責務がある。
彼らはみな一様に、ダーマにおける同胞の救済を目的として戦ってきた。
彼らの救いたかった者の全てを、スレイブもまた救いたい。

「この先の戦いで、俺は再び人を殺すだろう。……それでも俺は、殺した分だけ人を救うよ」

「そーかい。だったらとっととここから出て、てめーの偽善に付き合わされる可哀想な連中と合流しねえとな。
 あーお前こっから一人で歩けよ。ちょっとクソオークがやばそーだからあっちに顔出して来るわ」

アルマクリスはそう言って目の前から掻き消えた。
唐突に道案内を放棄されたスレイブは、しかし白昼夢の中を臆せず無く進む。

進むべき道は分かっていた。
もう迷わない。


【アルマクリスに説教ぶちかまされて開き直る】
0284スレイブ ◆T/kjamzSgE
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2018/01/01(月) 13:57:06.40ID:7cE8OwVD
【あけましておめでとうございます!
 思いっきり年明け投下になってしまって申し訳ないっす。
 想像以上に年末年始にやることが密集してたのとカゼ引いちまいました
 みなさま今年もよろしくです。めっちゃ寒いのでカゼには気をつけてね・・・】
0287ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/01/05(金) 20:13:37.44ID:pZwUkuLB
自分そっくりの姿をしたオークが、大剣を携えて立ちすくむジャンへとゆっくり歩いてくる。
何の感情もないその顔は、やがてどこからかやってきた闇に紛れて消え去ってしまった。

『お前は罪を犯したが裁きを受けてはいない。
 この闇の試練によって己の過去と向き合い、過ちを清算する時だ』

どこからか響くその声はジャンの声だが、断定するような口調はジャンのものではなかった。
その声を振り払うようにジャンは声を荒げる。

「……俺は確かに最初は間違えた!だけどよ、最後にゃ犯人を突き出しただろう!」

『あの女性が無実の罪を着せられ、結果として死んだ事実は変わらない。
 そしてそれを主導したのはお前だ』

「殺したのは衛兵だ!俺じゃない!」

それから続く問答の中、ジャンは槍を構え、オークは大剣を構えた。
オークの構える大剣は先が潰され、刀身は分厚くこん棒に近い。
まともに打ち合えば不利だとジャンは考え、相手の出方を待った。

『……罪を受け入れぬ罪人に裁きを!』

オークは動きを止め、一呼吸置いて突撃する。
まったく体幹のぶれないその動きは、実力がジャンよりもはるかに優れていることを示していた。
そしてそこから繰り出される上段からの振り下ろしは、音すら置き去りにする必殺の一撃だ。

「だらぁっ!」

ジャンはそれを防ぐべく槍の穂先を刀身に叩きつけ、斬撃を右に逸らしつつ左に踏み込む。
そして腰の鞘から左手で引き抜いた聖短剣サクラメントをオークの首筋へと突き刺そうと左手を振り下ろした瞬間だった。

『……温い!』

逸らした大剣の軌道をオークは凄まじい膂力で以て変更し、その分厚い刀身をジャンの脇腹に叩きつけた。
吹き飛ばされたジャンはいつの間にか生えていた大きな大理石の柱にぶつかり、色とりどりのモザイク模様で出来たタイルに倒れ伏す。

気づけば辺りは満月が床と柱を照らす神殿となっていて、ジャンとオークはその中心、広場と言うべき場所にいた。
0288ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/01/05(金) 20:14:06.49ID:pZwUkuLB
『……まだ息があるか。さすが今代の指環の勇者だ』

「てめえ……!」

ジャンが槍を支えに何とか立ち上がったところで、ジャンの肩を叩く者がいた。
軽装の革鎧を身に纏った青年が一人、ジャンの横に立っているのだ。

「クソったれオーク、それでも指環持ちかよ?
 あのクソジジイがお前の過去を脚色してることに気づかなかったのか?」

「俺がみんなを扇動したことに変わりはないだろ!」

「最初に協力した住民が魔女だったのは覚えてんだろ?
 そいつが魔術の効きやすいオーク族のお前を操ったって考えなかったのか?つまりそういうことだぜ、この話」

『なに!?……むう、闇竜様がまた大事な部分をお話になられなかったということか……これだからあの方は』

大剣を構えたオークは天を仰ぎ、大剣で何もない空間を切り裂いたかと思うとそこに足を踏み入れ、
そのままするりと出て行ってしまった。
それを見たジャンはため息をついて、アルマクリスの方を振り向く。

「……俺は……やっぱりバカだな」

「そんなもんさっきの打ち合いで分かったっつの!
 とっとと出るぞ、てめえのお友達も待ってんだからな!」

アルマクリスが神殿の奥、大きな扉を指差し、ジャンを先導するように歩き出す。
ジャンもそれを追いかけるように歩いて、出口へと向かうのだった。


「なんじゃ、どいつもこいつも見破りおったか。
 ……いや一人だけ、耐え切れなかったようじゃな」

大扉を開け、黒一色の闇に包まれたかと思うと闇が吹き飛び、気がつけば先程までいた山頂だった。
周りを見ればティターニアやスレイブ、トランキルにフィリアもいる。

だが……同じ試練を受けていたはずの黒犬騎士アドルフはいない。
アドルフがいたはずの場所にあるのは、ちょうど人間一人分の骨だけだ。
0289ジャン ◆9FLiL83HWU
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2018/01/05(金) 20:14:57.73ID:pZwUkuLB
「……どういうことだ、爺さん」

「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

闇竜は指をパチンと鳴らし、老エルフの姿から再び竜の姿へと変化した。

『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』

くつくつと顎を鳴らして笑い、闇竜は右手を天にかざして叫ぶ。

『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』

すると周囲に漂っていた黒い粉のようなものが闇竜の右手に収束し、
やがて一切の光沢を持たず、黒一色に染まった指環が出来上がった。

「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」

闇の指環は闇竜から離れ、ジャンたちへと近づいてぴたりと止まった。

「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

分かっているであろう?と言わんばかりの闇竜の態度に、ジャンが自信満々に一歩を踏み出した。

『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』

「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』


【あけましておめでとうございます&去年はありがとうございました!
 インフルエンザも流行ってるそうなので気を付けてくださいね……ゴホゴホ】
0290ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/06(土) 17:16:40.16ID:lrsBzCFs
アルマクリスが槍を一閃すると空間が裂けて、彼はその向こうへと消えていく。
アルマクリスを追って空間の裂け目へ入ろうとするティターニアの前に、黒衣の女が現れた。
フードを目深に被っていて顔は見えないが、その手には白く輝く指輪――光の指輪と思しきものがはめられている。

『ウフフ、折角片付けるチャンスだったのに失敗しちゃった。
まさか闇の影に助けられるなんて――流石、指輪の勇者様。運も実力のうちね』

女は、ティターニアを挑発するように笑って空間の裂け目へと消えた。

「そなたの好きなようにはさせぬぞ、指輪の魔女!」

ティターニアは一瞬茫然とするもすぐ我に返って女を追う。
どんな戦場が待っているかと身構えるティターニアだったが、想像の斜め上の光景が展開される。

「なんだこれは……」

一見すると妖艶な女が寝室で男に擦り寄っているシーンにしか見えないが……その指には光の指輪らしきものが嵌められている。
会話の内容に意識を向けると、何故かはっきりと聞き取れた。
指輪の魔女が、ダーマ黎明期の魔王らしき人物にトランキル家を執行官にするよう進言しているのだ。
指輪の魔女は歴史の随所に現れ有力者を操り世界に干渉してきたという。

「やめぬか! その女の言う事に耳を貸してはならぬ! 我は断固反対するぞ!」

全く空気読まずに乱入するティターニア。
尤もこの光景が真実かどうかは定かではない上、この闇竜が作った空間で暴れたところでどうしようもないのだが、
遥か昔にトランキルに与えられた執行官という役目が後々シノノメを苦しめることになると思うと、つい飛び出してしまったのだ。
上を下への大修羅場に突入するかと思われたがそこで都合よく場面が切り替わる。
次の瞬間ティターニアは、拘束されたシノノメが、今まさに彼女自身と同じような姿の影に首を刎ねられようとしているのを目撃した。
異空間特有の急展開にティターニアが面食らっている間に、シノノメをアルマクリスが間一髪で救い出した。
0291ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/06(土) 17:18:23.69ID:lrsBzCFs
「行くぞ――次は手伝ってもらうからな!」

アルマクリスに促され、空間を渡るティターニア。
眼前で展開される場面の中にまたもや仲間の姿は見当たらず、やはり黒衣の魔女の姿があった。
黒衣の魔女が言葉巧みに慈母の皮を被り年端もいかぬ少年に反乱を起こすように唆している。
どうやら少年はスレイブによって身内を殺されるも、自身は見逃してもらった者らしい。

「駄目だ……無駄死にするだけだ。命を粗末にしてはならぬ!」

止めようとするも、気付けば大人の村人達も扇動され、後戻りできないところまできていた。
あっという間に周囲は炎が燃え盛る戦場と化し、村人達が王国軍に突撃していく。
迎え撃つ王国軍がいるはずの場所には、放心状態のスレイブが佇んでいる。
尤も、彼自身はまた別の光景を見ているのだろう。何が真実かは誰にも分からない。
というより元より闇竜が作り出した異空間。真実など存在しないのだ。

「スレイブ殿、何突っ立っておるのだ……!」

「こりゃヤバいな――俺はあのバカに説教かましてファイト一発するわ! お前はここで奴らを食い止めろ!」

いつの間にか村人たちは地獄の亡者のような姿になっていて。
反乱を先導する少年が、哀しげに恨めしげに訴えてくるのだ。

「あの時オレを殺しておいてくれれば、みんなは死なずに済んだのに……」

「許してやってくれとは言わぬ。しかし我々もここでくたばるわけにはいかぬのだ。済まぬな――」

淡々と、灼熱の炎で亡者の群れを焼き払うティターニア。
ここで動じれば自分もスレイブも闇に飲まれる。それが分かっているからだ。
やがて、唐突に亡者の群れが搔き消える。アルマクリスによる気合注入が成功したのだろう。

>「そーかい。だったらとっととここから出て、てめーの偽善に付き合わされる可哀想な連中と合流しねえとな。
 あーお前こっから一人で歩けよ。ちょっとクソオークがやばそーだからあっちに顔出して来るわ」

次の空間では、ジャンがオークのようなシルエットの何者かと戦っている。
ゆらり、とローブを纏った女性がどこからともなく現れる。
ティターニアが振り向いてみると、それは首の無い女性だった。
服装は一般的な魔女のようだが、指輪ははめておらず、指輪の魔女ではないようだ。
右手に大鎌を構え、左手に自分の首らしき物と抱えており、その目は怨嗟に血走っている。
その首が言葉を発した。

「そこを退け……あの男は村人を扇動し無実の私を死に追いやったのだ!」

振り抜かれた鎌を、とっさにプロテクションを展開した杖で受け止めるティターニア。
暫し生首と睨み合う。

「退かぬと言ったら?」
「――力づくで退かすまで!」

振るわれる首狩り鎌の前に防戦一方となり、致命の一撃をなんとか躱すも地面に倒れ伏す形となる。
ついにとどめの一撃を放たんと鎌が振り上げられた。
0292ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/06(土) 17:20:08.07ID:lrsBzCFs
「――そこだ!」

ティターニアは苦し紛れに魔力の矢を放ち、それは何もない地面に突き立つ。
否――それは首無し女の影にあやまたず突き刺さっていた。
その瞬間、首無し女の姿は消え、代わりに影のあった場所から指輪の魔女が姿を現した。

「あーあ、見抜かれちゃった。そうよ、黒幕は私」

ジャンの方を見ると、彼が戦っていた相手もいつの間にか消えていた。
そして気が付くと、何もない空間で仲間達が一同に会していた。
シノノメ、スレイブ、ジャン、フィリア――全員、闇の試練を乗り越えたということだろう。
アルマクリスが、一同を見まわして言う。

「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

ようやく現実世界に帰れるかと思いきや、もう一度場面が塗り替わっていく。

「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

それは、木漏れ日の中で、少年少女達4人が笑顔で戯れている光景。
アルマクリスによると、黒犬騎士アドルフの過去に関する光景のようだ。

「それじゃああれは……」

「ガキの頃の俺と……シュレディンガー三兄弟だ」

アルマクリスとパトリエーゼはいつの間にか場面から姿を消し、少年の日のアドルフがメアリに、何かを差し出している。

「お姉ちゃん、あげる! はめてみて!」
「まあ綺麗。どこで見つけてきたの?」

それは、光り輝く美しい指輪――光の指輪だった。
優しい姉と、姉を慕う弟。これがアドルフの最も思い出したくない記憶なのだとすれば。
微笑ましい子ども時代の一幕にしか見えないこれこの瞬間こそが、終わりの始まりだったのだ。
無情にも、何も知らぬ少女は差し出された指輪をはめてしまう。
この日から、無邪気だった少女は狂気の魔女と化していき、
姉が狂ったのは自らのせいだと悟った少年は姉と共に歩む覚悟を決め自らもまた狂っていった――
考えてみれば、指輪の魔女という呼び名が付くからには、歴代の魔女は皆指輪をはめていたと思われる。
指輪の魔女とは――指輪をはめたヒトのことではない。
ヒトを乗っ取り傀儡とする魔性の指輪そのものなのだとしたら――

「我々は大変な勘違いをしていたのかもしれないな……。
指輪の魔女メアリが光の指輪を手に入れたのではなく、光の指輪がメアリを”指輪の魔女”に仕立て上げたのだ……」

ソルタレクのギルドが最近指輪を手に入れたという噂の正体は、
最初から光の指輪を持っていたエーテル教団と手を組んだ(という名目でメアリの完全支配下に入った)ということなのだろう。
0293ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/06(土) 17:22:11.14ID:lrsBzCFs
「ぜんぶ、ぼくのせいなんだ……。あのときゆびわなんてあげなければ……。
ほんとうは、もうおねえちゃんはおねえちゃんじゃないってわかってた。
せめてぼくがおわらせてあげなきゃいけなかったのに。
おねがい、おねえちゃんをかいほうしてあげて……」

幼いアドルフが懇願するように訴えながら、光の粒となって消えていく。

「待て! 勝手に消えるでない!
そなたが姉上殿に指輪をあげたところからすでに指輪の手の内だったのだ……!」

ティターニアの呼びかけも虚しく幼いアドルフは消え去り、気が付けばもとの山頂。
今度こそ、現実世界に帰ってきた。

>「なんじゃ、どいつもこいつも見破りおったか。
 ……いや一人だけ、耐え切れなかったようじゃな」

アドルフがいたはずの場所には、丁度一人分の骨だけが残されていた。

「アドルフ殿……」

>「……どういうことだ、爺さん」
>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

「ああ、奴は……真の敵に立ち向かう勇気を出せなかった……。
見えない敵と戦っていた時間が長すぎたのかもしれぬな……」

敵でありパトリエーゼの仇でもあるはずのアドルフの冥福をそっと祈り、気持ちを切り替える。
いよいよ闇の指輪を授けられる時がやってきたのだ。
0294ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/06(土) 17:23:33.98ID:lrsBzCFs
>『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』
>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』
>「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」
0295ティターニア ◆KxUvKv40Yc
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2018/01/06(土) 17:24:02.05ID:lrsBzCFs
闇竜によって、黒一色の指輪が具現化する。
おそらく、この指輪に宿っている”影”は、アルマクリスなのだろう。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」
>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」
>『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』

ジャンが抜かりなく場を和ませ、ティターニアがニヤリと笑う。

「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

ティターニアはそう言って、シノノメの背中を押すように肩を叩いた。
もちろんシノノメ以外はすでに指輪を持っていて二個目は無理っぽいというのもあるが、
そうでなくてもシノノメは体が闇の魔素で構成された種族であり、歴史の闇を担ってきた一族でもある。
彼女以上の適任はいないだろうと思ってのことだ。
彼女は執行官の任務を持つ身だが、指輪に選ばれてしまったとなれば休職ぐらいはさせてもらえるだろう。
しかし指輪の中身がアルマクリスでは苦労するだろうな、等と思うティターニアであった。

【ジャン殿もお大事に!】
0296 ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/09(火) 15:03:04.26ID:jhV/IFgD
年始早々めちゃんこ忙しくって今回も遅刻かましそうです・・・
今回はせめて早めに懺悔しておきます・・・ごめんなさいぃ・・・
0297 ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/13(土) 05:41:42.22ID:tK4aegA2
今日、明日中には投下します。本当に申し訳ない……
0300シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
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2018/01/13(土) 22:59:48.77ID:tK4aegA2
『帰らせて下さい?おかしな事を言いますね。あなたはトランキル。
 ダーマの建国、黎明。それらの裏に、澱のように積もっていく闇の全てを背負ってきた者。
 ……いえ、それらを積み重ねてきた者こそが、トランキル』

私の幻、その斬り落とされた生首が、あの闇竜のように声を発する。

『そう、あなた達は闇から生まれた。そして長い歴史の中で
 闇を生み出し、形造る者になった。
 今のあなたなら……誰の助けも必要としない。一人で、ここから立ち去る事が出来る』

それらの言葉に私は何の返事もしない。
ただ、右手の長剣をもう一度振るった。
トランキルの剣技が放つ黒の剣閃が闇を断つ。
空間に細い切れ目が走る。向こう側から眩い光が漏れる切れ目が。

「……ありがとう、ございました」

『礼ならあの槍使いに言いなさい。私はただあなたを試しただけです』

「はい。あの方にも、お礼は言います。だけど、あなたにも。
 ……それと、あなたは、もしかして」

『試練は終わりです。あなたが助けになりたいと願った者達は、既に試練を終えて待っていますよ』

……これ以上の問答をするつもりは、私の幻にはないみたいです。
私はもう二度、長剣を振るい……細い切れ目を、三角形の穴に変える。
そしてその向こうに見える光へと、足を踏み入れました。

「……ここは」

気付けば私は、どこかの神殿にいました。
元の世界ではない、どこか……だけどスレイブ様も、ジャン様も、皆が既に揃っています。
待たせてしまった……という様子ではなさそうで、ひとまずは安心ですが……。
しかし、ここはどこなんでしょうか。

>「さ、全員揃ったことだしとっとと辛気臭い場所からはオサラバしようぜ!」

「あ、アルマクリスさん。あの……さっきは、ありがとうございました」

「あー?何言ってんだ?お前。いや、なんの事かさっぱり分かんねーわー!
 異空間にありがちな幻でも見たんじゃねーの?いいからさっさと帰ろうぜって」

アルマクリスさんが私に目もくれず歩き出す。
だけど不意に、周囲の風景が再び闇色の渦と化した。
そしてそれが晴れると……私達は森の中にいました。
……子供の声が聞こえる。振り向いてみれば、淡い木漏れ日の中で子供達が遊んでいます。

>「何なんクソジジイ、ワンワン騎士の過去を見せろなんて頼んでねーんだけど!」

……これは、黒騎士アドルフの記憶?
この穏やかな時の中に……彼が最も忌み嫌う記憶があるんでしょうか。

>「お姉ちゃん、あげる! はめてみて!」
>「まあ綺麗。どこで見つけてきたの?」

……私には、彼らがどういう人で、どんな考えを持っていて、どんな行いをしたのか。
完全には分からない。だけど、あの指環。そして彼がこの記憶を忌み嫌っているという事は……。
今この瞬間こそが、きっと全ての始まりなんだ。
この大陸に戦争の火が燃え広がり、世が乱れ……多くの人達がトランキルの刃に掛けられた。
その始まりも……。
0301シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 23:01:19.26ID:tK4aegA2
>「ぜんぶ、ぼくのせいなんだ……。あのときゆびわなんてあげなければ……。
 ほんとうは、もうおねえちゃんはおねえちゃんじゃないってわかってた。
 せめてぼくがおわらせてあげなきゃいけなかったのに。
 おねがい、おねえちゃんをかいほうしてあげて……」

そう言い残して……アドルフは少年の姿のまま、消えてしまいました。
そして気付けば私達も、あの山頂に戻ってきていた。

>「……どういうことだ、爺さん」
>「あやつは自分の最も見たくない部分を虚無への妄信という形で向き合うことなく心の奥底に閉じ込めておった。
 それを無理矢理眼前に突き出し、心に直接問いかけてやれば……闇に飲まれるのは当然じゃよ」

……私は何も言えずにいました。
ティターニア様のように、彼に祈りを捧げる事も出来なかった。
気持ちが落ち込んでしまった訳ではありません。
ただ……何か、違和感がある。

>『さて、お主らの覚悟は十分に分かり、ワシも十分暇を潰せた。
 飲み込んだ者どもを戦わせて眺めたりヒトの悩み事を聞くことばかりしていては飽きるのでな……』
>『闇よ!汝を定義し、認め、自由自在に操る者へ授けるに相応しきものを!』
>「……これぞ闇の指環。ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者が、
 これを使いこなし、光の指環が放つ光を止められるじゃろう」

闇竜の呼び声が、闇の指環を現界させる。
漆黒の、竜の指環……本当に今更だけど、実在していたなんて……。

>「さて、これを扱える者は一歩前に出るがよい。
 ……名指しはせぬぞ?こういう時は自ら名乗り出るものじゃからのう」

ジャン様が自信に満ちた態度で大きく一歩踏み出す。
……そうですね。
ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者……。
故郷の人々を洗脳され、殺されかけても、それを許してしまえるジャン様になら相応しい……

>『ジャン!お主空気を読まない方のバカじゃろ!』
>「分かってるって爺さん!ただちょっと辛気臭かったから場を和ます冗談をだな……」

……えっ?そ、そうなんですか?

>『雰囲気が台無しじゃ!
 ……さて、指環の勇者たちよ。相応しき者は一歩前に出るがいい』

でも、だったら誰が……ティターニア様はあのユグドラシアの導師。
闇の魔法に関しても深い造詣があるはず……

>「お主もワルよのう。分かり切っておるくせに。第一、我の研究では指輪は一人一属性までだ」

そう言ってティターニア様は私の背中を……えっ?

「わ、私ですか……?」

私は指環が欲しくてここに来た訳じゃないってさっきも……
闇竜の方を見てみると……もう視線は逸らされない。
けどそれだけです。彼は私に何も言おうとしない。
……光栄に、思わない訳じゃないんです。
0302シノノメ・アンリエッタ・トランキル ◆fc44hyd5ZI
垢版 |
2018/01/13(土) 23:03:23.61ID:tK4aegA2
だけど……私はこの、執行官の娘がわがままを言って連れ出してもらった短い旅の中で
……指環の勇者の名に相応しい事を成せたんでしょうか。
偶然スレイブ様を見つけて、偶然オーカゼ村の殲滅を命じられて
……そんな事したくないから、執行官の使命をねじ曲げて。

偶然に流されて、嫌な事から逃げて、
運良くそれらしい答えを見つけられただけの小娘。
私はまだ、その程度でしかない気がするのに……。

「……本当に、私でいいんでしょうか」

だけど、この状況で私にはやれません、自信がありませんとは言えなくて。
私は一歩前に出て、手を伸ばす。
そして指先が指環に触れて……瞬間、闇の魔素が溢れ返る。

「えっ……な、なに?なんで急に……!?」

『……うむうむ、愛い反応じゃのう。
 指環の試練など久しくしておらなんだが……
 指環を手にしたと確信した者達がそうして慌てふためく姿は何度見ても愉快じゃ』

周囲が急速に闇に染まっていく……。

「一体、どういう事なんですか?私は……指環に拒まれたのですか?」

『む、なんじゃ。思ったより勘が鈍いのう。拒まれたのではない。
 試練はまだ終わっておらぬ。ただそれだけの事。言うたはずじゃ。
 闇の指環が認めるは、ヒトの負の感情全てを受け入れ、逃げることのない者』

即ち……こういう事じゃ、と闇竜が続けた。
辺りに満ちた闇の魔素が形を得る。見覚えのある、ヒトの形を……。

「執行官……指環を寄越せ。俺は……責任を果たさねばならん。
 姉上を救うのは俺だ。闇に呑まれ、闇と同化した今、闇の指環を手にすれば……
 俺は俺自身を完全に律する事が出来る。姉上を、止められる」

……黒騎士、アドルフ。
 
「まっ、要するに……俺達の器になってくれやって事だぜ、トランキルさんよ。
 さっきは助けてやったり、姉上を救ってーなんて言ってたけどよ。
 生憎ここにいるのは指環に集積された闇そのもの……つまり」

そして……アルマクリスの姿を取った影が、矛の切っ先を私に向ける。

「殺し合おうぜ。殺し殺される、その絶対の運命を楽しめ。
 そして……指環は俺達のもんだ!俺達がここにいんだ。パトリエーゼもきっとここにいる。
 後はメアリを殺せば……やっとだ。やっと全部の辻褄を合わせられるって寸法よ!」

その咆哮と共に……アドルフが動いた。

一対の細剣から放たれる無数の斬撃……
五月雨のような手数を繰り出しながら、
しかし一つとして受けてもいいと思える一撃がない。
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