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【王道ファンタジー】ホワイトクロス騎士団【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/16(日) 01:27:43.91ID:07SdzMkW
ジャンル:王道ファンタジー・組織もの
コンセプト:宗教色の強い西洋風ファンタジー世界のとある騎士団の物語
期間(目安):定めなし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(基本的にGMが出すが、必要に応じて)
名無し参加:なし
避難所の有無:なし


名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
0002 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/16(日) 01:52:06.68ID:07SdzMkW
世界は荒れていた。
――「帝国か、北方か」――当時どこでも囁かれていたこの言葉は、
この大陸が二つの勢力によってほぼ牛耳られていたことを意味する。

1000年以上も保たれていた各国間の均衡は、魔術と錬金術の発展によって、
瞬く間に崩壊し、二つの大勢力を南北に生み出した。
それらは魔術師や魔族、果てには魔物まで利用し、各地を征服した。

南からはジャイプール帝国。爆薬や大型の魔物を利用した軍団、不死と言われる「狂帝」の存在によって
瞬く間に周辺諸国を滅ぼし、または従属させる。
北からは北方、通称「ニュンガロイム」が有力部族である東西ヒルホトを統一して一気に南下、
鉄騎兵や妖術兵などの活躍により、南の諸国を蹂躙し、荒らし回っていた。

丁度帝国と北方の中間に位置する「千年王国」と言われたアースラント王国の国王フィリッポ4世は、
かつて散々「庇護」の名目で散々コケにしてきたヴィクサス神聖国を頼り、「神聖連合」を結成。
周辺諸国に北方勢力と帝国への対抗を呼びかけた。
「正しき教えこそが世界を救う」として――

そしてアースラント王国とヴィクサス神聖国の丁度中間あたりの湖畔に位置する中立都市ジェノアを中心とするジェノア共和国。
ここに「ホワイトクロス騎士団」が結成される。
騎士団とは名ばかりで、ジェノアのヴィクサス神聖国教会の支部司教が立てた戦闘集団である。

物語は、こうして幕をあける…!
0003フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/16(日) 02:01:03.20ID:07SdzMkW
名前:フィッチャー・ザ・グレート
年齢:24
性別:男
身長:180
体重:84
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:人間
職業:元海賊/騎士
性格:豪快で先のことは考えないタイプ
能力:とにかく大剣を振り回す能力
武器:グレートソード(かなり鍛えられた鋼鉄製のやつ)
防具:プレートメイル(結構無骨な感じの板金鎧)、ヘルム
所持品:殆どなし! 食い物中心
容姿の特徴・風貌:金髪で短く、眉なしで赤ら顔のマッチョマン。顔は整っているがイケメンとは言い難い。
簡単なキャラ解説:無骨なプレートメイル兵。本名はフィッチャー・レーガン。
宗教にはまるで感心がなく、ジェノア付近で海賊をやっていたが帝国軍によって迫害されて止む無く教会の傘下に入る。
ホワイトクロス騎士団の第三分隊長に抜擢されてしまっており、今作の主人公の一人。
0004フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/16(日) 02:39:02.60ID:07SdzMkW
ジェノアの海岸通りの外れに酒場が一つ。

鉄錆と海産物の腐ったような臭いがするこの場所に、今日も一人の男がタムロする。
名はフィッチャー・レーガン。またの名をフィッチャー・ザ・グレート。

巨大な剣を引きずるようにしてあまりデザインとしては宜しくない、板金鎧をギチギチと鳴らしながら
いつもの席へと腰掛ける。

「景気悪そうな顔してんな、フィッチャーよう」

もう何度目か分からないが、浮浪者のおっさんに声を掛けられる。
マスターはこちらすら振り向かない。ウェイトレスの姉ちゃんが無愛想な顔で応対する。
と、いうのもこの男の羽振りの悪さは評判だからだ。
おっさんは浮浪者と決まった訳ではないが、いつもここに居ることから、そう思っている。
名前すらも知らない。興味も持てない。

「いつもの一杯でいい」

それだけ言うと、兜をテーブルに置き、椅子へと腰掛ける。
ガララ、ズザザ…ガシャン…とゆっくりと鞘の無い大剣が立て掛けられたまま崩れ落ちるも、それを戻す気力すらない。
エールが置かれると、それを一口すすり、ため息をつく。

「なぁ、今日も海には出ねえのかい? 海賊王さんよ」

その名前を出されると苦笑いをする他無い。
無造作に借り上げられた金髪をボリボリと掻くと、テーブルをドンと叩く。

「海賊王ってヤツはな、帝国に取られちまったんだよ、海賊王はよ。今は教会の人間だ」

「教会の祈りの言葉って何だっけ?オナシャス、そんな感じだったよな?」

「いや、それを言うなら『プレシャス』だ。お偉い連中はいつも何かあるとプレシャスプレシャス言いやがる」

フィッチャーがため息をつく度に、おっさんが合いの手のように質問責めにしてくる。

「んでよぉ、あんたがいつも言ってた海賊王十戒っての、何だっけ? 忘れちまった」

おっさんが煽るように聞いてくる。勿論馬鹿にしているだけだ。覚えていないはずがない。
フィッチャーはもう一度ため息をつくと、深呼吸をして、搾り出すように、言う。

「「その一、『海、最高。陸なんてナンセンス』!」」

おっさんが勝手にハモり、それを知っていたかのようにフィッチャーがおっさんと一緒に笑い出す。
いつもは馬鹿笑いしていたが、いつまでも全開で爆笑するおっさんを放置し、フィッチャーは額に手を当てて苦笑いした。

「海、か。出てえなぁ…」

今日も訓練と見張りの仕事。そして、明日も、明後日もずっとそうだ。
カネはいい。自分のようなならず者上がりが分隊長にまでなれるのだから、それだけには感謝している。
それにここは自由がある。ヴィクサスの本国ならば、聖騎士が酒場で飲もうもんなら即クビだ。

「あんた、宿舎に住んでるんだってなぁ? どうよぉ、良いモン食えんのか?」

「昼メシだけはな。朝と夜は殆ど何も食ってねえ。俺はカネを貯めてるんだ」

と、その時、新たな来客があったことを扉の鈴の音が告げた。

【導入部分はこんな感じで、どなたでも大歓迎です。
できれば三人以上、二人、最悪一人でもスタートします。
敵役は今のところは出番は無いと思いますが、やりたい方はドゾ。】
0005セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/04/16(日) 13:55:03.60ID:ycblLXwK
名前:セレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール
年齢:27
性別:女
身長:189
体重:69
スリーサイズ:女性らしい体格に引き締まった筋肉が付いている
種族:人間
職業:教会騎士
性格:高慢かつ挑戦的
能力:貴族としての作法・宗教学・歴史学など
武器:祝福槍「シャルジュ」祝福剣「ルクレール」
防具:ミスリル製の全身鎧・フルフェイスのミスリル製兜
所持品:家の紋章が織られたハンカチ
容姿の特徴・風貌:金髪碧眼、かつ美人と称される顔立ち。宿舎以外ではミスリル製の全身鎧を常に身につけている。
簡単なキャラ解説:
ヴィクサス神聖国における名門シュヴィヤール公爵家の一人娘。
幼い頃教会騎士に憧れ、初の女性神聖教会騎士として実家の妨害すら気にすることなく就任。
教会幹部の護衛や野盗討伐などで名を挙げ、美貌と実力を兼ね備えた結果現在に至るまで
婿候補が一人もいなくなってしまった。
ホワイトクロス騎士団にはヴィクサス神聖国からの出向組の一人として着任しており、
第二分隊長として日々教会の意志に従い、戦っている。
0006セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
垢版 |
2017/04/16(日) 13:56:18.49ID:ycblLXwK
新たな来客、それは一人の女性だった。
美人ではあるが、ミスリル製の全身鎧と腰に提げた長剣を身につけて平然と動く様からは
歴戦の戦士めいた雰囲気が感じ取れる。

「フィッチャー!フィッチャー・レーガンはここにいるか!」

騒々しい酒場の中でもよく通る声が、女性の口から発せられた。
女性は答えを待つことなく狭い店内を歩き、途中一人の酔客にぶつかってしまった。

「あ〜?なんだ姉ちゃん、痛いじゃねえか。
 酒場でそんな物騒なもんぶら下げてんじゃねえよ、ハハハ」

そう言って酔客は彼女の腰にぶら下げた長剣に触ると見せかけ、尻を触ろうとするが――
直後、彼の視界は真っ暗になった。

「……あまり女性の身体に触らない方がいいぞ、酔っ払い」

酔客が尻を触ろうと手を伸ばした瞬間、女性は頭を掴み海水と汚れで腐りかけた木の床に叩きつけたのだ。
まったく容赦のない一撃に、思わず他の客は女性から遠ざかり、自然と道ができる。

「やはりここにいたな、フィッチャー。貴様のような者がホワイトクロス騎士団に
 いると思うと先程の無礼者のようにしてやりたくなるが、貴様は貴重な戦力だ。
 本部に戻るぞ!野盗共が近くの山に砦を築いたのだ」

フィッチャーと同じテーブルに座り、拳を強く握りしめてフィッチャーを睨む。
教会の正義と教義を純粋に信じているセレスティーヌにとって、
金目的で戦うような人間は信用できる者ではなかった。特に物騒なことを生業にしている傭兵は、
セレスティーヌからしてみれば即座に切り捨てたい存在だが、教会の司教からの指示とあらば従うほかない。

(フィッチャーめ、私が見張らなくては何をするか分からん!)


【貴族系脳筋娘の登場です!よろしくお願いしますね!】
0007 ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/04/16(日) 17:55:10.67ID:07SdzMkW
【参加者キター! 良い感じのお嬢様キャラですね。よろしくお願いします!
理想は三人以上からなので、一応明日の午前いっぱいぐらいまで待ってからスタートしたいと思います。
参加しようか迷っている方、四人以上になっても全く問題ないので、途中抜けの脇役でもいいのでドンドン参加歓迎します!】
0009フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/04/17(月) 17:26:49.20ID:jOj+OIyP
>「フィッチャー!フィッチャー・レーガンはここにいるか!」

その良く響く声を聴いただけでフィッチャーは頭を抱えた。
セレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール。
シュヴィヤール家といえば、あの薔薇の紋章で有名なシュヴィヤール公爵領。
現在はヴィクサス神聖国の一領土ではあるが、国境を越えて地元では名の知れた名家だ。
もっとも、ジェノアの人間の多くは訛りで「シュビャール」などと呼ばれてはいるが。

その一人娘が、このセレスティーヌだ。
すらりとした長身で、美人なのは間違いない。
この近辺では発音がしにくい為か、或いは名前が長すぎる為か、
「セレス」「セレス様」などと呼ばれている。
ホワイトクロス騎士団では女性の騎士は少なく、分隊長としては唯一なので、
隊員や司祭らに彼女のファンは多い。
ヴィクサス直属の出向組なのでウマが合わず、逆に敵も多くいるとのこと。

「あぁ、俺なら…」

と、だらしなく座ったまま返事をしようとするや否や、目の前でセレスティーヌに絡んだ男が一人、
朽ちかけたテーブルに顔をしたたかぶつけて倒れこんだ。相変わらずの剣幕だ。
店内がざわめき、彼女の行動を称えるような視線や、非難するような視線の両方が混じるが、
誰一人関わろうとする者はいない。皆が皆、自分たちの明日のことで精一杯なのだ。
0010フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/04/17(月) 17:27:06.49ID:jOj+OIyP
>「やはりここにいたな、フィッチャー。貴様のような者がホワイトクロス騎士団に
 いると思うと先程の無礼者のようにしてやりたくなるが、貴様は貴重な戦力だ。
 本部に戻るぞ!野盗共が近くの山に砦を築いたのだ」

同じテーブルに座るセレスティーヌ。
一見フィッチャーよりも若く見える程だが、実は彼女は自分よりいくつか年上であることを、彼は知っていた。
フィッチャーはいかつい外見に反して、特に大剣使いとして「巨漢というほど大柄ではない」ことに
コンプレックスを持っていたが、だらしなく椅子に寄りかかるフィッチャーから見て、詰め寄るセレスティーヌは
頭一つ分ほど大きく見えた。凛々しい瞳で見据えられると、ついおどおどとしてしまう。要は彼女は苦手なタイプなのだ。

それを隠すかのように、フィッチャーは肩を上げるようにして彼女に対抗した。
要はまずは「昼間から何故酒を飲んでここに居るのか」を弁解すればいい。


「…まぁ、落ち着いて聞いてくれセレス。俺とあんたにゃ、家ガラの違いがあるってのは知ってんだけどよ。
同じ分隊長の立場だ。でだ、これはな、俺なりの「布教活動」ってやつだ。要はな…」

ドン、とテーブルを叩かれ、再び見据えられると、いよいよ良い訳も苦しくなってきた。
そういえば――

本部に戻るぞ、ということは、「教会の犬」と陰口を叩かれる彼女のことだ。恐らくは司教、つまり騎士団長から命令が出たと見て間違いないだろう。
シュタイン司教、または騎士団長。普段は司祭帽を被る中年の男で、物腰は穏やかだが、とてつもない棍棒術と神聖魔法の使い手だとの話だ。
長い線のような目は優しそうにも見え、逆に考えれば何を考えているか分からないようにも見える。

(野盗が…砦だって…!?)

野盗と聞いて再びフィッチャーは視線を下に落とし、泳がせた。
ここ最近のフィッチャーの手柄は、主に治安の悪化するジェノアの街とその周辺の治安維持だ。

野盗をこれまでに何人も斬った。特に何も考えていなかった。
自分は教会に所属する騎士団の一員で、犯罪をしたならず者はただの弱者で、容赦する必要はないと。

しかし、その考えも昨日には変わった。
昨日、ハワードを斬った。かつての十人以上いた海賊仲間の一人で、当時は良く酒を酌み交わした仲だ。
(くそっ、どうしてこんなことに…!)

――「そんなにカネと権力が欲しいのか、卑怯者!」

ハワードの最期の言葉と、山の方へと逃げていった同じく海賊仲間だったオスカー、彼らを追う隊員の聖騎士たちの姿を思い浮かべた。
そう、フィッチャーは、やり切れなくなって、あの場を脱走したのだ。

はっとなると目の前でセレスティーヌが怪訝そうな表情をしていた。
正直なところこの女には話したくはない。簡単には理解されないだろう。
だが、かつての友人だったオスカー達を助ける方法は、もはや無いように思えた。

「分かった。それより、なぁ…聞いてくれないか?」

いつもお高くとまっていたあれほど嫌っていたセレスティーヌが、幼い頃草原で、自分の話をよく聞いてくれた、
歳の離れた姉のように見えてきた。

「…昨日、俺はダチを一人斬った。俺が昔海賊やってたってのは、知ってるよな?
昨日逃げたのは、敵が怖かったからじゃねえ。あの野盗どもの中に、まだ俺の仲間がいるんだ。
なぁ、あんただって、ダチとか、いるんだろ? まずはオスカーっていう、背が小せえ、右頬に傷のあるロンゲの奴だ。
他にもいたら、そいつらを、助けてやってほしい… 
団長、いや…シュタイン司教は急げってことか? 一緒に、考えてはくれねえか?」

エールを一杯ずつ注文する。
フィッチャーとセレスティーヌにエールが運ばれてくる頃には、既にフィッチャーの目から涙が溢れていた。
先ほどまでに話し込んでいたおっさんが肩にポンと手をやり、酒場を後にしていった。
赤ら顔がますます赤くなり、水滴が板金鎧の上で弾ける。
0011セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
垢版 |
2017/04/17(月) 21:19:03.52ID:YHCo4yqv
>「分かった。それより、なぁ…聞いてくれないか?」

任務の話をした直後から黙っていたフィッチャーが顔を上げ、一気に話し始める。
セレスティーヌはあまり長居はしたくなかったが、普段からこちらを嫌っている
人間が真面目な顔で話し始めるのだ。騎士たる者こういう態度には
向き合ってやらねばなるまいと、セレスティーヌもまたテーブルに叩きつけた拳を崩して両手を組んだ。

>「…昨日、俺はダチを一人斬った。俺が昔海賊やってたってのは、知ってるよな?

昨日の任務から始まるその話は、彼のかつての仲間たちの助命を願うものだった。
セレスティーヌもあの野盗狩りには参加していたが、思い返してみれば
フィッチャー率いる第三分隊は妙に士気が低かったような気がする。

> 団長、いや…シュタイン司教は急げってことか? 一緒に、考えてはくれねえか?」

「……シュタイン司教は心の広い方だ、少々の手間は認めてくださるだろう」

運ばれてきたエールを一息に飲み干し、代金をカウンターに置く。
明らかに粗悪な、混ざりものが多いエールだがセレスティーヌは
訓練の賜物か神のご加護か、酒や薬の類にはめっぽう強かった。

「大の男がそう泣くんじゃない。それにヴィクサスの教えは無駄な殺人を禁じている。
 砦を築くような野盗だ、明らかに指揮を執っている者がいるはず。
 そいつと取り巻き、四,五人ほど処刑して後は牢に放り込むか奴隷兵に送れば済む話だろう」

ヴィクサスの神聖教会によれば、建国の父である聖ヴィクサスが人間に伝えた使命は三つ。

一つ、みだりに殺すことなかれ
一つ、欲に溺れることなかれ
一つ、己の心に逆らうことなかれ

最後の使命は解釈が人によって異なるが、セレスティーヌは「善を成す」ことだと信じている。
すなわち、己の良心に従うこと。フィッチャーはいけ好かない男だが、昔の友を斬らせるようなことはさせたくはない。
それに野盗をいちいち皆殺しにしては、兵がいくらあっても足りない。大抵はリーダー格の首を獲れば皆大人しくなるものだ。

「十分泣いたか?行くぞフィッチャー!」

話が終わればやることは一つ。セレスティーヌとフィッチャーは本部に戻り、待機させておいた第二、第三分隊を動かす。
傭兵たちを並べ、聖騎士たちが整然と整列する。修道士やシスターたちが聖水を撒いて祈りを捧げ、騎士団長でもあるシュタイン司教から祝福を受ける。

「汝らの行く道に聖ヴィクサスの加護があらんことを、心に従い欲に溺れることなきよう」

「「「プレシャス!」」」

傭兵は気だるげに、聖騎士は大きく声を張り上げ、修道士は静かに祈りの言葉を唱和した。
第二分隊、第三分隊はこうして野盗たちの潜む山へと向かう。


【すいません、一気に話進めましたがもし予定があるなら

 >「十分泣いたか?行くぞフィッチャー!」

 ここから下はなかったことにしてください!】
0012フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/04/19(水) 09:45:03.47ID:TaiN0H+6
>「……シュタイン司教は心の広い方だ、少々の手間は認めてくださるだろう」

セレスティーヌがフィッチャーに向き合い、 真摯な顔で話を聞き、そう答える。
両手を組んでいるのがフィッチャーには心強く見えた。

> 「大の男がそう泣くんじゃない。それにヴィクサスの教えは無駄な殺人を禁じている。
 砦を築くような野盗だ、明らかに指揮を執っている者がいるはず。
 そいつと取り巻き、四,五人ほど処刑して後は牢に放り込むか奴隷兵に送れば済む話だろう」

セレスティーヌはフィッチャーの心境を理解せんとばかりにプラスになる話ばかりを口にする。
それを聞いたフィッチャーは単純な部分もあるのか、涙を止めると、妙に張り切った。

「あぁ、全くだぜ…俺らのバックにゃ神の力があるんだったな。俺のダチどもを引き抜いた
クズ野郎を晒し首にして、連中を赦すことだって、自由自在だよな。
そうだ。適当に降伏させて俺らでヴィクサスの神のもとに裁かせてもらおうじゃねえか」

一つ、みだりに殺すことなかれ
一つ、欲に溺れることなかれ
一つ、己の心に逆らうことなかれ

聖ヴィクサスの「使命」を思い出した。
勿論、フィッチャーは欲に溺れると己の心に逆らうことなかれを都合よく解釈して、
「欲に溺れるのもまた己の心」と思っている部分があるが、殺しを善しとしない宗教だというのは
重々理解していた。

>「十分泣いたか?行くぞフィッチャー!」

「あぁ、今あんたが飲んだエールは俺の驕りだ。これで海賊王一味の仲間入りよ」

きしむ椅子から腰を上げて立ち上がると、セレスティーヌの高く鉄で覆われた肩をバンバンと叩き、歯を見せて笑う。

「おうマスター、これからならず者どもを叩きのめしに行ってきてやるぜ!」

そう言い放ち、セレスティーヌと共に酒場を去った。

――

速やかに本部へと戻ると、第二・第三分隊は既に準備を済ませていた。

「おや、隊長殿、ズラこいて不貞腐れてたんじゃなかったんですかな?
それに第二隊長のセレス様と随分仲良くされているご様子。まさかぁ、
俺らが訓練をしている間に、遊んでいらっしゃったのでは?」

フィッチャーを見かけると嫌味臭い言い回しで声を掛ける第三分隊の細身の男。ラムスといい、かつて山賊の頭をやっていたという。
元海賊と元山賊という、妙な縁から仲良くなったつもりではあるが、年上の部下ということもあり、何かと意見を言ってくることがあった。

「…作戦会議をしていた。二度とそういう事を言うな」

酒の臭いのするフィッチャーを、ラムスのみならず他の隊員まで怪訝そうに見ていた。
一方で第二分隊の方はというと士気は高く、殆どがセレスティーヌの話を聞いているように見える。

「ふん、夕方を待って、油断したところを攻め込む、大方そんな作戦だろ?
俺だってそうしてるぜ。海賊のカンがそういってる」

「私が考案したのです。何か異論でもあるのですか? フィッチャー分隊長殿」

振り向くとそこに居たのはシュタイン司教だった。相変わらずその眼からは何の感情も無いように見える。
―と同時に酔いが一気に冷めていくような恐怖感を覚えた。

「こ、これは団長殿! 申し訳ありません。すぐに準備をしますゆえ…」
0013フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/04/19(水) 09:45:30.70ID:TaiN0H+6
慌てて舞台を整列させる。ラムスや他数名が舌打ちをしながらその場に並んだ。
第二分隊・第三分隊、総勢で20名ほどいる。
神官上がりで神聖魔法の使い手もいることもあり、「敵がこちらよりも明らかに大勢の場合は、状況を見て引き返せ」とのことだ。
つまり、余程のことが無い限り、降伏させるか制圧しろということ。

少なくともフィッチャーが聞く限り、神官連中が攻城戦などの明らかに前線に出る場面で用いられることはそう無い。
大抵は後方で待機しているものだ。
第二分隊の方は神官上がりらしき装備の者が比較的いるのに対し、第三分隊はほぼ傭兵といった雰囲気だ。
とどのつまり「ホワイトクロス騎士団」とは、ほぼ傭兵扱いの、名ばかりの騎士団と言っても過言ではなかった。
それでも「騎士」を名乗れることで、一人ひとりがそれなりの士気を保っていられる。

(全く、こんなシステムを考えたヤロウの頭が恐ろしいぜ…)

>「汝らの行く道に聖ヴィクサスの加護があらんことを、心に従い欲に溺れることなきよう」

>「「「プレシャス!」」」

気がつくと祈りの言葉を口にしている。
「ご加護」と「騎士」が併さりそれは絶大な効力となるのだ。



――


山賊たちの砦は予想以上に深い位置にあった。

「敵が見えましたぜ! これからご案内しやす」

ラムスら二名が斥候となり、砦としている建物を発見して報告する。
どうやら敵に見つかることなく、位置を特定することができたらしい。

「ふん、まるで俺たちが隊商を襲う盗賊だな」

セレスティーヌに小声でそうぼやきながら、フィッチャーは後方の味方を制し、
ゆっくりと砦に近づける。なるべく細く、列を作りながらの移動。

ヒュン――。

やがて、敵の矢が近くを掠める。発見されたようだ。

「敵襲ー!!」
0014フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/04/19(水) 09:45:55.51ID:TaiN0H+6
敵の大声と打楽器の音が響く。随分とまとまりが良いようだ。
視界が開けると、そこには弓やボウガンを構える敵、剣を構える敵など、計10名ほどが見えた。
奥には巨大なウォーハンマーを持った大きな板金鎧が見える。本格的な重戦士のようで、
この風景には些か場違いにすら見える。

「ぐぁっ!」

「スレイマン! くそっ、首をやられてやがる…!」

第三分隊の一人が首を射抜かれて致命傷を受ける。

(降伏勧告をしなくては…
しかし、何なんだ、敵の手際が良すぎる…!?)

辛うじて坂を登り切ったフィッチャーが、セレスティーヌよりも早くと、
啖呵を切る。

「ここはジェノアのホワイトクロス騎士団が包囲したぁー!第三分団長フィッチャーが告げるぅ!
大人しく武器を捨てて降伏するならよーし!抵抗する場合は…おぉっ!」

カン、とフィッチャーの板金鎧がそれを弾く。

「どうした? フィッチャー、裏切り者め、ビビってんじゃねぇぞ…」

若干震えるような声で先ほど放った矢の主、オスカーが叫ぶ。長い髪を靡かせながら。

「ここまで、来れたらなァ…」

鎧の大男がその兜の僅かな隙間から重い声を出す。

「ぐあっ!」

後ろで悲鳴が上がる。後ろにいた味方の一人が背中を突き刺されていた。

「伏兵だと!?」

第二、第三分隊が浮き足立った。

「公爵領のセレスティーヌお嬢様もいるそうだな。大人しく武器を捨てろや。命だけは勘弁してやる」

(馬鹿な、どこでそんな情報が…!)

剣を持った山賊が数名降りてくる。弓を持った敵はまだ構えたままだ。


【大丈夫です! 徐々に進めながらいきましょう。
分隊員として参加する方もこれから歓迎しますっ!!】
0015セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
垢版 |
2017/04/20(木) 20:49:27.05ID:WU+B+3j9
周りを湖に囲まれた都市ジェノア。
その近くにある山は街道が通っていて、ヴィクサスとアースラントの行商人たちがよく使う重要な街道である。
それを狙って潜む野盗は多いが、最近ではホワイトクロス騎士団の定期的な野盗狩りによって
大規模な集団になる前に潰れてしまうことがほとんどだ。

(まったく、こういう事態を引き起こさないための巡回警備だったのだがな……)

セレスティーヌ率いる第二分隊は士気が高く、また装備も統一されている。
神官・聖騎士・聖騎士に仕える従士といったヴィクサス軍の一般的な構成を模しているためだが、
そのほとんどはここジェノアで志願してきた者たちだ。
やる気こそあるが、経験と実力はそれに伴わず野盗の罠や待ち伏せに一杯食わされることも少なくなかった。

>「敵が見えましたぜ! これからご案内しやす」

「ご苦労。総員、下馬したからといって油断するなよ。
 ここは既に野盗どもの庭だ」

砦は深い森林の奥にあり、狭い獣道が一本あるのみだ。
このような状況では騎乗しての戦闘は明らかに不利であり、普段は馬に乗る
聖騎士たちやセレスティーヌは山のふもと辺りで馬を帰らせていた。

>「ふん、まるで俺たちが隊商を襲う盗賊だな」

「海賊のくせに盗賊は嫌いなのか?同じ賊には変わりないと思うのだがな」

ぼやきに皮肉で返しつつ、偵察に送り出した従士たちからの報告を聞く。
それによれば、砦は昔に建設された石造りの見張り塔に木造のあばら家を繋げただけのようだ。
火矢を放てば簡単に一掃できるだろうが、この辺りはジェノア共和国の領土。山を丸ごと焼き払いかねない事態には
シュタイン司教は首を縦に振ることはないだろう。
素直に降伏勧告からの適当な野盗狩り、これで十分なはずとセレスティーヌは考え、
声を張り上げんと思い切り息を吸い込んだ瞬間だった。

>「敵襲ー!!」

矢が放つ風切り音。その甲高い音をきっかけに戦闘が始まる。
森の奥から放たれる矢を聖騎士たちの大盾で守りつつ、従士たちが死角を長槍で支える。
その後ろでは神官たちが援護のため、聖歌の合唱を始めた。
聖ヴィクサスとそれに連なる十二の聖人の人生を歌った聖歌は、魔力を込めて歌うことで
味方の身体と精神を強化し、敵を威嚇する有名な神聖魔法だ。

「第二分隊、前へ!我らには聖ヴィクサスの加護がある!」

その第二分隊の前に、セレスティーヌは盾も持たず、悠々と戦場を闊歩する。
もちろん彼女を狙って矢が飛来するが、手に持った長剣をひとたび振るえばそれらは真っ二つに裂け、地面へと叩き落とされる。
0016セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/04/20(木) 20:49:47.07ID:WU+B+3j9
「さあどうした?私とて限界はある、矢を撃ち続ければ刺さるかもしれんぞ!」

彼女の持つ祝福剣ルクレールは元はただのバスタードソードだったが、
神官たちによって日々強力な加護が重ね掛けされており、その見事な剣術と合わさることによって矢を叩き斬る程度は造作もないことだ。

>「ここはジェノアのホワイトクロス騎士団が包囲したぁー!第三分団長フィッチャーが告げるぅ!
大人しく武器を捨てて降伏するならよーし!抵抗する場合は…おぉっ!」

「――下がれフィッチャー!あの大男は囮だ!」

後ろを見れば聖歌が止み、神官たちが背後からやってきた山賊に襲われている。
聖騎士と従士が慌てて後ろに回ろうとするが、狭く暗い森の中では急な方向転換は混乱を招く。

(練度の低さが仇になったか!本国の重装聖騎士部隊を一分隊でも連れてこられれば……!)

木の陰から剣を構えて突っ込んでくる山賊をいなし、祝福剣によって切り裂く。
剣と鎧に付いた返り血は加護によって浄化され、光となる。

敵を次々と切り捨てていく内、セレスティーヌは光を纏っているようにも見えた。

>「公爵領のセレスティーヌお嬢様もいるそうだな。大人しく武器を捨てろや。命だけは勘弁してやる」

そんな光景を見てか、大男がこちらに要求してきた。
『お嬢様』なんて呼ばれたのは十五歳の舞踏会が最後だったなと思いつつ、ニヤリと笑って
セレスティーヌは言い返した。

「私をお嬢様と呼ぶ人間はな、等しく私を誤解している。
 本当に理解している人間はこう言うんだ……『聖騎士』とな!!」

足を踏み込み、坂を一気に駆け上がる。迫りくる矢を払い、叩き落とし、顔を掠めるのも気にせず大男へと突進する。

「アレク!第二分隊の指揮は貴様に任せる。私はこいつを裁いてやるとしよう」

アレクと呼ばれた聖騎士が頷き、慌てる従士と聖騎士たちを一喝した。
そして負傷した神官たちを囲むように円陣を組み、第三分隊の援護を待つ。

「大男!お前がこいつらを指揮しているな?生まれはどこだ、ガントリアか?デーニアか?」

光輝く祝福剣を大男に突きつけ、周りを囲み始める山賊たちを見回す。
装備は傭兵や兵士崩れといった風情だが、この大男だけ明らかに装備の質がいい。

「……我が名はセレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール。
 お前の名は?見た目から察するにどこかの貴族崩れとお見受けするが?」

口調こそ荒いが、ウォーハンマーに全身を覆う板金鎧はかなりの金がかかる。
そういった装備を用意できるのは本人が貴族か、もしくは後ろに貴族がいるか。
どちらにせよ、ただの野盗狩りにはならなさそうだとセレスティーヌは考えていた。
0017アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/04/21(金) 19:02:24.84ID:DUnkYtUo
名前:アレクサンドラ=トリバネアゲハ(通称アレク)
年齢:30(外見10代後半)
性別:―(外見は中性的な少女)
身長:161
体重:45
スリーサイズ:華奢だがしなやか
種族:デイドリーム
職業:聖騎士
性格:破天荒 能天気 不思議系、飄々としている
能力:卓越した神聖魔法とそれによる加護を土台とした細剣術
武器:ミスリル銀のレイピア
防具:加護付きのコート、加護付きのサークレット
所持品:十字架のペンダント
容姿の特徴・風貌:
白い肌に金髪、全体的に軽装、宗教家というより光系魔法剣士のような印象。
ぱっと見お世辞にも強そうには見えないがどこか不思議で底知れない雰囲気も纏う。

簡単なキャラ解説:
ホワイトクロス騎士団第2分隊副隊長。(性格的にふさわしいか等完全無視で種族上の理由だけで抜擢)
幼いころに教会に引き取られ聖騎士としての道を歩んできたが、驚くほど聖騎士っぽくない。
それでも種族特性のお蔭でそれなりに優秀な教会聖騎士だったが、やはり規律を重んじる教会では問題児過ぎて
出向と言う名目でホワイトクロス騎士団に左遷された。

デイドリーム
人間の両親から極稀に突然変異によって生まれる一代限りの種。
両側の耳の後ろのあたりに白い羽のようなものが付いており、一見髪飾りのように見える。
生殖能力は無く、不老で寿命は不詳。
神聖魔法に高い適性を持ち、厳しい修行をせずとも自然と神聖魔法を習得していく。
ヴィクサス神聖国においては、神の祝福を受けて生まれた存在と見なされ、
多くの場合幼少期に神殿や教会にひきとられて神官や聖騎士の道を歩む。
本気を出すと背に魔力で出来た天使のような光の翼が顕現する。
0018アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/04/21(金) 19:05:52.61ID:DUnkYtUo
>「私をお嬢様と呼ぶ人間はな、等しく私を誤解している。
 本当に理解している人間はこう言うんだ……『聖騎士』とな!!」

大男に躊躇なく突進していくセレスティーヌに、応援ともからかいともつかない声援を送る不届き者が一人。

「いよっ! お嬢聖騎士様、かっこいい!」

彼の名はアレクサンドラ=トリバネアゲハ。通称アレク。
その姿は一見子どものようであり、屈強な男達が多い隊の中ではいささか浮いているが、一応第二分隊副隊長である。
アレクのふざけた軽口を気にもとめず、セレスティーヌは毅然と指示を出す。

>「アレク!第二分隊の指揮は貴様に任せる。私はこいつを裁いてやるとしよう」

「ほい了解! ずんばらり三枚おろしだぁ!
みんな落ち着いてー!お・は・し! 押さない走らない死なない――非常時の座右の銘!
ワタシがみんなを治療するからその間囲んでくれるかな?」

裁くと捌く、似ているようで大違いである。
そんなボケをかましながらも慌てふためく味方達に声をかけ、負傷した神官達に手をかざし治癒の神聖魔術をかけはじめる。

「《キュア・ウーンズ》」

淡い光が負傷者を包み、傷が塞がっていく。
セレスティーヌが大男を一瞬でのして終わると踏んでいたアレクだったが、そこまで事態は簡単ではないようだ。
装備の高級さはもとより、セレスティーヌと対峙して一瞬で事が終わらない時点で少なくともただの荒くれではない。
そこにフィッチャー率いる第三小隊がかけつける。

「おっ、いいところに来た海賊王!
第三分隊の面々もワタシがぱぱっと指揮して後ろから来る雑魚食い止めとくからセレス隊長に加勢したげて!
《ホーリィ・ウェポン》!」

近くに来たフィッチャーのとにかくでかい大剣を純白の光が包み込む。神聖魔法による強化の加護だ。
いかに相手が大男といえど二人がかりならすぐに終わるだろう。
一つだけ気がかりなことがあるとすれば……"あの大男は囮だ"――セレスティーヌはそう言った。

「まさかこっちに真打がいる……なんてことはないよね?」

味方に神聖魔術による強化をしつつ指揮し後方から攻めてくる雑魚を蹴散らしながら呟くのであった。

【呼ばれてる人がいたからなんとなく乗ってみた。
短期の支援になるかもしれませんがオナシャス、じゃなくてプレシャス!
種族設定はファンタジー世界の香り付け程度だと思って頂ければ】
0019フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/22(土) 17:14:31.55ID:yG25vrLP
>「私をお嬢様と呼ぶ人間はな、等しく私を誤解している。
 本当に理解している人間はこう言うんだ……『聖騎士』とな!!」

セレスティーヌが負けじと啖呵を切る。そこに第二分隊員であり、
尤も信頼しているというアレクが合いの手を入れる。

>「いよっ! お嬢聖騎士様、かっこいい!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

そんな第二分隊に、セレスティーヌに遅れないように、フィッチャーが続いた。
フィッチャーは鋼鉄のグレートソードを半ば引きずるようにして駆け、時折飛んでくる矢やクォレルを受けながら、
廃墟を木材で覆っただけの簡素な砦に踏み込んだ。

「ギャァー!」「ひぃぃっ!」

その鉄塊は敵の剣や斧を分断し、そのまま皮鎧ごと叩き斬る。
三人があっという間に六つの肉塊へと変わる。
剣にこびりついた敵の顎から上の頭蓋骨を梁へと叩きつけると、
それが拉げて潰れ、同時に上の階層が揺れた。敵に動揺が走る。

しかし動揺していたのは味方も同じだった。
後方を突いた敵の伏兵は第三分隊の弓兵を二人不意打ちで斬り倒すと、
第二分隊に所属する女性隊員で、補助魔法を詠唱中のユニスにも斬りかかった。
聖歌隊にも所属する、「ホワイトクロスのアイドル」である。

「きゃあっ!」

ユニスが袈裟斬りにされ、その場に倒れると、神官兵たちは慌てて後方支援どころではなくなり、
剣を抜くか棍棒を構えるなどして、そちらへと注視する。

しかしフィッチャーはそれどころではない。ユニスの悲鳴を聞くと、一瞬だけ舌打ちをし、
そのまま鎧の大男に向かった。改めて見ると自分がどれだけ小さいかが分かる。恐らく身長だけでもセレスティーヌと同等かそれ以上だ。
重装兵役(タンク)というのが自分では役不足だとそれだけで分かるぐらいだ。

>「アレク!第二分隊の指揮は貴様に任せる。私はこいつを裁いてやるとしよう」

さすがは「指揮能力ではジェノア諸将にも引けを取らない」と言われているだけのことはある。
セレスティーヌが指揮を執ると、すぐに副官のアレクが代わりに下で喝を入れだした。

しかし、優れているのは指揮能力とカリスマ性までであり、若干無鉄砲なところがあるのが珠に傷なのだ。

>「大男!お前がこいつらを指揮しているな?生まれはどこだ、ガントリアか?デーニアか?」
>「……我が名はセレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール。
 お前の名は?見た目から察するにどこかの貴族崩れとお見受けするが?」

その声に返答とばかりにウォーハンマーが振り回される。一撃目は寸でのところで外れた。
0020フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/22(土) 17:15:05.15ID:yG25vrLP
「俺はバルカス・ブライトだァ! 親父が元老院議員のハミルカルって言や分かるかァ? お嬢さんよォ。
ちなみにこの鎧は俺の家となーんも関係ねぇよォ… 盗品ってやつさァ」

ハミルカルは帝国と通じたという疑いで捕縛命令まで出ていたが、未だに捕まってはいない。
外見からして「カタギではない」と言われていたが、良い噂と悪い噂の両方を持つ地元の富豪だ。
一方で息子のバルカスはというと、評判は頗る悪い。少年時代から身体が大きく、裏の仕事に憧れており、
周囲に触れ回っていたほとだ。
セレスティーヌの「祝福剣ルクレール」が煌き、機先を制するように素早い連撃が入る。

「まだまだァ! お前ら、こいつらを取り囲め。女の方も殺しちまっても構わねェ!」

カンカンと、バルカスのず太いウォーハンマーと分厚いガントレットによりそれは弾かれ、
反撃が見舞われるとセレスティーヌはそれを往なし、再び鋭い一撃を放つ。

(くそっ、俺もいるってのにこれじゃ手が出せねぇ…!)

一方、下では既に第三分隊の傭兵上がり二名と第二分隊の従士一名が致命傷を負って犠牲になったものの、
次第に調子を取り戻していった。

>「ほい了解! ずんばらり三枚おろしだぁ!
みんな落ち着いてー!お・は・し! 押さない走らない死なない――非常時の座右の銘!
ワタシがみんなを治療するからその間囲んでくれるかな?」

そう、第二分隊員、アレクの存在が大きかった。
アレクは一般的に「デイドリーム」と呼ばれ、人間の突然変異で教会からは「聖天使」とも言われていた。
この世界では歴史の折々で「奇跡」が度々起こっている。その多くの場面に、彼らデイドリームの存在があったという。
通常ならば玉石混合のホワイトクロスのような集団には居ない筈だが、やはりシュタイン司教の意向なのだろう。
彼の存在もまた、ホワイトクロス騎士団の士気の高さの源なのだ。

>「《キュア・ウーンズ》」
>「おっ、いいところに来た海賊王!
第三分隊の面々もワタシがぱぱっと指揮して後ろから来る雑魚食い止めとくからセレス隊長に加勢したげて!
《ホーリィ・ウェポン》!」

見る見るうちに負傷した兵たちは立ち上がり、持ち直すと
後ろから迫る山賊たちを蹴散らしていった。
0021フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/22(土) 17:15:32.23ID:yG25vrLP
――


二階部分での戦いはフィッチャーとセレスティーヌと大男でほぼ二対一に見えていたが、
気がつくと剣を持った敵二名が回りこみ、砦の要所からは弓が引かれている。その中にはオスカーもいる。
表情は相変わらずだ。余程フィッチャーに恨みがあるのか、砦側に肩入れしているのか。

当のフィッチャーはというと、獲物が大きい分、下手に振り回せばセレスティーヌを巻き添えにしかねない。
敵の矢を防ぐので精一杯だった。既に矢の一本が鎧の隙間に刺さり、そこから痛みが広がっていく。

「へへへ、バルカス様! 俺らも援護しますぜ…!」

敵の下っ端が下卑ていながらも戦慄した震え声で、セレスティーヌの脇腹から斬りかかった。
そちらの防御をしている一瞬の隙を突いて、それは起こった。

バルカスが不意にハンマーを振り回し、セレスティーヌを狙った。
(チッ、こいつ、味方ごと…!)

セレスティーヌは驚いたことだろう。一人分の臓腑と血液が突然降りかかったのだ。
それらはビチビチと音を立て、フィッチャーの足元にも落ちてきた。

オオオオオオオオオオオ――

慄く周囲に飲まれそうになったが、アレクの「加護」を受けてフィッチャーは辛うじて勇気を振り絞って
光を纏ったグレートソードを振り回し、バルカスの脇腹へと一撃を見舞った。

「ギャァァァ!!」
「ぐぉっ!」

それはバルカスにとっては脇にかすり傷を負わせるに留まったが、
結果としてはもう一人の雑魚を絶命させて再びこちら側が優位に立った。

「武器を置けやこら! そしたら命までは取らねえぞてめえ!
俺を誰だと思ってやがる……海賊王でホワイトクロス騎士団隊長、フィッチャー様よ!」

叫びながら回り込み、剣を持ち上げると二撃目の構えを取る。
そこでバルカスが、待ったの合図を出しながら凄い勢いで後ずさった。フィッチャーの攻撃は空振りに終わり、
怪訝そうな顔をする。動きがおかしいのだ。それは別の合図だったのだ。

「動くなよ、お前らァ、人質を殺されたくなかったら、大人しく武器を置け」

待ちかねていたかのように、奥から男二人が剣を突きつけながら、ロープで繋いだ人質を引っ張り出してきた。
オスカーがそちらに向かって弓を向ける。
(あれは…アンドリュー!)
0022フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/04/22(土) 17:16:56.15ID:yG25vrLP
奥にいた男たちの一人もまた、彼の海賊時代の友人だった。
フィッチャー、ハワード、オスカー、アンドリュー。仲良し四人組。
特にこの四人は親友といってもいい間柄だった。四人の名前が出てくる歌まで作ったほどだ。

人質は五人。女性と子供ばかりだった。
そういえばジェノアでは近頃女子供の行方不明事件が相次いでいたのを思い出した。無論、被害者はまだまだこの限りではない。

その時だった。一瞬だけ奥の方に黒いフードを被った人物が見え、バルカスたちに合図を送り魔法のようなものをかけると、その場を
立ち去っていくのが見えた。その時、瞬時に見知った顔が脳裏を過ぎった。雰囲気だけでだ。

刃物が人質に突きつけられる。フィッチャーにはフードの人物のことなどを考えている余裕はなさそうだ。
再びグレートソードを構え、セレスティーヌの表情を伺う。


――


一方、下でも異変があった。

>「まさかこっちに真打がいる……なんてことはないよね?」

意外にそうかもしれない。
徐々に後退する敵に意識が殺がれていく中、第二分隊の後ろを思わぬ敵が襲う。
「ぐぁぁ!!」

騎士の一人が首を一撃でやられ瞬く間にそれは命を奪っていった。
隙の無い鍛えられた戦士が一撃で、その理由はひとつだ。
攻撃してきたのが味方だからだった。

ラムスが最も重装備と思われる第二分隊の騎士を殺害した後、数人を切りつけながら
後ろにいた「味方」と合流した。そしてその剣は負傷したユニスへと突きつけられていた。
立ち上がるのがやっとな彼女にとってその切っ先は脅威のようで、涙がこぼれる。
他の生き残りもこぞってまだ生存している隊員を人質に取った。

「騙されたなお前ら。俺は「こっち」の人間だ。お前らは包囲されてんだよ、ホワイトクロス騎士団だあ? そんなのクソッタレよ。
盗賊は所詮、盗賊ってモンだぜ。分かったらお前ら、こっちに付けや」

ラムスと目が合った第三分断の一部は、ゆっくりとアレクたちから離れていった。
ラムスはフィッチャーの次に人望があったことも勿論ある。どちらかというと金と快楽を求めて騎士団に入った者たちだ。
思えば最初の妙にそわそわした動き、敵の察知の早さもラムスが通じていたと考えれば納得がいく。

と、ホワイトクロス騎士団は最初の戦から苦難に追い詰められることとなった。


【二階でセレスティーヌ、フィッチャーが人質を取るバルカスらと対峙、
階下ではセレスたち隊員が砦を背にしてラムスと他数名の盗賊が隊員の負傷者を人質に
降伏・寝返りを要求】
>>18【参加アリシャース! 隊員キタコレ! 世界観がだいぶファンタジーになって
良い味付けになりました! 他にもアイデアや思いついた設定があったら、、
遠慮なくキャラ参加してみてください!】
0023セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/04/27(木) 20:15:31.24ID:UkjZTDmV
>「俺はバルカス・ブライトだァ! 親父が元老院議員のハミルカルって言や分かるかァ? お嬢さんよォ。
ちなみにこの鎧は俺の家となーんも関係ねぇよォ… 盗品ってやつさァ」

「元老院のハミルカルか、どうやら頭の良さまでは親から受け継がなかったようだな?」

ウォーハンマーを振り回すバルカスは力任せで単純だが、当たれば骨が砕けて肉が潰れるだろう。
セレスティーヌはギリギリまで引きつけて、足を躍らせてステップで避けていく。
それなりに荒事をやってきたようだが、隙は大きい。セレスティーヌは懐に飛び込み、
効き手を狙ってルクレールによる連撃を叩きこむ。

>「まだまだァ! お前ら、こいつらを取り囲め。女の方も殺しちまっても構わねェ!」

「……チッ。無駄に硬いせいで手間取るな」

逃げ道である階段を塞ぐように、山賊たちが集まりだす。
弓の狙いも分隊からこちらに移ったのか、時折鋭い音と共に矢が放たれる。

>「おっ、いいところに来た海賊王!
第三分隊の面々もワタシがぱぱっと指揮して後ろから来る雑魚食い止めとくからセレス隊長に加勢したげて!
《ホーリィ・ウェポン》!」

「アレク!援護を絶やすなよ、まだ未熟な者も多い!」

聖ヴィクサスが遣わした神聖にして不滅なる存在、デイドリーム。
セレスティーヌはアレクに出会うまでそう信じていたが、
彼ないし彼女の飄々とした性格がその想像を打ち砕くのに時間はかからなかった。
最初に教会でアレクに出会ったとき、その見た目に思わずセレスティーヌが跪いて手の甲にキスをしたのは
セレスティーヌが抱える秘密の一つだ。

だが共に任務をこなすにつれ、やはり聖騎士になるだけの実力はある、とセレスティーヌは認め、
熱くなりがちな自分を諫めてもらうために第二分隊副隊長とした。

>「へへへ、バルカス様! 俺らも援護しますぜ…!」

数で囲めば勝てると思ったのか、山賊の一人がついに斬りかかってくる。
単純な曲刀の振り下ろしを難なくルクレールでいなし、蹴り飛ばした瞬間だった。
バルカスが味方ごとセレスティーヌを叩き潰すべく、その得物を思い切り振り回す。
セレスティーヌは危うく頭を潰されるところだったが、ハンマーの軌道とすれ違うように体を動かしていく。

不幸な山賊の血と肉がセレスティーヌに降りかかるが、加護によって光となって消えていった。
だがその感触までは消えず、苦虫を噛み潰したような表情でセレスティーヌはバルカスへと向き直る。

「所詮賊か!仲間すら平気で潰すとはな!
 もはや容赦はしない、このルクレールの力を以て貴様らを――
0024セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
垢版 |
2017/04/27(木) 20:16:17.90ID:UkjZTDmV
最後まで言い終わらないうちに、奥から二人の山賊が現れる。
剣を持ち、もう片手にはロープを持っていた。そしてそのロープの行き着く先は……

>「動くなよ、お前らァ、人質を殺されたくなかったら、大人しく武器を置け」

「――屑どもがッ!」

セレスティーヌの一喝にも怯むことなく、剣を人質の喉笛に突きつける山賊たち。
女性と子供ばかりということもあり、セレスティーヌの怒りは頂点に達していた。

こちらの様子を伺うフィッチャーに、セレスティーヌは分隊特有のハンドサインでこう示す。

『加護を使う』

直後にセレスティーヌはルクレールを大きく振りかぶり、剣に宿った祝福を放つ。

「貫け、ルクレール!!」

山賊たちが剣を人質たちに突き刺すより早く、ルクレールから放たれた光が山賊を貫く。
ルクレールに宿った教会の祝福でできたそれは、セレスティーヌが認識している敵を全て打ち倒すものだ。
山賊を貫いた光は弾け、セレスティーヌとフィッチャーを取り囲む山賊たちを的確に貫いていく。

分厚く質のいい板金鎧を着ていたバルカスは焼け焦げた跡が鎧に付く程度だったが、
せいぜい鎖帷子程度しか着ていない山賊たちを倒すには十分な威力だ。

「……フィッチャー!私は第二分隊の援護に向かう、ここは頼んだぞ!」

人質たちの縄も解いてやりたいが、今は負傷者も多いうえ、様子がおかしい第三分隊と揉めている第二分隊の援護に行かなくてはならない。
ルクレールを鞘に戻し、二階の見張り場から分隊のいる広場へと飛び降りた。

>「騙されたなお前ら。俺は「こっち」の人間だ。お前らは包囲されてんだよ、ホワイトクロス騎士団だあ? そんなのクソッタレよ。
盗賊は所詮、盗賊ってモンだぜ。分かったらお前ら、こっちに付けや」

「傭兵とはいえそれなりの報酬を与えてやった上、宿舎まで貸してやったが……
 山賊どもといい、貴様らといい、人は堕ちるところまで堕ちるものだな。
 アレク、こいつらのような生き物をなんと言うか知っているか?」

第三分隊の裏切り、それはセレスティーヌが予感していたが、そこまで愚かではないと考えていたことの一つだ。
高くはないがそれなりの報酬、戦争とは違い安定した待遇、ここまで与えれば恩も感じるだろうと思っていた。
もはやセレスティーヌは呆れるしかなかった。
0025アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/04/28(金) 23:15:28.70ID:VnJlJI9A
ラムスの突然の凶行――
最も重装備の第二分隊員を殺害した後、それだけでは飽き足らずユニスに刃を突きつける。

>「騙されたなお前ら。俺は「こっち」の人間だ。お前らは包囲されてんだよ、ホワイトクロス騎士団だあ? そんなのクソッタレよ。
盗賊は所詮、盗賊ってモンだぜ。分かったらお前ら、こっちに付けや」

ラムスと"目が合った"第三分隊の一部が、どこかふらふらとした足取りで敵方に歩みを進める。
対するアレクは動じず――両手を降参、とでもいう風にバンザイしてみせる。

「さっすが副隊長様、賢明なこった」

「おいっ!? 正気か!?」

満足げににやつくラムス。あまりの事態にざわめくのは残った第三分隊員。
それに対して第二分隊員達は、その右手に掲げられたハンドサインを見逃さなかった。
それは第二分隊員だけが知っているサイン。そして寝返ったのは全員が第三分隊だ。

「《フラッシュ》!」

アレクが聖句を叫ぶと一瞬眩い光が明滅し、暫し敵の目がくらむ。
その瞬間、ハンドサインを見て事前に目を瞑るか伏せるなりしていた第二分隊の者達が突撃し、人質を救出する。
あまりに単純な戦法だが、割と第二分隊の形勢逆転の常套手段だったりする。
通常の人間が魔法を使う場合には詠唱が必要になる。
しかし余程の高位の術師、そしてその魔法に高い適性を持つ種族の場合、詠唱無しでの発動が可能なのだ。
山賊たちはそこまで念頭に置いていなかったのだろう。

>「傭兵とはいえそれなりの報酬を与えてやった上、宿舎まで貸してやったが……
 山賊どもといい、貴様らといい、人は堕ちるところまで堕ちるものだな。
 アレク、こいつらのような生き物をなんと言うか知っているか?」

援護に駆けつけたセレスティーヌが半ば呆れた様子で問う。

「自らすすんで過酷な境遇に身を投じる求道者――そうでなければガチのドM」

ホワイトクロス騎士団に入った者には、その出自に拘わらずそれなりの報酬と宿舎の貸与等の安定した待遇が与えられている。
どう控えめに見ても山賊の待遇よりはマシなはずだ。
恩義等の道義的理由を持ち出すまでもなく、単純に損得計算で考えても寝返る理由は無い。
そうなれば、おのずと答えは見えてくる。
わざわざ無意味な苦労を買って出るのは修行僧か求道者かはたまたガチのドMか、もしくは――

「……と言いたいところだけどどっちも違うな。自らすすんでじゃない。操られてるんだ。
ラムス、さっきそいつらに魔法をかけたんだろう?」

先程、例外なくラムスと目が合った瞬間に寝返りは起こっていた。
視線を介した精神操作の魔法――
信仰心が高い第二分隊はその誘惑を退ける事が出来ても、元々賊上がりの第三分隊員はそうではない。

「……ただの山賊にそんな魔法が使えるとも思えない。さては闇に魂を売ったね?」

ここでアレクの言う闇とは悪の魔術師か、はたまた魔族等の人類と敵対する種族か――
何にせよホワイトクロス騎士団と敵対する存在であることは間違いない。
次の瞬間、アレクは一気に間合いを詰めラムスにレイピアを突きつけていた。
はたから見ると瞬間移動したように見えただろう。
《ブリンク》――神の加護を受けたごく短距離の超速移動。
間合いを詰めたり逆に接敵状態から離脱する時に使われる、上級聖騎士の技能だ。

「問おう、貴様らの後ろ盾は何者だ?」

もしアレクのこの予想が当たっていて大人しく答えれば捉えてじっくり話を聞き出す。
予想が当たっていても的外れであったにしても抵抗すれば応戦するのみである。
0026 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/04(木) 13:42:47.32ID:MWog5Gyl
【すみません、今日の書き込み予定でしたが、予想以上に時間が取れないようなので断念し、
次の私の書き込みを6日にします。やはり手抜きで速く書くよりは次で場面を動かすのでしっかりとやりたいと思ったので。
参加者の方、申し訳ないです。それでもお付き合いくだされば幸いです。
また、新規の方、どんどん参加お待ちしています。】
0028フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/06(土) 12:55:29.09ID:xRVdM+ee
>「貫け、ルクレール!!」

「馬鹿なっ!ぐぉぉ…」「ぎゃあああ!!」

セレスティーヌがルクレールから放った祝福は、光の魔力を帯び、それらは
彼女が認識する敵を次々と貫いていった。

バルカスはもとより、その周囲を取り囲んでいたオスカーやアンドリューといった下っ端たちがあっという間に
体を焦がして倒れる。

>「……フィッチャー!私は第二分隊の援護に向かう、ここは頼んだぞ!」

倒れたかつての仲間たちを見て尻ごみしたが、フィッチャーはそれ以上に
後ろでラムスが高らかに裏切りを宣言していることに狼狽した。

「ま、待て…!」

先ほどの光で傷を負い、よろめくバルカスを見ると、黙ってフィッチャーはグレートソードを構えた。
そしてそれを勢い良く振り上げると、バルカスの首が兜ごと宙を舞い、木の幹に叩きつけられて血の線を引きながらその醜く苦痛に歪んだ顔面を曝け出した。

「反対側に逃げるんだぞ。早く!」

縄でつながれた女や子供にはジェノアで見知った顔もいた。確か酒場でウェイトレスをしていた女だ。
しかしフィッチャーは礼を言おうとする彼女に先に行くよう促し、
そのままオスカーとアンドリューの方に向かう。

アンドリューは白眼を剥いており、既に息絶えていた。オスカーを掴んで起こす。

「おい、大丈夫か!?」

彼からは思い掛けない一言があった。

「何度裏切られても懲りねぇ奴だなお前はよぉ…」

「なんだって?」

欠けた歯から血を流しながらも、オスカーは蔑むように笑った。

「フィッチャー、お前のオママゴトに付き合ってる奴ぁいねえってこった。
俺らは盗賊、カネのある方につくのが当然だろうが。敗残兵狩りに隊商狙い、
人身売買…お前、まさかこいつらが人質の全員だと思ってねぇよな?」

「てめぇ、まさか…」
0029フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/06(土) 12:56:26.25ID:xRVdM+ee
フハハハと笑い出そうとする「元」友人の首を、フィッチャーは掻き切った。
もはやこの男は「救いを求めてはいない」教義などはクソクラエだったが、
どうやらこの連中が本能のままに悪事を働いていたことは確かなようだ。

(ってことは、この砦の存在自体が…そして、あの男は…!)

セレスティーヌが向かったラムスたちの方に駆け出しながら、
先ほど反対側の森の方に向かった男のことを思い出していた。そういえば向こう側には…


――


フィッチャーがセレスティーヌやアレクに合流した頃には、既に第二分隊の多くはアレク側に寄って武器を構えており、
状況は再びこちらが有利になったようだ。

ラムス、さっきそいつらに魔法をかけたんだろう?」

先程、例外なくラムスと目が合った瞬間に寝返りは起こっていた。
視線を介した精神操作の魔法――
信仰心が高い第二分隊はその誘惑を退ける事が出来ても、元々賊上がりの第三分隊員はそうではない。
ラムスはというと、焦点の定まらない目で血の付着した剣を構えていた。

>「……ただの山賊にそんな魔法が使えるとも思えない。
さては闇に魂を売ったね?」
「問おう、貴様らの後ろ盾は何者だ?」

アレクのその言葉は、自分の置かれた状況に彼の姿も相まってさぞ威圧感のあるものに聞こえただろう。
ラムスは尻込みしながら口をおそるおそる開いた。

「あ…あぁ…」

ラムスの脇には第三分隊員が二人。三名はセレスティーヌ、アレクと対峙し、
第二分隊員たちに弓を引かれ、完全に孤立していた。
砦から降りてきたフィッチャーははっとなった。

そういえば。
言われてみれば敵の首領と思われるバルカスは「武器を捨てて降伏」とだけ言っており、
特にこれといった要求は出さなかった。
オスカーに至っては「敗残兵狙い」とも言っている。さらった女子供はもっと大勢いることも仄めかしていた。

バックにいるのはアースラントの軍部か、あるいは…


「待て、命だけは助けてくれ! 話すから、その弓を下ろしてくれ、たの…ぐぁぁぁっ!」
「プレシャス…一つ、欲に溺れることなかれ… 
一度裏切った者に口を開く権限などないのですよ…」

団長・シュタインの声と同時にクォレルによって蜂の巣になったラムスが絶命し、倒れ伏す。
残る二人が何かを喚こうとしているところにシュタインの魔法が襲い、彼らが眩暈を起こしふらつくと同時に
精強な第一分隊員たちが素早い手際によって猿轡を噛まさせ、木の幹へと縄で縛り付けた。

「し、司教様…! どうか、そいつらは…」
0030フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/06(土) 12:57:11.39ID:xRVdM+ee
バン、という聖書を叩く音とともにシュタインが一喝する。

「黙らっしゃい! フィッチャー、あなたの素行の悪さが隊員のモラルを低下させたのです…」

彼はどや顔でフィッチャーを指差し、次には恨みがましい視線で睨むようにセレスティーヌを指差し、言葉を放った。
今までに無い表情に、隊員の誰もが戸惑う。

「セレスティーヌ、貴女もです! デイドリームを擁しながら、何という手際の悪さ、何という体たらく!
お父上が泣いておられる。賊どもと交わっているうちに、こやつらの悪意をも感じぬ様になったのですか?!」

賊の「ぞ」の音に恨みの篭ったような強いアクセントを付け、ラムスの死体を踏みつけながら、今度はフィッチャーの方へと迫る。
これも魔術の効果か、フィッチャーには自分よりも小柄なシュタインが、物凄く大きな男に見えた。

「フィッチャー、その剣でこの者たちの首を刎ねなさい」

シュタインが剣を握るフィッチャーの手に力を込める。

「俺は、どうして俺が…! 司教、俺にはできません…」

「やらなければ、貴方が神の名の下に天誅を受けるのみ、そうでしょう…?」
耳元で囁くシュタインに、彼は戦慄を覚え、涙を流しながらも剣を構えた。

「うおぉぉぉぉ…!!」

――


アースラント王国軍は徐々に迫る北方軍に連敗を重ねていた。
属国・自治州が次々と寝返り、もはや勢いは止められないと思われた。
将軍の中には戦闘を拒否するものも現れ、大臣たちの会議の中でついに、
「北方もしくは帝国の属国となる」という案が出るほどになった。

国王フィリッポはある日、腹心でヴィクサスに篤いと言われる若き将軍、カリスト・ケンディウスに問いかけた。
「帝国か、北方か、どちらに属すればよいか」
それを聞いたカリストの答はこうだった。
「帝国にも北方にも属する必要はありません。どちらかに一度勝てば、道は拓けるでしょう」

カリストに軍を預けたアースラントは、北方の属国となったかつてのワン族自治州の同胞と内通して反乱を起こさせ、
北方が鎮圧軍を差し出したところを、用意していた軍勢で反乱軍と協力して北方軍を打ち破った。
この直後、焦った北方は古くからワン族と敵対するモン族の軍勢に本国の軍を加えた大軍である連合軍を派遣するも、
要衝に集結したアースラント王国軍の総勢によって破られ、初めて勢いがアースラント側に回った。
これによってアースラントと北方との間には講和条約が結ばれ、アースラントは帝国との戦いに集中できるようになる。
カリストは、護衛としてデイドリーム族を多数要していた事から、人々に「白羽将軍」と呼ばれ畏れられ、同時に崇められた。

そして今後、アースラント王国は、凄まじい戦火に巻き込まれていくこととなる…
0031フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/06(土) 12:58:37.79ID:xRVdM+ee
――


「ぐっ…ぐっ…」

一度枯れてしまった涙はただの痛みのために出ることはなかった。
フィッチャーは「洗礼」として、「第二分隊員」から暴力を受けていた。
鎧を脱がされ、肉体に一撃、一撃と棒や鞭による容赦のない攻撃が浴びせられている。
両腕を縛られ、ただ「洗礼」が終わるのを待つだけだ。
その間、フィッチャーは昨日あった出来事を思い返していた。
隊長として第三分隊の二人を斬ってしまったことは大きなショックだったが、
それ以上に引っかかるもの、腑に落ちないものがあったのだ。

(第一分隊は、何のために後から現れやがったのか… それに、思い出したぞ。
あの後ろにいた男は、酒場にいた浮浪者のおっさんにそっくり、いや、あいつだ…)

あれから第二・第三分隊は(とはいっても第三分隊の生き残りはフィッチャーのみだが)懲罰を受け、
セレスティーヌは第二分隊長を罷免され、第三分隊長となった。アレクも第三分隊所属となり、
フィッチャーは聖書の同じ箇所を何度も読まされることで、ようやく第三分隊「員」として残ることを赦された。
そして、第二分隊にはなんと、王国から派遣された部隊がそのまま駐留する形となった。
隊長はマーゲンというバルカスを老けさせただけのような目つきの悪い大男だ。厄介払いにすら見える。

第三分隊員(元第二分隊)は、一列に並んで暴行を受けていた。
勿論、その中にはユニスなどの女性隊員もいる。
多くの悲鳴と叫び、あざ笑う声が共鳴し、まるで地獄の光景のようだ。
セレスティーヌだけは特別扱いとして、剣を取られただけでその光景を見せつけられていた。

マーゲンとシュタインがその様子を見ていたが、やがてシュタインが、セレスティーヌに囁きかける。

「隊長なら、することがあるでしょう。私の部屋に来て、許しを乞いなさい。
第一分隊一同、お待ちしてますよ」

シュタインがコツコツと音を立てて自室へと立ち去って行く中、悲鳴が響いていた。
0032フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/06(土) 13:04:19.65ID:xRVdM+ee
――

一方アレクは、別室に閉じ込められていた。懺悔室ともいえる小さな部屋だ。
ここには魔力を封じ込める仕掛けが施されている。
眩しい光が差している。朝になったのだ。

「ごきげんよう、第三分隊、アレクサンドラ・トリバネアゲハどの」

女性のようなよく響く声。身長は2メートル近くあり、顔は細い切れ長の眼で端麗、
両耳からは黄色・赤・橙の鮮やかな線が伸びている。
そしてローブからは同色の翼が見え隠れしている。紛れも無くデイドリームだ。
ヴィクサスの紋章を付けてはいるが、信心深そうにも見えず、どこか他人行儀にすら見える。

「わたくし、本日からこちらに入団させていただきました、ホワイトクロス騎士団、
第一分隊副官、アトラスムスと申します。シュタイン様の直属の部下、とでも言っておきましょうか。
ところで、あなたは世界情勢には詳しいですか? 世界は乱れているようです。
今後は神聖連合の皆さんで団結する必要がありましょう。この意味がわかりますか?」

アトラスムスの表情からは真意は読めない。差し出す手のひらの柔らかさから友好の意が取れる。
その細い眼に、アレクは見据えられていた。


【お待たせしました! 一気に進めちゃいました。
若干選択肢の幅がありますが、どのように拾ってもらっても結構です。】
0033セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/05/12(金) 21:00:57.48ID:TdSZcgsJ
>「隊長なら、することがあるでしょう。私の部屋に来て、許しを乞いなさい。
第一分隊一同、お待ちしてますよ」

「……分かりました、司教様」

山賊討伐は第三分隊が殲滅、第二分隊にも負傷者、死傷者が多数という極めて異例の結果となった。
はっきり言ってこの結果だけをセレスティーヌが見たなら、指揮官をクビにしろと怒鳴っているところだろう。
だが、現実は違う。山賊とは思えない高度な魔法、明らかな待ち伏せ、裏切り。
それに来るはずではなかった第一分隊の到着。セレスティーヌはもはやホワイトクロス騎士団を信じていなかった。

「セレスティーヌ、とか言ったか?噂ほど戦が上手くはないようだな。
 使えるのはその見た目だげっ!」

本国から派遣されてきた第二分隊員の一人が挑発してきたが、
セレスティーヌは迷うことなく彼の顔面に拳を叩きつけた。
そして、一つの宣言をする。

「――もううんざりだ!シュタイン司教があのような人間だったとはな!町娘たちの噂通りか、あの男は!
 第三分隊、いや第二分隊、立て!私たちはここを抜けるぞ!
 このような腐った屑共にコケにされるのは我慢ならん!」

そう叫び、女性隊員を殴っていた第二分隊員を蹴り飛ばす。
もちろん周りにいた第二分隊員が止めようとするが、先程まで殴られていた第三分隊員たちは
セレスティーヌに檄を飛ばされたおかげか、立ち上がって第二分隊員たちへと向かっていく。

マーゲンがなんとか場を収めようと叫ぼうとした瞬間、セレスティーヌが後ろから大剣の柄で殴りつけた。
時には鈍器の代わりとなりうる大剣の柄、その一撃は力を加減したとはいえ大の男をすら昏倒させる威力だ。

「フィッチャー、貴様も立て!武器庫と馬、それと金庫だ!」

隠し持っていたナイフでフィッチャーの両腕を縛り付けていた縄を切り、
セレスティーヌは単身シュタイン司教の部屋へと向かう。
0034セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/05/12(金) 21:01:24.59ID:TdSZcgsJ
「おやおやセレスティーヌ、乱暴にドアを開けてはいけませんよ。
 それに、反省の意志が見られないようですが?」

部屋にはシュタイン本人と護衛が数名。
セレスティーヌはドアを蹴り開け、ずかずかと踏み入った。

「私はここを抜ける、あとフィッチャーと部下もだ。
 武器と金と馬は餞別としてもらっていくぞ」

「言っている意味がよく分かりませんね……正気ですか?」

「貴様らよりはよほど正気だよ、色狂いのシュタイン!
 あの山賊どもと手を結んで奴隷を飼っていたな、それも女子供ばかりを狙って!」

「……あのような下賤な輩と手を組む必要などありません、やはり傭兵たちに
 妙な知恵を付けられてしまったようですね」

シュタイン司教がサッと手を上げると、武装した第一分隊員が廊下から入ってくる。
この状況を予期していたと言わんばかりだ。

「彼女にはまだ信仰心というものが足りないようです、教育してあげなさい」

「教育されるのはどちらの方かな…?やれ、アレス!」

セレスティーヌがニヤリと笑って叫んだ瞬間にそれは起こった。
部屋にある備え付けの窓が突然割れ、アレスと呼ばれた第二分隊員が突入してくる。

「お嬢!槍です!」

そして抱え持った槍をセレスティーヌに投げ渡し、アレス自らは短めの大剣を鞘から抜き放つ。

「さらばだシュタイン!放て閃光!」

槍からまばゆい閃光が辺りに広がり、部屋全体を包む。
数秒の出来事だったが、二人が逃げるには十分な時間だ。

「……皆大丈夫だな!?アレクのことなら心配するな、あいつならば後からでもついてくるだろう!」

そしてセレスティーヌの宣言から数時間、彼女たちは複数の馬車で街道を走っている。
行先はジャイプール帝国と神聖連合の勢力圏がちょうど衝突する地域、ゾロアニア。
複数の種族、部族が豊かな土壌の上で小競り合いを続ける紛争地帯だ。

「まずは冒険者とやらの真似事でもしてみるか!この人数なら傭兵もできるかもしれないがな!」

【こっちも一気に進めましたが、展開的に変えたいところがあれば行ってください!】
0035アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/05/14(日) 15:52:43.41ID:1ouv+2zQ
>「待て、命だけは助けてくれ! 話すから、その弓を下ろしてくれ、たの・・・ぐぁぁぁっ!」
>「プレシャス・・一つ、欲に溺れることなかれ・・・
一度裏切った者に口を開く権限などないのですよ・・・」

ラムスが口を開こうとしたときだった。今この場にはいないはずのシュタインの指示が飛ぶ。
突如現れていた第一分隊の手により、ラムスは蜂の巣になって倒れ伏した。

「司教! 何故!?」

なぜここにいるのか、むやみに殺すことなかれという教義もあるにも拘わらずなぜ殺したのか。
百歩譲って、裏切り者には一切の慈悲は与えない方針だとしても、何故このタイミングで。
最終的に殺すにしても、今後の被害の拡大を防ぐには黒幕の情報はなんとしてでも聞き出しておきたかったはずだ。
シュタインはアレクの問いには答えず、フィッチャーとセレスティーヌを叱責し、
フィッチャーにかつての仲間の首をはねるように命じる。
神に仕える敬虔な司教であるはずの彼の姿はさながら、悪魔そのものだーー
その様子をみて、アレクは自ら一つの答えを導き出した。
シュタインこそが、黒幕だと。先刻ラムスは口封じのために殺されたのだ。

>「俺は、どうして俺が・・・! 司教、俺にはできません・・・」
>「やらなければ、貴方が神の名の下に天誅を受けるのみ、そうでしょう・・・?」

「やめなよ! そんな奴の言うことなんて聞くことない!」

剣を構えるフィッチャーを見てアレクは止めるために駆け寄ろうとするが
屈強な第一分隊員複数に取り押さえられた。

「君は海賊王だろう! テンチューもアル中もあるもんか!」

>「うおぉぉぉぉ・・・!!」

最終的に、フィッチャーはシュタインの醜悪な脅迫に屈したーー
フィッチャーが元々敬虔な信徒だったならともかく、海賊上がりの彼には天誅の脅しは通じないはずだ。
シュタインが魔術的な力を行使した可能性も否定できなかった。

「シュタイン司教、いやシュタイン! 必ずや正体暴いてやるからなあぁああああ!」

第一分隊員達に取り押さえられたまま引きずられていくアレク。
こうして真っ黒な疑惑にまみれた山賊討伐戦線は、第一分隊が力技で押し切る形でひとまず撤収と相成った。
0036アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/05/14(日) 15:59:23.33ID:1ouv+2zQ
++++++++++++++++++++

あれから第二分隊はフィッチャー以外いなくなった第三分隊にほぼ丸ごと移籍、
空白となった第二分隊には何故か王国から派遣された部隊が居座った。
そして第三分隊員達は懲罰という名の理不尽な暴力を受けることとなった。
そんな中、アレクはデイドリームなので特別扱いなのだろう、別室に放り込まれていた。
分厚い扉越しにも、外からは仲間達の悲鳴が微かに響いてくる。

「狂ってやがる・・・・・・シュタインめ、どこまで手を回してる?」

アレクは腕を枕に寝っ転がっていた。
見た感じなんとものんきそうだが、脱出するための努力は全て徒労に終わった故の諦めの境地である。
壁の全面を押したり一通り色々試してみたものの、都合よく抜け道があるわけはない。
首尾よく脱出できたとしてその後どうしよう。派遣元の教会に帰ってチクるか?
いや、そこまで根回し済みの可能性の方が高い。そんな中、状況は動いた。

>「ごきげんよう、第三分隊、アレクサンドラ、トリバネアゲハどの」

入ってきた者の種族はアレクと同じデイドリーム、
ただし身軽な少年か少女といった印象のアレクに対して、こちらはセレスティーヌと同じかそれ以上に長身だ。
その人物は、シュタインの直属の部下アトラスムスと名乗った。

>「今後は神聖連合の皆さんで団結する必要がありましょう。この意味がわかりますか?」

「もちろんですーー」

アレクは恭順を装って差し出された手を取りーーそれによって生まれた一瞬の隙をついてスライディングで部屋の外にでた。
飛び抜けた長身の者というのはとかく足下が死角になりやすい。

「偉大なるシュタイン様の元に力尽くで団結させる! そういうことでしょ?」

そのまま第三分隊の詰め所に駆け込む。

「みんなー! 一緒に逃げ・・・・・・あれ?」

そこはすでにもぬけの殻だった。辺りには争った形跡がある。アレクが促すまでもなくすでに見限って脱走したのだ。
そこまでの音頭が取れるだけの行動力と求心力があるのはアレクが知る限り一人しかいない。

「お嬢おおおおおおおおおお! 置いていくってひどくない!?」

「逃げたぞぉおおお!」「捕まえろ!」

そうこうしている間に第一分隊員が集まってきた。囲まれたアレクは身構える様子はない。
隊員達をギリギリまで引きつけ、飛びかかってきた瞬間。腕を掲げ一言だけ聖句を唱える。

「《フォース・エクスプロージョン》!」

大爆発が巻き起こり隊員達が四方八方に吹っ飛ぶ。術者を中心に大爆発を起こす単純明快な上級神聖魔術だ。
味方を巻き込んだり建造物を破壊してしまうため普段の戦闘では使えないが、
このような単独離脱時の置き土産にはまさにぴったりの術と言えよう。

「おんぎょおおおおおおおお!?」「がはげほごほ!」「奴は!? 奴はどこだ!」

「困ったときはとりあえず爆発だ!って昔ばっちゃが言ってた。それじゃ!」

混乱さめやらぬ中、背に光の翼を顕現させたアレクは、爆発によって天井に開いた穴から飛び去った。
第一分隊の一人は天井に開いた穴を暫し呆然と見つめながら呟いたのであった。

「それ、どんなばっちゃだーー」
0037アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/05/14(日) 16:04:36.00ID:1ouv+2zQ
++++++++++++++++++++

さて、爆発したら場面転換というお約束に違わず場面は移り変わり、
馬車で街道をひた走るセレスティーヌご一行。

>「まずは冒険者とやらの真似事でもしてみるか!この人数なら傭兵もできるかもしれないがな!」

そう言うセレスティーヌに、いつの間にか着地していたアレクがさりげなく続く。

「登録するパーティー名は聖十字《ホワイトクロス》氣志團といったところか。夜露死苦ゥ!
ところで海賊王はどこに? ・・・・・・何!? そんなところにいたのか!」

アレクが立っているのはフィッチャーの肩の上だった。
別に変な手違いか何かで映像が乱れているわけではなくナチュラルに肩の上に着地したらしい。
0038フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/14(日) 23:56:19.36ID:gkbaeOKc
(何でだ? 俺の人生、教会の騎士になることで変わったんじゃなかったのか…!?
俺の海賊時代の連中もみんな殺されちまった。だからといってここから出る訳にもいかねぇ。
クソ、シュタインのヤロウ、俺は…!)

鞭を打つ音とともに痛みが身にしみる。肩の矢傷は相変わらずズキズキと痛む。
と、同時に罵声が浴びさせられる。

「アースラントから遥々来たと思えば、賊どもの始末か。ケッ、ジェノアって街は田舎だって聞いてたが、
兵士どもと賊が一緒だとはな。治安も知れるぜ」

「くそっ」

フィッチャーが地面に血の混じった唾を吐きかけると、剥こうでは
セレスティーヌが罵倒を受けているところだった。


>「セレスティーヌ、とか言ったか?噂ほど戦が上手くはないようだな。
 使えるのはその見た目だげっ!」

彼女の拳が顔面に入り、「第二」分隊員の男はたちまち壁に突き飛ばされよろめく。
男が立ち上がり、周囲に檄を飛ばそうとしたときだった。

>「――もううんざりだ!シュタイン司教があのような人間だったとはな!町娘たちの噂通りか、あの男は!
 第三分隊、いや第二分隊、立て!私たちはここを抜けるぞ!
 このような腐った屑共にコケにされるのは我慢ならん!」

オォォォォォ…
周囲がざわめく。一方的だった気の流れが確かに今、変わった。

「おう、そうだ、そうだ、セレス隊長の言う通りだ。ありゃ教会のやることじゃねえぜ。
ってことで俺も抜けさせてもらう!」

手際の良い従士はいつの間にか抜けた縄をくぐり、鞭を打つ兵士の鞘から剣を抜いてその首に突きつけた。
ヒィ、という声とともに鞭を持ったまま腰を抜かす第二分隊兵士。
そこからは流れは速かった。

「貴様ら、待て、まさか我々に逆らおうってんじゃあるまいな?」
マーゲンがガントレットをガチリと鳴らしながら、蜂起した「第三」分隊へと向かおうとしたところを、
セレスティーヌの一撃が襲う。
0039フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/14(日) 23:57:59.68ID:gkbaeOKc
「ぐぇっ!」

マーゲンはフラフラとよろめいた。

>「フィッチャー、貴様も立て!武器庫と馬、それと金庫だ!」

「あ、あぁ…」

気がつくと彼を打っていた隊員は突き飛ばされており、手足が自由になると同時に、
剣が置かれていた。鞘のない、グレート・ソードだ。

フィッチャーがそれを一振りすると、剣を抜こうとした拷問者を、一瞬で両断した。
薄着だったことが災いしたのだろう。真っ二つになった肉体からは臓腑が溢れ、天井にまで血液が飛び散った。

「悪いセレス、俺も続く。元第三隊長たるものが、悪かった!」

その後はまだ縄で繋がれているユニスたちを次々解放していった。皆酷い傷だ。
フィッチャーがハルバードを手に取ったマーゲンと対峙している頃には、
周囲では第三分隊が第二分隊を圧倒しており、マーゲンの裏側にある武器庫を接取すると、
勢いは完全にこちらへと傾いた。

「ギャぁぁ!」「おい、リック!」

マーゲンはハルバードをふりかざし、こちらを威圧してくる。
下手に肉薄した一人がその餌食となり潰れるようにしてその場に倒れる。恐らく助かるまい。
セレスティーヌの姿は既にここにはない。おそらくは奥にいるシュタインの下へと向かったのだ。

>「お嬢!槍です!」
>「さらばだシュタイン!放て閃光!」

どうやら決着はついたようだ。
元・第二分隊でも特に頭脳派と言われていた騎士、アレスの声が響くと、
セレスティーヌの槍から光が放たれ、瞬く間にその場を包んだ。

いつの間に、とフィッチャーは思ったが、元々曲芸師のように器用な彼のことだ。
どさくさに紛れてセレスティーヌの槍とともに隠れていたのだろう。

騎士団の詰所を何とか脱出し、今度は自警団を入れた神官兵たちが追ってくる。
0040フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/15(月) 00:00:26.56ID:SfO8/fOL
市街からは強行突破により一番手薄な関門から街の外へ。

逃走途中で教会詰所側で大きな爆発もあった。
火薬のものではない。白い光の爆発だ。

(まさかあれは、アレクが…?)

お陰で追っ手の数は知れたものだった。
こちらの位置すら完全に掴めておらず、敵はこちら側の弓やフィッチャーの剣によって次々命を落としていった。
気がつくと追っ手の数も少なくなり、彼らは勝手にジェノアの街方面へと退散していった。

>「……皆大丈夫だな!?アレクのことなら心配するな、あいつならば後からでもついてくるだろう!」

「あぁ、さっきのは全員殺っちまった。追ってを一人ぐらい生かしておけば良かったか…
あんな思い出もヘッタクレもねぇ、クソッタレな街、こっちから別れてやるよ。
それより速く服を着てえもんだな。何人か殺られちまった…ところで、これからどうすんだ?」

夕暮れになるジェノアの街の明かりが遠くに見える。
かつて「騎士団」だったとは思えない半裸の格好で、フィッチャーがタオルで体を拭きながら
ゆったりと馬車の中から着替えになりそうなものを探す。

>「まずは冒険者とやらの真似事でもしてみるか!この人数なら傭兵もできるかもしれないがな!」

それを聞いたフィッチャーは少しばかりか、心躍るものがあったらしい。
少し欠けた白い歯を見せながら、短い金髪を掻き、高らかに言った。

「冒険者か! そいつぁいい。 俺は昔、海賊のリーダーやってたんだ。ジェノアの湖でな。
セレス、お前さんも身分を隠してえ気分だろ? 助けてもらった恩もあるし、俺が団長をやる。どうよ?」

>「登録するパーティー名は聖十字《ホワイトクロス》氣志團といったところか。夜露死苦ゥ!
ところで海賊王はどこに? ・・・・・・何!? そんなところにいたのか!」

「うぉぉ! お前、無事だったのか!? 
そうだな。連中はどうせホワイトクロスという名前は使わねえだろう。
だったら俺たちが白十字を下げなくても名乗ってもバチは当たらねえだろうよ。
じゃあ回復、回復、すぐ回復だ。あぁ、とりあえず俺から頼むよ。団長だからな。
いや、ユニスあたりからでいいや、その次が俺で…」

と、ボロボロになったホワイトクロス騎士団は、満身創痍ながらもジェノアの脱出に成功し、
南に位置するヴィクサス神聖国、ゾロアニア侯領へと足を踏み入れた。
ここは神聖連合ではほぼ最南端に位置し、ジャイプールとの国境も近い。
日が暮れるにつれて、砂煙が立ち上ってきた。
0041 ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/05/15(月) 01:05:54.70ID:SfO8/fOL
――

「始末しろ」

マーゲンの命令で矢やナイフが一斉に飛ばされ、逃げ残ったかつての第二分団の兵士二名が射殺された。
彼らは眼に涙を浮かべていたが、セレスティーヌらを逃がすことができてどこか満足げにすら見えた。

「では俺はこれより幹部会議に行く。貴様らは手当てを済ませてさっさと詰所を立ち去り宿舎に戻れ。
死体の始末は明日でもかまわん」

「自分側の」兵の始末すらも放置し、マーゲンが向かった先は、この教会の「特別室」と言われる
礼拝堂だった。
そこではシュタイン、第一分隊副長のステッセル、そして何と、元老院議員であるハミルカル・ブライトが
女たちと戯れていた。
彼女たちは色とりどりの透けたベールのみを着用し、ほぼ全裸で食料、飲み物の準備や、身の回りの世話をしていた。
その中の一人は以前フィッチャーの行きつけの店で知り合ったという先の戦いの人質なのだが、
今それをフィッチャーたちが知る由はない。

「マーゲンどのも、まぁ、ご一緒に」

シュタインが品の無い表情で手招きする。彼はすぐさま分厚い鎧を脱ぎ捨てる。
女が飲み物を持ってくると、疲れたとばかりに椅子へとふんぞり返った。

「ジェノアとは辺鄙な街かと思っていたが、なかなか悪くないな」

上機嫌なマーゲンとは裏腹に、ハミルカルは機嫌が悪そうだ。

「我が息子、バルカスが殺されたそうだ。先ほど暴れたシュヴィヤールの女と賊どもに。
シュタイン「大司教どの」、この失態の埋め合わせは、してくれるのだろうな? そこの女、来い。

人質「役」をしていた女がハミルカルに飲みものを持って近づくと、その場で首を絞めて、喉笛を潰した。
パリィィン、という音とともに飲み物が床へ落ち、女は白眼を剥いて絶命する。

「街中の女を寄越せ、シュタイン。ワシの言う意味が判っておるな?」

「はい、ハミルカル「枢機卿どの」、既に我が「使徒」どもに準備をさせております。
この度はマーゲンどのの援護もあります故、速くカタが付くかと」

「して、どういった方法でそのようなことを?」

マーゲンの驚いたような表情に、シュタインは顔色一つ変えず。

「簡単なことですよ。夜が来るまでに「使徒」どもに元老院に仕掛けをさせておきました。
あとは元老院を外界から完全に孤立させ、皆殺しにするまで。
自警団に紛れ込ませたアースラント兵も使います。そして自警団本部も同じように
包囲して彼らには犠牲になっていただきましょう。
あとは、門を閉鎖すれば、ジェノアは我らの楽園です。

いかがですか、マーゲン「騎士団長どの」?」

与えられている役目を聞いているとはいえ、まさかこの地方の一司祭のシュタインがこれほどまでに
手際が良いとは、想像だにしていなかった。
マーゲンはこの男の眼に何か異常なものを見ていた。いや、実際に異常なのだ。
自分の強靭な意志でさえも、操られるような。
自分が邪悪であると意識していてさえ、それをも凌駕するような何かを、彼は持っているのだ…!
0042 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/15(月) 01:11:30.13ID:SfO8/fOL
「さぁ、来なさい。我が「使徒」、聖<サン>ヨナクニ」

虹色の輝きとともに現れたのは、デイトリームのアトラスムス、教会での洗礼名「聖ヨナクニ」だった。
先ほどアレクと話をしていた時とはうってかわって、自分の周囲に幻影をいくつか出している。
まるでそこに五人ものデイドリームがいるように。

卑猥な空間に突如現れたこの人物に、ハミルカルとマーゲンは驚愕していた。

「教皇猊下が遣わされた、正真正銘の聖人ですよ。聖書には存在しませんがね
猊下が仰るには「聖書は時代が創る物」だとのこと」

勿論、そのようなことがヴィクサス教会で大々的に行われてきた歴史はない。
そもそも教皇は近年になって長年の間、人々の間に姿を現していないのだ。
二人の男は驚愕の表情を隠せなかった。

「わたくし、シュタイン大司教様の下で奉職させていただきます、アトラスムスと申します。
どうやらお取り込み中だったようで失礼いたしました。
アレクサンドラは逃がしました。予想以上に「手懐け」られていますね。
しかし、あの者は既に私によってリンクされています。
つまるところ、どこに彼が居ようがわたしには判るということ。
それより、今夜の作戦はわたくしが僭越ながら協力させていただきます。お見知りおきを」

そして、礼拝堂の中で光と闇の演舞が行われ、シュタインらはその舞にしばらく見とれていた。
すると気がついたときには、アトラスムスの他にも四人のデイドリームが現れていた。
イリュージョンだ。今夜、彼らが作戦を決行する。

――

かくして、一夜にしてジェノアの元老院議員が皆殺しとなり、自警団員もアースラントを中心とする特殊兵団によって駆逐され、
一瞬で歴史あるジェノアは、シュタインらが支配する掠奪と犯罪の街となった。


燃え盛る元老院の建物を見ながら、ハミルカルとシュタインが話していた。


「ワシは奴らの位置をおおよそ把握している。なに、ワシが帝国と内通したのは事実だ。
そして、帝国のあるルートから我が息子バルガスを討ったフィッチャーどもを根絶やしにするよう、
暗殺部隊を送り込む。殺しのプロよ。それと…いずれは我が娘にもこのことは話さねばならぬな」

ハミルカルの話を聞きながら、シュタインは今まで見せたこともないような表情で、
青筋を立てながら言った。

「私も同感ですな…シュヴィヤール家。忘れもしない。かつて教皇猊下の前で奉職していた際に、私が知り合ったアンネという女性。
それは可憐な女性でした。彼女と私は付き合っていたのですよ。そのアンネを妻帯者でありながら、私から奪った憎き男、シャルル・シュヴィヤール公。
あぁ、喉から腸を引きずり出してそれで眼を潰してやりたいほど憎い。だから「こうなった」今、少しずつ潰してやるのですよ。
まずは手始めにゾロアニアでの煽動部隊を送り込んでおきました。いずれ奴は震え上がることでしょう。
ハミルカル枢機卿どのには、とりあえず生かしたまま小娘、セレスティーヌを捕らえていただきたい。
娘をまずは、生かさず殺さず、徹底的に壊して見せ付けてやるのです。そして、シュヴィヤール領も近いうちに…
アンネを奪って殺したシャルル、貴様だけは…!」

炎の断続的な黒い煙を上げる爆発音とともに、ギリリリと不気味なシュタインの歯軋りの音が続いていた。


【反逆ルートと来ましたか! 面白いb
と、こちらもダークサイドの描写を多少進めてみました。
「ホワイトクロス」の名はこのまま主人公サイドで使うノリでいきますw】
0043セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/05/16(火) 20:17:19.53ID:3C9Nw0iC
>「登録するパーティー名は聖十字《ホワイトクロス》氣志團といったところか。夜露死苦ゥ!
ところで海賊王はどこに? ・・・・・・何!? そんなところにいたのか!」

>「うぉぉ! お前、無事だったのか!? 

「だから言っただろう、アレクは一人でもなんとかなるとな!
 それとフィッチャー!残念ながら私は身分を隠すつもりなどない、団長は私のままだ!」

えへん、と胸を張って自信たっぷりに話すセレスティーヌ。
団員だちは顔を見合わせたが、やがていつものことと言わんばかりに肩をすくめた。

「だが、これからは少々面倒だ。とりあえずホワイトクロス騎士団の名は我々が受け継ぐが、
 金銭や武器防具、宿は私たち自身が稼ぐ必要がある」

「そして今日の宿だが……見ろ。このゾロアニアにおける唯一の宿場町だ。
 少々治安が悪いが、あそこを今後の拠点とする」

街道を進むうち、夕日に染まりつつあった景色も姿を変えている。
緑が豊かで河川が多いジェノア共和国の風景から、
ところどころが荒野となり、かつての都市の残骸や砦の跡が残る大きな草原へと。

そして街道が続く先には、夜でも絶えることのない光を放つ街が見える。
あらゆる勢力の小競り合いが絶えないこの周辺において、唯一城壁を持たない街。
宿場町レクトゥスが、そこにあった。

レクトゥスは元々行商人たちが一時の宿としていた大きな木だったが、
やがて引退したある大商人がそこで宿屋を始めた。
そして宿を目当てに来る者、その者を目当てに宿を開く者両方が集まり、
やがて大きな宿場町となった。
そのため町長は存在しないが、宿屋の主人で構成された宿屋ギルドが
実質的な統治を行っているとされている。

「私の父が若い頃、ここを拠点に武者修行をしていたという話をしてくれてな…
 年長者の話は覚えておくものだ」

そう言いつつ、中規模な傭兵団向けの宿に馬車を向かわせる。
セレスティーヌは高価なミスリルの全身鎧を脱ぎ、質素な布の服と銀の胸当てを身につけ、
腰にルクレールを鞘に納めていた。

「ここは傭兵や冒険者向けの宿が多い。我々のような大人数でも泊まれるだろう」

そうして街の大きな通りを進んでいくと、裏道や横道、通りの端にところどころ娼婦らしき女性が立っているのが分かる。
どうやら宿泊客目当てのようだが、セレスティーヌは何か見てはいけないものを見た気持ちになった。

「……フィッチャー、それと男性団員。行くなとは言わん。
 私とて深窓の令嬢というわけではない。理解はできないが否定はしない。
 だが私の目の前であまりそういう話をしないでくれよ?」

戦う男には付き物なのかな……とセレスティーヌは一人ぼやきながら、セレスティーヌたちは宿へと向かう。
0044アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/05/22(月) 00:06:38.81ID:Dsp5k03b
>「うぉぉ! お前、無事だったのか!? 
そうだな。連中はどうせホワイトクロスという名前は使わねえだろう。
だったら俺たちが白十字を下げなくても名乗ってもバチは当たらねえだろうよ。
じゃあ回復、回復、すぐ回復だ。あぁ、とりあえず俺から頼むよ。団長だからな。
いや、ユニスあたりからでいいや、その次が俺で…」
>「だから言っただろう、アレクは一人でもなんとかなるとな!
 それとフィッチャー!残念ながら私は身分を隠すつもりなどない、団長は私のままだ!」

「この通り、超無事だよー! よっと」

無事をアピールしつつとりあえずフィッチャーの肩から降りる。
むしろどちらかというと置き土産に爆発かまされた向こうさんの方が無事ではない。

>「だが、これからは少々面倒だ。とりあえずホワイトクロス騎士団の名は我々が受け継ぐが、
 金銭や武器防具、宿は私たち自身が稼ぐ必要がある」

見回してみると、一行は満身創痍の裸一貫でとても騎士団とは思えない有様。
装備を奪われた状態からとるものもとりあえず飛び出してきたことが伺える。

「はいみんないったん座って。怪我が酷い人から順番に回復するからね」

我先にと押しかける比較的元気な負傷者を制し、その元気もない重症者から治療にあたる。
聖騎士団といえども寄せ集め、初級の止血程度の術ならともかく本格的な回復術が使える者は希少なのだ。
そうこうしているうちに、一行は宿場町レクトゥスへと到着した。

>「そして今日の宿だが……見ろ。このゾロアニアにおける唯一の宿場町だ。
>「ここは傭兵や冒険者向けの宿が多い。我々のような大人数でも泊まれるだろう」

通りのところどころに接客業(意味深)らしき女性が立っているのを見て、セレスティーヌが言う。

>「……フィッチャー、それと男性団員。行くなとは言わん。
 私とて深窓の令嬢というわけではない。理解はできないが否定はしない。
 だが私の目の前であまりそういう話をしないでくれよ?」

ユニスと顔を見合わせて「ほんとにねー」という感じの視線を交わしつつ苦笑する。
男女どちらでもないアレクだが、これにおいては女性陣側の立場のようだ。
とにかく、一行はひとまず今晩の宿「大樹の洞(うろ)亭」に入っていく。
もともとは行商人達が一時の宿としていた大樹から始まったというこの街の起源に由来する名前らしい。
0045アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/05/22(月) 00:07:52.43ID:Dsp5k03b
「いらっしゃいませ、あれまあこれはこれは大人数で!」

冒険者としてはかなりの大所帯に、宿屋の主人はホクホク顔。
装備品もほとんど失ってしまった一行は、一旦部屋に案内された後、
消耗が激しい者はそのまま休み、比較的元気な者は各自買い出し等に向かう。
宿屋と一言に言っても例に漏れず、一階は宿泊客一般客入り混じった食事場兼冒険者向けの仕事あっせん所といった様相を呈している。
増してこの街は宿屋ギルドが実質的な統治を行っているため、猶更広い情報網を持っているだろう。
幸い装備品を殆ど失わなかったアレクは、早速一階に降りて情報収集に取り掛かる。

「最近魔物が凶暴化してるんですって」「また街道を通行中の商人が襲われたとか」
「北の砦跡にゴブリン共が住みついたらしいぞ」「あらやだ」

等と客達が世間話を繰り広げている。

「マスター、大人数向けの依頼って何かない?」

「大人数向けねぇ……。お前さん達元傭兵団か何かだろう?
そんな分かりやすい強モンスターの討伐依頼なんてありそうでなかなかあるもんじゃないからなあ。
最近妙に行方不明者探しの依頼が多いんだけど生憎斥候とか頭脳派パーティー向けだよなぁ。
ああそうだ、荒事というよりはほとんど交通整理に近くて大した報酬じゃないけど
近いうちにここゾロアニアの候がこの街に視察に来るらしいんだけどその時の街の警備なら一応募集してるよ。
なかなか人数が集まらないんだよなあ」

「へー、視察って具体的には何しに?」

「さぁ、詳しいことまでは知らないがね」

「ありがと、もし他に何も無かったら考えてみるよ」

こうしてなんとも地味な求人依頼の情報を入手したアレクは
再び皆が集まって今後の方針を話し合う際等に今聞いた情報をかくかくしかじかと話すことだろう。
とはいうもののフィッチャーやセレスティーヌが他のメンバーが
華々しい冒険者っぽい依頼を仕入れて来ていれば、そちらを受けるに違いない。

【適当にネタをばらまいたけど今のところ何も考えてなくて深い意味は無いので流して貰っても全然大丈夫です!】
0046フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/24(水) 18:24:53.90ID:KY/d/863
>「だから言っただろう、アレクは一人でもなんとかなるとな!
 それとフィッチャー!残念ながら私は身分を隠すつもりなどない、団長は私のままだ!」

「ハハッ、聞くまでも無かったな。あんたがあっさり長の身分を譲るなんてことがあってみろ、
それこそ北方も帝国も滅ぶ。じゃあ俺は副でも構わねえ」

>「はいみんないったん座って。怪我が酷い人から順番に回復するからね」


夕陽の落ちる中、ヴィクサス神聖国南端に位置するゾロアニア侯領の宿場町、レクトゥスの明かりが見えた。
フィッチャーは先ほどの傷をアレクによる治療で癒されながら、今後起こるだろう事について色々と無い頭を使って考えていた。

(この街には防御機能はない。確かゾロアニア侯の城は南の外れ、帝国との最前線にあったはずだ。
つまりそこを破られれば、この街は危ない)

そして後方を振り返りつつぼやく。

「俺たちは前にはこれ以上進めねぇ、オマケにシュタインのあのツラ、あれだけで赦してもらえるとは思えねぇ…
きっと何らかの嫌がらせをしてくるか、殺しに来るはずだ」

>「私の父が若い頃、ここを拠点に武者修行をしていたという話をしてくれてな…
 年長者の話は覚えておくものだ。ここは傭兵や冒険者向けの宿が多い。我々のような大人数でも泊まれるだろう」

「大人数、ねぇ…」

ふと、セレスティーヌの横顔を見る。鎧兜を外し、金髪を靡かせる姿は、「美人だ」と一瞬だけでも思わせた。
ましてや細身の鎧を身に付けているのがより一層細身に見え、女性らしさも強調されている。

ところで、現在の「ホワイトクロス騎士団」の構成員は8名。再編成で10名+1名になった後、
シュタインたちジェノア司教区との戦いで1人が命を落とし、2人が合流していない。恐らく無事ではすんでおるまい。

こうなればようやく名前と顔も一致するものだ。
まず女性団員は団長のセレスティーヌ、気の弱い元、ジェノア司教区の神官戦士ユニス、これでも補助魔法と棍棒の使い手だ。
そして同じくジェノア司教区からの司祭マーテル。こちらは神聖魔法による後方支援が主だが気が強く、ボウガンの扱いに長けている。以上三人。
間にどちらでもないアレクを挟み、男は自称副団長のフィッチャー、シュヴィヤール家からの世話役でセレスティーヌからの信頼厚いアレス、
王国から派遣されたという頭の回りそうな剣士ヴィクトル、そしてマーテルの後輩になる最年少の司祭デルタの四人だ。

>「私の父が若い頃、ここを拠点に武者修行をしていたという話をしてくれてな…
 年長者の話は覚えておくものだ」

8人がレクトゥスへと向かう中、セレスティーヌが身の上話をする。

そういえば、だ。ここゾロアニアは街道を伝って北東のシュヴィヤール公領と隣接する。
つまり有事の場合はセレスティーヌの父も参陣する可能性があるのだろう。
0047フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/24(水) 18:25:40.75ID:KY/d/863
>「……フィッチャー、それと男性団員。行くなとは言わん。
 私とて深窓の令嬢というわけではない。理解はできないが否定はしない。
 だが私の目の前であまりそういう話をしないでくれよ?」

「あぁ…分かった。…そうか、懐かしいもんだな」

大樹の洞亭と書かれた大きめの宿の近くは広場がありちょっとした繁華街との境となっており、
付近にはそこらの街娘より丈の短いスカート、身体の線を見せやるい服装、フードの女などが並んでいた。
生真面目なアレスは流石だが、フィッチャーやヴィクトル、デルタはチラチラとそちらを見ながら宿へと入った。
そういえば、女を買うということは、「海賊」を辞めてからは一度も無かったのだ。
尤も、今はバックボーンすらなく、貴重な「軍資金」を使う余裕はますます無いが。

宿の主人は快く一団を迎えてくれた。

セレスティーヌは早々と部屋割を決め、ユニスは我先にと部屋に入り、アレスは廊下を検分しながら有事の場合のルートを確保し、納得したような顔で
さっさと部屋に入ってしまった。ヴィクトルもアレスの話を聞くと安心したのか部屋に入った。
一方で付き合いの良い(?)アレクは馴れ馴れしくも、一階に併設された酒場へと足を運び、マスターに話を聞いているようだ。

(さて、どうしたもんか…)
フィッチャーは情報収集を請け負ってある程度の資金を団から拝借している。飲み物を注文すると、アレクらの話を横目で聞いていた。

>「ああそうだ、荒事というよりはほとんど交通整理に近くて大した報酬じゃないけど
近いうちにここゾロアニアの候がこの街に視察に来るらしいんだけどその時の街の警備なら一応募集してるよ。
なかなか人数が集まらないんだよなあ」
「へー、視察って具体的には何しに?」
「さぁ、詳しいことまでは知らないがね」


――


「閣下、東の動きはおおよそ順調です。シュタイン様が手はず通りにやっています」

アトラスムスが現れたのは、アースラント王国「白羽将軍」カリストの元である。

「ご苦労、アトラ。元老院の会議中に奇襲、というのはお前の案だったな。見事だ。
ジェノアが『我が方』に落ちた、という話は聞いている。ところで、「おおよそ」とは
どういう事だ? 我々に落ち度があったのか?」

アトラスムスは若干声を落とし、しかし狼狽することなく主人に告げる。

「ジェノアの都市機能は完全に乗っ取りました。あの街は表面上は「何事も無かった」ことになるはず。
しかし… 、セレスティーヌ、アレクサンドラとその、「あの男」を取り逃しました…」

冷静沈着なカリストの目が見開き、若干語気が荒くなる。

「で、どう対処することになった?「教会」との関係を悪化させることにはなるまいな?」

「セレスティーヌらについては、シュタイン様とハミルカル様が既に手を回してあります。
彼らは殺すつもりはないようですが、こちらに引き渡せば口封じをする機会もあるはず、しかし、「あの男」は…」

ニヤリと笑い、カリストが手の甲をボキボキと鳴らす。
0048フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/24(水) 18:26:36.45ID:KY/d/863
「その件については問題ない。位置は把握しているのだろう?「パピヨン隊」が何とかしてくれよう。
アレクサンドラについては今後も泳がせておけ」

「は…」

ドンドン、と彼らの会話の間に扉が叩かれ、開け放たれる。カリストがアトラスムスに合図を出す。

「カリスト将軍、今後の出陣予定について会議がある。すぐに西の塔に来るように。
ま、恐らく出陣は形だけになるだろう。貴様のお陰で我らも犠牲を出さずに済んでいる。感謝しているぞ」

堂々と話すこの人物は白狼将軍と呼ばれた古参にして老将、ハウザーだ。
既にその場にはアトラスムスの姿は見えていない。


――


宿から慌しく二人の人物が降りてくる。マーテルとデルタだ。
彼らはヴィクサスの教団でも先輩後輩にあたり、姉弟のような空気もある。

「ねぇ、フィッチャーだっけ? あたしらちょっと外に情報収集に行くんだけど、
一緒に来ない? 外出るの、好きなんでしょ?」
「フィッチャーさんなら色々知ってると思うんで、俺たち頼りにしてるんですよ」

いきなり慣れ慣れしく話しかけられたフィッチャーは面食らったが、それにしても
教会の服装から随分とラフな格好になったものだ。二人とも盗賊を自称しても違和感はないだろう。

「副団長、だ。まぁいい。お前らみたいなのを待ってたんだよ」

正直なところはそうだ。アレスやユニスのような堅苦しく真面目なメンバーばかりだと思っていたので、
こういう外に出る機会、仕事の緊張から解き放たれ酒を飲むチャンスをうかがっていたのは事実だ。
0049フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/24(水) 18:27:53.53ID:KY/d/863
――

「地底の泉亭」と呼ばれたその酒場は、「いかにも」といった感じで、
宿と相反する名称に相応しく荒々しい雰囲気の場所だった。

「で、あたしら仕事が欲しいんだけど、ゾロアニアの侯爵様が自ら出てくるってのは
ホントなの? あんたらの嗅覚なら大体分かるでしょ」

マーテルという女はその名前の淑やかな響きに似合わず、酒好きでそれを元にコミュニケーションを取るタイプのようだ。
どうしてこういうのが教会にいるのかが不思議なものだが、世の中全てが適材適所ではないらしい。
今の話し相手はケン族のカボス、このあたりでは「コボルト」と呼ばれている北方系の亜人の一族だ。
嗅覚に優れ、勇猛で忠義に篤いと一般的に言われている。

「あぁ、そうみてぇだな。理由はシュヴィヤールの軍が一気に南下してドクラ要塞に入るらしいから、
そのハナムケつーか、後詰めみてぇなもんだな。ルドルー隊長の話ではここまでしか分からねぇが」

フィッチャーは思わず食らい付いた。

「シュヴィヤール、思い出した。ありゃセレスの実家じゃねえのか!?
ルドルーってのは今どこにいる? あとだ、良かったら俺らの仲間に入らねぇか?
『ホワイトクロス騎士団』だ。今人数を募集している」

「ちょ、ちょっと待ってください、それは団長には話したんですか?」

デルタを手で制し、フィッチャーは金貨をチラつかせる。マーテルも乗り気だ。
どこで買ったのか、鹿の骨付き燻製を取り出した。そして話が勝手に進んでいった。

「分かった。じゃあ、俺らからは10人ほど出せるってことで話が付いた。
その代わりさっき受けたゾロアニア侯警備の仕事が終わってからな。一緒にやれて嬉しいぜ。
ルドルー隊長は強いんだぜ。今前線に行ってるドーベル将軍の次ぐれぇだな」

「前線というのは、どこだ?」

「勿論、ドグラ要塞よ」


――


ケン族たちとの話を終えても、マーテルとデルタはフィッチャーと一緒になって飲んでいた。
この三人にとってはさっきのが「ノルマ達成」のようなもので、あとは食い放題という訳だ。
すっかりグデグデになったマーテルがデルタをどつき始める。

「お前ら、随分仲良いんだな」

フィッチャーがデルタに話を振ると、デルタが元々赤くなった顔を真っ赤にして手を振る。

「いやいやいや、マーテルとは「腐れ縁」みたいなもんですから。フィッチャーさんこそ、
セレス団長には興味は無いんですか?」

思わぬ反撃を食って、フィッチャーはポカーンと口を開けてから反撃した。

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ。ああいうお嬢様みてえなのとは、気が合わねえんだよそもそも!
ま…兜を取ればそれなりに可愛いってか、黙ってりゃそれなりだとは、思うけどな」

「ったく…ウェ、そろそろ二日酔いになりそうだし、宿に戻るわ。あんたら、
男同士で二人で楽しんでたら? それともそこらの女と楽しんじゃう?」
0050フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/05/24(水) 18:28:20.54ID:KY/d/863
からかうマーテルがフラつきながら立つのを見て、デルタもすくっと立ち上がった。

「お、俺もマーテルが心配なんで、一緒に宿に戻りますね、じゃあ、気をつけて、副団長」
「楽しんで〜」

お、おう、と言いながらそのまま残った食べ物や飲み物を勿体無いとばかりに飲みながら、
周囲の話に耳を傾ける。

分かったことは以上だ。

・帝国軍が国境付近まで来ている。既に斥候が侵入している可能性も。
・ドクラ要塞に神聖連合が集結しつつあり、その中心はシュヴィヤール公爵。
・ケン族の将軍らしき人物、ドーベルも参加している。
・よって近いうちに帝国と一戦を交える可能性もある。
・ゾロアニア侯が出てくるのは、シュヴィヤール公の援護のため。
・レクトゥス含め、ゾロアニア領内では治安が悪化しつつある。

さぁて、俺も帰るかな…
少々高くついた金額を払い、宿へとゆっくりと向かう。

既に日が落ちてから結構な時間が経つが、ジェノアよりもこの街はよるが長いようだ。
恐らく売春婦なのだろう。あちこちで男たちとの会話が繰り広げられており、次々と連れ立っていく。

「ちょっとそこのお兄さん、一晩、金貨5枚でどう?サービスしとくよ」
「いや…ちょっと明日は仕事があるから」

胸元を大きくはだけた女を適当にあしらって宿に向かおうとするフィッチャーに、
今度はスカート丈が異常に短い女が声をかける。

「お兄さん、良い筋肉してるね。あたし気に入っちゃったわ。
特別に4枚のところ、3枚でもいいよ。行こ」

ちょっとドキリ、として立ち止まってしまったが、もう少しでこの繁華街を抜ける。
手であしらい、そのまま奥へと立ち去ろうとする。すると、フード付きローブの女が正面に回りこむようにして立ちはだかった。
フィッチャーより少し背が低く、女としては高い方だろう。

「あの…お兄さん、私、こんなに地味だから、どうしても余っちゃって…
金貨1枚で、いかがですか? 宿も決まってますから」

ドキリ、と心臓が高鳴り、シチュエーションに飲まれ、フィッチャーは承諾した。
こういう不幸な女を助けるというのが個人的にはたまらなかったらしい。
(良いのか…? 俺は、何をしにここに来ているのか…)


女がフードを外すと、南方系のやや色黒な肌が見えた。髪形はおかっぱを少し長くした感じだろうか。
エキゾチックな香りがフワリと漂う。フィッチャーは雰囲気に呑まれて脱いでいった。
女は色黒とはいえ、裸体のスタイルは非常によく、唾を飲ませるには十分だった。
フィッチャーが金貨を1枚渡すと、女へと覆いかぶさる。香りがフィッチャーの神経をより昂ぶらせる。
それと同時だった。
0051フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/05/24(水) 18:28:38.78ID:KY/d/863
「動かないで、動いたら死ぬよ。爆発してこの家ごと」

女の裸体の両脇、ローブの中にはびっしりと袋が並んでいた。
そして、手には小さな炎が灯る。
思わず飛び退こうとするも、フィッチャーは逆に女に覆いかぶされた。

「フィッチャーだね。私はペトラ。バルカス・ブライトの元カノとでも言っておきましょうか。
彼を殺されたから今すぐあんたを殺したいんだけど、それだけじゃダメなの。
私の「お客様」の話ではあんたとセレスティーヌお嬢様ご一同を皆殺しに、って話なんでね。
逃げられたら困るもの。まずは有り金全部出しなさい」

フィッチャーはおそるおそる鞄に手を伸ばし、金貨10枚ほど入った財布をそのまま渡した。

「今日はそれでいい。「仲間」が後で合流するんでね。どうする? 折角だから私を抱いてく? 
勿論、ヘタなマネしたら私ごとドカン、だけど」

クスクスと笑う女が迫ってくる。一度は考えたが、ここは一度冷静になって報告するべきだ、と考えた。
ペトラという女の話では、少なくとも今夜は「仲間」とやらは来なさそうだ。
さっさと女から離れると、素早く着替えて後ずさりしながら奥に立てかけた大剣に手を伸ばした。

「じゃあ、また会いましょう」

女はこちらから視線を離し、服装を肌蹴たまま部屋から動こうとしない。
フィッチャーが部屋を出たその時だった。

カン!

「チッ!」「くっ!」

女が何かを飛ばした。恐らく吹き矢か何かだろう。それも猛毒の。
大剣で弾かれると舌打ちが聞こえたが、女が追って来ないのを確かめると、そのまま死角を通って宿「大樹の洞(うろ)亭」へと戻った。


――


「セレス、いるか?」

セレスティーヌの部屋のドアを叩くと、フィッチャーはその中へと入った。
もう遅く、来客は居ないようだ。マーテルたちからの報告は終わった後だろうか。
恐らく気配はアレクやアレスには気付かれているのだろう、と思いながらも、ベッドの端へと腰かけた。

「報告する。今日の情報収集を終えた」

それから今日、繁華街の酒場であったことを事細かに話した。
そして自分の推理の部分なども。

最後に一言だけ添えて。

「カネは全部使った。報告は以上だ。さて、明日は早いから寝るぞ、団長様。
…すまなかった」

最後に一言だけ謝罪すると、そっと立ち上がり、自分の部屋へと向かった。

【こちらも適当に進めて適当にというか結構動かしちゃいましたが、
自分のペースで進めていただいて決行です。
あと、途中参加や今回出した脇役キャラへの立候補も大大大歓迎です!】
0052セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/05/30(火) 18:57:04.19ID:cqRTLzuC
>「いらっしゃいませ、あれまあこれはこれは大人数で!」

「八人、とりあえず十日分の代金だ。食事と仕事はここでやらせてもらうぞ」

金庫から強奪……もとい今までの報酬として頂いてきた金貨袋から、数枚取り出す。
ジェノアの旗をモチーフにしたジェノア金貨だ。国境に近いとはいえ
ヴィクサス神聖国と関係の深いジェノア共和国の通貨はここでも十分な価値を持つ。

「ええありがとうございます、お部屋はご案内しますのでしばしお待ちを」

一日分をちまちまと支払うような冒険者ばかりの中で、まとめて数日分の代金を支払う
セレスティーヌの姿はかなり目立った。

「騎士にしちゃあ身なりが軽いな。かといって傭兵団というほど数が多いわけではない……」

「いいとこのお嬢様の趣味だろうよ、お付きの者が後ろに控えてるぜ!」

セレスティーヌの斜め後ろに控えるアレスを揶揄したのか、食堂兼酒場の方から野次が飛んでくる。
使い古された剣に槍、汚れた胸当て。いかにも冒険者と言った風情の二人組が酒に酔っているようだ。

「……一仕事終えたばかりの時間だ、あれくらいはいいだろう」

そう自分に言い聞かせるようにセレスティーヌは呟き、団員へと指示を出す。

「部屋は全員決まったな?動ける者はこの地域の情報を集めてくれ。後で私の部屋に報告に来てほしい。
 傷がまだ治っていない者や疲労が激しい者はなるべく早く休むように、では解散!」

そう言って団員たちがそれぞれ動く中、セレスティーヌは部屋へと戻る。
セレスティーヌ自身が情報収集に動いてもいいが、団員たちが集めた情報を
まとめて考えるには、静かな場所が一番だ。
0053セレスティーヌ ◆ULu2mYL5uU
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2017/05/30(火) 18:57:25.34ID:cqRTLzuC
しばらく部屋で待っていると、やってきた団員たちから様々な情報が得られた。
ゾロアニア侯がこの街に視察に訪れ、その時の警備を募集していること。
シュヴィヤール公爵自らが軍を率いて、ドクラ要塞に集まっていること。
小競り合いばかりだったゾロアニア領が、最近さらに過激なものになりつつあるということ。

さらに行商人たちの護衛や、廃墟を占拠した魔物の群れの排除など冒険者らしい依頼の情報も得られた。

「―――分かった。それで全部だな?ありがとうアレス、よい夢を」

アレスが一礼して部屋を出て、隣の部屋へと向かった。
ほとんど脱走のようなものなのに、アレスは咎めることなく幼い頃のように
世話役として身の回りのことを色々とやってくれている。

(……私は一人ではない。だが……)

備え付けのベッドに座り、一人物思いにふけっていると、ノックの音がした。

>「セレス、いるか?」

「フィッチャーか?入れ」

やや暗い表情だが、真剣な目。明らかに何か厄介事が起きたことを示している。
セレスティーヌも相応の表情で話を聞いていた。

>「カネは全部使った。報告は以上だ。さて、明日は早いから寝るぞ、団長様。
…すまなかった」

「……そうか。賭博や女で使うよりはマシな使い方だ。
 よく生きて帰ってきてくれた、フィッチャー。相手の出方が分かっただけでも収穫だ」

落ち込んでいるフィッチャーの背中に声をかけ、ドアが閉まったところでセレスティーヌも
ベッドに入り、そこからすぐに寝息を立て始めた。

そして翌朝。セレスティーヌは団員たちを酒場兼食堂の大きなテーブルに集め、
朝食の黒パンと焼きたてのベーコンを食べ終えた後、今後の方針について話すことにした。

「私は当面の資金稼ぎとして、ゾロアニア侯爵の視察に伴う警備巡回の依頼を受注したいと考えている。
 どうやら視察はかなり長期のものになるようだ。よって報酬もその間払われ続けるし、
 この街での情報収集もやりやすくなる」

「だがこのままの装備ではやらん。まずはこの街に溶け込めるよう、
 冒険者や傭兵らしい装備にする必要がある」

そう言って口を閉じ、しっかりと聞いている団員たちを見回す。
すっかり少なくなってしまったが、それでも精鋭だとセレスティーヌは信じている七人を。

「意見を聞きたい。我々は今後どうするべきだろうか?」

【期限ぎりぎりですみません!とりあえずルートは提示しましたが、
 ほかに何かあればお願いします!】
0054アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/05/30(火) 22:02:30.36ID:vJeVW1oB
各々が情報収集に向かい、セレスティーヌがまとめ役となる。
散った団員達が一人また一人と帰ってきてセレスティーヌに報告を済ませるが、フィッチャーがまだ帰ってこないようだ。

「フィッチャーさん大丈夫かな……変な事件に巻き込まれてないといいけど」

「まあ大丈夫っしょ、海賊王だし」

心配そうに呟く同室のユニスに、アレクは事もなげに答える。
騎士団の一般的な意味でのアイドル的ポジションであるユニスと
方向性は違えど種族特性上アイドル(偶像)的立ち位置でもあるアレクは
なんとなく仲良くなってつるんでいる事が多いのであった。
結局フィッチャーが帰ってきたのは、かなり夜が更けてからだったようだ。

次の朝、酒場兼食堂の大テーブルで皆で朝食をとった後、そのまま今後の方針についての話し合いが始まった。
セレスティーヌが昨日皆が集めてきた情報を一通り話す。
その中にはバルカスの元カノを名乗る刺客が一同を狙っている、なんていう物騒なものもあった。
あれの元カノなんて奇特な趣味の人もいたもんだなあ!と思うアレク。
尤も、便宜上そう名乗っているだけで実際は違う関係性なのかもしれないが。
とはいえもとより主に反逆して脱走してきた身。そんなのにビビっていちいち拠点を移していたらキリがない。
攻めてきたら返り討ちにするまで、ということになった。
そしてセレスティーヌは今後の方針としてこう切り出した。

>「私は当面の資金稼ぎとして、ゾロアニア侯爵の視察に伴う警備巡回の依頼を受注したいと考えている。
 どうやら視察はかなり長期のものになるようだ。よって報酬もその間払われ続けるし、
 この街での情報収集もやりやすくなる」

「うん、悪くない話だと思う」

>「だがこのままの装備ではやらん。まずはこの街に溶け込めるよう、
 冒険者や傭兵らしい装備にする必要がある」

そこまで言って団員達を見回すセレスティーヌ。
そう言われてみれば確かに今のままでは装備が心許ない。
実際には交通整理のようなものなので実際の強さはあまり関係ないのだが、この依頼の場合、問題は見た目だ。
侯爵を迎える任務、見た目があまりにもみすぼらしいと採用を断られかねない。

>「意見を聞きたい。我々は今後どうするべきだろうか?」

「うーん……廃墟の掃除でもやる?」

この街から北にほど近い砦跡を占拠したらしいのは、ゴブリン――
駆け出し冒険者にとってもさほど脅威ではない部類の魔物。
この精鋭部隊なら今の装備でもどうにかなりそうであるし
殲滅を達成すればそこそこの装備が買い揃えられる程度の報酬は得られるだろう。

【単純明快な魔物退治イベントなんか挟むのも新規募集するには悪くないかなーっと。
一緒に依頼を受けるという形で自然に加入もできますし】
0055フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/03(土) 17:48:08.95ID:34ZqRQT0
フィッチャーはベッドに入ってからも暫くは寝付けなかった。
勿論、自分から女の香水がしていたのをセレスティーヌに気付かれていたかなどを気にしていたのではない。
ペトラという女の話によれば、いずれは騎士団員もまとめて襲うとのこと。
そして彼女らの覚悟の程度がわからない。

思うままに抱いていれば、爆薬が偽者であるにせよ、無事では済まなかったに違いない。
汗が一通り収まると、ようやく気だるい睡魔が襲い、眠りについた。

>「意見を聞きたい。我々は今後どうするべきだろうか?」

セレスティーヌが翌朝、大樹の洞亭1階の大きなテーブルにメンバーを集め、周囲に意見を伺っている。
質素な装備を見ると、貴族のお嬢様、もしくは神聖国の騎士団などだとは誰もが思うまい。
彼らの顔色はおもいおもいの、と言った方がいいかもしれない。もっと簡単に言えば士気が低めだ。
護衛目的のアレスはともかく、マーテルあたりはもう解散でも良いんじゃないと言わんばかりの表情すらしていた。

>「うーん……廃墟の掃除でもやる?」

アレクが相変わらずの高めのテンションと朗らかな表情で提案する。

どうやら酒場で聞き出した情報によれば、レクトゥスから北に向かったあたりの
砦跡を、ゴブリンが占拠したとのこと。
南に位置するドクラ要塞から見れば正反対の方向だ。おかしな話だ、とフィッチャーは何となく思う。

「しかしよ、この時期に廃墟たあいえゴブリンに取られるのかよ。ましてや戦となりゃ、ゾロアニア侯領には兵士がわんさかいるはずだ」

「甘いな。俺が軍師やら副官だったらこう考える。『一箇所に人目が集中するからこそ、そこを狙う』とな。
アースラントじゃみんなそう考える。そんなんじゃ神聖連合、やっていけんぜ」

ヴィクトルが我が物顔で語る。知ったことかといった顔でフィッチャーは続ける。

「説得力がねえ。あんたの実力も見てないんでね。たかが廃墟だ。とりあえず無理そうなら逃げりゃいい。
その前にお偉いさんの護衛に行こうや」


――

面会は領主の館ではなく、街の門のところで行われた。
ワン族の一派が集まっている。ざっと100人はいるだろう。犬をそのまま二足歩行の人型にしたような種族だ。臭いもそれなりにする。
どうも騒がしい連中のようで、無駄話が多い。体格も大人の男の頭一つ以上小さいのが多く、
まるで子供が騒いでいるようにすら見える。
その中で一際体格の良いワン族の戦士がいた。フィッチャーよりも頭一つほど大きいだろう。
装備はチュニックにサーベルと、まるで人間のような豪奢な格好だ。
0056フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/03(土) 17:48:37.53ID:34ZqRQT0
「ルドルーだ。カボスから話は聞いている。私としても承諾したい。なにしろこんな連中だ。
ケン族というのは上下関係が厳しく統率がものを言うのだ。既に前線にいらっしゃるドーベル将軍の援護に向かわなくてはならぬ。
カボス以下10名を貴公らのもとに派遣する。一人も死者を出すなと約束しろ」

「分かった。俺はフィッチャー、そこにいる女の騎士様が俺らのボスのセレスだ。何かあったらそっちに頼む。ところで…」

ルドルーは話も聞かずにさっさと殆どの軍勢を連れてレクトゥスの外へと立ち去っていった。

「あぁ、すまねえな、隊長も隊長で大変なのさ。ところで俺らの侯爵様っていうのは…お?」

小柄なカボスが遠目を利かせ、鼻を利かせる。遠くを見ると、何やら大勢の軍隊が南の方向に向かって行っているようだ。
鉄騎兵隊やらが結構な進軍速度で移動している。その中には一段と煌びやかな装飾を纏った一騎が目立った。
(あれが、シュヴィヤール公爵か…!?)

周囲の護衛する歩兵も入れれば2000人はくだらないだろう。その人数が結構な勢いで南下を続ける。
と、その中から20人ほどの一団がこちらへと向かってきた。金属音や少々の楽器の音とともに。
中には執事や侍女、聖職者、僧侶、医者なども含まれている。背の低い老人や子供もいる。
一人の男が馬を下り、挨拶する。セレスティーヌと然程歳も変わらないぐらいの男だった。
立派な鎧を覗けばそこらにいる傭兵や町人と変わらないだろう。

「フランツ・ゾロアニアと申す。レクトゥスの皆に感謝する。先ほどシュビャールの公爵様とその軍勢と面会してきた。
私は前線に出ることはないが、この街は今後ジャイプール帝国軍との戦闘での負傷兵の治療などに使わせることとなった。
多少の補助は教会から出ているゆえ、決して貧しい生活はさせないと約束しよう。プレシャス!」

「「プレシャスぁァ!」」

ワン族の兵たちの声や街の人々の声も重なり、すっかりその場は素朴な雰囲気に包まれる。
そのまま侯爵は配下たちとともに文官たちの見守る領主の館へと入っていく。
フィッチャーは周囲を見回した。特に夜に娼婦たちが立っている方向を警戒したが、これといった異状はない。
配下の周囲をホワイトクロス騎士団とワン族で囲みつつ、館への護衛任務は無事に終了した。

「おーい、酒場のマスターから、仕事終わりご苦労さん、だとよ」

カボスが口をポカーンと開けている騎士団員たちに告げた。勿論、フィッチャーもその一人だ。

「随分割の良い仕事だな。お前らが今までやった仕事もこんなもんだったのか?」

「んにゃ。んなこたぁねえ。やっぱドーベル将軍の名前出したのが効いたんじゃねえかな。
ってことで、飲もうやあ。あんたらも来んだろ? 残念だけど人間の女は買ったりしねえからな。
ちなみにこれでも嫁サンとガキ持ちよ。チビたちのためにも、故郷に帰るまでにカネは溜めておかねえとな」

「プレシャス!!」

祝杯が挙がる。カボスら一行は一人の犠牲どころか一つの傷もなく、無事に護衛を済ませた。
宿の下層の酒場で飲み食いをしつつ、デルタが提案してみせる。
0057フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/03(土) 17:54:13.84ID:34ZqRQT0
「これでしばらくは暇になりましたね。夜はゆっくり寝て、明日にでも例の砦跡ってのを見に行きますか」

「おう、そうだな。ところでセレス団長よう、やっぱお父上の出陣ともなれば、
少しぐらいは心配にならねえか? それにこれで終わりとはどうも思えねえんだよな」

「ぉいぉい、ハクナ・マタタだぜ。細けぇこたぁ、気にすんなってことよォ」

カボスらワン族たちはすっかり出来上がっているようで、周囲の団員たちと意気投合して
すっかり盛り上がっている。
フィッチャーはそっとその場を離れると、すっかり夜になった街へと繰り出した。


――


「ちょっと…海賊王さん、どんだけ溜め込んでたのよ。この部屋掃除すんの、あたしなんだからね。
あぁ、腰痛い。ったく、息は荒いし、乱暴で困っちゃうわ。普段も追剥とかやってんでしょ」

フィッチャーは金貨3枚で買った娼婦に案内された部屋で夜を過ごしていた。
すぐに女に尋ねる。

「海賊王に女を抱く理由はねえんだよ。ところで、…俺は、他所ものだからな。一つ、聞きたいことがある。今日来た侯爵様についてだが、
最近変わったことはあったか?」

女は逡巡したような顔をしながら、言葉を搾り出した。フィッチャーがこの胸元を大きく開いた女を選んだのは、
好みだからというだけではない。最も地元に通じてそうな、この街に馴染んでそうなのを狙ったのだ。

「あぁ、そうさねぇ…今の侯爵様はお兄さんが亡くなった後の弟さんだって聞いてるわ。
それもつい最近の話でね…」

「…本当か!? それで、領主の顔を見たのは、今回が初めてか?」

「うん、多分、殆どの街の人がそうだと思うよ。ところで海賊王さん、筋肉といい全身の傷といい、
ワイルドなところ、あたし気に入っちゃった。次来たときは、2枚…いや、1枚で良いかな」

顔のことは褒めないのかよ、と思いつつもフィッチャーは女から目を離すと、もう1枚金貨を取り出し、握らせる。

「取っておけ。それと、今俺が話したこと、ここに来たことは忘れてくれや。
もしバラしたら、今度はそこにある剣で、お前を突いてやる。死ぬまでな」

再び腰を抜かす女を尻目に、さっさと着替えたフィッチャーは、宿へと戻った。


――


ヴィクサス神聖国、聖都アトス。
古来ここに教皇庁ができて以来、背後の山には古びた塔が立っていた。
「アトスの塔」――地上と天界を繋ぐと、聖書には記載されている。聖書では。
しかしこの記載が、現実となろうとしていた。
0058フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/03(土) 17:54:38.70ID:34ZqRQT0
――ある男が、今まさに『神』として光臨するために、天上の楽園を創り上げていた。
その名は『アトラスフィア』――ありとあらゆる悦楽と至福だけが存在する、理想郷である。
それを可能にしたのは全デイドリームの歴史の中で少しずつ積み上げられたきた技術を研ぎ澄ました張本人。
名前の由来になったアトラスムス。聖ヨナクニその人。

アトラスムスはアトスの塔の向こうで、天界を作っていた。今は無骨な大小のゴーレムたちが、「彼ら」の指示のもと、
次々と石を切り出し、細やかな装飾でその土台となる部分を作っている。

――『神』。『預言者』。『使徒たち』。『教皇』。『枢機卿』。『大司教たち』。『騎士団長たち』――

すべては新たにこれから創られていたもの。

「私は預言者。神は今日もお忙しいご様子。しかし、一つだけ『予言』しておきましょう。『明日、ドクラ要塞は陥落する』―。」

ジェノアの街は何事も無く回っているようには見えたが、少しずつ救いを求めて教会に行く者たちから不明者が現れはじめた。
そして、その事を街の人々はやがて、不自然ではないと思うようになっていく。ジェノアの街自体に結界が張られているのだ。

シュタインの治める大聖堂は酒池肉林の場となっていた。
裸の美女たちが飼い馴らされ、ハミルカルやマーゲン、王国から派遣されたごく一部の将兵たちの欲望の捌け口となっていた。
0059フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/03(土) 17:55:59.48ID:34ZqRQT0
大聖堂に列を作り、新たに若い女たちがシュタインたちの前に突き出される。
それを我先にとマーゲンが攫って行こうとするのをシュタインが制した。

「駄目ですよ、マーゲン騎士団長どの。器として使える女どもは皆、『教皇』様のもとへ連れていかねば。
それが後々、北方や帝国の軍勢を蹴散らす「兵」を産み出すのです…ステッセル」

最高級の葡萄酒を飲みながら、シュタインが脚を組んだ。
ステッセルが何やら導具のようなものを使い、シュタインにそれを放つ。
情報が短時間で事細かにもたらされるのだ。

「どうやらシャルルどもが我らの計略にかかったようですね…アンネも無事に捕らえた。
となると、次は娘ですか…『彼ら』が潰してくれるのでしょうが、策は二重に打ってあります…
早く見たい! 見たいぞシャルルの苦しむ顔が!! いずれは娘も同じ場所に引きずり出して差し上げましょう…ヒヒヒ…」

葡萄酒を涎のように垂らしながら、誰に語るでもなく、シュタインは不気味に笑った。


――


フィッチャーは夜のうちにセレスティーヌの部屋を訪れ、情報を得たことを伝えた。
…表向きは酒場で巧みな交渉をして得た情報、ということにして。

「と、いうことだ。あの侯爵自体が偽者の可能性が高い。あとは、あんたらの掴んだ情報だな。
周りの連中で異様に隙の無い動き奴が居たような気がしたが…どうだった? 
明日には領主の屋敷を見るか、それともゴブリンの廃墟を回るか、だな。
他の連中もすぐ集まるだろう。酒は買い込んでおいた。ここでも良いし、また1階でも使わせてもらうか」

この日の夜は遅かった。ワン族も含めて様々な情報交換が飛び交い、議論が重ねられる。
そして酒が入ったまま、少なくともフィッチャーは未明に眠りについた。

フィッチャーが目を覚ました昼過ぎ頃、丁度神聖連合が敗北、ドクラ要塞が陥落し、
多数の死傷者を出して王国の白狼将軍ハウザー、ワン族の将軍ドーベルが戦死、
さらにシャルル公爵が捕らえられ、身代金と引き換えに生還した。
ただし、装備を全て奪われ、局部と右腕を斬り取られ、右眼を潰されての、絶望的な帰還だった。

この悲報がレクトゥスにもたらされるのは、その日の夜になって、敗残兵の一騎がボロボロの飛竜に乗って現れるのを待つこととなる。


【新規の方、募集してます!
だいぶ進みましたが、ゴブリン退治でも潜伏でもお好きな方をどうぞ】
0060創る名無しに見る名無し
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2017/06/10(土) 18:22:59.13ID:PUrljKod
これにてセレスティーヌはFOが確定、次アレクの番になりますよ
17日18時までレスがなければスレは潰れます
もしくはフィッチャー一人でやってくださいね
0061アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/10(土) 19:24:01.26ID:hjzJrSVf
長期にわたって行われる警備に先立ち、ひとまず侯爵が館へ移動する際の護衛任務を無事に終わらせた一同。
その後フィッチャーが情報収集(意味深)をし、セレスティーヌに報告する。

>「と、いうことだ。あの侯爵自体が偽者の可能性が高い。あとは、あんたらの掴んだ情報だな。
周りの連中で異様に隙の無い動き奴が居たような気がしたが…どうだった? 
明日には領主の屋敷を見るか、それともゴブリンの廃墟を回るか、だな。
他の連中もすぐ集まるだろう。酒は買い込んでおいた。ここでも良いし、また1階でも使わせてもらうか」

その言葉のとおり、アレク含むメンバー達が続々と集まってきた。
以前から街道の通行人が魔物に襲われたりしていたがそれがさらに激化してきたこと
その行動に魔物とは思えない統制が見られ、ゴブリンが占拠したという砦跡を拠点としているらしきことなどの情報が集まった。
そしてそれを受け、報酬はプレミア謝礼が付いて値上がりしているとの情報も。

「バックに魔物使いか何かがいるのかねぇ。とりあえず行ってみますか」

そういうことになった。

+++++++++++++++++++++++++++++++

その砦跡は朽ち果てており、かなり前に使われなくなったことが伺える。
そこはもはやゴブリンのみならず様々な低級モンスターが闊歩し、雑魚敵のデパート的な様相を呈していた。

「ゴブリン、ワーウルフ、ニワトリス、スカイフィッシュ……これはすごいや!」

その時カサカサ…と音を立てつつ黒光りする巨大な甲虫のようなモンスターが現れた。

「キャーーーー!! 嫌ぁああああああああ!!」

――平たく言えば巨大なゴ○ブリであった。ユニスが絶叫しながらメイスで完膚無きまでに粉砕する。

「うん、お見事」

「ねぇちょっと! ここ、人間の足跡があるんだけど」

辺りを調べていたマーテルが人間の足跡らしきものを発見する。それは、ここに割と最近人が入ったということを示していた。

「モンスターを集めて統制している何者かがいる……その可能性が高いね」

「そうなると単なるモンスター退治では済まないな。いったん引いた方がいいんじゃないか?」

そうヴィクトルが言った時だった。砦の扉が重々しい音を立ててひとりでに閉まった。

「なっ!?」

驚愕して開けようとする一同だが、こういう時のお約束通り、全員ががかりで押しても引いても開かない。

「仕方がない……ここの黒幕を倒すしかないってことだね。最奥部を目指そう」

一同は、黒幕がいると思しき砦の最奥部を目指して歩み始めた。

++++++++++++++++++++++++++++++

一方その頃――砦の最深部にて――

「フフフ、わざわざ自分から飛び込んでくるなんて。飛んで火にいる夏の虫……とはこのことね」

只の人とは思えぬ妖艶な女が、不敵な笑みを浮かべていた。

【一応この人はペトラさんを想定していますが別人にしても構いません!
セレスさんはとりあえず一週間ルールで今ターン飛ばしましたが落ち着いたらいつでも復帰を!】
0062フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/06/11(日) 16:09:58.13ID:Zo+GjRwr
>「バックに魔物使いか何かがいるのかねぇ。とりあえず行ってみますか」

長い話し合いを終えてもなお元気があるのはアレクぐらいなもので、とりあえず夜中をもって
1階での議論は解散となった。
セレスティーヌはただ浮かない顔をしているのを、フィッチャーは見逃さなかった。

「セレス、随分元気がなさそうじゃねえか。カネも入ったってのに、不満なのか? それとも…」

部屋のベッドに腰掛け、残りの酒を飲みながら会話を続ける。一つだけ点った灯りが二人を照らす。

「私は、何をしにここに来たのだろうな…? 教義のため、あるいはシュヴィヤール家のため。だが…」

「親父さんが前線に出ていて、オマケに教会は信用できない奴らだ。だったらどうするかってことか?」

「…おおよそ、その通りだ。はっきり言って私は自分の今やっていることが、分からぬ。多くの仲間を…殺してきた!」

「それは違う…!」「っ…!」

フィッチャーが不意にセレスティーヌの肩を抱き、その唇を奪った。
初めは驚き、恥ずかしがりながらフィッチャーを拒んでいたが、やがてセレスティーヌの腕がだらりと垂れる。

「そういうことだ。みんな、いや、少なくとも俺はお前を愛している。明日は早い、眠れるか?」

セレスティーヌは顔を下に伏せながら、そっと呟いた。

「灯りを、灯りを消してくれ…」

「それは…つまりそういうことか…よ…!」

フィッチャーが灯りを消すと、辺りは闇に包まれ、月明かりだけがそこを照らす。
そっと肩鎧を外し、頭を抱くと、セレスティーヌもフィッチャーの腰へと手を回す。

「穢されるなら、誰にでも、という訳ではない。とりあえずは私は渇望しているものは、お前という穢れなのだ」

未明、フィッチャーはセレスティーヌを全力で愛し、彼女もまた、彼を全力で欲した。
0063フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/11(日) 16:10:28.36ID:Zo+GjRwr
日が明けて集まる八人。皆が皆、寝不足そうな表情をしていた。
特に腰を押さえて辛そうな表情をしているマーテルとデルタを見ると、彼らもお楽しみだったのかもしれない。
朝食をさっさと終わらせ、コボルトたちと偶然合流した。
話をするとカボスら5名が加わるということで、総勢は13名となった。


――

「こりゃ、まるで魔物の巣、だな」

>「ゴブリン、ワーウルフ、ニワトリス、スカイフィッシュ……これはすごいや!」

絶叫が響いたと思えば、ユニスが棍棒でジャイアント・コックローチを撃退したところだった。

>「ねぇちょっと! ここ、人間の足跡があるんだけど」

マーテルの声に、フィッチャーが様子を見てみると、自分よりもいくらか小柄な人物の足跡が見つかった。

「こりゃ人間の靴で間違いねぇや、てか…あそこにいんの、ゴブリンとワーウルフじゃねえか?」

カボスがそう話した。そういえば、コボルトはゴブリンやワーウルフと親交のある者もいると、カボスらから聞いたことがあった。

ギギギ…ガチン…!

「なっ、閉じ込められた、だと…!?」

隊の後ろの方にいたセレスティーヌが異状に気付き、こじ開けようとするも、開かない。
デルタやユニスの開閉魔法でも駄目なようだ。

>「仕方がない……ここの黒幕を倒すしかないってことだね。最奥部を目指そう」

「そうだな。お前ら、決して死ぬんじゃねえ。奥に行けば必ず道は開けるはずだ。
一気に叩き潰すぞ!」

フィッチャーが声をかけ、一斉に攻め込む。
前面にいるニワトリスの石化攻撃や飛び出すスカイフィッシュの素早い攻撃も、加護によって(主にアレクの)
次々と撃破していった。
フィッチャーも最前線で剣を振るい、マッドドッグやニワトリスを次々と両断していった。
あっという間に肉片と臓腑があたりに飛び散る。

「あ、ちょっとまってくれやアニキ、ゴブリンやワーウルフとはオイラたちがカタをつけらぁ」
0064フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/11(日) 16:10:51.31ID:Zo+GjRwr
五人のコボルトたちが前に出て、なにやら交渉を始める。

「ゴブ、ゴブゴブ、ウ、ァァ、オォーン、ん、ぐぎゃぁ!」

交渉決裂――あっという間にワーウルフの挟撃によって一人のコボルトが命を落とす。

「駄目だ、こいつらよく見てみ、魔法かかってやがるぜ。洗脳てやつよ!

「って、何だあいつ…うわぁ、まさか…」

カボスが指差す向こうから現れたのはコボルト、自分たちの同胞であった。
まさかおるまいと思った彼らは突然浮き脚たつ。

「くそっ、俺らの同胞までやられてやがる…!」

コボルトたちが後退をはじめる。その動きにフィッチャーは動揺を隠せない。
容赦なくその敏捷さで斬りかかってくる彼らを、そのまま剣で吹き飛ばすにも気が引けるというものだ。

「フィッチャー! 良いから奥に進め! 奥に人の影が見えたぞ!」

セレスティーヌも剣で次々と襲い掛かるワーウルフやコボルトたちの武器を弾きながら応戦する。
他のメンバーたちも一様に傷つけないように注意を払っているようだ。しかし、
このコボルトたちは、”倒れても倒れても襲い掛かってくる”のだ。

「馬鹿な、狂気のようだ…」

フィッチャーらが奥へと進む中、セレスティーヌは後方のカボスたちに気を使い、留まっている。
その時、鋭い一撃がセレスティーヌを襲った。
ガキィン!

が、その攻撃は寸でのところで止められる。世話役のアレスだった。

「セレスティーヌ様、お先にお進みください。ここは私が…ぐっ…」

通常のコボルトやワーウルフよりも数倍増しの攻撃が次々繰り出される。
それをアレスは槍をもって容赦なく叩き斬った。血液と臓腑が飛び散る。

「ここは私が「業」を背負いましょう。さぁ、先にッ!」

「分かった。アレス、っ…!!?」

踵を返す刹那セレスティーヌが見たのは、奥にいるカボスたちの眼が、狂気によって汚染されていく姿だった。
そして、先ほどフィッチャーが話していた小柄な人物。
僅かなジェノアでの記憶を辿れば、フィッチャーが「酒場のおっさん」と呼んでいた人物が、閉ざされた門をすり抜けるようにして
城砦から出ていくところだった。


――
0065フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/11(日) 16:11:53.82ID:Zo+GjRwr
「奥は暗いね…待って、誰かいる、敵だ!」

マーテルが気配を察して叫ぶと同時に、フィッチャーが組み付かれているワーウルフとの間あたりで爆発が起こった。
ワーウルフは頭を潰され、フィッチャーも防護を受けていたとはいえ、脚のあたりに火傷を負った。

「こんな馬鹿みたいに全員で突っ込んで来るなんて…拍子抜けだわ。さぁ、そこのお嬢様は殺さず、後は皆殺しでお願い」

「おう!」

やがて気配を現した三人の男が一斉に襲い掛かる。コボルトやワーウルフたちの生き残りたちと同時に。
そして、声が城砦全体に響いた。

≪さぁ「三日月の使徒」の皆さん、この”研究所”に侵入した全員を始末しなさい。できれば
シュヴィヤールの娘は生きていると、嬉しいですね。これは『教皇』命令だ。
こちら側は順調に進行中だ。ドクラは陥ち、邪魔者どもは一掃された頃だろうな≫

「「はっ!」」

「教皇…だと!!? 馬鹿な…」

三日月はシャープール帝国の国旗の一部。そちら側の組織の名前である可能性が高いだろう、とフィッチャーは思った。
最も驚いていたのはセレスティーヌだったが、次の瞬間、セレスティーヌの足元を何かが掠め、同時に
ゴロリとアレスの首が転がってきた。それは白眼を剥いていた。

「あぁぁ…!」

後ろの敵がチャクラムを飛ばしたのだった。人型の敵は4人。
正面からペトラ(火薬使いの女)、天井のあたりに二人の男、後方から一人の男。
そして、同時に洗脳されたワーウルフとコボルトの生き残り数人、そしてさらに後ろからはカボスたち四人。
この人数の敵が、フィッチャーら6名に襲い掛かる――!

「降伏するつもりは、ないみたいね…」

「っ足り前だろうが、どうせ殺されるなら死ぬまで暴れてやる…!
絶対お前を守ってやる、セレス!」

【と、一気に進めました。
セレスティーヌさんには申し訳ないですが、NPCとさせていただきました。
この調子でガンガン薦めましょう! 新規の方も大募集中です!】
0066アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/14(水) 23:04:16.00ID:5p1k0I7U
こうして始まったダンジョン踏破。

「《ホーリィウェポン》!」

アレクは味方の武器に加護をかけつつ、自らも細剣を振るい戦う。
と、何故か心ここにあらずといった様子のユニスにニワトリスの石化光線が飛ぶ!

「ユニちゃん危ないッ! 《プロテクション》!」

すんでのところで防御魔法を発動し、石化光線を防ぐ。

「ハッ、ごめんなさい! 今『海賊王、アウト―――――ッ!!』って神の啓示を受けたような気がして……
そういえば昨日団長の部屋が団長と副団長が騒いでたみたいですけど何だったんでしょう。
電気は消えてたみたいですけど……」

「そりゃいつ夜道で襲撃を受けるか分からないからね。暗闇での体術の練習でもしてたんでしょ」

「なるほど――それなら何も問題ありませんね!」

少なくともこの二人の間ではそういうことになった。
何はともあれ、ボス戦である。

>≪さぁ「三日月の使徒」の皆さん、この”研究所”に侵入した全員を始末しなさい。できれば
シュヴィヤールの娘は生きていると、嬉しいですね。これは『教皇』命令だ。
こちら側は順調に進行中だ。ドクラは陥ち、邪魔者どもは一掃された頃だろうな≫
>「「はっ!」」
>「教皇…だと!!? 馬鹿な…」

普通は権威ある奴が悪い事をする時は裏でこっそりするものだが、臆面も無く堂々ったる悪役っぷりである。
つまり、一人も生きて逃がさない絶対の自信があるということ。
何故かセレスティーヌだけは生け捕りにしたいようだが、殺されずとも捕まれば碌なことにならないのは確実だろう。

「始末されるのはお前達の方だ! 大通りのど真ん中で手作りの号外ばら撒いて触れ回ってやるわあ! 覚悟しとけ!
もちろん記事の見出しは――"教皇凶行大恐慌"!」

としょうもない事を言っている間に、なんとアレスが瞬殺された。
もしかしたら誰かさんと名前が似ていて紛らわしいというメタ的な事情もあるのかもしれない。大変ご愁傷様である。

>「あぁぁ…!」

いつも気丈に振る舞うセレスティーヌが、この時ばかりは動揺しきった声をあげる。
騎士団に来る前からずっと付き従っていた従者らしいので、無理もない。

>「降伏するつもりは、ないみたいね…」
>「っ足り前だろうが、どうせ殺されるなら死ぬまで暴れてやる…!
絶対お前を守ってやる、セレス!」

さて、戦闘開始するにあたって現在のパーティーメンバーをまとめておこう。

前衛戦士系
・フィッチャー(重戦士)
・セレスティーヌ(剣士技能メインの聖騎士)
・剣士ヴィクトル

接近戦魔法両用
・アレク(聖騎士)
・神官戦士ユニス(補助魔法と棍棒の使い手)
0067アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/14(水) 23:06:04.78ID:5p1k0I7U
後衛魔法使い系
・司祭マーテル(神聖魔法による後方支援が主だが気が強く、ボウガンの扱いに長けている)
・司祭デルタ

――ん? 7人いる! まあいいか。

対する敵はペトラ率いる4人組が真打っぽいが操られたカボス達や戦闘されたコボルトがいて囲まれた構図になっている。
このままでは接近戦技能を持たない司祭の二人あたりからやられて総崩れになりそうだ。

「まずは取り巻きから片付けるか……! ユニちゃん、マーちゃん、デルたん、あれいくよ!」

アレクの号令を受け、神聖魔法を使える三人がそれぞれ素早さ上昇の魔法をアレクに重ね掛けする。

「《クイックネス》!」「《ヘイスト》!」「《ピオリム》!」

更にアレク自信も自らに《ブリンク》を使って加速し――

「いくぞ! ――ホ(ワイト)クロ(ス)百烈剣!」

なんとも微妙な技名を叫びつつ、目にもとまらぬ速さのレイピアの突きを繰り出した。

「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた おぅわったぁ!!」

次の瞬間には、取り巻き達がまるで四方八方に吹っ飛ばされるような無駄なオーバーリアクションで倒れ伏す。

「動きを止める秘孔経絡を突いた――安心しろ、死んではいない。ただ暫く動けないだけだ」

「ねえ、その技名改名しない?」

「えーやだ。結構気に入ってるし」

そうしている間にも、真打っぽい4人組との戦いをフィッチャー達が始めていた。
フィッチャー・セレスティーヌ・ヴィクトルの剣士勢が男3人と激しい戦いを繰り広げ、ペトラは余裕の笑みを浮かべ様子を見ているという感じであったが。
取り巻き達が無力化されたのを見て、ペトラも動き出す。

「はァん、少しはやるようだね! くれてやるよ!」

こちらの陣営の後衛目がけて掌サイズの何かを投げてきた。攻撃範囲は狭いが威力は侮れない対人用の爆弾である。
地面に着弾した瞬間にはじけ飛ぶが、マーテルとデルタは慌てて左右に飛びのき事なきを得た。
しかしそれで終わりではなく、次から次へと投げてくる。
阿鼻叫喚しながら逃げ惑う後衛二人とユニス。
接近戦に持ち込み爆弾投擲を封じようと、ペトラに接敵を試みるアレクだったが――そこにチャクラムの男がインターセプト。
二輪のチャクラムを両手でジャグリングのように華麗に操り、踊るように斬りかかってくる。
投擲でもアレスの首をスパッと切断した切れ味であることを考えると、物凄い脅威だ。

「ロマン溢れる二刀流遠近両用武器、だと――!?」

そのまま二刀流で斬りかかってくるかと思われたが、片手をさりげなく一閃。
二つのチャクラムのうちの一つがフィッチャーの方に飛んでいく。

「そっちかーい!」
0068フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/15(木) 13:14:25.39ID:CMLlX3u8
>「いくぞ! ――ホ(ワイト)クロ(ス)百烈剣!」

後方のアレクら四名がまず、加護魔法を受けながら物凄い速さで
ワーウルフなどの取り巻きを片付けていく。

しかし、おおよそ静かになったところで始まったのが「三日月」の暗殺者たちだ。
再び姿を消し、その場を離れた男に、彼らの動きがついていくのはそれまでとなった。
カボスたちがついに到着し、後衛を襲う。そこを急所に当たらぬよう気を使って戦っているうちに、
デルタの首筋をナイフが掠めた。

「まだいる! 奴ら、気配を消しながら攻撃してる!」

一瞬見えるも、再び姿を消し、カボスらの相手をしている彼らを狙ってくる。
次の瞬間、カボスの仲間のコボルトの一人が首の動脈を切断され、その刃物がマーテルへと向かった。

「きゃああ!!」

チャクラムだった。深々と肩口に刺さり、そこからは血が染み出してくる。
その痛みは痺れともいえ、毒がどれほど塗られているかは分からない。
純粋にこれだけの打撃を受けた経験が無いから、ともいえるが。

「助けて…」

マーテルは先ほどの一撃で戦意を喪失したらしく、デルタへと抱きついている。
デルタはマーテルを庇うも脚を引っ張られる形になり、同時にユニスへの怯えにも繋がった。
カボスらの攻撃も続き、防戦一方になる。

一方で、フィッチャーは飛んできたチャクラムを大剣で受け、そこを後方から挟撃されていた。
セレスティーヌが庇う形になるが、そこにペトラの投げた爆薬が着火し、辛うじて直撃は避けるも二人は地面へと倒れ伏す。
二人の鎧の一部が割れる。フィッチャーは全身に飛んだ金属の破片を受け、血を流す。
迫る男に不意をついて放った大剣の一撃も、曲刀で弾かれ、それを破壊するも僅かなダメージにしかならない。

「むっ、この香りは…!」

瞬間、むわっとした香りが立ち込めた。
そう、それはフィッチャーが情報収集をした際にペトラが使っていた香水そのものだった。
ジャイプール系の艶美な匂いは、二度と忘れることはない。
フィッチャーはあの日のことが終わってからセレスティーヌに会っていたことを思い出し、
セレスティーヌはフィッチャーからあの日した匂いだと思わせるには充分だった。

「それはその男が私を一晩買ったときの香り、で有っているわね。つまり、そういうこと。
この男、フィッチャーが私との戦いで本気を出せない理由。お分かり?お嬢様」

「フィッチャー…やはりそういう事だったのか…!?」「誤解だ! 俺は…」

セレスティーヌも立ち上がり、魔力を開放しながらペトラたちの方を一挙に巻き込もうとするも、
その攻撃は精紳を乱され、精細を欠いている。――瞬間、先ほど出来た鎧の隙間に針が刺さる。
よろよろとへたりこむセレスティーヌ。その正体へペトラから放たれた毒矢だった。
0069フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/15(木) 13:14:50.78ID:CMLlX3u8
「セレス、くそっ!」

再び剣を持って立ち上がろうとするセレスティーヌの剣を、男が叩き落す。
つまりそれだけの力を奪われてしまっているということ。
そして反対側からもう一人の男が突然姿を現してフィッチャーに斬りかかり、僅かに弾くのがずれてかすり傷を負わせる。

「くそっ、囲まれたか…!」

ペトラが複数の火薬をばら撒き、つかつかと前に出てくる。
ローブの前を肌蹴ると、艶かしい裸身の周囲には爆発物や毒物らしき袋がわんさかとローブに括り付けられていた。
そして手を掲げ、宣言する。

「降伏しなさい。そこのお嬢様には魔法でも消せない猛毒が入った… 解毒薬はこちらにある。
『教皇』様は皆殺しと言ったが、我々は命だけは助ける…武器を置いて、ハダカになったら許してあげる。
お嬢様はこちらで預かるから、解毒もしてあげるわ」

フィッチャーは舌打ちをすると、反射的にしゃがんで大剣を地面に置いた。
後方のメンバーもようやくカボスをほぼ戦闘不能にしたところで、武器を置く。
その間もデルタとユニスは僅かだがマーテルに回復魔法をかけることを忘れない。

不意に、先ほどから戦闘に消極的だったヴィクトルがお手上げのポーズを取ると、剣を持ったままペトラの方に向かった。
それをペトラは横目で見て「随分と遅かったのね」と呟く。

「悪いな。俺は『こっち側』の人間で、お前らの監視役だったんだ。ってことで、
情報は貰えるだけ貰っておいた。これからシュタイン様のところまでよろしく頼むぜ」
「ヴィクトル、てめぇ…」「おのれ…」

ヴィクトルに罵声が浴びさせられるが、王国から派遣された経緯など、これまでの動きを見ればそれは不自然ではなかった。
むしろ一つ分かったことがある。本当に『敵側』の人間だとしたら、それは余程臆病で、怠惰な性格だったのだろう。
自分たちを包囲、攻撃する機会はいくらでもあったのだから。

後ろのメンバーにも絶望が走る。
そこまでいったところで四人の動きが緩やかになった。姿を現し、表情も殺しのプロの眼から
下卑た盗賊のような眼に変わっている。

「なあペトラ、俺たちがこの砦を出る方法は知ってるんだろうな?」

「勿論。私が知っている合言葉一つで、この砦の『加護』は全て解けると聞いているわ」

「安い報酬でこれだけの危険じゃ割に合わねえ。折角敵に女が三人いる訳だし、
脱ぎ終わったら俺らに一人ずつ女と遊ぶ権利をくれ。『勝者には掠奪の権利を』、それジャイプールの教えだから」
「「ハハハ!!」」
「じゃあこの男女みてえな天使っ子はどうする?」「それはそこのヴィクトルって奴にくれてやれ」
「「ハハハ!!」」
0070フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/15(木) 13:15:06.02ID:CMLlX3u8
男たちの下卑た笑いが響く。さすがの風紀の低さにペトラも呆れ顔のようだ。
ユニスは既に状況を理解し、目に涙を浮かべている。
その隙を突いてフィッチャーがアレクにこっそり耳打ちする。

「…隙を見て俺ら全員に一番早く動ける加護をくれ。前の二人は俺がやる。
後ろはお前ら四人に任せる」

アレクの加護を受けたフィッチャーは大剣を持つと素早くヴィクトルの横を通りぬけ、
鋭角を描きながら一気に「ヴィクトルごと」男に一撃を浴びせた。
「グ…」「ギャァァァ!!」

ドッ、という潰れるような音を立て、ヴィクトルは瞬く間に剣を持ったまま両断され、その背骨を貫通しながら、男へと威力を維持して
脇腹を切り裂いた。
セレスティーヌが強化魔法をさりげなくかけていたのが利いたのだろう。
男は脇腹からドボドボと臓腑を垂らしながら果てた。

「カシム! そんな…」

カシムと言われた男の腹に食い込んだままの大剣を放置し、素早くセレスティーヌの前を通過すると、
彼女の剣を手に取り、ペトラの脇腹を抉る。

「きゃああ!!」

血を脇腹からドバドバと流しながらふらつくペトラを羽交い絞めにし、
腕に力を込めて思い切り脅す。お陰でペトラは下着一枚の上半身裸の格好だ。

「ぐっ…馬鹿じゃないの! 状況が見えてる訳? 私の手から火の魔法が発動されれば、
私とあんたは木っ端微塵、そこの連中も地面の爆薬に巻き込まれるのよ…?」

「止血だ…」

「なっ!?」

「セレスの毒と、てめぇが失血死するのと、どっちが早いだろうな? ウチには回復薬はゴロゴロいる。
だがてめぇはこのままいけばすぐ死ぬ。俺は女は殺したくねぇ。海賊王ってのはそういうもんだ。
一度しか言わねぇ。解毒剤を出せ。そうすればお前を止血してやる」

「くっ…」

手を緩めるとペトラが懐から小瓶の一つを出す。その周辺にもいくつかの瓶が見える。
フィッチャーはペトラから貰った瓶と周囲の瓶を全て奪うと、ローブを全ての火薬ごと脱がせ、
そのまま何も装備していないであろうペトラの腹を蹴って火薬から離れたところへ突き飛ばした。

同時にローブを素早く遠くへと投げ捨て、付近に落ちている火薬も全て除去する。
ああは言ったが、ペトラの止血などよりはセレスティーヌの容態が心配だ。
剣をセレスティーヌの前に置き、右手に持った一つの小瓶と、左手に持った複数の小瓶を見比べる。

「くそっ、分からん…!」

「そのような事は…こいつらを片付けてからで良い…」
セレスティーヌが剣に触れながらフィッチャーをの腕を掴み、力なく言った。

【以上、ヴィクトル死亡。「敵」はペトラが離れた位置で倒れ、残りは二人の男です。
セレスティーヌ猛毒、フィッチャー負傷、マーテル負傷
アレクさんついてきてくれて改めて感謝します。さらに新規の方も募集します】
0071アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/15(木) 22:59:14.66ID:goGorJh1
後衛・中衛陣が到着したカボス達の相手をしている間にも
ペトラが、従者が殺されたばかりで動揺しているセレスティーヌに容赦なく精神攻撃をしかけていた。

>「それはその男が私を一晩買ったときの香り、で有っているわね。つまり、そういうこと。
この男、フィッチャーが私との戦いで本気を出せない理由。お分かり?お嬢様」
>「フィッチャー…やはりそういう事だったのか…!?」「誤解だ! 俺は…」

アレクはカボスと立ち回りつつ、ツッコみながら喝を入れる。、

「五階も六階もないわッ! セレスティーヌ、あなたはお嬢様じゃなくて聖騎士だろう!?」

アレクのレイピアが急所に入り、ふぎゃん、と犬っぽい悲鳴をあげてようやくカボスが倒れこむ。
加勢に行こうとするも、すでにセレスティーヌは毒矢の餌食になってしまった後であった。

>「降伏しなさい。そこのお嬢様には魔法でも消せない猛毒が入った… 解毒薬はこちらにある。
『教皇』様は皆殺しと言ったが、我々は命だけは助ける…武器を置いて、ハダカになったら許してあげる。
お嬢様はこちらで預かるから、解毒もしてあげるわ」

セレスティーヌを人質にとられている状況、仕方なく武器を置く一同。
更に悪い事は重なり、ヴィクトルの裏切り――否、最初から敵方だった事が発覚する。
思い返してみれば、彼はメンバーの中で唯一王国から派遣されたとかで、誰とも特に親しくしている様子も無かった。

>「悪いな。俺は『こっち側』の人間で、お前らの監視役だったんだ。ってことで、
情報は貰えるだけ貰っておいた。これからシュタイン様のところまでよろしく頼むぜ」

こうしてヴィクトルがペトラ側に行ったところで、敵の男達の態度が突然代わる。

>「安い報酬でこれだけの危険じゃ割に合わねえ。折角敵に女が三人いる訳だし、
脱ぎ終わったら俺らに一人ずつ女と遊ぶ権利をくれ。『勝者には掠奪の権利を』、それジャイプールの教えだから」
>「「ハハハ!!」」
>「じゃあこの男女みてえな天使っ子はどうする?」「それはそこのヴィクトルって奴にくれてやれ」
>「「ハハハ!!」」

目に涙を浮かべるユニスの肩をぽんと叩いてニヤリと笑うアレク。
気の弱いユニスは言葉をまともに受け止め怯えているが、これは逆にチャンスだ。
つい先ほどまで隙のない底知れぬ暗殺者だったのが、何故か一瞬にして下衆い雑魚のような雰囲気になってしまい隙だらけだ。
これにはペトラすらも呆れ顔。
畳み掛けるなら今――フィッチャーもアレクと同じような事を思ったようであった。
0072アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/15(木) 23:00:27.72ID:goGorJh1
>「…隙を見て俺ら全員に一番早く動ける加護をくれ。前の二人は俺がやる。
後ろはお前ら四人に任せる」

アレクは背に光の翼を顕現させ、上級神聖魔法を発動する。

「――《自由の翼》! 一気にたたみかけるぞ!」

パーティー全員を白い燐光が包み込む。これは味方全員の動きの巧みさ・素早さ・回避力の類を飛躍的に向上させる高位の全体加護だ。
それを合図に、一斉に飛び出す。
フィッチャーがヴィクトルとカシムという男を引き受け、アレク達が残りの二人の相手をする流れとなる。
相手はチャクラム使いと曲刀使いだ。
チャクラム使いが腕を一閃し、風切り音が響く。
アレクは飛んできたチャクラムをエビ反りになって避け、更にレイピアをチャクラムの穴に通して受け止めてくるくる回す。

「チャクラムはイケメン専用! お前のような下衆いチンピラに使いこなせる武器ではないわッ!! ……おっと手が滑った!」

チャクラムを曲刀使いの男に向かって弾き飛ばす。
男は慌てて曲刀で弾き飛ばすも、衝撃で曲刀ごとすっ飛んで行った。
男が曲刀を拾う間もなく半ばヤケクソのユニスが武器を無くした男に突撃し、叫びながらメイスで殴りまくる。

「変態! ケダモノ! 女の敵!」

素早く繰り出される鈍器の連撃に、今や丸腰の曲刀使いの男は成す術もない。
弱そうだと思ってノーマークだったユニスの予想外の火事場の馬鹿力に、チャクラムの男は狼狽える。
そもそもユニスは気が弱いだけで、神官戦士としての能力は決して低くは無いのだ。
追い詰められたチャクラムの男が、雄叫びを上げながら接近戦技能の無いデルタに突撃してくる。

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

しかし――

「《イグニートジャベリン》!」

アレクの聖句が響くと、チャクラムの男を光の刃が貫いた。
チャクラムの男は呻いて倒れ、曲刀使いの方はもうすっかり伸びている。
――勝負は決した。
その頃にはフィッチャーの方も片付いていて、ペトラと交渉に入っていた。
解毒剤を出せば止血してやると言って瓶を出させ、しかし本当にそれが本物の解毒剤なのか計り兼ねているようだ。
もちろんペトラの止血は放置のままだ。
アレクはペトラに歩み寄り、言った。

「本当の解毒剤を教えるんだ――そうすれば回復魔法をかけてやる。
もちろん隊長の回復の兆しを見届けてからね。今すぐ教えないと出血多量になって死ぬよ?」

ペトラが本物の解毒剤を告げれば、アレクは言葉のとおり彼女に回復魔法をかけるだろう。
ペトラからは、敵勢力に関する重要な手掛かりを得られるかもしれない。
0073フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/17(土) 14:10:18.49ID:7vuIR3xs
>「《イグニートジャベリン》!」

アレクの聖魔法が後方の男を貫通し、そのまま命を奪った。
もう一人の男も武器を落とされ、ユニスに棍棒によって倒されたようだ。

「良いぞアレク…思ったより早く片付いたな。あとは…」

アレクが白い光を纏ったまま素早く奥で倒れるペトラへと駆け寄り、詰め寄る。

>「本当の解毒剤を教えるんだ――そうすれば回復魔法をかけてやる。
もちろん隊長の回復の兆しを見届けてからね。今すぐ教えないと出血多量になって死ぬよ?」

ペトラは傷の痛みと失血によりぐったりとしており、僅かに開いた眼で何かを思案しているようだ。
解毒剤についてはともかく、『祝福解除』の合言葉を知っているのは四人では彼女だけなのだ。

フィッチャーは慌て、肩で息をしているセレスティーヌの上体を起こした状態で、
アレクとペトラの方を向いて、次の言葉を待っている。すぐにでもセレスティーヌを解毒できるように。

ヒューヒューと喉から音を漏らしながら、意を決したようにペトラが呟いた。

「…殺されない方に、賭けるわ…星型の蓋が付いているのが解毒剤…よ…」
「…!」

フィッチャーは一瞬、目を疑った。星型の蓋の瓶は、フィッチャーが後から奪ったものの一つだったのだ。
蓋を開け、ゆっくりとセレスティーヌの口に含ませ、頭を抱えて飲ませる。
喉が上下し、確かに嚥下したのを確認し、暫く待った。

後ろではデルタがナイフを取り出して生き残った方の男の頚動脈を掻き切り、
ユニスは既にフィッチャーたちの元に駆けつけており、渡された薬が違っていることを確認した。
素早くフィッチャーがペトラから受け取った方の瓶を彼から奪い、ペトラの元へ駆けつける。

「止めろ!」

フィッチャーが叫ぶ。
瓶の蓋を開け、それをペトラの口に流し込もうとするところで、ユニスの手が止まる。
割って入ったデルタとマーテルによって彼女は辛うじて取り押さえられた。

「落ち着いて、ユニス。まだ殺しちゃダメ!」
「だって、こいつは、わたしたちを…!」

そういったやり取りがされている間に、セレスティーヌの容態が落ち着いてきた。
僅かにだが、呼吸の詰まりが取れ、以前のような呻くような苦痛の声は出していない。

「アレク、大丈夫だ」

手振りを含め、フィッチャーがアレクにペトラの回復を促す。
予想以上にタフだったらしく、ペトラはまだ意識を保っている。局地的な傷の回復が行われている。
当然先ほどまでは敵だったのだから、致命傷さえ治ればいいのだ。
0074フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/17(土) 14:10:51.21ID:7vuIR3xs
と、その時、割って入った人物がいた。ボウガンを構え、ペトラにクォレルを向ける。

「さて、これだけあたしらを散々な目に遭わせてくれた訳だけど、もう一つあるでしょ。
『合言葉』、言いなさいよ。3秒内に言わないと口にもれなくぶち込む。さぁ、3…」

フィッチャーは直感にビクリと全身を震わせた。
咄嗟の判断で素早くそこに割り込むと、マーテルのボウガンを叩き落とす。

「何邪魔すんの、馬鹿! ゴミ!」
「悪口は後で好きなだけ聞くから、とりあえず俺に任せてくれ」

フィッチャーは全員に合図すると、全員で最初に見た重々しい扉のところまで引き揚げた。
フィッチャーがセレスティーヌを、アレクがペトラを、残りの三人がカボスらコボルトの生き残り三人を抱えている。

「よし、ペトラ、これが終わればお前の首は本当に保証する。合言葉を教えてくれ」
「…『アンチ・プレシャス』」

刹那、ゴゴゴゴゴという轟音とともに扉が音を立てて崩れていく。

「アレク、飛行系の加護を頼む」

一同は扉や塀の崩れ落ちる破片で多少はダメージを負いながらも、強引に砦跡から脱出した。
そこから暫く離れると、敷地全体が禍々しい光に包まれて、崩れていくところだった。

「何となくこういう事だと思った…連中はこいつらも使い捨てにするつもりだったんだろうな」

崩落が終わった後、地下から湧き出すような音が聞こえたと思うと、次の瞬間――
城砦は大爆発によって、跡形もなく吹き飛んでいた。
まるで何かを隠滅するかのような物凄い奔流だ。

「あぁ、オイラたち、何やってたんだ…」

街に向かおうとするや否や、カボスたちが正気の目を覚ました。

「よし、これで全員無事だな。デルタ、とりあえずこいつにマントを貸してやってくれ。
目のやり場に困るんでね」

戦いでボロボロとはいえ、殆ど全裸のペトラの上下にマントを破って作った布地が巻きつけられた。

「ってことで、まずはお前を開放する前に聞くことがある。早い方がいいだろ?
全部洗いざらい喋ってくれや」
0075フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/17(土) 14:11:19.40ID:7vuIR3xs
フィッチャーは特に武器を構えたりすることはないが、後ろではマーテルがボウガンを構えていた。
ペトラの話を要約するとこうだ。

・自分たちは元々ジャイプールの貴族・アルージャに仕えていた傭兵たちの一部
・そこを神聖連合側の「枢機卿」と呼ばれるハミルカルによって引き抜かれた
・ハミルカルとアルージャとの間で(恐らく国家間の交渉ではなく)ゾロアニアは
ジャイプール領として割譲するという交渉が行われていた
・ハミルカルに息子のバルカスを紹介され、彼と共にジェノアでの人攫いを手伝ったことがある
・バルカスは父親に汚れの片棒を担がされており、彼に同情し、愛していたのは事実
・ゾロアニア侯爵を殺害したのは自分たちである。よって今いる侯爵は偽者
・既にこのあたり(ゾロアニア)一帯がジャイプール帝国領になっている可能性が高い
・元々はレクトゥスでフィッチャーらを殺害し、セレスティーヌを奪う予定だったが、
突然現れた「教皇」によって護衛の任務につかされた
・「教皇」は人や亜人で何らかの実験を行っているが、詳しくは見せてもらえなかった
・今回の戦争は最初からドクラ要塞が落ち、帝国が勝つように仕組まれているらしい

「父上…」
意識をはっきりさせたセレスティーヌが、駆り出されたシャルルを心配している。
フィッチャーはそれを肩を抱いてなだめた。

「よし、大体分かった。約束通りお前はさっさとここから消えろ。もう日が暮れるぞ」
「はぁ?」「いやいや、そいつは俺らの敵ですよ…これだけ被害受けてんですから。始末しましょう」

ボウガンやナイフを構えるマーテルやデルタ、さらにコボルトたちを制し、フィッチャーが立ちはだかった。

「約束は約束だ。海賊王、嘘つかねえ」

その様子を不思議そうに見ていたが、やがてペトラはクスクスと笑った。

「フフッ、じゃあその間を取って、私があんたらの仲間に加わるってのはどう?」
「「え!?」」

一同は目を見合わせた。


――


「我慢はできなかったのか」
「ん…あんたこそ『我慢』できなかったの?」
「お、俺はただ、時間がねえと思っただけだ。連中が攻めてくるかもしれねぇ。それに屋敷だって」
「どうやら私、あんたに惚れちゃったみたいなのよ。それだけが理由」

以前にペトラが拠点としていた部屋で、フィッチャーとペトラが絡み合っていた。

「お前は服も武器も手に入ったことだし、さっさと宿に戻っておけ。俺はさっさとコボルトどもに謝ってくる。
マーテルにまた撃たれそうになるぞ。仲良くしとけよ」
「そう言って、そのマーテルも食っちゃうんでしょ?」

相手にしてられん、とばかりに首を振り、大剣を担ぐとフィッチャーは出ていった。
日が沈む。恐らくはそろそろ「ドクラ要塞陥落」が終わっている頃だろう。奴らのシナリオ通りなら。
0076フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/17(土) 14:11:36.79ID:7vuIR3xs
「地底の泉亭」はひっそりとしていた。
カボスたちは既に傷の手当を受け、色々と話し合っている。
フィッチャーたち人間に対する不信感が強く出ているようだ。
良く見ると他の亜人たちも一様に人間を警戒するような位置取りをしている。

「悪かった。二人ほど犠牲者を出しちまった。ルドルー、無事だといいな」

カボスはフィッチャーが腰掛けると席を一つ離し、搾り出すように語った。

「ルドルー隊長が死ぬわきゃねぇだろ…お前ら、オイラたちを実験台か何かだと
思ってるだろ? 顔に出てんだよ。なぁ、みんな」
「そうだ、そうだ。ルドルー隊長が来たらお前らぶっ殺されんぜ」

もはや酒が入り過ぎてまともな思考が出来ていないような風でもなくもないが、
ホワイトクロス騎士団のみならず、人間全体への不信が強いようだ。

フィッチャーがそこに居たのは僅かな時間だが、黙ってエール一杯を飲み干すと、そっと彼らに伝えた。

「必ずだ。必ずお前らの仲間の仇を取ってやる。じゃあな」

酒場の出口へ着いたあたりで、カボスがようやくこちらを見ずに口を開いた。
「…ありがとよ。関わりたくねぇけど、命助けられたこたぁ忘れねぇ…」

宿のある方の酒場もすっかり静まっていた。フィッチャーはセレスティーヌが心配になって上へと向かう。
ちなみに今はペトラが亡きアレスの部屋を使っている。

セレスティーヌの部屋に入ると、真っ先に彼女が抱きついてきた。どうやら元気になったようだ。
「傷は? 傷はもう大丈夫なのか!?」

真っ先に自分のことを心配されたフィッチャーは、その少し高い頭を撫でると、腰に手を回しながら言う。

「俺のことは大丈夫だ。元々はお前に助けられた命だ。少しは手荒に扱って貰ってかまわない。
それより時間がない。「団長」、侯爵屋敷をどうするか、作戦会議を開くぞ… アレク! みんなを呼んでくれ」

7人が集まり、これからの方針について話し合いの場が持たれる。
しかし――その時横で大きな音が聞こえ、多くの人々の騒ぎや悲鳴が聞こえる。

窓を開けると、そこにはボロボロの飛竜に乗った兵がボロボロになったゾロアニアの旗を背負いながら倒れこんでいた。

「我々の負けだ…要塞は陥ちた…近いうちに敵がここを攻めてくるぞ…!」

彼はそれ以上は話せずにそのまま倒れる。レクトゥスの人間だったらしく、多くの知り合いたちによって担がれていった。
状況は一変した。
話が全て本当だとすれば、内側と外側の両方に敵がいるということいなるだろう。

【と、いった感じでコボルトら離脱、ペトラが加わり再び騎士団員は7人に戻ります。】
0077アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/20(火) 01:24:29.65ID:FleHCdnY
後先考えずにペトラを始末しようとするユニスを、マーテルとデルタが間一髪で止める。
気丈な性格とは言えないユニスは、理性的な判断が出来なくなりやすい一面もあるのだ。

>「アレク、大丈夫だ」

フィッチャーの言葉を受け、ペトラに《キュア・ウーンズ》をかける。
ボウガンを突きつけ恐怖で合言葉を吐かせようとするマーテルを制し、
フィッチャーが命の保証を条件に合言葉を聞き出すことの成功した。

>「アレク、飛行系の加護を頼む」

「分かった! みんな、勢い余って交通事故しないようにね!――《フライト》!」

ペトラを抱えて脱出しつつ、こっそり話しかける。

「安心するといい、海賊王がああ約束した以上命は助かるよ。
あとこれにこりたら……駄目男に惚れるのはやめておくことだな」

多少の擦り傷や打ち身はありつつも、大方無事に脱出した一同。
脱出した瞬間、タイミングを見計らったかのように、話の節目にはお約束の爆発である。

>「何となくこういう事だと思った…連中はこいつらも使い捨てにするつもりだったんだろうな」

フィッチャーはペトラから洗いざらい情報を聞き出すと、彼女を解放しようとする。

>「よし、大体分かった。約束通りお前はさっさとここから消えろ。もう日が暮れるぞ」
>「はぁ?」「いやいや、そいつは俺らの敵ですよ…これだけ被害受けてんですから。始末しましょう」
>「約束は約束だ。海賊王、嘘つかねえ」

ペトラを逃がそうとするフィッチャーに、始末しておくことを提言するメンバー達。
アレクはフィッチャーの言葉に頷き、彼の側に立った。
アレクも解毒剤を教えたら回復してやると言った手前、フィッチャーと同じ立場である。
流石にここで「回復してやるとは言ったけど殺さないとは言ってない」等と言い出す程世紀末なキャラではない。
確かにメンバー達の言う事も一理ある。
元々敵だったヴィクトルを除いても、こちらは一人殺されている。仲間想いな彼らが仇討ちを考えるのも当然のことだ。
ここで逃がしたら、またもやリベンジマッチとばかりに危害を加えに来ないとも限らない。
しかし、元々はペトラの個人的な動機は恋人のバルカスを殺された復讐だ。
あんなこちらから見る限りではどーしょーもない男でも、ペトラにとっては大事な恋人だったのだろう。
ここでペトラを殺したら、また彼女を大切に思う誰かが復讐に来る可能性もある。
つまり今後の危険性は、彼女を殺しても殺さずとも同じようなものだ。
端的に言うと、妖艶な暗殺者だったはずが何時の間にやら駄目男に惚れてしまったオバカ娘という印象になってしまい、
いまいち憎み切れないのだった。それに――

「みんな落ち着くんだ。彼女も使い捨ての駒として利用されているにすぎなかった。真の敵は他にいる」

ここでやりあったところで、黒幕が腹を抱えて笑い転げるだけ。そんなことは皆頭では分かっているだろう。
それを敢えて言うのが、種族特性上ドライな側面のある自分の役目だとアレクは思っている。
そんな時、ペトラが予想外の提案をしたのだった。

>「フフッ、じゃあその間を取って、私があんたらの仲間に加わるってのはどう?」
>「「え!?」」

信頼できるか、隙を見て危害を加えるつもりだろう、等という声があがる。
それを受け、アレクは嘘判別の神聖魔法をペトラにかける。

「ちょっと失礼するよ。《センス・ライ》――嘘ではないみたいだ。
つまり逃がすより仲間に加える方が余程安全ってこと。
それでも納得できないなら……ここでただ単に殺すよりいざという時に盾になってもらった方がお得、そう考えればいいさ」
0078アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/20(火) 01:26:22.48ID:FleHCdnY
そう言ってペトラの肩をぽんと叩き目配せする。無論仲間を説得するための方便だ、本気ではない。
ある者はそれもそうだ、ある者は渋々、という感じで、とにかくペトラを一行に加える方向で意見が一致した。
しかしここで一つ疑問が残る。何故彼女は仲間になることを希望したのだろうか。
そこまでせずともフィッチャーのゴリ押しで逃がして貰えただろうし、そもそもこちらは恋人の仇の一団である。
何気なくフィッチャーの顔を見る。イケメンとは言い難い。(※なんとも失礼だが公式設定なので仕方がない)
しかしそこで衝撃の事実に気付く。
バルカスよりはイケメンだ――性格は言うまでも無く、外見もまああれに比べれば。
それによく見ると顔立ちは整っている。もしかしたら眉毛を書いたらイケメンになるのかもしれない――!

そうか――まあ頑張れ!

明後日の方向を向いて爽やかな笑みを浮かべつつ心の中でペトラにエールを送るアレクであった。

++++++++++++++++++++++++++++++

場面は移り、一同が拠点としている宿。

>「俺のことは大丈夫だ。元々はお前に助けられた命だ。少しは手荒に扱って貰ってかまわない。
それより時間がない。「団長」、侯爵屋敷をどうするか、作戦会議を開くぞ… アレク! みんなを呼んでくれ」

フィッチャーの要請を受け、皆を招集するアレク。
元々侯爵の視察のために長期間に渡って行われる警備の依頼を受けるための装備を整えるための砦跡アタックだったのだが
ペトラによるとその侯爵が偽物だという。
しかし偽物ということは分かっていても、その偽物が何者なのかということまでは分からない。

「張り込んで正体突き止めるかねぇ……」

しかし、話し合いの議題はすぐに他に移ることになった。より優先度の高い緊急案件が飛び込んできたのである。

>「我々の負けだ…要塞は陥ちた…近いうちに敵がここを攻めてくるぞ…!」

ボロボロの兵が息も絶え絶えに辿り着き、敵襲を告げて力尽きて倒れる。まさに王道ファンタジー。
この局面においてホワイトクロス騎士団はどう動くべきか。
表向きは今起こっている戦争は、神聖連合と帝国の戦い。
しかしそれは、最初から帝国が勝つように仕組まれた、何者かの掌の上の人形劇。
黒幕を直接叩ければ文句なしだが、舞台上に出てこないのが黒幕の黒幕たる所以である。
黒幕を舞台上に引っ張り出すには、まずは奴らの思い描いたシナリオをぶち壊してやるしかない。
それにどちらにしろ、シャルルの娘であるセレスティーヌが団長を務めるこの一団は、問答無用で神聖連合側と見なされるだろう。
それならばいっそのこと――

「団長を錦の御旗として全面に押し出して戦力を結集させるのはどうだろう」

ただしその方向性事態の良し悪しの他にも、今のセレスティーヌがそれを出来るかどうかという問題がある。
普段ならそういった類のことは得意な彼女だが、何せ長年仕えた従者を失い父親が酷い状態になった直後だ。
それと、大きな懸念事項はあからさまに怪しい偽侯爵だが……

「正体を突き止める時間は……無さそうだね。戦いの中で見極めるしかないか」

アレクはマスターのいるカウンターに歩み寄り、ばんっと両手をカウンターに付き。

「これよりここをレクトゥス防衛戦本部とするッ! 各宿屋の主人に参加者募集の依頼をかけてくるのだッ!」

「あ、はい!」

と思わずパシリながら、はて、なんで自分アイツの言う事聞いてるんだろう、と思う宿屋の主人であった。
0079 ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/20(火) 20:02:47.71ID:FleHCdnY
第一節(野盗討伐〜騎士団出奔)ダイジェスト
ホワイトクロス騎士団、その第三分隊長で元海賊のフィッチャーは、今日も酒場で飲んだくれていた。
そこに、第二分隊長のセレスティーヌが現れ、近くの山に砦を築いたという野盗の討伐任務を告げる。
しかしフィッチャーは気が進まない様子。その野盗の中には、フィッチャーの昔の仲間がいるのだった。
そんなフィッチャーを、セレスティーヌはトップを叩けば皆殺しにせずとも済むと説得し、
二人は第二・第三分隊を伴って討伐に赴くのだった。
第三分隊員ラムスらの手引きにより、一行な難なく野盗の本拠地に到着し、戦闘が始まった。
表向きのリーダーらしき大男バルカスとセレスティーヌが激しい戦いを繰り広げる。
一方フィッチャーは、昔の仲間が敵として目の前に現れ動揺しつつも、黒いローブの謎の人物が
バルカス達に魔法のようなものをかけて逃げ去るのを目撃するのだった。
下っ端の野党の相手は、第二分隊副長のアレクがセレスティーヌの代わりに指揮を取って行っていたが
最初から野盗の側に取り込まれていたラムスが本性を現して寝返ったことで、状況は一変する。
が、そこから苦戦の末に持ち直し、ラムスを追い詰めることに成功する一同。
しかしラムスの口から黒幕の名が語られる寸前、彼は矢の集中攻撃を受け絶命する。
矢を放ったのは、なんとシュタイン司教指揮下の第一分隊だ。
裏がありそうながらも表向きは穏やかだったはずのシュタイン司教が、
ここで悪魔のような本性を現しフィッチャーに昔の仲間を葬るように命令する。
シュタインはそれに逆らえず、涙ながらに命令に従うのだった。
それに留まらずシュタインは裏切り者が出たのをフィッチャーやセレスティーヌの責任とし、
撤収後、「洗礼」と称して一同に理不尽な暴力を受けさせる。
これにより、完全にシュタイン司教を見限ったセレスティーヌは、フィッチャーらを鼓舞し、
騎士団からの出奔を敢行したのだった。
一方、別室に閉じ込められていたアレクの元には、シュタイン直属の部下と名乗るアトラスムスというデイドリームが現れ
アレクを仲間に引き入れようとするが、アレクは隙を突いて部屋から逃走。
すでにセレスティーヌ達が脱出済みであることに気付き、自らもその場から離脱して後を追う。
程なくして無事に追いついて合流し、新生ホワイトクロス騎士団は宿場町レクトゥスに到着したのであった。

第二節(レクトゥス到着〜砦跡攻略)ダイジェスト
着の身着のままで逃げてきた一同は、まずはレクトゥスに滞在し、冒険者向けの依頼等を受けて装備を整えることとする。
割の良い仕事を探し、各々情報収集を行う一同。
そんな折、フィッチャーはバルカスの元カノを名乗る女暗殺者ペトラに、危うく殺されかけるのであった。
ゾロアニア侯爵が近々視察に来るにあたって長期間に渡って行われるという街の警備の依頼を受ける事とするが
侯爵を迎えるという任務の性質上、みすぼらしい装備のままでは断られかねない。
そこで、まずは体裁を整えるためにモンスターの住処となったという砦跡のモンスター討伐の依頼を受けることとする。
砦跡には様々な種類のモンスターが闊歩しており、背後に何者かの思惑があることが伺えた。
いったん引こうか思案する一同だったが、突然魔術的な力によって砦の扉が閉まり、閉じ込められてしまう。
それならばボスを倒して脱出するまでと、奥を目指す一行。
最深部には、奇しくもペトラ率いる暗殺者集団「三日月の使徒」が待ち構えていた。
また、彼らの裏で手を引いているのは《教皇》である事が伺えるのだった。
アレスの犠牲や、ヴィクトルが敵側だった事の発覚した上での死亡がありつつも
一行は激戦の末に勝利し、フィッチャーは命の保証を条件にペトラから脱出の合言葉を聞き出すことに成功する。
一同は脱出した瞬間に、砦跡は爆発。ペトラ達も使い捨ての駒に過ぎなかったのだ。
ペトラから情報を聞き出した後、約束だからとペトラを逃がそうとするフィッチャーやアレクに対し
他のメンバー達はここで始末しておこうと反対する。
それを見ていたペトラは、自分が仲間に加わることを提案する。
騒然とする一同だったが、なんだかんだでペトラを仲間に加える事となったのであった。
0080 ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/20(火) 20:52:56.08ID:FleHCdnY
☆国・地域等
・ジャイプール帝国
 南の大勢力。
 爆薬や大型の魔物を利用した軍団、不死と言われる「狂帝」の存在によって
 瞬く間に周辺諸国を滅ぼし、または従属させる。

・北方、通称「ニュンガロイム」
 北の大勢力
 有力部族である東西ヒルホトを統一して一気に南下、
 鉄騎兵や妖術兵などの活躍により、南の諸国を蹂躙し、荒らし回っていた

・アースラント王国
 帝国と北方の中間に位置し、「千年王国」と言われた
 国王フィリッポ4世は、 かつて散々「庇護」の名目で散々コケにしてきたヴィクサス神聖国を頼り、「神聖連合」を結成。
 周辺諸国に北方勢力と帝国への対抗を呼びかけた。

・ヴィクサス神聖国
 薔薇の紋章で有名なシュヴィヤール公爵領がある。建国の父は聖ヴィクサス。

・聖都アトス
 ヴィクサス神聖国の、教皇庁がある都市。
 古来ここに教皇庁ができて以来、背後の山には古びた塔が立っていた。
「アトスの塔」――地上と天界を繋ぐと、聖書には記載されている。

・ジェノア共和国
 アースラント王国とヴィクサス神聖国の丁度中間あたりの湖畔に位置する中立都市ジェノアを中心とする国。
 ここに「ホワイトクロス騎士団」が結成される。
 騎士団とは名ばかりで、ジェノアのヴィクサス神聖国教会の支部司教が立てた戦闘集団である。
 今ではシュタインらが支配する掠奪と犯罪の街となった。

・ゾロアニア
 ジャイプール帝国と神聖連合の勢力圏がちょうど衝突する地域
 複数の種族、部族が豊かな土壌の上で小競り合いを続ける紛争地帯

・宿場町レクトゥス
 ゾロアニアにおける唯一の宿場町。現在一行はここに滞在している。
 宿屋の主人で構成された宿屋ギルドが実質的な統治を行っている。

☆NPC
○パーティーメンバー
・ユニス
ジェノア司教区からの神官戦士。補助魔法と棍棒(メイス)の使い手。
一行のアイドル的立ち位置。気が弱いが、戦闘能力は弱くは無い。

・マーテル
ジェノア司教区からの司祭。ボウガンの扱いにも長けている。気が強い。

・デルタ
マーテルの後輩の司祭。一行の中で最年少。

・ペトラ
元々バルカスの彼女で、フィッチャー達を突け狙う暗殺者だったが、一同に敗北した後、仲間に加わった。
火薬や毒薬、吹き矢といった暗器の使い手。

○元パーティーメンバー(故人)
・アレス
セレスティーヌに長年仕えた従者だったが、砦跡の戦いにてあっけなく死亡。

・ヴィクトル
王国から派遣された剣士だったが、砦跡の戦いにて敵側のスパイだった事が発覚し、その場で始末された。
0081 ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/20(火) 20:56:42.00ID:FleHCdnY
○敵or立ち位置不明
・シュタイン司教
 「ホワイトクロス騎士団」を結成した、ジェノアのヴィクサス神聖国教会の支部司教。
 普段は司祭帽を被る中年の男で、物腰は穏やかだが、とてつもない棍棒術と神聖魔法の使い手だとの話
 長い線のような目は優しそうにも見え、逆に考えれば何を考えているか分からないようにも見える
 本性は分かりやすい悪い奴。
 かつて付き合っていたアンネを奪ったシャルルに恨みを燃やしている。

・ハミルカル・ブライト
 帝国と通じたという疑いで捕縛命令まで出ていたが、未だに捕まってはいない。
 外見からして「カタギではない」と言われていたが、良い噂と悪い噂の両方を持つ地元の富豪。
 息子バルカスを討ったフィッチャー達を討たんと付け狙う。

・マーゲン
 「ホワイトクロス騎士団」の現第二分隊の隊長。バルカスを老けさせただけのような目つきの悪い大男

・アトラスムス
 「ホワイトクロス騎士団」の現第一分隊副官。デイドリーム。洗礼名「聖ヨナクニ」。
 「教皇猊下が遣わされた、正真正銘の聖人」らしい。

・ステッセル
 「ホワイトクロス騎士団」の第一分隊副長。

・「教皇」
 現時点で一番黒幕っぽい人物。
 近年になって長年の間、人々の間に姿を現していない。

○その他
・シャルル・シュヴィヤール公
 セレスティーヌの父親。ドクラ要塞に神聖連合を結集させ帝国と戦うも、敢無く敗北。
 捕らえられ、身代金と引き換えに散々な状態で何とか生還した。

・アンネ
 シュタインの元カノで、シャルルの妻。

・ゾロアニア侯爵
 現在レクトゥスを訪れているが、本物はペトラ達によって暗殺済みで、現在の彼は偽物らしい。

・バルカス・ブライト(故人)
 元老院議員のハミルカルの息子
 評判は頗る悪い。少年時代から身体が大きく、裏の仕事に憧れており、 周囲に触れ回っていたほど。
 冒頭の山賊討伐の時にフィッチャー達に討たれる。
0082 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/21(水) 08:21:16.81ID:asv/UR22
・カリスト・ケンディウス
「白羽将軍」と呼ばれるアースラント王国の若き将軍。
先の戦では国王から軍師のような扱いを受け信任を得ている。
「パピヨン隊」を持ち、アトラスムスとも何らかの関係がある模様。


また、アトスの塔の「ある人物」が次のような称号があることを発言している。
――『神』。『預言者』。『使徒たち』。『教皇』。『枢機卿』。『大司教たち』。『騎士団長たち』――
これまでにマーゲンが『騎士団長』と呼ばれ、ハミルカルが『枢機卿』と呼ばれ、
シュタインは騎士団長だったにも関わらず、『大司教』と呼ばれていることが分かる。
(これは主人公たちは知らない)


【ありがとうございます。上手にまとまっています!
あと一人、重要そうな人物が抜けていましたので付け足しておきました。】
0083フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/24(土) 15:38:15.60ID:8YY/o3nw
レクトゥスの民たちは浮き足立っているのが宿からでも分かる。
「俺たちのカボチャはどうなるんだ?!!」「明日から襲撃があるのか!?」

時折、アォォォン、と野犬のほえるような声が聞こえたが、それはコボルトの叫び声だった。
ルドルーたちの様子が遠くから嗅覚で分かったのだろうか。

>「団長を錦の御旗として全面に押し出して戦力を結集させるのはどうだろう」

「ううむ…」
アレクの話を聞き、フィッチャーは考えていた。仮にこの敗北が仕組まれているものだとすれば。
そして侯爵が偽者だということが分かれば。
最善の手は騎士団員だけでもこの街を脱出することだろう。
しかし、酒場に押しかけた街の住民に加えてアレクまでが熱気を帯びて提案する。

>「正体を突き止める時間は……無さそうだね。戦いの中で見極めるしかないか」
「これよりここをレクトゥス防衛戦本部とするッ! 各宿屋の主人に参加者募集の依頼をかけてくるのだッ!」

>「あ、はい!」

背中の羽根が白く光り、それは眩しく輝く。セレスティーヌも「うむ」と頷く。

「そうと決まれば旗を立て、我ら一同立ち上がるぞ。まずは軍旗を即席で作ろう。
そして団員たちには真っ白な十字のマントを着用してもらう。夜でも目立つような、な。
奮い立たせよ。さぁそうと決まれば動け! まずは布を用意すること。それから拠点であるここを要塞化する!
知識のある者は率先して動け。費用はシュヴィヤール家が持つ。 それからだ、侯爵屋敷への交渉を頼む。
向こうの動きが無い以上、敵であると決まった訳ではあるまい! さぁ、敵を撃退するぞ! この
セレスティーヌ・ド・ラ・シュヴィヤールが全責任を負う!」

オォォォォ…

一同は沸き立った。

セレスティーヌは酒場で陣頭指揮に入り、アレクの影響もあり、早くも多くの志願兵をかき集めている。
彼女のもとでペトラも加わって要塞化も始まった。
マーテル、デルタは布の他に戦闘必需品をかき集め、戦支度は着々と整っている。

――

「予定通りいったそうじゃないか」

王都・王城の一角でカリストが満足そうに微笑む。その顔からは表情は殆ど伺えない。

「はい。『パピヨン隊』と『テイン』の力があれば大体の策は上手くいくでしょうね。
この前のジェノアも確か、そうでした…ただ、今回は王国の将兵の犠牲も大きいでしょう」

「目的はたったの二つだけだ。『天界』を創り、そしてそのための『基盤』を整理する。
でも人の心は読みにくい。私自身、まだまだ完全に把握できていない。特に『教皇』の動向についてはね」

機嫌が良いのがようやく分かるような、和やかで流暢な口調で地図を指差しながら続ける。

「シュヴィヤール領も落ちたことで、北方の勢力とジャイプールの勢力が初めて、シュヴィヤールの北で隣接する。
つまり、モン族(エイプマン)どもを煽動してあの地域の掠奪を図ったことで、ワン族(コボルト)は怒るだろう。
元々「犬猿の仲」というやつなんだ。ここからは代理戦闘、つまり北方と帝国の激突がいずれは見ることができる…」
0084フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/24(土) 15:38:49.80ID:8YY/o3nw
つまり神聖連合の現状はほぼ領土を侵略されていないアースラント王国領が領土の殆どを占め、その隣にジェノア共和国、
そしてその隣に教皇領等僅かな領土を持つヴィクサス、という状態で、
かつて神聖国領内にあったシュヴィヤール、ゾロアニア、ガントリア、デーニア等は全て侵略されたことになる。

「北方勢が今回の件で腹を立てているようで、既に北辺に軍勢が集結しているようですが…」

「その件は心配ない。「彼女」が今回の迎撃舞台に加わることになっている。そう、ハミルカル殿のお嬢様が、ね」

アトラスムスが城の外を眺める。そこにいるのはマノン・ブライト。
バルカスの妹で、生真面目な性格。今回のバルカスの死で憤り、報復のために神聖連合にジェノアの民として総力を挙げて加担した。
恵まれた武術の才覚に合わせて、特注の兜、身体の線に合わせた流線型の鎧、腰には両側に剣を差している。
これまでにも多くの反乱を鎮圧してきた。兜から僅かにヒュー、ヒューと音を立てて息をしているのだろうが、当然窓からそこまでは確認できない。
周囲にいるのは兵ではない。翼を持った“デイドリームではない”天使たちだ。

「そろそろ、あの子たちを使う時期と考えますか」

「うむ。その代わり、正規軍からは目立たない位置から、ひっそりと、ね」


――


一方、レクトゥスの領主の館では…

「い・い・か・ら、ここからどうやったら無事に僕が帰れるのか、それだけ考えろよ。
お前らさぁ…いくらカネ貰ってると思ってんの。お前もだよ。逃げるのか、投降するのか、一緒に考えろっつってんの。
全くこのザトーラップ様のお陰で今まで食っていけたんだろ? ええ?」

「申し訳ありません、ザトー様」

男――侯爵から差し出されたグラスを叩き割り、侍女の格好をした女を短剣の柄で殴りつけているこの男こそ、
南方ホビットの皇子、ザトーラップ・マドゥレであった。
外見は8歳ぐらいの子供にしか見えないが、これでも50歳ぐらいになるらしい。
ここに来る際は、「侯爵」の息子の一人かもしくは侍従の一人の子供という役柄でひっそりと入居した彼が、ボスだったのだ。
ジャイプール帝国と臣従に近い同盟関係を持つホビット族の代表として、人質としてこの「役」の代表を皇帝たちより任されていた。結構な多額の報酬と信頼を引き換えに。

他に老人役は部下のドワーフが、三人の侍女役は部下の人間がやっている。総勢十数名。
その中でも侯爵役に至っては「ただ顔が元侯爵に似ているから」という理由だけで雇われた下っ端傭兵だ。
屋敷の中に入ってからはザトーラップから部下・傭兵、部下から傭兵という三段カーストによるバワハラが続いている。
精霊魔法使いのザトーラップの戦闘能力は結構なもので、彼に逆らうことができないのが現状だ。実際一人の傭兵が既に死体となって床に埋められている。

「お前ら本当に無能だな! じゃあ僕が決める。僕らは捨て駒にされたのさ。とりあえず傭兵連中、帰りたい奴は帰れ。命は助けてやる。
そのかわり僕と一緒にホビット庄まで付き合ってくれたら、報酬はたんまりやるよ。お前らは大昇進だ。さぁ、出る準備をするぞ。
あ、そうだ。僕良いこと考えちゃった。トビー君には影武者になってもらおう。じゃあちょっと外に出てみてよ」

ザトーラップや他の部下たちに武器を突きつけられ、殆ど戦闘能力を持たない侯爵姿のおっさん、トビーは恐る恐る正面玄関から顔を出した。
0085フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/24(土) 15:39:57.09ID:8YY/o3nw
――


「これはこれは…お目覚めですか、シャルル・ド・ラ・シュヴィヤール公爵殿。私の声、聞こえておられますかぁ…?」

慇懃無礼極まりないアクセントで語るのは、シュタイン『大司教』。

「きさ…ま…!」

「おやおや、それだけの苦痛を与えられてなお口を開けるとは、さすが私の憎きライバル。
いや、搾取される者とでも言っておきましょうか。これが何かお分かりですか?」

『転送導具』で「特注」で運ばれてきたシャルルは、右眼を潰され、右腕と局部を付け根から切断されていた。
それでも尚、必死の形相で左目を見開く。丁度そこにあったのは、磔にされ、悲惨な姿となった妻・アンネの遺体だった。

「貴様…自分のやっていることが何か分かっておるのか…教会とは、こういう事をする場所であったのか…
あのような手で神聖連合を敗北させ、名だたる将軍たちを殺し…何が目的だ…
…娘! セレスティーヌはどこへやった…シュタイン!」

既に殆ど麻痺している両足は鎖で繋ぎ合わされており、そこにバチリと電流が走る。

「言葉を慎みなさい、シャルル。既にシュヴィヤール家は滅びた。神の思し召しで、家は教会に奉職することが決まったのですよ…
娘は必死なようです。私の部下も何人か殺されました。野蛮人と手を組んでね。いずれここに連れてきて差し上げますよ…その頃には
もう「壊れて」いると思いますけどねぇ…それを見せたらお前の左目も潰して差し上げますよ。それまでせいぜい反省していなさい。
愛し合っていた私たちから、アンネを奪い去ったことをね…」

「シュタイン、お前はアンネに一方的に想いを寄せていただけでは…ぐぁぁっ!」
「黙らっしゃい!」

シャルルの両脚に痺れが走ると同時に、シュタインの棍棒での一撃がシャルルを襲い、再び彼は昏倒した。
薄れゆく意識の中、シャルルは思った。
これだけの、まるで何かで読んだ錬金術士の研究施設のような部屋がよもや教会にあるとは…と。
0086フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/24(土) 15:41:34.18ID:8YY/o3nw
――
「わ、わたしに…できるんでしょうか…?」
「いいから、お前しか居ないと思ったんだ。油断させるような適任者がな。
大丈夫だ。乱暴されるようなことがあれば、俺が必ず守る」

ユニスは街娘のような格好で、片手に布袋に入った棒状のもの(棍棒)、もう片方の手に小さなワインのボトルを持って侯爵屋敷を訪れた。
フィッチャーは鎧の上に簡単なジャケットやマントを身に付け、大剣は持っているものの、それなりの身分に見えるようにした。
と、その時扉が開き、突如現れたのは、あの「侯爵」を名乗った男だった。

「あの…何か、御用かな?」
後ろに何人もの従者が気構えているのを見ると、フィッチャーは剣を下げ、ユニスを前に出した。

「あの…ホワイトクロス騎士団の皆様からの差し入れをお持ちしましたので、
侯爵様に挨拶をしたくこの街を代表して上がりました」

「と、いうことなんです。侯爵様。ちょっと中良いでしょうか」

フィッチャーが有無を言わさず、という感じで入ろうとする。ユニスは後ろに侍女が控えているのを見て、
暴行を受けることはないと思い安心したようだ。
つかつかと案内されて入る二人に、思わぬ声が浴びせられる。

「ちょーっと待った! そこのお二人さん。まさか僕の目を誤魔化せると思っちゃいなかっただろうね?
僕には分かる。そこのお嬢さんは結構な魔力の持ち主。そしてその棒状のものは武器…メイスあたりだろう。
で、そこの男。隙が有るようで実は無い。攻撃性・敵意がむき出しだ。ってことだ。お前ら。騙すつもりだったんだろ?
不法侵入だ、捕まえろ!」

「待ってください、わたしたちは偽者だと知って、協力するための話を…!」「問答無用かよ」

斬りかかってくる敵を獲物で弾く。ユニスも同じくワインを置くと、棍棒を素早く取り出して加護魔法を二人にかけながら受けた。
しかし多勢に無勢。囲まれてしまった。

矢を受けながら、飛び掛ってくる傭兵を剣の平の部分で受け、そのまま撲り倒す。
ユニスの方も敵に応戦した。敵は一旦引くと、次に侍女たちが素早い身のこなしで短剣などで飛び掛ってくる。
先ほどよりもずっと速い。「後退するぞ」とユニスに告げるも、そちらは敵への応戦が一杯で、なかなか隙がない。
ユニス側の侍女は太い箒から仕込み杖のように曲刀を取り出し、不意をついて斬りかかってきた。ユニスが腕を斬られ。
棍棒を落としたのがフィッチャーにも伝わる。
「くそっ」

もはや加減はしていられない。フィッチャーは剣を構え直すと、防御能力をほぼ失ったユニスの前に出るように剣を横薙ぎにした。
侍女は曲刀でそれを受けるも、剣の分厚さまでは予測できなかったに違いない。曲刀が飛ぶと同時に侍女の胸から腹にかけてを切り裂いた。
「グァ…あぁぁ…」

溢れ出す臓腑はもはや彼女が助からないことを意味した。その隙にユニスは棍棒を拾い後退しながら次の攻撃を受ける。

「殺した…のか? 僕の可愛い部下を一人やってくれたな、もう構わん、このホビットの長、ザトーラップも参加する。
殺すぞ。お前ら、容赦なくやれ。お前もだよ、トビー」

どうやら偽領主はトビーというらしい。しかし大変なことになった、とフィッチャーは思った。
やはり屋敷になど行かなければ良かったのだ。
敵は動揺させたが豪奢な床は血の海となっており、ザトーラップからは激しい魔力の奔流が見えるようだ。

「今のは自衛行動だ。俺はお前らと交渉に来た。街は帝国だか何だか分からん連中に蹂躙される。
一緒に街を守らねえか!!?」

あぁ、先に言っておくんだったな、と後悔した。全く周囲の殺気が止む気配はない。
と、その時、見知った声と魔力が近づいているのが分かり、二人は振り向いた。
そこに現れたのは、アレクたちだった。

【とりあえず舞台は侯爵屋敷での説得シーンに移ります。
リーダーのホビット・ザトーラップが激怒、ドワーフ、侍女、傭兵など10人程度がフィッチャー、ユニスを襲撃中】
0087アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/27(火) 01:10:28.45ID:fYXnyYwp
セレスティーヌの士気が心配なところだったが、
色々あった直後だということを露ほども感じさせぬ堂々たる振る舞いで見事に民衆を鼓舞して見せた。

>「それからだ、侯爵屋敷への交渉を頼む。
向こうの動きが無い以上、敵であると決まった訳ではあるまい! さぁ、敵を撃退するぞ! この
セレスティーヌ・ド・ラ・シュヴィヤールが全責任を負う!」

そして一行は取り急ぎ、侯爵屋敷への交渉へ赴く事となる。
敵の軍団が到着するまであまり時間は無いため、スピード勝負だ。
大勢で突入して警戒されてもいけないということで、まずはフィッチャーとユニスが町民に扮して入り、様子を見ることとなった。
アレクはマーテル・デルタ・ペトラを引き連れ、様子が伺える場所に待機する。
時間が経っても二人が出てこなかったり、屋敷内で騒ぎが起こった様子の時は突入する算段だ。

「大丈夫かねえ、あの二人……」

「ユニちゃんはいいとして海賊王はただの町民にしては……ごっついかもしれない……」

程なくして、屋敷内から喧噪が聞こえてきて、突入することとなった。

>「殺した…のか? 僕の可愛い部下を一人やってくれたな、もう構わん、このホビットの長、ザトーラップも参加する。
殺すぞ。お前ら、容赦なくやれ。お前もだよ、トビー」

>「今のは自衛行動だ。俺はお前らと交渉に来た。街は帝国だか何だか分からん連中に蹂躙される。
一緒に街を守らねえか!!?」

突入してみると二人は囲まれていて、よく見ると相手方の侍女らしき者が一人絶命している。
偽侯爵側が二人を曲者として問答無用に攻撃を仕掛け、防戦したところ侍女が死んでしまい、泥沼の戦いに突入したというところか。
しかしそれは大事な部下を殺されて激昂した、というものではなく、体のいい口実が出来たといったところだろう。

「"可愛い"部下……本当にそう思ってたのかねぇ」

ザトーラップと名乗ったホビットの長こそが実はこの集団のリーダーであったらしい。
トビーというらしき偽侯爵への態度を見れば分かる、下の地位の者を虫けらのように扱う姿勢。
本当に部下を可愛がっていたとは思えなかった。
恐怖によって統制されている集団は――硬くて、脆い。
その危うい均衡が保たれている間はボスの命令通りに一糸乱れぬ動きをするが、崩れる時は一瞬だ。
0088アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/27(火) 01:13:41.93ID:fYXnyYwp
「う、うわあああああああああああああ!!」

自暴自棄になって先陣切って突っ込んできたトビーという侯爵姿のおっさんの腕を軽く掴んで動きを拘束する。
どうやらこのおっさん、戦闘能力がほぼ皆無のようだ。それを分かっていて行かなきゃ殺すとかいうザトーラップ、マジ鬼畜。

「散々な目にあっているようだね……。こちら側に来れば少なくとも役に立たないなんていう理由で殺したりはしない」

そのままおっさんをドアから屋敷の外に放り出し、声をかける。

「大樹の洞亭に行けばワタシ達の仲間がいる――屋敷が野蛮なホビットに占拠されたとでも言えばいいさ。
一生そいつに怯えて捨て駒にされてのたれ死ぬか、ここで勇気を出すか、よく考えることだね」

暗に増援を呼んで来いと言っている。
ザトーラップのあの人間性では、部下たちにこちらの方が優勢だと思わせてやれば、寝返りが続出し一気に攻勢に転じる事が出来ると踏んだ。
しかし人間性は終わっていても、戦闘能力は侮れなさそうだ。
ザトーラップが纏うのは激しい魔力の奔流。
草原を駆ける妖精ホビット、子どものような姿をしている彼らは、妖精族の例に漏れず卓越した精霊魔法の使い手だ。
何らかの精霊魔法の発動の予兆か――

「《フラッシュ》!」

目くらましの魔法で精神集中を乱し、発動を遅らせる。

「アイツの精霊魔法を封じないとまずいね……」

とペトラ。
その時、侍女風の部下の一人がチェーンウィップのようなものを振るい、こちらを一網打尽にしようと襲い掛かってきた。
首尾よくチェーン部分をデルタがとっさに杖でからめとり、マーテルがボウガンで応戦。
女は思わず武器から手を離し、ペトラがその隙に暗殺者らしい動きで掠め取った。

「アレク! 任せたよ! 精霊は金属を嫌う――!」

「分かってる!」

チェーンウィップを渡されたアレクは、それをザトーラップに接敵して振るい、彼にをチェーンを巻きつけようと試みる。
精霊は銀以外の金属を嫌うため、精霊魔法使いは金属製の鎧を着ないと聞いた事があるのだ。
0089フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/27(火) 17:44:06.99ID:fYX7ul1g
>「散々な目にあっているようだね……。こちら側に来れば少なくとも役に立たないなんていう理由で殺したりはしない。
大樹の洞亭に行けばワタシ達の仲間がいる――屋敷が野蛮なホビットに占拠されたとでも言えばいいさ。
一生そいつに怯えて捨て駒にされてのたれ死ぬか、ここで勇気を出すか、よく考えることだね」

アレクはセレスティーヌ以外の全員を連れて屋敷の逆に包囲してしまっている。
さすがデイドリームの知覚、といったところだろうか。

「助かった…お前は、あの時の「三日月の」…!」
「さっさと逃げるこったね」

ペトラとかつて共謀していたらしきトビーはさっさと屋敷より退散。
これにより屋敷のメンバーに動揺が走る。

しかし、ザトーラップの放つ魔力は彼らの逃亡意欲を損ねていた。
以前より植えつけられていた恐怖はそう簡単に解けない。

>「"可愛い"部下……本当にそう思ってたのかねぇ」

「あぁ、みんな忠実で熱心な部下たちだったよ…彼らはカネと富さえあれば何でもやってくれる。それが南の常識。
使える奴、強いやつは上にいける…彼女は弱かったから死んだんじゃないかな?」

と、言いながらブワブワと緑色のオーラを纏う。素早い精霊力の展開は彼らの得意技だ。
全員の動きが素早くなり、フィッチャーやユニスへの攻撃も激しくなる。
敵も洗脳されている訳ではない。仲間の死を目の当りにして動きは慎重になっている。
それでもユニスの棍棒を再び叩き落すまで時間はかからなかった。

「くそっ、秘密兵器とか持ってないのか?!」

フィッチャーがそう後ろに呼びかけたところ…

>「アレク! 任せたよ! 精霊は金属を嫌う――!」

いつの間にか侍女の一人の武器であるチェインウィップをデルタが絡め取り、
ペトラ、さらにアレクへとパスされた。

「おのれ…!」
0090フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/27(火) 17:44:39.35ID:fYX7ul1g
チェーンを巻きつけられたザトーラップは次に恐らく味方ごと巻き込もうとしたのだろう
風の精霊魔法を止められ、慌てふためいた。その一瞬をフィッチャーは見逃さなかった。
ガィィン…!

バタリ、とザトーラップが地面に倒れ伏す。そこを他の三人が周囲をけん制しつつ封じた。
フィッチャーもジャケットを脱ぎ捨てて徹の鎧を脱ぎ、ザトーラップ封じに動く。
そして、アレクが合図をすると、それに同調して尚も攻撃を続けようとする敵の前で、土下座した。

「頼む、この通りだ。今は殺し合っている場合じゃねえ。もう領主ごっこは終わりだ。
これからはシュヴィヤール家庇護下にあるホワイトクロス騎士団の下で、理不尽な敵に抗戦しよう。
そして、無理だと思ったら一緒に逃げよう。そこのチビにはとりあえずしばらく大人しくしてもらう。
何かあれば交渉役ぐらいにはなるだろうよ」

屋敷のメンバーは顔を見合わせていたが、止む無しといった感じで受け入れた。
最初にドワーフが口を開いた。

「ワシらの身分を保証するなら、協力してやらなくもないぞ」

「あ、とりあえずトビーを捕まえておいてくれ」
フィッチャーが慌てて後ろを見ると、丁度マーテルとデルタがトビーを連れてきたところだった。

「とりあえずお前らにはそいつを運んで、こっちの拠点に移ってもらう。
トビーには一応、ホワイトクロス騎士団を公認した侯爵として振舞ってもらわないとな」

「アイラ、良い子だったのに…きっとそこのチビッコのつまらない愚痴や話を一番良く聞いてくれたの、この子よ。
多分、チビッコは本気で悔しいと思ったんじゃないかな…」
「すまなかった」

フィッチャーが踵を返すと、先ほど殺した侍女が腸を戻され、包帯で巻かれて箱のようなものに安置されているところだった。
そして戦闘のあった形跡も綺麗に拭われようとしている。それだけの装備がこの館にはあった。

ザトーラップの護送が行われている頃、最後尾にいたフィッチャーはコボルトたちの動きに気付いた。
その中でも最も大柄な男。それはルドルーに違いなかった。

「あいつらには悪いことをした。団長の代わりに俺が謝っておく」
「いや、そのようなことは良いのだ。私がドクラで受けた屈辱はな…」

カボスらと合わせても20人程度しかいないと思われるコボルトたちは一様に悲しげな表情をしていた。
明るく陽気な彼らがこれほどまでに落ち込むとは。

どうやら、ルドルーの話によると、後詰めとして入ったルドルーはコボルトの指揮官であるドーベル将軍の支援をしている間に、
「信じられないもの」を見たらしい。
特に問題なく防戦している彼らが突然「消えた」というのだ。それも、デイドリームの一団が現れた途端に。
そして気がつけば彼らは敗走し、陥落した要塞とドーベルやハウザーを含む大勢の死体が取り残されていたという。
内通者がいて、その何らかの魔術が原因で大敗したのだ。

「そういうことか…ところで、俺らの団に入って一緒にここで抵抗しないか?
もしかしたらその将軍の仇を討てるかもしれないぜ」
「何を馬鹿なことを…む、その旗はもしや…!」

驚くルドルーの声に振り向くと、外装を大きく変えた大樹の洞亭に大きな白十字の旗が翻っていた。
戦いの準備はだいぶ順調のようだ。
0091フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/27(火) 17:45:37.73ID:fYX7ul1g
――

その後、フィッチャーらは布屋から繁華街の娼婦にまで声をかけ、
あちこちで支援できる人物、物資を募った。
その結果、要塞は騎士団員と館の住人で約20名、コボルト約20名、
街の自警団員約20名、それと有志を合わせると100人程度が戦力となった。
一部はザトーラップの名を借りて雇った冒険者もいる。

既に塞がった、先ほどの戦闘の傷にキスをされると、フィッチャーはセレスティーヌにキスを返した。
薄着になったセレスティーヌを横たえると、自らは鎧を完全に着込み、部屋の外へと出かける。
これからまだまだ打ち合わせや準備がある。皆が皆、交代しながら寝ているのだ。

「セレス、これだけは聞いてくれ。危なくなったらお前一人でも逃げろ。良いか?
今回の迎撃は負けるのが前提なんだ。その場合の人員はこっちで用意してある。
俺はただの兵だ。だが必ず生き残ってお前の元に戻る。だから振り返らないでくれ」

セレスティーヌともう一度抱擁をかわすと、その場を離れた。

――

「来たぞー!」
「了解、作戦通りに頼む」

敵の第一波はコボルトの見張り、カボスによって発見された。
まだ夜明けの時間帯、ガーゴイルやワイバーンが数十頭、恐らくは空中からの爆撃や魔法などが目的だろう。
こちらの威力偵察といったところだ。
要塞はこの時点では一見すると宿にしか見えない。

半鐘の音が響き、住民たちが目を覚まし避難する。しかし、その数は決して多くはない。
あくまで通常通りやられているのを見せるのが目的だ。

飛竜たちが脚に括り付けたものを落とすと、それは爆発する。
同時に飛竜のブレスやガーゴイルのビームでも容赦なく攻撃は続き、
館は易々と炎上していった。
さらに回るようにして議会、教会、冒険者斡旋所、自警団詰所などに容赦ない重爆撃を行っている。
アーアーと大声をあげながら逃げ惑う住民。

窓の隙間から良く見ると、ガーゴイルや飛竜たちの多くは無人だ。
中央に一際大きな飛竜が二頭おり、その下に櫓のようなものがある。
そこが指揮官の居場所のようだ。高い位置にいる上、魔法でバリアが張られている。
0092フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/27(火) 17:46:14.48ID:fYX7ul1g
「もういい?」
「いや、もっと引き付けろ、引きつけてぇー、よしっ、やれ!」
「今ベタベタ触ったの、後で仕返ししてやるから…みんな、今だよ!」

マーテルの合図によって一斉にボウガンや矢によって要塞化した宿から矢が放たれていく。

「さんざんコケにしやがって、帝国め…僕の実力ってのものを見せてやるよ!」

そしてザトーラップの精霊魔法によって緑色の風が飛竜に大ダメージを与え、櫓が高度を落としてグラリと傾いた。

「怯むな! 敵はわずかで、地上だ。さっさと爆薬とレーザーでカタをつけろ!」

敵の司令官が怒鳴ったその時だった。

「ホワイトクロス騎士団、続けぇ!」

セレスティーヌが屋根の上に乗り出し、白い十字の旗を掲げる。
すると、宿の各所、町の各所に白い旗が翻る。

「全員、総力をもって撃ち落とせぇ!」

先ほどよりも多くの弓兵、コボルトたちが現れ、全力で空の爆薬をほぼ使いきった爆撃隊を襲う。
ギャァ、という飛竜の声と同時に、騎乗兵が呻きながら落ちていくのも聞こえる。
しかし、それでも残った爆薬やレーザーがレクトゥスの民たちを襲った。宿はアレクら数人の防壁によって護られるも無事ではない。

「俺の出番か…」

絶大攻撃力の加護をかけている張本人、アレクと目を合わせ、コクリと頷く。これを外せば終わりだ。
「うおぉぉおおおおお!!!」

櫓を支えているもう一頭の飛竜に向けて飛んでいったのは愛用の大剣。
それは飛竜を空中で無残な肉片へと変えた。

「馬鹿な、落ちるぞ!」
「やれぇ!」

落ちた櫓は大きく頑丈で、将と何人かの兵たちが乗っていたが、
そこにはペトラとドワーフが火薬を持って既に構えていた。

「ギャアアア!!」

ドォォン、という爆発音の後、壮絶な爆発が起こり、噴煙が空へと舞う。
中にある爆薬に引火して誘爆したようだ。

「くそっ、こんな馬鹿なことが…逃げろォ!」

飛竜に乗った帝国兵が指揮を引き継ぎ、追撃を受けながらも辛うじて退散していった。

「オォォォォオオオオオ!!!」

爆撃を乗り切ったという、勝鬨の声が上がった。ルドルーは櫓の中を確かめるも、全て即しといった猛烈に臭い赤い血の塊が沢山残っているだけだった。
「くそっ、勢いよくやりすぎたか」
「いや、向こうで一人捕まってるよ。もう手遅れかもしれないけど」

捕虜を捕まえたかったフィッチャーだったが、勢いに乗った住民によって既に息の根を止められており、
数時間後の第二波を待つこととなった。

「人間の憎しみというのはこうも深いものか…」
ルドルーが呟いた。
0093フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/27(火) 17:50:34.42ID:fYX7ul1g
――

「どうするんだよ、これ」

カボスがあまりの人数に怯える。
複数ある見張り台と宿の屋上からの見た感じによると、どうやら敵は
トロールを前面に押し出した帝国軍およそ2000。それもその後ろにも敵が控えているらしい。

「ありゃトロールが率いられてるんじゃなくて、トロールが率いてるんだよ。お前ら良く聴いとけよ」

偉そうに語るザトーラップによれば、仇敵であるトロールの将軍の一人、アウルス・モルサスを確認したらしい。

「くんくん、ちょっと待て、あれ、敵じゃねぇか…囲まれてるぞ!」

ふと、コボルトたちが吼えはじめる。どうやら帝国軍が接近している南側とは反対の北側から、
エイプマンの軍勢が200人以上いるらしい。

「こりゃ、勝てねぇだろうな。生き残る策を考えよう。非難経路について街の連中にも聞いておけ」

そう言うと、傭兵の一人が駆け出していった。
先ほどの爆撃の際は、殆どの住民はこの街の地下に潜んでいたのだ。

敵の中で隊長クラスと思われる帝国兵が魔法を使い、こちらに脅迫をかけてくる。

「先ほどの不意打ちに対する報復である! 速やかにレクトゥス市民は武器を置いて投降せよ。
命だけは保障してやる! まずは首謀者、セレスティーヌの身柄を引き渡してもらおう」

「断る!! 貴様らはドクラ要塞で行った虐殺について説明する義務がある!!」

ルドルーが魔法の導具を仲間から借り、大声で勝手に怒鳴る。怒りがまさに心頭に達しているかのようだ。


「俺は敵が接近したら一部の屈強な奴らと先駆けをしてくる。
その間にお前ら逃亡かゲリラ戦の準備しとけよ」

用意された騎馬は50頭程度。
フィッチャーをはじめ、ルドルー、マーテル、デルタ、他に館や自警団、冒険者から数人が
駆け出していった。

朝日は既に昇っている。

【レクトゥスへの一次侵攻を撃退、その後、帝国軍らはレクトゥスに二次侵攻を開始。】
【フィッチャー、マーテル、デルタが前線へ。その他は避難やその他作戦の準備に】
0094アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/29(木) 02:43:24.14ID:/SqkTQQy
チェーンを巻きつけて精霊魔法を封じたところから一気に押しきり、ザトーラップの無力化に成功。
こちらの優勢がはっきりしてきた絶妙のタイミングで、フィッチャーが頭を下げる。

>「頼む、この通りだ。今は殺し合っている場合じゃねえ。もう領主ごっこは終わりだ。
これからはシュヴィヤール家庇護下にあるホワイトクロス騎士団の下で、理不尽な敵に抗戦しよう。
そして、無理だと思ったら一緒に逃げよう。そこのチビにはとりあえずしばらく大人しくしてもらう。
何かあれば交渉役ぐらいにはなるだろうよ」

>「ワシらの身分を保証するなら、協力してやらなくもないぞ」

思った通り、なかなか話が分かる者が多いようだ。

>「あ、とりあえずトビーを捕まえておいてくれ」
>「とりあえずお前らにはそいつを運んで、こっちの拠点に移ってもらう。
トビーには一応、ホワイトクロス騎士団を公認した侯爵として振舞ってもらわないとな」

戦闘に巻き込まれないようにいったん外に逃がしておいたトビーをマーテルとデルタが難なく連れ戻し
表向き侯爵として振る舞ってもらうことに同意を取り付ける。

>「アイラ、良い子だったのに…きっとそこのチビッコのつまらない愚痴や話を一番良く聞いてくれたの、この子よ。
多分、チビッコは本気で悔しいと思ったんじゃないかな…」
>「すまなかった」

先程はいかにも部下を見下す最悪な支配者といった態度だったので、意外に思うが、嘘を言っているようにも見えない。
ザトーラップは良くも悪くも狡猾な支配者などではなく、見た目相応のわがまま放題のお子様なのだとしたら辻褄が合う。
ただしそのわがまま放題の程度がとてつもなく過激、ということだろう。
こうして、何とか偽侯爵の一団を仲間に引き入れることに成功したのであった。

++++++++++++++++++++++++++++++

その後、主にフィッチャーの求心力、一部ザトーラップの名によって、瞬く間に100人ほどの戦力が集まった。
そしていよいよ敵の第一波のご到着だ。

>「来たぞー!」
>「了解、作戦通りに頼む」

指揮官の居場所らしき櫓をひっつけた飛竜を狙い撃ちにする。

>「ホワイトクロス騎士団、続けぇ!」
>「全員、総力をもって撃ち落とせぇ!」

こちらの怒涛の攻撃に、敵も負けじと爆薬やレーザーで反撃してくる。
0095アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/29(木) 02:45:45.50ID:/SqkTQQy
「《ホーリィ・シールド》!」

アレクは他数人の術者と連携して魔法障壁を展開し、本部の宿を最小限の被害に抑える。

>「俺の出番か…」

「――《フル・ポテンシャル》!」

攻撃力を極限まで強化する加護をフィッチャーにかけ、目配せする。
それを受けたフィッチャーは、全力で愛用の大剣を投げつけたのだった。

>「うおぉぉおおおおお!!!」

大剣は見事に飛竜に直撃し、それを肉片に変えた。
哀れ、落下した櫓は、ペトラとドワーフの手によって爆発オチと相成った。

>「ギャアアア!!」

>「くそっ、こんな馬鹿なことが…逃げろォ!」

――こうして無事に(?)第一波を退けたのであった。

++++++++++++++++++++++++++++++

続く第二派も第一派の勢いに乗って――といければ良かったのだが、始まる前から絶望に包まれていた。
単純な敵の数だけでも絶望的な上に、どうやら囲まれているらしい。

>「どうするんだよ、これ」
>「こりゃ、勝てねぇだろうな。生き残る策を考えよう。避難経路について街の連中にも聞いておけ」

傭兵の一人が完全に戦意喪失して駆け出して行った。

>「俺は敵が接近したら一部の屈強な奴らと先駆けをしてくる。
その間にお前ら逃亡かゲリラ戦の準備しとけよ」

逃亡かゲリラ戦――もはや負け戦前提である。
もう全員で逃げればいいんじゃないかとも思うが、こちらが言いだしっぺである以上今更引っ込みがつかない。
戦争とは往々にしてそういうものである。
フィッチャーは、騎士団からはマーテルとデルタを引き連れて行った。
アレクも一緒に行こうかと申し出たところ、ここに残って後方を頼むとのこと。
普通に考えて高位の神聖魔法が使えるアレクは前線に連れて行きそうなものだが、敢えて後方に残したのは
この状況を打開する何かをやってくれるのではないかという一縷の望みを託しているようにも見えた。

「……といってもねぇ……」

フィッチャー達を見送り暫し途方に暮れていたところ。
大樹の洞亭の主人が、口を開いた。

「この街の起原が、旅人が一夜の宿にしていた大樹っていうのは知ってるよな?」

「ああ、あの中央広場にある柱みたいなのがそうでしょ?」

今は枯れ果てた巨大な幹だけ残っていて、単なる茶色い極太の柱のように見えるが、
その昔は無数の枝を持ち艶やかな葉が生い茂る巨大樹で、遠くから見ても分かる街のシンボルだったそうだ。
0096アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/06/29(木) 02:50:25.92ID:/SqkTQQy
「言い伝えによるとただの大樹じゃない。
精霊樹エント――大樹の姿をした大精霊で、その昔永きに渡ってこの街の守り神を務めた」

"精霊"なのに守り"神"とはこれいかに。別におかしな話ではない。
今のように特定の神を崇め奉る宗教が一般的になる以前の時代は、神と精霊の区別は曖昧なもので、本質的には両者は同じものだった。
その昔は神格級の精霊もたくさんいたそうだが、今ではその殆どが下級精霊に失墜してしまったそうだ。

「丁度一神教が台頭してきた頃の時代。エントは"この街はもう我無しでも大丈夫だろう"と言い長い眠りについた。
ただし"もしも遠い未来、街に危機が迫った時は起こせ、必ずや力を貸そう"と言い残して――
……っていってもなあ。こんなお伽噺みたいな話しかできなくてすまないな」

暫し場に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、アレクだった。

「――よし、起こそう」

「えっ」

コイツ正気か、といった視線が注がれる。

「聞いただろう? "逃亡"か"ゲリラ戦"って。常識の範疇ではもう負け確定ってこと。
万が一勝てる可能性があるとすれば……奇跡を起こして一発逆転しかないんだ。
どうせ他に有力な手段も無い、駄目でもともとで賭けてみるしかないだろう。
大樹の幹の洞は地下に続いているんだろう? 手掛かりがあるとしたらそこしかない」

「……それもそうだな。しかし洞は魔物が沸いて今や地下ダンジョンのようになっているだろう。くれぐれも気を付けて行って来い」

「ユニス、ペトラ、それから……ザトーラップ、付いてきてくれるかな? 相手が精霊なら精霊使いの力は役に立つだろう。
セレス団長は引き続き皆の指揮を。いざとなったら……避難の誘導を。もちろん団長もちゃんと逃げるんだよ!」

そうして一行は、一縷の望みをかけて地下ダンジョンと化した大樹の洞に足を踏み入れるのであった。

【戦記物風になってるところにいきなりファンタジー全振りのネタをぶっこんでみる。
多分日曜日の夜ぐらいまで投下できないのでいったんここで投下しておきます。
今はシーンが分かれているのでそちらはそちらで前線のシーンを進めて貰えばと思います。
もちろん気が向けばこちらのシーンをNPC等を使って進めて頂いても構いません。
特に支障が無ければダンジョン攻略後にエント起こしちゃう予定】
0097フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/06/30(金) 16:51:43.22ID:0fgcZS1q
騎馬隊に志願したのはおよそ30名、残りの馬はセレスティーヌらが脱出を図る際にために
残しておいた。そもそも、一戦目で膨れ上がって100名強になったとはいえ、その中の30人。
全てが馬を使いこなせるかというとそんな訳はない。マーテルやデルタでさえオドオドする様子だ。
それも馬そのものも騎馬隊用としてはたまに自警団員が訓練を施すのみで、実戦には殆ど慣れていない。
フィッチャーはともかく、ルドルーに関しては大分重量オーバーなようで、馬も全力を出し切れるかどうかは怪しいところだ。

「くそっ、アレクをこっちにも用意しておくんだったな、これじゃまるで…」
「『決死隊』といったところか?」

ルドルーが周囲の一部体格の良いコボルトを見ながら言う。
「そうかも、それねえな…」

と、帝国軍から喇叭の音が聞こえ、一斉にトロールと本隊が動き出した。
あくまでトロールの役割は破壊兵器のようなもの。
トロールは光に弱いが、故に黒い鎧のようなもので全身を覆っている。これを剥がさなければ話になるまい。
同時に帝国歩兵、騎兵などが続々と出撃していった。
後方に居る異常に体色の黒い豪奢な鎧を着たトロール、あれが「アウルス・モルサス」なのだろう。

レクトゥス側は只でさえ少ない兵を訳たために、全体で戦闘員は100名程度、
防壁どころかまばらに敷かれた柵のようなものの裏に自警団弓兵や傭兵魔術士が隠れ、その隙を前衛が埋めるような形だ。
何らかのプラス効果が無ければあっという間に数で押し切られるだろう。

「行くぞおおお!!」

フィッチャーは馬で早駆けをすると、敵の軍勢の脇腹を付いた。
フィッチャーが剣を一振りする度に帝国兵たちの胸から上が吹き飛ばされていく。
騎馬の速度と加護の力にフィッチャーの打力が加速されて物凄い勢いを出している。
それは精鋭をも甲冑や武器ごとたたき斬るに充分足りえた。

脇ではコボルト隊が同じように敵を蹴散らしていた。
特にルドルーの攻撃は凄まじく、一駆けする度に両手に持った剣により敵が二列になって倒れていくようだった。
「怯むな、魔法兵迎え討て! 敵の騎馬隊を追え、少数だ! 一気に潰せ!」

モルサスの声が轟音のように響き、それだけで馬が怯んだ。
予定通りそのまま敵の脇をすり抜けて森沿いに帝国軍の奥へと向かっていく。
大将の首を狙うというのもあるが、純粋に攪乱のためだ。

傭兵や自警団含む半数近くが、この後の迎撃で落馬を喫した。
後ろで悲鳴が上がるが、もはやフィッチャーはそれどころではない。気がつくとデルタとマーテルまで見失っていた。
馬がボロボロだ。それは近くにいるルドルーにも見られた。

敵の騎馬隊が迫る。ずっと頑丈な帝国の騎馬兵は、まるで巨人のように見える。
フィッチャーが取って返すようにして叫びながら突っ込む。
ドッ、という音とともに敵の騎兵の上半身が吹き飛び、同時に臓腑を垂らしながら下半身も落馬する。
フィッチャーは鐙を外すと、さっさと敵の馬に乗り換え、再び駆け出した。
ずっと大きく強靭でアーマーまで付いている帝国の馬は強靭だ。
0098フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/06/30(金) 16:52:07.52ID:0fgcZS1q
「その手があったか!」

ルドルーは同じようにして信じられないような勢いで他のコボルト隊とともに取り囲み、
騎兵たちを次々と撃破、馬を奪っていった。既に肉体は矢や剣傷でボロボロだ。
フィッチャーも同じようなものだった。

フィッチャーたち十数人は、さらに迫る帝国の大軍、さらにモルサスによって追い詰められ、敵中に完全に孤立していた。

「私はここに残る! コボルトの誇り高き兵たちよ、最後まで戦いたい者は私に続け。逃げたい者はそこの男、
フィッチャーに続いてレクトゥス方面に撤退せよ。…決死隊をこれより編成する…!」

コクリと頷いたルドルーはフィッチャーを逃がすつもりなのだろう。
「「決死隊」ってのは死ぬための部隊じゃねぇ。「死ぬ覚悟がある」軍隊だ。また、会おうや…!」

そう言うとフィッチャーは踵を返し駆け出した。ルドルーらコボルトたちは扇形に広がり、敵を受けた。その間に後ろから回りこむ。
目の前にはマーテルの姿があった。既に落馬し、脚を引きずって敵の方に向かっている。
「マーテル、そっちは敵だ、デルタは…?」「デルタが…」

既に壊滅した騎馬隊は敵に囲まれ、どのような状態になっているかは分からない。しかし、
あの中にデルタがいるのは確かだ。フィッチャーはマーテルを持ち上げ、強引に自分の前に乗せた。
「死ぬのだけは勘弁してくれ。俺がどれだけ時間をかけても助けてやる。だから今は…」「デルターー!」
フィッチャーはマーテルに腕を噛まれた。腕から血が滲み出した。それでもフィッチャーは痛みに耐え、レクトゥスめざし駆け出した。

その時だった。

――ボロボロになった柵、味方と敵の死体が並ぶその場所から轟音とともに現れた者がいた。
トロールたちは既に前衛の兵たちを蹂躙し、街人たちを次々持ち上げ、潰そうとしている。

そこに地中から現れたのは、紛れもなくエントであった。
『森の巨人』と呼ばれるこの種族は、この地域ではないが、神話や歴史書によれば
古くからトロール種族との因縁があり、時には虐げられ、大樹に扮して各地に潜んで生活していたという。
彼らがまさに今、宿敵トロールとの対決をしている。
その巨躯はトロールより大きい者もおり、力だけでも互角といったところか。

トロールたちはエントたちの登場にすっかり興奮し、同時に狼狽している。既にそちらにしか目が行っていない。
恐らく後方のモルサスもこの状況には気付いているだろう。
既に一部のトロールは鎧を剥がされ、真昼の太陽を浴びて弱体化されている。
これが悪化すれば彼らはたちまち石になって死亡してしまうだろう。
エントの一人の上には輿に乗って指揮を執るザトーラップの姿がある。彼の存在は森との親和性を高めており、
少なくとも彼の気性を彼らに悟られなければ、心強い同盟者となってくれるだろう。

しかし、これらの攻撃は帝国軍とレクトゥスとの間に壁を作ったに過ぎなかった。
帝国の人間の将兵たちはなおもレクトゥス攻撃を続け、どうやら街の奥では火の手が挙がっている。
爆発が何度か起こった。どうやら挟み撃ちに遭ったらしい。

――

レクトゥスの手薄な北部ではエイプマンたちの襲撃が行われていた。

旗を振るセレスティーヌは騎馬に乗ったまま、ユニスとともにレクトゥス脱出の手筈を整えていた。
勿論、レクトゥスに住まう全ての民たちを逃がすために。
アレクも既に前線でのエントの指揮をザトーラップに任せ、こちらに移動してきている。
0099フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/30(金) 16:52:29.51ID:0fgcZS1q
「ウホォ! まずは糞犬どもがいるぞ、こいつらから皆殺しだ。パトロン様は皆殺しにしろ、との仰せだ。
街がボロボロならボロボロなほど報酬もバナナも大量だとよ! 男は殺せ、女は犯せ、そして犬は根絶やしにせよ!!」

エイプマンの中でも特に巨大な、身の丈3mほどある大猿が巨大な棍棒を振り回しながら叫ぶ。

「セレス、あんたらは上手くみんなを逃がすんだ。おいら達ぁこいつらにだけは負けねぇ…
最後の一兵まで戦ってこいつらの死体をルドルー様たちに見せびらかしてやるぜ」

アレクの加護を受けたコボルト十数名が異常な士気の高さでエイプマンたちに対抗していく。しかし、多勢に無勢。
そこに自警団員や傭兵を加えた50人弱程度では、100以上の猛烈なエイプマンの攻撃にはかなわない。

辛うじて街の外へと抜けたセレスティーヌらが横腹を突かれ、ついに数名のあぶれたエイプマンが民間人に危害を加えはじめた。
男たちが頭を潰され、女たちは街の方へと引きずられていく。
「離しなさい!」「無茶な・・・」

ユニスが前に出るも、あっという間に棍棒やナイフの一撃に倒され、そのまま服を剥かれ、街のほうへと引きずられていく。
「くっ、これを使うしかないか…!」

ドォォォォン…!! 

その爆発を起こしたのはペトラだった。いずれはわが身、と考えたのもあるが、
これだけの人数を一気に安全圏に出すためにはこれしかない。
エイプマンたちのいる方向へと爆発と毒と煙幕の三重奏をぶちかました。

辛うじて彼らは逃げていったものの、今度は矢が彼らを襲った。
「くっ、そんな…!」

レクトゥス側の屋根や森の樹に潜んでいたエイプマンが飛び道具で応戦している。

――「逃げなさい!」

その時現れたのは、なんと、あの「侯爵」トビーだった。
「ト…」「侯爵様!」「危ないです、領主様は早くお逃げになってください!」

セレスティーヌらはトビーの正体に気付きつつ、口を押さえた。
随伴している自警団員も勢いで、潜んでいるエイプマンを次々に討っている。
「仕方ない…ト、いや、侯爵様、私たちも加勢します!」

侍女二名もそこに援護に入る。
コボルトたちとトビーらによって、多くの市民たちは北の包囲を破り、
森を避けるようにしてアースラント王国方面へと抜けていった。
0100フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/06/30(金) 16:53:28.15ID:0fgcZS1q
辛うじて受けている彼らだったが、強敵の存在を忘れていたことに気付く。
ドスッ、とトビーへとず太い棍棒の一撃が入ると、その瞬間に受けた剣、肋骨や内臓が全て砕け、致命傷となった。
「ぐぉぉっ、俺は…これで良かったんだ… 俺のやりたかったことは、こういう事だったのかもしれないな…」

息を引き取ったトビーは、攻撃の主、エイプマンの隊長・ユングにそう呟いた。

「悪ぃけど、逃がさねーから。そこのネーチャン、犯して壊して任務完了、そー言われてるから」

ズシン、という男を立て、エイプマンのボスがセレスティーヌを指差す。
周囲からも彼とともに侍女二名を数で押し切ったエイプマン五名ほどが姿を現す。
「俺らもお前ら絶対殺すウホ」

万事休すという、そのときだった。

――ドッ…

グッ、という声すら漏らさずにバラバラとその姿を散らしていくエイプマンたち。
その一撃はユングの肉体にすら掠めていた。
騎馬に乗ったフィッチャーが現れ、大剣を持って下りた。

「セレスティーヌ、こいつを連れてさっさと逃げろ。この馬は頑丈だ。街の連中はマーテルに任せる。
お前だけは助かれ。後で兵を挙げるためにもな。そのままアースラントのどこかに行くんだ。
とにかく生きてくれ。俺はこいつらを片付ける。行くぞ、アレク!」

怪我をした侍女二名を乗せてもらうと、セレスティーヌは旗を捨てて一気に駆け出していった。
マーテルは馬から降りてペトラとともにレクトゥスの民たちを生き残った自警団とともに案内していく。
離れたレクトゥスの街ではまだコボルトたちが抵抗していた。しかし、徐々に帝国兵たちの喧騒の声も大きくなっていく。

「アレク。俺はこいつだけはぶっ潰す。セレスへの暴言と、『侯爵様』を殺した弔い合戦のためだ。
お前は俺の援護をしながら、エントたちとあのチビをこっちに合流させてくれ。
そうすればきっと一番犠牲が少なくて済む」

「おい人間、オレさまにかなうと思ってんのかよ、その天使と一緒に手足と羽をもぎ取ってやるぜ!」

勢い良く振り下ろされた棍棒に、フィッチャーは素早く大剣を構えて睨みつけていた。


【街の南側、北側が破られレクトゥスはほぼ陥落。
現在、前線では内部に侵入した帝国軍の一部及びトロールとザトーラップ率いるエント勢が戦っている。
街の中心部は帝国軍によってほぼ占拠。偽侯爵死亡。
街から南に離れた地点ではルドルー隊がトロールの将軍と対峙したきり消息不明。またデルタらも行方不明。
街から離れた北ではエイプマンの包囲を辛うじて破りマーテル、ペトラら数人がレクトゥス民たちを脱出非難させている。さらに先にセレスが逃亡。
街の北側付近でエイプマンのボス、ユングとフィッチャー、アレクが対峙。カボスらが抵抗中。】

【起こしちゃいました。一気に進めちゃってすみません(汗】
0101フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/06/30(金) 16:57:31.76ID:0fgcZS1q
【忘れてました。ユニスは爆発の時にこちら側にいたので、剥かれたままこちら側で大怪我をして倒れています。】
0102アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/07/02(日) 23:38:40.87ID:N9fqD7Pp
木の洞の最深部には、エントの一族が住んでいた。
彼らは聖ヴィクサス教会勢力に敵対心を抱いているようだった。
その昔、教会勢力が台頭する過程で、様々な下級神や精霊を異教の悪魔として迫害し
エント達も例に漏れず、森を焼き払ったりされたらしい。
そのせいで、彼らの王である大精霊は眠りにつくことになったそうだ。
ちなみにデイドリームはその時代から神の使いとして祭り上げられていたため、彼らの覚えは猶更悪い。
ちなみに、ある学説によるとデイドリームはヴィクサス神聖教が出来る前から普通に存在していたらしいが
それを認めるとヴィクサス神とデイドリームが無関係ということになり都合が悪いため、当然教会勢力は認めていない。
結局「力を貸してほしくばその決意示してみよ!」と、エントの一人とありがちな力試しになり、勝利。
約束は約束ということで彼らの協力を取り付けることに成功した。

アレクはエント達の指揮はザトーラップに任せ、市街戦の方に合流する。

「《ブレイブ!》」

戦意高揚の加護をかけ敵に対抗するが、多勢に無勢。次第に戦況は不利となっていく。

>「ぐぉぉっ、俺は…これで良かったんだ… 俺のやりたかったことは、こういう事だったのかもしれないな…」

「侯爵!?」

ペトラのユニスを巻き込んでの苦肉の爆撃に続き、あれよあれよという間にトビーが特攻し命を散らす。

「無茶しやがって……」

言葉はふざけているようだが、悼んでいないわけではない。
彼を屠ったエイプマンのボスを静かに睨みつける。

>「悪ぃけど、逃がさねーから。そこのネーチャン、犯して壊して任務完了、そー言われてるから」
>「俺らもお前ら絶対殺すウホ」

「ワタシ、貴方達みたいな下品な奴らは嫌いなんだよね。ウホってギャグかよバナナでも食っとけサル」

強気を装って身構えるも、この人数で対抗するのはキツイか、そう思っていた時だった。

>「セレスティーヌ、こいつを連れてさっさと逃げろ。この馬は頑丈だ。街の連中はマーテルに任せる。
お前だけは助かれ。後で兵を挙げるためにもな。そのままアースラントのどこかに行くんだ。
とにかく生きてくれ。俺はこいつらを片付ける。行くぞ、アレク!」

大剣を構えたフィッチャーが颯爽と現れ、次々と取り巻きのサル達を切り伏せていく。

>「アレク。俺はこいつだけはぶっ潰す。セレスへの暴言と、『侯爵様』を殺した弔い合戦のためだ。
お前は俺の援護をしながら、エントたちとあのチビをこっちに合流させてくれ。
そうすればきっと一番犠牲が少なくて済む」

「分かった!――《フルポテンシャル》!」

最大出力の加護をフィッチャーにかけてから、光の翼を広げてザトーラップ達のいる方に飛び立つ。
アレクは飛行能力があるので、戦況に合わせて臨機応変に移動したり、伝令役にもってこいなのだ。

「ザトーラップ! ここはもういい、ワタシ達の方に合流するんだ!」

「何言ってるんだ、ここを捨てたら……」

ザトーラップの言わんとすることは分かる。それはレクトゥス陥落を確定させることだからだ。
どう答えようかと逡巡している時だった。
0103アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/07/02(日) 23:41:15.33ID:N9fqD7Pp
《いや、精霊の御子の言うとおりで良いだろう。そろそろ我らの王が目覚める頃合いだ》

長老っぽい雰囲気のエントの一人が不可思議な事を言い出す。

「精霊の、御子……?」

その時、街の方から地響きが聞こえてきた。驚いてそちらを見てみると、枯れ果てていたはずの大樹の幹から無数の枝が伸びている最中だった。
思わず一度視線を外して二度見すると、今度は緑の葉が生い茂ってきている。

「……というわけで大丈夫そうだから合流よろしく」

呆然としているザトーラップにそう声をかけて、大樹の方に向かう。

「あなたは……?」

《我こそがレクトゥスの始まりの大樹。エントの王にして大精霊。我を眠りから呼びさましたのはそなたか》

「ああ、だいぶん騒がしくしたからね。安眠妨害サーセン。でも君の眷属達からは嫌われてるみたいだったけど……」

《我が眷属もお前自身もデイドリームが何者であるかをもはや知らぬか。無理もない。
教会勢力は自分達の都合のいいように歴史を歪めてしまったからな……。その力の本質は人で非ざる者と対話する能力だ――》

デイドリームは、一般的には神聖魔法に飛び抜けた適性を持つ種族と認識されているが、それは殆どの場合、幼少時に教会に入れられるからだ。
一説によると、実は精霊魔法にも同様の適性を示すという。
今では教会勢力が自らの神を唯一絶対不可侵のものとして定義付けてしまったが、
本来は神も精霊も妖精系や自然系の異種族さえも地続きで区分が曖昧なものなのだとしたら――有り得ない話ではない。
気が付けば、純白だったはずの自らの光の翼が、妖精のような見る方向によって違う色に見える虹色の煌きをまとっていた。

《無駄話は後だ、街は未曾有の危機に瀕しているようだな――ところで、どれが敵だ?》

「サルみたいなやつとかトロールとかああいう鎧を着た奴が敵だからよろしく!」

アレクの何ともざっくりした指示を受けたエントの王は街中に枝を蔓のように伸ばし、敵を拘束・無力化していく。
アレクは伸ばされたエントの枝のうちの一本の上に立って、再びフィッチャー達の元に姿を現した。

「ねえエント、回復とかも出来るの?」

重症を負って倒れているユニスをエントの王の枝が包み込み、生命力を注ぎ込む。
フィッチャーが戦っているエイプマンのボスは流石というべきか、まだ枝に拘束されずに頑張っているものの
取り巻き達は全員枝にぐるぐる巻きになってつるし上げられもはや孤立無援。

「――《ディストラクション》!」

アレクはエイプマンのボスに精神集中を攪乱させる魔法をかけた。術は成功し、エイプマンのボスは注意力散漫となり、隙が出来る。

「今だッ――海賊王!」

【陥落寸前で盛り返して大勝利にも陥落して双方痛み分けにも持って行けると思うので今後の展開上都合のいい方で!】
0104フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/03(月) 16:59:03.34ID:8A1yfLwA
ザトーラップは既に部下や傭兵たちからも孤立しており、市街戦ですらない、
ほぼ帝国軍に占拠されたレクトゥスでエントたちを鼓舞させながら、
彼らのトロールへの恨みを利用し、憎き帝国軍への抵抗を続けていた。

周囲には酒場の粉々になった廃墟、倒れたホワイトクロスの旗、
逃げ遅れた住民の死体、犠牲になった帝国兵の死体、トロールの石化した肉体の一部、
エントの炭化した遺体の一部が散乱し、あちこちで火の手が上がる惨状だった。
帝国軍も隊長格が辛うじて指揮をしているが、もはや手のつけられないならず者の集団と化している。

同時に彼は、南方の自らの里への脱出を考えていた。

《いや、精霊の御子の言うとおりで良いだろう。そろそろ我らの王が目覚める頃合いだ》
とびきり大きなエントが残響音のするような声でそう答えると、
周囲はすっかり樹木に覆われる。

>「……というわけで大丈夫そうだから合流よろしく」

「そうなんだ、そりゃ安心したよ…僕はこれから郷に逃げる。南のホビット庄にいる、と
僕の部下たちが生きていたら伝えてくれ。「多額の賞金と報酬を約束する」とね。では、王はこれで失礼するよ。
このザトーラップ様がこれだけ人の為に戦ったのも久しぶりだ。懐かしい感じがしたよ…」

そういうと、ザトーラップはエントの一人に跨ったまま、南に向けて抜けていった。

――

「ぐぁぁっ!」
「ぶぁかめ、このオレ様に勝てると思ってるのかウホ…
さて、かわいこちゃんでちょっと遊んでやるかウホ…!」

腹をしたたか棍棒で打ち付けられ、骨をやられたのか、地面に転がって動かなくなるフィッチャー。
次に巨大猿、ユングが標的にしたのは裸で倒れたユニスだった。
ユニスの肢体を両脚を掴んで持ち上げると、そのまま強姦を企てはじめた。

「――《ディストラクション》!」

薄れゆく意識の中、ようやくフィッチャーはアレクの声で目を覚ます。
アレクが駆けつけ、巨大猿ユング術をかけているのだ。

「今だッ――海賊王!」
「おうッ!」

そこからは一瞬。夢幻の状態でユニスに暴行を加えるユングの横に回りこみ、
勢い良く結合部分を切り裂いた。

「ぎぃぇぇぇぇl!! オレの●▲×※がぁぁぁ!!!ウホォォォ!!」

局部を切り落とされ、かなり怯んだ相手の胸にに大剣を突き立て、素早く抜くと同時に振り回し、
横腹を大きく切り裂いた。ユングはそれでも桁違いの体力を振り絞って棍棒を握り締めようとする。
しかし、
パカァァ…

未然にしてユングの脳天がかち割られ、灰褐色の脳漿をぶちまけながら絶命する。

「よし、アレク、撤退だぁ!」

フィッチャーはすぐさま手近にある馬に乗り、ユニスを担いで逃げ出した住民たちに合流するように急いだ。
エイプマンの残党たちはそれなりに残っていたが、多くはボスを倒されたことで次のボスを決める争いをその場で始め、
ほんの一部だけがフィッチャーに飛び掛っていったが、あっけなく切り捨てられた。
0105フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/03(月) 16:59:29.39ID:8A1yfLwA
――


カボスたち数人はレクトゥスの死臭がする街中を抜け、死体だらけの門を抜けると、
後方で大樹が暴れ出したのを確認した。
しかし、彼らの行き場所はひとつだった。

「ルドルー隊長…」

自分たちを鍛えてくれた隊長の死を確認し、その周囲に飛び散っている帝国兵やトロールの死体の数と様子から、
相当の凄まじい戦闘が行われていたことを想像した。

「もうオイラたちの導き手はいねぇ。故郷に帰って次のことを考えよう」

コボルトたちの故郷は北方にある。北方は今、どのような状況なのか。
カボスたちはレクトゥスの街の横を抜け、北を目指していった。
遠くからも見えるトロールの将軍、モルサスがレクトゥスの占領を諦め、
生き残りのトロールや帝国兵を連れて帰る姿を見た。レクトクスは陥ちず、
廃墟となる道を辿ったのだ――

――


「レクトゥスが落ちなかった、それは計算外だったね。つまり北方と帝国の衝突はまだまだ
後になりそう、とそういうことかな?」

「そのようです。それにしても、今回も例の“白十字”のアレクサンドラの邪魔が入ったのはほぼ確定ですね。
いずれは私たちに立ちはだかる存在になるかもしれません」

「そんなことはあるものか。例の女の守りが手薄になっているという報告が入っている。
それを捕縛せよと、『教皇様』は仰せだ。“彼ら”の手を借りると良い」

「はい、すぐに」

そう答えるや否やすぐに、『預言者』アトラスムスは姿を消した。

「ハウザーが死に、王国の軍事力低下が問題となっているが、そのようなことはどうでもいい。
まずは“白十字”からアレクサンドラという“翼”奪うこと。それと、できれば他の連中も離散してくれればいい。
それが終われば次は、“粛清”か…」

と、すぐに伝令のノックが聞こえる。
「入れ」

「カリスト将軍閣下、報告いたします。北方での戦いは、われわれが、勝利したとのこと」
その報告を聞き、カリストはほくそ笑んだ。
――全ては計画通りにいっている、と。


――
0106フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/03(月) 16:59:58.40ID:8A1yfLwA
セレスティーヌは、侍女の服装をした女二人とともに、草原を駆け回っていた。
既に夜になっており、木陰でキャンプをはじめる。
馬を置き、既にけが人の治療も済んだ。

「お前たち、このあたりがどのあたりかは知っているか? 早く街に入りたい」

セレスティーヌは武勇に優れてはいたが、いかんせん方向音痴で、街道の位置や方向感覚をつかむのが苦手だった。


「んなこと言われてもさぁ、ウチら、南、要は帝国領の人間だしさあ、ま、北の方にいることだけしかわからないよ。
あの速度なら、もうアースラント領内に入ってるんじゃないかな」

――ふと、目の前が明かりで満たされ、デイドリームが現れる。

「アレク!」

しかし、良く見るとだいぶ外見が違う。背丈は長身のセレスティーヌを上回っており、
目の感じも冷ややかだ。周囲には同じようなデイドリームの姿がある。

「アトラスムスと申します。セレスティーヌ様でよろしいですね? ここは大人しく、我らに従っていただけますか?
命だけは取りません。あなた方の扱いも丁重にいたします。我らは王国の将軍をも殺した一派。
抵抗するのは命取りになりますよ」

まるで歌のような、男でも女でもない透き通る声。しかし――

「断る! セレスティーヌ家の誇りが、それを許さんのだ。最後まで抵抗させてももらう。
お前たちも剣を抜け! フィッチャーたちは私が取り返す!」

後ろの女二人は剣ではないが、短刀二本とモーニングスターをそれぞれ取り出し、
セレスティーヌも聖剣を抜き、全員に術式をかけ、徹底抗戦の構えを見せた。

「あくまで抵抗しますか…それでは…この“テイン”に入っていただきます」
「「ぐっ」」
0107フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/03(月) 17:00:24.38ID:8A1yfLwA
セレスティーヌが次に見た場所は、光に満たされた空間だった。
360度、虹色の光しか見えない。
周囲からアトラスムスと他三名のデイドリームに取り囲まれる。
次々と精神波のようなものが発せられ、後ろの二人はあっという間に気絶した。
そして、それに耐えたセレスティーヌには四方から次々に光弾が浴びせられていく。
鎧に皹が入り、やがてそれは砕け、裸になるも、それでも抵抗し続けた。

「お話通り、強情なお嬢様ですね」

一撃、一撃と光の弾が腹や背中に叩き込まれていく。並みの兵士なら一撃で絶命するだろう。
セレスティーヌはそれを根性と体力で耐えていた。最後の一撃を受けると、ふらりと前のめりに倒れこんでいった。
そして、三人は聖都へと連れて行かれることとなる。

――

「落ち着いたか?」
ここには数百名のレクトゥス難民たちがおり、既に夜になったので、キャンプを開始する。
山合いのこの場所は下に湖が見え、遠くに僅かながらジェノアの明かりが見える。
この峠を越えれば恐らく王国領だろう。

戦闘人員たちは交替で睡眠が割り振られることとなった。
指揮を執っているのはフィッチャー。
ふと、二度目の交替のとき、フィッチャーはユニスに呼ばれる。

暗い森の中を抜ける。そこまで話しにくいことなのか。

「フィッチャー、さっきはありがとう。ところで…
わたし、ホワイトクロス騎士団を抜けようと思うんです」

突然の話だったが、驚きはしなかった。逆に本来は教会で神官としている人間が、
何を泥臭い場所に身を置くのか。
不意に、ユニスが服を脱ぐ。月明かりに、その白い背中がまず目に映る。「あぁ、」とフィッチャーは声を漏らした。
回復が行き届いているとはいえ、その外傷は凄まじく、とても神官の女の身体とは思えなかった。
正面を向く。意外に豊満な肢体が目立つが、それ以上に容赦ない外傷が残っていた。一部の傷は今でも痛むだろう。

言葉を失ったフィッチャーは、自分も脱ぎ、傷を見せた。言うまでもない。より深い傷が何条も植え付けられている。
「この通り、俺も仲間だ。何も恥じることはない。ただ、男としては憐れに思う。お前は可愛いからな」

どちらからともなく抱きつく。フィッチャーは薬瓶を取り出し、傷の酷い部分にせめてもと塗りこんでいった。
そして、お互いの傷を舐めあうように愛し合い、やがて時間だけが過ぎた。

「抜けるのか? 今日、これから」
装備を身に付けながら、フィッチャーが話す。
「いえ、もう少し考えてから、抜けようと思う。でも、抜けることがあっても、恨まないで」
ユニスは少し顔を赤らめながらも、そう答えた。

次に寝る時間が回ってきたとき、夢現の中、あの騎士団のアイドルと言われるユニスの意外な気持ち、
そしてまさか自分とそこまで深く関わるとは、と改めて先ほどの出来事を反芻していた。

夜が明けた。

【以上、帝国も無事ではすまなかったが占領失敗、廃虚化、という方向にしました。】
0108アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/07/04(火) 00:20:52.42ID:0QH8QdXD
レクトゥスは帝国軍による占拠は免れたものの、壊滅状態。もはや人の住める状態ではない。

《ああ、なんたる事だ……》

精霊樹エントは壊滅した街を前にして嘆いていた。
蘇るのは遠い記憶。教会勢力によって迫害された精霊たち、焼き払われた森の記憶――
思い出すのは、遠い未来、彼の勢力が世界を滅ぼすという終末の予言。
精霊樹はアレクに厳かに語りかけた。

《翼持つ者よ、この"精霊樹エント"と契約を。どうか我と共に戦っておくれ――世界の滅びを阻止するために》

大樹は光の粒となって消え、光の粒はアレクの体に吸い込まれた。
これにより、今後アレクは精霊王エントの力を借りた植物系統の精霊魔法が使用可能となる。
その後、レクトゥスから脱出したフィッチャーとアレク達は共に逃げ延びたレクトゥス難民たちとキャンプをしていた。
見張りの交代時にフィッチャーがユニスに呼ばれて森の奥に消えていくが、さして深く考えず気にも留めずに見送るのであった。
そして夜が明ける。

「峠を越えれば王国領だ、もうひと頑張り!」

王国領に向けて出発する一行。

【すみません、リアルが引っ越しやらでバタバタするので少しの間生存報告代わりの合いの手程度のレスになることをご容赦下さい!
お休みを頂くことも考えたのですがいないよりは一応いた方が賑やかし程度にはなると思いまして。
尚、平常運行に戻る宣言までの間、半NPCぐらいの扱いとしてもらって
大幅な設定変更やエロールw以外なら台詞も含め自由に動かして頂いても構いません!(もちろん背景で空気でも可)
対面進行なのに本当にすみません!

精霊契約は深く考えずに使える魔法が増えた程度に思って頂ければ。
悪の一神教勢力に、かつて一神教勢力に迫害された多神教時代の神々や精霊と手を組んで対抗するのは王道かな、と思いましてフレーバー程度に!
機会があれば今後契約精霊が増えることもあるかもしれません】
0109フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/08(土) 18:48:11.83ID:TmD544t6
夜明けと同時に行軍を開始、山道であったため難民数百人を連れて歩くのは容易ではなかったが、
辛うじて街を発見した。
付近の地理に詳しい住民のひとりによると、アースラント王国領の南東の端に位置する
アストラという街らしい。
王都セントニスからかなり離れた位置になるが、統治は行き届いているようだ。
そういえばジェノアに居た頃も名前だけは聞いたことがあったなぁ、とフィッチャーは思った。

大きなヴィクサス教の比較的新しい教会が見える。
「プレシャス…」「プレシャス…!」
民たちが口々に祈りの言葉を唱える。今までの流浪の旅が終わりを迎えようとしているのだ。
これから始まる新たな生活に喜びを馳せているのだろう。

しかし、フィッチャーはここで冷静になった。
「ちょっと待ってくれ。なるべく短時間で済む。斥候を派遣しよう。ついでに…」

斥候及び「買い物」には結局マーテルとペトラが選ばれた。
服装が比較的まともなのもあるが、この二人ならスピードにも自信はあるだろう。
能力が明らかに増したアレクのおかげで護衛にも事欠かない。
そして彼(彼女?)の存在が街の人々に安心感を与えていた。

数時間後――
「ほら、買ってきたよ」
「パッと見た情報によると…」

極力目立たないよう移動しながら、教会の視察と布地人数分をそろえた。
マーテルはデルタを見失い、かなりショックを受けていたものの、気丈に振舞っている。
街の女性達とマーテルらが、そこに急いで装飾を施していく。
街の住民にはある程度の裁縫のできる者もおり、非常に重宝した。

「はい、できましたよ〜」「おぉー」

早速そこらの藪で着替える。
情報によれば教会は比較的広く、女の司祭が居たとのことだ。
丈が短めで防御能力には劣るとはいえ、一見神官に見えるような真っ白な格好になったのは、
マーテル、ペトラ、ユニス、そしてアレクの四人だった。白十字の紋章が光る。
そしてフィッチャーも自ら男ものの白い法衣に白十字という格好になった。

アストラに続々と下りていくレクトゥスの民。いわゆる難民。
アストラの警備兵か王国兵と思われる甲冑姿の男たちが早速警戒をはじめるが、
フィッチャーたちが先導していくため、いきなり攻撃を受けることはない。
ついでにと、祈りのポーズを取りながら移動する。
街の人々は皆が皆、希望に満ち溢れていた。

――
0110フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/08(土) 18:49:10.45ID:TmD544t6
シャルルの捕らえられている部屋に、再びシュタインが現れる。

「ほら、シャルル、お望みの者を連れてまいりましたよ」

そのシュタインの言葉は非常に悦楽に満ち、もはやこの時を待っていたと
言わんばかりだった。

「セレスティーヌっ――!!?」

ジャラジャラと鎖の音を響かせながら、シュタインは全裸姿になって犬のように四つん這いでこちらに向かう
セレスティーヌを引っ張りながら、シャルルへと近づく。
両腕、両脚には重い輪を嵌められ、首の首輪からはシュタインの手に持つリードへと繋がっている。
その表情は尚も気高く強い目でシュタインを睨みながら無理やり移動させられていたが、
父・シャルルの姿を認めると、急に苦しそうに下を向いて唇を噛んだ。

「父上…お父様…!」
「おのれ…! 貴様、セレスをよくもこのような目に…!」

セレスティーヌの身体は全身の至る場所に拷問を受けたと思われる生傷があり、
拘束具がもっと多かっただろう痛々しい痕も残る。
余程痛かったのか、拘束具が重いのか、シャルルの前でだらしなく乳房を地面につけて潰し、
まだ血の滴る臀部側を隠すようにしてうずくまる。

「ほら、セレスティーヌ、シャルルに、最愛の父上にお尻を見せてあげなさい…」
セレスティーヌは尚も気丈な顔で抵抗するが、何かのスイッチを押すと、全身に痺れが走ったようで、
ビクビクと身体を痙攣させ、ぐったりすると、嫌々ながら臀部をシャルルの方に向けて見せた。
いや、見せたいのだ。片目と片腕を失った姿であっても、肉親に自分の憐れさをただ知ってほしい、それが羞恥を上回る。

「ぐっ…! こんなことが…! シュタイン貴様、神に裁かれ、命を取られるぞ!
セレス、痛かっただろう。私はもうじきお前の代わりに死ぬ。早くその痛みから開放してやるからな!」

セレスティーヌの臀部は恐らくはシュタインやその部下によってやられたと思われた暴行、強姦の痕であちこちから出血していた。
強引で欲にまみれた容赦のない攻撃があったことが容易に想像できる。
筋肉質のためか、妙に痩せているようにも見える。そのことが父を余計に心配させた。

「セレス、食事は、ちゃんと取れているのか?」
「…はい、食事には困っておりません。お父様…うぅっ」

歳柄にもなく、セレスティーヌはついに泣き出してしまった。苦痛と恥辱もあるだろうが、
安心感もあるのだろう。

「セレスティーヌ、そろそろそういえばお食事の時間ですね。いやいや失礼、餌だったか。
今日は犬の真似をしなさい」
「ワン、ワン!」

セレスティーヌは恥辱に耐えながら、全裸姿で犬の真似をした。
わざわざ腰を振り、犬が尻尾を振る真似をしてみせる。ちなみに昨日は豚の真似だった。
彼女も好きでやっている訳ではない。生きるために涙を呑んで恥を受け入れているのだ。

「ほら、ちゃんと、シャルルに見せるようにして行儀よく食べなさい」」

そこではそれなりに良い食事が与えられていた。空腹のセレスティーヌは犬のようにむしゃぶり付くも、
最後のソーセージ一切れを、シャルルの下へと運んでいった。彼はどう見ても空腹でやつれているように見える。
上半身を無理に持ち上げ、シャルルが食べられる位置にソーセージを口で置くセレスティーヌ。

「良いんだ、セレス。私はもうお前が生きていると分かっていただけでも構わない。あの男の見世物にされるぐらいなら、いっそここで舌を…」
「…待ってくださいお父様」
0111フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/08(土) 18:49:32.42ID:TmD544t6
後ろでニヤニヤとその情けない格好をあざ笑っているシャルルは、
腐敗臭を出しはじめたアンネの遺体を見ながら、考えていた。
(そろそろシャルルも両目を潰してもらうか、死んでもらう頃ですね)

「どうしたのだ?」
「…私の率いていたホワイトクロス騎士団の副団長フィッチャー、そして聖天使アレクがここに助けに来るはずです。
希望をどうか捨てないでくださいませ」

後ろには聞こえないように早口でその言葉を紡ぎ、そのままシャルルの下を離れる。
もはや恥ずかしさというものは残っていなかった。口で残りの「餌」をかき込む。

「そういえばセレスティーヌ、これが何だか知っていますか?」
シュタインは火挟のようなもので「あるもの」を取り出し、その殆ど干からびた物体をアンナの死体に押し付けるようにした。

「アンナを犯し、『穢れの象徴』であるあなたを創った、哀れな物体ですよ」

ウウッ、とセレスティーヌは一部のものを吐き出してしまった。
それはシャルルからもぎ取られた局部だった。

――
0112フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/08(土) 18:50:45.74ID:TmD544t6
アストラに到着するも、大勢の難民を抱えたフィッチャーたちは、まず門番に止められた。
恐らくは王国から派遣された兵だろう。しっかりした全身甲冑で覆われている。
あとはアレクらの進言通り、最善を尽くすのみだ。

(それにしても、まともに交渉できそうな面構えの奴が一人もいねえな、俺も含めて)
フィッチャーはそう思ったが、とりあえず団長代理の自分が前面に立ち、両側にアレクとユニスを配置して、
後ろにも二人を控えさせた。これでそれらしい形にはなるだろう。

「ホワイトクロス騎士団の団長、シュヴィヤール公爵の娘、セレスティーヌ・ド・ラ・シュヴィヤールの代理として参った、
フィッチャー・レーガン副団長と申す。こちらは教会公認のデイドリーム、アレク。
この度はジャイプール帝国軍により攻撃を受けたレクトゥスの民を連れて参った。
どうか、アストラ教会の方にお目通し願いたい。それと、難民の者たちの受け入れ先を考えていただけるよう…」

アレクがデイドリームの象徴である羽根を出して見せるも、不精不精といった感じで頷くのがやっとだった。

「分かった。とりあえず入れてやるから、教会を頼れ。くれぐれも我々の監視の外には出すな。
領主様には話だけはつけておいてやる。後で教会に使いの者を出す。それで良いな」

フィッチャーは頷くと、ようやく解かれた十数人の見張りたちが街の中へと侵入を許す。
歓喜のあまりに子供たちは声を上げる者もいた。しかしフィッチャーはまだ油断はしていない。
アストラ教会に入ると、情報通りイオという若い女司祭が出迎えた。
フィッチャーと同じぐらいの年齢だろう。フィッチャーぐらいの長身、比較的ショートに近い青い髪にフードを被っているが、
フードの突き出しから見て、人間ではなく、角の生えた亜人種なのかもしれない。

「おや、先ほどいらっしゃった方もお見えですね。我らは貴方がたを受け入れます。“プレシャス”
イオ・ポンフィールと申します。ここで司教代理をしています。とはいえ、実質代表のようなものですね。
“あの方”はしばらく戻らないでしょうから」

その言葉にあわせ、フィッチャーらも同時に祈りをささげる。マーテルたちは先ほどの動きが悟られたと知り、ビクリとした。

「ホワイトクロス騎士団長の代理だ。話はもう聞いているな? では細かいことは省略する。俺は代表のフィッチャー。
レクトゥスという街が帝国に襲われて団長は行方不明、さらにこの通り難民が出た。
ホワイトクロス騎士団をそちらの教会の傘下に入れてもらいたい。それと、難民の保護も頼む」

「そんな横柄な口の利き方をするなら、はじめから変装などしなければ良いんです」

少しむっとした口調になりながらも、アレクや他のメンバーを見ると少しだけ期待の目も向けられた。

「どうやら、それなりの戦闘経験もおありのようですね。では、団員の皆様はこちらの上の宿舎をお使いください。
レクトゥスからの皆さんは暫くは礼拝堂で雑魚寝をしていただきますが、すぐにこの街の農民の皆さんに話をしておきますので、
明日にでも交渉のお手伝いをお願いします。あ、勿論ですが、今日は急なので食事は用意できませんよ。
水浴びぐらいなら、丁度教会の裏手に滝がありますので、そちらをお使いください。では、他の司祭たちが後は案内します」

面倒そうな表情でこれからの苦労を想定したのか、イオはあまり浮かない表情だった。
さて、例によって個室とまではいかないが、客人用の部屋にフィッチャーら五人が通され、安眠は確保できそうだ。
フィッチャーは「お、ハーレムじゃん」と思いつつ、「そういやアレクもいるのか」と少し落胆した様子だ。

「おい、今の奴らはどうなんだ? お前ら。強そうなのか、信頼できそうか、だよ」
部屋に入ると、フィッチャーは周囲の四人に訪ねた。早速イオについてペトラが話す。

「あの女は何人か殺してるね。間違いなく。とりあえず油断しちゃいけない相手なのは確かかな」

周囲にも部屋があり、そちらにも司祭たちが住んでいるのだろう。
街に繰り出し、酒でもといきたいところだが、現状は大人しくしているしかなさそうだ。

【了解です。こちらも何やら忙しくなってきたので、文章量や進行スピードを少しダウンさせようと思っています】
【アースラント領アストラに到着。難民は教会で無事仮保護され、騎士団の寝床も確保】
0113アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/07/14(金) 13:09:18.47ID:pIMLcYbP
すみません、二レス以上投稿するとすぐ規制されるみたいで
したらばの創作発表板避難所に代行依頼してありますのでお願いします
0117アレク ◇mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/07/15(土) 16:26:40.09ID:vU8EYlgl
アストラという街に到着した一行。
まずは斥候が潜入し、体裁を整えるのための布地を手に入れる。
神官服のような真っ白な服装に着替えた面々が先導し、門番と交渉する。

>「ホワイトクロス騎士団の団長、シュヴィヤール公爵の娘、セレスティーヌ・ド・ラ・シュヴィヤールの代理として参った、
フィッチャー・レーガン副団長と申す。こちらは教会公認のデイドリーム、アレク。
この度はジャイプール帝国軍により攻撃を受けたレクトゥスの民を連れて参った。
どうか、アストラ教会の方にお目通し願いたい。それと、難民の者たちの受け入れ先を考えていただけるよう…」

「私からもお願いいたします」

アレクが羽根を出して見せると、門番は仕方なくといった感じで頷いた。

>「分かった。とりあえず入れてやるから、教会を頼れ。くれぐれも我々の監視の外には出すな。
領主様には話だけはつけておいてやる。後で教会に使いの者を出す。それで良いな」

「ありがとうございます!」

教会に行くと、亜人種らしき若い女神官が出迎えた。
そして、さらりと油断ならない事を言う。

>「おや、先ほどいらっしゃった方もお見えですね。我らは貴方がたを受け入れます。“プレシャス”
イオ・ポンフィールと申します。ここで司教代理をしています。とはいえ、実質代表のようなものですね。
“あの方”はしばらく戻らないでしょうから」

>「ホワイトクロス騎士団長の代理だ。話はもう聞いているな? では細かいことは省略する。俺は代表のフィッチャー。
レクトゥスという街が帝国に襲われて団長は行方不明、さらにこの通り難民が出た。
ホワイトクロス騎士団をそちらの教会の傘下に入れてもらいたい。それと、難民の保護も頼む」
>「そんな横柄な口の利き方をするなら、はじめから変装などしなければ良いんです」

「申し訳ございません、団長代理は神官出身ではなく現場からの叩き上げなのでこういう事に慣れてないだけなんです!」

>「どうやら、それなりの戦闘経験もおありのようですね。では、団員の皆様はこちらの上の宿舎をお使いください。
レクトゥスからの皆さんは暫くは礼拝堂で雑魚寝をしていただきますが、すぐにこの街の農民の皆さんに話をしておきますので、
明日にでも交渉のお手伝いをお願いします。あ、勿論ですが、今日は急なので食事は用意できませんよ。
水浴びぐらいなら、丁度教会の裏手に滝がありますので、そちらをお使いください。では、他の司祭たちが後は案内します」
0118アレク ◇mhXMrsUqAc
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2017/07/15(土) 16:27:11.65ID:vU8EYlgl
と、一瞬ヒヤリとしたが無事に部屋に通して貰える運びとなった。
部屋に入ると、フィッチャーが早速皆に問いかける。

>「おい、今の奴らはどうなんだ? お前ら。強そうなのか、信頼できそうか、だよ」

>「あの女は何人か殺してるね。間違いなく。とりあえず油断しちゃいけない相手なのは確かかな」

「ここにいて大丈夫なのでしょうか……」

本職の暗殺者であるペトラの見立てに続き、慎重なユニスが不安を口にする。

「まあ、少なくとも強いのは間違いないね。種族特性からいって挌闘系の神官戦士なんじゃないかな」

「信頼できそうかは――とりあえず今のところは大丈夫そう、かな? "あの方"がどんな奴なのかは気になるけど……」

続いてマーテルが強そうかの見立てを、アレクが信頼できそうかの見立てを行う。
往往にして、「あの方」とか「例のアイツ」とか言って名前を呼ばれない奴は、油断ならない奴である場合が多いのだ。
悪の司教に散々な目にあわされたばかりなので、いい方向に油断ならない奴であることを願うばかりである。

次の日、イオが、「客が来た」と一行を呼びに来る。
昨日門番が「後で教会に使いの者を出す」と言っていたので、おそらく領主の使いだろう。

【規制されてしまいました。
お手数ですが外部に避難所的な場所を新しく作るか既存の場所を指定かしていただけると大変助かります!】
0119フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/15(土) 18:23:31.22ID:vU8EYlgl
>「まあ、少なくとも強いのは間違いないね。種族特性からいって挌闘系の神官戦士なんじゃないかな」

>「信頼できそうかは――とりあえず今のところは大丈夫そう、かな? "あの方"がどんな奴なのかは気になるけど……」

「“あの方”ってのは大体よ、本人にとって物凄ぇ強くて狂信している相手か、話が通じなくて侮蔑してる相手かで両極端だよなぁ、ところで
俺はさっさと風呂入りてぇな。もう傷だらけでベタベタよ」

周囲を見回すと、部屋の中ではペトラが神官服を脱ぎ出して下着姿になったり、
マーテルも同じような感じである。それを驚きながら見ていると、ペトラが言った。

「ま、ここは男が一人しかいないから実質女子部屋、いわゆるセックスフリー空間ってやつよね」

「そりゃ何だ? セックスし放題な空間ってことか? 俺がヤる相手も選び放題ってか?」
「バーカ、性別関係ねぇ、って意味の部屋ってこったよ、“歩く性器さん”」
「あぁ、そうかい」

マーテルに突っ込まれて部屋の隅にうずくまうようにして休むフィッチャーだが、
どうにも雌臭い空間に放り込まれ、落ち着かない。それより、水浴びに行きたい気分だった。

「ちょっと、教会の周辺の様子を見てくる。それに水浴びもしたいしな。
ま、一時間とかからずに戻る。戻らなかったら、俺が死んだと思って動いてくれ」

大剣を引っさげながら下りようとするフィッチャーをペトラが留める。

「団長がいない今、あなたが団長も同然。それに…あなたは私の命の恩人だしね。
何かあったら私たちを使いなさい。自分の兵士として。先に死ぬことは、私としては許さない。それだけよ」

「…ああ」

数刻をおいてフィッチャーが頷く。マーテルやユニスらは聞いているのか聞いていないのか、マイペースで自由に行動していた。
と、その時だった。

――アレクが一瞬、灰色の石像のような姿になり、動きを完全に止める。
「!!」
フィッチャーは慌ててアレクの傍に駆け寄るも、数刻でいつものアレクにも戻り、アレクも不思議そうな目で
フィッチャーたちを見ていた。

全員は目が点になるようにして驚いていたが、唯一ペトラだけが少し冷静に話をした。

「―“時間蝕”というのを聞いたことがあるわ。何かの力で決まった対象の時間が奪われる。
今のはその一種じゃないかしら。デイドリームの全てにそれが適応されるようなことだとしたら…これは悪い予兆かもしれないわね」

――

フィッチャーは鎧を置いたまま、下へと向かい、さっさと教会の裏手へと向かった。
裏側は街の灯りと反対側だというのは分かる。すると、扉を開けた途端、ロープのようなもので「滝は現在立ち入り禁止」との看板が置かれていた。
フィッチャーはそれでこの先に滝があると確信し、先へと向かう。
服を脱ぐと、さっさと滝へとダイブしようと駆ける――と。

次第に滝の落ちる音が近づいてくる。そして、そこには一人の先客がいた。
月明かりに照らされ、水を浴びる姿、それはまさしくイオその人だった。
長身に艶かしいプロポーション、そしてエルフのような耳と鹿に近い二つの角、
そして、尻からは太く、鱗のついた尾が伸びている。
恐らくは、竜人族で間違いないだろう。先に相手に気付かれたらしく、後姿のまま声をかけられる。

「見てしまったのですね。恐らくはフィッチャー、死にたくなければこちらに来なさい」
「あぁ…」

ゆっくりと近づくフィッチャー、しかし足取りは重く、前かがみになってゆっくりと。
イオの横で水に浸かり、その肢体をまじまじと見る。神々しくも艶かしい肉体の美にフィッチャーは見とれていた。
0120フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/15(土) 18:24:06.09ID:vU8EYlgl
「で、話ってのは」
「あなた方のことですが…って、その汚いものをさっさと仕舞いなさい!」

慌てて“汚いモノ”の上にとりあえず持っていた布を被せ、処置を終えた。

「悪い、生理現象ってやつだ。どうやら着痩せするタイプのようで。これでいいか?」
「まぁ…良いでしょう。それは後で仲間に慰めてもらうか切っておきなさい。
ところで、ご覧のとおり、私は竜人族、ドラグネルとも言われていますが、どちらでも構いません。竜とのハーフです。
ここの主(あるじ)でもあり私の恩人でもあるステッセル様は、近頃は王国の方へ派遣され、神聖同盟との交渉役を引き受けていてお忙しい。
帰ってくることなんで殆どありません。近頃はだいぶ変わられた。それでも私はあの方が、私の恩人で、ここアストラのために奉職してくださることを願っています。
貴方も分かるでしょう。貴方が団長を想う気持ちと同じく、私もステッセル様を大事に想っています。
たとえ、元の姿には戻らなくとも。
ところで、難民の皆さんも相当にお疲れの様子。明日にはここを男女別の時間に開放しようと考えています。
とりあえずはそんなところです。私はこれから用事がありますので、失礼させていただきます」

裸のまま着替えの方に向かい、立ち去ろうとするイオを振り向かずにフィッチャーが声をかける。
「俺は、団長を、セレスティーヌを愛している。絶対に連れ戻すと神に誓う。あんたもか?」
「はい」
「じゃあ、そのステッセル様とやらと、愛し合い、クォータードラゴンとやらが出来るくらい交わったってことだな」
「殺しますよ?割と真面目に」
「悪かった。じゃあ、またな、同士よ」

スタスタと去っていくイオをよそに、フィッチャーは一人での水浴びを楽しんだ。
水浴びで落ちたであろう竜の鱗のようなものが、月明かりを浴びて煌いていた。

――

悶々としていてなかなか寝付けない夜だったが、辛うじて睡眠をとり、
次の日の朝はペトラとユニスに抱きつかれたような格好で目を覚ました。
どこから持ってきたのか、ペトラは酒も飲んでいたようだ。爆発物のようなものが転がっているが、
これが発動しなかっただけマシというものである。

「おーい、イオ殿がお呼びだ、白十字の連中、さっさと起きてくれや」

ここの司祭が皮肉が篭ったような呼び方でフィッチャーたちを呼ぶ。
まだ眠いが、何があるか分からない。

「これより貴方がたには、町の南側の要塞建設と西側の農地開拓の手伝いをしてもらいます。
とりあえずは護衛が中心だと思ってください。結構きつい作業にはなると思いますが。
難民の方々には同時に西側に建設される住居に住んでもらいます。その代わり大変な作業にはなると思いますが」

何を考えていたのか、イオの顔は眠そうだった。
早速作業が始まり、彼らは夕方遅くまで働かされ、元の部屋に戻ってくるまでは時間がかかった。
0121フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/15(土) 18:24:37.44ID:vU8EYlgl
「まずは女どもが先に滝に行くらしい。お前ら、先に入っていっていいぞ。
多分アレクもそうだろ。ゆっくりしてこい。俺は寝てるから」

早くも汗を流すために、ユニスやペトラ、アレクは次々に出ていった。
マーテルだけが動かない。そういえば朝から元気が無いようだ。

「お前、もしかしてデルタのことを考えてるのか? あいつのことだ。戻ってくるから安心しろ。
そのへんの街で女とよろしくやってるだろ。そういう奴だよ、アレは」
「そんなことない。あれだけの大軍相手に…デルタは死んでいったんだ」
「神を信じろ、“プレシャス”ってな。俺もセレスは生きてると思ってる。お前にはずっと生きていてほしい」
「だったら、形で示してよ。どうせ溜まってるんでしょ?歩く性器の副団長さん」
その声には感情はまるで篭っていなかったが、
――フィッチャーは黙ってマーテルの汗臭い服を脱がせ、そして抱いた。
マーテルのやや引き締まった身体を愛しながら、フィッチャーはセレスティーヌのことを考えていた。
マーテルの方も同じようにデルタの事を考えていたのだろうか。
全身に柔らかい感触を受けながら、フィッチャーは自らの裸身に涙が次々零れ落ちていくのを感じた。

――

フィッチャーは男だらけの滝で身を清めた。
「うひょー! たまんねぇぜ! これで女がいりゃな!」
レクトゥスの民、それにアストラの司祭、修道士たちは生き生きとしている。
それだけでこれまでの苦労も報われた、と自らの傷を見ながら思った。
ふと、昨晩のイオの姿を思い起こした。彼女は本気で悩んでいるようだ。
ステッセルというここの司教の変化について。

帰り道、水浴びを終えて着替えた男たちは次々と帰途についたが、
そこで三人の女たちが何やら労いの言葉をかけているのに気付いた。
その中にはあの時の娼婦もいた。
――一部の司祭は女をどうやら金で買っているらしいのだ。
つまり、レクトゥス民の中に水商売で稼いでいる女たちがいるのだ!
これは厄介なことになりそうだと思い、急いで寝床へと戻った。

「で、まずはお前たちに話を聞きたい。特にアレク。
こいつらに話は聞いていると思うが、“時間蝕”ってのはどういう時に起こるんだ?」

「それから、レクトゥスのメンバーに娼婦の連中が紛れ込んでるが、あれをどうするか?
情報収集に利用した方がいいだろうか?」

「そしてこれが本題だ。これからどうするか? 俺はセレスは、団長は生きてると思ってる。
さっさと屯田兵なんてしてねえで、情報を掴んで急いで突っ走るのが、ホワイトクロスの使命だと思うがね」

一通り話して、周囲の意見を聞く。

「娼婦に関しては、消してしまえば良いと思うけどねぇ。私が引き受けようか」
まずはペトラが答える。
「殺すぐらいなら農地で働かせるか、こっちに引き入れた方が良いと思うが。
俺はそのうちの一人とは知り合いだ」
そう言うと他のメンバーから睨まれる。当然のことか。

「“時間蝕”については、教会にいたから聞いたことはある。あたしはかじった程度だけどね。
“天使を媒体として行う”系の儀式があれば起こるとか、“終末”が近い予兆だとかね。
デルタが突然いなくなったのも不運すぎるというか、おかしな話だし。それに強そうなコボルト連中が死んだのもね」
0122フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/15(土) 18:27:14.89ID:vU8EYlgl
「なるほど、分かった。
どっちにせよ、セレスの位置を探るのが最優先だよな。お前はどう思う、アレク?」

フィッチャーは当事者のアレクへと話を伺った。

――

王国北方の要塞での戦いでは、王国側の辛勝、互いに多くの犠牲を払って
ついにアースラント王国は神聖連盟に先駆けて勝利を掴んだ。
その中でも特に活躍したのはハミルカルの娘、故・マノン・ブライトだという。

聖都アトスのハミルカルの許へとマノンの亡骸が送られ、ハミルカルはその「冷血漢」に似合わぬ感情を振りかざして
目を真っ赤に晴れ上がらせ絶叫した。
マノンの全裸遺体は全身に無数の傷があり、所々が青筋で節くれだっており、その美しいと証された顔でさえも醜く晴れ上がっていた。
明らかに常軌を逸した強化の成果物だ。
「どういうことだ! どういうことなのだ教皇様よう…バルカスならず、マノンまでも犠牲にして良いとは、
ワシらを駒のようなものだと思っているんじゃあるまいな!?」
0123フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/15(土) 18:28:08.65ID:vU8EYlgl
教皇と呼ばれた薄汚い浮浪者風の男は、含み笑いをするように、ハミルカルに話す。
「ハミルカル『枢機卿』殿、貴公は我らと交わした契約を忘れたのか? それも多くの富と女を与えられ、
貴公は地元であるジェノアのあらゆる物を恣にした。これ以上の何を望むというのか?
――この程度の代償ごときで…」

「貴様…!」
ハミルカルは剣を抜くと『教皇』に掴みかかり、剣を突きつけた。
「どうやら貴様は“天界”に相応しくない男のようだな。野蛮人の子は野蛮人よ。
ジェノアは私がいたから盗れたようなもの…『神』も危惧されておられた。
ハミルカルは、“天界”よりも“下界”に相応しい男であると…」

「…んぐぐ…!!」
『教皇』の口からグボボと何やら異質な物体が吐き出され、それをハミルカルは口から飲み込まされる。
ハミルカルは意識を失い倒れると、その顔色は緑色に近い色となり、不死の戦士となった。

「ところでステッセルよ、例の公爵領の件は片付いたか? シュタインの自己満足にもそろそろ飽きたのでな…」

「それが、計画が遅れております。セレスティーヌがどれだけ拷問を受けても、薬物をうたれても、全く自我を破壊されないとのことで、
今でもステッセル様たちがシュヴィヤールの一家を追い込んではいるのですが…」

「では、近いうちに“処分”せよ。娘の方はそれだけ強いなら“戦士”程度にはなれそうか」

「はっ…」

例の部屋の中には、シュヴィヤール夫妻の死体を背後に涙を流す
満身創痍のセレスティーヌを見ながら悦に浸る、シュタインの姿があった――

>>115【ありがとうございます。それはご愁傷様です。以後も規制解除まではこの方法でいきますので、
同じように避難所の代理投降所を利用していただけると嬉しいです!】
0125アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/07/20(木) 22:19:14.60ID:ThRwwblS
他愛のない会話をしたり、フィッチャーが命知らずな発言をしてペトラに諌められたりしている時だった。
気付くと、驚愕と心配の混じったような目で全員がこちらに注目していた。

「何……? みんなしていきなりどうしたの?」

話によると、一瞬だけ灰色の石像のようになって動きが止まっていたという。
そして本人はそのことを認識していない。まるで時間が喰らわれたかのように。

>「―“時間蝕”というのを聞いたことがあるわ。何かの力で決まった対象の時間が奪われる。
今のはその一種じゃないかしら。デイドリームの全てにそれが適応されるようなことだとしたら…これは悪い予兆かもしれないわね」

《おお、世界の終末が近づいておるのじゃ……!》

と精霊王エントが騒いでいるが、彼も具体的なことは分からないらしい。
その後、情報取集に出かけたフィッチャーは、イオが竜人族とのハーフであること
イオが仕えているここの長がステッセルであることを仕入れてきた。

「ステッセル!? あの第一分隊の副長のステッセルか……?
……以前はまともだったのが何者かに唆されておかしくなったのかもしれないね」

何はともあれ、夜も更けたのでその日は床についた。

++++++++++++++++++++++++++++++

次の日、目覚めてみると、何故かフィッチャーがペトラとユニスに抱き着かれるような形になっていた。
暑苦しそうだなあ、と思ってみていると、司祭に起こされる。

>「おーい、イオ殿がお呼びだ、白十字の連中、さっさと起きてくれや」

眠たげに起き出した一行を、やはり眠たげなイオが迎える。

>「これより貴方がたには、町の南側の要塞建設と西側の農地開拓の手伝いをしてもらいます。
とりあえずは護衛が中心だと思ってください。結構きつい作業にはなると思いますが。
難民の方々には同時に西側に建設される住居に住んでもらいます。その代わり大変な作業にはなると思いますが」

言い渡された任務は、公共事業の手伝いであった。
確かに大変な作業ではあったが、アレクやユニス、マーテルの筋力強化の補助魔法が大活躍し、作業は滞りなく進む。
夕方遅くになって本日の作業を終え、滝に汗を流しに行く運びとなる。

>「まずは女どもが先に滝に行くらしい。お前ら、先に入っていっていいぞ。
多分アレクもそうだろ。ゆっくりしてこい。俺は寝てるから」

「お先にー」

ペトラ、ユニスと共に滝に向かうアレク。アレクがこちら側と一緒に来る事について特に異論を唱える者はいない。
何故なら外見的には中性的な少女――つまり身も蓋も無く言ってしまえば無乳の女である。
種族特性上天使に準えられるような整った外見をしているので、これはこれで一部の層には需要があるかもしれない。
老化が極端に遅いのをいい事に聖魔法少女のようなキャラ付けで通している者もいるとか。
ペトラがアレクに後ろから抱き着き、背中に飽満な胸を押しつけながら言う。

「アンタ、折角可愛い顔してるんだから聖術少女路線にイメチェンしてみたら?」

「えー、あはは、ワタシそういうキャラじゃないんで……」

折角のドキッ、女だらけの水浴びシーン! なのでついやってしまったが、誰得なんだろうか、このシーン。
話を逸らすかのように、マーテルのことを持ち出すアレク。
0126アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/07/20(木) 22:19:56.02ID:ThRwwblS
「それにしてもマーテルは来ないのかな?」

「さあね、大方フィッチャーのやつとよろしくやってるんじゃないかい?」

「えっ」

ニタリと笑って言うペトラに、ペトラはフィッチャーに惚れてこのパーティーに入ったんじゃないか?と一瞬混乱するアレク。

「ああ、ユニスには言うんじゃないよ、あの子は純粋そうだからね」

「えっ、もしかしてユニちゃんも!?」

なんというハーレムパーティーだ、と軽く戦慄しつつ、イメチェンはしないぞ、と改めて心に誓うアレク。
そんなことをしてフィッチャーが「これはこれで」と新たな路線に目覚めてしまったら目も当てられない。※目覚めません

「……でもさ、多分本命はセレスティーヌお嬢様だと思うよ」

「そんなことは百も承知さ。それでもね、惚れた男の役に立てるならいいのさ」

そんなものか、と思うアレクであった。
その後入れ替わりで男性陣も水浴びに行き、フィッチャーが帰ってくると、作戦会議が始まった。

>「で、まずはお前たちに話を聞きたい。特にアレク。
こいつらに話は聞いていると思うが、“時間蝕”ってのはどういう時に起こるんだ?」

>「“時間蝕”については、教会にいたから聞いたことはある。あたしはかじった程度だけどね。
“天使を媒体として行う”系の儀式があれば起こるとか、“終末”が近い予兆だとかね。
デルタが突然いなくなったのも不運すぎるというか、おかしな話だし。それに強そうなコボルト連中が死んだのもね」

「各地で時空のひずみが発生しているのかもしれない。
天変地異のようなものか、あるいは人為的な超大規模な儀式魔術の反動か……。
デルタが突然いなくなったのもそれで説明がつく。でもそうだとしたら希望はあるよ。
離れた場所で発見されたり暫くたってからひょっこり現れたりするかもしれないからね」

>「それから、レクトゥスのメンバーに娼婦の連中が紛れ込んでるが、あれをどうするか?
情報収集に利用した方がいいだろうか?」
>「娼婦に関しては、消してしまえば良いと思うけどねぇ。私が引き受けようか」
>「殺すぐらいなら農地で働かせるか、こっちに引き入れた方が良いと思うが。
俺はそのうちの一人とは知り合いだ」

余計な一言を言ってしまったフィッチャーを睨む皆をアレクがなだめる。

「まあまあ、うまく統制できれば情報収集には持ってこいだと思うな。
そういう時ってつい普段は喋らない秘密を話してしまうものらしいしね。よく分かんないけど」

>「なるほど、分かった。
どっちにせよ、セレスの位置を探るのが最優先だよな。お前はどう思う、アレク?」

「手掛かりがなければシュヴィヤール領があるヴィクサス神聖国に行ってみるのはどうだろう。
もしかしたら自分の領土に帰っているかもしれないしそうでなくとも何か情報がつかめるかもしれない。
ただ、敵勢力の本拠地に切り込むことになるから今まで以上に危険な旅になるかもしれない。
シュタインの奴もヴィクサス神聖国教会の支部司教だったしね……」
0127フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/22(土) 23:26:48.64ID:t7qkzjCu
目の前の女は妊娠していた。
女の目に光はなく、ただもがき苦しんでいる。
その前に光輪を輝かせながら立ちふさがる男と女ともつかない裸体。
それが“神”と呼ばれる存在だ。

女の周囲には二人の小さな天使が空を舞っており、ときおり女の乳房に吸い付く。
その姿は痩せ細っていて洗練されえてさえいるが顔は醜く、とても目の前の“神”との間にできた仔とは思えない。
「ぐうぅぅぅっ!」

女が苦しみ出す。そこで彼女――セレスティーヌはそこにいるのがレクトゥスで会った侍女の一人であることに気付く。
そして、股から「三人目」が顔を出してきた。
「ぎ、ギィィィェェl…」

悶絶は次第に断末魔となり、その仔を産み落とすと同時に、大量の出血でやがて死を迎えた。
醜い初老の男は、“神”にオーブのようなものを渡すと彼を背に、地面を這いずる彼女の方へと向かう。
“神”はオーブを口から放り込み、再び能力を充填していく。

「良く引き締まっていて“器”としては使えると思ったが、三人が限界か。ハミルカルの娘などは
十七人も産んで尚、戦士として天使兵たちを率いたというのに… しかし、全く無能ではなかった。
拾った中の一人はホビットかドワーフあたりの子を孕んでいて使えぬから捨ておいた。
そこのお嬢様はなかなか引き締まっている。しかし、まだ壊れておらんようだが、どういうことなのだ?シュタイン」

「それが…“教皇”様、どれだけの拷問を施し、両親を殺し、さらには薬物を投入しようと、
この女は壊れる見込みが無いようです。余程強い執念なんでしょうな… そろそろ出血多量で死ぬと思われますが、
そちらの“器”として使いますか? それともそろそろ始末しましょうか?」

「相変わらずの変態ぶりだな、“枢機卿”シュタインよ。先ほどの実験でついにアトスの方の手筈が整った。
“預言者”は“神”とともに天界へと飛び立ち、私は改めてヴィクサス神聖国の代表として、聖都アトスの大聖堂で執政を行う。
貴様にはジェノアを任せる。北方軍と帝国軍はシュヴィヤール領でそろそろ衝突する頃だろう。
我らはそれを高みの見物で眺めながら、兵力増強を行う訳だ」

「つまり、天使兵のほかに、薬物生産工場を作り、大量の錬金釜で強化兵を作る。
さらに大勢を徴兵し、その周囲の護衛に割り当てる。アトス、神聖国、ジェノア、王国…
この四つの勢力が束になればもし二つの勢力がこちらに牙を向こうが、相手にはなるまい。
さて、この娘を早速引き渡そう、おっと、「娘」と呼べる年齢でもなかったか」

醜悪な笑顔でセレスティーヌを教皇に引き渡すシュタイン。
天使が彼女の腹に手をやり、光を発すると、すぐに返答する。

「どうやら、彼女は人間の子を身ごもっているようです。このままでは仔を孕むのは不可能かと。
そちらで始末を…」
0128フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/22(土) 23:27:22.95ID:t7qkzjCu
「おのれ! 賊などに預けたばかりに、賊の子を授かったか…」

その言葉に反応して驚くと同時にピシャリ、と彼女の尻に鞭が入る。
もっとも、大勢で陵辱を加えた時点でそうなるのは目に見えているものだが。

アトラスムスと教皇を後ろに、そのままシュタインは鬼畜のような表情でセレスティーヌを引き摺る。
あの両親の遺体の腐乱臭のする部屋へと。
そして、一言発する。

「セレスティーヌ。貴様がジェノアの第一分隊に入ることは“仕組まれていたこと”なのですよ。
全ては貴様を孤立させ、この策が成り、貴様の父母を捕らえ、地獄を見せてあげるためのね。そういう意味では
私は順風満帆だと思っていますよ。ただ、あの男は殺しておくべきでした。フィッチャー、次に見かけたら、目の前で一緒に殺して差し上げますよ。
さぁ、今のうちに舌を噛み切るのも良いかもしれませんね。それとも、あの男が苦しむ姿が見たいですか?ヒヒヒ…」

フィッチャーの不気味な声が響いていった。その顔は砦を攻める前に比べて明らかに異質で、
顔の全体が青筋がかっており、目の光も宿ってはいなかった。この男もまた、手遅れな状態にあるのだ。

――

アースラント王国、国王フィリッポ4世の急死。ついでに長男、次男などもここ最近で病に倒れており、
残るテオドロ王子はまだ11歳と若く、早くも執政官として、白羽将軍カリスト・ケンディウスが後見になった。
が、彼はそのことを予期していたかのごとく、部下たちをそれらの世話役、そして軍事担当とした。
将軍たちも多くが亡く、若手ばかりで、カリストの副官を務めるオーギュスタンが三本の指に入るレベルらしい。

「国王は始末した。続いてそちらの首尾はどうなのだ? 私は“預言者”となるため、これよりアトスへ発つ。
お前の密偵としての送り先であるハミルカル、いや、ブライト家はもはや傀儡と化した。
と、いうことで私の執政官としてお前にはこちらに戻ってもらいたいのだが、ステッセルよ」

若き将軍は、若き密偵へと話を促す。さしずめ西側の担当と東側の担当といったところだ。

「はは…もはや私には言葉も無いほど、カリスト様、いや、預言者カリストゥス様はお察しが早い様子。
おおよそ貴方様の仰るとおりになっております。謹んで、王国側の執政をさせていただきます」

「分かっているな? 私は預言者、神の代弁者、いや、神を司る者とでも言っておこうか。
“天界”でお前たちの活躍を見ている。 “下界”では言われた通りのことをせよ。
たまに呼んでやる。物見遊山のようなつもりで来るといい」

黙って頭を垂れるステッセル。しかし、その伺い知れぬ表情からは不安だけが渦巻いていた。
イオたちアストラの民や、ジェノア、アトスの情勢は決して一枚岩ではない。
野心が一つの方向に向かっているとは、限らないのだ。

「天使は全て支配した。だが、残っている者がいる。どれだけ内部に“接触”しても心を開かぬらしい。
アトラスムスの僕(しもべ)とならぬ、そいつの名はアレクサンドラ・トリバネアゲハ、だ。
見つけ次第、始末してよい。殺しても、という意味だ」

――
0129フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/22(土) 23:27:42.07ID:t7qkzjCu
「で、どうすんだ、オイラたち」

コボルトの生き残りたちが廃墟と化したレクトゥスから西へと入ったアトス側でキャンプを取っている。
コボルト数人と奇跡的に合流を果たした館の侍女の一人、チホリがコボルトたちに色々と相談されている。
どうもコボルトは決定的なリーダーがいないと他を頼る傾向にあるようだ。
目の前には何も考えずにひたすら救命措置を取った兵、レクトゥス民、コボルト、そしてエイプマンまでいる。

「知らないねぇ、でもありがとさん。アイラはやられちゃったけど、ユウリがまだ行方不明だし、
あたしらにもまだ道がある感じがするわ。ところで、この紋章は、あの白十字の連中のものかね?」

比較的小柄なそれなりの装備の男。白いマントまで身につけている。

「あぁ、こいつぁデルタで違いねぇ…生きてたのか。じゃあ、まだ希望はあるかもな。
とりあえず帝国と北方がドンパチやってんのは北の方だし、安全にゆっくり行こうぜ」

「あんたが仕切んなっての…ま、ボチボチいくか。ザトーラップの旦那が残ってりゃ、
さっきのエントどもを動かして一気に動けそうなもんだけどね。あの人も今頃無事にやってんだろうよ」

――


>「各地で時空のひずみが発生しているのかもしれない。
天変地異のようなものか、あるいは人為的な超大規模な儀式魔術の反動か……。
デルタが突然いなくなったのもそれで説明がつく。でもそうだとしたら希望はあるよ。
離れた場所で発見されたり暫くたってからひょっこり現れたりするかもしれないからね」

「よく分からねえ。とにかく最近の情勢ってのは異常だ。俺の想像を遥かに超えてる。
海賊王として活躍してても、これだけの事は経験できなかったかもな」
0130創る名無しに見る名無し
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2017/07/22(土) 23:55:10.26ID:IkwMPoeu
「手掛かりがなければシュヴィヤール領があるヴィクサス神聖国に行ってみるのはどうだろう。
もしかしたら自分の領土に帰っているかもしれないしそうでなくとも何か情報がつかめるかもしれない。
ただ、敵勢力の本拠地に切り込むことになるから今まで以上に危険な旅になるかもしれない。
シュタインの奴もヴィクサス神聖国教会の支部司教だったしね……」

「そうだ。それがいい。俺もその策を考えていたところだ。アトスに行こう」

フィッチャーはアレクに即便乗、ヴィクサスに切り込むことを提案した。

「で、どうすんのさ? まさか空を飛んで行くってんじゃないだろうね」

突っ込むマーテルに、すぐに答える。
0131フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/22(土) 23:55:43.23ID:IkwMPoeu
「その、まさかだよ。イオを落とす」

「落とすって、口説いて自分のものにしちゃうってこと?」

「まあ、見てなって」

イオは指揮で忙しかった。西の農場のあたりで指揮を執っている。
そこにフィッチャーが横から口を挟む。こっそりと話がしたい、と。
そして立てられたばかりの小屋へと入った。

「どういうつもりでしょうか? どうも、貴方は女ったらしだと周囲から話を聞いていますが、
ここで襲うのですか?」

「大事な話がある」

そこでフィッチャーは、アレクから聞いた、ステッセルの居場所と、現在の上官にあたるシュタインの
極悪非道ぶり、そしてそのおおよその目的について話した。
少し大仰に話す。
愛する団長のセレスティーヌが捕まった。一族は領土を奪われて間もない。
だからアトスから切り込み、悪の根源を絶ち、シュヴィヤール領を奪い返し、理想の国を作る、と。
そしたらイオやステッセルにも大きな役割を与えたい、と。

その想いは、通じたようだ。

「と、いうことで、今から俺たちを乗せて飛んでもらいたい。アトスへ。できるんだろう?」

「分かりました。では、次の日の朝日が昇ると同時に、広場におりますので、
できるだけ早く準備を済ませて全員で来てください」

その日の夕暮れ時、商売女三人のうちの一人の行方が分からなくなった。
ペトラと共に行動を開始したフィッチャーは、町外れの廃屋にて、女と密会している謎の男を発見した。
素早くペトラは毒や霧を使い、二人を行動不能にして女を殺害、フィッチャーも剣を振るって声を出される前に男を即死させた。
男からマジックアイテムのようなオーブが一つと、簡単な地図とメモが残されただけだった。
とりあえずオーブと地図、金品を奪うと、撤退していった。
服装からその所属は全く明らかにならない。
メモにはこれだけが書かれていた。「アレクサンドラ・トリバネアゲハ」と。
0132フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/22(土) 23:56:18.68ID:IkwMPoeu
その日は簡単な報告と、今後の流れについてフィッチャーが説明する。
また、地図とメモについても簡単に報告した。

「急だねぇ〜 それにしてもあのカタブツのイオちゃんも落とすとは、さすがフィッチャー代理。
明日はイオちゃんはおめかしして来るのかな?」

そんなノリで酒を割りと遠慮なく飲むフィッチャーとアレクと女三人。

――
0133フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/22(土) 23:56:35.24ID:IkwMPoeu
あくる日、街の広場に向かう五人。
まだ朝は相当に早いはずだ。しかし、人だかりができている。

「ありゃ、何だ?」

そこには、大きな羽根を広げたドラゴンの姿があった。
頭から尻尾まで実に10mぐらいありそうである。竜人族は魔力を開放すればドラゴンになれるというのは、
どうやら本当のようだ。

≪イオです。司祭の者に仕事は任せておきました。さぁ、乗りなさい≫

フィッチャーたち五人は、イオの背に乗ると、一気に飛び立つ。
次第にアストラの街が小さくなり、山脈がはっきりと見えてきた。
あそこを越えればジェノア、さらに向こうにはアトス山が見える。そこの下が聖都だ。
イオは魔力を振り絞りながら、懸命に翼を羽ばたかせアトスへと向かっていった。
フィッチャーは懐かしい魔力の流れが僅かに感じられる。セレスは生きているのか。それ以上に…
――アレクにとって、明らかにはっきりした何かとの距離が詰められていくのを感じていた。

【以上、国王死亡、その他色々なことが同時に動いています。
フィッチャーら一行はイオに乗って一気に聖都アトスを目指します。】
0134アレク ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/07/26(水) 00:34:33.51ID:27pPyl7E
ヴィクサス神聖国を目指そうというアレクの提案に即賛同を示すフィッチャー。どうやら同じ事を思っていたようだ。
問題は行き方だが、普通に行っていては手遅れになるかもしれない。

>「その、まさかだよ。イオを落とす」
>「落とすって、口説いて自分のものにしちゃうってこと?」

「あはは、流石にステッセル一筋のイオちゃんにそれは無理だろう。
でも逆にそこが交渉に使えるだろうね」

結論、フィッチャーは交渉を成立させた。
ステッセルをそそのかして悪に引き込んだ悪い奴らを倒すのに力を貸して貰いたい、という方向で説得したようだ。

>「急だねぇ〜 それにしてもあのカタブツのイオちゃんも落とすとは、さすがフィッチャー代理。
明日はイオちゃんはおめかししてくるのかな?」

「だねぇ〜 今でこのモテっぷりならスタイリスト付けてイケメンにしてもらったら大変なことになるんじゃない?」

「もう、アレクまで一緒になって何言ってるの!」

と、冗談混じりに盛り上がる一同。
一般的な意味で口説いて自分のものにしたわけでは無かったとはいえ、
全く嫌いな相手の頼みは聞きたくないものであるので、これも「落とした」と言っていいだろう。
大したものである。
謎の男やアレクの名前が書かれたメモについては気になるところだが、
デイドリームなので敵に目を付けられているのだろう、程度に思うアレクであった。
翌朝町の広場に向かうと、巨大なドラゴンの姿になったイオが一行を待っていた。

「すごい、本当に飛んでる・・・!」

緊迫した状況とはいえ、ドラゴンの背に乗るという滅多に出来ない経験に興奮を禁じ得ない。
次第に聖都アトスが近づいてきて、それと同時に何かはわからないが重大な何かとの距離が詰められていくのがはっきりと感じられる。

「この感覚は一体・・・」

しかし差し当たって、そのことについて考えている場合ではなくなった。
コウモリのような皮膜の翼と鏃のように尖った尾を持つ飛竜ーー
ワイバーンの群れが立ちはだかるように襲いかかってくる。
砦跡を根城とした研究施設が思い出されるーーおそらく敵勢力はモンスターを手駒として使う研究もしているのだ。

「どうやら歓迎されているみたいだ!ーー《クロス・エアレイド》!」

挨拶代わりに、十字架の形をした無数の光の魔力を打ち込む。
0135フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/30(日) 01:32:53.77ID:vCwrnjFu
>「この感覚は一体・・・」

「来るよ、すぐ戦闘態勢を!」

「おう、お前ら、あまり無理するな。イオ、空中でこいつらを片付けてから一気に地上に降下するぞ。
どうやら「連中」に見つかったみてえだな」

地上方面から次々と敵が現れる。
ワイバーンとガーゴイル、全部合わせると20はいるだろうか。
一方でこちら、ホワイトクロス側は実質一匹、全員合わせても6名だ。

≪指図しないでください。こちら側で何とかします!≫

>「どうやら歓迎されているみたいだ!ーー《クロス・エアレイド》!」

ギェェ、という声とともにワイバーンが直撃を受けて落下していく。
正面にはイオのブレスが放たれ、数頭のワイバーンたちが直撃を受ける。
マーテルがボウガンを構え、次々と発射し、ワイバーンの眼を狙っていく。しかし致命傷には至らない。
ユニスは支援魔法をかけながら、時折棍棒を振り回してはけん制する。それでもそこらの兵と違い、
一撃が入ったところで怯みもしない。ガーゴイルへの攻撃はそれなりに効果がありそうだが。
ペトラも魔法と爆薬を併せて攻撃したり、吹き矢で応戦したりする。
フィッチャーは指揮を執りながら、大剣でイオの死角を狙い急降下してくる敵をけん制した。

無人とはいえ、これだけの数が一斉に来ているのだ。どこかに指揮を執っている敵がいるはずだ。
≪ぐぅぅっ!!≫

やがて全方位からブレスや魔法による攻撃を受け、騎士団を守るようにして体勢を変えるイオに
一撃、一撃とダメージが入る。フィッチャーらが食らえば下手すりゃ一撃だが、イオならその分厚い体躯で
ある程度は凌ぐことができる。

「ウォォォ…」

突如現れた黒色のワイバーンに跨る男には見覚えがあった。
ジェノアで何度か殺人や横領を行った元議員のハミルカル・ブライトだ。
そういえば、と思った。息子のバルカスはフィッチャーらとの戦いで命を失っている。
その報復にでも現れたのだろうか。それにしては様子がおかしい。
0136フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/30(日) 01:33:23.52ID:vCwrnjFu
空中戦のさなか、ハミルカルはその重厚な装備と両側に刃のついたハルバードを抱え、
そのままイオの背中に飛び乗ってきた。すぐさま片側を勢いよくイオの首の辺りにぶっ刺す。

≪あぁぁぁぁ…!≫

「大丈夫だイオ、こいつは俺らで片付ける!」

「ハミルカル様…!」
「様?」

フィッチャーはうっかりしていた。そういえばペトラは元々はジャイプールの暗殺集団の一人。
何者かに雇われていると聞いた。そしてそのまさかだ。

狂戦士のように槍を振るい、フィッチャーに襲い掛かるハミルカル。その攻撃を剣で受けつつかわし、
すぐに脇腹にフィッチャーが一撃を叩き込む。
しかし、腹から血を流しているものの、ハルミカルは怯みもせず突っ込んでくる。
そこでフィッチャーは一旦イオの尾の方へと移動し、周囲の援護を受けながら、隙を見て急所を突こうとした。

マーテルが矢で腕を封じ、アレクも攻撃、同時にユニスが棍棒で脚を狙いながら離脱、そのままペトラも攻撃を加える予定だった。
しかし、雇い主の一撃を防御もせぬまま脚に受け、倒れたところをもう一撃食らおうとしていた。

「フィッチャー、今だ!」

どう見てもこちらに分があった。ハミルカルの首が完全にお留守になっていた。しかし――
カィィン、という音とともに、ペトラへの一撃を、フィッチャーが弾く。

「どうしたんだ?」
「一応、命の…恩人だから――!」

ペトラたちは孤児も同然で、行く当ても無い中で、ハミルカルによって雇われ、
それなりのポストを約束されて、バルカスという彼氏を得て、将来の義理の父になってくれとまで言われたのだった。
他の者たちも同じように女を宛がわれたり、多額の報酬を得たりしていた。
0137フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/07/30(日) 01:33:46.14ID:vCwrnjFu
「よく見ろ、こいつはもう“生き”ちゃいねえ…」

一撃、一撃とフィッチャーに容赦のない攻撃が叩き込まれる。防戦一方の腕の痺れから、
やがて手足へと素早い攻撃はフィッチャーに傷を与えていく。
弾けた攻撃はイオの肉体に突き刺さり、そちらにもダメージは蓄積されていく。

「フィッチャー、どうしてそこまでして…」

「男が女を守ることに、いちいち理由が必要か? いや。理由ならあったな。
俺はホワイトクロス騎士団団長代理だ。さぁ、お前ら、俺がやられてるうちにそいつを刺せ!」

マーテルがボウガンをハミルカルの鎧の隙間の頚部に打ち込み、さらにそこに
ユニスの容赦ない一撃が叩き込まれた。
イオの背上にて、ハミルカルはついに倒され様としていた。

――しかし、それでも周囲のガーゴイル、ワイバーンの攻撃は止もうとはしない。
無人の彼らからの攻撃は、いよいよイオに無理な体勢を強要させた。

ハミルカルの首の取れた死骸が落ちていき、ペトラもそれに続いて落ちようとしているところを、
フィッチャーががっちりと受け止める。残る二人も何とか体勢を維持する。

そこにガーゴイルにぴったりとくっ付くようにしていた「人物」がフワリと身を翻し、回復を開始しようとするアレクの前に立ちふさがる敵がいた。・

その姿は赤ん坊のような顔に、赤裸のアンバランスな細い全身、そしてデイドリームと同じような羽が生えており、
子供ほどの大きさの見るも無残な怪物となっていた。両手には青白く光る剣のような武器を装備している。顔だちはよく見ると、
以前ジェノアの酒場でウェイトレスをしていた女に面影が似ていなくもない。

これが神の仔、「天使兵」と呼ばれるものだった。

「アレクサンドラ、我ニ降伏スベシ。我ハ聖ジェノベーゼ。抵抗スレバ命ハナイ。アレクサンドラ以外ノナ」

無表情でアレクに切りかかるジェノベーゼと名乗る天使兵の攻撃は、あまりにも素早かった。
それと同時に一斉に周囲のワイバーンたちの生き残りが襲い掛かる。

「うわっ…」「何!?」「何だ、コイツ?」

他のメンバーたちもその姿を見て、絶望感に駆られた。放たれている魔力も相当のものだ。

≪結構痛いですが、もう少しなら行けます。まだ上で迎え撃ちますか!?≫

「親玉を発見した。イオ、もう少しの辛抱だ。こいつが普通の攻撃で倒せれば、の話だがな
さぁ、さっさと片づけて早く降りるぞ、お前ら!」

ジェノベーゼによるアレクへの攻撃が激しくなる中、フィッチャーはイオを守るべく、周囲の敵を警戒し、
大剣を高く振り上げた。

【空中戦の末、半数ほどを撃破、ハミルカル死亡、そして「天使兵」のジェノベーゼが
アレクに魔力の双剣による猛攻撃を加えてきています】
0138アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/02(水) 07:15:26.80ID:qFBJIXjZ
ワイバーンやガーゴイルを蹴散らしていると、黒色のワイバーンに跨るハミルカル・ブライトが現れた。
悪徳政治家の代名詞のような奴だが、それにしても様子がおかしい。
アレク達から見れば理想的なフォルムの悪代官でも人間往々にして色々な側面があるもので、
恩義があるペトラは彼を殺すことが出来ないようだった。

>「どうしたんだ?」
>「一応、命の…恩人だから――!」

>「よく見ろ、こいつはもう“生き”ちゃいねえ…」

フィッチャーは容赦のない攻撃を浴びながら、これはハミルカルであってそうではない事を言い聞かせる。
皆がハミルカルに集中攻撃を加える中、アレクはイオに回復魔法をかけながら持ち堪えさせていた。
そんな中、真打らしき人物が満を持して登場する。
人物といっても異様な姿をしており、少なくとも普通の人間ではないのは明らかだ。
天使といったら普通は美しい姿をしているものだが、こいつの場合どう見ても化け物の姿をしており、悪の手先としてはある意味分かりやすい。

>「アレクサンドラ、我ニ降伏スベシ。我ハ聖ジェノベーゼ。抵抗スレバ命ハナイ。アレクサンドラ以外ノナ」

「ジェノベーゼ!? そんなオサレなもんは知らん!ちなみにワタシはナポリタン派だ!」

>≪結構痛いですが、もう少しなら行けます。まだ上で迎え撃ちますか!?≫
>「親玉を発見した。イオ、もう少しの辛抱だ。こいつが普通の攻撃で倒せれば、の話だがな
さぁ、さっさと片づけて早く降りるぞ、お前ら!」

エントが心の中で語りかけて食る。

《あんな姿でも奴は天使……神聖魔法では勝ち目がない》

「そんな! じゃあどうすれば……あ、そうか!――《プラントシェル》」

魔力的な植物の葉がイオの全身を覆い、敵の攻撃を阻む障壁となる。おそらく、神聖魔法の防御系魔法よりも高い効果を発揮することだろう。
神聖魔法で勝ち目がないなら、他の魔法で戦えばいいということだ。精霊王エント、その正体は教会勢力がかつて焼き払った異教の神――

「――《スオンウィップ》」

魔力によって現れたいばらの蔦のようなものを自在に操って使って応戦し、敵の攻撃を受け止める。

「――《ポイズンブロウ》!」

隙を突き、毒の胞子の概念を借りた魔法攻撃を仕掛ける。
0140フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/06(日) 03:20:46.18ID:yJJiLPlj
>「――《プラントシェル》」

(あいつ、エントの力を…!)

フィッチャーはペトラを抱きとめ、何とか体勢を立て直しながら関心した。
ペトラが無事となれば、いずれは自分もアレクの援護に入らなくてはならない。

「オロカナ、ソノヨウナ力デ…」

素早くj身を翻すジェノベーゼはその防壁の隙を見て、アレクに一目散に襲い掛かる。
飛来してくるそれは、僅かな隙を作るのも容易い。
この間僅か。フィッチャーらは黙って見ているしかなかった。

>「――《ポイズンブロウ》!」 「馬鹿ナ・・・!」

ジェノベーゼが攻撃してくるその真正面から、何とアレクは思いもしない毒魔法を放ったのだ。
防壁によって一瞬ガードされるも、その精霊の力を借りた特殊魔法はジェノベーゼの周辺に離散し、
その粒子の一撃一撃が確実に「彼」を蝕む。

「グゥゥ…」

フラリとしたジェノベーゼに、マーテルのボウガンが発射される。
それは首に的中し、イオの背中へとその「天使」は落下していく。

≪フィッチャー!≫
0141フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/06(日) 03:21:07.30ID:yJJiLPlj
「お、おう」
イオからの掛け声で気付いたときにはフィッチャーは大剣を握り締め、
一瞬で「天使」の頭と胴体を両断していた。

「グォォォォ…グェグェ…」

なおもその不気味な生首は眼を見開き、胴体もピクリと動いている。

「きゃあぁぁ!」
思わずユニスはその胴体をイオから突き落とし、さらにペトラの攻撃が続いた。

ドォォォン!!

思わず投げた爆薬は炸裂し、その頭部を木っ端微塵に砕いた。
ようやくこれで天使兵の一人を片づけたのだ。

「このぐらいやっておかないと、生き返りそうな化け物だからね」

≪加減ぐらいしてください! そろそろ私、限界です…≫

地面がイオの肉体であることを忘れていたのだ。背中は爆発で抉れ、大きな傷を負ったイオは
徐々にバランスを崩していった。

敵の動きも良く見るとまばらになっており、ほぼ統制をなくしており、まばらにしか近づけていない。
結構な勢いで西側へと落ちていき、アトスはみるみる遠ざかっていった。
そして何かの縁か、その落ちた場所は、
ジェノアの郊外だった。


――
0142フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/06(日) 03:21:32.69ID:yJJiLPlj
――アトスの塔から続く天界

「ジェノベーゼがやられたか……まぁ、大勢に影響はない」

ここではカリスト配下のデイドリーム及び「天使兵」の多くの魔力によって、労働力が賄われ、
まさに天界に相応しい蒼穹の空中庭園が完成した。
ゲートから見えるその姿はまさに圧巻。
多くの「天使兵」たちが守る巨大な神殿が建ち、その外には無限の食料が手に入ると思われる
広大な緑が広がっている。

「まずは手始めに、『オリンパスの光』を見せてくれよう…目標は、あのあたりか…」

カリストが手をかざすと、オーブから光が溢れ、そこにある広大な風景が映った。
それは帝国軍がシュヴィヤール領の北部から北方方面へとなだれ込み、
それを北方軍が迎え撃とうというところだった。
帝国兵10000、北方軍15000はいるだろう。そこに突如暗雲が立ち込め、
戦いを始めんとする兵たちに巨大な稲妻が降り注いだ。
ァァァァァァァl――    オォォォォォォォ…

稲光が放たれる度に兵たちや魔物たちが次々と砕け、赤い塊となっていく。
カリストの一度の動作で実に500人ほどの兵が犠牲となった。
そしてその何倍もの兵が負傷している。
これらは全て、「ゲート」の力と、「天使兵」らから徴収された膨大なる魔力の賜物だ。
オーブを持ち、全てを管理するカリストはが、地上の支配者となった瞬間だった。

「全ては揃った、と思うか? アトラスムス、いや、聖ヨナクニよ」

「はい、「下界」ではアトスにフロウレン様、ジェノアにシュタイン様を置いております。
いずれは各地を弱体化させ、全てを支配下に置いた際は、他の者も用意する手筈になっております。
例えばステッセル様や、アストラのイオ殿、他に王国側の諸将を用意すれば…」
0143フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/06(日) 03:22:06.02ID:yJJiLPlj
「我らには兵がいるが、人民がいないではないか。天界にも人を増やすのだ。
私は今や古代聖書に書かれている『天帝』になった。天帝カリストゥス、良い名だと思わないか?
と、いうことでこれまでお前と交配していた女どもや、一部の若く、美しく優秀な女をここに入れ、
多くの子孫を残し、育てていこうと思う。私は全ての父となる…」

やがて、カリスト改めカリストゥス配下のデイドリームたちがゲートを使い、アトスから女たちを連れてきた。
皆が皆裸で、何かに操られたような眼をしているが、若く美しく、頑健で一部は「天使兵」を産んだ経験のある者もいる。
カリストゥスは女たちを一箇所に集めると、啓示をするように伝えた。

「我はカリストゥス。預言者である。お前たちはこれより「天界」を創る者として選ばれた。さぁ、私と遊び、愉しめ」

神殿の中は暗くなり、遊べ、愉しめという言葉がデイドリームたちによって合唱される。
「天界」の異様な光景は勿論、「下界」でもまた別の光景が見られた。

――

「ぐっ…!」
ジェノア地下牢――
腐乱した両親、自分や兵士たち、シュタインの汚物で満たされたこの場所は既に常軌を逸した異臭を放っていた。
しかし、逆にこれがシュタインをこの場から遠ざける結果を生み、食糧を密かに貯めこんでいたセレスティーヌは、
全裸に拘束具姿であるものの、全身を鍛えに鍛え、最大限の努力をしていた。
投与された薬物も違った意味で効力を発揮し、化膿した傷が痛むものの、上腕は鍛えあげられ、
柔らかさを保った乳房から下の腹筋から腰にかけて、さらに尻から下肢に至るまで万遍なく強化され、常人を超えていた。

何度もたたきつけ、錆び付けた鎖は、湿気も後押ししてついに破壊され、錘を外せばもはや脱出は可能な状況にあった。
丁度食糧が底を尽き、さすがに自分の糞を食する気にはならない。

(フィッチャーたちは来ないのか……ついに実行する時が来たか)

カンカン、と檻を叩くと、見張りの兵士が二人現れる。セレスティーヌの姿は見えない。
鍵を開け、中を覗き込むと、天井に張り付いたセレスティーヌからの鉄球による一撃が浴びせられ、一瞬で気絶する。
もう一人を飛び降りて股に挟み、口を塞いだ後、腰を捻ると、立ったまま兵士は首の骨をへし折られ息絶えた。
0144フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/06(日) 03:22:59.96ID:yJJiLPlj
すぐに死体を隠し、もう一人の兵士を縛る。後ですぐに問い詰める予定だ。
明日になるまでまず間違いなくこの二人以外は来ない。とりあえずは死体から服装を奪い、
なるべく乾いた地面を確保して布で全身を拭いた。僅かにあった塗り薬を塗りこむ。
すっかり化膿した傷を癒すには程遠い。しばらく地面を摺って歩いたせいか乳首が酷く滲みる。

兵士の下着や服、鎧を着込みながら、奪った剣を握り締め、呟く。
全身が悲鳴を上げている。尻や胸がきついが、この装備でも10人程度を相手にすることならできるだろう。

「シュタイン……貴様だけは……!」

悪臭を残し、兵士の格好をしたセレスティーヌが、歯をギリギリと鳴らしてうずくまっていた。


――

「ここは……ジェノアか。戻ってきたんだな……何か懐かしい空気を感じるぜ。アレク、とりあえずペトラの回復を頼む。
街の様子がおかしいぞ。 なるべく回り込んで一気に神殿を目指す。あそこにシュタインどもが居たんだ。
誰であろうと、聞き出してやる。うちの団長の居場所をな!」

「……あのー、私は放置でしょうか? 怒りますよ。ここでステッセル様の居場所が判れば……」

イオがボロボロの格好で血を流しながら愚痴る。頭の角も欠けており、その外傷が半端なものでないことを
物語っていた。

「悪かった、イオ。アレク、とりあえずイオを優先して回復させてやってくれ。ペトラは俺が何とかする」
0145フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/06(日) 03:24:01.39ID:yJJiLPlj
暫く移動し、懐かしの酒場の前を抜け、殆ど老人しか通らない道を辿って裏通りに回り込む。
時折ガチャ、ガチャと何かが鳴る音が響いた。

「こっちだ」

神殿の勝手口の手前で隠れる。この位置からだと見張りは二人。どちらも神聖国の章を付けている、正規兵だ。
逆にいえばこの場所はもう引き返しがきかない。と、フィッチャーが悩んでいるときだった。
ガチャ……

一斉に全身甲冑を着た兵や、神官兵士たちが現れ、槍や剣、弓、メイスを構えられた。

「フィッチャー・レーガン。お前を第一級戦犯として神聖国軍が身柄を確保する。同じく配下の兵全員もだ。
大人しく武器を捨てればよし、抵抗すれば命の保証はない!」

槍を持った隊長格の甲冑兵が高らかに叫ぶ。総勢20人以上はいるだろう。前から待ち伏せをしてきたようだ。
そして後ろからその手際の主が現れた。シュタイン。それは間違いなくシュタインだった。

「フフフ……戻ってきましたか、フィッチャー。女どもを連れて。残念ながらセレスティーヌは家族諸共処刑済、シュヴィヤール家滅亡です……
丁度良い。女どもを使いたいのです。こちらに差出しなさい、ムッ、そいつはアレクサンドラ、またお前なのですか……!!?」

シュタインはアレクを見るなり形相を変える。そして一言だけ叫んだ。
「奴らを殺しなさい。フィッチャーとそのデイドリームを殺すのです。一人も生かしてはなりません……!」
剣を構えるフィッチャーは、素早く駆け出していた。

【超超一気に進みましたが、色々と止むを得ず飛ばしまくってます。よろしくですー】
0146アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/06(日) 21:13:12.33ID:q6BYczkt
幸い毒の魔法が功を奏し、その好機を逃さず皆で集中攻撃を浴びせる。
フィッチャーが剣で天使を切断し、駄目押しとばかりにペトラが爆薬を炸裂させた。
それはいいのだが、ここはイオの背中の上。
爆発の余波でダメージを負ったようで、一行はジェノアの郊外に不時着したのだった。

>「ここは……ジェノアか。戻ってきたんだな……何か懐かしい空気を感じるぜ。アレク、とりあえずペトラの回復を頼む。
街の様子がおかしいぞ。 なるべく回り込んで一気に神殿を目指す。あそこにシュタインどもが居たんだ。
誰であろうと、聞き出してやる。うちの団長の居場所をな!」
>「……あのー、私は放置でしょうか? 怒りますよ。ここでステッセル様の居場所が判れば……」
>「悪かった、イオ。アレク、とりあえずイオを優先して回復させてやってくれ。ペトラは俺が何とかする」

「了解、回復魔法が使える全員で手分けしよう」
0147アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/06(日) 21:15:41.67ID:q6BYczkt
負傷の酷いイオに、強力な回復魔法をかける。
ユニスやマーテルもいくらかは回復魔法が使えるはずだが、やはりペトラは元々敵である上にフィッチャーを巡るライバル的関係(?)であるので
回復を頼むのは気が引けたのだろうか。
しかしこの期に及んでそんなことを言っている場合ではない。
そして、本命はセレスティーヌであってここにいる者達は皆本命ではない、という意味ではある意味お仲間でもある。
0148アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/06(日) 21:26:31.46ID:yD1LCLaL
>「こっちだ」

勝手知ったる古巣、うまく立ち回れるかと思いきや、相手も準備して待ち構えていたようで、すぐに取り囲まれた。
0149アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/06(日) 21:29:14.74ID:yD1LCLaL
>「フィッチャー・レーガン。お前を第一級せんぱんとして神聖国軍がみがらを確保する。同じく配下の兵全員もだ。
大人しく武器を捨てればよし、抵抗すればいのちのほしょうはない!」
0150アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/06(日) 21:30:24.01ID:yD1LCLaL
そして、事の発端からの宿敵であるシュタインが姿を現した。そして衝撃的な発言をする。

>「フフフ……戻ってきましたか、フィッチャー。女どもを連れて。残念ながらセレスティーヌは家族諸共処刑済、シュヴィヤール家滅亡です……
丁度良い。女どもを使いたいのです。こちらに差出しなさい、ムッ、そいつはアレクサンドラ、またお前なのですか……!!?」

激しく動揺するであろうフィッチャーを落ち着かせようとするかのように言う。

「鵜呑みにするな、本当とは限らない……生け捕りを狙っていたからには何らかの理由があるはずだ」

>「奴らを殺しなさい。フィッチャーとそのデイドリームを殺すのです。一人も生かしてはなりません……!」

「一人も生かしてはならないのはそっちの方だ!」

相手は「女どもを使いたい」と言った。何に使うつもりなのかは分からないが、碌でもないことにしか使わないのは確かだろう。
もしかしたら、それがセレスティーヌを生け捕りにしようとしていた理由とも繋がっているのかもしれない。
しかし、あそこまで欲しがるほど相手にとってのセレスティーヌの「有用性」が高かったとすれば、まだ生きている可能性も高い。
もしかしたら想像を絶する酷い仕打ちを受けたかもしれないが、命があれば、希望はある。
何はともあれ、戦闘は始まった。

「――《フルポテンシャル》」

まずは駆けだすフィッチャーに、身体能力全般強化の加護をかける。
敵の何割かは、まずはアレクから仕留めようと群がってきた。

「――《アシッドリキッド》!」

群がってきた者達に、植物系統の溶解液の魔法で応戦。頑強な鎧が溶けるのを見てひるんだ隙に、マーテルやペトラが攻撃を加えていく。

「おのれ、その技……悪しき異教の邪神と契約したのですか……!」

アレクが精霊魔法を使うのを見たシュタインは、怒りを露わにするのであった。

「異教の邪神……貴方達から見ればそうだろうね。きっと多様性を認めないことが過ちの始まりだったんじゃないかな……。
今こそお前達に支配された暗黒の時代を終わらせる――再生《ルネサンス》の刻だ!」

色鮮やかな羽根を露わにし、改めて宣戦布告する。

「《リーフカッター》!」

無数の鋭利な刃となった葉が舞い、シュタインを切り刻む。
0151アレク ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/08/06(日) 21:33:51.07ID:yD1LCLaL
【今度はNGワードがどうとかいう規制が出現して細切れに……。
多分>149の平仮名にした単語のうちのどれかが引っかかったのかな?】
0153フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/11(金) 17:10:35.41ID:U2IMNIwB
>「――《フルポテンシャル》」

アレクが支援魔法をかけると同時に、シュタインも同様に周囲の部下へと支援をかける。

「―≪ハイポテンシャル≫……さぁ、鉄十字騎士団の皆さん、片づけておしまいなさい!
それにしてもこの数を相手にするとは、無謀な……」

20人以上だった敵が、各方面から合流してきたらしく、瞬く間に50人程度になっていた。

「うぉおおおお!!」

フィッチャーの一撃を、甲冑兵がまず槍で受ける。ガイィン、という音とともにまず槍が砕け、
敵兵が後方に引いて剣を抜く。その間にもう一人の兵がフィッチャーの横腹を突こうとするが、
「たぁぁぁ!!」

ユニスが棍棒でその一撃を叩き落とした。
上では弓兵がボウガンでこちらを狙っている。そこをマーテルがけん制し、弓兵が引く。
そしてフィッチャーは先ほど追い込んだ甲冑兵を強引に地面に転がし、そのまま頭をぶっ叩いた。

ギャアという声とともに脳天が潰れ、ようやく一人を片づけたということになる。
敵は他の方向からも展開しており、既に危険だ。次の矢がフィッチャー目掛けて襲おうとしている。

シュタインが魔術の束を収束させ、棍棒へとそれを移すと、前線に出てきたフィッチャー目掛けてかまえる。

同じ頃、甲冑兵たちがアレクらに襲い掛かっていた。

>「――《アシッドリキッド》!」

「ぐぁぁあぁ!!」「痛い……助けてくれ……」「くそっ、どうなってる!!」

「はぁっ!」

重装備の兵たちが鎧を溶かされている隙を突き、ペトラが爆弾と毒を撒く。
これによって爆発により鎧は砕けあるものは即死、ある者は毒と溶解によって苦しみ倒れていった。
前線が一通り片付くと、イオが遠くで狙っている弓兵相手に魔法を放ち、次々彼らを落としていく。
0154フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/11(金) 17:11:11.66ID:U2IMNIwB
「おのれ……女数人相手に何を怯んでいる……!」

思わずシュタインもチャージを一瞬止めた。
そのときである。

>「異教の邪神……貴方達から見ればそうだろうね。きっと多様性を認めないことが過ちの始まりだったんじゃないかな……。
今こそお前達に支配された暗黒の時代を終わらせる――再生《ルネサンス》の刻だ!」
「《リーフカッター》!」

精霊魔法の能力を加えた神聖魔法がシュタインを脅かし、シュタインの魔法陣はおろか、
その全身に無数の刃が襲った。
全身の衣服が裂け、そこからは血が噴出すが、次の瞬間、シュタインは信じられない姿を見せた。

傷口から肉のようなものがはみ出、帽子が取れて青筋の塊のような顔面になると突如、発光して
全身の筋肉が膨張し、翼が生えて異形の怪物と化した。
白と黒の翼は合計8枚。「ダーク・セラフィム」という聖書に登場した怪物に似ている。

「予定が変わりました……お前たちを血祭りにしてあげるのも一興ですが、その前に仕事があります……
マーゲン! 彼らを始末して差し上げなさい……」

そう言うと、シュタイン――だった化け物はぶわりと8本の翼を広げ、そのまま醜悪な巨体を持ち上げるようにして
アトス方面へと飛び去っていった。

再び恐怖が出現する。先ほどの掛け声で脇にあった詰所のような場所の扉が割れ、
ズシリ、ズシリと刺々しい全身鎧を着込んだ人間の倍はある巨漢が現れる。

「死にたい奴から前に出ろ……」

その声はかつて王国から派遣された隊長・マーゲンで間違いなかったが、体格は明らかに違っていた。
そう、「異形の者」と言うのに相応しい。長い鎖のついたモーニング・スターが彼の武器で、
その鉄球だけでも大の男以上の重さがあるだろう。

「殺す、コロス、コロス・・・」

振り回される鉄球はあっという間にフィッチャーの辺りまで飛んでいき、彼の目を釘付けにした。
すぐに武器を構え直すフィッチャーだが、二撃目は避けられず、大剣で受けるも大きく後ろへと引き摺られる。

「くそっ、なんて力だ! まるででかい投石器の石のような破壊力だ! ユニス、マーテル、下がって雑魚の相手してろ!」

ブンブンと八の字に回される鉄球は瞬く間に弓兵の登っている櫓台も破壊し、彼らはあっという間に地面へと落ちていく。
先ほどしとめ損ねた甲冑兵も彼の鉄球の餌食となり、赤い肉のついた鉄塊となりあちこちに散らばる。

「ヒェェェ……!!」「化け物だぁぁ……!!」

兵たちは怯える。そして、フィッチャーが下がった隙をついて、今度は鉄球がアレクの方向を襲った。
イオが防壁を出すも、それをあっさりと破られ、それを辛うじて短剣で受けたペトラが弾き飛ばされる。

腕から血を流し、壁まで吹き飛ばされたペトラは、次の衝撃までは予測できていなかった。
ドォォォン!!
0155フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/11(金) 17:11:47.00ID:U2IMNIwB
残った爆薬が先ほどの摩擦で誘爆し、ローブを燃やされた無残な裸の姿で、遠くへと吹き飛ばされ転がった。
生死のほどは定かではない。

「ペトラ!」

フィッチャーもこれには怯み、さらに押される結果となった。これ以上後退すれば、他のメンバーが危ない。
そして、アレクとイオ、ユニスとマーテルの方にも、敵の新手が到着し、狙っている。

――

とある宿場町。
もはやどこの領土かもわからないが、彼らは確実にアトスへと近づいていた。

女は身体を横たえたまま、横に寝ている男、デルタに声をかけた。

「このままアトスに突入するって、あんた本気かい? まぁ、あたしはユウラとアイリを殺られちまったし、
もううちらの「先生」に頼むぐらいしか方法はないけどね」

レクトゥスでの知り合いになるデルタは、女、チホリを抱き寄せながら、小声で囁いた。

「あまり大きな声で言えることじゃないけど、味方は多い方がいい。それに俺たちの団長と代理は今まで不死身だったんだ。
恐らく今、事を起こすならあのあたりにいるはず。少しずつでもいいからやれることをしよう」

チホリが「先生」と仰ぐザトーラップからの返答が、彼女の持つマジック・アイテムにあったようだ。
あとは向こうに自分の向かう方向を知らせることができれば、きっと彼はホビット軍を出して遠征に来てくれる。
こちらにいるコボルト、エイプマンの軍勢とあわせれば、多少の力にはなるだろう。

チホリの腹の中にはザトーラップの子がいる。しかし、そのお陰で彼女は難を逃れることができた。
彼女はそのことを肉体関係を持ってしまったデルタには話してしまっている。しかし、デルタもまた、意中の間がいるとのことだった。
これはただの傷の舐めあいではない。
お互いがお互いの鞘に収まるための、正しい行為なのだ。

「デルタ、「先生」から反応があった。期待はしちゃダメ。だけど、折角貰った命だし、誰かのために使いたいんだ」

「俺も同じだ。チホリは俺の命の恩人みたいなもんだ。この命は……ホワイトクロス騎士団のために……捧げる」


――

一通りの繁殖行為を終え、預言者カリストゥスは「オリンパス」と名付けた天界の上から、
地上で起こっている様々な事を見守っていた。

「カリストゥス、地上は順調に征服が進んでいるようですよ。この呼び方、慣れませんね。
天界の拡充はすぐに地上の生産力を上回るでしょう。この地には選ばれし者たちが集うことになります。
ええと、お顔がすぐれませんが、どうかなさいました?」

「構わぬ。アトラスムス。お前が「神」で、私は「預言者」に過ぎぬのだから。これからは
我々二人を中心に世界が創られる。ところで、フローレンの造反については把握していたか?」

「あの以前よりアトスとジェノアの内偵をさせていたフローレン様ですか。やはり、研究機関が絡んでいると?」

「そうだ。「天使兵」の数が足りぬ。恐らくは内部で「天使兵」の魔力を利用して研究の没頭をしているのであろう。
これは横領だ。すぐさまこちらから偵察の者を送り、事実が確認でき次第、「爆撃」を行ってから制圧にかかり処分する。
それから、アースラントのステッセル。イオというかつての部下の女が移動中だ。こちらの偵察についてはアトラスムスの配下に任せる。
これは“粛清”だ。良い結果を願っているよ。
みんながシュタインのように勤勉なら良いのだがね。そうはいかないのが「人間」というやつだ」

「……「人間」でございますか……」
0156フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/11(金) 17:12:18.39ID:U2IMNIwB
――


ジェノアの勝手口近くより悲鳴が響く。
「化け物、バケモノが出たぞ!」「何だこいつは!」「ぎゃぁぁ!」

後退する兵たちがフィッチャーの前にいるマーゲンのさらに後ろに次々と現れる。
皆が皆、自分の保身で必死なようだ。

「逃げろぉぉぉ!!」「くそっ、この女、まるで竜巻だ……」

――そこから現れたのは、髪を肩までの長さに切りそろえた、あのホワイトクロス騎士団団長、
セレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤールで間違い無かった。
顔つきは殺意に溢れ、窮屈そうなチェイン・メイルは汚物と血に塗れていた。

フィッチャーは叫んだ。
「セレス!!! 俺だ! 生きていたのか!!?」

思わず振り向くマーゲン。ようやく体力無尽蔵の巨漢の攻撃の手が止んだ。
しかし、セレスティーヌは逃げ惑う兵士たちの首や脇腹を切り裂いていった。
まるでただどう無駄なく確実に殺すかが込められているような無駄のない動きで。

「フィッチャー!! お前たち! その男を殺せば、お前たちと合流できるのだな……!?」

「あぁ……」

信じられない、という表情のフィッチャーは横に立つ、アレクと顔を見合わせた。
そう、やはり生きていた。ここに、ホワイトクロス騎士団は団長の御旗のもとに再結成されるのだ――

【以上、セレスと無事合流、ペトラを除く5人と満身創痍のセレスで怪物鎧と化したマーゲンを囲む形、
さらにその周囲や高い位置には雑魚兵士が十数人構えている状態です】
0157アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/14(月) 09:08:03.48ID:NQu2OQt9
アレクの攻撃を受けたシュタインが異形の怪物へと変化する。ダークセラフィムーーそれは闇に堕ちた至高の天使ーー

>「予定が変わりました……お前たちを血祭りにしてあげるのも一興ですが、その前に仕事があります……
マーゲン! 彼らを始末して差し上げなさい……」

飛び去ったシュタインと入れ替わるように、巨人とも言うべき姿に変わり果てたマーゲンが現れた。

「まるで化け物の展覧会だな……!」

>「殺す、コロス、コロス・・・」

非常識な大きさの鉄球をぶん回しこちらを圧倒するマーゲン。
これには流石のフィッチャーも圧されている。

>「くそっ、なんて力だ! まるででかい投石器の石のような破壊力だ! ユニス、マーテル、下がって雑魚の相手してろ!」
>「ヒェェェ……!!」「化け物だぁぁ……!!」


マーゲンは鉄球のレベルを超えた鉄球で一応自分の側であるはずの兵達もお構いなしに蹴散らす。
少しでも敵の数を減らそうと、戦意喪失の魔法をかけながら雑魚兵士達の説得にかかるアレク。

「死にたくない奴は下がれ! ただの兵士に太刀打ちできる相手じゃない!もう分かっただろう?本当の悪者はどっちかが!」

そこにマーゲンの鉄球がぶち込まれる。
とっさにイオが障壁を張るも防ぎ切れず、ペトラが身を呈してそれを防いで弾き飛ばされた。
それはまるでアレクを庇ったかのようにも見えた。更にその衝撃で爆薬が誘爆し、重傷となる。

「無茶しやがって……!」

元々は敵で一行を始末しようとしていたペトラだが、それは元はと言えば恋人の仇を討つため。
そして元雇い主に対しての義理堅さも見せたこともある。
敵には容赦しないが一度仲間になった者に対しては情が深いタイプなのかもしれない。
じりじりと追い詰められていく一同。そこに更に新たな騒動が巻き起こる。

>「化け物、バケモノが出たぞ!」「何だこいつは!」「ぎゃぁぁ!」

一瞬、ただでさえ大変なのにまた新手の敵が登場したのかと思ったが、違った。

>「逃げろぉぉぉ!!」「くそっ、この女、まるで竜巻だ……」

「竜巻のような、女……?」

アレクの瞳が期待に見開かれる。果してその勘は当たっていた。

>「セレス!!! 俺だ! 生きていたのか!!?」

「団長! きっと生きてると思ってた……!」
0158アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/14(月) 09:09:14.48ID:NQu2OQt9
>「フィッチャー!! お前たち! その男を殺せば、お前たちと合流できるのだな……!?」
>「あぁ……」

フィッチャーと顔を見合わせて頷くアレク。

「再会を喜ぶのは後だ、まずはこいつをぶちのめそう! 二人とも、あれ行くよ! ーーホーリーウェポン、ブリンク!」

そう言ってセレスティーヌとフィッチャーと自身に武器強化と超速移動の魔法をかける。
名付けてトライアングル・アタック。よくある特定のメンバーが揃わないと出せない連携技というやつだ。
元々第二分隊と第三分隊は共同で任務にあたる事がしばしばあったので、以前より考案していたのだが、実際にするのはこれが初だ。
一瞬で三方向から取り囲み加護付きの剣で超速で切り付けるという、単純明快ながらも熟練した戦士が揃って初めて出せる高度な技である。

「ーー今だ!」

二人に合図を出すと同時に、疾風のように切りかかる。相手の武器は攻撃範囲の広い巨大な鉄球。逆に言えば細かいコントロールには比較的向かないと言える。
瞬時に懐に潜り込めば一瞬ぐらいは隙が出来るはず。その一瞬が勝負だ。
0160フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/15(火) 01:02:29.83ID:7opXxZHT
チホリがデルタを小突きながら行軍し、後ろにいる陣容を見渡す。
先ほどまで数十人程度しかいなかったコボルト、エイプマンたちは、気が付けば
二千人以上を数える軍勢となっていた。

「来たぞ。あいつが俺の知り合い、まあ、相棒みたいなもんだ。仲間を呼んだんだってさ」

そこに居たのはカボスだった。コボルトの生き残り代表として、たまたま通り掛かった北方の軍勢を
丸ごと寝返らせた。そして、エイプマンの方もコボルトの増員に対抗し、カンプベルベルという男がエイプマンをあっという間に束ねた。
北方軍の一員として与していた獣人族は一気にデルタたちの味方となったのだ。
皆が皆、謎の光による攻撃で疑心暗鬼となり、近頃怪しい動きをしていたヴィクサスを睨んでいる。
そこで挙ってアトスに侵入しようという手筈となった。

「デルタ、オイラたちが必ずヤツラをぶっ潰してやらあ。犬猿の仲っつうが、教会ほど胸糞悪ぃモンは
ねえってさ。みんなそう言ってる」

カボスは「切り取り自由」という話を出すと、コボルトもエイプマンも一気に士気が上がり、勢いづく。

「まったく、単純な連中なんだから……おっと、私の「先生」の方も動き出したようだね」

デルタと手を組みながら、チホリは水晶球の反応を見た。


――


「ボクは帝国軍の一部だ。だが、今は丁度帝国軍も混乱している。先ほどホビット庄の最寄の町で
帝国の状況を聞いたよ。どうやら北方との戦争は中止らしい。みんなヴィクサスに恐れをなしている。
今ボクが兵を挙げて成果を挙げれば、きっと奴らはビビる!」

丁度街の方からジャイプール人の女兵士を十数人雇ってきた。より高額な報酬でヘッドハンティングしたということだ。
ザトーラップのホビット軍は500人程度、しかし、妻子を含め女子供は庄に残している。
よって、普段からザトーラップの世話をする兵が必要ということだ。
0161フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/15(火) 01:03:16.99ID:7opXxZHT
「人間の女どもはよく働いてくれる。昼の世話も夜の世話も……ね。連絡をくれたチホリには悪いが、
ボクはボクのやり方でアトスを陥れて見せる。まずはエントとの契約だ。シャーマンを数人用意してあるし、
以前ボクらと共闘したという実績がある。まずはレクトゥスを目指し、彼らと手を組んでから、アトスに攻め入ろうじゃないか、なあ」

ザトーラップが鼻で命令すると、女たちがザトーラップの汗を拭き、着替えを用意し、飲み物を持ってくる。
それをがぶ飲みすると、女にキスをして残りを渡した。

「さぁ、ホビットの闘い方を見せてやろうじゃないか」


――


「ギャァァァ!!」「火を止めろ!まさかこの光は……!」「被害状況を……」

アトスの奥地、ミランダ聖堂にて、「オリンパスの光」が多数観測された。
瞬く間にその奥ゆかしく威圧感のある大きな建物に穴が空き、火の手が挙がる。

直後、突然現れた幻影のような軍勢によって、聖堂内にいる多くの神官兵たちが、
次々と殺害されていった。
神官兵士だが非常に軽装の男たちで、皆、黙々と「作業」に取り掛かっている。
その眼は「薬物」によるものと思われるほど濁っていた。
「ぎゃぁぁぁ!!」「プレシャス、神よ、お救いくだだい!ヒェェ……」

教皇フローレンは突然の出来事に信じられぬという表情と、罪悪感と恐怖によってパニック状態に陥った。
周囲の側近たちも慌てふためきながら武器を抜いている。

「天使兵! どうして天使兵どもが動かぬのだ? 貴様らだけでも良いからこいつらを抑え、ワシを護れ!」

「全く動きません、それより、弁解をした方が良いのでは、我らは味方……も、もしや……!?」

「まさか、“事が露見した”とでもいうのか……!!?」

教皇と周囲の騎士たちは辛うじて聖堂の奥に篭り、暗殺者たちと凌ぎを削っていた。
そのとき、パキャ……という音とともに複数の側近たちが赤い塊となって潰れる。

現れたのはシュタインと複数の天使兵だった。

「シュタイン、貴様、もしや我々が裏切ったとでも……? 誤解だ!」

シュタインはその巨躯を揺らしながら笑い、残響を残すような声で喚いた。

「お前の行動は前々から監視させていただきました……「下界」の代表である「教皇」の役割は
ご存知の通り「天界」に物資を捧げるという有り難い行為のはず……それを着服し、下部組織に過ぎないお前たちが
密かに叛乱を企てていたということ。それ即ち「天帝の命に逆らうなり」ということです。お・わ・くぁ・り・で・す・くぁ?……!
ここにはラビカン、ルーカン、マイエルダンあたりを入れるとしましょう。彼らなら馬鹿真面目で扱い易い……」

「待て、シュタイン、お前にもこの分け前は……ぐぁぁぁぁ!!!!!」

多数の天使兵による「制裁」、その上、シュタインの太い両腕により叩き潰され、前教皇を殺害し、ジェノアを内部から崩壊させた
稀代の謀略家にして偽教皇、フローレンはついにシュタインによってその命を絶たれた。
辺りには彼とその側近の骨や臓器、衣服が散らばった。

とある部屋には多くの金銀財宝が、とある部屋には多くの蔵書と魔道研究書類が、
とある部屋には薬物と「天界」にも無い実験の研究所が、そしてとある部屋には多くの女たちが閉じ込められていた。

「おや、こんなところにも生き物が居ましたか。我らに従うか、ここで死ぬか、決めなさい。ヒヒヒヒヒヒ……!!」

かくして、アトスの「教皇庁」と「教皇」は完全に存在を抹消され、シュタインの傘下に入ったのである。
0162フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/15(火) 01:04:17.05ID:7opXxZHT
――

>「団長! きっと生きてると思ってた……!」
「再会を喜ぶのは後だ、まずはこいつをぶちのめそう! 二人とも、あれ行くよ! ーーホーリーウェポン、ブリンク!」

「うぉぉぉぉおお!!」「おぉぉ・・・」

武器に神聖魔法が施され、さらにスピード、回避力を高められ、フィッチャーとセレスティーヌは力が漲ってくる。

「死ネェェェl!!」

マーゲンの鉄球は正確無比に三人を狙う。その攻撃には相変わらず隙が無く、セレスティーヌですら近づけない。
アレクが自然な形で間合いを取る。三方向から挟み撃ちにするという寸法だ。
その間にイオは後方から防御魔法をかけながら雑魚たちとマーゲンの攻撃の死角に入り、
それを守るようにマーテルとユニスが雑魚の遠距離攻撃を引き受ける。

>「ーー今だ!」

丁度120度ずつを制圧する形を取ったところでアレクの掛け声。しかし、マーゲンの攻撃はあまりに速く、
接近するまでに少なくとも一発は直撃するだろう軌道を描いている。突っ込んだところで赤い肉塊になるのが関の山だ。
それも、マーゲンの鎧は通常の甲冑兵の三倍以上はある。並みの力ではダメージを与えるのが難しい。

「セレス――!??」

フィッチャーがそんな判断をしている矢先にセレスティーヌは既に突撃の構えを見せている。
先ほど「竜巻」と形容されるが如く、もはや彼女は止められない。

「うおぉぉぉぉ……!!」

フィッチャーは我先へと大剣を前に構えながら突っ走った。
ガキン、という鈍い音とともにフィッチャーの大剣に鉄球がクラッシュする。
フィッチャーはそのまま鉄球に大剣を食い込ませると、全身を使ってそれの動きを相殺させ、鉄球に飛びついた。
マーゲンが振り回すと、たちまち彼の体は宙へと浮いた。その棘のせいもあり、血がトバドバと溢れ出す。

(よしっ、今のうちにそいつをやってくれ、こっちはもう持たねえ……!)

アレクの一撃がマーゲンの首に命中し、怯ませる。
セレスティーヌがそこに剣による重い一撃を浴びせた。
「グォオォォオオオオ!!!」

一撃、二撃、三撃。そこらの雑魚兵士から奪い取った並よりも少し強力なだけの鋼鉄の剣が、
並外れた力によってマーゲンの鎧を突き刺し、切り刻み、打ち抜いていく。
大量の血を噴出し、倒れるマーゲンの脳天へと、さらに一撃が繰り出され、マーゲンの脳天は割られた。
それに飽き足らず、起き上がろうとする怪物マーゲンへの次の攻撃は首を斬り取り、さらに心臓へと抉り抜く連撃となった。
それでも動く敵はあまりのセレスティーヌの勢いについに動きを止め、地面に倒れる鉄と肉の塊となった。

フィッチャーたちは、ホワイトクロス騎士団はマーゲンを討ち取ったのだ。
0163フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/15(火) 01:04:56.59ID:7opXxZHT
「大丈夫か!?」

裸になって倒れたペトラの元に、真っ先にフィッチャーは駆け寄った。
外見的には重傷、しかし、絶望的なことに爆発物とともに猛毒が離散し、彼女の肉体を蝕んだのは誤算だった。

「……ありがとう、愛するフィッチャー。どうやら、しくじった、み、た、いね……どうか、敵、を……」

ペトラの最期の言葉を受け取ると、裸になった彼女の遺体をその場に横たえ、兵の死体から取ったマントを上に被せてやった。

「プレシャス……必ずお前の分、お前の同胞や、俺の仲間たちを幸せにしてみせる」

――

「はあぁぁぁぁ!!」

呆然としている兵士、意気消沈している兵士、間隙している兵士、雑魚たちは思い思いで立ち竦んでいたが、
そこをセレスティーヌは容赦なく追撃し、一撃ごとに兵士たちの命を絶っていった。
首、脇腹、背中。どう殺すかだけの精紳が宿った剣が狂ったように敵を屠っていく。

(これが「狂戦士」というやつか……)
フィッチャーは彼女の姿を見て、どこかで聞いた伝説を思い出した。

ペトラにかまけているうちに、十数人が既にセレスティーヌによって犠牲になっていた。
一部の逃亡兵が「通報だ! 自警団と教皇庁に通報して援軍を出せ!」と叫んでいたが、
ひとまずのところは敵は意気消沈して全て逃げ出し、静かになったところである。

フィッチャーが自ら止めに入り、アレクやユニス、マーテル、イオの魔法によって辛うじて落ち着きを取り戻したセレスティーヌは、
異常な興奮状態にあった。まずはフィッチャーが建物の裏へと彼女を連れ出し、事情を聴くことにした。
ようやくセレスティーヌが口を開いた。

「私は、シュタインどもに父上、母上を殺され、拷問をされたのだ。シュタインと、ここの、あらゆる兵どもにもな
憎んでいる。何人殺しても足りないくらいに……しかも、今の私は薬物を大量に打たれたせいか、まるで痛みを感じぬのだ」

セレスティーヌがパンパンに張ったチェイン・メイルを脱ぐ。その傷は酷いものだった。
フィッチャーはまず鎧を脱いで軽装になり、セレスティーヌを抱きしめた。身長差が不恰好なものだったが、
口付けから舌を絡ませ合い、お互いの愛情を確かめた。少しだけ彼女が微笑んだ気がした。
先ほどの魔法も相まって、見事すぎるほど鍛え上げられた筋肉は美しくさえあり、それに反して柔らかな乳房や
尻についた鎖等による生々しい傷痕は悲惨さを極めた。薬を塗っていたが、特に臀部に関しては、手の施しようのない陵辱を受けたといっても
過言ではなかった。そして何よりも異臭が鼻をついた。髪を肩で切られたその顔は以前のように凛々しくもあったが、
死体と汚物の腐ったような臭いはフィッチャーですら戦慄を覚えた。彼女の表情も殺気だっており不気味さも感じられる。

シュタインは鎧を着込み、大剣を背負うと跪き、裸のままのセレスティーヌの目を見て言った。

「セレス、いや、団長。必ずお前を旗印にして、教会の悪事を暴いて、領土を取り返す。シュタインの野郎も何かに命令されてるみてえだしな。
アレク!!! こっちにきてくれ。すぐにセレスの治療と洗浄を頼む。それと、団長用の装備の用意も。お前らも手伝ってくれ!」

かくして、数十人の死骸と肉片、血糊により死臭が立ちこめるこの場所で、
生き残った六人のホワイトクロス騎士団は、団長とともに再結成(リユニオン)したのだった。

【アトスで偽教皇フローレンら死亡。マーゲン死亡。猛毒でペトラ死亡。
セレスティーヌは薬の影響で依然として狂戦士状態ですが意識は戻り、ホワイトクロス騎士団・団長として合流しました】
0164アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/17(木) 17:25:03.65ID:vu6JO+mS
フィッチャーが身を呈して鉄球を受け止め、アレクが急所を突いて隙を作りセレスティーヌがとどめを刺すという形で、一行は辛くもマーゲンを撃破したのであった。
0165アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/17(木) 17:26:15.47ID:vu6JO+mS
しかし、その代償はあまりに大きかった。持っていた毒が散乱し、ペトラは見た目以上の致命傷を負っていた。

「……確かにただ殺すより盾になってもらった方がいいとは言ったけどさ、本気にするバカがあるか!」

>「大丈夫か!?」
>「……ありがとう、愛するフィッチャー。どうやら、しくじった、み、た、いね……どうか、敵、を……」

「安心して。奴らの野望は必ず打ち砕く……!」

あるいはペトラはどこかで察していたのかもしれない。デイドリームであるアレクが敵に立ち向かうにあたって重要な切り札であることを。
フィッチャーが彼女を弔っている後ろで静かに十字を切り冥福を祈るアレクであった。
しかし悲しみに浸っている時間は無かった。異常な興奮状態のセレスティーヌが敵兵を必要以上に追撃して暴れはじめたのだ。
鎮静化の魔法も駆使し、なんとか落ち着かせて話を聞き出す。

>「私は、シュタインどもに父上、母上を殺され、拷問をされたのだ。シュタインと、ここの、あらゆる兵どもにもな
憎んでいる。何人殺しても足りないくらいに……しかも、今の私は薬物を大量に打たれたせいか、まるで痛みを感じぬのだ」

「落ち着いて聞いて。それはきっと薬物の影響で狂戦士化しているんだと思う。多分精神にも影響してるから衝動のままに動いちゃいけない。
かなりつよい薬みたいでワタシの魔法でも完全には解けないみたいだ。
しばらくすれば効き目が切れるだろうけどそれまでの間痛みは無くてもダメージは蓄積するから気をつけて」

そしておそらく傷の治療のためにと鎧を脱いだセレスティーヌだったが、そのままフィッチャーと盛り上がりはじめた。
若いっていいなあ!という感じで明後日の方を向いて爽やかな笑みを浮かべていたアレクと他の団員達だったが、一段落したらしくお呼びがかかる。

>「セレス、いや、団長。必ずお前を旗印にして、教会の悪事を暴いて、領土を取り返す。シュタインの野郎も何かに命令されてるみてえだしな。
アレク!!! こっちにきてくれ。すぐにセレスの治療と洗浄を頼む。それと、団長用の装備の用意も。お前らも手伝ってくれ!」

ユニスと共に純水化の魔法でその辺の泥水から綺麗な水を調達し、セレスティーヌの全身を拭いて、回復魔法で傷の治療をする。
その間にマーテルとイオが調達してきた装備を身に付けると、とりあえずの体裁は整った。

「さあ、シュタインを追わなきゃ!「仕事がある」って言ってたけどどうせろくな仕事じゃ無い!
奴が向かったのはきっと聖都アトスだ。ステッセルも多分そこじゃないかな」

とはいえ、イオが飛べるようになるまでにはもう暫く時間がかかるだろうか。そこで散り散りに遁走した敵軍が放置していったらしい馬車を指差す。

「あれを使わしてもらおう!」

こうして一行は聖都アトスを目指し出発する。
0167フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/18(金) 16:45:04.43ID:/6Krby6/
>「さあ、シュタインを追わなきゃ!「仕事がある」って言ってたけどどうせろくな仕事じゃ無い!
奴が向かったのはきっと聖都アトスだ。ステッセルも多分そこじゃないかな」

周囲が静まり返り、ジェノア兵の援軍が来るまではまだ時間がかかりそうだ。
フィッチャーは先ほどセレスティーヌが出てきた裏口の方を見ると、何かを思い出したように駆ける。

「狂戦士か……アトスの世界を腐らせている張本人どもを片づければ全てが終わる。
それまでだけセレス、お前には我慢してもらうが、必ず楽にさせてやる。
俺が責任を持って土地を奪い返す。ちょっと待ってくれ。この先に……孤児院があるんだ」

イオはまだ体調が悪そうだったが、他のメンバーもその後に続いた。

「うっ……」

ユニスが吐き気を催した。
その道には頭を潰され灰色の脳漿を出したものだったり、胴体から桃色の内臓を飛び出させたり、
それは凄惨な兵たちの死体が転がっていた。全て一撃でやられていると思われる。
セレスの仕業に違いない。鎧を着た分厚い甲冑まで普通の剣で貫通しているというのは
強靭な筋肉だけではなく、薬物による強力な脳制御力の解除も含まれているのだろう。まさに殺人兵器だ。

その先には地下牢手前に広いスペースがあった。
礼拝堂と、食堂のようなスペース。割と最近まで人が住んでいたような跡はあったが、カラだ。

「やっぱりいねぇか。実はここはジェノアの孤児院で、教会が身寄りの無い子供たちを匿ってた場所だ。
実は俺の息子がいた。ま、若い頃にできちまったガキで、生きてりゃ五歳になる。
シュタインめ、あいつらも連れ去って、どうするつもりだ……! 行くぞ……」

一行はアレクの言う通りに、イオの体調が回復するまでは用意された馬車を使うことになった。

「クズほど繁殖能力が高いとは聞くものだが……」
セレスティーヌが言いかけたところで腹を押さえた。グゥ、という音は空腹に違いない。

「済まない。空腹で倒れそうだ。このままでは馬車の馬を襲って食ってしまいそうだ。
誰か、食べ物を持っている者は……」

あまりの形相をしているセレスティーヌに、フィッチャーは残っている食べ物を全部差し出した。

「俺のは全部やる。お前らも団長にできる限り分けてやってくれ。こいつの食欲は半端ないぞ」

セレスティーヌを中心とした食事が終わると、早速馬車で一路、聖都アトスへと向かった。

――
0168フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/18(金) 16:46:04.02ID:/6Krby6/
「ジェノアでの動きがおかしいですね。どうやらアレクサンドラを取り逃したようです。
彼は東に向かっている……アトスを目指すつもりでしょうか。“彼ら”を向かわせましょうか」

「あぁ、そうしてくれ。「パピヨン隊」をもってしてアレクサンドラやその護衛を殲滅する。
隊長のモルフォスには直接言っておいてくれ。「皆殺し」とな……
“テイン”も使えば問題あるまい。フィッチャーという男も生きていればまとめて始末もできよう。
しかし、シュタインめ、私に用意してくれた庭園浴場といい、なかなか趣味がいいな。
フローレンが開発した薬も使えば、快適な環境で子孫繁栄ができる……明日も楽しみだ」
0169フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/18(金) 16:46:30.13ID:/6Krby6/
天帝となったカリストゥスは、大勢の美女たちのみによる楽園を作り、普段は快適な住居に住まわせ、
食事の際は外の「浴場」に集めては繁殖行為を繰り返していた。いずれはカリストゥスの血を引く息子、娘を育て、
それらを私兵化し、息子には妻や娘を宛がい、全ての人間を自分の子孫にしてしまおうという、ブロジェクトが進みつつあった。
同時に女たちの中に指揮官を付け、剣や魔法を覚えさせ、防衛能力を身につけさせることにも余念がない。
さらに、アトラスムスによる「天使兵」も地上からの女たちによって量産されていった。
彼らの存在が、魔力の源となって「天界」を支えていくのだ。

「私はデイドリームとして永い間生きてきました。しかし、性の快楽というものがあることは知りませんでした。
このようなものを据え付けられたことを、今では感謝すらしています。欲望や野心が漲ってきます。
カリストゥス、私は人間の雄になってしまいそうですが、これでよろしかったのでしょうか」

「良いのだ。それで良く実感したのだろう、アトラスムス。成すことは人間も神も同じ。
それを創ったフローレンが話していた通りだ。それはまさに支配欲と征服欲の象徴。
切り取ってしまえば、ただの無欲な天使に成り下がってしまうであろう。
さて……まずは「オリンパスの光」で、帝国と北方を降伏させ、条約を結ぼうではないか。
王国からはステッセルが軍を北と南に動かす手筈になっている。恐らく1万は動員できよう。
それと女どもの補充だ。「足りぬ」と、早速シュタインに手配するのだ……」
0170フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/18(金) 16:47:56.76ID:/6Krby6/
――

馬車を走らせる一行。
やがてアトスの手前で夕刻が訪れ、馬が動かなくなりキャンプとなる。
夜の間、時折大きな地鳴り、雷に近い音がする。今まで聞いていた雷や地震とは違う。
イオが呟く。

「……「光」が動き出した……!」

道から大きく外れた場所、そして交代の間にセレスティーヌが死んだように熟睡を始めると、
イオがフィッチャーを奥にある滝へと呼び寄せた。さすがは水竜の一族、水の流れには詳しいようだ。

「フィッチャー、一つお願いがあります。ここからアトスに向かうには、強力な防御網を突破しなくてはなりません。
敵は恐らくこちらの動きをまだマークしているはず。下手をすればその手前で向えうたれるでしょう。
きっとステッセルの手掛かりもそちらにあります。私たち竜族は同時に魔族でもあります。つまり……」

「何となく表情で分かるぞ。俺から精神力を吸い取るつもりか。それもアレで」
「そういうこと、です…… 貴方になら、許すことも可能だと、先ほど感じました。それだけです」

仰向けになったフィッチャーにイオが馬乗りになる。滝壷の音にかき消されるようにして、
フィッチャーのありったけの奔流がイオへと流れ込み、小一時間ほどでイオは元の魔力を取り戻していた。
知らん振りをしながら戻ってきたフィッチャーは、寝る前よりも疲れていたという。
0171フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/18(金) 16:48:23.22ID:/6Krby6/
「おーい、そろそろ起きるよ」

フィッチャーが目を覚ますと、セレスティーヌ、ユニス、イオがそれぞれ抱きついた形になっており、
一瞬目を疑った。しかし、はっとなって周囲に号令をかける。

馬をその場で潰し、火や炎魔法で焼いて手っ取り早く朝食にすると、皆が皆、腹が減っていたようで、
半分以上が携帯食糧とならずにあっという間に無くなった。それも、その半分はセレスティーヌが平らげた。

「では、私に乗ってください。一気にアトスに向かいます。案内は、行ったことがあると仰っていたセレスさんと、
マーテルさんにお任せします。さあ」

イオは竜の姿となると、一気に山を越えてまだ朝日が昇って間もない頃、アトスの街を全て見渡せる丘のあたりにたどり着いた。

――と、正面から見知ったような姿の翼の生えた人間がゾロゾロと現れた。
総勢5名。

「あれは、デイドリームじゃねえか? なぁ、アレク?」

間違いなくデイドリームだ。
魔力は近づいている時はあまり感じなかったが、騎士団と接した途端に
その膨大な魔力を惜しげもなく晒し出した。
ユニスがブルッと身震いする。フィッチャーも以前の襲撃より危ないと直感した。

正面の毒々しい緑色の羽根をしたデイドリームが警告とばかりに名乗る。
甲高い女のような声が響く。

「アレクサンドラ様ご一行、歓迎いたします。我が名はパピヨン隊モルフォス。
ヴィクサス神聖国に代わりまして、これより無条件降伏を言い渡します。
すぐに地上に降り、武器を捨てて投降を。拒否すれば全員――殺します!!!」

モルフォスの武器は槍のようなものと鳥の仮面。
他の四人の武器は剣のようなもの、鞭のようなもの、オーブのおうなもの、
そして、一番小柄な人物は菱形の道具のようなものを持っている。

(あの中に、王国軍を窮地に追い込んだ道具がある……!?)

フィッチャーがそんな事を考えていると、一瞬で相手は移動し、
気が付けば四方360度を囲まれていた。

アレクの方を見て表情を伺う、しかし、その必要はなく、後ろから高らかな叫び声が上がった。

「断固拒否する! 我らホワイトクロス騎士団はアトスへと直行する! 貴様らを排除する!」

セレスティーヌの叫び声とともに、戦闘が開始された。
以前と同じ轍を踏まぬよう、まずはイオが素早く道に着陸をする。その周囲は森だ。

【アトス付近でホワイトクロスが「パピヨン隊」と対峙、
イオが着陸してとりあえず敵が5、味方が6といった感じです】
0172アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/20(日) 00:54:38.76ID:Y6NfCq0u
>「やっぱりいねぇか。実はここはジェノアの孤児院で、教会が身寄りの無い子供たちを匿ってた場所だ。
実は俺の息子がいた。ま、若い頃にできちまったガキで、生きてりゃ五歳になる。
シュタインめ、あいつらも連れ去って、どうするつもりだ……! 行くぞ……」
0173アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/20(日) 00:55:19.05ID:Y6NfCq0u
実は子持ちだったことをさらりと暴露するフィッチャー。
日ごろのモテっぷりを冷静に考えればさもありなんなのだが、それでも感情としては一同に軽く衝撃が走る。
セレスティーヌが突っ込もうとした矢先に腹の虫が鳴り、そのまま即席食事タイムに突入してその話題は封印されるのだった。

「そうだ、これでも食べて元気出して」

崩壊前のレクトゥスで保存食として買っていた大樹型ビスケットを渡す。
そしてフィッチャーの肩を叩き、セレスティーヌをはじめとする周囲の女性隊員達に配慮して小声で言う。

「きっと大丈夫さ、海賊王の息子なら大概のことではやられたりしない」

何はともあれアトスに向かって出発した一行。キャンプを張るも、酷い天候となる。

>「……「光」が動き出した……!」

イオが何かを察知する。どうやらこれは単なる天候不順ではなく敵勢力の影響によるものらしい。
セレスティーヌが寝入った頃、イオがフィッチャーを呼び出しどこかに行ったかと思うと、
元気になった様子のイオと逆に疲れた様子のフィッチャーが帰ってきた。
目的地に急ぐために、フィッチャーがイオに力を分け与えたのだろうと推察する。
しかしその手段までは思い至らなかったようだ。

「イオちゃん、次はワタシに言ってくれればいいからね。魔力でいいなら分け与える魔法も持ってるから」

神聖魔法には、自ら精神力を精神力が尽きた仲間に分け与える魔法があるのだ。
そんなこんなで夜が明けた。
0174アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/20(日) 00:57:01.18ID:Y6NfCq0u
>「おーい、そろそろ起きるよ」

「はーい……ってまたかい!」

もはやお約束となった、フィッチャーに女達が抱き着いた暑苦しい状況に一応突っ込んでおく。

>「では、私に乗ってください。一気にアトスに向かいます。案内は、行ったことがあると仰っていたセレスさんと、
マーテルさんにお任せします。さあ」


「そっか、飛べるようになったんだね!」

竜と化したイオの背に乗り、ひとっとびにアトスに到着する。その途端に、手厚い歓迎を受ける一行であった。

>「あれは、デイドリームじゃねえか? なぁ、アレク?」

「ああ、ご丁寧にお出迎えってとこか……」

ただでさえ強大な魔力を持つデイドリームが五人。リーダーらしき者が、強者の余裕をもって名乗りをあげる。

>「アレクサンドラ様ご一行、歓迎いたします。我が名はパピヨン隊モルフォス。
ヴィクサス神聖国に代わりまして、これより無条件降伏を言い渡します。
すぐに地上に降り、武器を捨てて投降を。拒否すれば全員――殺します!!!」

>「断固拒否する! 我らホワイトクロス騎士団はアトスへと直行する! 貴様らを排除する!」

アレクが返事をする前に、セレスティーヌが高らかに開戦を宣言。戦闘は始まった。

「怯むな! 数ではこっちが勝ってる! フルポテンシャル!」

味方全員に身体能力強化の加護をかけ、《ブリンク》を使いいちはやく接敵する。
飛んで火に入る夏の虫とばかりのに敵が寄ってきたところで、爆発魔法をお見舞いする。

「フォースエクスプロージョン!」

相手はデイドリームの精鋭部隊。
流石に致命傷には至らないだろうが、開幕時に使うことで敵をひるませ、
また多少は爆風に吹き飛ばされることで五人の陣形を崩す効果があるだろう。
0175フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/22(火) 00:43:30.81ID:S+0AQQj8
>「フォースエクスプロージョン!」

「!!」

アレクの魔法は完全に虚を突いた。
さらにイオの咆哮、セレスティーヌが持つ二本の剣などを見て、このままではこちらも犠牲者が出ると思ったのだろう。
一瞬で全体に大きな打撃を与え、パピヨン隊はいよいよもって伝家の宝刀を使わなくてはならなくなった。

「止むを得ん、普通の手段ではこいつらは殺せぬ、“テイン”を、ムスクス」
「はっ!」

菱形の物体を持ったデイドリームがそれを掲げると、一瞬であたりは光に覆われ、
かと思ったら、六人は一気に闇に包み込まれた。

――

「イオの、気配が……消えた!?」

ステッセルは北方に向け軍を進ませる際、異変に気付き、周囲の将官たちに命令を飛ばす。

「これより副官のラムスに北方軍撃破の隊の総大将を頼む!
私はドラケン隊を率い、急ぎアトスへと赴く! 何かがあったはずだ」

おおよそ50あまりの飛竜による機動部隊が突如、東へと進路を変えた。
目的はイオの許、そしてアトスだ。
先ほどから敵陣営への「オリンパスの光」の苛烈さについても、意義を唱える必要がある。

「待っていろ、イオ。何が不満だったのか分からないが、必ず私が助けにいく」
0176フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/22(火) 00:43:59.64ID:S+0AQQj8
――

「くそっ、どうなってやがる!」

フィッチャーがたどり着いた場所は真っ暗な暗がりで、時折稲光のごとく周囲の様子が映し出される。
そこは何かの体内のように赤く不気味な血管が浮き出ており、無数の目玉によって監視されていた。
怪物に多少はなれている彼でも、これだけグロテスクな場所は初めてだ。軽く発狂しそうである。

途端、ナメクジのような怪物と蜘蛛のような怪物が素早くフィッチャーを取り囲む。赤い肉体に
無数の目玉。口のような部分からは涎が垂れ、それは明らかに捕食者であることが分かる。

「うぉぉおおおお!!!」

ただ振り回す。自分よりも大きなその怪物は、自分の倍くらいある真っ赤な天井にへばり付いたり、
飛び降りたりしながら襲い掛かった。
一振り、二振りと剣を振ると、怪物どもが血飛沫を上げて潰れる。
怪物は頭を潰されてもなお、襲い掛かってくる。「核」を破壊しなくては殺害できない、異形の者だ。
これを南方の神話では「アローカ」と呼んでいた。少なくとも教会の神話にはないものだ。

「きゃあああ!!」

ユニスのと思われる叫び声が聞こえる。フィッチャーは急ぎ残りの怪物を片付けながら駆ける。
「女一人守れずして、何がナイトだよオォォ!」
その声も恐怖によって震えているのが自分でも分かった。

――「彼ら」四人はただアレクを狙って、“テイン”の中を駆ける。
これで「コボルト最強の猛将」と呼ばれたドーベルをも殺したのだ。

「途中に女が居たら殺せ。男よりは筋肉が脆い。恐らく一振りで真っ二つになる」
「いたぞ、アレクサンドラだ! 我々四人、いや、三人でも殺せるか……」

アレクが早くも発見され、モルフォス他二名が狭い“テイン”の中をすり抜けるようにして襲い掛かる。
彼らにはこの中でも専用の戦闘態勢が準備されていた。
四人のデイドリーム戦士たちは特別な透過能力が施されており、“テイン”の中を自由に動ける。
文字通り特殊部隊だ。

「――バイオ・エレメンタル……!」

モルフォスの槍の先に緑色の毒々しい光が集結し、それが一気に放たれてアレクの全身を包む。
「蝕め……そしてその間にお前たちが止めを刺すのだ」

後ろからはオーブを持ったデイドリームが詠唱をはじめ、剣を持った者はその切っ先をアレクへと向ける。
アレク絶体絶命、そう思った矢先のことだった。

――

「はぁ、はぁ、まだ私の剣どもは血を欲しているぞ……もっとホネのある敵はおらぬのか……!」

「団長様、落ち着いてください!」

セレスティーヌが早くも怪物どもを屠り、周囲の壁にある目玉たちを潰しながら駆けていく。
丁度イオの近くに飛ばされたらしく、彼女の近くにいる怪物たちも一掃された。

「馬鹿な、「アローカ」どもが破られた・・・だと!? こやつらは恐怖を感じないというのか?」

鞭を持ったデイドリームが素早く詠唱を始め、周囲の異常な妖気にも全く怯まないセレスティーヌに
魔法を連射する。しかし、それはイオの全力での防壁によって弾かれ、逆にセレスティーヌの一撃を受けることとなった。
0177フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/22(火) 00:44:44.54ID:S+0AQQj8
「チッ!」「このっ! なかなかやるようだな……」

セレスティーヌが素早く剣を振るうも、ガキンと鞭によって弾かれ、今度は外壁の内側へと
デイドリームが隠れてしまった。どうやら隠れることができるらしい。

「くっ、光が……!」

灯りが消え、一方的にこちら側が攻撃を受ける側となった。
鞭の一撃、一撃がセレスティーヌを襲う。
「ぐ……」

しかし、幸か不幸か、セレスティーヌは傷みを感じないのだ。
イオが冷静になり、角から光を放って相手の位置を把握する。そして氷結魔法を集結させ、
放つ。

一瞬のことだった。
光の中に現れた敵は姿を現すと同時に壁ごと凍りつき、そこにセレスティーヌの躍動する筋肉から重い一撃が
横薙ぎに放たれると、その肉体は腹の辺りで分断され、臓腑を撒き散らしながら白眼を剥いてそこに張り付いた。

「一人殺っただけでは安心できぬ。まだフィッチャーやアレクが!」

モルフォスら三人がまさにアレクの止めを刺そうと思ったところ、後方から轟音が聞こえる。
それはイオに移動力を増加させられたセレスティーヌの姿だった。
勢い余って蹴りをオーブを持った敵へと放つ。

慌てて灯りを消したパピヨン隊だが、まだモルフォスの放ったバイオが不運にもアレクの肉体と
その周辺で輝いていた。敵の位置は丸分かりだ。

「さあ、今です!」

イオが氷結魔法を放つとバイオの効果が薄れ、アレクの体に自由が利いてくる。
同時に敵が一瞬とはいえ動きを止める。
セレスティーヌは剣の一本をアレクの手目掛けて投げた。

「アレク、挟み撃ちにするぞ!」


【一行、6人とも“テイン”に閉じ込められ苦戦中。ムスクス以外の4人が襲撃に入り、1人が返り討ちに遭う。
現在、テイン奥でモルフィス含む三人のパピヨン隊とアレク、セレス、イオが交戦中。
残るムスクスはテインの外で様子を見ている状態】
【そろそろ容量オーバーかもなので、次を立てていただけると助かります】
0178アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/22(火) 21:54:20.10ID:EvyhW1N1
>「止むを得ん、普通の手段ではこいつらは殺せぬ、“テイン”を、ムスクス」
>「はっ!」

デイドリームの一人がひし形の物体を掲げると、辺りは一瞬にして闇に飲まれた。
ただの闇ではない、無数の目玉によって監視され化け物が蠢く異空間だ。
多少の事では動じないアレクもこれにはドン引く。

「おいおい、お仕置き部屋にしても過激すぎだろ」

>「うぉぉおおおお!!!」
>「きゃあああ!!」

仲間達の混乱した雄叫びや悲鳴が響き渡る。おそらく異形の怪物に襲われているのだろう。
アレクを襲ってきたのは異形の怪物ではなく、デイドリーム本人達が直々にだった。

>「いたぞ、アレクサンドラだ! 我々四人、いや、三人でも殺せるか……」

「貴様ら、この空間内で動ける……だと!?」

普通はこのような異空間閉じ込め系の魔法は中で敵がのたれ死ぬのを待つもので、詠唱者本人達自ら中に入ったりはしない。
その先入観があだとなり、毒属性と思しき魔法をまともにくらってしまった。

>「――バイオ・エレメンタル……!」

「――ッ!?」

緑色の光に包み込まれ、一切の体の自由を奪われた。
解毒の魔法も持っているのだが、声を出すことすら出来ない。

>「蝕め……そしてその間にお前たちが止めを刺すのだ」

神さま助けて―――――ッ!! もし声が出ればそう叫んでいただろう。
日頃あまり真面目な方の神官ではないアレクだが、困った時の神頼みである。
万事休すと思われたその時、後方から轟音が響いた。
イオの援護を受けたセレスティーヌがまさに竜巻のように突進してくる。
アレクの目には後光が差した戦女神に見えたことだろう。

>「さあ、今です!」

イオの氷結魔法で緑色の光が砕け散り、体の自由が効くようになる。

「ああっ、女神さま!」

>「アレク、挟み撃ちにするぞ!」

セレスティーヌが投げ渡した剣を受け取ると、さっそく剣に加護をかける。

「よし来た! エックス斬りッ!!」

その名の通り、二人が斜めから斬りかかり、X軌道の挟み撃ちにする連携技。
これにより、まず一人を行動不能に陥れる。それにより、残る二人に「まさか!」という感じで僅かな隙が生まれる。

「かーらーのー、隼の舞!」

その隙を見逃さず、二人一組の舞いのような連続攻撃。
都合よく息が合いすぎではないのかと思われそうだが、こう見えて元々は第二分隊の隊長と副隊長。
連携技の一つや二つ持っているのだ。
0179アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/22(火) 21:57:51.39ID:EvyhW1N1
【容量は最近の仕様変更で730kbぐらいになったようなのでもう暫く大丈夫なはず!】
0180フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/08/24(木) 01:39:25.07ID:pbCnfoNL
>「よし来た! エックス斬りッ!!」

「ギァァ……!」

まさかの挟撃にモルフォスは槍で受けようとするもフルポテンシャルを受けた
セレスティーヌの怪力で砕かれ、
そのまま一撃をもろに食らうこととなった。その場に倒れ伏す。
0181フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/24(木) 01:40:06.01ID:pbCnfoNL
「まずい・・・」

>「かーらーのー、隼の舞!」

横から飛び出し、モルフォスの補助に入ろうとした二人が無数の剣撃によって犠牲になる。
瞬間、血と折れた羽根が飛び散り、特にセレスティーヌの重い攻撃は骨をも絶った。

「おのれ……このままで済むと思うな! ムスクス! “テイン”を閉じろ、閉じるのだ……!」

その掛け声とともに、気味の悪いダンジョンの天井が迫り、一気に全てを飲み込まんとする。

「私も脱出す……ぐっ」

セレスティーヌによって首を掻き切られたモルフォスはそのまま血を吐いて息絶える。
しかし、このままホワイトクロス騎士団は“テイン”ごと押しつぶされ様としていた。

「セレス、こっちだ!」

フィッチャーが竜化したイオの背に乗り、大剣を上へと突き刺そうと必死になっている。
ユニスも一緒で、大怪我をしてぐったりしたマーテルを抱えている状態だ。

「待て、フィッチャー、その役は私に任せよ! アレク、ユニス、イオ、私に全ての力を」

徐々に迫り押しつぶさんとするテインの内壁。赤々としたそれからは無数の目玉が彼らを見つめている。
気にせずイオの背に乗ったセレスティーヌはさらにフィッチャーの背中にも乗り、肩車の要領で
天井に強烈な突きを浴びせた。

イオとアレクの補助魔法がさらに限界までセレスティーヌの力を引き出す。
それは既に鋼鉄の塊をも真っ二つにするだけのパワーを持っていた。

「ユニス、あれを」「はい! それ、3、2、1、……」

カッという光とともに爆発が起こる。
それは「いざ」という時のためにペトラから貰っておいた最後の爆薬だった。
爆風がセレスティーヌの髪や顔を焦がし、周囲に火傷を負わせるも、気にすることはない。
ただテインを突き破らんという強烈な一撃が天井を襲った。

それはついに空をホワイトクロス騎士団に見せ、セレスティーヌは踊るようにして二本の剣を振り回し、こじ開けた。

「今だ!」

イオが勢い良く飛翔する。
フィッチャー、セレスティーヌが穴をこじ開けると、下からアレク、続いて三人で
マーテルを抱えたユニス、そして最後に飛竜となったイオを強引に引き上げた。
0182フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/24(木) 01:41:14.02ID:pbCnfoNL
「馬鹿な……」
上空で眺めていたムスクスは、状況を察すると一目散に逃げていった。

開けた場所に放置された謎の巨大な肉塊は消滅し、跡には菱形の物体が残った。
“テイン”には違いないが、既に魔力は感知されることはない。
「念のため」と、ユニスはそれを回収した。

「一匹逃がしたのか…… アレク、同胞をついに殺す時が来るとは思わなかっただろ?
奴らはお前を何が目的で狙っていたんだ?」

フィッチャーがそんなことを呟いていると、セレスティーヌが急かす。
イオの角を引っ張り、叫んだ。

「話は後だ。すぐにアトスに向かう。ユニスはマーテルの回復を。
私がアトスの着陸位置については指揮する」

「セレス様、私も無事ではないのですが……」

勝手に団員にされて先ほど狭いテインで圧迫されてダメージを負ったイオは困ったような顔をしながら、
再び竜に戻り、翼を広げた。

――

「どういうことだ? 天帝の直属のパピヨン隊がやられ、おまけにアレクサンドラをとり逃すとは……
アトラスムスよ、これはどういうことなのだ!? 子を生す楽しみ……いや機会が台無しではないか」

庭園浴場で全裸姿で膝の上に女を抱きかかえ、周囲にも武装、非武装の女たちを従えた、
天帝カリストゥスが振り向く。

「モルフォスの気配が消えました。どうやら作戦は失敗のようです。ムスクスがこちらに逃げ、
アレクサンドラがアトスに向かってきております」

アトラスムスが同じく裸で醜い下半身を剥き出しにしながら現れる。こちらも緊急時で
驚いているようだ。
0183フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/24(木) 01:42:08.34ID:pbCnfoNL
「ええい、アースラントの上空に向かわせた「オリンパスの光」をアトスへ戻せ……
シュタインや神聖騎士団にもすぐに戦闘準備をすることを命じておくのだ。これは天帝の命だ。
それと、最も増援の出せるアースラント軍を援軍に向かわせる。ステッセルの元へ使者を。
こちらからも「ブラッククロス騎士団」を差し向けよう。しかし、アレクサンドラ、あれは何者なのだ?」

「……はい。あれは私と同じフローレンを父に持つ者。ただ、非常に特殊な環境で生まれた故、
私のことを知りません。「神」である私の「ブラザー」であることは事実なのです。ただ、それを知られぬためにも、
消すしかありません。錬金術に埋もれた父と同じく、結局は「人」の道を進んだ俗物。とはいえ、デイドリームとしては並外れた能力を持っていることは確かです。
それが開化されずに消えてくれれば良いのですが……」
0184フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/24(木) 01:42:45.61ID:pbCnfoNL
――

「馬鹿なァ…… あの小娘とフィッチャーが生きていたと、それで、パピヨン隊がそやつらにやられて全滅ゥ、
それで、ぬけぬけとお前は帰ってきたというのですか……?」

「しかし、テインは既に破壊され、セレスティーヌは既にまともな知性を持っておりません。
自滅してこのアトス大聖堂に辿りつく前に斃れるがオチかと」

「プレシャス!! 愚かな、愚かな、愚かヌァァァ――!!」「ぎゃああァァ……」

ムスクスがシュタインの肥大化した腕によって頭を潰され、絶命しその場に倒れ伏す。
と、そこに伝令が続々と現れた。

「報告します! 南門がジャイプール軍と思われるエントを含む亜人の軍勢による襲撃を受けています!」」
「申し上げます! 北門がケン族とモン族の大軍による奇襲を受けています。恐らく北方の軍勢かと!」
「報告、上空からワイバーンによる襲撃があったとのことです。数はおよそ200!」

シュタインはうろたえた。これだけの攻撃が同時に、それも最も勢力として勢い付いていた
ヴィクサス神聖国を盟主とする神聖同盟。それがまさか中心部たる聖都を危険に曝されるとは。
青筋を立てながら、シュタインは周囲の司教たちに命じる。

「総力を持って迎撃にあたりなさい。北と南には通常の兵の他に死霊術士を加えます。
さらに、空中の奴らにはガーゴイル部隊と天使兵を。容赦なく撃ち落としてしまいなさい
それと、A地点とB地点に兵を。」

慌しく兵たちが動く中、シュタインはゆっくりと大聖堂を抜け出し、ある場所を目指した。
――アトス山の麓。
そこには「天界」へと続く魔法陣がある。
丁度その頃、山の麓からは黒い衣服とフード、マントを身に付けた20人程度の集団がアトスの街に向かっているところだった。
全てが女性、精悍な顔に優れたスタイル、胸には黒い十字架をぶら下げている。獲物は一人ひとりが違う。
精鋭「ブラッククロス騎士団」が動き出したのだった。


「では、私も“隠れる”としましょう……その間に小娘と盗賊どもが無残に始末されることでも
祈っていますか、フッヒヒヒヒ……!!」

――

アトスでは既に襲撃が行われているようだった。

≪あれは、ステッセル様の……!≫

アストラの青地に黄色の十字紋様の布をしたワイバーンを見て、イオはただちに気付いて叫んだ。
天使兵たちの攻撃に明らかに苦戦しているようだが。

「あのコボルトの旗はカボス隊の……ってことは、デルタが!?」

すっかり元気になったマーテルが北口の亜人部隊を見て叫ぶ。

「南の方はあの時、レクトゥスで助けてくれた、エントのみんなだわ!」

ユニスもエントたちの奮戦を見て叫ぶ。強固なアトスの城門に結構な数の守備部隊がいる。簡単に破れるものではないだろう。

「すまない、皆……今はその時ではない。全ては終わってから、合流して勝利を祝うとしよう。
向かう先はあちらだ。大聖堂の裏手。東側尖塔の旗の立っているところから二本目のあたりだ。
あのあたりは守備が手薄だ。手前の天井が平らな建物の上に降りて、一気にあそこの門を目指すぞ!」
0185フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/24(木) 01:43:05.89ID:pbCnfoNL
セレスティーヌの指示通り、アトス市街地の奥、大聖堂の手前の建物に降り、イオは人間の姿になって
一気に白十字装束の六人は裏口を目指す。話によればここに少数の門番がおり、破ればあとは最短で
シュタインらの待つ大聖堂中心部の地下礼拝堂、魔力源へとたどり着けるはずとのことだ。

「やけに静かだな・・・」

少ないと言われていた見張りがいない。
ガチャリ、と音が響く。お互いに顔を見合わせるが、その音は別の場所から鳴っているようだ。
ガチャリ……

「しまった……!!」

フィッチャーが叫ぶも既に遅し。周囲jは多くの兵たちに囲まれていた。
その数は200はくだらないだろう。先ほどの門も分厚い衝立のようなもので塞がれ、
周囲をフルプレートと槍で武装した大勢の甲冑兵、さらに先ほどの建物以外の多くの高台からは
軽鎧でフル装備の弓兵たちがボウガンを構え、その後方には各所に魔術兵と思われる人物が数名控えている。
甲冑兵たちの中から特に頑丈で魔力を覆ったエンチャント・メイルに巨大なメイスをした男が現れた。

「ふははは、かかったな! 私はルーカン・マシージャス。シュタイン様の近衛兵隊長だ。
貴様らがここから来ることは大分前から読めていたのだよ。プレシャス……
セレスティーヌ、アレクサンドラ及び配下の兵どもをパピ……聖天使隊殺害の容疑で投獄する。抵抗すれば、命の保証はないと思え」

四人のフルプレート兵が前進し、一番前に出ているセレスティーヌを槍で取り囲むようにして武器を捨てるように脅す、
槍の穂先が彼女の頬に触れようとするか否かのところだった。

「邪魔をするな、どけ」

セレスティーヌがそう言って槍の一つを思い切り取り上げ、へし折る。

「くそっ、この女を殺せ!」

シャキン、と甲冑兵が剣を抜き、残りの三人が槍を突き出そうとした瞬間――

一瞬で抜かれたセレスティーヌの二本の両手用剣によって大量の血飛沫が上がった。
訓練された甲冑兵たちは槍と剣で素早く受けたが、それごとへし折られ、同時に分厚い鉄の鎧を貫通させ、
鉄の破片と無残な八つの肉片に変えてしまった。
ドバドバと血肉や臓腑の落ちる音、同時に金属片の崩れる音が響き渡り、

オォォ……という戦慄に似た声が響き渡った。この数の兵が怯んだのだ。

「まさか、たったそれだけの人数で我々を相手にするのか!? 構わん、かかれ、殺せー!」

ルーカンの指揮で素早く弓兵たちはボウガンを構え、甲冑兵たちは槍を持って突っ込んでくる。
フィッチャーが前線を維持するべく、前に出た。ついにアトス内部での戦いが幕を開けたのだ。


【容量の件、了解です。また、一気に話を進めてしまってスミマセン。】
【パピヨン隊全滅、シュタインはアトスの市街から既に脱出、逆にブラッククロス騎士団が接近中。
聖都アトスは北、南、空中から有志たちが襲撃するも、アトス守備軍によって防衛されています。
ホワイトクロス騎士団6名はその隙を縫って大聖堂に奇襲を仕掛けるも、それが看破され、
近衛兵長ルーカン率いる200程度の軍勢によって包囲されている状態】
0186アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/24(木) 23:54:38.50ID:DTCZC2UX
なんとかパピヨン隊を下し、テインから脱出した一同。

>「一匹逃がしたのか…… アレク、同胞をついに殺す時が来るとは思わなかっただろ?
奴らはお前を何が目的で狙っていたんだ?」

「同胞とはいっても完全に奴らに毒されてしまってたからね……。まあ人間同士が皆仲がいいわけではないのと同じようなものさ。
目的は分からないけどワタシがデイドリームであることに関係してるんだと思う」

>「話は後だ。すぐにアトスに向かう。ユニスはマーテルの回復を。
私がアトスの着陸位置については指揮する」

>「セレス様、私も無事ではないのですが……」

身を張って貢献するわりに雑に扱われがちな苦労人ポジションにいつの間にかおさまってしまったイオであった。

「あはは、ごめんごめん。魔力を分けるって約束だったね。――トランスファー・メンタルパワー」

神聖魔法で魔力を供給し、これによりイオは再び飛べるようになった。
アトスに付いてみると、何やら騒がしい様子。様々な勢力がすでに襲撃を始めているのだった。

>≪あれは、ステッセル様の……!≫
>「あのコボルトの旗はカボス隊の……ってことは、デルタが!?」
>「南の方はあの時、レクトゥスで助けてくれた、エントのみんなだわ!」

てっきり敵勢力の一員だと思っていたステッセルは正気を取り戻し、デルタは生きていた。
更にエント達までも力を貸してくれるという。
しかし敵もさること、状況は予断を許さない。

>「すまない、皆……今はその時ではない。全ては終わってから、合流して勝利を祝うとしよう。
向かう先はあちらだ。大聖堂の裏手。東側尖塔の旗の立っているところから二本目のあたりだ。
あのあたりは守備が手薄だ。手前の天井が平らな建物の上に降りて、一気にあそこの門を目指すぞ!」

セレスティーヌの指示に従い裏口を目指す一同。

>「やけに静かだな・・・」

「ここまで静かだと君が悪いね……」

そう言っていた矢先、案の定罠だったようで、気付けば多くの兵に取り囲まれていた。
0187アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/24(木) 23:55:20.15ID:DTCZC2UX
>「ふははは、かかったな! 私はルーカン・マシージャス。シュタイン様の近衛兵隊長だ。
貴様らがここから来ることは大分前から読めていたのだよ。プレシャス……
セレスティーヌ、アレクサンドラ及び配下の兵どもをパピ……聖天使隊殺害の容疑で投獄する。抵抗すれば、命の保証はないと思え」

「近衛兵隊長……さしずめ大ボスの前座ってとこか。
そっち的には罠にはめたつもりだろうけど自ら首を差し出しに来たようなもんだぞ……何故なら……」

アレクがその言葉の続きを言うより早く、セレスティーヌが大立ち回りを演じはじめた。

>「邪魔をするな、どけ」
>「くそっ、この女を殺せ!」
>「まさか、たったそれだけの人数で我々を相手にするのか!? 構わん、かかれ、殺せー!」

4人のフルプレート兵が一瞬にして屠られ、ひるむ敵の軍団。

「――ね? 分かったっしょ? 分かったら黙ってここを通してくれないかな?
そっちは死なずに済むしこっちは労力が省けて双方幸せになれるよ!」

が、もちろんこういう場合はとりあえず「者ども出会え出会え!」がお約束である。
今回もその例に漏れなかったようだ。

>「まさか、たったそれだけの人数で我々を相手にするのか!? 構わん、かかれ、殺せー!」

こうしてついにアトス内部での戦闘が幕を開けた。
セレスティーヌとフィッチャーが中心となって前線を立ち回る。

「――セレスティアル・スター!」

まずは数を減らすべく、アレクは敵の後衛目がけて大規模攻撃魔法を撃ちこむ。 天上より降り注ぐ幾条もの光の柱が敵を撃つ。
続いて、セレスティーヌの後方に付き支援に回る。
今のセレスティーヌは一同の中でダントツの戦闘力を誇るためそれが一番効率的なのと、
痛みを感じないために無鉄砲になっている彼女の怪我を最小限に抑えるためだ。
剣戟に合わせて攻撃魔法を叩きこんだり、敵に致命傷を負わされそうになったら短距離瞬間移動の魔法をかけて回避させたりする。
0188フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:50:36.14ID:zIT1qVpt
>「――ね? 分かったっしょ? 分かったら黙ってここを通してくれないかな?
そっちは死なずに済むしこっちは労力が省けて双方幸せになれるよ!」

「何を戯言を。こちらは200以上の精鋭の兵がいる! それにいずれは増援が現れる。
苦しまずに投獄されるか、死ぬか、どちらか……我らに負けはない!プレシャス!」

セレスティーヌの一撃があるも、ルーカンは若干振るえ声になりながらもアレクの言葉を一蹴。

「行くぞ!」「うおおおお!!」

ドン、ドンという音とともに金属ごと甲冑兵たちがセレスティーヌに切断されていく。
その後方からはフィッチャーが死角を守るように進む。
血や臓腑が飛び散るも、敵は徐々にこちらを取り囲み、追い詰めようとしているようだ。

更に、三方向から弓兵も動きだした。近衛兵だけに落ち着いている。
片目を瞑ってクォレルを構えた兵がセレスティーヌの頭を、首を、胸を、背中を、脚を、手を狙う。
しかし、その時だった。

>「――セレスティアル・スター!」

「な、なんだこれは……うわぁぁぁ!!」

最初の隙を防護したのはアレクだった。それは攻撃魔法だが、一方向の弓兵たちの視界を同時に奪い、
一部はその破壊力の犠牲になっていった。

「怯むな、一人三人以上で相手にしろ! 特にそのリーダーの女を殺せ!」

狂戦士と化していたセレスティーヌだったが、周囲への知覚が衰えた訳ではなかった。
突いてくる甲冑兵の熟練の槍をかわすと、その腹に剣を突き入れ、そのまま持ち上げて、
次に飛来してくる矢への盾とした。
鉄の死骸に一通りの矢が突き刺さると、次に襲い掛かる相手の腹へと貫通した部分を突き刺し、
そのまま引き抜く。
そして同時に横からくる敵へはもう一本の剣で受け、そのまま槍ごと敵の顎を狙った。
ギャァァという声とともに槍が折れて敵の兜が外れ、顎がぱっくりと割れて絶命する。
0189フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/08/26(土) 17:51:50.71ID:zIT1qVpt
「ぬぉぉおおお!!」
フィッチャーはひたすらにセレスティーヌの真後ろから襲い掛かる敵の攻撃を受け、
大剣をその腹へと叩き込んだ。強靭な甲冑も叩き割るようにして脇腹を切り裂く。
確実に相手の戦力を削いでいくのだ。

再び矢による次の一波が襲う。フィッチャーは必死になって大剣で弾くも、
一部がセレスティーヌへと刺さっていく。
しかし、不思議なことに半分はかすりもしなかった。恐らくアレクの「ブリンク」の効果であろう。

セレスティーヌはじれったくなり、アレクの補助による加速の効果も受けて、矢を撃ってきている
粗末な建物に向けて突撃した。
0190フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:52:59.95ID:zIT1qVpt
「たあああぁぁぁ!!!」「くそっ、こっちに来るぞ!」

弓兵たちが慌てて矢を発射するも、既に建物の下に回りこまれ、柱が次々と分断されていく。
ガラガラガラ…… ドォォーン……という音とともに建物が崩れ、そこにセレスティーヌの無常な一撃が次々叩き込まれた。
0191フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:53:43.21ID:zIT1qVpt
時折敵の死体を上に持ち上げるが、これは恐怖感を与えるだけのためではない。
この間も敵の射撃が続いているため、常に盾を用意しておかなくてはならないのだ。
と、ついにセレスティーヌの脚に二本の矢が刺さる。

フィッチャーが救援に行った兵を片付け、アレクが補助のために同方向にいったものの、
結果としてイオたち三人と彼らを分断することとなってしまった。
それも、セレスティーヌらは弓の小屋跡に追い詰められ、大勢の兵たちに取り囲まれることとなる。

辛うじてマーテルがボウガンで一人を仕留め、ユニスも奇跡的に甲冑兵の鎧をへこませて戦闘不能にするも、
こちらは少数の敵兵により追い詰められていた。
と、いうのも疲れたイオが人間形態で殆ど機能しないのが大きな原因だった。
「このままでは、団長とフィッチャーが・・・」
ユニスが敵の攻撃を辛うじて受けながら呟く。

「怪力女の脚を封じたぞ、あとは追い詰めて一気に突き刺して殺せ。
女の首を取った者には報奨金金貨300枚! 残りの奴らも一人金貨10枚追加だ!」
「ウオオオォォオ……」

あちこちが血糊と屑鉄で染まる中、尚も甲冑兵たちは迫り、追い詰めてくる。
弓兵たちもまだ半数以上が健在だ。

(終わったか……)
フィッチャーが脳裡に死を意識した頃には、既にセレスティーヌは怪我をした脚で駆け出していた。
フィッチャーとアレクはただ、その後ろに続いた――
0192フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:54:21.29ID:zIT1qVpt
セレスティーヌは最初の矢をボロボロのマントで受けると、まずは功を焦って勢い良く掛かってきた
三人の甲冑兵を分断する。全ての鉄屑の付いた肉塊が地面へと付く前に次の一撃で時差攻撃をしてきた敵の腹を突く。
絶命した敵を刺したまま持ち上げて敵の進行方向を塞ぎ、敵の槍と矢をそちらに逸らし、
同時に横から来た相手にも剣をお見舞いする。腹から臓腑を散らして崩れ落ちる前に次の槍をへし折り、
そのまま上半身を甲冑ごと刎ねる。

オォォォォ……

周囲の戦慄する声は、まるでフィッチャーの心理を表しているかのようだった。
それでも敵の攻撃は収まる気配がない。
まだ斬った人数は30人がせいぜいだ。敵の士気をくじくには足りない。

敵の槍や矢がセレスティーヌにかすり、刺さる。叫ぶアレク。
それでも止まらない。セレスティーヌは前進し、少し怯んだ敵の腹を一薙ぎした。
敵の甲冑に皹が入り、一部の兵は血を噴き出す。そこを疾駆するセレスティーヌは
一人に思いきり剣を突き刺し、一人に脚蹴りをかました。
突き刺した剣はそのまま後ろにいた兵をも串刺しにし、絶命させる。
蹴られた相手も脚を折られ、その場に倒れもがく。
セレスティーヌの狙いは後方にいた二名の魔術兵だった。あっという間に魔術兵たちは残りの剣の犠牲になり、断末魔の声とともに
二つの肉体を四つの憐れな血まみれの襤褸切れへと姿を変えていった。

後ろから不意に攻撃を受けたセレスティーヌは剣でそれを弾くも、あちら側の槍とともに彼女の剣もパキリと折れた。
とうとう人を斬り過ぎて刃零れを起こし、脆くなっている部分が打撃で破壊されたのだ。

「丸腰だ! 行け、殺せ!」

フィッチャーらはあまりのセレスティーヌの勢いについていけず、十人程度の敵に寸断され、
お互い連携が取れなくなった。逆にいえば弓兵からは狙われにくくはなったが。
「うぉぉおおおお! やらせるかよ!」
フィッチャーは傷を負いながらも甲冑兵たちに果敢に斬りかかっていった。
アレクの加護のおかげで脚が軽い。よく訓練された敵の攻撃を受け流し、互角以上の強さを見せている。

一方、セレスティーヌの方は凄まじいものだった。
まずは掛かってきた甲冑兵の槍を素手で掴むと羽交い絞めにして敵の槍を受けてそのまま喉を拳で撲って絶命させ、
奪った槍で同士打ちをした敵の心臓を貫いた。
そして敵の死体から剣を抜く。彼女にとっては小ぶりなナイフのようなものだが、逆にいえば硬度さえあれば切れ味は充分だ。
槍での攻撃をしゃがんで避け、そのまま甲冑兵の脚を剣で切り裂く。後ろから来た敵は槍ごと両腕を切り裂いた。

「ギャァァァ、助けて、助けてくれぇぇ……」
「死にたくない、死にたくないよぉ・・・」

フルプレートの弱点はすぐに脱げないこと。片脚を失った兵はそのまま痛みに耐えながら失血死を待つしかない。
また、両腕を失った敵もセレスティーヌどころではない。血を噴き出しながら周囲に助けを求めるも、皆が皆必死で誰も相手にしてくれない。
やがて痛みと失血のショックと恐怖で膝を突き、地面に倒れ伏して絶命した。
脚を失った兵も同じで、壁へとうなだれるようにしてやがて動かなくなった。

また、その剣が使えなくなれば素手や素足で応戦した。敵の重みで押し倒されるも、逆にそれを盾にし、
再び立ち上がり敵の腰から剣を奪う。アトス側の近衛兵たちは次第に数を減らしていった。
フィッチャーと合流する頃には周囲には脚や腕、そして蹴りや拳で鎧を潰され、その衝撃で
のた打ち回り、その多くが命を落としていった。
0193フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:56:18.14ID:zIT1qVpt
「セレス……」
フィッチャーは何かを覚悟するような顔で、ついに、セレスティーヌに己の大剣を手渡した。
自分の商売道具だが、明らかに彼女が持っていた方が有利だ。
フィッチャーはのた打ち回る兵から剣を奪うと、それを使って今度はユニスたちの手助けに入った。

――再び悲鳴、叫び、戦慄が戦場を覆っていった。
オォオォォ……という声は敵兵によるものだ。
フィッチャーの剣はいとも簡単に精鋭の甲冑兵たちを武器ごと分断し、ついに二つ目の弓兵の拠点も破壊され、
殺戮が行われた。泣き声すら聞こえる。

ボロボロになったセレスティーヌの鎧からはあちこちから血の滲んだ素肌が垣間見える。
あちこちが脈を打ち、特に臍周りの筋肉は割れて威圧感を出していた。
既に全身が悲鳴を上げているのだろう。しかしセレスティーヌは止まらない。
甲冑兵たちを斬っては捨て、多少の傷は厭わずに突撃を続ける。
ついに、甲冑兵たちが後ずさりをはじめた。
もうアトス側の死者は100人を軽く超えているだろう。

「プレシャス! プレシャス……」

恐らく分隊長格なのだろう、近衛兵が祝福の言葉を並べはじめた。
絶対に下がる訳にはいかない。ヴィクサスの教えだけが彼を繋ぎ止めていた。しかし――

「あの女、化け物……」「もう嫌だ、あんな奴と戦いたくない……!」「死ぬのは嫌だ、俺は逃げるぞ!」

ついに、痺れを切らしたように近衛兵から脱走者が現れた。その流れに乗るようにして、
次々と50人程度が離脱していった。それでも駆けつけた増援を含め、まだ100人近くが取り囲んでいるあたりがさすがは狂信の聖都である。

「そろそろ、降伏してそこを開けてもらえるか? うちの団長はあまり寛容とは言えないんでね」

フィッチャーが脅すと、ルーカンは鼻で笑うようにして、しかし額に汗を書きながら言った。

「愚か者どもが……これだけの潤沢な装備がありながら、女一人殺せぬとは……
では、次の作戦と行こうか……んにゃっぴ!」

フィッチャーらによって周囲の敵を一掃したマーテルが、ルーカンの喉元めがけて矢を放ったのだ。
その矢はルーカンが引き抜くとすぐに血を噴いたが、やがて醜い肉の塊のようなものを出して瘤状に固まった。

「絶対に許さぬぞ……例の作戦に入る! 貴様ら、ブラント司教、あれを用意しろ」「はっ!」
0194フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:56:48.07ID:zIT1qVpt
先ほどの衝立のあたりから現れた老人が赤いオーブを掲げると、なにやら呪文を呟く。
同時に魔法兵の生き残りたちが似たような行動を取りはじめた。

――やがて、変化が訪れた。今まで殺害した近衛兵たちの死骸が立ち上がり、
ある者は鎧を身に付けたまま、ある者は裸のまま立ち上がる。

「まさか、屍霊術士(ネクロマンサー)……!」

イオが叫ぶ。各国に少数ながら居るとは聞いていたが、まさjか神聖で知られるアトスに存在している、
そのこと自体が驚きであった。
百を超える死霊兵たちがホワイトクロス騎士団に襲いかかるだけではなく、周囲の近衛兵たちにも襲いかかった。
「プレシャス!」「聖都に化け物だって? 逃げろぉおお……」「死にたくねぇよお……」

バリバリと音を立てて生きたままの兵たちが次々共食いのごとく食われていく。
やがて全ての甲冑兵、弓兵が逃げ、ターゲットはホワイトクロスの6人だけになった。

「これはおまけだ……ウケトッテ、おけ、まさか、私も、ウゴゴゴ……ッ」

ルーカンとブラント司教、そして他の魔法兵たちも紅い眼の不死者の姿となって襲い掛かってくる。
倒れたまま生き残っていた兵たちが真っ先に犠牲になり、食われるか死霊兵となって隊に加わった。
ルーカンは触手のようなものを生やし、口にエネルギーを溜めている。
恐らくは以前のハミルカルのように全身に仕掛けが前もってなされていたのだろう。

壁に手をつき一休みしていたセレスティーヌだったが、敵が迫っているのを見て、再び剣を構えて敵に向けて走り出した。

「あれは……!?」

オマケ、と呼ばれていた存在は、衝立の向こうからやってきた。
それは、どこから集めてきたのか、少年少女たちの死霊で、体が透けていることから
兵たちとは違い、実態の曖昧な死霊のワイトであると思われる。
一人だけ大柄なワイトが物凄い眼力をもって迫ってきた。

「まさか、ペトラ……くそっ!」

どこかで見た顔、というよりも顔は完全にペトラだった。霊魂が奪われたのだろう。
そして、少年少女の中には、フィッチャーがよく見知った顔もあった。

「チビ……まさか、お前も殺されていたのか!?」
「チビってのは、あんたの息子の名前?」
「悪いか、一応本名だ。俺が付けた……こんなのって、アリかよ……?!」

オーオーオー……
オーオーオー……
その奔流はアトスの城壁から内部全体へと流れ、各地で戦っていたアトス兵も死霊になったものと思われる。

死霊兵たちが近づいてくる。
特にかつての近衛兵たちの動きは素早い。すぐさまセレスティーヌによって一体が分断された。
ビチビチと、死臭が周囲へと撒き散らされる。思わずこれにはフィッチャーまでが鼻を覆った。
ルーカンが徐々に肥大化している。良く見ると周囲の兵の死肉を取りこんでいるようだ。

「まずい、あいつが一番ヤバい相手だ!」

マーテルが叫ぶ。
フィッチャーは剣を持ち直し、構えた。そしてアレクに伝える。

「分かるな。俺たちはホワイトクロス騎士団だ。こいつらを安らかにしてやれる為にも……
―― 一切容赦はしなくていいぞ!」

再び聖堂付近での衝突が始まる。
0195フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/26(土) 17:57:13.70ID:zIT1qVpt
――


「既にオリンパスの光はアトス付近にまで移動させました。それにしても……アレクサンドラ、
そしてあのセレスティーヌという人間はどうしてここまでして必死に生きようとするのでしょう。
私なら……いや、それは考えないことにしましょう。カリストゥス様、次の手はいかがなさいます?」

カリストゥスは一息置くと、一気にまくし立てる。

「恐らくルーカンやブラッククロスの連中が奴らを仕留めてくれるだろうが、特にそうでなくともよい……あの女はもう持たぬ。
それに、オリンパスの光を使い、地上を一旦“浄化”するのも良いと思っている。特に聖都アトスなどはそうだろう。
お前の「父」となったフローレンの創った、不気味な施設も残っているだろうからな。
既に天界がこれだけの生産力を持った今、地上はただの供給源に過ぎぬ。よって真っ先に潰すのは
アトスの城下町だろう」

「“黒十字”はカリストゥス様が手塩にかけて育てたメンバーなのでは? それを捨て置くということですか?
また、地上を支配するための、「教会」のシステムの再構築も面倒になるはず……」

「私は天帝だ。天帝の命に一々指図するな。その程度、まだジェノア、アースラントがある、ジャイプール、
北方もいずれは支配下につく。「大を生すためには小は切り捨てよ」と言うだろう……?」

「む、早速ですが、シュタインめが現れたようですな」

天界への転送の泉へ現れたのは、シュタインその人だった。

「はぁ、はぁ……この頂いた肉体も充分に慣れたつもりですが、奴らは予想以上に強敵のようです。
カリストゥス様、アトスへの増援として、100ほどの天使兵を戴けませんか? 私が授かったこの肉体と併せれば、
きっとあのような連中は消し去ってくれましょう。さぁ、今すぐに……!」

カリストゥスはかなり機嫌を悪くしたように言い放つ。

「お前には充分な施しをしたつもりだ、シュタイン。何度失敗すれば分かる?
我らは天界の一員なのだ。10の天使兵をこれより送る。それであのフローレンめの研究所も
自由に使うがよい。私は少々、忙しいのでね。オリンパスの光の準備もできておる。
あれも元はフローレンの研究の成果物であったな。天使兵に頼んで少々の魔力も送る。
これで貴様も相当の力を得、奴らを圧倒するであろう」

「はっ」
シュタインは頭を地面に付ける。これが最敬礼である。

「それと……オリンパスの光がここに来ておる。貴様は速やかに物品を回収し、
その後暫くはアトスには入らぬよう、注意せよ」

「……オリンパスの、光ですな」

シュタインがニヤリ、と笑みを作った。


【近衛兵壊滅。大量の死体を利用し、屍霊術士と化したルーカンが自らアンデッドとなって
ホワイトクロス騎士団を襲う。機動力のあるゾンビ150体程度、少年兵とペトラのワイト20体程度、
巨大化したルーカンがそれぞれ敵対。
0196アレク ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/08/27(日) 20:37:17.22ID:giXGwbqo
一人あたりの戦闘力(特にセレスティーヌ)は段違いにこちらが高いとはいえ、多勢に無勢。
一度追い詰められて袋の鼠と化すも、そこで更にセレスティーヌが覚醒ともいうべき爆発力を見せて敵を屠り
ついに脱走者が出始めるに至った。
今のセレスティーヌは、痛みも恐怖も感じずただ敵を屠ることだけに特化した殺戮の化身。

「あのままじゃあ……」

彼女の肉体はすでに限界を超えているはずだ、下手すると命に拘わる。
しかし今はその狂戦士と化したセレスティーヌが頼みの綱であることも事実。負ければここで全員死ぬのだ。
アレクに出来るのは、彼女が出来る限り攻撃を受けずに早く戦闘が終わるように支援に徹するしかない。
このままでは負けると思ったのであろう相手は、ついに禁断の奥の手を出すに至る。

>「絶対に許さぬぞ……例の作戦に入る! 貴様ら、ブラント司教、あれを用意しろ」「はっ!」
>「まさか、屍霊術士(ネクロマンサー)……!」

屍霊術――邪神に仕える暗黒神官や悪の魔術師が操るという、高位にして希少、そして禁忌の術。
それがあろうことか正統派神官の総本山であるはずのアトスで顕現されたのであった。
生きた兵は食われ、または逃げ出し、ホワイトクロス一行を死者の軍団が取り囲む構図となる。

>「これはおまけだ……ウケトッテ、おけ、まさか、私も、ウゴゴゴ……ッ」

そしてルーカン自身も、驚愕を露わにしながらアンデッドと化す。
彼もまた使い捨ての駒に過ぎなかったのだ。
更に、ワイトの集団までも現れる。その中には、ペトラやフィッチャーの息子の姿もあった。

>「あれは……!?」
>「まさか、ペトラ……くそっ!」

「死なせてしまってごめん……。あの時仲間に入れずに追放してれば……」

思わず謝るアレク。
もちろん、これはペトラの姿をしているものの、もはや生前の記憶や自我はない。
0197アレク ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/08/27(日) 20:38:28.12ID:giXGwbqo
>「チビ……まさか、お前も殺されていたのか!?」
>「チビってのは、あんたの息子の名前?」
>「悪いか、一応本名だ。俺が付けた……こんなのって、アリかよ……?!」

「フィッチャー……」

最悪の形で息子の死を知ってしまったフィッチャーにかける言葉も見つからず、哀しげに立ち尽くすしかなかった。

>「まずい、あいつが一番ヤバい相手だ!」

そこにマーテルの警戒を促す声が響く。
しかし今のフィッチャーは戦える状態だろうか――その心配は杞憂だった。
フィッチャーは、悪に利用された愛する者達を解放するためにも、自らを奮い立たせたのだった。

>「分かるな。俺たちはホワイトクロス騎士団だ。こいつらを安らかにしてやれる為にも……
―― 一切容赦はしなくていいぞ!」

こうして、第二ラウンドは始まった。

「分かってる。我らは聖騎士団――対アンデッドは最も専門分野とするところだ!」

その言葉の通り、聖騎士の神聖魔法にはアンデッドに特効性がある物が揃っている。

「――ターンアンデッド!」

まずは対アンデッドの定番魔法を全域にかける。
雑魚アンデッドなら即崩れ去り、そうでなくても動きを鈍らたり力を弱めたりといった効果がある。

「ホーリーウェポン」

味方の武器に聖属性の加護をかける。聖別された武器は、アンデッドに対して絶大な効果を発揮する。
続いてアレクが相手として選んだのは、ワイトの軍団だった。
実体の無いワイトは物理攻撃でダメージを与えるのが難しいため、魔法での攻撃手段を持っている者が適任と判断したためだ。

「――ホーリーライト!」

ワイト達に、アンデッド特攻の聖なる光の攻撃魔法を浴びせる。
0198フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:21:12.56ID:9/qnTjFn
>「死なせてしまってごめん……。あの時仲間に入れずに追放してれば……」

ペトラの変わり果てた姿に謝るアレクに、フィッチャーがボソリと言う。

「いや、俺のせいだ。俺はあいつに下心をもって仲間に入れた。お前は気にするな。
それより、あいつだ……」

そう言いつつ、武器をすぐに構える。対策は人間相手よりも単純なはずだ。
支給品らしき細い剣であっても、アンデッド相手なら戦い方は決まっている。
しかし、自分の死んだ息子の魂を討伐するのは気が引ける。
0199フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:22:33.43ID:9/qnTjFn
「――ターンアンデッド!」 「ホーリーウェポン」

一つ覚え、しかし王道ともいえる神官の神聖魔法。
これが最も堅実で確実だ。

早速、ゾロゾロと集まってくる鉄の破片を付けたゾンビたちが倒れていく。

「ホーリーウェポン!」

逆側に素早く回り込んだユニスはイオを連れて、単純な動きで接近してくるゾンビ兵たちを
分断させてから迎え撃つ。

次々と繰り出される攻撃を確実に受け、メイスで頭を砕いていく。
イオもまた、拾った剣を使ってその補助を行っていた。
0200フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/08/28(月) 17:23:15.09ID:9/qnTjFn
「こっちもいくよ! グッバイ・アンデッド――!」

神官魔法ではない対アンデッド魔法がマーテルから放たれる。
すると見る見るうちに鉄塊とともに敵が溶けていく。
フィッチャーもまた、正面から次々と三、四人、四、五人と膾斬りにしていくセレスティーヌの後ろから
巨大化していくルーカンに向けて、突撃をしていった。

ビチビチと敵の破片が飛び散り、さらに分断された敵の上半身が噛み付いてくる。
それを同じく対アンデッド魔法で潰し、自らも振りほどき、脚で踏み潰す。
腐った脳が異臭を放ちながら飛び散る。

血とアンデッドの破片に塗れたセレスティーヌは勢いを止めず、ルーカンへと向かっていく。

「はぁぁぁあああ!!!」

ルーカンが腕を伸ばして飛ばしてきた規格外の射程のメイスを大剣で受け、さらに
懐へと入り込んで四発、五発、六発と次々に連撃をかました。
ブラントと呼ばれた屍霊術士もついでに巻き添えでいつの間にか分断されている。
周囲から襲い掛かる子供のワイトたちも数体が消えた。

「おのれ、オノレ…… ダガ、私ハマダマダ死ナヌ……」

ルーカンの肉体の腹がパックリと開くと、そこから無数の触手が飛び出し、セレスティーヌの肉体をあっという間に包み込んだ。

「ヌゥォォ……眷属ヲ……」「ぐぁぁっ……!」

衝撃波をもってセレスティーヌの肉体を蹂躙し、さらに倒れてところを踏みしだき、口から汚物を
吐き出して、それをセレスティーヌの口内へと侵入させた。

「セレス! 今助ける!」
0201フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:23:41.45ID:9/qnTjFn
フィッチャーが剣でそれをたたき斬る。危うくそのまま窒息しかけたセレスティーヌは難を逃れた。

「ぐほっ……」

四つん這いになり、口から吐出物を吐き戻すセレスティーヌの後ろから、頭目掛けてルーカンの一撃が入った。
「くあぁっ!」

セレスティーヌは辛うじて頭を割られることを避けるも、尻に直撃を受け、鎧がたちまち割れる。
その時、彼女の懐に飛び込む一人のワイトがいた。

「まさか、チビ……!」

フィッチャーは一瞬躊躇したものの、突き上げるようにして、そのワイトを聖なる魔力がかかった剣で
掬い斬りにした。フィッチャーの眼を見て消滅する「チビ」。そして、その横からも別のワイトが襲った。

「グッ、フィ、チャ……」

そのワイトはペトラだった。「彼女」はフィッチャーになだれかかるようにして、そのまま動かなくなった。

「くそっ……、ぐ、ぐはぁっ!」

旧知のワイトを二人消滅させたショックで一瞬立ち尽くしたフィッチャーの脇腹に、ルーカンの一撃が見舞われる。
起き上がろうとしているセレスティーヌのすぐ横まで吹き飛ばされた。

ルーカンは周囲の死骸をさらに吸収し、傷を癒しながら先ほどよりも巨大化していく。
さらに、残りのワイトたちがわらわらと接近してきた。
「フィッチャー、私がこの怪物をやる。残りは頼んだ。私を信じろ」

コクリ、と首を縦に振ると、フィッチャーは武器を構えて残りのワイトたちに向かっていった。

「アレク、さらにエンチャントを頼む! それと、周りの掃除も手伝ってくれ!」

徐々に、ゾンビ兵たちが逆に取り囲まれ、何度も復活されて傷を何度も負いながらも、敵を追い詰めていったホワイトクロス騎士団。
周囲の戦況も変わりつつあった。

十数分後――

フィッチャーが何とか全ての死霊兵とワイトを片付けてセレスティーヌの元へ行くと、
ほぼ裸の格好で柱を背にしたまま肩を上下させているセレスティーヌが、ルーカンのものと想われる
大量の肉片や鉄屑、そして恐らくコア部分と思われる割れた紫色のオーブが頭蓋骨のあたりで見つかった。
ついに大量の敵と不死身の軍団を打ち破ったのだ。

まず、フィッチャーはペトラと息子を弔った。
「ペトラ、チビ……今度こそ、安らかに……プレシャス」「プレシャス……!」
仲間たちも同時に祝福を捧げる。
0202フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:24:35.16ID:9/qnTjFn
「おーい、投降兵を連れてきたよ」

マーテルは瓦礫の影に隠れていたという、甲冑兵と弓兵を一人ずつ確保し現れた。
他のメンバーも傷や毒を受けながらも回復を進めながら集合する。

「うわあぁぁぁ!! か、怪物女だ…… くそっ、今のうちに……!」
甲冑の男が剣を抜いてセレスティーヌに突き刺そうとするのを、弓兵の男が羽交い絞めにして止める。
「やめろ、そんなことする前に、こいつらに殺されるぞ……! すまん。俺はジョニーで
こいつはスミッツだ。アトスの近衛兵をやっていたが、元々はここの住民で教会の世話になっていたに過ぎない。ところで…」

「話は後で聞く。そろそろうちの団長がお目覚めだ。お前ら、団長に殺されたくなかったら俺の言うことを聞いてくれ。
俺が止めてやるから。交換条件ってやつだ」
「色々、情報も聞いておかないとね」

少しホッとした感じでマーテルが話す。そういえばアトスやその周辺の状況について
まともに情報収集をするのはこれが初めてだろう。

弓兵の装備をセレスティーヌに、甲冑兵の装備の一部をフィッチャーに付ける。

「へぇ、初めて着るが、お前らの装備って、外したり付けたりするのが大変なんだな」
「少々丈が合わぬが……まぁいい。先ほどの戦いで、骨を何箇所かやられたらしい。だが、大事ない。
聖堂の中に案内しろ。早く、早くだ」

窮屈な胸、そして腹の一部が丸出しになったが、セレスティーヌは柱に手を付いて立ち上がり、
ジョニーとニミッツに衝立の先、聖堂の案内を命じた。

心なしか、非常に急いているというより、何かに追われ焦っているようなセレスティーヌの喋り方に
若干違和感を覚えつつも、フィッチャーたちは聖堂内部へと侵入した。

「なに、ガラ空きだって!?」

フィッチャーは驚愕の声を上げた。どうやらセレスティーヌの説明では、このあたりが礼拝堂になっており、
大勢の司祭と今のシュタインのポジションである枢機卿が居た場所だったはずだ。
しかし、どこを探してももぬけの殻となっている。

「もう他に機能を移した、ということでしょうか……?」
0203フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:25:10.74ID:9/qnTjFn
イオが肩で息をしながら言った。可能性としては充分考えられることだった。
一部の補給物資や武器、防具の類しか存在しない。
それらをくすねられるだけくすね、辛うじて騎士団のメンバーは装備を新しくした。
セレスティーヌもバスタードソード二本を手に入れ、フィッチャーに古い大剣を返す。
ユニスは先ほどルーカンが使っていたメイスを使うことにした。ミスリル銀製で、意外に軽い。
マーテルも連射式のボウガンを入手し、大量のクォレルを補給し、充実させた。

――と、セレスティーヌが落ち着き無く他の部屋を探し回り、血眼になっている。
次第にその動作は荒っぽくなり、ドアを蹴るなどして必死さが伝わってくるようだ。

「無い、ない! どうしてどこにもないのだ……!?」

フィッチャーは最初は何を彼女が探しているのか分からなかった。しかし、彼女の目を見て
それが何であるかをはっきりと意識した。

「まさかセレス、それは、お前が大量に打ち込まれたってやつ、「クスリ」か?」
「どこだ、クスリィ・・・  どこにある、どこにも無いであろうが!」

その名前を聞くと、セレスティーヌはすぐに反応する。
さらに、あろうことかジョニーに掴みかかった。

「知っているのであろう? 近衛兵なら。私に隠しだてするな……この……」「ぐぁ」
パキャ、という音とともに両手で頭を押さえ付けられたジョニーが頭蓋骨を割られ脳漿が弾け飛ぶ。

「ひぃぃぃ…… 殺人鬼! 怪物!」

スミッツが仲間の死を見て逃げようとするも、すぐにマーテルらによって取り押さえられる。
「フィッチャー、あんたは団長を抑えてて!」

フィッチャーがセレスティーヌを捕まえ、説き伏せようとする。
「落ち着け、そんなものに頼っていたら、お前は必ず死んじまう。俺はお前をそうさせたくないんだ!」

肘打ちが何発もフィッチャーに入る。並みの男ならこれだけで内臓が破裂するだろう。

「アァァァァァーー!!!」

ついに半狂乱と化したセレスティーヌは次々と聖堂の柱や立像を剣で破壊して回る。
整然とした建物が、短時間で廃墟のような様相となっていった。
スミッツはあまりの恐怖に一度気絶してしまっていた。
やがて、あちこちを破壊しつくしたセレスティーヌはハァハァと肩で息をして座り込んだ。

「そういえば、あいつ、シュタインをまだ見ていないわ。また何かを起こされる前に、早く探しましょう
それに、この前シュタインの前にいた、あの背の高いデイドリーム。あいつが絡んでいるのかも」
ユニスが別のことで冷静になり、慌てながら言う。

「俺はこれだけなら知ってるぞ。シュタインは確かアトスの他の場所に教皇様が作った研究所と通じていたようだ。
だから、他に奴がいるとしたらそこだろうし、クスリも、教会の秘密もそこにあるはず!」
目を覚ましたスミッツはそれだけ言うと、押し黙った。

困ったフィッチャーはアレクの方を見て叫ぶ。
「くそっ、どうしたら……天使よ! アレク、ああいう場合は、あいつをどうしたらいいんだ!」
0204フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:25:58.22ID:9/qnTjFn
――

シュタインは天使兵たちから魔力を分け与えてもらい、じっと瞑想するような格好で座り込んでいた。
「もっと、魔力をォ……」

その低い呟きは威圧感を出し、さらに天使兵たちから魔力を絞り出す。
徐々に彼らは、飢えた蚊のように、細い腹部をさらに細くしていった。その表情を見る限り、
もう倒れそうだ。
シュタインは天使兵たちの顔を見る。見事に全てがアトラスムスそっくりだった。
あの“神”と言われ、天界に君臨した傲慢なデイドリーム。それも元はフローレンという一介の
偽教皇、錬金術士が作ったものなのだ。

「グェ……」
痩せ細って弱った天使兵の頭をその太い腕で潰す。
「醜い、実に醜い……これぞエゴイズムの塊よ……何が“神”か」

二体、三体と天使兵たちの顔を潰し、絶命させていく。
異常に気付いたアトラスムスから連絡が入った。

「シュタイン、何をしているのです? 天使兵は私が丹念に育てた私の可愛い子……
それを粗末に扱うとは何事ですか!? 私が労力をかけて生ませた貴重な命なのですよ」

アトラスムスは水晶球から下界の各地の様子を伺いながら、シュタインのいる「天界」への
ゲートの様子も見ていた。全裸姿で浴場で女たちと絶賛交配中、そして「彼」にはスタイルの良い
厳選された女たちがすり寄り、次は自分の番だと抱きついている。
天界の環境は天使兵たちが次々と開拓し、自然も建物も続々完成している。
もはやいつでも人口増加や移住に耐えることができた。それほど潤沢だ。

そして、その隣に座り行為にいそしんでいる天帝カリストゥスもシュタインに一言添える。

「堕落するのは大いに構わぬ。しかし、我らも無限の生産力を持っていても現状は「二人」で
天界を運営しているのでね。貴様の素行が悪いのなら、地上の「連絡役」を降りてもらい、
ラビカンあたりに譲渡することも検討しているぞ。分かったら無駄なことは止せ。
「オリンパスの光」が現れる。聖堂を狙うつもりだ。実際、アレクサンドラの位置は
既に把握済みなのだからな…… とりあえず、これでどうだ……! おい、気にせず続けろ」

先ほどの動作で「オリンパスの光」が動き、シュタインの居る転送装置のあたりも轟音が鳴り響いた。
これによってアトス大聖堂とその周辺に一条の光が降り注ぎ、強大なエネルギーが周囲を巻き込んで暴発したのだ。
恐らく現場は悲惨なことになっていることだろう。

同じくカリストゥスも女を抱いて生殖行為にいそしんでいた。同じ人間の鍛え上げられた肉体を持ち、
端整なルックスに実質的に一番の権力を持つ彼は、アトラスムス以上に人気があった。
ゴクゴクと壮強剤を飲みながら行為に熱中する彼は、まさに性の鬼、「性職者」といえた。
また、魔力のせいで女たちがさらに乱れやすくなっているのもそれに拍車をかけていた。

――しかし、本当に乱れていたのは彼らであり、それが正確な判断を下すのを逸したことを
この二人が気付くのはあまりにも遅すぎた。

「それは結構。では、こうしたら如何でしょう……?!!」

全ての天使兵を屠ったシュタインは、魔力を大量に増幅させると、一気に転送装置の上にある壁を破壊した。
続いて両腕から光の弾を発射し、むき出しになった「非常用崩壊装置」を攻撃して破壊した。

ゴゴゴゴゴ……

みるみるうちに転送の魔法陣が消え、その下の泉が干からびてしまった。
0205フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:26:29.62ID:9/qnTjFn
天界は突然、大地震に見舞われた。
浴場の底の床が割れ、水が下へと抜け落ちはじめる。
天界の空は蒼穹からうって変わって真っ赤な空となる。
カリストゥスは水晶球に向かって叫んだ。

「シュタイン、貴様、何をした!?!?」

シュタインは笑いながらゆったりと答える。
その大災害の音響は、壁に備え付けられたオーブから僅かに聞こえてくるだけだが、
それだけで天界の悲惨な状況が想像できる。女たちの悲鳴も聞こえてくる。

「ブァァカですか? あなた。アースラントの一騎士の分際で、神にでもなったつもりですか?
私が知っている限り、天界に神などいません。何故なら、そこのハエも含め、地上にまだフローレンの創った
施設が残っていることもご存知ありませんでしたからねェー。フヒヒヒ、それで神だとは、お笑いですクァ?
これでハエが消えれば全世界の天使どももただのヒトになるだけですねェ……そもそも、
お前たちは女とカネと地位だけのために、ちょっと鼻が伸びすぎてしまったァ、ただのヒト。
地上のものは全て私のもの。そもそも、フローレンから天界が一瞬で壊せることを教えて貰った私の、一人勝ちなのですよォ……」

アトラスムスが尚も抱きついてくる女たちを蹴りながら叫ぶ。女たちは奇声を上げながら下へと落ちていく。
割れた下には溶岩が広がっていた。

「ふざけるなァ! 貴様、私は神なのだぞ! これぐらいで、くっうぅ…… 地獄に落ちるがよい。
ただで済むと思うな! そもそも誰のお陰でその地位があると……」

シュタインはニヤリとしながら言う。

「もっともっと、甚振ってから殺してあげる方が、私の趣味なんですけどねェ……そこだけが残念だ。ハエめ。
お前は所詮は欲望の亡者、フローレンの子。子バエですよ……そこにいるお坊ちゃんにも言っておいてください。
そう、「お前たちが私たちを観察していたのではなく、私がお前たちが偽りの楽園で馬鹿騒ぎする姿を、ずっとあざ笑っていた」のですよ……
ではそろそろお別れですね。世界は私の手にィ……ヒヒヒヒヒ!」

傾いていく浴場は次第に溶岩で溢れ、アトラスムスの翼も抜け落ちて浮遊も利かなくなる。
助けを求める女たちを剣で斬り刻み、溶岩の中へと落としながら、必死にしがみ付くカリスト。

「この野郎! 俺はなぁ! ずっと我慢して、我慢して、やっとこの立場になったんだよぉ!
てめえみたいなハゲなんて、ずっと利用してただけ・・・グェ、グググギャァァ、命だけは……たすけ……」

「くそっ、私が神で、神で、貴様なんてオリンパスのグァ……熱いヨォォ……死にたくな……」

二人の断末魔の叫びを聞くと、干からびた泉と天使兵たちの死骸に建物ごと巨大な魔力球で止めを刺し、
崩れゆく「天界への扉」の建物を後に、アヒャヒャヒャと奇声を上げながら、シュタインはアトスへと向かっていった。
向かう先は勿論、「彼ら」が発見できなかった、フローレンの研究所。

――
0206フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/08/28(月) 17:27:11.13ID:9/qnTjFn
「ようやく到着したか。酷い有様だ……天帝様のお話ではここのはず。
テレーザ、聖堂の様子はどうだ?」

ブラッククロス騎士団がようやく攻撃を受けていない門から通してもらい、
先ほどの激戦のあった大聖堂の裏口へとたどり着いた。
大柄でスタイルの良い団長らしき女が、小柄だが出るところは出ている系の女に声をかける。

「はい、ガラティア様、どうやら敵は死霊兵などを使うネクロマンサーと思われます。
アトスの兵たちがこんな酷いことに……デイドリームのアレクサンドラは……恐らくこの中に!」

ルーカンの死骸が撒き散らした液体を引き摺った跡が、聖堂の中に伸びているのを一人が発見した。
ブラッククロス騎士団はすぐに侵入を決意する。

「では入るぞ……」「待ってください、団長、光が……!」

カッ、という音とともに空から稲光が降り、大聖堂周辺に降り注いだ。
ギャァァァ、という声とともに地上にいるブラッククロス騎士団は壊滅した。
直撃した者は跡形もなく黒焦げでバラバラになり、そうでない者も衝撃で
兜が割れて目玉が飛び出し、臓腑をぶちまけた。
大聖堂は瓦礫の山となった。

ゴゴゴゴゴゴ……
「くそっ、何だこれは、うわぁぁぁ!!!!」

フィッチャーは小さな複数の窓からカッという光が照らすのを感じた。
同時に、建物が崩れ、次々と柱や天井が落ちてくるのを感じる。

「アレク! くそっ、お前、羽根は……!?」

アレクを見ると、いつの間にか背中の羽根が消えており、本人も驚いているようだった。

「仕方ない、イオ、少しでも頑張ってくれ。全員生き残るぞ!!」

イオは力を振り絞り、竜の姿になると天井目掛けて勢いよく舞い上がった。
セレスティーヌが剣を振り回して岩石を砕く。

ふと目を覚ますと、先ほどまで激戦があった聖堂の裏口のあたりにフィッチャーは転がっていた。
目の前には脱出はしたが憐れなことに頭をかち割られ助からなかったスミッツの死体があった。
瓦礫があちこちに散らばっており、見たこともない女の死体があちこちに転がっている。
セレスティーヌが立ち上がり、続いてアレクが立ち上がる。

そして後ろを振りかえると、血まみれになり、骨を剥き出しにした重傷のイオの姿があった。
「イオ!」
先ほどの悲劇で飛竜を失ったその男が真っ先にまだ竜の姿をしたイオに駆け寄る。
彼がステッセルで間違いないだろう。
「ステッセル、様……」

竜の目から、涙がこぼれていた。

彼女はもう戦えないだろう。早めに治療をしなくてはいけない。
ホワイトクロス騎士団に残された情報は、スミッツの「研究所にシュタインがいるだろう」という
言葉ぐらいだった。

この数十分後、ついに聖都アトスは門を破られ事実上の陥落となった――

【天界がシュタインによって壊滅させられ、天帝カリストゥス、アトラスムス死亡。
イオ重体、ルーカン死亡、アトス陥落、ブラッククロス騎士団壊滅。
また、デイドリームの種族が絶滅し、アレクサンドラが人間に戻る】
【急な展開ですみません。アレクについては人間になるますが、性別は男か女にしても、
今まで通り「どっちでもない」でも結構です。】
0208アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/30(水) 01:32:20.13ID:oW5d8B2z
聖堂内はもぬけの殻となっていたが、装備品等は残っており、アレクは目ぼしいマジックアイテム等が無いか物色する。
0209アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/30(水) 01:32:47.22ID:oW5d8B2z
そして一振りの杖を手に取ったのであった。

「ラッキー、見てみて。これ祝福の杖じゃない!?」

振るだけで中威力の癒しの魔法が発動する魔法の杖である。
普通に高出力の回復魔法が使える高位神官にとってはそこまで騒ぐほどのものでもないのもあり
他の装備品と一緒に打ち捨てられていたものと思われるが、一般人基準だと超すごいものだ。
それはいいのだが、先ほどからセレスティーヌの様子がおかしい。

>「無い、ない! どうしてどこにもないのだ……!?」
>「まさかセレス、それは、お前が大量に打ち込まれたってやつ、「クスリ」か?」
>「どこだ、クスリィ・・・  どこにある、どこにも無いであろうが!」

「クスリって……中毒性もあるのか……!」

>「知っているのであろう? 近衛兵なら。私に隠しだてするな……この……」「ぐぁ」
>「落ち着け、そんなものに頼っていたら、お前は必ず死んじまう。俺はお前をそうさせたくないんだ!」
>「アァァァァァーー!!!」

セレスティーヌがいきなりジョニーを殺したかと思うと、半狂乱になって暴れ回る。
身を挺して止めようとしたフィッチャーだったが、ついに体力を使い果たすまで暴れさせておくしかなくなった。
破壊の限りを尽くした後、セレスティーヌはようやく疲れ果てて座り込んだ。

>「そういえば、あいつ、シュタインをまだ見ていないわ。また何かを起こされる前に、早く探しましょう
それに、この前シュタインの前にいた、あの背の高いデイドリーム。あいつが絡んでいるのかも」
>「俺はこれだけなら知ってるぞ。シュタインは確かアトスの他の場所に教皇様が作った研究所と通じていたようだ。
だから、他に奴がいるとしたらそこだろうし、クスリも、教会の秘密もそこにあるはず!」

>「くそっ、どうしたら……天使よ! アレク、ああいう場合は、あいつをどうしたらいいんだ!」

「今だ――セデーション!」

隙を突いてセレスティーヌに深い眠りに誘う魔法をかける。
普通ならこれをかけられた者はひとたまりもなく眠りこけるのだが、
クスリの強力な覚醒作用と丁度拮抗し、運良く沈静化の魔法にかかったようになった。
これでクスリの禁断症状はしばらく収まるだろうが、先程のような非常識な強さは発揮できないだろう。
しかしそれでいいのだ。あのような戦い方を続けていたら死んでしまう。
その時、急に極光が差し、建物が倒壊し始めた。

>「くそっ、何だこれは、うわぁぁぁ!!!!」

>「アレク! くそっ、お前、羽根は……!?」

「分からない、力の供給元が絶たれたような感じがする……」

いつの間にか耳の後ろの羽根が消えていて、魔力の翼も出なくなっている。
ちなみに、特に体格等に変化はない。聖魔法少女アレ子? 残念、それは最近流行りのギャグ系スピンオフ用のネタだ。

>「仕方ない、イオ、少しでも頑張ってくれ。全員生き残るぞ!!」

イオの尽力により、一行は奇跡的に全員脱出を果たしたのであった。
しかしスミッツは瓦礫の直撃を食らい死亡、見た事もない女性達の死体が転がっている状況。
どうでもいいが、いかにもライバルっぽいネーミングを与えられて満を持して派遣されたにも拘わらず
名乗る事すら出来ないまま「あ、何か死んでるわ」――以上終了って不憫すぎるポジションである。
0210アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/08/30(水) 01:34:16.43ID:oW5d8B2z
>「イオ!」
>「ステッセル、様……」

皆を脱出させるために大怪我を負ったイオだが、すっかり正気を取り戻したステッセルと再会することが出来た。

「イオちゃん、ここまで本当に助かったよ。後は任せて」

イオに祝福の杖を翳しながら、ここまでの働きをねぎらう。

「本当は私も決戦の場に行きたかったのですが皆様の足を引っ張るのは不本意。
お願いします、どうか、我々竜族の、仇を……」

イオは竜族に伝わる言い伝えを語り始めた。
竜は元々神と崇められる聖なる存在だったが、教会勢力によって魔に落とされたこと――
そして、理不尽な竜退治が横行した時代があったこと。
言い伝えと言っても、長寿の竜族にとっては数代前のこと。厳然たる過去の事実だ。
聖者による悪竜討伐の伝説は枚挙に暇が無いが、その多くが世の支配者に都合のいいように歪められていることは想像に難くない。

「それ、エントも似たようなことを言ってた……」

「それと、デイドリームはずっと前からいたそうですよ。それこそ太古の時代、教会勢力なんて台頭するずっと前から」

「それなら、何故羽根が消えた……?」

「それは分かりません。ただデイドリームは幼い頃に皆教会に引き取られる決まりになっているでしょう。そこに何かがあるのかもしれません。
例えば、洗脳したり自分達に刃向えぬように封印をかける、等でしょうか。
これだけは覚えておいてください。
この世界に本当は唯一絶対の神なんていない――もしそう名乗る者がいるとすれば、それは偽りの神。
気を付けて、教会勢力には昔からとてつもない闇が潜んでいる――その全てが今はシュタインに凝縮されているのかもしれません」

何か大切な事を忘れているような気がする。
幼い頃は破天荒なばっちゃに自然の中で育てられていた覚えがあり、気が付いたら教会で過ごしていた。
確か彼女は自然の力を借りた魔法を使うドルイドだったか。おそらく拾われたか何かで育ての親であろう。
教会で過ごすようになった経緯は全く思い出せない。

――シュタインは確かアトスの他の場所に教皇様が作った研究所と通じていたようだ。
――だから、他に奴がいるとしたらそこだろうし、クスリも、教会の秘密もそこにあるはず!

手掛かりは、奇しくもスミッツの遺言となったその言葉しかない。
確証もないが、他に手がかりも無いのだから行くしかないだろう。

【本当はデイドリームは神(?)と関係なく昔からいた種族だけど教会勢力が勝手に結びつけた、みたいな仄めかしは前からしてあったり。
今のところ力を失って表面上は人間のようになっている、ということでクライマックスでの復活パワーアップの前振りとして使わせていただきます】
0211フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:33:24.91ID:oY0ZamLQ
>「何故羽根が消えた……?」

> 「それは分かりません。ただデイドリームは幼い頃に皆教会に引き取られる決まりになっているでしょう。そこに何かがあるのかもしれません。
例えば、洗脳したり自分達に刃向えぬように封印をかける、等でしょうか。
これだけは覚えておいてください。
この世界に本当は唯一絶対の神なんていない――もしそう名乗る者がいるとすれば、それは偽りの神。
気を付けて、教会勢力には昔からとてつもない闇が潜んでいる――その全てが今はシュタインに凝縮されているのかもしれません」
0212フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:34:09.57ID:oY0ZamLQ
人間形態に戻ったイオは、祝福の杖を受けても尚、痛々しい様子だった。
生き残った、僅かなワイバーン隊を連れ、ボロボロのイオはステッセルとともに「彼の治める」
アースラントへと戻ることになった。
空にいた天使兵たちは、いつの間にか姿を消していた。

「本当に助かった。アストラの民たちが無事に生活できるよう、私はただ力を尽くすのみだ。
ホワイトクロス騎士団、貴方がたに残りのことは任せよう。また会えることを願う、プレシャス!」

数頭のワイバーン兵たちとともにアトスを脱出するイオは、フィッチャーらに涙ぐみ、軽く手を振ると、
静かに寝息を立てはじめた。やがて空高く飛び上がり、西の空へと向かっていく。

やがて、フィッチャーは黒衣の女たちの一団の中で唯一の生存者を発見した。
祝福の杖の力で辛うじて立ち上がり、ボロボロの服装のまま朦朧とした意識で話す。

女は名をフェイシアと名乗り、命を助けて貰った見返りとして、信じられない事実を語る。
アトス山の麓には祠があり、その奥の泉から「天界」への道があるという。
0213フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:34:52.50ID:oY0ZamLQ
天帝カリストゥスという男とアトラスムスというデイドリームのたった二人が、広大な肥沃の地を治めているというのだ。
「ブラッククロス」の名は、「ホワイトクロス騎士団」に対抗するためにカリストゥスが自ら編成したという。
ジェノアを含むアトス周辺の強い女たちが集められ、金と快楽と引き換えに二人のために全てを尽くすよう鍛えられたとのこと。
シュタインや教皇の研究所にも強化のために入ったことがあり、場所も案内できるらしい。
今回、隊長を含む自分以外の20名あまりが「天界」からの「オリンパスの光」で焼かれ、捨て駒にされたことを知った。
骨や肉片、あちこちに散らばる臓腑や目玉などを見て、怒りを露にしている。中には天帝との妃になることを約束した者もいるという。
既にホワイトクロス騎士団側に加担する約束をしており、研究所の名を聞くや否や、彼女も協力するという。
こんな上手い話があるのか、という突っ込みもありそうだが、どうやらあるようだ。

(カリストゥス……王国にカリストという将軍が居た気がしたが、そいつとは別の奴だろうか。
デイドリームがアレクの今の状況と無関係ならいいが……)

フィッチャーが考えられるのはそれぐらいだった。

「まったく、何の騒ぎだ。こっちはボロボロだよ。うちの兵どもも大分疲れてる。
だけどね、ボクはここで引くような男じゃない。帝国からの評価も利権もあるからね。
とにかくご苦労だった。どうやら一番貧乏くじを引いたのはお前らだったんだね」

ホビットの南の族長、ザトーラップが帽子を焦がした状態で現れた。
実際無事では済まなかったらしく、早くもエントたちがレクトゥスにザトーラップが勝手に「約束」した
土地を与えられたため、戦闘が終わり次第帰り出した。もっとも、エントたちの機嫌を損ねてしまい、収拾がつかないのもある。
数十人のホビットたちの死体が運び込まれ、その中にはジャイプールから雇った女の戦死者も数人いた。
今は生き残った怪我人の治療で忙しいようだが。

「ザトーラップ……様!? やっぱりそうだ! 勝ったんだね、あたし達!」

北側からは勢いよく走ってくるのは、かつてのザトーラップの侍女、チホリと団員のデルタ。
チホリはザトーラップに抱きつくも、既に彼の周囲で甘えているジャイプール人の女使用人たちを見てむっとする。

「マーテル……!」

デルタがマーテルに凄い勢いで抱きついていく。しかし、マーテルが驚いたのは、チホリとあまりにも親しそうに現れたことだった。

「あんた、あの女は何? ま、とりあえず後でゆーっくり説明してもらうから。これが終わったらね」

「フィッチャー!!」「おう、お前ら、元気だったか!」

カボスが大勢の仲間たちを連れてデルタらの後ろから現れる。
彼らも多くの戦死者を出したようで、その処理と生き残りの治療が行われていた。

「オイラ、ついに北方軍になっちまった。隊長をまかされてる! お互い元気で良かったな。
こっちはこいつ、ジローってのが副官になって、結構頑張って、お……?」

「まさか、あいつらはボクらの……?」

どうやら北方軍の旗を持つカボスらと、帝国軍の旗を持つザトーラップらは敵対関係にあり、
お互いに自然と武器を構えあい始める。
0214フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:35:28.52ID:oY0ZamLQ
「おい! ここは我らホワイトクロス騎士団が接収した。お前たち、ここで戦闘を始めるようなら、
この私が一人残ら……」

余程燗に障ったらしく、剣を抜いて早速殺戮を始めんとするセレスティーヌを急いでフィッチャーらは止め、
フィッチャーが一声をかける。

「アトスは陥落した。俺たちの勝利って訳だ。後は事後処理だが、ちょっと待ってほしい。
俺たちの敵はまだ他にいる。そいつらを片付けてから、会談といこうじゃないか。
ってことで、一時休戦! お前ら、敵味方関係なく、とりあえず一旦休め!」

フィッチャーの出任せの言葉は自分で予想した以上にその場の大勢に必要な言葉だったようで、
早くも座り込んだり、食べ物を広げたり酒を飲んだりで、大分雰囲気は収まった。

――

「で、本当にあの茂みの向こうのどう見ても普通の図書館から、本当に研究所とやらに繋がってるんだろうな?」

コクリ、と頷くフェイシア。既にアレクやユニスらによって服装は無難に結ばれ、かつて教官をしていたという、
長槍を転がった同僚の死体から拾い、装備した。腹の筋肉の感じからして、セレスティーヌには遥かに劣るとはいえ、結構な強者だろう。

団員は、早く行こうと急かすセレスティーヌを中心に、
フィッチャー、アレク、ユニス、マーテル、デルタ、フェイシア、そして帝国側から偵察としてチホリ、北方側からはカボスが自ら参加を願い出た。

「俺らはここで黙って待ってりゃいいのかい?」

北方コボルト軍の副官、ジローが肉をクチャクチャやりながら尋ねる。カボスと違い強面だ。
ザトーラップも無言で威圧感を出している。

「あぁ頼む。俺らはちょっとした“掃除”が残ってるだけだ。終わったら必ずここに戻る。
あと、さっきの白い光がまた出たら、アトスの街から住民も含めて全員を退去させてくれ。
これだけが俺からのお願いだ。遅くても明日の朝までにはケリをつける。プレシャス……」

チホリは外套の下に大量の暗器を、カボスは背中と腰に複数の剣を差している。
残りの八人は言わずもがなのフル装備、重武装ともいえる格好だ。

「君らさぁ、そんな格好で何をおっぱじめるつもりなんだよ?」

ザトーラップの問いに、セレスティーヌは踵を返して答えた。

「……戦争、だとでも言っておこうか」

隊員たちはセレスティーヌ以外は「んな、無茶な」という表情だが、10人はいよいよシュタインとの決戦に向けて発っていった。
0215フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:36:01.32ID:oY0ZamLQ
――

まずは図書館の裏口にいるヴィクサスの鎧を着た兵士二人をユニスとフェイシアがこっそり近づき、一気に殺害するという計画だった。
二人とも同じような長い獲物のため、布を被せれば一般人が何か棒のようなものを持っているように油断させることができる。

「……ぐっ」「……何だ、敵か?!……」

フェイシアは首を突き刺し、ユニスは勢い良くミスリルの棍棒で撲るも、
普通の兵ならとっくに砕けているはずの骨が無事でまだ動いている。

一人は首などをマーテルの連射式ボウガンで討たれ動かなくなり、もう一人は素早く駆け込んできた
セレスティーヌによって片手で首を握り潰されて絶命した。

「これは……強化人間か……?!」

フィッチャーが敵の死体を観察すると、不自然な青筋が何本も浮き上がっているのが分かる。
セレスティーヌの肉体に浮き出ているそれとよく似ている。薬物によるものの可能性が高い。
しかし彼女にそのことを話せば、たちまち狂乱するだろう。黙ってそこを過ぎようとした。

「大体、この状況でここに立ってる時点でクロだよね」

マーテルが突っ込みながら、内部へと10人を素早く侵入させる。

深い階段の下は牢獄のようになっていた。図書館自体はフェイク、中は稼動しているとは思えないが、
恐らく何らかのカモフラージュがされているのだろう。

牢獄にはあちこちに血の跡や鎖が散見される。
セレスティーヌはそれを見て何かを思い出したかのように落ち着き無く剣に手をかけようとするが、
フィッチャーがそのたびに止める。一応、先に敵に場所を知られてはたまったものではない。

奥には昇りの階段があり、両側が部屋になっていた。
片方を早速開けてみる。

「うぅ……うっ」「何だ、これは」「あぁぁ・・・・」
ただただ、それは吐き気がする様相だった。
多くの女たちだけが、ある者は一部を怪物化し、ある者は一部の筋肉が肥大化し、
ここでお互いが殺しあったということだけがその獲物の刺さり具合などで分かった。
既に戦闘があってから数日が経っているのだろう。
臓腑や血からは猛烈な臭気がし、それも獣のような不気味な悪臭だ。
死体の一部がまだビク、ビクとスライムや毒ヒルのように蠢いている。

「悪夢だ。さっさと閉じるぞ。この先は覚悟しておいた方がいい……」

既に恐怖で我を失いつつあるユニスやフェイシアたちは、後ずさりしながらフィッチャーに抱きついていた。
チホリやカボスは、来たことを明らかに後悔したような表情をしている。

≪おやぁ……皆さん、お揃いですねぇ、どうやら、シュヴィヤールの娘、死に損ないましたか。
「天帝」と虫ケラのアトラスムスは私が片づけておきました。つまりどういうことかというと……
――私がヴィクサスの神なのですよ!! プレシャス! 私にひれ伏しなさい……ヒヒイ……≫

「き、貴様ァァ!! シュタイン、どこに居る! 私の剣はお前の地と臓物を求めているぞ!!
父と母を奪ったこと、私に死よりも苦しい屈辱を味わわせたこと、絶対に許さぬ。
貴様が何人、何百人居ようとこの建物ごと殺し、潰し、屠ってやる…… どこだシュタイン!!!」

「天帝はもう、亡くなられたと……?!」

鬼のような形相で剣に手をかけながら声のする天井を睨むセレスティーヌ。
そしてかつてのブラッククロス、フェイシアは驚いていた。
0216フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:38:35.78ID:oY0ZamLQ
シュタインは落ち着いた声で答えた。

≪そう、先ほどの「オリンパスの光」が最後の一言になるとは、彼らも夢にも思わなかったでしょうね。
ブラッククロスは見殺しにされたのですよ……ところで、今、その操作機構は私の手元にあります。
錬金術士フローレン様は偉大な方でした。セレスティーヌ、あなたを強化したのも彼の薬、それはすぐ隣の部屋にあります……
そしてアレクサンドラ、あなたを「天使」として「再生」させたのもまた、彼。そしてオリンパスの光も、天使兵も……
たまたま当時の教皇に気に入られたのがカリストとアトラスムスだったというだけ。しかし、今ではその教皇も新しい「教皇」の
フローレンもいません。なァぜならァ……lこの世で一番賢く強い、私が全部片づけてしまったからでェす……
権力は一つ。天界なども必要なァい……最も神に近い存在、即ち神は私、早速それを証明して差し上げましょう……ホホホォ!≫

「しまった、あいつらが!!」

「……だけど、逆に言えばあたしらは食らわない位置にいるってことだよね?」

冷静なマーテルの声。轟音が鳴り響く。恐らく外に「オリンパスの光」が落ちたのだろう。
つまり、この建物の中にシュタインがいるのだ。

すぐに外に飛び出そうとするセレスティーヌを一撃が襲う。鎖のような巨大なものだ。
素早く部屋側へと逃げるも、「その」二体は部屋へと十人を閉じ込めてしまった。
0217フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:39:02.59ID:oY0ZamLQ
≪そうだ、そちらに「私の娘たち」を送り込んでおきました。その部屋で実験をして、
つまり殺し合いをしてェ、勝ち残った二人の可愛い子ちゃんたちですね。
アテナ、ヘラ、遊んであげなさい。皆殺しにしたら、ご褒美をあげましょう。
ちなみに鎧と盾の方がアテナァ……≫

「貴様……!!」

その部屋は後ろに異形の死体が複数あり、既に多くの団員は戦意を喪失しつつあった。
変わらないのはセレスティーヌぐらいだが、剣の一撃を盾で軽く弾かれる。

アテナと言われた女は、顔立ちは美しいが表情は殺気だっており、セレスティーヌのそれよりも酷い。
薄い胸鎧を着ており、片手に盾、片手に槍で武装している。全身は物凄い魔力に包まれている。

一方ヘラと思われる女は巨大なモーニングスターを持っており、薄い布を纏い乳房は片方だけで
フィッチャーの頭ほどあると思われる。表情はアテナと似たようなものだ。先ほどセレスティーヌを後退させたのはこの女だ。

どちらとも形だけとばかりにシスターのベールを被っており、背丈はセレスティーヌよりも頭一つ大きい巨体をしている。
これも無茶な強化の成果だろう。

「セレスが二体……どうしたら良い!?」

フィッチャーは以前にやってしまったが、女を斬ることを善しとしない。
この二人は死体か生体かといえば、生体だろう。セレスティーヌの延長上にあるようなものだ。
0218フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/02(土) 02:39:58.08ID:oY0ZamLQ
ヘラの鉄球をフィッチャーが受ける。物凄い衝撃ともに大きく後方に弾き飛ばされた。
セレスティーヌはその攻撃を読みながら素早くアテナの懐に入り、一撃、一撃を浴びせるも、
硬い盾に阻まれてダメージにならない。

マーテルはボウガンを放つも、ヘラが素手で受け、握り潰してしまった。どうやら
皮膚が強化されていてなかなか攻撃が通らないらしい。
フェイシアの槍もあっという間にアテナの槍に折られ、後方に下がらざるを得なくなった。

ふと、アテナの尻のあたりから何かが飛び出し、セレスティーヌを襲う。
それは蠍の尻尾だった。その攻撃を掠らせたセレスティーヌは思わず後ずさる。
尻尾の先からは毒液のようなものが垂れていた。
全員が後退を余儀なくされたとき、ヘラが乳房を覆う布を捲ると、自ら乳房を握り、
何かを飛ばしてきた。

「くそっ……」「ぐっ……!」「うわぁぁあ!!」

それは猛毒の母乳だった。殺傷能力のある酸性のそれは、後方のメンバーに降りかかると、
容赦なく身体を酸と毒が蝕んでいく。

「化け物! すぐに回復を……!」
デルタが叫ぶ。

――との時。
アレクのもとに、いつか聞いた声が囁いた。
よく見るとうっすらとあのデイドリーム、アトラスムスの姿がある。
それはアレクにだけ聞こえる歌のような声だった。

≪ずっと夢を見ていた。でもそれは遠い思い出。
私たちには本当の記憶がある。思い出してくれ。あの時捕まらなければ……!
ずっと夢を見て、今でも私は夢を見ている――。地獄の底でも懐かしいと思える。
抜け落ちる背中の羽根が、耳の羽根が、音も立てずに消えても
いつでも私の傍には、そう、お前がいる。お前は私のたった一人の……
夢を見させてくれてありがとう。あの時一瞬でも会えて良かった。
一度話をしてみたかったものだね。記憶は消えても、地は繋がっているのだから。
――ブラザーよ。お前に委ねよう、折れた羽根(つばさ)を――!!≫

アレクの耳の後ろに、そして背中に今は亡きブラザー、アトラスムスの力を得、
真っ白な光る翼を現していた――


【一気に進めました。アトス占領後停戦までは無事にいったが、「光」が再び一発撃たれる。
ホワイトクロス騎士団は仲間を入れ10人で図書館から無事に研究室に侵入、
高みの見物をどこかでしていると思われるシュタインの下で敵の強化兵2人と対峙中。
セレス、フィッチャーは前衛にいるも苦戦中、セレスが軽傷。
後衛が酸や毒などで軽傷から重傷、アレクがかつてのきょうだい、アトラスムスの
英霊の力を得てパワーアップ。】
0219アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/03(日) 19:22:45.74ID:BmGjvu7v
ステッセルとイオが去った後、一行は黒衣の女達の中で唯一まだ息がある者を発見し、祝福の杖で治療。
彼女は敵勢力の極秘事項をあっさりと語り、更にはシュタインとの決戦に共に行くと申し出た。
黒衣の一団は敵の派遣してきた刺客だったそうだが、派遣元に捨て駒にされて仲間が全て死に自分も死にかけた上に
始末する相手だったはずの者達に命を助けられ、すっかりこちら側に付いたようだ。

>「まったく、何の騒ぎだ。こっちはボロボロだよ。うちの兵どもも大分疲れてる。
だけどね、ボクはここで引くような男じゃない。帝国からの評価も利権もあるからね。
とにかくご苦労だった。どうやら一番貧乏くじを引いたのはお前らだったんだね」
>「ザトーラップ……様!? やっぱりそうだ! 勝ったんだね、あたし達!」
>「マーテル……!」
>「あんた、あの女は何? ま、とりあえず後でゆーっくり説明してもらうから。これが終わったらね」
>「フィッチャー!!」「おう、お前ら、元気だったか!」

アトス戦に参加した者達が一同に会し、様々な者達が再会を果たす。
アレクも、一度はもう駄目かもしれないと思った物との再会を喜んだ。

「デルタ……! 無事で良かった!」

……後のマーテルの尋問を思うと本人的には無事ではない心境かもしれないが。
カボスとザトーラップが喧嘩を始めようとし、更にセレスティーヌがそれにキレかけたが、フィッチャーが場をおさめた。

>「アトスは陥落した。俺たちの勝利って訳だ。後は事後処理だが、ちょっと待ってほしい。
俺たちの敵はまだ他にいる。そいつらを片付けてから、会談といこうじゃないか。
ってことで、一時休戦! お前ら、敵味方関係なく、とりあえず一旦休め!」

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

暫しの休息中、微睡の中で夢を見た。
妙齢の美しさと見た目通りの年齢ではない老獪さを兼ね備えた不思議な育ての親と、
鏡に映したように自分とそっくりなとても仲の良い双子の弟。
精霊や木々の声を聴き、動物たちと戯れた日々。
育ての親は名をフローラ、双子の弟はアトラと言った。
ドルイドの里の長であったフローラはよく言っていた。

「私には馬鹿な弟がいてねぇ、もう大昔になるかな。錬金術で世界を支配する!とか何とか言って里を飛び出しちまったんだよ」

新しき技である錬金術を駆使し後に一瞬だけ人間界の頂点に上り詰めることとなる弟と、里に留まり古からの業を守り続けた姉。
運命は、二人の立場を決定的に分かつこととなる。

「ねえばっちゃ」「何だ、クソガキ」

ある日、アレクは何気なく訪ねたのだった。

「何でワタシ達はみんなと違うの?」

「それはお前達が特殊な種族だからさ。どうやら話す時が来たようだね。元々お前達はこの里の者ではない」

二人は、とある国で双子として生を受けた王子(女)だったこと。
王族がデイドリームを授かったとなれば、盛大に祝福されそうなものだが、そうはならなかった。
それはデイドリームが生殖能力を持たないことに由来する。
世襲制至上主義の王族としては、長年世継ぎが生まれずにやっと生まれた子がデイドリームでは都合が悪い。
そこで、デイドリームの双子はドルイドの隠れ里に養子に出すこととし、
丁度同じ日に生まれた双子を極秘に調達してきて表向き実子とした。
養子に出すといえば聞こえはいいが、公式上では存在は抹消、要は体のいい追放である。
0220アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/03(日) 19:24:26.49ID:BmGjvu7v
「いいかい? お前達デイドリームはね、神々と人とを繋ぐために星が遣わした使者なんだ」
0222アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/03(日) 19:27:07.03ID:BmGjvu7v
デイドリームであるが故に実の親に捨てられたと知った心境はいかなるものだろうか。
今更ながら後悔が押し寄せるが、アレクは屈託なく笑って言った

「良かった――王宮の生活なんて窮屈でやってられないからだろうさ! そうだよねー、アトラ!」

「それは言えてる、特にアレク」

その夜、手を繋いで寝転がり、星を眺めながら言った。

「ねえアトラ――ワタシ達ずっと一緒だよね?」

「くだらない事を聞くな。そんなの当たり前だろ?」

しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。
教会勢力の動向は日に日に過激になり、古くからの精霊信仰等を邪教として迫害するようになった。
そしてついに隠れ里にも、彼らの魔の手が迫る。
里は森ごと焼き払われ、民も皆殺し。
アレクとアトラを伴い逃げていたフローラだったが、このままでは逃げ切れないと悟ったフローラは、追っ手に向き直る。

「ここは私が食い止める。お前達は逃げな」

「何言ってんだよ!」

「狂気に堕ちた我が弟はやがて世界を食らうとてつもない魔物を生み出す――
私が受けた星の神託によるとお前達はそれに対抗するために遣わされた救世の使徒だ。そのために育てたのさ。だから……私のことは気にしなくていい」

「馬鹿! 気にしないわけないだろ!」

地面から岩の壁が聳え立ち、二人とフローラの間を隔てる。フローラが行使した大地の魔法だ。

「行きなさい! 救世の双児よ――!」

それが、アレクの聞いたフローラの最後の言葉となった。
しかしフローラの犠牲も空しくその後二人は捕まってしまい、
教皇の座の簒奪を狙い教会勢力に入り込んでいたフローレンの錬金術で、教会勢力の忠実なしもべとして作り変えられることとなった。
洗脳がよく効いたアトラは上層部に抜擢、何故かイマイチ染まり切らなかったアレクは下部組織に放置されたというわけだ。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「ウソだろ? そんなことって……」

アトラの正式名は――アトラスムス。どうしてあの時気付いてあげられなかったのだろう。
ただでさえ記憶を消されていた上に、昔は自分と瓜二つだったというのに
いつの間にか長身の麗人になっていたので気付くはずもなかったのだが。

「アトラ――必ず……助け出す」

まず門番を殺害し、敵の本拠地に乗り込む。
そこには、人を人とも思わぬ狂気の所業が行われた形跡が鮮明に残っていた。
0223アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/03(日) 19:29:55.58ID:BmGjvu7v
>「うぅ……うっ」「何だ、これは」「あぁぁ・・・・」
0224アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/03(日) 19:30:20.06ID:BmGjvu7v
>「悪夢だ。さっさと閉じるぞ。この先は覚悟しておいた方がいい……」

一同が戦慄していると、天井からシュタインの声が響いてきた。

>≪おやぁ……皆さん、お揃いですねぇ、どうやら、シュヴィヤールの娘、死に損ないましたか。
「天帝」と虫ケラのアトラスムスは私が片づけておきました。つまりどういうことかというと……
――私がヴィクサスの神なのですよ!! プレシャス! 私にひれ伏しなさい……ヒヒイ……≫

>「き、貴様ァァ!! シュタイン、どこに居る! 私の剣はお前の地と臓物を求めているぞ!!
父と母を奪ったこと、私に死よりも苦しい屈辱を味わわせたこと、絶対に許さぬ。
貴様が何人、何百人居ようとこの建物ごと殺し、潰し、屠ってやる…… どこだシュタイン!!!」

>「天帝はもう、亡くなられたと……?!」

激昂するセレスティーヌに、驚愕するフェイシア。
アレクはというと、悲嘆に暮れていた。必ず助け出すと決意した直後にもう死んでいましたでは無理もない。

「そんな……やっと思い出せたのに、もういないなんて、あんまりだ……」

>≪そう、先ほどの「オリンパスの光」が最後の一言になるとは、彼らも夢にも思わなかったでしょうね。
ブラッククロスは見殺しにされたのですよ……ところで、今、その操作機構は私の手元にあります。
>錬金術士フローレン様は偉大な方でした。セレスティーヌ、あなたを強化したのも彼の薬、それはすぐ隣の部屋にあります……
そしてアレクサンドラ、あなたを「天使」として「再生」させたのもまた、彼。そしてオリンパスの光も、天使兵も……

フローレンの開発した様々な物騒な技術を、座りしままに食らうはシュタイン、といったところか。
オリンパスの光一つとっても世界を崩壊させるのに十分なものだ。

>「しまった、あいつらが!!」
>「……だけど、逆に言えばあたしらは食らわない位置にいるってことだよね?」

マーテルがいい事に気付き、それを聞いたセレスティーヌが一刻も早くシュタインを見つけ出そうと部屋を出ようとする。
これ以上オリンパスの光を撃たせないためにも、早くシュタインを見つけ出して始末するに限る。
しかし、現れた二体の異形の敵が一行の前に立ちふさがるのだった。

>≪そうだ、そちらに「私の娘たち」を送り込んでおきました。その部屋で実験をして、
つまり殺し合いをしてェ、勝ち残った二人の可愛い子ちゃんたちですね。
アテナ、ヘラ、遊んであげなさい。皆殺しにしたら、ご褒美をあげましょう。
ちなみに鎧と盾の方がアテナァ……≫

>「セレスが二体……どうしたら良い!?」

フィッチャーが辛うじて攻撃を受けるものの軽々と吹っ飛び、セレスティーヌの攻撃ですら固い盾に阻まれて届かない。
マーテルのボウガンの矢に至っては玩具のように握りつぶされ、フェイシアの槍も早々に折れる有様。
アレクは早々に祝福の杖係と化していた。
その上、怪力だけでも脅威なのにアテナが蠍の尻尾、ヘラが猛毒の母乳といった特殊攻撃を仕掛けてくる。

>「化け物! すぐに回復を……!」

ユニスやマーテル、デルタが魔法で解毒を試みるも、相手の毒が強力過ぎて解毒しきれない。
0225アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/03(日) 19:32:02.64ID:BmGjvu7v
「駄目! 毒が強すぎる……!」「そんな……」

次第に場は絶望感に包まれていった。

「馬鹿……ずっと一緒だって言ったのに……どうして先に行っちゃうんだ……」

今更ながら思う。あの時差し出された手を取っていれば、違った結末だったのではないかと。
自分が一緒なら、洗脳を脱して一緒に逃げ出す事が出来たのではないかと。
その時だった。懐かしい声が聞こえたのは。

>≪ずっと夢を見ていた。でもそれは遠い思い出。
私たちには本当の記憶がある。思い出してくれ。あの時捕まらなければ……!

「アトラ……?」

顔を上げると、うっすらと双子の片割れの姿が見えた。

>ずっと夢を見て、今でも私は夢を見ている――。地獄の底でも懐かしいと思える。
抜け落ちる背中の羽根が、耳の羽根が、音も立てずに消えても
いつでも私の傍には、そう、お前がいる。お前は私のたった一人の……

「夢なんかじゃない、あの木漏れ日の日々こそが真実。教会に洗脳された日々の方が悪い夢だったのさ……」

>夢を見させてくれてありがとう。あの時一瞬でも会えて良かった。
一度話をしてみたかったものだね。記憶は消えても、地は繋がっているのだから。
――ブラザーよ。お前に委ねよう、折れた羽根(つばさ)を――!!≫

アレクは半透明のアトラをそっと抱きしめ、アトラはアレクに吸い込まれるように光の粒となって消えた。

「アトラ、ありがとう……」

耳の後ろに羽根が戻り、背には以前よりも強い輝きを放つ光の翼が顕現した。
翼をはためかせて中空に浮かび上がると、翼を輝く魔力の羽根が戦闘域一帯に降り注ぐ。

「――グレート・ゴスペル!」

強力な浄化の魔法――毒の解除はもとより、
魔物化ともいうべき異常な手法によって強化された敵二人を、元の状態に近づける作用も期待できるかもしれない。

「さあ、反撃開始だ!」

魔力によって作り出した光の剣を携え、自ら前線に躍りでる。
轟音とともに振るわれたヘラのモーニングスターを、上に浮上して避ける。
それとほぼ同時に、モーニングスターの鎖目がけて剣を振りおろす。
鎖をぶった切ることが出来れば、かなり有利になるだろう。
0226フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:45:16.32ID:YhonPkrR
「くそっ、このままやられるしかないのか……?!」

デルタがよろめくマーテルの肩を抱きながら後退する。後衛に下がったメンバーは
ヘラの毒液ですっかり弱っているのと同時に、後方に散らばる腐乱した死骸を見るだけでも
気が狂いそうなようだ。
敵は二人とも毒を体内に取り込んだ特殊な強化人間だ。
セレスティーヌの攻撃すら弾かれた以上、敵が隙を見せるまでただ迎え撃つしかない。
フィッチャーが大剣を構えて一歩前に出る頃には、セレスティーヌは再びアテナの方へと走り出していた。

「無茶するな、セレス!」

前に出たセレスティーヌはアテナの素早い反応に再び弾き飛ばされ、
そこに止めを刺さんとするアテナに対し、カボスとチホリが前に出て、せめてもの防御行動に出た。
しかし、破壊力はどうにもならないだろう。フィッチャーが目を背けそうになった次の瞬間だった。

「ぐぁぁ……」
0227フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:46:16.45ID:YhonPkrR
フェイシアが素早くカボスの背中から剣を取り、自らアテナの巨大な槍の餌食となった。
剣は砕かれ、槍は深々と刺さり過ぎて腹を貫通させたフェイシアの肉体が邪魔になり、一旦槍を振って彼女の肉体を振り落とす。

「……プレシャス、これで……これで良かったんです……私たちは……」

>「馬鹿……ずっと一緒だって言ったのに……どうして先に行っちゃうんだ……」

ついに出てしまった団員の犠牲。ふと横を見ると、アレクがなにやらブツブツと呟いていた。

「どうした? アレク、お前もついに気がおかしくなったか? 無理もねえ、こんな状況じゃ……」

何かが見えた気がした。アトラの影のような、うっすらとした存在が。

>「アトラ、ありがとう……」

アレクがそう呟くと同時に、アレクから猛烈な魔力の塊が発現され、
耳の羽根が戻り、背中には煌々と輝く光の羽根が現れていた。

>「――グレート・ゴスペル!」

まるで聖歌のような光の旋律が周囲に降り注ぎ、毒で苦しんでいた後衛のメンバーたちを癒した。
と同時に、攻撃を再び繰り出してくる敵を怯ませる。

>「さあ、反撃開始だ!」

ヘラのモーニングスターによる遠距離攻撃に合わせて前に出たアレクは、
その攻撃を避け、剣をその鎖目掛けて振り下ろす。アレクが久々に見せた勇猛さだ。
心なしかその顔つきが変わったような気さえする。

鎖が切れたのを確認するや否や、フィッチャーはヘラ目掛け駆け出していた。
それはセレスティーヌがアテナを狙うのとほぼ同時のタイミングだ。

「うぉぉおお!!」

ヘラは武器を失い、先ほどのように乳房を掴んで母乳を飛ばしてフィッチャーを狙う。
しかし、それらは大剣によって弾かれ、素早く思い一撃がヘラの大きな乳房を支える腕と脇腹を抉り
そのまま部屋の入り口の方へと彼は抜けていった。
これは母乳に毒が含まれているということは血そのものに毒があるという判断からである。

腕と脇腹から血を流すヘラはグェェ、と呻くと、フィッチャーを捕らえようと素早く振り返った。
怯みもせずすぐに動くというのは、やはり薬物で痛みを殆ど感じない故か。
そこにマーテルとチホリによる遠距離武器の乱射が入る。
顔面、口、首と防具の少ないヘラは無防備だ。
口の中、目と首の動脈に浅いとはいえ刺さった矢やチャクラム等は、片目を潰し、それなりの出血を負わせた。
それでもヘラはフィッチャーに覆いかぶさるようにして襲いかかっていった。
0228フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:46:55.81ID:YhonPkrR
「はぁぁぁ!!」

一方ではセレスティーヌがアテナを目指して攻撃を繰り出していた。
元々光属性の魔法戦士のような存在であったセレスティーヌは、先ほどのアレクの力で
光の力を増幅させ、攻撃力、速度ともに格段に増していた。

アテナは分厚い盾で受けるも、二本の剣で繰り出される重い一撃、一撃に盾を徐々に砕かれ、
さらに鎧へと攻撃が入っていった。鎧を砕かれ裸体を曝け出すと、さらには蠍の尻尾、槍を持つ腕が吹き飛ばされ、
ついに強化人間であるアテナの表情にも明らかな恐怖がセレスティーヌに対し感じられるようになった。

「アァァ……タスケテ……」

セレスティーヌはまず肩から胸、腰にかけて一撃を袈裟斬りにし、怯んだところで喉に向けて鋭い突きを放った。
「ギャァァ……」

喉笛を切り裂かれたアテナは大量の血を噴出しながら倒れこみ、さらに胸を目掛けて
もう一本の剣での突きが入った。口と肉体から血を大量に流しながらズシリ、と重い音を立て、アテナが倒れる。

「ぐぉぉ・・・」

フィッチャーは体格差のあるヘラによって大剣を飛ばされて押し倒され、背骨に一撃を受けて動けなくなったところに、
毒液で止めを刺されようとしていた。片方で彼の頭ほどもある乳房で顔を押しつぶし、毒を注入していく。

フィッチャーが窒息し、口内に毒液を溢れさせたあたりで後ろからユニスらからの攻撃が入り、
ヘラはそちらを振り向くと落ちていた鎖を振り回す。ユニスやカボス、デルタが傷を負い吹き飛ばされるも、
後ろからマーテルとチホリによる投擲でもう一つの目を潰し、ほぼ行動が難しくなった。
そこにアテナから剣を抜いたセレスティーヌによる攻撃が首を切り裂き、背中から胸へ剣が貫通する。

「アァァ……ソンナ、シュタイン……サマ……」

毒を飲み込まぬように全て吐き出し、辛うじてアレクの回復で上体だけを起こしたフィッチャーは、
ついに難敵を討ち果たしたことを確認した。
大量の血が床全体に溢れ、毒物だということで団員たちはそこから離れる。
0229フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:49:02.98ID:YhonPkrR
アテナは喉笛を裂かれ、心臓近くの傷があり、ヘラは両目を潰されて首や背中から胸にかけての
傷がある。出血の量からして死は免れないだろう。普通ならば――
しかし、まだビクビクと、僅かに肉体は痙攣している。彼女たちは生きているのだ――!

セレスティーヌが二人を見下ろすようにして言う。

「この者たちは、これでも死ねぬのだな……私もこれに近づいているのか……?
では早いうちに楽にさせてあげよう。首を……」
「……待て、団長。そいつらが悪いことを何かしたって保証はあるのか? もしかしたら……」
「おいフィッチャー、まさかこの者たちを「女だから」という理由で生かすのではないだろうな」

剣を振ってべったりと付いた血を払い、それをまずはフィッチャーに向ける。
先ほどの薬物の話を聞いたのもあり、すぐにでも襲い掛かりかねない目つきだ。
フィッチャーが止めを刺すことを了承しようとした次の瞬間だった。
――あの忌々しい声が彼らの耳に入ったのは。

≪どうやら可愛い娘たちを可愛がってくれたようだ……お前たちがまさかここまでしぶといとは
思いませんでしたァ。セレスティーヌ、お前はやはりあの時、尻から鉄の串を刺して、火炙りにでも
しておくべきでしたねェ……「人間」というのも意外としぶといものだ。では、彼女たちを「回収」しましょう。
何でもモノは大事にしないと。それを神である私が先に実践するのは使命ですからねェ……ホホホ……≫

「シュタイン! 一言だけ言っておくぞ。父上の話では、貴様は母上に見向きもされなかったそうではないか!
それを「愛し合っていた」などと、法螺吹きもいいところ、童貞をこじらせた蛆虫、思い込みだけで生きてきた醜男(ぶおとこ)、
気持ち悪い粘着変質者でゴキブリの糞以下の屑だ。そもそも…」

≪黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 強姦を繰り返す盗賊どもと癒着し、あちこちで掠奪や淫行を行ってきた
貴様には領地など必要ないのデス! では使徒どもよ、集まれ、“リユニオン”!≫
0230フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:49:39.72ID:YhonPkrR
シュタインの声とともにアテナとヘラ、そしてフェイシアの肉体が浮き上がり、部屋から物凄い勢いで階段の上へと
飛行して消えていった。

「リユニオン、図書館の本でそんな単語を見たことがある。……あいつらと融合するつもりだ、くそっ!」」

デルタが喚き、同時に団員たち8人は一斉に駆け出す。セレスティーヌが一番前、最も傷の重いフィッチャーが一番後ろだ。
しかしセレスティーヌが向かったのは薬物保管庫の方。フィッチャーらが慌てて制止する。

「セレス、それは後だ!」

「あ? 私は病気だ。病人が治療をして何が悪い! 薬を必要としているのだぞ。私が……」
「団長、任務!任務!」
「セレス、悪いが、今の状況を見てくれ。俺たちはこれから教会の代表として、ヴィクサス神聖国の代表として
悪に立ち向かう。外には今も「光」の脅威にさらされてる連中がいる。分かるか、お前の親父もお袋も泣いてるぞ」

その言葉でついにセレスティーヌは折れ、扉を斬り壊そうとする直前で押し留まった。
血走って商店の定まらなくなった瞳も、だいぶ元に戻ろうとしている。

「そうであったな。すまなかった……」

上のフロアはさらに不気味になっており、あちこちに植物が生え、「テイン」の中のように
壁にはスライム状の生き物、目玉が蠢いている。
扉がいくつもあり、入り組んでいたが、ひたすらアテネらから零れたと思われる血の跡を辿った。時間がない。
再び、轟音と揺れる音がする。彼らはもう避難しているのだろうか。

多数の錬金釜に、多くの生物標本、しかもそのうちいくつかは生きており、割られて中身が無くなっているものもあった。
恐らくフローレンとシュタインはここで研究とやらをやっていたのだろう。
一角には百人分近くはある人間とよく分からない生物の骸骨が山積みになっているケースもあった。

「吐き気がすらぁ、でもこの先行くしかねえんだよなぁ…… シュタインってのは悪魔と契約してんじゃねえの?」

カボスがあまりの状況に震えながら愚痴をこぼす。デルタやマーテルも恐怖で顔を歪めながら頷いた。
――と、その時。

「危ない、お前たち、私から離れろ!」
0231フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:50:13.46ID:YhonPkrR
丁度次の扉のところまで来たところで、
セレスティーヌの掛け声とともに、団員たちが脇方向へと避難した。

ドォォン、という音とともに床が割れ、赤く人間ほどもある大きな手が飛び出してきた。
セレスティーヌがそれを素早くかわし、一撃を浴びせる。その攻撃は手を傷つけると同時に、
扉にも衝撃を与え、外に向けて扉が開いた。

――赤い絨毯が敷き詰められ、高い天井のあるこの空間はまさに「裏の大聖堂」と呼ぶに相応しかった。
三つの段差があり、その奥の玉座らしき部分にシュタインが腰掛けていた。

そして、その手前に飛行しているのは、怜の「天使兵」をそのまま巨大化させたと思われる、
異形の怪物だ。実に身長は普通の人間の三倍ほどはあるだろう。全てがそのぐらい大きいのだ。
その肉体は筋肉の塊のようでありながら、膨大な魔力を出し、飛行を可能にしている。
血の跡がその生物へと続いて止まっているのは、恐らくこいつが全てを飲み込んだからであろう。
頭は少しばかりアトラスムスやアレクの面影を残した顔をしているが、筋肉で覆われた眼から表情は見えない。
身体は男性的で、筋肉の付き具合からも分かる。しかし、先ほどのアテナの盾や鎧が付いていたり、
ヘラの乳房のような跡が残っていたりと、不規則で不気味な外見だ。
腰には薄い布だけを付けており、男根と思われる形がうっすらと見えるのが不気味だ。
背中からは八本の白と黒の翼が生えている。手には巨大な錫杖を持っている。
その手は先ほど飛び出してきたものと同じと思われ、若干傷痕が残っているが、徐々に修復されているようだ。

「さぁ、ご覧になったでしょう。これが私が作った「大天使ユニオン・アンゲル」。天才と呼ばれたフローレンの技術を
応用し、神に相応しい知恵でハエのような天使兵どもを一つに纏め上げたのですよ、アレクサンドラ。
そもそも私には忠実な「執行者」が一人居れば充分。私自身はこれで全世界を支配するのぉみィ……」

シュタインの玉座のあたりは狭くなっており、手前の段差には膨大な魔力による分厚いバリアが張られている。
そのバリアは、天井の両端にある青い水晶球のあたりから出ている。
左手側には魔法陣のついた円盤、そして右手側には紫の水晶球が、それぞれ祭壇に乗っておいてある。
円盤が「オリンパスの光」の装置、そして水晶球があらゆる位置を観測するための道具ということだろう。
天井には黄色い巨大なオーブが半円形になって埋めこまれており、
この周囲にヴィクサスの十字の旗、聖都アトスの旗、そして不気味な大天使を象った旗が並んで立っている。

「お前たち二匹を潰せば全て終わりってことか……すぐに終わらせてやる」
0232フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/04(月) 02:50:34.41ID:YhonPkrR
「ホワイトクロス騎士団団長、セレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール、同公爵の名と
騎士団の代表として、貴様の成敗をここで完了させる!」

セレスティーヌが叫ぶと、周囲が辛うじて拍手をしたり口笛を吹いたりする。しかし、
その手や口は恐怖によって震えているのは明らかだった。

大天使が錫杖を振り上げると後ろの扉が不意に消滅し、完全に逃げ場はなくなった。

「本来ならば“彼”一体で充分なんですが、特別に私もお前たちの死を見届けるとしましょう。
では、行きなさい、我が息子よ! まずは娘を殺しなさい。親衛隊も前へ。すぐに補助しなさい」

フロアの両側からどこに隠れていたのか五人ずつの司祭が現れ、補助魔法の詠唱を始めた。
全てが女性で、薄い布地の脚を露出させた神官服を着ている。
恐らくはシュタインの身の回りの世話もしているのだろう。
その表情はなく、命令が出るとすぐに詠唱を開始し、大天使に補助魔法をかける。

「続け、行くぞ。はぁぁああ!!」

セレスティーヌが団員たちに掛け声をする。
まず彼女が大剣を二本抜いて大天使の方へと駆けていくと、
その後ろをカバーするようにフィッチャー、ユニス、カボスが続き、
両翼にマーテルとチホリが展開し、飛び道具を構える。
そしてアレクとデルタはその後ろから補助魔法をかける役割だ。

綺麗なフォーメーションは大天使の魔力の篭った巨大な錫杖による初撃をセレスティーヌが受け止め、
残りの三人が牽制しながら反撃してかなり深い傷を負わせた。
再びセレスティーヌが進撃する頃にはマーテル、チホリの飛び道具も到達しており、傷を負わせることに成功している。
ギェェ、という醜い声を大天使は張り上げる。

「たあぁぁ!」
と、順調なのはセレスティーヌの二撃目が入ろうとしたところまでだった。

「ぐっ!!」

突如地面から生えてきた脚によってセレスティーヌは頭を押さえつけられ、地面に倒れ伏す。
普通の人間なら粉々、彼女であっても骨は無事で澄むまい。
さらに玉座に居たシュタインがいつの間にか立ち上がり、醜い姿になって翼を生やして
バリアの外から光弾を撃ち込んできた。素早いそれはあっという間にセレスティーヌを叩きつけ、焦がしていく。
それでも起き上がるセレスティーヌに、大天使の蹴りによる攻撃が放たれる。

「良いぞ、その女さえ死ねば、あとは烏合の衆、さあ、さっさと片づけてしまいなさい……ヒヒヒヒ!!」

シュタインの声と、女司祭たちの加護の声が混じり、既に場面は敵に圧倒されつつあった。

【大分無茶のあるネタ振りを拾っていただき、ありがとうございます。】
【強化人間を撃退し、研究所最深部に到達。フェイシアが死亡して対峙するホワイトクロス側は8名。
敵はシュタインと、大天使(ユニオン・アンゲル)に、女司祭10人がそれを補助しています。
現在セレスが狙われて負傷、大天使の拳による重い一撃が目前に迫ります】
0233アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/05(火) 01:14:30.26ID:3x8W0jsZ
アトラの力を得たアレクの覚醒によって流れは変わり勝利をおさめることが出来たが、
仲間になったばかりのフェイシアが犠牲となった。
そして声しか聞こえぬシュタインとセレスティーヌが言い争いを始める。

>≪黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 強姦を繰り返す盗賊どもと癒着し、あちこちで掠奪や淫行を行ってきた
貴様には領地など必要ないのデス! では使徒どもよ、集まれ、“リユニオン”!≫

>「リユニオン、図書館の本でそんな単語を見たことがある。……あいつらと融合するつもりだ、くそっ!」」

――リユニオン、といえば再集合、ぐらいの意味だったか。
まだ息があるアテナとヘラ、そしてフェイシアの体が浮上し、階段の上へ向かって消えて行った。
それを目の当たりにしつつも薬の保管庫の方に行こうとするセレスをフィッチャーが制止する。

>「セレス、それは後だ!」
>「あ? 私は病気だ。病人が治療をして何が悪い! 薬を必要としているのだぞ。私が……」

薬は薬でもそれはヤク的な意味の薬である。
治療したいのなら猶更駄目だと思うが、そんな全うなツッコミは今の彼女には意味を為さないので黙っておく。

>「セレス、悪いが、今の状況を見てくれ。俺たちはこれから教会の代表として、ヴィクサス神聖国の代表として
悪に立ち向かう。外には今も「光」の脅威にさらされてる連中がいる。分かるか、お前の親父もお袋も泣いてるぞ」
>「そうであったな。すまなかった……」

フィッチャーの親父お袋作戦は効いたようで、とりあえずいったん薬を後回しにさせることに成功した。
そんな彼女だが、並外れた騎士としての能力は衰えていないようで、危険をいちはやく察知した。

>「危ない、お前たち、私から離れろ!」

床から飛び出してきた巨大な手を斬りつけたその剣戟で扉を開くセレスティーヌ。

広大な空間の最奥にシュタインが鎮座し、その前には様々な者が融合したと思われる異形の「天使」が浮遊していた。
背に広げるは純白と漆黒の四対八枚の翼、手に携えるは巨大な錫杖。その姿は醜悪にしてある意味荘厳。
あまりの光景に、一瞬呆気にとられて息を飲む一同。

「まさか、フェイシアもあの中に……!? なんてことだ……」

シュタインの狂気の野望に利用された者達を解放するためにも、倒すしかないのだ。

>「さぁ、ご覧になったでしょう。これが私が作った「大天使ユニオン・アンゲル」。天才と呼ばれたフローレンの技術を
応用し、神に相応しい知恵でハエのような天使兵どもを一つに纏め上げたのですよ、アレクサンドラ。
そもそも私には忠実な「執行者」が一人居れば充分。私自身はこれで全世界を支配するのぉみィ……」

シュタインは分厚いバリアの奥におり、バリアの発生源と思しき青い水晶球を破壊しなければ攻撃を加えることはできないだろう。
まずは前衛の大天使を相手にするしかなさそうだ。

>「本来ならば“彼”一体で充分なんですが、特別に私もお前たちの死を見届けるとしましょう。
では、行きなさい、我が息子よ! まずは娘を殺しなさい。親衛隊も前へ。すぐに補助しなさい」

シュタインの合図を受け、総勢10名の司祭がわらわらと出現する。
0234アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/05(火) 01:17:37.88ID:3x8W0jsZ
「一体で十分な割には随分大勢出てきたなおい!」
0236アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/05(火) 01:19:24.57ID:3x8W0jsZ
セレスティーヌを先頭に、八人でフォーメーションを組み、突撃する。
アレクはパーティー内で最も強力な補助魔法や防御・回避・回復等の魔法が使えるため、敢えての後衛だ。

「――ヴァルキリーブレス!」

戦乙女の加護――その名の通り、味方全員の勇猛さと能力値全般を飛躍的に向上させる、最上級の強化魔法だ。
セレスティーヌが相手の攻撃を受け止め、その隙に中衛の三人や両翼の二人が攻撃するという形で着実にダメージを与えていく。

「いけるか!?」

しかし、セレスティーヌが二撃目を入れようとしたところで流れは変わることとなる。

>「たあぁぁ!」
>「ぐっ!!」

地面から生え出た足によって倒されるセレスティーヌ。
続いてシュタインがセレスティーヌを中心に、戦闘域全体に光弾を放つ。
降り注ぐ光弾が、仲間達が団長の援護に駆けつけることを阻む。

「まずい――スターライトヒーリング!」

慌てて強力な全体回復魔法を発動するアレク。
協力な全体回復魔法を持っていたら負けることはないと思われるかもしれないが、それは気のせいだ。
いくら全体回復魔法を連発したところで敵がそれを上回る勢いで攻撃してくれば、余裕で全滅するのである。
まさに今そのような状態に陥っていた。

>「良いぞ、その女さえ死ねば、あとは烏合の衆、さあ、さっさと片づけてしまいなさい……ヒヒヒヒ!!」

尚起き上がろうとするセレスティーヌに、大天使の巨大な足による蹴りが迫る。
流石の彼女とてまともに受ければひとたまりもないだろう。

「やめろ――――――――ッ!!」

気のせいかもしれない、ほんの一瞬だけ、相手の動きが止まったような気がした。
セレスティーヌは地面を転がって避け、間一髪で難を逃れる。
今一瞬声に反応した? そんなはずは――そう思い改めて相手を見ると、その顔は筋肉で覆われた異形でありながら、
どこか顔立ちが自分に――ということは必然的にアトラスムスにも似ているようにも見える。
天使兵を主とした集合体らしいが、天使兵とアトラスムスに何らかの魔力的な繋がりがあるのだろうか、と思う。
そして、おおかた絶賛洗脳中のアトラスムスが自らの忠実なしもべとするべく生み出した存在だろう、というところまで推測する。
……流石にまさか錬金術で魔改造されてデイドリームには無い器官を据え付けられた上で
何とも原始的な方法で生み出したとまでは思い至らないのだが。

――クルシイ……タスケテ……

幻聴かもしれないが、大天使の材料にされた者達の心の声が聞こえたような気がした。

「ああ、すぐ楽にしてやる――」

もしも――もしも予測が当たっていれば、アトラスムスの力を受け継いだ自分なら、対抗できるかもしれない。
そう思い、両手に二本の光の剣を作り出し、目にも止まらぬ速さで切りかかる。

「団長! 位置交代だ!」
0237フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/05(火) 06:24:21.77ID:MABVTzEt
後方からの強力な加護がありながらも、セレスティーヌら前線は大きなダメージを負っていた。

>「やめろ――――――――ッ!!」

倒れこみ、起き上がろうとするセレスティーヌへの脚の攻撃に対し、
アレクが突如、大声で何かに取り付かれたように叫ぶ。

セレスティーヌはその声のおかげか、もしくは敵の攻撃が遅れたためか、血を流しながらも
その攻撃をかわし、完全に回避した。

>「ああ、すぐ楽にしてやる――」
「団長! 位置交代だ!」

何かを悟ったかのようにアレクが後方から二本の光の剣を発現し、突撃してくる。
目の雰囲気も、これまでのアレクとは大きく違う。

「アレク! 分かった、私は向こうから回り込もう。この怪物を挟み撃ちにするぞ!」

セレスティーヌは立ち上がるとすぐさま、聖歌での援護を続ける女司祭たちの方へと向かう。
アレクの攻撃が当たるや否や、大天使に変化が訪れた。

「グ……グォォ……」

そのアレクの面影を僅かに残す敵は、一瞬呻くと輝き、周囲に六匹ほどの天使兵を「離脱」させた。
これで魔力は若干落ちたような感じはする。しかし、羽根を二本減らし六本になった大天使兵の外見は、
より醜い顔となり、肉体もより歪で不気味さを放っていた。

「何が……! 何があったのです!? さっさと殺しなさい!」
0238フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/05(火) 06:24:46.51ID:MABVTzEt
「ヒィィィ!」「ぐぇぇ……」
セレスティーヌは建物端側の女司祭たちへと素早く駆けると、二本の剣で衝立や聖像ごと
容赦なく斬り伏せていった。一人一撃。
ほぼ防御性能のない装備では紙を切り裂くに等しく、彼女たちは上半身と下半身を分断されて吹き飛ばされ、
臓腑を噴射させながら命を落としていった。
四人目、五人目は恐怖のあまりに逃げ出し、涙を流して叫びながら同じように地面を汚すただの肉片と化した。

「行くぞ、シュタイン!!」

横から襲い掛かる三体の天使兵の頭を潰すように剣を振り、それらを屠りながら、
ついに防御壁の向こうにいるシュタインへと突撃していった。
「うぁぁぁ!!!」

ビリビリ、と電撃のような魔力がセレスティーヌを襲い、倒れる。しかし、魔力の篭った一撃は
防壁へとダメージを与えていた。法衣を破られ鎧も焦がされ、倒れ伏したセレスティーヌは下にある青い宝玉に気付く。
ここに魔力の一部が帯同しているようだ。

一方、アレクが大天使を一時的に追い込んでいる間に、フィッチャーはセレスティーヌの心配もあるが、
あったが、まずは周囲の天使兵に斬りかかった。大きな加護の力で一体は辛うじて相手にできたが、
残りの二体の戦闘能力はかなりのもので、ユニス、カボスの二人で倒せるかは不安だった。

「後ろ、もっとこっちの援護に回せるか!? 時間がない! セレスが……」

フィッチャーが叫ぶと、マーテルがデルタとチホリに掛け声をする。

「二人とも、前線に出て戦ってきて、私はこのまま敵を狙い撃ちするから」

チホリがまず曲刀を取り出し、チャクラムを天使兵へと投げながら飛びかかろうとし、
デルタが走り出そうと剣を抜いて前に出ようとしたところだった。
0239フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/05(火) 06:25:32.15ID:MABVTzEt
チホリが敵たちに肉薄するところを、マーテルは逃がさなかった。

その目は一瞬だけでも邪悪に染まっていたことだろう。
――今なら、チホリを狙うことができる―!

マーテルの連射式のボウガンはチホリの首を正確に射抜き、同時に天使兵にも数本が刺さっていた。
その隙にフィッチャーが二体目の首を刎ねる。

「あ、ごめーん! 大丈夫!!?」

デルタは一瞬だけだがマーテルの表情を見てしまった。少しばかり口元が緩んでいたような気がする。
しかし、そんなことに怯えている状況ではない。

「チホリ! おのれ、うおぉぉぉ!!」

デルタはその怒りや悲しみを、目の前の天使兵へとぶつけていた。ユニスとの挟み撃ちで、
最後の一体も頭を潰し、止めを刺すことができた。
マーテルは自分の女としての嫉妬、猜疑心、怒りが一瞬とはいえ頂点に達したことを感じた。
デルタを取られるかもしれない、という恐怖からでもあった。
倒れたチホリは、一瞬、マーテルの方を振り返って睨みつけるも、そのまま口から血を吐いて、命を落とした。

一方、セレスティーヌの接近を感じたシュタインは目の前で戦う「息子」である大天使への
加護魔法を止め、素早くセレスティーヌの近くへと向かった。今が好機と思ったのだ。

「セレスティーヌ。わざわざ無敵の私に殺されに来るとは、なんという無防備さ、あの時と、
変わっていないではないですくわッ!」

まずは片手から闇属性と思われる光線のような魔法を繰り出し、地面へと再び叩きつける。
「シュタイン……貴様の最後だ!」
0240フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/05(火) 06:26:53.77ID:MABVTzEt
セレスティーヌは立ち上がると、すぐに剣の片方を落とし、もう片方の剣で地面の青いオーブに一撃を見舞った。
パリィィン……

その瞬間、防壁の一部、特にセレスティーヌの付近が薄まり、弱体化されたのが分かった。

「皆の者! 天井と地面にあるオーブを破壊せよ! シュタインの祭壇を一気に攻めるぞ!」

「あ、はい! 分かった」
「な、何だって? じゃあこいつの攻撃は……」

フィッチャーはその言葉を受けている間に大天使が大きく変化し、フィッチャーたちを閉じ込める壁を作ったのを確認した。
大きな腕のような幻影がフィッチャーの視界と移動を遮り、行動を限定させている。

「殺してさしあげますよォォ!!」

シュタインはまず天使兵の遺骸と遠くで詠唱している五人の女司祭から一瞬で魔力をかき集め、
全身を強化させる。そしてまずは近くにあったセレスティーヌの剣を吹き飛ばす。
これで残りの5人の女司祭たちは精神力・魔力を失って床に倒れた。

次に大天使からも魔力を貰い、防壁の内側に脚を踏み入れて斬りかかってくるセレスティーヌの剣筋を読んで両腕に魔力を込め、
その膨大なパワーを受けながら吸収し、逆にそこで魔力を暴発させ、自分へのダメージと引き換えに
セレスティーヌに大きな傷を与えた。

「くぁぁぁっ!!!」

シュタイン自身も傷を負いながらも、膨大な魔力で傷は徐々に回復しようとしている。
一方のセレスティーヌは爆発をもろに受け、剣と鎧を破壊され、ほぼ丸裸の上体で床へと投げ出された。
勿論、彼女の膨大な体力と強靭な肉体がなければとうに内臓ごと弾け飛んでいるはずである。
それでもセレスティーヌは起き上がり、素手と脚でシュタインに襲い掛かった。
普通の兵士なら一撃で急所の骨を折って絶命しているだろうが、彼には大した打撃にはならない。

ようやくマーテルによって上のオーブ二つを破壊した頃には、既にセレスティーヌは地面に倒れ伏し、
シュタインの創りだした魔法の剣で一撃、一撃を叩き込まれている頃であった。

「恐ろしい耐久力だ。まるで怪物ではありませんか……でも、これで終わりです……」

それでも起き上がろうとし、シュタインに食らいつこうとしたセレスティーヌは、シュタインの魔力の剣によって
胸から背中までを貫通され、上へと持ち上げられていった。
髪を振り乱し顔を苦痛に歪め、美しいほどに筋肉質で傷跡だらけの裸体をビク、ビクと痙攣させる。
強化された故にまだまだ意識があるようだ。先ほどまでの傷と腹部、口から血が噴き出す。
0241フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/05(火) 06:27:09.68ID:MABVTzEt
「シュヴィヤール地域ではかつて、槍を失えば剣で戦い、剣を失えば拳で戦い、拳が使えなければ歯で戦うという戦士たちが居たようです……
お前もその末裔のようですね……まるで歩く武器のようだ。しかし、これで終了ォ、さぁ、死になさい、蛆虫の、シャルルの娘よ!!」

「あぁァ……おの……れ……」

剣が胸から首のあたりまで上がり、大量の出血のためかガクリ、と首を落としたセレスティーヌは、そのまま剣を抜かれると地面に倒れ、
シュタインによって尻を思い切り蹴られて防壁の外へと転がった。
殆ど白眼を剥きながら時折首をビク、ビクと痙攣させている。

「では、せめてもの再利用に我が「息子」に食べてもらうとしましょう。オォ、私は頭が良い!」

セレスティーヌから受けた傷を癒しながら、大天使に後ろから指示を出し、セレスティーヌの肉体が浮き上がると
徐々にそちらに引きずり込まれていく。同時に近くに転がっているチホリの死骸もだ。

「くそっ、セレス!!!」

フィッチャーは一瞬だけ弱体化した大天使の腰のあたりに一撃を浴びせる。
たまたま腰布の部分に直撃し、僅かな傷を負わせると、そこからは醜く大きな男根が飛び出してきた。

「こんな汚ねぇ奴にセレスを食われるだって!? 冗談じゃねぇ、みんな、阻止してくれ!
それにあいつはまだ生きてる! 俺らの団長が死ぬ訳ねえだろ!!?」

勢いに乗ったシュタインは、両腕の十本の指に大量の魔力を帯同させ、
そこに居る一人ひとりに追尾する形で紫色をした高速の魔力弾を発射した!
同時に大天使が魔力の篭った錫杖を振るい、セレスティーヌ吸収を阻止するメンバーを襲う!
……ホワイトクロス騎士団、絶体絶命のピンチである。

【大天使が天使兵を吐き出し縮小されたものの凶暴化。ダメージは殆ど与えられていない。
シュタインは防壁の内側でオーブの4個中3個を破壊されたものの、セレスから受けた傷を回復しながら
攻撃を繰り出している。同時にセレスが大天使に取り込まれようとしている天使兵らは死亡、消滅、司祭は5人死亡、5人気絶。】】
【チホリ死亡、セレスティーヌ瀕死、フィッチャー軽傷、アレクはパワーアップ】
0242アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/06(水) 01:17:46.54ID:CN7lx5BL
>「アレク! 分かった、私は向こうから回り込もう。この怪物を挟み撃ちにするぞ!」

アレクに大天使の相手をバトンタッチし、セレスティーヌは女司祭達の殲滅へ向かう。
アレクが光の剣戟を叩きこむと、六匹ほの天使兵が分離して羽根が二本消える。
若干魔力も落ちたようで、分離による弱体化に成功したようだ。
しかしその外見は怒りのためか、より醜悪なものとなった。
それでもアレクはひるむことはない。
振るわれる巨大な錫杖や手による攻撃を宙を自在に舞って掻い潜りつつ、着実に一撃一撃を与えていく。
分離された天使兵の相手は、すかさずフィッチャーが引き受けた。
一方、5人の司祭を早々に殲滅し終えたセレスティーヌはシュタインへ突撃。しかし電撃の返り討ちに合う。

>「後ろ、もっとこっちの援護に回せるか!? 時間がない! セレスが……」
>「二人とも、前線に出て戦ってきて、私はこのまま敵を狙い撃ちするから」

フィッチャーの要請を受けたマーテルが、デルタとチホリを前線に送り出す。
後衛に留まったマーテルのボウガンが、チホリの首ごと天使兵を射抜いた。
同士討ちの悲劇だが、乱戦ではよくある不幸な事故――もしくは尊い犠牲だ。
しかし、マーテルの態度があまりに不自然だった。

>「あ、ごめーん! 大丈夫!!?」

あまりにしらじらしい。どう見ても致命傷なのに大丈夫も何もあったものではない。
普段のマーテルとは明らかに違うと直感したアレクは、シュタインを睨みつけた。

「シュタイン! 何をやった!?」

「私は何もやっていませんよ。ただその娘の素直な願望を後押ししてあげたまぁでェ。
人間はもっと己の願望に忠実に生きるべきなのです」

――そういうのを思いっきり何かやっていると人は解釈するのである。

「貴様……!」

人間誰しも心の奥底には、人には決して見せられぬ部分を隠し持っていたりするものだ。
だからといって人間の本質が悪かというとそれは違う――悪の心を封じ込める事が出来る良心も含めて人間なのだから。
だからこそ、その良心を無碍にする術は許せない。
アレクは激昂しつつも、せめて他の者はこの術の餌食にならないよう願った。こんなことが続出すれば同士討ちで総崩れ必至だ。
そうしている間にもセレスティーヌは電撃の衝撃から立ち上がり、オーブを一つ破壊することに成功する。

>「皆の者! 天井と地面にあるオーブを破壊せよ! シュタインの祭壇を一気に攻めるぞ!」
0243アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/06(水) 01:19:54.66ID:CN7lx5BL
一つ目のオーブを破壊されてシュタインもほんの少し危機感を覚え始めたのだろう。
0244アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/06(水) 01:20:32.12ID:CN7lx5BL
腕の幻影を作り出し、フィッチャー達をシュタインの方に行かせないように遮る大天使。
0245アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/06(水) 01:20:56.30ID:CN7lx5BL
「ワタシ達の相手はこっちってことか……!」

無数の腕に翻弄されるアレク達。
シュタイン側では、マーテルのボウガンが冴えわたり、上の二つのオーブの破壊に成功。
しかしシュタインに直接対決を挑んだセレスティーヌは追い詰められていた。

>「恐ろしい耐久力だ。まるで怪物ではありませんか……でも、これで終わりです……」

ついにシュタインの剣に貫通され、頭上に持ち上げられる。これにはアレクも悲痛な叫びをあげる。

「お嬢ッ!!」

>「では、せめてもの再利用に我が「息子」に食べてもらうとしましょう。オォ、私は頭が良い!」

>「くそっ、セレス!!!」

フィッチャーが死にもの狂いで一撃を浴びせる。
命中したのはいいが、たまたま当たり所が悪く(?)様々な意味で筆舌に尽くしがたいブツが露わになってしまった。
それを見た一同は一瞬引き、阻止しなければ、という決意を一層強めるのだった。

>「こんな汚ねぇ奴にセレスを食われるだって!? 冗談じゃねぇ、みんな、阻止してくれ!
それにあいつはまだ生きてる! 俺らの団長が死ぬ訳ねえだろ!!?」

「そうだ、これ以上……死なせてたまるか!」

しかし、決意も空しくシュタインが放った追尾型の魔力弾で阻止どころではない状況に陥る。

「ぐああッ!!」

衝撃波の魔法で何とか魔力弾を相殺するも、その隙に錫杖の一撃を食らい、吹っ飛ばされた。
魔力弾が直撃して倒れる者も出てくる。

「ここまで……なのか……?」

今までの記憶が走馬灯のように流れ始める。
0246アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/06(水) 01:21:50.06ID:CN7lx5BL
『神が遣わした聖天使よ――お会い出来て光栄だ――』『左遷されてきただけだけど。とりあえずしくよろ』『なっ――!?』
『アレク、貴様の自由っぷりにはほとほと呆れている。罰として――』『あ、やっぱクビっすか?』『第二分隊副隊長に任命する!』
『よく合同で任務やるけどお嬢は第三分隊長と仲いいの?』『馬鹿言え! アイツは重戦士としては有能ゆえ戦略上仕方なくだ』

これは第三分隊で過ごした頃の記憶。

『良いですか? 異教の邪神と契約してはいけません。奴らはあの手この手で籠絡しようとして来るので気をつけなさい』
『プレシャス!』『プレシャス!』『ああ、眠いなあ』

教会で洗脳教育を受けていた頃の記憶。
そして最後に行きつくのはやはり――自分と瓜二つだった頃のアトラが微笑んでいる。妖精のような輝く虹色の翼を広げて。

「アトラ、今そっちに……ん? 虹色の……翼……?」

≪やっと思い出したようだね。本当の記憶。私達の翼が本当は何色だったか……≫

「そうか、簡単なことだ、天使では神に勝てるはずは無い……!」

何か重要な事に気付いたように、ゆっくりと立ち上がるアレク。
デイドリームは幼少期に教会に預けなければいけないという鉄の掟の理由――それは利用価値もさることながら、放置しておいたら脅威となるからだ。
そこで幼少期から忠実な神のしもべとして洗脳し、脅威の芽を摘んでいたというわけだ。
デイドリームは神々と人とを繋ぐ使徒――それは間違ってはいない。
しかしここでいう神々とは八百万の神に近い概念であり、それは本来、神官というよりも一般的なイメージでいうところの精霊使いに近いもの。
アレクの背に、蝶の羽根のようにも見える極彩色の翼が現れる。

「――センスオブワンダー!」

味方全員に光が降り注ぐ。それは確かに回復魔法だが、今までのものとは全く系統が違っていた。
今までのものが対象の中にある生命力を活性化させるものだとしたら、これは自然界に存在する生命力を直接分け与えるもの。
デイドリームの中でも並外れた素質を持つアレクは、教会に捕まる前、すでに数々の精霊と契約していた。
教会に捕まってから記憶と共に封印されたそれらを全て、たった思い出したのだ。

「シュタイン! 偽りの神がどっちか、決着を付けようじゃないか!」

エントの力を借りて手から蔦を出してセレスティーヌを繋ぎとめ、フィッチャーの方に引き寄せる。

「生命力は与えておいた……あとはこれを振りまくるんだ!」

そう言って祝福の杖をフィッチャーに渡し、自分は敵の方に向き直る。

「みんなそいつから離れて――ファイアストーム!!」

大天使の周囲で、獄炎の嵐が渦を巻く。炎の上位精霊イフリートの力を借りた業火の攻撃魔法だ。
0247フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/07(木) 01:01:47.12ID:qDv2Quro
>「ぐああッ!!」

アレクがシュタインの闇魔法を衝撃波で相殺しようとするも、その追尾能力と破壊力は凄まじく、
アレク他数名が魔法に巻き込まれて大きな打撃を受ける。
魔力抵抗の低いカボスに至ってはこれで倒れ、ほぼ戦闘不能となった。
さらに大天使による錫杖の一撃がアレクに入る。
団員たちは天使の血による毒と魔法による衝撃で次第に立ち上がる気力すら危うくなってきた。

「くそッ!」

フィッチャーは傷つきながらも剣を振りまわし抵抗するも、幻影のようになった太い腕が邪魔をして
簡単にそうさせてはくれない。
既にチホリの死骸は大天使の一部として取り込まれたようだ。
セレスティーヌがゆっくりとこちらに引き摺られていく。血の跡を残しながら。

(くそっ、団長のために、愛する女のために、俺は何もできねえってのか!?
ホワイトクロス騎士団は、もうこれまでってのか!?)

自分にそう問いかけるフィッチャーに、不意に光が差し込んだ。

>「――センスオブワンダー!」

その場全体に光が差し込む。それはまるで世界がアレクを祝福しているかのようだった。
虹色の光を纏った翼のアレクは、今や聖書の「神」のような姿になっていた。

めきめきと団員たちが回復していく。
0248フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/07(木) 01:02:21.27ID:qDv2Quro
>「シュタイン! 偽りの神がどっちか、決着を付けようじゃないか!」

アレクが叫ぶと、エントの蔦がセレスティーヌを絡め取り、フィッチャーの方に引き寄せる。
そして祝福の杖を渡す。
アレクが続けて放ったファイアスt−ムで腕による幻影は消えうせた。

ほぼ裸のフィッチャーは、セレスティーヌの裸体を抱きしめると口付けをし、剣を素早く祝福の杖に持ち替えて
全力で念じた。

「プレシャス! 本当の英雄はお前だ!どうか力を与えてくれ……神サマよォ……!!」

セレスティーヌの肢体が輝き、次第に輝いていく。

「さぁ、あたしらはあたしらの仕事をするよ! さぁデルタ!」

デルタと共に駆け出したマーテルは、先ほどセレスティーヌが倒れた方向とは反対側に駆け出し、
シュタインが大天使の援護に夢中になっている隙を突いて素早く駆けた。
マーテルがボウガンから矢を放つ。移動しながらの乱射だ。ぐるりと90度回転しながら、
大天使、続いてシュタイン、祭壇と攻撃目標を変える。シュタインは素早くそちらに対応し、
魔力の弾をマーテル目掛けて放つ。マーテルが辛うじて直撃を避けて倒れるも、
――本命はデルタの一撃にあった。

「うおぉぉぉおお!!」

パリィン、という音とともに、床に埋め込まれた最後の青い水晶が破壊された。
これでシュタインの間を隔てていた分厚いバリアが消える。

「おのれぇえぇl、小賢しい、雑魚どもがァ、五月蝿いのですよ!」

慌てたシュタインは翼をブワリと羽ばたかせ、空中へと浮くと魔力をチャージし、
デルタに一撃をぶちかます。

「……フィッチャー、これは、アレクが……私は、死んだのではなかったのか!? うっ……」

(まずい、あちこちの骨が折れてやがる……!)
フィッチャーはセレスティーヌの全身が悲鳴を上げ、既に限界に達しようとしているのを感じた。
骨があちこちで折れ、筋肉は不自然なほど収縮してこわばり、もはやその肉体は魔力と薬物と強い意思によって繋ぎ止められている状態なのだ。
だが、黙っている他なかった。

「もう少しの辛抱だ。あいつ、アレクも無理してやがる。お前はもっとそうだろうがな。
すぐ楽させてやる。ちょっと耳貸してくれ」

膝の上にセレスティーヌを抱え、背中から髪にかけてを撫でる。そして手を握り、
フィッチャーは耳元でそっと囁いた。コクリと頷くセレスティーヌ。
0249フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/07(木) 01:03:01.08ID:qDv2Quro
フィッチャーがおもむろに立ち上がり、倒れたカボスの剣を二本ほど拝借すると、
罵倒し叫びながら大天使に斬りかかる。

「汚ねぇモンぶら下げてんじゃねぇよ、ゴミの集まりが!!」

その雑な攻撃は素早くかわされたが、その後方から長い脚の股を抜けるように一陣の風が吹き抜けた。
瞬時に、大天使の股間の男根が切り落とされる。

「グギヤァァァァ!!!!」

獣とも怪物とも言える叫びとともに、フィッチャーに向けて襲い掛かる大天使。
錫杖を投げ捨て、次々と腕や脚を使って地面を抉りながら長いリーチの攻撃をフィッチャーに繰り出してくる。
避けられない。フィッチャーは次々と傷を受けながら、何本もの剣で耐えていた。

と、奥では気絶したデルタ目掛けて魔法の剣による一撃で止めを刺さんとしているシュタインがいた。
「まずはそこの若い男女から確実に、殺してさしあげましょう……ぬ?」

シュタインの脇腹が何者かによって抉られる。血が噴き出し、グラリと視界が揺れる。
それは祝福の力で復活し、フィッチャーの大剣を獲物としたセレスティーヌだった。

「おのれ……娘!? どうして……何故!」

次々とセレスティーヌの攻撃は繰り出され、翼は飛び散り、法衣は裂け、その筋肉質で肥満体質の
巨体がぐらりと揺れた。
片方の翼が捥げ、大量の血をj噴出したところで、激しい蹴りを浴びせ、祭壇の方へと吹き飛ばす、

「…私は憎しみのために何十人、何百人の命を奪ってきた。だが、ここでその憎しみも消える……
父上、母上……仇は終わる。死ね、シュタイン……!! ……っ!?」
0250フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/07(木) 01:05:04.25ID:qDv2Quro
セレスティーヌは信じられないものを見た。シュタインの欠けた片翼は徐々にボコボコと再生し、
斬り刻まれたはずの肉体の傷もまたたく間に塞がっていく。

「馬鹿な……くっ!」

翼からの衝撃波で転んだところをさらに両腕からの膨大な魔力の波動で引き摺られ、直撃を受けるセレスティーヌ。
尚も彼女が握り締めるはフィッチャーの大剣。しかしそこにシュタインの収束された魔力が止めを刺そうとしていた。

「セレスティーヌ。あなたは人を殺しすぎたのですよ。だからこの場で私が「神」として、「処刑」する……
ついでにデイドリームとあの男も潰してくれる……
終わったら、「オリンパスの光」で、残りのゴミどもに私が「神」となったことを見せ付けてやりましょう……」

後ろではフィッチャーが徐々に怒り狂った大天使によって剣を全て折られ、追い詰められようとしている。
結構なダメージを与えたものの徐々に再生する大天使はこの人数と破壊力では力不足だ。
ユニスが横から一撃、一撃を繰り出すも、傷は入るが決め手にはならないようだ。
マーテルはようやく意識を取り戻し、起き上がろうとしているところだ。

アレクは祭壇の近くまで侵入したセレスティーヌが追い詰められようとしているのがはっきり見えた。
二本の燭台には「オリンパスの光」の装置と紫の水晶球。
そして祭壇の天井には煌々と輝く黄色いオーブが埋め込まれ、それがシュタインへと活力を送り込んでいた。

【祭壇の手前のバリアを何とか完全破壊。
ユニオン・アンゲルにそれなりのダメージを与えるも、尚も激しい攻撃が続いている。
シュタインに大きな打撃を与えるも、セレスが後ろに突き飛ばされている間に再生。
セレス重傷、フィッチャー重傷、マーテル重傷、デルタ、カボス気絶。アレク、ユニスは軽傷】
0251アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/08(金) 23:50:32.02ID:cxLfdXvK
降り注ぐ虹色の光に、全滅しかけていた団員達が瞬く間に持ち直す。
聖書に刻まれた原初の神のうちの一柱、虹色の翼持つ全属性を併せ持つ精霊神アルカンシエル――
今のアレクはその姿に酷似していた。
それは、反逆者であるはずのアレク達の側こそが真のヴィクサス神聖教の姿を体現していることを裏付けていた。
ヴィクサス神聖教の聖書は前後編の2部構成となっており、前編は他の幾つかの信仰と共通の部分で、神々の創生譚。
後編はヴィクサス神聖教独自のもので、外界より襲来した邪神から世界を救った聖者ヴィクサスの伝説が刻まれている。
彼はこの世界古来の神々のもとを巡って彼らを味方に付けることで、侵略者を討ち果たしたという。

>「さぁ、あたしらはあたしらの仕事をするよ! さぁデルタ!」
>「うおぉぉぉおお!!」

マーテルとデルタが息の合った連携で最後の青い水晶が破壊される。
これによりついに、シュタインのバリアが破壊され、今まで高見の見物に近かった彼を同じ土俵に引きずりおろす事が出来た。

>「おのれぇえぇl、小賢しい、雑魚どもがァ、五月蝿いのですよ!」

「させるか――シールドオブアイギス!」

激昂したシュタインがデルタに放った一撃を防護魔法で阻む。それは神話に刻まれた無敵の盾。
そのままなら跡形もなく消し飛ぶ攻撃をほぼ無傷に抑え、それでも衝撃事態は防ぎきれずに気絶するデルタ。

>「汚ねぇモンぶら下げてんじゃねぇよ、ゴミの集まりが!!」
>「グギヤァァァァ!!!!」

フィッチャーは大天使に捨て身の攻撃を畳み掛け、セレスティーヌは尚も仇を討たんとシュタインに立ち向かう。
一瞬、こちらの攻勢に傾き始めたようにも見えたが……

>「…私は憎しみのために何十人、何百人の命を奪ってきた。だが、ここでその憎しみも消える……
父上、母上……仇は終わる。死ね、シュタイン……!! ……っ!?」

シュタインが瞬く間に再生していく。

「そんな……!」

>「セレスティーヌ。あなたは人を殺しすぎたのですよ。だからこの場で私が「神」として、「処刑」する……
ついでにデイドリームとあの男も潰してくれる……
終わったら、「オリンパスの光」で、残りのゴミどもに私が「神」となったことを見せ付けてやりましょう……」

フィッチャーは剣を全て折られ、セレスティーヌはシュタインに追い詰められようとしている。
相手は無尽蔵に再生する一方、こちらは回復魔法は使えるとはいえ着実に消耗していく。このままではジリ貧だ。
0252アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/08(金) 23:52:54.23ID:cxLfdXvK
「ああ、貴様は確かに神だよ――邪神シュタインボルグ!!」
0253アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/08(金) 23:54:16.50ID:cxLfdXvK
シュタインボルグ――それは聖書において、ヴィクサスが立ち向かったとされる邪神の名。
0254アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/08(金) 23:55:12.48ID:cxLfdXvK
屍を集め自らの手駒として使う非道の術の前に、ヴィクサスは苦戦を強いられた。
そして滅せられる時に、お約束の捨て台詞を残したという。人に悪の心がある限り、我は必ず復活する――と。
人の心の闇を憑代に、あろうことか宿敵の名を冠したヴィクサス神聖教を長い時をかけて内部から蝕み、
邪神は今ここにシュタインとして復活を果たした――アレクはそう解釈したのであった。

「団長! 駄目だ……恨みや憎しみ、人間の負の感情がそいつの糧になる……」

だからといって、どうすればいいのか。恨むなといったところでどだい無理な話だ。
アレクは、決意のこもった目で大天使の方を見据えた。
このままでは全滅必至、一かバチかの賭けに出ることにしたのだ。
あろうことか、自ら大天使の前に進み出て、身を差し出すように両手を広げた。

「さあ、取り込むんだ――」

巨大な怪物を打ち破る常套手段として、わざと食べられて内部からぶち破るという無茶な方法があるが、これはその発展形。
大天使の材料は、元はといえばシュタインに利用された被害者達だ。
シュタインの呪縛によって操られているような状態なのだとしたら、
今の状態のアレクならわざと取り込まれて内部から干渉することによって呪縛を断ち切れる可能性は――ある。
もちろん失敗すれば普通に敵に取り込まれて万事休すの大博打だ。

「なっ――馬鹿なのですかァ!?」

これには流石のシュタインも度胆を抜かれている様子。
その声音には僅かに焦りも含まれており、「多分大丈夫だけどちょっとヤバいかも!?」ぐらいに思っているのかもしれない。
そうしている間にアレクの体が大天使に吸い込まれる。
その直後、大天使は凄まじい叫びを発しながら悶え始めた。中で激しいせめぎあいが繰り広げられているのだ。
そんな中、フィッチャーの頭の中に聞き覚えがある声が響いてきた。

≪イオです――念話で話しかけています。伝え忘れていた事があって、手短に言いますね。
あなたから魔力を貰ったあの時、貴方の中に竜の力の欠片を仕込んでおきました。
偽りの神に立ち向かうならきっと役に立つはずですよ≫

ところで、聖者と邪神の決戦を描いた有名な絵画では、聖者ヴィクサスは左右に二柱の神を従えている。
片方は精霊神アルカンシエル――そしてもう片方は、竜神ファーヴニルだ。
竜とはもともと神に連なる聖なる存在であった。
仕込まれた竜の力の欠片が具体的にはどの程度のものなのかは分からないが、状況を打開する力の一端になるかもしれない。
0255フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/09(土) 17:52:14.95ID:U6TWcNsP
>「ああ、貴様は確かに神だよ――邪神シュタインボルグ!!」

セレスティーヌに魔力の塊を見舞おうとするシュタインに、アレクの一言が刺さる。

「ぬ、虫ケラめ、聖書のお勉強ですか。その名は懐かしい……シュタインボルグと私とは無関係……
それに、シュタインボルグは確かに殺戮を犯しましたが、“調停者”でもあったのですよ……
お分かりですくァ……? 世界を正すには、多少の犠牲は止むを得ない、とね!
もう少しでいい。もう少し多くの人に死んでいただきます。世界は私によって「調停」されるゥ……」

邪悪から世界を救ったヴィクサスが立ち向かった悪に、確かに邪神「シュタインボルグ」の名があった。

「そう、私は悪の心を少しずつ、人々から取り除いているのです。支配欲、金銭欲、名誉欲、
そして、愛欲……アンナがシャルルとの欲に溺れていったのも、同じこと。だから、浄化して差し上げた……」

「それは違う……! 貴様が身勝手な思い込みで、母上に付き纏ったのだ。全て父上から聞いている!」

ヒューヒューと喉から声を絞り出し、血を流しながらも、セレスティーヌが叫ぶ。
シュタインがこれまで数々の虚言で正義をでっち上げ、数々の無罪な人々を処刑し、
あるいは実験台にして死よりも苦しい目に遭わせてきたという証左である。

>「団長! 駄目だ……恨みや憎しみ、人間の負の感情がそいつの糧になる……」
0256フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/09(土) 17:52:44.99ID:U6TWcNsP
セレスティーヌの憎しみに満ちた言葉を諌めるように、いつになくアレクが言葉を紡ぐ。
そして、自ら大天使の前へと進み出て、両手を広げた。

>「さあ、取り込むんだ――」
「ヌゥゥ……」

大天使は醜い苦悶の表情を少し困惑しながら和らげ、アレクの方へと向かった。
フシュゥゥゥ、という音とともに虹色の光が輝き、アレクが大天使に取り込まれる、
というよりは大天使と融合し、姿をすっかりと変えていった。
その姿はまさに、聖書にあった「大天使降臨」の図、デイドリームが神と関連付けられる文献とされている
箇所に描かれているその天使の姿に似ていた。

色とりどりの翼はまさに聖者。しかしアレクには絶大なる苦痛が伴う。
何故なら、その「素体」には大量の薬物、毒物、不死者が融合されているのだから。
とはいえこれで、「ユニオン・アンゲル」の存在自体を封じることに成功した。
ユニオン側とアレク側との魂の干渉が続き、大天使は動くことができない。

>「なっ――馬鹿なのですかァ!?」

「アレク! いくら何でもそれは無茶だ! すぐに戻ってこい!」

――と、その時、フィッチャーの下腹部のあたりが痛み出し、そこから脊髄を経て、
脳の方へ、耳の方へと声が聞こえてきた。イオのものだ。

>≪イオです――念話で話しかけています。伝え忘れていた事があって、手短に言いますね。
あなたから魔力を貰ったあの時、貴方の中に竜の力の欠片を仕込んでおきました。
偽りの神に立ち向かうならきっと役に立つはずですよ≫
0257フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/09(土) 17:53:52.83ID:U6TWcNsP
「俺の中に竜の力……だって? 俺は確かお前に……」

精神力を注入させたのはフィッチャーの方だったはずだ。しかし、イオの話によれば、
その際にイオがフィッチャーに竜の欠片を仕込んだという。

(種を植え付けられていたのは、俺の方だったのか……)

どんどん下腹部が熱くなり、全身へとエネルギーが分散されていく。
フィッチャーの肉体は魔力を纏い、傷がみるみる塞がり、まるで竜のような鱗に覆われていた。
全身の筋肉が膨張し、巨大化も同時に行われる。イオほどではないが、
飛竜ほどの大きさにはなっているだろう。翼はないが、飛行できるだけの浮力は持っている。

「うおオォォォォ……!!!」

フィッチャーが咆哮を上げる。同時に物凄い敏捷性を身に付けたフィッチャーは、
勢いに乗って攻撃をまさに受けんとしているセレスティーヌの元へ駆けていった。
大天使の意思と戦い、「アルカンシエル」のごとく七色に光るアレクの横を通り抜けながら。

その動きには迷いはない。
「乗れ、セレス!」
アレクの光によって意識を徐々にはっきりさせているセレスティーヌは、しっかりと大剣の柄を
握り締めると、素早くフィッチャーに騎乗した。
0258フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/09(土) 17:55:51.42ID:U6TWcNsP
フィッチャーの背中、肩からセレスティーヌの腰の素肌が触れ、そこから熱い竜の力は
さらにセレスティーヌへと流れ込んでくる。
シュタインの攻撃はあっさりとかわされ、地面が大きく抉れる。

「あぁ……お前は、フィッチャー、なのだな……私はどうなるのだ?」

「良いから、とりあえずそこの黄色い悪趣味なヤツをぶっ壊してくれ!」
「分かった!」

パリィィン、と祭壇の天井に埋め込まれた黄色いオーブが破壊された。
さらにぐるりと壇上をフィッチャーが飛行し、監視の水晶球と、「オリンパスの光」の
起動装置もセレスティーヌの一撃で破壊され、辺りに破片が散らばる。

「おのれ……オノレェェ……!!」

シュタインは翼を大きく広げ、フィッチャーらに魔法と翼から放たれた複数のナイフのような毒羽根攻撃を仕掛けるも、
フィッチャーが身を起こして魔力の盾で防御し、毒羽根はセレスティーヌによって弾かれる。
そしてすれ違い様の一撃が首の近くから腰にかけて袈裟斬りとして入り、
シュタインは法衣を破られ血を噴き出しながらブヨブヨとした醜い裸体を曝け出した。帽子はとうの昔に落ちており、
禿頭に肥満体に翼の生えたただの醜い生き物となってしまった。
魔力も減退し、もはや「神」としての威厳は欠片もない。眼に怒りを滲ませ、セレスティーヌらを睨む。

「オノレ……私はここでは終わらぬゥ……もっと、チカラヲ…… ……ぬ?」

倒れた司祭たちの魔力はは既に枯渇している。慌てて魔力を「いつものように」
大天使から奪おうとするも、どうやら失敗したようだ。どうやら内部干渉に遭い、拒否されたらしい。

ついに、シュタインは全ての自分を強化している依り代を失い、孤立してしまった。
ユニスは大天使に敵意が無いことを悟ると、そのままフラフラとへたり込んだ。カボスも同じような状況だ。

「さあ、アレク、一緒に止めを刺すぞ!」「覚悟せよ、全ての元凶よ! 教会の病巣、いや、世界の病巣、シュタイン!!!」

フィッチャーとセレスティーヌが叫び、よろめくシュタインに止めとなる一撃を浴びせる構えをし、
同時に未だに大天使の内部意思と戦っているアレクへと呼びかける。取り込まれれば万事休す、
しかし、アレクが勝てば全てが終わる。

「貴方たち、今何をしようとしているかもう一度……もう一度考えてミナサイ……
世界の、歴史上の偉大ナル救世主に刃を向けているのデスよォ…… 命だけはァ、お助けヲヲヲォォ……!」

シュタインが醜くしゃがれた声で悲鳴に近い声を上げる。終焉は目前だ。

【シュタインは丸裸で加護を全て失った状態、大天使はアレクと融合。】
【ほぼ全員が重傷になっています。ちなみに次でこの戦いは終わります。さぁ、トドメをどうぞ!】
【(提案ですが、アレクさんは次のレスか、終わらないようならその次のレスでキャラクターエピローグを書いてください。
最後に私がグランド・フィナーレを書いて終了にする予定です!)】
0259アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/10(日) 23:32:04.51ID:YDthMA8j
「ここは……!?」

アレクは、凄まじい瘴気が充満する異空間のような場所にいた。
そこに、苦悶と憎しみに表情を歪めた者達が、一斉に襲い掛かってくる。

「やめろ! 助けに来たんだ!」

驚きながら応戦するアレク。
襲い掛かってきた者達の顔ぶれをよく見ると、教会を出奔する時に一行を送り出すために犠牲となった者達や、
道中で倒したデイドリームの部隊の者達。
天使兵や先しがた取り込まれたアテナとヘラ、そしてなんとフェイシアとチホリの姿もある。
味方敵様々だが、皆道中で犠牲になった者達や前に進むためにやむを得ず倒した者達だ。

――タスケニキタ!? ドノクチデイウ!

――ナゼタスケテクレナカッタノ!? コノヤクタタズ!

――オマエノセイデシンダンダ!

――オノレまーてる! コンナセカイホロビテシマエバイイ!

「うわあああああああああッ!」

亡者達の猛攻を受け、吹き飛ばされて倒れこむアレク。
起き上がろうとするアレクに、優しく微笑んで手を差し伸べる者がいた。
その顔はフローラ――紛う事無き育ての親。

「これで分かったでしょう? 人間など救う価値も無いのですよ。さあ、私と共に楽園へ――」

しかしアレクはその手を振り払った。

「お前偽物だな!? ばっちゃは……そんなにおしとやかじゃない!」

「――そこか……!」

偽フローラは割とあっさりと観念して正体を現す。
現れたのは、フローラによく似た顔の、しかし教皇のような白い衣装をまとった男性。

「フローレン……!」

悪の錬金術師と相対し、臨戦態勢を取るアレク。
しかし、そこに幼い頃の姿のアトラが現れ、悪戯っぽく笑って言う。

「フローレン……賭けは私の勝ちです。約束は守ってもらいますよ? 
まあそのような下手糞な芝居では最初から結果は分かっていましたけどね」

「アトラ!?」

「ええ、約束を違える気はありません。今となってはもはや全てがどうでもいいのですよ。
あなたと賭けをしたのも暇つぶしにやったまで――。アレクサンドラ、付いてきなさい」

おそらくその言葉のとおり、シュタインにしてやられて全てがどうでもよくなったのだろう。
しかしもしかしたら、彼に残された良心の欠片がそのような賭けをさせたのかもしれない。
0260アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/10(日) 23:35:57.97ID:YDthMA8j
「亡者達は私が抑えておく! 行け! アレク!」

この二人だけ大天使に取り込まれたにも拘わらず自我を保っていたのは、フローレン自身が設計者であった故。
そしてアトラには気まぐれに話し相手として自我を残させたというところだろう。
導かれるままに辿りついた場所には祭壇があり、一振りの剣が刺さっていた。

「聖者シュタインが邪神を打ち倒した際に使った剣……私はこれをユニオン・アンゲルの核として使用したのです」

「つまりこれを引き抜けば死者達は解放される……!」

アレクは剣の柄を両手で持ち、一気に引き抜いた。その瞬間、辺りが眩い光に包まれる。
その中で、死者達の声が聞こえた気がした。

――ありがとう……。これで眠れる……。どうか、シュタインを……世界の敵を討って!

>「さあ、アレク、一緒に止めを刺すぞ!」
>「覚悟せよ、全ての元凶よ! 教会の病巣、いや、世界の病巣、シュタイン!!!」

その瞬間、ユニオン・アンゲルの巨体が光の粒となって弾け飛び、その場所には七色に光る翼のアレクがいた。
手にはシュタインの聖剣を握っている。
傍らには、ドラゴンのような姿と化したフィッチャーと、それに騎乗したセレスティーヌ。
すでにシュタインを強化していたオーブは全て破壊され、シュタインは丸裸の状態で命乞いしていた。

>「貴方たち、今何をしようとしているかもう一度……もう一度考えてミナサイ……
世界の、歴史上の偉大ナル救世主に刃を向けているのデスよォ…… 命だけはァ、お助けヲヲヲォォ……!」

フィッチャーの背から飛び降りざまに、セレスティーヌがとどめの一撃を放った。
しかしシュタインが残された力を全力投入してそれを阻む。

「甘ァい! 私はこの程度では……」

「――かかったな」

攻撃を阻まれつつもセレスティーヌはニヤリと笑った。
セレスティーヌが着地するのと入れ替わりに、一瞬遅れてアレクが剣を突き立てる姿勢で自由落下してくる。
それは、あろうことかつい先刻までユニオン・アンゲルの核として使用していたヴィクサス聖教会の至宝。
その剣にフィッチャーの竜の魔力が付与され、その姿はさながら流星。

「シュタイン! 悪夢はここで……終わりだ!!《ヴァニシング・スターライト》!」

「ぐぎゃァあああああああああああああああ!」

剣が突き立った瞬間、凄まじい光が迸り、シュタインの断末魔が響き渡る。
ヴァニシング・スターライト。消えゆく星の煌き――
星とは暗闇の中の僅かな希望。それが見えなくなるという事は希望が無くなったのではなく、朝が来たということ。
もう僅かな希望に縋らなくていいということ。
それは永遠に終わらぬと思われた夜の終わり、長き暗黒の時代の終わりを意味していた。

『ありがとう、やっと輪廻の円環に還れる……』

「ずっと……見守ってくれていたのか……」

フローラの幻影が現れ、アレクと皆に感謝を告げたような気がした。
戦乱で荒れた大地に、癒しの雨が降り注ぐ――
0261アレク ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/09/10(日) 23:37:00.53ID:YDthMA8j
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
0262アレク ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/09/10(日) 23:40:30.80ID:YDthMA8j
そして時は少し流れ――世界は様変わりしていた。
天界への扉があった場所には突如として生えてきた大樹が聳え立ち、聖都の新たなシンボルとなっていた。
デイドリーム達は歪められた教会の呪縛から解放され本来の姿を取り戻し、
竜族などの少し前までは異端とされていた種族も大手を振って歩いている。
アレクは「団員募集中」という幟旗を立てて道の傍らに座っていた。
どう見ても不審者である。それでも藁にもすがりたい失業者とかが時々寄ってくる。

「えっ、店が倒産して路頭に迷ってる? はい採用」

こんな感じでクオリティはともかく団員は徐々に集まった。
アレクは新生ヴィクサス聖教団直轄の実働部隊を率い、聖都の治安維持や事件以後の世界に起きた様々な変化の調査を行っていた。
今度命じられた任務は、大樹の調査。
何故か蔦や枝などを伝ってずっと上まで登れそうな感じになっており、
実は天界に繋がってるんじゃないかとか人々の間でまことしやかに噂されている。

「まあ天界はこの前崩壊したんだけどね」

「でも天界の別地方とかあるかもしれませんし……」

大樹の下までくると、ごろつきの集団が根城にしているらしく木の根元にたむろしていた。

「おう、ここを通りたいなら通行料払ってもらおうか」

数十秒後、あっという間にのされたごろつき達が地面に転がっていた。

「な、なんだァお前ら!?」

「名乗る程の者ではないけど知りたいなら教えてあげよう。我らは聖教団直属の実働部隊――
その名も……"ホワイトクロス騎士団"!」

【とりあえず終了です。裏話などはエンディングの後で!】
0263アレク ◆mhXMrsUqAc
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2017/09/10(日) 23:47:40.66ID:YDthMA8j
あらら、ラスボスと聖者の名前がごっちゃになってる……
・「聖者ヴィクサスが邪神を打ち倒した際に使った剣……私はこれをユニオン・アンゲルの核として使用したのです」
・手にはヴィクサスの聖剣を握っている。
です!
0264 ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/09/11(月) 08:24:41.91ID:+38246fG
【了解、良い感じですね。ありがとうございました!
では次でこちらもラストにしてグランド・フィナーレに入ります。少しお待たせすると思います。】
0265フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/09/12(火) 21:38:21.99ID:or+hapfr
>「――かかったな」

シュタインは降参を宣言してもなお、余力を残していた。セレスティーヌの攻撃を辛うじて受け流し、
左腕に魔力を溜め、反撃の機会を伺っている。

>「シュタイン! 悪夢はここで……終わりだ!!《ヴァニシング・スターライト》!」
>「ぐぎゃァあああああああああああああああ!」

が、そこにはついに大天使に宿る亡者たちの誘いに勝利したアレクの攻撃が迫っていた。
フィッチャーとセレスティーヌはその動きを察して連携を取ったのだ。

その一撃は燦燦とした光とともにシュタインの首から胸にかけて突き破り、
それが致命傷となり、シュタインはついに倒れた。

「……お、おの……レ……お前たち……本当の救いはココニハナイ……
ワタシガシセバ、世界は再び……コント……ン……グェ……」

セレスティーヌはフィッチャーから降り立つと大剣を握り、まずは首を刎ねる。
殆ど胴体と頭を切り離しただけの肉体からは血が噴き出すも、その醜い肉体を何度も何度も斬り刻んだ。
それでもビクビクと体を波打たせ、動くのを止めないシュタイン。その生命力、執着心は驚異的ですらあった。
やがて、左胸の心臓を貫通させ、地面に突き倒すと、心臓と逆の右胸に埋め込まれていた紫色の水晶を破壊する。
バリィィン、とそこから闇のオーラが破裂すると、ついに肉体は動きを止めた。

「プレ……シャ……」

横では苦悶の表情でシュタインの青筋と禿頭でブクブクとした醜い頭が、何かを呟いていたが、
セレスティーヌが思い切り踏みつけると、頭蓋骨は割れ、灰色の脳漿と目玉を飛び出させてついにシュタインはただの肉片になった。
さらにそれだけでは飽き足らず、股間から男根を切り取った。

フィッチャーは仕方なく、落ちている剣を腹に突き刺し、
柄の部分がまさにホワイトクロスの十字になるようにして、祈りを捧げた。
0266フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/12(火) 21:38:53.59ID:or+hapfr
「プレシャス……」

セレスティーヌは先ほど見た研究室を思い出したのだろう。奇声を上げながら、
そちらに向かい、次々と残った「成果物」を破壊していった。
もう二度と、このような悲劇を繰り返さないように。

フィッチャーやマーテルは、倒れた女司祭たちや、その奥にいるだろうシュタインのかつての
「しもべ」たちをセレスティーヌの暴行から守るようにして「保護」していった。
彼らも後に裁かれるのだろう。

アレクは重傷のメンバーたちを次々回復させていく。大天使が遺した大きな錫杖は
尚も癒しの力を残しており、今後聖遺物になるには充分だった。

「お疲れ様。よく頑張ったな」
フィッチャーは研究所を破壊し尽して失意にくれるセレスティーヌを抱きしめると、
そのボロボロになった肉体を癒してもらい、メンバーと捕虜を連れて研究所を出た。

「遅いよ、君ら!」

ザトーラップはすっかりコボルトたちと仲良くなっており、「オリンパスの光」が止んだ後、
図書館の地上部分を共同で制圧したようだ。こちらでも多くの捕虜が出た。
彼の周囲にはジャイプールの侍女たちが侍り、既にチホリのことは忘れているようである。
下からはシュタインの砕けた頭部が証拠物としてフィッチャーの大剣に吊るされ運ばれてきており、
いくつかの証拠物としての書類も運び出された。

そこには前教皇からフローレン、シュタインに至るまでの様々ないきさつが描かれており、
後に時間をかけて、フローレン以降の悪事、そしてカリスト将軍とアトラスムスの野望、その陰で動いている
シュタインの陰謀の大雑把な内容が紐解かれるようになった。
0267フィッチャー ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/12(火) 21:40:45.92ID:or+hapfr
これにて、ホワイトクロス騎士団は、教会内部の膿を潰し、世界を救ったのである。
現在はアトスを開放した一派に過ぎないが、この事も後に解き明かされ、ホワイトクロス騎士団の存在は伝説となる――

――

今回の戦いでジェノアはアースラント王国側に、アトス周辺はかつてヴィクサス神聖国の最大勢力であった
シュヴィヤール家へと割譲され、さらに北方のコボルト、エイプマンの多くが協力し、
帝国所属のホビットやエントが動いたことにより、大陸で行われていた大きな戦もまた、休戦協定や同盟により収まりを見せた。

アースラント王国は幼い11歳のテオドロ王子がテオドロ2世として王都セントニスにて即位し、
その摂政として王国側最大の功労者であるステッセル将軍が選ばれた。イオは新生ヴィクサス教団の
アースラント支部を運営し、南はアストラ方面までを幅広く任されることとなる。
すぐ北には同盟を結んだ北方のカボス、ジローらコボルト、そしてエイプマンの勢力が、
かつて北方で大勢力を誇ったヒルホトの軍勢に対する緩衝役となっており、安全だ。
ジェノアにはホワイトクロス騎士団を抜けたユニスが、今では司教をやっているらしい。
ジェノアでは自警団が新たに組織され、老人たちばかりだったこの街にも若者が増え、活気が戻りつつある。

一方、東ではセレスティーヌがシュヴィヤールを奪回し、都をかつての本領にあったクレルモンから西のアトスに移動させ、
アトスの周辺を支配し、同時に「アトスの大樹」を守護することで宗教勢力としても確立し、、
「シュヴィヤール公国」を樹立してアースラント側との主従関係を結び、「ヴィクサス神聖連合」として
南で独立したゾロアニア公国と同盟を結んで南の脅威も落ち着いた。
この国はレクトゥスを都とし、ザトーラップが治め、同時にエントたちを保護することで、。帝国・シュヴィヤール双方と同盟を
結んでいる。やり手のザトーラップらしい二枚舌外交が功を奏したらしい。
帝国も当分は貿易の利を得て、大人しくなるだろうと思われる。

やがて、程なくしてシュヴィヤール公国では、跡継ぎがいないからということで、とある男子と
セレスティーヌ女公との間で結婚式が行われた。相手は、フィッチャー・レーガン。
彼はこの日をもって婿として、「フィッチャー・ジゼル・ド・シュヴィヤール」と改め、セレスティーヌの腹の子を
育て、国を守るという誓いの言葉を立てる。
式にはヴィクサス教団、ホワイトクロス騎士団も現れ、アレクの祝福のもとに、盛大に行われたという。
0268 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/12(火) 21:41:38.02ID:or+hapfr
「フィッチャー、我が国にはまだこの子以外は跡継ぎがいない。これからも沢山子を育もう」
「勿論だ、セレスティーヌ。いや、女公閣下。これから何人でも何十人でも産ませてやる」

そんなやり取りが交わされ、周囲は祭りムードに沸きあがったという。


――六年後。

アースラントでは17歳となり精悍になったテオドロ2世がアストラの領主の娘との婚儀を交わし、
それを主催した宰相のステッセルが荘厳なセントニス教会の屋上でイオと会話をしていた。

「イオよ、国王陛下もご立派になられた。もう先の戦での怪我は大丈夫か? 二人も子を産んで、骨などは痛まないか?」

イオの傍には小さな角を生やした男の子が甘えている。イオとステッセルにそっくりだ。
そしてベランダから外を何か心配そうに眺める女の子は、今年で5歳になる。
あまり親に似なかったためか懐かず、それがイオの悩みの種だが、利発な彼女が呟いた。
「ねぇママ、ジェノアに、もう一度行ってみたいな。綺麗だったよ、あそこ」

マーテルはクレルモンの涼しい風にあたりながら、一人娘に乳をやりながら、夫であるデルタの帰りを待った。
クレルモンではヴィクサス教よりもシュヴィヤール家信仰が篤いほどであり、信徒が絶えず、
多忙のためマーテルは最初にできた子を孤児院に預け、それからしばらく司教としての仕事に専念し、
ようやく一人目を設けた。
四日前には公国建国六周年式典も終わり、そろそろデルタが帰ってくる頃だと思っていたが、
どうやら予想以上に向こうでの「営業」は長続きしそうだ。人に好かれやすい彼のことだ、とマーテルは微笑んだ。

セレスティーヌは三男のジョルジュに乳をやった後、湯浴みをしながら次男・ポールと次女・ジャンヌの体を洗った。
「ふぅ……」

子守役にポールとジャンヌを預けると、布で全身を拭きながら一息をついた。
背中あたりまで伸びたブロンドの髪はフィッチャーとの間に産まれた五人の子を育てた豊かな乳房を隠し、
臍に向けて縦に割れた筋肉と傷でできた腹部と臍は艶かしいほどに美しく、股から臀部への無駄のボリュームのある膨らみ、
何人もの人間を屠った太股は太く筋が通っており、光を浴びててらてらと輝いていた。
まだ二十代でも通用する美しい顔は、傷があっても映え、安堵の表情で満ちていた。

と、この休息も束の間、この後は嫡男であるクロードとの剣術での稽古が待っている。
下着姿のまま、もうクロードが三歳になる頃からセレスティーヌは剣を教え続けた。
フィッチャーとの共闘、教会の暗部との死闘の間に腹の中にいた子だ。それだけに期待も大きい。

「殺されると思って母に斬りかかってこい。大体の筋は教えたはずだ。もう下がっていいぞ」
「はい、母上」

今日はクロードの調子があまり良くないようだ。式典で沢山料理を食べたためか、それとも
久々に訓練に力が入りすぎたか。
教会での修行に出ている長女のプルミエールの心配をしつつも、余った時間で少し散歩に出ることにした。
愛するフィッチャーはまだアトスの大聖堂での式典で団を率いていることだろう。アレクとは仲良くやっているのだろうか。
夫の頑張る姿を思い浮かべながら、ふっと笑う。

セレスティーヌほどの長身と美貌だと正装では目立つ。なるべく目立たぬよう、村娘の格好に扮して、馬で一気にジェノアへと向かった。
0269 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/12(火) 21:45:44.35ID:or+hapfr
目的地は、久々に訪れるユニスの家だった。
最近子供が産まれたと知ってはいたが、遠いからといって挨拶に行かない訳にもいくまい。

着いた頃は既に夜になっており、孤児院から灯りが漏れていた。
そこは孤児で溢れかえっている。予想以上にジェノアの治安の回復は芳しくないらしい。
孤児たちと目が合うセレスティーヌ。誰かに見られているような気がした。

――まさか、フィッチャー?

ユニスの家は真っ暗だが明かりが点っていた。
よく見知った二人の声が聞こえてきた。とても愉しそうであり、嬉しそうであった。
0270 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/12(火) 21:46:28.99ID:or+hapfr
「ユニス、やっぱお前すげえわ、ジェノアの女どもの中でも最高だぜ」
「本当? フィッチャー、なんか私、頭の中おかしくなりそう。また子供できちゃうかも」

セレスティーヌは剣を抜き、そっとその声の元へと近づいていく。何かを呟く。
その口は、p・r・e・c・i・o・s、というワードを紡いでいたに違いない。

「俺さ、お前となら「天界」もイけそうだ。マジ、今「天界」の資料見てんだ。お前のために作ってやる」
「本当!? 理想の楽園、デキちゃうのぉ!?」

それが二人の最後の台詞だったという。その時転がっていた男根と四つの肉片は、
その後も見つかることがなかった。
後に、「セレスティーヌの婿殿にしてホワイトクロス騎士団団長フィッチャー・ジゼル・ド・シュヴィヤール、行方不明」
との噂があちこちで広まった。そのまま団長はアレクが引き継いだ。
この頃からデイドリームを含めたやコボルト、エルフ、ホビット、エントなどの異種族も各地で活躍するようになる。

――さらに一年後。

「貴様ら、生き残りたくば、死ぬ気で戦ってみせよ!」
セレスティーヌの声が響く。彼らは七年前の事件でシュタインと共に捉えられた教会の囚人。
中にはセレスティーヌに直接暴行を働いたものも居るだろう。
それぞれが得意の武器や思い思いの鎧を着せられ、無理やり戦わされている。

「さぁ、クロード、やるぞ、お前の初陣だ!」
クロードが迷いながらも、シュタインの兵たちに洗練された剣技を見せる。
自分よりも二つ周り以上も大きな相手の剣を弾き、そのまま喉下に剣を突き、急所を狙う。
グェェ、という呻き声とともに鎧兜を着た男が倒れ、次の男がクロードを狙う。
よろめくクロードの背後から槍で襲いかかる「敵」を槍ごと甲冑を真っ二つにするセレスティーヌ。
臓物が弾け飛び、周囲にオォォ、という同様の声が響く。

「一人殺したぐらいで一々怯えるな。お前はシュヴィヤールの嫡男、将来の領主なのだぞ!」
「はい、母上!」

クロードを狙う敵を彼と共に次々裁断し、飛び散る臓物とともにそのまま怯える敵を追い回すセレスティーヌ。
その目はすっかり曇り、正気の沙汰ではなかった。
「まだだ! 死ぬ気で来い! 私の剣はまだ血を欲しがっているぞ!!」

ついにほぼ一人で全ての敵を斬殺した後、それでも飽き足らず牢獄の向こうにいる武器を持たない囚人たちも
次々と殺害していった。この日だけで30人は殺害しただろうか。
手にしているのは液体の入った瓶。それをゴクゴクと飲み干す。
勿論、研究所にあった「アレ」だ。既に各地から呼び寄せた錬金術士により量産も始まっているという。

「はぁ、はぁ、次はクロードに部隊を率いさせたいものだな……さて、敵はどこにいる? そうだ……」

七年間に亘って続いた平和はこれからも守られるのだろうか?
未来は「神」だけが知っていることなのだろうか?
その「神」とは何なのだろうか?

今後、世界は――


END

【ありがとうございました!グランド・フィナーレが無事に終わり、
これにてホワイトクロス騎士団の物語を閉じたいと思います!】
【賛否両論あると思いますが、どうかご了承ください。】
【二人になった後も長らく続けてくださったアレクさんには特に感謝を。また、短い間ですが魅力的なキャラを
動かしてくれたセレスティーヌさんにも感謝します。】

【裏話などはここから遠慮なくどうぞ!】
0271中の人 ◆9tRgsDTMos5G
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2017/09/12(火) 22:54:10.33ID:or+hapfr
どうも、フィッチャーの中の人です。
早速ですが裏話を簡単に。

まず、こんなグランド・フィナーレでがっかりした、失望した方は、ごめんなさい。
喜んでくれている人は、多分私と気が合うと思います。握手してください。

恐らく出るだろう疑問に先にお答えします。

Q1.どうしてシナリオの流れを急に早めたのか
簡単にいうと
・セレスティーヌさんという「王道シリアスのメインキャラ候補」が抜けてモチベが落ちた
・リアルが忙しくなってきたので時間が割きにくくなった
・世界観を広げ過ぎてしまい、収拾がつかなくなった(もっと長引く恐れがあった)
・で、何よりライト寄りのアレクさん(ここではライトファンタジーの「ライト」じゃなくて「ダーク」の反対の意味
にダークファンタジーの世界観を長期間動かさせるのは苦痛だろうと気を使ったため

それが結果として、
・本来、敵はホビット族などを含め、いずれは「帝国」、「北方」とも絡めて
折角作った「天界」との戦いもやりたかったのが、3分の1ぐらいのスケールになった
・フィッチャーを遠慮なくセレスティーヌとくっつかせた(その方がヒロイズム的には動かし易いので)
・客観的に見て好き勝手なシナリオでバッドエンドを迎えさせた
 
に繋がったと思います。特に長く付き合いのあったアレクさん、すみません。

Q2.元ネタは?
・共に「ゼノギアス」を参考にしています。シュタインは「ストーン司教(スタイン)」がモデルで、
この作品で一番好きな悪役です。原作の彼はもっと小物で嫌われ者の二流ですが、そういう人間臭いところが好きです。
「天界」「地上が天界に反乱を企てる」あたりもゼノギアスから来ています。
・あとは、雰囲気や一部の台詞やキャラ名、雰囲気、展開はベルセルクや幻想水滸伝2から取りました。
セレスティーヌにガッツを重ねたり、豹変後はルカの台詞に近いものを言わせたりしました。

Q3.真の悪役は?
・基本的に全員が悪い部分を持っている、というつもりでシナリオを動かしてきました。
途中からはフィッチャーを悪人にしたい欲が強まりました。
なので、初期のジェノアの治安の悪さ、途中でジェノアに隠し子が居る、などの設定から
元々フィッチャーは女癖が悪く、治安の悪化に一役買っていたので、因果応報ということです。
アラジンみたいに「好き勝手やってた盗賊が改心する」なんてのは夢物語だと個人的には思っています。
最後の孤児院の視線のシーンはフィッチャーがジェノアで好き勝手やった結果で、あの中にユニスの子もいます。
(私は基本的にファンタジー世界はかなり「性的なもの」であり、それ無しに語れないと思っています。)

以上、他に何かありましたら遠慮なくどうぞ。アレクさんの方も裏話お待ちしています!
0272中の人 ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/09/12(火) 23:03:18.98ID:or+hapfr
× 共に「ゼノギアス」を参考にしています
○ 主に「ゼノギアス」を参考にしています


あと、ファンタジー世界での研究所なども好きですね。時間が割ければ、研究所のおどろおどろしい雰囲気を
もっと出したかったんですが、フローレン研究所も「テイン」も雑な描写になってしまい、すみませんでした。
「天界」も時間があれば「綺麗な世界」からうって変わって「暗部」を見せるような表現をやりたかったです。

そもそも、「王道ファンタジー」を名乗っているのに勝手にダークファンタジーをやっている時点で
話の説得力がないですが(笑)
0273アレクPL ◆mhXMrsUqAc
垢版 |
2017/09/13(水) 00:32:58.77ID:FTBKdgYt
ちょwまさかの「行方不明」オチ!
こちらこそ完走まで連れてきてくださってありがとうございました!
神官騎士団にスポットを当てた話というのはなかなか新鮮でした。
ほぼ一人で大勢の登場人物が登場する戦記物を描けるなんてすごい!
自分はどっちかというと特定少人数にスポットを当てた冒険物が管轄なので圧倒されちゃって途中お荷物になってごめんなさい!
フィッチャーモテすぎワロタ! シュタインは最初から最後まで分かりやすい悪い奴を貫いてくれて清々しかった!

なんか気を使わせてしまったようで申し訳ない!
お察しの通り「王道ファンタジー」って書いてあるので丁度最新作が出たド○クエ的なやつかな〜と思い
参加してしまったクチですw
なんとゼノギアスだったか! 嫌いじゃないどころかかなり好きですよー。
暗黒盆踊りに裸エンディングに人肉缶詰! あれはネタ的な意味でもガチな意味でも隠れた名作ですよね!
一番好きな悪役はグラーフかな。あのBGMも相まっての登場シーンのインパクトが忘れられない。「力が欲しいか!」

・デイドリームについて
もともとはソードワールド2.0に出てくるナイトメアという種族の光バージョンというコンセプトで着想した種族でした!
(人間の親から突然変異的に生まれる、本気を出すと角が生えて魔人っぽくなる、魔力が高い、という感じの種族です)

・アレクの年齢
最初の二人が24→27と来たから流れで3を足しただけ
でも双子設定になったアトラスムスは雰囲気的に長く世界を牛耳ってた一団の一人という感じもするので
もしかしたら本当は百の位に1があるのが教会の名簿上は消えちゃったのかも? ご想像にお任せします

・中盤からの精霊、ドラゴン推し
趣味です。というのは雑過ぎるので解説すると
教会勢力を悪い奴らが牛耳ってる→魔女狩りと称して都合の悪い奴ら排除してそう
→いっそ古代の多神教世界的な存在は全部迫害してそう という連想からあんな感じになりました。
勝手に投入したネタにいろいろ合わせてもらって感謝してます!

>ファンタジー世界が性的なもの
その点は魔法戦士リウイに似てるなあ!と思ってました!
あれもマッチョが女性パーティーを引き連れて冒険して何故か全員と深い関係になるというw

>「王道ファンタジー」を名乗っているのに勝手にダークファンタジーをやっている時点で
王道ファンタジーとしておいて門戸を広く開けようと思ったものと思いますが
もしも次をやる時は「重厚なのやります!」と最初からはっきり方向性を打ち出した方が案外人が集まるかも!?
まあそればっかりはタイミングや運もあるので何とも言えませんが。

とにかく本当にお疲れ様でした!&ありがとうございました!
0274中の人 ◆9tRgsDTMos5G
垢版 |
2017/09/17(日) 13:22:29.47ID:QccZC/xg
>>273
なるほど、分かりやすかったなら良かったです。

実はシュタインはスタインと同じく中ボス的な役割で、適度なところで私欲に溺れて退場の予定だったんですが、
最初からいた黒幕の一人だし、この方が盛り上がるかなぁと思ってそうしました。
途中飛ばしまくりですみません。ノリで作ったブラッククロス騎士団に至っては、コードギアスの「ヴァルキュリエ隊」よりも
悲惨な扱いになってしまいましたね。
「ホワイトクロス」という単語も定期的にアレクさんに使ってもらえたおかげで、最後までタイトル詐欺をせずに済みましたw

なるほどゼノギアスご存知でしたか。ファンブックがありますので一言一句いつでも見れますw
最後のスタインが化けの皮を剥がしてぶちまけるところが最高に胸糞で惚れました(シナリオ作った人に)
ああいう自作自演は最高ですね。(そういやスタインが最後に搭乗していたギアが「アルカンシェル」でしたね)
私もグラーフ好きです。ヴァンダーカムといい、ハゲが何故か好かれる傾向にあるらしいですがw
曲だと「飛翔」の特にマリアがソラリス突入する場面と、シェバトが好きですね(そううえばどっかのTRPGの街にシェバトありましたね)
人肉缶詰からカレルレン研究所までの流れも特に好きです。ま、今回はカレルレンにあたる役もシュタインがやってしまいましたが。

分かり難かったと思いますが、今更補足すると、最初にフィッチャーが会話している相手がフローレン本人です。
浮浪者=浮浪人=フロウ+人(レン)という感じです。

なるほど、デイドリームについては「眠り姫」を真っ先に想像して、こっちも最初はギャグのように受け止めていたかもです。
アトラスムスの名前の由来は、蛾で最大の「ヨナクニサン」の学名アトラス・モスから取りました。まあ、対になるキャラにしたかっただけですね。
途中からこちらも追加設定を色々やった結果、アレクの30歳設定を忘れてプレイしてました。
たまに「若いって良いなー」と言われていたような気がしますw

精霊とかドラゴンについてはもっと長引いたりプレイヤーが増えればどんどん取り入れていく予定でしたが、
時間の都合で終戦を早めることになってしまって、申し訳ないです。

リウイは未読ですが、ソードワールド自体プレイしていて、リプレイもバブリーズ、へっぽこと読んでいたので、
たまに(水野さんが卓にいたのか)作品の評判が悪いみたいなことを愚痴られていたような気がします。
今調べてみたら、確かにソーワリプレイの地名がガンガン出てきますね。(ちなみにロードスは本編とアシュラムのスピンオフぐらいまでは読みました)

改めて言いますが、付き合っていただきありがとうございます。
大勢ぶった切ってそれに対する周囲の反応を書いたり、大惨事が起きてそれに怯える周囲のリアルな様子を書くのがとにかく好きなので、
次にGMとして開催するときは、堂々と「ダーク」と明記しておきたいと思いますw

ではでは。
0275創る名無しに見る名無し
垢版 |
2017/12/27(水) 09:51:50.42ID:C1Z7QFDy
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

PSVO8E2NP6
0276創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/01/28(日) 14:26:23.83ID:fJzwP6GC
ageて書こう
0277創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/02/06(火) 23:29:04.14ID:CYcXDH0f
誰も書かない
0278創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/04/08(日) 07:24:10.06ID:Apjegm3p
相変わらず最後までスレ使わないんだな
>>1野郎はなりきり板時代から飽きっぽい上に気が短いのは変わってねーのな
進歩のない事で
0279創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/05/21(月) 06:23:55.93ID:tRZnwP6O
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

F53OF
0280創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/07/03(火) 21:23:10.63ID:f1dClnnX
48K
0281創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/10/17(水) 15:58:37.31ID:ZU7x6aHX
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

T3A
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