>「かまやしないけど、トム、あんたは焼いた豚肉貰ってもよかったんじゃないかい?」

仮面で素顔を隠し、呪術を使いこなすタイタン乗り、ニルが同じテーブルにいた。
彼女は食事であっても仮面の上部を外すことはなく、素顔を誰も見たことがないと言われている。

>「はいはい、明日は戦闘なんだ、酔うのは伯爵の演説だけにして酒は程々にしておくれよ、おかわりだ」

だが彼女と彼女が乗るタイタン『イルヴァーナ』は安定した強さだ。
明日の戦闘においてもその性能は十二分に発揮されるだろう。

「ニルの言う程々、というのは大樽一つのことを言うのだろう?
 心配せずとも二杯ほどに留めておくさ」

トムも酒はヒュムの基準ではかなり飲める方だが、それでもドワーフの基準には及ばない。
『ヒュムの酒豪はドワーフの下戸』という言葉があるほどだ。
ヒュムにせよドワーフにせよ、明日は長丁場の戦闘になる。
それをトムは分かっているからこそ、酒よりも飯を大いに食べて宴を過ごした。

―――そして夜が明け、まだ太陽が半分しか姿を晒していない頃。
トムとニルの所属する第四タイタン部隊『大鷲』は数百人の歩兵と共に
連合軍拠点からそう遠くない森林を歩行していた。
この森林は元々ヨーツンヘイム軍が砦を作るために木材を切り出していた場所だが、
連合軍が奪回し、今では巨人が輸送用に切り開いた道をタイタン輸送に使っている。

今回の戦においてまず『大鷲』に与えられた任務は、この道を通った先にある
アルカイ大橋に築かれた関所の偵察、もしくは破壊だ。
そのために彼らはまず森林を抜け、アルカイ大橋近くにある小高い丘から
関所の戦力を調査することとなった。

「全タイタン乗りへ。部隊長のエレバスだ。」

歩行中のタイタンの中で、最も小さく、黒一色に塗られたタイタン『アルパ』から声が響いた。
このタイタンは言語神ウォカーと狩猟神ウェナーの加護を強く受けており、
どんな相手・状況でも自分の言葉が聞こえ、また敵の痕跡や匂いを知ることができるタイタンだ。
武装は片手用の小ぶりな斧とクロスボウだが、前線で戦うというよりは一歩引いた位置で指揮をしていることが多い。

「本部から念話で情報が入った。
 アルカイ大橋に詰めている巨人どもの中には加護を持った奴が何体かいるそうだ。
 討ち取るか加護の種類が分かれば追加報酬だとよ」

「部隊長!トムです!討ち取る役目はぜひ自分にお任せを!」

タイタンたちの中で一番前を歩いていた『ラウンドナイツ』からトムの声が響く。
やる気は十分であると言わんばかりに盾を持った左手を振り上げてアピールしている。