上映終了とともに映画館の観客席が明るくなり、今まで壮大な宇宙戦争に思いをはせていた主人公が、
名残惜し気に映画館の座席から立ち上がるところから始まる。

主人公は立ち上がると、出口に向かって歩き出すが、一度ふと立ち止まり、
名残惜しそうにスクリーンの方へと振り返る。だがそこにはすでに何も映し出されてはいなかった。

すると主人公の後ろにいる別の観客から、「早く進んでもらえますか?」と苦情を言われ、
主人公は申し訳なさそうに「すいません」と一言謝って、再び出口へと向かう。

外に出ると、小雨が降りだしていた。主人公は直ぐ近くの駅へと小走りで向かう。
明日は、バイトの面接だ。ついこの間、派遣先の工場をリストラされ職を失った主人公。
とりあえず貯金を切り崩す生活を続けてはいるものの、
この先、一体どうやって人生を設計してゆけばいいのか、今はわからないままだ。

つい先日、中学校の同級生だった友人が結婚式を挙げたという。
主人公も結婚式に来てくれるよう誘われたのだが、
「今度、会社の面接があるので行きたくても行けないんだ、ごめんな」とメールを打った。

かつて、主人公とともにバンドに夢をかけたその友人も、今は地元の建設会社の営業マンだ。
彼はもう夢をあきらめ、仕事をつづけ、今度主任に抜擢されたという。
「まあ、今の生活も悪くないよ」と、友人は少し自虐的な笑顔で主人公に言った。
だが、そんな彼の顔には、主人公にはない、大人びた落ち着きが備わりつつあるのを、主人公は見逃さなかった。

「まだ、東京で成功する夢、あきらめてないのか?」と友人は聞いた。主人公は即答できなかった。
果たして今なら主人公は引き返せるかもしれない。まだ自分がいられる場所を見つけられるかもしれない。
しかし、かつて思い描いていた夢が、今は主人公自身を呪縛して離さない。
ここであきらめるのか?ここであきらめたらもう、試合終了だぞ・・・主人公の心が、そうささやくのだ。

だが、目の前に広がるのは、先ほどの映画の世界とはまるで違う現実世界だった。
そこにはルーク・スカイウォーカーもおらず、ジュダイの騎士もおらず、フォースの力など存在しない世界だ。
履歴書と預金残高で生活をしなければならない庶民たちが、それでも日々の糧のために戦い続ける、逃げようもない現実。

主人公はなおも駆けた。雨はいよいよ本降りになってゆく。
そのうち、自分が何に向かってかけているのか、もう主人公にはわからなくなっていた。