他に行き場所の無い作品を投稿するスレ4
とりあえず書いてはみたものの、一体どのスレに投稿するべきか分からない自作の作品を投下するスレです。
仲間外れの方、空気読めない方で、想像力と妄想力をもてあまし気味の方は是非、こちらのスレへどうぞ。
批判、批評、ご意見はなるべく簡潔に。変に貶したり感情的にならずに優しく見守ってあげましょう。
【過去スレ】
他に行き場所の無い作品を投稿するスレ3
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他に行き場所の無い作品を投稿するスレ2
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他に行き場所の無い作品を投稿するスレ
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安楽死を合法化する制度が、社会で無能の烙印を押された人間を自死に追いやるまでにそう時間はかからなかった。
ここは、東亰都某所にある国立安楽支援センター。心安らかに人生の終末を迎えるための施設である。
本日付けで配属になる宝木七恵が、職員への挨拶を済ませたところだった。
「それじゃあ、よろしく頼みますね」
センター長が七恵に一通り仕事の内容を伝えた。七恵は物腰の柔らかい印象を持った。
七恵の仕事は、人生の終末を迎える人たちへのケアである。
この施設に入所する人の経歴は様々であるが、それらには決して踏み入れてはいけないと先輩からは言われた。
とはいえ苦しい人生から開放されるという事で、ほとんどの人は穏やかに過ごしている。
いつか来る「お別れの日」までしっかりと身の回りの世話や、話し相手になったりする。
高校を卒業したばかりの七恵は特にやりたい事が無かった。それで求人情報で見つけたこの仕事にとりあえず応募した。離職する人が多いのだろうか、割と簡単な面接で合格した。
七恵が初日の仕事で訪れた部屋の主は、セイジさんという名前だと紹介された。実名なのか仮名なのか、その辺はちょっとよく解らない。一人部屋には少し広い間取りで、奥には大きなベッドと、壁にはうす型のテレビがあり、四角いテーブルの上には飲みかけのお酒とツマミが散らばったままだった。さらに本棚には様々なジャンルの本が並んでいる。
「おはようございます」と七恵が声を掛けると、セイジさんは初めて耳にする声色に即座に反応した。
生活していて特に困っている事は無いとのこと。この施設には半年くらい前に入ってきたという。
セイジさんはお話が好きなのか次々と七恵に話しかけてくる。正直に言えば七恵には興味の無い話題が続くが、それでもうんうんと頷きながら話を聞き続けた。
独身のまま還暦を迎えたセイジさんは、若い女性とこんなに話せる機会は今まで無かったと感激していた。
冗談なのか本気なのか、ずっとここにいたいと言ってた気がする。それからしばらくして「お別れの日」がやってきてしまった。
そこから先は、七恵はもちろん他の職員もどういう仕組みになっているかは教えてもらえていない。センター長は何か知っていそうだが、なんだか怖いので七恵は聞くことができなかった。
また新しい日がやってきて、空いた部屋には新しい人がすぐに入所する。お別れは確かに悲しいが、すぐに新しい出会いがあるので七恵はもう少し続けられそうだ。 「みんなー、今日も見に来てくれてありがとー」
「いや、見に来てるの俺だけだよ!」
画面の向こうで動くイラストの女の子が元気よく挨拶をしている。それに対して、俺はいつものようにスマホの画面からコメントを高速で打ち込む。
いわゆるバーチャルY◯uTub◯r、略してVTub◯rという奴だ。画面の向こうの(声だけしか解らないが多分)女は"銭花くれか"という名前で活動している。
ライブ配信の視聴者数はわずかに1。つまり俺一人が視聴者ってわけ。…って、そんな事ある?
本当にたまたま偶然奇跡的に初配信らしきライブ配信を見たのがきっかけでそのまま流していたのだが、コメントも何も無いのにおそらく前もって用意していたのであろう自己紹介の台本を必死になって読んでいた。
自己紹介が終わると質問タイムに入るつもりだったらしい。しかし、ここまでコメントは一切無い。
「何でも答えるよー」という彼女の問いかけに対して、「え?今、何でもって言ったよね」みたいな定番の返しすら無かった。
それでもめげずに?配信を続ける彼女だったが、やはり誰かがコメントをするどころか視聴者すら増えない。
「そこの君ぃ、何でも良いから話しかけてご覧よ〜」
銭花はそれでも画面の向こうに呼びかける。だが、誰も返事をしないのである。
なんとなく見ていた俺も流石に「おいおい、誰かコメントしてやれよ」と嘲笑していたのだが、「いや、俺しかいないか」と気付くのにそんなに時間はかからなかった。
こういう時、なんてコメントすれば良いのかわからないの…と思いながら、あれこれ頭を捻って考え出したコメントが、これだった。
「しょ、所見です」
誤字だった。初めて見ましたという意味の言葉は初見であり、所見だと意味が異なる。
やべえ、消すか。どうやって消すんだっけ…などと俺が逡巡していると、画面の銭花はコメントを発見したらしく、「お?」と反応した。
「なんだ、コメント打てんじゃーん」
銭花はホッとした様子だった。視聴者側のトラブルでコメントが入力されない可能性も考えていたらしい。
「じゃんじゃんコメントして下さいね。コメント欄が寂しいと、なんだか盛り上がって無い感が出るっていうかー」
いやいや、"感"どころじゃない。明らかに盛り上がっているとは言い難いよ?
まあ俺がそんな事を言ってもしょうがないのである。俺のせいじゃない。多分違うんじゃないかな。
初配信は、結局俺以外誰も見に来ませんでした。
なんか申し訳ない気持ちになった俺、とりあえず次の配信を見に行く事を決意。
なお視聴者数は増えない模様。
そして、冒頭のやり取りに戻る。
「みんなー、今日も見に来てくれてありがとー」
「いや、見に来てるの俺だけだよ!」
「わかってるよ。いつもありがと♡」
画面の銭花は俺だけに話しかけてくれる。
なんだなんだ。この状況は。
視聴者は、いつも俺一人だけ。
そして今日も、新人VTub◯r銭花くれかは元気に配信を続けている。