・挑発する病人
  俺のスタイルは余裕だった。図体もでかく、常に優位に立っていると思っている。
 仮に本心がそうじゃなくとも、いつも精神的に優位な存在としていると思っている。
 その保証のために他人が必要だ。試合でも、敗者がいるから常に安心してきた。
  でもそれも不安定に成りつつある。 自分が優位なのに、相手が焦ってくるのが
 嬉しい。例えば圧勝している試合。大差がついてもう決着がついてるのに相手が
 必死で戦う姿。 僕はいっつも馬鹿にしてたし、その状態を同僚と大喜びして
 からかえるのが好きだった。 どこか、頭ののろまな僕がからかえる、そんな
 心境。 大差のついたマラソン。 送れて走ってくる奴は馬鹿だ。 ドンビリの
 奴を「がんばれー!」って。 『なにが頑張れだ』ずーっと思ってた。 口に出すの
 恐い? のろまなバーカ、 ってデブ、ブタによくいってたな。
  そんな僕は医学部に行った同級生に『スポーツによる不安障害』といわれる。
 優位を確認しないと、生きていけないらしい。 気付いたら、昨日も
 20年前の知り合いの家の前にいた。 そのデブがいい快感を与えてくれるんだ。