従来のターボチャージャーですと、ウェイストゲートが開いたときに逃がされる高音の排気ガスがハウジングの壁面に当たるようになっていたんです。
しかしこれですと壁面の一部にヒートスポットができて熱による歪みが発生します。そこでS660用では高音の排気ガスがハウジングの中央部に
向かうようにウェイストゲートの開き方向を設計変更したのです。
これはS660用エンジン開発スタッフが施した熱対策、というより熱量のトータルコントロールの一例に過ぎない。
リヤエンジンを搭載することでエンジン本体も、ターボーチャージャーも、それにエンジンルーム内の全ての部品が高温に悩まされたという。
そこで従来のやり方であれば、各部門が自分の担当部分の熱上昇だけを抑えればいいや、という考えから安易に遮熱版を追加したり、
数を増やしたり大型化したりする。しかしそれでは遮熱板の反対側の熱問題は解決に至らないし、遮熱板が追加されることでさらに熱だまりがひどくなり
重量も増していくという悪循環に陥る。そこでエンジンルーム内の部品を扱う開発スタッフに対して「遮熱板はつけないでくれ。エンジンルーム全体で熱対策はなんとかするから」と宣言。
実際に、Bピラー部にうまく溶け込んだ左右ダクトを設けて右側はエギゾースト回りのスポットクーラーとして使用。
さらにボディ下面には、なんと燃料タンクを凹ませてまで空気流路を設けてNACAダクトからエンジンルームへ十分な冷気を導入することに成功している。
さらにもうひとつNACAダクトを設けて、熱を帯びる駆動系にも気を使った。
そして、冷却するためには空気を入れるだけではだめで、抜くことも行わなくてはいけない。そのため、テールライトの間にあるグリル部からは相当な量の空気が排出されるようになっている。
また、エンジンフードのコブの間にもスリットが開いている。「あのスリットの形状や本数についても地道に試験して決定しました。穴の面積や本数を変えられるような試作品を作って、
走っては温度チェックを繰り返して、ようやく行き着いたのがあの形なのです。」
ターボチャージャー本体でも耐熱性を上げて、ウェイストゲートからの排気にも気を使って、エンジン本体はもちろん、
そのほか補機類も含めたすべての熱量をトータルでコントロールしていきました。
S07Aエンジンというのは、実はそれが出た時点でもっとニュースになっていいほど「突き詰めた」エンジンであった。しかし、だからこそ、S660にS07Aを搭載するにあたって
ホンダの開発スタッフは知っていた。このエンジンはスポーツカーに搭載するために生まれてきたような素性を持っているのだから、彼らがやるべきことは
いかにS07Aが本来のポテンシャルを削ぐことなくリヤミットシップに配置してやるかということだと。
そのために徹底した熱コントロールがなされ、S07Aの性能が完全に発揮できる素性ができたからこそ、専用設計ターボチャージャーを活かしたS660ならではのエンジン特性を生み出すことができたのだ。