「年収の壁」低いイギリス
【年収超過部分】にだけ社会保険料発生
日本経済新聞(2023年3月)

日本では、配偶者の収入が増えると社会保険料の支払いが発生し、手取りが減る「年収の壁」問題が深刻になっている
保険料の負担が段階的に増え、手取りの急減を避けるイギリスの制度が参考になるだろう

英国の社会保障制度は「国民保険」だ。16歳以上で一定の所得がある人が保険料を払う。納めた保険料は主に老後に受け取る年金の財源となり、求職時や休業、出産にあたっての幅広い給付もある。保険料は労働者や自営業者など働き方によって第1種〜第4種に分かれている。労働者が加入する「第1種保険」で、保険料を労使折半でまかなうのは日本と同じだ

収入が週242ポンド(約3万9000円、年換算で190万円程度 1ポンド=約160円)を超えたら、「越えた部分だけに対する保険料」を払い始める。複数の会社で働く場合は、1つの会社から得る収入が基準を超えなければ納付する必要はない

第1種保険料は一定の年収を超えた時点で給料から天引きされるが、料率(12%)は収入の全額ではなく「超過した部分のみ」にかかる。手取りの伸びは緩やかになるものの、急に減ることはない
英国の保険料は所得に応じて緩やかに増えるため、日本のような「年収の壁」ができにくい

日本の社会保険制度で「年収の壁」を生むのは、配偶者の扶養に入り年金や医療の保険料を払う必要がない「第3号被保険者」の仕組みだ

英国にも第3号被保険者に似た仕組みとして「チャイルド・ベネフィット(子ども手当)」がある
手当受け取りを申請した場合には、「子育てする夫婦」のうち、働いていないなどの理由で配偶者の所得が社会保険料を支払う基準に達していなくても、基礎年金は受け取れる

ただし、収入が高い方の課税所得が5万ポンドを超えると子ども手当が減る

最近の1ポンド=約190〜200円(2024年)

税制は控除を除いた部分に段階的に税率がかかるが、社会保険料率は一定の年収を超えると全てに料率がかかってくる。これが年収の壁の原因になっていて非合理的
社会保険料の上限額廃止と合わせて、税方式に揃えるべきだ