あの人は今  元二所ノ関部屋 中村泰輝さん(30歳)

2030年、大相撲春場所千秋楽。 それをテレビで見つめる男がいた。
23歳で将来を嘱望され二所ノ関部屋へ入門した、中村泰輝さんだ。
「あの頃は若かったですね(笑)」若き日を回想する中村泰輝は、どこか寂しげだ。
「未だに当時の夢を見ることがあるんですよ。大相撲で、俺が横綱として活躍する夢を」
藤浪さんは24歳の時に取組中の怪我で右膝靭帯を断裂し、4年間リハビリを続けたが
結局完治することはなく、番付外に転落し引退届を提出した。
今はちゃんこ屋を営む傍ら、地元の少年相撲のコーチを勤めている。
暖簾の屋号の文字は第72代横綱稀勢の里、二所ノ関親方の手によるものだ。
「いらっしゃい」津幡駅東口から歩いて3分。
「ちゃんこ 泰輝」のえび茶色の暖簾をくぐって店内に入ると白いタオルを頭に巻いた中村泰輝さんの元気な声に迎えられた。
「去年の4月にオープンしました。暖簾の『泰輝』という文字は師匠に書いて
いただいたものだし、開店に合わせてスポーツ紙やテレビでも取り上げてもらった。
おかげで、県外から足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
中村さんは本当に嬉しそうに、僕たちに語ってくれた。
とはいえ、その分、プレッシャーも大きかったという。
「ちゃんこ好きは飛行機に乗って本場・両国まで食べ歩きに出かける時代でしょ。
ボクが修業した両国の老舗『巴潟』のものは白味噌がベースなのが特徴だから北陸人にはモノ足りないようなんです。
それで怒られちゃったこともあるけどそれも修業のうち。我慢、我慢です」
かつてのライバルで大学の同級生、モンゴル出身横綱の阿武龍について尋ねると…
「知ってます?23歳までは僕の方が(学生時代の実績では)上だったんですよ?」と、おどけ
「俺も怪我さえ無ければって…歯がゆいですけど」
「今はもう現役に未練はありません。今度はこの、ちゃんこで横綱になれるよう、
がんばるだけです!」
(写真)ちゃんこ鍋を手に持つ中村さん