「ぐはあっ。ぐはあっ」男たちのくぐもった声が聞こえてきた
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7月。セミの鳴き声が、やけに憎たらしく聞こえる。何もせずとも、ぶわっと汗が出る。
「ぐはあっ。ぐはあっ」
東海大学の武道場からは、男たちのくぐもった声が聞こえてきた。 湿気と熱気がまじりあう、むせかえるような空間。巨体がひしめく。
入口からいちばん遠い壁際に、井上康生はいた。
100kgを超える学生たちを次々と指名しては得意の投げ技で畳に這わせ、
また次の相手を呼んでは投げを見舞う。
全身から滴る汗。大きく開かれた口。疲労は色濃く見てとれるが、畳から
降りる気配はない。また次の学生を相手にしている。
見ていて、なんだか、おかしくなってしまった。学生たちはとうに音を
上げているというのに、アテネ五輪で2連覇を狙う世界チャンピオンの顔
には、こらえても、こらえても抑えきれない笑みが浮かんでいるのだ。
無理もないのかもしれない。井上にとっては、あまりに長い4カ月間だった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています