季節は変わり「春」俺は一人で休日に長野県のとある山へ登りに来ていた。

山の上には青空が広がり太陽も照りつけているが、沢筋のあちこちには残雪があり、風向きによっては冷たい風が汗ばんだ身体を寒えさせる。少し日陰になる登山道を歩く為、ザックの中から上着を出してTシャツの上に着込む。

少し歩くと前に居た三人組に追いついたので「こんにちは」と後ろから声掛けして追い抜く体勢に入る。
三人組は足を止めて縦に並んで、登山道を開けてくれたので「ありがとうございます」と声をかけて抜こうとすると、向こうも「こんにちは!良い天気ですね」との返事。登山では良くある光景だ。

すると三人組の1人が話しかけてきた。
「お兄さん、スノボ…やってます?」

「はい?やってますよ?」

「先々月、リフト乗り場で人にぶつかられませんでした?それも1日に2度も…」

「ん?…あ〜そんな事もあったか…あ!」
「あ!」
最後の「あ!」は同時に声を上げた。
「あの時のお姉さん!」
「あの時のお兄さん!」
またも同時に声を上げたが、女性は両手で顔を隠して恥ずかしいやら、申し訳ないやら、とても複雑そうな表情をしていた。

他の二人は「え?なに?」という雰囲気を醸し出していたので「いや、実はね!」と俺が説明を始めようとすると、ぶつかってきたお姉さんは、恥ずかしさを紛らわせる為なのか?自らの失態を早口で話始めた。
経緯を知った二人(女性)は大笑い。ひと通り話終わった後に俺は尋ねてみた。
「でも良く俺だって分かったね?」

「え?だってお兄さん、スノボの時も今の山用のウェアを着ていましたよね?だから、袖を掴んだ時に『あ!登山もする人なのかな?』と思ったので覚えていたんですよね」

「そう!金無いし、似たような機能のウェアを2着買うなら山のウェアに金かけた方がいいもん」

「あとお兄さん、最後にわざと冗談っぽく言ってくれたから、すごく気持ちが楽になったんですよ。優しい気を使ってくれる人だなぁ…と思って…」
そんな話をしながら、結局俺たちは4人で山に登って、そのまま下山。
登山口の駐車場で別れる時に、電話番号とLINEの交換をした。