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アンパンマン強さ議論スレ Part2

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0649格無しさん
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2018/05/08(火) 04:49:08.09ID:mpMazghg
それは悉くわしの悲哀と寂寞とに辛い対照を造る愉悦、興奮、生活、活動の画図である。
0650格無しさん
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2018/05/08(火) 04:49:23.95ID:mpMazghg
門の階段の上には若い母親が其子供と遊びながら坐つてゐる。
0651格無しさん
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2018/05/08(火) 04:49:39.72ID:mpMazghg
母親は、未だ乳の滴が真珠のやうについてゐる子供の小さな薔薇色の唇に接吻をする。
0652格無しさん
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2018/05/08(火) 04:49:55.55ID:mpMazghg
そして子供をあやす為に、唯女親のみが発明する事の出来る神聖な様々のとぼけた事をする。
0653格無しさん
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2018/05/08(火) 04:50:11.39ID:mpMazghg
父親は少し離れて佇みながら此愛すべき二人を眺めて微笑を洩してゐる。
0654格無しさん
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2018/05/08(火) 04:50:27.24ID:mpMazghg
それが両腕を組んだ中に其喜をぢつと胸に抱き締めてゐるやうに見える。
0655格無しさん
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2018/05/08(火) 04:50:43.12ID:mpMazghg
わしは之を見てゐるのに忍びなかつた。
0656格無しさん
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2018/05/08(火) 04:50:58.96ID:mpMazghg
そこで手荒く窓を鎖して床の上に荒々しく身を横へた。
0657格無しさん
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2018/05/08(火) 04:51:14.81ID:mpMazghg
わしの心は恐しい憎悪と嫉妬とに満ちてゐたのである。
0658格無しさん
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2018/05/08(火) 04:51:30.66ID:mpMazghg
そして丁度十日も食を得なかつた虎のやうに、わしはわしの指を噛み、又わしの夜着を噛んだ。
0659格無しさん
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2018/05/08(火) 04:51:46.50ID:mpMazghg
わしは、わしがどれ丈かうしてゐたか知らない。
0660格無しさん
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2018/05/08(火) 04:52:02.36ID:mpMazghg
が、遂に痙攣的な怒りの発作に襲はれて、床の上で身を悶えてゐると急に僧院長、セラピオンが室の中央に直立して、ぢつとわしを注視してゐるのを認めた。
0661格無しさん
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2018/05/08(火) 04:52:18.22ID:mpMazghg
わしは、慚愧に堪へないで、頭を胸の上に垂れた。
0662格無しさん
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2018/05/08(火) 04:52:33.96ID:mpMazghg
そして両手で顔を蔽つた。
0663格無しさん
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2018/05/08(火) 04:52:49.80ID:mpMazghg
「ロミュアルよ、わしの友達よ、何か恐しい事がお前の心の中に起つてゐるのではないか。」
0664格無しさん
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2018/05/08(火) 04:53:05.65ID:mpMazghg
数分の沈黙の後にセラピオンが云つた。
0665格無しさん
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2018/05/08(火) 04:53:21.48ID:mpMazghg
「お前のする事はわしには少しもわからない。
0666格無しさん
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2018/05/08(火) 04:53:37.34ID:mpMazghg
何時もあのやうに静な、あのやうに清浄な、あの様に温和しい――
0667格無しさん
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2018/05/08(火) 04:53:53.06ID:mpMazghg
お前が野獣のやうに部屋の中で怒り狂つてゐるではないか。
0668格無しさん
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2018/05/08(火) 04:54:08.91ID:mpMazghg
悪魔の暗示には耳を傾けぬがよい。
0669格無しさん
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2018/05/08(火) 04:54:24.76ID:mpMazghg
悪魔は、お前が永久に身を主に捧げたのを憤つて、お前のまはりを餌食を探す狼のやうに這ひまはりながら、お前を捕へる最後の努力をしてゐるのぢや。
0670格無しさん
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2018/05/08(火) 04:54:40.50ID:mpMazghg
征服されるよりは、祈祷を胸当てにして苦行を楯にして、勇士のやうに戦ふがよい。
0671格無しさん
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2018/05/08(火) 04:54:56.34ID:mpMazghg
さうすれば必ずお前は悪魔に勝つ事が出来るだらう。
0672格無しさん
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2018/05/08(火) 04:55:12.15ID:mpMazghg
徳行は、誘惑によつて試みられなければならない。
0673格無しさん
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2018/05/08(火) 04:55:28.01ID:mpMazghg
黄金は試金者の手を経て一層純な物になる。
0674格無しさん
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2018/05/08(火) 04:55:43.85ID:mpMazghg
恐れぬがよい、勇気を落さぬやうにするがよい。
0675格無しさん
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2018/05/08(火) 04:55:59.60ID:mpMazghg
最も忠実な、最も篤信な人々は、屡々このやうな誘惑を受けるものぢや。
0676格無しさん
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2018/05/08(火) 04:56:15.46ID:mpMazghg
祈祷をしろ、断食をしろ、黙想に耽れ、さうすれば悪魔は自ら離れるだらう。」
0677格無しさん
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2018/05/08(火) 04:56:31.30ID:mpMazghg
セラピオンの語は、わしを平常のわしに帰してくれた。
0678格無しさん
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2018/05/08(火) 04:56:47.16ID:mpMazghg
そして少しはわしの気も鎮つて来た。
0679格無しさん
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2018/05/08(火) 04:57:02.87ID:mpMazghg
彼は又かう云ふのである、「わしは、お前がC――
0680格無しさん
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2018/05/08(火) 04:57:18.71ID:mpMazghg
の牧師補を授けられた事を知らせに来たのぢや。
0681格無しさん
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2018/05/08(火) 04:57:34.57ID:mpMazghg
其処を管理してゐた僧侶が死んだので、僧正は直にお前を任命するやうにわしにお命令なすつた。
0682格無しさん
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2018/05/08(火) 04:57:50.44ID:mpMazghg
それだから、明日立てるやうに準備をするがよい。」
0683格無しさん
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2018/05/08(火) 04:58:06.29ID:mpMazghg
わしは頭を垂れて之に答へた。
0684格無しさん
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2018/05/08(火) 04:58:22.14ID:mpMazghg
そして僧院長はわしの部屋を出て行つた。
0685格無しさん
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2018/05/08(火) 04:58:37.97ID:mpMazghg
わしは祈祷の書を開いて、祈りの句を読み始めた。
0686格無しさん
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2018/05/08(火) 04:58:53.80ID:mpMazghg
が、字が霞んで何の事が書いてあるのだか解らない。
0687格無しさん
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2018/05/08(火) 04:59:09.65ID:mpMazghg
わしの頭脳の中では、観念の糸が無暗にもつれ出して、遂にはわしの気が附かぬ内に祈祷の書はわしの手から落ちてしまつた。
0688格無しさん
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2018/05/08(火) 04:59:25.50ID:mpMazghg
明日、彼女に二度と逢はずに立つて仕舞ふと云ふ事、わしと彼女との間に置いてある多くの障碍物に、更に新しい障碍物を加へると云ふ事、実に奇蹟による外は、彼女に逢ふ一切の望を失つてしまふと云ふ事!
0689格無しさん
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2018/05/08(火) 04:59:41.40ID:mpMazghg
あゝ彼女に手紙を書くと云ふ事さへわしには不可能になるだらう。
0690格無しさん
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2018/05/08(火) 04:59:57.13ID:mpMazghg
何故と云へば、わしは誰にわしの手紙を託けると云ふ事も出来ないからである。
0691格無しさん
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2018/05/08(火) 05:00:12.97ID:mpMazghg
わしは僧侶と云ふ神聖な職務に就きながら誰にわしの心の中を打明ける事が出来るだらう。
0692格無しさん
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2018/05/08(火) 05:00:28.83ID:mpMazghg
誰に信用を置く事が出来るだらう。
0693格無しさん
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2018/05/08(火) 05:00:44.55ID:mpMazghg
其時急にわしは、僧院長セラピオンが悪魔の謀略を話した語を思出した。
0694格無しさん
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2018/05/08(火) 05:01:00.43ID:mpMazghg
今度の事件の不可思議な性質、クラリモンドの人間以上の美しさ、彼女の眼の燐のやうな光、彼女の手の燃え立つばかりの感触、彼女がわしを陥し入れた苦痛、わしの心に急激な変化が起ると共に、凡てのわしの信心が一瞬の間に消えた事――
0695格無しさん
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2018/05/08(火) 05:01:16.28ID:mpMazghg
是等の事は、其悪魔の仕業なのをよく証拠立てゝゐるではないか。
0696格無しさん
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2018/05/08(火) 05:01:32.10ID:mpMazghg
恐らく繻子のやうな手は爪を隠した手袋であるかも知れぬ。
0697格無しさん
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2018/05/08(火) 05:01:47.95ID:mpMazghg
是等の想像に悸されてわしは、再びわしの膝からすべつて、床の上に落ちてゐた祈祷の書を取り上げた。
0698格無しさん
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2018/05/08(火) 05:02:03.78ID:mpMazghg
そして再び祈祷に身を捧げようとしたのである。
0699格無しさん
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2018/05/08(火) 05:02:19.55ID:mpMazghg
翌朝セラピオンはわしを伴れに来た。
0700格無しさん
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2018/05/08(火) 05:02:35.41ID:mpMazghg
みすぼらしいわし達の鞄を負つて、騾馬が二頭、門口に待つてゐる。
0701格無しさん
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2018/05/08(火) 05:02:51.24ID:mpMazghg
彼は一頭の騾馬に乗り、わしは他の一頭に跨つた。
0702格無しさん
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2018/05/08(火) 05:03:07.10ID:mpMazghg
わし達が此市の街路を過ぎて行つた時に、わしは、クラリモンドが見えはしないかと思つて、凡ての窓、凡ての露台を注意して眺めて行つた。
0703格無しさん
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2018/05/08(火) 05:03:22.97ID:mpMazghg
が、朝が早いので、市はまだ殆ど其眼を開かずにゐた。
0704格無しさん
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2018/05/08(火) 05:03:38.84ID:mpMazghg
わしはわし達が通りすぎる、凡ての家々の簾や窓掛を透視する事が出来たらばと思つた。
0705格無しさん
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2018/05/08(火) 05:03:54.69ID:mpMazghg
セラピオンは、わしの此好奇心を確に、わしが建築を賞讃してゐるのだと思つたらしい。
0706格無しさん
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2018/05/08(火) 05:04:10.52ID:mpMazghg
かう云ふのは彼が、わしにあたりを見る時間を与へる為に、わざと騾馬の歩みを緩めたからである。
0707格無しさん
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2018/05/08(火) 05:04:26.36ID:mpMazghg
遂にわし達は市門を過ぎて其向うにある小山を上りはじめた。
0708格無しさん
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2018/05/08(火) 05:04:42.19ID:mpMazghg
其頂に着いた時である。
0709格無しさん
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2018/05/08(火) 05:04:58.04ID:mpMazghg
わしはクラリモンドが住んでゐる土地の最後の一瞥を得ようと思つたので、その方に頭をめぐらして眺めると、大きな雲の影が、全市街の上に垂れかゝつて、其青と赤と反映する屋根の色が、一様な其中間の色に沈んでゐた。
0710格無しさん
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2018/05/08(火) 05:05:13.77ID:mpMazghg
其色の中を、其処此処から白い水沫のやうに、今し方点ぜられた火の煙が上へ/\と昇つて行く。
0711格無しさん
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2018/05/08(火) 05:05:29.63ID:mpMazghg
と、不思議な光の関係で、まだ模糊とした蒸気に掩はれてゐる近所の建物よりは遥に高い家が一つ、太陽の寂しい光線で金色に染められながら、うつくしく輝いて聳えてゐる――
0712格無しさん
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2018/05/08(火) 05:05:45.36ID:mpMazghg
実際は一里半も離れてゐるのであるが、其割には近く見える。
0713格無しさん
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2018/05/08(火) 05:06:01.19ID:mpMazghg
そして其建築の細い点迄が明に弁別される――
0714格無しさん
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2018/05/08(火) 05:06:17.03ID:mpMazghg
多くの小さな塔や高台や窓枠や燕の尾の形をしてゐる風見迄が、はつきりと見えるのである。
0715格無しさん
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2018/05/08(火) 05:06:32.87ID:mpMazghg
「向うに見える、あの日の光をうけた宮殿は何でせう。」
0716格無しさん
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2018/05/08(火) 05:06:48.69ID:mpMazghg
とわしはセラピオンに尋ねた。
0717格無しさん
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2018/05/08(火) 05:07:04.55ID:mpMazghg
彼は眼に手をかざして、わしの指さす方を眺めた。
0718格無しさん
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2018/05/08(火) 05:07:20.32ID:mpMazghg
と其答はかうであつた。
0719格無しさん
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2018/05/08(火) 05:07:36.19ID:mpMazghg
「コンチニの王が、娼婦クラリモンドに与へた、古の宮殿ぢや。
0720格無しさん
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2018/05/08(火) 05:07:51.92ID:mpMazghg
あそこで怖しい事をしてゐるさうな。」
0721格無しさん
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2018/05/08(火) 05:08:07.77ID:mpMazghg
其刹那に、わしには実際か幻惑かはしらぬが、真白な姿の露台を歩いてゐるのが見えたやうに想はれた。
0722格無しさん
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2018/05/08(火) 05:08:23.51ID:mpMazghg
其姿は通りすがりに、瞬く間日に輝いたが、忽ち又何処かへ消えてしまつた。
0723格無しさん
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2018/05/08(火) 05:08:39.36ID:mpMazghg
それがクラリモンドだつたのである。
0724格無しさん
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2018/05/08(火) 05:08:55.20ID:mpMazghg
おゝ、彼女は知つてゐたであらうか。
0725格無しさん
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2018/05/08(火) 05:09:11.06ID:mpMazghg
其時、熱を病んだやうに慌しく――
0726格無しさん
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2018/05/08(火) 05:09:26.95ID:mpMazghg
わしを彼女から引離してしまふ嶮しい山路の上に、あゝ、わしが再び下る事の出来ない山路の上に、彼女の住んでゐる宮殿を望見してゐたと云ふ事を。
0727格無しさん
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2018/05/08(火) 05:09:42.79ID:mpMazghg
此主となつて、此処に来れとわしを招くやうに、嘲笑ふ日の光に輝きながら、此方へ近づくかと思はれた宮殿を、望見してゐたと云ふ事を。
0728格無しさん
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2018/05/08(火) 05:09:58.68ID:mpMazghg
疑も無く彼女はそれを知つてゐた。
0729格無しさん
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2018/05/08(火) 05:10:14.50ID:mpMazghg
何故と云へば彼女の心は、わしの心と同情に繋がれてゐたので、其最も微かな情緒の時めきさへ感ずる事が出来たからである。
0730格無しさん
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2018/05/08(火) 05:10:30.36ID:mpMazghg
其鋭い同情があればこそ、彼女は――
0731格無しさん
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2018/05/08(火) 05:10:46.11ID:mpMazghg
寝衣を着てはゐたけれども――
0732格無しさん
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2018/05/08(火) 05:11:01.85ID:mpMazghg
露台の上に登つてくれたのである。
0733格無しさん
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2018/05/08(火) 05:11:17.69ID:mpMazghg
影は其宮殿をも掩つて、満目の光景は、唯屋根と破風との動かざる海になつた。
0734格無しさん
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2018/05/08(火) 05:11:33.53ID:mpMazghg
そして其中には一つの山のやうな波動が明かに見えてゐるのである。
0735格無しさん
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2018/05/08(火) 05:11:49.36ID:mpMazghg
セラピオンは、騾馬を急がせた。
0736格無しさん
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2018/05/08(火) 05:12:05.23ID:mpMazghg
わしの馬も同じ歩みを運んで、其後に従つた。
0737格無しさん
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2018/05/08(火) 05:12:21.10ID:mpMazghg
そして其内に路が鋭く曲る所へ来たので、S――
0738格無しさん
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2018/05/08(火) 05:12:37.00ID:mpMazghg
の市は終に、永久にわしの眼から隠されてしまつた。
0739格無しさん
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2018/05/08(火) 05:12:52.75ID:mpMazghg
しかもわしは決して其処へ帰る事の出来ない運命を負つてゐるのである。
0740格無しさん
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2018/05/08(火) 05:13:08.46ID:mpMazghg
退屈な三日の旅行の末に、陰鬱な田園の間を行き尽して、わしはわしの管轄すべき寺院の塔上にある風見の鶏が、森の上から覗いてゐるのを見た。
0741格無しさん
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2018/05/08(火) 05:13:24.21ID:mpMazghg
それから茅葺の小家と小さな庭園とに挟まれた、曲りくねつた路を行くと、やがて、多少の荘厳を保つた寺院の正面へ出た。
0742格無しさん
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2018/05/08(火) 05:13:39.96ID:mpMazghg
五六の塑像で飾られた玄関、荒削りに砂岩を刻んだ円柱、柱と同じ砂岩の控壁のついた瓦葺の屋根――
0743格無しさん
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2018/05/08(火) 05:13:55.83ID:mpMazghg
左手には雑草が背高く生えた墓地があつて、其中央には大きな鉄の十字架が聳えてゐる。
0744格無しさん
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2018/05/08(火) 05:14:11.69ID:mpMazghg
右手には寺院の影になつて牧師の住む家がある。
0745格無しさん
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2018/05/08(火) 05:14:27.43ID:mpMazghg
家は恐しく簡単で、しかも冷酷な清潔が保たれてゐる。
0746格無しさん
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2018/05/08(火) 05:14:43.28ID:mpMazghg
わし達は垣の内へ入つた。
0747格無しさん
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2018/05/08(火) 05:14:59.01ID:mpMazghg
五六匹の雛つ仔が地に撒いてある麦を啄んでゐる。
0748格無しさん
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2018/05/08(火) 05:15:14.74ID:mpMazghg
見た所では、僧侶の黒い法衣にも慣れたやうに、少しもわし達を怖がらない。
0749格無しさん
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2018/05/08(火) 05:15:30.61ID:mpMazghg
そして殆どわし達の歩く道を明けようとさへしさうもない。
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