これは私が小学生の時に体験した話です。

両親は「眠らない子の所にはサンタは来てくれない」と私にしつこく言っていました。ですが私にはどうもその両親の言葉が腑に落ちず、クリスマスの日は寝ないで、サンタの姿をこの目で確認してやろうと決心致しました。その為には予め、何かと準備が必要だと思い、室内は消灯させサンタが現れやすい環境を作り、布団の中にはお菓子やジュースなどの食料と懐中電灯やラジオといった装備品を完備していました。

午前零時を過ぎた頃でしょうか。
外は今季最大の寒波とあってか、暴風と大雪が凄まじく、時折、風で自宅がミシミシと軋む音を立てて少し揺れていました。私は何度も閉じそうになる眼を擦りつつ、眠気を覚ます方法を模索していました。ラジオでもつけて眠気を覚まそうか、と思い立ったその時です。

『ガンッガンッガンッ!』
と何かが自宅の玄関を叩く音が聴こえて来ました。最初は、風で何かが吹き飛ばされて家屋にぶつかっている音かなと思いましたが、玄関を叩く音は止まる気配がなく、音は不必要に鳴り続けています。私は恐怖のあまり両手で耳を塞いで、両親の名を叫ぼうと思ったのですが、よくよく考えてみれば私の自宅には煙突がありません。もしかしたら玄関を叩いているのはサンタかもしれないと思い、私は懐中電灯の光を頼りに玄関へと向かいました。
玄関の前に到着しても音は鳴り止みません。騒音の中、何故か両親は寝たままで起きてくる気配もない。玄関は磨りガラスドアの為か、ボンヤリと外にいるサンタの姿が見えます。服装は黒っぽく、身体は痩せ細っている様子で、私が想像していたサンタ像とは掛け離れていました。ですが、サンタは茶色の大きな袋を肩から下げており、私はそれがプレゼントだと思い込み、短絡的に玄関の扉を開けてしまいました。

しかし外には誰も居らず、街は雪化粧を纏い、先程の玄関を鳴らす音は何故か止み、風の音だけが私の聴覚を包み込みました。
すっかり身体が冷えてしまった私は、炬燵に入りたいと思い、暗闇の中、居間へと向かいました。凍てついた手で部屋の灯りのスイッチを押すと、室内を白い煙がモクモクと浮遊しており、炬燵の上には何故か【極光】と記載された煙草と残り僅か数本のマッチが置かれている。それに加えて、煙草の嫌な匂いが室内に充満していた。

おかしな話です。
私の家族は、全員煙草は吸わない。