大物を捕らえたとおぼしき歓声があがるたび近付いて確認していたが、見たところでどの魚があの子供かわかるわけもない。どうか無事でいてと願っていると、後ろからちょんちょんと背中をつつかれた。
振り向くと背の高い女の人と子供がいた。ちゃんと首も肩もあり服も着ていて、姿は全然違ったがすぐに「あの子だ!」とわかったそうだ。
女の人は表情を変えず、一言もしゃべらず、何度も何度も頭を下げた。子供は無表情のまま「おばちゃんありがとうね、ありがとうね」と言って頭を下げた。
伯母はホッとして涙が出たという。

この話を聞いたのはずいぶん前なのだが、伯母の葬式で知らないおっちゃんが(たぶん近所の人)が酔っぱらって「◯美ちゃん(伯母)が嫁いできたころだったなあー。◯◯池で見たこともねえくらい大きい真鯉がボートの近くまで上がってきてなあー。網ですくって持って帰ったんだが、朝見たらおらんかったー。こんくらいあったよー」と両手を広げて見せていた。たぶん盛ってるだろうが、大きかったのは本当だと思う。
伯母の葬式の後、すぐコロナ禍で人が集まれなくなったから、おっちゃんの話を聞けてよかった。

おしまい