分厚い氷の奥が金属質に感じられた。15分ほど進むと、またホールに出た。
今度は小学校のグランドほどの広さがあった。
そこは、松明がなくても薄ら明るかった。みなの吐く息が緑色になって見えたよ。
入ったとき、団長代理の村会議員が「温度は上がってないぞ」と言った。
中央に複雑な形のチューブの束のようなものがあって、これも凍りついている。

冷蔵庫の氷のように空気が入って白くなってるわけじゃなく、
ガラスのように透明で、下になっているものがよく見えたな。
一本が人間の胴ほどもあるチューブがうねるように絡み合っていて、
それに囲まれるように、金属光沢の四角い台が氷の中にあった。。
その上に、3mほどの・・・全体として白い繭に見えるものがあり、
横に人が立っていた。むろんどっちも氷に覆われてて、つまり生きた人じゃない。

その初老に見える人物は、旧日本軍の軍服を着て、軍刀を繭に突き立てた状態で
凍りついていたんだ。「整列!」議員が声をふりしぼり、俺らは2列横隊になった。
「西村大佐殿に敬礼!」掛け声に合わせ、その凍りついた人に向かって皆が敬礼をした。
後で聞いたことだが、この人は戦争中に村の高等小学校に軍事教練の訓導に来ていた、
退役した陸軍大佐ということだった。なぜ立ったまま凍りつき、
この氷穴で死んでいるのかは、今になってもよくわからない。

それと大佐殿が突き立てている凍った繭・・・これは白色だが濃淡があって、
繭の中に人型のものがいるようにも見えた。けどよくわからない。もし人なら、
2m50cm以上の身長ってことになる。それはありえないよな。全員で
四方の壁を見て回った。地震による崩落がないかどうかだ。
確認する度に、議員が「異常なし」と大声をあげた。