その場を離れようとするも体が動かない。声も出ない。
目は動かせたのでキョロキョロ視線を走らせてみる。
隣にオレと同じように外側を向いて立つサラリーマンがいるが
スマホをいじっておりガラスに映る女には気付いていない。
いや、もし窓に目をやっていたとしても彼にもコレが見えるとは限らない。
脂汗が滲む。とてつもなく長時間に感じたがせいぜい2分ほどだろうか。
アナウンスが間もなく到着する駅名を告げたとたん体が自由になった。
女の後ろ姿はまだ映っている。
降車駅ではなかったがドアが開くとオレはこけつまろびつ下車した。
頭痛はすっかり治まっていた。ホームのベンチに座りこんで汗をぬぐう。
もしかすると降りる時にオレの前に立っていた女をすり抜けたんだろうか・・・。
情けない事に車両が見えなくなるまで怖くて顔が上げられなかった。
目的地へはタクシーで行った。

それ以来、地下鉄に乗らなければいけない時はなるべく窓は見ないようにしてる。
あと黒髪ロングの女性が苦味になった。
正面や横向きの時はいいんだけどね・・・。
某地下鉄には二度と乗らないだろうなあ。