38 :本当にあった怖い名無し [] 2019/10/01(火) 20:58:03.12 ID:2Yx7kJW90
「包帯で松葉杖の」と説明すると「そんな人居なかったよ?」と言われ、単純に(この子は誰かが目の前にいてもあんまり気付かない子なんだな)と思った。
それから、上りの電車に乗ると度々彼を見掛けるようになったが、いつも同じ様に一人で松葉杖をついて、大変そうだと思いながら見ていた。
中学に入ると部活動や勉強で忙しくなり、あまり電車に乗ることもなく、彼を見掛ける事もなかったが、
高校に入り通学の為に電車に乗るようになると再び彼を見掛けるようになった。
小学校低学年の頃に初めて見掛けた時と、何も変わらない彼を。あどけない顔に血の滲んだ包帯を巻いた、手のない片足の少年を。
成長しない病気なのかもしれないし、何か、難しい病気なのかもしれない。尚更気の毒だと思った。
しかし、あれだけの怪我を負っている少年を周りが気にしている所を見たこともない。
いや、人様をジロジロ見るなんて普通に失礼な事だからじゃないか、怪奇であるかのように疑いを持つ事自体がそもそも失礼な話だ。
そんな風にモヤモヤと考えていた。

その後、地元を離れ大学に入ってからはあまり地元を訪れることもなくなったが、帰郷の折に一度だけ見掛けた。
20年近く変わらない姿で、電車に乗る彼を。

きさらぎ駅を読んだときにふと思い出したのは、
沿線の風景と、暗闇の中で聞いた、どこか遠くで行われている遠州大念仏の太鼓や鐘の音と、
いつも大変そうだった件の包帯の少年の姿だ。
彼は元気でいるのでしょうか?