石じじいの話です。

じじいの住む地方の町には、他の県とを結ぶ連絡船が出ている港がありました。
昔は一日に何便もありましたが、現在では便数が大幅に減っています。
夜遅く到着する便があったのですが、その便にいつも出迎えに来る女性がいました。
その人は、ほぼ毎日、夜遅い便が到着する頃に桟橋にやって来ます。
しかし、その女性が「人を迎えているところ」を見た人はいませんでした。
それどころか、その人を見知っている人もいない。
そして桟橋にいつ来て、いつ、いなくなるのかもわからない。
港の社員たちの間では、少しだけ話題になっていました。
「彼女は誰だろう?」
「何のために毎日来ているのだろう?」
「いつ来て、いつ去るのか?」
誰にもわかりませんでした。
ただ、ある係員は、桟橋への道を彼女が暗がりから歩いてやって来るのを見たことがあると言っていました。
じじいが友人たちと、友人が港で撮った記念写真を見ていた時に、「あっ、この人が、あの夜来る女だ」ということで、女性のことが話題になったのだそうです。
その友人は、汽船会社に勤めていて、実際に目撃していたのです。
ただ、その写真は昼の便のときに撮影されたものだったので、おかしなことだと。
その女性は夜にしか来なかったそうですから、同一人物だったか不明です。
友人は、絶対にこの人だと言ってゆずらなかったそうですが。
その女性は一人で桟橋に来ていたのですが、ただ一度だけ、小さな男の子の手を引いていたことがあったそうです。
もしかしたら、いつも一人で来るというのではなかったのかもしれません。

「それはだれやったん?」、
「わからん。だれも知らんかったし。戦争が終わってなん年もたっとったけん、復員兵なんどもおらんかったしのう。」
彼女はどこにいったのでしょうか?