>>162
(つづき)
女性は、それにはまったく動ぜず、話すのをやめて空を見上げて(暗かったのですが、そう見えたと)またじじいに向き直り、立ち上がりました。
そして、やってきた方向に向かって歩いて戻っていったそうです。
じじいは、恐怖心と警戒心ですぐには眠れませんでした。。
朝方になって少し眠ったそうですが、目をさますと、いなかったはずの友人が舟の修理にとりかかっていたそうです。
夢かとも思いましたが、投げた木の枝がその場所に残っていたので、そうとも思えない。
じじいは、友人の作業を手伝い、昼頃に島を離れました。
帰る舟のなかで「あれはなんぞ?」といきなり友人に尋ねたところ、
「おおう、あれいおうたか?あがいなもんがあの島にはおるんで。とくに今頃の時期はな。」
詳しくは説明してくれなかったそうです。
「おまえ、昨夜どっかいったか?」とも尋ねましたが、
「いいや、どこへいくんぞ、あがいな狭い島で。お前の横で寝よったやないか。」と友人。
じじいは、あの時、あの女性と話をしたらよかった、惜しいことをした、とすこし後悔したこともあったそうです。

「そんときは、そうそうおもうたけどのう、未練がましゅうしとったらいけんちゅうことやったんかいな。人間、執着心は捨てれんもんよな。」
じじいは笑っていいました。(それは覚えています)