昔、外出先で急に物凄く腹が痛くなってタクシーを捕まえた。
行き先に自宅を指定すると、恐らくワンメーターもない距離だったろうから運転手はあからさまに嫌な顔。
ハッキリと舌打ちも聞こえたけど、俺はそれどころじゃなかったから黙ってた。
冷や汗をだらだら垂らしながら必死に腹痛と戦い(俺は男だがどうやら生理になったらしい)ようやく自宅へ到着。
助かったと思ったのも束の間、財布の中を見ると一万円札が数枚と100円玉2枚だけ。
すみませんと謝りながら一万円札を差し出したが運転手は受け取らなかった。
「お客さん、それはないでしょ?」
そう言うと運転手はアクセルを踏み込み、タクシーを急発進。
焦点の合っていない目で前を見据えながら「地獄を見せてやる、地獄を見せてやる」と繰り返し呟いていた。
昼間のはずなのに何故か窓の外は暗くなっている。
ただ事ではないとミラー越しに運転手の顔を見て俺は驚愕した。

顔がない。

「お前のようなクズは死んでしまえ」
運転手が一言。
すると隣に座っていた、老いてはいるが気品のある女性が立ち上がって言った。
「貴方、幽霊でも言っていいことと悪いことがあるんじゃないかしら」
続いて外国人の男性が立ち上がる。
「ボクの国にも幽霊はいるけどそんなことは言わないよ?」
痛いところを突かれたのか、反論できずに固まる幽霊運転手。
止めを刺すように俺は言った。
「私の顔に見覚えはないかね?」
最初はわけがわからなかった様子だったが、みるみる運転手の顔は青ざめていった。
やっと気付いたか。
「私は君の会社の取締役だ。来年の査定を楽しみにしたまえ」
言い終わると全員が立ち上がって拍手喝采。
俺は走行中のタクシーから降りると、近くにいた学生と握手し、颯爽とその場を去った。
久々にスカっとしましたw