変な伝承で困り果ててる。

小さい頃魚が嫌いだったことがきっかけで俺は祀られてる。
こう書くとほんとおかしな話だ。

祖父の代まで俺の一族は今はもう廃村となった村に住んでいた。
ちなみに今は俺の一家含め都会人。
その村では、水神信仰があった。俺にはその水神がついてきたってことにされてる。
なんでも、水神はかなり老齢なのに大変やんちゃな迷惑者と思われてたらしい。
ただ一つ弱みがあって、それが大の鱗嫌い。
村の近くを流れる川の縁には昔から不思議と鱗が散乱していたんだとさ。

ある年村の祭祀がもしやこれはと試しに鱗を全てとった魚を供え、村の大事な山道の土砂崩れがおきやすいあたりは鱗を挟んだ石垣をそなえた。
すると、これが効果てきめんで、それまでは祟り神のように扱われていた水神はそれ以来守り神となったそうだ。

ま、こんな迷信普通土地を離れたら消えるよな。
ところが、廃村になって村人が去った後に村の近くにとおされた国道が
もっと頑丈なコンクリートとかを使っていても不思議と土砂崩れの被害が多かった。
都会に移り住んだ元村人達がそれを伝え聞いて、益々迷信を深めてしまったらしい。

はた迷惑なのは、俺もやたらと魚を供えられる。それも川魚。
とくにえらっそうに髭はやしてる鯰とかみるとむしゃくしゃする。
そのちょびひげみたいなのはひっこぬいてやりたいし、見せつけるようにきらきら輝く鱗をとって丸裸にしてやりたい。
海の魚なら我慢もするのに、やれ快晴祈願だ雨乞い祈願だと何かにつけて鮎やら鯉やら届くものだから本当にたまらん。