この状況に私は驚いた。しかし頭の中は。

──滑り止めが有って無いようなサンダル履いてるからこうなるんだよ。ってか宙に浮いて移動しないんかーい。
というツッコミでいっぱいだ。
でも、さすがに可哀想になってそのツッコミは入れなかったけど。

「大丈夫ですか、立てます……よね? 」

とりあえず声をかけてみたが、神様は地面に突っ伏したままだ。顔は分からないけど身体が小刻みに震え、長い金髪の隙間から見える耳が赤く染ってるのが見えた。思いもよらぬアクシデントに見舞われたせいだろう。まあ弘法大師も筆を誤ったんだし。神様もバナナの皮で転んでも仕方ないか。

何度も声をかけたけど神様はおきあがろうとしない。どうしよう……ここは助けるべきなのか? でも転んだ事が恥ずかしくて動かないのなら、話しかけない方が無難なような気がする。私に『伝えること』があって舞い降りたのだから、少し時間が経てば何事も無かったかのように立ち上がり、神々しいお姿で伝えてくれるだろう……多分。だからちょっと突き放し気味な事を言ってしまった。

「あのー何も無いなら、私……先に家帰っても良いですか」

言ったそばから、神様はがばりと顔上げて叫んだ。

「なんで帰るのよ!空気読んでよ!私は神様なのよ!手を差し伸べなさいよ!それに擦りむいちゃったんだから!優しくしてよ!!」

しかも神様は子供のように足をばたつかせ「せっかく綺麗に舞い降りれたのにぃ!!転ぶとか最悪だぁ!!バカバカばかぁ」と叫んでわんわん泣き出した。

あぁどうしよう。こんな大声で泣かれたら、いくら、神様とは言え放置できない。ええぃ、仕方ない。
私は神様の手をとって起き上がらせる下宿先のアパートへ連れていき、擦りむいたところにマキロン塗って絆創膏貼ってあげた。
「すごい染みる。もっと……優しく塗って」と神様がしゃくりあげながら言ったので。
「神様、あなたは幼稚園児ですか?このくらいの痛みで情けない」と叱りたくなったが、殊勝な態度が愛らしかったので見なかったことにした。
くそう、これだから美人は嫌いなんだ。

結局、私は振られたことの悲しみに浸ることなく、その日を終えた。
そして神様は何故か、私の作ったご飯を食べ、私より先にシャワーを浴び私のパジャマを来てベッドを占拠していた。

「貴女、明日も大学で一限から授業があるのでしょう。早く寝なさい」と美しい微笑みを浮かべ私の為に半分スペースを開けてくれた。
──さすが神様!!私の事を思っておられるのですね! 優しい!!
と、一瞬感動したけど、そこは私のベッドなんだよなぁと呆れたが……まあいいかとスルーする事にした。

私は神様に言われるままベッドに入る。
ベッドは神様の体温で良い感じに温まってていて、潜った途端に睡魔がすぐにやってきた。

「ねぇ、神様。私に何か伝えたい事あったんでしょう」

私は寝てしまう前に神様へ尋ねてみた。
大切な事のような気がしたからだ。

「人の子よ。遅いから、また明日にしましょう」
と神々しいお言葉とともに恭しく頭を撫でられてだけで教えてくれなかった。

転んだだけで泣いてしまう神様から子供扱いされるのはなんだかなあと思った、怒る気はまったく起きなかった。

「それでは寝ますよ。おやすみなさい」と神様が言ったら、何故か部屋の明かりが消えたしまった。でも眠かったから気にせず私も「おやすみなさい」と言って目をつむる。

明日には聞けるといいなぁ。