俺は幼い頃からある衝動が抑えきれなかった。
 今いるのは山奥の小屋、俺の身体は返り血に染まっている。
 ぐちゅぐちゅと血肉が滴り落ちていく。高揚感と共に、俺の心のナニカが満たされていく。
「あァ、やっぱり殺しは最高だ」
 内臓を丁寧に取った後は、羽根をむしって首を落とす。
 中に香辛料を詰めて鍋に入れると、完了だ。
 ぐつぐつと煮えた鍋、ちょうどいい時間で蓋を開けると最高の匂いが鼻腔を擽る。
「鳥はうめぇな……」
 初めは虫だった。ぷちぷちと殺すのが快感で止められなかった。次は兎、殺しても食べられるのが良かった。
 そして鳥、食欲も満たされるのがいい。そして猪、デカくて殺りがいがある。
 だが一行に満たされない。
 人を殺してみたい。そう思うのはごく自然なことだったかもしれない。
 今までの殺しじゃ、俺のナニカを満たすことはできなかった。だが捕まりたくはない。
 幽閉されるのが怖いんじゃない、殺しが出来なくなるのが怖いのだ。
 そして俺はある少年と出会った。まだほんの高校生だろう。
 こんな樹海にいるなんて、死にたくてたまらないんだろうなァ。
「よお、元気か? つっても、こんな所にいる奴がそんなわけないよな」
「……そうだね」
 顔に生気はない。俺は脳みそを振り絞って考えたのだ。ここは自殺の名所、法律で許されているわけじゃないが、待っていれば死にたい奴が向こうからやってくる。
 甚振るのは趣味じゃない。ただ純粋に命を奪う瞬間が堪らなく愉しい。
 おそらく俺はナニカが壊れている。だがそれは今この世界での話だ。
 過去や未来、時代が違えば俺の脳は正常認定されていたかもしれない。もしこの事を誰かに話せば戦場に行けばいいと言われるだろう。
 だが俺は殺しがしたいだけで自身が死ぬ状況は嫌だ。自己中心的だとは思うが、人間ってそんなもんだろう?
「なァ、俺の願望を叶えさせてくれないか?」
「……願望?」
 華奢な体、学校の制服を着ている所を見ると、虐めか、それとも家庭環境か。
 まァ、そんなことはどうでもいい。俺が取りたいのは許可だ。
 他人に頼まれて殺人を犯すと嘱託殺人となり、もし逮捕されても罪が大幅に減刑される。
 この衝動は抑えられない。だからこそ、最善の策を取りたかった。
 そして俺はこの見ず知らずの少年に全てを話した。笑っちまうかもしれないが、心の内を明かした初めての相手となった。
 少年は余計な言葉を挟まずに最後まで聞いてくれた。
 そしてもちろん、承諾してくれた。が――。
「条件だァ?」
「ああ、その後に、僕を殺してほしい」
 クソ面倒臭い。俺は気軽に殺しをしたかった。だが当てが外れた。他の奴を探すか?
 だがこいつがもし自殺を取り止めて警察に俺の事を話したら? 俺が逮捕される?
 やっぱ殺すか。
「……条件はなんだ?」
 だがまあ聞いてからでも遅くはない。返答次第では問答無用で殺せばいいだけだ。
 プラン変更、最悪な手だが、仕方がない。
「親を、殺してほしい」
 次は少年の番だった。聞けばこいつの親はマジの糞で、聞いている内に俺のナニカが溢れそうだった。
 そして最後、俺は今までの考えを全て撤回し、なぜか首を縦に振っていた。
 数日後、俺はある家を訪れていた。予め預かっていた鍵で中に入ると、睡眠薬で眠っている夫婦がいた。
 俺はそいつらを――。
 その後のことは覚えていない。愉しくて愉しくて、つい忘れちまった。
 程なくして二階から少年が降りて来る。任務完了と伝えると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
 そして俺は少年の首にナイフを向けた。こいつを殺して全てが完了。
 その後の事は考えてなかった。今までリスクばかり考えていたのに、おそらくだが殺すに値する人間の話を聞いて限界を超えてしまったんだろう。単純に言えば、欲望に負けたって奴だ。
 タバコが吸いたくても我慢できない奴がいる。そんな感じゃねえか?
「……ねえ、もっと一緒に殺さない?他」
「あァ?」
 すると少年は、突然に紙を見せつけてきた。そこには名前とそいつが行った犯罪が書かれている。
「何だこれは?」
「……僕の特技はパソコンだ。そしてこいつらは、政治的な理由や上位国民というだけで、裁かれずにいる犯罪者たちだ」
 聞けば全員がゴミ以下だった。また俺のナニカが溢れ出る。
 そして気づいた。俺の衝動は殺意だと思ったが違う。
 人に仇をなす害虫共を殺したい欲求だったのだ。だから今、満たされている。
「少年、証拠隠滅の方法も調べてくれるよなァ?」
「ああ、もちろんだ。僕もこの腐った世の中が許せない」