師も走るというくらいの季節なので、
村長ともなると大忙しだ。


今日も早くから針葉樹の飾りつけやら、
色が落ち始めた冬至の立て看板の塗り直しやら、
雪かきが間に合わず玄関が埋まってしまった住人の救出やら、
公共事業のイルミネーションを冬限定で設置したりやらでナギは走り回っている。
その後ろを鈴を鳴らしながら、秘書のしずえがとことこと付いていく。



「ナギくん、今日も忙しそうだねえ・・グフフ」

カフェのカウンターに座り、その様子を窓から眺めながら
ひっくり返したドロップ缶のようにカラフルなヒツジが呟いた。

「12月に入ってからずっとああだな・・帰りも遅ぇし、日曜は寝てばかりだしよ、のな」
「まるで奥さんのような物言いだねぇ」

その言葉にぶふぉとコーヒーを吐き、マスターにじろりと睨まれてしまったのはオオカミのロボ。

村では年長者の部類で、言葉使いはやや粗暴だが面倒見が良く豪胆な性格から村人たちからは慕われている。
星の海のような青い毛色に切れ上がった黒い目、背も高くカウンターに座る姿も様になっている。
村長のナギとは3年前から懇意の仲で、村公認だ。


「ボクの説明は1行だけだったのに・・・・」
「あぁ?なんだよジュペ公」
「いや、なんでもないよ、グフフ。まあボクらが村仕事に狩り出されるのも時間の問題だと思うよ」
「・・・・・・その前にだ、こうしてお前ぇにコーヒーを奢ってる理由をそろそろ話してぇんだけどよ、のな」
「ボクの美しさにカンパイ、と言ったところかな?」
「その角引っこ抜いて笛にしてアルプスに送るぞ。・・・・クリスマス、なんだけどよ」

ロボが照れながら視線を逸らすと、

「悪いね、ボクはフリルさんをストーキングする予定だからキミとはデート出来ないんだ、グフフ」
「・・・・・」

そのモコモコ毛にまとったマフラーをぎりぎりと締め上げる。

「ロープ!ロープだよロボくん!!」

更にマスターに睨まれてしまったので、並んで大人しく席に着き直すと、

「・・・・・ストーキングの件は交番に届けるとしてだ。お前ぇ、アレだろ・・・れ、恋愛沙汰にはそれなりに詳しいんだろ?・・・こういう時の人間の作法とかよ・・・のな」
「届けんといて!・・・・まぁ、君よりは知ってるかもね。何が聞きたいんだい?グフフ」

頭を小突き合わせると、ロボのシャツの胸元からシトラスに似た香りがする。
どうぶつだから多少の体臭は致し方無いと諦める者が多い中で、
こういうこだわりは彼らしいなと思った。