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レトロファンタジーTRPG
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0001レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/05/31(日) 21:18:54.91ID:Nni+ZiO2
ここはアースギア……。
五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。


◆概要
・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。
0229レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/02/16(火) 23:10:27.21ID:IA0lxvyB
剣に鎖分銅が絡みついていることなどものともせず、フェヌグリークは接近を敢行した。
レインが鎌を構えているにも関わらず、ステゴロの肉弾戦に持ち込もうというらしい。

「馬鹿な――こっちにはまだ武器があるんだぞ!」

左手に持った鎌を振り回して距離を置きつつ、内心焦った。
鎖鎌を選んだのは、剣相手に距離をとった戦いができ、鎖を使って楽に無力化できると踏んだからだ。
相手を殺傷するためじゃない。よってその攻撃は急所を外した完全な牽制となる。

「"視え"てんだよッ!」

レインに誤算があったとすれば、フェヌグリークの"目"が想定以上に優れていたこと。
そして、危険を顧みずに前進できる無鉄砲さを持ち合わせていることだ。
フェヌグリークは左腕を振りかぶると、無造作に殴りかかった。
スウェーで避けるが、二度、三度と連続で拳が降りかかる。

「俺は『勇者』って職業が嫌いなんだよ!大した努力もせず、
 くだらねぇ神託と試練を受けただけで大層な力に目覚めやがる!」

拳が何度も掠めるうち、避け切れず一発が頬に命中した。
視界がちかちかと明滅し、痛みが顔に走る。
"まずい"のはダメージより隙を生んでしまったことだ。
フェヌグリークはそのチャンスを逃さず鳩尾にボディーブローを叩き込む。

「中には神の恩恵からあぶれた野郎もいるらしいがなぁ!お前のことだよ!!
 痛いだろ!苦しいだろ!『強者』に甚振られる気分はどうだ!これが実力差だ!
 俺達に歯向かったらどうなるか、徹底的に身体に教え込まれる気分はどうだ!?」

剣に絡みつく鎖を引っ張って、距離を取ろうとするレインを強引に引き寄せる。
膂力では悲しいまでにフェヌグリークの方が上だ。抵抗しても耐えられない。
堪らず召喚を解除しかけたが――鎖分銅が無くなれば相手が剣を使えるようになってしまう。

「いつだって『弱者』は這い蹲るしかねぇのさ!守ってくれる奴なんていやしない!
 何もできない奴は誰からも嫌われてゴミみたいに扱われるだけだからな!!
 それが嫌だってんなら『強者』に媚びるか『自分より弱い奴』を探すしかない!!」

大きく振りかぶって、レインの顔面に再び拳を叩き込んだ。
有無を言わせぬクリーンヒット。踏ん張って倒れるのを耐えはしたが。
倒れようが倒れまいが待ちうけているのは更なる加虐。

「覚悟しろ――これは『戦い』じゃねえ、一方的な『制裁』だっ!!」

顎に渾身の正拳を叩き込もうとするや、それは叶わなかった。
フェヌグリークはとっさに拳をひっこめて身を捻ると、背後からの水弾を躱す。
0230レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/02/16(火) 23:12:28.90ID:IA0lxvyB
完璧な不意打ちだったが、なぜマグリットの攻撃に気づけたか。
レインの視線が自分から一瞬外れたのを見逃さなかったためだ。

「ちッ、何やってんだアサフェティ!」

不意打ちとしては失敗に終わったが、援護としては十分だ。
レインはよろめきながらバックステップで距離を空けた。

顔の血を拭きながら体力の回復に努める。幸いなことに致命傷は受けていない。
拳が命中する瞬間、身を引いて衝撃を逃がしていたおかげである。
そのため怪我は一見派手だが、骨が折れたりしているわけではない。

「……ひとつ言いたいことがあります。あなたは間違っている」

「ガキの癖に説教か。お前と論じる気はない。
 道徳や規範さえも踏み躙れるのが真の『強者』だからな」

鎖が絡みつく剣の先端で地面を突っついて、フェヌグリークはそう答えた。
また先程のように鎖のひっぱりあいになればレインが不利。

「……『どう生きても自由だが力の使い道は誤るな』と……。
 師匠からそう教わりました……力には責任が伴う。強者なら尚更です。
 事情は知りませんが、魔王軍のように誰かを傷つける使い方は間違っている」

フェヌグリークは手の内を隠したまま勝てる相手ではない。
ゆえに切り札の開帳を決心させるには十分だった。
一呼吸置いて、レインは最後に言葉をつけたす。

「……暴力だけが、あなたの力の使い道じゃないはずです」

「なんだ。俺を改心させたいのか?」

「いえ……ただこの後、『初心者狩り』は廃業になるでしょう。
 フェヌグリークさん……これからは新しい生き方を探してください」

瞬間、レインの身体を魔法陣が包み込む。
その姿を新たな姿へと変えるために。
0231レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/02/16(火) 23:14:18.32ID:IA0lxvyB
レインの魔法陣を見て、経験と勘からフェヌグリークは決着を急いだ。
鎖を引っ張り、再びインファイトに持ち込もうとして――彼は宙を舞った。

「なに――」

逆転する天地の中で彼が見たのは、赤を基調とした民族衣装を身に纏った少年だった。
身の丈ほどある大剣を背負い、腕には籠手を着けている。そして手には鎖鎌。
鎖のひっぱりあいに負けたフェヌグリークは、恐ろしいほどの膂力で、弧を描きつつ宙にかち上げられたのだ。

「召喚変身……"紅炎の剣士"!」

弧の頂点に達すると、フェヌグリークはレイン目掛けて落下する。
"紅炎の剣士"となったレインは半身となって左手を前に、右拳をひく。

(……この状態じゃあ防御するしかねぇか!)

両腕を交差させて攻撃を防ごうとするフェヌグリークの考えは誤りだった。
装備、紅炎の剣士はレインが持つ三つの切り札のひとつだ。
"天空の聖弓兵"、"清冽の槍術士"と並び魔導具も備えている。

その名は『豪腕の籠手』。
装備する者の魔力に応じて膂力を向上させる魔導具。
その効果は単純にして強力。本来は主武器たる大剣を振り回すための装備だが――。
――フェヌグリークを倒すには、籠手の拳で十分だ。

「……――ぉぉぉおおおっ!!!!」

裂帛の気合いと共に放たれた正拳は、落下してきたフェヌグリークに命中した。
両腕のガードの上から、その恐ろしいまでの『豪腕』を以って腹部に大ダメージを与える。

「がはっ――……!」

内臓を損傷したフェヌグリークは最早戦える状態ではない。
血反吐を吐きながらその場に倒れ込むと、朦朧とする意識でレインを見上げる。
燃え盛る炎のような姿。彼の目には、レインがかの炎神フラマルスの如く映った。

(そ、そうか……こいつも俺と同じ……)

レインはただの『弱者』などではない。
自分と同じ、努力によって力を磨いた『戦士』だ。拳一発で逆転負けした今、そう確信できた。
そう思えるようになると、途端に不貞腐れたように故郷を去り、弱者を虐めるだけの己を恥じた。
いや……レインだけではない。これまで獲物にしてきた者は、多かれ少なかれそうだったのだろう。
0232レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/02/16(火) 23:16:22.29ID:IA0lxvyB
はじめはただ強さを求めて邁進していただけだったのに……。
いつからだろう。魔王軍のような思想を持つようになったのは。

力が全て……強さが全て。兵士であった頃の自分はどうだったか。
何のために強さを求めていたのか――それは、人々を守るためではなかったか。
力の使い道は同じだったはずなのに、どうしてこれほどまでに堕落してしまったのだろう。
フェヌグリークは何かを話そうとしたが、意識は段々と薄れ、やがて昏倒した。

(……危なかった。マグリットの援護がなければ負けていたかもしれない)

どうやらマグリットの方も決着はついたらしい。
だが、目に飛び込んだのはなぜかビキニアーマーにコスチュームチェンジした姿だ。
よもや魔法の効果によって止血するためとは思うまい。レインはただぎょっと驚くばかりである。

(と、ともかく……今は残ったシナムを何とかしないと!)

クロムが戦っている最中だ。悠長な状況ではない。
そのうえ、シナムが持っているボロボロの盾。なにか不気味だ。

(あの妖しい気配。クロムの剣にどことなく似ているような……)

遠目のため確証はないが、何か特殊な効果を持っているかもしれない。
でなければあんなボロボロの盾を好んで装備するとは思えない、というのもある。
シナムは残念そうな顔をすると、魔力を練り上げながらこう言い放った。

「あらら……二人とも負けちゃったのか。俺が全員片付けるはめになっちゃったじゃない」

三人を『コキュートスジェイル』の対象から外したのは、
クロムを味方に引き込めると思ってのことだが……。
かえってそれが裏目に出る結果となってしまった。

「まぁいいさ。これで纏めて凍っちゃいなよ!」

魔法陣が空中に浮かび上がり、放たれたのは氷の上位魔法。
周辺全てを凍てつかせる吹雪『ヘブンズブリザード』だ。
シナムは氷魔法を高度に修めた魔法剣士である。
だから威力を無視すればどんな氷魔法でも無詠唱で放てる。
0233レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/02/16(火) 23:18:38.60ID:IA0lxvyB
吹きつける猛吹雪を前に、背中の大剣を引き抜いてマグリットの盾となる。
更にその場に剣を突き立てた。この紅炎の剣『スヴァローグ』は、熱をもち炎を放つ。
柄を握りしめて魔力を送れば、氷属性の弱点たる炎の壁と化す。

「ノータイムで上位魔法を使ってくるとは……!
 クロムは大丈夫なのか……!?」

今の装備の影響か、クロムはこれまでの探索でも魔法に対し耐性を持っているようだった。
すぐに氷漬けということはないだろうが、吹雪を浴びればダメージは避けられないだろう。
そして、この寒さ。手はかじかみ、筋肉は硬直する。動きが鈍るのもまた必定だ。

「この吹雪は俺が魔力を供給する限り続く。すぐに止むなんて思わない方がいいよ」

"紅炎の剣士"は炎属性の装備であり、風や氷属性の威力を半減してくれる。
無理に突っ込めなくもないが、いま飛び出せばマグリットがモロに魔法を食らってしまう。
さしもの彼女といえど、負傷中の身で魔法を浴びればただでは済まないだろう。

「……っと、君との決着の前に。運命のルーレット回しちゃうかなぁ!?」

シナムが機嫌良く叫ぶと、装備している盾に自分の剣を刺した。
つまり『魔鏡の盾』に。攻撃を自分以外の人間大のモノに反射する防具に。
そう、この盾は単に攻撃を防御する意外にも使い道があるのだ。
――ランダムで防御無視の確定ダメージを与える凶悪な"武器"として。

「シナムはいきなりどうしたんだ……?」

その効果はすぐに現われた。
レインは足に鋭い痛みを感じると、耐えきれずに膝をつく。
視線を落とせば、右足から血が滲んでいるのが見えた。

「そ、そうか……"そういう"防具か……!」

盾の力を体感したレインはその反射効果を察した。
もっとも先程クロムが全力で放った一撃の反射に比べれば、適当な刺突だ。
それほどの深手にはなり得ない。あくまで普通の刺し傷程度であろう。
が、レインは運悪く足に傷を負ってしまい、クロムの助っ人どころか動き回るのも難しくなった。

「おっ……いいねぇ。それじゃあいい加減"怠け者"を仕留めますか」

不気味な笑みを浮かべると、クロムを包囲するように魔法陣が浮かぶ。
これも氷魔法のひとつ。中位に位置する攻撃魔法『フロストジャベリン』だ。
氷の槍を無数に放つ魔法が、容赦なくクロムに襲い掛かる。


【フェヌグリークを召喚変身にて撃破。その後足の負傷につき動けず】
【周囲に上位魔法の吹雪が吹き荒れ、クロム目掛けて無数の氷の槍が迫る】
0234クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/02/21(日) 19:55:25.37ID:XIqwPpIN
「随分な言い様だなぁ。所詮、力を得る為に人間《大切な何か》を捨てた仲間《気狂い》同士だろう?
 まさか自分だけは“まとも”だとでも言うつもりかい?」

「俺は品性まで捨ててきた覚えは無いんでね。
 お前の場合はそれも捨てて来ちまったのかそれとも元々ありはしないのか……さて判断に困るところだな」

「……なるほど、手段は選ぶか。けど、そんな甘い考えだと却って仲間も、自分自身も苦しめることになるんじゃないか?」

「──!」

不意に鼓膜を打った斬撃の炸裂音は、クロムの目を無意識にその方向へと向けさせた。

「マグリット……!」

そうして飛び込んできたのは、胴を深く斬り裂かれ激しく流血する驚き顔のマグリット。
対するアサフェティの顔には獲物を刻んだ愉悦は無く、代わって事情を呑み込めないといわんばかりの硬直した表情のみが浮かんでいる。
それはマグリットだけではない、アサフェティにとっても目の前の光景がイレギュラーな事態だったことを意味している。
──恐らく盾が吸収した“クロムの斬撃”。吐き出された不可避のそれを、マグリットが受けたのだ。このタイミングで。

>「ははははっ! 運がないのはお前の仲間の女だったようだな!」

「……」

「分かったろう? 仲間の身なんぞをいちいち案じるような奴が却って仲間を傷付けちまうんだってことが!
 幸運の女神はより度胸のある男に媚びを売る──だから手段を選ぶような軟弱野郎じゃ俺には勝てないのさ!」

得意気に高笑いしつつ、一歩、煽る様に音を立てて踏み出すシナム。
だが、目の端でそれを捉えながらも慌てる事なくゆっくり目を戻したクロムは──やがて嘲る様に鼻で笑みを漏らした。

「どうかな。お前が手懐けたその幸運の女神……今度からは仲間にも媚びを売るように躾けておくといいぜ」

途端にシナムの視線が周囲を索敵するかのように左右に散り、高笑いが止まる。
クロムに遅れる事数秒、どうやら彼も気が付いたらしい。
フェヌグリークがレインに敗れ去り、アサフェティもまたそれに続く様にマグリットに敗れ去った事実に。

>「あらら……二人とも負けちゃったのか。俺が全員片付けるはめになっちゃったじゃない」

と、残念そうにシナムは言うが、恐らく彼が残念がっているのは仲間の敗北という事実それ自体ではない。
一人で三人を始末する面倒な事態を残念がっているのだ。
薄々察していたことだが、彼にとって二人はレイン抹殺の為に利用しただけの所詮は使い捨てだったのだろう。
ラングミュアという大幹部がダゴンを利用したように。
後に二人から情報を聞き出そうとしても、結局、何一つ重要な情報は得られずに終わるに違いない。

「──チィ!」

──突然何かが空間を吹き荒れ、思わずクロムを強く舌打ちさせた。
風か? ──否。それは極地の寒風を思わせる突き刺すような凍てつく殺気。
しかし、シナムの頭上に浮かび上がる魔法陣が、それを本物の冷気に変えるまでコンマ数秒とかからなかった。

「ぐっ……!!」

腕を顔の前でクロスさせ、クロムは“それ”に歯を食いしばる。
相手が並の装備、あるいは並の戦士であれば、瞬時に絶命させることができる高位の魔法──
強烈な極寒の冷気を勢いよく放出することで、局地的な大吹雪を発生させる氷魔法・『ヘブンズブリザード』に。

『反魔の装束』がその威力を半分は殺してくれる。お陰で命が凍り付く事は無い。そう、少なくとも一撃では。
──それは言い換えれば連続で長時間、同規模の吹雪を浴びせられればその限りではなくなるということだ。
当たり前だが殺し切れなかった威力は、衣のガードを突き破って生身の肉体に打ち込まれる運命なのだから。
初めは皮膚、次にその内側の肉……更に長時間の猛攻に晒されれば、終いには骨までが完全に凍り付くだろう。
0235クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/02/21(日) 19:57:31.21ID:XIqwPpIN
(やはり時間は味方しちゃくれねぇな。……魔力が尽きるのを耐えて待つわけにはいかねぇ、か)

>「おっ……いいねぇ。それじゃあいい加減"怠け者"を仕留めますか」

一旦、攻撃の矛先がレインに向いたのも束の間であった。
シナムの殺気に満ちた視線が再びクロムに注がれると同時、その殺気を具現化したかのような氷の槍が空中に出現したのである。

「こんな氷のオモチャで仕留めようってか? 俺も見くびられたもんだ」

しかし、大軍が城を取り囲むが如く、クロムの全方位を埋め尽くす無数の槍を見渡しながら、クロムは不敵に笑った。

「ははは、君を見くびっているかどうかは直ぐに判るさ!」

笑い返すシナムがパチン──と指を鳴らす。
それは正しく大軍の将が兵士に示した“総攻撃”の合図であった。
──その冷たく鋭い鋒を突き立てんと、情け容赦なく一斉に殺到する凶器の群れ。

(これで終わらせる。頼むぜ……俺の思った通りに行ってくれよ)

それに対し、クロムが取った行動は前進。地面を思い切り蹴っての急加速。
剣を素早く十字に振るいながら前面を埋め尽くす弾幕さながらの氷の槍衾に自ら突っ込んだのである。
その場に留まり奮戦したところでもはやダメージは免れない。ならば、前後左右上下いずれかに強行突破を図る。
その方がむしろ留まるよりも、ダメージは余程小さく済むであろうというのがクロムの考えであった。

「──おおおおおおおおおおおっ!!」

衝突する十字の黒閃と氷の弾幕。
その直後、弾幕の一部を見事十字型に切り開いて、刃のみが殺到する無慈悲な処刑空間から飛び出すクロム。
全身に大小無数の切り傷、刺し傷を負いながら、それでも深手は一つもない。
つまり強行突破は成功。判断は正解だったのである。
となれば、後は戦いそのものを終わらせる為にシナム目掛けて全速で駆け、再び黒剣を振るうのみ。

「────…………地獄を巡れ」

「!」

だが──首を狙って横薙ぎに振るわれた必殺の刃も、シナムの剣によってあっさりと阻まれてしまう。
いや、重要なのはもはやその点ではない。
剣と剣が交錯し、その衝突音が響き渡る中、シナムは確かに紡いでいたのだ。まだ記憶に新しい“呪文”を。

「『コキュートスジェイル』! 本命はこっちさ! はははははははは!」

咄嗟に刃を引くクロムを、もはや遅いと言うように四方から覆い尽くす結界の牢屋。
あのゴロツキ達が証明したように、それに囚われた者を待つのは氷結地獄行きの運命ただ一つ。

「────」

沈黙するクロム。いや、もはやその場に在るのは、クロムの形をした物言わぬ氷像でしかなかった。

「君の言う通り、『フロストジャベリン』じゃ殺せないことくらい分かっていたよ、初めからねぇ。
 だから地獄を用意して待ってたんだよ、飛び出してくるのをさぁ!
 ほんの少しだけ手こずったけど、所詮は俺の敵じゃない。くくくくく、あはははははははは!」

笑う。シナムは勝利を確信した高笑いを響き渡らせる。
しかし、やがて永遠に続くかと思われたそれを止めたのは、生き残った召喚の勇者でもなければ獣人の伝道師でもなく──

「……は?」

体を凍てつかせ息絶えたはずのクロムであった。
シナムは見たのである。氷像と化し凍り付いたはずの彼の目が、一瞬、僅かに動いたのを。
0236クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/02/21(日) 19:59:40.82ID:XIqwPpIN
「なっ──────あ゛っ!?」

剥がれ落ちていく氷。露になった、生きた皮膚。
脈動する筋肉が生み出すは、溢れ出る闘志と殺意の具現化物──超高速の逆袈裟斬り。
完全に不意を突かれたシナムが、それを躱すことは不可能であった。

「ば、馬鹿なっ……!! 完全詠唱の拘束結界魔法だぞっ……!! 動ける筈が……!?」

どぱっ、と真っ赤な血を空中に噴き上げながら、シナムはふらふらと後退る。
その血走った眼が睨むのは、全身を覆っていた氷を完全に払い落し、その場に仁王立ちするクロム。

「俺は魔法が使えないが、その代わりに耐性があってね。この戦いではそれが唯一、俺がお前に勝る点だった」

「……耐性……!?」

「だが、戦いが長期化してお前が魔法を使えば使う程、俺の異常なタフさにやがて気が付く事になるだろう。
 俺は体力を更に削られた挙句、唯一の強みも失う。そうなったらもう劣勢を挽回するのは絶望的だ。
 だから……俺は戦いが長期化する前に、お前に勝利を確信させる状況を作り出しておきたかったんだ。
 ……あの氷の槍を見て俺が笑ったのは、『コキュートスジェイル』を引き出す為の挑発のつもりだったんだよ。
 まぁ、その必要もなく元々氷の槍は布石だったようだが……」

「! そ、そうか……“氷漬けにされる”のを待っていやがったのか……!
 俺に見抜かれる前に、反撃できないほど体力を削られる前に……俺を油断させてそこを討つのが狙いだったのか!」

「一時はどうなることかと思ったが……勝利の女神だけはお前じゃなく、俺に微笑んでくれたようだ」

クロムは口角を上げて思わずしたり顔を見せつけるが、傷口を抑えながらシナムもまた冷ややかに笑い返した。

「どうかな……? 確かに思わぬ深手を負ったが、それでも“致命傷”じゃない。
 ククク、残された力だけでもお前ら死にぞこないを片付けるのはわけもな──」

「残念だが──お前の“剣”の方は“致命傷”だったようだぜ?」

「ッ!?」

だが、クロムが顎をしゃくった先に視線を合わせた途端、その顔も一気に強張るのだった。
何故なら刀身が根元から無くなっているのだから。
先程の逆袈裟の斬撃が、“ミスリル製”の剣までをも切り裂いていたことに気付かされれば、流石に衝撃が小さい筈もない。

「別に驚くことはねぇよ。希少金属という意味じゃ、俺の剣もそいつに負けちゃいねぇからな」

「そういうことか……。確かに君の言う通りだったな。ちょっと見くびってたみたいだ、君の……いや、君達のことを。
 ……良ぉく分かったよ、ここは一旦退いた方が賢明だってことがねぇ……」

言いながら、シナムは腰から下げていた小さな袋を取り出す。
食料袋にしては小さいので、薬草などを入れる道具袋だろうか。
ただ、気になるのは『退く』と明言した男が、この期に及んで何の道具を使う気なのか、という点だが……。

「次は必ず仕留めてみせる。俺の“本当の愛刀”と“本当の仲間”でね」

シナムが袋を自らの頭上に投げ、その中身を空中に飛散させる。
それは黄金に光り輝く粉──。しかし、ただの金粉などではない。
空中を舞っていたそれらが、やがて見た事も無い黄金の魔法陣を形作って弾け、シナムを覆う黄金の結界を生み出したからだ。

(魔導具──)

「今度は最初から本気で行く。全力でその命、狩らせて貰う。その日まで精々、腕を磨いておくことだね。ククククク──」

周囲を照らす金色の光が、次第に空間そのものに?み込まれていくかのように消失していく。
──光が完全に消えた時、それまでそこに在った結界もシナムの肉体も、完全に消え失せていた。
0237クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/02/21(日) 20:01:39.97ID:XIqwPpIN
「気配も感じない。……こいつは噂に聞く『転送魔法』というやつか。あの妙な粉が発動装置だったらしいな」

誰に言うでもなく独り言のように呟きながら、クロムはやや硬い表情でレインとマグリットを見やった。
が、そこで思わぬ“異変”を目の当たりにして、全く別の意味でまた顔を硬くするのであった。

「ったくよぉ……獣人ってのは何考えてんだか、たまに分からなくなるぜ」

どういうわけかビキニアーマー姿となっているマグリットに、たまらず溜息を投げかける。仕方がない。
アサフェティの敗北を確認した直後に意識を彼女から離したクロムには、然る事情から今の格好となった経緯など知る由もないのだ。

「恐らく止血じゃよ。『ビキニアーマー』が持つ魔法効果を利用しての、応急処置と言ったところじゃな」

「……あんたは」

不意の背後からの声に、クロムは薄く目を細めた。
振り返ればそこにはのそのそと歩み寄って来る一人のドワーフの姿が──『斧砕きのドルヴェイク』である。

「お主と話すのは初めてじゃが、今更お互い自己紹介の必要もないじゃろ。のぅ、クロムとやら」

「……『ビキニアーマー』にそんな効果があるとは初耳だな。年の功ってやつか」

「なに、儂にそう語り掛けて来とるだけじゃ。長く生きてれば聞こえてくるようになるんじゃよ、“物”の声がのぅ」

クロムが手にする黒剣をじっと見つめて、ドルヴェイクは言葉を続ける。

「その剣でミスリルの剣と“相討ち”に持ち込むとはのう。いやはや聞きしに勝る腕前じゃ」

その時だった。突然、黒剣の鋒に大小無数の亀裂が生じ、そこだけが内部から爆破されたかのように弾け飛んだのは。
それはあたかも『相討ち』の言葉が起爆の合図になっていたかのようであった。
クロムは、鋒を失い、剣としての体裁をも同時に失った己の愛刀を一瞥することなく、ただドルヴェイクを見据え続けていた。

「気が付いてたのか」

「お主の剣がそう語り掛けて来たのでの。弱った剣で一方的にミスリルの剣を叩き割るなど、土台無理な話じゃて」

「無理をしなきゃあいつを退けることはできなかった。黒剣《こいつ》が死んでも俺達の命が助かったなら、安いもんだ」

「……いや、その剣はまだ死んではおらぬ」

「なに?」と、怪訝な顔をするクロムに、ドルヴェイクは「死んではおらぬ」と再度言って、再び歩き始める。
そして今度はクロムを背にする形を取って立ち止まると、振り返らずに虚空を見つめた。

「人にも命があるように、物にも命がある。命尽きた物は、何も言わん。人の躯が何も言えんようにな。
 じゃが……その剣からはまだ声が聞こえるんじゃ。『まだ生きられる』という声がの……」

「……。つまり、この剣は直せる──いや、“あんたなら”直せる……と?」

「……儂ができるのは精々、残った刀身に新たに鋒を拵えてやり、“小刀《脇差》”として再生させるくらいじゃよ。
 黒妖石は接着の修復が可能なような楽な素材とは違うのでの」

「……剣が言う『まだ生きられる』ってのは、姿を変えて脇差としてなら……ということか」

折れた剣はもはや武器とはならない。かといって、クロムには他に頼りになる予備の剣があるわけでもない。
町に行けば金さえあれば剣などいくらでも手に入るが、はがねの剣程度では所詮、愛用の武器にはなり得ないのだ。
頑丈な希少物質で創られた特別品だからこそ、クロムの人外的剣腕にも自壊せず耐え切れて来れたのだから。
愛刀になり得る剣──それを手に入れるまでの間に合わせとしてならば、黒妖石の脇差の方が遥かに無難といえる。
だからクロムは迷いなく言い切るのだ。

「分かった。あんたに頼みたい、再生を」──と。
0238クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/02/21(日) 20:04:35.67ID:XIqwPpIN
「ならば儂について来るが良い。ただし……これから行くところはサマリアよりも遥かに危険な魔物がうろつく場所じゃ。
 身の安全は保障できん。それでもよければ……じゃがな」

「そこはどこなんだ?」

「故郷じゃよ、儂の」

それだけ言うと、ドルヴェイクは一人、のそのそと歩いて出口へ向かっていく。
その後ろ姿をしばし目で追っていたクロムだったが、やがて自分の手に視線を落とすと、黙って瞳を凝らした。

呪いの道具の特徴である、黒い靄のようなオーラ……それがどう見ても剣から消えているのである。
恐らくこれは“呪いの剣”としての寿命が尽きた事を意味するのだろう。

触れた者から強制的に魔力を吸い上げ続ける呪いの刀剣。
考えてみれば、この呪いが生きている限り、流石のドルヴェイクも触れる事は躊躇うに違いない。
多分、呪いが解かれた事を彼は見抜いていたのだろう。だからあっさり再生を引き受けたのだ。

(物の声を聞く、か……)

クロムはレイン、マグリットの二人を再び見やると、折れた剣をゆっくり鞘に納める。

「……聞いての通りだ、俺はあの爺さんについて行くことにする。が……お前達はどうする?
 俺は自分の剣の為だが、別にお前達まで俺に付き合ってわざわざ危険な目に遭う事はないだろう。
 まぁ、行くも行かぬもお前達の自由。任せるよ」

そして改めて自分の意思を伝えると、ドルヴェイクの後をついて出口へ向かうのだった。

【戦闘終了。全身傷だらけになるが、シナムに深手を与え、武器を破壊して撤退させる】
【シナムは魔道具を使って転送魔法を発動し、どこかに瞬間移動】
【ドルヴェイクの故郷に行くことを決意】
【悪鬼の剣→鋒が砕け散り、武器として使用できなくなる。呪いが解除される】
0239マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/02/28(日) 19:28:04.46ID:pjQ6Pw6x
ビキニアーマーは被服部分の少ない単なる露出装備に思われるかもしれないが、その実魔法のスキンにより全身を覆い引き締める力を持つ
それを利用して切り裂かれた腹の止血を試みたのだが、傷が広く回復が遅い
いまだ立ち上がれぬところで、水槽の間全域を吹雪が襲う

本来の威力には程遠いのかもしれないが、今のマグリットにとっては十分な脅威
俯き身を固めた得る事しかできなかった
しかし、唐突に吹雪が和らぐのを感じ顔を上げるとそこにはマグリットの前に立つ赤装束のレインがいた
紅炎の剣スヴァローグを床に突き立てる事により、吹雪の威力を和らげる結界を形作っていたのだ
しかしそれがどういう意味かはすぐにわかる

「く、すいません、足手まといになってしまって……」

マグリットを守るためにレインという戦力がここで釘づけにされてしまっているのだから
本来勇者を守り導くはずの自分がこうして守られてしまっている事に不甲斐なさを感じるのであった

数的な有利を生かせぬまま、残る戦いはクロムとシナムの1対1の戦いとなる

>「……っと、君との決着の前に。運命のルーレット回しちゃうかなぁ!?」

そんなレインが唐突に片膝をつく
見ればその足には血が滲んでいる

「攻撃の気配がなかったのに……あの盾ですか!あれで私のお腹も」

シナムの言葉とレインのダメージを見て、ようやく気付いた
自分が何の予兆もなく腹を切り裂かれたのはあの盾の効力だったのだ、と
回避不能な攻撃の転送とでもいおうか、恐るべき盾である

戦いは終局に突入する
氷の槍衾を強行突破したクロムの横薙ぎの一閃も防がれ、その代わりにシナムのコキュートスジェイルが発動するのだった

「いけない、あれは私では解除できない!」

強力な氷結結界
ごろつきが氷漬けにされた時とは意味合いが違う
クロムが氷漬けにされる姿を思い浮かべ、思わず叫ぶのだがどうにもならず
立ち込める靄の中から、物言わぬ氷像となったクロムの姿が露になったのだたった

勝利に酔い高笑いを上げるシナム
絶望感に包まれるマグリット

だが、それは一瞬
氷が剥がれ落ちながら、その中から繰り出されるクロムの超高速の逆袈裟斬りがシナムを切り裂いだのだった
致命傷を与えるとまではいかなかったようだが、シナムのミスリルの剣まで叩き切っていたのだ
これを見てシナムは撤退を選択、黄金の粉を振りまき虚空と消えていった

ここに戦いの終結を見たのだったが、その代償は大きかったようだ
立ち並ぶごろつきたちの氷像
レインやクロム、マグリットの傷も浅くはない
特にクロムは斧砕きドルヴェイクの指摘通り、愛刀が粉砕してしまっているのだから

戦いが終わり、ようやく一息をつつ一行
>「ったくよぉ……獣人ってのは何考えてんだか、たまに分からなくなるぜ」

「あははは、クロムさんからのプレゼントが思わぬところで役立ちましたよ」

その効能についてはドルヴェイクによって説明される
説明が正しいと一目でわかるだろう
マグリットの腹の傷部分は赤く染まり不自然に膨らんでいるのだから
引き締め効果で傷を押さえつけてはいるが、完全な止血という訳にもいかなかったようだ
0240マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/02/28(日) 19:35:15.19ID:pjQ6Pw6x
話しはクロムの愛刀の再生について
ドルヴェイクは自身の故郷である大陸についてこれば直せるというのだ
勿論クロムは再生の為にドルヴェイクと共に大陸を渡るのだが…‥

「水臭いですよ、仲間じゃないですか
とは言え、治療や後始末はしなければいけませんし、それに手続きは必要ですのでしばしお日にちを頂きたいですね
先ほども言いましたが、島の発光現象についてギルドや国からの調査も入るでしょうが、私は立ち会えません
実を云うと教会からは待機命令を受けている身ですので、調査隊が来る前に姿を……」

事後の件について話すマグリットだったが、その貌は蒼白で言葉は途中で途切れ崩れ落ちる事になる
それとともに水槽の間の気配が一変した事に気付くだろう
あたりを見回せば、床が、壁が、徐々に色を変えていっているように見える

レインとクロムはこの現象がどういうものかわかるだろう
これは島の隠し通路と同じ色
即ち、夥しい量の陸生の貝やナメクジがあたりを覆っている事を表しているのだから

「出血が過ぎたようですね、彼女はこちらで回収しておきましょう
彼らがそう望んでおりますので」

部屋に入ってきたのは聖歌のアリアと屈強な男たち
だが、男たちは何処かしら人間ではない気配を醸し出している
そう、彼らはマグリットの故郷の貝の獣人たち
既に水槽に落ちたシャコガイメイスも回収されていた

「お話はまた今度、ですね」

担がれていくマグリットに声をかけ見送る
それを見届けた後、レインとクロムに向き変える

「改めまして、聖歌のアリアと申します
教会から離れた元僧侶、とお聞き及びかもしれませんが実体は少々異なりまして
教会という囲いに囚われず自由に動けるようにしてもらっているのです」

自己紹介と共に奏でられる歌は周囲を照らすような錯覚を与えるだろう
僅かではあるがレインとクロムの傷が癒されている
しかしこの歌の本来の効果は……ごろつき達を固めていた氷が徐々に解けていっている
コキュートスジェイルの解呪なのであった

「お見事な戦いぶりでした
ダゴンのみならず初心者狩りをも退けるとは
この件についての詳細については私から教会、ギルド、国へ報告しておきましょう
今後の彼女についても、教会として便宜を図らせてもらいますわ」

事後処理を請け負う旨を告げた後、回復の唄にてレインとクロムを癒す
一曲終えた後、アリアから

「あなたの刀が砕けた事も、ここでドルヴェイクとの縁が結ばれたのも
あなた方は勇者の一行としてこの大陸を出て先へ進むべきという天祐と言えるでしょう」

アリアはレインに向き直り、他大陸の状況を語るのであった

【事後処理をしようとするも、出血により気絶】
【貝の獣人たちがマグリットを回収】
【事後処理はアリアが買って出て、マグリットの今後についても便宜を図る旨を伝える】
0241レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/06(土) 09:31:59.40ID:4pgMr8mR
発動した完全詠唱の『コキュートスジェイル』は、クロムを容赦なく氷漬けにした。
――が、それこそがクロムの狙いだった。『反魔の装束』の力でその効力を半減させ、氷獄の牢から脱出。
不意を突いて繰り出した超高速の逆袈裟斬りはシナムの剣を根元から叩き斬り、胸から鮮血を飛び散らせた。

「やった!」

レインはクロムの勝利を確信した。
さしもの『初心者狩り』のシナムといえど、武器を壊されては戦いようがない。
予想通り撤退を決意したのか小さな袋を取り出しながらこう言い放った。

>「次は必ず仕留めてみせる。俺の“本当の愛刀”と“本当の仲間”でね」

レインは反射的に倒れているアサフェティとフェヌグリークを見る。
『初心者狩り』の仲間だった彼らは、シナムにとって出来合いの仲間に過ぎなかったのだ。
ちょうどレインがクロムとマグリットに出会うまで急造のパーティーを組んでいた時のように。
だがこうも平気で人を捨て駒扱いする人間をレインは知らない。胸の内には微かに怒りが灯っていた。

>「今度は最初から本気で行く。全力でその命、狩らせて貰う。その日まで精々、腕を磨いておくことだね。ククククク──」

シナムは袋を頭上に投げると、中身から黄金の粉が飛び出す。
それは黄金の魔法陣を形成して、結界を生み、その姿を手品のように消した。

>「気配も感じない。……こいつは噂に聞く『転送魔法』というやつか。あの妙な粉が発動装置だったらしいな」

転送魔法。モノやヒトを瞬間移動させる魔法のことだ。
となればシナムは一足早くこの『海魔の遺跡』を脱出したのだろう。
退けたまでは良いが、結局のところ彼の真意は分からずに終わってしまった。
最後の発言は財宝というより、自分達の命そのものが狙いのようにも感じたからだ。

「……命が幾つあっても足りないね」

ダゴンの封印を解いた者と初心者狩りのシナム。どちらも謎を残したまま戦いを終えてしまった。
ただひとつ分かっているのは、彼らの狙いが"召喚の勇者"の命という一点に尽きる。
0242レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/06(土) 09:33:27.21ID:4pgMr8mR
戦闘が終わると、ドルヴェイクがのそのそと近付いてきた。
『ビキニアーマー』の隠された魔法効果について説明してくれると、
レインは足の怪我も気にせず感心した。武具の世界は果てしなく広い。
自分の武具については知り尽くしてると断言できるが、まだまだ未知の武具は存在するのだ。

何気なくクロムの黒剣が視界に入る。
黒剣には罅が入っており、殺傷力が落ちているという。
それでも敵の剣を破壊してみせたのだから相変わらず恐るべき技量である。

クロムの黒剣は、ただの剣ではない。
武器を大量に所有し、武器屋の息子でもあるレインには分かる。
あれはドワーフが採掘するミスリルのような、特別な金属を素材にしている。
壊れてしまったら最後、修復できる腕を持つ鍛冶職人を探すのは至難であろう。
マリンベルトではまだ使えると言っていたが、果たしていつまで持つか――。

>「その剣でミスリルの剣と“相討ち”に持ち込むとはのう。いやはや聞きしに勝る腕前じゃ」

――そう思っていた矢先。ドルヴェイクの言葉と同時に黒剣が切っ先を中心に砕けた。
それでもクロムは戸惑うことなくドルヴェイクを見据えたまま話を続ける。

>「人にも命があるように、物にも命がある。命尽きた物は、何も言わん。人の躯が何も言えんようにな。
> じゃが……その剣からはまだ声が聞こえるんじゃ。『まだ生きられる』という声がの……」

至難とされている修復を可能とするのは、他でもないドルヴェイクだった。
彼はドワーフだ。ドワーフといえば高い鍛冶の技術を持つことで有名であり、
普通の鍛冶屋とは質が違うと父から散々聞かされた記憶もある。

>「……剣が言う『まだ生きられる』ってのは、姿を変えて脇差としてなら……ということか」

とはいえ、黒剣の残った刀身を素材に小刀として再生させる――……という形ではあるが。
剣を打ち直すには故郷に戻らなければならないらしく、クロムはドルヴェイクに同行するという。

>「……聞いての通りだ、俺はあの爺さんについて行くことにする。が……お前達はどうする?
> 俺は自分の剣の為だが、別にお前達まで俺に付き合ってわざわざ危険な目に遭う事はないだろう。
> まぁ、行くも行かぬもお前達の自由。任せるよ」

どこか余所余所しくそう言って。クロムはドルヴェイクの後をついていく。
『召喚変身』を解除すると、怪我した片足を引き摺りながらクロムを追いかける。

「クロムの大事な剣が壊れたんだ、一緒に行くに決まってるよ。
 だって俺達は仲間じゃないか。危険なんて……大した問題じゃない!」

そう、クロムは大切な仲間だ。仲間の目的は、自分の目的でもある。
欲しいものがあるなら一緒に探そう。剣が壊れたなら、一緒に直しに行こう。
0243レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/06(土) 09:37:06.34ID:4pgMr8mR
港町マリンベルトで言ったように、黒剣の心配をしているのは一人じゃない。
ドルヴェイクの故郷がどこなのかは知らないが、どこだろうと行く所存だ。

「儂の故郷は遥か南、サウスマナ大陸に存在するドワーフの地下王国じゃ。
 クロムに語った通り、簡単な道程にはならぬ……覚悟するのだぞ」

マグリットもまた、去りゆくクロムを見て言う。

>「水臭いですよ、仲間じゃないですか
>とは言え、治療や後始末はしなければいけませんし、それに手続きは必要ですのでしばしお日にちを頂きたいですね
>先ほども言いましたが、島の発光現象についてギルドや国からの調査も入るでしょうが、私は立ち会えません
>実を云うと教会からは待機命令を受けている身ですので、調査隊が来る前に姿を……」

――話の途中で、マグリットは地面に倒れ込んでしまった。
『ビキニアーマー』で応急処置を施したといえど、しょせん緊急の手当てに過ぎない。
傷はやはり浅いものではなかったらしく、マグリットは顔を苦悶に歪めている。
レインが慌ててマグリットに駆け寄ろうとした時だった。貝の獣人達と"聖歌の"アリアが現れたのは。

……――――突如現れたマグリットの同胞とアリアが、戦いの事後処理をする旨を告げた。
獣人たちは手早くマグリットを回収し、アリアは『コキュートスジェイル』を解呪。
降って湧いた来訪者たちにドルヴェイクも何事かと足を止め、出口で待ってくれていた。

すると、アリアが特技である『聖歌』によって傷を癒してくれる。
透明感のある歌声は、さながら天使かと疑うような美しい調べだった。
曰く、アリアは教会の人間であり、あえて教会に籍を置かぬことで、自由に動ける身分ということ。

>「あなたの刀が砕けた事も、ここでドルヴェイクとの縁が結ばれたのも
>あなた方は勇者の一行としてこの大陸を出て先へ進むべきという天祐と言えるでしょう」

だが平和なイース大陸を出るということはそれ以上の危険が待ち受ける。
ドルヴェイクの言う通り、遭遇する魔物も今以上に強力になってくるだろう。

「ただお気をつけください。教会が伝道師に待機命令を出したり、宣教師派遣を中止したのは、
 まず北の大陸……ノースレア大陸にて大きな動きがあったためなのです」

「……ノースレア」

大陸の名を呟いたレインの顔は、今までにないほど険しいものだった。
0244レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/06(土) 09:39:11.91ID:4pgMr8mR
ノースレア大陸はほとんどが雪で覆われた極寒の土地で、歩くだけでも推奨レベル20以上が求められる。
そんな厳しい環境で育つ人と魔物は、概して強力な個体が誕生するという。
大陸一の大国である『コールディア聖王国』は教会とも太いパイプで繋がれていたが、
魔王軍の手によって陥落し、聖都クーリスもダンジョンに変えられたと聞く。

「ノースレアは、すでに八割が水の魔族ラングミュアによって占領されています。
 教会が擁する神殿騎士団を中核とした、抵抗軍が奪還に動いていますが……。
 つい最近、炎を纏いし魔族が現れ、抵抗軍を次々と殲滅しているとの報が入っています」

「ラングミュア。ダゴンが言っていた名前と同じだ……!」

「ダゴンの封印を解き、レインさんの命を狙ったのも奴の仕業なのでしょう。
 ……といっても教会も大した情報を知りません。水の魔族は決して正体を現さない。
 影から人を操り、策謀を巡らせて魔王軍の邪魔者を始末する……そんなタイプですから」

「それに加えて炎の魔族とは……」

レインの脳裏をよぎったのは"猛炎獅子"サティエンドラだ。
"召喚の勇者"一行として最初に挑み、そして決着がつかぬまま終わってしまった彼との戦い。
いや――レイン個人の感想は、敗北に近いのが率直なところだ。
魔力が尽きたあの状態で戦い続けても、サティエンドラを倒すには至らなかっただろう。

今の実力で大幹部級の敵と戦うことになった時。
はっきり『倒す』と。レインは自信をもって言えない。

だが気づけば自然にぐ、と拳を握りしめていた。
……――サティエンドラとまた戦えるかもしれない。
あの時勝てなかった相手に、リベンジするチャンスがあるかもしれない。

『精霊の森』にてサティエンドラの話を聞いた時、
レインは運命という巨大な歯車が動いたような感覚に陥った。
その時は不気味に感じたものだが、今度は奇妙な高揚感を感じた。

「レインさん。恐らく炎の魔族はあの"猛炎獅子"サティエンドラで間違いないでしょう」

レインの様子を見て、見透かしたような顔でアリアは微笑んだ。
0245レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/06(土) 09:41:48.24ID:4pgMr8mR
「ただ、それだけではないのです。西の大陸では、地の魔族が次々と国を滅ぼしています。
 もしかしたら西大陸(ウェストレイ)一の大国……ミスライム魔法王国までも滅んでしまうかもしれません」

そして、とアリアが続けて言う。

「南の大陸……サウスマナ大陸では、空の果てに続く『宇宙の梯子』が風の魔族に占拠されました。
 梯子には山を砕くと伝承に綴られる衛星砲があり、各国は喉元に刃を突き立てられたに等しい状態です」

「……ノースレアのみならず、各大陸が魔王軍によって窮地に陥っているってことですか?」

アリアは「そうです」と肯定した。各大陸に存在する情報の点と点。
それを繋げれば、アースギアという世界がいかに危機的状況に陥っているのかよく分かる。
それも教会という情報網が為せる技だ。平和なイース大陸にいるだけではピンとこなかっただろう。

「今、どの勇者に各大陸の魔族を討伐してもらうか、各国の意見も交えて選任しているところです。
 事実、北には"神剣の勇者"が、西には"探究の勇者"が向かうことに決まっています。
 南は候補が割れていますが、私個人としては"召喚の勇者"一行に頼みたいと考えています」

――レインは身を灼くような焦熱に駆られた。他の勇者に討伐を任せるなんて冗談じゃない。
先に幹部級を倒されると、魔王打倒を先に越されてしまう気がしてならなかった。
名誉や名声の問題じゃない。魔王を倒すのだけは、自分であるべきだ。

どちらかが死んだら、代わりに魔王を倒す……。
それが友達と交わした約束なのだから。

勇者に選ばれる前から友人だった。
友達は幼い頃から魔法の才に恵まれ、神童とまで呼ばれた男で。
彼に並び立つ者はいないと思っていた。魔王を倒すのは彼だと誰もが思っていた。

だが彼は最果ての地(ノースレア)で死んだ。
陥落寸前だった聖都を守るため、命を賭して戦った。
0246レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/06(土) 09:45:13.73ID:4pgMr8mR
時折思う。
魔王を倒すという目的を掲げているのは、
使命のためでも、世界を救いたいからでもない。
もしかしたら――……。
そこでレインの思考は打ち切られた。

「その話じゃが、そう日が経たんうちにメガリス地下王国のドワーフたちが
 南の大陸を代表して"召喚の勇者"一行を指名するじゃろう。内々定といったところじゃのう」

「良かった。今回の活躍で押せるとは思っていたのですが、それを聞いて安心しました」

ドルヴェイクが不意に口を挟むと、アリアは喜んだ。
レインはなぜドルヴェイクがそんな話を知っているのか疑問に感じた。
神代文字を知っていたり、斧は煌びやかなミスリル製。更に鍛冶師としての技能も持っている。
アリアは不思議がるような様子がない辺り、心当たりがあるらしい。

「ドルヴェイクさん……貴方は一体何者なんですか?」

「なに、儂の故郷までついてくれば分かる。
 故郷の外では秘密にすると誓っているのでの。それまで内緒じゃ」

とにもかくにもこれで話は纏まった。
レイン個人としては体が三つあれば全ての大陸の魔族を倒したいところだが――。
今は各大陸の窮地だ。瞬間移動でもできない限りそんな我儘は言えない。
特にサティエンドラとの再戦が叶わないのは残念だった。
勇者の中でも三本の指に入る実力者、"神剣の勇者"が向かう以上、奴もただでは済まないだろう。

「アリアさん、討伐にはマグリットの力が必要です。
 どうか彼女の待機命令を解いてください――お願いします」

話を終えると、レイン達はその場を後にした。
――帰りの船で、仄かに発光する島を見つめる。
色々なことがあったが、とにかく次の目的地は決まった。
目指すはサウスマナ大陸。まずはドワーフの国でクロムの剣を直す。

「なんだか色々な情報が飛び交ったけど、やることは変わらない。
 ……この大陸を出て、実力を磨き、もう一度魔王軍に挑む!」

ぐ、と拳を握りしめて、レインは意気込むのだった。


【三章終了!クロムさん、マグリットさん、お疲れ様でした!】
【次から四章が始まるので、新規参加者の方も募集しています!気軽にご参加下さい!】
0248クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/03/10(水) 21:26:00.54ID:gM3f4Z6N
>「出血が過ぎたようですね、彼女はこちらで回収しておきましょう
>彼らがそう望んでおりますので」

ダゴンの間から立ち去ろうとするクロムに一旦待ったを掛けたのは、『聖歌のアリア』──
──と、彼女に従うように現れた全く見覚えのない複数の男達であった。
どことなくマグリットに似た気配が感じられる点から推測するに、彼らは獣人……それも貝の、だろう。

アリアは、気絶したマグリットを男達に回収させ、クロムとレインのダメージを歌で癒すと、二人に言った。
剣が砕けたのは、むしろドルヴェイクとの縁を頼ってイースを出ろとの天祐であろうという事を。
そして、勇者パーティがこれから進むべき世界の各大陸が今、どのような状況にあるかという事を……。




帰途につく『アドベンチャー号』。
その甲板の上で、クロムは一人、手すりにもたれ掛かりながら潮風を浴びていた。
目に映るは沈みかけた夕日。聞こえてくるのは魔物の咆哮《ノイズ》一つない、穏やかな波音と海鳥達の平和な囀り。
それは傷だらけの体には潮風が染みるということを忘れさせるくらい、何とも心地の良い調和であった。

「──これだから大穴狙いは止められねぇんだ。リスクはデケェがその分リターンも大きい。お陰様で大儲ってな! ガハハハハ!」

と、そんな黄昏る彼の後姿に向けて、不意にガサツな男の声が飛ぶ。

「……そういや賭けをしてるとか言ってたっけ。しかし、確か冗談、とも言っていたように記憶もしてるんだが」

調和を崩された事に対してか、それとも冗談と言いながらしっかりやる事はやってた抜け目なさに対してか、クロムは呆れ顔となって振り返る。
そこに立っていたのは、思った通りエイリーク。
それも、ほくほく顔というのだろうか、満面の笑みで、両腕に大量の陶器製の酒瓶や肉を抱えた姿となって。

「別にいいじゃねぇか。これからダゴン退治とお前ぇらの無事の帰還を祝って酒盛りする手筈になってんだからよぉ」

「とっつぁんが飲みてーだけじゃねぇのか? つーか、船長が飲んだくれてて船の操舵は大丈夫なのかよ?」

「下らねぇこといちいち気にすんな。人生、楽しめる時に楽しまねーと損するぜ?」

酒瓶の一つを開けて、ぐびっ、とラッパ飲みしながら、エイリークはクロムの隣に歩み寄り、同じように手すりにもたれる。
しかし、じっと夕日を見つめる目はクロムとは違い、その鮮やかな光景ではなく海を隔てた遥か先の光景を見据えているかのようだった。

「……ダゴンが消えて、この海も静かな日が増える。そうなればヒヨッコ冒険者を海の外に送り届ける仕事もまた増える。
 お前さん達は南の大陸に行くらしいが、くれぐれも海の外の世界をイース《ここ》と同じように考えるんじゃねぇぞ。
 他の大陸じゃイースの冒険者にゃ予想もつかないバケモノが我が物顔で歩き回ってるそうだからな」

「……知ってる」

「ところがな、話で聞くのと直にその目で見るのとじゃ大きな違いがあるものなのさ。だから……」

「だから、“知ってる”」

「んん〜?」

抑揚の無い声で余りに淡々とクロムが紡いだからか、不意に覗き込むようにして顔をぐぐっと近付けるエイリーク。
いい具合に夕日に照らされる甲板で、男が二人きり黙ってじっと見つめ合う構図である。
たまたま近くに居た第三者が、そこから何か危ない雰囲気を誤って感じ取る危険性があるかもしれない。

「な、なんだよ……」

クロム自身は元々女以外顔を近付けるのお断り、と公言して憚らないような無類の女好きというわけではない。
が、別にむさいおっさんの顔の急接近に胸ときめく趣味の持ち主でもないので、誤解されるのは不本意であった。
だから咄嗟に顔を引くのだが、その瞬間、エイリークの口がニチャア、と何やら不気味な開き方をしたのを見て、ぎょっとなる。
まさかこのオヤジにはそういう趣味があるのか、と。
0249クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/03/10(水) 21:31:12.68ID:gM3f4Z6N
「そうか、そういうことかぁ。お前さん、他の大陸《外》から来た冒険者ってわけだ?」

「え? あ、あぁ……まぁね」

言いながら、(なんだよ、驚かせやかって)──と、内心ほっとするクロム。
その一連の心の動きを見透かしていたわけではないのだろうが、ふぅー、と大きく息をつく彼に、エイリークはまた笑った。

「ダゴンにも初心者狩り相手にも一歩も引かなかったって聞いたが、道理で初心者にしちゃ可愛くねぇなと思ってたんだ」

「俺は一言も自分が初心者だなんて言ってない。皆が勝手にそう思ってるだけだ」

「んで、どこから来たんだ、お前? 出身は?」

「…………。ノースレア」

そして、しばし無言で目を合わせた後、夕日に向かい直して呟くようにぼそりと言ったクロムを見て、「ほう」と手にした酒瓶に視線を落とした。

「極寒の大陸か。アルコールも高けりゃ値段も高ェ、だが旨い酒がたんまりあるところで有名だな。へっへ」

「とっつぁんなら度の強い酒がありゃどの大陸でも生きて行けそうだな?」

「ハハ、その通りよぉ! んぐんぐ……ぶはぁぁ〜〜! こいつぁ上等な酒だぜぇ、へっへっへ」

再び豪快に酒瓶をラッパ飲みした後、盛大に撒き散らされる酒臭い息をクロムは手うちわの風起こしで払い除ける。迷惑顔で。
だが、一拍置いてエイリークの顔を見た時、彼は直ぐにその表情を消した。
エイリークの顔からもまた、その時既に酒に酔った陽気さは消えて無くなっており、武骨な真顔だけがあったからである。

「──……本当に聞きてぇことは実はこっからなんだが、いいか? お前さん、イース《こっち》に来て何年になる?」

この瞬時の雰囲気の変化が意味するところは、“冗談抜き”で話そう──という意思表示ではないのか。
少なくともクロムにはそう思えた。
応じる義務はないが、例え偶然であってもこの男だけは賭けに自らの食料や金を勇者パーティに注ぎ込んだのは事実。
その程度には三人を買ってくれていたわけだ。だから、クロムは礼のつもりで敢えて真面目に応じる事にするのだった。

「サマリアに来たのはつい最近だよ。イース《大陸》に着いたのは、三年前……くらいか」

「ノースレアとイース、それ以外の大陸に渡ったことはあるのか?」

「ノースレアについては実は全く覚えていない。親が赤ん坊の頃の俺を連れてウェストレイに移住したんだ。
 だから実際には俺が知ってるのはイースを除けばウェストレイとサウスマナだけさ」

「ほう? サウスマナも知ってんのか」

「ま……奥地にまでは行かずに途中で引き返しちまったから、ドルヴェイク爺さんの故郷があるとは知らなかったけど」

「ちなみに、だ……それはいつ頃の話なんだ?」

「………………二十年くらい前さ」

それだけ聞くと、エイリークは酒を一気に呷り、空になった酒瓶を床に投げ捨て、葉巻を咥えた。
そして火をつけて煙を燻らせると、やがて小さな声で言うのだった。「やっぱりな」と。

クロムの見た目はどう見ても十代前半の少年である。
彼を人間と思い込んでいる者が今の話を聞けば、誰であろうと見た目との大きな矛盾にまず驚くに違いない。
そして矛盾を解消する為にこの世界のリアルとを摺り合わせる過程で、亜人ではないかという発想に至る筈だ。
でなければ冗談だと思い、まさかと一笑に付すのではないだろうか。

エイリークはそのどちらでもなかった。驚きもしなければ、笑いもしない。つまりどこかのタイミングで感づいたのだ。
それは恐らくだが、先程クロムを覗き込んだ時ではなかったか。
かつて彼が“心を見透かされてる気分になる”と感じたあの“目”が、確信に導いたのではないだろうか。
0250クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/03/10(水) 21:36:00.66ID:gM3f4Z6N
「見た目は子供、キャリアはベテランのそれ。くくく、魔物共もさぞかし面食らったことだろうなぁ」

次第にくつくつと笑い始めるエイリーク。
対照的にそんな彼を流し目で見据えるクロムは、ばつが悪そうに頭を掻く。

「騙まし討ちみたいだってか?」

「いや、そうじゃねぇ。お前さんの中身が、ひょっとして俺と歳の変わらねぇ脂ぎったオヤジだと思うと、くくくくく……」

「おい! 人間の年齢と一緒にして考えるんじゃねーよ! 全然脂ぎってねーだろ俺!」

「いいじゃねぇか、オヤジでもよぉ! ハーッハッハッハッハッハ!」

「だから──……はぁ、まぁどうでもいいや、別に」

抗議するもエイリークの笑いを止めるには至らず、やがて諦めたクロムは溜息一つ吐いて、改めて沈みゆく夕日を眺める。

(そう……別にいいさ。肝心な部分を見透せなかったなら……)

──夕日の黄色い光が、金色の結界と共に消えた同族のことをふと思い出させた。
今、クロムの脳裏に蘇るのは、彼に言った自らの言葉──。

『人間が唯一魔族に勝る強みは成長力』
『そいつを自ら捨てて魔に尻尾を振った奴《ニンゲン》なんぞ』

魔族は人間よりも遥かに強靭な肉体、遥かに巨大な魔力の器、遥かに長い寿命を持って生まれる。
もしそれを欲する人間がいるのならば、魔族の力を借りる事である。
恐らくそれが最も近道で、かつ現実的な唯一の方法である筈だからだ。

ただし、ヒトとして得られるはずの可能性・未来を引き換えにしても、との覚悟がなければ諦めた方がいい。
人間何かを得れば何かを失うもの。ましてや己の器を超えた力は、相応の代償なくして得られるものではないのだ。

「──んで、この事を勇者は知ってんのか?」

ひとしきり笑ってようやく落ち着きを取り戻したのか、エイリークが息を整えて訊ねる。
クロムが「いや──」と頭を振るも、彼は「まぁ、聞かれなきゃいちいち口にすることでもねぇわな」と勝手に自己完結。
もっとも、人間中心の世界で亜人がどのような思いで暮らしているのか、流石にその事情も知っているからこそなのだろう。
しかし、彼は最後にこう付け加えるのも忘れなかった。

「が、いつまでも隠し事をしてちゃ真の信頼は築けねぇぜ? そこんとこを魔王の城に辿り着くまでによぉーく考えとくんだな」

──踵を返して遠くで雑務をこなす水夫達のもとへ去っていくエイリーク。
博打で得た食料を見せびらかしに行ったのか、それとも酒盛りの予定でも伝えに行ったのか……。
何にしても無事に港まで送り届けてくれるのなら博打をしようが酔っ払おうが文句はない。
ギルドに報告を済ませれば、後は既に決まっている次の目的地へ向かう為の体力を回復させるだけなのだから。

「サウスマナ……ドルヴェイクの故郷、か」

エイリークの後ろ姿に向けられていたクロムの視線は、いつしか南の空へと向けられていた。

【船で帰途につく】
【お疲れさまでした。次の章もお願いします】
0251レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/17(水) 23:01:34.97ID:CfAiJNlZ
夜は海も静かだ。マリンベルトに着くとダゴン退治と無事の帰還を祝い宴会となった。
『運命の水車亭』で飲んで食っての大騒ぎ。レインもはじめは楽しんでいたが、酒には強くない。
エイリークや水夫達はアルコール度数の高い酒を水のようにがばがば飲むものだから、
それに付き合って飲んでいると、すぐに身体がふらつき、頭痛がし始めた。

これは堪えられない。一人で席から抜け出すと、外で夜風に当たることにした。
涼やかな風が心地良い。えらい喧騒だったが、こんな楽しい気分も久しぶりだな、と思った。
これもクロムと(ここにはいないが)マグリットが運んだ縁なのだろうか。
もし二人がいなければまだ大陸を出ようとは思わなかったし、エイリーク達と出会うこともなかった。

全ては魔王を倒す旅に付き合ってくれているからだ。そのことに感謝すべきだろう。
だからこそ、心に棘が刺さった感じがしてしまう。これでいいのか、と。
そんなレインの思いを飲み込むように、どこまでも夜空は広がっていて。

星の海とでも形容すべきだろう。
光を散りばめた夜は海を照らし、さざ波の音が微かに届く。
ある時、流星が瞬いた。青色に輝く星が落ちたと気づいた時には、背後に気配を感じた。

「……あなたは」

石畳を音も無く踏んで現れたのは、忘れもしない。
仮面で素顔を隠した、謎の騎士。
"召喚の勇者"一行を助けた、謎の冒険者。

「……仮面の騎士、さん」

あの時忽然と姿を消した彼が、目の前にいる。
よもやこの港町に滞在していたとは。

「無事、"水天聖蛇"ラングミュアの刺客を退けたようだな。
 だがまだ安心するな。奴の部下は再び君達の命を狙うだろう」

「……ダゴンのことですか。忠告ありがとうございます。
 でも、俺だって弱いけど勇者です!自分の身は自分で守れます!
 いずれは魔王を倒さなきゃいけないんです。敵の一人や二人――……」
0252レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/17(水) 23:04:37.73ID:CfAiJNlZ
酔った頭で言葉を紡いで、レインは意気込む。
しばらくしておかしいことに気づいた。
なぜ仮面の騎士がそんなことを知っているのだ。

「あれ……?どうして仮面の騎士さんがその事を?」

「気にするな。それより君に用があって来た」

仮面の騎士の気配が変わった。
身体を焼き尽くすようなとてつもない殺気。
その凄まじいまでの迫力に、レインの酔いは一気に醒めた。

「君の実力、少しだけ試させてもらう」

「え……?」

状況を飲み込めずぼやぼやしている内に、仮面の騎士は肉薄していた。
掌底が頭目掛けて飛んでくる。こめかみを掠めながら紙一重で避けると、慌てて距離を置く。

「試すって……突然何です!?」

「剣を取るといい、"召喚の勇者"」

反射的にはがねの剣を抜こうとしたが、腰には何もない。
『運命の水車亭』に置いてきてしまった。
だが、この殺気、このスピード。死を直感させるものだ。
召喚魔法を行使しなければ自分の身が危険だ。

手に魔力を込めて魔法を発動しようとした時、高速の蹴りがそれを阻止する。
続いて襲い掛かるダブルスレッジハンマーに対し、スウェーで間一髪回避。
この掌底、蹴り、両手拳を組んだ殴打による一連のムーブ。奴に酷似している。

「気づいたようだな。そうだ。これはサティエンドラの戦い方。
 私には魔王軍の幹部と戦った経験がある……対幹部級の模擬戦だと思えばいい」
0253レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/17(水) 23:06:17.91ID:CfAiJNlZ
瞬間、仮面の騎士が視界から消えた。

(まさか……高速戦闘に入ったのか!?)

ならば素の状態では対処できない。
『召喚変身』で清冽の槍術士になろうとした時には遅かった。
気づけば懐に潜り込まれ、胸には掌が添えられていた。

「――――『レパルス』」

掌が白く発光したかと思うと心臓が爆裂したかのような衝撃が襲った。
身体は後方へ大きく吹き飛んで、地面に激突するとそのまま倒れ伏す。

行使されたのは光の下位魔法。それも初歩とされるものだ。
威力など低いに決まっているが、上位魔法かと錯覚するような威力だった。
朦朧とする意識の中で仮面の騎士の声が響いてくる。

「これが奴の技なら死んでいたな。私達に残された時間は少ない。
 ……その間に、君には可能な限り強くなってもらわなければならない」

そこでレインの意識は途絶えてしまった。


……――――目を覚ました時には『運命の水車亭』の借り部屋にいた。
外で倒れていたはずだが、誰かが運んでくれたのか。
ベッドから起き上がり胸に手を当てる。まだすこし痛む。

コツコツと物音がしたので窓の方を見ると、伝書鳩がいた。
窓を開けて手紙を受け取ると、鳩は外へと飛び立っていく。
手紙は二通ある。一通目はギルドの依頼書らしかった。
そして二通目はギルドマスターであるアンナからの手紙。

まずギルドの依頼書を開くと、依頼内容は以前"聖歌の"アリアが言っていた通りだった。
サウスマナ大陸に存在する『宇宙の梯子』の攻略と、そこを占拠する魔族の討伐。
0254レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/17(水) 23:08:27.16ID:CfAiJNlZ
内容を読む限り、『宇宙の梯子』とは空の果てまで続く巨大な塔らしい。
空の果てなど想像もつかないが、神々が地上にいた時代は行けたという。

もっとも、魔法技術が最盛期を迎えていた頃の話だ。
今や時代も過ぎ、あらゆるものが衰退してしまった。

この『宇宙』というのも正直よく分からない。
宇宙は息ができないところで、太陽や月、星々は宇宙にあるとぼんやり聞いた気が……。
いや、今はその話は止めておこう。レインの知識ではそれ以上を語るのは不可能だ。

それよりも、依頼主がサウスマナ大陸にある国々のほとんどというのが凄い。
アリアは各国の意見も交えて魔族討伐の勇者を選任していると言っていたが、本当らしい。
代表にはメガリス地下王国とある。これもドルヴェイクの言っていた通りだ。

気になる選任理由は、二通目のアンナの手紙にある。
アンナ曰く、レイン達は唯一魔王軍の大幹部と交戦して生き残っていること。
これが大きな要因らしい。勇者として落ちこぼれ扱いされてきたレインだが、この一点が評価された。

ついでに述べるなら、大口の依頼のため報酬額も尋常ではないと書いてある。
ギルドとしては冒険者を確実に現場まで送り届けたいので、エイリークの船に乗れとのこと。
つまり『アドベンチャー号』でドルヴェイク諸共サウスマナまで運んでくれるとのことである。

「……ようやく起きたか。数日間寝たきりだったんだぞ」

無遠慮に部屋の扉が開くと、そこにはエイリークがいた。

「その手紙は依頼書か?なら話が早い。またお前さんらを乗せてやるよ。
 船はいつでも出せるが……しかしなんでまた外でぶっ倒れてたんだ?」

エイリークに仮面の騎士との一件を語る。
突然手合わせすることになり手も足も出なかったと。
爆笑でもされるかと思ったが、真面目な顔で言葉を返された。

「失敗や敗北も経験ってヤツだ。あまり気にするんじゃねーぞ。
 しかし、噂になってた『仮面の騎士』ってのがこの町にいたとはな……。
 まあ飯でも食おうや。寝込んでた分、体力つけとけ。これからの旅は過酷になる」

二人で一階の食堂まで降りると、店主に大広間で待ち人がいると言われた。
待ち人……『海魔の遺跡』で別れたマグリットが来てくれたのだろうか。
それとも待ちぼうけを食らっているクロムかドルヴェイクか。
0255レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/17(水) 23:12:17.15ID:CfAiJNlZ
大広間の端で立っていたのは、『仮面の騎士』だった。
組んでいた腕を解くと「目覚めたようだな」と言った。

「ええ……なんとか」

「手荒な真似をしてすまなかった。だが前に言った通り時間がない。
 各大陸に勇者を派遣するそうだが、今の勇者達の実力では失敗するだろう。
 三人集まったら、港まで来るといい。君達に次戦う幹部級の攻略法を教える」

少々反論を挟もうかと思った。
自分はともかく"探究の勇者"も"神剣の勇者"も相応の実力者だ。
魔王軍の幹部級が相手だろうと遅れを取るはずはない……と。

だが、仮面の騎士の否応ない独特の雰囲気がそうさせない。
レインは少しばかり間をおいて、恐る恐る愚にもつかぬことを尋ねた。

「『宇宙の梯子』を占拠しているという風の魔族の……ですか?」

仮面の騎士は肯定した。
正確に言えば、その名を"風月飛竜"シェーンバインというらしい。
仮面の騎士が知る限り魔王軍大幹部の中でも最速の魔族とのことだ。
無策で挑んで勝てる相手ではなく、最低限のことは知っておくべきだと。

そう言い残して仮面の騎士は大広間を去っていった。
突然のことに困惑を隠せなかったが、行くしかあるまい。

「面白いことになってきたのう。彼がイースで噂の『仮面の騎士』か」

仮面の騎士と入れ違いになる形でドルヴェイクが姿を現した。
どこか物見高い表情で、レインとエイリークの顔を交互に見る。

「俺も会うのは初めてだ。どんな素性の人間なんだかな」

エイリークは至極真っ当な意見を述べる。
とりあえずレインはクロムとマグリットを待つことにした。
何事もなく二人が『運命の水車亭』に集まれば、レインは話をするだろう。
仮面の騎士が港で待っていることを。


【それでは四章開始します!】
【『仮面の騎士』再登場。対幹部級の攻略法を伝えるべく港で待つ】
0256クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/03/21(日) 19:40:37.44ID:WuAemUBZ
マリンベルトに着いてから数日後。
すっかり傷を癒したクロムが最初に向かった先は、町で営業中の武器屋兼鍛冶屋だった。

「メリッサ島が目と鼻の先にある町だから少しは期待したんだが……」

目的は勿論、武器の調達であるが、別に『悪鬼の剣』に代わる本差《メインウェポン》を求めにやって来たわけではない。
そんなものが一般の武器屋にある筈がないというのは既に承知していることなのだから。
求めているのは砕けた剣が脇差《サブウェポン》に打ち直されるまでの間、攻撃と防御に使用できる束の間の代用品である。

何せ今のクロムは裸同然。
黒髑髏のようなマジックアイテムも無く、敵と相対した時はほとんど己の肉体を武器とするしか方法がない状態だ。
イースの魔物ならともかく、サウスマナの魔物相手に拳法家でもない男が徒手空拳で挑むのはマゾでしかない。
過去にサウスマナに渡った経験から、クロムはそれを知っているのだ。

「……所詮はサマリアの町ってわけか」

しかし、手に取った剣を棚に戻しつつ、店内に所狭しと並べられたその他武器類を見渡すクロムの顔は冴えなかった。
何処を見ても一時の代用品にすらなりそうもないありふれた素材の武器しか目に映らなかったからである。

「銅や鉄。これじゃ鞘を使った方がマシだな」

剣と同じ、希少な金属で拵えられた左腰の黒鞘に視線を落として、クロムは頭を掻きながら溜息を吐く。

「おいそこのアンタ、さっきから何をブツブツ言ってんだ?」

背後から、誰かがドスを効かせた低い声を飛ばして来たのはその時だった。
振り返れば、そこには腕を組んで憮然とした表情の店主が、鍛冶で鍛えた筋肉を見せつけるように腕まくりして立っていた。
どうやら商品にケチをつけに来たと思われたらしい。まぁ、所詮はとかマシとか、溜息交じりに呟かれれば無理も無いが。

「そいつは俺がこの手で打ったモンだ。文句があるなら俺に直接言ってくんな。大きな声ではっきりとな」

「い、いや……別にアンタの腕が悪いとか、そういう事を言ってるんじゃねーから安心しろよ」

「じゃあ何がご不満なんで、お客さん?」

オヤジは地面から二メートルはありそうな位置から文字通り見下ろしてくる。
縦にでかければ、横もまたでかいそのゴリラのようなガタイがずいっと近づいてくるのは、山が動くようで迫力満点である。
腕っぷしには自信のあるクロムであるが、仮に喧嘩になったところで得はなく、その勝敗には何ら意味はない。
ましてや意図したことではないとはいえ、オヤジの機嫌を損ねる原因を作ったのはそもそもクロムなのだ。
だから彼は食って掛かるような真似はせず、後退って出口に近寄る。事を穏便に済ませる為、誤解を解くことにも全力を注ぐ。

「素材だよ素材。つってもミスリルとかヒヒイロカネとか、こんなところでそんな上等なモンを期待してたわけじゃねーんだ。
 ただ、せめて魔獣の牙とかで作った剣があるかなーって、例えばドラゴンとか……」

「悪いが“こんなところ”にはドラゴンみてーな上等な生き物なんざいやしねーんだ。なんせ“所詮はサマリア”だからよぉ」

「げっ……! あー、ちょっと待って。今のは言い間違えっていうか──」

しかし、言葉とは難しい。
店主への悪意があったわけでもないのに、ちょっとした単語の選択ミスが穏便に済ませるどころか更なる怒りを招いてしまう。

「いるのはお前さんのような上等な剣士サマから見りゃ下等な生き物ばかりさ。そう、例えばこの俺みたいのなぁ」

ボキボキ指の関節を鳴らしながら、ずん、ずん、とにじり寄って来るオヤジ。
こうなるともう、何を言ったところで噴火は時間の問題であろう。となれば、残されている道はもはや一つである。

「……あ、そうだそうだ急な用事があったの思い出したー! さいならー!」

逃走。
クロムが全速力で店を出たのは、オヤジが「用がねぇならとっとと出ていきやがれぇー!」と叫ぶよりも早かった──。
0257クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/03/21(日) 19:47:27.06ID:WuAemUBZ
──武器屋を出たクロムが次に向かった先は露店街だった。
いや、正確には勇者パーティの宿である『運命の水車亭』に向かっているのだが、露店街を突っ切る道はそこへの近道なのだ。

「──確かに曰く付きの武器や防具の話は聞いた事あるけどよォ、そんなモノこの世に本当にあるのかねェ?」

「俺ぁ世界中で物を売って来たんだぜ? 世界にゃお前さんじゃ想像もつかねぇような珍品奇物がゴロゴロしてんのよ」

「とかなんとか言いやがって、ホラ吹いてンじゃねェのか? 大体、その“最強になれる剣”だって実物は見た事ねェんだろォ?」

「そりゃあそれに限って言やぁ確かに聞いた話だけどよ、実際にその剣を使ってた奴を見たってのが現地にゃ居るんだよ」

宿へ向けて淀みなく一定のリズムで歩を重ねていたクロムの足が、ふと止まる。
耳が、興味深い会話をしている男達の声を拾ったからである。
方向を探ると、どうやらそれは果物商の小太り中年と、その店の前で売り物のリンゴを齧っている二人組の男達のものらしかった。

「──面白そうな話してんじゃん、おっさん達。俺も混ぜてくれよ」

クロムは強引に三人の間に割って入ると、店頭に並んだ真っ赤なリンゴを素早く一つ掴んで、威勢よくしゃくりと一齧りして見せる。

「……あん? 何だぁお前は突然? ガキに話す事は何もねーよ」

「全くだ。お家に帰ってママのお手伝いでもしてな、へっへっへ」

腰に凶器こそ下げてはいるものの、見た目は少年の闖入者。
恐らく男達には無邪気・無鉄砲だけが取り柄の鬱陶しい駆け出し冒険者に見えたに違いない。
二人組の内の一人──眼帯に総髭、手拭を巻いた頭。元山賊か何かだろうか──がぶっきらぼうに言い放てば、
もう一人──剃髪と分かるハゲ頭、額に卍のタトゥー。破戒僧の成れの果てだろうか──も同調して手で追い払う仕草をする。

「そんなこと言わずにさぁ。おっさん達、ベテランの冒険者だろ? 駆け出しの後輩に情報を恵んでよ。勿論、タダとは言わないよ」

──しかし、それを予測していたクロムはすかさず二人に投げ渡す。
道具袋から取り出した、陶器製の酒瓶を。エイリークとの宴会の最中、密かに彼の目を盗んでくすねておいた高級酒を。

「おぉ? こいつぁ……」

「貰いモンだけど、ノースレアの旨い酒だってさ。俺みたいな子供より、酒の味を知り尽くしてる男が持ってる方が似合うだろ?」

「……へっ、滅多にお目に掛かれねぇ酒が棚から落ちてきやがったぜ。少しは世の中の事を解ってんじゃねーか、ボーズ」

煽てられ、思いがけずに手に入った酒に一転して上機嫌な二人組。
すると、今度はこれまできょとんとした顔つきで一連のやり取りを黙って見ていた小太り商人が、不機嫌そうにボヤいた。

「なんだいなんだい、この話のネタを仕入れたのは俺だぜ? そんなのありかよ〜」

そんな彼を見て、クロムは「ほい、リンゴの代金」っと躊躇なく道具袋の中の最後の酒瓶を投げ渡す。
明らかにリンゴ一つとは釣り合わない値段の酒。
商人は初め「おお!」と声を上げて喜ぶも、やがて盛んに目で問うて来る。「本当にいいのか?」と。

「遠慮も釣りもいらねーよ。それには情報料も入ってんだから。──つーわけでさっきの話、聞かせてくれよ」

言いながら、しゃくりと再びリンゴを齧るクロムに、商人と二人組の冒険者は互いに顔を見合わせた後、話すのだった。

「ボーズも冒険者の端くれなら呪いの武具の話は聞いた事があんだろ?
 俺らがこのオヤジから聞いたのはそんなたわいもねぇ噂話よぉ、へっへっへ」

「いやな、海の向こうで聞いたんだよ。手に入れればどんな奴だって“鬼のように強くなれる剣”の話をよぉ。
 ただ、どうやらその剣は呪われてるらしくて、誰もが最後は“破滅”しちまってろくな死に方しねぇんだと。
 実際に何十年も前にその剣を使ってた野郎はある時忽然と姿を消したらしくて────」

クロムが求めてやまない、“最凶”の呪いの剣の話を──。
0258クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/03/21(日) 19:52:12.29ID:WuAemUBZ
──リンゴを齧りながら、『運命の水車亭』に向かって歩を進めるクロム。
彼の脳裏には今、全力の一刀を腕一本で、しかも無傷で弾いたあのサティエンドラの顔が浮かんでいた。

『手に入れればどんな奴だって“鬼のように強くなれる剣”の話をよぉ』

それに続いて蘇ったのは、露店商のオヤジの言葉。

(……やはり)

クロムは水溜まりの上で立ち止まり、視線を下に落とす。
見えるのは魔人となった瞬間から、ほとんど成長《変化》のない己自身の見飽きた姿。

(……俺にはあれが必要だな)

拳を握り締めて顔を上げると、不意に強い風が吹き荒れ髪をさらっていく。
思わず風が抜けていく方向を見ると、すぐ近くまで迫っていた水車の看板がギシギシと揺れていた。

風。そういえば次なるステージで待ち受ける強敵は風の魔族だと、アリアが言っていた。
もし、そいつがサティエンドラ同様の大幹部ならば、例えそいつに辿り着くまでに幾百の戦いを重ねても決して力は届かないだろう。
人間《レイン》ならいざ知らず、成長を捨てた魔人《クロム》では……。

「今、あれはどこにあるのか……。だが、必ず手に入れてやる」

芯だけとなったリンゴを捨てると、クロムはいよいよ宿に入っていった。

【『運命の水車亭』に到着】
【第四章も引き続きお願いします】
0259マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/03/25(木) 23:23:51.12ID:uWrChg/Y
港町マリンベルト近海の海底
そこには人知れず巨大なクラゲが横たわっており、その触手は広く伸び近海一帯、そしてメリッサ島にまで及ぶ
偶然居合わせた魔物ではなく、貝の獣人たちが棲み処として改良増殖させた結果の産物である

そんな都市型巨大クラゲの中心部に安置されていた大型の二枚貝が煙を吐きながらゆっくりとその口を開く
中から裸体のマグリットがゆっくりとその身を起こす
これはサティエンドラとの戦いで負傷したレインを収容し治療した治療貝の上位種のものであり、メリッサ島で負傷したマグリットはここで傷を癒していたのだ

矢に貫かれ動かなかった左腕を持ち上げ、拳を握り締めると上腕二頭筋を覆っていた真珠が筋肉の膨張によりはじけ飛ぶ
真珠が剥がれ落ち露になった腕にはもはや矢を受けた傷跡は残っていなかった
その後、腹部を広く一文字に覆う真珠を掻くように剥ぎ落とし、部屋を出る

傷を癒した後は体力回復の為の食事に取り掛かる
大量に用意された食事を頬張りながら、治療のために要した数日で起こった事の説明を受けていた

「やーアリアさんが教会の……流石の情報網といったところですねえ」

教会から追放されたと噂されていた聖歌のアリアは実のところ教会と繋がっており、ある種の査察官であったことに驚きを隠せないマグリット
待機命令を無視してマリンベルトまで来て、成り行きとは言えレインたちと繰り広げた一連の戦いは全て筒抜けになっているという事なのだから

>「うむ、だからこそお前を教会に入れたのだがな
>メリッサ島は我々に管理委託するという形で共同管理となった」

偶然による部分も大きいだろうが、今回の一件で教会と貝の獣人たちの関係性はさらに強まった事になった
貝の獣人たちにとってメリッサ島は秘かに魔力蒐集の儀式に利用していたものであったが、これからは島全体を紐付きとはいえ自身の管理下に置けるメリットである
更に南の大陸への派遣決定
これは王国、冒険者ギルド、教会の三者による決定であり、マグリットはこのままマリンベルトでレインたちと合流、マリンベルトからアドベンチャー号でサウスマナへ向かう旨が記されていた

「命令違反を不問にしてそのまま他大陸に派遣命令とは、相当切羽詰まった状況なようですね
こちらとしては渡りに船でありがたいですが」

>「あれらが回収できてよかったわい」

そう長老が目を向けるのはマグリットの隣に立てかけられているシャコガイメイス
今回のマグリットの本来の目的は儀式により育てられ続けてきた地震の半身ともいえるシャコガイメイスの回収であったのだ
これこそが九似、すなわちサティエンドラレベルの敵と戦うための切り札
だが、はからずもマグリットが得たのはそれだけでなかった

「ええ、でもそれだけではありません
常人ならば浴びただけで魔力中毒を起こす程の魔力水を飲んだことで分かった事があります
私の中にはまだ取り込んだ獣王の掌の因子は残っていました
魔力水に反応したのを感じたのですよ」

そういいながら掌をかざすと、そこには小さくはあるか確かに火花が散っていた
紅蓮魔宮を消滅させた仮面の騎士の光の結界の影響で消失したと思っていたが、僅かとは言え残っていた事に頬をほころばせるマグリット
魔法陣を反転させ溜められた魔力は解放してしまったものの、その前にわずかながらだが魔力水の回収もできている

今回の戦いは偶発的なものであり、深手を負ってしまってはいたが、手に入れるべきもの以上を手に入れられた実り多い戦いだったと言える

「それに……」

食事を終え、新調された法衣にそれを通しながらマグリットは言葉を続ける

「レインさんとクロムさんと行動を共にするようになってから、事態が確実に動き出したことを感じます
魔族との立て続けの遭遇、そして今回のサウスマナ行き
宣教師続けていても行にはならなかったでしょう
神の思し召しとやらを肌で感じざる得ませんよ」

そう笑いながら聖水の入った樽を背負い、シャコガイメイスを手に取り出立するのであった
0260マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/03/25(木) 23:27:56.31ID:uWrChg/Y
貝の獣人集落はマリンベルト近海海底になるのだが、その入り口はマリンベルト近郊のさびれた漁村を偽装している
そこからマグリットは上陸、指定された運命の水車亭に向かうのだが、その途中見てしまった
港にて佇む仮面の騎士の姿を

「げっ!あれはあの時の……なんでこんなところに?」

その姿を見て思わず身を隠すマグリット
紅蓮魔宮での光の結界を思い出し身震いをしてしまう
敵対関係ではないとはいえ、せっかく吸収した九似の一つ獣王の掌が消滅しかけたのだ
ここで不用意に接触して、いまだかすかにマグリットの内部に残るサティエンドラの因子を察知され消されてはたまらない、と迂回していくことにしたのであった


新調された法衣、樽を背負い、手には巨大なシャコガイのメイス
それらを余裕も持って持ち運ぶ巨躯
海の荒くれ冒険者たちのたまり場となる運命の水車亭の入り口は頑丈で大きくつくられているが、それが小さく見えるような来訪者に酒場内の視線が集まる
そんな視線を全く気にするそぶりもなくマグリットは酒場内を見回し、レインとクロムを見つけると手を振り席へと移動した

「やーお待たせしてすいません。数日ぶりで、お二人ともすっかり回復したようで何よりですね。」

仮面の騎士の目撃談についてはあえて口にはしなかった
いえば勇者であるレインは会いに行こうと言い出すかもしれない
マグリットとしてはできるだけ接触を避けたくあり、余計な事を言わずに話を進める

「クロムさんの武器の件もありますが、まさしく渡りに船ですね
私の方にも教会から書状が届き、このままお二人と合流し、召喚の勇者の一行としてサウスマナに渡るようにとの事です
これも神の思し召しですねえ」

レインの方にはギルドから書状が届いているであろう事もわかっていた
様々な思惑や手続きによって事態は進むのだが、教会に属している以上まずは神を立てて感謝の念を捧げるのであった

「さて、それでは揃った事ですし、出向時間はもうそろそろでしょうか?
準備はできていますし、行きましょう
書状によれば各大陸の状況はかなり切迫しているようですからね!」

そう、各大陸の戦況は全般的に思わしくない
北を筆頭に、他大陸の魔族侵攻は著しく、今回の各大陸への勇者派遣は一大反抗作戦の橋頭保となるものであろうから
故にこの港町マリンベルトから勇者たちが出向するのは不思議ではなく、仮面の騎士もそのうちの一人だと思っていたのだ

船に乗り出向してしまえばもはや出会う事も成し、と出発をせかすマグリットであったが……レインの口から仮面の騎士に会いに港に行くと告げられる事をまだ知らない

【運命の水車亭にて合流】
【仮面の騎士の話をされると微妙に多少挙動不審になりつつも従いついていきます】
【第四章よろしくお願いします、賑やかになると良いですね】
0261レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2021/03/29(月) 22:14:33.38ID:bDbPZTzy
『運命の水車亭』の食堂で皆を待っていると、先にやってきたのはクロムだった。
ただし腰にはいつも通り、見慣れた黒鞘を帯びた姿で。
他の武器を持っている様子はない。
つまり、まだ間に合わせの武器を見つけていないということか。

無理もない。
いくらサマリア王国の交易を担う港町といえど、集まるのは既製品。
ダンジョンで手に入るような優れた武器は滅多に流通していないだろう。
だが、ほぼ素手の状態でサウスマナに挑めというのも無理な話である。

いっそ自分が所有する武器の中から適当に見繕って渡してみるか……?
とも思ったが、レインの持っている武器の中で黒剣に見劣りしないのは、
紅炎の剣スヴァローグしかない。大剣と日本刀では使い勝手が違い過ぎる。
渡したところで扱い慣れずクロムも本領を発揮できないだろう。

とはいえ、まだ代用品を見つけるチャンスはある。
アドベンチャー号が目指すサウスマナの港は、シルバニア王国の水都リナメールだ。
シルバニアはサマリアとは比較にならない大国であり、魔物も強力だという。

ならば必然的に扱う武器の質も高いはず。クロムの眼鏡にかなう武器もあるかもしれない。
ちなみにレインはイース以外の大陸を知らないので、どんな武具が揃っているか楽しみでもある。

(っと……マグリットはいつ来るんだろうか)

マグリットに関しては連絡がついていないので、いつ来るか分からない。
仮面の騎士を待たせてはいるが、現れるのは明日かもしれないし明後日かもしれない。
運に身を任せるしかないか――と思った矢先、マグリットが手を振って現れた。

>「さて、それでは揃った事ですし、出向時間はもうそろそろでしょうか?
>準備はできていますし、行きましょう
>書状によれば各大陸の状況はかなり切迫しているようですからね!」

なんだか急かすように出発を促されたが、
その前にいよいよ仮面の騎士との一件を語らねばなるまい。

「実はサマリアを出る前に、会わなきゃならない人がいる……仮面の騎士だ」
0262レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/29(月) 22:17:02.17ID:bDbPZTzy
レインは語った。
手合わせで一方的に負けたこと。彼が大幹部との交戦経験を持っていること。
そして次なる敵――風の魔族こと、大幹部"風月飛竜"シェーンバインの攻略法を有していること。

「あの人が何者なのかは分からない。前に会った時は聞く暇もなかった。
 けど……嘘をつくような人でないのは分かるんだ。だから会いにいこうと思う」

マグリットの反応がなぜか芳しくなかったが、その意思は変わらない。
サティエンドラの戦いを思い返せば、同クラスの敵の情報は是非とも欲しい。
いや――単に大幹部との実力差を前にして、焦っていたというのもあるかもしれない。
でなければ九似の件について思い至ることができたはずだ。

レインは立ち上がってはがねの剣を装備すると、港へと向かった。
船が行き交う港では、仮面の騎士が海を眺めるように佇んでいる。

何もしていないのに一分の隙もない。常在戦場という言葉があるが彼はまさにそれだ。
なのに落ち着くような、安らぐような気もする。まったくもって不思議な人物である。
仮面の騎士はこちらへ振り返ると、静かに語りかけてきた。

「三人揃ったようだな。では……これから"風月飛竜"の戦い方とその攻略法を教えよう」

「待ってください、その前にひとつ聞きたいんです。前にあなたは自分を一介の冒険者だと言いました。
 でも……本当は何者なんですか?その膨大な光の波動に、一級品の実力。どれをとっても只者じゃない。
 なのに、貴方は冒険者ギルドの人間ではないし、今まで噂話すら聞いたことがない」

仮面の騎士は少し間をおいて「何が言いたい?」と問いかけてきた。
質問はとうの昔に決まっている。かつて『精霊の森』のエルフの長がほのめかした通りの内容だ。

「仮面の騎士さん、貴方は実は勇者じゃないんですか?
 それも……かつて魔王を倒した、あの"伝承の勇者"では――……!?」

瞬間、仮面の騎士の気配が変わった。真空の刃のように鋭利な殺気。
無防備な者が浴びたら気を失ってしまいそうなほどの。
思わず息を呑む。震える手を押し殺して、条件反射的に剣の柄を握る。

「君は大きな勘違いをしているようだ。私は勇者などではないし、資格もない。
 勇者との共通項があるとすれば、魔王を打倒したいという事実その一点だけだろう」

仮面の騎士は腰に帯びていた剣を鞘から抜かず握りしめると、レイン目掛けて振り下ろした。
形状から察するにサーベル――をすかさず抜き放ったはがねの剣で受け止める。

「雑談は終わりにしよう。まずは"風月飛竜"の戦い方を君達三人に教える。
 もっとも、手合わせという形でだが。君達は私の攻撃を躱すだけでもいいし、反撃してもいい」
0263レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/29(月) 22:21:09.79ID:bDbPZTzy
鞘から剣を抜かないのは模擬戦のためか。だが殺気は本物だ。
前回の手合わせの時と殺気の種類が違う辺り、"風月飛竜"の模倣なのだろう。

「もし私に一撃入れられるならそれで良し。"風月飛竜"と渡り合える見込みがある――」

「――前回と同じってことでしょう!?」

ぎゃり、と鞘入りのサーベルを受け流すと、はがねの剣を上段から振り下ろす。
こちらは完全なる剥き身の剣。フェアではないが、手加減などしてられない。
それほどまでに彼我の実力差には開きがある。

仮面の騎士はレインの攻撃を難なく躱し――同時に腕が消えた。
いや、正確に表現すれば超スピードでサーベルを振り抜いたのだ。

レインの目は特別良いわけではない。
だからその攻撃を目視することはできなかった。
だが、仮面の騎士は常に刺すような殺気を放っている。
その刺々しい刃物のごとき殺気が剣の軌道を教えてくれる。

一歩踏み込んで頭部を傾け、サーベルの一撃を避けるとカウンターを見舞う。
もっとも動きを読まれていたのか、仮面の騎士は後方へ大きく跳躍してレインの剣を回避する。

「……"風月飛竜"シェーンバインは風の魔法剣士だ。全ての攻撃が高速で繰り出される。
 一撃一撃を、絶対に見逃すな。ただ目で見るのではなく、全身で敵を感じることだ」

「……召喚変身、"清冽の槍術士"!」

レインの姿が青を基調とした装束姿に変わる。
前回は実力を出す前に昏倒してしまったが、今回はそうはいかない。
超スピード対策ならこっちにだって手段がある。前と同じ轍は踏まない。

すると仮面の騎士は姿を消した。
否。常人の目では捉えられないほどの速度で動いたのだ。
魔法を使ったわけでも、特技を使ったわけでもない。
純粋な身体能力によってそれを実現している。
0264レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/29(月) 22:24:41.79ID:bDbPZTzy
高速戦闘――前回の模擬戦と全く同じだ。
そして迫りくるのは五発の連撃!

「舞踊槍術、五月雨の舞っ!」

だがレインも負けてはいない。その一発一発を見切り、連続で刺突を放つ。
仮面の騎士もまた刺突を紙一重で躱す。それが幾度なく繰り返される。
常人の目には『見えない何か』をレインが捌き続けている格好だが、遂に隙が見えた。

(ここだ!)

放たれた神速の一撃を槍の穂先で防御、左足を軸に回転することで受け流す。
そして舞踊槍術の肝。円運動による回避からの……カウンターを叩き込む!

「舞踊槍術、睡蓮の舞!」

回転から流れるように放たれる横薙ぎの一閃。
仮面の騎士とて食らえばしばらく動けないだろう。
ただレインは見誤っていた。仮面の騎士の懐の深さを……。

「だが気をつけるべきだ。シェーンバインは速いだけではない。
 奴は半竜の魔族。その皮膚は竜鱗によって守られている。
 通常の武器、通常の技量では傷もつけられない」

渾身の一撃は、しかし手甲に容易く受け止められてしまう。
馬鹿な。清冽の槍アクアヴィーラに落ち度はない。あるとすれば自身の技量。
隙を見せたのはわざとだったのか、と今更ながら理解した。
全てはレインの動きを止め、槍の射程圏の内側へと潜り込むため。

「そして待っているのは至近距離から放たれる広範囲にして高威力の一撃!」

仮面の騎士が手刀を構えれば、その手には閃光のような輝きが宿る。
それがどんな技なのか、勇者であるレインは知っている。
0265レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/03/29(月) 22:29:51.97ID:bDbPZTzy
まずい――身を守るようにガードしたが、後の祭りだ。
過去にその威力を目の当たりにしているだけに全身から血の気が引く。

「魔祓い、薔薇の冠、眠れる聖者、連なる十字を刻め――」

胴目掛けて横に手刀を叩き込めば、光の十字架が聳え立った。
眩い光はレインを一瞬にして飲み込み、その衝撃は瞬く間に五体を焼き尽くす。
それは光魔法。『上位』に位置する、悪を断ち魔を祓う必殺の一撃。

「……――『セイントクロス』!!」

仮面の騎士が唱えた魔法は何もレインに叩き込んで終わりではない。
十字架はその規模を広げ続け、クロム、マグリットをも飲み込もうと拡大を続ける。
――そして、やがては港をも飲み込まんばかりに光が煌々と周囲を照らす。

こんなものを零距離で食らっては無事で済むまい。
レインの意識はとっくに刈り取られているだろう。

「……以上が"風月飛竜"の基本戦術だ。
 よもや攻略法を教える前に全員戦闘不能にはならないだろうな」

『セイントクロス』の光を眺めながら、
仮面の騎士は光の向こう側にいるクロムとマグリットに言う。
この手合わせはただの練習なんかじゃない。大陸を出る資格があるかどうかの"試し"だ。

「……そんなものではないはずだ。君達のポテンシャルは。
 もしそうであるとするなら、出航は諦めてここで眠れ……!」


【港に到着。仮面の騎士に正体を問うも分からず】
【対"風月飛竜"の模擬戦開始。上位魔法で全体攻撃、レイン戦闘不能?】
【この戦闘は目標一ターンで終わらせる予定なのでよろしくお願いします】
0266クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/04/01(木) 20:11:16.95ID:nOxJVH2w
クロムが宿の食堂に足を踏み入れた時、そこにはレイン、エイリーク、ドルヴェイクの三者の姿があった。
サウスマナ派遣の正式な依頼書が届き、出航の日時が決まったとの情報はまだ耳に入っていない。
しかし、まるでクロムを待っていたかのような彼らの顔つきを見て、クロムは(そうか、来たか)と察した。
そしてその場には確かに男三人しかいないことを確認して、開口一番提案するのだった。

「誰かマグリットに知らせてやった方がいいんじゃねーか?
 今も獣人の住処に居るのか、あるいは他の場所に居るのか知らねーけど、何れにせよ教会に言えば接触は可能だろうし。
 何もせず待ち続けてんじゃ出航もいつになるか分からねーぜ」

と。

>「やーお待たせしてすいません。数日ぶりで、お二人ともすっかり回復したようで何よりですね。」

が、実際にはその提案が三人に受け入れられるよりも早く、彼女は現れた。
何とも丁度良いタイミングであるが、曰く教会にも事前に報せが来ていたらしい。
考えてみれば教会と深い繋がりを持つ国は多い。情報の共有は勿論、時に戦略に関わることがあったとしても不思議はない。

>「さて、それでは揃った事ですし、出向時間はもうそろそろでしょうか?
>準備はできていますし、行きましょう
>書状によれば各大陸の状況はかなり切迫しているようですからね!」

ともあれ、これでメンバーは揃ったとあれば、あと気に掛ける点があるとすれば精々天候くらいだろうか。
外は風が強くなったとはいえ、台風のような突風が吹いているわけでもない。
晴天で雨の降る気配もなく、船の準備が整っているのなら素人目には出航に何ら支障はないように見える。

「そうだな。行けるなら早いとこ行こーぜ。天気が変わっちまう前に」

しかし、出発を急かすようなマグリットの言葉に同調したのは、結局のところクロムだけだった。
何故なら首を横に振ったレイン曰く、サマリアを出る前に仮面の騎士に会わなければならないというのだ。
エイリークもドルヴェイクもその辺りの事情は既に承知らしく、パーティのやり取りに不動と無言を貫いている。

「……」

その場所に案内するというように食堂を後にするレインの後姿をしばし眺めた後、クロムは黙って後をついて行く。
直前に隣を見た時、マグリットが何か言いたそうな顔をしていたが、何か仮面の騎士に含む所があるのだろうか。
いや、そう思われても仕方がないのはクロムも同じである。
彼自身、仮面の騎士の名を聞いた瞬間、その得体の知れなさを思い出して自然と眉を顰めていたのだから。


──前を行くレインが足を止めた場所、そこはダゴンの死によって船の往来を取り戻した港であった。
そして彼の視線の先で海を眺めるように佇んでいたのは、確かにあの仮面の騎士に間違いなかった。

>「雑談は終わりにしよう。まずは"風月飛竜"の戦い方を君達三人に教える。
> もっとも、手合わせという形でだが。君達は私の攻撃を躱すだけでもいいし、反撃してもいい」

彼はレインとの問答をサーベルを振り下ろす事で強引に打ち切ると、そのまま宣言通り戦い方の伝授に移っていった。
──高速で攻撃を繰り出し、反撃を高い防御力で無効化し、とどめに高位の魔法をゼロ距離で放つ──
レインに炸裂した光の十字架が肥大化し、その効果範囲が己の眼前に迫って来るのを見て、クロムはすかさず後方に飛び退く。
光が届かないであろう距離の高台まで。

(これが半竜の魔族……シェーンバインとやらの攻撃パターン、か)

仮面の騎士が何故、そいつの攻撃パターンを知っているのか。
確認のしようはない。ないが、過去に戦ったことがあるからだ──と、クロムは確信せざるを得ない。
異常とも言えるほどの強烈な光の波動を操る、底知れぬ実力。
それを見せつけられては、かつて戦い、生き残り、その攻略法を見出したとしても不思議はない、そう認めざるを得なかった。

(しかし、分かんねぇな……)

だが、それでも腑に落ちない点は多々ある。それが、彼に一度は鞘に伸びかけた手を引っ込めさせた。
0267クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/04/01(木) 20:23:19.58ID:nOxJVH2w
「……どうしてあんた、俺達みたいな実績の乏しい小さなパーティにそこまで拘ってるんだ?」

光が消え、再びはっきりと視界にその姿を現した仮面の騎士を見下ろしつつ、クロムは近くの樹木に歩み寄る。

「最初は紅蓮魔宮でピンチの時に。今度はサウスマナ行きが正式決定した直後に。
 通りすがりの一介の冒険者が偶然世話を焼いただけにしちゃちょっとタイミングが良すぎるし──……
 何より今回に関しちゃ内容も攻略法を伝授するかイースに留まらせるかで、お節介の度を越してるぜ」

そしてそこへ背を預け、続いて腕を組むと、更に言葉を続けた。

「あんたの実力は認めるよ。実際に一度助けられてるし、魔王軍と敵対してるってのも本当だろう。
 けど……パーティの行動をあんたに掣肘されるいわれはないね」

「……」

「もやもやしたままじゃ手合わせはできねぇよ。だから俺はパス。
 それに……敵の敵が完全な味方と決まったわけでもないしな」

「フッ……慎重だな」

それに対し、仮面の騎士は笑みを含んだ息を返した。
クロムは真顔で「そりゃそうさ」と独り言ちるように静かに呟いて、一拍置いて目を細める。

「自分の素顔も名前さえも明かせない男に、慎重になるのは当たり前だろ?
 ましてやあんたは高位の光魔法が使えて大幹部の闘技を模倣できるほどの膂力と技術を持った実力者だ。
 ……油断はできない」

ややあって仮面の騎士が言う。それは抑揚の無い「……そうか」の一言だけであった。

【空気を読まず手合わせを拒否。いくつか疑問をぶつけるが……】
0268マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/04/04(日) 19:54:46.41ID:ygvBmbjJ
>「実はサマリアを出る前に、会わなきゃならない人がいる……仮面の騎士だ」

レインのその言葉に思わず息を呑むマグリット
その存在を港で見かけてから嫌な予感はしていたが、まさかのこの展開に動揺が隠しきれない
とは言え、自身の内に秘めたサティエンドラの魔の因子の為に接触を避けたいという訳にもいかず
結局のところしどろもどろとその言葉に従わざる得ないのだが

三人は港に着き、ついに仮面の騎士との再会を果たした
なるべく目立たぬように、後ろで大きな体を縮こまらせていたが、仮面の騎士の言葉に小さく反応する

>風月飛竜"シェーンバイン

「……竜……」

小さく呟きそれを反芻し、これから向かう大陸での戦いに想いを馳せている最中に思考は現実に引き戻される
戦い方と攻略法を教える、と仮面の騎士が戦闘を始めたのだ

「え、いや、私は……それにクロムさんは武器が……」

小さく抗議しようにも、既に戦闘は始まってしまっている
文字通り目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出す仮面の騎士に対応するのは清冽の槍術士に召喚変身したレイン
武器の召喚のみならず、変身も伴う召喚はレインの奥の手であり、それを初手で出さざる得ないという事なのだろう
マグリットとしても援護に出るべきなのだが、どうしても二の足を踏んでしまうのであった

その中で戦いは動く
目を複数生み出し複眼効果で動体視力を上げてようやく見えるその動きの中で、レインは仮面の騎士にカウンター攻撃を決めたのだ
が……
その一撃は手甲によって受け止められており、いわく、シェーンバインは早さに加え半竜の魔族故に皮膚は竜鱗によって守られているとの事
更に底から繰り出されるのは広範囲にて高威力の一撃

それは上位光魔法セイントクロスであった
光の十字架がレインを飲み込みさらに広がっていくのを見て、マグリットは口に小さな貝殻を放り込み、ギリリと歯を噛み締め覚悟を決めた

「出発前から奥の手を出さなきゃいけないなんて、参りましたね……!」

噛み砕かれた貝殻から溢れ出るのは、常人であれば浴びるだけで魔力中毒を起こすダゴンの水槽の魔力水
それを飲み込む事によりマグリットの魔力は暴走状態にも似た状態になり、その奥底に眠る魔の因子を呼び起こす
瞬間、マグリットの右腕が大きく隆起し、サティエンドラのそれに近くなる
手に持ったシャコガイメイスもその影響を受け炎を纏い、そこから繰り出される強力な一撃は上級光魔法に対抗しうる威力を持った

その眩さゆえにホワイトアウトの領域を広げていく十字架の根本、レインの板付近に叩き込まれる炎を纏ったシャコガイメイスはサティエンドラの一撃に等しく光を抉り取った
抉り取られた光の境目にレインの影を捉えると、その隙間に体を滑り込ませ気絶したレインを抱え込んだ
0269マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/04/04(日) 19:57:30.35ID:ygvBmbjJ
やがて光が消え去った後、レインを小脇に抱えたマグリットが立っていた
背中の聖水の入っていた樽は粉みじんになっていたが、これが故にセイントクロスの威力を軽減し二人の五体満足を保っていたのだ

「ご教授ありがとうございます
しかし、些か度が過ぎるのでは?」

シャコガイメイスを仮面の騎士につきつけながら抗議するその腕は、既に元のマグリットのものに戻っていた
小さな貝殻に入れられる魔水の量ではサティエンドラの力一撃分で消耗してしまうのだ
これはその力があまり露呈しないように調整されたものであり、セイントクロスを隠れ蓑としてはいたが仮面の騎士の目をごまかせたかは定かではない
もしマグリットの内なるサティエンドラの魔の因子を危険視し消去しようとするのであれば、一戦交えるのもやもなし、という覚悟の現れだった

緊張の粒子が仮面の騎士とマグリットの間に漂い始めたところで、そこに割って入るクロム
セイントクロスの効果範囲からいち早く脱していたが戻ってきたのだ

クロムもまた仮面の騎士を信用している様子もなく質問をぶつける事で気が削がれ、マグリットはシャコガイメイスを下ろすのであった


「ともあれ、お望み通り私たちはあなたの一連の攻撃を凌ぎ切りました
手合わせはもうよろしいですね?
ならば失礼しまして」

抱えていたレインを下ろすと、その脇に跪き祈りを捧げる
あたり一面壊れた樽からこぼれた聖水で水浸しの為か、マグリットの回復魔法はいつもより高い効果を示し、レインのダメージを癒していく
この分ならばすぐに意識も回復するだろう

【サティエンドラ因子を活性化させセイントクロスを一部相殺】
【手合わせの終了を宣言し、レインを回復】
0270レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/04/11(日) 23:18:56.19ID:N2WA8drd
深海に沈んだように意識は深い底へと落ちていく。
ああ、またこれか。諦念にも似た感情は高い壁にぶつかったようで。
しょせん自分はこの程度なんだと久々に思い知らされた。
もしかしたら……自分は大幹部に一生勝てないのでは?

だけど諦めない。諦めるわけにはいかない。
魔王を倒すという果たしたい約束があるから。
何度でも、奴が待ってる場所へ手を伸ばすだけだ。
やがて意識は深淵から急上昇をはじめ――……。

「……はっ!」

目覚めた眼で見上げた空はいつもの快晴だった。
起き上がると仮面の騎士がどこ吹く風で佇んでいる。
対して、クロムとマグリットが不信を露にした態度でそこにいた。

原因は仮面の騎士の正体が分からないという、不審さが原因なのだろう。
剣呑な空気を断ち切るように、レインは起き上がって話はじめた。
気絶の影響で変身召喚はすでに解けている。

「いてて……風の大幹部の戦術は理解しました。
 でも……俺の実力じゃそもそも次の大陸で通用するかどうか……」

仮面の騎士は沈黙を保ったままレインの方へちらと顔を向ける。

「……だからもう一回。もう一回やりませんか。
 以前に貴方は俺に言いましたよね。可能な限り強くなってもらうと。
 ならせめて、その手伝いはしてください。一人で剣の素振りでもしろって言うんですか?」

この手合わせ、レイン個人として到底納得がいくものではなかった。
何せ、試しも兼ねていたのに、一人無様に気を失ってしまったのだから。
凄い勢いで仮面の騎士に詰め寄ると、話を続ける。

「嫌とは言わせませんよ。極端な話、俺は貴方の正体なんてどうでもいい!
 魔王を倒すためなら、どんな手段だって使うし、どんなことだってする覚悟です!」
0271レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/04/11(日) 23:21:00.05ID:N2WA8drd
両者、しばしの沈黙。
その沈黙を破ったのは仮面の騎士だった。

「……なるほど。面白いな、君は。
 今の君にとってサウスマナの魔物は脅威どころではなく危険でしかない。
 だが確かに……私に勝つまで挑めばその限りではない。可能性は十分にある」

「ほ、本当ですか!?」

「手伝うのは構わない。だが以前に時間がないと語ったのも本当のことだ。世界にも……私自身にも。
 そして私には正体を明かせない事情があった。ゆえに、このような形で干渉してしまった」

仮面の騎士は頭を下げた。

「君達に干渉した理由は……運命の導きを見たとでも言っておこう。
 私は長い時間かけて世界中を巡ったが、遂に今の魔王城を見つけられなかった」

少し間を置いて話が続く。

「大幹部とはその長い時間の過程で運良く戦えたにすぎない。
 だが、君達はどうだ。私より遥かに短時間で大幹部に遭遇している。
 一度目は偶然かと疑ったが、今回で確信した……君達には"何か"があると」

レベル不足のまま大幹部に挑んで死なれるくらいなら、イースに留まった方が良いと。
そう考えて仮面の騎士は急な手合わせを始めたのだという。

しかし――正体を隠したままでは君の仲間が納得しないだろう、とレインの後方へ視線を送る。
未だ不信な目で仮面の騎士を見るクロムとマグリットを見て、確かに、とレインも呟いた。
仮面の騎士と何をするにしても、この問題が解決しない限り話は前に進まないだろう。
このまま攻略法を伝えて去ったとて、わだかまりが残るだけだ。

「"召喚の勇者"。君が魔王を倒すため何でもするというなら。
 私も魔王城へ至るため、覚悟を決める」

仮面の騎士は自らの仮面に触れた。
そして、ベールに覆われていた顔がついに露になる。
0272レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/04/11(日) 23:25:05.18ID:N2WA8drd
優男のようで精悍さを感じさせる顔立ち。
すこしつんつんした毬栗みたいな短めの黒髪。
総合的に言えば美形。アンナが喜びそうだな、と思った。
レインが勇者になった時、王城で見せられた"伝承の勇者"の肖像画にそっくりだ。

「私の名はアルス。君達には顔と名を明かすが、魔王軍にはなるべく悟られたくない。
 もし名前を呼ぶことがあれば連中が名付けた『仮面の騎士』で頼みたい」

そう言って、アルスは静かに仮面を被り直した。
腕が震える。顔といい、名といい、1000年前に世界を救った勇者その人ではないか。
最初の勇者は魔を打ち払った後天界へ昇ったと聞く。これはお伽話にもある公然たる事実だ。

天界とは神々の住まう場所。物質世界から解放された彼に寿命など関係なかろう。
確証はないが確信した。アルスは間違いなくかつて世界を救った勇者だ。

「や、やはり貴方はあの"伝承の勇者"だったんですね……!」

「……そうだな。君達に隠し事をしても意味などない。
 魔王の復活を許した私に、名乗る資格はないが……。
 確かにかつて勇者と呼ばれていた。もう大昔の話になる」

仮面の騎士の肯定を得て、これで正体が確定した。
彼こそはかつて魔王を倒した本物の勇者、アルスなのだ。
現実味に欠けるような気もするが――この期に及んで嘘は言わないだろう。

「クロム、マグリット。悪いけれど俺は仮面の騎士を旅に同行させたい。
 我儘だけど……俺は強くなりたい。この人に修行を手伝ってほしいんだ」

ダメもとでレインは頼んだ。不信感を抱いている二人のことだ。断られる気もする。
その場合、仮面の騎士は"風月飛竜"の攻略法だけ伝えて去ることになるだろう。
だが正体が判明した以上、レインは彼に聞きたいことも沢山あった――。
例えば、未だ謎多き『魔王』に関する情報などがそうだ。


【仮面の騎士:名前はアルス。正体は大昔の勇者。質問があれば答えます】
【レインの頼み:修行を手伝って貰いたいから仮面の騎士を旅に同行させたい】
0273創る名無しに見る名無し
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2021/04/11(日) 23:33:17.26ID:45UPut8D
「いや、仮面を着けてると息苦しくてなあ、だから断る!」
仮面棋士は断った。
0274クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/04/13(火) 21:07:35.18ID:UdDYT/yq
レインと仮面の騎士のやり取りを眺めながら、クロムは何とも言えない表情で頭を掻く。

仮面の騎士の名はアルス。何とその正体は1000年前の伝説的な勇者だと言うのだ。
確かに名前は一致しているし、露になった仮面の下の顔も今に伝わる伝承の勇者の肖像画にそっくりではある。
もし“本物”ならば、尋常ではない強さの光の波動を持っているという点もなるほど説明がつくわけだが……

「……」

あっさりとそれを事実と受け入れて感激するレインとは対照的に、クロムはしばし言葉一つ出せなかった。
困惑していたのである。そんな突拍子もない話をどこまで真面目に受け取るべきなのかと。

精神異常者の類か? いや、それだと一級品の実力の持ち主という点の説明がつかない。
では記憶を失った実力者を何者かが姿形、記憶までも魔法で弄って送り込んだか? いや、何のためにそんな回りくどいことを?
ならば彼自身が言うように、本物のアルスなのか? ……しかし1000年前の人間の勇者である。それを信じろと?

(……ダメだ、考えれば考えるほど泥沼にはまりそうだ)

答えの出ない堂々巡りに嫌気がさして、やがて溜息をつきつつ掻いていた手を下ろすクロム。

>「クロム、マグリット。悪いけれど俺は仮面の騎士を旅に同行させたい。
> 我儘だけど……俺は強くなりたい。この人に修行を手伝ってほしいんだ」

少しの間を置いてレインがそう言ってきた時には、既に彼も彼なりの結論を出していた。
すなわち──(アルスと名乗ったんだからアルスなんだろう。それでいいや)──だ。
やや投げやり気味に思考を放棄したと言えるが、ただ仮にお伽話の超常的な神々の世界が事実存在するものならば、
その世界の仕組みを知らない者が己の常識に従ってあれこれ物事を現実的に解釈すること自体が間違っているともいえる。

「色々と信じ難い事が多くて今は何もかも納得してるわけじゃねーが……このパーティのリーダーはお前だ。
 お前が仲間に欲しいと願い、本人にその気があるならそれで話は決まりだろ。好きにすりゃいい。
 加入してくれれば今後の戦闘も随分楽になるし、そう言う意味では俺はむしろ歓迎してるくらいだよ、仮面の騎士サンを」

背を樹木から離して直立し、クロムは仮面の騎士を見据えながら海上を行く船を顎でしゃくる。

「ま……あんたが誰もが伝承で知るあのアルスだとして、聞きたいことは山ほどあるわけだが……
 ダゴンが消えた今、魔物の心配もこの近海を出るまでない。船の上じゃしばらく暇を持て余すことになるだろう。
 手合わせの続きも長話も船の上でじっくりすることにして、ひとまず船に乗ろうじゃねーか」

そして最後に人差し指を一本立てて、付け加えた。

「だから今は一つだ。俺からの質問は。
 ──あんた、“今は”人間なのか? それとも……」

【ひとまず船に乗ることを提案しつつ、仮面の騎士に質問】
0275マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/04/16(金) 20:58:56.48ID:+u0aNOwG
レインは意識を取り戻すと、猛然と仮面の騎士に食い下がる
圧倒的なレベル差を見せつけられ、これから先の戦いでの力不足を痛感したのであろう
強くなるために仮面の騎士の素性がどうであれ、利用できるものは利用する

その姿勢自体はマグリットも同意するところ所ではあるが、仮面の騎士の正体や真意がわからない以上、迂闊にそれに賛同する事はできないでいた
レインのように勇者としてまっすぐ進むのであればその力と魔王軍と相対する姿勢があればそれで良いだろう
しかしマグリットはその身に九似の魔を宿し吸収して龍に至る事を目的としており、既にサティエンドラの魔の因子を取り込んでいる
一度はその魔の因子を仮面の騎士の結果的にとはいえ消されかけた身としては警戒せざる得ないのだ

とは言え、先ほどのセイントクロスに対処するために発現させたサティエンドラの魔の因子
仮面の騎士程の力量を持つ者の目をごまかせたとは思えないのだが、その件について言及するそぶりもない
故にますます真意を測りかねてしまっていたのだった

マグリットは怪訝な顔をしていたし、恐らくクロムも同じような顔をしていたのだろう
それを見て仮面の騎士が仮面を取り、その素顔をあらわにした

>「私の名はアルス。君達には顔と名を明かすが、魔王軍にはなるべく悟られたくない。
> もし名前を呼ぶことがあれば連中が名付けた『仮面の騎士』で頼みたい」

>「や、やはり貴方はあの"伝承の勇者"だったんですね……!」

様々な思考を巡らせていたマグリットであったが、その素顔を見て全てが吹き飛んでしまった
それは教会にも飾られている肖像画にそっくりな伝説の勇者そのものだったからだ

しかし、伝説の勇者は1000年も前の人物
肖像画自体は知られており騙るのは容易い……が、今までの言動や力量を見るに偽物とは言い難い
暫く思考が追い付かず、口をパクパクとする時間が続くのであった

思考を引き戻したのはレインが仮面の騎士を旅の同行させたい旨を口にしてようやくだった
思わずクロムの顔を見るが、クロムもまた思考の混乱に見舞われているようだ

無理もない、強大な力を持つ謎の人物が1000年前の勇者であったと言われ、そのまま受け入れるのは難しいだろうから
そんなクロムからは動向の参道と、ひとまず船に乗る旨の提案、そして

>「だから今は一つだ。俺からの質問は。
> ──あんた、“今は”人間なのか? それとも……」

仮面の騎士の正体の核心に迫る問いかけであった
それを受け、マグリットも思考を整理し佇まいを直し改めて仮面の騎士と向き合った

「突然の事に理解が追い付かず呆けてしまい失礼しました
改めまして、神託を受け召喚の勇者レインさんの伝導師をしておりますマグリットと申します
魔王討伐の志を一にし、更にはその先達であるあなたに同行願えるのであればこれ程心強い事はありません」

と定型文のような礼を述べた後に一つ咳ばらいをし言葉を続ける
0276マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/04/16(金) 21:02:29.15ID:+u0aNOwG
「私は教会の伝導師であると同時に、貝の獣人の巫女にして九似を取り込み龍に至る事を目的にしております
既にお気づきだとは思いますが、この身には九似が一つとして取り込んだ魔の因子が宿っています
その旨ご了承とご理解いただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

勇者アルスの伝承は御伽噺レベルで広く伝わっている
それ故に偶像化され戯曲化された伝わり方で、アルスその人の実像が分かっているわけではない
これから先同行するにあたり、マグリットの目的とアルスの魔を滅するという目的が衝突しかねない
それが致命的なタイミングで起こらぬように、今ここで了承を得ておこうというのであった

そしてもう一つ、聞いておくべき事を言葉に紡ぐ

「そして、仮面の騎士さま。
あなたは、いつまで……もしくは、どれだけ、こちらに留まっていられるのでしょうか?」

これはクロムの質問に通じる話ではあるが
仮面の騎士の行動を見るに不自然なところが多いのだ

伝説の勇者アルスにたがわぬその実力、魔族の最高幹部と戦いを繰り広げて、実物であれば更にその先の魔王すら倒した事になる
それほどの力があれば、低レベル帯の勇者パーティーである自分たちに干渉する必要がないはずだ
マグリットがレインに運命的な何かを感じていると同様に、仮面の騎士も魔王討伐の為にレインに何かを感じているのかもしれない
それにしても、だ
攻略法を伝えたり、手合わせしたりなど、まるで後事を託すかのような行動

これらを考えるに、1000年前の人物である勇者アルスが現在の世界に干渉できる時間が限られているのか
もしくは使える力の量が決められており、戦いを重ね消耗すればそのまま存在できなくなるのか
そういった制限がついているのではないか?という問いかけであった

問いかけをし、仮面の騎士の答えを待つマグリットだったが、ふと思い出したかのように岸壁に身を乗り出して叫んだ
「あ、すいません。3番ラボのBコンテナ樽をお願いします!」と

マグリットは貝の獣人であり、貝に類する様々な能力を有する
その一つに放水能力があるのだが、水を生み出したり操ったりできるわけではない
故に樽に聖水を入れてそれを背負っていたのだが、先ほどのセイントクロスから身を守るために盾としてバラバラになってしまったので、海に向かって新たなる樽の取り寄せを伝えたのだ
勿論マリンベルト近海の海中には貝の獣人の連絡網が敷かれており、マグリットの言葉は即座に伝わる
結果、マリンベルト近海を出るアドベンチャー号の前に巨大な触手が這い伝わり、樽が一つ届けられることになるのだが、それはまた後日の話しである

【アルスに九似の取り込みの為魔の因子を吸収する旨を伝え了承を求める】
【アルスに存在や行動の制限があるかを尋ねる】
0277創る名無しに見る名無し
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2021/04/17(土) 08:09:06.35ID:FxVG1LQQ
糞便食の価値が見直されたのは2013年です。FAO(国連食糧農業機関)が食糧問題への有効な対策の一つとして、地球温暖化に対して温室効果ガスを出しにくい糞便を挙げたんです。今まで見過ごしてきた先進国によって再発見されたんですね。

 先進国と貧困国の格差を考えると、もし世界的な大企業が糞便食で大きく儲けを出したとしても、糞便食文化をもっている地域に還元されなければ、それは良いこととはいえないでしょう。やはり糞便食によって、貧困地域の人たちの生活が向上していくところからスタートするのが一番倫理的な方法ではないでしょうか。

 2017年からは味の素ファンデーションのプロジェクトで、糞便を含めてラオス人の栄養改善に必要な効果的な食べ物は何か、という調査をしました。その結果、彼らに足りていない栄養とマッチする糞便であるトンスル、人中黄が見つかり、さらに養殖して高く売れることがわかりました。

 そして、養殖した糞便を売って、その利益で栄養価の高い食べ物を市場で買って帰る、また、もし市場で売れなかったとしても売り余った糞便を自分の家で食べることで栄養面がマイナスにならないようにする──。そんな所得向上を目指すための養殖技術の開発をしています。
0278創る名無しに見る名無し
垢版 |
2021/04/19(月) 14:36:49.92ID:3xiqfCZj
日本ゲーム業界で屈指のゲームプランナーやプロデューサーに登りつめた松浦正明さんは
その通名ではなく本名である殷正明(ウン ジョンミョン)という名前で活動できる社会を望んでいるそうです。
 ヘイトスピーチやヘイトクライムのない日本社会になる事によって彼らが本名で支障なく活躍できる事を皆さんで目指してみませんか?
0279レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/04/19(月) 23:46:44.64ID:qu7gS3mD
レインの頼みは、(納得されたわけではないが)クロムとマグリットになんとか聞き入れて貰えた。
なにせ夢物語のような話である。自称1000年前の人物を仲間にしようなどと酔狂にも程度があるだろう。

>「ま……あんたが誰もが伝承で知るあのアルスだとして、聞きたいことは山ほどあるわけだが……
> ダゴンが消えた今、魔物の心配もこの近海を出るまでない。船の上じゃしばらく暇を持て余すことになるだろう。
> 手合わせの続きも長話も船の上でじっくりすることにして、ひとまず船に乗ろうじゃねーか」

そんな中で、クロムがまず提案したのはとりあえず船に乗ろうということ。
皆、仮面の騎士に聞きたいことは沢山あるが、それは旅の道すがらでよいだろう。

>「だから今は一つだ。俺からの質問は。
> ──あんた、“今は”人間なのか? それとも……」

ゆえに、クロムからぶつけられた質問はひとつ。
1000年の時を経て今なお生きている仮面の騎士は、果たして人間なのか否か。
それほど長い時を生きられるのは本来魔族やエルフをはじめとする異種族くらいだ。

「その質問に対する答えは……イエスでありノーと言えるだろう。
 私の在り方は人間の頃と変わらないし、ただ事実として人間を逸脱してもいる」

仮面の騎士は語る。
天界――神々の住む世界は実体のない精神世界のような高次元の場所だと。
そこへ至るには精霊や神々のように神格を得るしかない。
なので彼は当時、魔王を倒した見返りとして主神に頼んで、下位の神格を貰った。
だから寿命を超えて生きられるし、人間としてのレベルキャップを外した鍛え方もできる。

「今やこの世界(アースギア)で目にすることは少ないようだが、存在としては精霊に近い。
 精霊化した勇者がこの私……と表現するのが一番現実的なのだろう」

身体能力だけで高速戦闘を行えることが、まさにその証と言える。
もっとも、主神から神格を剥奪されれば人間に戻るしかないだろうが……。

>「私は教会の伝導師であると同時に、貝の獣人の巫女にして九似を取り込み龍に至る事を目的にしております
>既にお気づきだとは思いますが、この身には九似が一つとして取り込んだ魔の因子が宿っています
>その旨ご了承とご理解いただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

これはかねてよりマグリットが仮面の騎士を警戒する理由の核であろう。
仮面の騎士は九似について知っている様子だったが、勇者として魔を滅してきた彼の答えは不明だ。
何せ『魔を取り込む』という過程は逆に魔に取り込まれる可能性をも意味しているのだから。

「蜃の九似……いや、マグリット。君の目的を邪魔する意図は私にはない。
 ただ……以前のように力に振り回されたままで龍へ至った時、到底力を制御できないだろう。
 そうなれば最早魔族と変わらない。私でなくとも勇者の誰かが君を滅することになる……それは覚悟しておくことだ」

それでも仮面の騎士はマグリットの目的を了承してくれた。
以前『ホーリーアサイラム』で因子を消滅させたのは、『獣王』の力を制御できていなかったためらしい。
曰く、当時彼女が制御できるレベルまでサティエンドラの力を抑え込んだのだという。
0280レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/04/19(月) 23:49:38.96ID:qu7gS3mD
>「そして、仮面の騎士さま。
>あなたは、いつまで……もしくは、どれだけ、こちらに留まっていられるのでしょうか?」

「……鋭いな。君は」

仮面の騎士はそう呟くが、マグリットは彼の返答を待たず岸壁に身を乗り出す。
海に向かって何かを頼んだようだが、その答えは後になって分かった。

「……話を続けよう。神格を得た私は寿命も肉体の制限もなくなったが、枷がひとつ出来た。
 神々が去り魔素の薄れたこの世界で実体化するには、自身の魔力を消費するしかないのだ。
 『精霊の森』のような霊地ならともかく、私はこの場にいるだけで相当量の魔力を使う」

そして、魔力が底を尽きれば実体を失い、彼は天界へと去るしかない。
仮面の騎士曰く、節約すればどうにか『宇宙の梯子』までは持つだろうと語る。

「実体を失ったが最後、再び実体化に必要な魔力が溜まるまで少なくない時間を要するだろう。
 ……その間に、大幹部たちが南、北、西大陸の征服を完了させているかもしれないと私は思った」

そうさせないためにも、目をつけていた"召喚の勇者"一行にだけは対大幹部の攻略法を伝えたかったのだ。
肝心の"風月飛竜"対策は、船に乗ってから話そう、というと、一行はアドベンチャー号へ向かった。
そして出航の時間となり、仮面の騎士は近海を出るまでの間にいよいよその攻略法を語る。

「……角だ。魔族に生えている角は、奴らの膨大な魔力の制御器官とも呼べる役割がある。
 折ればシェーンバインは魔力を練れなくなるだろう。攻撃の大半を封じることができるはずだ」

女性の魔族は退化していて分からないが、サティエンドラやダゴンには生えていただろうと言った。
"猛炎獅子"の場合は基本戦術が特技のため必ずしも弱点とは言えないものの、魔法剣士たる"風月飛竜"は話が別だ。
と、いっても相対的な弱点ではある。並みの攻撃で傷つかないのは竜鱗と同じらしい。
しかしミスリルや黒妖石などの希少な金属の武器であれば、魔族の角は確実に折ることができるとのこと。

「よしっ、それを踏まえた上で、もう一度手合わせをやりましょう!今度は負けませんよ!」

「……そうだな。君の修行を手伝うと約束したばかりだ」

こうしてレインと仮面の騎士、二人の修行が船の上で始まった。
近海を出る頃に巨大な触手が海から這い出て一同を驚かせたのだが、それはまた別の話である。
0281レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/04/19(月) 23:53:18.23ID:qu7gS3mD
――――……。

長い船旅の末に"召喚の勇者"一行はようやくサウスマナ大陸に辿り着いた。
近海を出てからはたびたび魔物に襲われたが、仮面の騎士の助力もあり少ない労力で退治できた。
そして、レインの修行もひとつの目途が見えてきたのである。

"風月飛竜"を想定した模擬戦で、もう何度か仮面の騎士に一太刀入れられるようになってきていた。
これは目覚ましい進歩と言っていい。基礎能力だけでいえば、かなり成長したと言えるだろう。
そして仮面の騎士は模擬戦とともに『奥義』習得に向けての基礎訓練も行ってくれた。
魔力底上げの座禅や第六感の強化、剣術の特訓などがそうである。

とはいえ、どんな『奥義』が結実するかはレイン本人にしか分からない。
いわく、三種類ほど思いついているそうだが、形になるにはまだ時間がかかるだろう。

船を降りてエイリークに別れを告げると、一同が降り立ったのはリナメールという水の都である。
リナメールはシルバニア共和国に存在する都市で、マリンベルトとは比にならないほど大きな街だ。
運河が張り巡らされており、ゴンドラが行き交い、石造りの家が迷路のように建っている。

ここでサウスマナ、ひいてはシルバニア共和国について触れておこう。
アースギアは人間中心の社会だが、サウスマナに限っては人間より亜人の比率が高い。
エルフ、獣人、ドワーフにハーフリング。亜人でも国家を形成でき、肩身の狭い思いをしなくてもいい。

特にシルバニア共和国はサウスマナを代表する多種族国家のひとつだ。
王政でないのは特定の種族が王になれば必ず格差を生んでしまうため、共和制を採用している。
この国に関しては亜人にも大きな発言権があり、皆姿を隠すこともなく堂々と生きている。

「おっ、お兄さん方、ゴンドラに乗りやせんか。
 街の散策に最適ですぜ。お一人様50ゴールドでどうです?」

陽気な声のする方へ目をむければ、すらっとした痩身の蜥蜴の獣人。
ゴンドラに乗らないかと手を振って誘っているようだ。
折角なのでレインが移動に便利そうだから乗っていこうと言った。

しかしこの国、水の都とは言うが地理的には南国のためくそ暑い。
レインもいつもの外套を脱いで旅人の服姿という軽装でいる。
ゴンドラを漕ぎながら、蜥蜴の獣人が街に関する話を色々教えてくれた。
中央市場にいけば冒険者が好みそうな装備やアイテムが沢山売っているらしい。

「そうそう、中央市場でオークションも開催されるって聞きましたよ。
 なんでも凄い武器やらが売りに出されるとか。あっしには無縁な話ですがねぇ。
 お兄さん方は強そうだし、きっと冒険者なんでしょう。興味あるんじゃないですかい?」

「オークションか……金には困ってないし、普通の武器屋や道具屋より良いものが集まりそうだね。
 寄り道になるけど、見ていかないかな。もしかしたら掘り出し物があるかもしれないよ」

レイン達は前回の一件で財宝を手に入れたので金には困っていない。
一部は『海魔の遺跡』にて敵対したごろつき達の借金返済に充てたが、
まだ小成金とも言えるくらいには残っているはずだ。


【サウスマナ大陸に到着。オークション開催の話を聞く】
0282クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/04/25(日) 04:35:00.32ID:D77zlTKx
──水の都『リナメール』に降り立ったクロムは、辺りを見回すより先にまず天を見上げた。
南国特有のギラギラした熱い光を放つ太陽が青天のど真ん中にどっかり座り込んでいる。
気温は体感で軽く40度は超えているだろうか。
南国慣れしていない者にとっては、この環境こそがサウスマナ大陸で最初に出会う敵とも言える。

(……変わらねーな、この暑さは)

その敵に対し、パーティの先頭に立って前を行くレインは外套を脱いで軽装になることで対処していたが、
彼の直ぐ後をついていくアルスが服を脱ぐどころか仮面すら外していないのは何とも対照的な光景だった。
勿論、自分の正体を悟られたくないが為に自分を呼ぶ時は『仮面の騎士』で呼べと指示するくらいなのだ。
仮面は外したくても外せないのだろうが、では暑さに痩せ我慢しているのかと問われれば恐らく違うと答えるだろう。

神格を得た超常的存在が果たしてこの世の気候的な暑さ、寒さにストレスを感じるものなのかという疑問もあるが──
仮に感じるとしても、彼は世界中の魔物を討伐した伝説の勇者として、過去にこの気候を克服済みに違いないのだ。
かつてサウスマナを旅しながら攻略に至らなかったクロムですら、この地の太陽には暑さよりも懐かしさをまず覚えたくらいなのだから。

「南国の水の都か。お前のビキニ姿がここでも拝めそうで楽しみだ。期待してるぜ、紅一点」

などと、クロムがからかうような笑みを最後尾のマグリットに向けていると、不意に一艘のゴンドラが近付いてきた。
漕いでいるのは蜥蜴の獣人。50ゴールドで街の案内をするという。
早速、金を払ってゴンドラに乗り込むレインを見て、別に反対する理由はないクロムも黙って乗り込むことに。

ゴンドラは上流に向かう。船頭曰く、この先に街の中央市場があり、様々なアイテムが集まっているという。
特に今回そこで開催されるオークションには何でも凄い武器が売りに出されるとか。

「凄い武器、ねぇ……」

>「オークションか……金には困ってないし、普通の武器屋や道具屋より良いものが集まりそうだね。
> 寄り道になるけど、見ていかないかな。もしかしたら掘り出し物があるかもしれないよ」

このパーティの中で今、最も武器を欲しているのはクロムに間違いない。
レインも恐らくだが、その点に気を使ったのではないだろうか。
しかし、肝心のクロムの反応は鈍かった。
モノが集まるオークションとはいえ、“己にとっての名品”がそこにあるとは思ってもいないからである。

「なに、着いたばかりじゃ。少しくらいこの町でゆっくりするのも悪くはあるまい。慌てずとも儂の故郷は逃げはせんて。
 アイテムが集まる場所には人も集まる。アイテム以外にも、何か役に立つ情報《モノ》があるかもしれんしのう」

そんな心の内を見透かし、すかさず諭すように言ったのはドルヴェイクだった。
確かにその通りだ。
アイテムにせよ情報にせよ、パーティ全体の利益となりえるモノがそこにあるかもしれないなら、それだけでも行く価値はある。
目の前をただ通り過ぎるだけというのは愚行というものだ。

「……ま、行ってみるか」

クロムは後頭部で手を組み、再び天を仰ぎ見るが如く背もたれに反り返る。
そして、ちらりと隣のマグリットを見て、これまた再びからかうような笑みを作るのだった。

「そういや知ってるか? この世の中には『セクシーランジェリー』なる女物の特殊装備があるらしいぜ。
 見た目は男の視線を独り占めにできるような面積の少ないデザインだが、着けると本体の防御力が増すとかなんとか。
 ビキニ《鎧》と併せて使えばお前色んな意味で無敵になれるんじゃねーか? 見つけたら手に入れろよ」

【オークションに行くことに賛成。】
0283マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/04/29(木) 19:45:40.90ID:ioC2cCqG
照り付ける日差しと頬を撫でる潮風
正に南国!という雰囲気にマグリットは満足げな表情を浮かべている
暑くはあるが港町だけあり湿度も高く、貝の獣人のマグリットには快適と言える範疇の気候なのだ

クロムのからかいにも
「もう、いやですよ〜!
あれは緊急措置であって、もう着る事はありませんからねっ!」

と背中を叩いて苦笑いを浮かべる程度には上機嫌であった

しかし、マグリットが上機嫌である理由は、南国の気候だけでなく仮面の騎士アルスとの邂逅である事は明らかであろう
船上から既にアルスに対する態度がそれまでとは一変していたのだから

アルスはマグリットの、ひいては貝の獣人の目的である龍になる事への妨害意図がないことを明言した
更に暴走状態にあったサティエンドラの魔の因子を抑え込んだという事
ホーリーアサイラムで魔の因子が消滅しかけ、運良く残っていたと思っていたものが意図されていたものだった事は大きい

となれば、マグリットにとってアルスは目的達成に立ちはだからる危険因子から、強力な力と有用な知識を持った味方となったのだから
警戒心を解き仲間として受け入れていた

「それにしても、話には聞いておりましたが多種族国家というのは本当なのですねえ」

港ゆえの多様性の範疇を越える多種多様な人種にマグリットは目を丸くする
ドルヴェイクのようなドワーフはもとより、多様な獣人、ハーフリング、そして森しか見かけないようなエルフも見る事ができる
更にはゴンドラに乗らないかと声をかけてきたのはトカゲの獣人であった

トカゲの獣人の話によると、中央市場でオークションも開催されるとの事
武器が壊れて、メインウェポンを探しているクロムはもとより、武器を召喚して戦うスタイルのレインも気になるところであろう
オークションとなれば人も集まり、武器のやり取りだけでなく情報のやり取りも活発に行われるというのはドルヴェイクの談だが、まさにその通りだろう

そんな事を考えていると、クロムからまたもやからかうような笑みと共に言葉が飛んでくる
セクシーランジェリーなる特殊装備についてだが、ビキニアーマーの件もあり、マグリットは頬を膨らます

「もー、私はこれでも神に仕える身ですからね!
そんなものを…‥‥あー!忘れてました!」

船頭がゴンドラを出そうとしたところで、マグリットが立ち上がり船が大きく揺れる

「あわわ、すいません
リナメールの教会にご挨拶に行かねばならなかったのでしたよ
司教様からの書状も預かっていますし」

そう、マグリットはあくまで教会付きの伝導師であり、教会は大陸を超えたネットワークを持っている
その一端である以上、その役割から逃れることはできない

「とは言え慣れぬ地で一人は危険ですし、仮面の騎士様ご一緒していただけますか?
レインさんとクロムさんは先にオークション会場へ行っていてくださいな。
教会で挨拶が済めば私も合流しますので!」

武器を必要とするのはレインとクロムであり、水先案内はドルヴェイクがいれば十分だろう
一方でマグリットも教会に行きさえすれば道案内くらいは頼めるし、仮面の騎士がいれば安心である
という表向きの理由は通っている

が、マグリットの目的はもう一つあり、それが故に仮面の騎士を連れ出したのであった
0284マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/04/29(木) 19:46:56.52ID:ioC2cCqG
リナメールの教会は、南国の港町だけあってここもまた活気に溢れている
仮面の騎士と共に訪れたマグリットは、割符を見せこの教会を管理する司祭との面談をしていた
一連の挨拶と共に書状を渡し、サウスマナの魔族の侵攻状況などの情報提供も受ける
その上で「災厄の呪いが降りかかり消耗した騎士の為」という事にして『聖域』の設置を要請するのであった

教会による『聖域』
それは教会施設などの清められた場所で儀式を行う事で、浄化され神の威光が降り注ぐ結界を構成する事である
即ち、人為的に精霊の森のような霊地を作り出すことを言うのだ

マグリットは危惧していた
魔王を倒した先代勇者が目の前に顕現したという幸運
しかしそれは存在するだけで魔力を消費し続ける存在であり、節約したとしても宇宙の梯子までしか持たないというのだから

強力な力と有用な知識を持つ先代勇者を、その程度で消耗させ失うのはあまりにも惜しいとマグリットは考えたのだ
だから船上での訓練には加わらなかった
消耗を抑えてほしいという反面、レインの成長の為必要である事も理解しており、やきもきとした船旅となっていたのであった

「仮面の騎士様、これならばあなたの消耗を抑える事ができるでしょうし、上手くいけば回復させる事ができるかもしれません
まだ先は長く過酷な道のりになるでしょうから、力を蓄えておいてくださいませ」

教会地下にて設置された聖域にアルスを案内するのであった



アルスを教会の聖域に置き、マグリットは教会の者に案内され中央市場のオークション会場まで来ていた
溢れんばかりの人だかりに喧騒を前に、マグリットは自分の考えの甘さを知った

これ程の人が集まるとは思っておらず、既に会場にいるであろうレインやクロム、そしてドルヴェイクを見つけることができないでいたからだ

珍品名品が繰り出されるオークションで好事家や戦士、魔法使いたちが品定めし手に入れんがために金を積み上げる
そんな独特な雰囲気を持つ場所であるのだが、その独特さの中に妙に殺気じみたものを感じる
更に出品される品物の中に、魔族由来……魔法や果ては呪いのかかった武器や防具まで混ざっているのも特徴的だった

「やーこれは凄いですね
出されている品物からサウスマナで魔族との戦いが激しいものである事が分かりますね!……って、あ……」

思いがけずいつもの調子で、話しながら振り向いたのだが、そこには誰もおらず……
マグリット、オークション会場で迷子になっていた

【アルスを教会の聖域に案内して回復してもらう】
【オークション会場につくもレインたちに合流できずに迷子】
0285レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/05/05(水) 15:00:30.90ID:LNW5fYEs
ゴンドラから降りると、レインは早速会場へと向かおうとした。
そこでマグリットがリナメールの教会へ行く旨を告げて、一時別行動となる。
仮面の騎士に同行を頼み、彼は二つ返事で引き受けると教会へと歩を進めていく。

「ここが中央市場か……すごい人混みだ」

サマリア王国に居た頃では考えられないほどの喧騒にレインは眩暈がした。
皆とはぐれてしまいそうだと思いながら人の流れに沿って進んでいく。
会場につくと、オークションはすでに始まっているようで、激しい競りが行われていた。

面子はいかにも財テクで来ましたとばかりにフォーマルな装いをした金持ち、貴族連中と
冒険のために少しでも良い武器を購入しようとやってきた冒険者が半分半分といったところか。
とにかく人の数が多いのでマグリットと合流できるか不安になってきたレインである。

「……さぁ次の出品です。これは凄い!伝説は本当だった!!
 竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)が今ここに――『黄金牙の剣』ですッッ!!」

司会が高らかに叫ぶと、明らかに高級そうな黄金色に輝く剣が展示された。
会場がどよどよとざわつく。レインは空いている席に腰かけて顎を触った。
竜殺し、と銘打たれた剣は世に数多く存在するが、贋作が非常に多く、地雷扱いされている。
出品者は名のある豪商で、さるパーティーに帯同しダンジョンで入手したと言うが……。

加えて、レインは本物の竜殺しの剣を知っている。
しかもその類の中では最上級の一品で、霊剣と呼ばれるモノを。
勇者の一人たる"神剣の勇者"ジークが持つ剣、ノートゥングがそうだ。

「真作か贋作か……買ってみないと分からないですね。
 この人だかりと距離じゃあ鑑定もし難い」

「何か買わんのか?」

ドルヴェイクの問いにレインは少々悩んだ。
はがねの剣を一瞥する。確かにいい加減買い替え時かもしれない。

だがまぁ、たかがはがねの剣、されどはがねの剣だ。
誰でも買えるとはいえ、自分に合った武器がこれなのだから仕方ない。
そういうものと巡り合える機会は案外少ない。

「うーん……クロム次第ですね。たとえ間に合わせでも
 クロムが使うに相応しい武器が見つかれば、それで十分だろうし。
 ただ見つからない場合は、前衛が俺一人なので無理してでも買っとかないと」

どんどん値段が釣り上がっていく『黄金牙の剣』を眺めながらそう答えた。
クロムのことだ。たとえ自分が使う武器を見つけられなくても、
情報くらいは引っ提げてくるだろうと思いながら。


【レインはドルヴェイクと共に会場で競売の様子を眺めています】
0286クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/05/09(日) 21:25:19.59ID:OIvn5RB8
ゴンドラから降り、サマリアでは決してお目にかかる事のできない規模の人の波を抜けて、辿り着いた場所。
そこは既に競りが始まっていたオークション会場。
席はほぼ満席に近く、席の空きと言えば最後列の前後に歯抜けのように点在しているだけだった。

(乗り遅れたらしいな。まぁ、オークションの日時に合わせて来航したわけじゃねーからしょうがねーけど)

クロムは腰を掛けることを諦め、適当な席に腰を掛けたレインの隣で佇む。

>「……さぁ次の出品です。これは凄い!伝説は本当だった!!
> 竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)が今ここに――『黄金牙の剣』ですッッ!!」

会場がどよめいたのはそんな時だった。
『黄金牙の剣』──その名の通り、如何にも高価そうな金色に輝く一振りの剣が展示されたのである。
その剣が本物であるかどうかはクロムには分からない。
触れもせず、実際に使いもせず、何より近くで見る事すらできないのでは何とも言えない。
ただ、それでも一つだけ確かな事がある。それは少なくとも“呪いの武器”ではないということ。
呪いの物品に共通する黒い靄、それが見えないのだ。

「俺の趣味じゃねーなー。あーゆー金キラキンの剣って。なんか出来過ぎってカンジで」

クロムはぽつりと呟き、頭を掻きながら辺りを見回す。
会場の隅では貴族とは程遠い身なりをした者達を中心にいくつかの人だかりができていた。
どうやら金持ち向けの競売品に手が出せない冒険者を相手に商売する者がいるようで、露店が随分と出ているらしい。

「ここはお前に任せるぜ。俺は向こうを覗いてみるわ」

────。

「──さぁ、1900が出た。もっといい値をつけてくれる奴はいねぇのかい?
 この俺自らがダンジョンを巡って手に入れたアイテムだぜぇ? 旅の役に立つものばかりさぁ!」

「じゃあ2000だ!」「俺は2100!」

「おいおい、もっとどーんと行ってくれよ! チビチビ1000ずつとかケチくせぇこと言わねぇでよぉ!」

「だったら貴族相手にショーバイしろよオヤジ」「こんな地味なアイテムじゃ見向きもされねーだろうけどな」「ハハハ!」

「ケッ、うるせぇ!」
0287クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/05/09(日) 21:30:28.46ID:OIvn5RB8
そこでは予想していた通り冒険者向けの商売が行われていた。
ただ、布の上に置かれたアイテム──それらが競売形式で売られているということだけは予想外であったが。
クロムは並べられたアイテムをざっと見渡す。……どうやら呪いのアイテムはここにはないらしい。
まぁ、呪いの武具などそう簡単に見つかるものではない。
要は呪いがあろうとなかろうと、自分に合ったアイテムがそこにあるかどうかなのだが……

「おい、オヤジ。このゴツイ“金棒”は……」

クロムは布の一番端っこに置かれた己の身の丈ほどもある巨大な棘付きの金棒を手に取って持ち上げる。
重さと手触りから材質は鉄……の塊だろう。恐らく。

「おい兄ぃちゃん、欲しいなら入札してくれよ。そいつは4000からスタートだぜ」

「その前に聞きたいんだが、これどこで手に入れたんだよ?」

「あぁ、それなぁ。“オニガシマ”って孤島のダンジョンで手に入れたんだよ」

オニガシマ……かつて数百という鬼が住んでたといわれる孤島だ。
ある時、モモ何とかという変わった名前の剣士に悉く退治されて、今では廃墟だけが残る無人島だという。

「なるほど、鬼が使ってた頑丈な金棒か。……8000払うからこれ俺にくれねーかな?」

言いながら、クロムは持ち上げた金棒を思い切り振り下ろす。
すると、ぶぅん、という重低音と共に、一瞬だが辺りに風が巻き起こった。

「どーせ片手でここまで使いこなせる奴、この場にはいねーだろ?」

「あ、あぁ……誰も買い手はいなかったし、そんなに欲しけりゃやるよ」

店主の言葉に、他の客達も文句を言う気配はない。

>「やーこれは凄いですね
>出されている品物からサウスマナで魔族との戦いが激しいものである事が分かりますね!……って、あ……」

じゃあ早速カネを用意してくるぜ、と言おうとしたところで、近くで聞き慣れた声がしたのをクロムは聞き逃さなかった。
振り向けばそこには灯台下暗しかこちらの存在にまるで気が付いていないマグリット。
途方に暮れた表情なのは、会場のメインオークションに参加しているレイン達を探せないでいるからだろうか
クロムは彼女の手を掴んで素早くこちら側に引き込むと、彼女と店主の顔を交互に見やって言った。

「俺、カネは持ち歩かねー主義なんだ。けどレインのとこまで行ってカネを持ってくる手間が省けたぜ。
 マグリット、8000ほどカネ頼むわ」

【露店で『鬼の金棒』を発見。購入しようとするもカネがないのでマグリットに払わせようとする】
0288マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/05/15(土) 17:38:46.95ID:D0JcaWiA
人ごみの中、いつもの調子で振り返るもそこにはいつもの顔はいない
アルスのエネルギー保全のためにレインとクロムと分かれていた事を改めて思い出す
オークション会場に行けば合流できるだろうという漠然とした考えでの行動を後悔する事になった

右を見ても左を見ても雑多と喧騒にあふれる人ごみで、更に言えばはじめてその土を踏む異郷の地である
元は未開の地に赴く宣教師の任についており、初めての土地への抵抗もそれほどないはずなのだが、こうまで心細く感じる自分自身に驚いていた

そんなマグリットの手が力強く引っ張られ、それに二重の意味で驚くことになった
巨躯で鉄の肌を持ち体内にも鉄分過剰なマグリットの体重は100キロを優に超え、更に手に持つ巨大なシャコガイメイスと背に持つ樽には液体が満杯状態で合わせると200キロも超える重さになっているのだ
そんな自分が引っ張られたことに驚き、更にそれが探していた二人のうちの一人、クロムであった事が輪をかけた驚きとなった

クロムの顔を見てマグリットは理解した
初めて来た異邦の地で一人だったから心細かったのではなく、レインとクロムとはぐれて一人だったから心細かったのだ、と
いつの間にかPTはマグリットにとって重大な位置を占めていたと実感したのだ

「クロムさん……あり

>「俺、カネは持ち歩かねー主義なんだ。けどレインのとこまで行ってカネを持ってくる手間が省けたぜ。
> マグリット、8000ほどカネ頼むわ」

マグリットの口から感謝の言葉が発せられる途中、感傷の心を台無しにするクロムの発言が覆いかぶさる
引っ張られた先には露店の店主らしき人物が金棒を前ににこやかに立っていた

「はぁ……クロムさん、いえ、8000くらいは問題ありませんけど、その程度のお金はちゃんと持っていてくださいよ」

半ば呆れた様なため息と共に懐から金貨の入った小袋を取り出すのであった

「それにしても、意外なチョイスですね
クロムさんが選んだものですから構いませんけど」

店主にお金を払いながら、クロムの身長と同じくらいの金棒を見て言葉が漏れる
金棒は超重量武器に類されるものであり、テクニックよりパワーが持ち味だ
自分を引っ張れるほどの膂力を持つクロムならば扱えるであろうが、クロムの戦闘スタイルは高速機動を生かした閃光のような剣技だというイメージが強かったからだ

「あ、レインさんもいました。ようやくお二人と合流できましたね、行きましょう!」

少し離れたところにレインとドルヴェイクを見つけ、手を振りながら席へとついた

「やーようやく合流できました。
それにしてもクロムさんが金棒買うとは驚きです
どうせ買うなら今オークションに出ている竜殺しの剣の方が良かったのではないでしょうかね?
クロムさんが使わないのであればレインさんはいかがです?」


オークションは熱を帯び、100万の大台に乗ったところでマグリットが、その言葉を発した

「だって、ここで倒す相手は『風月飛竜』
半竜の魔族という事ですから、きっと効果抜群ですよ!」
0289マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/05/15(土) 17:40:49.63ID:D0JcaWiA
その瞬間、まず反応したのは周囲の席の客達であり、驚きの声が上がったのちに急速に静寂が広がっていく
熱気と喧騒に包まれていたオークション会場が時を止めたかのように静まり、しかしその逆に視線が一斉に四人に集まるのであった

「え?あれ?どうしました?急に静まり返って」

周囲の異変に気付きあたりを見回すと、漸く会場の時が動き出す

>「おい、今『風月飛竜』といったのか?」
>「倒す?戦うというだけでも命知らずなのに倒すだって?」
>「見ない顔だが誰だあいつら」

マグリットは水の都リナメールの活気の為に実感できずにいた
それどころかオークション会場の熱気に、魔族との戦いに力漲らせていると誤認していた

しかし、実体はサウスマナは魔族による侵攻を受けており、宇宙の梯子が占拠されてしまっているのだ
勇猛な獣人や亜人が多いこの地にあってそれが止められず、イースへ勇者派遣要請が来るほどひっ迫している状態である
それが『風月飛竜』の名を出しただけで静まり返る会場が雄弁に語っていたのだった

「ふむ、『風月飛竜』の名が、猛者が揃うこの会場の皆さんの心に衝撃を与えるのは驚きです
今黄金牙の剣を落札しようとしている皆さんも同じ目的だと思っていたのですが……
教会より派遣され、こちらに来たばかりで事情も良く知らぬ身でして、よろしければ皆さんのお話し聞かせてもらえませんか?」

そのマグリットの言葉に周囲にはどこか安堵の雰囲気が漂い始めていた
【教会から派遣された】【来たばかりの新人】が、何も知らずに口走っただけ
無知ゆえの怖いもの知らずと受け取られたのだろう

こう受取らせる事により、場合によっては軽く見られ得られる情報を得られなくなる事もあれば、逆に安心感を与え【教えてやろう】という心理が働くこともある
どちらに転ぶかは相手次第ではあるが、重要な情報は教会やサウスマナの冒険者ギルド、そしてこれから向かうドルヴェイクの故郷で得られるだろう
それに仮面の騎士アルスという戦闘経験者が同行しているのだから問題ない

それよりも草の根のように張り巡らされる情報を吸い出すことが目的なのだ
気分良く口からこぼれ出る情報は精査は必要だが、俯瞰視点ではない細やかな話が重大な情報に繋がっていたりするのだから

「何も知らずに言ってたのか、めでてぇなあ。そもそもだな……」

マグリットの思惑通り、気を良くした前の席の蛇の獣人が首だけ回し語り始め、その隣のハーフリングも頷きながら語り始める

【クロムの代わりに代金を支払い、レインたちとも合流】
【風月飛竜の名に反応した会場で情報収集】
0290レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/05/18(火) 00:10:03.78ID:sf2Mft1s
『黄金牙の剣』の競売を眺めていると、クロムとマグリットがやってくる。
クロムはなにやらデカい金棒を持っていることから、それが選び取った武器なのだと察する。
どちらかというと東方圏で創られたもののように感じるが、果たしてどれほどのものか。

>「やーようやく合流できました。
>それにしてもクロムさんが金棒買うとは驚きです
>どうせ買うなら今オークションに出ている竜殺しの剣の方が良かったのではないでしょうかね?
>クロムさんが使わないのであればレインさんはいかがです?」

「悩んでるんだ。あの剣より良い買い物があるんじゃないかなって……」

>「だって、ここで倒す相手は『風月飛竜』
>半竜の魔族という事ですから、きっと効果抜群ですよ!」

マグリットがその言葉を発した瞬間、会場は水を打ったように静かになる。
静止した時が動きだしたのはしばらくしてからだった。

>「おい、今『風月飛竜』といったのか?」
>「倒す?戦うというだけでも命知らずなのに倒すだって?」
>「見ない顔だが誰だあいつら」

「あ、あはは……お気になさらず〜」

思い掛けない注目の浴び方に動揺したのか、レインは縮こまるばかりだ。
対して、マグリットは情報収集を始めたのか続けて言葉を紡ぐ。
反応したのは会場にいた蛇の獣人とハーフリングだった。

>「何も知らずに言ってたのか、めでてぇなあ。そもそもだな……」

「そもそも……?」

「『宇宙の梯子』に辿り着くのさえ至難、攻略するのも至難だ。
 今、梯子には配下の魔物が大量にいるって噂だ……」

「何せ梯子は大陸の秘境、『メガリス地下王国』の地上にあるんだからな。
 地理に精通したドワーフの力でも借りない限り挑むこと自体不可能だろうよ」
0291レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/05/18(火) 00:18:34.54ID:sf2Mft1s
会場の反応は概ね"風月飛竜"にそもそもどうやって挑むか、という話であった。
なるほど、レインは船で対大幹部を想定した模擬戦を何度も行ったが、
ダンジョンの攻略についてはほとんど触れなかった。

「ま……その辺は儂の故郷に行けばなんとかなるじゃろう。
 そろそろ出るとするかのう。目立つのは好むところではない」

ドルヴェイクが立ち上がると、一同はオークション会場を後にした。
さて、旅の準備が整ったところで、向かうべきはシルバニア共和国の国境である。
国境を超えた先にメガリス地下王国があるわけだが、問題は国境沿いの『竜の谷』だ。

かの谷は名称通り飛竜の生息地であり、数多くの竜が棲みついている。
ここを無傷で通るのは不可能だ。激戦が予想されるだろう。
というより急峻な竜の谷を徒歩で渡る術がない。
オークション会場の面々が辿り着く事さえ困難、と渋い顔をした一因がここにある。

「『竜の谷』まで中央市場で購入したこの『気球』で移動しよう。
 ドルヴェイクさんが言うには、谷を降りたところに地下王国への隠し通路があるらしい」

レインは剣の代わりに購入した気球を見せびらかした。
空色の風船が奇麗だ。十人程度はゆうに乗れそうなサイズである。
結構値段も張ったが、馬車みたいなものだと思えば安いだろう。

「ただ、竜の谷は一日で行ける距離ではないぞ。
 国境沿いまで点在する野営地や町で休みながら向かう事になるじゃろう」

ドルヴェイクが早速気球に乗り込みながらそう言った。

「……この時世にはもう飛行艇の類はないようだな。
 私の頃には現存していたが、それほど魔法文明が衰退したということか」

教会から帰ってきた仮面の騎士が独り言のように呟く。
『聖域』の効力のおかげか、心なしかいつもより元気のように感じる。
常時魔力を消費して現界しているというのは、相当負担がかかるのだろう。

「風も丁度良さそうだ。絶好の気球日和だよ、早速乗ろう!」

人差し指を立てて風向きを確認すると、レインは朗らかにそう言った。
乗り込むのはいいが、気球は舵の類がなく空に浮かべるが自在に飛行できるわけではない。
一体どうするつもりなのだろうか――と、疑問を抱く者もいるだろう。
0292レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/05/18(火) 00:24:03.94ID:sf2Mft1s
「――召喚変身、"天空の聖弓兵"!」

上昇する気球の中で、レインは『召喚変身』にて風の弓使いへと姿を変えた。
そして天空の聖弓を構えて微弱な"風の矢"を何度か背後へと放つ。
なんと、気球はその勢いで微かに前進を始めたではないか。

「夜には最初の野営地に着くはずだよ。さぁ……出発だ!」


…………――――――。

夕方。野営地に無事着陸すると、一同は気球から降りて夕食の準備を始めた。
腹が減っては戦はできぬと人は言う。今日の料理担当はレインである。
余談だが仮面の騎士ことアルスは、魔力を消費してこの世界にいる関係上なのか、
食事は摂らない――必要ないらしい(飲食自体は可能)。

また、野営地には何組か他の冒険者達がおり、皆野宿には慣れっこといった様子だ。
サマリアの整備され尽くした旅に慣れたレインにとって、
サウスマナ大陸の不整備な冒険は初めてのことで、少々ぎこちなかった。

何せ、野営地といっても火打石や焚き木がポンとあるだけで他は何もない。
ラピス街道のように魔物除けの魔法で守ってくれるわけでもない。
ただ『冒険者が夜にたむろしてる場所』というだけなのである。

(どうする……?南国の定番料理って何なんだろう……。
 というより都合よく食材が見つかるのかなぁ……)

食材を集めるべく周囲の森を散策しつつレインは思案していた。
携帯食料もあるにはあるが、そんなくそ不味いもんで我慢しろとは言い出せず……。
どうせなら少しでも美味い料理を食べてもらって満足して欲しいのが人情だろう。
ただ、問題があって、ここは熱帯気候の南国。レインは慣れない暑さにダウン仕掛かっていた。

そもそも、クロムもマグリットもドルヴェイクも仮面の騎士も暑さに耐性があるようだが――。
――レインは別に暑さに耐性があるわけではない。気球の旅も我慢していたが暑くて死にそうだった。
風の矢を放とうが一陣の風が吹きつけようがほぼほぼ熱風である。

はっきり言って飯を食う気もあまりおきない……。
肉料理なんて多分何を口にしても高温のゴムみたいなもんである。
キャンプ定番の絵面であるシチューなんて目にもしたくない……。
怒らないでくださいね。レインだけ暑さでバテバテなんて馬鹿みたいじゃないですか。
0293レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/05/18(火) 00:27:17.94ID:sf2Mft1s
かといって何も口にしないと次の日持たないという悪循環。
こんなことなら、夜通しになるが村まで我慢して飛んでおくべきだったか……?
否。夜は魔物の本領だ。見通しの効く明るい昼はさておき、夜に何が飛んでいるか分からない。
サウスマナはイースと違って竜も棲んでいるし、迂闊に飛び続けるのは危険と判断する。

暑い……。"清冽の槍術士"に召喚変身して涼みたい。バケツ一杯に冷水を浴びたい。
でも水神メルクアープに奉納されていた由緒正しい槍を俗っぽく使っていいのか……?

(……この問題、結局は俺だけの問題であって皆は何でもいいんだろうな……。
 今日だけ我慢すればいいか……猪や兎がその辺にいれば後はそれを調理して……)

ふと足が止まる。
そういえば、東方の島国に滞在していた時期は暑い夏でも涼しい感じがした。
風物詩に事欠かないというのもあるだろう。浴衣、風鈴、西瓜にうちわ……。

(そ、そうだっ……俺にはあるじゃないか……!日の国に伝わりし伝統料理……!
 竜宮城の姫が実家に送ってくれたはいいが持て余していたあの食材《お中元》がっ……!)

妙な色のキノコを眺めながら、レインの脳髄に閃きが走る。
そうだ。あれなら暑い南国にも適しているはずだ。

「フフフ……皆にも味合わせてあげますよ。
 日の国仕込みの冷製料理ってヤツをね……!」

がさがさと適当な草叢を掻き分けて戻りしは、不敵に微笑むレイン。
虚数空間(ストレージ)に眠っていたそいつは唸りを上げて彼の者の手に収まっていた!

その名は『乾麺』と『おつゆ』。"召喚の勇者"は唱える。
清冽の槍で生成したキンキンの冷水を湛えし硝子の器に浮かぶその料理名――!

「……今日の晩ご飯はそうめんだよ。いやーどうにも暑くて……。
 氷魔法が使えればジェラートやかき氷でも作ったんだけどなぁ。ははは」
0294レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/05/18(火) 00:29:52.53ID:sf2Mft1s
そうめんは一般に日持ちする食材であり、常温保存が可能で一年から二年程度持つ。
レインのソレはちょうど去年頃、お中元という文化に倣い貰ったものだ。
木箱に丁寧に梱包されていた素麺が、まさか熱帯地域の冒険に役立つ日が来ようとは。

夜。焚き火ではそうめんの雰囲気に合わないということで、
空気を読んだ仮面の騎士が光魔法で野営地を照らしてくれていた。
光属性の明かりは簡易的な魔物除けにもなり、強力な魔物でない限りは追い払えるらしい。

「みんな暑さに強くて羨ましいよ。
 過酷な環境に対応できるのも強さの内なんだなぁ」

ひんやり涼しいのか『清冽の槍』を近くに刺したままそうめんを啜る。
レインは過去に散々練習したので箸を使っているが、
ドルヴェイクは箸など使ったこともないのでフォークである。

「……四人とも、食事中のところ悪いが」

夕飯中の見張りを買って出た仮面の騎士が、闇に包まれた森を見据えて呟いた。
レインもまた、ただならぬ気配を感じて『清冽の槍』に触れた。
――召喚変身を唱え、清冽の槍術士へと変身する。

(これがサウスマナの魔物……!強力だと聞いていたけど、これほどとは……!
 全力で戦わなければ殺られてしまうかもしれない……!)

びりびりと雷電のような殺気を感じて、警戒を強めながら夜闇を見つめる。
ぬう……と闇から静かに姿を現したのは、単眼と巨躯に、金棒を携えた魔物――。

「サイクロプス……!それも三体。
 もしサマリア王国なら倒せば英雄扱いだ……」

「安心せい、こっちでも十分強敵じゃ。奴らの強さは『雷』にも喩えられるほど。
 仮面の騎士は可能な限り戦闘を控えられよ。ここは我らのみで応戦するべきじゃ」

ミスリルの斧を引き抜いてドルヴェイクは眼光鋭く単眼の巨人達を睨む。
じり、と間合いを保ちつつ、ディフェンシブな構えで制空圏を張る。

サイクロプスの強さといえば見ての通り……としか言いようがない。
魔法の類は使えないが、巨体に裏打ちされた、魔装機神を発動したクロムにも負けぬパワー。
鉄の硬度を持つマグリットにもひけをとらぬ鋼のタフネス。そして人間並みの知性。
これらが組み合わさり、かつ、恐ろしいまでの獣性で襲い掛かってくる。

「……――グオオオオオオッ!!!!」

瞬間、サイクロプスは痺れを切らしたのか雄叫びを上げて突貫した。標的はクロムとマグリット。
二人目掛けて金棒を振りかぶり、膂力にものを言わせてフルスイングする――!


【リナメールを気球で出発し、野営地に到着】
【夕食中のところをサイクロプス三体に襲われる】
0295クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/05/23(日) 20:39:47.01ID:haj151gN
マグリットが金貨を店主に渡すのを見届けて、クロムは金棒を勢いよく肩に担ぎ上げる。
魔人の膂力ならば充分に使いこなせる重さとはいえ、決して軽いと感じるレベルの重量ではない。
ましてやクロムは元々重装ではなく、軽装の剣士としてキャリアを積んできた身。
肩に伸し掛かる慣れない重さが、「ふー……」と、一つ大きな息を吐かせる。

>「それにしても、意外なチョイスですね
>クロムさんが選んだものですから構いませんけど」

それを見てか、マグリットがシンプルな疑問を投げかけてきた。
使い慣れた大きさ、重さの武器ならなるほど探せば確かにあるだろう。
しかし、ただそれだけの武器では手に入れても結局は持ってないのと同じなのだ。クロムの場合は。

「貧弱な造りだと敵に通じる、通じない以前に、まず俺の力に耐えられなくて壊れちまうからな。
 丈夫で長持ち良く切れるって剣はそうそうあるもんじゃねーし、だったらとにかく頑丈そうなのをってね」

────。

レインと合流後、勇者一行はオークション会場を離れて共和国の国境沿いにある『竜の谷』に向かうこととなった。
オークションに参加していた名無しの客から“『宇宙の梯子』が『メガリス地下王国』の地上にある”という情報を得てはいたが、
元々ドワーフの国・メガリスを目指していたのだからその途中にある『竜の谷』の通過は当初からの既定方針に過ぎない。

問題はどうやって通過するかなのだ。
ドルヴェイクが事前に谷についてパーティに話していた事があったが、クロムは軽く聞き流していた。
障害は魔物。それも谷の名の通り竜が大半であろうが、こちらには仮面の騎士もいるのだ、まぁ大丈夫だろう、と。
それがまずかった。
いざ谷を前にして、初めて徒歩での踏破が非常に難しいほどの険しい造りこそが真の障害であった事を知ったのだから。
これでは仮に「さぁ、どうする?」と聞かれても何も答えを用意していなかったクロムでは情けないが黙るしかない。

>「『竜の谷』まで中央市場で購入したこの『気球』で移動しよう。
> ドルヴェイクさんが言うには、谷を降りたところに地下王国への隠し通路があるらしい」

もしパーティの全員がクロムのように何ら対策を講じていなければ、
必要アイテムを確保しに引き返すにせよこのまま強行するにせよ通過を果たすまでにかなりの時間を要した事だろう。
だが、適当なクロムとは違い、生真面目なリーダーはちゃんと話を聞き、そして考えていたようだ。
彼はその場に谷の移動を可能にする“気球”を召喚して、得意気な顔を周囲に振りまいて見せた。

「仲間ってのはいいもんだな。単独じゃ誰もカバーしてくれねーもん」

レインの肩を、ぽんと叩いて、クロムは軽く微笑みながら気球に乗り込んだ。
気球は船とは違い進行方向は風任せとなる。
風向き次第では足止めを食う事があるかもしれない。時間を掛ければ掛けるほど魔物と遭遇する確率も上がることになる。
そうなると厄介であるが、クロムに心配はなかった。
レインなら当然、その点も考えている筈だと思っていたからだ。

>「――召喚変身、"天空の聖弓兵"!」

果たしてそれは的中する。
レイン自らが風を起こす事で気球を意図した方向へと動かす事に成功したのである。
これなら彼の魔力が続く限り自然の風に翻弄される事なく、着実に目的地に近づく事ができる筈だ。

「流石空だな。見晴らしは抜群」

天候《風》に問題がないのならば、残す懸念は空の魔物といったところだが、見渡す限り魔物の影一つない。
仮に魔物が現れたとしても、障害物の無い空では接近を許す前に気が付く事ができ、魔法などで迎撃する事もできるだろう。
もっとも、それも見通しが利く“昼”の内は──の話だが。
0296クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/05/23(日) 20:48:57.82ID:haj151gN
 
────。

辺りが刻一刻と薄暗い色に染まっていく夕方。
夜間の飛行は危険というレインの判断の下、勇者一行は最初の野営地に降り立っていた。

夜。完全に沈んだ太陽に代わって辺りを照らすのは、魔除けの結界を兼ねた仮面の騎士の光魔法。
その聖なる輝きに包まれながら、クロムは地べたに座り込んで無言で食事を摂っていた。
別に不味くて声も出ないというわけではない。むしろその逆で、声を出す事すら忘れるほど食事に夢中になっているのだ。

その料理、レインが作ったもので曰く“そーめん”というらしい。
麺という細長い練り物をスープに浸して食すのだが、これが中々どうしていけるのである。
過去にクロムが食べた事のある麺料理も旨いものだったが、それはスープに浸すスタイルのものでは無かった。
麺の原料も異なるのか、食感も違う。
一体どこの地域の料理だろうか。箸を使う辺り、恐らく東方のものなのだろうが……。

「これでも色んな大陸、島を渡ってきた身だが……見知らぬ料理と出会う度に世界は広い事を思い知らされるな。
 ……その点、あんたに知らない事はなさそうだが、どうなんだ?」

腹が満ち、空になった器と箸を置いて、ようやくクロムは沈黙を破る。
仮面の騎士に視線を向けながら。

>「……四人とも、食事中のところ悪いが」

しかし、それに対する満足な答えは返っては来なかった。
すかさず小さく舌打ちして立ち上がるクロム。
──いや、返答をスルーした仮面の騎士に怒ったわけではない。
思わず耳をピクリ、と小さく動かしてしまうほどの、重量感のある威圧的な足音を鼓膜が拾ったのだ。
すなわちこれは結界を物ともしない強力な魔物の襲来を察知しての警戒態勢。

「……飯のニオイにつられたか。食後の運動には少し早いような気もするが、しょうがねぇ」

やがて闇の中からぬっと現れた三つの巨体。
それは鋼鉄の肉体と剛力を誇る単眼の異形──サイクロプスであった。

>「……――グオオオオオオッ!!!!」

三体の内の二体が足音を立てて、雄叫びを上げ手にした得物を振り上げる。
クロムは金棒を肩に担ぐと、一旦、左右に目を配った。
二体の狙いはクロム、そしてたまたま彼の横に位置していたマグリットであろうか。
残りの一匹はどうやらドルヴェイクの迎撃態勢に反応しているようで、こちらに意識を向けている様子は無い。
とすると、レインは遊撃ポジションとして、臨機応変に三体に対処する事になるのだろう。

(試してみるにはいい相手かもしれねぇな。……やってみるか)

勢いよく振り下ろされるサイクロプスの金棒。
だが、それよりも早くクロムは己の金棒を掲げ、そして頭上で寝かせた。棒先を左手で支えながら。
──敵の一撃を受け止めようと言うのである。

「ぐっ……!! ぐぐぐぐぎぎぎ……!!」

金棒と金棒がぶつかるけたたましい衝撃音と共に、クロムの二の腕に圧し掛かって来るかつてないチカラ。
しかし、クロムは耐える。全身の血管が破裂しそうになるくらい全力で体を力ませ、歯を食いしばってそれに耐える。
──そして数秒後、ついにその時がやって来る。敵の金棒が完全に勢いを失ってストップしたのである。
0297クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/05/23(日) 20:54:11.05ID:haj151gN
クロムは既に汗まみれになった顔を拭いながら、「ふうー」と息をついた。
頭上を見上げると、そこにはほんの少しの変形も見られない鬼の金棒の姿が。
鬼の金棒は見事、文字通りに敵の一撃を防ぎきったのだ

「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

しかし、問題もあった。金槌に打たれた釘のように、クロム自身の体が地面に減り込んでしまったのである。
両腕は頭上に掲げていた為に埋まらずに済んでいたが、胸から下は土の中。これでは隙だらけだ。
敵もそれが絶好のチャンスだと分かっているようで、再び金棒を振り上げて咆哮した。
地面に両手をつけ、腕の力だけで穴から抜け出そうと試みるも、そうはさせじと土圧が体を締め付け邪魔をしてくる。
これは時間が掛かると見たクロムは、レインとマグリットに向けて叫んだ。

「レイン、マグリット! こいつの相手はお前らに任せる!」

そして、こう付け加えた。

「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

二人は知る由もないだろうが、クロムはかつてサウスマナを旅した身だ。
知る人ぞ知るサイクロプスの弱点を、彼も知っていたのである。

【攻撃を鬼の金棒で受け止めて防ぐが、地面に減り込んでしまう。地面から出るまで戦闘不能】
0298マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/05/27(木) 18:51:13.98ID:1pQqRqd9
「じ、地面をこれだけありがたく思ったのは初めてです……」

野営地に着陸し、気球の加護から転がるように降り立ったマグリットの第一声はこれであった
というのも、マグリットは気球に乗っている最中はずっと籠を吊るすロープにしがみつき縮こまっていたのだから
クロムのように景色を堪能する余裕などありはしなかった

レインの用意した気球は優に10人が乗れるほどの大型なものであったが、マグリットは総重量300キロを超える
それが魔法により浮かぶわけではなく、気球により吊り下げられただけの籠に乗って上空高くまで持ち上げられるとなれば不安で仕方がなかったのだ
一般人5人分の重量が一人分の面積にかかるのだから、いつ籠の底が重量に耐えかね抜けてもおかしくない、と
サウスマナの熱気でも温められない程の冷や汗で肝を冷やしていたのであった


宿営地に到着し、一息ついたところで食事タイム
そこでレインが取り出し調理したものを見てマグリットが驚愕のまなざしを向ける

「こ、これは『そうめん』……!
まさかこの目で見る日が来るとは思っても見ませんでした」

「なんじゃ、『これ』を知っておるのか?」

驚きの声を上げたマグリットに反応したドルヴェイクに応える様に言葉をづつける

「貝の獣人の集落に伝わる古の言い伝えにあります
遠く東の海、日の国の龍が治める島に伝わる民族料理で、針のような麺に水気を宿らせる事で冷気纏う柔らかな絹糸のような食べ物になる、と聞いたことがあります
熱気を退け、「つゆ」に付ける事で薬用成分も得るという伝説の食べ物ですが……
これを作れるレインさん、一体どういう……んん、おししい!」

集落に伝わる伝承を披露しながらそうめんを頬張り舌鼓を打つのであった
0299マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2021/05/27(木) 18:54:03.26ID:1pQqRqd9
そんな夕食のひと時を邪魔する魔物が仮面の騎士の警戒に察知される
闇の中から現れたのは単眼巨躯で金棒を携えたサイクロプス!

サマリア王国でこんなものが出現したらギルド総出、ともすれば国軍が討伐に出るほどの魔物である
それが野営地に現れる、それも複数で
この事からもサウスマナの危険度を肌で感じるというものであった

>「……――グオオオオオオッ!!!!」

サイクロプスの雄たけびと共に戦端は開かれる
二体がクロムとマグリットに向かってきており、一体はドルヴェイクへ

クロムへの一撃は大上段からの振り降ろしの一撃
マグリットへの攻撃は横薙ぎの攻撃

これを見てマグリットはシャコガイメイスを立てて受けて立つ
横薙ぎの一撃は攻撃範囲が広く、下手に良ければ周囲へ被害を出すかもしれないと判断したからだ
隣のクロムに向けられた振り降ろしの一撃は効果範囲は一点に集中するために躱しても問題ない
クロムの回避能力ならば十分躱せる、と思っていたのだが……

サイクロプスの横薙ぎの攻撃をシャコガイメイスの柄で受け止めながら、その衝撃に驚いていた
恐るべき膂力
通常の武器で受け止めていたら武器ごと粉砕されていたであろう
だがシャコガイメイスで受け止められたからと言って無事では済まない
凄まじい威力を受け止めたマグリットの両足は大きく歪みながら地面を削っていた

「凄まじい威力です、私の足に骨があったら大惨事でしたよ……って、クロムさああああん!?」

そう、マグリットは貝の獣人
人の形をしてはいるが、貝の特性や特徴を備えている
ウロコフネタマガイの特性により鉄の肌を持ってはいるが、そもそも貝である故に体を支える骨はなく、筋肉で体を支えているのだ
それがマグリットの膂力の秘密であり、今回のサイクロプスの一撃による衝撃を分散緩和させられた理由であった

とは言え、マグリットも全力をもって支えたが故に歯を食いしばりすぎて口から出血をしていた
が、それ以上に衝撃だったのが隣のクロムの姿であった

すっかりサイクロプスの一撃を回避したと思ってたら、リナメールで買った金棒で受け止めていたのだ

>「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

「こんなところでテストしないで下さいよ!失敗してたら脳天潰れていましたよ!」

のんきに性能テストなどと言っているクロムに思わずツッコミを入れずにはいられない
確かにテストは成功かもしれないが、その代償として胸まで地面に埋まってしまっているのだから
0300マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/05/27(木) 19:00:39.89ID:1pQqRqd9
そんなやり取りをしている間にも、マグリットに一撃を止められたサイクロプスは尚も押し切ろうと力を込めてくる
サイクロプスとマグリットの押し合いが始まったところでクロムの声が響く

>「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
> 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

「なるほど、了解です」

この状況、サイクロプスは鍔迫り合いのまま押し切ろうと肉薄している
接近するという手間が省けるというものだ
一撃を受ける為に歯を食いしばりすぎて口内で出血しているのを幸いにと、血の塊をサイクロプスの顔面に吹き付けるのであった

マグリットは毒物を吸収し周囲を浄化する事ができる
吸収された毒は体内に蓄積され毒血としてマグリットの肌を黒く染めいるのだ

「溜め込んだ毒血目薬です、大きなお目目には効くでしょう!
そしてクロムさん、顔のガードしてくださいね」

毒血の目潰しにより怯み後ずさるサイクロプス
弱点だけあって効果は抜群のようだ
押し切らんとする圧力が無くなったところで、クロムに再び一撃を加えんとするサイクロプスにシャコガイメイスを振るう

身に危険が迫れば攻撃どころではないだろう
地中に埋まったクロムへの攻撃はマグリットへの迎撃へ変更され、金棒とシャコガイメイスが激しくぶつかる
結果、両者の武器の起動は大きく逸れるが、それこそが狙い
金棒に弾かれたシャコガイメイスはクルムの目の前の地面をたたき抉る事になる
クロムへの一撃を防ぎつつ、クロムへの土圧を軽減するために埋まっている地面への一撃を両立させたのだ

しかし、地面を叩きつけた事により崩れクレーターはできたが、クロムにかかる土圧が上がってしまった事まではマグリットの気づくところではなかった


状況はシャコガイメイスに弾かれた金棒ごと腕を宙に上げるサイクロプス
金棒に弾かれたシャコガイメイスを地面に突き立てるマグリット
どちらも得物を振り上げるには態勢不十分
更に地面に突き立てられたシャコガイメイスにより小規模なクレーターが発生し、サイクロプスの態勢は崩れている

「レインさん、お願いしますよ!」

マグリットはシャコガイメイスを構え直すことなくそのまま引き抜きサイクロプスに体当たりを敢行
毒血の目潰しを食らい混乱状態のサイクロプスにぶつける様に押し出すのであった



残る一体のサイクロプスと戦っていたドルヴェイクがマグリットたちの戦いを横目で見ながら懐から杭を取り出し、投げつける
「ふむ、発想は悪くはないがやはり素人よの
まああれだけ崩してやりやすいわ」
杭がマグリットの作り出したクレーター中心部に突き刺さると、クロムを締め上げていた土圧がふと消えた事に気づくであろう

【サイクロプスAに毒血の目潰しでひるませる】
【サイクロプスBの攻撃を弾き、タックルでサイクロプスA、Bをぶつける】
【サイクロプスCと対峙していたドルヴェイクの放った杭により土が崩れクロムへの土圧が無くなる】
0301レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/04(金) 20:10:28.29ID:JZF7WO5+
三体の単眼の怪物が雄叫びを上げて突っ込んでくる!
狙いはそれぞれクロム、マグリット、ドルヴェイク。
レインはやや離れた位置で清冽の槍を構えたまま戦局を俯瞰する。
現状フリーのレインは状況に応じて立ち回らなければいけないからだ。

――はじめにサイクロプスと交戦したのはクロムとマグリットだ。
クロムは振り下ろされる金棒を自身の『鬼の金棒』で真っ向から受け止める。
マグリットは放たれた横薙ぎの一撃をシャコガイメイスの柄で防御した。

>「ぐっ……!! ぐぐぐぐぎぎぎ……!!」

クロムが歯を食いしばって耐えている。相当の衝撃だろう。
常人が受け止めようものなら比喩ではなく粉砕していたに違いない。

>「凄まじい威力です、私の足に骨があったら大惨事でしたよ……って、クロムさああああん!?」

……なにせ、防御したクロムの半身が地中にめりこむほどの威力だ。
薄々勘づいてはいたが、もう人間の頑丈さじゃない。クロムはやはり亜人の類なのだろう。
だがまぁ、今までの強さを思えば腑に落ちるだけで驚きやマイナスの感情は生まれない。
マグリットはというと攻撃が横薙ぎだったことと、全身筋肉という特性のおかげで防御しきれたようだ。

>「ゴツイ見た目の通り、こいつは頑丈だぜ。とりあえずテストは成功ってところだが……」

>「こんなところでテストしないで下さいよ!失敗してたら脳天潰れていましたよ!」

「ま、まぁまぁ……マグリット落ち着いて」

ひょっとしたら多少のダメージはあるのでは――と危惧したレインだったが、杞憂だったらしい。
強いてあげればめりこんだことでしばらく身動きとれないことであろう。

>「レイン、マグリット! こいつの相手はお前らに任せる!」

カバーに入ろうとしたところで、クロムの声でレインの動きがいったん止まる。

>「だが、奴らの全身は鋼鉄と同じだ! 生半可な攻撃は通用しねぇ! だから、“眼”を狙え! そこが弱点なんだ!
> 凶暴で意外と知性もあるから、近付いて直接ぶっ叩くのは難しいかもしれねぇが、お前らなら何とかできる!」

「わかった、奴らの弱点は『眼』か……!」

クロムがこういった助言をするのは案外珍しい。
なにせ、いつもなら一番槍。パーティーの切り込み隊長と呼べるポジションだ。
実力からいっても口を動かすより敵を叩き斬った方がはやい。
0302レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/04(金) 20:11:41.78ID:JZF7WO5+
弱点を把握したマグリットが早速攻勢に出た。
すかさず口から自身の血を噴霧したのだ。いわゆる『毒霧』と呼べばよいか。
サイクロプスは大きく怯んで後ろへ二、三歩後退する。

>「溜め込んだ毒血目薬です、大きなお目目には効くでしょう!
>そしてクロムさん、顔のガードしてくださいね」

一方クロムを地面にめり込ませたサイクロプスは、追撃を敢行しようとしていたが、
マグリットが攻撃を仕掛けてきたため追撃を止めてそちらの迎撃に。
お互いの得物が激突して、大気が激しく震動する。
――そしてシャコガイメイスは地面を抉り、金棒は宙にかち上げられる。

>「レインさん、お願いしますよ!」

続けざまにシャコガイメイスを引き抜いて体当たりすると、
サイクロプスの巨体が目潰しで未だ混乱しているもう一体のサイクロプスにぶつかる。
二体は態勢を大きく崩し、分かりやすい隙ができた。倒すならここしかない!

「了解、このチャンスは外さないっ!」

清冽の槍にありったけの魔力を込めて、水流を生み出す。
それは渦を巻いて穂先に纏わりつくと、目潰しされている一体へ素早く投擲。
水属性で強化された槍は正確に眼球を射抜き、容易く脳へと達する。

「戻れ、アクアヴィーラ!!」

残りのサイクロプス目掛けて疾駆しながら、
槍のみを召喚解除→再召喚で手元に戻し、そのまま振り下ろす。
――が、残りの方は態勢を崩しつつも視界は健在。動物的反射神経で上体を逸らして回避。
スウェーされた穂先が虚しく空を裂く。その隙に、上体を逸らした"戻り"で出の早い拳を繰り出された。

素手は威力とリーチはあるがやや遅い金棒よりもむしろ凶悪だ。
なにせ、サイクロプスの膂力なら軽い力でも人体など豆腐のように脆い。
つまり十二分の殺戮が可能!!

「舞踊槍術、白鳥の舞!!」

単眼の巨人の遥か足元で、白き翼が広がった。ともすれば華麗に、ともすれば優雅に。
水の勇者は上方へ高く跳躍。拳を避けてすれ違いざまに単眼を切り裂いた。
0303レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/04(金) 20:14:55.82ID:JZF7WO5+
その跳躍力の正体は魔導具たる『波紋の長靴』の効果だ。
槍を携えた"召喚の勇者"はカウンターこそ本領。
攻撃した瞬間こそがもっとも窮地と知るべきだったろう。

「グォォォァァァッ……!!!!」

断末魔の叫びを上げるサイクロプスを見て、
未だ交戦中のドルヴェイクは勇者一行の実力を再確認した。

「儂の方もいい加減決着をつけなくてはのう……!」

ただ一体取り残された最後のサイクロプスは、退く様子もなく戦闘を続ける。
魔物なりに戦士としての矜持があるのか。それとも同胞の仇討ちのつもりか。
何にせよ力んだサイクロプスは渾身の力を込めて金棒を振り下ろした。

ドルヴェイクはそれを待っていた。
恰幅の良い体格に似合わぬ横っ飛びで回避。地面が陥没して粉塵が舞い上がる。
威力は凄まじいが、視界が悪くなり、隙の大きな振り下ろす一撃。
なにせ敵はドワーフなのだ。普通の人間よりも背が低く金棒を当てにくい。

完全に虚を突いたドルヴェイクは砂塵を裂いてミスリルの斧をやや横薙ぎに振るった。
軌道は吸い込まれるように単眼に命中して、刃が深く深く頭部を抉る。
最後のサイクロプスは呻き声一つ漏らさずに絶命した。

「終わった……。ドルヴェイクさん、凄いですね。
 真っ向からあのサイクロプスを倒すなんて……!」

「味方を倒されて動揺したのじゃろう。老体でもなんとかなったわい」

レインの賛辞を流して、ドルヴェイクは一息つくように腰を叩いた。
それにしても、昔の自分ならこう容易くは倒せなかっただろう。
クロムとマグリットのおかげもあるが、船での修行が活きている、と素直に思った。
仮面の騎士との特訓はレインの地力を着実に上げていたのだ。
0304レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/04(金) 20:35:18.37ID:JZF7WO5+
「加勢の必要はなかったらしい。皆、見事な戦いぶりだった。
 見張りは私が引き受けよう、今日はもう休むことだ」

仮面の騎士が最後にそう言って、今夜は何事もなく眠ることができた。
クロムが異種族であること、そのことについて一切言及しないことについては聞かないことにした。
レインはこの世界に生きる仲間だから――いや、"自分はその仲間だと思いたい"から、何族だろうが気にしない。
だが、本人が自身の種族について隠している以上、無理に問うのも気がひけるのだ。

何せ……とうのレイン本人も、出会った当初から、ある秘密をずっと黙っている。
それは仮面の騎士の正体のように、自身から打ち明けでもしない限り絶対に分からない秘密だ。

仲間から年齢や種族、生まれ故郷などを詮索されたくらいでは露呈しない。
多少は動揺しながら真実を答えるだろう。年齢は16。種族は人間。故郷はサマリアの田舎町ハルモニーと。
また、嘘発見の魔法にかけられてもその質問に行き着くことは極小確率だと断言できる。
そしてその秘密こそ、光魔法や勇者の特技が使えない謎にも繋がっている。

……さて、一同は『気球』で移動しながら、時に魔物を退治しつつ順調に旅を続けた。
――そして辿り着いたのがシルバニア共和国とメガリス地下王国の国境沿い。通称『竜の谷』である。

「谷というより断崖絶壁だ。底が見えない……。
 徒歩じゃ確かに渡るのも降りるのも無理そうですね」

気球の移動を聖弓で操作しつつ、レインは呟いた。
そんな巨大な谷が地平線まで延々と続いているのだ――。
ここを降りたところに地下王国への入り口があるとのことだが……。
竜の生息地ということもあり、本能的に危機感を覚える。

「うむ。ここに棲む竜のことじゃ。もう侵入には気づかれているじゃろう。
 儂が『行き』の時は偶然、竜騎兵(ドラグーン)の旅人に連れて貰えたのじゃがな。
 その時もえらい危険な戦いじゃった。だがレインよ、この件については考えがあるようじゃな」

『気球』で降りるというのは、考えなくても分かるが危険だ。
竜には爪もあれば牙もある。獰猛で口からは強力な竜の吐息(ドラゴンブレス)を放射する。
そんな化け物相手に非武装の気球で降りるなど、まず死ににいくようなもの。
こちらのパーティーには風魔法の使い手もいない。空中戦だって不可能だ。

「考えというか……ここは師匠、もとい仮面の騎士に頼りましょう。
 光魔法には防御魔法もあります。それで気球を守れる。
 俺も『天空の聖弓』で牽制くらいはできるし……それに」

レインはごにょごにょと曖昧な口ぶりでこう言った。

「……師匠は『グローパイル』が使えますよね?」

端で腕を組んで立っていた『仮面の騎士』が口を開く。

「問題ないが……そういうことか。だが竜種の空戦能力は随一だ。
 どこまで通用するか……クロムとマグリット次第になる」
0305レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/04(金) 20:40:12.38ID:JZF7WO5+
二人だけで会話が先行しているが、その解説をしようとしたところだった。
天空の聖弓兵の魔導具たる『透視の片眼鏡』が接近する敵を捕捉した。
この片眼鏡は物体を透かして見る他にも千里眼のような遠隔視もできるのだ。

「……『ワイバーン』が複数で近づいてくる!?しかも速い!!
 接触まで三十秒程度……まずは俺が迎撃するしかないッ!」

気球を降下させながら叫ぶと素早く『天空の聖弓』を引き絞った。
魔力を込めることで風を番え、放たれる非実体の矢は強力無比。音も無く敵を貫く。
十秒経過。北西から真っ直ぐに近づいてくる粒のようなそれが飛竜ワイバーンである。

レインはその小さな粒目掛けて五発連射した。凝縮された風の矢が音の速さで飛んでいく。
侮っていたわけではないが、レインはそれで一体くらいは墜とせると踏んでいた。
しかし、ワイバーンの群れは先読みしたかのように散開して『気球』を包囲するように迫る。
『透視の片眼鏡』越しに飛竜の一体と目が合った。こちらを完全に"視て"いるらしい。

「竜の本能ってやつなのか……!」

十五秒経過。近づくにつれて徐々にその威容が露になってくる。
濃い緑色の鱗に、巨大な鉤爪のような翼。獲物を狩ろうとする獰猛な貌。

古来、竜種は高度な知能も備えていたというが、時代が下るにつれて、
徐々に知能の劣る種族が増え始め、現在のような魔物の一種に落ち着いたという。
残されているのはその恐ろしいまでの戦闘能力。それがパーティーに牙を剥く!

「女神の護符、信奉者、星々よ魔を封じる鉄窓となれ」

仮面の騎士が詠唱。紡いだそれは拘束結界を張る光魔法『タリスマン』だ。
ただし、自分に張ることで防御魔法にも転用できる類の結界である。
気球に展開することで全方位を守るつもりなのだ。

二十秒経過。四方から火炎弾が飛来してくる。
ワイバーンの口から放たれるそれは、まさに気球の天敵。
張られた結界が轟音を上げて振動している。そう長くは持つまい。

「……クロム、マグリット。私が『足場』を作る。
 この結界が解けたらそいつで直接ワイバーンを叩いてくれ。
 いざとなれば私とレインで援護する……時間がない。頼んだぞ」

仮面の騎士は手短にそう呟くと、新たに魔法の詠唱を開始。
三十秒経過。ワイバーンの接近が完了した。これで爪や牙で気球を攻撃できる。
とりつかれたら俄然こちらの不利。が――向こうも新たな一手には気づいていない。

「……――『グローパイル』!」

結界が解けると同時、仮面の騎士の手から光が放たれた。『杭』だ。
光の杭が何本も放たれると、それは空間を縫い留めて足場のように展開した。
『グローパイル』とは、敵に投射して空中に固定、磔にしてしまう光魔法を指す。
だが、この光の杭は宙に『置く』ことも可能であり、それによって即席の足場を生み出したのだ。


【『竜の谷』に到着。降下中にワイバーンの群れに襲われる】
【仮面の騎士が光魔法で即席の足場を作成。気球の周囲を自由に動けます】
0306クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/06/12(土) 02:40:50.00ID:eVzBdM2D
──全てのサイクロプスが大地に沈み、戦場が再び静かな野営地へと戻っていく。
それと時を同じくして地中からの脱出を果たしたクロムは、衣服に着いた土を掃いながらパーティを見渡した。

「弱点を突いたとはいえ、随分と楽に倒したもんだな」

そして、意地悪い笑みを浮かべながらマグリットに目を合わせると、わざとらしい大げさな溜息をつくのだった。

「どうせなら俺ももっと楽に出たかったんだがな。まったく、器用というか不器用というか、内臓が潰されるところだったぜ」

それはクロムに彼女を責める気は一切なく、そもそも体も大事ないことを意味している。
仲間を助けようとして、結果としてそれが裏目に出ることなど戦場では良くある事である。
それをいちいち非難できるほどクロム自身完璧な戦士ではない事を自覚しているし──
何より結果無事で済んだミスも許されない軍隊のような堅苦しい雰囲気は彼の好む所ではないのだ。

>「加勢の必要はなかったらしい。皆、見事な戦いぶりだった。
> 見張りは私が引き受けよう、今日はもう休むことだ」

仮面の騎士の言葉を受けて、クロムは遠慮することなくさっさとその場に横になり、目を瞑る。
長年、一人で世界を旅して来たものだから、地面の上だろうと眠りに落ちるのは早い。そういう癖がついているのだ。
しかも一人旅の時とは異なり、見張り《仲間》がいるという安心感から眠りは極めて深く──
再び目を開けた時は既に、朝日が昇る時刻となっていた。

────。

「──やはり遠目に見るのと間近で見るのとじゃえらい違いだな。まさかここまで目眩がするもんだとは」

気球から“それ”を見下ろして、クロムは感嘆に似た溜息をつく。
竜という屈強な魔物が住処にするのも頷けるほどの、まるで地獄と繋がっているかのような底知れぬ深い谷──。
大自然が創り出したと思われるその想像以上の現実に。

「なぁ爺さん、この谷の深さはどれくらいなんだ?」

レインと仮面の騎士が小声で話し込むその横で、クロムはふとドルヴェイクに問いかける。
ゴールまでの距離も知らずに膨大な数の強敵と戦い続けるのは、肉体はもちろん精神的にも大きな負担になるからだ。

しかし、答えは返ってこなかった。いや、ドルヴェイクは返せなかったに違いない。
気球に高速で迫る複数の飛竜を発見しては、その脅威に対処する為の話題以外、後回しにする他はないのだろうから。

>「……クロム、マグリット。私が『足場』を作る。
> この結界が解けたらそいつで直接ワイバーンを叩いてくれ。
> いざとなれば私とレインで援護する……時間がない。頼んだぞ」

「分かった──って、ちょっと待て! この高さ、ワイバーン相手に小さな足場を駆け巡って直接打撃を加えろってのか?
 あんたなら魔法で一気にぶっ飛ばすくらいできるんじゃねぇの!?」

>「……――『グローパイル』!」

「〜〜! 聞けよクソ! あぁーもう!」

クロムの声などまるで耳に届いていないかのように複数の足場を次々に空中に打ち込んでいく仮面の騎士。
それを見てクロムは舌打ちしながら足場の一つに嫌々ながらも素早く乗り移り、ワイバーンは翼を広げて急ブレーキをかけた。
足場のない筈の空中で、己の眼前に突如として金棒を担いだ男が立ちはだかったのである。然しもの強獣も驚いたのであろう。
0307クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/06/12(土) 02:54:42.52ID:eVzBdM2D
(敵は四方に展開……囲んだ形か。何とか一匹ずつと言いたいが、空中は圧倒的に向こうが有利だ。キツイな)

しかし、それも一瞬である。
首を突き出してけたたましく咆哮すると、蛙を竦ませる蛇の如くの凶悪な眼光を叩きつけて来たのだ。

「──!」

体の芯が冷えるような感覚に襲われたクロムは、ざわ、と全身を総毛立たせ、思わず動きを停める。
──直後、それを待ってたとばかりに鋭い牙を剥き出しにして、突進してくるワイバーン。

「おっと!」

だが、ギリギリのタイミングでジャンプし、すんでのところで躱し切る。
噛み付こうとしたのか、それとも肉体そのものを武器に体当たりしようとしたのかは定かではない。
ただ、いずれにしても喰らっていたら無事では済まなかったであろう。

別の足場に着地して素早く辺りを見回す。
──速い。既にワイバーンは旋回を終え、こちら目掛けて矢のような速さで水平飛行していた。
クロムは金棒を握り締める手に力を込める。
竜の全身は硬い鱗によって護られており、半端な攻撃は通用しない仕様となっている。
サイクロプスのような致命的な弱点があれば話は別だが──少なくとも、あるという話をクロムは聞いた事がない。
つまり、防御に関して竜族ほど生まれながらに隙が無い種族もないのだ。しかも──

「っ!! ──ちぃ!」

空を縦横無尽に駆けることのできる飛竜と呼ばれるタイプは高い機動力も備えているのである。
迫り来るワイバーンを引き付けて、躱しざまに金棒を後頭部目がけて鋭くスイングするも、当たらない。
決してタイミングを見誤ったのではない。敵の尋常ならざる飛行性が、空振りという結果を生じさせたのだ。
もっとも、得物が小回りの利かない超重量武器であったことも原因の一つであったのだろうが……。

(……いずれにしても叩こうとしても正攻法じゃ当たる確率が低い。考え方を変えるしかねぇだろうな)

クロムは気球の周りを見渡し、仮面の騎士が放った足場の数とその位置を確認すると、皆に向けて口を開いた。

「仕留めるのは任せる。ただし、全力でやってくれよ。半端な攻撃は怒らせちまうだけだからな」

そして──再び空をUターンして戻ってきた個体に対して背を向け、足場から足場へと移動を開始した。
後ろから追われる形を敢えて取ったクロムは、移動先を常に己の前方の足場に限定している。
足場は気球を取り囲むように設置されているので、移動し続ければやがて気球の周りを一周することになるだろう。

だが、気球を襲撃したワイバーンは一匹だけではない。気球の四方に展開しているのだ。
つまり、周りを一周するということは、四方を囲む全ての獰猛なワイバーンの目前を横切ることになる。

(目障りだろ? さぁ……追ってきやがれ)

──それでいいのだ。何故ならこれは挑発。クロムは囮なのだから。
ワイバーンの意識が気球から外れることで生じる隙──それをレイン達に衝かせようというのである。

【足場から足場へ移動して気球の周囲を回り、敵の注意を引き付ける】
0308マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/06/17(木) 22:27:45.08ID:fEhbr7vL
上を見れば蒼天
下を見れば底の見えぬ谷
崖伝いに降下する気球は激しい閃光と振動に見舞われていた

飛来したワイバーンの群れからの火球による攻撃の為だ
攻撃事態は仮面の騎士の光結界魔法タリスマンにより防いで入るが、衝撃や振動までは防げない
ワイバーンは高速で空を飛び回りヒット&ウェイを繰り返すのだが、気球に乗っているPTの攻撃範囲はあまりにも狭い
唯一レインの矢が放たれるが、空中機動力に優れたワイバーンはそれをやすやすと躱し接近し攻撃を繰り返すのだ

この高所でできる事もなく、乗っている籠一枚下は支えるものが何もない状態にマグリットはただ籠を吊るすロープにしがみつくのが精一杯

しかしそこに打開策が作られた
仮面の騎士がグローパイル、光の杭を空中に縫い留めて足場のように展開したのだ

「あははは、いいじゃないですか、クロムさん
海魔の洞窟で貝殻を足場にしたときに比べればよっぽどしっかりとした足場です
このまま籠から出るに出られず嬲られるより、有難いというものですよ」

抗議するクロムをなだめながら、背負った水樽を下ろして籠からクローパイルの足場へと飛び移っていった
狭い足場に高機動なワイバーンを相手にするので、なるべく身軽な状態でという事だ

空中に躍り出たクロムとマグリットにワイバーンは警戒を見せるが、躊躇は一瞬
即座に周囲を取り囲み、クロムへと突撃
クロムは躱しざまに金棒を振るうが空を切る

「ふむう、クロムさんですら当てることが困難な飛行能力ですか」

その様子を見ながら放たれた火球をシャコガイメイスで叩き落すマグリット
通常の打撃では難しそうと次なる策を思案しながら、移動するクロムに合わせて位置を変えていく

囮となりワイバーンを引き付ける意図を察し、先回りをして準備を整える
クロムがワイバーンたちを引き連れながら移動する先にはマグリットが大きく口を開き立っていた

その口から発せられるのは、ほら貝から発せられる様な超音波
音波数を変える事により硬い甲羅などを崩壊させる事もできるのだが、それはある程度の照射時間が期待できる場合だ
高速飛行するワイバーンに於いてダメージは期待できない
が、高速飛行に適応した鋭敏な感覚を持つからこそ、すれ違う一瞬であっても期待できる効果はあった

クロムが引き連れてきたワイバーンたちはマグリットを掠め、高速で飛び去って行った
マグリットが躱したわけではない
ワイバーンたちが攻撃を外していったのだ

通常であれば一瞬で大した効果も期待できない時間であったが、ワイバーンたちにとっては感覚を狂わさせるに十分な不快な音だった、というわけだ
とは言え、攻撃を外させただけでありダメージを与えたわけではない
距離を取れば効果も切れる代物であり、いつまでも保つわけではない

攻撃を受けはしなかったものの、至近距離を飛び去られた衝撃でマグリットの体が足場から浮かび上がるが、仮面の騎士が即座に新たなるグローパイルを設置し着地点を作る

「クロムさん、すいませんがしばらくこの空域でワイバーンの攻撃を捌いてください」

無事に着地したところでクロムに願い、自らも迫るワイバーンを睨み口を大きく開く
暫くは二人が飛来するワイバーンの攻撃をかわすも、こちらからの攻撃も決定打を与えられず飛び去られるという展開が続いた
どうしても両者の間に機動範囲の差が大きすぎて戦いになり辛いのだ

が、そうしたやり取りが続くのも長くはもたなかった
まずはマグリットがワイバーンの顎に咥えられ、それを助けようとしたクロムに火球が直撃
動きが止まったところに複数のワイバーンが寄ってたかって食いちぎらんとしている
0309マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/06/17(木) 22:31:27.82ID:fEhbr7vL
その光景を見下ろしながら、マグリットが気球のレインに手を振る

クロムがワイバーンを引き付けている間い、飛び回るワイバーンを捉え打撃を与える事が難しいと踏んだマグリットは一定空域に留まっていた
その身から幻惑物質を噴出しまき散らしながら

開けた空で幻惑物質は拡散しやすく、一定濃度を保つのは難しい
その状態にも拘らず、高速で通り過ぎるワイバーンに幻惑状態に陥れる為には、何度もこの空域に突っ込ませる必要があったのだ
故に超音波で器官を狂わせ凌ぎ、クロムにもこの空域で持ちこたえるように頼んだのだった

結果、何度も幻惑物質の漂う空域を行ったり来たりする間にワイバーンは徐々にその効果に侵されていった
頃合いを見計らい、クロムと共に空域を脱出
あとはワイバーン同士の同士討ちを眺めていたというわけだ

ワイバーンたちはクロムとマグリットを貪っていると誤認しているが、実像は一匹のワイバーンを残りのワイバーンが集団で噛みつき貪っている状態である
噛まれているワイバーンも反撃しているのだが、多勢に無勢で長くは持たないだろう
ともあれ、ワイバーンたちは血の匂いにさらに興奮し、空中で団子状態になっている

「ふーむ、風月飛竜シェイバーんも高速飛行戦闘が得意という事で、一定空域に幻覚物質を浮遊させ罠を張ってみたのですが……効くまでに時間がかかり過ぎですよねえ
また考えねばなりませんが、とりあえずワイバーンの動きが止まっていますし、レインさんの攻撃が始まったら私たちもとどめを刺しに行きましょう」

そう言いつつシャコガイメイスを強く握り直し、レインの攻撃とタイミングを合わせられるように準備をする

【幻惑物質を散布し罠を張る】
【ワイバーンを引き付け時間を稼ぎ、同士討ちに導く】
【レインの攻撃に合わせとどめを刺すようタイミングを計る】
0310レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/22(火) 18:51:36.31ID:5DPKKwPx
クロム&マグリットwithレインvsワイバーンの空中戦がいよいよ始まった。
得物が重量級の金棒ということもあってクロムは陽動に回ることになった。
マグリットもまたスピードを意識してか樽を降ろして足場に飛び移る。

「二人には悪いけれど、これで魔力の節約になったかな」

四方八方のワイバーンから目を離さないまま、レインは呟いた。
今回使ったのは下位魔法の『タリスマン』と中位魔法の『グローパイル』。
クロムの言う通り、いくら竜種といえど仮面の騎士なら、上位魔法を解禁して範囲攻撃を行えば殲滅できよう。
だが魔力残量=滞在時間である仮面の騎士にとって、上位クラスの魔法は使用を避けたいところだ。

ゆえにレインはワイバーン遭遇前からこの迎撃方法を目論んでいた。
なにせ、意識して節約する必要があるほど彼の魔力残量は逼迫している。

事実、この旅の道中、仮面の騎士は魔物戦において何度も力を貸してくれたが、
大抵は魔力消費を抑えるため剣のみで対処していたし、それで十分だった。

その点は多かれ少なかれ皆気にしている。
教会の『聖域』で魔力を回復してもらったり。
さり気なくサイクロプスと戦闘をさせないようにしたり。

でもそれは、強い魔物と遭遇したときに助けてもらうための打算なんかじゃない。
同じ目的地を目指す旅の仲間だから。運命共同体だから気にするのだ。
加えて、レインにとってはもはや第二の師匠と言っても差支えない。
『宇宙の梯子』を攻略した後も、ずっと彼らとともに旅を続けたいと思っていた。

(おっと……状況が変わってきたな)

なんと、一匹のワイバーンを他のワイバーン達が食いちぎろうと襲い掛かっているではないか。
どうやらマグリットが放った幻惑物質が遅まきながら効力を発揮し始めたらしい。
こちらに手を振るマグリットに手を振り返して、レインは天空の聖弓を構えた。

「接触前は外したけど、今回は外さないぞ……!」

魔力を送って弓をひくと、無数の『風の矢』が放たれた。
もっとも、確実に命中させるため今回は矢の軌道を調整してある。
矢は大きな曲線を描いて、団子状態のワイバーン達を包囲するかの如く襲い掛かった。

食らえばワイバーンといえど大きなダメージは避けられない。
避けるということは当たれば負傷することを明示しているようなものだからだ。
このアタックを合図にクロムとマグリットもまた攻撃を仕掛けるだろう。
そうなれば空中戦は決着を迎えるはずだ。
0311レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/22(火) 18:53:18.98ID:5DPKKwPx
……――――ワイバーンを片付けると、気球は順調に降下を続けた。
ドルヴェイク曰く、谷は地下まで続いており、およそ数キロに及ぶという。

「底が見えたぞ。もう少しの辛抱じゃ」

これほどまでに深い谷だ。底部は地上に比べて涼しく、レインにはありがたかった。
そして気球が緩やかに谷底に着地すると、一同は『竜の谷』の底に遂に到着したのだった。
見上げれば飛竜の群れが飛び交っているのが分かった。
襲ってこないのはワイバーン達を倒したことで、警戒されているためか。

「……ここじゃ。ここが故郷への入り口になっておる」

「ただの岩壁に見えますが……」

「はっはっは。鈍いのうレインよ。
 余所者の侵入を防ぐためカモフラージュしているのじゃ」

そう言って岩壁の窪みに手を嵌め込むとドルヴェイクは渾身の力を込めた。
すると壁の一部が大きくスライドして、巨大な穴が出現したではないか。

「……とまぁ、古典的じゃがこんな仕掛けになっておる。
 扉に本物の岩を使っとるからドワーフ並みの馬鹿力がない限り開けられんがな」

ドルヴェイクを先頭にして穴を入っていく。
入ると看板が立てかけられており『ゴルトゲルプ大坑道』とある。
この坑道こそあらゆる鉱山と町に繋がっているメガリス地下王国の大動脈だ。
ちょうどサマリア王国の『ラピス街道』のようなものだと思えばいい。

「ちょうどいい。このトロッコに乗って進むとしよう。
 目的地は首都じゃから、徒歩ではかなり遠いのでな」

敷かれた鉄路の上に安置された、やや年季の入った貨車を指差す。
ドルヴェイクは懐中時計で時間を確認すると、今は正午を過ぎたあたりだった。
地上の日が暮れる頃には着くだろう、と言ってトロッコを操縦すべく乗り込む。
0312レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/22(火) 18:54:49.21ID:5DPKKwPx
メガリス地下王国という名称通り、かの国の主要な町は全て地下にある。
これはドワーフが古くから鉱業を営んでいるからであり、
蟻の巣のように拠点を増やした結果、自然と今の地下王国が形成されていったという。

首都の『地底都トロンハイム』もその例に漏れない。
王城を中心として同心円状に広がる町並みは猥雑に入り組んでおり、
領土内に広がる鉱山の数々から資源が一気に集まる中心地。

トロッコを降りて、細い道から出るとレインはまずその"明るさ"に驚いた。
暗い地下を照らすため、そこかしこに明かりが設置されているのだ。
それだけでは足りないのか、王城の頭上には魔法で創った疑似太陽が煌々と首都を照らしている。

そして次に。道から出た瞬間、多くの人――いや、ドワーフ達と目が合った。
降り注いだ視線は好奇の色をしていた。ドワーフの国なのだから当然だが、ここに住む多くの種族はドワーフだ。
人間などかえって珍しいのだろう。それは獣人であるマグリットや人間に近い見た目のクロムも同じだ。

「冒険者ギルドの支部へ行くとするかのう。ここらでは一番異種族に寛容じゃろう。
 諸々の用事は明日に回すとして、今日はもう休むとしよう……」

ドルヴェイクの案内で一同は冒険者ギルドの支部へと向かった。
世界中に存在するという触れ込みは伊達ではなく、こんな秘境にもギルドはあるらしい。
……もっとも、支部の酒場を運営しているのもドワーフで、後は獣人やハーフリングが多い。
人間はいないようだ。なんだか心細い気がしながらレインは支部に入っていく。

「あ、あなたは……!」

ドルヴェイクと共に支部に足を踏み入れると、ドワーフの冒険者達が驚きのあまり立ち上がる。
遅れて獣人やハーフリングがドワーフ達と共に盛大に出迎えてくれた。

「遂に帰還されたのですね、スローイン様!」

「なぜ日程を伝えてくれなかったのですか!驚きましたよ!」

「ということは彼らが『宇宙の梯子』攻略組……!?」

支部の一角に半ば強制的に座らされながら、レインはある事を思い出していた。
それはかつて、エイリークがドルヴェイクについて話していたことだ。
確か……『地元の大陸ではえらい有名らしい』とか、そんなことを言っていた。
この喧騒ぶりはそれが原因としか思えない。問題はなぜそんな有名なのかであるが……。
0313レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/22(火) 18:58:10.52ID:5DPKKwPx
「そういえば……まだ儂の身の上を伝えてなかったのう。
 これから先、何も知らぬままでは話が前に進むまい。いい加減話しておくとしよう」

席に座りながら、ドルヴェイクはふうと一息ついた。
クロムの剣の再生のため故郷まで着いてきたわけだが、その実彼のことをよく知らない。
分かっているのは腕っ節があって、鍛冶の技能があること、神代文字が読めるといった教養があるなど。
おおよそ冒険者としてのドルヴェイクの顔であって、故郷でどんな人物なのかは誰も知らない。

また、『海魔の遺跡』で各大陸の窮地を聞かされた時は、ドルヴェイクもその事を知っている様子だった。
身の上については、故郷に着くまでは秘密と言っていたが……いよいよそのベールが露になるのだ。

「まずドルヴェイクという名は、なんというか……あだ名でのう。
 ドワーフの異称である"ドヴェルグ"が訛ったものなのじゃ……」

「つまり……本名ではないのだな」

仮面の騎士が席の端から口を挟んだ。
ドルヴェイクは首肯しながら話を続ける。

「儂の本名はスローイン・シュレーゲル・メガリス。
 平たく言えばこの『メガリス地下王国』を統べる王の弟にあたる」

対面に位置していたレインは、ドルヴェイクの言葉を脳内で反芻した。
王の弟……王の弟。王の弟!?つまり――彼はドワーフの王族なのだ!
偽名を使っているとはいえ王族が冒険者をやってたらそりゃ有名になるだろう。
驚きの事実にレインはごくりと息を飲んだ。

「やんごとない身分ってことですか!?……えらいこっちゃ……」

「そ、そう驚くな。逆に儂が気にする。王族といっても儂は堅苦しい生き方が嫌いでな。
 若い頃から身分を隠しては、諸国を漫遊したり一介の鍛冶師として仕事をしたりしていた。
 ……一人イース大陸へ渡り"風月飛竜"を倒し得る人材を探していたのもその縁があってのことでな……」

これで全てに合点がいく。
教会と各国が大幹部討伐の勇者を選任していたことを知っていたのも。
ドルヴェイクが何を隠そう王族の一人だったからなのだ。

というより、彼の口ぶりからすれば"召喚の勇者"を選任したのは、
"聖歌"のアリアと他でもないドルヴェイク本人なのだろう。
0314レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/06/22(火) 18:59:34.30ID:5DPKKwPx
「まぁ、出自など気にせず、今まで通りドルヴェイクと呼んでくれ。
 儂もそっちの方が気が楽だし、いまさら王族らしい生き方をする気もないのでな」

王族が鍛冶の技術など持っているのか――と疑問視するかもしれないがそれは違う。
ドワーフは神話と呼べるほどのいにしえより鍛冶を得意としてきた。
メガリス地下王国を拓いたドワーフもまた鍛冶の技術に長けていたのである。
むしろその腕前は血統書つきと言えるだろう。

未だ製鉄技術が未発達だった神話の時代に、現代の武器はおろか、
黒妖石やミスリルにも劣らない硬度をもつ武器を生み出せる伝説の金属があった。

名を『神鉄オリハルコン』。生きた金属とも言われている。
打てば意思を持っているかのように武器の形となり、損壊しても自動修復する能力を持つ。
かの金属は神々の一柱、地神ティターナから賜ることでのみ手に入ったという。
ゆえに、神が地上にいない現代ではもう入手できない。

この金属を使った魔法武器や魔法防具の数々を作ったのが、
ドワーフの王族、つまりドルヴェイクの祖先と言われている。

そう。天空の聖弓"ストリボーグ"、清冽の槍"アクアヴィーラ"、紅炎の剣"スヴァローグ"。
縁とは奇妙なものでレインには知る由もないが、この三つもドルヴェイクの祖先が作った。
そして、彼がひた隠しにしている『四つ目の切り札』もまた――。

「明日にはクロム、儂の工房でお主の剣を脇差として再生させる。
 その間にトバルカイン王に謁見するとよかろう。
 『宇宙の梯子』について教えてくれるはずじゃ」

クロムの剣の修復も大事だが、今回は最終目標に打倒大幹部がある。
レインはまだ『宇宙の梯子』というダンジョンについての詳細を知らない。
ギルドの依頼書の説明を読む限りでは『すげぇでかい塔』という認識なのだが……。
どんな魔物がおり、どのような罠が仕掛けられているのか。一切知らない。

「なにせ、あれの建造には……我々ドワーフが関わっておるからのう。
 本来は魔族に対抗するため造ったのじゃが、よもや乗っ取られてしまうとは」

ドルヴェイクは今までにないほど深刻そうな表情をしていた。
だが、すぐに顔をいつもの頼もしいものに戻して、こう付け足した。

「……まぁ、お主らと仮面の騎士がおれば大丈夫じゃろうて。
 ここまでの長旅を付き合った仲じゃ。実力はよく理解しておるのでな」


【ドルヴェイクの故郷、『メガリス地下王国』に到着する】
【ワイバーン撃破の様子についてはすみませんがお任せします】
0315クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/06/27(日) 19:12:58.02ID:kie4omnS
──目には見えない疾風の矢に翼を貫かれ、一匹、また一匹と墜落していくワイバーン。
中には攻撃の気配を鋭く感じ取ったか、それを紙一重で躱す個体も何匹か存在したが──

「悪あがきはよせよ」

それらの個体の頭上にはクロム。
マグリットの幻術にかけられながら、視認不可能なレインの横槍を察知して見せたのはなるほど驚くべき危機察知能力である。
しかし、不意の矢を回避する際も、クロムやマグリットに意識を残しておくという徹底した注意深さは流石のワイバーンにもなかったと見える。
あるいはそれも幻術により感覚器官を狂わされ、位置を誤認していた結果であったのかもしれない。
でなければ既に潰されていた回避先に飛ぶ等という愚行に及ぶ筈がないのだから。

「大人しく沈んどけ──って!」

勢いよく振り下ろされた重さ数百キロの凶器が鱗ごとその下の頭蓋を圧砕し、瞬時に命を断つ。
が、これだけでは終わらない。クロムは死骸と化した個体が墜落するより先に、その体を蹴って素早く真横に移動。
そこに滞空していた別の個体の横っ面を思いっきりぶっ叩いた。
いや、破壊したと言った方が正しい。牙を粉砕し、顎をかつてない方向へひしゃげさせたのだ。

──足場にクロムが着地した時、空中には未だ飛び続けているワイバーンは一匹も残っていなかった。
クロムと時同じくして、恐らくマグリットが残りのワイバーンを掃除していたのだろう。
何はともあれこれで障害は取り除かれた。後は面倒な魔物の第二波がないことを祈りつつ、底に着くのを待つのみだ。

────。

祈りが通じたのか、結局のところ第二波はないまま気球は谷底に到着した。
そして一行はドルヴェイクが案内した隠し通路の中へ。
『ゴルトゲルプ大坑道』の看板が立てかけられていたそこでは、トロッコが開通していた。
どうやら地下は蟻の巣の様に長く複雑な坑道が張り巡らされているらしい。地下王国とはよくいったものだ。

トロッコにしばらく揺られていると、やがて巨大な地下都市に辿り着いた。
ドルヴェイク曰く、名は『トロンハイム』。王国の首都だという。
クロムは目線を上に向けながら己の額に手をかざす。“それ”を直視するにはあまりに眩しいからだ。

(あれは“疑似太陽”……。ダゴンの遺跡のように、領内から魔力を少しずつ集めて創り出しているのか……?
 いずれにしても地下が太陽に照らされる光景を目にすることになるとは……この国、相当高度な文明を持ってるぜ)

と、しばし進行方向とは違う方向をぼんやりと眺めながらも足はしっかと前を行くドルヴェイクの後をついていく。
ふと我に返って目線を元の位置に戻した時には、既に目の前には冒険者ギルドの入口が迫っていた。
0316クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/06/27(日) 19:19:42.09ID:kie4omnS
>「あ、あなたは……!」

中に入ると周囲から驚きの声があがり、途端に何故だかドルヴェイクがあっという間に大勢の人々に囲まれていく。
亜人のいない人間の町であればいざ知らず、ドワーフの国でまさがドワーフが珍しいというわけでもないだろう。
しかし考え込む必要はまるでなかった。理由は直ぐに彼らが口々に発する言葉から察することができたのである。

──『スローイン“様”』。彼らはドルヴェイクをそう呼んだのだ。

(そういえばエイリークが地元じゃ有名とか言ってたな。どうやら悪い意味で有名というわけではなさそうだが……)

クロムは彼の正体を無難に有名職人集団の長老格だろうと読んだが、真実はその権威を遥かに上回っていた。
ドルヴェイクの本名は『スローイン・シュレーゲル・メガリス』。
何とこのメガリス地下王国を統治する王の弟──つまりは王族だったのである。
それを聞いてただ純粋に驚いた様子で固まるレインの後ろで、クロムは小さく舌打ちしてパチン、と指を鳴らした。

「オークションのあのドラゴン殺しの剣、買っときゃよかったな。なんせ王族だ、多分5000万でも1億でも払ってくれただろうし。
 チッ、趣味じゃねーとかカッコつけるんじゃなかったぜ。偽物でも本物でもどっちに転んでも俺達に損はなかったんだからよ」

そして、隣のマグリットに小声でせこい愚痴を零すのであった。

────。

一通り話を聞いた後、クロムは己の腰に差さっている切っ先の無い剣を鞘ごと取り出してドルヴェイクに投げ渡した。

「明日か。じゃあ今の内に預けとくよ。どうせ持ってたって俺にはどうしようもねぇしな。鞘も脇差用に打ち直しておいてくれ」

続いてレインとマグリット、仮面の騎士を順に見ると、最後に窓から見える王宮を見やった。

「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
 いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

【マグリットの幻術+レインの風の矢から生き残ったワイバーン二体を撃破】
【ドルヴェイクに剣を鞘ごと預ける】
0317マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/07/02(金) 20:03:56.89ID:yxjLQ0cN
襲撃をかけてきたワイバーンたちも今や肉団子状態
その脅威である高速飛翔が幻惑により封じられたところに、レインが無数の風の矢を放つ
着弾に合わせ確実にとどめを刺すべくしてマグリットも動いた

翼を貫かれ落ちていくワイバーンの多い中、矢を受けても何とか持ちこたえる個体や恐るべき危機回避能力で矢を避け飛び去ろうとする個体がいる
しかしその逃走経路を塞ぐように既にクロムが回り込んでいるのだが、それを見ながらマグリットは少々不満顔だった

「ふーむ、やはりこう開けた空だと効果は薄いですかー」

幻惑物質を散布し相手を虜にする能力は、静寂で空気の動きの緩やかな森や室内でこそその真価を発揮するもの
開けて風もある空中ではやはり効果も半減という所だろう
マグリットの思考は常にこの先の風月飛竜との戦いに向いており、それはこれから振るわれるシャコガイメイスにも言える事であった

手負いのワイバーンの背中に叩き込まれるシャコガイメイス
その柄に伝わる感触と間近に見るその姿を無数に出現させた目で見ていた

「ふむふむ、竜族の鱗を近くではっきり見たのは初めてですが、トカゲや蛇の鱗ではなく魚の鱗に近いですね
硬く滑らかで歯を滑らし衝撃を分散させる、更にその内にはしなやかな筋肉があり、柔軟性も保つ
亜種のワイバーンでこれですから、さてさて、頭が痛くなりますねえ」

ワイバーンを叩き落としながらため息をついたころには、クロムが軽業師よろしく倒したワイバーンの体を足場にして次へ行くという技を見せ、殲滅し終えていたのだった

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ワイバーンの襲撃を退けた一行は、その後襲撃を受ける事なく無事にその最下部へとたどり着くことができた
見上げれば降りてきた場所は霞んでもう見えなくなっており、頼りない籠一つで良くここまで降りてこられたと安堵の息を漏らすのであった

そこから通されたのはゴルトゲルブ大坑道
トロッコに乗り進んだ先はドルヴェイクの故郷であるメガリス地下王国は地底都トロンハイムであった

地底世界には驚かされる事ばかりであったが、その住人たちから熱烈な歓迎を受けるドルヴェイクの正体がメガリス地下王国国王の弟スローインであった事だった

「えええ?ドルヴェイクさん、いや、スローイン様、王弟様だったのですか?」

>「そ、そう驚くな。逆に儂が気にする。王族といっても儂は堅苦しい生き方が嫌いでな。

驚くマグリットにドルヴェイクは気さくに応えるが、一応とはいえ組織人であるマグリットの衝撃を簡単に溶けるものではない

「いやいや、王位継承権を持たれるお方が単独で他大陸に赴いたり、サイクロプスと戦ったりしてはいけませんよ!」

>「オークションのあのドラゴン殺しの剣、買っときゃよかったな。なんせ王族だ、多分5000万でも1億でも払ってくれただろうし。
> チッ、趣味じゃねーとかカッコつけるんじゃなかったぜ。偽物でも本物でもどっちに転んでも俺達に損はなかったんだからよ」

慌てるマグリットだったが、その隣でそんな権威どこ風吹くと言わんばかりのクロムのつぶやきに思わず吹き出してしまう

「もう、そんなこと言って
その金棒買っていなかったら、サイクロプスに剣ごと叩き潰されていたかもしれないんですよ」

勿論クロムが剣を手にすれば剣の戦い方をするだろうし、まともに刀身で受ける事はあり得ない
というのは判っていながら、軽口で返してしまう程度にはマグリットの衝撃を和らげる言葉であった

そのおかげもあって、今まで道理ドルヴェイクと呼んでくれという言葉に、了承の意を伝える事が出来たのだった
0318マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/07/02(金) 20:05:11.04ID:yxjLQ0cN
翌日トバルカイン王との謁見が予定されており、そこで様々な話が聞けるという事になったが、その前に何気ない一言がマグリットに新たな衝撃を与えていた

>「なにせ、あれの建造には……我々ドワーフが関わっておるからのう。
> 本来は魔族に対抗するため造ったのじゃが、よもや乗っ取られてしまうとは」

この言葉が意味する事を理解したからだ

マグリットの故郷は海底にあり、その中で水棲獣人とはいえ居住区を設けるという事がどういう事かはよくわかっている
貝の獣人たちは群体生物の巨大クラゲをつかい、その発光期間を利用していた
だが、ドワーフたちはこの地底王国の空気を循環させ、崩落を防ぐ掘削計画を立て、広大な地下空間を照らす人工太陽を作り出し管理維持している
技術力については貝の獣人たちの比ではない

そんなドワーフたちが魔族に対抗するという目的をもって建造したものが魔族に攻略されたのだ
これから戦う風月飛竜とそれが率いる魔族の強さを察し、戦慄するのであった

>「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
> いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

>「ふふふ、地熱を利用した温泉があるでの、そこで疲れを癒すと良いぞ」

そんなやり取りをするクロムとドルヴェイク、そしてレインに意を決して声をかける

「皆さん、これはあまりやりたくなかったのですが、ここから先の戦いではそうも言ってられなそうですので……」

そう言いながら、マグリットが三人に小さな巻貝の貝殻を三つずつ渡した
中には赤黒い丸薬が大中小一つ入っている

「この丸薬を一日に一つ、小さいものから順に飲んでいってもらえませんか?
私の血は濃縮された毒であり、それを利用した戦いもします
ただ、その毒は皆さんも蝕む危険もありますので、それを飲んでいただければ抗体ができ、私の血を浴びようとも害される事はなくなりますから」

出来れば王位継承権を持つドルヴェイクにはこんなもの服用してほしくはないが、もしこれ以降も同行するのであれば、と注釈をつけておく
ここからの戦いがどういったものになるか、そういう戦いを想定しているか、マグリットの覚悟の現れであった

「ご了承いただけましたら、明日に備え英気を養うためにも温泉につかりましょうか」

覚悟を決めた顔からふと表情をやわらげ、いつもの柔和な笑みを浮かべながら温泉への案内を催促するのであった


【ドルヴェイクの出自に驚き】
【ドワーフの文明レベルの高さに驚き】
【その技術で作られた宇宙の梯子を攻略した、魔族に驚き】
【自分の毒血への抗体を仲間が持つように丸薬を渡す】
0319レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:26:01.67ID:L4LL/AP0
>「王サマと会えるのは──『宇宙の梯子』の情報が手に入るのは明日だって言うし、今日はもう酒場で夕飯食って寝るか?
> いや、その前に風呂でさっぱりするってのも悪くねぇな。野営続きだったし。どこかに綺麗で広い浴場ねーかな」

クロムはドルヴェイクに黒剣を投げ渡してそう言った。
大衆浴場くらいならありそうだが、ドルヴェイクは得意げにこう返した。

>「ふふふ、地熱を利用した温泉があるでの、そこで疲れを癒すと良いぞ」

「温泉ですかぁ〜。いいですね。あ……師匠は大丈夫ですか?
 仮面を脱ぐことになると思いますけど……」

「このトロンハイムには温泉がいくつも湧いとるから、
 人の少ないところを選べば素顔のことは問題なかろう」

ドルヴェイクがレインにすかさずそう返した。
そうして呑気に風呂の話をしていると、
マグリットが意を決したように口を開く。

>「皆さん、これはあまりやりたくなかったのですが、ここから先の戦いではそうも言ってられなそうですので……」

そして手渡されたのは小さな貝殻だった。中には丸薬が三つ。
レインはそれを指で摘まんでしげしげと眺めた。

>「この丸薬を一日に一つ、小さいものから順に飲んでいってもらえませんか?
>私の血は濃縮された毒であり、それを利用した戦いもします
>ただ、その毒は皆さんも蝕む危険もありますので、それを飲んでいただければ抗体ができ、私の血を浴びようとも害される事はなくなりますから」

「毒の血液……か。なるほどのう。承知した、今日から飲んでおくとしよう。
 『宇宙の梯子』への案内役は儂をおいて他にはおらんだろうしのう」

ドルヴェイクは渡されたそれを持ったまま頷く。
出自には驚かされたが、彼はこの長旅で一緒に戦ってきた仲間だ。
迷いなくドルヴェイクに渡すというのは信頼されている証でもある。

だがレインは"風月飛竜"との戦いにドルヴェイクを巻き込むわけにはいかない、と考えていた。
その出自が王族である以上、国王や臣下のドワーフ達も絶対に止めるはず。
それを理解しているから本人も『案内役』と言ったのだろう。
0320レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:27:28.50ID:L4LL/AP0
温泉へと向かうべく冒険者ギルドを出ると、何故か武装したドワーフ達に囲まれた。
どうやら王城の衛兵らしい。隊長にあたるドワーフがずかずかと前へと出てくる。

「トバルカイン王の命令により参りました。
 スローイン様および勇者の一行を城へ案内するように仰せつかっております」

「むうっ……帰って来たのがもうバレたのか。王は手を回すのが早いのう。
 まぁよい、城にも温泉はある。貸し切りだと思えば悪くはないか」

有無を言わさず衛兵たちに連れられて金と白で彩られた豪奢な王城へと入っていく。
するとこれまた召使いらしきドワーフが現れ、恭しく頭を下げた。

「"召喚の勇者"御一行様ですね?お話は伺っております。
 お部屋まで案内致しましょう。明日には国王がお会いになるとの事ですので……。
 今日はゆっくりなさって旅の疲れを癒してください」

冷静に考えれば、今回の依頼はひとつの大陸を救うというもの。
やることはいつものダンジョン攻略とそう変わらないが……話のスケールが違い過ぎる。
国や教会が絡んでいるのだから少しくらい歓待を受けたっていいのかもしれない。

そして一同は召使いに客人用の部屋まで案内された。
一人一人に個室が与えられ、部屋には豪華な調度品が置いてある。
レインは何気なくソファに腰かけると、その柔らかくも心地よいフィット感に驚いた。

(いくらするんだこれ……いけないな、眠くなりそうだ)

だが睡魔が眠りに誘うより早くドルヴェイクが部屋にやって来た。
話していたとおり王城の温泉へ連れて行ってくれるらしい。
レインは剣やら旅の道具やらを外すと部屋を飛び出していく。

王城の一角にある温泉までやって来ると、中は貸し切り状態だ。
湯けむりが漂っており、薄壁の向こうは女湯になっているようだった。
0321レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:29:12.24ID:L4LL/AP0
温泉に浸かっているとアルスがやって来た。
入浴中なのだから当然だが、服はもちろん仮面も外している。
精霊のような存在だと本人は言うが、引き締まった肉体がそう感じさせない。
数えきれない戦いを潜り抜けてきた歴戦の強者……そんな感じだ。

「何か悩みがあるようだな、レイン。君はいつも心に迷いを抱えている。
 自分がなぜ戦うのか。正しいのか……それとも間違っているのか。違うか?」

迷い、と言われてどう返答すべきか逡巡した。
レインはこれまで死んだ友との約束を果たすため、魔王討伐のためひた走ってきた。
どちらかが死んだら代わりに魔王を倒す。その約束がレイン最大の原動力だった。

各地を巡って魔王を倒し得る武器を集め、二人の欠かせない仲間もできた。
真の勇者とも言える仮面の騎士と出会い、修行もした。
だがそれは結局のところ復讐がしたいだけなのかもしれない。

復讐は勇者としての在り方に反するものだと思う。
傷つく人のために悪と戦い、勇気を持って進む者ではない。
だが……無二の親友だったアシェルが死んだと聞いたとき、悲しみ以上にこう思った。
魔王を許せないと。レインは確かに怒りと憎しみを宿していた。

もちろん、最初からそうだったわけではない。
勇者になった頃はただ純粋に世界を守りたかった……。
この美しい世界を。大切な人がいる世界を。ただ守りたいと思った。

今はもうどっちなんだか分からない。
復讐がしたいだけなのか、あの頃と同じままなのか。
この事になるといつもそうだ。深い霧に迷ったように答えが出ない。
思考の迷路から抜け出せずに時間だけが流れていく。

「今は無理に考える必要はない。魔王に会えば答えは出る。
 なぜ戦い続けるのか……君が戦う本当の『理由』が」

「それでいいんでしょうか?
 俺は勇者失格なのかもしれないのに」

「いいんだ。喜び、楽しみ、怒り、悲しみ……勇者だって持ってる当然のものだ。
 君の気持ちは間違いなんかじゃない。その日が来た時、全ての想いを魔王にぶつけてやればいい」

この時、その日が遠くないことをレインは知る由もなかった。
0322レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:32:44.44ID:L4LL/AP0
次の日。
召使いのドワーフに案内されて、一同は玉座の間へと行くことになった。
ドルヴェイクはクロムの剣を打ち直すためかその場には不在。
仮面の騎士は正体について言及されると面倒なので早朝には城を去った。
よって残りの三人が集められ、謁見の時間になるまで待つことに。

「なんだか落ち着かないなぁ……王様に謁見するなんて勇者になって以来だし。
 片膝を立てて頭を低くするだけでいいよね……会話になったらどうしよう」

えらく小奇麗な旅人の服(わざわざ予備の新品を着た)を纏い、レインは緊張を露にした。
召使いはニコニコ笑って「フランクな方ですから普段通りでよろしいですよ」と言ってくれた。
とはいえレインの緊張は解けない。なにせ王直々に話をするというのだから。

「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
 クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

そうこうしている内に謁見の時間だ。
玉座の間に通されて王の顔が遠巻きに見えた瞬間、もう完全に固まってしまっていた。
召使いに通されると、レインはなんとか基本的儀礼に沿って片膝を立てて頭を下げた。

「わ、私は"召喚の勇者"レインと申します。
 こっこの度は謁見の機会をくださりまことに感謝いたします!」

トバルカイン王は齢65歳に達しており、老齢の域だが壮健で優しさを帯びている。
顔立ちもドルヴェイクとどこか似ている気がする。
周囲にはドワーフの近衛兵たちが物々しく立っており警備は厳重だ。

「お主たちが"召喚の勇者"一行か。話は弟から聞いている。
 頭を上げて楽になるとよい。サウスマナに存在する各国を代表して、
 宇宙の梯子について話をさせてもらおう」

「あ、ありがとうございます。その……単刀直入に伺います。
 『宇宙の梯子』とはどのような施設なのでしょうか?
 十全に理解できているか不安なもので……」
0323レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:35:12.15ID:L4LL/AP0
レインの問いに軽く頷くとトバルカイン王は静かに口を開く。

「うむ。そのために確認だが、召喚の勇者殿は宇宙についてどこまで御存知かな?
 後ろの二人も。クロム殿とマグリット殿でよかったかな」

レインは頭を掻きたくなった。
くそぉ……こんなことならもっと勉強しておけば良かった。
だが未だに天動説と地動説で意見が割れているサマリア王国で育ったレインだ。
どちらにせよ宇宙について大した知識はない。

「そ、その……星々のある場所が宇宙というくらいしか。
 太陽、月、星座……それにこの世界(アースギア)も。全て宇宙にあると」

歯切れ悪く返答したレインには、玉座の間の静寂がひどく刺さった。
何でもいいから早く誰か何か言ってくれ……と心の中で歯噛みした。

「うむ……まぁその程度でよいだろう。私も学者ではない。
 空の果て、全ての星々がたゆたう空気無き場所、それが宇宙。
 『宇宙の梯子』はその名の通り、宇宙まで伸びている巨大な塔なのだ」

トバルカイン王は正確には軌道エレベーターと言う、とつけ加えた。
エレベーター。たしか人力や魔法の力で上下する昇降機のことか、と思った。
サマリア王国ではあまり見かけないがサウスマナ大陸では珍しくないのだろうか。

「魔族に対抗するため建造されたとドルヴェイク……失礼、スローイン様から伺いましたが……。
 その塔でどのようにして迎撃するのですか?私にはどうにも想像がつきません」

レインの疑問はもっともだ。
トバルカイン王は問いに対しうむと口を開く。

「梯子の先端は人工衛星と接続されている。その衛星は巨大な『魔導砲』でもあるのだ。
 大陸全土から少しずつ魔力を吸い上げ砲のエネルギーとし、その威力は一国をも焦土にする。
 魔族の軍勢すら手が届かぬ場所から一方的に攻撃できるのだ……理想的な迎撃システムであろう」

――魔族に手にさえ堕ちなければ。
そんな凶悪な兵器が魔王軍のものになったということか。
確かに、サウスマナに存在する国全てが喉元に刃を突き立てられたようなものだ。
0324レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:38:56.24ID:L4LL/AP0
「おとぎ話にもあるように、勇者が魔王を討ったことであれの役割はとっくに終わっていた。
 以降は我らの祖先が封印し厳重に守っていたのだが……よもや占拠されてしまうとは。
 皮肉なものだ。過ぎたる力は持つものではないのかもしれないな」

トバルカイン王は自嘲気味にそう言うと、話を続ける。
いま、『宇宙の梯子』は"風月飛竜"配下の魔物の棲家となっている。
ワイバーンをはじめとする竜種が梯子を守り、人を一切寄せつけない。

梯子までの道程は険しい。地上の道なき道を進んでは数か月を要するだろう。
だがドワーフの『ゴルトゲルプ大坑道』を利用すればそう日数はかからないはずだ。
 
「占拠されてから約半年……衛星砲はもう何度も使用されており、既に幾つかのサウスマナの国が滅んでいる。
 改めて頼もう。"召喚の勇者"一行、お主たちには『宇宙の梯子』を奪還してもらいたい」

「お任せください。必ずや"風月飛竜"の手から奪還してみせます!」

こうしてトバルカイン王との謁見は終了し、レイン達は玉座の間から去った。
そこからさらに一週間ほど一行は王城に滞在することになった。
クロムの剣を打ち直すのに時間を要したためである。
そして来るべき出立の日――。

「待たせたのうクロム。これが生まれ変わったお主の剣じゃ」

ドルヴェイクは高級そうな布地に包まれたそれをクロムに手渡す。
包みを開けば、そこには黒鞘に収められた小刀があるはずだ。

こうして出発の準備は整った。
奪還作戦のメンバーはレイン、クロム、マグリット、仮面の騎士。
案内役にはドルヴェイクと彼を守る二名の護衛という構成となっている。

ドルヴェイク達の案内で大坑道を進んだ先には辺り一面に森が広がっていた。
この森を抜けた先に『宇宙の梯子』があるというわけだ。
だが、梯子が占拠されて以来森には魔族が棲みついている。
おそらくは梯子を守る"風月飛竜"の部下だろう。
0325レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:41:49.20ID:L4LL/AP0
ドワーフ達に導かれるまま進んだ先にその魔族はいた。
まるで冒険者たちの行く手を阻むように、多数の魔物を従えて。

「おーっほっほっほっほ!あなた達、ここから先は通しませんことよ!
 ここから先は魔王軍の領土!他の種族は帰りやがれでございますわぁ!!」

禍々しい黄色の体躯に、飛翔するための羽根。一撃で生命を断つ鋭い毒針。
――『蜂』だ。人間の顔に蜂のような身体をもつ『蜂の魔族』だ。
扇子で口元を隠しながら蜂の魔族は高らかに名乗りを上げた。

「私は魔蜂の女王キュベレー!"風月飛竜"シェーンバイン様いちの部下ですわっ!
 どうぞお見知りおきを!もっともすぐに死んでしまうでしょうけどねぇ!!」

キュベレーの周囲で羽音を響かせているのは『蜂の魔物』だ。その名も魔蜂デスホーネット。
体長は約30センチほどと小型だが、数が多いうえに強力な毒をもつ魔物である。

毒属性か、とレインは思った。マイナーだが木属性には有利に働く属性だ。
弱点は地属性とされている。だが、運のいいことに相手は昆虫系の魔物。
炎系の攻撃も嫌がるはず。ならば『紅炎の剣士』で十分――と分析した。

「毒属性が風の大幹部の部下なのは……なんだか釈然としないけど。
 魔王軍の組織表には興味ない。押し通らせてもらうぞ、魔蜂の女王っ!」

何気なくそう言って『召喚変身』しようとした瞬間、
キュベレーが烈火の如く怒り始めた。

「冒険者風情が痛いところ突くんじゃありませんわーーーーっっ!!!!
 仮面の騎士とかいう変な奴に上司をぶっ殺されたせいでこうなってるんですのよっ!!
 まぁぜーんぜんいいですけど!シェーンバイン様の方が元上司よりイケメンですものおほほほほっ!」

そこでキュベレーはハッとした顔で仮面の騎士を見た。
目を擦り、細めて凝視する……そしてようやく気付いたらしい。
彼こそが魔蜂の女王の上司にあたる魔族を殺した、あの仮面の騎士なのだと。

「ま、まままままさか……貴方は仮面の騎士……ですの!?
 私の上司含め、大幹部四名を倒した危険人物!なぜこんなところに!」
0326レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/07/04(日) 20:45:09.97ID:L4LL/AP0
動揺するキュベレーをよそに仮面の騎士は平静を崩さずこう返した。

「"腐毒公爵"グリマルディの元部下か。下衆だが強敵だった。
 マグリット以外は気をつけろ。連中の武器は毒……掠り傷が致命傷になる」

仮面の騎士は鞘からサーベルを抜いて戦闘態勢に入る。
キュベレーもようやく落ち着いたらしく再びかん高い笑い声を響かせた。

「おーっほっほっほっほ!冷静に考えてみたらカモネギですわ!
 手柄を上げれば大幹部就任間違いなし!顎で使われることもありませんのよー!」

扇子をばっ、と開いて仮面の騎士達に差し向ける。
すると周囲にいた無数のデスホーネットが殺到する。
魔蜂たちは数を活かして全員を取り囲むように襲い掛かる!

「召喚変身、"紅炎の剣士"!!」

レインは赤い民族衣装の姿へと変えるとスヴァローグを抜き放つ。
魔力を込めて炎を滾らせると、空間を斬り、炎を放って障壁を生み出す。
二度、三度、剣を振るい続け、皆を守るための『壁』を作る。
だがデスホーネット達は止まらない。構わず炎に突っ込んできたのだ。

「なっ……燃えるのが怖くないのか!?」

「おほほ、火力が足りないんじゃありませんこと?
 私が産み出した魔物は死をも恐れぬ兵隊ですのよぉ!?」

デスホーネットは炎に焼かれ、燃え盛りながらも突撃してくる。
炎の壁がかえって面倒な状況を生んでしまった。

「ごめん、皆避けてくれ!」

炎を纏ったスヴァローグを片手で回転させ、魔蜂を斬り払いながら叫んだ。
ドルヴェイク達や仮面の騎士もまたデスホーネットを躱しながら後退する。
そうはさせじと追撃を仕掛けるべくキュベレーはパチンと指を鳴らした。

すると森の奥から二足歩行の蜂型魔物が三体姿を現す。
全長三メートル。巨人の膂力を併せ持つ怪物・ギガントワスプである。
両腕には蜂らしく杭のような毒針を持ち、突き刺す事で毒を流し込める。
ギガントワスプもまた炎の壁をものともせず、そのまま突っ込んでくる。

「おーっほっほっほ。エンチャントファイアですわぁ!」

「そんなに燃えたいのか。今度は跡形もなく焼却してやる……!」

レインは苛立たし気にそう言い放って、炎上するギガントワスプの前に立ち阻む。
燃え盛る巨人型の蜂はそれぞれvsクロム、vsマグリット、vsレインの恰好となった。


【『宇宙の梯子』付近の森まで到着。梯子を守る魔族キュベレーと遭遇】
【死を恐れぬ巨人型の蜂魔物『ギガントワスプ』とそれぞれ戦闘になる】
0327クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/07/11(日) 18:51:12.84ID:qpQET7wo
ドルヴェイクに案内された王城の温泉──そこの広々とした脱衣所にて、クロムは大急ぎで服を着こんでいた。
レイン達と時同じくして温泉に浸かったのだが、その湯加減の余りの心地よさからか急激な眠気に襲われて寝入ってしまい、
気が付けば誰も居ない湯舟の中で一人のぼせて溺れかけるという有様だったため、慌てて出てきたのである。

「極楽極楽……っと思っていたら、本当にあの世に行くところだったぜ。こんなところで溺れ死んだら洒落にもならねぇ」

服のポケットに手を入れると、指先にコツン、と小さく硬いものが当たる。
マグリットから貰った三つの丸薬が入った貝殻だ。
実は中身は既に数が一つ減っている。それは、入浴前に特に何も考えずに飲んでいたからなのだが……

(……中身は抗体を作る為の毒とか言ってたな。まさかそのせいで急激な眠気が来たんじゃねぇだろうな?)

などと、思わず考えてしまうクロム。
もっとも、真実かどうかは定かではないし、仮にそうであったとしても副作用がその程度であれば特に気にするに値しない。
だから身支度を整えて脱衣所の出入り口を見据えた時には既に、頭にあったのは空腹を満たす夕食のメニューについてだけであった。

────。

翌日。
召使いに案内されて勇者一行は玉座の間へ。
王に会うということで気を使ったのか、明らかに新品の服を着て畏まるレインの姿がやけに目に付いた。
いや、客観的にはむしろ目立つのはクロムの方だったかもしれない。
いくら洗濯してあるとはいえ、平然と戦闘の痕が目立つ装束にゴツイ金棒を背負ういつものスタイルでいるのだから。

>「なんだか落ち着かないなぁ……王様に謁見するなんて勇者になって以来だし。
> 片膝を立てて頭を低くするだけでいいよね……会話になったらどうしよう」

「ん? 別にいいんじゃね? どーでも」

>「マグリットは教会出身だからこういう儀礼的なことにも慣れてそうだよね。
> クロムは大丈夫?俺は苦手で……作法を教えられても頭から飛んじゃうんだよ」

「お前も気が小さい奴だな。
 宮廷作法なんて宮廷の人間が使うもんなんだから、冒険者が作法を知らなくても問題はねーよ。大目に見て貰えるさ」

そんな良くも悪くもぶっきらぼうで大雑把な男だから、アドバイスを求められてもこの通りである。
召使のニコニコ顔が、若干、失笑気味の色に変わったように見えるのは、果たして気のせいだろうか。

さて、そんなやり取りをしていると、いよいよ地下王国の王・トバルカインとの謁見の時間がやって来た。
ドルヴェイクの兄ということだから、年齢にして恐らく60〜70代といったところだと思うが……流石にドワーフか。
肉体の見た目は人間の同世代のそれと比較すると遥かに屈強そうに見えるのは、気のせいではあるまい。

しかし、クロムが驚いたのは王の肉体などではなく、王が話す『宇宙の梯子』の正体についてであった。

空を遥か高く越え、宇宙にまで伸びた巨大な塔──『宇宙の梯子』。
その先端は大陸全土から魔力を吸い上げ、それを破壊エネルギーに変えて地上に放つ人工衛星──『魔導砲』と接続されているという。
その威力は極めて絶大で一国を焦土にするほどで、実際に既にサウスマナの幾つかの国が消滅したのだとか。

(つまり……巨大な“魔光弾”を放つ装置がその衛星というわけか……?)

魔光弾──。
超常的存在に呪文で干渉して魔力を変換するのではなく、魔力そのものを押し固めた光弾を体外に射出して目標物を貫徹する。
多量の魔力を内在する高位の魔法使いなどが好んで使う技である。
0328クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/07/11(日) 18:56:00.38ID:qpQET7wo
しかし、一国を瞬時に滅ぼすほどの巨大な魔光弾という想像を超えたものなど当然ながらクロムは目にしたことはない。
できればそんなものは永久に目にしたくないものである……が

(なんでそんな物騒なものをいつまでも解体せずに“封印”で済ませていたのか……。
 解体する技術も失われていたのか? 万が一の事を考えて、切り札用に取っておいただけか……?)

召喚勇者一行がこの国に呼ばれたのは『宇宙の梯子』の奪還の為である。
つまり、戦いで下手を打てば正に目の前で見ることになるかもしれないのだ。想像を絶する悪夢の光景を。

>「お任せください。必ずや"風月飛竜"の手から奪還してみせます!」

レインの言葉に合わせて、クロムは王に一礼して踵を返し、頭を掻きながら溜息交じりに呟く。

「一撃で一都市を破壊できる兵器。責任は重大。失敗は許されねぇ、か……。
 たまんねぇなぁ。ドワーフの先祖ってのもとんでもない遺物を残していきやがったもんだ」

────。

その後、勇者一行は一週間王城に滞在する事になった。
剣の打ち直しの為にそれだけの日数が必要だったからであるが、足止めを食らうというのも時には悪くない。
その期間を普段は取れない休養にあてる事ができるし、何より毒の抗体を作っておくという意味でも好都合だったからだ。

「久々にいい休みが取れた。お前の丸薬、きちんと全部飲んどいたから安心しろよな」

出発の集合場所にてクロムはまずマグリットにそう言い、続いて「それはそうと──」とドルヴェイクに視線を向けた。
それだけで何を言いたいのか察したか、ドルヴェイクは布に包まれた何かを差し出した。

>「待たせたのうクロム。これが生まれ変わったお主の剣じゃ」

布を取ると、中は予想していた通り短い黒鞘に納まった一振りの小剣。
柄に手を掛け、鞘から刀身を引き抜き、人口太陽の光を受けて黒光りする刃を、切っ先から根元まで軽くなでてみる。
瞬間、クロムは思わず顔をほころばせた。

「……ドルヴェイクの爺さんよ」

長年使い続けて何もかも知り尽くした愛刀である。
指先に伝わる微かな感触だけで、ドルヴェイクがどれだけの仕事をしてくれたのかをクロムは把握したのだ。

「いい仕事するじゃん。あんた、予想以上だよ。これ、『ドルヴェイクの小剣』とでも名付けることにするぜ」

「ふっふっふ。それは光栄じゃの」

「ん……? 今気づいたが、剣と一緒に布に包まれてるこれは……?」

そう言って布の中からクロムが取り出したのは、小さな★型の硬く平たい二枚の金属。

「脇差用に鞘を短く打ち直したじゃろ。その際に出た余った部分を使ってのう、“手裏剣”を作ってみたんじゃよ。
 なんせ希少な金属じゃ。捨てるのも勿体ないんでの」

「……魔力を込めると切れ味が増す手裏剣ってわけだ。ついでにしちゃ気が利いてるな。ありがたく貰っとこう」

ドルヴェイクとその護衛、仮面の騎士、レイン、マグリット、クロムが揃い、そして装備も揃った。かくして全ての準備は整ったのだ。
となれば──後は『宇宙の梯子』に向けて出発するのみである。
クロムが手裏剣を懐に仕舞い、剣を腰に差すと、その時をまるで待っていたようにドルヴェイクが言った。

「では、出発するとしよう」

────。
 
0329クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/07/11(日) 19:03:16.38ID:qpQET7wo
『ゴルトゲルプ大坑道』を利用してやがて辿り着いた場所は森だった。
森を抜けた先に『宇宙の梯子』があるとのことだが、ドルヴェイクの話によると、森には魔族が棲みついているという。
しかもそれらは元々森に生息していたわけではなく、梯子が占拠されてより棲みつくようになったとのこと。
つまり──明らかに梯子に近付く侵入者を排除する目的で配備された兵隊だというわけだ。

(戦闘は避けられねぇだろうな……面倒臭ぇったらありゃしねぇ)

──などと、クロムが思った矢先だった。早くもその兵隊が現われたのは。

>「おーっほっほっほっほ!あなた達、ここから先は通しませんことよ!
> ここから先は魔王軍の領土!他の種族は帰りやがれでございますわぁ!!」

不快な羽音を引っ提げて、耳障りな甲高い高笑いとやけに鼻につく物言いをする蜂型魔族が空中から舞い降りたのである。
そいつは自ら風月飛竜の部下・魔蜂の女王キュベレーと名乗った。

(敵は一匹…………なわけねーか。“女王”だもんな)

ブーン、ブーン、とキュベレーの周りで羽音を響かせる無数の虫を見て、クロムは思わず眉を顰める。
ただの虫などではない。それらは全て魔物なのだ。これまた毒蜂型の──『デスホーネット』である。
キュベレーが手にした扇子を広げると、それを合図にデスホーネットの群が四方に素早く散開して一行を取り囲む。

「そりゃ数の上では優位だ。教科書通り包囲殲滅とくらぁな」

そしてレインが展開した炎の壁をものともせずに突き破り、針を突き立てんと猛然と接近して来る。
クロムは背中に回しかけた手を下ろして素早く腰の剣に掛けると、間近にまで迫ったデスホーネットに向けて抜刀。
奔らせた剣閃によって瞬時に数匹を斬り捨てた。
小剣というのものは刀身が短い故に間合いが小さいが、小回りが利くのでより素早く複雑な軌跡を描く斬撃を繰り出すことができるのだ。

>「ごめん、皆避けてくれ!」

とはいえ、小剣一本で撃退し続けられるほど敵の数は少なくない。
死をも恐れず向かってくる魔蜂を切り落としながら、クロムも仮面の騎士達の行動に合わせて後退を開始する。
しかし、それもどうやら敵のシナリオの内だったらしい。
キュベレーのフィンガースナップを合図に、背後の森から新たな魔物が出現したのだから。

『ギガントワスプ』。二足歩行の巨人型の魔蜂である。それも三匹。
その内の一匹と目が合ったクロムは、うんざりしたように息を零しつつ、剣を左手に持ち替え、フリーとなった右手で背中の金棒を握る。
目を左右に動かすとレインもマグリットもまたギガントワスプと対峙していた。
キュベレーの言葉の通り、魔物達が彼女によって産み出されているなら、本丸を落とさない限り魔物などいくらでも沸いて出ることになる。
勿論、産み出せる数は無限ではなく有限に違いないのだろうが……何にせよ魔物と戦わされるのは敵の術中というものだ。

「おい、お前ら。こんなデカブツなんかに手こずるなよ。どうせワイバーン以下だ。
 さっさと片付けて後ろの女王サマを仕留めねーと、時間と体力を無駄に消費する事になるぜ」

クロムは二人を見ながら言う。目の前の、今にも攻撃を仕掛けてきそうな巨蜂など気にもしていないように。
挑発と受け取って怒ったか、それとも単に隙だらけと見て襲いたくなったか、敵が毒針の腕を突き出して来たのはその直後だった。

──だが、毒針が届く事は無かった。
体に届くより先に、クロムの左剣が素早く毒針ごと腕を切断していたからだ。
そして、敵にはそれに対する悲鳴をあげる時間さえ無かった。

「──らぁっ!!」

極めて重い金棒の横一閃の一撃を頭部に許し、あっという間に首を引き千切られてしまったのだから。
司令塔を失って痙攣し、やがてフラフラと倒れ伏していく巨蜂を一瞥する事なく、クロムはくるりと体ごと振り返る。
見据えるは、敵の本丸こと女王蜂である。

【『ドルヴェイクの小剣』と『ドルヴェイクの手裏剣』を手に入れる。丸薬によって毒の抗体有】
【デスホーネット数匹+ギガントワスプ一匹撃破】
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