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レトロファンタジーTRPG
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0001レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/05/31(日) 21:18:54.91ID:Nni+ZiO2
ここはアースギア……。
五つの大陸を舞台に数多の勇者達が冒険する世界。
あなたもまた、魔王打倒を目指して旅をするのです……。


◆概要
・ステレオタイプのファンタジー世界で遊ぶスレです。
・参加者はトリップ着用の上テンプレに必要事項を記入ください。
・〇日ルールとしては二週間以内になんとか投下するスレになります。
・投下が二週間以上空きそうな場合は一言書き込んでおくようにしましょう。
0101クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/09/13(日) 13:33:05.93ID:S0wv/jiJ
>「ぐ、うぅっ……!」

巨大な炎の右手がレインを掴むのを見て、クロムは再び戦場に跳び出した。
サティエンドラの背後に超速で接近し、隙だらけの首に黒刃を叩き込む。

「……不意打ちでもその程度かよ? ケッ、失望させやがって」

瞬間、辺りに響いたのは断末魔──ではなく、生身の体に打ち込んだとはとても思えない甲高い金属音。
それはまるで剣の悲鳴。
与えたダメージはほぼゼロだろう。見た目にも傷一つ負っていないのだから。

「弱ェ奴に興味は無ェんだ。とっとと尻尾を巻いて立ち去るか、それとも死ぬか……どっちかにしな!
 虫けらが俺様の周りをウロチョロするのは目障りなんだよ!」

サティエンドラからすれば今のクロムはさながら耳元を飛び回る蚊と言ったところか。
レインから離した炎の手を、今度はクロム目掛けて繰り出す。
恐らくレインのように掴んで拘束するつもりではないのだ。それこそ蚊のように、文字通り握り潰すのが目的に違いない。

「……効かねぇのは織り込み済みでね」

しかし、クロムは向かってくる炎の手を横へのステップで躱し、更にそこからの追撃を複数の跳躍を重ねて振り切る。
不意打ちも効かない。これが想定外でなく織り込み済みならば、思考の流れも体の動きも緊張で強張ることはない。
無駄が生じなければそれだけ隙がなくなる。そうなれば、躱し切る事は可能なのだ。
ただし、それにも限度はある。何故なら敵はスピードで互角以上のサティエンドラである。
この戦場に留まる限り、回避に専念してもいずれは捉えられてしまうだろう。

「テメェ、いい加減に……」

だから、クロムは今、“それ”を外した。
左右の両耳にぶら下がる髑髏を模した黒いイヤリングの片方を。

「慌てんな、今からくれてやるからよ。お前が満足できるだけの攻撃を」

「……あん?」

今、クロムの視線は怪訝そうな顔のサティエンドラを通り越して、その後ろに居るレイン、マグリットに注がれていた。
彼なりに知らせようとしているのだ。これから起きる事を。
もっともパーティを組んでまだ日が浅い面子。多少のアイコンタクトでは具体的な内容の伝達は望むべくもない。
それでも恐らく、“これからヤバイ事が起きる”ぐらいの事は伝わる筈だ。
微かに汗を滴らせるその顔から、雰囲気から。

(俺は多分、駄目だろうが……。頼むぜ、お前らだけでも何とか巻き込まれないようにしてくれよ……)

イヤリングを乗せた手を一度握り締め、再び開ける。
髑髏の眼窩部分が微かに光っているのが確認できる。これは“作動”した事を意味する。
サティエンドラにダメージを与える可能性のある唯一の武器として、目覚めた証だ。
0102クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/09/13(日) 13:43:34.92ID:S0wv/jiJ
「……何だそれは?」

「気になるか? だったら──もっと近くで良く見てみるんだな!」

クロムがサティエンドラに向けて投げ放つ黒髑髏《イヤリング》。
これはかつて砂漠の王を自称する魔物のダンジョンを攻略した時に偶然手に入れた、破壊のアイテム。

製作者は不明だが、髑髏型のイヤリングは他にも世界中にいくつかあると言われている。
共通しているのはそのどれもが装飾品に擬装した、使い捨ての魔導具であるという点だ。
魔力を込めることで魔導具として覚醒し、あるキーワードを唱えることでその秘めたる力を発揮する。
髑髏の“色”によって発揮される力の種類とキーワードが異なるらしいのだが、詳細は不明だ。

ただ、クロムは黒髑髏のそれだけは知っている。
砂漠の王が身に着けていたものと同じで、その解放された力を実際に目の当たりにした経験があるからだ。

「……あ?」

空中を泳ぐようにゆっくり舞う黒髑髏の姿を、サティエンドラはただぼんやりとした目で追っている。
攻撃とは思っていないのか、それとも何らかの大技を覚悟していたが故に、思わず拍子抜けしたのか……
いずれにしても危険を察知して回避行動を取っていないのは好都合である。
“まともに喰らう”と言っているようなものだから。

「『爆ぜろ、散らせよ、滅せよ、全てを爆熱の地獄に沈めよ』──!!」

石畳に伏せ、瞳に『魔装機神』の光を宿し、できる限り『精霊の外套』の中に身を潜める。
そして唱えたキーワード。

これによって解放される力は──“最高位の爆裂魔法に匹敵する威力の巨大な爆発”──。


「────なっ────」


凄まじい閃光、爆音、そして圧倒的破壊のエネルギーが、あっという間にサティエンドラを飲み込んだ。

その爆心地から僅か数メートルの距離の地点に伏せるクロムもまた否応なしにそれに巻き込まれる。
自分の体が暴風に吹かれる枯葉のように弄ばれるのを感じながら、クロムの意識は次第に薄れていった……。

【髑髏のイヤリング(最高位の爆裂魔法を発動する魔導具)を使用しサティエンドラを攻撃。与えたダメージはお任せ】
【クロムは爆発に思いきり巻き込まれて吹っ飛ばされる】
【一応『魔装機神』と『精霊の外套』でダメージ軽減を図ってはいるが、死なない程度の大ダメージは確定で戦闘不能】
0103マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/09/17(木) 20:25:47.67ID:xFCZdzi5
レインとサティエンドラの一時の語らいの後、爆発的に高まる魔力
振り下ろされた拳により砕ける石畳と、そこから噴き出る炎
その衝撃によりマグリットは意識を取り戻す

「こ、ここは、あ?え?意識が飛んでた??どもくらい??」

爆炎装甲により吹きとばされたマグリット
その身にまとう殻の鎧により大きな傷を負う事はなかったが、殻に覆われた中身は強くかき回され意識を失っていたのだ
意識の後についてくるように視界が戻り、そこに映ったものは巨大な炎の塊と化したサティエンドラの右手に捕まれ捕らわれてしまったレインの姿だった

水球を身にまとい炎の手に握り潰されるのに抵抗しているが時間の問題でしかないだろう

「く、レインさん、今……うう、動け、足い!」

即座に起き上がろうとするのだが、いまだに身体機能は戻っておらず、立ち上がる事すらできずに這いつくばるしかできずにいた
背中に担いだ樽に残る水は僅か、先ほどは牽制程度にしかならなかったものでレインを救えるのであろうか

そんなもがくマグリットを余所にサティエンドラに飛び掛かる黒い影が

「クロムさん……すみません……」

サティエンドラの背後からその首に切りつけるクロムの姿を見て、マグリットは自分が見誤っていたことを悟った
一人脱出し情報を持ち帰る
それもまた重要な使命であるが、それは教会という組織に属していた自分の価値観でしかなかったのだ
クロムは戦いに命を賭す戦士であり、レインとはまた別の意味で逃げることを自身に許さぬものだったのだ

だからこそ、今度は見誤ら無い
素早く動き攻撃を躱し続けることで、業を煮やしたサティエンドラはレインの拘束を解きその炎の腕をクロムに向ける
その中で確かにクロムはレインとマグリットに視線を送り、それを受け止めた

剣撃が通用しないとわかって尚立ち向かうのは、相応の勝算があるからだ
その視線はこれからそれを行うと言っている

何が起こるかはわかりはしないが、サティエンドラに届きうる攻撃であり、それはサティエンドラ自体のみならず周囲にも甚大な被害を及ぼすものである
でなければ視線を送る必要がないのだから

「承知しました!」

ここにいたりようやく身体機能の回復を見たマグリットが地を蹴る
そのままの勢いでレインを抱きかかえるように飛びつき、サティエンドラの真後ろに転がり込んだ

サティエンドラは戦闘狂であり、戦いの愉悦を求めている
それは振り返ってみれば、愉悦足りえない弱者は歯牙にもかけないという事でもあるのだ

だからこそ吹きとばされ意識をなくしていたマグリットに追撃もかけなかった
不意打ちすらもダメージを与えるに至らなかったクロムに
>「弱ェ奴に興味は無ェんだ。とっとと尻尾を巻いて立ち去るか、それとも死ぬか
と吐き捨てたのだろう
ならばこそ、その傲慢を、敵とすらみなされていない意識を利用させてもらうのだ

クロムが繰り出したものはサティエンドラに届きうる強力な攻撃ならばマグリットが全力防御しても無事では済まないであろう
ならばこの場にある最も頑丈な場所、すなわちサティエンドラを盾にして身を守るのだ

サティエンドラの背後で巨大な殻を形成しつつ、石畳の砕けた土の剥き出しになった部分にレインと共に身を沈めていく
敵としてみなされていればこのような行動は許されなかったであろう
だが、唐突に投げられたクロムのイヤリングという拍子抜けの状態で気が抜けたサティエンドラが敵ともみなしていない弱者が後ろでうろついていようが気にも留めていなかったようだ

>「『爆ぜろ、散らせよ、滅せよ、全てを爆熱の地獄に沈めよ』──!!」

様々な偶然と必然が重なり合った先に、クロムのキーワードが唱えられた
0104マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/09/17(木) 20:26:27.50ID:xFCZdzi5
閃光、爆音、破壊エネルギーの奔流がコロシアムを包み込む
石畳は全て砕け散り爆炎が渦巻き煙が立ち上る

その煙の中、巨大な獅子は立っていた
全身に傷を負い特に右腕は損傷が激しくだらりとぶら下がっている
しかしサティエンドラは歓喜に満ち溢れ笑っていた

「ふははははは!なんだよ、いいもの持ってんじゃねえか……!
だが、相性が悪かったなぁ、俺は猛炎獅子
とはいえ、咄嗟に右腕を犠牲にしなけりゃヤバかったかもしれねえ」

大きく肩で息をしながら煙を払いながら吹き飛んだクロムに視線を向ける

「右手をくれてやっても惜しくない戦いは久しぶりだ
お前を敵と認め、全力でとどめを刺してやる」

無事な左腕の爪に炎が宿る
クロムの意識があろうがなかろうが関係ない
戦闘の歓喜に酔いしれる血走った目で射すくめながら一歩踏み出した背後に大きな影が立ち上がる

「くれても惜しくないのであれば私が頂きますね、その右手!」

背後から繰り出されるのはマグリットの極限まで絞り込まれた放水管から放たれる聖水の刃
狙うは初撃でクロムが当てた手首
損傷し力なくぶら下がっていたサティエンドラの右手を見事に切り落としたのであった

「な、てめぇ、何処から……」

ようやくマグリットの存在を認めたサティエンドラだが、猛炎獅子の目に映るそれは教会の伝道師のそれではなかった
這いより、地に落ちた右手に覆いかぶさるように滑り込んでくる表情から読み取れるものは……狂気

「やっと、やっと手に入れた……!
ふふ、ふひひひ
ようやく一つ、獣王の掌!私の道標!」

ようやくクロムを敵と認め死力を尽くす戦いを味わうという時に、ほとんど機能しなくなっていた右腕を落とされた
落とされても今更どうという事もないのだが、愉悦の時間を食まされたのは不快極まりない
本来であればどんな小物であろうが薙ぎ払い殺すのであるが、それをしなかったのはクロムの極大の一撃を食らったダメージの為だけではない
これから何かが起こるという予感があったからだ

そしてその予感は当たっていた
マグリットが抱きしめるサティエンドラの手は抱きしめられたままマグリットの体に沈んでいくのだ

「俺の手を取り込むつもりか!
馬鹿が、お前ごときが取り込もうが破裂するだけだぞ」

「ひひひ、もう遅い
もうこれは私の血肉です、返さない、還さない
私は龍へ一歩近づく」

狂乱と歓喜と悦楽にまみれたマグリットの言葉と共に、サティエンドラの右手は完全にその体内へと沈んでいった
0105マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/09/17(木) 20:26:50.57ID:xFCZdzi5
クロムの放った黒髑髏のイヤリングの爆発をサティエンドラを盾にしつつ地中に潜り殻の中でやり過ごしたレインとマグリット
そこでマグリットの目的とこれからについて手短に話していた

マグリットは貝の中でも蜃の獣人で、様々な貝の能力を使える
蜃が龍の九似の一種であり、鹿公、月兎、獣王、牛鬼、など九種類の種族が混生する事で龍と化すと一族に伝えられている
それこそがマグリットの目的であり、サティエンドラは竜の掌となりうる獣王の掌と見ていると

隙を突きサティエンドラの手を落とし取り込む
しかし、莫大な力を取り入れた際には一時的に出力が増し暴走状態になる
その暴走を利用してサティエンドラと戦う事を

「ようやく一つ目を手に入れられるのは良いですが、まだ七つあるのでここで死ぬわけにはいきませんから
どうかレインさん、お助け下さいね」

そう締めくった後、地に埋まる貝から出て、サティエンドラの右手を落としたのだった
そしてここからもその予定のまま自体は進む
サティエンドラの右手を取り込んだマグリットの体から強大な魔力が溢れ出る


砂鉄を取り込み鉄の鱗を生やす貝がいる
海藻を食らい取り込む事で光合成をおこなうウミウシがいる

そういった貝の能力を持つが故にマグリットはその手を取り込み、ただ血肉とするのではなく能力を得ることができる
だがもちろん過ぎたる力は身を亡ぼす
サティエンドラが言うように普通ならば魔力の暴走により破裂するはずである
が、取り込まれた手は龍の因子として認められマグリットの中に溶け込んでいった

「ふ、ふふふ、ふふふ、凄い力ららら……!
これこれなななら勝てててててるううう!」

溢れ出る魔力は炎の形を得てマグリットの周囲ではじけ飛ぶが、それはやがて背中に収束し、その身を一気に加速させる
一瞬で間合いを詰め繰り出される拳
右手を失い全身に傷を負うサティエンドラにかつての速さはなく、避ける事もできずまともに食らい大きく後ろに後ずさる

「あはははは!すごいすごいいい!
あなたのちか、ちかかからはあああすごごごいいい」

一撃一撃の威力はサティエンドラのそれに匹敵する
一方的にサティエンドラを攻撃するマグリットであるが、レインの目にはそうは映らないだろう
攻撃をしているのではなく、させられている
確かにダメージは与えているが、ただ闇雲に拳を振り回しているだけの素人戦闘に手負いで消耗したとはいえサティエンドラがいつまでも対応できないわけではないだろうから

「このクソが!俺の力を手に入れたからっていい気になるな!扱いきれてねぇんだよお!」

大振りなマグリットの拳を避けざまに、残った左手の爪が腹部に深々と突き刺さる
両者動きを止め、突き立てられてたサティエンドらの手首をマグリットが掴む
これ以上深く刺されないようにという防御の為ではなく、むしろその手を逃がさぬように

「ふひひひ、手は二本で一対、左手も来たあぁ!」

吐血しながらなおも深く突き立てんと掴んだ左手を押し込むその力は、マグリットに取り込まれたサティエンドラの力そのものである
マグリットの細胞はその左手に龍の因子を認め、爪や指先から既に融合が始まっていた

【サティエンドラの右手を取り込みパワーアップ】
【殴り合うも対応され腹部に爪を突き立てられる】
【腹部に刺さったサティエンドラの左手を掴み動きを封じそのまま吸収を始める】
0106レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/09/19(土) 16:59:09.97ID:CHttG7JY
サティエンドラの放った奥義『地爆豪炎掌』は、確実にレインを追い込んでいる。
咄嗟に清冽の槍で水球を生み出し防御したものの、所詮時間稼ぎにしかならない。
真綿で首を絞められるようだ。万事休すとかと思いきや、救いの手となったのはクロムだった。

>「弱ェ奴に興味は無ェんだ。とっとと尻尾を巻いて立ち去るか、それとも死ぬか……どっちかにしな!
> 虫けらが俺様の周りをウロチョロするのは目障りなんだよ!」

握り込んでいたレインを離して、巨炎の掌をクロムへと差し向ける。
水球を解いて肩で息をするが休んでいる暇はない。
いくら薬草で回復したとはいえ、足を怪我していては長く持たないだろう。

>「慌てんな、今からくれてやるからよ。お前が満足できるだけの攻撃を」

>「……あん?」

サティエンドラの怪訝な反応と共に、クロムの視線が目に飛び込む。
レイン達は結成して間もないパーティーだ。具体的な内容までは理解できない。
だが、今まで何も言わず先陣を切ってきたクロムが、こちらをわざわざ視るということ――。
それはすなわち、味方にも影響を及ぼすような事が起きるということだ。

>「承知しました!」

死角から飛びついてきたマグリットに抱きかかえられ、
二人サティエンドラの真後ろへと転がり込む。

>「『爆ぜろ、散らせよ、滅せよ、全てを爆熱の地獄に沈めよ』──!!」

次の瞬間、凄まじいほどの熱風と閃光、そして衝撃がレイン達を襲った。
味わったことはないが、魔法で例えるなら最高位の爆裂魔法にも匹敵し得るだろう。
今すぐにでも飛び出してクロムの安否を確認したかったが――それは叶わなかった。
マグリットの口から、彼女の出自が語られたからだ。

曰く、彼女は貝の中でも蜃にあたる獣人である。
蜃は龍の九似――龍の九つの部位が他の生物に似ること――の一つなのだという。
この九似にあたる生物九種が混成することで、"龍"に至るのだというが……。
信仰心の薄いマグリットが宣教師をやっていたのも、全てはそのためらしい。

>「ようやく一つ目を手に入れられるのは良いですが、まだ七つあるのでここで死ぬわけにはいきませんから
>どうかレインさん、お助け下さいね」

「あ、ああ……」

いつも強く、頼もしいマグリット。レインにとっては命の恩人でもある。
恩義があり、マグリットに何か目標があるなら、協力してやりたいとも思う。
だがこの時ばかりは些かの不穏な空気を感じていた。レインはこう思うのだ。
龍へと至った後、その力で彼女は何をするのだろうかと。
0107レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/09/19(土) 17:02:17.33ID:CHttG7JY
一方、サティエンドラは爆発を受けてなお、全身――特に右腕を激しく損傷しながらも立っていた。
クロムの意識が薄れる中、それも気にせずとどめを刺そうと左腕の爪が炎で染まる。
確実に止めを刺すことこそ、彼の戦士としての最大限の敬意なのだろう。

瞬間。不意打ちで現れたマグリットの聖水製水圧刃によって右手が切り落とされた。
元来、魔物は聖水を嫌うものであり、それが弱点であればダメージは大きいに違いない。
それが爆発でボロボロに損傷し、使い物にならなくなった右腕であれば猶更だ。

>「やっと、やっと手に入れた……!
>ふふ、ふひひひ
>ようやく一つ、獣王の掌!私の道標!」

「ま、マグリット……?」

狂気染みた笑い声。とてもいつもの彼女とは思えない――。
今すぐに飛び出すべきか……?逡巡するも、事態は彼を待ってはくれない。

>「ふ、ふふふ、ふふふ、凄い力ららら……!
>これこれなななら勝てててててるううう!」

一拍で間合いを詰めたマグリットは、拳による肉弾戦を敢行する。
それはサティエンドラの鋼の肉体にダメージを与えうるに十分の威力を持っていた。
しかし、いくら連拳を放っても致命傷を与えることはできないだろう。
無闇に攻撃させ、反撃の隙を作ることが"猛炎獅子"の狙いなのだ。

>「このクソが!俺の力を手に入れたからっていい気になるな!扱いきれてねぇんだよお!」

左手の爪が腹部に突き刺さる。だがマグリットは止まらない。
サティエンドラに残された左の手首を掴み、融合を始めたのだ!
"九似"の力に酔い、歓喜するマグリット。

「おい、扱いきれてねぇって何度も言わせんじゃねぇよ。
 今この瞬間、融合を始めてる俺の掌で"奥義"を使えばどうなるか――」

ここで奥義を解禁すれば内部からマグリットをズタズタにできる。
サティエンドラの考えは間違っていなかったが誤っていた。
それは弱者に無頓着過ぎるという彼の悪癖……。
つい数十秒前に戦っていた相手でさえも歯牙にかけないその慢心。

「おおおおおおっ!!」

隠れていたレインが姿を現し、跳躍してサティエンドラに襲い掛かった。
裂帛の気合と共に左手目掛けて『アクアヴィーラ』を振り下ろす。
清冽の槍は手首へ深々と食い込んだが、断ち切るまでには至らない。
0108レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/09/19(土) 17:04:54.62ID:CHttG7JY
水属性であってもカウンターを加算した攻撃ではなかったためだ。
右腕はともかく左手首は深い傷もない。結果は威力不十分。

だがサティエンドラが放とうとした奥義は、完全に不発となった。
清冽の槍『アクアヴィーラ』を手首に浴びた時点でこの攻防は決している。
なぜなら槍の水が絶えず敵の手首から先を覆うことで、炎と化さぬよう中和するからだ。

「まだだっ!!」

槍に全霊の魔力を込めて、二撃。炎の中和を続けながら槍を振るう。
三撃目にしてようやくサティエンドラの手首を切断した。
これでサティエンドラは闘技の大部分を使用不可能になるだろう。
実を言えば――手首ではなく、サティエンドラの急所を狙うこともできた。

だがそうしなかった。騎士道精神に則った訳ではない。
一撃で殺しきれない以上、急所狙いではマグリットが奥義を食らう可能性があった。
だからレインはあえて手首を攻撃することにしたのだ。仲間を見捨てる訳にはいかない。

「……参ったな……」

魔力が底を尽き、『召喚変身』が解けて旅装姿に戻っていく。
一層高まるコロシアムの熱狂とは裏腹に、戦いはジリ貧になりつつあった。
両手を失っているのに、サティエンドラはその闘志をむしろ燃え上がらせている。
サティエンドラは闘争を楽しむためか、慢心に任せて闘う相手のレベルに合わせる癖がある。
彼の全力が見れるのはむしろこれからなのだろう。

勇者として、決して逃げるわけにはいかない戦い……。
仲間の一人が戦闘不能、もう一人が暴走状態という有様。
壊滅的状態だ。おそらく勝ち目はないだろう。待ち受けているのは死だ。
逃げるか。しょせん最弱の勇者だ。勇者としての沽券なんて持ち合わせちゃいない。

だが逃げたところで、逃げきれるだろうか?
両手を奪った敵を黙って逃がすほど愚かではないだろう。
もうお互い退けないところまできている――かに思われた。
不意にコロシアムの扉がずずん、と音を立てて開いた。
0109レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/09/19(土) 17:13:59.89ID:CHttG7JY
サティエンドラもレインも、お互い睨み合ったまま扉へ意識を向ける。
入ってきたのは仮面をつけた謎の男だ。腰には一振りの剣を帯びている。

「――その戦い、ここまでにしてもらおうか」

と、仮面の男は言った。
ダンジョンなのだから普段は他の冒険者がいてもおかしくはない。
だが、ここは『精霊の森』の一部を焼き払って出来たダンジョンだ。
仮に他の冒険者がいればエルミアが事前に何か話してくれていたはず。
そんな素振りは一切なかった。……何者?

「てめぇは……『仮面の騎士』!?」

「久しいなサティエンドラ。
 いつぞやの決着を今つけたいなら構わないが」

瞬間、『仮面の騎士』と呼ばれた男を基点に光の結界が広がる。
まばゆいばかりの光輝の聖域は遂にコロシアムを覆うまでに至った。
すると観客席に座っていた魔物達が次々と苦しみ出し消滅していく。

「……結界魔法……!?」

レインは思わず驚きの声を上げながら、倒れているクロムを担いだ。
『仮面の騎士』が展開したのは最高位の結界魔法『ホーリーアサイラム』。
光の波動を持つ者のみが扱えるという破邪の結界である。

その効果は尋常ではなく、低級の魔物なら問答無用で消滅し、
ダメージの深いサティエンドラもまた苦しみ膝をつくしかない。
手負いでなく万全の状態ならこうはならなかっただろう。

「チッ……これじゃあ退くしかねぇな。
 てめぇらのツラ、覚えたぜ。次は全力で闘おうじゃねぇか」

「……だそうだ。異存はないな"召喚の勇者"。それに蜃の九似」

サティエンドラに背を向けて、コロシアムを後にした。
『仮面の騎士』は少し離れた距離から殿としてついてくる。
やがて『紅蓮魔宮』から脱出すると、レインはクロムを担いだまま振り返った。
魔王軍幹部が生み出した居城が、轟音をあげながら地に沈んでいくのを。

「これで魔王軍もサマリア王国からしばらく手を退くはずだ」

『仮面の騎士』はそう言うと手を翳しクロムに回復魔法をかけた。
マグリットの魔法よりも即効性があるそれは、みるみる傷を癒していく。

「助けてくれてありがとうございます。しかし、貴方は一体……?」

「なに……ただの冒険者だ。森番がやって来るまでは私もここにいよう」

聞きたいことは山ほどあったが、今日は色々な事が起きすぎた。
喋る気力もなく、レインは沈黙を保ったままクロムが目覚めるのを待っていた。


【サティエンドラ討伐失敗。謎の男に助けられ『紅蓮魔宮』から脱出】
【謎の男は普通の勇者と同じく『光の波動』の持ち主】
0110クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/09/21(月) 12:14:05.68ID:JE5ljFRv
……どれだけ意識を失っていたのかは分からない。十分か、あるいは一時間か。
いずれにしても目覚めた時、そこはもう魔物が跋扈する伏魔殿ではなく、見覚えのある緑に彩られた森であった。

(ここは……精霊の森《外》か?)

クロムは咄嗟に仰向けの状態から身を起こし、一斉に自分に注がれた視線に向けて目を流す。
そこにはレイン、マグリット──……そして『仮面を着けた男』が居た。

「……あんたは?」

「通りすがりのただの冒険者、とでも名乗っておこう」

「……ここにレインとマグリットが無事で居るということは」

「いや、まだサティエンドラは倒していない。だが、奴らはこの森より撤退した。当面の間は再侵攻の恐れもないだろう。
 我々は今、森番の到着を待っているところだ」

「撤退……か」

ひゅう、と吹いた風が、クロムの髪をさらっていく。
思わず視線を風上に向けると、煙を上げる巨大な瓦礫の山が目に飛び込んできた。
場所といい、恐らくサティエンドラの宮殿の残骸だろう。
撤退の際に、軍が自陣を焼き払うようにサティエンドラ自らがやったものか、それともあるいは……。

クロムは視線を落とし、自らの身体の状態を確認する。
服は『精霊の外套』を含めてボロボロ。黒髑髏の猛烈な爆熱に晒されたのだから、それは仕方のないことだ。
だが、不思議な事に服の下の身体には傷一つ、痛み一つ残っていない。

(ただの冒険者、ね……)

意識を失う程の大ダメージ。それは経験上、ほとんど瀕死に近い状態だった筈だ。
それをマグリットがここまで完璧に回復させた、とは思えない。
技量云々を抜きにしても……戦闘で消耗した彼女に、そこまでの魔力が残っていたと考えるのはむしろ不自然だろう。
となると……体を治したのは消去法で『仮面の男』ということになる。

「見た感じ僧侶というわけでもなさそうだけど、高位の回復魔法なんてどこで覚えたんだ? 何モンだよ、あんた?」

「……言った筈だ。“ただの冒険者”だと」

「……あっそう。ま、それでいいよ……“今は”な」

正体を明かす気はない。その頑なな意思を感じ取ったクロムは、含み笑い一つして、頭を掻く。
──恐らくサティエンドラはこの男の登場で撤退を決めたのだろう──
そんなことを薄々感じながら。


──男と話し終えた後、ひたすら沈黙を守るクロムが、徐に剣を抜いた。
鞘と同色の黒剣がすーっと解き放たれ、太陽光を鈍く反射する。
ぱっと見では分からない。恐らく誰の目にも。が、目を細めてじっくり眺めると、嫌でも異変に気が付かされる。

……欠けている。ほんの僅かだが、鋒が。
更にその鋒を中心にして、刀身全体に小さな亀裂が無数に入っている。
その原因が先《サティエンドラと》の戦いにあることは疑いようがない。
ダメージを負ったのは服や肉体だけではなかったのだ。

(これが今の俺と大幹部の力の差……。今のままじゃ、そう長くはねぇな……“今のまま”じゃ……)

剣を再び鞘に納めた時、クロムの目つきは何かを覚悟したようにどこか不穏なものになっていた。

【目覚めて森番来るまで待機中】
0111マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
垢版 |
2020/09/26(土) 19:27:21.18ID:nRy3IZCK
回復魔法をかけられたクロムが目を覚ました時、既に紅蓮魔宮は消滅し一同は森番の到着を待っていた
クロムの目に映るのはレインと謎の仮面の男、そして巻貝の様にうずくまったマグリットであった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

溢れてくる……力が
漲る……気が
何処までも飛んでいけそうなくらいの万能感がマグリットを酔わせる

一族に伝わる九似を得て龍と成る伝承
いや、伝承などというあいまいなものではなく
確固たる成龍への道の第一歩を踏み出した陶酔はさらに高まり更なる力を欲する

酩酊の末に自身の危機的な状況にも気づけず、吸収しようとしているサティエンドラの左手からの致命の攻撃を受けようとしていた
そんなマグリットを救ったのはレインの一撃であった

本来ならば急所を狙い、この戦いに決着をつける事もできたであろう
しかしレインの決断はサティエンドラの左手を切り離す事だった
それに全ての魔力を使い果たし、召喚変身が解けたレインと爆発の衝撃で吹き飛び気絶しているクロム

この状態にいたり、ようやくマグリットは正気に戻ったのだが、再び酩酊と陶酔に身を沈めようとしていた
全身に傷を負い両手を失ったといはいえ、その滾る気は衰えることなく、まともに戦って勝てる相手ではない
となれば、もう一度暴走状態で挑むしかない

「レインさん、すいません、私の為に
かくなるうえは今度こそ……」

>「――その戦い、ここまでにしてもらおうか

再び力の酩酊に身を沈めようとした覚悟の言葉は乱入者によって遮られた
サティエンドラの反応からすると、冒険者でありサティエンドラと戦えるツワモノであるらしい
が、それ以上の考察を続けることはできなかった

仮面の棋士と呼ばれた男を起点に光の結界が広がり観客席の魔物が次々に苦しみだし手滅していく
それと同じくしてマグリットも苦しみ始め、天を仰ぎ口から豪火を噴出した
取り込んだサティエンドラの両手がマグリットの中で光の結界に反応し消滅していっていたのだ

そんな中、サティエンドラは引き、それとともに紅蓮魔宮は地に沈んでいった
こうして精霊の森の魔王軍は撃退され、その侵攻から解放された
そして冒頭の状態に戻るのであった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
0112マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/09/26(土) 19:29:09.82ID:nRy3IZCK
「うううぅ……うううう〜〜〜……っだーーー!」

クロムが仮面の騎士とやり取りしている間、巻貝の中で呻いていたマグリットがようやく殻を割り立ち上がる
振り向いた目は赤く腫れていたが、表情はいつもの明るいものに戻っていた

「ふ〜〜暴走状態になるとは聞いていましたが、ああにまでなるとは
獣王の掌を吸収すれば超絶パワーアップしてお二人を助けられると思っていたのですが、うまくいきませんね
吸収した掌も光の結界で殆ど浄化されてしまいましたし……とほほ
それも吸収する側の私の力が足りなかったという事なのでしょう
龍への道は遠く険しいですが、これからまだまだ強くなっていくですよ!」

マグリットの目的は龍の九似と融合し龍と成る事である
この戦いでようやくその一歩を踏み出せたと思ったが、有り余る力に振り回され暴走状態に陥る
あまつさえ吸収しきれず光の結界の効果でそのほとんどを失ってしまったのだ

その結果や事態を飲み込み自分の中で折り合いをつけるのに時間がかかってしまったがようやく納得がいったようだ

「仮面の騎士さん、脱出時はまともにお返事できずに失礼しました
助けていただきありがとうございます!」

仮面の騎士の手を取り大きく振りながら礼を述べた
その実力からして高名な騎士であろうし、サティエンドラと因縁もある様子
更に九似は蜃の獣人の間ではよく知られている事だが人間にとってはマイナーな情報であるはずだが、一目でそれを見抜いた事
一体何者かは気になるところではあるが、クロムが尋ねてもはぐらかされていたところを見ると、マグリットが効いても答えは同じだろう
ならばまた時期を待つしかない

「……レインさん、この仮面の方、お知合いです?」

とは言え、やっぱり気になるのでレインにそっと尋ねるのであった
あれだけの光の魔法が使えるのであれば勇者の中では有名人なのかもしれないからだ
そしてさらに付け加える

「それと、クロムさんがすんごい目つきしていますけど大丈夫でしょうかね?
やっぱりコテンパンにやられちゃったのが堪えたのでしょうか……」

剣技に秀でたクロムの攻撃がサティエンドラに全く通用せず、自爆覚悟のアイテム攻撃に頼らざる得なかった事は戦士としてのプライドが傷ついているのでは、と心配になってしまったのだった
0113レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:16:30.65ID:tYOvj2di
回復魔法の効力でクロムの目が覚めたことで、レインの緊張は完全に解けた。
麻痺していた疲れがどっと押し寄せて今にも前後不覚に陥りそうだ。
少しふらついていると、貝に籠っていたマグリットも姿を現す。

>「うううぅ……うううう〜〜〜……っだーーー!」

脱出してしばらく経ち、ようやく何か折り合いがついたのか。
彼女が龍に至ることでどう変わるか――。
暴走状態になる辺り本人にも分からないのかもしれない。

>「……レインさん、この仮面の方、お知合いです?」

不意の問いかけにレインはかぶりを振って答えた。
少し離れたところで腕を組んだまま佇む『仮面の騎士』を一瞥する。

「いや……初対面だよ。それに、仮面を被った勇者なんていないんだ」

勇者が珍しくない時代だ。大抵の勇者は"召喚の勇者"のような異名を持つ。
だが"仮面の勇者"は同業者のレインも聞いた記憶がない。

>「それと、クロムさんがすんごい目つきしていますけど大丈夫でしょうかね?
>やっぱりコテンパンにやられちゃったのが堪えたのでしょうか……」

「そうだね……誰だって壁にぶつかることはある。
 誰しもが超えられる訳じゃないけど……クロムならきっと突破できるさ」

むしろ力関係が分かりやすい程度には拮抗できていたとも言える。
曲がりなりにもサティエンドラが応じてくれていたのがその証拠だ。
もしレベルがあまりにもかけ離れていたら、
爆発時のレインとマグリットのように相手にもされていない。

やがて馬の蹄音が聞こえてくると、クロムの馬を連れてエルミアが姿を現した。
後ろには仲間らしきエルフも何人かいる。非戦闘員のようだが仲間に違いない。
0114レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:18:25.91ID:tYOvj2di
森番が来たところで『仮面の騎士』に視線を移すと……彼は忽然と姿を消していた。
レインはあっと心の中で驚いて、エルミアの目も憚らず周辺を探し回った。
聞きたいことが沢山あるのに!まるで幻のようにいなくなってしまった。

エルミアは三人の下へ駆け寄ると、微かにはにかんだ。
出会いは殺伐としたものだったが気にかけてくれていたらしい。

「言いたい事は尽きないが、君達が無事で良かった。
 まさか本当にサティエンドラを追い払ってみせるとはね。
 おかげで私たちも森の再生に専念できそうだ」

次にエルミアの後ろにいた男性のエルフが一人一人に握手を求めた。
レインは男性エルフの勢いに流されハンドシェイクを交わす。
雰囲気から察するに、エルミアより目上の立場らしい。

「申し遅れました。私はこの森を守るエルフの長……グウィンドールと言います。
 魔王軍の幹部サティエンドラを退けたこと、まことに感謝したい」

グウィンドールは感謝の意を示してくれたが、実態はどうだ。
勇んで挑んだものの、窮地に陥って助けてもらっただけのことだ。

「お気持ちは嬉しいのですが……俺達は大した事は何もしてません。
 今はいませんが全て『仮面の騎士』という冒険者のおかげなんです」

「かめんのきし?」

エルミアの怪訝な反応。やはり誰も知らないらしい。
そもそも彼が『精霊の森』に居たこと自体が不思議なのだ。
レインは強力な光の波動を持つ謎の冒険者、と簡潔に伝えた。
グウィンドールはその端正な顔立ちを崩さぬまま、手を組んで答える。

「ふむ……遠い昔話になりますが、神々が地上を見放し、魔が溢れ混沌が訪れた時代――……。
 この地に古代王国が築かれるより遥か昔です、人間の中にとても勇敢な子がいました」

「……お伽話ですか?」

「ええ。サマリア王国に伝わる勇者の伝承……。
 この話の最後は御存知ですか?"召喚の勇者"殿」

「勇者は魔の軍勢を打ち払った後、神のいる天界に向かったとか……」
0115レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:21:08.14ID:tYOvj2di
グウィンドールは実感の伴った表情で深く頷いた。
まるでその時の光景を見たかのような表情だ。

「信仰が薄れて久しいですが、アースギアは紛れもなく神々が生み出した世界。
 天は我らを見放し地上を去ってしまいましたが、勇者は違う……。
 ならば、再び魔が満ちつつあるこの時代には、あるいは――……。
 いや、やめておきましょう。全ては私の憶測なのですから」

それより、とグウィンドールは話を続ける。

「これからも魔王軍と一戦交えることがあるのならば、気を付けることです。
 彼らの君主たる魔王は神々でさえ手のつけられないほど強大な魔力を持っている」

「……魔王、ですか」

魔王。魔王城と同じく、その正体は謎に包まれている。
勇者が倒すべき敵と神託で漠然と決まっている程度だ。
大幹部のサティエンドラがあの強さなのだから、魔王の強さなど想像もできない。
山でも眺めている気分だ。それでもやらねばならないのが勇者の使命というものである。

「長はそれは長い年月を生きているから、多くのことを知っているんだよ。
 勇者のお伽話も、幼少期に長から聞いた……きっと"伝承の勇者"と親しかったのだろう」

そして、エルミアは言葉を続けた。

「……この恩は忘れない。どうか『精霊の森』のことを忘れないで。
 君達に何かあれば必ず助けになる。私の名と、精霊達に賭けて誓おう」

その時、『精霊の森』に生い茂る木々が語り掛けるように揺れた。
一体何を話しかけてくれたのやら――きっとエルミアには分かったのだろう。
去り行く道を振り返り、レインは手を挙げて答えた。

「いつかまた会いましょう!
 その時はもっと強い俺達でエルミアさんを迎えます!」


【第二章:精霊の森編完!次章へと続きます!】
【クロムさん、マグリットさん、お疲れさまでした!】
【第三章:海魔の遺跡編は↓より始まります!】
0116レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:22:50.64ID:tYOvj2di
……――――遥か遠きノースレア大陸にて。

降りしきる雪の音を聞きながら、男は玉座で微睡んでいた。
どこか貴族的とも魔法使い的とも思わせる装いに端正な顔立ちの青年。
青年はどう見ても、人間の美の基準でいえば優れた容貌に入る。

その横に片時も離れず傍につくのが漆黒の衣装に身を包んだ白皙の女性。
青年と同じく人間にしか見えないが――薄く張り詰めた魔力を感じれば、
嫌でも人を超えた存在であることが理解できるだろう。

「……"猛炎獅子"」

転移石でやって来た同胞を見て、女性は感情もなく呟いた。
両手を失い、胸から浅く出血している負傷状態にも関わらずだ。

「……遅れて悪かったな。しかし……魔王城を完全に秘匿するためとはいえ、
 定例会議の場をコロコロ変えるんじゃねぇよ。煩わしいぜ」

獅子の毛皮を被ったが如き男、サティエンドラ。
仮面の騎士と召喚の勇者一行に撤退を余儀なくされた大幹部の一人。
回復の暇もなく会議に参列してみれば、思わず外の喧騒に目を瞑った。
まるで蟻同士の戦いなど興味がないというばかりに。
最早魔王軍が抵抗軍を殲滅するのも時間の問題だろう。

「今日は議題を変えましょうか"死霊術師"。
 馬鹿な九似が両手を失って逃げ帰ってきたもの」

サティエンドラの隣で青肌の女性がくすくすと笑った。
僧侶風の出で立ちに身体に毒蛇を絡ませた妖艶な魔族だ。

「……うるせぇよ"水天聖蛇"。仮面の騎士の横槍が入った。
 あいつが何者なのか、大方の予想はついてるが……問題は"召喚の勇者"共だ」

「何者」

漆黒の衣装の女性――……。
"死霊術師"アリスマターは端的に問うた。
0117レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:24:56.26ID:tYOvj2di
サティエンドラは柄でないことを理解しつつも、腕を組みながら答えた。

「さぁな……だが、これから何者かになっていくんだろうぜ。
 いずれ俺様が本気で戦うに値する連中になる。きっとな」

「ふぅん……自分は絶対に手を出さないって事ね。
 なら私が仕留めておきましょうか。新芽を摘むのは慣れてるわ」

「へっ、まぁ好きにしな。仮面の騎士にだけ気をつけるこった。
 "風月飛竜"と"不動城砦"はどうだ。異存ねぇよな」

「……好きにしろ。風もそう言っている」

「問題ないんだな。ウェストレイ大陸の件で忙しい。ああ忙しい」

帽子を目深に被った半竜の男とゴーレムの如き魔族も異論はない。
どちらも担当の大陸の侵攻に忙しく、この手の会話には参加しない。
比べてみれば、受け持ちの大陸を80%以上侵略した"水天聖蛇"は流石に仕事が早い。
――そう。彼らが会議を開いているノースレア大陸がその大陸なのだ。

「……城の外は」

玉座に座る青年が静かに口を開いた。
大幹部達は一様に口を閉じ、彼の言葉を待った。
彼は発言は今や魔王の御言葉そのものに等しい。

「……今日も騒がしい」

「……はっ。ではこのサティエンドラが鎮めましょう」

陥落した聖都にて開かれた定例会議は終わりを迎え、
大幹部達はそれぞれ転移石で己の侵攻地域へと去っていった。
……白い大地に雪が降り注ぎ、一層深く積もっていく。
0118レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:26:27.29ID:tYOvj2di
……――――イース大陸、サマリア王国にて。

精霊の森から戻って数日。
冒険者ギルドに調査報告書を提出した後、レインは奇怪なことを耳にした。
仮面の騎士と呼ばれるような冒険者は存在しない、と冒険者ギルドに言われたのだ。

「うーん、ウチの登録に仮面の騎士なんて
 名前や特徴の人はいないんだよね。おっかしいな」

ギルドマスターのアンナは頭を掻いた。
もぐりの冒険者など今に始まった話ではないが……。
と言っても冒険者など多くは腕に覚えありのならず者集団の訳で、
ギルドのメンバーであるかないかぐらいの違いでしかない。

「ねぇレインっち、暇なら探してよ。助けて貰った縁もあるし」

「な……なぜです?」

「実力者なら勧誘していいかなって。
 本当の騎士様なら抱き込むのは難しいかもだけど」

何の手がかりもないのに無茶を言う人だ……。
だが勧誘したい、というギルドマスターの意思は本物らしい。
使えるものがあれば猫でも冒険者にするのがギルドの方針だ。

「……難しいですね。手掛かりは何もないですから」

「残念。あぁ、どんなイケメンなのかしら……っ!」

レインは少し呆れてしまった。最近『仮面の騎士』の話になると皆こうだ。
彼の活躍によってサマリア王国が当面の間魔王軍の危機から逃れられたのは事実だ。
だが、裏を返せば魔王軍と戦うにはサマリア王国の外へ行く必要があるということでもある。

魔王城を見つけ出し、それを攻略するという勇者としての目標。
それを遂行するにはいよいよこの国を出る必要が生じてきたのだ。
0119レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/01(木) 20:28:59.35ID:tYOvj2di
いや、むしろそれで良かったのかもしれない。
先の戦いで各々自分達の未熟さを知った次第だ。
それを突破するのに、諸国を渡って実力をつけるのも悪くない。

「けどレインっち。今サマリアを出るのは難しいよ。船出てないもん」

「……え!?」

「うーん、海に魔物が出るようになってね。今は船が出せないらしいのよねー。
 あっそうだ(唐突)こんなところに海の魔物を退治して欲しいって依頼があるう〜」

巻紙をくるくる開くとなんとそこには依頼書が。
攻略推奨レベルは25以上。駆け出し冒険者では到底攻略できそうにない。

「……分かりました。その依頼、引き受けます」

これからどこへ行くにせよ、船がないのでは話にならない。
レインはアンナの思惑のままその依頼を引き受けることにした。

「皆、次の依頼が決まった。俺達は港町マリンベルトへ向かう。
 そこで船に乗って航海を邪魔する魔物を退治しようと思う」

いつも通り地図と依頼書を広げて机に置く。まず示したのは港町。
あらゆる国のモノが海を超えて集う、王国における交易の中心地だ。
そこからすーっと指を動かしてぽつんと存在する島を指差した。

「……依頼書を読む限り、発生源はメリッサ島にある『海魔の遺跡』。
 サマリア王国に存在するダンジョンで最難関の……呪われた島だ」


【避難所で土曜に投下すると言いましたがなんとか書き上がったので投下】
【次の行先は呪いのダンジョン!】
0120クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/04(日) 22:46:01.59ID:Kct6TBzl
ギルドの酒場。
そこに、カウンターで言葉を交わし合うギルドマスターとレインの姿を遠目に見ながら、朝食を摂る一人の男が居た。
クロムである。
今やギルドでも見慣れた顔の一人であるが、あるいはだからこそ、彼がクロムであると気付く者は少ないかもしれない。

右の肩当てと一体化した片掛けの胸当てに、左腰のみに装着された腰当て。
その下はいつもの漆黒の『魔人の服』ではなく上下共に真逆の色である純白の白装束。
そして特徴的なおかっぱ頭がありふれたショートヘアに……。

『精霊の森』から帰還した後の数日で、見た目が変化したのである。
彼と関りの浅い冒険者ほど別人に感じる事だろう。


「──お、あんたレインのところの剣士じゃねーか?」

不意の声に、思わず咀嚼を止めて、声の方向を見やるクロム。
するとそこには如何にも冒険者というような筋肉質の大男が立っていた。

「“イメチェン”ってやつだろそりゃ? ハハハ、ショックな事があったってのはどうやら本当みてぇだなぁ?」

口の中のパンをごくりと飲み込んで、クロムは溜息混じりに言葉を紡ぐ。

「あっちこっちで『仮面の勇者』だの『レインのパーティがボロ負けした』だの、どうして噂ってのは光のような速さで広まるんかね」

「広いようで狭い界隈なのさ、ギルドってのは。しかし“凄腕の剣士”にしちゃ随分打たれ弱ェじゃねーの。
 そんなことでボロ負けのショックから切り替えられるもんかねぇ。やっぱいくら強くっても子供《ガキ》ってか?」

「……髪型を変えたのは確かに気持ちを切り替える為だけど、服は『魔人の服《前の》』が使えなくなったからだよ。
 あれでも世界に二つとない正真正銘の一点物だったんでね。呪いも《事情も》あって仕立て屋でも修復できないし。
 ホントはまだ着たくなかったんだ、この服は。妙な“制約”を強いられる曰く付きなんでね」

「フン……何のことかは知らねーが、だったらそこらへんの武器屋で鎧でも買った方がいいんじゃねぇか?」

「そこら辺に売ってるありふれたモノじゃ着けてないのと同じさ。サティエンドラ《あいつ》のような強敵にとっちゃな」

「……」

「ま、あんたみたいに雑魚狩りで満足するようなヤワい冒険者じゃ理解できないかもしれないけど」

「な、なにを……!」

テーブルに手をつき、ずいっと身を乗り出して凄む大男。
だが、クロムはそれに怯むどころか、涼しげな顔で更に挑発するように口角を吊り上げる。

「ジョーダンだよ、冗談。ったく、コワモテってのは体だけじゃなく心までガチガチに強張ってて暑苦しいぜ」

「くっ、調子に乗りやがって……!」

「だったらどうする? ここで殴り合うってか? 三対一を覚悟で?」

そして握り締めた拳を今にも振り上げんとする男に対し、あれを見てみな、とでもいわんばかりに大げさに顎をしゃくる。
途端に男は「うっ」と呻く様に声を漏らした。しゃくった先を見たのだ。
ギルドマスターと話し終えて戻ってくるレインと、それとは別の方向からこれまで席にいなかったマグリットがやって来る姿を。

「ケッ! この続きはまた次の機会だ! 覚えてやがれ!」

男は余りにも分かり易い形で喧嘩の不利を悟ったのであろう。
即座にテンプレの捨て台詞を吐くと、そそくさと立ち去って行った。
0121クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/04(日) 22:53:01.52ID:Kct6TBzl
────。

>「……依頼書を読む限り、発生源はメリッサ島にある『海魔の遺跡』。
> サマリア王国に存在するダンジョンで最難関の……呪われた島だ」

テーブルの上に地図を広げて、レインが指で二つの場所を順に指し示す。
初めに『港町マリンベルト』、次に『メリッサ島』。いずれもサマリア王国の領土内の場所だ。

数ある依頼の中で、何故レインはルートが航路に限られる孤島のダンジョン攻略を選んだのか。
理由は外洋に出る為……延いては他の大陸に出る為だ。
物騒な魔物が航路を遮断するのを放置しては、いつまで経ってもこのイース大陸から離れることができない。

各地の大幹部のダンジョンを攻略し、最終的にはこの世の何処かにある魔王城に辿り着く。
そんな大目標を達成するには、遅かれ早かれ海を魔物から奪回しなければならないのである。
奪回は早ければ早いほどいい。ただ、問題は奪回への挑戦が無謀な挑戦になりはしないかという点であろう。

(依頼書によると攻略推奨レベルは25以上……)

それは駆け出しの冒険者では無謀を意味するレベル。
だが、サティエンドラとの死闘を生き残った召喚勇者のパーティであれば攻略は決して不可能ではないだろう。

「……馬車を外に待たせてある。御者は前と同じでマグリットがやってくれ。
 食料と薬草は樽に入れて積んであるが、他にも必要なものがあったら載せて置けよ。出発はそれからにしよう」

だとしても、立ち上がり、『精霊の森』の時と同じく誰よりも先に酒場を後にするクロムの足取りは、その時より明らかに重かった。
心につっかえているものがあり、気分が晴れなかったからである。

(『魔人の服』よりも強い“制約”があるこの服に、欠けて亀裂が入ったままのこの剣……。
 ハンデ持ちの今の俺でレベル25以上の洞窟か…………くそ、らしくなく沈んでやがるぜ、俺)

【装備変更:『魔人の服』→『???』(特性も不明。ただし呪いの装備品であることは確かなようだ)】
【『悪鬼の剣』→刀身がダメージを受けた事で殺傷力ダウン】
【気分転換に髪型をおかっぱから普通のショートヘアに変える】
0122マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/10/10(土) 19:36:20.01ID:/O1S6QkZ
ギルドの酒場
レインがギルドマスターと話し、クロムが大男に絡まれている最中にマグリットはやってきた

通常ギルドの酒場に集う時はそのまま冒険に出られる装備で来るものだが、マグリットの格好は法衣ではなく平服だった
トレードマークのように背負う樽は家財道具を一敷き詰めたようなリュックになっていた

大荷物を背負いながらレインの席に歩み寄る途中、レインに絡んでいた大男とすれ違いその剣呑な雰囲気にきょとんとした顔のまま籍の到着

「お知り合いでしたか?なんか剣呑でしたけど
それとなんだか雰囲気が変わりましたねえ、白い服もお似合いですよ!」

いつもの漆黒の魔神の服ではなく純白の白装束姿に驚きつつも挨拶を交わし、席に着く
奇しくもクロムもマグリットも普段とは違う服装でレインの戻りを待つことになったのだった

レインが戻ってきたところで、先にマグリットが口を開いた
勇者付きの伝導師の職を解かれ、冒険に出る事を禁止されたという旨を

「やーまあ、そんな訳で今回ご一緒できません
せっかくの休暇ですので一度実家に戻って羽を伸ばそうと思っているのですよ」

法衣を着ていないのも、家財道具を一式背負ったような荷物になっているのも王都ナーブルスを離れるという事だったのだ
そこまでは明るく話していたのだが、周囲に目をやり聞き耳を立てているものがいないのを確認し、テーブルに乗り上げるように体を寄せ、声を潜めて言葉を続ける

「教会の宣教師派遣が一斉に中止になっています
私だけでなく、多くの勇者付きの伝導師が職を解かれ待機状態命令が出ました
この動きが何を意味するか、私如き下級職には情報はおりてきません
もしかすると各地の大陸で大きな事件が起きているか、大きな戦いの前触れの可能性も……」

マグリットの顔が険しく、深刻なものに変わっていく

宣教師は未開の地に布教するために派遣される者たちであり、教会の尖兵とも情報網を構築する者ともいわれる
その派遣が一斉に中止になるという事は、派遣先に重大な異変が起きていると考えられもするのだ

精霊の森で見たサティエンドラの強さと引き連れていた魔物の数はサマリア王国を殲滅しかねない程であった
それを鑑みれば、国外や他大陸に同様の侵攻が起きている可能性もよぎってくる
もしその状況が事実であれば、教会の動きも戦力温存という意味で合点がいく

「ですので私は身動きが取れませんし、出来ればレインさんやクロムさんも暫く休養する事をお勧めします」

最悪の事態に想いを巡らせながら、教会組織に属する者として動くこともできず、忠告をするのが精一杯だった
声を潜めそれだけ語ると、体を起こし表情は元に戻っていた

「というわけで、しばらく実家に戻りますので、申し訳ありませんがまた帰ってきたらご一緒させてもらいます
あ、乗り合い馬車の時間ですので失礼しますね!」

そう言うと大きく手を振りギルドの酒場を出て行ってしまった
マグリットの向かう乗合馬車の行先は奇しくも港町マリンベルトであった
0123マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/10/10(土) 19:40:13.43ID:/O1S6QkZ
マグリットの説明には明確な矛盾があった
教会内に大きな動きがあり、その一環としてマグリットは伝導師の職を解かれた
そして他の伝導師と同じように【待機命令】が下っているのだ

にも拘らず、マグリットは休暇と曲解して実家への帰路へと向かっている

これはマグリットの目的である九似を集め龍と成る為にあまりにも自分の器が小さすぎる事に気づいたからだ

九似の一角である猛炎獅子サティエンドラはあまりに強かった
取り込んだだけでも暴走し挙句に吸収しきれず仮面の騎士の結界によってほとんどが浄化されてしまった
龍に成る為にはサティエンドラと同じレベルの魔物を吸収して回らなければいけないとなると、今のままではとてもではないが力不足が過ぎると感じだからだ

そこで待機命令を良い事に、一度実家……すなわち港町マリンベルトの近くの貝の獣人集落に戻り、自身の強化に努めるつもりなのであった

【教会内にて大きな動きがあり、他大陸の異変の可能性を示唆】
【同行不能の旨を伝え、実家に帰る】
0124レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2020/10/12(月) 16:49:11.51ID:vKKGDfaB
……――冒険者ギルド。
ギルドの酒場でクロムに会ってまず驚いたのは、いつもの彼と印象が大きく異なっていたことだ。
黒衣の剣士とも比喩される衣服は純白の装束に変わり、髪型も普通のショートヘアに様変わりしている。
『紅蓮魔宮』脱出後、自身の剣をずっと眺めていたことといい、何か心境の変化があったに違いない。

そして驚いたことがもうひとつ。マグリットが伝導師の任を解かれ、帰省する事になった。
レインもすっかり油断していたが、彼女の所属はあくまでも教会の伝導師なのだった。
教会の命令が下れば従うのが当然。伝導師でなくなった今、無理に冒険につきあう必要はない。

ただ、マグリット自身はパーティーを抜けたつもりはないようで戻って来る意思はあるようだ。
しまったなぁ……。マグリットを戦力として当て込んだ上で依頼を受けてしまった。
レインの予想が正しければ今回は他の冒険者と競合になる。戦力ダウンはかなりの痛手だ。

競合になると報酬はもちろんダンジョンの宝の奪い合いになるので、面倒事が起きやすい。
ギルドの規約においては競合となった際、依頼の報酬は達成者のみが得られるとある。

本来なら『水晶の洞窟』のように即席PTを組んで協力するのがベターだ。
しかし、ダンジョンに眠る財宝を独占したい場合は、これに限らない。
PTを組めば多くの場合は手に入れた宝も山分けすることになるからだ。

「……御者は俺がやるよ。二人で頑張ろう」

レインは脳内プランを修正しながら空元気をとばした。
二人きりの馬車が王都を出発し、ラピス街道を進んでいく……。

……――港町マリンベルト。
ラピス街道に接続された、帯状に港が広がる交易の中心地。
海の水質はとてもきれいで、少し歩けば他の村や集落に着き、ビーチもある。

港へ足を運べば常に船が行き交う光景が見られるはずだが、海に魔物が出る今はがらんどうだ。
代わりにサマリア海兵隊の船が仰々しく配備されている。

それでも交易の中心地なだけあって、多くの店や人は活気に溢れている。
武器屋には見たことのない珍妙な武器が並んでいるし、
異国の道具や調度品の数々は眺めるだけでも楽しい。

レインは何度かマリンベルトに訪れたことがあるが、
この町を歩くだけで世界各国を旅したような気分を味わえる。

港町に着くとまず宿をとって厩に馬車を預けた。
宿は『運命の水車亭』――水車の看板が目印の宿屋だ。

まるで観光気分かと思えるほどにレインの足並みはゆっくりだった。
なぜかというと、すぐ船に乗れるわけではなかったからだ。
海が危険である以上、一般の船は出ていない。
0125レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/12(月) 16:55:28.04ID:vKKGDfaB
そこで冒険者ギルドの船を使う。船の名は『アドベンチャー号』。
直球な名前だが、大砲やバリスタといった装備を乗せた立派な武装帆船だ。
船員は全員屈強な元冒険者で、サマリア王国の海兵隊にもひけをとらないと言われている。
ちなみにギルドの船に乗るのはレインも経験が無い。

「……ギルドの船長が今日、この宿に来ることになってるんだ。
 顔合わせして、明日船に乗る流れになると思う。今日はゆっくりしよう」

日が沈みかかる頃、二人は夕食を摂ることにした。
レイン達が泊まる『運命の水車亭』の料理は美味いことで有名だ。
前菜だけでも野菜類、魚介類、サラミ、生ハム、燻製、チーズ、カルパッチョ……。
……と、非常にバラエティに富んでいる。王都の宿の飯も決して悪い訳ではないのだが……。

「……そういえばクロム。武器のダメージは大丈夫?
 『紅蓮魔宮』を脱出した後、ずっと見てたよね。なんか気になっちゃって」

フルコースが肉料理にさしかかった頃、不意にそんなことを聞いた。
召喚魔法で様々な武器を扱う手前、肌感でクロムの心配事を察してしまったのだ。

「俺、実家は武器屋で。こういう時、どうにかしたいってつい考えるんだ。
 でもあの黒剣はどう見ても普通の鍛冶屋じゃ直せないか……」

サティエンドラを真っ向から斬りつけた代償は大きかったということらしい。
レインのアクアヴィーラは敵の弱点属性を纏っていたおかげかそれらしい損傷もなかったが……。
『清冽の槍』は東方の国で亀を助けた際、『竜宮城』の姫君にお礼でもらったものである。
こういった一点モノの武器や防具は並みの鍛冶屋では直せない場合がある。

「うーん、鍛冶職人といえばドワーフだよね。何か良い方法を考えてくれるかも。
 あるいは直せる人物を知ってるかもしれない!俺にドワーフの知り合いがいればなぁ……」

頼まれてもないのにああだこうだと喋ってみたが、具体的な解決策は思いつかなかった。
後ろで肉料理を平らげていた客が冷えた赤ワインを一口飲むとと、レイン達の方をちらと見る。

「武器の話しかせんのか貴様らは。
 最後の晩餐だと思って堪能することだ。
 マリンベルトには美味い飯がいくらでもある」
0126レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/12(月) 17:01:05.12ID:vKKGDfaB
客は椅子をがたんとひっくり返してこちらに座り直した。
オールバックで無精髭を生やした、やや彫りの深い顔の男だった。
その堂々とした佇まいと、置いていた船長帽を被ったところで誰か分かった。

「あ……!貴方がエイリークさんですか?」

「いかにも。俺がギルドで船長をやってるエイリークだ。
 明日はお前らを呪われた島まで運ばせてもらう」

「よろしくお願いします」

「しかしお前ら、別の意味で今回は難易度高いぜ。
 なにせ競合相手が多いって聞いててな――あそこを見ろ」

エイリークが親指で示した方に、ちびちびとエールを飲む男がいた。
髭面の恰幅の良い小男で、見るからにドワーフといった感じだ。

「あいつは"斧砕きの"ドルヴェイク。この辺じゃマイナーだが地元の大陸ではえらい有名らしい。
 なんでも自分の斧をよく砕いちまうくらい豪腕だから斧砕きって異名がついたそうだ。
 冒険心でイース大陸まで来たはいいが故郷が恋しくて依頼を受けたんだってよ」

エイリークは次にカウンターで祈りを捧げている女性を指差した。
腰ほどまである金色の髪にやや幼い顔立ち。年はレインと同じくらいだろう。

「あの可愛い子は"聖歌の"アリア。補助魔法に長けた子だ。
 教会の元僧侶らしいが……なんで一人で冒険者やってるかは俺も知らん」

なぜ、攻略レベルの高いこの依頼に競合という形で人が集まったのか。
理由は簡単で、メリッサ島には金銀財宝が隠されているという言い伝えがある。
巨万の富を得られるとも言われており、多くの冒険者はそれを狙っているのだろう。

普段は水棲系の魔物が繁殖しているため上陸禁止となっており、財宝を探せるのは今回の機会しかない。
しかし、なぜ『呪われた島』と呼ばれているか――それを知る者はもうほとんどいない。
サマリア各地のダンジョンを潜ったレインもメリッサ島の情報はあまり持っていなかった。
0127レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/12(月) 17:04:07.93ID:vKKGDfaB
エイリークが葉巻に火をつけて、レインの肩をがしっと掴んだ。
一口吸うと口元から摘まみ上げて深刻そうに小声で話す。

「……さっきの二人はまぁいい。問題は連中だよ」

店の端――テーブル席で酒を飲んでいる、マントを羽織った三人組。
それぞれが異大陸からやって来た者達で『初心者狩り』の名で知られている。
『初心者狩り』とは、高レベルPTが低レベルPTを脅して依頼の報酬と成果を掠め取ることだ。
掠め取られるだけならまだ生易しく、最悪の場合、命を奪われることもあるという。

三人組はギルドの鑑定では全員レベル30の実力者。偶然この大陸で顔を合わせ、意気投合。
パーティーを組むに至り、それ以来低レベル帯のサマリアに入り浸っている。

レインがマントの三人組をちらりと見ると、真ん中の男に睨まれた。
鋭い猛禽のような目……。それが柔和な美男に戻るのに時間はかからなかった。
ほっと胸をなでおろして心の中で構成メンバーを思い出す。

西のウェストレイ大陸出身、魔法と剣に長けたリーダー、シナム。
北のノースレア大陸出身、剣術をはじめとする武芸に長けた元兵士フェヌグリーク。
南のサウスマナ大陸出身、クロスボウや狩りの技に長けた狩猟民族出身のアサフェティ。

シナムは冷酷さに反して美男で通っているので、先程睨んできた男がそうだろう。
セミショートの黒髪に仲間と語らう時の優しい表情は女性のようだ。
と、すれば見るからに鍛えている強面の禿頭がフェヌグリーク。
痩身に目元が隠れるほど伸ばした茶髪男がアサフェティか。

「……あいつらとはあまり関わるなよ。標的にされかねん。
 ギルドとしちゃ競合結構だが、『初心者狩り』みたいな真似は非推奨だ」

他にも多数、一獲千金を求めて冒険者達が『運命の水車亭』に集まっている。
マグリットを欠いた今、彼らを退けて依頼をクリアできるだろうか。
ふと何か気づいたエイリークが辺りを見渡しながら言った。

「そういえば"召喚の勇者"パーティーは三人組って聞いたが、一人いないな。
 もう一人はどうしたんだ?たしか貝の獣人だっけか……」


【『悪鬼の剣』の損傷に気付き、心配するレイン】
【『運命の水車亭』にて船長から同業者の紹介を受ける】
0128クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/17(土) 20:58:25.74ID:YAQ7oM2G
召喚の勇者一行を乗せた荷馬車が無事、目的地マリンベルトに到着したのは、かなり日が陰ってからの事だった。
王都の酒場を出発したのが朝であるから、およそ八時間から九時間は馬車に揺られていた計算になるだろうか。
徒歩よりは体力の消耗が少ないとはいえ、何時間も座ったり寝たりの姿勢で過ごしていたものだから、流石に体がだるい。

だが、文句は言えない。
何故なら王都からマリンベルトへ向かう道のりは、以前なら馬車を使っても丸一日以上は掛かると言われていたのである。
それを十時間以下にまで短縮できたのは、魔物も悪路も排除した、便利なラピス街道が整備されたからこそだ。
発達した交通網にはむしろ感謝しなければ罰が当たるというものだろう。

「……よっと」

厩で馬車を下り、体内に充満する気だるさを大きな伸びで放散しつつ、レインの後ろに付いて行く。
途中で腹がぐぐぅと鳴るが、そこは買い食いなどで誤魔化さずに我慢である。
何故ならレインが向かっているところは料理が上手いことで有名とされている宿屋なのだから。

>「……ギルドの船長が今日、この宿に来ることになってるんだ。
> 顔合わせして、明日船に乗る流れになると思う。今日はゆっくりしよう」

「顔合わせの前に飯だ、飯。飯を食いつつ船長を待つって事で」

宿屋・『運命の水車亭』。今のクロムには、その宿の薄汚れた看板が心なしか輝いて見えるのだった。

────。

『運命の水車亭』の食堂。
テーブルに並んだバラエティ豊かな料理に舌鼓を打ちつつ、クロムはレインと明日を見据えた会話を交わす。

>「……そういえばクロム。武器のダメージは大丈夫?
> 『紅蓮魔宮』を脱出した後、ずっと見てたよね。なんか気になっちゃって」

話題がふと傷んだ剣の件に及んだのは、胃も随分と満たされてきたかという時であった。
クロムは一瞬、手にした食器の動きを止めて、目をやや半開きのような状態に細めると、答えた。

「ああ。“まだ”使える」

事実を、抑揚の無い声で、サバサバと。
受け取り方によっては不安が増幅されかねないリアクションだろうが、これでもクロムなりに余計な心配を掛けたくないと気を使っているのである。
ムードメーカーのように殊更明るく振る舞えないのは、そういう性格ではないからとしか言い様がない。

>「うーん、鍛冶職人といえばドワーフだよね。何か良い方法を考えてくれるかも。
> あるいは直せる人物を知ってるかもしれない!俺にドワーフの知り合いがいればなぁ……」

「ないものねだりをしてもしょうがねーよ。今は現状の“戦力”で明日をどうやって戦うかを考える方が──」

視線を横に向けながら、「なぁ、マグリット」──と続けようとするクロムだったが、その声は実際には出なかった。
寸前でいつもは“その位置《そこ》”に居る筈の彼女が居ない事を思い出したからだ。

「……どうも癖になってんな、あいつに話を振るのが。
 今日の朝も休暇を取るって話を聞いてたのに、酒場を出る時にはあいつに御者を頼んじまってたしよ。調子狂うぜ。
 あ、そういやあいつの実家って一体どこに──」

そして話の流れでマグリットが言っていた実家についての疑問を口にしようとして、クロムの声は再び止まるのだった。

>「武器の話しかせんのか貴様らは。
> 最後の晩餐だと思って堪能することだ。
> マリンベルトには美味い飯がいくらでもある」

と、突如として話に割って入る男が現れたからである。
しかし何者かと訊ねる前に、クロムは男が被る船長帽に目が留まり、ピンとくる。
そしてその直感はレインと男の会話で確信に変わる。
0129クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/17(土) 21:09:16.07ID:YAQ7oM2G
(『エイリーク』……。こいつがレインの言っていた船長か)

目が合う。
己の心を見透かされてる気分になるような独特の視線は、なるほど多くの修羅場を潜り抜けてきたプロのそれだ。
実際、魔物がうろつく危険な海を船乗りとして生き抜いてきた年季の入った強者なのだろう。
そんな彼からすれば、レインやクロムなど色々な意味で子供にしか見えず、つい老婆心が働くのかもしれない。

『斧砕きのドルヴェイク』、『聖歌のアリア』、『初心者狩りの三人組』──
訊いてもいないのに一方的に始まった呪いの島攻略に参加する面子の解説は、明らかにアドバイスを兼ねたものであった。

(お節介というか何というか……まぁ、貴重な情報には違いないから敢えて何も言わないけど)

>「そういえば"召喚の勇者"パーティーは三人組って聞いたが、一人いないな。
> もう一人はどうしたんだ?たしか貝の獣人だっけか……」

皿に残された肉をフォークで口に運びつつ、クロムはぶっきらぼうに答える。

「むさいとっつぁんの顔は私の好みじゃねーって、一旦実家《クニ》へ帰ったよ」

「あぁ? なんだそりゃ?」

「船はむさ苦しい男達の溜まり場だって相場が決まってるだろ。獣人でも女だぜ、一応」

「女にゃ似合わねぇ環境ってか! 違ぇねぇぜ、ガハハハハ!」

大口を開けて笑うエイリークだったが、やがてレインが本当の理由を説明すると、真顔に戻って「そういやぁ」と切り出した。

「マリンベルト《この近く》にも獣人の住処が何処かにあるって聞いた事があるぜ。ひょっとしたら何か関係があるんじゃねーか?」

マグリットの帰省先がどこなのか、それは何気にクロムが気になっていた点である。
しかし、エイリークの言うような偶然などハナから信じていないクロムは「んなことより、とっつぁんよ」と直ぐに話を変えた。

「島の攻略に関して、なんかもっと有益な情報はないわけ? どういう魔物が出るだとか、どういうアイテムが有効だとかさ」

それに対しエイリークはさっきのお返しとばかりに軽口混じりの一言を返して寄越した。

「情報が無ぇから及び腰になるってんじゃ、冒険者としちゃ二流じゃねぇのか? ボーズ」

「……つまり、肝心な情報は持ってねーって事だろが。まぁ、別に期待してたわけじゃねーから構わねーけど」

フォークを空になった皿の上に置いて、クロムは頭を掻きながら椅子から腰を上げる。

「一足先に部屋へ戻ってるぜ。体力は温存しとかねーとな」

「あんだよ、もう寝るってか? 近頃の若い者は体力がなくていけねーな。夜はこれからだってのによぉ、ガハハ!」

「よければデザートはとっつぁんにやるよ。甘いものって気分じゃないんでね、今夜は」

そして再び豪快に笑うエイリークから背を向け、一階の食堂エリアを後にし、二階の宿泊エリアへと向かう。
その際に席で一人エールを飲み続けるドワーフ──すなわち『斧砕きのドルヴェイク』に目が留まるが、向こうは目を合わせようとしない。
視線に気が付いていないのか、気が付いた上で無視しているのかは定かではない。

(……一晩でどうにかなる問題じゃねーからな)

いずれにしてもこの晩、クロムは彼に話しかけることなく、部屋へと戻っていった。
確かに刀のダメージは気になるところではあるが、出航を明日に控えた今、時間が圧倒的に足りないと考えたからである。

【夕食を終えて部屋へ戻る】
0130マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/10/21(水) 21:01:54.87ID:2Csxlj1m
低く小さく、それでいて確実に何かが脈動するような音が定期的に響いている部屋
松明などはないのだが、部屋全体が仄かに光り十分な明るさを提供している

「それで、どうだった?九似を取り込んだ感想は」

部屋でくつろぐ二つのシルエットのうち、小さい方が楽しそうに尋ねる
しかしそれに応える大きな方のシルエットは楽しいとは言い難い声色で応える

「いやいや、どうだったじゃないですよ!暴走するとは聞いていましたけど、あれ程とは
何というか、自分が自分でないような……」

「万能感と多幸感、かえ?」

言語化できない返答を補うように言葉を補足してやると、言い淀んだ返答が流れを再開する

「そう!それです!
膨大な力が流れ込んできて、制御が効かないというより自制が効かないという感じでしたね
単純に私の力が小さく、受け入れた力が大きすぎたというのはわかるのですけどね」

「猛炎獅子サティエンドラといったか、そ奴が強すぎたのではあろうが……だからこそ却ってきたのだろう?
準備はできておる
アンボイナ、これえ」

その言葉に応えるように壮年の男が部屋に現れ、大きなシルエット即ちマグリットの前に進み出る

「おじさん、すいません
おじさんの力は悪者っぽくて出来れば取り入れたくなかったけど、このままじゃ厳しそうなので」

「鼻たれの小娘が言うようになりやがったなぁ
構わんさ、俺の力を使いお前は龍に成れ」

貝の獣人たちの中では数世代に一人、蜃の獣人が生まれる
蜃は幻を生み出す貝であり、龍の九似の一種
即ち、他八種類の魔物を取り込む事により、龍となると言い伝えられている

獣人集落では様々な獣人の交配が進むが、特徴として表れるのは一種のみ
ではあるが蜃の属性を持って生まれるとウミウシの特徴も合わせて現れる事になる
これは他の八種を取り込み龍と成る為であり、取り込めるのは九似のみであるが、同族である貝の獣人も取り込めることから、蜃は他の貝を取り込み能力を高めていくのだ
そしてマグリットは様々な貝の能力を持つに至り、そして今、新たなる力を求め故郷に戻り目的を達成したのであった
0131マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/10/21(水) 21:02:44.43ID:2Csxlj1m
「しかし間違えるでないぞ、能力の幅は広がったが強くなったわけではないのだからな」

「ええ、勿論
それにしても先代の巫女は400年前でしたっけ?
その時は7つまで集めたって聞きましたけど、一つでこれとなるとよほど凄かったのでしょうねえ」

再び二人になった室内で一族の夢に賭けた歴史に想いを馳せ、マグリットは現在の進捗や立場について語る
教会の情報網を利用し九似を探し出す当初の計画から外れ、現在は召喚の勇者のパーティーに加わっている事
神託を受け、奇跡を起こし仲間に加わったこと
冒険の中で運命の様なものを感じた事
サティエンドラの戦い、仮面の勇者の戦い
レインの事、クロムの事……

「それで、あれを取りに行くという訳か」

「ええ、伝導師ではありますが、その実導いてくれるのは彼らです
ならば私は彼らを後ろから押せるようにより強くありたいですから、今回お休み貰ってきたわけで
猛炎獅子の手を一本切り取るのにも苦労しましたから
もう22年、あそこでなら10倍として220年分ですし、十分使えるでしょう

そういいレインとクロムの顔を思い浮かべながら見上げる先は、鈍く発光するゼラチン質の天井
その上にかぶさる大量の砂
更にその上には大海原が広がり、その先にメリッサ島が位置するのであった

そう、ここは港町マリンベルトにほど近い沖の海の底の更に底にマグリットはいた


港町マリンベルトから程離れた小さな集落
それは一見さびれた漁村であるし、実際に大多数が漁師でありマリンベルトに魚を下ろして生計を立てている
だがそこが貝の獣人たちの集落の【入り口】である事はほとんど知られていない

貝の獣人は浜辺に集落をつくるが、真なる拠点はそこから続く海の底に張り巡らされるトンネル網にある
クラゲの中には群生態として一個の巨大クラゲになるものがいる
貝の獣人たちはそのクラゲを繋ぎ合わせ海底の砂に埋め、巨大な生体トンネル網を構築しているのだ
クラゲの内部空間を住居とし、貝の獣人たちはクラゲに餌をやり育てる共存関係を築いていた

海上からはわからないがマリンベルト周辺の海底こそが貝の獣人たちの棲み処であり、それは呪われた島メリッサ島にまでその触手を伸ばしていた
0132レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/24(土) 18:13:23.37ID:she84qJ2
空がだんだんと白んでいく。
雄大なサマリアの山脈から太陽が徐々に顔を出す――。
朝。日が昇ると同時に、港の『アドベンチャー号』に冒険者達が集まった。
エイリークは懐中時計で時間を確認し、高らかに宣言する。

「よおし、出航だ!」

……――――メリッサ島へ向かう船は海を緩やかに進んでいる。
アドベンチャー号での冒険者達の行動はまとまりもなく別れていた。
船室で休む者、賭けに興じる者、甲板で魔物が現れるまでじっと待つ者。
レインはといえば、船室から水平線にぼんやり見えるメリッサ島を眺めている。

頭の中にあったのはマグリットのことだ。
エイリークも言っていたが、獣人の集落がこのマリンベルト周辺にあるのは事実らしい。
マグリットの実家がどこなのか、嵐のように去っていったため聞けずじまいだが……。

貝の獣人。サマリア国に住む同郷の種族にも関わらず、貝種には謎が多い。
彼らがどのような風習と文化を持っているのか――住むところでさえも――判然としない。

パーティーを組んで間もないが、もう三人でいることに慣れきってしまっていた。
クロムが調子を狂わせているのも無理はない。レインの顔もどこか浮かない。

そんなことを考えている内に帆船はメリッサ島に到着した。
意外な話だが、海で一度も魔物に襲われなかったのだ。

「どうだ、ギルドの船も捨てたもんじゃないだろう。
 お前達を島に送り届けるのが俺の仕事だからな。快適だったか?」

船を降りる前、エイリークはにやりと笑ってそう言った。
彼が言うには船が襲われたルートを割り出し、そこを避けただけと言うが……。
航海術と長年の経験に裏打ちされた航海術がなければ出来ない芸当だ。

「依頼を受けたからには必ずこなせよ。実はギルドで誰がこの依頼を解決するか賭けてるのさ。
 俺は大穴を狙ってお前らにしたんだが……事前に情報を流すのはイカサマだったかな?」

そう言って、レインとクロムの頭を肩をばしっと叩いた。

「……冗談だよ!お前達はまだ若い。無茶だけはするなよ。
 仲間が欠けて本調子じゃないだろう。ヤバいと思ったらすぐ引き返せ。俺達が待っててやる」

そう言って景気良く送り出された。
いい加減マグリットがいないくらいでくよくよしていても仕方あるまい。
心を切り替えたレインの顔はいつもの表情に戻っていた。
0133レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/24(土) 18:17:11.41ID:she84qJ2
メリッサ島の入り口は巨大な洞窟となっていた。
大型帆船の『アドベンチャー号』が入れるほどで、天然の港のようだ。
怪物の顎が大きく開かれたかのようなその洞窟に、ギルドの帆船は停泊している。
噂では海底に島への侵入ルートもあるらしいが、詳細は不明だ。

しだいに財宝狙いの冒険者たちがぞろぞろと船を降りていく。
レイン達も船から降りると、洞窟は複数の道に別れているらしい。
どうやら今回の依頼、まずは『海魔の遺跡』の入り口を探す必要があるようだ。

「どーれーにーしーよーうかーなっ。
 依頼なんてついでだしなあ……まずは噂の財宝を見つけたいなあ」

前で『初心者狩り』PTのリーダー、シナムが道を選んでいる。
やがて道のひとつを選ぶと、パーティーメンバーと共に去っていった。

「……最初は勘で行くしかないか。
 島の入り口を基点に虱潰しに探していこう」

エイリークが『初心者狩り』とは関わるな、と忠告していたので、
レイン達は彼らと別の道を選んで探索をするという運びになった。
ごつごつした岩に挟まれた細い道を歩いていく。
道は斜面になっており、どんどん下っている。

「……なんだか、遺跡とは見当違いの方向を目指しているような……。
 この島、海底にも繋がってるらしいから……そっちに向かってるのかも」

サマリア王国に眠る数々のダンジョンを潜り抜けたレインの勘がそう告げていた。
無地の羊皮紙に道筋を描きながら、額を手で押さえるが、手を放してこう言い放った。

「まぁいいか。俺達の狙いは財宝じゃない。早い者勝ちしたい訳じゃないし……」

極論、依頼が解決されるなら何でもいい。
報酬が貰えないのは痛いが、金に困ってる訳でもない。
0134レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/24(土) 18:21:21.96ID:she84qJ2
やがて辿り着いたのは岩で囲まれたひとつの空間だ。
綺麗な白い砂が地面に広がり、空間の半分ほどを海水が満たしている。
ざざぁ……と砂に海水が波打つさまは小さな浜辺のようだ。

これはこれで美しい景色だが、明らかに行き止まりだ。
どうやらこれより先は海底へと続いているらしい。外れの道だ。

「うーん、噂で聞いた海底からの侵入ルートかな?
 ごめんクロム、やっぱり道を間違えていたみたいだ……」

と、言って、レインは道筋の終点を羊皮紙に書き記した。
その時、レインは海面から腐臭のような濃い瘴気が立ち込めるのを感じた。
羊皮紙を道具袋にしまいこむと、海面から距離を取った。

「何か来るぞ……!」

派手に水しぶきを散らせながら現れたのは、巨大なタコの魔物。
油断していた。まさか海底付近にこんな魔物が棲息しているとは思ってなかった。

「……――エビルオクトパスかッ!?」

体長5メートルほどだろうか。かなりの大きさだ。
蛸の足を含めるともっと巨大だろう。

エビルオクトパスといえば、蛸足で相手を絡め取り、
吸盤で吸い着きつつ獲物の生命力を吸収する戦法が有名だ。
いや、巨木の幹のように太い足は振り回しただけでも十分凶器。

だが、どれだけ巨大で力が強かろうがしょせん水属性だ。
『雷霆の杖』で容易に対処ができる相手とも言える。

「よし……召喚!」

右手を広げて召喚魔法を発動すると、いつも通り魔法陣が浮かび上がる。
同時、魔法陣を上書きするように不気味な紋様が浮かび上がった。
そして、呼び出そうとした武器が召喚されないまま砕け散る。
0135レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/24(土) 18:29:22.66ID:she84qJ2
降って湧いた異常事態に動揺を隠せないレイン。
焦って腰からはがねの剣を抜き放つと、エビルオクトパスの足がぬーっと海面から姿を現す。
本当は杖で一蹴してやりたいところだが、召喚魔法が使えない以上仕方ない。
レインはその原因をまだ理解していないが、クロムは察するところがあるだろう。

これは『呪い』によるものだ、と。
メリッサ島がなぜ呪われた島と呼ばれているのか……。

それは、メリッサ島の『海魔の遺跡』に眠るボスが島に呪いをかけているからだ。
呪いは魔法を使えば自動的に発動する。魔法を封じ、魔力を吸い続ける。
その呪いの名を『魔封の呪い』という。

「……撤退しよう、無理に戦う必要なんてない!」

剣を情けなく握りしめたまま叫ぶと同時、足の一本がレインに襲い掛かった。
巨木のように太く、鞭のようにしなる一撃。当たれば即死は免れないだろう。
慌てて横っ飛びで回避して後方の元来た道へ逃げはじめる。

だが、そうは問屋が卸さなかった。バックアタックだ。
元の道の入り口から、ゆっくりと魔物が姿を現す。
それは海賊帽を被った四体ほどの骸骨だ。

「す、スケルトンパイレーツ……!どこに潜んでたんだ!?」

骸骨たちは、メリッサ島の財宝伝説を知り不法侵入した海賊のなれの果て。
手には船乗りが好んで使う剣、カットラスを持ち、静かにこちらへ近寄ってくる。
おそらくは島に充満する瘴気が死後の彼らを魔物へと変貌させたのだろう。

「くっ、応戦するしかないか……!」

骸骨海賊の二体と剣で鍔迫り合いながら、レインは後方へ注意を払う。
エビルオクトパスは緩慢で攻撃が遅い。今の内に骸骨を倒せれば……。

骸骨はいわゆるアンデッドのため、通常の手段で倒してもすぐに復活してしまう。
が、いったん倒せば復活には時間を要する。その隙に逃げるなり、蛸を倒すなりしたい。
というのがレインの考えである。

しかしこのスケルトン、生前の海賊が実力者だったのかやけに剣技に長けている。
二対一とはいえ素早い剣速に防戦を強いられ、容易に倒せない。

すると残り二体はクロムに狙いを定め、骨を軋ませながら剣を振るう。
息の合ったコンビネーションで、左右から同時に攻撃を仕掛けてくる!


【メリッサ島に到着。探索するも海底へ続くルートに辿り着く】
【その後、魔物と遭遇。エビルオクトパスとスケルトンパイレーツに襲われる】
0136レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/10/24(土) 19:17:15.05ID:she84qJ2
【×そう言って、レインとクロムの頭を肩をばしっと叩いた。 】
【〇そう言って、レインとクロムの肩をばしっと叩いた。 】
【失礼しました】
0137クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/27(火) 22:21:29.79ID:8/53LavY
エイリークが指揮するギルド船『アドベンチャー号』に乗って、マリンベルトからメリッサ島へ──。
それは、嵐にも、魔物にも見舞われることのない、拍子抜けするほどの平穏な航海であった。

だからだろう。
島の入口たる巨大洞窟内に停泊した船から降りていく冒険者達の顔に、一様にリラックスの色が浮かんでいるのは。
確かにトラブル続きの前途多難な航海より、遥かに幸先は良い。特に命懸けの仕事をする者ほど験担ぎは常である。
平穏無事に終わったという事実をポジティブに解釈することに、何の不思議があろうか。

(この島……何かが変だ)

だが、洞窟に降り立った冒険者の中で、クロムだけは終始神妙な顔つきを崩さなかった。
平穏無事な航海は吉兆ではなく、むしろ嵐の前の静けさを意味する凶兆だったのではないか──
そう思えてならないような漠然とした“違和感”を、島に着いてより覚えていたからである。

>「……最初は勘で行くしかないか。
> 島の入り口を基点に虱潰しに探していこう」

……だからといって、立ち止まるわけにはいかない。
クロムは黙って小さく頷いて見せると、レインの後ろを静かについていった。

────。

歩いて数十分。
たどり着いた場所は、上と左右をごつごつした岩に囲まれ、下が白い砂と水に満たされた空間であった。
岩に囲まれているから開放的でこそないものの、空間としてはそこそこ広い。
地底湖か? いや違う。潮の香りがして水面が波打っているということは、海と繋がっている証拠だ。

このまま前進すると、いずれ島の外に出てしまう事になる。つまりルートとしては──。

「ハズレってわけか。まぁ、案外お宝ってのはこういうところに眠ってるもんだが」

とはいえ、財宝は目的ではないので一旦引き返す事になるだろう。
レインが羊皮紙に道筋を書き込むのを横目に、クロムは踵を返しかける。

>「何か来るぞ……!」

その時だった。ざぱぁっ、と水面を弾いて、大きな何かが飛び出してきたのは。
振り返ってみて見れば、そこに居たのは『エビルオクトパス』と呼ばれるタコの化物であった。
咄嗟にクロムは剣の柄に手を掛けかけるが、先んじて戦闘の意志を見せたレインを見て、直ぐに手を下ろした。
数は一体。多種多様な武器を召喚できるレインであれば一人でも片付けることができるだろうと判断したのだ。
が──。

「────!?」

レインが発動した召喚魔法が瞬時に霧散する光景は、その甘い認識を見事に打ち砕くものだった。
出航してからここに来るまで戦闘は一切発生していない。
魔力を消費していないのだから、魔力不足で発動には至らなかった等ありえない。
では、エビルオクトパスが何らかの能力を使ったのか?
オクトパスの触手に生命力を奪う器官が備わっていることは冒険者の間で有名だが、それ以外の力となると……。

(他にも敵がいる? だが、魔法を封じる力はかなり高位の──)

>「……撤退しよう、無理に戦う必要なんてない!」

思考の途中でレインが来た道を慌てて戻り始める。
クロムは舌打ちして咄嗟に彼の肩に向けて手を伸ばすが、届かない。

「おい馬鹿! これから先も逃げ続けるつもりかよ! 遅かれ早かれ戦わなきゃ攻略は不可能なんだ! 待──」

そして、「待て──」と言い掛けて、気が付くのだった。
0138クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/27(火) 22:31:09.28ID:8/53LavY
(──まてよ──。魔法を封じる──だと?)

“魔法を封じる”モノは何も、レベルの高い技だけとは限らない。それこそが、先程の“違和感”の正体なのだと。

(『呪われた島』とは、この島そのものに“呪い”が掛けられてるという意味か! 魔法を、あるいは魔力を封じる呪いが)

>「す、スケルトンパイレーツ……!どこに潜んでたんだ!?」

気が付けばレインが更に動揺した声を上げていた。
見れば古めかしい舶刀を持った四体の骸骨が退路を塞ぐようにひしめいている。
常人なら亡霊が出たと思わず卒倒するか堪らず神に祈りを捧げたくなるような場面だろうが、戦士は戦うのみである。

「財宝を狙った海賊の成れの果てか。……ひょっとしたら財宝伝説そのものが人間を誘き寄せる罠かもな」

視界の左ではレインと二体の骸骨が剣を交え、視界の右には水面から触手を出して隙を伺う巨大タコ。
前方、そして真後ろにはもう二体の骸骨……。完全に囲まれている。
レインも相手の剣技に防戦一方の様子で、徐々にじりじりと押され始めている。
黙って見ていればやがて二体を引き連れた形となって、クロムの至近にまで迫ってくるだろう。
敵はアンデッド。剣で仲間を斬り付けようが、仲間の剣で傷付こうがおかまいなし。二対四の乱戦は間違いなく敵が有利だ。

だから、クロムは待つ。
その場に留まったまま、前後から繰り出される舶刀を剣と鞘の両方で捌いては、隙を見てど突く《カウンター》を繰り返す。
“その時”が来るまで──。

「──!」

かくしてそれは数十秒後にやって来た。
至近にまで迫ったレインの背中を視界の左端で認めた時、視界の右端でタコが水面から顔を出し、触手を振るったのだ。
待っていたその一瞬をクロムが見逃す筈がなかった。
かつてない強いカウンターを前後の骸骨に見舞って大きく仰け反らせると、すかさずレインの襟をつかんでジャンプ。
天井ぎりぎりの空中へと逃れるのだった。

直後、下に残された骸骨達を待っていたのは、鞭のようにしなった丸太のような触手に薙ぎ払われるという運命であった。
──所詮は骨組み。強烈な力で瞬時に壁に叩きつけられれば、後は押し潰されてバラバラに粉砕されるのみ。
不死身の生ける屍とはいえ、これではしばらくの間復活はできないだろう。

「よっ──と!」

四体の骸骨を戦闘不能に追い込むことに成功したが、クロムの作戦はこれで終わりというわけではなかった。
レインを離し、下半身を曲げて空中で体の上下を入れ替えると、そのまま天井を蹴って加速。
矢のような速さを以って肉体をタコの眼前へ運ぶと、その勢いのまま一気に剣を脳天に突き刺すのだった。

「──ぉぉおおおおおおおおおおおらあああああああああああっ!!」

剣を思いきりねじ込み、更に刃を重力の方向へ力任せに斬り下ろす。
如何に切れ味鋭い呪われた剣とはいえ、その殺傷力はかつての半分ほどまでにダウンしている。
その上、敵は巨大で魔物という事もあって、やたら肉厚だ。
斬り応えがあり過ぎて、流石のクロムも蟀谷に血管を浮かび上がらせ、普段は出さないような力んだ大声を上げる。

しかしその甲斐あってか、やがて刃は分厚い肉の抵抗に打ち勝ち、見事にタコの顔面を真っ二つに切り開いて見せた。
途端に墨が混じったタコの体液が流れ出し、海面を黒く染めていく。

敵の死を見届けてから大きく息を吐き、タコの死体から離れて砂浜に着地するクロム。
敵を倒したというのに、どこか浮かない表情をしているのは、レインにとって気になるところかもしれない。
……ともあれ、障害は排除されたのだ。後は骸骨達が復活する前にこの場を離れるだけである。

「この島、思ってた以上に癖が強い。だが……俺達の腕を上げるいい機会かもしれねぇ。逃げるのは、もう無しだ」
0139クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/10/27(火) 22:39:01.42ID:8/53LavY
────。

行きは魔物には出くわさなかった分かれ目なき一本道。なのに、道を戻ろうとしたら骸骨達が現れた。
奴らはこちらに気づかないよう遠くから後をつけて来たのか、もしくは臭いを辿って来たのだろうか?
それともタコの居たあの広い空間の岩陰辺りにたまたま潜んでいたのだろうか?
……どれもありえる。つまり現時点でその答えは不明としか言いようがない。

「……出やがったぜ、キモイのがよ。それも──二体」

だが、戻る道の途中で“前”と“後ろ”からの挟み撃ちにあうという現実が、クロムにもう一つの可能性を考慮させた。
すなわち、海底に至るこのルートのどこかに、隠し通路のようなものがあるのではないかと。
特に行き止まりであった“後ろ”から新たな魔物が追って来たという事実は、それ以外に解釈のしようがない。

クロムは前と後ろを怠りなく目配りする。
前の魔物は全身から粘液を滴らせるグロテスクな顔と殻を持つ巨大なカタツムリ。
しかも滴らせているのはただの粘液ではなく、明らかに酸だ。
滴る粘液に触れた物質が片っ端から爛れて溶けているのだから。

「レイン、今度は逃げずにリーダーらしいとこ見せてくれよ? といっても逃げられねぇがな、挟み撃ちじゃ」

一方の後ろの魔物は毒々しい模様を持ち、緑色の粘液で体表を湿らせた巨大なナメクジ。
如何にも毒属性と言わんばかりの不快なデザインだ。

(薬草と毒消し草は用意してあるから回復面は多少何とかなるが……。
 やはり問題は“縛り”のある攻撃面……だな。……さて、どっちをどのように攻撃するか)

【敵を倒し来た道を戻るが、その途中で新たな魔物二体に挟み撃ちにされる】
0140マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/10/31(土) 16:47:48.28ID:uP/K4lxx
潮だまりの行き止まりの通路から戻ろうとしているレインとクロムの前に立ちはだかる巨大なカタツムリ
踵を変えそうにもその先は行き止まりであるし、それ以前に毒々しい巨大なナメクジが粘液を滴らせて立ちはだかっている
挟み撃ち状態になり身構える二人の足元が爆発する

爆発、というのは正しくない

正確には巨大な水球が着弾し、破裂したのだ
それと同時に巨大な何かがナメクジ側から二人の間に飛び込んできて、二人の腕を抑える

「ここは上陸禁止の島!あなた方は何者です……かっ、て……レインさん?クロムさん?」

飛び込んできたのはギルドの酒場で実家に帰省すると別れたマグリットであった


驚きと共に一旦離れ、改めて二人の顔を見直す
そして一応危険がない旨を告げ、事情を説明するのであった

マグリットの故郷はマリンベルト近海の底に広がっており、メリッサ島にも接続されている
レインとクロムがエビルオクトパスと戦った潮だまりは貝の獣人たちの上陸口である、と
そしてエビルオクトパスや今挟み撃ちにしているナメクジやカタツムリは貝の獣人が上陸口の安全確保の為に放ったものだったのだ

「タコ、イカ、ウミウシやカタツムリやナメクジは貝の遠戚なんですよ」

と笑いながら説明を付け加えるのであった
スケルトンパイレーツのようなアンデッドは砕いても時間を置けば蘇るのでカタツムリやナメクジが溶かして啜り消す役割を持っているのだ

「人にとってはこの島は呪われた島ですが、私たちにとっては地元のちょっとしたスポットでして、遺跡を利用して儀式を行っているのです
精霊の森での戦いで私も強くあらねばと思い知りましたので、ここで儀式の産物を取りに来たという訳なのですよ」

自分の事情を明かした上で、不思議そうにレインを見る

「それにしても、お二人がこの島に来るのは予想外でした
特にレインさん、この島がどういう場所か知っているのです?」

この島では魔法が封じられ魔力が吸収される
種族による特殊能力で戦うマグリットにはさほど影響はないのだが、召喚魔法を主体で戦うレインにとっては死地に等しいのだから

「それにしても、絶対に来られない場所でこうやって再会したのも神の導きというものですね!
教会への口実がまた増えちゃいました
この島にどういう目的で来たかは知りませんが、ご一緒させてもらいますよ
その前に、ちょっと寄らせてもらいますけどね」

言葉を区切ると、マグリットの口から小さく低く短い音が漏れ出る
それは人の可聴域からギリギリ外れるような音だが、その音に反応しカタツムリとナメクジは壁に消えていった
そう、壁に
そしてさらに壁自体が蠢動し開けていく
0141マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/10/31(土) 16:49:35.87ID:uP/K4lxx
レインやクロムにとってはおぞましい光景だったかもしれないが、潮だまりに続く通路の床、壁、天井と思っていたものは全てナメクジとカタツムリの類が擬態したものであった
それらが移動した後には、本来の通路であろう二回りほど大きな回廊となり、隠されていた枝分かれする通路もあらわになったのだった

「この島に眠るボスの呪いで魔法は無効化され魔力は吸収されます
その吸収される魔力の流れを少し利用して私たちが儀式に利用しているのですよ〜
こちらの通路が島の中枢に向かう道になっていますので、ついてきてくださいな」

足取りも軽く通路を行くマグリット
人にとっては海魔の住む呪われた島でも地元民であるマグリットにとってはちょっと危険な裏山程度な認識なのだ
行く先は島の中枢付近
魔力の流れ道に設置された魔法陣のある広間

魔法陣にはいくつも巨大なシャコ貝が設置されており、静かに息づいていた
これこそがマグリットの目的物

貝の獣人は小さな貝を握って生まれてくるのだ
本来は本人と共に成長していくものだが、この島の魔力の流れを知り、蜃の獣人の即ちマグリットの貝の為に魔法陣敷き設置
魔法陣は魔力の流れを操作し、その一部を吸収し設置されたシャコ貝に流し込んでその成長を促しているのだ

巨大なシャコガイは長さ1メートル程の棒を咥え込んでおり、マグリットがそれを持ち上げると巨大なハンマーの様相を呈す

「私が生まれてから22年、この場で魔力を吸収し続け静かに成長していたものだそうです
本来ならばこんなに大きくならないのですが、この島の魔力を吸収していたおかげですね
初めて握りますが、手にしっくり馴染みます!」

そういいながら軽くシャコガイメイスを振るうのであった

【レインとクロムの二人に合流】
【貝の獣人の隠し通路で中枢付近の儀式の魔法陣まで案内】
0142レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:05:25.93ID:48LGU1HC
カットラス。剣としては刀身が短く、全長はおよそ60〜80センチ。
武器としてはもちろん、雑用や工作用具としても使われている。

スケルトンパイレーツはサーベルを扱うのと同じ要領でカットラスを構える。
片手を後ろに、片足を前に出す。刀身が短いので出が速く一撃が素早い。
対魔物戦で鍛えた冒険者の大味な剣技とは対照的に、リズミカルに攻めてくる。

レインが相手にした骸骨海賊の二体は、一体が剣を持つ手を、もう一体が急所を狙う。
片方に気を取られたが最期、態勢を立て直す暇もなく致命の一撃が飛んでくる。

(生前は結構な手練れだったんだろう。戦い慣れている……!)

金属音が鳴り響く。剣と剣が幾度なく交差する。
一体のカットラスをはがねの剣で受け止めてすぐさま剣を返す。
そしてもう一体のカットラスを刃で防御。もし剣で受けきれなかったら。
そんな時は迷わず後退して間合いを維持。これの繰り返し。

反撃の隙はある。だが、多少の切り傷では意味がない。
相手はアンデッド……やるなら復活に時間のかかる攻撃がいい。

(ベストは質量攻撃。けど召喚魔法は使えない。
 ハンマーやモーニングスターが呼び出せれば……!)

最適解が分かりながら実行に移せないのがなんとも歯がゆい。
水面の方に一瞥くれるとエビルオクトパスがそろそろ攻撃してきそうな雰囲気だ。
その隙を突かれたのか、カットラスの刃が間合いの内に入りかけた。
ルーチンで後退した瞬間、誰かに襟を掴まれる。

「うお……っ!?」

襟を掴んだのはクロムだ。
気づいたら天井付近に跳躍していた。

直後、エビルオクトパスの巨木の如き足が骸骨たちを薙ぎ払った。
スケルトンパイレーツの骨格が粉々に砕かれ、周囲に散乱する。
偶然では済まされない。狙いすましたかのようなタイミングだ……。
どうやらクロムはずっと魔物の同士討ちを狙っていたらしい。
0143レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:06:34.58ID:48LGU1HC
重力に従ってゆるやかに高度を下げていくレインに対して、
クロムは天井を蹴って一気に加速。矢のようにエビルオクトパスに突き立った。

>「──ぉぉおおおおおおおおおおおらあああああああああああっ!!」

裂帛の気合と共に黒剣を突き刺し、重力に従い斬り下ろす。
エビルオクトパスの頭部が真っ二つに裂けて沈黙。

「相変わらず凄い腕前だ。あの巨体を一撃で切り裂くなんて……!」

クロムの下へ駆け寄ると、どこか浮かない顔をしている。
いつも自分のペースを崩さない彼がそんな表情をするのは珍しい。

>「この島、思ってた以上に癖が強い。だが……俺達の腕を上げるいい機会かもしれねぇ。逃げるのは、もう無しだ」

少しの間。レインは自身の手をちらりと見た。
召喚魔法で呼び出せる武器は自分の"強み"そのものである。
武器を召喚するだけならそう難しい技術じゃない。
だがひとつひとつ使いこなせるよう習熟するのは相応の修練が要る。

その強みを失った時、レインは咄嗟に戦闘のメリットと安全性を考慮して退こうとした。
魔力切れ以外で召喚魔法が使えなくなるのは初めての経験だったため、動揺してしまった。
しかし戦士の矜持凄まじいクロムは納得しかねるだろう……。

「すまない、クロム。俺が間違っていたよ」

険しく遠い魔王城を目指すからには強くならなくてはいけない。
どんな罠も、どんな敵も乗り越えて。攻略する必要があるのだ。
この程度の魔物は簡単に倒せるべき……ということなのだろう。
0144レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:08:45.35ID:48LGU1HC
元来た道を戻りながら、自分で描いた地図を眺めていた。
この道は一本道となっている。スケルトンパイレーツはどこに潜んでいたのか。
可能性はいくらでも考えられるが……新たに出現した魔物がひとつの仮説を生み出す。

>「……出やがったぜ、キモイのがよ。それも──二体」

一体は前から。酸を滴らせたかたつむりの魔物。アシッドスネイル。
もう一体は後ろから。緑の粘液を湿らせるなめくじの魔物。ポイズンスラッグ。

前からも後ろからも新たに魔物が出現するのはおかしい。
行きの道でも行き止まりにもこんな魔物はいなかった。

となれば、浮かび上がる仮説はこうだ。
この道のどこかに隠された通路があるのではないか、と。

>「レイン、今度は逃げずにリーダーらしいとこ見せてくれよ? といっても逃げられねぇがな、挟み撃ちじゃ」

「分かってるさ。早く片付けて遺跡への道を見つけよう」

対照的な二人が背中合わせに二体の魔物を見据える。
自身の眼前には触れたものを片端から溶かしてにじり寄ってくる醜悪な魔物。
酸の粘液を分泌するため触るのも危険な上、体表は酷く滑る。
真っ向から剣で斬ろうとしても滑ってしまうだけだろう。

はがねの剣を抜刀して慎重に攻め入ろうとしたその時。
足下が爆発したかと思うと、水飛沫が舞った。
いや――これは爆発ではない。威嚇で放たれた水弾だ。

>「ここは上陸禁止の島!あなた方は何者です……かっ、て……レインさん?クロムさん?」

「マグリット……!?」

両者驚きを隠せない様子で顔を見合わせる。
実家へ帰ると言った彼女がなぜここにいるのか……。
理由を問わねばなるまい。マグリットは事情を話してくれた。
0145レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:10:39.79ID:48LGU1HC
マリンベルト近海の底にマグリットの故郷があること。
タコやかたつむり、なめくじの魔物は貝の獣人が放ったものだということ。
そして、貝の獣人はこの遺跡を利用して儀式を行っているということ。

>「それにしても、お二人がこの島に来るのは予想外でした
>特にレインさん、この島がどういう場所か知っているのです?」

「ここは初めて潜るダンジョンなんだ……。
 事前に情報も集まらなかったしで、大変な目に遭ったよ」

>「それにしても、絶対に来られない場所でこうやって再会したのも神の導きというものですね!
>教会への口実がまた増えちゃいました
>この島にどういう目的で来たかは知りませんが、ご一緒させてもらいますよ
>その前に、ちょっと寄らせてもらいますけどね」

マグリットが低い音を鳴らすと、立ち塞がっていた二体の魔物は壁に消えた。
続いて壁が何やら粘り気のある音を響かせながら蠢動するではないか。

壁を触ったことが無くて良かったと思う。
壁だと思っていたのは全てかたつむりとなめくじだったのだ!
やがて隠されていた大きな回廊が露になる。

>「この島に眠るボスの呪いで魔法は無効化され魔力は吸収されます
>その吸収される魔力の流れを少し利用して私たちが儀式に利用しているのですよ〜
>こちらの通路が島の中枢に向かう道になっていますので、ついてきてくださいな」

「呪いか……。呪われた武器や防具は聞いたことがあるけど、
 文字通り島ごと呪われているなんて……サマリアもまだまだ奥が深いなあ」

マグリットについていけば、魔法陣のある広間が待ち受けていた。
陣に置かれた棒を咥えているシャコ貝を持ち上げて、ぶん、とそれを振るう。

>「私が生まれてから22年、この場で魔力を吸収し続け静かに成長していたものだそうです
>本来ならばこんなに大きくならないのですが、この島の魔力を吸収していたおかげですね
>初めて握りますが、手にしっくり馴染みます!」

「聖典の角は強力だろうけど、それも良い武器だね」

随分風変わりだが、貝の獣人に伝わる武器なのだろう。
その威力や効果のほどは推して知るべしである。
0146レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:13:57.15ID:48LGU1HC
マグリットの目的物が手に入ったところで、レインは気を取り直した。
彼女のパワーアップは嬉しい話だが、肝心の依頼は何も解決していない。

「マグリット。俺たちはギルドの依頼でここへ来たんだよ。
 海の魔物の退治なんだけど……発生源はこの島の遺跡らしいんだ」

召喚魔法が呪いによって使えなくなったのは大きな痛手だが、
この島に詳しそうなマグリットが同行してくれるのは幸運だ。
新たな武器も手に入れて百人力というものである。

「俺達は魔物が発生する原因を断つため、島に上陸したんだ。
 ただ海の魔物を倒すだけじゃあいたちごっこだからね」

遺跡に眠るボスがどんな魔物/魔族なのか、レインも詳しくは知らない。
だが経験上、魔物の活動が活性化する原因にはパターンがある。
もっともメジャーなのは、魔物のボスが目覚めて活性化してしまうケースだ。
今回はこのケースではないのかと、レインは疑っている。

そして懸念がひとつ、とつけ加える。
他の冒険者が大勢、島の財宝伝説に釣られて集まったことも気がかりだ。
クロムが立てた予想通り、人を誘き寄せる罠なのかもしれない。
問題は人を集めて何がしたいかということだが……。

「細かい話は調べてみないと分からないけれど、
 マグリットが同行してくれるなら心強いよ」

教会から冒険を禁じられているにも関わらず、
同行を申し出てくれたのは実家に近いからであろう。
待機命令に対して結構スレスレな気もするが……。
レインは直接教会と繋がってないので深く詮索するのはやめた。

「……よし、それじゃあ『海魔の遺跡』へ行こう!」

地面に走っている魔力の流れ道がぼんやりと光っている。
呪いで吸った魔力を本体に送り届ける流れ道……。
つまり、この流れ道に沿っていけば遺跡に辿り着くだろう。
数々の懸念を孕みながら、いよいよ遺跡に続く道へ歩みを進める。
0147レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:15:30.87ID:48LGU1HC
島の中枢付近から魔力の流れ道を辿ってついたのが巨大な青銅色の扉のある入り口だ。
『紅蓮魔宮』の時を彷彿とさせるが、以前とは異なりどこか不気味な雰囲気が漂う。

「これが『海魔の遺跡』の入り口か……!」

扉の隙間から微かに瘴気が漏れている。
現在マグリットと合流したぶん他の冒険者より出遅れている。
悩むことなくレインは扉を開け、遺跡の中を進んでいく。

中は扉と同じ青銅色の空間が続く遺跡になっていた。
前後、上下、左右に道が続いている。どこを進んでも同じ空間が広がっている。
部屋は膝下まで浸水しており、壁を見ると海藻がびっしりと生えていた。

また、壁面の一角に魔法陣がふたつ描かれているのに気づいた。
三角形の魔法陣で、その形状から上と下を表しているように見える。
刻まれた術式を読み上げると、水魔法系統の式が組み込まれているのがわかる。

「遺跡というより迷宮って感じだね……探索のしがいがありそうだ。
 ダンジョンボスが遺跡のどこに眠っているか、マグリットは知ってる?」

雑談で何気なく質問するや、レインは咄嗟に飛び退いた。
下の道から何かが勢いよく飛び出してきたのだ。
遺跡に棲む魔物が侵入者に気づいたのか。

「気をつけて。マーマンだ……!」

銛を携え、魚のようなぬめりと鱗をもった光沢ある肌。
屈強の体格に、手には水かきがあり、足はなく尾ひれがついている。
それが実に三体。水没した下の道から現れた。

マーマンは人間に近い魔物だが、とても凶暴で言語体系も違う。
女性型であるマーメイドとなると悲恋の話や、幻想的なエピソードを耳にするが、
マーマンはとにかくおっかないイメージだ。
0148レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/05(木) 07:21:44.69ID:48LGU1HC
マーマンの一体が手を翳すと、水属性の魔法陣が浮かび水球が生成された。
水魔法の初歩『アクアショット』。六つほど生成した水球をレイン達目掛けて放つ。

「ギシュウウウウ……」

相手が魔法を躱す隙をついて、マーマンは壁面の魔法陣に触れた。
触ったのは三角形が上を向いている方の魔法陣である。
ごごご、と鈍い音がすると、入り口が閉じ、左右の道に青銅色の扉が現れた。
扉は道を完全に封鎖してしまうと、次第に部屋の水位が上がりはじめる。

「しまった、水位を操作してこの部屋を満水にする気か……!
 早く倒さないと大変なことになる……!」

水球を回避しつつ、ようやくマーマンの思惑に気づく。下から急速に水が上昇していく。
レインは魔法陣が仕掛けになっているダンジョンには幾つか心当たりがある。
こういう仕掛けは大抵魔力を送り込めば魔法陣が起動してくれるはずだ。

今は水位を下げたいので、下の魔法陣を使うべきだろう。
ただレインは呪いで魔力を吸われている身。魔力はほとんど残っていない。
魔法陣はマグリットかクロムのどちらかで操作する必要がある。

ところでこの水は海水だ。『海魔の遺跡』の地下は海に繋がっており、
魔法によって水流を操作して海水を吸い上げ遺跡まで運んでいる。
そして、地下はマーマンにとって棲家(ダンジョン)の入り口でもあるのだ。
彼らは棲家に土足で踏み込んだ者達を排除すべく、全力で戦いを仕掛けてくる!

「ギシャアアアアッ!!」

部屋の水位はあっという間に胸の高さまで昇る。
これではろくに身動きもできない。動きを半ば封じたところで、
マーマンは再び水魔法を唱えた。発動したのは渦潮を起こす魔法。
海水は部屋の中で螺旋を描き始め、三人を巻き込まんと回転する――。


【海魔の遺跡に到着。マーマンに襲われる】
【部屋の水位が上昇中。満水になるか魔法陣で操作するまで止まりません】
0149創る名無しに見る名無し
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2020/11/06(金) 13:33:19.98ID:ClVhkDVn
♪ 日本人チョロすぎる(笑)反日ステマの工作手口 ♪
@日本人の精神を腐敗・堕落させ愚民化させろ!
A日本人の女を集中的に狙い洗脳しろ!
Bネトウヨ、ヘイトスピーチ等の言葉を浸透させ、同胞への批判を封じろ。
C韓国人識者に政治的意見を言わせ、御意見番化させろ!
D「同性婚・LGBTを全面肯定しない者は差別主義者だ!」という雰囲気を作れ!
E中身のないアニメを流行らせ、クールジャパンをオワコン化させろ
F「未だにガラケーの奴は笑い者」という雰囲気を作れ。
G「LINEに入らない奴は仲間外れ」という雰囲気を作れ.
H「日本人の男VS日本人の女」の対立を煽り、分断しろ。
I日本人同士で恋愛・結婚させない、子供を生ませないよう誘導しろ!
J日本同士で結婚していたら離婚させる方向に仕向けろ。
K我々がステマしてやれば無名女優も売れっ子女優に早変わり!
Lイケメンブームを定着化させ、「男は外見が全てだ!」と洗脳しろ.
- ソース -
電通グループ会長 成田豊は朝鮮半島生まれ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E7%94%B0%E8%B1%8A
0151クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2020/11/09(月) 22:43:37.29ID:PefyjIJL
レインが前のカタムツリを、クロムが後ろのナメクジを──。
背中合わせとなった二人が互いに標的を見定め、いよいよ攻めかからんとした丁度その時であった。

>「ここは上陸禁止の島!あなた方は何者です……かっ、て……レインさん?クロムさん?」

聞き覚えのある声と共に、何者かが二人の間に飛び込んできたのは。

「お前……!」

闖入者の顔を見て、クロムも、レインも思わず目を丸くした。いや、それは闖入者その人も同様であった。
無理もない。レインとクロムとマグリット……三人がこの呪われた孤島で再会するなど、誰が予想できたであろうか。

──やがてマグリットはクロム達の湧いて出る疑問を見透かしたように、先手先手を打って事情を説明していった。
彼女の故郷である貝の獣人の住処がマリンベルト近海の底に在るということ。
島は貝の獣人達の儀式の場として利用されており、タコと戦ったあの空間が島への上陸口になっているということ。
その為の安全確保に、飼い慣らした貝の魔物達を放っているということ──つまりカタツムリ達に危険はないということ。
そしてマグリット自身は今、儀式の産物を取りに行く途中であるということを。

(……とっつぁんの言ったことが当たったか)

葉巻を吹かすニヤケ面のエイリークの顔を思い浮かべて、クロムは思わずうんざりしたような顔で溜息一つ漏らした。
だが、そんな顔をしていたのも一瞬であった。
次の瞬間には、カタムツリとナメクジが壁に溶け込むように消えて、更にその壁自体が開いていったからである。

「げっ!」

いや、開いたというのは正しくないだろう。
何故なら壁と思っていたものは、小型の貝類が無数に折り重なってそれと見せかけていたものに過ぎなかったのだ。
つまり壁が何らかの仕掛けで動いたのではなく、無数の貝類がわさわさと蠢いて壁の形を解いた──それが正しい。
その寒気を覚えるような光景には、流石のクロムも口元を抑えて表情を苦々しく歪める。

>「この島に眠るボスの呪いで魔法は無効化され魔力は吸収されます
>その吸収される魔力の流れを少し利用して私たちが儀式に利用しているのですよ〜
>こちらの通路が島の中枢に向かう道になっていますので、ついてきてくださいな」

しかし、お陰で隠し通路の存在と呪いを確信することができた。
更にマグリットの一族が呪いを利用しているという事実も新たに判明した事で、クロムはふと真顔になって思うのだった。

貝を使役して枝分かれした道を一本道に見せかけていたのは、儀式の場を部外者から守る為だろうか?
儀式の場所は奇しくもこの島の攻略に重要と思われる中枢部に近いらしい。
ならば今頃、島の中枢を目指してる他の冒険者は獣人達の罠に悉くかかり、果てしなく迷っているかもしれない。
もしマグリットを伴う自分達だけが例外なら、ひょっとして攻略の可能性を持つのも自分達だけなのではないか──と。

「……」

無論、所詮は憶測である。
勝手知ったる何とやらとばかりに、躊躇ない足取りで先頭を行くマグリットの後姿はクロムにイエスとは言ってくれないのだ。
むしろその軽やかなステップが『考え過ぎ(笑)』と小馬鹿にしているように見えて、痒くもないのに思わず頭を掻いてしまう。

そんなマグリットの足が止まったのは、彼女の後を追って十分ほど歩いた頃だった。
ふと前方の暗がりに目を凝らしてみると、魔法陣がありその上に長い棒を銜えたいくつもの巨大な貝が置かれていた。
その特徴的な二枚貝はシャコ貝と呼ばれるものだろうか。

魔法陣と貝──。
何とも不思議な組み合わせだが、それ故にクロムは直感する。どうやらここが儀式の場らしい、と。
0152クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/11/09(月) 22:46:22.56ID:PefyjIJL
>「私が生まれてから22年、この場で魔力を吸収し続け静かに成長していたものだそうです
>本来ならばこんなに大きくならないのですが、この島の魔力を吸収していたおかげですね
>初めて握りますが、手にしっくり馴染みます!」

棒の一つを握り、ぶるんと振るうマグリット。
まるで箒でも振り回したかのように涼しい顔をしているが、巨大なシャコ貝の重量は数百キロはある筈なのだ。
つまり巨大なハンマーと同じである。人間では女はおろか、男であっても使い手が限定される超重量武器。

人外ならではの光景と言えばそれまでだが、特に貝の獣人には性別は関係ないという事なのだろうか。
それとも本来関係はあるのだが、マグリットだけは特別という事なのだろうか。
……考えてみれば龍になるとぶち上げた獣人なのだ。後者……と見ていいのかもしれない。

「鬼に金棒。美女と野獣ならぬ……美女の野獣、ってか? いやいや、良く似合ってるよ。全く心強いぜ」

そう言ってマグリットから目を切り、代わって依頼の件を詳しく彼女に伝えるレインに目を向けるクロム。
その際、彼は小さく、誰にも聞こえないような声で付け加えるのだった。「……仲間の内はな」と。

途方もない力を目指す存在。それに対する不安、善悪抜きに力を求める者に共通する危うさ──……。
あるいはクロムは彼女に自分自身を見ていたのかもしれなかった。

────。

『海魔の遺跡』を目指して魔力の流れを辿っていく三人。
そうしてやがて辿り着いたのが膝下まで水に浸かった青銅色の空間であった。
見上げればそこに上に続く道があり、見下ろせば地下に続く水没した道がある。前も後ろも左も右も、同じく道だ。

「宝の臭いがしそうな分かれ道だな。そしてさっきの潮だまりの時もそうだが、そういうところは大体──」

レインが叫んだのは、クロムが魔物の存在に触れようとした、正にその時であった。

>「気をつけて。マーマンだ……!」

「……期待を裏切らねぇな、本当によ。給料分の仕事はきっちりこなすってか!」

視線を向けるとそこに居たのはレインが言った通りの男性型人魚。それも三匹である。
翳した手の周囲に魔法陣が浮かび上がると、それを合図に放たれたのは“水球”。どうやら水魔法が使えるらしい。
呪いを無視して発動できるのは魔族の特性か、それともこの島のボスの手先だから除外されているということなのか。
いずれにしても水魔法の初歩であれば大げさに身構えることはない。特に──“今”のクロムならば。

一つ、二つ……そして三つ。放たれた水球がクロムの身体に次々と着弾し、音を立てて弾ける。
しかし、クロムは動じなかった。決してダメージがゼロというわけではない。
ただ彼にとって、そのダメージは気にするほどのものでもない程度に過ぎないのだ。

(初歩の魔法なら子供に殴られた、ってところで済む。……それより)

クロムの視線が腰が浸かるくらいまで上昇した海水に注がれる。
彼は水球が繰り出され、それが着弾するまでの間、この空間のからくりを操作していた敵の動きを見逃してはいなかった。
そう。壁の一角に描かれた正三角の魔法陣と逆三角の魔法陣。
先程、敵の一体が正三角に触れた途端、空間の扉が閉ざされて水位が急上昇を始めたことを。

>「ギシャアアアアッ!!」

あれよあれよという間に胸元まで達した海水が、次第に渦を巻いていく。
なるほど機動力を奪うだけじゃ飽き足らず、本格的に殺意を剥き出しにしてきたらしい。
とはいえ目的は溺死──ではなさそうである。
渦潮で完全に体の自由を奪い、銛で滅多刺しにしてやる──銛を構えるその仕草が、如何にもそう言いたげなのだから。
0153クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/11/09(月) 22:51:45.27ID:PefyjIJL
敵は水中戦の達人である人魚。
対してこちらは魔力の使えない勇者に、人外だが人魚ではない剣士、貝の獣人。
この三者の中で水中戦で最も良い仕事をしそうなのが貝の獣人・マグリットであろう。

つまり敵と直接矛を交える役割をマグリットが負い、その間に魔法陣のからくりを操作しに向かう役割をクロムが負う。
これが妥当なプランと言えるかもしれない。
しかし、実際にクロムがマグリットに言った言葉は、それとは全く逆のものだった。

「マグリット。“今”の俺は、魔法陣《あそこ》に行っても何もできない。……行くならお前が行け」

魔族は“呪い”の影響を受けない。
厳密に言えば魔に近似した負属性由来の呪いであれば、魔族は無条件で回避できる。これは知る人ぞ知る事実である。
故にもしマグリットがクロムの正体を魔族と見破っていたならば、彼の言葉に嘘があると判断したに違いない。
“島の呪い”は島の魔物が由来のモノだし、魔力が空になるほどの戦闘もここに至るまでに発生していないのだから。

だが実際のところ「魔法陣《あそこ》に行っても何もできない」という言葉に、嘘は一切含まれていないのである。
何故なら彼の魔力は“今”、文字通りのゼロの状態だからである。
では何故そうなったのか? その疑問に対する答えは彼が着ている白い装束にある。

かつてクロムにその装束を譲った者は、それを『反魔の装束』と呼んでいた。
何故、“反魔”なのか? それは二つの特性に由来する。
すなわち“あらゆる魔法効果を大幅に減少させる”という魔法に対する強い耐性と──
“着用者が魔族であった場合にのみ限り、魔力がゼロになる”という魔族に対してのみ発動する呪い──。

魔法と魔族、二つの魔に対して強い反発力を持つ──故に反魔。
魔法が使えない純粋な戦士に似せて肉体を調整されているクロムは、魔法に対する防御手段が常に限定されている。
そんな彼にとって『反魔の装束』は自らの短所を強力に補いながら同時に自らの長所を殺している諸刃の剣である。
『魔装機神』も『悪鬼の剣』の真の力も、魔力を消費して発動する奥義なのだから。

それでもその諸刃の剣を使う決断をしたのは、魔力対策と自らの力の底上げをサティエンドラとの戦いで痛感したから──
というのもある。確かに。が、それだけが理由の全てではない。
既にクロムは、奥義に変わる新たな力の心当たりがあった。だからこそ思い切ったのだ。

(と、言ったものの……水中は奴らの独壇場。三対一は望むところじゃねぇ。とにかく、何とか一匹ずつだ……)

──とはいえ、思い切った変化も命そのものがここであっさり散っては結実も夢幻の如くであり、何の意味もなくなる。
渦に流され、中心にいる人魚に引き寄せられつつある自らの肉体を止めんと、クロムは抜いた剣を壁に突き刺す。

深く刺さった剣が、それを持つ者の体の流動を阻み、固定する。
だが、これだけではまだ何も解決していない。流れに抗う事はできても、身動きが取り難いのでは不利は変わらない。

「ギシィィィイイ!!」

人魚の一匹が渦の流れに乗って猛然と突っ込んで来る。
得物を自ら封じてまで渦に抗んとするクロムを、却って銛の餌食にする絶好の機会と考えたに違いない。
突き出された銛が水飛沫を上げて水面を走る。
黙って見ていれば数秒後には確実にクロムの胸を抉り、貫通するだろう。

無論、クロムはただその時を待つような諦めの良い男などではない。
柄を握る利き手の右腕に力を込め、敵が攻撃軌道を修正できない距離まで引き付けて剣を引き抜くと──
──同時に腰に回していた左手を迫り来る銛先に向けて繰り出す。
瞬間、その左手が逆手に持っていた鞘が銛先と接触──その軌道を無理矢理ズラすのだった。

「──……!」

行き先が左にズレた銛はクロムの右肩を掠めるだけに終わる。つまり敵の初撃は不発。
──この時、クロムは敵の攻撃は初撃《それ》が最後になることを既に確信していた。
0154クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/11/09(月) 22:57:35.30ID:PefyjIJL
何故なら引き抜かれた剣は右手が逆手に持つ形となっている。
ほんの少し手首の角度を変えて肘を曲げれば、その鋒を丁度敵の首に突きつけられるのだ。

「ちょっと泳ぎが上手いからって調子に乗って真正面から突っ込んでくると──“こうなる”」

「ギッ────」

容赦なく繰り出された刃が敵の急所を難なく突き破り、その奥の命を容赦なく抉った。
体液が水中に流れ出し、渦の急流に翻弄されて散っていく……。

「うわっぷ! ──流れがどんどんキツくなってきやがる」

刃を引き抜き、ぐったりした敵の体を手で退けて、クロムは再び近くの壁に剣を突き入れて体を固定する。
周りを見ると残る二匹の人魚の姿は見えなくなっていた。どうやら水中を移動しているらしい。
こうなると厄介である。薄暗い遺跡のそれも水の中で機会を伺われては、目や耳で探ることもできない。

やはり鍵は水位を調整する魔法陣にあるのだろう

【海魔の遺跡で人魚と戦闘開始。何とか一匹撃破する】
【『反魔の装束』→あらゆる魔法効果を大幅に減少させる力を持つ】
【ランクが下の魔法ほどその減少幅が大きく、下位でほぼ無効化、中位で三分の一、上位で半減する】
【なお“あらゆる”なので回復や身体強化などの便利な魔法の効果も減少させてしまう】
【また着用者が魔族に限り“魔力がゼロになる”という通常とは逆の呪いを持っている】
0155マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/11/15(日) 21:42:13.37ID:+a9lDejD
マグリットは失意の元にPTを離れ故郷であるマリンベルト近海の故郷へと帰ってきた
実際に九似の一角を吸収し感じた己の力量不足
それを補う新たな力を手に入れる為に

目的地は呪われた島として上陸を禁止されているメリッサ島
貝の獣人たちが秘かにその島の呪いを利用して儀式魔法陣を設置してある場所であり、本来ならば危険こそあれどこうして仲間と再会することなどありえない
特にレインは召喚魔法依存の戦闘スタイルが故に、魔法が無効化され魔力が吸われるこの島に来ることはあり得ない

にも拘らずこうして再会できた事に上機嫌になり、目的物であるシャコガイメイスを振り回す手も軽やかになろうというもの

「いやですよ―クロムさん、そんなに褒めても何も出ませんよ?」

と言いながらクロムの背中を叩くが、嬉しさのあまり少々力加減ができず、洞窟内に大きな音を響かせることになったのだった


改めて同行の運びとなり、今回の探索の目的を聞くと、海の魔物退治
ではあるが、根本原因がこの島にあるとみての探索との事
そしてこの島についての情報提供を求められるのだが、申し訳なさそうに眉を下げてしまう

「申し訳ありません、私も私たち貝の獣人も、この島を詳しく知っているわけではないのですよ
呪の力が働いており、魔力が主に吸われているであろうという事
その魔力の通り道に儀式魔法陣を設置して流用させてもらっているだけで、島の構造や主についてはわかっていません
ただ、わかっているのは様々な魔物が徘徊しており、私たちにとっても危険な場所
だからこそ眷属を放って上陸口や魔法陣までの安全を確保しているので、他の場所までは……」

そう、貝の獣人たちが把握し確保できているのは島のほんの一部でしかない
その実態を把握しきれていないのは、島の呪いだけでなく貝の獣人と同じように他の種族や魔物が島の各所でテリトリーをもってうごめいているからだ
丁度眼前に現れたマーマンの様に

レインの渓谷に目をやるとマーマンの手に魔法陣が浮かび、水球が生成、放たれた
その光景に思わず気を取られ回避が間に合わず、シャコガイメイスに一つ、マグリットの体に一つ着弾
鉄の肌を持つマグリットにとっては文字通り水鉄砲にすぎないが、回避したレインとは対照的に三発命中したクロムに目を向ける

「あわわ、クロムさん大丈夫ですか?」

心配する程でもないかのように平然としているクロムにほっとしながら、今度はレインに向けて首をかしげる

「おかしいです、この島は魔力が吸われ魔法を発動しようとしても即座に無効化されてしまうのに
私たち(貝の獣人)の様に魔法陣で呪の方向を変えているのか、この場所には呪が及んでいないのか、どうなっているのでしょ?」

思った事をそのまま口にしてしまうのだが、それを確かめる術はレインにもないだろう
そしてマーマンもそれにこたえる訳でなく、追撃が始まる

壁面の魔法陣の△マークにマーマンが触れると、部屋の出入り口が塞がれ、変わって開いた穴から大量の海水が流れ込む
マグリットやマーマンなど海棲種ならば問題がいがレインやクロムは大きく動きを制限されるし、そもそも生命維持も難しくなるだろう
更に渦巻きの魔法も発動され、海水は螺旋を描き始める
0156マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/11/15(日) 21:42:58.28ID:+a9lDejD
あっという間に形勢不利な立場に追い込まれたPT
襲い来るマーマンたち
ならばマーマンには及ばずとも同じ海棲種であり、水中戦が一番できるであろう自分がと前に出ようとするマグリットをクロムが呼び止める

>「マグリット。“今”の俺は、魔法陣《あそこ》に行っても何もできない。……行くならお前が行け」

「え……?」

その言葉に思わず不思議そうな声を出し首をかしげるのだが、それも数舜の事
直ぐに満面の笑みで「わかりました!」と返事を続けるのであった

精霊の森にてクロムが人間ではない事はわかっていた
だが、どういった存在なのかは深堀しなかったし、ましてや魔族である事は想像の埒外であり、クロムの嘘に辿り着くことはなかった
言葉の意味に考えを巡らせる事をせず、そのまま言葉に従ったのだ

水流に紛れ襲い来るマーマンの鉾と剣を交えるクロムの横で大きくシャコガイメイスを振りかぶる
レインとクロムにとっては胸元迄の水位ではあるが、巨躯なマグリットにとってはまだ腹当たりであり振りかぶる余裕がある

「それでは行ってきますので、お二人に神の加護があらんことを!」

祈りの言葉と共にそのまま巨大な貝を水面へと叩きつけた
衝撃で追撃に来ていた二匹目のマーマンが押し戻され、三人の動きを封じていた渦が一瞬勢いをなくす

そのままマグリットは水中にしゃがみ床を蹴り水中を壁面へと進む
海棲種とは言え、泳ぎが得意とは言えない貝の獣人
ではあるが、水中での推進力がないわけではない
普段は水弾を放つマグリットの放水管はそのままジェット推進となる
それと共にシャコガイメイスのシャコガイ
これは形を模したものではなくそのまま生きているシャコガイなのだ
一瞬大きく膨らんだかのように貝殻を広げ、シャコガイの貝殻は再び閉じる
開閉の勢いとシャコガイの放水管からの放水により、それを持つマグリットをすさまじい勢いで引っ張っていく

水中をすさまじい勢いで突進したマグリットは、壁面近くのマーマンを巻き込み壁に激突
壁にはヒビと血のシミがつき、シャコガイメイスと壁に挟まれ潰れたマーマンが水中に沈んでいく

「これですね。今止めます」

逆三角の魔法陣に触れ魔力を流し込むと、海水を流し込んでいた扉が閉まり、水位は徐々に下がっていくのであった

【水面を叩きつけて追撃のマーマンを押し戻し、渦の勢いを弱める】
【魔法陣に向かって水中を突進、壁際のマーマンを一体巻き込んで激突到着】
【魔法陣を操作して注水停止、水位が下がり始める】
0157レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/17(火) 22:17:43.79ID:AxmbRJUM
マーマンの魔法によって生まれた渦は、レインを確実に絡めとる。
流れに逆らうこともできないまま飲み込まれて、動きの自由を奪われてしまった。

窮地にも関わらずレインの頭はある問題について頭がいっぱいだった。
クロムもマグリットも疑問に感じていた、なぜ島内で魔法が使えるのか、という問題だ。
曰く、メリッサ島は魔法を封じ魔力を吸う呪いがかかっているはずである。

マグリットが言っていたようにこの場所だけ呪いが効かない可能性もある。
しかしレインが思いついた予想はマグリットとは異なるものだ。

(マーマンの装備で呪いを防げるのかもしれないな……)

現れたマーマンは水中で活動するためにほぼ全裸に近い格好である。
しかし、よく見てみると多少は文化的な装いをしていることが分かる……。
――三匹のマーマンはそれぞれ耳飾り、首飾り、腕輪といった装身具を装備している。
そのどれかが人間側の呪いを防ぐ装備『護符』や『聖なる首飾り』と同じ役割を果たしている可能性。

(今のところ確認方法は……倒すしかないか)

死体漁り染みた発想だが、それ以外に方法はない。
既に呪いで魔力を吸われきったレインが装備したところで意味はない。
だが、それでも厄介な呪いだ。対抗策を知っていて損はないはずである。

>「うわっぷ! ──流れがどんどんキツくなってきやがる」

水深が徐々に上がりながら渦を巻き続ける中、クロムがマーマンを一体撃破した。
彼らの独壇場であるはずのフィールドを制するとは、流石PTの切り込み隊長と言わざるを得ない。

>「これですね。今止めます」

そして少しの間を置いて、二体目のマーマンを撃破しながらマグリットが水位を操作。
仕掛けられた魔法陣の力で渦を巻きながらもみるみる水かさが減っていく。
へその辺りまで減った頃合いに、レインは腰の剣を引き抜いた。
動きはまだ制限されるが、これならなんとか戦えるだろう。
0158レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/17(火) 22:18:55.82ID:AxmbRJUM
残る一体は覚悟を決めたのか、水位が下がり切る前に勝負に出た。
渦の流れに乗っかってレイン目掛けて突貫してくる。
ただし真正面からではなく、大きく迂回して背後からだ。

「……そこかっ!」

振り返り、銛と剣が交錯。差し違えるように刺さった。
レインの剣は過たずマーマンの身体を貫いている。
一方。マーマンの銛は外套を貫き、脇の下をすり抜けていた。

(……危なかった。完全な水中戦だったらこうはいかなかった……)

マーマンがぐったりと仰向けに倒れる……水位はもう元の膝下辺りまで戻っていた。
自分が倒した個体から剣を引き抜くと、試しに身に着けている首飾りを外してみた。
予想が正しければ装備することで呪いが無効化されるはずである。

「マグリット。マーマンが魔法を使えることを不思議がってたよね。
 もしかしたら、この首飾りなんかが呪い除けになってるのかも……」

何かの鱗で作ったであろう翠色の首飾りとマグリットの顔を見比べてレインは言った。
目を凝らすとうっすら魔力を帯びている……少なくとも特殊な効果はありそうだ。
いざ、破れた外套を一時脱いで旅人の服の上から首飾りを装備。

「……なるほど」

レインが装備した途端、首飾りはボロボロと風化して壊れてしまった。
どうやら人魚以外が装備すると壊れてしまう仕組みらしい。
盗賊や冒険者に盗まれないための防止策なのだろう。

「答え合わせはしばらくお預けだね……今は道を進もう」

こうして一同は遺跡の更に奥深くへと進んでいくのであった。
0159レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/17(火) 22:23:34.16ID:AxmbRJUM
遺跡の探索がはじまり、一同は罠や仕組みを解除し、時に魔物を倒しながら道を進んでいく。
滔々と流れる海水の上に作られた青銅色の水道橋を歩きながら、レインは呟いた。

「水道橋の下は水深が深そうだね。水棲魔物もたくさんいそうだ。
 水位を操作する魔法陣もないから今の装備で探索するのは難しいな……」

目を凝らして下を見れば、何かが沈んでいるのが判る――宝箱だ。
いや、それだけではない。金塊をはじめとする金銀財宝が、あちこちに沈んでいる。
どうやらこの島の財宝伝説は遺跡に存在している確かなものらしい。

水道橋には先着の冒険者が何組も来ており、すでに財宝のサルベージがはじまっている。
深海装備であるダイバールックで水棲魔物を倒しながら財宝を直接拾う者や、
あるいは釣り竿で宝箱を引き揚げようとする者など、方法は様々だ。

それだけではない。
ある冒険者の商人は橋の一角に布を広げて商品を並べ、露店を開いている。
水中戦に使えそうな武器や薬草をはじめとしたアイテム類。
マーマンから調達したらしい装身具が所狭しと並んでいる。

「あっ……あの首飾りは!」

装備すると風化する首飾りがなんと2000ゴールドで売られているではないか!
これは阿漕な商売だ、商人はレインと同じ見立てをしているらしく、
『島の呪いが解ける……かも!?』などと吹聴して販売している!

隣には水中装備を貸し出しているレンタル屋の商人。
こちらは良心的かつリーズナブルな価格で道具の数々を貸し出してくれる。
例えば噛むと酸素を生成する空気草を詰めた水中マスク。
または潜水服などを一式800ゴールドでレンタルしている。
0160レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/17(火) 22:25:32.66ID:AxmbRJUM
更にその隣では……。
"聖歌の"アリアが路上ライブで小銭を稼いでいるではないか。
なんでも彼女の歌う『ピュリフィアンセム』を聴ききると呪いが解けるとか。

「ららら〜♪呪いを解きたい人は最後までお聴きください。
 呪いの装備を着けてしまった方は聴ききると装備を外せるようになります♪」

だが待ってほしい。こんなことで騙されるレイン・エクセルシアではない。
アリアの路上ライブは島に掛かった呪いを解く訳ではないので、根本的な解決になっていない。
レインが聴ききったところで魔力切れの状況も、召喚魔法が使えない状況も改善される訳ではない。

「……でも結構良い歌だね。呪いも一応解けたし、お金出した方がいいのかな……」

水道橋を歩いていると天使のような歌声が自然と聴こえてくるので、呪いは勝手に解けた。
レインは悪いと思って懐から500ゴールドを取り出し、投げ銭して帰ってくる。
なんとも賑やかな光景だったが、ここで遊んでいる場合ではない。目的は魔物退治だ。

橋を渡り切ったところで待ち受けていたのは一際広い円筒状の空間である。
螺旋階段が下に続いており、最下層の扉は固く閉ざさているようだ。
そして、よくよく壁面を見渡すと神代文字と壁画も刻まれているではないか。

「あれがこの遺跡のボスなのかな……?」

壁画に描かれたボスは巨大な人魚と呼ぶべき見た目をしていた。
翡翠の光沢ある鱗に、立派な尾ひれ。目は鋭く、背中に海竜を模した二つの触手。
その威容を見ると、レインはボスが暴れまわった時の恐ろしさを想像してしまう。

「封印されとるのは遥か遠い昔の魔族じゃ。
 名はダゴンというらしい。神代文字で書かれとるわい」

ふと、横を見ると恰幅の良い小男がいつの間にか座り込んでいた。
髭面で背中には斧を背負っている。レインとクロムは、彼を一度見ている。

「あなたは……"斧砕きの"ドルヴェイクさん?」
0161レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/17(火) 22:26:32.96ID:AxmbRJUM
ドルヴェイクは浅く頷いて壁に刻まれた神代文字の解読にあたっていた。
彼もまた純粋に依頼解決を目的に参加した一人とエイリークから聞いている。
きっと、ボスに関する情報や弱点を集めている最中なのだろう。

「ふむ……人魚たちの親玉として相当暴れまわったようじゃわい。
 最後には海神に仕える巫女に封印されて、以来ずっと眠っとるようじゃ」

「神代文字が読めるんですか?」

「まぁ……教養としてな」

レインも一緒に眺めてみるが、何が書いてあるかてんで分からない……。
神代文字は解読が難しく覚えるのに相応の勉強が必要らしいが、
"斧砕き"のドルヴェイクはそんなものをどこで覚えたのやら。

「そうだ。ドルヴェイクさん、魔法を封じる島の呪いはご存知ですか?
 人魚だけはすり抜けて魔法を使えるようなんですが……」

「呪い?儂は魔法が使えんから関係なかったが……。
 仕方ないのう、それくらいなら教えてやろう」

ドルヴェイクは壁面の一部を指すと、そこに首飾りのような画が描かれていた。
曰くボスは人魚の魔族で、自身は魔族のため呪いが効かない。
そこで、配下に自身の一部を持たせ呪い除けとし、財宝を守らせているという。

「壁画によると『人魚の首飾り』は人魚しか装備できんようじゃな。
 だから儂らには無用の長物……露店で買っても意味はないぞ」

なるほど、とレインは言った。
これで謎は解け、しこりは無くなった。
……やはりあの商人の売り方は阿漕すぎる。
0162レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/11/17(火) 22:28:45.81ID:AxmbRJUM
とにもかくにも、この先へ進むには扉を開ける必要がある。
だが……扉には鍵が掛かっており、開けることができない。
壁画に在り処のヒントが書かれているようで、ドルヴェイクが教えてくれた。

「鍵は財宝と一緒に隠されておるようだな。
 つまり、さっきの水道橋のどこかにあると考えていいだろう。
 儂は泳ぎが得意でないから、他の者が見つけてくれるのを待っておくわい」

だから皆ここで足踏みしているのか……とレインは思った。

「俺たちも鍵を探そう。ここでじっとしていても仕方ない」

水道橋まで戻ると、レインはどうやって探すか二人と相談することにした。
方法は他の冒険者がサルベージしているのと同じでまず二つ。
釣竿で釣ってしまうか、直接ダイビングして探すかだ。

「おっ、あんたらもサルベージに参加すんのかい?
 水中にはランペイジシャークとマーマンがいるから気をつけなよ!」

レンタル屋の商人が親切に声を掛けてくれた。
ランペイジシャークは文字通り凶暴化した鮫で、水中戦の雄だ。
血を嗅ぎつけたが最後、敵に食らいついて離さないだろう。

「それで……二人とも、どうやって鍵をサルベージする?」


【遺跡入り口のマーマンを無事撃破。探索開始】
【水道橋に到着。他の財宝狙いの冒険者たちと遭遇】
【先へ進むには水中に沈んでいる鍵を見つける必要があるようだ】
0163レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2020/11/17(火) 22:45:48.69ID:AxmbRJUM
【たまにはageて参加者募集を告知してみるテスト……】
【レトロファンタジーTRPGはいつでも冒険者を待っている!気軽にご参加ください!】
0164創る名無しに見る名無し
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2020/11/18(水) 02:35:27.99ID:diINqG/Z
 砦への総攻撃は夜明けと共に始まった。

 作戦会議を終え、ゴブリンの兵士たちは武器を持ち、それぞれが持ち場へと向かった。

 上位のゴブリンは、鎧牛という戦車のように大きな牛に跨り、一振りで塔を倒せそうな大剣を片手に、前線へと駆け出した。

 残りのゴブリン歩兵達も土埃を巻き上げながら、砦へと一気に攻め入った。

 その中に、勇者ヘッポコもいた。

 魔王軍尋問官として後方の業務に従事しているが、もともと彼は王女のために剣を振るっていた半トロールの勇者である。

 ゴブリンの歩兵達は、勇者が自分たちの軍に混じっていることに違和感を覚えた。

 しかし、一度酒を酌み交わせば彼らの流儀では仲間だった。

「ヘッポコどん、早く王女様のところに来いよぉ。アンタに戦いの権利は譲るでごわす」


(あれだけ酒を飲んでも、結局、種付の権利なんてものは得られなかった)

(得たのは、王女と戦う資格だけだ。王女を見つけたら優先的に戦えること。そして、俺が勝てば、彼女の身柄はこちらで貰い受けること。それだけは、約束させた)

(王女を囚えるには俺が彼女に勝たなければならない。勝てるか?あの女に……)

 ヘッポコの手は震えていた。

(俺は、あいつが貴族の学校でのほほんとしている年の頃から、辺境地帯で勇者見習いとして、魔獣や盗賊と殺し合っていた)

(勇者になれるのは、1000人に1人。勇者見習いの半分はその教練過程で命を落とすか、治らない怪我でリタイアする。残り半分は苛酷な試練に付いて行けずにやめることになる)

(俺は選ばれた人間だった。10年近い修練に青春を捧げ、勇者として認められた時には、16歳を超えていた)

(戦争が始まり、俺たち勇者の多くが国に雇われ、特別な待遇で戦場へ向かった)

(そこで俺は、彼女と出会った)

(兵士を統率しながら、誰よりも前を走り、大軍にも怯まず、突撃する)

(時には俺たち勇者ですら腰が引けるような強力な魔物を相手に、単独で戦い首をもいでくる)

(魔界の地をまたたく間に蹂躙し、魔王さえも戦いを避ける、チート生物)

(それはムーントリア純血の金色の髪に蒼い瞳、紅いドレスと銀のティアラが似合う王女様だ)

(憧れていた。崇拝していた……彼女に認められたかった……畏怖を覚えていた……)

(彼女の血の色を誰もしらない。彼女が血を流しているのを誰も見たことがないからだ)

(彼女が人間なのか、疑問に思う。自ら突撃命令を出した結果、数万の部下が犬死した報告を受けた時も、眉一つ動かさずに執務室で紅茶を啜っていたのを俺は見た)

(さらに気に食わない部下は、勇者でさえも平然と面罵して最前線へ送り込む……俺は勇者だ……俺は……)

「俺は勇者だ!」

 ヘッポコはゴブリンの中で絶叫した。
0165創る名無しに見る名無し
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2020/11/18(水) 02:49:13.17ID:diINqG/Z
「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 ゴブリン達は、それに呼応して鬨の声をあげた。ヒトの言葉は彼らに通じないので、ゴブリン達は勇者が自分たちに激を飛ばしたのだと勘違いした。

「第三王女ラングドシャが軍を率いる限り、この戦争は終わらない!

 魔王を殺し、魔界の民の血で海を作ろうと、彼女の暴走は止まらない!

 魔界の地を蹂躙し尽くし、この地を荒野とした後、彼女は軍を率いて、魔界の先の最果ての地へ戦いに行くだろう!

 人々が平和を希求しようと、彼女がいる限り、平和は訪れない!

 俺が、全人類を救うのだ!俺が、王女を囚え、全人類を救済するのだ!

 ヘッポコは戦いのためのスイッチを入れ終えた。

 神経回路と勇者回路が完全に繋がり、臍の奥の魔術器官のバルブが全て開いた。

 「はぁ……はぁ……何なの、もー!」

 エルベ・シュパルツドルフは王女と別れ、南の城壁の下でゴブリン軍と戦っていた。

 彼女もまた、貴族の1人として戦闘教練を受け、ゴブリン兵など、彼女の戦闘力をもってすればものの数ではない。

 しかし、1時間近くに戦いが及ぶと、次第に、剣を振るう腕も鈍ってくる。

 息をつく暇もなく、ゴブリンの兵士が襲いかかってくるのだ。

 「いやっ……もうっ……来るなぁ……」

 汗がドレス・スーツの中で蒸れて、エルベは気持ちが悪かった。

「もう、二百匹は殺した……なのに、なんで向かってくるのよぉ!」

 ゴブリンは死を恐れず、突っ込んでくる。
種付の権利は、敵を倒した者のものである。

 ゴブリン兵にとって、敵の戦士の雌を囚えることは、優先度が高い。

 戦士の雌を妻とすることは彼らの社会で重要なステータスとなるからである。

「苦戦しているようだな」

「ヘッポコのダンナ!戦う権利は先に来たオラのもんです!手出し無用で頼みまさぁ!」

 ヘッポコがまず着いたのは、王女のいるところではなく、女騎士が気を吐く戦場だった。

 ゴブリンの兵士はヘッポコを遮り、順番に1人ずつエルベへと飛びかかってゆく。

 そして、その剣に切り伏せられていくのだ。

(俺の目標は、王女だが……リハビリにはちょうどいいか)

 ヘッポコはまずは狙いをエルベに定めた。

先に順番を待つゴブリンがまたたく間に地に伏して行くのを眺め、順番を待ってヘッポコは前に出た。

「えっ……なんで……人間?」

 エルベは突然ゴブリンの群衆から出てきた勇者に目を丸くした。
0166創る名無しに見る名無し
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2020/11/18(水) 03:00:02.06ID:VLt2pPQT
『やんごとなき駄目ドラゴン』#2

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。
0167創る名無しに見る名無し
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2020/11/18(水) 03:06:28.92ID:pGYTJsvO
 2020年7月に、自宅で母親に暴行を加えて死亡させたとして再逮捕された男が、母親の口座から400万円から500万円を引き出していたことが分かりました。

 仙台市太白区中田町の無職・村上陽都容疑者(21)は2020年7月16日、自宅で母親の淑さん(当時55)に暴行を加え、死亡させた傷害致死の疑いで再逮捕されました。これまでに、村上容疑者と淑さんの間には複数のトラブルがあったことが分かっていますが、その後の捜査関係者への取材で、村上容疑者が事件までに淑さんの口座から複数回にわたり現金あわせて400万円から500万円を引き出していたことが新たに分かりました。引き出した金は、ゲームの課金などに使っていたとみられるということです。また、淑さんは村上容疑者の金の使い方について第三者に相談していたということです。

 村上容疑者は、淑さんの遺体を燃やした死体損壊と死体遺棄の罪ですでに起訴されています。
0168創る名無しに見る名無し
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2020/11/18(水) 03:09:01.68ID:5Fv16icy
 2020年7月に、自宅で母親に暴行を加えて死亡させたとし
て再逮捕された男が、母親の
口座から400万
円から500万円を引き出していた
ことが分かりました。
 仙台市
太白区
中田町の無職・村上陽都容疑者(21)は2020年7
月16日、自宅で母親の淑さん(当時55)に暴行を
加え、死亡させた
傷害致死の疑いで再逮
捕されました。これまでに、村上容
疑者と淑さん
の間には複数のトラブルが
あったことが分かっていますが、その後の捜査関係者への取材で、
村上容疑者が事件
までに淑さんの口座から複数
回にわたり現金
あわせて400万円から
500
万円を引き出していた
ことが新たに分かりました。引き出し
た金は、ゲームの
課金などに使ってい
たとみられると
いうことです。また、淑
さんは村上容疑
者の金の使い方について第
三者に相談してい
たということです。
 村上容疑者は、
淑さんの遺体を燃やした
死体損壊と死体
遺棄の罪ですでに起
訴されてい
ます。
0169創る名無しに見る名無し
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2020/11/18(水) 03:12:08.07ID:bkqKenOZ
 202
0年7月に、自宅で母
親に暴行を加えて死亡させ
たとし
て再逮捕された男が、母親の
口座から40
0万
円から500万円を引き出

ていた
ことが分かりました。
 仙台市
太白区
中田町の無職・村上陽
都容疑者(21)は2
020年7
月16日、自宅で

親の淑さん(当時5
5)に暴行を
加え、死亡させた
傷害致死の疑いで再逮
捕されました。これ
までに、村上容
疑者と淑さん
の間には複数のト
ラブルが
あったことが分かってい
ますが、その後の捜査
関係者への取材で、
村上容疑者が
事件
までに淑さんの口座か
ら複数
回にわたり現金
あわせて400万円から
500
万円を引き出していた
ことが新たに分かり
ました。引き出し
た金は、ゲー
ムの
課金などに使ってい
たとみられ
ると
いうことです。また、淑
さんは村上容疑
者の金の使い方に
ついて第
三者に相談してい
たという
ことです。
 村上容疑者は、
淑さんの遺体を燃やし

死体損壊と死体
遺棄の罪ですでに起
訴されてい
ます。
0170クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/11/22(日) 02:15:20.41ID:IR/voY6i
水位が下がり、奪われていた自由が徐々に体に戻っていく。
これで水に呑まれる心配はなくなり、更に残り二匹の敵もレイン達に無事片付けられたことでその脅威も消えた。
ならばもはや剣を抜身のままにしておく必要はない。
クロムは壁から引き抜いた剣を鞘に納めると、ふぅ、と一つ安堵の溜め息をついた。

────。

罠を潜り抜け、魔物を倒し、遺跡の更なる深みを目指し突き進む。
そうしてやがて辿り着いた場所は、遺跡の深みには似つかわしくない人々の喧騒に支配されたフィールドであった。

>「水道橋の下は水深が深そうだね。水棲魔物もたくさんいそうだ。
> 水位を操作する魔法陣もないから今の装備で探索するのは難しいな……」

レインの呟きを受けてふと橋の上から見下ろしてみると、下は透明度の高い海水で満たされており、
何人もの冒険者達が海中のそこら中で輝く金銀財宝に我先にと群がっている様子が見て取れた。

「まるで光に吸い寄せられる虫だな。どうりで騒々しいわけだ」

光り輝く財宝を前にして、全くはしゃがずに冷静沈着で居られる人間はそう多くはないものだ。
そういう意味では金銀《カネ》よりも真っ先に人魚の首飾りに興味を示したレインは変わり種と言えるだろうか。
もっとも、お宝の定義が呪いの武具にほぼ限定されているクロムも人の事は言えないのだが。

回収された装飾品や武具の類が所狭しと並ぶ商人の露店。
レインが様々な冒険者達の店に目移りする中、クロムの視線は対照的にそこだけに注がれていた。
何故ならここは呪いの島。元々自分にとっての宝がある確率は、他のダンジョンよりは高いと踏んでいたからだ。

(……!)

呪いは何も『悪鬼の剣』のそれのように、その道具を手にした瞬間に発動するものばかりではない。
中には実際に身に付けたり、道具として使用するその時を発動のトリガーとする呪いも存在する。
本来一ゴールドの価値もない筈の呪われた道具類が見た目だけで高価な値段を付けられてしまい、
稀に観賞用の古美術品として市場に流通する事があるのもその為である。
0171クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/11/22(日) 02:21:27.93ID:IR/voY6i
「らっしゃいそこの剣を持った兄ちゃん!!」

不意にクロムが歩行のスピードを緩める。途端に、一人のむさい商売人が彼に威勢よく声を掛けた。
男が広げた布の上に置かれた商品、その内の一つに彼の目が留まったことを見逃さなかったのだろう。
クロムは完全に足を止め“それ”を薄目でじっと見据えて言った。

「親父、これは……」

「分かってる分かってる! 兄ちゃんいい趣味してるぜぇ! 大事な女にでも着せて楽しもうってか? ハハハ!」

しかし、その親父が手に取り渡そうとしたものは、クロムの興味を惹いたものでも何でもなかった。

「──おい! それは『ビキニアーマー』だろ! それじゃなくてその隣に置いてあるヤツだ!」

「え? この“ボロい盾”のこと? こいつぁさっき遺跡の中で拾ったモンだが、ひょっとしてこれが欲しいのかい?」

突っ込みを受けて次に親父が手に取ったもの、それはバックラーと呼ばれる小型の盾。
ただ通常のそれとは異なり手に持つのではなく前腕部に装着するタイプのようだが──
いや、それよりも目に付くのはひび割れたガラスのように盾の全面に沢山の亀裂が入っているところだろう。
“ボロい”と表現されても無理はない。

「……いくらで売るつもりだ、それ」

しかし、魔族《クロム》の目にははっきりと見えていた。
ただボロくなった盾などには決してありえない、黒い靄のようなオーラが僅かに滲み出ているのが。
これは知る人ぞ知る、呪いが掛かった物品の特徴。つまり彼にとってのお宝を意味するものに他ならなかった。

「そうだなぁ〜。所詮は二束三文でも売れりゃいいと思って並べたモンだし……100ゴールドってところかなぁ?」

「ひゃ……はぁ? ボロボロの盾には10ゴールドだって高ぇよ! 二束三文の覚悟ねーじゃねぇか!」

「おいおい、資源に乏しい地域なんかじゃ鉄の盾だって高級品なんだぜ? 中古品でも2000や3000で売れるくらいな。
 こいつだってそういうところに持ち込みゃ300〜500くらいは値がつくかもしれねぇ。
 100で買ってくれねぇってならこっちも売る気はねぇなぁ。これ以上まけると商売人にとっちゃ二束三文以下だからよぉ」

「ちっ! 小石同然に拾ったモンに何て値をつけやがるんだ……悪徳商人め。
 そんなにカネが欲しけりゃ水の中に飛び込んで金塊の一つでも持ってくりゃいいだろうが」

「泳ぎも魔物退治も得意なら商人なんかやってないっての。で、買うのかい買わねーのか、どっちなんだい?」

「…………ちょっとだ。ちょっとだけ待ってろ」
0172クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/11/22(日) 02:27:41.20ID:IR/voY6i
レインが橋の先の円筒状の空間から戻って来るのを横目で確認して、クロムは彼と合流せんと一旦この場を離れた。
背後から「100ゴールドきっちりだよー! でないと絶対売れないからねー!」と親父の念を押す声が聞こえる。
交渉の余地が完全にないのでは盾を手に入れるにはきっちり100ゴールド用意するしかない。

親父は商人にとって100ゴールドは端金と言った。多くの冒険者にとっても別段大金というわけではないだろう。
が、クロムのように金を持ち歩かない主義の、金に執着しないタイプにとってはそうではない。
常に金の持ち合わせがないから100ゴールドたらずを支払うにもどこからか“調達”する必要に迫られるのだ。

かといってパーティの誰かに金を借りようなどとは思っていない。
パーティは助け合うものとはいえ、ほんの些細な事でも借りは作りたくない──そういう性格をしているからだ。

>「俺たちも鍵を探そう。ここでじっとしていても仕方ない」

橋の途中でレインと合流し、彼からドルヴェイクとの会話の内容を聞かされるクロム。
曰く、どうも先のステージに進むには水中のどこかに沈んでいる“鍵”を見つけなくてはならないらしい。

「水中に沈んでる鍵……か」

それはクロムにとって好都合であった。何故なら水中には100ゴールドなど目ではない財宝が沈んでいるのだから。
財宝を確保しながら一緒に鍵をも確保出来れば正に一石二鳥である。

>「それで……二人とも、どうやって鍵をサルベージする?」

「これだけの数の冒険者が水の中に居りゃ魔物のリスクも多少は分散される。俺は潜るぜ。その方が性にも合ってるしな」

そう言い残して、クロムは橋から飛び降りた。
肺機能が常人よりも強い彼にとって潜水服は重しにしかならない。故にノーマルで充分なのだ。

(一匹……二匹……)

水中。丁度視線の先にフジツボがびっしりとついたいくつかの宝箱が見える。
だが、その近くでゆっくりと遊泳する二つの影をクロムの目はしっかり捉えていた。
一つは人魚と分かるシルエットで、もう一つは巨大な魚のシルエット……その特徴的な背びれから鮫に違いない。
恐らくレインの言っていたランペイジシャークだろう。
クロムに向かって来ないところを見るとまだ気が付いていないらしい。他の冒険者達に気を取られているのかもしれない。

(戦わないで済むならそれに越したことはねぇ。ゆっくりと近付くか)

【水中に飛び込む。人魚と鮫が宝箱の近くを泳いでいるのを見つけ、ゆっくりと近付くことに】
【露店にて名称不明の呪われた盾を見つける】
0173マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/11/27(金) 18:07:46.79ID:I0mW6r4y
マーマンたちを倒した後、洞窟探索は続く
既に貝の獣人たちのテリトリーからは大きく離れ、マグリットも知らぬ場所を進んでいる
だからこそなおのこと驚いてしまう
水道橋に集まる一団
そしてその下の水中にもぐり、財宝をサルベージするために群がる冒険者たちに

>「まるで光に吸い寄せられる虫だな。どうりで騒々しいわけだ」

「人というのは凄いですね
上陸禁止だった魔法が使えないこの島も本格的に探索するとなるとこうなるのですか」

水道橋では一種のバザーが開催されているようで、半ば呆れるようにクロムの言葉に同意する
そんな人混みの中で三人はそれぞれ分かれていく

レインは聖歌のアリアの唄を聞き、クロムはクロムで別の商人の品を見定めている
そしてマグリットもまた興味を引かれた商人に

「ご主人、ご主人!
島の呪いが解けるかもというそのネックレス、私知ってます
先ほどマーマンを倒した時にレインさんがネックレスつけてみたんですけど、あっという間に崩れちゃったんですよ
盗難防止措置が施されているんじゃないかって言ってました!」

「こ、このっ!
言いがかりだ!商売の邪魔するんじゃねえ
誰だよレインって
買わねえのなら行ったいった!」

マグリットは親切心のつもりであったのだが、商人にとっては営業妨害他ならない
慌ててマグリットを追い払おうと棒を振り回すのだが、時すでに遅しだ
隣でネックレスを手に取っていた冒険者がそっと置き、不信の目で商人を見るのであった


商人の追い立てられて水道橋を渡った先の円筒状の空間
レインとドルヴェイクが話しているところに合流

「レインさん、聖歌のアリアさんいたの見ました?
私が教会に入る前に辞めちゃった方ですが、その歌声は奇跡そのものだって語り継がれてるのですよ
実際あの歌は奇跡でしたよー
帰りにご一緒できたらちょっとお話したいものですね!」

ずかずかと無遠慮にレインとドルヴェイクの間に入るマグリット
ドルヴェイクの人魚の首飾りの話に

「やっぱりそうだったんですか!
装備すると崩れちゃうっていうのは教えて差し上げたのですが、人魚しか装備できないというのならまたあとで教えておきますね!」

商人に対する印象はレインとマグリットでは大きく違うようだった
ただ迷惑なのはマグリットなのだろう
この後、商売を完全に破綻させる災厄が近づいてくることに商人はまだ気づいていない

そうこう話しているうちに鍵の話になったところでクロムも合流
これからの方針について話し合われる

>「俺たちも鍵を探そう。ここでじっとしていても仕方ない」

>「これだけの数の冒険者が水の中に居りゃ魔物のリスクも多少は分散される。俺は潜るぜ。その方が性にも合ってるしな」

「もちろん探しましょう!って、クロムさん?あわわ、もいっちゃいましたよ!」

貝の獣人である自分ならば水中呼吸も問題ないのだが、クロムが潜水服もなしに橋から飛び降りた事に動揺が隠せないマグリットが慌ててそのあとを追い橋から飛び降りる
0174マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/11/27(金) 18:08:17.92ID:I0mW6r4y
飛び降りて着水
したのだがマグリットの巨体が着水したにもかかわらず飛沫は上がらず静かに吸い込まれるように水中に入っていった
水生生物たる貝の獣人ゆえに水中への適応力も高いのだ
更に鉄分過多の肌を持ち重量も過多であるためか、そのままの勢いで海底の砂地に着地
そこでも砂煙を上げることなく、まるで羽にように軽やかに着地し、微振動を起こしそのまま砂地へと半身を潜り込ましていく
正に貝が海底の砂に潜り込むかのように埋もれていく

海底から見上げると散発的なマーマンの襲撃はあるが、基本冒険者たちに撃退されている
それを見てマグリットは大きな不安を抱き、同じく潜っているクロムに目を向ける

「クロムさん、一方通行ですが聞いてください」

クロムの耳にマグリットの声が届く
それは水中にあって驚くほど鮮明に聞こえるだろう
マグリットの螺哮砲は法螺貝の音波攻撃であるが、元々は貝の獣人たちが水中での会話の為に備わった音波通信の発展形
すなわち今こうしてクロムに声を届ける事が本来の使い方なのだ

・ドワーフさんの解読によると、マーマンはこの島の主の眷属であり、呪除けの加護を受けている財宝の守り手である事
・長らく立ち入り禁止だった島に大挙して訪れた冒険者たちにマーマンとしても不意を突かれたような状態でしょうが、そのままという事はないでしょう
・いつ組織だった対応を取られるかもわからないので、海面に向かうかもしもの時は海底に設置した貝殻をシェルターにしてください、と

その言葉の通り、マグリットは海底についてから捜索より前腕部から生成する巨大貝殻、それもサザエの様な巻貝タイプを人一人が覆いかぶされるくらいまで大きくしては取り外し海底に設置していた
海底に沈む財宝を取り巻くように設置された巨大貝殻はいざという時のシェルターになるだろうから

「ところで、鍵ってどんな形しているのでしょうかね?
あの扉に鍵穴ってありましたっけ?」

これから来るであろう戦いの準備をしながら、今更呑気に鍵がどういうものかわかっていない事に気づいたのだった
いわゆる錠前の鍵なのか、形容詞としての鍵なのかも判らずにとりあえず飛び降りたのを思い出した

しかしそんな思考も轟音と共に突っ切る黒い影とそれを追随する赤い靄ががかき消した
財宝をあさる冒険者たちにランペイジシャークが突っ込み哀れな犠牲者を咥えそのまま通り過ぎていく
後に広がるのは冒険者の血の霞
慌てて上を見れば5.6匹のランペイジシャークが悠々と泳ぎ、時折スピードをつけて突っ込みその度に新たな犠牲者を生んでいく
遠巻きにはマーマンが囲んでいる

水中では本来の動きができず、冒険者たちの抵抗は鈍いものにならざる得ない
それ以上に赤く染まる水は煙幕となり視界を奪われると同時にパニックが広がっていき冒険者たちは我先にと浮上しようとするが、それは戦う事を諦めた逃走にすぎない

それを見てマグリットは海底を蹴り、放水管からの放水の力も借りて急浮上する
中間域で今まさに冒険者の背中に咬みつこうとしていたランペイジシャークに大振りのシャコガイメイスを叩きつけ弾きとなした
水中でメイスをふるうななど抵抗がつきすぎて無理なように見える
しかしその実シャコガイの特殊形状が抵抗を軽減し、更にシャコガイ自体の放水管からの放水の力もあり水中にあって十分な力を発揮するのだ

「皆さん落ち着いてください、抵抗を放棄して逃げる背中はランペイジシャークにとって獲物にしかすぎません
逃げるより戦う方が生存率は高いですよ!
相手は血を流せば見境ないですから、手傷さえ負わせれば勝手に共食いしてくれ……あれ?」

海中にマグリットの声が響き、冒険者たちのパニックを抑え対抗するように促す
その為の対処法を示すようにランペイジシャークの一体を弾き飛ばし、十分な傷と血を流させたのだがその血に誘われ共食いするようなそぶりはない
むしろ隊列を成して巨大なランペイジシャークが冒険者たちを蹂躙していく

「もしかして、マーマンが操ってる!?」

遠巻きに囲んでいるマーマンたちを見るのであった

【海中に潜り、財宝の周囲に巻貝タイプの貝殻を設置】
【ランペイジシャークの襲撃、マーマンに操られ統率されている?】
0175創る名無しに見る名無し
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2020/11/28(土) 01:37:47.00ID:Qxuh4zCa
『やんごとなき駄目ドラゴン』#2

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。
0176創る名無しに見る名無し
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2020/12/02(水) 02:52:06.32ID:rDtaskUe
『やんごとなき駄目ドラゴン』#2

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。
0177レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/12/05(土) 22:14:26.99ID:rDRmJPj4
透きとおった海水の底に散らばる宝箱を一瞥して、レインは二人に問う。
海中用装備はレンタル可能なので潜れなくもない。

>「これだけの数の冒険者が水の中に居りゃ魔物のリスクも多少は分散される。俺は潜るぜ。その方が性にも合ってるしな」

>「もちろん探しましょう!って、クロムさん?あわわ、もいっちゃいましたよ!」

「あっ……ちょっ、二人とも!?」

クロム、マグリット共に海中での活動に自信があるらしく、装備も変えず飛び込んでいく。
置いてけぼりにされた"召喚の勇者"はいそいそとレンタル屋へ向かい潜水服を借りるのだった。
さらに武器屋にて銛を購入し、これで準備は整った。レイン(水中戦仕様)の誕生である。

「よし……行くぞ!」

どぼん、と静かに飛び込むと、水中は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
隊列を為したランペイジシャークの群れが冒険者達を襲っているのだ。
そして、マーマンがその光景を遠巻きに眺めているではないか。

(誰かに指揮されているかのような行動……操られているのか?)

この水域にいるのはマーマンとランペイジシャークのみ。
と、なれば知能が高いマーマンが操っていると考えるのが自然だろう。
財宝を守るのがマーマン達の役割だ。宝探しを黙って見ている訳がない、という事だろう。

それにしても、これでは『鍵』を探している場合ではない。
マグリットが作ったらしい貝シェルターがあるとはいえ、最早危険の方が勝る状態だ。
状況を打破すべくマーマンの群れ目掛けて突貫すると、鮫の隊列は標的をレインに変えて襲いかかる。

(マーマンを狙った途端に……!でも好都合だ!)

巨大な口を開いて突っ込んでくる鮫魔物の攻撃――。
レインは身体を捻って円運動を描き、紙一重で回避しつつ銛で突き刺した。

(舞踊槍術、銛バージョン!)

動きは地上に比べて鈍っているが、相手の攻撃を読む舞踊槍術は健在だ。
槍と銛にあまり区別がないゆえ、応用が効くのがさいわいしている。
銛を引き抜くと勢いよく血を流して泳ぐ力を弱めていくランペイジシャーク。
0178レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/12/05(土) 22:16:09.80ID:rDRmJPj4
残り五匹――。
さっきの個体は上手く急所に当たってくれたが、偶然は何度も起きない。
五匹は威嚇するように旋回してレインの周囲を泳ぎ回っている。

(同時攻撃は望むところだ……!)

なぜならレインには舞踊槍術、五月雨の舞がある。
上手く攻撃を見切ることができれば鮫の群れを殲滅できるだろう。
懸念があるとすれば、水中においては五月雨の舞独特の、高速の足捌きが発揮できないことだ。

(誰かが『鍵』を見つけるまでの間は引きつけたいな……)

扉には鍵穴らしき部分があったので、普遍的な形状をしていると思われる。
と、いってもこれだけいる冒険者。鍵開けの得意そうな者でも開けられていない辺り、
魔法の力によってロックが掛かっており、『鍵』はそれを解除する役割があるのだろう。

(……来た!)

鮫達が一斉に攻撃を仕掛けてきた瞬間、レインも五月雨の舞で対抗。
結果――攻撃は躱せたもののスピードが足らず、レインのカウンターは二匹に留まった。
深々と突き刺さった銛の一撃が鮫を水底へ沈めていく……。

(いけない。仕留め損なったか……!)

何度も避け切る自信はない。
慌ててマグリットの作ったシェルターに身を隠すと、
ランペイジシャークが手をこまねくように周囲を遊泳する。

かくしてレインの目論見は成功したのだろうか。
操られたランペイジシャークを引きつけるという彼の作戦がだ。
可能な限り派手に暴れてみたつもりだが……。

これで宝箱を探す隙/水上へ逃げる隙/マーマンを叩く隙は生まれたと思いたい。
問題は誰が『鍵』を見つけ出すのか、ということにつきるか。


【お待たせしました。レイン、潜水服を着て水中に飛び込む】
【ランペイジシャークを三匹撃破。時間稼ぎを狙ったつもりのようだ】
【現在はマグリットの作ったシェルターに隠れています】
0179創る名無しに見る名無し
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2020/12/06(日) 02:26:21.54ID:QsjhxDUs
シェルターはゆっくりと海溝を沈んで行く。
「おい、ミシミシ音がするぞ!大丈夫なのか?」
レインが不安げに問う。
ランペイ爺は強張った表情で大丈夫だぁと繰り返すだけである。
0180クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/12/06(日) 23:16:35.85ID:zIEH7YTx
ランペイジシャークやマーマンの襲撃を受けて一人、また一人と水中から姿を消していく冒険者達。
それを海底から遠目に見ながら、クロムは自分が台風の目の中にいるような感覚を覚えていた。

海底スレスレを這うように泳いで移動し、宝箱を開ける。それを繰り返すこと既に数十回。
その間、彼を襲うランペイジシャークやマーマンは一匹たりとも現れなかった。

勿論、クロム自身が敵の隙を上手く突いて行動しているというのもある。
常人よりも肺活量があり、長時間潜水していられるその肉体の特性が、発見されるリスクを軽減させているのも確かだろう。
だが、やはりお宝欲しさに水中に飛び込む命知らずな冒険者が後を絶たないのが大きいと言える。
魔物の視線は常に水面に注がれており、足元の海底には全く注意が向いていないのが見ていても分かるからだ。

(それにしても……どういうことだ?)

目に付いた最後の宝箱を開け、中にぎっしりと詰まっていた金貨を一攫い。
偽物ではない、確かな古代王朝のそれである数枚を掌の上で遊ばせながら、クロムは辺りを見回した。
もう宝箱は無い。少なくとも目に見える範囲の場所にあり、目に見える形で沈んでいるそれに関しては全て開けてしまった。
にもかかわらず次のステージに進むための“鍵”はまだ手に入れていない。

(水中のどこかに宝箱がまだ隠されているのか? それとも宝箱の中に鍵はないのか?
 だとすると厄介だな……。時間を掛けて海底をまるごと浚うしか方法はなくなるぜ……)

たまたま向けた視線の先では、レインがマーマンの群れに突貫し、数匹の鮫に逆襲されるという光景が展開されていた。
なるほどマグリットが言ったように、知能の高いマーマンが鮫を統率しているのは間違いなさそうである。
そして知能が高ければ海底の宝箱が片っ端から開けられているという異変に気が付くも時間の問題だ。
……ここは一旦、水上に出て仕切り直した方がいいかもしれない。

だが、クロムがそう考え、再び海底を移動しようとしたその時だった。

「ギギギ!」

眼前にマーマンが突然と現れ、間髪入れず銛が繰り出されたのである。
右の脇腹に痛みが走り、血が噴き出す。
反射的に腰を捻ったことで串刺しだけは免れたが、脇腹を抉られてしまった形だ。

(チッ! 気付かれたか! 今は一匹だが、いずれ血の臭いに気が付いてここに集まって来やが──)

それでもクロムは咄嗟に右手で銛を掴み、それを脇下に固定してそれ以上の攻撃を封じようと試みるが、それを見たマーマンは手を翳した。
自分の武器は何も銛だけではないというように。そう、彼らは水魔法が使えるのだ。
魔法陣が浮かび上がるその横で、マーマンの固い口元が一瞬、ニヤリと歪んだような気がした。

「──ギギッ!」

──もっとも、口元で一瞬笑みを浮かべたのは、クロムも同じだったのだが。
左で素早く剣を抜き、逆手で切り上げる形で刃を水中に走らせる。
距離は至近。手応えあり。水中で剣の走りは鈍く、一撃で絶命というわけにはいかなかったが、確かな深手だ。
血を噴き出すのは今度はマーマンの番であった。

だが、クロムの狙いはそもそも敵の命でもなければ、魔法を喰らう前に深手を負わせることでもない。
彼が狙ったのはマーマンの“首飾り”。
といってもそれはレインが身に着けようとして風化してしまったものとは全くの別物だ。
年代物を思わせる茶色い“鍵”に、紐を通して首に掛けただけの、いわば首飾りに見せかけただけのシロモノ。
それが何を意味するか。後は直感である。

(探したって無ぇわけだ。まさかマーマン《お前ら》が持ってやがったとはな!)

切断された紐からするりと落ちる鍵を握り締め、クロムは自らの後方を確認する。
そして体内に残されたありったけの酸素を用いてその視線の先の海底にいるマグリットに向けて叫ぶのだった。

「怪しげな鍵を手に入れた! とりあえず脱出するぞ! レインにも伝えろ!」
0181クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/12/06(日) 23:21:47.47ID:zIEH7YTx
水中だから相手が人間なら何を言っても伝わらないだろうが、貝の獣人ならば上手く聞き取ってくれるだろう。
これでこの水中でクロムができることは全てやった。
後はマーマンやランペイジシャークの群れを突破して脱出するだけだが──それは水魔法が叶えてくれる。

魔法を発動し掛けたマーマンは深手を負っただけで、絶命したわけではない。
つまり魔法は依然、生きているのだ。故にクロムはこの場に留まる限り、それを思いっきり食らうことになる──。

(ぐっ──!!)

圧倒的水圧がクロムに直撃し、その肉体をあっという間に海底から海上へと弾き出す。
『反魔の装束』によって威力が軽減されていなければ肉体はボロ雑巾のように翻弄され引き千切られていたに違いない。
しばし仰向けの格好で空中を舞っていたクロムだが、地面が近付くのを見て体を捻り上手い具合に足から着地。
瞬間、「おお!」と、辺りがどよめいた。
そこは丁度、水道橋の露店が並ぶ場所であった。

「ふぅぅぅ〜〜〜〜! 計算通り……と必ずしも言えねぇのが悔しいところだが、しょうがねぇ」

大きく深呼吸しながら手を突っ込んだポケットの中には、回収した筈の財宝は入っていなかった。
どうやら水魔法で吹っ飛ばされた衝撃で多くを水の中に落としてきてしまったらしい。
まぁ、元々開けた宝箱の中身を全て回収してきたわけではないし、物理的にもそれが可能だったわけでもない。
なので手ごろな大きさの装飾品をいくつかくすねてきた程度だったのだが、それすら大半が失われるのは計算外であった。
それでも懐に仕舞っておいたお陰で無事だった古代王朝の金貨は、一枚だけで100ゴールド以上の価値はあるだろう。

「へぇ〜! 兄ちゃんやっぱタダ者じゃねぇな! 化物がうろつく水の中からド派手に登場するんだもんなぁ!」

と、驚嘆の声を上げたのはあのむさい商人《オヤジ》。
クロムは彼の前にずかずかと出ると、手に入れた金貨四枚を全て叩きつけて唸るように言った。

「古代ペトロ王朝の大金貨四枚! こいつとさっきの盾を交換してくれ!」

「あ、あぁ……。ま、まぁ落ち着きなよ! 確かにこいつは貴重なモンだが……」

「100ゴールドって言ってただろ? どう見てもこの金貨の価値はそれ以上だがまだ不満があるのか?」

「い、いやぁ……そういうわけじゃねぇんだが……その……ついさっき売れちまって」

「……なに?」

言い難そうに頬を掻くオヤジの視線を追っていくと、そこには一人の青年の後姿が。

「あいつは……」

思わず呟くと、オヤジは溜息に似た声で頷いた。

「『シナム』って言やぁお前さんも聞いたことがあるだろう? そいつに一足早く持ってかれちまったんだよ。
 俺も先客がいるとは言ったんだが、何せ強引でなぁ。逆らってもいいことねぇしよ、ああいう輩には」

「……妙だな」

「ああ、今日は本当に妙な日だぜ。あんな拾いモンのボロボロの盾を買うって物好きが二人もいるなんてよ」

「いや、そういう事じゃなくてだな。
 ……まぁいい。盾の代わりにこいつを持ってくぜ。金貨を持っててもこのダンジョンじゃ使い道がなさそうなんでね」

「あ、それ……」

一瞬、戸惑うような表情を浮かべるオヤジを一瞥し、クロムは遠のいていくシナムの背中を改めて見やる。
0182クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/12/06(日) 23:25:03.65ID:zIEH7YTx
……何も知らずに買った、とは思えない。
何も知らなかったにしても、わざわざ見た目がボロボロの盾を買う合理的な理由がない。
つまり……恐らくこれは確信犯。
彼は知っていたのだ。盾の正体を。盾が呪われているということを。それを承知の上で敢えて買ったのだ。
しかし何故だ? 呪いの装備品は“人間”にコントロールできるシロモノではない筈だが……。

「……マーマンの一体が首飾りにしてやがった。これで扉が開かなきゃ、もう一度潜るしかないな」

クロムは水から上がってきたレインに回収した鍵を投げつけ、続いて『ビキニアーマー』をマグリットに投げつける。

「そいつは古代金貨と同じ価値がある高級品だが、女しか身に付けられないそうだからお前にやるよ」

無論、これは彼なりの冗談である。
しかし言いながらふとエイリークから聞いた話を思い出していた彼の顔には、冗談を言う雰囲気ではない神妙な色が滲んでいた。

『初心者狩りの三人は、全員がレベルの高い実力者』

(実力者……といっても、どうも“ただ”の実力者ではなさそうだ……)

【鍵と財宝の一部を回収して水上へ。鍵をレインに、金貨の代わりに得た装備品をマグリットに渡す】
【呪われた盾はシナムが購入。どうもただの実力者ではなさそうだとクロムは見るが……】
【マーマンとの戦闘で脇腹を負傷するが、軽症】
0183なh
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2020/12/07(月) 05:15:18.33ID:j8gf8ckG
しかし水中8000マンメートルである。
流石のクロムもペシャンコに圧壊してしまう。
0184マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/12/12(土) 20:48:16.68ID:13lZfQK1
ランペイジシャークを一体撃退
倒さずとも血を流させれば血の匂いに引かれ、サメ同士の同士討ちが始まると踏んでいたのだがそうはいかなかった
遠巻きにしているマーマンが統率をしているのかも?という疑念は後から入水してきたレインの行動により確信に変わる

マーマンに攻撃の矛先が向かうと即座にランペイジシャークの隊列は標的を変えレインに殺到するのだから
人間とは本来陸上性の生き物であり、水中においてはその機能を著しく低下させる
むろん運動性能や戦闘力の低下は言うまでもなく、五匹の突進を受けるという事は絶体絶命を意味する

慌てて助けに入ろうとするも、貝の獣人の悲しさか
水中での呼吸に不便はないし、運動機能も人間よりは機能するが、鉄の肌を持つが故の重さの為に浮上という点においては機動力を大きく落とす
間に合わずただ見守るしかできなかったのだが、だからこそレインのその動きをマグリットはしっかり見る事ができた

水中においても見事な体捌きでサメたちの同時攻撃を躱し、なおかつうち二匹にカウンターを叩き込んだのだから
思わず戦いの中である事を忘れて歓声を上げてしまうのだが、そこにクロムの声が届く

>「怪しげな鍵を手に入れた! とりあえず脱出するぞ! レインにも伝えろ!」
「……!わかりましたってええ!?」

声の方向を向くとクロムが腹から血を流し、更に瀕死のマーマンの水魔法が発動する直前であった
急いで助けに入ろうにもクロムとの距離は開いており、それ以上に魔法の発動の時間は絶望的に短い
手を伸ばすだけで何もできないままクロムは水魔法に押し流されていく
もちろんこれはクロムの周到に計算された「狙い通り」ではあるが、それを見守るしかできなかったマグリットの心情は穏やかではない

貝の獣人として、水中戦においては一歩先んじるつもりであったのだが、レインの助けにもクロムの守りもなれなかった不甲斐なさに歯ぎしりをしながら海底の貝殻シェルターへと降り立つ

「レインさん、クロムさんが鍵を見つけたようです。
これから浮上させますのでじっとしていてくださいね!」

そういうや否や巨大な巻貝を中身のレインごと持ち上げ、咆哮と共に海面に向かって投げ放った
その勢いはすさまじく、一気に海面を飛び出しそのまま橋に打ち上げられた

「みなさん、鍵は見つかったようです
援護しますので浮上したい方はこの機に脱出してください!」

海中にマグリットの声がこだまし、それと共に次々に巻貝が海底から射出される
貝殻シェルターに隠れていた冒険者や、射出の勢いにサメが寄ってこないのを見て次々に陸へと上がっていく冒険者たち

全ての貝殻を投げ終わり、あらかたの冒険者がいなくなったのを見てマグリットも海底を蹴り、ジェット推進も使い海面へと向かう
のだが……海中にほとんどの冒険者がいなくなったことで狙われる確率も高くなる
海面近くになったところでランペイジシャークがマグリットの足に喰らいついた
その鋭い牙は鉄の肌を突き破り、血を噴出させそのまま引きずり回し始めるのであった
サメの回遊速度は速く、足を咥えられた状態では体勢を整える事も難しく反撃ができずに引き回されるだけであった
0185マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2020/12/12(土) 20:54:03.85ID:13lZfQK1
暫くして海面にはどす黒いシミが広がり、サメが腹を見せて浮かび上がった

「ふぅ、私に噛みつき攻撃とは自殺行為ですよ」

サメの腹を足場にして海上に姿を現し橋へとよじ登った
貝は生体ろ過装置ともいわれるように毒素を吸収し浄化する能力がある
しかし吸収された毒は分解浄化されるわけではなく、体内に蓄積され貝毒となりその肌を染めていく
マグリットの肌が褐色なのはそれだけ毒を蓄積している事を表しているのだから
噛みつきその血を飲むという事は、そのまま服毒行為となるのだ

橋に上がっるとクロムから何やら投げつけられ反射的にそれを受け取り見てみると、ビキニアーマーがその手の中にあった

>「そいつは古代金貨と同じ価値がある高級品だが、女しか身に付けられないそうだからお前にやるよ」

「も、もう、嫌ですよぅ。私なんかにこんなの似合う訳ないのに
まあ、お気持ちとして頂いておきますが、それより水魔法をまともに食らっていましたね?
平気そうな顔していますけど、っちゃんと見てましたよ
お腹も銛に刺されているようですし、直ぐ治療しますから大人しくしてください!」

顔を赤らめながらビキニアーマーを懐にしまい込み、クロムの腹に手をかざし祈りを捧げ始める
それほど信仰心の高くなりマグリットの回復魔法がこの呪われた島でどれだけの効果を発揮するかは不明であったがそれでもやらずにはいられない

いつもならば淡く光傷を癒していくのだが、マグリットの手からは眩いばかりの光が満ち溢れ、急速にクロムの傷を癒していく
それどころではなく、マグリットの負傷した足も見る見るうちに傷がふさがり完全回復したのだ
マグリットの回復魔法ではありえない回復力だが、その原因は一目瞭然、いや、一聴万解
それは周囲に響く清らかな歌声にあった

「これが……噂に名高いカリヨンベル(大聖堂の鐘)ですか……!」

歌声の主は聖歌のマリアである
歌声の届く範囲の呪いを払い、加護を与えるその効果を身を持って体験したのだった

「あなたたちの戦いは見させてもらいました。勇敢なる者たちへ祝福を」

歌だけでなく流れる言葉も涼やかなマリアにマグリットは橋に投げ上げられた巻貝を一つ差し出した

「ありがとうございます
教会に身を置くものとしてあなたの御高名はよく聞いておりました
この探索が終わったら一度ゆっくりとお話させてください
とりあえずこちらはお礼という事で」

巻貝をひっくり返すと中から古代の金貨や宝石がボロボロと零れ落ちる
マグリットが財宝周りに巻貝を生成し設置していたのはもちろんシェルターにするためではあるが、それ以外の目的も担っていたという事なのだ

「まあ、私たちは冒険者ですし、意地も信仰も目的も先立つものがあってこそという事ですよ」

そう笑いながらレインにウインクをする
レインは知っていただろう、貝殻シェルターに潜り込んだ際にその奥に財宝を掻き込まれていた事を
そしてその状態で投げつけられたのだから多少痛い目に遭っていたかもしれないが、活動資金の確保という事で
十個近く打ち上げられた巻貝からの回収作業が始まるのだった

【巻貝事レインを海上に投げ上げる】
【他冒険者の浮上を援護しサメに噛みつかれるも毒血により撃退】
【橋の上で聖歌のマリアの歌により回復】
【投げ上げた巻貝の中に財宝を掻き入れていたのを回収】
0186創る名無しに見る名無し
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2020/12/13(日) 01:52:27.59ID:tek8ROsl
「あっしまった。宝石を持ってくるのを忘れてしまった。」
マルグリットは再び海底へと引き返す。
0187れいん
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2020/12/18(金) 00:49:41.67ID:ut/lMwS3
てすと
0188レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/12/18(金) 00:50:53.75ID:ut/lMwS3
逃げ込んだ貝のシェルターにはいくつもの煌びやかな財宝が眠っていた。
どこかのタイミングでマグリットが忍ばせていたのだろう――。
真珠の装飾品をはじめとするお宝の数々はまさに宝石箱や。

>「レインさん、クロムさんが鍵を見つけたようです。
>これから浮上させますのでじっとしていてくださいね!」

「むぐぐ!」

マグリットの声が響くや、もの凄い勢いで投擲される。
結果として水道橋にごろんと横たわるレイン・イン・貝シェルターなのだった。
命からがら、貝殻から這い出てくると潜水服を脱ぎ捨てた。

「はぁ、良い水中戦の特訓になったよ……そっちはどうだった?」

>「……マーマンの一体が首飾りにしてやがった。これで扉が開かなきゃ、もう一度潜るしかないな」

投げつけられた鍵をキャッチして、鈍く光るそれを眺めるレイン。
クロムは続けてビキニアーマーをマグリットに投げつける。

>「そいつは古代金貨と同じ価値がある高級品だが、女しか身に付けられないそうだからお前にやるよ」

冗談を言うだけの余力はあるものの、それに反してクロムは負傷していた。
とはいえ、マグリットの回復魔法に頼る訳にはいかないだろう。
忘れそうになるがこの島では『呪い』で魔法が使えない。
正確には魔法を使うと呪いが発動して魔法を封じ、魔力を吸われていく。

レインも今は"聖歌の"アリアの力で解けているものの、呪いに罹っている身だった。
それでも今一度魔法を使えば即座に呪いが発動することだろう。

なればと気を利かせて懐から薬草を取り出したが、水に濡れたのかびっちゃびちゃだ。
レインはそれを少し眺めて、無言で懐にしまいこんでいると、水道橋に歌声が響いた。
その清らかな響きはレインが聴いた『浄解の聖歌(ピュリフィアンセム)』と同じ声。
異なっている点はその曲調だ。

>「も、もう、嫌ですよぅ。私なんかにこんなの似合う訳ないのに
>まあ、お気持ちとして頂いておきますが、それより水魔法をまともに食らっていましたね?
>平気そうな顔していますけど、っちゃんと見てましたよ
>お腹も銛に刺されているようですし、直ぐ治療しますから大人しくしてください!」

その歌が発揮する効き目を理解しているのか、マグリットは迷わず回復魔法を行使。
クロムの負傷がみるみる回復していく――いつも以上の回復速度。
0189レイン ◆IiWdxl1r76
垢版 |
2020/12/18(金) 00:52:45.41ID:ut/lMwS3
その原因は、水道橋に響く歌声にあるのだろう。
やがて歌が終わると、その主は透き通るような声で言った。

>「あなたたちの戦いは見させてもらいました。勇敢なる者たちへ祝福を」

冒険者の一人、"聖歌の"アリアである。
彼女の『聖歌』は、魔法を封じる空間でも遺憾なく効果を発揮する。
なぜならこれは魔法ではなく、彼女が生まれつき持つ『特技』なのだ。
光の波動に由来するこの力はまさしく勇者顔負け、天賦の才である。

>「ありがとうございます
>教会に身を置くものとしてあなたの御高名はよく聞いておりました
>この探索が終わったら一度ゆっくりとお話させてください
>とりあえずこちらはお礼という事で」

マグリットは打ち上げられた巻貝のひとつをアリアに差し出した。
レインはもう見ているので驚くこともないが、中身は海中の財宝だ。

>「まあ、私たちは冒険者ですし、意地も信仰も目的も先立つものがあってこそという事ですよ」

アリアはおずおずとそれを受け取ると、十字架の首飾りを握って微笑んだ。

「こちらこそ、なんとお礼を言えばいいか……。
 私でよろしければ後でお話致しましょう」

十個近い巻貝から財宝の回収を終えるとさっそく扉へ向かった。
全部集めると結構な量になるので、レインが持ち運ぶ係を申し出た。
リーダー(ざつようがかり)として自分の役目だと思ったからだ。
道具袋がパンパンである。

「まるで成金だよ。他の冒険者の目が怖いくらいだ……。
 この稼業は金に縁があっても奪われる可能性があるからなぁ……。
 盗賊とか、初心者狩りとか。疲弊した隙を突かれたりしてね」

レインはこう言いたいのだ。例えボスを倒したとしても、無事に帰るまでが冒険だ。
最後の最後まで何がどう転ぶかは分からない。誰と戦うかも含めて、だ。

「ほう、本当に鍵を見つけ出したのか。勇者は仲間に恵まれとるようじゃのう。
 ……くれぐれも追い越されないように気をつけることじゃ。儂とか、儂とかにのう」

壁画の前で未だ解読を続けていた"斧砕きの"ドルヴェイクがそう冗談を言った。
さて、扉に鍵をさすと、がちゃり、という大仰な音が響いて扉が開き始める。
――クロムが見つけた鍵はまさしく扉の鍵だったようだ。最深部への道が開かれる。
0190レイン ◆IiWdxl1r76
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2020/12/18(金) 00:54:41.16ID:ut/lMwS3
遺跡の最深部探索はまさしく迷宮に等しく、同じような道をひたすら潜ることになった。
どこもかしこも呪いで吸った魔力の流れ道が通っており、三人はここが終点なのだと悟った。

そして辿り着いた場所――それは水槽のように巨大な空間。
レイン達は外周部の縁に立っており、うっかり足を滑らせると水槽内に落っこちそうだ。
水槽は吸った魔力を大量に含んだ海水で満たされていて、ぼんやりと翡翠に輝いている。

貝の獣人が儀式に使っていた空間は島の中枢付近に存在していたが、ここはまさしく中枢だ。
それを示すように水槽の中には、この島のボスにして人魚の主たる魔族、ダゴンがいた。

「大きい……!何メートルあるんだ……!?」

アメトリンキマイラが五メートル程だったが、ダゴンの全長はその三倍くらいある。
重力に支配されない海という領域が、かの魔族をそこまで巨大化させるに至ったのだろうか?
侵入者に気づいたダゴンは眠りから目を覚ますと、その鋭い目でレイン、クロム、マグリットを睨む。
そして水槽から半身を露出させると、威厳ある深みをもった声でこう喋った。

「侵入者か……ここまで来て、よもや生きて帰れるとは思うまいな?
 ようやく封印から解き放たれたのだ……失われた時間を取り戻す邪魔は許さん。
 全ての海は我のもの!その海に漂う船も、財宝も、また我のものだ!」

魔物のマーマンよりも高度な知能をもつ魔族・ダゴンは人語も解するらしい。
これほどまでに強欲な魔物だ。サマリアの領海で魔物に荒らさせていたのはダゴンだろう。
背負っていた銛を抜き放って、臨戦態勢に入るレイン。
冒険者とダンジョンのボスが出会えばこうなるのは最早必然である。

「誰が封印を解いたのかは知らないが……大人しくしないなら、倒すまでッ!」

ダゴンは何かに気付いたらしく、頬を撫でながら面白そうに呟いた。

「ほぉ、貴様が"召喚の勇者"か……聞いた通り、これほども光の波動を感じぬわ。
 ラングミュア様もおかしなことを言うものだ……借りは返さねばな。貴様を殺すなど造作もない!」

再び水槽内に潜ると、ダゴンは背中に生えた海竜の如き触手をレイン達へ放った。
太くしなる鞭のようなそれは水の波動を纏って、三人を纏めて薙ぎ払うように迫る。

「仲間のことも知っているぞ……特に貝の獣人!
 我が封印されている間、この島で好き勝手してくれたな!
 一族もろとも滅ぼしてくれようぞ!覚悟するがいい……!!」


【島の中枢に一番手で到着。ダゴン(中ボス)と戦闘開始】
【水槽内に逃げつつ水の波動を纏った触手で全員に薙ぎ払い攻撃】
【余談ですが水槽内の水に浸かったり飲むと魔力が回復します】
【なので実質的にダゴンの魔力は無尽蔵ということになります】
0192クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/12/31(木) 00:42:54.93ID:Ek7K2cbu
傷口に手を翳し祈りを捧げ始めるマグリット。
祈りは、回復魔法を発動させる為の重要な儀式であって、本来ならばその厚意は黙って受け取っておくべきところだが、今回は事情が異なる。
魔法を封じられた呪いの島にあって、しかも当のクロムは魔法効果を半減させる衣に身を包んでいるからだ。

「薬草で何とかなる。お前は魔力を温存して……」

魔力を無駄に消費させ、それが後々パーティの行動にも影響を与えかねないとすれば、黙っている訳にはいかない。
クロムは彼女の行為を止めさせようと口を開く。

「……な」

が、言い終えるより先に、クロムは押し黙ることになる。
傷口が瞬く間に全快してしまい唖然とする他はなかったのである。
この理解を超えた光景を現出させた“タネ”をクロムが理解するまで、しばしの時間が必要であった。

>「これが……噂に名高いカリヨンベル(大聖堂の鐘)ですか……!」

ややあって二人の前に現れた人物は、マグリットに感嘆の声を上げさせた。
“聖歌のアリア”──。
どうやら彼女はその歌声だけで、クロムの、そしてマグリットの負傷を、同時にかつ高速で治してしまったらしい。

(そうか……彼女の歌声はあくまで特技。
 高位の回復魔法に匹敵する力も魔法でなければこの島の呪いも衣の呪いも無視できる……こいつは利用できそうだな)

マグリットがお礼と称して橋に打ち上げた巻貝の一つをアリアに差し出し、残りをレインが回収していく。
中身を直接確認したわけではないが、巻貝の穴から零れ出る輝きを見て、クロムには何となく想像がついていた。
だから思わず苦笑いを浮かべる。

「ったく、俺はほとんど落としちまったのに、抜け目のなさ《強欲さ》じゃ一枚上手が居たってわけか」

────。

鍵を開け、魔力の流れを追って更に奥へと進み、やがて辿り着いた最深部。
そこは巨大な化物人魚《ダゴン》が浸かる巨大な水槽が設けられた空間であった。
水槽を満たす液体からは潮の香りがするものの、見た目にはぼんやりとした輝きを放っており明らかに海水とは別物と化している。

ここが魔力の流れの終着地点という事を考えると、輝きの正体は魔力と見て間違いない。
ならばダゴンが浸かる液体は魔力回復の効果を持つアイテム『魔法水』と同じということになるだろう。
0193クロム ◆gkBBhaTSK6
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2020/12/31(木) 00:48:52.25ID:Ek7K2cbu
>「侵入者か……ここまで来て、よもや生きて帰れるとは思うまいな?
> ようやく封印から解き放たれたのだ……失われた時間を取り戻す邪魔は許さん。
> 全ての海は我のもの!その海に漂う船も、財宝も、また我のものだ!」

(しかし……見た感じ相当高濃度の魔力で“汚染”されてやがるな、この水は。
 人間が長時間浸かれば廃人と化す危険もある……こいつは迂闊に飛び込まねー方が良さそうだが……)

鯉口を切り、柄に手を掛けながら、クロムは左右に目を配り思考を加速させる。
リーチの長さでは圧倒的に有利な敵に対し、できるだけ水には触れず、どうやって致命のダメージを負わせたものかと。
だが、ここは無慈悲な戦場。敵も都合よく待ってはくれない。
プランをまとめるより先に、かつてのタコと同様の触手攻撃が繰り出されたのだ。
もっとも、そのスピードは明らかに桁違いだが。

「チッ──ボスの癖してサービス悪ぃな! こっちがいいよと言うまで待ちやがれ!」

それでもクロムはそれ以上のスピードをもって右手でレインを、左手でマグリットを掴んで空中にジャンプ。
紙一重の差で触手を避けてみせる。
勿論、二人の経験と実力があれば、別に助けを必要としなかったかもしれないことはクロム自身承知の上である。
彼は二人を敢えて伴うことで、とにかく大雑把でも当面の方針だけでも共有する時間を作りたかったのである。

「時間がねーから簡潔に言うぜ。
 あのデカブツを倒す──とまでは流石に行かねぇだろうが、とりあえず大ダメージを与える方法だけは思いついた!
 いいか、まずは何とかしてあの野郎の顔面を水の中から引きずり出してくれ! 方法はお前らに任せ────くそ!」

視界の端で捉えた巨大な影は、クロムに掴んでいた両手を離させ、更に自由となった二人の体に蹴りを入れさせた。
何故なら巨大な影は別方向から迫り来るもう一つの触手。
蹴られたことで二人の体は地面に向けて急降下し、逆に蹴ったことで推進力を得たクロムの体は更に上へと加速する。
これは三人が一纏めに薙ぎ払われる最悪の事態を防ぎつつ、三人とも攻撃軌道から外れて無傷で切り抜けることを企図したクロムの最善策。

「──がっ!!?」

しかし、如何に機転を利かせた最善策を捻り出したとしても、事前の見積もりが甘ければ最善にはなり得ない。
落下した二人は紙一重で攻撃軌道から脱したが、クロムは脱しきれずに触手に弾かれ凄まじい勢いで壁に叩きつけられたのだ。
減り込んだ壁の中で、あたかも体内で地震が発生し内臓が悉く裏返ってしまったかのような強烈な吐き気を覚えたクロムは、盛大に胃液を逆流させる。

(くそっ……馬鹿力め! 骨が全部砕けたかと思ったぜ……!)

口の中が切れているわけでもないのに、吐き出した胃液に鮮血が混じっているのは体内がダメージを負った証拠だ。
それでも意識がしっかりあり、尚も体を動かすのに不自由がないということは、まだ危機的状況にはないという事でもある。
戦闘は続行可能──だが今は動かない。

本体は視界の悪い水の中。
更に触手もでかいだけあって壁に減り込んだ小さい人間を流石にどうこうできるほどの器用さはないらしい。
皮肉なものだが、強烈な攻撃を喰らったことで現在のクロムの体はちょっとした安全地帯に在るのだ。

位置的にも水槽を見下ろせる場所であり、敵もレイン達の動きも把握しやすい。
動くのは二人が敵の顔面を水の上に引きずり出したその時。
──薬草でダメージの回復を図りながら、今はその時を待つのが賢明なのだ。

「早くその間抜けヅラを出してきやがれ。触手のお返しに強烈な一発をくれてやるぜ……!」

【触手の一撃目を躱すが、二撃目を躱せずに直撃を許し壁に叩きつけられる】
【大ダメージを与える策があるらしく、レインとクロムにダゴンの顔面を水の中から引きずり出すことを依頼】
0194マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/01/10(日) 20:14:11.80ID:du8/KhY5
漸く辿り着いた島の中枢
そこにはほの暗く光る水を称えた巨大な水槽、いや、この巨大さはもはや巨大なプールと言っていいのではないだろうか?
数十メートルにも及ぶ水槽の縁に立ち水に手を入れるとわかる
それが濃厚な魔力を含んでいる事を

「これが……この島の呪いの源、なのでしょうね
どれだけの期間魔力を吸い続ければこの濃度になるというのでしょか
魔力を回復させるでしょうが、人の身では魔素中毒になりかねません」

三人についてきた他の冒険者たちが喜び、飲もうとするのを牽制するように言葉を発するマグリット
そしてもちろん、ただ単に濃厚な魔力を含んだ水を称えるためにこれ程巨大な水槽があるわけでもなく
水面が大きく盛り上がり、そこから出てきたのは扉に描かれていた巨大な魔物、ダゴンであった

>「ほぉ、貴様が"召喚の勇者"か……聞いた通り、これほども光の波動を感じぬわ。
> ラングミュア様もおかしなことを言うものだ……借りは返さねばな。貴様を殺すなど造作もない!」

水面から出ている部分だけでも10メートルを超えているであろう
両脇に突き出る巨大な触手も相まってかそれ以上に大きく見える
実際に水面下にどれだけの大きさが沈んでいるか分かったものではない巨大なダゴンが睥睨しながら言葉を紡ぐ

「……レインさん、名指しされていますよ、知らぬところで有名になっているようですね
それにしてもラングミュア【様】ですか、それって……」

ダゴンの言葉を分析しながら、レインなどこかしらで抹殺指令を受けるほどになっていた
これ程の魔物の眠りを覚まし、抹殺指令を出せるほど高位の魔物が絡んでいる
となれば、心当たりで言えばやはり魔王軍、猛炎獅子との戦いくらいしかない
ただの海域の魔物討伐が魔王軍に繋がっているとは、やはりレインは何かしらの定めを持っていると再確認するマグリットであった

>「仲間のことも知っているぞ……特に貝の獣人!

「あ、あら?私も名指し?しかも一族ごと!?
お怒りは尤もで、利用させてもらった事についてはお礼を言いたいところですが、お互いの立場の違いもありますのでね
恩を仇で返さざる得ないですがお許しください」

煽るつもりはないのだが、結果としてダゴンの怒りを燃え上がらせてしまったのであろう
巨大な触手が三人まとめて薙ぎ払わんと振るわれる

単純な質量としても、纏った水の気にしても流石にこれを受けるわけにはいかず、飛び退いて回避しようとするもそれより早く情報に引っ張られた
隣を見ると同じく引っ張られるレイン
下方はすさまじい勢いで先ほどまでいた場所を薙ぎ払う巨大な触手
そして上には二人を引っ張り上げ跳躍するクロムがいた

>「時間がねーから簡潔に言うぜ。
> あのデカブツを倒す──とまでは流石に行かねぇだろうが、とりあえず大ダメージを与える方法だけは思いついた!
> いいか、まずは何とかしてあの野郎の顔面を水の中から引きずり出してくれ! 方法はお前らに任せ────くそ!」

「了解です」と答える前に今度はクロムによって下に蹴り飛ばされた
第二の触手が追撃を繰り出し、そこから二人を逃がすために緊急回避させたのだ
だが当のクロムは躱しきれず、吹きとばされて壁に叩きつけられたのが見えた
0195マグリット ◆jNSAPJmKA/Ms
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2021/01/10(日) 20:16:25.52ID:du8/KhY5
「……っ!ク、クロムさん大丈夫、ですよね?」

隣に着地したレインに言葉と目で訴えかける
大丈夫、と言ってほしくて
動揺の隠しきれないマグリットだが、それでも何とか為すべき事に一歩踏み出す

「さ、幸いな事にレインさんは抹殺指令出されていますし、私は個人的に恨まれているようですし、囮にはもってこいですね!
顔を出させるためには触手じゃ埒が明かないと思わせること、水面で届きそうな場所で攻撃を誘う事がよろしいかと
私が足場を作るので、レインさん、お願いできますか?」

そういうマグリットの両前腕部から幾重にも重なった巨大な二枚貝の貝殻が創出される
それは盾であるが水面に浮かべれば足場となり、投げれば空中の足場となるだろう
レインの舞踊槍術の身のこなしであれば、浮いたり投げられたりする貝殻を足場にしても落ちることなく立ち回る事ができるであろうという目論みだった

数枚の貝殻を各所の水面に設置し、レインの動きに合わせて次なる足場となるように投げつけるのであった

しかしそんな無防備な状態をそのまま見逃すわけもなく、巨大な触手が打ち付けられる
迎撃するマグリットのシャコガイハンマーだが、触手はいわば軟体
打撃の衝撃波拡散されうち払うのは至難、ではあったが、触手はそのまま弾かれ飛んでいった
撃ち返したマグリット自身も驚いたのだが、その原因はすぐに分かった

「まだまだ詰めが甘いの
鍵を開けてもらった分くらいの借りは返してやるぞ」

マグリットの傍らに煌めく斧をふるう斧砕きドルヴェイクがいたのだから
中央部分で触手は斬り払われており、切り離された先端部分だけだったからはじき返すことができたのだった

「ドワーフさん!ありがとうございます!
これでレインさんの援護に集中できます!」

安全確保ができたところで、レインの動きに合わせ、足場となる貝殻を供給するために投げ続けるのであった

【レインに水槽水面上での囮役を依頼】
【レインの足場となる貝殻供給】
【ドルヴェイクが触手を一本切断】

『あけましておめでとうございます。遅ればせながら投下です。今年もよろしくね』
0196レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/01/11(月) 19:38:26.64ID:2o8Vq8uL
放たれた大振りの薙ぎ払い攻撃がパーティーを蹂躙せんと迫る。
あわや命中かと思われたそのとき、クロムに掴まれ大跳躍。触手の一撃目を回避する。

>「時間がねーから簡潔に言うぜ。
> あのデカブツを倒す──とまでは流石に行かねぇだろうが、とりあえず大ダメージを与える方法だけは思いついた!
> いいか、まずは何とかしてあの野郎の顔面を水の中から引きずり出してくれ! 方法はお前らに任せ────くそ!」

だが、二本目の触手による攻撃が続けざまに放たれた。
クロムはマグリットとレインに蹴りを入れて攻撃の射程外へと脱出させる。
上手く水槽の縁に着地すると、レインの目に飛び込んだのは壁面に叩きつけられたクロムの姿だった。

>「……っ!ク、クロムさん大丈夫、ですよね?」

同じく着地したマグリットが動揺した様子でそう言った。
気を落ち着かせるように、レインは努めて冷静に言葉を切り返す。

「大丈夫。クロムはこの程度で死なないさ。俺達は俺達の役割を果たそう」

むしろ、攻撃を食らい壁面にめりこんだおかげで追撃の心配もない。
後ろを気にせず戦えるというものだ。

>「さ、幸いな事にレインさんは抹殺指令出されていますし、私は個人的に恨まれているようですし、囮にはもってこいですね!
>顔を出させるためには触手じゃ埒が明かないと思わせること、水面で届きそうな場所で攻撃を誘う事がよろしいかと
>私が足場を作るので、レインさん、お願いできますか?」

「よしきた、それでいこう!必ず奴を引きずり出してみせるよ」

敵の目下の標的は自分とマグリット。ならば彼女の作戦に乗らない手はない。
マグリットが創った貝が水面に設置されると、レインはそれに飛び移って触手を撹乱しはじめた。

海竜の触手は巨大ゆえに当たれば大ダメージは免れないだろう。
……が、そのでかさが仇となって動きは読みやすい。
水の波動を纏っていることもあり、魔力の動きも手に取るように分かる。

だが、触手は二本。貝を水面に投げ込むマグリットを潰す攻撃もまた容易。
触手の片割れは標的をマグリットに定め、ごう、と勢いよく迫る。

「マグリット、だいじょ――」

レインが言葉を言い終えるより早く触手は迎撃された。
なんと入り口から小男が颯爽と躍り出て、斧で触手をぶった切ったのだ。
0197レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/01/11(月) 19:41:23.51ID:2o8Vq8uL
小男の顔には見覚えがあった。
そう、あのどこか優しい顔立ちをした髭面の男は――。

「……"斧砕きの"ドルヴェイクさん!」

>「まだまだ詰めが甘いの
>鍵を開けてもらった分くらいの借りは返してやるぞ」

二番手に到着したドルヴェイクが戦闘中と見るや助太刀に参戦してくれたのだ。
しかし、あれほど太い触手を両断してしまうとは。異名に違わぬ豪腕の持ち主だ。

残る触手は一本だけだ――と思った矢先、触手の先端にある海竜の口が開く。
そして、その口部から巨大な水弾を発射した。放たれたのは中位水魔法『アクアカノン』。
下位魔法『アクアショット』の上位互換に当たる魔法である。

「うおわっ……攻撃パターンが変わった!?」

考えてみれば敵は魔力が回復するのだから、魔法に糸目をつける必要はない。
が、レインも飛び石のように貝から貝へと移って水の砲弾を避けていく。
隙を見て肉薄すると、海竜の口に思い切り銛を突き刺した。
下顎まで突き抜けた銛は、返しがついているので容易には外せない。

一撃で触手を両断するような膂力は純人間のレインにはない。
だが、これで水弾を封じ、ほどほどにダゴンをイラつかせられたはずだ。
触手をブン回したくらいでは自分に当たらないこともそろそろ理解しているだろう。

苦しむように藻掻きのたうつ触手を見届けて後方の貝へと飛び移る。
すると水槽内のダゴンは怒りを滾らせた鋭い形相で徐々に水面へと近づいてきた。

「触手なんかじゃ俺達は倒せない。さあ来い……!」

ダゴンの巨体がレインの足元に浮かび上がる。
遂にその顔を、人魚を統べる魔族の姿を水槽から露出させるに至る。
猛烈な勢いのあまり、魔力を含んだ水面は大きく揺れ、軽い津波となって襲った。
0198レイン ◆IiWdxl1r76
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2021/01/11(月) 19:45:48.71ID:2o8Vq8uL
翡翠に輝くそれは魔力濃度の高すぎる魔法水だ。
浴びるのはもちろんうっかり飲んでしまえば碌なことにならない。
慌てて水槽の縁目指して跳躍。その直後――。

「う、うおわ――――」

ダゴンは水面を大きく持ち上げると更に津波を生み出し、
水面を飛び回っていたレインと、水槽の縁にいるマグリットとドルヴェイクを攻撃した。
この攻撃の影響を唯一受けなかったのは、壁にめりこんでいたクロムだけであろう。
何せあの巨体だ。魔法ですらない『ただの動作』がイコール攻撃に繋がるのだ。

もみくちゃに押し流され、壁面に強かに身体を打ちつける。
高濃度の魔法水をモロに浴びたレインは魔力の回復と毒に酷似したダメージを同時に受けた。
急速に身体が痺れ、動きが鈍るのを感じる。この状態では舞踊槍術もまともに使えないだろう。

「ぐっ……しまった……こんな単純な手を食らうとは……。
 でも厄介な一手だ、魔素中毒は毒消し草じゃ治せないからね……」

ぐっしょりした姿で剣を杖代わりに立ち上がる。
一方ドルヴェイクは斧をその場に突き刺し、腕力で無理矢理縁に踏みとどまったらしい。
また、ダゴン対策なのか雨合羽を着ていたので水槽内の魔法水を浴びずに済んだようだ。
さすが壁画の解読を行っていただけのことはある。

「大丈夫か?無理に動かぬ方がよいぞ。魔法水が身体に回る」

ドルヴェイクの肩を借りて、こちらを睨むダゴンをきっと見据える。
中毒で震える手で剣を握り直すが、あまり力が入らない。

「舐めた真似をしてくれたな!我が本気を出せば貴様など取るに足らんわ!」

標的を"召喚の勇者"に定めたダゴンは、口をがぱっと開いて魔力を口部に溜めていく。
何の水魔法を発射するかは知らないが無防備な今食らえばただではすまない。


【ダゴンの顔が水面から露出】
【口を開きレイン目掛けて水魔法を発射する3秒前】
0199クロム ◆gkBBhaTSK6
垢版 |
2021/01/17(日) 19:48:34.30ID:3GCMCGBW
マグリットがせっせと貝殻《足場》を作り出し、レインがその上を縦横無尽に跳び回る。
そのコンビネーションの前には水中から操作される触手の動きは余りにも大雑把であり、虚しく空振りを繰り返すのみだ。
巧みにタイミングを変えてレインの虚を衝いても、他の冒険者の加勢が直撃を許さない。

その様子を黙って見下ろしていたクロムは、不意にしゃん、と剣を抜く。
ダゴンが痺れを切らして本体による近接攻撃に戦法を切り替えるとすれば、今がその時と踏んだからだ。

>「う、うおわ――――」

そして、その読みは正に次の瞬間に的中する。
レインの挑発に釣られる形でダゴンがその頭部を水面から露出させたのだ。
ダゴンは眼前のレインを睨みつける。それは裏を返せば、クロムは敵の視界からは完全に外れている事を意味する。
ならば躊躇する理由はどこにもない。

クロムはダゴンの頭部目掛けて思いきり壁を蹴り、空間を駆けた。

「──小賢しいわ、馬鹿《ハエ》が」

だが、直後にレインに向けられていたダゴンの顔面が、くるりと向きを変える。

「──触手《海竜》のセンサー《器官》か!」

思わず舌打ちしたのはマグリットでも他の冒険者でもなく、クロムであった。
ダゴンの双眸が向いた先が他でもない自分だったからである。
見れば、いつの間にかダゴンの死角の水面から触手が顔を出して、辺りを伺っているではないか。
つまり動きを把握し、次の行動を読んでいたのはクロムだけではなく、ダゴンもだったのである。

「我に死角など初めからありはせんのだ! さぁ、まずは貴様からその体を四散させてくれよう!」

がぱぁ、と開けられるダゴンの口。
中では魔法の術式が浮かび、青白い光を放つ魔力が蓄積されていた。
空気を伝って肌を泡立たせる程の波動は間違いなく上位の魔法のそれだ。
『反魔の装束』は魔法を殺す効果があるが、上位の魔法となれば無効化は不可能。喰らえば当然ダメージを負う。

(予定が狂っちまった──が、しゃーねー!)

クロムは手にした剣で空を一閃。
勿論、未だダゴンは剣の間合いには入っていないのだから、これはダゴンを直接斬り付けようと意図したものではない。
これは弾いたのだ。
水面が盛り上がり、一時的な津波が起きたことで空中に放り出されていた貝殻《足場》を。
たまたま彼の近くに浮いていたその一つを、ダゴンに向けて。

「ぬぅっ!?」

弾かれた貝殻に目を射抜かれ、一瞬だが動揺の間を作り出すダゴン。
それは魔法を発射させるタイミングを僅かだが先延ばしさせたことを意味していた。

そして、クロムにはその僅かな“間”さえあれば、それで充分であった。

事前に左耳から外し、手に持っていた“黒髑髏《バクダン》”──。
それをダゴンの口内目掛けて投げつけ、起爆のキーワードを唱えるには、充分な時間であったのだ。

「爆ぜろ────……もっとも、また俺まで爆ぜち《巻き込まれち》まいそうだがな」

舞空の魔法でも使えない限り、他に足場のない空中では肉体の移動先を変更することはできない。
だからクロムは腕を前でクロスさせて、かつて身をもって知ったその衝撃に備える。
0200クロム ◆gkBBhaTSK6
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2021/01/17(日) 19:50:43.98ID:3GCMCGBW
 
 
──走る閃光、轟く爆音、撒き散らされる灼熱──。


それに伴い発生した凶悪な衝撃波が戦場を覆い、あらゆるものにその威力を叩きつける。
気が付けばクロムは再び壁に激突し、その身を減り込ませていた。

「また振り出しに戻るってか……! 何度喰らっても強烈だぜ、こいつは……!」

衣を通して肉体に刻まれたダメージが齎す激痛に歯を軋ませるクロム。だが、その口角は上がっていた。
サティエンドラの時とは違って意識がはっきりと残っているばかりか、体もまだまだ限界に達していないという実感があったからである。

(……いや、真に強烈なのはやはりこの衣かもしれねぇな。魔法に対する防御が随分マシになったぜ。
 だが……肝心の敵の防御力はさてどうだったのか……?)

【最後の黒髑髏を使用。その際にダゴンの魔法の暴発も相まってダゴンの口内を中心にかつてない爆発が生じる】
【爆発に思いきり巻き込まれて再び壁に減り込む。ダメージは大きいが『反魔の装束』の効果もあって戦闘続行は可能】
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