ネコリブ!
ここは犬人間の町。
犬人間達は何も疑わず、社会の定めに従順に生きていた。
しかしある日、主人公『中田ポチ』はひょんなことから不思議なサングラスを拾う。
そのサングラスを通して見た町は、猫のような姿のエイリアン達が犬人間に紛れて社会を支配していた。
ジョン・カーペンター「ゼイリブ」みたいな感じで、出来るだけほのぼのお願いします。 ボクの名前は中田ポチ。
明るい社会の歯車さ!
さぁ、今日も元気に働きに行くわんわん! ポチが会社に行く途中、警官が地面を見ながら何か探し物をしていた。
ポチ「何探してるんですかわん?」
警官「いやぁ。ちょっと大切なサングラスを落としてしまってねぇ」
ポチ「それは大変だ」
警官「よかったら一緒に探してくれないかなぁ」
ポチ「ごめんなさい。これから会社に行くところなので時間が……」
警官「そうかい、それじゃしょうがないねぇ。気にしてくれてありがとう」 ポチが会社へ向かって歩いていると、電柱のたもとにサングラスが落ちているのを見つけた。
ポチ「あれ? これじゃないのかなぁ、おまりさんのサングラスって」
それは落ちているというよりは誰かが置いたようにも見えた。
ポチ「今は時間がない。会社帰りに交番に届けてあげよう」
そう言ってポチはサングラスをポケットにしまった。 会社に着くと、ポチは今日も張り切って仕事をした。
何の部品になるのかもわからない変な形のものの設計図を整理し、
どういう数字かよく知らない数字をパソコンに打ち込んで行く。
まぁ、何かの電化製品が作られて、どこかの量販店で売られるんだということだけは確かだった。
それが国内なのか国外なのかは知らないが。 同僚の犬山リカが通りがかりに話しかけて来た。
リカ「あら、中田さん。ポケットに何入れてるの?」
ポチは好意をもってる犬山さんに話しかけられ、緊張しながら答えた。
ポチ「あっ、そうだ。今朝サングラスを拾ったんですよ。帰りに交番に届けるつもりなんですけどね」
リカ「へぇ、中田さんがサングラスかけたとこ、ちょっと見てみたいわね」
ポチ「え〜?(照笑)」 リカ「かけてっ☆ かけてっ☆」
ポチ「そんな『ぶっかけてぇ〜』みたいな……(笑)」
リカ「は?(真顔)」
ポチ「いやいやいや何でもない何でもない。かけますかけます!」 ポチはサングラスをかけると犬山リカの顔を見た。
リカ「わぁ、似合わな〜い」
意地悪くそう言いながら笑うリカは、やっぱり可愛いかった。
白と黒の垂れ耳も、大きな口から出たピンク色の舌も、熱いよだれもチャーミングだ。
サングラスをしていると、そんなわけもないのにこちらから一方的に覗き見しているような、
まるでお風呂を覗いているようなドキドキ感があり、なんか楽しかった。 リカ「今日一日サングラスして仕事してみたら? 面白いかも」
ポチ「面白い? エヘヘ。じゃ、そうしちゃおっかな」 すると向こうのデスクから立ち上がり、課長が近づいて来た。
課長「何だねチミは! そんなものをかけて仕事するなよふざけてんのか」
ポチ「課長、顔が笑ってますよ」
課長「いや、なんかね。面白いなとは思ってね。ウヒヒ。いいかもしんない。今日一日それで仕事してみたら?」
リカ「面白いですよね、ハッ、ハッ、ハッ!」
ポチ「参ったなぁ」 しかしポチは次の瞬間、自分の目を疑う。
仕事場に部長が入って来たのだ。
部長「課長、例の書類はまとまったかね?」
課長「あ、ハイ! もう既に出来ておりますでござります」
部長はポチのほうを見ると「ん?」と声を漏らした。
部長「なんだね君? 私の顔に何かついているのかね?」 ポチ「いっ、いえっ!」
そう答えたが、顔に何かついているどころの話じゃなかった。
部長の顔は、初めて見る生き物、というよりは化け物だった。
尖った耳、丸く潰れたような顔、小さいマズルの中から覗く細く鋭い牙、ざらついた舌……
何よりその異様に大きく恐ろしい目つきにポチは怯えた。 部長「なぜ会社でサングラスなんかかけているんだ。外したまえ」
ポチ「はっ、はいっ!」
サングラスを外すと目の前にいるのはいつものブルドッグの部長だった。 不思議に思い、ポチはサングラスをかけたり外したりを繰り返した。
サングラスを通して見ると、部長はやはり目の大きすぎる化け物で、
サングラスを外して見るといつものブルドッグだ。
ポチ「なんだこりゃ……」 あたしの名前は鈴川 タマ。
落ちこぼれのダメ犬人間だ。
他の犬人間が普通に出来ることがうまく出来ない。
みんなが従ってる暗黙のルールなんて意味わかんない。
いつも死にたいって思ってる… 集合時間は18時なのに、ちょうどに行ったら「30分前には来とけよ!」って怒られる。
それだったら集合時間を17時半にしてくれとけばいいじゃない? いっつも家に帰ったらゲームだけしてる。
ゲームの中があたしの世界。
この世はあたしの世界じゃない。 どこかにあたしの生きるべきほんとうの世界があるのかもしれない。 タマ「流水音ってなんだよ! ウンコしてる時にブリブリ言うの当たり前だろ!」 それもそのはず。タマは自分を犬人間だと思い込んでいる猫なのだ。
彼女の両親は犬人間だが、祖母が猫だったので隔世遺伝したのだ。 ポチは会社帰りにサングラスをかけ、色々なものを見てみた。
旅行会社のグァム旅行の看板にはサングラスをかけなければ見えない文字が書いてあった。
『働け、金を稼げ、幸せになれ』
「これはどういう意味だわん??」
ポチはサングラスを外して看板を見た。
それは普通に楽しそうに仕上げられた南の楽園の写真だった。 少し離れたところに今朝サングラスを探していた警官を見つけた。
ポチはサングラスをかけ、警官の姿を見る。
警官は恐ろしい顔をした巨大な目を持つ化け物だった。
「こ……これは返せないだわん」
ポチはサングラスを警官に返すことが出来ず、自分の家に向かって歩き出した。 「おい」
いきなり呼び止められ、ポチはびびり上がった。
「そのサングラス、お前が拾ったのか?」
声の主を確かめると、やたら精悍な体つきをした灰色の男だった。
ポチは思わず全力で走って逃げ出した。
「おい!?」
男の声が後ろに遠ざかって行った。