【リレー小説】TPパニック 〜 殺し屋達の絆 〜
舞台は台湾の首都台北
主人公は台湾マフィアお抱えの殺し屋ファミリー「タオ一家」三男マルコム
通称「マル」、ただし偽名である
彼らは互いの名前をイングリッシュ・ネーム及び偽名で呼び合い、誰もその本名を知らなかった 帰ると早速タオ・パイパイは四男を黙らせ、ヒーミートゥにプロポーズをした。
「お前なかなか妖しくてワシ好みじゃ。妻になれ」
「原住民の掟がある」
ヒーミートゥは答えた。
「一度結婚したら、たとえ夫が死んでも一年は再婚できない」
「そうか」
タオ・パイパイは言った。
「じゃあ殺す。死ね」 「ダメーーっ!」
サムソンはヒーミートゥの前に立ち塞がった。
「彼女を殺さないで!」
「そいつはワシのプロポーズを断りよった」
タオ・パイパイは暗殺拳の構えをとった。
「ムカつくので殺す」
「この娘を失ったら、僕、一生結婚できないかもしれないんだよ!?」
「一生童貞でおれぃ!」 タオ・パイパイが攻撃しようとした時、ヒーミートゥは長い睫毛をバサバサ動かしながら言った。
「私に殺意を向けたお前には呪いがかかった。もう逃げられない」
「何じゃと?」
パイパイの動きが止まる。
「予言しよう。黒い悪魔がお前を殺しに来る。3日後だ」
「僕のパパに何言ってんだーっ!」
サムソンは振り向き、ヒーミートゥを叱った。
「フフ……。面白い」
タオ・パイパイから殺気が消えた。
「既にお前の占いは外れておる。四男はこうして生きておる。ワシが運命を変えたのじゃ!」
「今回は変わらない」
ヒーミートゥは睫毛を上げ、黒い瞳でタオ・パイパイをまっすぐ見た。
「お前、太陽神を怒らせた。太陽神が黒い悪魔をお前に差し向ける」 (・・・ここはどんな場所なんだ?)
ララたちが訪れた地下街、そこはとても奇妙な場所だった。
足を踏み入れるとまず、緑色の服を着た奴らが走り回ってるのが目に付いた。
どうやら遊んでいる子供のような印象を受けたが、よく見ると子供だけでなく
中年男性や老婆も混じっており、彼らは緑の服は着ていなかったものの、どちらかと言えば子供向けの服装で
子供のような仕草で遊んでいるのが不気味だ。
まばらだが白い防護服と防護マスクで身を包んだ人々が歩き回っている。
「何かの研究所?」 そこは町と言うより何かの研究施設に思えた。
階段を登り、橋ような通路に通りかかった時、ララはもじもじしながらヴェントゥスに尋ねた。
「あの、私いつ服を着させて貰えるんでしょうか?」
「」 メイファンでいる時はいつも全裸だ。が、ララはやはり服を着ていないと恥ずかしかった。
ララは緑色の服を貸してもらうと、いそいそと身に着けた。
まるで妖精が着るような、なかなか可愛い服だったので頭の上に♪マークがついた。
「ところで」
ララはヴェントゥスを心配するように、泣きそうな目で見つめながら言った。
「もうすぐ夜になったら、『黒い私』が目覚めます。妙な技をかけた張本人を見たら絶対に殺そうとすると思いますよ」
そして提案した。
「私を縛ったほうがいいと思います。檻の中とかはたぶん、簡単に脱出する……」 「うむ、心配無用。」
ヴェントゥスは自信満々だ。
(大丈夫じゃないのに…。)
ララは心配そうにヴェントスを見つめる。
ララはふと、橋の下を見た。橋の下にも施設はあり、今度はオレンジ色の服を着ている者達が、ラジオ体操をしていた。囚人だろうか?
(あれ、なんか違和感が)
オレンジ色服の男たちの顔をよく見ると、
体格差や年齢差も見受けられるが皆同じ顔だ。それもどこかで見たことがある。
「…タオ・パイパイ…たくさんいる?」
橋の下をチラチラと眺めるララに対し、ハリーがその疑問に答えた。
「…ん、タオ・パイパイがいっぱい? ああ彼はここで生まれたんだよ。この区画は最強の兵士やモルモットを作り出す研究施設なんだ。」
ララは混乱してきた。 メイファンは目覚めた。
「ん……? ここ、どこだ?」
「おはよう、ラン・メイファンさん」
ヴェントゥスは言った。
「あ。おはよー」
メイファンはそういうのと同時に、まるで目をこするように、殺気ゼロの手刀でヴェントゥスの首を斬りに行った。 ヒーミートゥは殺されずに済んだ。
サムソンは自分の部屋に彼女を初めて入れた。
部屋は発明器具で散らかっており、色気も何もなかった。
「あなたは発明家なの?」
「そうさ。マルコムのスーパージェット・リーガルも僕が作ったんだよ」
サムソンは自慢気に言ったが、すぐに恥ずかしくなった。
「ごめんね。とても女の子を入れる部屋じゃないや。モーリンの部屋に行こう」
「いいえ。ここでいいわ」
そう言うとヒーミートゥはサムソンの汚いベッドに腰掛けた。 二人は並んで座った。
暫くは会話もなかったが、やがてサムソンが聞いた。
「……なんで、僕なんかを選んでくれたの?」
ヒーミートゥは不思議そうにサムソンのほうを見た。
「ミーちゃん」
サムソンはヒーミートゥを愛称で呼んだ。
「そんなに綺麗だし、まだ17歳だし……僕みたいな地味デブなんかとは釣り合わないでしょ」
「あなたの上に」
ヒーミートゥは言った。
「英雄の『火』が見える」 「私があなたを選んだのではない」
ヒーミートゥはさらに言った。
「太陽神が私にあなたを選べと告げた」
「なんか嬉しいような」
サムソンは頭を掻いた。
「嬉しくないような」
「メヴレヴ」
ヒーミートゥはサムソンをパイワン族名で呼んだ。
「要するにあなたは私の運命の相手ということだ」
「そっかぁ」
サムソンは笑顔を見せた。
「メヴレヴ」
ヒーミートゥの黒く長い睫毛が濡れていた。
「あなたの子が欲しい。私の中に子種を注いでくれ」 マルコムはビデオを見せられても直ちには信じられなかった。
──ママを苦しめたお前達は、苦しんで死ぬがいい
「つまり、お前も殺すということじゃ」
隣に並んだタオ・パイパイが言った。
「嘘だ。キム……」
マルコムは震える声で言った。
「君は僕を愛していたんじゃないのか……?」
「芝居じゃ」
パイパイは言った。
「恐らくお前を油断させ、その靴を盗む気だったんじゃろう」
「しかし……僕は……」
マルコムは呟いた。
「どうしようもないほどに……キムを愛している」
「バカか!?」
パイパイは吐き捨て、やはり改造すべきだコイツと確信した。
「世界で僕が唯一殺せない人間がいるとしたら……」
マルコムは強い語調で言った。
「君だけだ! キム!」 部屋に戻るとマルコムは考えた。
『なぜ……彼女が僕達を殺そうとする?』
マルコムにはあまりにも心当たりがなかった。
『そしてなぜ……ムーリンだけは別なんだ?』
その答えはすぐに出た。
ムーリンだけが、キンバリーと血の繋がりのある本当の妹だったのだ。
その上ムーリンは『暴れ牛』が発動しない限り、心の優しい普通の女の子だ。 『そうか……』
マルコムは推測を完成させた。
『彼女は父さんの……タオ・パイパイの血を根絶やしにしようとしているのだ』
マルコムの脳裏に、オリビアを発狂するまでに至らせた父の所業が蘇った。
それは彼の知る限りの一部分であり、キンバリーはもっとたくさんのことを知っているのではないかと思われた。
『では……オレが消すべき相手はキムではなく……』
マルコムは考えた。
『タオ・パイパイではないのか?』 『彼女が憎んでいるのがタオ・パイパイだけなのだとしたら……』
マルコムはとりあえずの結論のようなものを出した。
『オレがタオ・パイパイを殺せば、キムはオレの元に戻って来てくれる!』 「フフン、マルコムよ」
タオ・パイパイがいつの間にか背後に立っていた。
「お前の考えていることなど手に取るようにわかるわ」
「父さん!?」
マルコムは急いで振り返る。
「ノックもなしに……」
「ふざけるな。ノックなどするか」
タオ・パイパイは最強の拳を構えた。
「これ以上家族から裏切り者は出さん! お前を今、一度殺し、改造してくれる」 タオ・パイパイは相手の『気』を読むことで、相手の数秒後まで動きを読むことが出来る。
かわすことは不可能であった。相手がかわしたところにパイパイの拳は飛んで来るのだ。
「生まれ変われぃ、マルコム」
そう言うとパイパイは拳を突き出した。マルコムは避けない。そのまま突けば、喉元を拳は捕らえる……筈だった。
「おろっ?」
パイパイは声を上げた。
捕らえた筈のマルコムが1メートル横に瞬間移動している。
「フ! ワシとしたことが……。次はない!」
そう言って再び繰り出した攻撃も空を切った。 「ワーーッ! お前、その靴を脱げぃっ!」
メイファンにとってマルコムが天敵であるのと同様に、マルコムはタオ・パイパイにとっても天敵であった。
『気』の動きを先読みしても靴からのジェット噴射で読みをことごとく外されてしまう。
マルコムはベッド下の予備のスーパージェット・リーガルも取ると、最大出力でジェットを噴射させ、開いていた窓から飛んだ。
満月をバックにマルコムの身体はロケットのように夜空の彼方へ飛び去った。 「オジキ亡き後はこの俺が指揮を取る!」
大勢を集めた広間で、花山組の阿久津恭三が大声で言った。
「必ずや兵藤のオジキのカタキを取るぞ!」
「なんか勘違いしてね? アイツ」
飛島優太が呆れた口調で言った。
「ウム」
茨木敬は腕組みしながら頷いた。 「しつもーん」
優太は阿久津に向かって手を挙げ、発言した。
「俺らの目的って、兵藤さんのカタキとることでしたっけ?」
「あ??!!」
阿久津は殺気を込めた目で優太のほうを見る。
「タオ一家を滅ぼすことだよ、勿論よ」
「何のために滅ぼすんでしたっけ〜?」
「そ、そりゃ……」
阿久津は一瞬言葉に詰まったが、すぐに言った。
「……カネのためだ」
「そう。我々は中国との取引を今まで通り、あるいは今まで以上に続けるために、タオ一家が邪魔なんだ」
優太は弁舌をふるった。
「ぶっちゃけ上質で安価なヤクを絶やしたくないのだ」 「しかも台湾独立なんてふざけた動きが本格化している」
優太は続けた。
「そんなことをされたら我々のぶっとい取引相手である中国さんが非常に困る。何しろ中国さんが台湾をゲット出来れば日本への最短距離の軍事基地が作れるというのに!」
ヤクザ達は黙って聞いた。
「我々は困っておられる我らがビジネスパートナーのために一肌脱いだ! ……んですよね?」
「おう? ……おお!」
阿久津は頷いた。
「そんなら」
優太はにっこり笑って言った。
「カタキ打ちとかはとりあえず置いときましょうよ? それが士気を高めるものならいいけど、そのために焦って突っ込んで全滅したんじゃしょーがないっしょ」 「皮肉だな」
茨木が言った。
「台湾は親日だが日本との国交がない。中国は反日だが国交がある。中国のために俺達が台湾独立を潰さねはならんとは……」 「わかっとるわ!!!」
阿久津が優太に向かって声を荒らげた。
「こんなは!!! ガキのくせに何を偉そうに言うちょるんじゃ!!! 大人舐めとんのかゴルァ!!!」
「ガキだと……?」
優太の目が据わる。
「飛島組の次男坊の俺に向かってガキと言ったか? オヤジに言いつけてもいいんだぜ?」
「う……!」
阿久津は黙るしかなかった。 「ハハ……阿久津は知らないんだな」
茨木が小声で優太に言う。
「言うなよ、オッサン」
優太も小声で言った。
「俺がほぼ勘当息子同然だなんでよ」 「チッ。兵藤のオジキ殺られて黙ってられんじゃろが……!」
阿久津は花山組の者だけを集めると、ひそひそと計画を打ち明けた。
「これからタオ一家の屋敷へ討ち入りかけるぞ。ついて来い」
「へい!」
「わしらも同じ気持ちですじゃ! 兵藤さんのカタキを……!」
「よし、ついて来い」
阿久津は立ち上がった。
「タオ一家なんぞワシらだけで充分潰したれるわ!」 夜のタオ家は静まりかえった森の中にあった。
阿久津率いる25人のヤクザ達は易々とその敷地内に侵入し、タオ・パイパイのいる本屋敷をその目に捉えた。
「フン。見ろ、こがぁに簡単じゃなかか!」
阿久津はそう言うと、殺気の満ちた笑みを浮かべ、部下達に命令した。
「誰か見つけたら躊躇なく殺せ! 弔い合戦じゃ! 一方的に殺して、殺して、殺しまくるぞ!」 その時、がさりと大きな葉擦れの音がした。
「誰じゃい!?」
阿久津が叫んで懐中電灯を向けると、金髪の痩せた少女がパジャマ姿で驚いてこちらを見ているのを照らした。 「女の子ですぜ?」
部下が言ったが、阿久津は容赦しなかった。
「ここにおるゆうことはタオ一家じゃ! 殺せ! 撃て!」
チンピラ達が一斉に銃を構え、発砲した。
「どぅあっ!?」
金髪の少女は瞬時にパニックに陥る。
「じ、じ、じぇじぇじぇーーーっ!」 25人の肉塊がミキサーにかけられたように飛び散り、月に血の虹がかかった。 メイファンはヴェントゥスの首をあっさりはねると、あくびをした。
身体は頭から爪先までとっくに真っ黒になっている。
「ふぅあ、よく寝た。ところでララ、ここどこだ?」
「あ〜あ……。だから縛れって言ったのに……」
ララは残念そうに言った。
「あ。コイツ殺したから変な技の眠気、解けるかな?」
メイファンは明るく笑った。すぐに真顔になってララにまた聞く。
「ところでここどこ? って2度同じ質問さすな」 タオ・パイパイは焦っていた。
最悪のタイミングで敵が攻めて来たのだ。
今、この屋敷にはムーリンと四男しかいない。
四男は現在子作りの真っ最中なので、ムーリンを出すしかなかった。
しかし別動隊の12人が裏から迫っていた。
そちらへ向ける戦力がない。
「仕方ない」
タオ・パイパイは呟いた。
「デヴィッドとアーリンを出すか」 「おい? 阿久津さんと連絡がつかないぞ」
「まさかやられたのでは?」
「まさか……」
別動隊の12人がざわついているところへ2体の人影が現れた。
「誰だ!?」
「阿久津さん?」
月が2体の人影を照らし出した。
かろうじて肉の残っている男女のゾンビだった。 「久しぶりじゃのう、お前ら2人を操作するのは」
タオ・パイパイは箱にスティックのついたコントローラーを2つ同時に操作しながら言った。
「そりゃ! デヴィッドは殺せ! アーリンは食え!」 ヤクザ達は一斉に発砲した。
銃弾はゾンビの身体に何発も命中したが、ゾンビ達は倒れなかった。
ゆっくり歩いていたかと思うと急に素早い動きで襲いかかり、男のほうのゾンビの拳はヤクザの頭部を飛ばした。
女のほうは次々に抱きつくと頭蓋を齧りとり、脳味噌を食べた。
脳味噌を食べられたヤクザもゾンビ化した。 「いや、そいつらは操作できんから要らん」
タオ・パイパイはそう言うとデヴィッドに殺させた。 「しかし1日でだいぶん戦力減らされたな」
ホテルのレストランで茨木と向かい合って食事をしながら優太が言った。
今さらに阿久津をはじめ37人を失ったことはまだ知らない。
「黒色悪夢は何してんだ」
「ビビって隠れてるんじゃないか?」
茨木はバカにするように言った。
「大体、ふざけている。日本からこれだけの人数を出させておいて、中国からはたったの3人とかな」
「しかも1人は酔っぱらいのジジイ」
優太が言った。
「もう1人は俺の恋人」
「ふざけている」
茨木は再びそう言うと、魯肉飯を口に掻き込んだ。 「あっ、そうだ」
ララは思いつくなり電話をした。
習近平はまたすぐに電話に出た。
『メイファンか』
「あたしです。ララ……あっ! 切らないでお願い!」
『一体何なんだ』
「メイファンもいますよ。替わりましょうか?」
『そうしてくれ』
「あいう」
メイファンは適当に声を出した。
『任務の経過はどうだ。順調か』
「知らん。今、なんだか任務と全然関係のないところにいる」
『信頼しているぞ』
「ああ。すぐにここを出る。任せろ、習近平」
『頼もしい』
「それでですね、習近平」
ララが唐突に声を出した。
『呼び捨てにすな!』 「習近平さん。あなた、今、すごく不安なんじゃないですか?」
『何の話だ、切るぞ?』
「だってメイファンはあなたのボディーガードでもあるのよ。メイファンが側にいない今……」
『代わりに50名の精鋭SPがいる。それで?』
「でも……」
『50名の精鋭SPとメイファン1人はほぼ等価だ。それでもメイファン1人のほうが心強いぐらいだが、問題はない。そ・れ・で!?』
「……それ、換えっこしましょ?」
『50人送るより1人送ったほうが効率がいいから1人を送った。また50人のうち何人か死ぬだろうが、メイファンなら死なん』
「……中国、帰りたいんですぅ」
『足手纏いが!』
習近平は下賎の者をなじる口調で吐き捨てた。
『まさしくお前はメイファン唯一の弱点だ! 消えてくれ!』 習近平に一方的に電話を切られ、ララは俯いた。
「何をしたいんだ、お前は」
メイファンは呆れた口調で言った。
「……だって、怖いんだもん。いつもと違うんだもん」
ララは弱々しい声を出す。
「それでも『黒色悪夢』の半身か?」
メイファンが溜め息を吐く。
「今、私が帰ったら、笑い者だ。私達の名前に傷をつけたいのか?」 楳図かずお (83)
北島三郎 (83)
野沢雅子 (83)
さいとう・たかを (83)
里見浩太朗 (83)
山崎努 (83)
柳生博 (83)
瑳川哲朗 (83)
笑福亭仁鶴 (83)
雪村いづみ (83) 「12年前、私が4歳にして殺し屋になった時……」
メイファンは言った。
「お前は殺し屋の相棒として生きる宿命を負ったんだ。そんなことわかっていると思っていたが……」
ララは何も言えず、ただ俯いていた。
「足手纏いだとか、黒色悪夢唯一の弱点だとか、言わせといていいのか?」
メイファンはさらに言った。
「習近平はわかってないんだ、お前が私にとって、どれだけ必要かを」
ララはさらに俯いた。
「見返してやれよ。お前は必要な人間なんだって、習近平に思い知らせてやれ。そして習近平のバカに舌出して可愛い服でもねだれるようになれ」
ララは地面に頭を着けてしまった。
「確かに今回の仕事はかつてなかったほどに困難だ。しかし覚悟を決めろ。タオ・パイパイを仕留めるまで故郷へは帰らん!」 「うん、わかった」
ララは顔を上げた。
「もう、中国帰りたいなんて言わない!」
「それでこそ私の姉ちゃんだ」
メイファンは嬉しそうに言った。
「じゃ、こんなとこ早く脱出すんぞ」
「オー!」
ララは張り切って片手を高く上げた。
ヴェントゥスが死んだ今、メイファンが完全復活したものと信じ、安心していたのだ。 「あっ。メイ」
ララは思い出して、言った。
「ジェイコブさん、ここにいるよ」
「何だと?」
メイファンは怒ったような声を出した。
「先手必勝、見つけたら即殺せと言ったろう?」
「だって……いい人になってるんだもん」
「バカか!? 見つけた時に殺しとかないと後悔すんぞ! アイツはお前でも殺せると言ったろう?」
「だって……」
「キンタマ蹴っただけで死ぬぞ、アレは」
「……蹴ったけど」
「まさか両足で蹴ったりしてねーだろうな?」
「……ダメなの?」
「当たり前だ! いいか? 蹴りってのは軸足を踏ん張ってねーと……」
メイファンのキンタマ蹴り上げ講座が始まった。 ふと、こんなことをしている場合じゃないと気づき、メイファンはジェイコブの『気』を探った。
近くにはいないようだ。あの異質な『陰気』は見当たらない。
「よし、移動すんぞ」
「お、オー!」
メイファンは邪魔な緑色の服を脱ぎ捨てると、全裸で施設の中を音もなく歩き出した。 バーバラは西瓜を入れた赤いビニールの手提げ袋を持って病室を訪れた。
「あら?」
しかしジェイコブの病室のベッドに兄の姿はなかった。
「どこへ行ったのかしら。これを見せれば記憶が戻ると思って持って来たのに」
もちろん赤いビニールの中身は西瓜ではなく、ガンリーの生首だった。 ムーリンからすぐにLINEのメッセージが返って来た。
キンバリーは逸る気持ちでそれを読んだ。
□ デブ兄から聞いた。モー姉を殺させたのはキム姉だったんだね。絶っっっ対にキム姉を許さない!!!
キンバリーはすぐに返信した。
◯ ムーちゃん。違うの。
しかしムーリンは続けてメッセージを打っていたらしく、被るように文章が現れた。
□ 裏切り者! よくも騙したな! キレそう! キンバリーは悲嘆に暮れた。
もうすぐ戦場となるであろう場所からムーリンを遠ざけ、ヤクザや黒色悪夢をも『暴れ牛』の危険から遠ざけておきたかった。
何よりムーリンに怨恨を持たれてしまった。自業自得とはいえ、そのことが一番悲しかった。
またLINEにメッセージが入って来た。
キンバリーは急いで顔を上げ、それを見た。
差出人はムーリンではなく、マルコムだった。 「だーれだ?」
ヴェントゥスの声と共に、メイの視界が両手で塞がれた。
「…!」
メイは少し驚きつつも、″気″を込めた手刀を振り返りながら再びその太い首筋に打ち込んだ。
「…メイ君、あの服気に入らなかった?」
ヴェントゥスは生首の状態で馬鹿にしたように言った。
「なんだあ、てめえ?」
メイファンは興味深く思いつつも距離を取った。 ヴェントゥスは切断された首ごと、煙のように消えた。
「私は夢でも見ているのか!?」
動揺するメイファンにたいし、煙のように姿を出現したヴェントゥスがその脇腹に正拳突きをお見舞いした。
「おう゛っ!?」
打込まれた拳は、気の鎧を打ち砕きながら脇腹に深くめり込んだ。、メイファンは胃液をはきながら大きくよろめき、膝をついた。
「残念だけど、俺はそう簡単には死なないし、君のチンケな気の鎧では俺の攻撃は防げないよ」
ヴェントゥスはメイファンを見下ろすように言うと、にこりと笑った。
「言っただろう?俺はリウより強いって」 メイファンの脳裏には、あの日のトラウマが蘇りつつあった。
リウ・パイロンから受けたあの仕打ちを。 「ひっ、ヒィィィィ〜……!」
メイファンは恐怖し、普通の少女のように弱々しい声を出した。
自分が絶対に勝てない男の顔を、なぜか丸太ん棒とともに思い出してしまった。
その男、リウ。
それよりも目の前のヴェントゥスは確実に強い。メイファンにはありありとわかった。
大船に乗ったつもりでいたララも、メイファンの弱気に縮み上が……りはしなかった。
「リウより強い?」
メイファンは唐突に白くなった。
「キャハハハ! じゃあテメー殺したらリウも殺せんな?」
そして信じられないほどのスピードでヴェントゥスの股間を蹴り上げた。
全裸のアソコを隠そうともしないで。 しかし、手応えがなかった。まるで煙を蹴るような感覚だった。
「もう通用しないよ。何とかの顔も三度までつぎやったら怒るからね。」
ヴェントゥスは腰に手を当て、呆れたように言った。
「うるせーっ、こうなったら」 ララは窓から飛び降り、逃げ出した。
対処法の分からない相手にはこの手に限る。
メイファンの仕事は彼を殺すことではない。
ララは後ろを振り返った。ヴ キンバリーはマルコムからのメッセージを読んだ。
▲ 会いたい。僕は君を信じている!
軽く目を伏せると、キンバリーはすぐに返信した。
◯ 私、あなたを騙していたのよ
マルコムからのメッセージはすぐに返って来た。
▲ 父が憎いんだろう? 僕も父の所業には腹を据えかねている
▲ 実は父に殺されかけた。それで家を飛び出した。どこかで会えないか? 僕は君に協力する
キンバリーは無表情にスマートフォンを操作した。
◯ じゃあ、22時にカフェ「海辺のカフカ」で── 「海辺のカフカ」では小清新のミュージシャンによるアコースティック・ライブが行われていた。
それがちょうど終演に差し掛かる時間になってキンバリーは入店した。
モスコミュールを注文し、立ち見も出ている客を眺めながらカウンターに座ると、すぐに入口にマルコムの姿が現れた。
「キム!」
近づいて来たマルコムに、キンバリーはいつものように微笑みはせず、言った。
「私を殺しに来たんでしょう、マル」
「違う」
マルコムは真剣な顔で言った。
「僕に君は殺せない。タオ・パイパイを一緒に倒そう」 キンバリーが泊まっているというホテルの一室で、マルコムは彼女を抱いた。
「僕は君なしでは生きては行けないんだ」
「嬉しいわ、マル」
キンバリーはマルコムの首の後ろに手を回し、優しく口づけながら、その腰の動きを受け入れた。
「キム! キムーーっ!」
「ああっ! マル!」
キンバリーは高まり、叫ぶように言った。
「愛してる! 愛してるの!」 行為が終わり、マルコムは幸せそうにキンバリーを抱き締めて眠った。
どれだけ時間が経ったのだろう。
ふとマルコムが目を覚ますと、隣にキンバリーがいない。
玄関の外に誰かの気配がする。
明らかにキンバリーではなかった。
ドアが開き、男の影が現れるなり日本語で言った。
「嬉しいなぁ。アンタ殺したらララちゃんがヤらしてくれるんだわ」 マルコムは全裸のまま、急いで靴を履いた。
すぐにわかった。まったく同じリーガルの靴だが、自分のスーパージェットバージョンではなかった。
自分がいつも履いている靴をよく知る人間によって普通のリーガルシューズにすり替えられたのだ。
「キム……!」
マルコムは絶望的したように目を覆った。
「まぁ、卑怯な真似はしねーよ」
明かりが点き、飛島優太の顔を照らし出した。
「タイマンで殺し合い、しよーぜ」 「ウォー・シー・フェイダオ・ヨウタイ(私は飛島優太です)」
優太はキンバリーから習った中国語で言いながら、ステップを踏んだ。
「チンドードー・ジージャオ(どうぞよろしくお願いします)」
発音が悪すぎてマルコムにはまったく伝わらなかった。
憎むような目を優太に向けると、マルコムも構える。
「見たところ、まだ子供のようだが、容赦はせんぞ」
「なんか見た目で甘く見られてっかな」
相手の言葉はわからないが、なんとなく察して優太は笑いながら言った。
「こう見えて俺、日本一の殺し屋なんだぜ? なめんな」 その頃、茨木敬は1人で夜の街にいた。
病院の側にある屋台で買った烤肉(台湾式バーベキュー)をつまみに台湾ビールの金杯を飲みながら、病院の様子を伺っている。
バーバラ・タオがここに現れるかもしれないとの情報をキンバリーから得ていたのだ。
そして話を聞く限り、バーバラに相性がいいのは自分であるとのことだった。 提案したのは茨木だった。
兵隊を1日でごっそり減らされ、作戦会議の途中でトップの兵藤直樹を殺られた。
こうなったらうかつにタオ家の屋敷には攻め込まず、外で待ち伏せてタイマン勝負で殺ろう、と。
それにはタオ一家のメンバーの動きをよく知るキンバリーの存在がとても心強かった。 バーバラ・タオは姿を現さない。
ビールをちびちび飲みながら、茨木は呟いた。
「現れんでいいぞ」
そして串に刺した豚肉を歯でひきちぎった。
「現れてくれるな、畜生め」 茨木は追加でソーセージ、猪血湯(豚の血を固めたもの)、揚げ豆腐の3串と台湾フルーツビールのマンゴーとグレープを買って来た。
「フルーツビール……イケるな」
石のベンチで一人宴会をしているとバイクの音が聞こえた。
2ストロークのスクーターの音があちらこちらから聞こえる中、ドゥカティのLツインエンジンの音は目立っていた。
「捕まらんかったか……」
バーバラのドゥカティが去って行く音を聞きながら、茨木はほっとしたように一人宴会を続けた。 「クソ兄、どこ行ったのよ」
バーバラはバイクを走らせながら呟いた。
「もし裏切ってたりしたら殺してやる」
そして裏切りという言葉からキンバリーの顔を思い出し、ニヤリと笑った。
「それにしてもキンバリー……見直したわ」 マルコムは吹っ飛び、壁に激突した。
自分から飛び、ダメージを軽減したのだ。
それでなければアバラを折られ、重大なダメージを受けていた。
「おいおい」
優太は余裕の表情で言った。
「もうちっと楽しませてくれよ」
その姿にマルコムは実兄ガンリーの姿を重ね見た。
優太の戦闘スタイルはそれによく似ていた。
パワーはガンリーほどではないが、スピードは優太のほうが優っている。
マルコムは口元の血を拭った。
模擬戦で兄ガンリーには一度も勝てたことがなかった。 並の者相手ならマルコムは普通の靴でも負ける気はしなかった。
しかし目の前の敵はガードを固め、顎を引き、凄まじいスピードで拳を放って来る。
マルコムの最も苦手なタイプだった。
隙がない。攻撃が速い。
その上マルコムは精神的にも重大なダメージを受けていた。
もし、ここで勝ったとしても、どこへ帰れというのか。
最も帰りたい場所──キンバリーの胸は開かれていなかった。 「へへ……。弱いぜ」
優太は余裕綽々だった。
「てめー殺せばララちゃんとヤれて、俺が主人公になれるな」
しかし、優太にはさっきから目障りになっているものがあった。
マルコムがハイキックを放つたびに、見たくもない長いものが目の前を横切るのだ。
「へい!」
優太はマルコムにジェスチャーでパンツを穿くよう求めた。
「時間やる。待っててやるから、パンツ穿いてくれ」
マルコムは優太の言っていることの意味を理解した。
パンツはベッド側の床の上に落ちていた。 マルコムはパンツを拾う。
それとともにベッドの下を見た。
キンバリーは気づかなかったようだ。
持って来ていた予備のスーパージェット・リーガルはそこにあった。 しかしパンツを穿かせてもらう暇はあっても、靴を履き替えさせてもらえる暇はなかった。
どこかにカメラの気配も感じる。
どうせキンバリーが靴の秘密はバラしているだろうが、実際に見られて対策を練られることをマルコムは嫌った。
何より超小型ジェットを噴射する『条件』を知られるわけには行かない。
マルコムは予備のシューズを素早く手に取ると、窓ガラスを割って飛び降りた。
「あーーっ!?」
優太は思わず声を上げた。
「お前……! ここ、48階……!」 マルコムは落下しながら予備のスーパージェット・リーガルシューズを履くと、ジェットを点火させた。
パンツ一丁に革靴姿のイケメンが、鉄腕アトムのように、月夜を飛んで行った。 「なんだありゃ……」
優太は呆然と窓の外に足の裏から火を噴いて遠ざかるマルコムを見送った。
「クソッ! これでララちゃんとヤれると思ったのに!」
「飛島くん」
キンバリーの声が天井のスピーカーから聞こえた。
「逃がしたのね」
「うるせー!」
「よかった」
キンバリーの声は言った。
「あなたが死ななくて」 優太は部屋を出ると、まっすぐにララの部屋へ向かった。
「ムカついてしょうがねぇ。ララちゃんのおっぱい吸ってからじゃねーと寝らんねーわ!」
そしていつものようにノックもせずにララの部屋の扉を開けた。
しかしそこにララの姿はなく、初めて見る肌の黒い少女が、全裸でベッドの上に胡座をかいて缶ビールをごくごく飲んでいた。
「……誰?」
「よう」
メイファンはスチャッと手を挙げて挨拶した。 「ビール」
優太は日本語で言った。
「俺も貰っていいか?」
「ダメだ」
メイファンは中国語で答えた。
「お前に飲ませる酒は一滴もねぇ。欲しけりゃ自分で持って来い」
「あぁ、じゃ、ルームサービス呼ぶわ」
優太は受話器を取ると、キンバリーに習った中国語で「ピージョウ(ビール)、ピージョウ」と言った。
「あれ?」
受話器を置くと優太は言った。
「なんで俺達会話できるんだ?」 「お前、ララに気持ち悪いことしてた奴だよな」
メイファンは中国語で言った。
「あ。ああ、ララちゃんどこよ?」
「ララは寝た」
「水餃子食べてんのか。そうか」
「ああ。ところでお前、名前は?」
「ミンチは好きだぜ。ハンバーグとかよ」
「そうか。よくわからん」
「はっ?」
優太は急に閃いた。
「お前、もしかして『黒色悪夢』か?」
「うんうん」
メイファンはよくわからないけど頷いた。 「そっか〜。まさかこんな女の子だとはなぁ」
「こう見えて酒は強いんだぞ」
「お前、何歳なの?」
「まだこれ6杯目だ」
そう言いながらメイファンは拳でグーを作り、親指と小指を開いて中国式の『6』を作ってみせた。
「は? 何、その手つき?」
「ああそうか。日本式はコレか」
メイファンは改めて右手のパーに左手の人差し指を一本重ねた。
「60歳!?」
優太は驚き、考え直した。
「……なわけないよな。6歳? ……なわけもないから、16歳か?」
「ソウダヨ」
ララよりは日本語を知っているメイファンは日本語で答えた。
「それにしちゃ見事に性的魅力ないなぁ、お前」
優太は褒めるように言った。
「6杯ぐらいまだ序の口だ」
メイファンは得意げに笑った。
「飲み比べすんぞ。ほらお前のが来た」
ホテルの従業員が瓶ビールを10本持って入って来ると、全裸のメイファンを見て慌てたように出て行った。 「お前、おっぱい結構大きいし、乳首も綺麗なピンク色なのにな」
優太はビールを飲みながら不思議そうに言った。
「ちっとも襲う気にならん」
「それはそうと、さっきマルコムが来ていたな?」
「気づいてたか? さすが黒色悪夢だな」
「お前が戦ったのか?」
「俺、勝てそうだったんだけど、逃げられちったよ〜」
優太は悔しそうに言った。
「気にするな。アレにはお前じゃ勝てん」
「そうなんだよ。パンツ穿かせてしまったばっかりに……」
「そうそう。パンパン!ってピストルで撃ったところでアイツには通用せん」
「パンパン? 俺とセックスしたいのか? 残念だけどお前じゃその気になんねー」
「残念だったな。まぁ、飲め」
「おう……って、俺の酒、自分にも注いでんじゃねーよ」 「お前、いくつだ?」
メイファンが聞いた。
「ビール? 25本目だ。トゥエンティ・ファイヴ」
優太はヘロヘロになりながら笑顔で答えた。
「結構いってんだな、見た目のわりに」
「おい、お前、今までに何人殺した? 俺はなー、こんだけ」
優太は右手で4を作った後、両手で8を作って見せた。
「48本も飲んでねーよ」
メイファンは据わった目で言った。
「数えてねーけどな。まぁ、でも、かなり飲んだ……」
メイファンはぱたりと倒れると寝息を立てはじめた。 そしてまた日が昇り、カーテンの隙間から差し込む日光でララは目を覚ました。
「・・・酒臭い」
彼女は換気ををするため窓を開けた。開いた窓から入るそよ風が心地よい。
「昨日は見ちゃいけない物を見ちゃったなあ」
ララの脳裏には、あの地下世界の光景が焼き付いて離れなかった。
同じ顔の人々が生活している、まるで映画のような話だ。
しかも、その顔が殺しのターゲットであるタオ・パイパイ何だから結構印象に残る。 物思いに耽っていたララだったが、あくびが聞こえたので振り返った。
「あれ、ララちゃんいつの間に帰ってきたの?」
日本人の「ゆーた」だ。部屋に漂う酒の臭いは奴の仕業のようである。
「あっ」
ララは自分が裸と言うことに気が付いた。急に恥ずかしくなり、シーツを慌てて羽織る。
(また見られた…ッッ!) 「オッスおはよう。」
優太は大きな声で挨拶した。
しかし、ララは黙っている。
「ひぇっ」
「おう、無視すんじゃねーよ」
優太はシーツの隙間から手を入れくすぐり始めた。 「うひゃひゃひゃっ」
ララは我慢出来ず笑い声を上げた。
「あ〜、おっぱい柔らけー」
優太はララの乳房を堪能し始める。 優太のセクハラは更にエスカレート、
ララの股間にまで手を伸ばした。
「うっ」
ララは肩を震わし、その刺激から逃れようと足を閉じようとしたが、優太は無理矢理広げる。
「おっきもちええんか?、ここがええんか」
優太はララの耳元で囁いた。
奴の右手が、クリトリスを指を転がし、左での指が、肉の溝を往復するたびに快感の並みに襲われる。
ララはまた優太の手で何度も達してしまった。 しかしララは触られる前から濡れていた。
また舌で舐めてほしいという期待もあり、されるがままになっていた。
「ところで」
優太はエッチなことを続けながら、ララの耳元で聞いた。
「黒色悪夢、どこ行ったの?」
「く……クコショク? アクム?」
ララは聞こえた通りに繰り返した。
「ブラック・ナイトメアよ。ところでアイツの名前聞くの忘れてた。アイツの本名、何? ワッツ・ハー・ネーム?」
「メ、メイヨー(あ、あの子に名前はないわ)」
「メイよ?」
優太は奇跡的に正しい情報を得た。
「そうか。メイって言うのか」
そして乳首を舌先でツンツンしながらトロトロになった秘部をかき回しているうちに、ララはまたしても痙攣しはじめた。 「あ、そうだ」
優太は急にララから手を離し、立ち上がった。
「早くマルコムの野郎ぶっ殺さねぇと、ララちゃんに俺のこれ、ブチ込めねぇ」
そう言うなり急ぎ足で部屋を出て行った。 優太「おろろろろろっ」
廊下に出たところで優太は嘔吐した。 ララ「ジェイコブおじさん、地下世界においてきたけどまあいいや」 ジェイコブおじさん「この(地下)世界こそわしの世界、故郷のことはもう何も思うまい!」 優太はキンバリーに誘われて彼女の部屋にいた。
もちろんセクシーなお誘いではない。
しかしズボンの前をギンギンに膨張させた優太は、薄着の彼女を今にも押し倒しそうだ。
「優太くん」
それを制するようにキンバリーが言った。
「マルコムのこと、弱いって思ってる?」
「いやぁ、アイツは強いよ」
優太は誤魔化すように笑いながら言った。
「俺が強すぎるだけ」
キンバリーは口元に意味ありげな笑いを浮かべると、一揃いの革靴を出し、テーブルの上に置いた。 「これがスーパージェット・リーガルシューズよ」
「ははぁ」
優太はそんなことよりまず抱かせて欲しかった。
「キムさん、まず一発……!」
キンバリーは人差し指で優太の胸を止めると、その指で革靴を差した。
「この靴を履きこなして見せたら、どうぞ?」 「うひょーっ! こんなもん!」
優太は急ぎ足で革靴を履いた。サイズは少し大きかったが、足を動かすと抜けるほどではなかった。
「ほら! 履いたぜ? やろう!」
「履くのと履きこなすのとは違うわよ」
キンバリーはバカにするように言った。
「そんな日本語の違い、台湾人の私でもわかるけど?」
「え〜。かっこよく履けてりゃいいんだろ?」
「その靴に限っては意味が違うわ」
キンバリーは命令した。
「優太、その靴をジェット噴射させてみなさい」 優太は一旦革靴を脱ぎ、手に取ってまじまじと見た。
普通の革靴だ。特別重いわけでもない。
よくよく見るとアウトソールとヒールの部分、そして靴底に小さな穴が開いており、黒い部分なのでわかり辛いが、少し焦げたようになっている。
「わかった! ここから火ィ噴くんだ!」
「どうやって?」
「どうやって? ……って?」
「どうやってそれを操作するの?」 「そりゃリモートコントロールだろ」
優太は投げ槍に言った。
「で、コントローラーがねぇから動かせねぇ、終わり。ヤらせろ!」
「逃げるのね」
キンバリーは見下すように嘲笑った。
「逃げてねーだろ!」
「履きこなせないのなら話は終わりよ。大体あなた、格好よくという意味でもちっとも履きこなせていないわ」
「んだと!? ゴチャゴチャいいから早くヤらせろや、オバサン!」
「オバサンだと?」
穏和なキンバリーの顔が鬼のように変わった。
「25歳のうら若きレディーに向かってオバサンだと!?」
「うるせぇ! 爆発しそうなんだよ!」
優太はズボンの前を膨らませる攻撃的なテントを見せつけながら叫んだ。
そこへドアが開き、肌の黒い少女が全裸で入って来た。 「あ。メイ、オッス」
優太は急に大人しくなって言った。
「見せろ」
メイファンは優太を無視して革靴のほうをまじまじと見た。
「だ、誰? あなた……」
キンバリーは目を丸くして中国語で聞いた。 メイファンはキンバリーにも答えず、スーパージェット・リーガルシューズを手に取ると、様々な角度から観察した。
「ウーン凄い。見た目は普通の靴だ……。中にも仕掛けはない。と、すると……」
「誰?」
キンバリーが優太にそっと聞いた。
「は? 知らねーのかよ!?」
優太は目を丸くした。
「あれが黒色悪夢だろ? アンタが中国から呼んどいて……」
「あの子が?」
「……リモートコントロールだな」
メイファンは中国語で呟いた。
「だろ?」
優太は日本語で言った。
「コントローラーはたぶんマルコムが持ってる。だから……」
「いや」
メイファンは中国語で言った。
「アイツはあの時、コントローラーらしきものは持っていなかったし、手を動かしてはいなかった」 メイファンは靴を履いてみた。
かなりサイズが大きく、子供が大人の靴を履いたようになった。
しかし『気』で足を大きくすると、ぴったりと足にフィットした。
「なんかスゲーことしたな、今?」
優太が声を出す。
「手品だ」
メイファンは手から紙吹雪を出して見せた。 「靴の中の爪先に何か隠しボタンでもあるかと思ったが、何もないな」
メイファンは呟いた。
「ならばどこかで操作している。手でもない、口の中でもないとすると、あとコントローラーを操作できる部位って……」
キンバリーは優太に通訳した。
「どこかないか?」
メイファンは二人に聞いた。
「あ、そうよ。マルコムには……その……」
「あ、そう言えばアイツ……」
キンバリーと優太が同時に言った。
「尻尾があるのよ」
「尻尾があったぞ」 その頃マルコムは、ブリーフパンツ一丁に革靴というスタイルで、隠れるように街の裏通りを縫って歩いていた。
「服が欲しい……。ただしお洒落な服でなければ駄目だ!」
公園で遊ぶ子供達がマルコムのほうを指差して笑った。
「スーツでなくてもいい! しかしお洒落な服でなければ駄目だ!」 子供達の話し声がうっかり耳に入ってしまった。
「あれぇ? あのお兄ちゃん、前も後ろももっこりしてるよ〜?」
うわあぁあぁあ! と、マルコムは耳を塞いで走り出した。 「マル!」
仏像の前でうずくまって頭を抱えていたマルコムは、名前を呼ばれて身を起こした。
見るとOLルックのバーバラがこちらへ向かって駆けて来る。
「姉さん!」
マルコムは涙を流して喜んだ。
「半裸に革靴を履いた男がウロウロしていると聞いたから、探していたのよ」
バーバラは憐れみを込めた声で言った。
「しかも前も後ろももっこりしてるっていうから……あなただと確信したわ」