【リレー小説】TPパニック 〜 殺し屋達の絆 〜
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「マル!」
仏像の前でうずくまって頭を抱えていたマルコムは、名前を呼ばれて身を起こした。
見るとOLルックのバーバラがこちらへ向かって駆けて来る。
「姉さん!」
マルコムは涙を流して喜んだ。
「半裸に革靴を履いた男がウロウロしていると聞いたから、探していたのよ」
バーバラは憐れみを込めた声で言った。
「しかも前も後ろももっこりしてるっていうから……あなただと確信したわ」 紳士服店でマルコムはバーバラに服を買ってもらった。
カジュアルな服だが、シャツとズボンとベルトで締めて1万4千TWD(約5万円)だった。
「お洒落だ」
マルコムは満足そうに言った。
「これで尻尾も隠せる」 「ありがとう、姉さん」
振り向くとバーバラは優しい笑顔を浮かべていた。 「あなた、タオ・パイパイに逆らったのね」
ステーキハウスで向かい合って食事をしながら、バーバラが言った。
「と言うか、殺されかけたんだ、父さんに」
ニュアンスをなるべく軽くしようとマルコムは肩をすくめて悪戯っ子のように笑って見せた。
「私が面倒見てあげる」
バーバラは母親のように言った。
「あなたは可愛い弟だもの」 「ところで」
バーバラは話題を変えた。
「あなた、キンバリーに会ったわね?」
マルコムは思い出し、顔を暗くした。
「それにしてもあの子、見直したわ」
バーバラはキンバリーを褒めた。
「何も出来ないお嬢ちゃんかと思っていたら……やるじゃない。この私達を騙して陥れようとするなんて」
「姉さん……」
マルコムはバーバラの顔を見た。
「認めるわ、あの子は立派に強かな女」
バーバラは肉を噛むと、楽しそうに引きちぎった。
「このあたしが直々に蜂の巣にして殺してあげる」 【主な登場人物まとめ】
─ タオ一家 ─
◎タオ・パイパイ……タオ一家の父であり、伝説の殺し屋と呼ばれる台湾1の悪党。
既に殺し屋を引退し、子供達の管理と育成に身を注いでいるが、その実力はまだ最強レベルだと思われる。
◎ジェイコブ・タオ……タオ一家長男。前妻エレナの子。31歳。
小柄で陰気な顔つきの毒殺のプロ。どこからでもあらゆる手段で敵の体内に毒を注入できる。身体能力はウサギ以下。
現在、記憶をなくしており、ヴェントゥスと行動を共にしている。愛車は黒いホンダロゴ。
◎バーバラ・タオ……長女。29歳。エレナの子。美人でナイスバディ。お金と自分にしか興味がない。
暗器とハニートラップを得意とする。超短気であり、標的を見つけたらすぐに銃を乱射する。愛車はドゥカティの1000ccバイク。
◎マルコム・タオ……三男。27歳。エレナの子。長身でイケメン。お洒落。愛靴スーパージェット・リーガルを武器とし、一撃必殺を得意とする。
キンバリーを愛しているが、その想いは虚しく裏切られた。尻尾があり、そのことをとても気にしている。愛車は白いテスラ。
◎キンバリー・タオ……次女。25歳。オリビアと前夫の子。長身で長髪。太陽のように明るく、バーバラ以外の家族皆から愛されている。
一家を裏切り、ムーリンを除く全員を殺そうと、日本のヤクザと中国の殺し屋と手を組んでいる。
◎サムソン・タオ……四男。19歳。タオ・パイパイがどこかのデブ女に産ませた子。デブ。
影が非常に薄く、助手席に乗っていても運転手に気付かれない能力の持ち主。最近結婚した。
発明が得意であり、マルコムのスーパージェット・リーガルシューズも彼の発明品。
◎タオ・ムーリン……四女。17歳。タオ・パイパイとオリビアの子。金髪でぶさいく。
普段は殺し屋でもない普通の女の子だが、キレると一家1の攻撃力を無差別に爆発させてしまう。
◎ヒーミートゥ……四男サムソンが結婚した原住民パイワン族の娘。現代人らしからぬ呪術のようなものを使う。
─ 死亡 ─
◎タオ・ガンリー……次男。
◎タオ・モーリン……三女。 ─ 中国日本連合勢力 ─
◎メイファン……中国からやって来た最強の殺し屋。通り名は黒色悪夢。まだ16歳の少女だが、『気』を操り何でも武器に変えてしまう能力を持つ。
◎ララ……19歳の色白の少女。メイファンと身体を共有しているメイファンの姉。強力な治癒能力を持つが、戦闘能力はウサギ並み。この物語の真の主人公?
◎ジャン・ウー……ララの手伝いをする白ヒゲの老人。ジャッキー・チェンの「酔拳」に出て来る蘇化子にそっくり。
◎飛島優太……18歳の高校生だが既に48人の同業者を殺害している殺し屋。スケベ。暴力団体飛島組組長の次男。
◎茨木敬……『ステゴロの鬼』と呼ばれる喧嘩師のヤクザだが、誰もその喧嘩を見たことがない。警察の犬?
◎ことぶき ひでぞう……運転手。死亡した?
◎鶴見……ひでぞうの兄弟分。
─ 死亡 ─
◎兵藤直樹……日本のヤクザ『花山組』の幹部。
◎阿久津恭三……花山組のヤクザ。
─ その他 ─
◎ヴェントゥス……世界に7人いる『光の守護者』の1人。その中でもNo.2の実力を持つと言われている。金髪の七三分け。中立的立場?
◎ハリー・キャラハン……ヴェントゥスの舎弟の白人。
◎ヤーヤ……ムーリンが友達になった17歳の女子高生。
◎ユージェ……ヤーヤが思いを寄せる年上のロック・アーティストを目指す青年。 「しかし、あの日本人の子供……」
マルコムは自分と戦った飛島優太のことを思い出しながら、呟いた。
「オレの尻尾を見て、驚かなかったな。それどころか、パンツを穿けと言ってくれた……」 「実は……」
キンバリーとメイファンに向かい、優太は告白した。
「俺もあんねん、尻尾」 優太はメイとキムに臀部を突き出した。
臀部は女性のように大きかったが、お尻の谷間から陰毛がモッサリと飛び出ており、
どこか不潔な印象を受けた。
だがメイとキンバリーが注目していたのはそこではなく、谷間の上からブラ下がった、立派な尻尾であった。
「ほらあるだろ」 「きたなっ!」
メイファンは日本刀を振り上げ、斬り落とそうとした 優太が日本刀を避けようと尻尾を動かすと、
メイファンの履いている靴の左側から火が吹き出し、
飛ばされたメイファンは壁に叩きつけられた。 メイファン「何すんだ!」
優太「とぅっ、とぅいまっとぇーん!」 メイファンは日本語「とぅっ、とぅいまっとぇーん!」を覚えた! 不思議なことに優太が尻尾を動かすとジェット靴は反応した。
優太は靴を履くと、左に少しだけ尻尾を動かしてみる。
右側のジェットが点火し、優太は右へ転んだ。
「俺、これを操作できるようになりてぇ!」
優太は言った。
「それには靴がちと大きい。ブカブカだ!」
「いい靴職人がちょうど身近にいるわ」
キンバリーはその名を呼んだ。
「ひでぞうさん」 茨木は昨日の失敗をキンバリーに責められ、完全装備でバーバラを探しに街へ出て来た。
バーバラのバイクを追えるよう、陳氏からバイクを借りて来たのだが……。
「1000ccのスポーツバイクをこれで追えってのかい……」
茨木は白いキムコの125ccスクーターを押して歩きながら、呟いた。
頭に被ったヘルメットはキンバリーから借りたピンク色のジェット型だ。
バーバラの動向が掴め次第キンバリーからやって来る連絡を待つため、歩道にバイクを停めた。 この前優太と牛肉麺を食った店でまた飯を食った。
食事をしながらチラチラとタピオカミルクティーの店のほうを気にしている。
店の前に出来た短い行列の中に、今日はあの丸顔の女の子の姿はなかった。 ムーリンはスマートフォンの待ち受け画面を見る。
今日はヤーヤからのメッセージが一通も届いていなかった。
これでいい、とムーリンは思う。
「自分を信じるなんて、出来るわけないよ、ヤーヤ……」 ヤーヤは学校を終え、私服で一人、街を歩いていた。
2人で遊んだ場所を次々巡る。
どこにもムーリンの姿はなかった。
『これだけすべてのメッセージが未読のままってことは……』
ヤーヤは考えた。
『何かあったかと思ったけど……』
1通だけ、最近送ったメッセージが既読スルーになっていた。
『あたし……理由はわからないけど、嫌われたんだよね?』
『もう、探すのはやめよう……』
そう考えながら、ばったりムーリンに出逢えそうな場所を巡り歩いた。 「あっ」
茨木は思わず小さく声を上げた。
タピオカミルクティー店の前に、丸顔ショートカットの健康的な肌色の女の子が並んでいたのだ。
「あの娘だ」
茨木はストーカーに変身した。 ヤーヤは自分の原付スクーターに乗り、これで最後と思いながら、ある場所へ向かっていた。
この間、ムーリンのママを見た、あの場所だ。
すぐ向こうに公園か何かの森林が見える、人通りのない場所だった。
ここでムーリンに会えなかったら、諦めようと決めていた。 茨木は白いキムコの125ccスクーターで、赤い原付スクーターの女の子を距離をとって追いかけていた。
キンバリーに知れたらまた小言を言われるどころではないだろう。
任務そっちのけで、意味のわからないことをしている。
しかし彼は止められなかった。
異国の地で美少女のあとを尾けるのは、得も言われぬ甘美な味わいがあった。 ふと、気づいた。
『この方向は……』
前方にタオ家の敷地、黒い森林が見えはじめる。
赤い原付スクーターの少女はバイクを道脇に停めると、歩いて森のほうへと歩き出した。 ヤーヤは歩きながら、スマートフォンでメッセージを送った。
『今、この間ムーリンのママと出会ったあたりにいるよ。森に向かって歩いてる。もし……嫌われたんじゃないのなら……会えないかな(´・c_・`)』
メッセージを送信し終えると、空を見た。
鉛の雨でも降って来そうな空の色がなんだか不吉だった。 突然、後ろから肩を掴まれた。
ムーリンの手ではありえない、ごっつい男の太い手に、恐怖の表情でヤーヤは振り向いた。
そしてすぐに悲鳴を上げた。
顔中傷だらけの、この間タピオカミルクティー店の前で見たおじさんが、意味のわからない言葉を発している。
その両腕が自分を掴み、どこかへ連れて行こうとしていた。 「そっちへ行くな!」
茨木は放っておくことが出来ずに少女を引き止めた。
「知ってるのか? その先は殺し屋の巣窟だぞ。危険なんだ。さぁ、戻るんだ」
少女は明らかに自分の傷だらけの顔を見て怯え、パニックを起こしていたが、知ったことではなかった。
あんな危険な場所にこんな可憐な女の子が向かおうとするのを止めないわけには行かない。 ヤーヤは叫んだ。
「誰か! 誰かー! 殺される!」
森のほうへ向かって走って逃げようとすると、男の手はさらに強引に腕を掴んで来た。
「ひあああ! ムーリン! 助けて!」
ちょうどそこへ森のほうからムーリンの姿が現れた。 「ヤーヤ!」
ムーリンはその光景を見て大声で叫んだ。
「ムーリン!」
ヤーヤは気づき、叫んだ。
「来ちゃダメ! 誰か人を呼んでーーッ!」
茨木は森のほうから現れた少女の姿を睨んだ。
金髪、ニキビだらけの顔の少女、森のほうから……
確信した。
「『暴れ牛』だ!」
茨木は力ずくでヤーヤを抱き締めると、抱え上げた。
「逃げるぞ!」
その様子がムーリンには、人さらいにヤーヤが連れ去られようとしているように見えた。 「や、ヤーヤッ!」
ムーリンは叫んだ。
「ムーリン!」
ヤーヤは恐怖に泣き叫んだ。
「ああひとををを呼んでぇぇ!」
「ヤヤヤヤーヤッ! アアッ!」
「ムーリーーンッ! アアアーー!」
「どぅどぅどぅ……」
ムーリンの顔が割れ、中から笑顔の仮面のようなものが現れる。
「どぅばごくあらダーーーッ!!!」 ヤーヤは、見た。
ムーリンの身体から無数の触手のようなものが現れた。
それは空気を斬り裂くように飛んで来て、ムチのような音を立てた。
顔中傷だらけの男が自分を庇うように抱くと、何も見えなくなった。 ムーリンは気を失って倒れていた。
ヤーヤは震えながら、傷ひとつなく、しかし動けずにいた。
茨木はヤーヤを抱いてアルマジロのように丸くなり、その背中にすべての暴走の刃を受け止めていた。
「ふぅ……」
茨木は顔を上げた。
「大丈夫か?」
覗き込んだ少女は目を見開き、茨木の顔越しに、道に倒れた金髪の少女のほうを震えながら凝視していた。 「くっ……!」
茨木は立ち上がると、痛みに顔を歪めた。
着ているスーツはズタズタに裂かれ、中に着ている防弾チョッキも、意味を為さなかったかのようにバラバラになっていた。
元々傷だらけの背中には血が滲んでいた。しかし深刻なほどの新たな傷は刻まれていなかった。
茨木敬の背中はまるで角質化したように硬い。
その上に防弾チョッキを着ていれば、マシンガンの連射でさえも防いでしまう。
それでも『暴れ牛』の攻撃を受け止めた後では、そのダメージに身体を動かすのもきつかった。 「……ッ。化け物め」
そう言うと茨木は懐から大きなピストルを取り出した。
ゆっくりと、それを道に倒れている金髪の少女へ向ける。
ヤーヤはただ茫然としていた。
男がムーリンを殺そうとしているのに気づくと、ようやく「啊」と口を開けた。 「……な……ッ!?」
茨木は驚きの声を上げた。
銃弾は大きく外れ、アスファルトの地面で弾け、道脇の木に穴を開けていた。
保護したショートカットの少女が後ろから自分に体当たりをかまして来たのだ。
岩のような茨木の身体が猫のような少女のタックルを受け、揺れた。
少女は、茨木と倒れている『暴れ牛』の間に急いで立ち塞がると、顔をひきつらせて何か叫んだ。
「朋友!(ポンヨゥ)」 そこへキンバリーから電話がかかって来た。
茨木は二人の少女から目を離さずに電話に出た。
「こちら茨木……」
『バーバラが現れたわ。今、どこにいますか?』
「『暴れ牛』を発見したので追って来た。今から射殺するところだ」
『ハァ!?』キンバリーは電話の向こうで激怒した。『ムーちゃんは標的の中に入ってないでしょーが!!! ムーちゃん殺したらテメーも殺すぞボケ!』 朝、ララは目を覚ました。
部屋の入口には鍵をかけてある。
ベッドの上で枕を抱いて猫のように伸びをすると、きょろきょろと辺りを窺った。
メイファンは眠っている。
誰もいない。
静かだ。
ララは腰をもじもじと動かすと、半身を起こした。
『今日は……来ないのかな』
自分の股間に伸びかけた手を慌てたように引っ込める。 優太は朝早くから靴を履きこなすための特訓を再開していた。
操作方法はもう頭ではわかっていた。
「右に動かすと……」
軽く尻尾を右に動かすと、左からジェットが噴射された。
一歩だけ左へ飛び、着地する。
「左に動かすと……」
今度は右へ飛び、着地した。
「……尻尾を縮める」
靴先からナイフが出た。
「……で、尻尾を後ろぉ……お、お、お!」
靴の後ろから勢いよくジェットが噴射され、優太はまた派手にスケート靴で滑るようにこけた。 「クソが!!!!」
優太はスーパージェット・リーガルシューズを脱ぐと、思い切り床に叩きつけようとし、また思い止まった。
「履きこなしたら……キンバリーさんとエッチ……」
そう呟くとまた靴を履き、特訓を続けた。 ムーリンはまだ眠っていた。
『暴れ牛』の発動で気を失ってからもう12時間以上が経っていた。
キンバリーはその額を撫でると、部屋を出ようとした。
「キム姉……?」
振り向くと、ムーリンが目を開けていた。
責めたがっているような、甘えたがっているような複雑な表情で、目を逸らすとムーリンは言った。
「……お腹空いた」 「大丈夫なのか?」
茨木が聞いた。
「何がかしら?」
キンバリーは答えた。
食堂で思春期の食欲を見せつけるムーリンを眺めながら、二人も少なめの朝食を取る手を動かした。
「危険だ」
茨木が言った。
「ムーちゃんは普通の子よ」
キンバリーは答えた。
「タオ・パイパイに殺人兵器に改造されてしまっているだけ。なんとかこの子の中の『暴れ牛』を取り除くわ」 キンバリーは知らなかったのだ、ムーリンの『暴れ牛』はタオ・パイパイによって埋め込まれたものではなく、
彼女が産まれ持ったものだということを。 ムーリンはキンバリーが自分を殺そうとはしていないことはわかった。
しかしその手が自分に触れようとするたびに、身を強張らせて振り解き、威嚇するように言った。
「触るな、腐れ外道」
姉モーリンをヤクザに殺させたキンバリーのことがどうしても許せなかった。許せる筈もなかった。
そんなムーリンを悲しそうに見守るキンバリーの姿を、ムーリンの目に仕掛けたカメラを通してタオ・パイパイは見ていた。 「ふっふっふ」
暗い自室でタオ・パイパイは呟いた。
「丸見えじゃぞぃ、キンバリーよ」
そしてコントローラーを握り、動かしかけたが、止めた。
「まだじゃ。もう少し……」 ララが食堂にやって来た。
やたら暗い顔で物凄い食欲を披露している見慣れぬ金髪の少女を見て、キンバリーに聞いた。
「あれ、誰ですか?」
「ムーリンよ」
「ムーミン?」
「『暴れ牛』……と言えばわかるかしら?」
ララは思わず「げっ」と小さく叫び、腰を浮かせた。 「あの子、天使なのよ」
キンバリーは苦い微笑みを浮かべ、言った。
「天使の中に悪魔が棲んでいるの」
「ははは」
怯えた表情でララは、口から呑気な笑い声を出した。
「私達と正反対だな」 優太が風呂上がりの格好で食堂に現れた。
「おはよーッス」
茨木の隣の席に座ろうとしながら、ララを見つけて笑顔を見せた。
「あ、ララちゃん、おはよ〜」
入口に現れた時から優太をずっと見ていたララは、ぷいっと顔を背けた。 「オッサン、何しょぼくれてんの?」
優太は茨木に聞いた。
「しょぼくれてなんかいない!」
茨木は不機嫌そうに答えた。
「この人、ムーちゃんを殺しかけたから、私がたっぷり叱ってあげたのよ」
キンバリーが横から言った。
「ムーちゃん……って誰?」 「ふぅん」
話を聞き終わった優太は言った。
「そりゃ俺がオッサンだったとしても始末しようとすると思うぜ」
「だろ!?」
茨木は優太に握手を求めた。
「何を言うのよ」
キンバリーはわなわなと震えはじめた。
「私の妹なのよ。そんなことは絶対にさせないわ」
「あのさぁ」
優太は前から言いたかったことをキンバリーにぶちまけた。
「他の家族は殺して欲しくて、妹だけは殺しちゃダメって、アンタ都合よすぎないか?」 「この物語には腐れ外道が2人いる」
優太はポケットに手を突っ込んで言った。
「1人は勿論タオ・パイパイ。もう1人はアンタだ、キンバリーさん」
「……!」
キンバリーは顔を強張らせたが、何も言わなかった。
「そりゃ俺達とアンタは利害関係が一致してる。でも俺達にとってタオ一家は単なる敵、でもアンタにとっては……」
「最長21年を共にした家族よ」
キンバリーは優太に先を言わせなかった。
「それが何か?」 「別に興味はないんだけどさぁ……」
優太は頭を掻きながら、言った。
「話してくんないかなぁ、アンタが自分の家族を殺して欲しい理由を。モヤモヤするから」
「あと、その危険なガキを殺しちゃいけねぇ理由もな」
茨木が言った。
日本語のわからないムーリンは黙々と食事を続けている。
「……」
キンバリーは暫く目を閉じていたが、意を決したように言った。
「いいわ」 キンバリーは思い出す。
あれは自分がタオ家にやって来て8年目の夏のことだった。
敷地内の森で12歳のキンバリーがクローバーで髪飾りを作っていると、背後から誰かが近づいて来た。
「キム」
その声に怯えた顔で振り向いた。
思った通り、バーバラがそこに立っていて、意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「なっ……なぁに? お、お姉ちゃん……」
3人の兄達は最初から自分をとても可愛がってくれたが、4つ上の姉となったバーバラだけにはいじめられていた。
そのたびに庇ってくれるお兄ちゃん達は今、父とともに台中のほうへ出掛けていた。
キンバリーが怯えた声で無理矢理親しげに「お姉ちゃん」と呼ぶと、バーバラは残酷な笑いを浮かべた。
「ちょっとおいでなさいよ。見せたいものがあるの」
「今……これを作っているところだから……」
「逆らう気?」
バーバラは牙を剥いた。 母は既に発狂していた。
自分達を眺めているのかいないのか、遠くの窓に姿を見せてケタケタと笑っている母の姿が見えた。
「見せたいものって」
キンバリーは後をついて歩きながら、恐る恐る聞いた。
「……何?」
「面白いものを見つけたの」
バーバラは意味ありげな笑いを浮かべ、言った。
「あなたにとってはもっと面白いと思うわ」 高名な科学者のタオ・パイパイと母が再婚し、幸せだと思っていた。
母はああなってしまったが、優しい兄が3人も出来、皮肉なことには母も以前より優しくなった。
新しい父の本当の職業が殺し屋だなんてことはまだ知らなかった。
母がなぜ発狂したのかも知らず、無邪気にもその理由を知ろうともしなかった。
この日までは。 「ここよ」
そう言ってバーバラは立ち止まり、振り返った。
森の中でも暗く湿った場所だった。
辺り一面苔生して、名前の知らない細いキノコがたくさん地面から顔を出していた。
何もない場所だった。大きな岩がある以外は。
しかしバーバラが岩の下に隠れたボタンを押すと、岩がひとりでに移動した。
岩が退いた後には四角い穴があり、暗い地下へ通じる階段があった。 地下室は騒々しかった。
じめじめとした空間には無数の鉄の檻が設けられ、その中には見たことのない動物達がいた。
飛び出た眼がレンズのようになっている猫、
魚の頭をした猿、
人間の腕のようなものが生えたイタチ。
そしてその部屋の中心に特別大きな檻が2つあり、その中にそれはいた。
「懐かしいでしょう、キム?」
バーバラは優しい笑顔を浮かべて紹介した。
「デヴィッドとアーリン。あなたの実の兄妹よ」 檻の中を恐る恐る覗き込んだキンバリーはその場で膝をつき、動けなくなった。
なぜ忘れていたのだろう。
この家に来た時、自分達は4人いた。
4歳の自分がひとつ年下の弟と手を繋ぎ、母は幼い妹を抱いていた。
蘇った記憶の中の弟と妹の面影は、しかし目の前の2人には微塵もなかった。
2人とも身体中に何か機械のようなものを埋め込まれ、顔の肉は腐って蛆にたかられていた。
「オエーちゃん」
妹のアーリンが鉄格子を掴み、激しく臭い唾液を飛ばした。
「クァせて!」
デヴィッドはずっと鉄格子に拳を打ち付け、無言で破壊しようとしていた。 「なんでそっちばっかり見てるの?」
ララはムーリンと仲良くなろうと隣に座り、色々と話し掛けていた。
「日本語のお話、長いねぇ。退屈だねぇ」
「わかんない」
ムーリンはララの最初の質問に遅れて答えた。
「なんか頭が勝手にあっち向いちゃう」
そう言うなり、ぐりんとララのほうを向き、手を動かしかけた。
その手を黒くなったララの手が止めた。
「ララ」
メイファンは言った。
「気になってんだろ? 取ってやれ」 「……フン。黒色悪夢め」
タオ・パイパイは入力した攻撃コマンドをキャンセルされ、歯軋りした。
「先読みしよったか。さすがにやりおるわ」
そしてまた再びコントローラーを操作し、ムーリンにキンバリーのほうを向かせた。
「しかしキンバリー……そこまで知っておったか。バーバラの奴め、何を考えてあんなものを見せた?」
キンバリーはまだ話し続けていた。
話はなぜ自分が他の兄弟をも憎むようになったかに及んでいた。
「そんなことで……たかがそんなことで家族を裏切り、殺そうというのか、キンバリー」
パイパイはコントローラーを握る手に力を入れた。
「やはりお前は今、殺す! 地獄に落ちろ、この腐れ外道が」 地下室を出た後、ショックで12歳のキンバリーは暫く部屋に閉じ籠った。
誰が弟と妹をあんな所に閉じ込め、あんな姿にしてしまったのか。
なぜ母は発狂したのか。
様々なことを頭の中で考えた。
そしてなぜ自分はあの地下室に2人を置いて来てしまったのか。
キンバリーは内側から掛けていたドアの鍵を開けると、急いで部屋を出た。
母と話がしたかった。
しかし母のいるタオ・パイパイの部屋には厳重なセキュリティによってロックがされ、
たとえ会えたところで母は発狂によってすべてを忘れていた。 2日後、父と3人の兄が帰って来た。
キンバリーは何も食べず、部屋に引きこもっていた。
様子のおかしい義妹を心配した三男のマルコムに執拗にドアをノックされ、キンバリーは鍵を開けた。
その頃のマルコムは太っており、締め付けられるのが嫌だからと尻尾を短パンから外に出していた。
どんくさそうで動物っぽいマルコムはいつも優しくて、キンバリーに癒しをくれる存在だった。
しかしドアの隙間から見えたマルコムの顔にキンバリーは恐怖を覚えた。
彼もあのことを知っていて、自分をずっと騙していたのではないか、
そんな疑心暗鬼がマルコムに打ち明けることをさせなかった。 それでもキンバリーは微笑んだ。
「大丈夫よ、ちょっとお腹の調子が悪いだけなの」
その日から、キンバリーの笑顔はただ自分を守るための仮面となった。 「よくも13年間ワシらを騙しておったな!」
タオ・パイパイは憎しみを抑えられずに必殺技のコマンドを入力した。
「科学に犠牲はつきものじゃ。そんなこともわからんのか!」
「遂に『暴れ牛』を強制発動させるコマンドを発見したのじゃ。今、その部屋におる貴様らが最初の犠牲者となれぃっ!」 「取れたか? ララ」
メイファンが聞いた。
「うん。なんか3つぐらい入ってた」
ララは『白い手』を当て、ムーリンの両目に仕掛けられたカメラと、脳に埋め込まれたコントローラー受信部を除去してしまっていた。
ムーリンはきょとんとした顔で手術を受けていた。 「しまった! コマンドが難しすぎたか!?」
タオ・パイパイは何度も←↙↓↘→↙↘↑+ABのコマンドを入力したが、なぜか『暴れ牛』は発動しない。 「いや……。そもそも操作してもムーリン動いとらんし……」
タオ・パイパイはようやく気づいた。
「こんな時に故障か!」 「まぁ、つまり、地獄にママが嫁いじゃったってことか」
優太はキンバリーの話を聞き終わると、言った。
「許せねぇな。腐れ外道オヤジ」
「しかし俺達には関係ない」
茨木が言った。
「あの厄介な金髪娘を葬ってはいけないというのも、関係ない」
3人がムーリンのほうを見ると、笑顔でララと会話をしていた。
そうしていると本当に普通の女の子だった。
「あの子が悪いんじゃないの」
キンバリーがまた言った。
「悪いのはあの子の中の『暴れ牛』なの」 ムーリンは部屋に隔離されていた。
キレることのないよう、穏やかで優しいアニメのDVDを観せられていた。
『……つまんない』
ムーリンは唇を尖らせて、それでも退屈な画面を眺めていた。
「ロックが聴きたい」
そう思っていると、ヤーヤからLINEのメッセージが入った。 「あ。ヤーヤだ」
ムーリンにはヤーヤともども茨木を殺そうとした記憶などなかった。
自分の中に恐ろしいものがいることは知っているが、あの時はヤクザにヤーヤが連れ去られようとしているショックで自分が気を失ったものと思っていた。
そして茨木が実は人さらいではなく、キンバリーの部下だということを知り、それで納得していた。
── ハイ
── ハイ、ヤーヤ。昨日はお疲れ様。
── ( - _ - )
── ?
──ムーリン
──何?
── これから天燈飛ばしに行かない? 鉄道車に乗って一時間ほど走った駅で降りた。
鉄道車はそのまま商店街の中を走って行った。
ヤーヤは台北駅で会ってからほとんど何も喋らなかった。
ムーリンが話しかけても生返事ばかりで、電車から鉄道車に乗り換える時にもさっさと前を歩いた。 天燈を飛ばせる場所までもヤーヤは背中を見せて前を歩いた。
その後ろ姿に向かってムーリンは言った。
「LINE無視してたこと、怒ってる?」
「……」
「ごめんね。へこんでたの。それで……」
「……」
「ヤーヤのこと嫌いになったとか、そんなんじゃないから……」
「着いたよ」
そう言うと、ヤーヤは振り向き、優しく笑った。 色とりどりの紙の中からヤーヤはムーリンに白を選ばせた。
紙の4つの面すべてに願い事を書き、空へ飛ばすのだ。
「素直な願いを書くんだよ」
そう言うヤーヤはいつもの元気にはしゃぐ彼女とは違っていた。
何か人生の辛酸を舐め尽くしたような、落ち着きと諦観が漂い、まるで年上のようだった。
「真面目に、ね」
そう言われ、ムーリンは素直な思いを書いた。
(前を向いて生きられますように)
(自分の中のバケモノに打ち克てますように)
(泣き虫でなくなれますように)
(好きな人とずっといられますように) 書き終えると、二人はお互いの願い事を見せ合った。
ヤーヤはピンク色の紙を選び、4面すべてに同じことを書いていた。
(ムーリンが幸せになれますように) それぞれの紙を店のお兄さんに渡すと、中に火を灯してくれた。
熱で膨らませて行灯となった紙をお兄さんから返されると、ムーリンは空へ向け放った。
遅れてヤーヤも放った。
白い天燈を追うように、ピンク色の天燈が空へと昇って行った。
暗い藍色の空へ、二人の願い事を乗せた天燈が、オレンジ色の炎とともに飛んで行った。 キンバリーは大きなマスクを着け、結わえた長い髪をジャンパーの中に隠し、街を歩いていた。
名高い精神科の医者にムーリンの相談に行ったのだが無駄だった。
『誰か、ムーリンの病気を治してくれるお医者さんはいないの?』
そう考えながらハイヒールを鳴らして歩いていると、突然腕を掴まれた。
「見ィ〜つけた」
バーバラの意地悪な顔が至近距離で笑った。 「ちょっと付き合いなさいよ、キム」
そう言いながらバーバラは物凄い力でキンバリーの腕を引いて歩き出した。
キンバリーは大きな悲鳴を上げ、周囲に助けを求める。
道行く人達は振り返ったが、誰も助けてくれる人はいない。
「アンタ! 何よ!」
バーバラは大声で叫んだ。
「あんなことしといて逃げるつもり!? お姉ちゃんの言うことが聞けないの!?」 バーバラはコンクリートに囲まれた何もない一室にキンバリーを押し込んだ。
「あたしの隠れ家よ」
バーバラはそう言うと、嬉しそうに笑った。
「何もない、いい所でしょう?」
キンバリーは追い詰められた猫のように髪を乱して威嚇した。
「これからあなたの血で真っ赤に染まるわ」
バーバラは舌なめずりをした。
「……長かった! ようやくアンタをズタズタに出来る」 「武器は使わないわ」
バーバラは戦闘の構えをとる。
「一瞬で殺したら勿体ないもの」
「お姉ちゃん……。あたしも殺し屋一家の一員なのよ」
キンバリーはハッタリをかます。
「迂闊に近づかないほうがいいわよ。あたしにも実は……」
バーバラは鋭い前進でキンバリーの頭頂の髪をひっ掴むと、壁に叩きつけた。
「何も出来ない可愛がられキャラのくせに!」
バーバラは歯を剥き出した。
「アンタがのほほんと皆から可愛がられている間、あたしは血の滲むような苦労で殺人術を身につけて来たのよ!」 「アンタがずっっっと! 憎かった!」
バーバラはキンバリーの顔に唾を飛ばした。
「アンタが来るまでは女兄弟はあたしだけだった! 可愛がられキャラはこのあたしだったのよ!」 バーバラの拳がキンバリーの腹部にめり込んだ。
「ゲホ……ッ!」
苦しがるその表情を見てバーバラは至福の表情を浮かべる。
「さぁ。目玉をくりぬいてやろうかしら」
キンバリーはバーバラを睨みつける。
「その前にその綺麗な長い髪を全部引っこ抜いてやろうか」 キンバリーはスタンガンを背中に隠していた。
次、バーバラが前進して来たら、これをどこでもいいから当ててやる。
しかしバーバラはそんなことはとっくに見抜いている。
普通の女の子として生きて来たキンバリーと殺し屋として修練を重ねて来たバーバラ、
その戦闘力の差は歴然だった。 「ぐあっ!」
茨木敬は思わず声を上げた。
コンビニで買った緑茶が予想外の甘さだったのだ。
「なぜ緑茶を甘くするんだ。しかもモロ人口甘味料の甘さじゃないか」
スクーターに跨がると、スマートフォンを取り出し、見た。
バーバラが現れたらキンバリーから連絡が入っている筈だ。
しかしキンバリーからは何のメッセージも入っていない。
「今日は平和だな」
そう言うと茨木はセルを回してエンジンを始動させた。
「台湾野良猫でも探訪してみるかな」 スタンガンが床に転がった。
バーバラが爪を立て、キンバリーの額から血が流れ落ちる。
声も出せずにいるキンバリーの苦しそうな顔を堪能しながら、バーバラは言った。
「お姉ちゃんにこれから殺される気分はどう?」
キンバリーは歯を食い縛り、充血した目で睨みつけながら答えた。
「一度もアンタを姉だと思ったことはないわよ!」
「それは光栄だわ。でもあたしはアンタを妹だと思ってたわよ?」
そう言うや否や、バーバラは素早い動きで両手をキンバリーの首に絡めた。
「タオ・パイパイに妹だと思えって言われてたから殺せなかったの!」 キンバリーの顔が苦痛に歪む。
目玉が飛び出て、口が無様に歪んだ。
「でも、ありがとう。あなたがヤクザを雇ってあたし達を滅ぼそうなんて立派な計画を立ててくれたから……」
バーバラは首を締める手に力を入れた。
「タオ・パイパイが許してくれたのよ、アンタを殺せって」
悔しそうにキンバリーの手が宙を掻きむしる。
赤かった顔にだんだんと青が混じりはじめる。
足はバーバラに踏みつけられ、身動きが出来ない。
しかし断末魔の叫びを上げたのはバーバラだった。 バーバラは口をすぼめ、喉を掻きむしると、もんどり打って床に倒れた。
みるみる顔色を紫にして床を転げ回る女の姿を眺めながら、入口に立つ背の低い男の影があった。
「いかんなぁ、そんな美しい人を殺めようとしたら」
男はそう言うと部屋に入って来た。
腰につけていた解毒剤を飲んだが、すぐには毒は分解されず、バーバラはさらに床を転げ回る。
転げ回りながら、男を睨みつけ、地獄から振り絞るような声で言った。
「ク……ソ……兄!?」 キンバリーは護身用にナイフを持たされていた。
それをバッグから取り出すと、バーバラめがけて振り下ろす。
しかし毒に冒されていても、キンバリーの攻撃にやられるバーバラではなかった。
足でナイフを蹴り飛ばすと、身を起こし、呼吸を整える。
「美しいお嬢さん」
男はキンバリーに向かって言った。
「貴女もやめなさい。貴女にそんなものは似合わない」
「ジェイコブ兄さん!?」
キンバリーは何か調子の狂っているジェイコブを見て、声を上げた。
「……何!?」 解毒剤を飲むと後が辛い。腹の痛みが二日間続き、便意が止まらなくなるのだ。
バーバラは舌打ちをした。 すべての毒に効くようムチャクチャな調合をされているので、当たり前だ。
しかしバーバラは不思議がった。ジェイコブが姿を消してから3日は経っている。
それだけあれば、彼ならこの薬の効かない新しい毒を作り出せた筈だ。
しかも解毒剤で回復しはじめている自分を余裕で放置している。
『バカになったの? ジェイ兄!?』 『キムがジェイコブを殺し、あたしがキムを殺したとタオ・パイパイには報告しておくわ』
バーバラは立ち上がると、床に落ちているキンバリーのナイフを手に取った。
『なるべく素人が刺したように刺さなきゃね』 「申し遅れた、私の名前は──」
ジェイコブは二人に自己紹介をした。
「ベルダード=シュバルツバルトと申します」
「はあ!?」
バーバラとキンバリーは声を揃えた。
「光の守護者の末席にして、神の忠実なる子供」
ジェイコブは続けた。
「『ベル』と、お呼びください」
そうしてニッコリと笑ったジェイコブめがけてバーバラが突進した。
「キモい! 死ねやクソ兄!」 「時間に追われるのはきらいだ」
ジェイコブは胸をメッタ刺しにしながら、純真な目で呟いた。
「いつまでもまったりしていたい」 だが、メッタ刺しにしたナイフからは何の抵抗もなく、煙を切っているような感覚だった。
異変に気がついたバーバラはジェイコブから離れた。
「まさか・・・幽霊!?」 ジェイコブおじさんは、自慢のスキンヘッドを煌めかせながら
滑るようにバーバラとの距離を詰めた。
「…うっ!」
バーバラはたじろき後退る。目の前の男は本当に自分の兄なのか?
そう疑わざるを得ないほど、目の前の彼からは異様な雰囲気が漂っていた。 「過去の自分のことは覚えていません。私は産まれ変わったのです」
ジェイコブはキラキラ輝きながら言った。
「ヴェントゥス=ハルク=ディオニソス様の元でね」
「うわーーーっ!! キモいキモいキモい!!」
そう叫ぶとバーバラは背中に手を回した。
手を前に戻した時にはマシンガンを抱えていた。
「くだらないイリュージョンだ……」
気だるい表情でそう呟くジェイコブに向け、バーバラは叫びながら乱射を開始した。
「跡形もなく消えろ! クソ兄!!」 「待って! お姉ちゃん!」
キンバリーがバーバラを止めた。
「ジェイコブ兄さんがキモいのは元々よ! 間違いなくこれはジェイコブ兄さんだわ!」
「だから殺すのよ、クソ妹」
バーバラは撃ち尽くしたマシンガンを捨てると、髪の中からバズーカ砲を取り出した。
「ずっとこのアホを殺したかったのよーオッホッホ!」
ドカンと一発大きいのが飛んで行った。 「可愛さは……」
ララは鏡に向かって口紅を塗りながら、言った。
「武器!」
そして髪型をツインテールにし、日本の女子高生風のセーラー服を着ると、部屋を出た。
「どこ行くんだ、ララ?」
メイファンが聞いた。
ララは答えた。
「台北うまいもん巡り!」
「それになんでその格好なんだ?」
「こんな可愛い娘、襲える殺し屋などいないからよっ!」
ララは胸を張って言った。
「ずっと部屋にいたら死にたくなっちゃうのよぅ! 危険を省みず遊びに行かなくてはぁ!」
「……」
メイファンは眠たいのに寝られなくなった。 「なぁ……ララ」
メイファンは眠そうな声で言った。
「頼むから昼間はずっと寝ていてくれ」
「断る!」
ララは歩きながら串に刺したイチゴ飴をコリコリ噛りながら言った。
「美味しい? 美味しいねぇ、メイ」 「わかった」
メイファンはとても眠そうな声で言った。
「仕事がすべて片付いたら、お前の遊びに付き合ってやるから……」
「待てん!」
ララは特大餃子を箸で割りながら、言った。
「見て見てメイ! 肉汁がジュッワァ〜!♪」 そこへジャン・ウーから電話がかかって来た。
『こちら福山(酒鬼)雅治』
「こちら黒色悪夢」
メイファンが電話に出た。
「どうした? 酒鬼」
『黒色悪夢よ、今、チャンスじゃぞい』
「何?」
『今、タオ邸にはタオ・パイパイ1人じゃ。今なら攻め込める』
「酒鬼、今どこにいる? 1人で侵入するな」
『いやいや簡単に侵入できたぞい。ワシ1人でも殺れるかもしれん。やってええか?』
「バカ! ジャン爺! 罠だ!」 「ほっ?」
ジャン・ウーが気配に気づいて振り返ると、拳法着姿の小柄な初老の男がそこに立っていた。
「『黒色悪夢』の仲間じゃな?」
タオ・パイパイは低い声で言った。
「うんにゃ。ワシが黒色悪夢じゃよ」
ジャン・ウーは気丈夫に答えた。
「お主がタオ・パイパイじゃな?」
パイパイは鼻で嗤うと、背を向けた。
「帰れ、ワシにはジジイを殺す趣味はない。助けてやる」
「ほほう」
ジャン・ウーの額に血管が浮き上がった。
「たかがワシより10歳ぐらい若いぐらいで他人をジジイ呼ばわりするでない」 ジャン・ウーは腰につけていた瓢箪の栓を開けると、中の酒をぐいぐいと飲んだ。
「プハー!」
いきなり酔っ払いモードに入ると、酔拳の型をとった。
「飲めば飲むほど強くなるぞいっ!」
「映画のような戯言を」
背中を向けたまま、タオ・パイパイは言った。
「酔八仙拳とはそのようなものではない」
「試してみるかの?」
ジャン・ウーは真っ赤な顔をしてニヤリと笑った。
「闘いの最中に敵に背を向けるとは何事かーーッ!」
ジャン・ウーは一歩で瞬時に間合いを詰めると、掌打をタオ・パイパイの脊髄に打ち込んだ。 手応えはあった。
タオ・パイパイの背骨は砕け、身体を支えられなくなって膝をつく……筈だった。
「……雑魚が!」
そう吐き捨てたタオ・パイパイの身体が急速に膨らみはじめる。
筋肉の山が隆起するように、地響きのような音とともにその身体はあっという間に2倍に膨れ上がった。
「ひょっ?」
天を仰いだジャン・ウーを巨大な影が包んだ。
巨大な二本の腕が降って来て、蚊を叩き潰すようにパチンという轟音を立てた。
「汚いのぅ」
タオ・パイパイは言った。
「ジジイの血で汚れてしもうたわ」 タオ・パイパイはジャン・ウーのスマートフォンを拾い上げると、まだ回線の繋がっている電話口に向かって言った。
「黒色悪夢か」
『……』
「ここへやって来い。ワシとお前とで一騎討ちと行こうではないか」 「……ララ」
電話を切ると、メイファンは言った。
「私の身体から出ろ」
「は?」
ララは甲高い声を出した。
「今回の敵は強大だ。死ぬかもしれん。出られるもんなら出て、ムーリンの身体にでも入っておけ」
「何言ってんの」
ララは笑いながら言った。
「私がいなかったら、あんたが傷ついた時、誰が治すのよ?」
「おいおい」
メイファンは真剣な口調で言った。
「死ぬかもしれんのだぞ」
「そんな弱気なこと言うメイ、ほっとけないでしょ」
ララはくすっと笑った。
「ずっと中にいて見守っててあげる」
「よーし」
メイファンは頼もしそうに笑った。
「生きるも死ぬも一緒だ」
「オー!」
ララは強い声で言った。 ジェイコブは1人の女を抱きかかえていた。
「ヴヴ・・・ッ」
バーバラは至近距離でバズーカを撃った結果、全身にその破片を浴びることとなった。
破片は彼女の右目を潰し、前頭が削げ、髪が焦げていた。
キンバリーもまた無事では済まなかった。爆発の衝撃で壁に頭を強打、頭部に損傷を受け意識不明の状態だ 「あ……あたしとしたことが……」
バーバラはうめいた。
「……短気なマネをしてしまった……わ」
「お姉ちゃんが短気なのは昔からでしょう」
意識がない筈のキンバリーが譫言のように言った。
「さぁ、あなたは私と一緒に来なさい」
ジェイコブは頭に天使の輪を浮かべながら、言った。
「あなたも光の子として生まれ変わるのです」 「そしてあなたは……」
ジェイコブは子供のように純真な目を倒れているキンバリーへ向けた。
そして頬をほんのりと赤くすると、嬉しそうに言った。
「私の妻としましょう」 マルコムは街をさまよっていた。
自分がどうすべきなのか、わからなかった。
キンバリーに協力し、父を倒すと一度は胸に誓った。
しかし愛するキンバリーには嵌められ、父を殺すという背徳行為に時間が経つほど躊躇いが生まれていた。
「オレは……どうするべきなのだ」
マルコムはコンクリートの壁を拳で叩きながら、言った。
「教えてくれ……神よ! もしもお前がいるのならば……!」 「黒色悪夢が……来る!」
タオ・パイパイは昂る気持ちを抑えられず、四男サムソンの部屋へ向かった。
「興奮が収まらんわい!」
サムソンの部屋の扉をぶち破ると、嫁のヒーミートゥが1人でいた。
彼女は夫のために立派な原住民衣裳を作っていたところだったが、突然のことに身構えた。
「デブとの子作り、ご苦労。気持ち良かったかね?」
タオ・パイパイが聞くと、ヒーミートゥは無言で槍を手に取った。
「今時そんな原住民はおらん!」
タオ・パイパイが喝を入れるような大声で言うと、槍は粉々に砕け散った。
「ビビアン・スーもアーメイも原住民なんじゃぞ!」 「ア、アアッ!」
ヒーミートゥは後ろから激しく突かれ、尻を波立たせながら悔しそうに泣いた。
「どうじゃ、まだまだワシの暴れん坊は使えるじゃろう」
タオ・パイパイは息子の嫁の髪をひっ掴み、容赦なく攻撃を続けた。
「ヴ……ヴヴッ!」
ヒーミートゥは唇を噛み、涙を流しながらも強い目で壁の写真を見た。
写真には自分とサムソンが仲良く並んで写っている。
「感じないようにしておるな?」
タオ・パイパイが『気』を送ると、入り込んでいる肉棒が2倍の太さになり、ヒーミートゥの子宮口を攻め立てた。
「これでどうじゃ!」
「アア……アアアーー!!」
長い睫毛に縁取られた目が白く変わり、ヒーミートゥは逝かされてしまった。 「やはり17歳はたまらんわい」
行為を終えたタオ・パイパイはタオルで汗を拭くと、殺人拳の構えをとった。
ヒーミートゥは床に突っ伏し、泣いている。
心が折れていた。
「お前は占いなど、非科学的なことをやるから気に食わん。死ね」
そう言って繰り出したタオ・パイパイの腕が伸びながら膨らむ。
「アナ……タ!」
サムソンに助けを求めるヒーミートゥの後頭部が巨大な拳によって潰され、肉の混じった血が飛び散った。 「ん?」
茨木敬はスクーターを走らせながらようやく違和感の正体に気づいた。
「なんか重いと思ったら……」
「気づくのが遅いよ」
サムソンが凶悪な笑顔を浮かべながら言った。
いつの間にか茨木のスクーターのタンデムシートに乗っていたサムソンは、既に茨木の首筋に注射器を突き刺していた。
「パパに命令されたんだ。お前ら全員殺して来いって」
「中国語はわからん」
茨木は言った。
「ただ、そんな細い針は、俺の皮膚は通らん」 茨木が言った通り、突き刺したと思った注射器の針は折れていた。
中の毒薬がこぼれ、風に乗ってサムソンの口の中に入って来た。
「ぎゃああああ!」
サムソンは急いで転げ落ちると、解毒剤を取り出し、飲んだ。
「俺、医者に嫌われるんだ」
茨木はスクーターを止めると、言った。
「『アンタの皮膚、メスも入りませんがな』って、な」 マルコムは過去を色々と思い出していた。
いつの頃にもすぐ側にはキンバリーの笑顔があった。
「やはり……オレは……」
デブメガネだった自分の素質を見抜き、格好いいファッションを見繕ってくれたキム。
尻尾があることを笑わず、それどころか可愛いと言ってくれ、尻尾の隠れるファッションも見繕ってくれたキム。
「オレはキムのことを愛している!」
そしてふと、バーバラが言った言葉が脳裏に甦った。
──(このあたしが直々に蜂の巣にして殺してあげる)
「まさか……姉さん?」
マルコムは行き先もわからず駆け出した。
「キムを守らなければ……!」 「ダン、イーシャ」
そう言いながらマルコムの行く手を塞ぐ者があった。
「ダン、イーシャ(ちょっと待て)。伝わったかな?」
飛島優太がブカブカの白いスーツに着られながらニヤリと笑った。
足元にはマルコムのスーパージェット・リーガルシューズを履いている。
しかし優太の中国語は発音が悪すぎてまったく伝わっておらず、マルコムはただブチ切れただけだった。 「ヒーミートゥが……ミーちゃんが僕を待ってるんだ」
サムソンは口元を拭いながら、茨木を睨みつけた。
「こう見えても僕は妻帯者なんだ! もうすぐ子供だって産まれるんたぞ! こんなところで殺られるわけにはいかない!」
「ターゲット……。四男サムソン・タオ、か」
茨木は両拳を顔の前で構えながら、言った。
「恨みはないが、仕事なんでな。死んでくれや」 闇から姿を現した黒豹のように、黒い工作員服に身を包んだ黒い少女が森を抜け、タオ家の門の前に立った。
「フン」
メイファンは言った。
「貴様がタオ・パイパイとやらか」
「いかにも」
いつの間にか門の向こうに現れたタオ・パイパイが言った。
「会えて嬉しいぞぃ、黒色悪夢」
背の低い初老の男がメイファンには巨人に見えた。
『気』で物を見るメイファンにとって、これほど巨大な人間は見たことがなかった。
「ちっちゃ!」
ララが思わず声を出した。
「こんなジジイ、サクッと片付けて中国帰ろう、メイ♪」 「あ?」
先に膝を突いたのは、サムソンだった。勝負はほぼ一瞬で付いた。 サムソンは何が起きたのか理解出来なかった。
分かっているのは茨木に触れた瞬間、
体中がズタズタに引き裂かれるような痛みと熱さを感じたということだった。
(…ああ、死ぬのか)
地面にキスをした時、サムソンは死というものを理解したが、不思議と恐怖はなかった。 しかしヒーミートゥを残して逝くのが心残りだった。
また、てっきり自分が物語の主人公となって、子を増やし、父パイパイの後を継ぐものだと思っていたのに……。
『ごめんね……ミーちゃん』
サムソンは薄れて行く意識の中で思った。
『最期に君に出会えて……よかった』 (あれっ?)
サムソンは驚いて声を上げた。
(なんでミーちゃんがこんなところに?)
そこは天国なのか地獄なのかわからないが、そこへの入口には間違いなかった。
そこへ渡る橋のたもとで、ヒーミートゥが真っ白な着物に身を包んでサムソンを待っていた。
(一緒に……逝けると思ってたから)
(そっかぁ。お腹の子はどう? もう動く?)
(きっと……いい未来に辿り着く)
(占いに? そう出てるの?)
(いいえ。会えたから。いいの。さぁ、一緒に……)
(うん! 一緒に逝こう)
二人は手を繋いで歩き出した。 小雨が降りはじめた。
マルコムはバーバラに買って貰ったお洒落な服が濡れるのが嫌そうな顔をした。
優太は何も気にせずに笑っている。
この間は中国語の挨拶が伝わらなかったので、改めてキンバリーの習って来た自己紹介を優太は披露した。
「ニーハオ」
優太がそう言うと、マルコムはぴくりと身体を動かし、眉間に皺を寄せた。 「ウォー、ジャオ、フェイダォ、ヨウタイ(私は飛島優太といいます)」
「何だと……?」
マルコムは歯を剥いて優太を睨んだ。
「チンドォドォ、ジージャォ!(よろしくお願いします)」
「貴っ様ァー! 許さん!」
激怒したマルコムの靴が後ろから火を噴いた。
バック転しながら高速で放ったキックが顎下から優太を突き刺し、ナイフが脳天まで突き抜ける……筈だった。 しかし優太は超反応で左に避けていた。
カウンターは繰り出さず、マルコムが着地するとすぐに喋り出した。
「おっかしいなぁ。キンバリーさんに手取り足取りチンコも取りながら教えて貰った中国語なのになぁ。なんで伝わらんかなぁ」
マルコムは優太の足下を見た。
自分でなければ履きこなせない筈のスーパージェット・リーガルシューズが、他人の命令を聞き、ジェットを噴き、自分の攻撃を避けた。
「まさか……お前も……」
マルコムは言った。
「尻尾があるのか?」 優太は答えた。
「メイとは日本語と中国語で見事なまでに会話できるのに……お前の言ってることさっぱりわからん」
マルコムは言った。
「何を言っているのかさっぱりわからん。中国語で喋ってくれ」
優太は答えた。
「お前が日本語で喋れや」
マルコムは答えた。
「わからん。わからんが、スーパージェットの秘密を知ったお前は殺す」 マルコムは靴底からのジェット噴射で飛んだ。
優太もそれを追いかけて飛ぶ。
二人はビルの屋上に着地すると、向かい合い、殺人術の構えに入った。
小雨に加えて風も吹きはじめた。
「避けてみろ!」
そう言うなりマルコムは連続技を繰り出した。
突進から急激に右へ飛び、ローキック、ミドルキック、ハイキックをジェット噴射の超高速で叩き込む。
しかし優太もジェット噴射を駆使してそれらをすべて避けると、得意の接近戦に持ち込んだ。 マルコムの脳裏にまた兄ガンリーとの模擬戦の記憶が甦る。
まだスーパージェット・リーガルのない頃だった。
彼は一度も兄に勝てたことがなかった。
優太の戦闘スタイルはその兄にとてもよく似ていた。
間合いを詰め、素早い手技でこちらのリーチある足技を潰しに来る。
パワーは兄ほどではないが、スピードは兄以上だ。
しかも優太は自分と同じスーパージェット・リーガルを履いていた。 たまらず後ろへ飛び退いたマルコムに優太は余裕を見せつけた。
「へへ。アンタみたいなアクロバットは出来ねーけど……」
優太はトントンと靴を地面に打ち付け、鳴らした。
「幸いにも俺の得意は手技。靴はただ素早い移動手段に特化させた」
マルコムは相手の言葉の意味がわからないぶん、余計におちょくられている気がして腹が立った。
「どうだい? 俺、アンタの靴を履きこなせてっかな?」
優太は物凄い笑顔で言った。
「これ履きこなせて、アンタ殺せたら、キンバリーさんとララちゃんが同時にヤらせてくれるんだわ」
優太の頭にピンク色の妄想がモワモワと浮き上がった。
左手にキンバリー、右手にララを抱き、尖った彼のちんちんは既にどちらかに突き刺さっていた。 「見事だ」
マルコムは優太を認めた。
「最期に名前を聞いておこう」
「キンバリーさんだよ」
優太は答えた。
「わかるだろ? お前の好きなキンバリーさん。あの人が俺の女になるんだよ」
しかし優太の「キンバリー」の発音があまりにも日本語すぎてマルコムには伝わらなかった。
マルコムは言った。
「きん ばりー、か。変わった名前だが……」
マルコムは飛んだ。
「覚えておこう」 優太は思いがけなく慌てた。
マルコムの姿が目の前から完全に消えたのだ。
「あっ……」
後の言葉を口にする暇はなかった。
マルコムの足先がいつの間にかこめかみにあった。
スローモーションのように、ナイフはそこから入って来て、脳を貫いた。
「ララ……」
優太は夢見るように呟きながら、倒れた。
「……ちゃん……」
こめかみから血を流し、優太はコンクリートの地面に倒れ、すぐに息を引き取った。 マルコムは右のジェットを噴射するとすぐに消し、左を噴射させたのであった。
このフェイントについて来られた者は今まで1人もいない。
目の前から消えたように見せ、あとは硬直した敵のこめかみに一撃を入れるだけである。
「オレに先に攻撃をさせたこと」
マルコムは優太を見送りながら、踵を返した。
「それがアンタの敗因だ」 忘れずに優太の足から自分の靴は取り返した。
「この靴を履きこなせるのは……」
マルコムは死んだ優太に言い聞かせた。
「やはり世界でオレだけなのさ」 雨が本格的に降り出した。
マルコムは雨を避けて歩きながら、行く先もわからずただ進んだ。
『同じ尻尾を持ち、オレほどじゃないが、いかした靴の履きこなし方をする奴だった……』
マルコムは思った。
『普通に出会い、言葉が通じ合えば、仲間になれたかもしれないな……』
そしてキンバリーを探してあてもなく歩いて行った。
『オレ達殺し屋の絆……。それはただ殺し合うことだけなのか』 「雨が強くなって来たのぅ」
タオ・パイパイは夜空を悠々と見上げた。
「場所を変えるか?」
「構わん」
メイファンは身動き一つせず構えたまま、言った。
「今、隙だらけじゃん」
ララが小声で言った。
「空なんか見てるよ! ぶち込んじゃえ!」 町を彷徨う内にマルコムは、知らない間に裏通りに迷い込んでいた。
「ああ、雨か」
マルコムは立ち止まり空を見上げた。
視線を前に戻し、再び歩き始めると人集りが見えた。
「爆発事件だってよ」
「銃声がしたからテロじゃないの」
野次馬の誰がそう話すのが聞こえた。 マルコムは目撃した人から話を聞き、何があったのかを推理し、頭の中でまとめた。
『綺麗な20歳代の女の人同士が争い合っていた?』
『ハゲ頭の光輝いているくせに陰気そうな小柄な男が2人をさらって行った?』
『……ジェイコブだ!』
マルコムはジェイコブの記憶喪失のこともヴェントゥスのことも何も知らなかった。
タオ邸へ連れて行かれたものと思い込み、タクシーを拾うと急いだ。
タオ・パイパイと黒色悪夢が対峙しているタオ邸へ── 「あはん」
メイファンは欲情していた。
「たまんない」
目の前の男が放つ『気』の大きさは、信じられないほどだった、
メイファンは強いものを見ると激しく欲情するのだ。
弱い者をいたぶる時も欲情するが、相手が強い時の興奮はその比ではなかった。
既に彼女の太腿には白く泡立った汁が伝い、自分の小指を舐めながらビクンビクンと小刻みに痙攣している。
「そのぶっとい拳、真っ二つに割りたぁぁ〜い……!」
メイファンは性行為に興味がないぶん殺戮行為で興奮する変態であった。 「…道が違うじゃないか、あんた何処にいく気だ?」
マルコムはタクシー運転手に怒鳴った。
「もういいっ、ここで降りる!」
しかし、タクシー運転手は無視するように運転を続けている。しびれを切らしたマルコムはドアを開けようとしたがドアが開かない。 2mもある太い腕に吹き飛ばされ、メイファンは雨に濡れた地面に叩きつけられた。
自慢の棒術は出させてすら貰えなかった。
「ククク」
タオ・パイパイは見下して嗤った。
「その程度じゃったか、黒色悪夢」
「ごめん、メイ」
ララが言った。
「もう……治療の白い『気』……使い果たしちゃった」
「すまん、ララ」
メイファンが言った。
「力及ばなかったようだ。だってメイはまだ16だから」
「メイ……」
ララが涙声で言った。
「生まれ変わっても、また一緒になろうね」
「散れぃ」
『気』で膨らませたタオ・パイパイの巨大な腕が降って来て、二人を砕いた。
一つの身体に住む二人の姉妹は、同時にその命を終わらせた。 「つまらぬ」
タオ・パイパイは言葉とは裏腹に愉快そうに言った。
「引退してもやはりワシが世界最強の殺し屋ということか……」
おもむろにスマートフォンを取り出すと、画面を見た。
「マルコムがこちらへ来ようとしておったようじゃが……方向を変えよったな」
そして微妙に眉間に皺を寄せる。
「アイツがここに来ておったら、果たしてどちらの加勢をしておったか……」
「ワシと黒色悪夢、どちらにとっても天敵と言える奴じゃ。アイツがもし黒色悪夢に加勢しておったら……」
「さすがのワシも『気』を乱され、黒色悪夢に攻撃の暇を与えておったかもしれん……」 「いや……。まさかな」
タオ・パイパイは自信たっぷりに笑った。
「子は父親を裏切れぬ」
そう言うと地面に潰れた黒色悪夢の死体を蹴っ飛ばし、死体分解装置の中へ放った。
二人の身体はその中でミンチにされ、川へと流れて行った。
「さて……。あとはマルコムとジェイコブか。裏切り者は始末せねばの」
「マルコムもキンバリーを人質に取れば大人しく殺されてくれるじゃろう」
そしてマルコムとジェイコブの目に仕込んであるカメラの映像を分割画面でチェックした。
「奴らの居場所はわかっておる」 「バーバラも何やら脳をいじられてワシを裏切るようじゃな。コイツも殺そう」
「何やら金色の奴もおるが、コイツにはムーリンを差し向けるか」
「ワシには最高傑作のムーリンさえおればよい。たわけた友達とやらも殺して、ムーリンを改造し直す」 「ハハハ! 老後もゆっくりとはしておれんな!」
そう言うとタオ・パイパイは雨降る夜空へ飛んだ。
「老衰で死ぬまでワシの天下じゃ!」 生まれ変わってみるとメイファンはアブラムシ、ララはその細胞内で生息するブフネラ菌になっていた。
メイファン「また一緒になれたな!」
ララ「いやぁぁあ!!」 「あたしね、ムーリンをお嫁さんにしたかったんだ」
ヤーヤは涙でぐしゃぐしゃになった顔を笑わせて、言った。
「でも……叶わなかったね」
「言いたいことはそれだけか」
タオ・パイパイは言った。
「最期の言葉言わせてやるワシの優しさ、素敵じゃろ? 死ね」
ヤーヤの身体がレゴブロックのようにバラバラにされ、頭部が地面に転がった。
ムーリンは泣きながら呆然とそれを見ているしか出来なかった。 「さぁ、くだらんお友達とやらも殺した。ワシと一緒に世界征服するぞぃ。来い、ムーリン」
「どぅ、どぅあ……」
「……フン。これしきでキレるでない。未熟者が」
「じぇ……! じぇじぇじぇ……!」
タオ・パイパイはコントローラーのダイヤルを回した。
ムーリンの顔がどんどんと穏やかになって行く。
「とっくにお前は改良済みじゃ。言うことを聞けぃ」
改良により、タオ・パイパイはムーリンの感情さえもコントロール出来るようになっていた。 「おまけに遂に『暴れ牛』の発動もワシがコントロール出来るようになった。ムーリン完成、じゃ」
「ハイ、パパ」
ムーリンは足下に転がるヤーヤの首から視線を上げ、にっこりと笑った。
「さぁ、行くぞ。裏切り者をすべて始末するのじゃ」 マルコムは父にキンバリーを殺すと脅されると、阿呆のように大人しくスーパージェット・リーガルシューズを脱いだ。
タオ・パイパイはキンバリーの目の前でマルコムの首をはねた。
地下施設に乗り込むと、即ムーリンの『暴れ牛』を発動された。
何をさせて貰うことも出来ず、ヴェントゥスとハリーは赤い肉塊と化した。 ジェイコブは脳を改造され、タオ・パイパイの操り人形となった。
地下施設にいた人間達は皆殺しにされたが、唯一殺されなかった者達もいた。
タオ・パイパイはそこにいた自分のクローン達を見ると、ほくそえんだ。
「これだけの数のワシがいれば、世界をワシのものにするのも容易いことじゃわい」 夜、タオ・パイパイはもよおして布団から起き上がった。
「うう〜……。したくて敵わんわい」
トイレ室に入ると、天井からキンバリーが吊るしてあった。
両足を根本から切断し、用が足しやすいように改良してあった。
「み、水を下さい……」
キンバリーはタオ・パイパイの顔を見ると懇願した。
タオ・パイパイはキンバリーの性器にローションをたっぷり塗ると、後ろから肉棒を挿入した。 「うぅむ。やはり蒼井そらはええ女じゃのぅ……」
モニターで日本のアダルトビデオを観ながら、タオ・パイパイは腰を動かした。
「そしてトイレはやはりボットン便所じゃ……!」
そう言いながらキンバリーの中にたっぷりとザーメンをふちまけた。 「水を……」
キンバリーはぐったりしながら、また懇願した。
「お前はボットン便所じゃ。水洗なんぞ必要ない」
そう言いながらタオ・パイパイはキンバリーの膣内を点検する。
「大分溜まったのぅ。ぼちぼち汲み取りが必要じゃの」
トイレ室に呼ばれ、バーバラが入って来た。
口が掃除機のようになったバキューム人間に改造されていた。
「吸え」
タオ・パイパイが命令すると、バーバラはキンバリーの膣内を吸った。
ズビズビズババと汚いものを吸い出す音が暗い室内に響き渡った。 「こちら茨木。作戦は失敗だ」
俺は上への報告を終えると、荷物をまとめた。
俺1人であの化け物に敵うわけがない。退散だ。
優太が生前、言っていたっけな。
『この物語は誰が主人公になるかの争いの物語だ』ってな。
結局、主人公はタオ・パイパイさんだったってわけだ。
俺は主人公なんてガラじゃない、大人しく退場するとするか。 しかし中国も日本も、このまま黙っているわけはないだろう。
次々と刺客を投入するだろうな。
兵藤さんや内情に詳しいキンバリーさん、黒色悪夢、優太、そして俺……。これより強力な兵隊が他にいるとは思えない。
多くの血が流れることだろう。
今回、敵の内部分裂もあったというのに作戦失敗は残念だ。 まぁ、なってしまったことは仕方がない。
最後に旨いタピオカミルクティーでも飲むとしよう。 ヤン・ヤーヤって名前だったな、あの娘。
あれからタピオカミルクティーの店の前に並んでいるのを一度も見ない。
帰国する前にもう一度、姿を見たかったな。 まぁ、こんなオッサンが彼女のいい人になれるわけはない。
甘いもの好きやロリコンもいい加減にしないとだな。
さて、そろそろ空港へ向かわないと飛行機に間に合わない。
さらばだ、台湾。
日本の友人である君達が中国から独立するのを、俺達は邪魔しようとしていた。
こういうのはもちろん悔しいが、
こういう結果になって良かったのかもしれない。 「ううっ」
暗い廊下にうめき声が響き渡る。
声の主、タオ・パイパイは溶けかけた肉体を引きずっていた。
「くっ、苦しい…わわしの体になにがおこっ取るんじゃ…!?」
タオ・パイパイは体の異変の正体が分からず、
ただ苦しみ、呻くしか出来なかった。
「か、体が熱い。だ…だれか…、ジェイ…コブ…ムーリリン…」
タオ・パイパイにはまだやりたいことがあったのだ 体の異常とともにまだ、茨木を殺してないのを思い出したのだ。
「うぬぅ・・・、まだじゃまだわしは」
タオ・パイパイは玄関に向かう。 這いずる彼の背後に影が忍び寄る。
タオ・パイパイは気配に気が付いた
「誰じゃ、ジェイ…か…!?」
残念ながら、その人影の正体はジェイコブではなかった。数時間前だったら彼の正体を見極める事が出来たかも知れないが、死にかけのタオ・パイパイには無理な話だ。
人影はこの老人が振り向くより早く、注射器を彼の首筋に刺し、中の液体を注入した。 「ジ・エンド・・・ってね」
ひでぞうは、タオ・パイパイだった肉塊を見下ろしながら呟いた。
ひでぞうが打ったもの、それはこの実験体を始末するための薬物だった。
(しかしまあ、黒色悪夢どころか自分のファミリーまで潰してくれるなんて、バカな奴だぜ)
ひでぞうは、タオ邸をあとにした。
「さて、本国からの迎えが来る時間まで、間があるな。どこで時間潰そうか」 「はい、グリーンスネーク。」
ひでぞうは無線機を取った。
「被検体の戦闘データの回収及び『黒色悪夢』の抹殺を完了しました。はい分かりました…はい、直ちに。」
全ては合衆国の手のひらの上で踊っているに過ぎなかったのだ。 さて、きょうものんびりですね。一応8月に台北、12月に香港を予定
しています台北は3カ月後、香港は7カ月後ですね。これはこれで
楽しみです。尤もバンコクにするかのうせいもありますが^^;。。
まあ、今の経験をコピーライティングの仕事に活かせればいいですね。
やはり街の景色など日本ではないものがありますし、人々の暮らしぶりも
異国情緒あふれます。そういった経験を仕事にいかせればまずまずと
言った感じでしょう。社民党の方も楽しみですね。やはり交流を持つこと
は大切です。私は社会主義者ではないのですが、リベラルですし、今の
弱肉強食の行き過ぎた資本主義には懐疑的です。そういった意味社会主義
の良い所を取り入れればいいと思います。しかし、そうは言っても苛烈な競争
社会ですからね。この動きはなかなか止まりません。そこで福祉の充実など
セーフティネットの拡充が必要ですね。まあ、企業社会で戦える人は戦って
もらうという感じでしょうかね。。 アメリカ大統領ドナルド・トラ○プは報告を受けると、呟いた。
「あのタオ・パイパイは駄目だったな。才能は最もあったが私欲が強すぎた」
「次のタオ・パイパイを起動させますか?」
CIAの工作員、グリーン・スネークが姿勢を正しながら尋ねる。
「もちろんだ」
トラ○プは立ち上がると、愉快そうに言った。
「忌々しい黒色悪夢が死んだのは非常に嬉しいが、中国にはまだまだ厄介な輩がいる。台湾を守るために新たなタオ・パイパイが必要だ!」
「日本への配慮は?」
「どうせ死んだのはヤクザどもだろう?」
トラ○プはくだらんことを言うなという態度で答えた。
「放っておけ。どうせ日本にとっても社会のゴミクズが消えて良いことだったろうさ」 「我ら合衆国こそが世界正義なのだ!」
トラ○プは声を大にして言った。
「ネット社会になって弱くなった我が国民の優越意識を取り戻さねばならん!
中国や韓国、日本のごとき田舎国家はアメリカに比べれば発展途上国なのだと思い知らせるのだ!」 「そのために台湾を中国から守り、その上台湾を操作し、我らアメリカの正義を守らせるのだ!」 台湾は沖縄の米軍基地まで僅か300kmほどの距離にある。
ここに中国の基地を作られては非常に厄介なのである。 厳密な定義に基づけば、台湾という国家は存在しない。
台湾にある国民党政府は旧中国の中華民国政府なのであり、
現在国連に加盟している中国の正統な政府は中華人民共和国なのだから、
台湾は南に浮かぶ中国の領土の島に過ぎないということになってしまう。 しかし現状としては、社会主義の中華人民共和国に対して、台湾にある中華民国は民主主義的資本主義であり、
海に隔てられていることに加え、中華民国政府がクーデターによって乗っ取られた元々の正統な中国政府であるぶん、
香港やマカオと違って、中国が台湾を奪うことは容易ではない。
国力、軍事力をもって力ずくで奪うことは可能なようには思えるが、
アメリカと日本がそこに抑止力として存在している。
台湾に何かあったらこの両国は、黙ってはいないと約束している。 しかし、少なくとも日本は、中国と国交はあるものの、台湾とは国交がない。
中国との関係でうまい汁を吸っているものにとって、最も理想的なのは、現状維持であろう。
台湾が中国に奪われることなく、独立もしないこと。
そしてアメリカにとってもそれは同じであった。 「胸糞悪ィ結末だな」
飛行機の座席で茨木敬は思わず呟いた。
少なくとも台湾独立を心から願うマルコム・タオは死ぬ必要はなかった。
台湾独立に尽力しすぎていた上に残虐非道が過ぎたタオ・パイパイさえ始末すればよかった。
しかしタオ・パイパイはあまりに強大すぎるがゆえ、1人の力で勝つことは不可能であった。
(何故だかひでぞう1人に殺されてしまったが(笑))
もしも殺し屋同士に絆が生まれ、協力してタオ・パイパイを倒せていたなら……
結果としては、アメリカと日本がうまい汁を吸い続け、
アメリカにとって脅威だった黒色悪夢の始末が出来、現状維持を望むものにとっては最高ということになった。
しかし、多くの血が流れ、世界を変えうる力を持つ者達が命を落とした。 「コロシテ……」
ムーリンは雨降る台北の町をさまよっていた。
「誰カ、アタシヲ……コロシ……テ」
家族も友人も失い、タオ・パイパイの改造により自発的行動も出来なくなったムーリンは、ただひたすらに死ぬことを願っている。
しかし、その脳に埋め込まれた自動制御の自殺防止装置により、死ぬことは出来なかった。 茨木敬は日本に帰ると、まっすぐ孤児院に向かった。
「兄ちゃん!」
子供達が嬉しそうに出迎える。
傷だらけの顔を綻ばせ、茨木は小さな子を抱き締めた。
「おかえり、敬くん」
彼がここで育てられた頃よりもすっかり老けてしまった『お母さん先生』も出迎えた。 茨木は先生にぺこりと頭を下げた。
「すまん。仕事に失敗して、金を持って帰れなかった」
「いいのよ」
先生は優しく笑った。
「敬くんが無事なら。それが私達にとって一番のお土産よ」 茨木が家族との再会果たしていた頃、
台湾の首都、台北では怪獣と化した『暴れ牛』が破壊と殺戮を開始していた。
「グオーッ、ワタシハシュジンコウダーッ」
『暴れ牛』は失った心の隙間を満たすため此度の戦いで殺された家族や友人、その他の残骸を喰らい取り込んでいたのだ。 民衆「ウルトラマンは台湾には飛んで来ないのか!?」 怪獣『暴れ牛』は、どんな致命傷を負っても再生する驚異的な治癒能力と
巨大な体にもかかわらず、幽霊のように存在を消せるステルス能力、気を読むことで相手の動きを予知・探知する能力を備えた脅威のモンスターだった。 アブラムシ「うわっ。そんなの絶対敵わねーよな」
ブフネラ菌「私達が戦いを挑もうとか思うところからして間違いよ」 アメリカが起動した新しいタオ・パイパイは無能だった。
「私の娘とかいう人が巨大化して暴れてるんですけど、どうしたらいいですか?」
と、お悩み相談ホットラインに電話したのだ。 電話のお姉さん「あれあなたの娘さんなんですか? あなたが何とかしてください!」 タオ・パイパイは雷に打たれたようなショックを覚えた。
「そうか! ボクが何とかしないといけないのか!」 『暴れ牛』は市街地に侵入すると、大虐殺を始めた。
”悪い奴”を皆殺しにするためだ。 怪獣暴れ牛の意識は、それまで喰らってきた家族や知り合い、友人の精神が入り交じっている。 「と、とまれー」
タオ・パイパイ2号は暴れ牛の前に立ち塞がった。 タオ・パイパイの屍の向こうから土煙を上げて戦車が現れる。
空からはジェット戦闘機が3機、やって来た。
中華民国国軍が『暴れ牛』を倒すため、女性総統の命令を受けて登場したのだ。 「ところでレス番がヤクザで止まっているのは何か意味があるんですかね?」
花山組若頭の武田伊蔵は少し笑ってしまいながら、言った。
花山組組長 山本聖也はムスッと口を結んで答えた。
「動いちゃったろ」
「は?」
「てめーが今、894にしちまったろ」
「すすすいません! 戻しましょうか」
「時は戻らねぇよ」 「ところでこのままでは台湾が壊滅してしまいますが、どうします?」
武田は話題を変えようとして、言った。
「台湾の政府も国民も優秀だ。しかし援助はせにゃあなんめぇな」
組長はしかし困った風ではなく、余裕の表情で答えた。
「我々は中国との取引を続けるため、建前としてタオ一家と闘いさえすりゃぁよかった。それがこんなことになるたぁな」
「兵藤はじめ、兵隊をいくらか失っちまいましたしね」
「まぁ、タオ一家を舐めてたわな」 組長は続けて言った。
「しかし実はもう手を打ってあんだ」
「おお。さすが組長だ。……して、どのような?」
「茨木いるだろ。ステゴロの鬼な」
「あぁ、はい」
武田はその顔を思い浮かべて少し嫌そうな顔をした。
「アイツに今、別の世界で主人公の修行をさせてっとこだ」
「しかしアイツは……!」
「まぁ、ちと怪しげなとこはあっけどな」
組長は立ち上がると、足元にすり寄って来たペットの黒豹の頭を撫でた。
「アイツに任せっぺ。アイツが帰って来たら、何とかしてくれる」 その後、怪獣『暴れ牛』は三体に分裂し、
それぞれ、アメリカ・日本・中国に現れそれらの地域に災厄をもたらしたのだ。
その影響でアメリカでは隕石が落ち、謎の疫病が流行した。
日本では大量の人間が姿を消し、東半分の地域の秩序が崩壊した。
そして中国では上海をはじめとする都市部一帯が、長期的な大停電に見舞われることとなる。 光の守護者たちの手により怪獣は捕獲され
台湾に平和が訪れた。 はい、ここまですべてプーチンの計画です
空白地帯となった台湾に宗教団体に扮した極秘組織を送り込み支配してしまったとさ 茨木敬「俺が行く! 俺が行くから待っ……てろ台湾」 台湾国民「8+9(ヤクザ)はもう台湾に来ないでくれ」 チュンチュンちゃん「もう少しだヨ! みんな頑張って!」 「何ザマスか、その口調は?」
「それが人の上に立つ者の言うことですか?」 「ザマスザマスってうるせーんだよ!この糞ババア!」 「クチゴタエハユルサンザンス!」
メイドの目が真っ赤に染まり爪と歯が伸びる。
「コ、ロ、ス!」 狸吉「ドカベンは死んだ、ジジイお前が殺したのだっ!」 突然、地面から野太い手が生えてきた。手は更に突き出て本体を現した。
他でもない山田太郎である。
「そんなに簡単に殺されちゃあ困るな」
山田太郎の顔には斜めによぎった継ぎがあった。噂によるととある天才外科医が彼を修復したらしい。 「僕を蘇生させるのには一億円かかったんだ。普通に働いていてはとてもそんなお金は稼げないんだ」
というわけで、ツギハギの山田太郎は傭兵、ではなく漫画家を目指すことにした。 山田太郎は漫画を描く技術がないので、漫画家スクールに入学した。
担任の先生は美人だった。
(高い金を払って入学したかいがあった。こんな美人に教えてもらえるなんて)
先生の名は舞田麻衣子だった。
まいっちんぐ! 舞田麻衣子はスーツ姿だった。タイトスカートの丈は短く、大胆な美脚が生徒たちの目を釘付けにした。
この件について彼女は、とある場所でそうした方が生徒たちの画欲が高まると言っていた。 山田太郎はその性欲を漫画にぶつけた。
山田太郎が初めて描いたエロリ漫画、
『ピーさん丸裸』が世界中で読まれる事になる未来を、
その時点で想像できた者は一人もいなかった。 山田太郎はその性欲をすべて漫画に注ぎ込んだ!
かつてないエロ漫画が誕生した! レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。