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【チャイナ・パニック2】海棠的故事

0251創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 18:40:20.31ID:dcOEOuAW
「どうしたね?」と年配の男性の声がし、椿の後から出て来た。
「お父さん」椿はその男性に言った。「お隣、友達の家だったの」
「おお、チョウじゃないか?」
「樹(シュウ)さん、久しぶり」チョウはぺこりと頭を下げた。
「久しぶりだな。前に会った時はまだこれぐらいの小さな子供だったが……」
そう言って、樹氏は言葉に詰まった。
『今でも充分ちっちゃいよね』ユージンは心の中で突っ込んだ。
「なんで?」チョウは椿と樹氏に聞いた。「あんな大きな屋敷があるのに、引っ越し?」
「東西二つともの森に病気が発生しててね」樹氏は言った。「暫く両方の森に近いここに住居を構え、樹木の容態を診ることになったんだ」
「おじいちゃんのクスノキも危ないの」椿が言った。「おじいちゃんは医者だけど、樹木の病気はわからないから」
「単身ここに住むつもりだったんだが」樹氏が照れ臭そうに言った。「娘の椿もついて来てくれると言ってね」
「どれぐらい滞在すんの?」とチョウが聞く。
「そうだね。短くても1年。長くかかれば2年はここで生活するかもしれない」
チョウの顔がびっくり笑いを浮かべるのをユージンは感じた。
「よろしく樹さん! ばあちゃんのご飯でよければ差し入れするよ! なんならウチに食べに来たらいいぜ」
チョウは樹氏の手を握り、ぶんぶんと振り回した。
「あぁ、こちらもよろしくな、チョウ」樹氏は優しそうな笑顔でその手を握り返す。
「あたしも、よろしくね」
そう言って笑顔で差し出した椿の手に怯むようにチョウは引いたが、ぼりぼりと頭を掻きながらぶっきらぼうに手を差し出した。
「お、おう。よろしくな」
椿の掌は少し冷たく、柔らかかった。
0252創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 19:06:07.93ID:dcOEOuAW
「急にお父さんの仕事が決まって、染め物は暇をいただいたの」
椿はチョウの部屋で紅葉を指で弄びながら話した。
「明日から機織りの仕事に入る予定よ」
「機織りかぁ」チョウはベッドを背もたれにして胡座をかき、言った。「女仕事だなぁ。男は入れねぇ……」
「染め物みたいに牛の背中に乗せる力仕事もないもんね。何? チョウも機織りやりたいの?」
チョウは頭を横に何度も振った。
「べっ、別にそんなつもりで言ったんじゃねぇよ!」
「頑張ってるんだね」椿は部屋に狭しと置かれたたくさんの鉢植えを見ながら言った。「秋風を司る仙人になるんだよね?」
「それどころじゃねぇぜ」チョウは自慢げに胸を張った。「俺、火を司る仙人になるんだ」
「それって最上位じゃない!」椿は目を見張った。「凄い。頑張って」
そう言われてチョウの脳に麻薬物質が昇って来るのを感じ、ユージンまで気持ちよくなった。
「椿はハナカイドウだったよな?」
「うん」椿はお茶を飲み干し、無邪気な笑顔を見せた。「ハナカイドウを司るものを目指してる」
「チュンって漢字、木へんに春だろ? お前もハナカイドウだけにとどまらず、名前の通り春を司るもの目指せばいいのに」
「お母さんは『才能ある』って期待してくれてるけど」椿は顔を赤くして下を向いた。「ムリだよ」
「似合うと思うぜ」チョウは俯いた椿の顔を覗き込むように言った。
「あ、そうだ」椿が顔を上げた。
「な、なんだよ」チョウが思わずのけ反る。
「チョウって、どんな漢字?」
「あぁ、さんずいに秋だ」
「いい字だね」椿は微笑んだ。「『湫』か」
0253創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 19:24:34.05ID:dcOEOuAW
まるで兄妹のように仲良く二人は育った。
やがて一年が過ぎ、二年が過ぎた。
チョウは17歳に、椿は16歳になった。
0254創る名無しに見る名無し
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2019/12/02(月) 19:31:43.86ID:dcOEOuAW
悪魔は森に舞い降りた。
この世界に落ちる時に大きなショックがあった。
並みの者なら記憶ぐらい失っていたかもしれない。
しかし四歳の小さな身体を黒い『気』の鎧で守り、柔らかい腐葉土の上にクッションを効かせて着地すると、すぐに顔を上げた。
身体の主チェンナは予め眠らせてある。
「フン」メイファンは辺りを見回し、感想を漏らした。「何だこのインチキ臭い世界は」
0255創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 08:03:41.49ID:u/7tsAkt
四歳の顔に猛獣の眼が光った。何かが近づいて来る。
わざと気づかぬふりをしていると、それは向こうから声を投げて来た。
「なんだ、子供じゃないか」
振り向いてメイファンは少し驚いた。
水龍の頭を持つ白い衣服の仙人らしきものがそこに立っていた。そいつは言った。
「なぜ人間の子供がここにいる?」
メイファンは同情を誘う泣きべそ顔を作ると「何もわからない」という風に首を横に振った。
「そうか。可哀想だが、人間がここに来ちゃいけないんだよ」
「ここはどこ?」
「知らなくていいんだ」
「おじちゃんは誰?」
「それも知らなくていい。おじさんが人間の世界へ帰してあげよう」
そう言うなり水龍の口が大きく開き、蛇のように凄まじいスピードで噛みついて来た。
予め両手を刃物に変えていたメイファンは身体を回転させるとカウンターで水龍を斬り裂いた。
水龍の頭が飛び、口から下を残した身体が青い血の噴水を上げて突っ立っている。
夜の森の木々の上で鳥達がざわめいた。
「なかなか面白い世界のようだな」メイファンは笑った。「私の腕も錆びついてはいないようだ」
「わー! 怪獣」目を覚ましたチェンナが叫んだ。「退治だ! いぇーい!」
0256創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 08:13:10.58ID:u/7tsAkt
暫く歩くと町があった。深夜の町は眠っていた。
メイファンは建物を見て歩く。どれもこれも時代劇のセットのように古風な建物だ。
「なんだ、ここは。何百年前だ」
高い塀で囲まれた豪邸の前で立ち止まると、身体をドローンに変える。ゆっくり音もなく塀を飛び越えると、草木の生えるままにしてある大きな庭があった。
「庭の手入れぐらいせんのか」
そう呟きながら、中央にある大きな家の前で着地する。扉はなく、玄関にはただ大きな藍色の布が掛けてあるのみだった。
「無用心だな。強盗が入るぞ」
そう言いながらメイファンは家の中へ入って行った。
0257創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 08:52:05.71ID:u/7tsAkt
いびきをかいて真っ黒な住人達が寝ていた。
全員炭のように真っ黒で、目を瞑っているのでどこが顔なのかすらわからない。
身体つきと大きさで夫婦と3人の小さな子供だと見てとることが出来た。
「起きろ」
メイファンは主人らしきのの頭を蹴っ飛ばした。
「ひっ!?」
悲鳴を漏らして主人は起き上がったが、チェンナの身体を認めると安心したような声を出した。
「なんだ? 子供じゃないか。どこから入って来た?」
妻らしきのも目を覚まし、子供達も身を起こす。
「迷子だ」メイファンは言った。「ここはどこだ? 何という所だ?」
「ここは『火』の町だよ?」主人は優しい声で説明した。「お嬢ちゃん、どっから来た?」
「ちょっと。この子、きくらげ臭いよ」と妻が鼻をつまんだ。
「何?」主人はそう言われてチェンナの身体を匂う。「驚いたな。お嬢ちゃん、人間なのかい?」
「人間だったらどうなんだ?」
0258創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 10:11:38.95ID:6l7dhUJF
だからこそ今、
配達不要の書き方まで
マスターしないといけないのか 、それが今わかったところ
0259創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 10:38:55.29ID:u/7tsAkt
夫婦は顔を見合わせた。
ややあって主人のほうが言った。
「人間はこの世界に来たら仙人さまに会わなければならないんだよ」
「仙人に会わせてどうする気だ?」
「さぁ。後は仙人さまにお任せなんだ」
メイファンは糞可笑しそうに鼻で笑った。
「まぁ、今夜は遅い。泊まって行きなさい。これ、布団を出しておあげ」
「今夜だけ?」メイファンは可愛い声を作った。「子供だよ? 可哀想だと思わないの? ずっといさせてよ」
「悪いなぁ。決まりなんだ。明日の朝、仙人さまの所へ一緒に行こうね」
「ハン」メイファンは諦めた。
「ころそう」チェンナが言った。
メイファンはチェンナの手をナイフにすると、主人の喉元に突きつけた。
妻が震え上がり、3人の子供を守って抱き寄せた。
「な、なんだお前は!」主人が緊張した声を上げる。
「ひとつ聞く」メイファンはナイフを突きつけたまま、言った。「19歳の癖っ毛の男と14歳の黒いおかっぱの少女が最近この世界に迷い込んだはずだ。知っていることがあれば教えろ」 
「ししし知らない!」
「もしかしたら髪型は変わっているかもしれない」
メイファンは恐怖でハゲたランと髪の白くなった椿を思い浮かべながら、言った。
「とにかく19歳ぐらいの細マッチョの男と14歳ぐらいの大人しそうな娘だ」
「知らない! 本当だ! 最近この辺りに新しく入って来た顔はいない!」
「……そうか」
「どうか妻と子供達だけは……」主人は懇願した。
「では」メイファンは言い渡した。「お前が言い触らして回れ。人間界から小さな黒悪魔がやって来たと」
そう言うとメイファンは再びチェンナの身体をドローンに変え、満月の夜空へと舞い上がった。
0260創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 10:43:15.02ID:u/7tsAkt
「ころさないの?」
そのチェンナの質問には答えず、メイファンは呟いた。
「あいつら、やっぱ死んでるかもしれねーな。まぁ、それはそれでいいとして、あの大魚とだけは闘りてぇ」
0261創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 10:56:25.36ID:u/7tsAkt
椿は16歳になり、娘らしさを増していた。
つぼみのようだった胸も少し膨らみ、直線で描いたような身体のラインも艶やかな曲線に変わっていた。
髪は赤いおかっぱのまま少し伸び、そこだけ露出させた首の後ろから芳しい香りを立ち昇らせている。

チョウは17歳になったが、雰囲気はそのままだった。
歳よりも幼く見え、背もなかなか椿を追い越せない。
しかし祝融師匠の元に足繁く通い、若い者の中では神通力がずば抜けていると評判になっていた。

チョウと椿の関係は何も変わらないように見えた。
ただ、2年前よりそれは深まり、椿にとってもチョウは特別な相手のようになっていた。
0263創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 11:02:49.99ID:u/7tsAkt
ユージンは相変わらずチョウの中にいた。
17歳になってもほとんど精神的な成長はないと言えた。
チョウのすることをチョウの中から見るだけで、何もしていなかった。
どうせユージンがもし何かしようとしてもチョウが許さなかっただろうが、元々何もする気はなかった。
ただ『気』の使えるようになった椿にもユージンが見えるようになり、チョウと椿はユージンも交え、3人で兄妹のように仲良く育った。
0264創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 11:15:16.15ID:u/7tsAkt
ユージンの記憶喪失もそのままだった。
記憶を消された椿と違い、ユージンは努力して記憶を取り戻すことも出来ただろう。
しかし「幸せだからこのままでいいや」と、何の努力もせずに、椿が自分の実の妹だということも思い出さず、のほほんとした毎日を送っていた。
0265創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 11:21:59.87ID:u/7tsAkt
「こら、チョウ」椿が厳しい顔をして言った。「いじめは許さない」
「だって>>262が……」チョウは怒りを抑えきれない顔で振り返った。「椿を傷つける奴は許さねー!」
「わたしは大丈夫だから」椿は少し微笑みを浮かべる。「だから、>>262のこと許してあげて? ね」
>>262は「バーカ、チービ」と罵声を残して逃げて行った。
「大体、椿が巨大乳輪なわけないじゃん。そもそもの土台がちっちゃいのに」
「今の、ユゥ?」椿がチョウを睨む。
チョウは鶏のように何度も頷いた。
0266創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 13:21:09.41ID:u/7tsAkt
「いつものことだけど、お前、姉ちゃんみたいに上から物言うのやめろよな」
町で買い物をした帰り、並んで歩きながらチョウが椿に言う。
「忘れてっかもしんねーけど俺のが年上なんだぜ?」
「チョウはわたしの弟でしょ」
「ハァ!? てめー……!」
「可愛い可愛い弟くん」
椿がバカにした笑顔でチョウの白い髪をなでなでする。
「ハァ!? ハァ!? てめー、今に見てろよ!」
0267創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 13:30:16.50ID:u/7tsAkt
そんなチョウを感じながらユージンは思う。
こいつ、死ぬまで一生告白しないんだろうな。
慌てず、待ってれば、椿のほうから告白して来る、そんなもんさとか思っているんだろう。
確かに2年前、消えた椿は向こうのほうから戻って来たが、あんなのは滅多にない偶然だ。
何よりぼくは探している誰かにまだ出会えてないじゃないか。
そう思いながら、ユージンはチョウに何を言うつもりもなかった。
今のまま、このままの3人の関係ならいつまでも続いてもいいなと思っていた。
チョウは椿が側にいれば幸せで、椿はチョウを笑わせてくれる。
自分がいつも中にいてもチョウはちっとも邪魔がらず、いさせてくれる。
自分はいつもチョウの中にいて、チョウの暖かさを感じていられる。
椿のことはやはりうるさいし、しばしば猫になって引っ掻いてやりたい衝動には駆られるが、なぜか嫌いになれなかった。
0268創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/03(火) 13:38:53.03ID:u/7tsAkt
ただひとつ欲を言うなら、チョウに自分を見てほしいという不満はあった。
チョウはいつでも椿を見ていて、自分のことは可哀想なカタワの人間、あるいは不憫な捨て猫ぐらいにしか見ていない。
それが悔しかった。
それである時、チョウにこう言い出した。
「ぼく、椿に入りたい」
チョウはとんでもないほど取り乱し、怒り出した。
何てこと言い出すんだこの変態とさえ言われた。
しかし椿に入ればチョウは自分を見てくれると思った。
それが単に物理的な意味での「見る」であってもよかった。
チョウの中にいるのは相変わらず、好きではあるけど落ち着かなかった。
いつもソワソワしてしまい、どっと疲れることもあった。
何よりおばあちゃんの中に入った時、思ったことがあったのだった。
「ぼく、チンコがないほうがしっくりくる」
0269創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 13:48:58.93ID:u/7tsAkt
「5月、か……」チョウが緑から青に変わり行く木の葉を眺めながら言った。「もうすぐだな。椿の成人の儀」
「うん」椿が少し不安そうに頷く。「チョウより一足先に大人になっちゃうね。年下なのに」
「ったくよー。なんで女のほうが成長が早いんだよ。神様も不平等だよな」
「それで……言うの遅くなっちゃったけど、成人の儀がある6月までには『樹』の家に帰るの」
チョウが買い物の紙袋を落とした。
「は? 隣からいなくなっちまうのか?」
「うん。お父さんの仕事もちょうど終わりそうだし」
「なんで黙ってたんだよ!?」
「え?」
「ひでーよ! ある日突然いなくなっちまうつもりだったのかよ!?」
「あ、ごめん」椿はチョウが何を怒っているのかわからないという風に言った。「別に遠くなるだけで、会えなくなるわけじゃないじゃない」
0270創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 14:11:13.31ID:u/7tsAkt
「皆もう知っていると思うが、昨夜『水の森』で赤松子道士の一番弟子だった水龍が何者かに殺害された」
祝融は屋敷にすべての弟子を集め、それを前にして言った。
「そして同じく昨夜、この町で殺されそうになった者がいる。犯人は小さな子供の姿をしており、人間界から来た黒い悪魔と名乗ったそうだ」
その話は誰もが初耳だったらしく、弟子達はざわめいた。
「祝融先生、ではその悪魔とやらが水龍道士を殺した犯人なんですか?」
「確定ではない。しかしその確率が高い。この世界に人間界から落ちて来るものは決まって『水の森』に着地する。水龍道士はそれを見張る役を務めていたからな」
「では皆でその悪魔を探しましょう」
「ウム。しかし」祝融は皆に言い聞かせた。「見つけても、争うな。必ず私に報告せよ。赤松子や他の道士でもよい」
「了解しました」
「いいな? 手は出すな。相手は私達道士がする」
0271創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 14:19:07.84ID:u/7tsAkt
「黒い悪魔だって。怖いね」ユージンが言った。
しかしチョウは祝融の話を聞いてはいたが、元気がなかった。
そんなチョウのところへ祝融がやって来て、声をかけた。
「どうした、チョウ? お前のことだから真っ先に『俺が退治してみせます』などと言い出すものと思っていたぞ」
「先生、俺……」チョウは顔を上げると、言った。「何が何でも守るよ」
祝融は意味がわからなそうな顔をしたが、頼もしそうにチョウを見つめて笑うと、頭をぽんと撫でた。
「あぁ、頼むぞ。手を出すな。自分を守れ」
皆が騒然となっている中で、たった一人、昼寝をしていて話を聞いていなかったものがいた。
チョウの義兄、ズーローであった。
0272創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 14:59:26.91ID:u/7tsAkt
散会してチョウが屋敷を出ると、表に赤松子道士がいた。
深い蒼の長髪に青い着物、いつも通り名とは全く違った青ずくめの姿だ。
細面の美しい顔を涙で歪め、祝融に助けを求めるように抱きついていた。
「祝融〜。惨いよ〜。水龍が……水龍が……」
「赤松子、しっかりしろ。我等で仇を討つのだ」
「あのひと、あんなんでめっちゃ強いなんて、信じられない」ユージンが言った。
「ウチの先生と互角だって噂だぜ」
「あの二人、出来てるの?」
「は? 男同士だぜ?」
「ありえない話じゃないじゃん」
0273創る名無しに見る名無し
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2019/12/03(火) 20:56:13.82ID:8CtqExzM
しかし『黒い悪魔』は見つからなかった。
見慣れない四歳の子供が歩いていたらすぐに目立つというのに。
町にも森にも目撃者は現れなかった。
鼻の利く竜の馬が駆り出されたが、『マイナスの匂い』を放つ人間の探索には意味をなさなかった。
一体、悪魔はどこにいるのか。
そもそも本当にそんなものが存在するのか。
やがて祝融と赤松子を除き、人々は黒い悪魔のことを忘れて行った。
0274創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 07:00:20.89ID:DtCsDxbN
チョウは手綱をふるう。
「ちくしょーっ! 待てーっ!」
「アハハ! チョウ、早く!」
椿は笑いながら先を駆けて行く。
赤い馬に乗り、チョウは椿の緑の馬を追いかけた。
草原があっという間に後ろに流れて行く。
時間は緩やかに、穏やかに二人だけの世界を包み込んでいた。
0275創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 07:08:55.73ID:DtCsDxbN
川のほとりがゴールだった。椿が一足先に到達し、馬の足を緩める。
遅れて来たチョウも手綱を緩め、汗を拭き、息を整えると馬を降り、そのまま草に臥れた。
「ちくしょー……とうとう椿に勝てなかったぜ」
「フフ、22連勝。前はチョウのほうが速かったのにね」
そう言うと椿はチョウのすぐ隣に寝転んだ。
暫く草に寝転び、目に見えない風を二人で見つめた。
風は汗をかいた肌をくすぐり、二人の髪を弄び、遠くの川面をキラキラと揺らした。
「いい風」椿が言った。
チョウはずっと何かを考えながら黙っていたが、意を決したように口を開いた。
「椿」
「ん?」
「俺さ……」
「うん」
0276創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 07:26:41.21ID:DtCsDxbN
「えっとな。俺な、その……」
「何よ」椿はクスッと笑った。「へんなチョウ」
「お前のこと……」
椿は黙り、覚悟をするような真面目な顔になる。
「お前のこと……、尊敬してる」
椿の真顔が崩れた。すぐにまたクスッと笑い、身を起こす。
「何よ、それ。ありがとう」
チョウは真っ赤な顔をそむけると、慌てたように言った。
「な、なんだ俺! へんなこと言い出したな!」
「わたしもチョウのこと、尊敬してるよ」
「ほ、本当か?」チョウは向こうを向いたまま言った。
「ねぇチョウ、舟に乗らない?」
「あぁ、いいな」
椿は薄紅色の『気』を集めると、足元の草に込めた。すると地中から音を立てて、太短いが巨大な竹が顔を出す。
竹がみるみる差し出した笹の葉をチョウが火の力で焼き落とす。二人で端を折ると、瞬く間に二人の乗れる笹舟が完成した。
0277創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 07:38:42.56ID:DtCsDxbN
川に浮かべた大きな笹舟をチョウは竹の棒で漕いだ。
椿は船の先に楽しそうに膝を畳んで座り、何も言わずに景色を見ている。
右手には真っ赤な『火』の森があり、左手には青々とした『樹』の森があった。
チョウの住む『火』の町と椿の帰る『樹』の町はそう遠く離れているわけではないが、この森によって互いに遮られている。
「またこっちまで競争しに来るね」と椿が言った。「毎日は出来なくなるけど」
チョウは船を漕ぎながら小さな声で「あぁ」とだけ言った。
ずっと椿の後ろ姿を見つめていた。手を伸ばせば抱き締められる距離にあった。
もうすぐ6月がやって来る。
ユージンはずっと黙っていた。穏やかな時間と川面の涼しさに言葉を忘れていた。
0278創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 07:51:37.64ID:DtCsDxbN
「なんとも風雅だな」
部屋の調度品を眺めながら、メイファンは馬鹿にするように言った。
「毛沢東の文化大革命はこの世界には起こらなかったんだな」
そして床に根を張る白い髭を足でコツコツと蹴った。
「……それで、なぜ私を匿う?」
問いかけられた老人は淹れた茶を持ち、振り返った。
「儂は医者だ。人を助けるのが務めだからな」
フンと鼻で笑うと、メイファンは聞いた。
「ここに来た人間を他に知らないか? 細マッチョな男とおかっぱの娘だ」
「椿のことか」
「それだ」
「知っているぞ」
「どうした? 殺したか」
「助けた」
「務めだからか」
「いいや」老人は首を横に振った。「かわゆいからだ」
0279創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 07:57:44.37ID:DtCsDxbN
老人は立派な桐の引き出しを開けると、中から大量のブロマイドを取り出した。
「儂はこう見えてアイドルオタクなのだ」
「ほう?」メイファンは身を乗り出した。
「この世界にはアイドルなどというものはない。ゆえに人間世界からこういうものを取り寄せているのだ」
「なかなか話の合いそうなジジイだな」芸能人オタクのメイファンは目を輝かせた。
「飛鳥さんとよだっちょなど、見ていてたまらんものがある」
「小動物より可愛いよな」
「あぁ……かわゆい。椿にもそんなかわゆさを感じてしまったのだ」
「なるほどな」メイファンは深く納得した。「お前、変わり者だってよく言われるだろ?」
0280創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 08:08:37.75ID:DtCsDxbN
老人は髭に包まれた顔を笑わせた。
「医術というものは自然に反するものだ。死ぬ運命のものを引き戻すのだからな」
「誰でも死にたくはねーだろ」
「無論。それゆえ皆、儂に助けを求める。が、儂は自然に反する変わり者、嫌われ者だ」
「ふーん」
「それゆえここには誰もやっては来ん。患者の元には儂のほうから出向く。だからお前はここにいれば安全だ」
「そいつはどうも」
「あぁ、ただ一人、訪ねて来てくれる者がいる。それが椿だ。かわゆいのぅ」
「来るのか、ここに?」
「あぁ」老人は言った。「ただし、儂が人間の記憶を消した。お前のことは覚えていない」
「そうなのか」
「あぁ、悪いことをしたかな」
「構わん。勝手にしろ。それよりジジイ、お前、若い頃は相当強かったろ?」
メイファンは老人の身体から薄く漂っている薄紅色の『気』を見ながら、言った。
0281創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:33:11.08ID:DtCsDxbN
「おじいちゃん!」
そう言いながら笑顔で椿が飛び込んで来た。
「どうした、椿。また困ったことが起こったのかね?」
椿は首を横に振ると、クスノキの老人の胸に手を添えた。
「わたし、もうすぐ成人するのよ」
「あぁ、知っている」クスノキは優しく笑った。「おめでとう」
「それでね、でも不安だから。おじいちゃんに色々お話聞きたいの。……あら? 誰か来てたの?」
椿は卓の上の冷めた茶を見て言った。
「栗鼠だよ」老人は答えた。「さ、椿にも茶を淹れてあげよう」
0282創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:41:06.59ID:DtCsDxbN
椿が帰ると、調度品に姿を変えていたメイファンは『気』を解いた。
「探していたんじゃなかったのかね? あの子を」
老人が聞くと、メイファンは欠伸をしながら答えた。
「どうせ私のことは覚えていない。覚えていない以上、椿にとって私は通報すべきお尋ね者だ」
そして自分で新たに毒の有無を確認しながら茶を淹れた。
「まぁ無事な顔を見れてよかった。しかし……」茶を口に運ぶ。「中にもう一人いなかったな。あっちは死んだか」
茶を卓に置くと、付け加えた。
「もったいない」
0283創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 08:50:55.02ID:DtCsDxbN
クスノキの老人が激しく咳き込んだ。
「病気か?」メイファンは茶を飲みながら聞く。「椿もお前の身体を心配していた」
「なに」老人は笑いながら答えた。「三千年年も生きていれば、病気にもなかなか勝てなくなるものだ」
0284創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/04(水) 09:55:34.00ID:5oJ1rDdy
「李さんの、ばかばかばか眉毛が痒いよ目玉がかゆいよズボン脱いで寒いんだけど、 今てんとう虫のサンバ歌ってるんだよ!!」
0285創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 10:14:06.26ID:DtCsDxbN
「そんなことより、だ」メイファンはウズウズしながら老人に尋ねた。「ここにとんでもなくどでかい赤い魚のバケモノがいるだろう? 強そうな」
「赤き……巨大魚だと?」クスノキの老人は答えた。「知らんな。そのような神獣もここにはおらん」
「そうなの?」メイファンはがっかりしたが、気を取り直してさらに聞いた。「他になんか強い奴いるだろ? ここなら……」
「祝融と赤松子は強いぞ」
「ほう!」メイファンはメモした。「生意気そうだな。神様の名前なんかつけやがって」
「あの二人には決して見つかるでないぞ」
「は?」
「闘おうなどと思ってはならん。お前ごときは一瞬で粉粉にされる」
「ハアァ〜?」メイファンのこめかみで青筋がビキビキと音を立てた。
「はらへった!」チェンナが騒ぎ出した。
0287創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 15:53:05.01ID:gcvY6MWO
メイファンはクスノキの老人を信用することにした。
やたら薬臭い具だくさんのスープを振る舞われ、有り難くチェンナの身体に栄養と満腹感を与えた。
ベッドを貸すと言われたが、老人の寝床を取るわけにも行かず、クスノキの洞の中に『気』で寝袋を作り、寝た。
0288創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 15:58:00.29ID:gcvY6MWO
月を見上げながらメイファンは聞いた。
「チェンナ、寂しくはないか?」
「ちっとも」
「ママに会いたくはないのか?」
「んーん。だぁじょぶだよ」
メイの奴、娘に愛されてねーんだな、と思った時、チェンナが言った。
「だってメイファン、ママとおんなじにおいだもん」
「あぁ、そうか」メイファンはそれで合点がいった。「私はお前のママの出来損ないバージョンだったな」
0289創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 16:17:11.46ID:gcvY6MWO
チョウはベッドに寝転び、ずっと親指の爪を囓っていた。
隣の家からは気配も物音も消えていた。
「……なぁ」
「ん?」ユージンが返事をする。
「昼間……あの時、俺が気持ちを伝えてたら……何か変わってたのかな」
「変わってただろうね」ユージンは答えた。「どっちにかはわかんないけど」
ユージンの言葉で悪いほうの想像をしてしまい、チョウはヒィッと小さく悲鳴を上げ、頭を押さえた。そしてそれきりまた黙り込んでしまった。
ユージンはどうしてあげたらいいのかわからなかった。
そもそも椿のどこがそんなにいいのかがわからなかった。
ユージンにとって椿は相変わらず、そこそこ顔は可愛いけれど小うるさくて地味なだけの女の子だった。
地味なくせに花々しい赤い髪が嫌いだった。
「椿のどこがいいの?」かける言葉が見つからず、思わず聞いてしまった。
別に知りたくはなかった。答えてくれなくてよかった。
チョウは何も答えなかった。ただ、何かを考えながら速いテンポで指を折りはじめたので、ユージンは言葉を待った。
やがて無言のまま二人とも眠ってしまった。
0290創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 16:49:18.95ID:gcvY6MWO
6月がやって来た。

椿の成人の儀は始められた。
その第一段階は人間界へ赴き、人間の生活を見て来ることだった。

『樹の一族』が集まり、樹氏や鳳婦人の親しい者も集まり、宴が催された。
椿も仕事仲間の女友達を呼んだ。もちろんのようにチョウとユージンも招待されていた。

宴が終盤にさしかかると、皆は酒や料理を置き、外の広場へと移動した。
円形の広場の中心に丸く掘られた大きな穴があり、中には海水が満ちていた。

椿は皆が取り囲んで見守る中、穴を前に立つと、祈るように両手を前で合わせた。
身体に密着した赤い無地の旗袍に黒い長スカートを穿いている。

やがて顔を上げると、泳ぎ出すように椿の身体が空へと浮かび上がった。
薄紅色の『気』に包まれ、ゆっくりと回転しながら、見えない力に身を任せるように椿は赤いイルカに姿を変えて行く。

「綺麗……」ユージンが呟いた。「椿のくせに……綺麗」
チョウはただ口を開けて見つめていた。

赤いイルカに変わりきった椿は穴へ飛び込んだ。
水飛沫を上げ、飛び込んだ向こう側は人間界だ。
0291創る名無しに見る名無し
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2019/12/04(水) 17:07:19.21ID:gcvY6MWO
【主な登場人物まとめ】

人間

・ユージン(李 玉金)……17歳の少年。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。身体がないのでチンコもないが、性同一性障害。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
人間界にいた頃は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来た。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……16歳の少女。人間界にいた時は登校拒否を患っていた。ユージン曰く地味だがそこそこ可愛い顔をしている。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれていたが、義兄が渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。
今では自分を海底世界の住人だと思っており、『樹の一族』の一員として薄紅色の『気』が使え、黒かったおかっぱの髪も赤くなっている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
リウ・パイロンとメイファンが殺したケ 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
赤いイルカを助けた後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
メイファンに身体を潜水艦に変えられ、喜んでいる。

海底世界の住人

・チョウ……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。秋を司る能力を持っている。橙色の『気』を使う。
言葉遣いが粗野で、歳より幼く見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。
0292創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 06:46:01.26ID:twuXFjIQ
「行っちゃったね、椿」
チョウと並んで見ていたルーシェン(鹿神)が言った。
「あぁ……」チョウは放心したように答えた。
「ところでチョウ」ルーシェンは高いところから見下ろしながら、言った。「椿とはもうヤッたの?」
「バーカ」チョウは軽く流した。
「椿、寂しがってたよ」
「へぇ? そっか」
「せっかく待ってたのにチョウが抱いてくれなかったって」
「へぇ〜」
「いつ処女を奪ってくれるのかなぁって、ボクに相談しに来てた」
「もう黙れ。殴るぞ」少しだけ気持ちよさそうに聞いていたチョウはさすがに態度を変えた。
0293創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 06:47:17.71ID:twuXFjIQ
ルーシェンはチョウと椿共通の友達だが、他のものからは嫌われていた。
明るい性格なのだが、嘘ばかりつくので相手にされていなかった。
『ルーシェンの言うことは10個のうち9個が嘘」というのが評判だった。
それさえなければ、スラリと伸びた長身、中性的な顔だち、魅力的な頭の二本の短い角、気さくな性格と、少なくとも女の子にモテない要素はない。
きっかけがあって仲良くなったが、それがなければチョウも相手にしていないところだった。
0294創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 06:55:18.71ID:twuXFjIQ
「本当なのに〜」ルーシェンはなおも言った。「とりあえずチョウ、椿が帰って来たら告白しなよ」
チョウはすべて信じずに聞いていたのに、なんだかいつの間にかルーシェンの嘘に乗せられていた。
「うん」チョウは頷いた。「告白する」
ルーシェンは嬉しそうに笑うと上半身を折り、チョウの顔を覗き込んだ。
「言ったね?」
「あぁ」
「告白しなよ?」
「しつこいな」
「椿が帰って来るのは一年後の春かぁ」
「明日の朝だ、バカ」
皆は椿を見送ると席に戻り、宴を続けた。
チョウとルーシェンも席に戻ると、バカ話をしながら肉を食い、烏龍茶を飲んだ。
0295創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 08:20:04.66ID:Pmn1YG93
生ゴミに注意!
0296創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 09:34:46.95ID:X5WZi0NY
ルーシェンのいうことは10に9は嘘だ

つまり1は本当のことをいうのだ

チョウは信じたかったのだ

椿が自分のことを好きだという話が1のほうなのだと
0297創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 15:33:46.36ID:Pmn1YG93
先には大穴!

警告
0298創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 19:51:20.06ID:D9bwzt11
ZOZO創業者の前澤友作氏(44)が、11月29日にネット動画のYouTubeチャンネルを立ち上げた。
その第1弾が「1000億円を通帳に記帳してみた」である。
案の定、“下品の極み”なんて言う声が相次いで……。

(中略)

精神科医の片田珠美氏は

「なぜ、こんなことをするのか。前澤氏のレゾンデートル、つまり自分の存在価値、生きる理由は、金儲けをすることだけなんでしょうね。
その背景には、コンプレックスがあるのではないでしょうか。
ミュージシャンになろうとして失敗し、ZOZOで金を儲けることができても、事業が行き詰って、Yahoo!に売却せざるを得なくなった。
本人もかなりショックだったと思います。
そういうのを払拭するために、1000億円入金されたっていうことを見せびらかせたかったわけです。
本物の金持ちは、こんなこと絶対しませんよ」

「世間から何と思われるか、想像力が欠如しているのかもしれません。
前澤さんといえば、先日、剛力彩芽さんと破局していたことが明らかになりました。
清純なイメージの彼女といきなり別れれば、彼女の女優としての商品価値がどれだけ落ちるかということを考えていない。
想像力が働かないのです。
相手が傷ついても、その痛みがわからない人なのでしょう。
そういう意味で彼は、他人の苦しみに鈍感で哀れみも感じない、情性欠如者の可能性も考えられます」と分析した。
0299創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 21:53:06.38ID:dmaF0Xpb
赤いイルカに姿を変えた椿は暗い海を泳ぎ、上へ上へと向かった。
たまにキラキラと銀の鱗を光らせて魚群が通るのを立ち止まって見とれながら、人間界らしい景色を見るために泳いだ。
たまに上下がわからなくなった時は、力を抜いた。沈む感覚と浮き上がる感覚で、進むべき方向がわかった。
やがて匂いが変わりはじめた。
嗅いだこともない胸の悪くなる匂いとともに、美しかった海が黒くなりはじめた。
黒い海の向こうが明るくなったかと思うと、椿は海の上に顔を出した。
荒波が赤いイルカの姿を揺らす。他には何もなかった。空はどんよりと曇っている。
遠くから苦しむ声が聞こえて来た。椿はすぐにその方向へ、海の上を泳ぎはじめた。
0300創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 22:00:05.90ID:dmaF0Xpb
巨大な鉄の船が何か黒いものを海に撒いていた。
椿は遠くからそれを見つけ、近づこうとした。
しかしまだまだ遠いのに、それ以上は近づくことが出来ない。本能が死の危険を報せていた。
鉄の船が撒く黒いものに包まれて、夥しいほどの海の生命が死んで行くのを感じた。
苦しみの声が怨霊のように椿もそこへ引きずり込もうとする。
思わず顔を背ける。彼らを見捨てて逃げるしかなかった。
0301創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 22:18:20.25ID:dmaF0Xpb
遠くの陸地には神を脅かすように高く聳える建造物が見えた。
馬よりも速く走る車と竜よりも速く飛ぶ飛行機を見た。
しかし人間は小さすぎてどこにも姿を見つけることが出来なかった。

ようやく小さな舟に乗った3人の人間に遭遇した。自分やチョウと違うのは髪の色が真っ黒なことぐらいで、他は何も変わらないように見える若者達だった。
椿は海から顔を出し、微笑んで3人に手を振る動作をした。
「おい、変な色のイルカがいるぜ」
「誰が仕留めるか勝負しよう」 
「おい、動画録れよ?」
椿の身体を掠めるように、ざらついた銀色の銛が打たれ、海面に穴を空けた。
「チッ! 惜しい」
さらに続けて2本、自動連続射出式の銛が椿めがけて飛んで来た。
連続で次々と飛んで来る冷たい凶器から椿は逃げた。海へ潜っても3人は暫く潜って追いかけて来た。
0302創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 22:51:29.66ID:7ZdN0qZP
身も心も早くも憔悴しきっていた。
夜を待たずに帰ろうかとも思った。
しかしまだ陽は水平線にかかってすらいない。
とぼとぼと泳いでいると、突如押し寄せた大きな波に後ろから押された。
押された先に罠があった。
ちょうどそこに仕掛けられていた魚漁りの網は、椿の身体を受け止めると絡みついた。
「……!」
そこで初めて、この身体では声が出せないことを知った。
「……! ……!」
椿は出ない叫び声を上げようとしながら、網から抜け出そうともがいた。
もがけばもがくほど、網はきつく身体を縛り上げる。
0303創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 22:54:46.13ID:7ZdN0qZP
人間界の月が出た。
夜のうちには海底世界へ帰らなければならなかった。
椿は網にかかったまま、力を使い果たしてぐったりとしていた。
小魚達が身体を突っつきながら、自分が死ぬのを待っていた。
0304創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/12/05(木) 23:07:36.21ID:7ZdN0qZP
ふと気がつくと誰かの声が遠くに聞こえた。辺りはすっかり明るくなってしまっていた。
気を失っていたせいか、少しは体力も戻っていた。
誰かの声は、そこから少し離れた崖の上から聞こえて来ていた。
「ミーミー!」とどこか聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
暫くすると男の人間らしき影が現れ、すぐにそれは高い崖の上からこちらへ向かって飛んだ。
椿は怖がり、身をすくめ、どうかこっちへ来ませんようにとでも言うように顔をそむけた。
「あれ?」と男の声がした。
目を合わさないようにしていると、その男は声を掛けて来た。
「まぬけだなぁ、お前」
そしてクスッと笑った。
0305創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 23:14:54.96ID:7ZdN0qZP
「待ってろよ」と言うなり、人間の男は近づいて来る。
椿は恐怖にもがき、逃げようとする。しかし動けば動くほどに網が身体を強く絞めつけた。椿は苦痛に顔を歪める。
「じっとしてろ」
そう言うと男はおぞましいことに椿の身体に触れて来た。あまつさえ、どこにしまっていたのかナイフを取り出すと、椿に突きつけた。
しかしそのナイフで切りつけはじめたのは椿の身体ではなく、椿が絡まっている網だった。
0306創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 23:24:59.45ID:/UH5v2Ee
網は固く、なかなか切ることが出来ず、しかし男は真剣な顔で椿を助けようとしていた。
椿はもうもがくことはせずに、黙ってじっとその人間の男の顔を見ていた。
睫毛が長く、綺麗な顔をしていた。濡れてうねった髪の毛が柔らかそうで、触れてみたかった。
真剣な眼差しには優しさが漂っていた。紫色のくちびるが美しくて、椿は思わず見とれていた。

男はまるで励ますように椿に話しかけた。
「これでも切れなかったらメイファンちゃんを呼ぶよ」
そう言った途端、それまでびくともしなかった網が、まるで紙のように簡単に切れた。
0307創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 23:33:20.89ID:PfKdlfTG
「さ、行けよ」と人間の男は言い、にかっと笑った。
網の束縛から自由になったのを確かめると、椿は礼も言わずに逃げ出した。
「もうまぬけな捕まり方するんじゃないぞぉー!」
そんな言葉に見送られながら海へ潜ろうとした時、崖の上から必死で叫んでいる声に気づき、振り向いた。
「……ン兄ィ!」
「ラン兄ィ!」
遠く崖の上で少女らしき影が何やら2種類の声で、声を限りに叫んでいた。
0308創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 23:48:02.94ID:k9H+fr7V
さっきの人間の男が急いで泳ぎ出したのが見えた。
その後をまるで追うように、大きな渦潮がやって来ていた。
椿は迷った。どうすればいいのかわからず、動けなかった。
次の瞬間には身体が勝手に動いていた。男を助けに最高速で向かう。
しかし椿の目の前で、男は遂に渦潮に足を捕まれると、そのまま引きずり込まれた。

椿は海に潜り、その行方を追いかけた。
男の身体は海中で、渦に振り回されながらも抵抗していた。
まるで鎧でも着ているかのようにその身を守っていたが、やがて鎧は激しい竜巻に剥ぎ取られた。
身体のあらゆる部位が有り得ないほうへ曲がり、骨は砕かれ、内蔵は圧し潰され、風に踊る紙切れのようにされるがままに、
男は海の底へと引きずり込まれて行った。
0309創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 23:56:25.97ID:ll1eiuAH
海の底の岩盤の上に、その人間の男は目を閉じ、仰向けになって息絶えていた。
椿はその回りを何度も何度も泳ぎ回り、顔を覗き込んだ。
「……! ……!」
呼び掛けても声が出せなかった。
やがて深く目を閉じ、勢いよく開けると、その目には強い決意が浮かんでいた。
椿は人間の男に背を向け、もう一度だけ振り返ると、海底の家へと帰りはじめた。
0310創る名無しに見る名無し
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2019/12/05(木) 23:59:56.53ID:cF3l/i9b
明治大学校歌・応援歌
1. 白雲なびく駿河台     2.権利自由の揺籃の
  眉秀でたる若人が       歴史は古く今もなお
撞くや時代の暁の鐘      強き光に輝けり
文化の潮みちびきて      独立自治の旗翳し
遂げし維新の栄になふ     高き理想の道を行く
明治その名ぞ我等が母校    我等が健児の意気をば知るや
明治その名ぞ我等が母校    我等が健児の意気をば知るや

3. 霊峰不二を仰ぎつつ
刻古研鑚他念なき
我等に燃ゆる希望あり
いでや東亜の一角に
時代の夢を破るべく
正義の鐘打ちて鳴らさむ
正義の鐘打ちて鳴らさむ
0311創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 00:01:47.20ID:9TDc1BgQ
赤いイルカが帰って来た。海水から顔を出した瞬間、椿の姿に戻った。
口で呼吸を整えていると、母の鳳(フォン)が見つけて飛んで来た。
「椿! 遅かったから心配したよ! お父さんも……」
「わたし……」
そう言うなり椿はその場に倒れ、気を失った。
0312創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 00:12:23.36ID:25Tumgh3
椿は目を開けた。
見慣れた自分のベッドの上だった。
窓からは緑色の陽射しが差し込んでいる。
扉を開けて入って来た母が、いつも通りの優しい微笑みを浮かべ、言った。
「お帰り、椿。人間の世界はどうだった?」
そしてベッドの脇のテーブルに果実を乗せた皿を置く。
果実は青や紫や緑の色をぷるぷると震わせた。
「聞いていた通りだった」椿はそう言うと、目をこすった。「汚くて、恐ろしくて、そして哀しい世界……」
「これであなたも大人の仲間入りね」母は嬉しそうに言う。「明日には成人式を開いてくださるそうよ」
「でも……」椿は自分の話を続けた。「罠にかかった私を助けてくれた、優しい人間にも出会ったわ」
「そんな人間もいるだろうね」母は落ち着いた声で言った。「その人間はお前を助けてからどうしたんだい?」
「死んだわ。渦潮に飲まれて」椿は赤いおかっぱの髪に手を埋めて、俯いた。「海底で看取ったの」
0313創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 00:17:51.07ID:+r2q14o3
「そうかい。それは残念なことをしたね」母は少しだけ悲しそうな顔をした。「でもそれが自然の掟だよ」
「わたし……あの人間を助けたい」
「椿?」
「あの人の笑顔、優しかったもの」
「気持ちはわかるが、無理を言うんじゃないよ」
「生き返らせる方法は、ないの? だってわたし達は人間の生をも司る……」
「椿!」母は厳しい声で叱った。「自然の流れに逆らってはいけない。そんなことをしては必ず世界に歪みが生じるよ」
椿は素直に頷いた。
「さ、悲しいことは忘れて、今日はゆっくりしなさい。あなたはハナカイドウを任される神になるのよ」
そう言うと母は部屋を出て行った。
「神じゃない。わたし達は……」椿は一人、呟いた。「でも……あるんだ。自然の流れに逆らう、方法が……」
0314創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 00:31:59.74ID:9yskSPNW
チョウは朝の染め物仕事に出ていた。
遅れてルーシェンもやって来た。
「チョウ、おはよ」
「オス、ルー……。なぁ、椿、帰って来たのかなぁ」チョウは真っ赤な目をして言った。
「うん。昨日の夜遅くに帰って来たらしいよ」ルーシェンはにっこりと笑って言った。
「お前……」チョウが怖い顔になる。「そんな嘘はつかねぇよな? まさか……」
「本当だって」
ルーシェンは綺麗な緑色の目に優しさを浮かべてチョウを見つめた。
チョウもルーシェンの目をじっと見つめた。
「そっか! よかった……!」チョウは顔を崩すと、大きく息をついた。「よーし元気出た! 早く仕事終わらせて会いに行こうぜ!」
「つまり」ルーシェンがにんまりと笑う。「告白の時だね?」
0315創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 00:36:02.87ID:ljfAMkOB
糞みたいな書き込み止めろや!
0316創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 00:36:57.79ID:ljfAMkOB
きもいわぁ
0318創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 07:50:01.13ID:/OEInF1U
「なんだとこのヤロー」
ルーシェンはそう言うと下半身を鹿に変えた
ドカドカと走り寄るとあっという間に>>315>>317を踏み潰した
0319創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 10:20:39.87ID:AnKBC6a4
回廊の袂で待っていると、椿が帰って来るのが見えた。
「あ、チョウ。ルー」
その声にチョウとルーシェンは揃って立ち上がる。
「てめー、帰って来てたんなら顔ぐらい見せに来いよ」
「ごめん」椿はそう言いながら微笑んだ。「おじいちゃんのところへ行ってたの」
「何か相談事か?」
椿は首を横に振った。
「新しい黒い調度品を入れてあったのに、褒め忘れてたから」
「人間界はどうだった?」
「平気よ」椿は涼しい顔で言った。「いい経験になったわ。楽しくて少し居すぎちゃったけど……。こっちは変わった事とかあった?」
「うん。『水』の町が大水害でね。死者がたくさん……」
「ルー……」チョウが遮った。「不謹慎」
椿はクスクスと笑う。
「それに『火』の町が火事になるぐらいあり得んわ。赤松子がいるのに」
「椿」ルーシェンが聞いた。「その手に持ってる地図みたいなの、何?」
「とりあえず部屋に上がったら?」椿はそう言いながら手に持った地図を隠した。
0320創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 10:34:43.83ID:AnKBC6a4
「いや、帰るわ」とチョウが言った。
「そう?」椿は先を行きかけて、振り向いた。「お茶ぐらい飲んで行けばいいのに」
「うん。そうだよチョウ、話があるだろう」ルーシェンがにっこり笑う。「椿、チョウが椿に話があるんだって」
「そうなの?」椿がチョウを見つめる。「何?」
「ないないないない!」チョウは手を振った。「顔、見に来ただけだ」
「なんならボク先に帰るけど?」ルーシェンが盗み聞きする気満々の顔で言う。
「何言ってんだバカ」チョウがルーシェンをどつく。「乗せて帰れ、バカ」
「ねぇ、チョウ」
椿に呼び止められ、心臓が止まる勢いで立ち止まると、チョウはゆっくり振り向いた。
「もう一回『お帰り』って言って」
「え?」
「別の声で」
「……あぁ」そう言うとチョウは黙った。その口を動かしてユージンが言った。「お帰り、椿」
「うん」椿はにっこりと笑った。「ただいま」
0321創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 10:44:09.24ID:AnKBC6a4
ルーシェンに乗ってカッポカッポと森を歩きながら、チョウは暫く何も言わなかった。
「嘘つき」とルーシェンが詰る。「告白するって言ったくせに」
「あぁ」チョウは答えた。「駄目だな、俺」
木漏れ日がそろそろと身体を射す暑さになりはじめていた。
「ところで最後の何なの?」ルーシェンが聞く。「チョウ、たまに別人みたいな声出すよね」
「あぁ」チョウは言った。「俺の中にさ、ユージンって名の人間が住んでるんだ」
「人間?」
「あぁ」
「チョウの中にいるの?」
「あぁ」
ルーシェンはカッカッカッカと声を上げて笑った。
「ボクみたいな嘘つくようになったね、チョウ」
0322創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 11:25:17.90ID:AnKBC6a4
ユージンはずっと黙っていた。チョウのふりをして発言することも控えていた。
人間は見つかったら即殺され、知性のない赤い魚に変えられ、人間界へ戻される。
ルーシェンは嘘つきだがいい奴だ。しかし、それでも人間を『世界を歪めるもの』として危険視するのがこの世界に住むものの『当たり前』なのだ。

お喋りなユージンだが、黙っているのは苦ではなかった。
自分で喋るのと同じぐらい、好きな人が喋るのを聞くのも好きだった。
身体の中にいるだけで充分気持ちが満たされ、チョウとは何時間も話をしないでいられる。
ルーシェンのことも、嘘つきだけど好きだった。
0323創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 11:35:28.02ID:AnKBC6a4
ユージンは思い出す。
ある朝、川での染め物仕事に新しい顔がやって来た。
4年ぐらい前から『火』の町にやって来て一人で住みはじめていた年齢不詳の若者だが、誰も親しいものはいなかった。
スラリと背が高く、長い2本の脚が美しく、中性的な顔立ちがミステリアスで、頭に魅力的な2本の短い角を持っていた。
女だらけの職場はすぐにピンク色のうっとりした笑顔で充満した。
同年代の女の子3人組がいそいそと声を掛けた。
「よろしくね。この仕事は初めて?」
するとルーシェンはにっこり笑うと、女の子の一人に言ったのだった。
「あっ。顔にうんこついてる。取ってあげるよ」
そしておもむろに女の子のほっぺたをつまむと、「取れないや」と大声を上げて笑った。
0324創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 12:02:14.10ID:AnKBC6a4
それだけなら「変わったひと」で済んだかもしれなかった。
しかしルーシェンは一朝だけで全員から嫌われた。
「あそこの茂みに何かいる」
と皆を緊張させ、動けなくしておいて、自分だけ鼻唄を唄いながら不器用な手つきで仕事をし、誰にも要領を聞かないので次々と不良染め物を生産した。
「おい、てめぇ」チョウが言いに行った。「仕事の邪魔しかしねーんなら帰れ」
するとルーシェンは悲しそうな顔を上げ、チョウに言った。
「ごめんね。ボク、ふざけてるつもりはないんだけど……」
その切実そうな美しい顔にチョウはどきりとして声を失った。ルーシェンは続けて言った。
「ボクの中に『ふざけ神』がいて、ふざけたことをさせるんだ。どうにもならないんだよ」
「てめぇ!」
チョウが怒声を上げかけた時、川の少し離れたところで大きな水音がした。
見るとパンダの子供が川に落ち、溺れている。
泳ぎに入ろうとしたチョウよりも先にルーシェンが動いた。足を4本の鹿の脚に変え、その長い脚で川の中を駆け出した。
その顔は真剣で、ひたむきな者のもつ美しさに満ちていた。
0325創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 12:10:03.84ID:AnKBC6a4
パンダの子供を抱いて帰って来たルーシェンに、チョウは言った。
「とりあえずお前、仕事覚えろ。俺が要領教える」
ルーシェンはパンダの子を野に放つと、にっこり笑って言った。
「よろしく〜」

あれからチョウはルーシェンのこと、だんだんと見る目を変えて、遂にはこんなに仲良くなっちゃったなぁ。
ユージンはそう思いながら、チョウの身体の中でルーシェンの背中に揺られていた。
「次は告白しなよ?」ルーシェンが振り返る。「せっかく譲ってやってんだからさ。実を言うと……ボクも椿のこと……好きなのに」
「ほ、本当に?」チョウが焦ったような声を出す。
「嘘だよ。今の顔〜!」
「あっ……! くっ……!」

ユージンも会話に加わりたかった。
チョウの橙色の『気』がユージンの金色の光も、人間の匂いも頑なに隠していた。
0326創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 12:22:31.90ID:AnKBC6a4
「なぜあんなことを教えた?」
メイファンは茶を飲みながら、クスノキの老人に言った。
「自然に反することをしようとしている椿は危険なんだろう?」
「あの子のしたいようにさせてやりたいのだ」老人は答えた。「儂にとって、あの子こそが正義だ」
よくわからん、と思いながらメイファンは黙った。
そして窓から見える『火』の町を眺める。
椿がしたのもよくわからない話だった。黒い調度品に姿を変えて聞いていたが、誰を生き返らせたいのかもわからなかった。
「さて」メイファンは茶を置いた。「そろそろ動くか」
「ならん。人間界に帰れる機会が来るまでここにいるのだ」
メイファンは老人の言葉を無視し、屋根の上に登った。
窓枠の額縁の取れた町はすべてが見渡せた。しかし祝融とやらの『気』は見当たらなかった。
「近くまで行くか。……しかし」メイファンは呟いた。「あれだけ目立つ金ピカの『気』がどこにも感じられねぇ。やはり死んだか」
0327創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 14:42:47.48ID:AnKBC6a4
月が昇り、町は寝静まった。
夜が更けてもチョウは眠れず、蝋燭の明かりもつけずに、大きな窓の縁に座っていた。
窓枠に置いた鉢植えのモミジの葉に手を当てると、葉っぱが紅くなったり緑色に戻ったりを繰り返した。
「ぼく、先に寝ちゃうよ?」ユージンが言った。
「あぁ……」と言って顔を上げたチョウは動きを止める。
眼下の石畳の道を、音を殺して駆けて来る赤い髪が見えた。遠くてもチョウにはそれが誰なのか、すぐにわかった。
裸足のようだった。足音は聞こえないが、明らかに急いでいた。
赤い髪が真下を素通りしようとした時、チョウは大きな声を掛けた。
「おい椿、こんな夜中にどこ行くんだ?」
その声に身を震わせて椿は立ち止まった。
こちらを見上げて来る。その表情は遠い上に暗くてよく見えなかった。
何も言わなかった。暫く二人は遠い距離を置いて見つめ合っていた。
そしてすぐに椿は前を向くと、また音もなく深夜の石畳の道を急ぐように走り出した。
0328創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 14:50:39.62ID:AnKBC6a4
「椿が……」チョウは呟いた。「俺に助けを求めてる」
そう言うなり、5階の窓から外へ飛び降りた。
「うわぁ!?」ユージンが悲鳴を上げた。
石畳に激突する直前で火をぶつけて衝撃を殺し、チョウは着地する。
「ななななに? こんなこと出来たの?」
騒ぐユージンに答える間もなくチョウは駆け出す。駆けながら答えた。「火事場のバカ力」
「む、無茶するな! 心臓止まるかと思ったろ」
赤い髪が遠くなっていた。見失わないよう、チョウはそれを追いかけた。
0329創る名無しに見る名無し
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2019/12/06(金) 20:37:51.62ID:r661XIJf
椿は森へ入って行った。
真っ暗な森の中を駆けて行く。チョウに追えないスピードではなかったが、その暗さに何度か姿を見失った。
しかしまた赤い髪を遠くに見つけると、後を追いかけた。
「名前叫んだらいいのに」
ユージンがそう提案しても、チョウは無言で距離をとって追いかけ続けた。

そのうち本当に見失ってしまった。
チョウが途方に暮れながら歩いていると、森を抜けたところに丘があった。
そこに立って見渡すと、下ったところに港があり、ぼんやりとした明かりが見える。
「あそこか?」
0330創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 05:52:57.12ID:Jk9WuIG3
近づくと、明かりは白い行灯だったとわかった。
港の先には様々な色を浮かべた『気』の海が広がっており、怪しげな船頭が小舟を着けて椿を待っている。
椿はたどたどしいジャンプをし、舟に飛び移ったところだった。
「待っ……!」
チョウは大声で呼び止めようとしたが、ちょうどその時『気』の海から神獣の麒麟が飛び出した。
麒麟の静かだが空気の震える滑空に、チョウの声はかき消され、椿を乗せた小舟は靄の中に見えなくなった。

「なんなんだろうね」ユージンが言った。
「これ……」チョウが言った。「霊婆(リンポー)の島に行く舟だ」
「霊婆? ……って?」
「死者の魂を司る仙人だ」
「魂?」
「何しに行ったんだろう」
0332創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 22:21:33.76ID:9RRIb4/d
月の位置からすると八刻(約二時間)以上は待った。
チョウが茂みに身を埋めて椿を待っていると、『気』の海を越えて舟が帰って来た。
椿はたどたどしいジャンプで舟から岸へ降りると、きょろきょろと辺りを見回し、人気を探った。
チョウを探しているのでないことは、その警戒するような仕草で明らかだった。
「何か……」チョウは身を隠したまま、ユージンに言った。「持って帰って来た」
ガラス瓶なのはわかった。中身が何なのかは想像もつかなかった。大事そうに胸に抱え、帰り道を歩き出す。
「食べ物かな」ユージンが言った。
チョウは答えずに、駆け出すと、来た道とは違う険しい森の中へ入って行く。
0333創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 22:29:13.35ID:9RRIb4/d
近道を走り、チョウは自分の部屋へ戻る。
窓に腰掛けて待っていると、やがて椿が戻って来た。
チョウが窓から見つめる真下を素通りして行く。
チョウは声をかけなかった。
「なんか椿の秘密を知っちゃった気分だね」ユージンが小声で楽しそうに言う。
チョウは何も答えず、椿を見送った。
すぐにその後ろ姿は深夜の闇に包まれ、赤い髪もすぐに見えなくなったが、暫くの間、怒ったような顔をして見送っていた。
0334創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 22:46:10.83ID:9RRIb4/d
「チョウ、おはよ」
珍しくルーシェンのほうが早く仕事に来ていた。理由はもちろんチョウが遅れたからだ。
「オス、ルー……」
チョウは何も言わずに仕事を始めた。昨夜の椿のことは何も言わなかった。
ユージンとも話し合い、誰にも言わないことに決めていた。
様子から察するに、椿は人に見られてはいけないことをしていたのだ。
しかしそれはチョウの知っている椿ではなかった。
良い子で、真面目で責任感があり、何でも相談に乗ってくれ、何でも打ち明けてくれる、それが椿だった。
深夜の町を泥棒のようにヒタヒタと走るなんておよそ椿のイメージとは程遠かった。
「ルー」
「何? チョウ」
「俺、仕事終わったら、一人で椿んとこ行って来る」
ルーシェンは飛び上がる勢いで喜び、言った。
「わかった。ボク、決して覗いたりしないからね。頑張れ!」
0335創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 23:15:10.46ID:9RRIb4/d
【主な登場人物まとめ】

人間

・ユージン(李 玉金)……17歳の少年。性同一性障害。身体を持たない金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。また、入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。ユージンの妹だが、記憶を失くしている。
穏やかで真面目な性格だが、ユージンからは小うるさい奴と思われている。
大好きな義兄のランが日本から帰って来、うかれていたが、ランが渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。
今では自分を海底世界の住人だと思っており、名門『樹の一族』の一員として薄紅色の『気』が使える。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
海で罠にかかっていた赤いイルカを助けた直後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

海底世界の住人

・チョウ……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
下半身を鹿に変えて、悪者を踏み潰したり人を背中に乗せて走ったり出来る。
スラリと背が高く、中性的な顔立ちに魅力的な2本の短い角を持ち、嘘さえつかなければ女の子にモテない要素はない。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。
0336創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 23:42:26.45ID:9RRIb4/d
チョウは『樹の一族』の家にやって来た。家というより由緒ある建造物である。
中心に聳え立つ大樹を取り巻いて長い長い回廊が渡され、等間隔で設えられた階段で少しずつ上へ上がって行く作りになっている。
太い枝の彼方此方に建物があり、一族の者が住んでいる。
大樹の根元には巨大な洞があり、先日椿の成人の儀式はその中にある広間で執り行われた。
椿の家は一番高い所にある最も立派な赤い建物である。

チョウが回廊の始まりに立って見上げていると、後ろから椿の声がした。
「チョウ!」
振り向くと赤い旗袍を着た椿が手を振っている。
チョウは笑顔を浮かべると、ぶすっと頬を膨らせ、また少し笑うと、怒ったように椿を睨んだ。
0337創る名無しに見る名無し
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2019/12/07(土) 23:49:29.88ID:9RRIb4/d
「何、その顔」椿は可笑しそうに言った。「新しい遊び? おもしろい」
「あのさ」チョウは結局怒ったような顔に固まり、言った。「話があって来た」
椿の笑顔がすっと消えた。
「何?」
「とりあえずお前の部屋で茶でも飲ませろ」
椿はじっとチョウの顔を見る。そして言った。
「駄目」
「は? 昨日は上がってけって言ったくせに……」
「散らかってるの」
「じゃ、ここでいいよ。あのな……」
椿はチョウの顔をじっと見たまま言葉を待った。
0338創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 00:13:11.37ID:gF/KaFVk
「昨日、夜、どこ行ってたんだ?」
チョウが聞くと、椿はなんだか悲しそうな顔をし、目をそらした。
「なんか……」チョウはまっすぐ椿の顔を見ながら言った。「霊婆のとこ、行ってたよな?」
すると椿は勢いよく顔を上げて、詰るように言った。
「尾けてたの!?」
「心配だったからさ」
椿はすぐに顔を伏せた。
「椿」チョウは言った。「なんか一人で抱え込んでるんじゃないか?」
椿は顔を上げない。チョウは続けて言った。
「霊婆のとこに行くなんて、ただ事じゃないぜ。しかもあんなに人目を気にして……」
椿は黙っている。
「出来れば……出来ればさ、俺も巻き込んでくれ。俺のこと弟だって言ってくれたろ? 俺のほうが年上だけど……」
椿は顔を上げた。いつもの凛々しい目が弱々しくなっていた。
「チョウ」
「うん?」
「なんでもないの」
「……そうか」
チョウはくるりと背中を向けた。失望したような顔をしていた。
「わかった」とだけ言って歩き出したその背中に、椿が声を掛けた。
「チョウ!」
「なんだよ」
「やっぱり部屋に……お茶、飲んで行って」
0339創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 00:31:01.62ID:gF/KaFVk
各入口を赤く縁取った黒い木の家に入り、赤い垂れ幕のある広間を抜け、奥へ進むと椿の部屋だった。
障子を開けると窓から明るい緑色の光が差していた。
椿はしゃがみ込むと、ベッドの下から大事そうにガラスの小瓶を取り出した。
「それ、昨日、持って帰ったやつ……」
「そんなとこまで見てたの?」
椿は少し軽蔑するような目をチョウに向けると、それを見せた。
瓶の中で可愛らしい小さな赤い魚がチョウのほうを振り向いた。
「魚?」
「……うん」
「でもこれって……」
「……」
「持って帰っちゃ駄目なやつだよな?」
「そうなの?」ユージンが口を挟んだ。
「あぁ」チョウはユージンに言った。「死んだ人間の魂だ」
「チョウ……」椿が目に涙を溜めて懇願する。「お願い……。誰にも言わないで」
「駄目だ。こんなの許されない」チョウは厳しく言った。「自然の掟を破る犯罪行為だ。見過ごすわけにはいかない」
「待ってよ、チョウ」ユージンが口を動かした。「椿、なんでこんなことしたの?」
0340創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 00:44:14.82ID:gF/KaFVk
「どんな理由があろうと駄目だ」
「チョウ!」ユージンは反抗するように言った。「『巻き込め』って言ったのお前だろ!?」
「お前は人間だから事の重大さがわかってねーんだよ!」
「なんだとこの野郎! 人間様バカにすんな!」
「これだから人間は……! これだから……!」
「チョウ!」椿が言った。強い目をしていた。「話をさせて」
それはチョウのよく知っている椿だった。凛々しく、一生懸命で、責任感に溢れる愛くるしい女の子だった。
「お……おう」チョウは思わず言ってしまった。「何か知らねーけど聞くだけ聞いてやる」
0341創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 00:59:56.18ID:gF/KaFVk
椿は人間界であったことを話した。
人間の罠にかかり、死にかかったこと。それで帰りがあんなに遅くなってしまったこと。
死にかけていた自分を助けてくれた人間の青年がいたこと。自分を助けたがために渦潮に飲まれ、彼が死んでしまったこと。
崖の上から青年の妹が見ていて、悲しませてしまったこと。青年がどんなに優しい目をしていたか、どんなに美しい姿をしていたか、
そんな彼を海底で看取るほかに自分に何も出来なかったこと。

聞き終えると、チョウの顔つきが変わっていた。
「椿……死にかけたの」
「うん」
「命の……恩人なんだな」
「うん」
チョウはガラス瓶の中の小さな赤い魚を見た。
魚は親しげにチョウに向かって微笑んだ。チョウは魚を見つめながら椿に聞く。
「名前、つけてやった?」
「うん」椿は嬉しそうに答えた。「ランよ」
「ラン?」ユージンが言った。「へんなの。魚なのに狼(ラン)みたいな名前!」
0342創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 01:08:49.37ID:gF/KaFVk
帰り道、ユージンはチョウに聞いた。
「黙っててあげるんだね」
「おう」
「あの魚が椿の命の恩人だから?」
「そんな甘い理由じゃねーよ」
「じゃあ……」
「あいつが悲しむことはしたくねぇ、それだけだ」
0343創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 10:01:13.92ID:gF/KaFVk
「チョウ!」
叫びながらルーシェンが後ろから四本足で追いついて来た。
「あれ? ルー……お前」
「チョウチョウ!」
ルーシェンは機嫌がよさそうだ。
「なんで……そっちから?」
ルーシェンが来るなら前からのはずだ。それがなぜか後ろからやって来る。
「チョウチョウチョウ!」
「まさか……、お前……」
「ごめーん」と言って長い体躯を折ると、ルーシェンは言った。「聞いてたよん」
0344創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 10:26:31.27ID:/iwxGB8m
中国式 大渋滞が起きるよね
その時ね、 私昼寝してたんだよね そうしたらさ
0345創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 10:27:41.53ID:gF/KaFVk
「なんだって?」チョウの顔が蒼白になる。「で……お前、まさか……」
「これから町で言いふらして回るよん」ルーシェンはさも嬉しそうに言った。
「お、お前が言いふらしたって、誰も信じねーよ!」
「あの赤い魚を見せればさすがに皆信じるよ」
「……」
「大体、チョウ君ともあろうひとが、なんで犯罪行為を見過ごしてんの〜? おっかし〜」
「頼む……」チョウは泣きそうな顔で頭を下げた。「見逃してやってくれ……!」
「うっそだよ〜ん」
「椿は……自分を助けたがために死んだ人間を……」
「嘘だってば」
「……は?」
「誰にも言わない。言うわけないでしょ」
ルーシェンは「また引っ掛かった」とでも言うように面白そうに笑った。
「ルー……」
「大体、ボクが言いふらしたって、赤い魚を見せたって、誰も『金魚か』としか言わないよ」
「お前……そこまで自己評価低かったのかよ」
「大体、死んだ人間の魂持って来て何が悪いの?」ルーシェンは本当にわからないという顔で聞いた。「ボクわかんない」
ユージンもよくわからないと思ったので、ついチョウの頭を深く頷かせてしまった。
0346創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 10:31:04.01ID:gF/KaFVk
「あのな」チョウはユージンを叱るように言い、説明した。「人間は世界をめちゃくちゃにしてしまうだろ」
「でも、魚だよ? 魚に何が出来るの? しかもあんなに小さな魚」
「……うん」
チョウは実は自分も思ってたというように頷いた。
「ピンピン動ける人間ならともかく、泳ぐしか出来ない魂に何が出来るのさ?」
「あ……!」
チョウはユージンと目を合わせるように自分の胸のあたりを見た。
「大体」ルーシェンは冗談の口調で言った。「チョウだって身体の中に人間を匿ってるじゃないか」
0347創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 11:00:08.69ID:gF/KaFVk
「そうなんだ、ルー」チョウは申し訳なさそうに言った。「実は俺も、椿とおんなじようなことをしてる」
「冗談だよ、バカチョウ」ルーシェンは笑い飛ばすように言った。
「本当なんだ。見てくれ……。いいよな? ユゥ」
「いいよ。ぼくもルーと仲良くしたかったから」
「よし」
そう言うとチョウは、ユージンを隠している橙色の『気』を、解いた。
ユージンはルーシェンに自分がよく見えるよう、全開で金色の光を放った。
その光はルーシェンの目に突き刺さり、森を突き破り、隣の町まで届いた。
0348創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 11:01:59.35ID:gF/KaFVk
「ム?」
メイファンは屋根の上から、森の中に突然出現した金ピカの光を見た。
「あそこか」
そう言うと身体をムササビに変え、屋根を蹴った。
0349創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 11:04:32.24ID:gF/KaFVk
「ムゥッ?」
祝融は怪しげな気配を感じ、回廊へ出た。
遠くの森から金色の光が上がり、雲を染めているのを見る。
「なんだ、あれは……」
そう言うと身体を炎の竜に変え、飛んだ。
0350創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 11:58:22.31ID:gF/KaFVk
チョウは強すぎるユージンの光を慌てて橙色の『気』でまた隠した。
「アホか、お前は!」
「ごめん。あんなに光るとは……」
「本当にいたんだね」ルーシェンは潰れた目をこすりながら言った。「でもそんな人間はいない」
「気持ちはわかる」チョウは頷いた。「でも、きくらげ臭かったろ?」
「あぁ、確かに」ルーシェンはようやく開いた目に涙を溜めて言った。「まつたけ臭かった」
「まつたけは臭くねーよ!」
「名前、つけてやった?」
「元からありますから!」ユージンが抗議した。
「ユージンって名前なんだ」チョウが紹介する。「ユゥって呼んでやってくれ」
「ユゥ、ね」ルーシェンはにっこりと笑った。「私が火の仙人、祝融だ。よろしくな」
「ルーシェンだろ! 知ってるよ!」ユージンは突っ込んだ。
「やっぱりチョウも、その人間に助けてもらったの?」ルーシェンが聞く。「ユゥはチョウの恩人なの?」
「いや」チョウが首を振った。「何もしてもらってねー」
ユージンは言い返す言葉かなかった。
「じゃあ、なんで匿ってんの?」
「だってコイツ、何も出来ねーもん。でも見つかったら殺されるだろ? 可哀想じゃん」
「ぼくは……何も出来なくなんかないぞ! 超天才なんだから」
「わっ。怖い」ルーシェンが言った。「じゃ、殺しとかないとね」
「あ、ごめんなさい。何も出来ません……」
「な? 何も出来ねー口だけ野郎だろ? 哀れだし……」
「哀れとか言うな」ユージンが悲しそうな声を出す。
「すんげー哀れだし、嫌いじゃねーからまぁ、匿ってやってる」
「嫌いじゃないっていうか、好きなんだよね? ぼくのこと」
「好きじゃねーよ。好きじゃねーけどアケビの実が転がってたら持って帰る程度に嫌いじゃない」

そこへ西から黒いムササビが、東から真っ赤な竜が飛んでやって来た。
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