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【チャイナ・パニック2】海棠的故事

0351創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 13:49:27.54ID:gF/KaFVk
先に着地したのは黒いムササビのほうだった。
地面に降り立つと、色の黒い四歳の女の子が姿を現す。
辺りをキョロキョロと見回すと、チョウとルーシェンに言った。
「おい、ガキども。今、このへんに金ピカの光を放つキンタマがいたろう?」
「は? 何だこのガキ。ガキにガキって言われる筋合いはねーよ」
そう言いながらチョウはユージンを隠そうと橙色の『気』を強くした。
「あっ!」ユージンは、メイファンを見ると叫び、小声でチョウに言った。「コイツ、水龍道士を殺害した『黒い悪魔』じゃない?」
「オイオイ」メイファンは強くなったチョウの『気』を見て、バカにするように言った。「いっちょまえにやる気出してんじゃねーよ、ザコが」
「ザコではないぞ」ルーシェンが吠えた。「ここにおられるのをどなたと心得る! かの有名な火の仙人、祝融さまであるぞ!」
「バッ……!」チョウは急いでルーシェンの口を塞ぐ。
「ハァ? これが祝融?」メイファンはびっくりする顔とがっかりする顔を同時にした。
しかしそこへ天から本物の祝融が降りて来た。
0352創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 15:24:33.46ID:gF/KaFVk
祝融は森の上空まで炎の竜に姿を変えて飛んで来たが、森を燃やしてしまわないよう、着地点を探していた。
チョウの姿を見つけ、炎を解くと、足元だけに炎の勢いを残し、静かにその逞しい身体を着地させた。
「祝融師匠!」チョウが振り返る。
祝融は金色の光は見つけられず、しかし予期せず探していた標的を目の前にして眼光を鋭くした。
「お前……『黒い悪魔』か!」
「お前が本物の祝融とやらか」メイファンは相手の姿を見て、素直な感想を口にした。「なんだよ……弱いじゃねぇか」
メイファンは瞬時に相手の力量を見極める。チョウはなかなか強い橙色の『気』を持っている。しかしそれを戦闘のために鍛え上げていないことは丸わかりだった。
そしてクスノキの老人に『お前ごときでは瞬殺される』と聞いていた祝融は、チョウよりも弱かった。
身体はなるほど逞しく、ユラユラと燃え盛る髪は見た目には強そうだが、祝融には『気』が、なかった。
通常、どんなに弱い者でも『気』は持っている。しかし弱ければ弱いほどそれは小さい。小さすぎてゼロな奴は初めて見た。
「お前は粉々にして人間界に送り返すことはせん」祝融は右手を前に差し出した。「決して復活せぬよう、滅してくれる」
「なんだよ。あのドラゴンヘッド殺したことか?」メイファンは不満そうに言った。「あっちから殺しに来たんだ。正当防衛だろ」
0353創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 20:23:25.07ID:QqCneZig
しかし祝融は前に差し出した右手を無念そうに下ろした。
「何してんだお前?」メイファンが退屈そうに言う。
「祝融師匠……」チョウが呟く。「森の中だから火事を恐れて火の力が使えないんだ!」
「じゃ、瞬殺」メイファンが動いた。
チェンナの短い腕を暗器の鎖鎌に変え、祝融の心臓を一刺しにする。
しかし手応えはまったくなかった。炎の中に向かって攻撃した感触だった。
「こっちだ!」とチョウが叫び、後ろからメイファンに拳を放つ。
「あっ。これも正当防衛ね」と言いながらメイファンは手刀をふるった。
チョウの首が飛ぶ寸前、メイファンは腕に激しい衝撃を感じた。見ると、右腕が折れている。
「?」メイファンは折れてブラブラしているチェンナの幼い右腕を見つめる。
そして叫んだ。
「ギャアアアア! チェンナの腕が!……」
祝融がメイファンの腕を折った拳を握りしめ、仁王のごとく立ち、見下ろしていた。
「出来れば赤松子に仇を討たせてやりたかったが……」
そう言うと蹴りを放ち、左腕もあっさりと折った。
「ギャアアアア! てめぇ! 四歳児の腕だぞ!」
「滅せよ」
祝融はとどめの攻撃を繰り出した。両拳を前で交差させ、そこに火が灯ったと思ったと同時に飛んで来た。
0354創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 20:35:13.01ID:QqCneZig
メイファンは攻撃が来る前に飛び退いていた。
メイファンらしくもなかった。いつもなら相手の攻撃を紙一重でかわし、バカにしてから返り討ちにするところである。
それは相手の『気』を読むからこそ出来ることであった。
しかし今、目の前の敵には、『気』が、ない。
突然、ピストルの弾のような無『気』物が飛んで来るように攻撃が来るのである。
それでも鈍ければかわすことは簡単だ。しかし祝融の攻撃はまるで火炎放射器だった。
しかも火炎放射のトリガーを引く準備動作が見えないのでは、かわしようがなかった。
メイファンは折れた両腕を『気』で一時的にくっつけると、身体をドローンに変えて飛び上がった。
「チッ。今日のところはおあずけだ。また勝負しようぜ」
しかし祝融はすぐさま身体を炎の竜に変えると飛び、凄まじいスピードで追って来た。
「逃げられると思うな、人間!」
「プロを舐めんな!」メイファンは吠えた。「ララから『チェンナを守れ』って命令されてんだ! 命令だけは遂行する!」
0355創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 20:51:34.75ID:QqCneZig
口ではそう言いながら、メイファンは諦めていた。
『あ、こりゃ死んだな』
『生き残れる可能性(計算中)0.0001%』
『ハハハ』
『ごめんな、チェンナ享年四歳』
『ごめんな、メイ。お前の娘の死因=撲殺』
0356創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 20:57:57.44ID:QqCneZig
しかし奇跡は起きた。神風が吹いた。
神風に吹かれ、一匹の蜘蛛が飛んで来た。
「うぉっ……と!」祝融は蜘蛛を燃やすのを嫌い、のけ反る。
のけ反り、上を向くと、そこへ燕の糞が降って来た。
「むぅっ……! 食らってたまるか」
横へ避けた祝融に向かって蜜蜂の大群が飛んで来た。
「何だ? 何なのだ、これは!」
その隙にメイファンは身体をジェット機に変え、飛び去っていた。
「待て! 待……」
風に飛ばされて来た誰かの鼻紙が祝融の顔を直撃した。
0357創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 21:01:20.62ID:QqCneZig
「あーあ」ユージンが言った。「黒い悪魔に逃げられちゃった」
「ユゥ」チョウがユージンに言う。「お前……何か、した?」
「はぁ!?」ユージンはびっくりして声を上げた。「ぼくが? 何をしたって!?」
0358創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 21:11:28.82ID:QqCneZig
クスノキの老人の治療を受けながら、メイファンは興奮した口調で言った。
「すげぇよ! 0.0001%を勝ち取っちゃったよ!」
「だから言ったであろう」クスノキは嗜めた。「祝融には決して遭遇するでない、と」
「そうだな」メイファンは素直に頷いた。「アレはバケモノだ。本物の火の神『祝融』なんじゃねぇか?」
チェンナは黙々とアケビの実を食べている。痛覚はメイファンが遮断していた。
「とにかく、懲りたであろう」クスノキはチェンナにアケビを食べさせながら、言った。「人間界へ帰れる機会が来るまで大人しくしていなさい」
「そうだな。私は勝ち目のない闘いはしない」メイファンは言った。「ただ、連れて帰るべき奴が一人、見つかった」
0359創る名無しに見る名無し
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2019/12/08(日) 23:40:36.51ID:ZjQFr3GT
「とりあえずジジイ、このほうが治療しやすいだろ」
そう言ってメイファンは全裸になった。
0360創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 04:58:09.51ID:mBd7tPjd
ある日、ウイルスによる犯行声明を出した犯罪集団。
今まで逮捕した怪人の解放が条件。
強敵を何とか倒したハイホンだが、彼にミンメイが「だから何?そんな事して何になるのよ!」と言い放つ。
今までの多忙を反省し、娘に会いに行くためしばらくの休暇を上司に願い出るハイホンだが、拒否される。
固い決意で家まで帰るが、そこには家はなかった。

本当の事を話せ、と上司に迫るハイホン。
ハイホンの娘はAIだと言う。
ハイホンだけではなく他の同僚の家族もバーチャルな家族設定。
皆改造手術の時に記憶をすり替えられた。
我々がいなくなったら世界平和はどうなる、と言う上司。
ミンメイに電話をするハイホン。
何のために戦っているか判らない、と嘆くハイホンはミンメイに「AIなんだろう?」と聞く。
お前はニセモノなんだと言うハイホンに、そうだったら良かったのに、とミンメイ。
明日手術を受けると言うミンメイ。
成功しても完全に治ることはない。
現実にはヒーローなんかいない。
実はハイホンらは「永遠のヒーロー」というスマホのアプリ。
でもお父さんがいたから諦めずにがんばって来れた。
私のヒーロー。
今までありがとう。

署に顔を出すハイホン。
「ご迷惑をおかけしました。またよろしくお願いします」 
「よし、全員出動だ!」
0361創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 17:00:33.62ID:TBrcb+HR
1ヶ月が経った。

『黒い悪魔』は影を潜めた。
祝融らは捜索を続けていたが、居場所は杳として知れなかった。

ルーシェンとユージンは仲良しになっていた。うざい者同士ウマが合うのかもしれなかった。
チョウと椿の関係は何も変わらなかった。
赤い魚は、成長していた。
0362創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 17:11:05.88ID:TBrcb+HR
緑の森の中で、チョウとルーシェンは木陰に座り、椿を待っていた。

「ねぇ、チョウ」ルーシェンが言った。「今日こそ椿に告白するよね?」
「そんな流れになれば、な」
「いっつもそれじゃん! それでいっつもしないじゃん! そんなんじゃ永遠にそのまんまだよ? ねぇ、ユゥ?」
「べつに」ユージンは言った。「永遠でいいと思う」
「ユゥまでそんなこと言うの!?」
「だって永遠て、美しいじゃん」
「ダメダメ! 永遠の愛ならいいけど永遠の弱虫はダメ!」
チョウは頬を膨らますと、ルーシェンを煩がるように言った。
「なんでお前がそんなにしつこく言うんだよ。ほっとけよ」
「ほっとけないよ!」ルーシェンは友を思う真摯な目つきで言った。「こんな面白いこと、ほっとけない!」
0363創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 17:24:32.46ID:TBrcb+HR
「よし、練習してみよう」ルーシェンが言い出した。
「練習?」チョウが面倒臭そうに返す。
「うん。ボクを椿だと思ってさ、告白してみて」
「気持ち悪ィ……」
「ほら!」と言ってルーシェンはチョウを立たせた。
ルーシェンは足を折り畳み、椿の背の高さ、つまりはチョウと同じぐらいの高さに合わせ、向かい合った。そして言う。
「はい、どうぞ」
「おまえのことあいしてる」
「軽っ!」
しかも早口だった。
「嘘だったら簡単に言えんだよ」チョウはつまらなそうにルーシェンの目を見ていたのをそらした。
「ひどい! ボクのこと愛してないの?」
「お待たせー」と少し遠くから椿の声がし、チョウは身体を固くした。
風呂敷包みを抱えて小走りでやって来る、赤い旗袍に黒い長スカート姿の椿が見えた。
0364創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 17:45:35.43ID:TBrcb+HR
「見て、こんなに大きくなったの」
椿が風呂敷包みを解くと、薄く削った竹の入れ物が現れた。薄く水が張ってあり、赤い魚は小ブナぐらいの大きさに成長していた。
「もう水のないとこでも泳げるのよ」
「なんか見た目も変わって来たな」
最初に見た時は金魚みたいだった。今は丸みを増し、胸びれが少し羽根のように長くなっている。
「飛べるんじゃねーの、これ?」チョウは冗談っぽく笑いながら言った。
「うん、飛べるんだよ」
椿はそう言うと、大事そうに魚を水から掬い出し、両手に乗せる。そして前に掲げると、魚と顔を見合わせ、愛しそうに「ふふっ」と笑った。
「ほら、ラン」椿は魚に優しく話しかける。「手、離すよ?」
ゆっくりと椿が両手を下げると、魚はたどたどしくも腹びれを羽ばたかせ、その場に浮遊した。
「ふふっ。おいで」
椿が駆け出す。魚は追うように、森の中を泳ぎはじめた。
0365創る名無しに見る名無し
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2019/12/09(月) 18:03:17.86ID:TBrcb+HR
椿の楽しそうな笑い声が森に響いた。
軽やかに駆け回るうちに、椿の動きは踊りに変わる。
赤い魚と戯れて舞う少女をチョウはずっと目で追っていた。
細い肩が上下し、細い腰がくるくると回った。しなやかな指先が虹を描き、赤い髪が風にたなびいて光を振り撒いた。
赤い魚は優しげな笑顔を浮かべ、追いかけながら椿を見守っているようだった。
椿は目を閉じ、幸せそうに手を広げる。
その椿を取り巻いて魚は空を泳ぎ、螺旋を描く。
「楽しそうだね、椿」そう言いながらルーシェンも笑っていた。
「まるで愛犬と飼い主だ」そう言いながらユージンも笑った。
チョウは椿に見とれながら、しかし笑っていなかった。少しいじけたような顔を膝に半分埋めた。
0366創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 12:29:30.64ID:/0FCxJWE
「あれだけの複雑骨折だったのに」メイファンはチェンナの腕を自由に動かした。「たった1ヶ月と1週間で治るとはな」
クスノキの老人は立っている。その表情は白い髭で見えない。
「アンタ大した名医だぜ」
「そうか、早かったか」クスノキは残念そうに言った。「もう一月ぐらいかければよかったかな」
メイファンは意味がわからず暫く黙っていた。
「あっ」ようやく意味がわかった。「てめぇ! 手を抜きやがったな?」
「治療中は大人しくしているであろうと思ったまでだ」
「本当はどれぐらいで治せた?」
「一週もあれば」
「マジかよ」メイファンは目を覆った。「ララより凄ぇかも」
「とりあえず大人しく……しているつもりはないのだろうなぁ……」
「もちろんだ」メイファンはそう言うと黒い清代風の服を羽織り、早速出掛けようとする。
「その子が可哀想だとは思わないのかね」
その言葉にメイファンの動きがぴたりと止まる。老人は続けて言った。
「チェンナのことは、儂もかわゆいのだ。危険な目に遭わせるな」
四歳の子があんなバケモノを目の前にした上、痛覚は遮断していたとはいえ、腕を折られたのだ。
悪魔のメイファンもさすがに思いやらずにはいられなくさせられた。
「チェンナ」メイファンは柄にもなく優しい声で聞いた。「怖かったか」
「んーん」チェンナはあっさりと答えた。「たぁじょーぶだよ」
「そうなのか?」
どれだけ胆の座った子を育てたんだ、メイは。と思っていると、チェンナが言った。
「だってママとパパのけんか、いっつも見てるもん」
「なるほどな」
メイファンは深く納得し、何度も頷くと外へ出て行った。
0367創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 12:44:48.21ID:/0FCxJWE
目立たないよう顔を変えた。前に押し入った家で見た、炭のように真っ黒な家族の子供の顔を借りた。
別に襲いかかって来る奴がいても殺せばよかった。しかし弱い奴と闘うのはいちいち面倒臭い。
スライムが大群で襲いかかって来たら面倒臭いようなものだ。ゆえに顔を変えた。
見たところ、この世界でもほとんどの奴は雑魚だった。人間界と同じく平凡な『気』の者がほぼすべてだ。
出会ったものの中で強いのは、祝融とクスノキの老人だけだった。
とは言え祝融は強すぎる。赤松子も恐らく同様だろう。
クスノキの老人は年寄りすぎる。たまに死にそうなほどに咳き込む老いぼれと闘う気にはなれなかった。
赤い巨大魚も、クスノキの老人でさえ知らないのでは、出会うことも期待できない。
メイファンはさっさとユージンを見つけて連れて帰ろうと決めていた。
0368創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 16:53:24.56ID:Nvj+PCII
町へ向かうつもりで歩き出したが、すぐにその足が止まる。
背後の森の中からなかなか強い『気』を感じたのである。
「ちょっと遊んで行くか」
ちょっとゲーセン寄ってくかみたいなノリでメイファンは森へと入って行った。
0369創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 17:27:34.19ID:Nvj+PCII
メイファンが赤い『火』の森へ入って行った頃、緑の『樹』の森では、一週間ぶりにチョウが
椿との逢い引きの待ち合わせをしていた。もちろんルーシェンもユージンも一緒である。
もちろん椿はランを連れてやって来た。風呂敷にも入れ物にもいれず、ランは低空を泳いで椿について来る。
「で、でかくなったな!」チョウは思わずまだ遠いうちから声を上げた。
赤い魚は人間の新生児ぐらいの大きさになっていた。エラが小さくなり、穴のような器官に変化している。
腹びれはさらに長くなり、もうそれは立派な羽根と呼べるものになっていた。
「もうほとんど水もいらないのよ」椿が自慢げに微笑む。
「隠さなくていいの?」ルーシェンが心配そうに言う。
「うん。お父さんもお母さんも、もうランのこと知ってる。これだけ形が変わったら人間の魂だなんて思わなくて、わたしが神獣の子を飼い始めたと思ってるわ」
「あーあ。樹さんと鳳おばさんを騙してんだ」チョウが意地悪そうに言った。「椿、悪い子になったなぁ」
すると椿はしゅんとして俯き、弱々しい声で言う。
「悪いことしてるとは思ってる。でもわたし、ランを助けたいの」
ルーシェンがランの身体をくんくんと嗅ぐと、言った。
「うわっ! こんだけきくらげ臭いとバレちゃわない!?」
「嘘!」椿が少しむっとする。「ランは臭くないわ」
「本当だ」チョウもランの匂いを嗅いだ。「ちっとも人間の匂いしないんだな、魂って」
ランは男二人に寄ってたかって匂いを嗅がれ、嫌そうな顔をしている。
「ランをいじめちゃだめ」椿がランを抱いて引き離した。「ランはわたしの恋人なんだから」
そう言うと目を瞑り、魚の口と短いキスをした。
0370創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 17:35:53.15ID:iWagRBC+
ユージンはチョウの胸に煮え湯のようなものが上がって来るのを感じた。
「もしかしてチョウ、魚に嫉妬してるの?」
チョウはそれには答えず、嫌な気持ちを吹き飛ばす勢いで言った。
「で、その魚育ててどうすんだよ?」
「……言ってなかったかな」椿は困ったような顔で答えた。「……人間に戻すのよ」
「え! 初めて聞いた」チョウは驚いて言った。「死んでんだぜ? そんなこと出来んのかよ?」
「ハハ、なんかタブーくさい」ルーシェンはそう言うと木に登り、枝に座った。
椿は霊婆に聞いた通りのことを話しはじめた。
0371創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 17:50:41.55ID:jgzsJT7L
「大きくなるまで育てるんだって」
「どれくらい?」
「わからない。でも、あり得ないぐらい大きくなるんだって」
「そんなんなったらもう本当に魂じゃなくて神獣だなぁ」
「『気』の海に放して神獣の仲間入りさせてやったら?」
「だめよ。育ったら、人間界の海へ戻してやるの」
「どうやって?」
「道を示してやったら自分から帰るんだって霊婆は言ってたわ」
「説明書が欲しいなぁ」
「ちょっとルー! 危ない。降りて」
「いーからいーから。で、人間界に帰ったら人間に戻って生き返るの?」
「たぶん……。ちょっとルー! いい加減にして。降りなさい」
「本当だぜ、ルー。お前、降りろ」
木の枝に座ったルーシェンは途中から足を枝に引っかけてぶら下がり、逆さまになって聞いていた。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。大袈裟だなぁ」
ちょうどその時、小さな地震が起こった。
0372創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 18:12:39.86ID:SmzztsEa
ルーシェンの余裕の笑顔が消えた。
バランスを崩し、両足が枝から外れる。
「ルー!」
チョウは立ち上がり、駆け出すとすぐに手を伸ばし、クッションになろうとした。
しかし一歩届かなかった。
チョウはすぐ目の前でルーシェンが地面に頭から落ち、その首が嫌な音を立てて曲がるのを見た。
椿は思わず立ち上がったが、しばらく口に手を当てて震えるしか出来ずにいた。
「ルー!」
「ルーっ!」
チョウの口が二つの声を出して叫ぶ。
「嘘だろ? ……お前、また騙してんだろ……?」チョウが動かなくなったルーシェンを前に、信じないぞとばかりに弱々しく笑う。
「おじいちゃん!」椿が空に向かって叫ぶ。「助けて!」
しかし遠すぎる。クスノキに椿の声は届かない。
「俺が運ぶ!」
そう言ってルーシェンを背負いかけたチョウをユージンが止める。
「動かさないほうがいい! 呼んで来よう!」
「そうか、そうだな! よし、ルー! 乗せてけ!」
「バカ! 動転してんじゃない!」
「おじいちゃん!」椿は薄紅色の『気』を全開にして声を限りに叫んだ。「お願い! 届いて!」
するとかなりの遠くからやって来た二本の蔓が、ルーシェンの身体を優しく持ち上げ、頭部を固定すると、するすると運んで行った。
0373創る名無しに見る名無し
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2019/12/10(火) 20:26:27.37ID:9L7TM+1T
不手際承知の吉永隊員
「海上自衛隊の本部は 夕食のラーメン定食で 、日本側が代わりに出たのでアメリカンじゃないと怒っちゃったんだよなぁ 。
そういうことって どういうことなんだろうな••••••••」
0374創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 09:48:56.56ID:IFpZivsd
メイファンは強い『気』の発生源を見つけると、複雑そうな表情をした。
角が一本生えた赤鬼のような男が木に凭れて気持ちよさそうに眠っている。
『気』は確かにその男から出ていた。
それを見るに天才的な能力の持ち主だった。しかし、やる気がなさすぎだ。
メイファンは遠い昔、リー・チンハオという名の似たようなバカを調教したことを思い出す。
「んぉ?」赤鬼はいびきとともに目を開け、メイファンを見た。「なんだ? また人間かよ。……しかも中に凄いの入ってんな」
0375創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 09:56:44.44ID:IFpZivsd
赤鬼はうーんと伸びをした。隙だらけだった。防御する気がないどころか警戒心がまったくない。
「なんで人間だとわかるんだ」変装しているのに、とメイファンは聞く。
「匂いでわかんだよ」赤鬼は答えた。「お前、めっちゃめちゃ臭い」
「で」ちょっと傷ついた顔をしてからメイファンは言った。「何か言うことは?」
「へ?」赤鬼は笑った。「お前、へんな奴だなぁ」
「私のことを知らんのか」
「知るわけねーだろ、初めて会ったのによ。あ、強いて言うなら」赤鬼はぽんと手を叩いた。「お前、ユージンに似てんな」
0376創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 13:02:06.67ID:IFpZivsd
「もう、大丈夫だ」
クスノキの老人はそう言うと咳き込んだ。
ベッドに寝かせたルーシェンはアホ面をして目を閉じている。
「よかった」椿は口を塞いで喜び、涙を流した。「ありがとう、おじいちゃん」
「二日も寝かせておけば首も動かせるようになるだろう」
「ありがとな、じいちゃん!」チョウはベッドに駆け寄り、こけそうになりながら言う。「よかったな、ルー!」
「お髭に気をつけて」椿が再三注意を促す。
床には一面、クスノキの老人の白い髭が根を張っており、椿でさえ気をつけていなければ転びそうになるのだった。
「見ての通り、歳のせいで根を張ってしまった。儂はここを動けん。怪我人や病人がいても、外へは出向けなくなってしまった」
椿が気遣うように老人に寄り添った。
「椿」老人はその頭を撫でると、言った。「蔓もあまり遠くまではやれなくなった。先程のが最後の力と思ってくれ」
「うん、ごめんね、おじいちゃん。ご無理をさせて」椿は祖父の目をまっすぐ見上げる。「今度怪我人が出たら、板に乗せて連れて来るからね」
「おい、ルー。目ェ覚ませ」チョウがルーシェンの肩を揺すっている。「助かったんだぞ。早く起きやがれ、オイ」
「これこれ揺らすでない」老人が嗜めた。
「あれ?」椿は気づいて、言った。「黒い調度品がないわ。どうしたの?」
「あぁ」老人は答えた。「今、外出しておる」
0377創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 16:30:02.03ID:mddI5nKL
「ただいまー」
そう言って入って来たズーローを見て、おばあちゃんは戦慄した。
「この子は……! いつかやると思ってたよ……! こんな小さな子をたぶらかして、連れ込むなんて……!」
「バーカ、ばあちゃん、ちげーよ」
「何が違……あっ! 臭っ! きくらげ臭っ! よりによって人間の幼児を?」
「お邪魔します」メイファンはぺこりと頭を下げた。
「ばあちゃんなんか無視して奥行こーぜ」
「チョウならまだ帰ってないよ」
「あー、カノジョと逢い引きかぁ……。まっ、とりあえず奥の部屋行こうぜ」
0378創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 16:43:48.06ID:mddI5nKL
メイファンはチョウのベッドに座って帰りを待った。
「本当にお前の弟の身体の中にユージンって名前の人間がいるんだな?」
「あぁ、間違いなく金ピカで名前はユージンだぜ」
「アホみたいな金ピカか?」
「あぁ、限りなくアホっぽい金ピカだ」
「じゃ、間違いないな」
「ま、じゃ、俺、寝るわ」
「客入れといて寝んな、アホ。まだお前の名前も聞いてねーぞバカ」
「あぁ、そうだっけ。じゃ、まずお前が名乗れボケ」
「私はメイファン、身体のほうはチェンナだ」
「メイファンにチェンナちゃん、ね。覚えたぜ。俺の名はズーロ……」
「ひっ!?」メイファンはびくっとした。
「……ズーローだ。どうした?」
「てめぇ紛らわしい名前してんじゃねぇ! こっちは祝融(ズーロン)恐怖症になってんだ」
「ハハハ! 祝融(ズーロン)こえーもんな、確かに!」
0379創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 16:49:04.96ID:mddI5nKL
1時間待っても帰って来なかった。
「おせーな。本当に帰って来んのかよ?」
「カノジョ送ってから帰って来んじゃねーかな。ところでお前、イケる口か?」
「酒か?」
「あぁ、いいのあんぜ。飲んで待たねぇ?」
「大賛成だ」
「じゃ、待ってろ」
そう言うとズーローは台所に立ち、暫くすると瓢箪と猪口を二つ持って来た。
「特別製の老酒だ。燗はしなくていいか?」
「構わん。早く飲ませろ」
「チェンナものむー」
「よし、感覚を少し分けてやる。チェンナもこの機会に酒の味を覚えろ」
0380創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 17:02:37.08ID:mddI5nKL
「本当はなー、人間見つけたら殺さねーといけねーんだぜー、ハハハ」
「知ってるぅ。もう殺されかけたぁ。ウフフ」
「よーし、じゃあ、俺がメイファン殺してやろっかなー、クックック」
「うん、ズーロー。殺せるもんなら殺して〜、キャハハ」
「おるぁー! バシュッ! ヒヒヒ〜」
「キャーやられた! フフフ〜」
「おいちいねー、おいちいねー、おちゃけって、おいちいねー、メイファン」
「おいちいだろー、チェンナー、チェンナも一緒にズーローに殺されようなー」
「どりゃー! ドカッ! ギャハハ〜」
「いやーん、まいっちんぐー、キャハハ!」

そこへチョウが帰って来た。
0381創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 19:24:03.96ID:mddI5nKL
「何やってんだ、兄ちゃん」
まずズーローにそう言ってから、チョウはメイファンを見た。
「待ちくたびれたぞ少年」
気分よさそうにそう言って手を上げたメイファンは変装を解いていた。
チョウの脳裏に自分の首をはねようとした『黒い悪魔』の顔が浮かび、ぴったり重なる。
「うわっ!?」チョウは思わず腰が抜けた。「うわっ! うわーーっ!」
「何だどうした」ズーローが不思議がる。「失礼だぞ幼女に向かって」
「こっ、コイツだよ!」
「何がだ」
「水龍道士を殺した犯人だ!」
「本当? メイファン」ズーローがのんびりした声で聞いた。
「あー、あのドラゴンヘッドね。うん、殺したー。だっていきなりあっちから殺しに来たんだもん。正当防衛だよー」
「あー、あのひと、人間見つけたらすぐ噛み殺しに行くからなー」
「でしょー? 殺さなかったらこっちが殺されるんだよー? そりゃ殺すでしょー?」
「あー、そりゃ殺すわなー」
二人はそう言うと大声を上げて笑った。
チョウは橙色の『気』を強くすると身構える。
「あ! その『気』、見覚えあるなぁ」メイファンが楽しそうに言う。「ズーローの弟だったのかよ。お前も危うく殺すとこだった」
「え〜、そうなのかー」ズーローが大笑いし、すぐに真顔になった。「チョウ殺してたらさすがに許せなかったとこだわ」
0382創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 19:40:50.26ID:mddI5nKL
「でも、まぁ、酒酌み交わすとわかるもんだ」ズーローはまた笑った。「メイファンはいい奴」
「いや……離れろ、兄ちゃん……」チョウは足が震えている。「首、飛ばされるぞ」
「んー。じゃ、飛ばしちゃおっかなー。えいっ」メイファンが恋人のようにズーローにじゃれついた。
「ばあちゃん!」と、チョウがいきなり台所に向かい叫んだ。
「いや待て騒がないでお願い」メイファンは手を合わせる。
「メイファンはユージンに用があって来たんだぜ」ズーローが笑う。
「はぁ!?」ユージンは思わず声を出してしまった。
「あ、本当だ」メイファンが嬉しそうに笑う。「いた」
「だろ?」と、ズーロー。
0383創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 19:51:38.07ID:mddI5nKL
「しかしお前、スゲェな」メイファンは目を細めて笑う。「そうやってると本当に見えん、あれだけの金ピカが。よく隠せるもんだ」
「お、お前……ユゥの何なの?」チョウは幼女の中の黒いモノを凝視しながら聞く。
「私か? 私はユージンの……」メイファンは暫く考えてから言った。「お姉ちゃんだ」
「嘘だ!」ユージンの声がまたチョウの口から出た。「嘘だよ、信じるな、チョウ。あんな人殺しがぼくのお姉ちゃんなわけが……」
「ユージン」メイファンは唐突に言った。「お前は昔、すごい力を持ってたんだぞ」
「あ、メイファン!」チョウの顔が勝手に笑い、勝手に柏手を打った。「それそれ! その話、チョウにも聞かせてあげてよ!」
メイファンはしばし呆気に取られてチョウの中のユージンを見つめていたが、やがてアホを見るように笑った。
「記憶、戻ったみたいだな」
0384創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 20:04:05.70ID:yt9nnAOm
その時、メイファンは気づいた。
扉がないので物音はしない。しかし、気配でわかった。おばあちゃんがコソコソと外へ出て行く。
「おい、ズーロー」
「んー? どうした、メイファン」
「おばあちゃんがコソコソ出て行ったぞ。私のことを通報にでも行ったか?」
「あー、たぶん……」ズーローはのんびりと言った。「祝融師匠を呼んで来るつもりだな」
「げっ」メイファンは慌てて立ち上がった。酔いが一気に醒めた。「私は帰る。じゃっ!」
「メイファン……」ユージンがその名を呼んだ。
「あっ、そうだユージン。お前も一緒に帰るぞ」
「えっ?」
「人間界へ帰るんだ」
「ええっ?」
「チェンナの中に入れ。チェンナ、2人入ったら苦しいかもしれんが、少し我慢しろ、な?」
「やだ」と、ユージンが言った。
「やだ……だと?」
0385創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 20:13:25.05ID:7V/Yndy3
「ぼく……ここにいる」ユージンは駄々をこねるように言った。
「待て待て待て待て」チョウはそう言うと、ベッドにへたり込むように座った。「何が何だか……」
「あっ、そう?」メイファンは急いだ口調で言った。「そんなら別にいいぞ。私が命令さるてるのは『チェンナを守れ』だけだからな。お前は別に好きにすればいい。じゃっ!」
「おい、ちょっと待てメイファン」ズーローが呼び止めた。
「何? 早くして。早くしないとアレが来ちゃう」
「お前、俺と付き合わねー?」
「ごめんなさい。じゃっ!」
「じゃあ、今度でいいから秀珀(ショウポー)の中に入ってくれよ」
「秀珀? 何だ、それ」
「俺の惚れてる女だ。凄い美人なんだけどs」
「くだらんことで呼び止めるな!」メイファンは激怒した。「帰る! じゃ、またな!」
0386創る名無しに見る名無し
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2019/12/11(水) 20:29:19.60ID:i/CuRhx5
何事もなくクスノキの老人の小屋へ無事戻ると、鹿のような人間のようなものがベッドに寝ていた。
「なに? これ」とメイファンが聞いた。
「患者だ」と老人が答えた。
「ふーん。意識ないの?」
「あぁ、未だ戻らぬ」
「じゃ、いいや」
そう言うとメイファンは服を脱ぎ、全裸になって箪笥の上に座った。そして老人に聞く。
「私、人間界に帰るわ」
「そうか」
「世話になったな。礼と言っちゃなんだがチェンナを抱っこさせてやる」
メイファンは酔っぱらって眠っているチェンナと身体を交代すると、全裸のチェンナをしばし老人に抱っこさせた。
「癒されたか?」
「……ウム」
「じゃ、人間界への帰り方を教えてくれ」
「知らん」
「知らん……だと?」
「とりあえず今は機会ではない」老人は言った。「何度も言っているであろう。その機会を待つのだ」
0387創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 11:19:07.53ID:iUyqOuVb
「なに? これ」とメイファンが聞いた。
「ナマズだ」と老人が答えた。
「ふーん。意識ないの?」
「あぁ、未だ戻らぬ」
「じゃ、いいや」そして、老人に聞く。
「私、芸能人になるわ」
「そうか」
「世話になったな。言っちゃなんだが 調味料切れてるんだ」
酔っぱらってる老人に「歯をくれ!」
「……ウム」

「知らんのか、これはな先祖代々の入れ歯じゃ」
「知らん……だと?」
「とりあえず今は機会ではない」


老人は言った。
0388創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 22:58:17.61ID:XTxzMy9e
チョウはベッドに潜り込んだ。
疲れていた。ルーシェンのこと、メイファンのこと。
表のほうでは祝融の声がしていた。ズーローが絞られているようだ。
「ユゥ……」チョウは寝ながらユージンに話しかけた。「本当に『黒い悪魔』がお前の姉ちゃんなのか?」
「姉ちゃんじゃないけど……」ユージンは答えた。「親類」
「姉ちゃんじゃあないのかよ」
「姉ちゃんもいるけど、姉ちゃんはもうちょっとまともな人」
「じゃあ、椿は?」
「え?」
「思い出したんだろ? 椿はお前とは関係ねーの?」
「関係って……?」
「たとえば……妹だとか」
「バカなの? チョウ」
「は?」
「椿は人間じゃないでしょ」
「あっ? あぁ……そうか」チョウは苦笑いし、頭を掻いた。「何言ってんだ、俺」
「大体、記憶が戻ったっていっても、やっぱり部分的なものっぽいんだ」
「全部じゃないのか」
「うん、でも」ユージンは言い切った。「椿がぼくの妹だなんて、それだけはあり得ない」
0389創る名無しに見る名無し
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2019/12/12(木) 23:18:48.18ID:XTxzMy9e
「お前、人間界に帰らないって言ってたけど……」チョウは聞いた。「なんでだ?」
ユージンは答えに詰まった。
自分でもなぜああ言ってしまったのか、よくわからなかった。
メイファン繋がりでチェンナとメイ姉のことは思い出したが、それ以外がまだよく思い出せていないせいかもしれない。
兄がいたような気がする。しかしどんな顔だった? よく思い出せない。
「アイツ、もう」チョウが言った。「お前のこと置いて人間界に帰っちまったかもしれないぜ?」
「ごめん、チョウ」ユージンは口を開いた。「チョウのことも考えずにあんなこと言った」
「俺のこと?」
「ぼくがずっと中にいたら迷惑なのに」
「バっカ」チョウはユージンの額を小突くように自分の鼻をピンと弾いた。「2年も一緒にいるんだぜ? お前、完全に俺の一部だよ」
「本当?」
「あぁ」
「ぼくがいないと落ち着かない?」
「あぁ、落ち着かねーよ」
「チョウ……」
「実を言うとな」チョウは頭の後ろで手を組むと、話しはじめた。「俺、昔、弟がいたんだ」
0390創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 15:23:31.06ID:3nVWcnh+
チョウは産まれた時、双子だった。ただし双子の弟は、チョウの脇腹にくっついていた。
チョウも未熟児気味ではあったが、弟はさらに小さく、心臓はあったが胃から下はすべてチョウのほうにあった。

母親は出産のあと間もなく亡くなった。父親は二人を隣国で名医と呼ばれているクスノキの元へ連れて行った。
しかし名医といえども生きている二人を切り離すことは不可能だった。

弟の名はシェンと言った。クスノキは弟が長生きできないことを予め宣告していた。
宣告通り、シェンは八歳になる年に静かに眠るように死んだ。シェンの死を確認した後、クスノキはチョウの身体からシェンを切り取った。
0391創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 15:37:35.10ID:3nVWcnh+
「俺、シェンを切り取らないでくれって、泣いてお願いしたんだぜ」
チョウが話すのをユージンはたまに「うん」と言いながら黙って聞いていた。
「シェンは俺の一部だったからさ……」
窓から入って来た風が紅葉の葉を軽く揺らした。
「だから正直、嬉しいんだぜ? お前がいてくれると、さ。シェンが帰って来たみたいで」
「……そうだったんだ」
「あぁ」
「仲良かったんだね」
「ケンカもよくしたけどな」チョウは笑った。「ただ……」
「ん?」
「お前は、いいのか?」
「え?」
「人間界に、帰れなくなっても」
「……いいよ」
「なんでだ?」
「チョウといたいから」
チョウは暫く呆気にとられていたが、やがて吹き出すように笑った。
「へんな奴だな、ユゥって。本当にへんな奴」
「ごめん」
「まぁ、アイツも言った通り、お前が好きにすればいいさ。お前が決めることだ」
「うん」
「それに」チョウはため息を吐くと、言った。「俺も、お前がいなくなったら寂しいわ」
0392創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 15:58:45.18ID:3nVWcnh+
「ところで」ユージンが言った。「チョウのお父さんは? どうしたの?」
「あぁ。俺が10歳の時、病で死んだ」
「そうだったんだ……」
「クスノキのじいちゃんもその頃はまだ外まで来てくれたんだけどさ、手遅れだった」
「……」
「それから……俺達兄弟の面倒見てくれてたフォンおばさん……今の椿のお母さんが、俺のこと引き取るって言ってくれて……」
「そうなの?」
「あぁ。でも、俺の素質が『火』だったからな。『樹の一族』には向かなかったんだって」
「そっか」
「で、今のばあちゃんが、ズーローを兄ちゃんにしてしっかりさせたいって、俺を引き取った」
「兄ちゃん、しっかりしなかったね」
「はは……」
「んー。でも」
「ん?」
「チョウ、もしフォンおばさんに引き取られてたら、椿と兄妹になってたんだね」
「あぁ。本当、そうならなくて、よかったよ」
「よかったの?」
「あぁ。そうなってたら、永遠に結ばれることはなかったからな」
「べつに……血が繋がってなけりゃ……」
「血が繋がってなくても、妹は妹としてしか見れねーよ。特に俺、そういうとこあるからさ」
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんだ」
「そんなもんじゃなくても」
「ん?」
このままじゃチョウ、永遠に椿とは結ばれないよ? と言おうとして、ユージンは黙った。
「なんだよ? ユゥ」
「ううん。眠い。おやすみ」
「……? おう、おやすみ」
「あ、あとね」
「ん?」
「ぼくは、チョウの弟じゃないからね」
「はは」チョウは笑った。「わかってるよ、親友」
0393創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 16:24:00.74ID:3nVWcnh+
次の日、メイファンは、クスノキの老人の小屋で暇していた。
「あーヒマヒマヒマヒマ!」
そう叫びながら小屋の中を歩き回る。
「ひーーーまっ!」
そう叫びながらルーシェンの角を持ってぐりぐりした。
「おい、ジジイ! 私と殺伐とした遊びをしないか?」
「この老いぼれに何が出来るものか」クスノキの老人は答えた。
「しかしお前、よくこんなとこで一人で一日中そうやって立ってられんな? ヒマだろ?」
「樹木に暇などというものはない……ム?」
「おっ?」
「おじいちゃん!」と息を切らしながら椿が飛び込んで来た。
メイファンは瞬時に黒い調度品に化けていた。急いだので手足が変わりきつっていない。
そんなことには気づかずに、椿は聞いた。
「ルー、まだ目、覚めないの?」
メイファンはゆっくりと手足を仕舞っている。
「ウム。身体はもう大分治ったのだが……ム?」
「うっ?」と黒い調度品がつい声を出した。
「こんちは」と言ってチョウが入って来た。
0394創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 16:42:21.78ID:3nVWcnh+
椿は赤い魚を連れていた。ふわふわと宙に浮かんでいるその魚をメイファンは初めて見た。
『なんだあの魚。椿のペットか? なんで水もねーのに泳いでんだ? 神獣ってやつか?』

椿とチョウは並んでルーシェンの顔を覗き込んでいる。

クスノキの老人は言った。
「身体はもう大分治っている。呼吸もしているし、瞼の下で眼球も動いている。……しかし、魂が戻って来ぬ」

話を聞きながら、チョウがくんくんと鼻を動かした。そして言う。
「ちょっと待って、じいちゃん」
そして部屋を見回す。
箪笥の上の黒い調度品に目を止めた。
「……おい」
「どうしたの?」と椿が聞く。
「姿を現せ!」チョウは調度品に向かって叫んだ。「めっちゃめちゃ臭いぞ、この野郎!」
0395創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 17:09:50.03ID:3nVWcnh+
「臭いいうなーーー!」
メイファンはあっさりと姿を現した。

黒い調度品が幼児に化けるのを見、椿の目が点になる。

「テメェ! なんでここに……!」
チョウが殺気を全身から放つ。
そして椿を守ろうと動いたが、そこに椿はいなかった。

「お姉ちゃん、あのお兄ちゃんこわーい」
メイファンは椿の胸に飛び込んでいた。
いつの間にか自分に抱っこされている幼女を見、椿の顔が笑った。
「可愛い! どこの子?」

「椿! 離れろ! そいつは……」
チョウの言葉がそこで止まる。
「え〜ん。ホラホラ、あのお兄ちゃんこわいよぉ〜」
そう言いながらメイファンが左手を小刀に変え、椿の頸に突きつけていた。
「チョウ?」椿は小刀には気づかずにただチョウを睨む。「この子が何?」
「やっ……やめろ!」チョウはメイファンに向かって泣くように言い、続けて椿に言った。「椿、そいつは……」
「そいつは?」メイファンの目が鋭く殺気の光を浮かべ、右手が椿の胸を揉むぞと脅した。
「そいつは……」
「儂の客だ」クスノキの老人が威圧するような声を出した。「メイファン、その手を退けよ。退けぬと……」
「じゃ、おじいちゃん。あのお兄ちゃん何とかしてよ」
「チョウ」老人が懇願する。「どうか黙っていてはくれまいか。メイファンは本当に、儂が招いた客なのだ」
0396創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 20:55:33.90ID:qwfb0qW+
「チョウ」ユージンが声を出した。「メイファンはぼくの『おば○ん』なんだってば。怖がらないで」
チョウはユージンだけに聞こえる小声で言った。
「でもアイツは水龍道士を殺したやつだぞ」
「お願い」ユージンはチョウを刺激しないよう、懇願する口調で言った。「ぼくの大事な身内なんだ」
「……わかったよ」チョウは納得していない顔をしながらも、言った。「何もしねーから……椿を離しやがれクソヤロウ」
「いい子だ」メイファンは椿の胸から降りると、手を繋いだ。
「手ぇ離せ!」
「お姉ちゃんの手、あったかーい」
「フフ」頭に疑問符を乗せていた椿が安心して笑顔を浮かべた。「メイファンちゃんって言うのね。わたしは椿。よろしくね」
「よろちくねー」
「手を離せって言ってんだ!」
「チョウ」椿が睨む。「見損なった。あんたってそんなひとだったの?」
「椿……! ちくしょ……」チョウはようやく大人しくなった。
0397創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 21:08:05.09ID:qwfb0qW+
「ルーシェンのことだが」クスノキの老人が言った。「魂のこととなると儂の専門外だ」
「霊婆ね」椿が言った。
「ウム」老人は頷いた。「もしも明日になっても意識が戻らぬなら、霊婆の所へ連れて行きなさい」
「板に乗せて連れて行こう」チョウがメイファンから目を離さずに言った。「俺が背負って行けりゃいいけど、背が違いすぎる」
「ルーの足、ひきずっちゃうもんね」ユージンが面白がる。
「じゃあ、明日、また来る」椿はそう言うと、クスノキの老人に抱擁した。「メイファンちゃん、またね」
「うん! お姉ちゃん、またねー」
「さ、チョウ。帰るわよ」椿はさっさと先を歩き出した。そして赤い魚に言った。「おいで、ラン」
「待てよ、椿」チョウが追いかける。
「ユージン、チョウを頼むぞ」クスノキの老人が背中に声をかけた。
「うん」とユージンが答える。
メイファンは黙っていた。暫く黙って考え込んでから、ようやく呟いた。
「……ランだと?」
0398創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 21:19:39.28ID:qwfb0qW+
チョウは椿と並んで町を歩いた。
メイファンのことを椿に説明したかったが、ずっとユージンに小声でお願いされていた。
「お願い、チョウ。ぼくの叔母さんを売らないで」
ランは子犬のようにずっと椿の隣をついて飛んでいた。
知り合いに会うたび「可愛い神獣ちゃんね」と微笑んでもらった。
しかし茶屋の前を通りかかった時、店の長椅子に座っていた薄青い着物姿の細身の男が立ち上がり、後ろから声をかけて来た。
「待ちなさい、お嬢さん」
椿は振り返り、男の顔を認めた。
蒼い長髪を絹の紐でまとめ、額に紺色の刺青のある柔和な顔つきのその男を認めると、椿は名を呼んだ。
「赤松子さま」
0399創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 21:35:47.90ID:qwfb0qW+
【主な登場人物まとめ】一

人間

・ユージン(李 玉金)……17歳の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・椿(リー・チュン)……14歳の黒いおかっぱの少女だった。ユージンの妹。登校拒否の中学生。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけていた。
大好きな義兄のランが日本から帰って来、うかれていたが、ランが渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
海で罠にかかっていた赤いイルカを助けた直後、渦潮に呑まれて絶命する。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。
0400創る名無しに見る名無し
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2019/12/13(金) 21:41:28.58ID:qwfb0qW+
【主な登場人物まとめ】二

海底世界の住人

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。それゆえ不真面目な兄のことが許せない。
椿に恋してしまい、修行が手につかなくなっていたが、師匠の祝融に励まされ、再び修行を開始する。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・椿(チュン)……元ユージンの妹で人間。今は海底世界の住人。渦潮に飲まれて海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられた。
名門『樹の一族』の養女。薄紅色の『気』が使える。人間の記憶はすべて消されている。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
自分を助けたがために死んでしまった人間の青年を生き返らせようと、霊婆の元から青年の魂を貰って来た。
赤い魚の姿をした魂にランと名前をつけ、いつも連れて歩いている。

・ラン……椿が育てている赤い魚。周囲からは神獣の子だと思われているが、実は椿を助けて死んだ人間の魂。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
下半身を鹿に変えて、悪者を踏み潰したり人を背中に乗せて走ったり出来る。
スラリと背が高く、中性的な顔立ちに魅力的な2本の短い角を持ち、嘘さえつかなければ女の子にモテない要素はない。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。
0402創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 17:26:50.65ID:skQNeN+d
「君は……『樹の一族』のお嬢様だね?」赤松子はそう言うと恥ずかしそうに頭を掻いた。
「とても可愛らしいお嬢さんだなと思っていた」と言おうとしたら椿の「はい」という返事に言葉を切られ、赤松子は泣きそうになった。
助けを求めるように後ろのチョウに声をかける。
「やぁ、君は祝融のお弟子さんの……」
「チョウです」ぺこりとチョウは頭を下げた。「よろしく、赤松子」
「そしてこの子は……」と言って赤松子がランを見下ろした。
「ランです」椿が自慢するように微笑む。「神獣の子で、わたしの……」
「違うでしょう」赤松子が急に厳しい顔つきになる。「これは神獣ではない」
椿が緊張して身体を強張らせた。
「どうしたのだね? 霊婆め、これを君に持たせたのか?」
椿は俯き、黙ってしまった。
チョウはその後ろで何とかしてやろうとしているが、何も出来ない。
ランは無邪気に椿の回りをゆっくり飛びながら、赤松子を見上げて嬉しそうに微笑んだ。
「君は、わかっていてこの子を連れているのか?」
赤松子に問い詰められ、椿はようやく顔を上げ、言った。
「赤松子さま、わたし喉が乾いたわ」
「えっ?」
「そこの茶屋でお茶をご一緒しません?」
0403創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 17:40:08.40ID:skQNeN+d
三人は並んで長椅子に座り、茶を飲み団子を食べた。
チョウはユージンの存在がばれないよう、橙色の『気』を強く放ちながら団子を食べた。
赤松子が椿越しにへんな奴を見るようにチョウを見た。

椿は正直に本当のことを赤松子に話した。
成人の儀で人間界に行った時、魚捕りの罠にかかって死にかけたこと。自分を助けてくれた優しい人間の青年がいたこと。
青年がどれだけ美しかったかということ。自分を助けたせいで、青年が渦潮に呑まれて死んでしまったこと。
ただひとつ、生き返らせようとしていることだけは言わなかった。

「なるほど」赤松子は団子に手もつけずに話を聞いていた。「君の気持ちはわかる」
「聞いてくれてありがとうございます」椿が一礼する。
「しかし、わかっているとは思うが、これは自然の掟に反することだ」
椿は礼をしたまま目を伏せた。
「可哀想だが、それが青年の運命だったのだ。君が遺憾に思うことはない」
椿は項垂れてしまった。
「……なんて、言えたらなぁ〜」
赤松子の口調が急に変わり、椿はびっくりして顔を上げた。
0404創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 17:53:02.07ID:skQNeN+d
「椿ちゃんの気持ちは本当によくわかる」赤松子は目に涙を溜めながら言った。「私だって同じことをするかもしれない」
椿は黙って話を聞いている。
チョウは緊張を緩め、危うく橙色の『気』が弱まりかけたのを慌てて戻した。
「しかし、その人間の魂。もう大分育っているであろう?」そう言って赤松子は椿の膝で休むランを見た。
「はい……」椿はゆっくり首を縦に振った。
「人間の魂は霊婆の島を出ると、育ちはじめる。その魚、何も餌を食べぬであろう?」
「そうです」わかっている、という風に椿は頷いた。
「魂は食べ物を必要としない。ただ、愛を必要とする」
チョウが団子を喉に詰まらせた。急いで茶を口に運ぶ。
赤松子は続けた。
「愛されれば愛されるほど、急速に成長するのだ。君が愛すれば愛するほど、彼は化け物のようになってしまうぞ」
「あ……」ユージンはここ最近で急速に魚が大きくなっていることに思い当たった。
0405創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:08:00.62ID:skQNeN+d
「返すのだ」赤松子は冷たい表情に優しい声を乗せた。「君の気持ちはわかる。しかし彼をここにいさせては、皆が不幸になる。
「彼はなりたくもない化け物にさせられ、世界を壊しはじめるだろう。君が望んでいるのはそんなことではない筈だ。
「恩を受けた。返したい。側に置いて愛を注いでやりたい。その気持ちはわかる。しかし、結果が見えている。
「祝融ならばここで彼を滅するであろうな。しかし、壊した魂は二度と人間界に戻らぬ。永遠に冥界をさまようことになる。私にそれは出来ん。
「霊婆の元に返すのだ。霊婆なら魂の大きさを変えられる筈。元の小さな魚に戻し、生まれ変わるまでガラス瓶の中にいさせるのだ」
0406創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:21:15.91ID:skQNeN+d
椿は話を聞きながら泣いていた。
泣きながら膝の上のランの背中を撫でていた。
心なしか目の前でまた少し魚が大きくなったようにユージンは思った。
「椿……」チョウが言った。「赤松子、ちょうど明日、俺達、霊婆のところへ行くんだ」
「それはまた物好きだな」赤松子はチョウを見た。「何の用があって?」
「友達の魂が戻って来ないんだ。だから、その時に……な? 椿」
チョウは椿の顔を覗き込む。
椿は暫く何も言わずに泣いていたが、遂には首を縦に振った。
「返しに行こう、ランを」チョウは優しい声で言った。「いいな? 椿」
椿がチョウにすがりついてきた。チョウの耳元で小さな嗚咽が聞こえる。
チョウは抱き締めてやろうと手を回し、右手でポンポンと椿の背中を叩き、左手で赤い髪をポンポンと撫でた。
0407創る名無しに見る名無し
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2019/12/14(土) 18:51:03.39ID:skQNeN+d
「君を信じているよ」
茶屋を出て、手を振りながら赤松子は言った。
チョウがぺこりと頭を下げる。並んで椿も頭を下げたまま、震えながらランを胸に抱き締めている。
赤松子は椿を見て同情するような表情を一瞬したが、威厳を取り戻すと背を向け言った。
「また、見に来る」
0408創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 00:21:03.39ID:V+EmR6yE
つまらん
0409創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 08:51:31.91ID:eRmybZ+1
チョウは椿を送って行った。
まっすぐ歩けない椿の手を繋いで、何も言わずに歩いた。
何を言っても椿の慰めにならないとわかっていた。
ランは何もわかっていない顔をして、ただ心配そうに椿の側をついて来た。

夜、布団の中で、眠ろうとしているチョウにユージンが言った。
「ねぇ、チョウ」
「ん?」
「明日、椿、ランを連れて来るかな」
「来るさ」
「でも……」
「椿はそういう奴だ」チョウは言った。「自分のわがままのために皆を不幸にしたりしない」
0410創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 09:33:29.32ID:eRmybZ+1
次の日、仕事を終えるとチョウは、まっすぐルーシェンの容態を見に行った。
クスノキの老人の小屋は『樹』の町寄りではあるが、『火』の町との中間にある。
ゆえに別の場所で椿と待ち合わせすることなく、まっすぐ向かった。
小屋に入るとすぐにメイファンが言った。
「いらっしゃいませ☆ご主人様〜」
メイファンは黒いメイド服を着、もえもえきゅん等と言ったが、チョウは無視して奥へ進んだ。
椿はまだ来ていなかった。
ルーシェンは何も変わらず、アホ面をして眠っていた。
「ルーの魂、戻って来ないのか、じいちゃん」チョウがクスノキの老人に聞く。
「ウム。やはり霊婆のところへ連れて行くしかあるまい。早いほうがいい」
「おじいちゃん」椿がそこへ飛び込んで来た。「ルーは?」
椿は元気が戻っていた。後ろからランをがふわふわと空を泳いでついて来た。
0411創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 10:04:23.89ID:eRmybZ+1
「霊婆は夜しか舟を出さん」クスノキの老人が言う。「椿よ。行き方はもう覚えたか?」
「うん。大丈夫よ、おじいちゃん」
「二人で行くのか?」
「あぁ」チョウが答える。「夜だと他に手伝ってくれそうな奴、いねーし」
「ルーシェンに身内は?」
「いないんだ。コイツ、木の股から産まれたから」
ユージンの頭の中で、ルーシェンの「また騙された〜、チョウ」と面白がる声が聞こえたような気がした。
「では……」と老人はメイファンをチラリと見た。
「は? 私に手伝えって言うの?」メイファンが意外そうな顔をする。
「暇なのであろう?」
「子供に何が出来るって言うの? 大体、お外は危ないし。私、その鹿が死のうが馬になっちゃおうがどうでもいいし」
「そうよ、おじいちゃん」椿が止めた。「メイファンちゃんは子供なんだから。それに……」
椿は少し頬を赤くすると、言った。
「わたし、チョウと二人きりで行きたいの」
0412創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 10:38:14.97ID:KGQXtRZj
「わたし、チョウと二人きりで行きたいの」
帰ってからずっとチョウは、熱にうかされたように独り言を呟いていた。
「二人きりで。二人きりで〜〜! ウフーッ!」
修行も手につかずにただベッドの上を転げ回る。
「二人きりがいいの。邪魔者はいらないの。イヒーッ!」
「チョウ」たまらずユージンが声をかけた。「あんまり喜ばないほうがいいと思うよ」
「は? 何でだよ? 大体喜んでなんかねーし。ブフッ!」
「女は怖いから」
0413創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 10:49:47.28ID:KGQXtRZj
ひとしきり大喧嘩した後、チョウはベッドに大の字に固まった。
「ところでさ、ぼく、考えたんだけど」ユージンが言った。「ルーシェンのあの大きな身体を運ぶの、大変そうじゃない?」
「板に乗せて二人で運ぶんだ。大丈夫だよ」
「でも椿、女の子だよ?」
「……うん」チョウが困った顔をする。「それは思ってた」
「それでぼく、考えたんだけど、ぼくがルーシェンの身体に入って、自分で歩けば楽じゃない?」
チョウがはっとした。思いつきもしなかった考えを頭の中でシミュレーションしているらしかった。
恐らくチョウの頭の中ではルーシェンが下半身を鹿に変えて歩き、その背中に椿が乗り、椿を守るように抱きかかえて、王子様のような自分が乗っていた。
しかしチョウは首を横に振った。
「駄目だ駄目だ駄目だ」チョウは厳しい口調で言った。「人間であるお前を自由にはさせられねー」
0414創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 12:32:24.04ID:h2HIeK7E
夜が更けた。
クスノキのたもとに椿は先に来て、待っていた。
椿のすぐ隣にはまた少し大きくなったランが浮遊している。

椿は『樹の一族』特製の板の担架を持って来ていた。
薄く、軽く、四隅に取っ手がついており、これならば二人ででも楽にルーシェンの身体を運べそうだった。

「いいわ、おじいちゃん」
椿がそう言うと、木の上からするすると、蔓がルーシェンの身体を降ろして来る。
板にそっと乗せ、持ち上げてみると意外なほどに軽かった。
「軽いな」チョウが嬉しそうに言った。
「うん」椿も笑い、頷いた。
「コイツ、身体でかいけど、細いから助かったぜ。これなら運べそうだ。あ、もちろん椿の板のおかげで、な」
「行こう」椿が楽しそうに言った。
チョウが前に立ち、二人はルーシェンを乗せた担架を二人で持ち、歩き出した。その後をランが泳いでついて行った。
「気をつけてな」頭上からクスノキの老人の声がした。
0415創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 12:44:10.64ID:h2HIeK7E
「二人きりじゃなくしてごめんね」ユージンが言った。
「いや、二人きりだよ」チョウは鼻唄を歌うように言った。「お前は俺の一部だから、立派な二人きりだ」
二人の会話は小声でも骨を伝わってよく聞こえるので、椿には聞こえていない。
二人は『樹』の森を抜け、『火』の町に入って行く。

担架を通じて椿の手の細さがチョウに伝わって来る。
「大丈夫か?」
チョウはたびたび振り返り、聞いた。
「うん、大丈夫」
そのたびに椿はそう答えた。
二人は町外れのチョウの家の前を通ると、夜でも赤さの浮かぶ『火』の森に入って行った。

なんだか後ろが下がって来た。
振り返ると椿が一生懸命な顔をして、汗をかいている。
「きつくなって来たか?」チョウが声をかけた。「ここらで休もう」
0416創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 12:54:24.84ID:h2HIeK7E
「ううん、大丈夫」椿がにかっと笑った。「ルーのために急がないと」
「なんか無理してる笑顔だよ」ユージンが小声で言った。「チョウは大丈夫?」
「おう。俺は軽いもんだ」
そう答えてチョウはもう一度振り返る。椿は口で息をし、顔を赤くしている。
「頑張れ。森を抜ければすぐだ」
「うん!」掛け声のような返事が返ってきた。
「チョウ」ユージンがまた小声で言った。「ぼくをルーの中に入れて」
「駄目だって言ってんだろ」
「でも、椿が……。あれは相当きつくなってるっぽいよ」
「頑張ってんだ。邪魔すんな」
「うーっ!」椿が遂に苦しそうな声を上げはじめた。「うーっ!」
「椿、やっぱり休もう」チョウが見かねて言う。「無理はすんな」
椿は頑なに首を横に振った。
0417創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 13:14:31.86ID:h2HIeK7E
「チョウ」ユージンが新しい提案をした。「ルーが駄目なら、椿にぼくを入れて」
「は? それでどうなんの?」
「ぼくが中から力を貸してあげれば椿は二人力になる。それに椿を休ませてあげられるだろ」
「はぁ……ん。でも……」
「椿は意識があるからぼくも自由には動けない。力を貸してあげるだけ」
「なるほどな」チョウは急いで考えをまとめ、言った。「そうしよう。で、どうやってお前を椿に移せばいい?」
「前におばあちゃんに移したろ。あれみたいに……」
チョウの頭におばあちゃんを椿に変換した光景が浮かぶ。
椿の肩を掴み、顔を寄せ、開かせた椿の口に、自分の口を近づける。
椿の温かい吐息が、唇が、迫って来る。
「はわわわ!」チョウは思わず声を上げた。「ひゃ……ひゃははは!」
「何笑ってるの!?」後ろから椿の怒ったような声が飛んで来た。
「口はつけなくていいんだ」ユージンが小声でさらに言う。「二人で口を開けて近づいてくれれば、飛び移れる」
「無理……! 無理……! ひゃははっ!」チョウは顔をひきつらせ、笑い声にしか聞こえない叫びをまた上げた。
「笑うなーっ!」
「椿!」ユージンが大きな声を出した。「限界でしょ? 休んで! このままじゃ港までに君の力が尽きちゃう!」
0418創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 13:35:20.10ID:PiqdtjbZ
担架を下ろし、大樹に凭れて二人は休憩をとった。
二人の苦労も知らず、相変わらずのアホ面で寝ているルーシェンの顔を月が照らした。
椿は目を閉じ、腰につけていた水を飲み、汗を拭きながら荒い息を整える。
チョウはその横顔をじっと見ていた。はぁはぁと半開きで息をするその赤い唇を見ていた。
「椿。ユゥが、さ。言うんだ」チョウは切り出した。「お前の中に、入れろって……」
意味がわからなかったらしく、椿は頭に疑問符を乗せた。
さっきユージンが言ったことをそのまま説明すると、椿は答えた。
「そっか。二人力になるのか……。いいよ。やろう」
「や……やるの?」
「うん。なんで?」
「い……嫌じゃねーの?」
椿はチョウの顔をじっと見つめると、ふっと微笑んだ。
「嫌じゃないよ」
0419創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 18:56:27.51ID:PiqdtjbZ
チョウは地面に手をついた。椿も手をついた。お互いが同時に手をついたので、重なってしまった。
上になった椿が退けないので、チョウも手を退けなかった。椿の体温が伝わって来る。
チョウが顔を近づける。椿のほうからも近づいて来た。椿は目を閉じ、口を大きく開ける。その頬が紅く染まっている。
チョウも目を薄く閉じた。椿の顔は見えるぐらいに。
椿の湿った吐息が近づいて来る。
チョウも口を大きく開けようとした時、
「口をつけなくていいからね」ユージンが念を押すように言った。「寸止めでいいから」
何も答えず、チョウは大きく口を開けた。
顔はみっともないほどに真っ赤だった。
椿の唇の感触が予感できるほどに接近した時、チョウは胸に強い衝撃を受け、突き飛ばされた。
0420創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 19:06:50.35ID:PiqdtjbZ
驚いて目を開けると、赤い魚が椿の前に立ち塞がっていた。
怖い顔をして、椿を守るようにそこを退かない。
「クオォォッ!」と威嚇する声を出す。
「ラン!」椿が困ったように笑う。「違うの。チョウはわたしに悪いことをしようとしているんじゃないのよ」
「クオォォッ!」しかしランは威嚇をやめない。
「なんだ、この魚野郎!」チョウは真っ赤な顔で激怒した。「俺をバカにしてんのか? ふざけやがって……!」
「チョウ」椿が険しい顔になった。「ランを悪く言わないで」
ランはチョウを睨み続けたまま、椿の回りを飛び回った。
「あら、ラン」椿は微笑むと、言った。「チョウ、ランが手伝ってくれるって」
0421創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 19:12:04.92ID:PiqdtjbZ
二人はルーシェンの搬送を再開した。
ユージンはチョウの中に入ったままだ。
担架の下にランが潜り込み、下から支えて泳いだ。
担架はてきめん軽くなり、椿はほぼ担架に手を添えているだけになった。
「ありがと、ラン」椿が微笑む。「頼りになる子だね」
「そんなんなら最初っから手伝えよ、糞魚野郎」チョウがぶつぶつ言った。
0422創る名無しに見る名無し
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2019/12/15(日) 20:51:03.00ID:PiqdtjbZ
「畜生、糞魚野郎。畜生」とぶつぶつ呟きながら歩いている間に、森の向こうに光が見えて来た。
「森を抜けるぞ」ユージンが言った。「もうすぐだ」
「うん!」椿が明るい声で言った。
「クォッ」とランも嬉しそうな声で鳴いた。
0423創る名無しに見る名無し
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2019/12/16(月) 12:25:57.87ID:/4tnZOb7
舟はもう着いていた。
顔のない不気味な船頭が、櫓を手に、じっと客が乗るのを待っている。
チョウが一番に乗り込むと、担架ごとルーシェンを乗せた。
椿が手を伸ばす。チョウはその手を取ると、軽く引っ張って舟に乗せてやった。
椿が座ると、ランはその膝に乗り、勝ち誇ったようにチョウの顔を一瞥した。

小さな舟は出港した。
『気』の海には靄がかかり、波音もなく舟は進んだ。
海中から神獣麒麟が姿を現すと、舟に虹をかけるように、大気を震わせてまた海へと潜って行った。
「静かだね」
「うん」
「おう」
三人はそれだけ言葉を交わすと、後はずっと黙っていた。

靄の向こうに松明の灯りが見えてきた。
0424創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 05:37:55.85ID:3wZwfotP
「おや、またお前かね」
霊婆は誰かが来るのを知っていたかのように出迎えた。
「今度は友達も一緒か。賑やかなことだね」
そう言うと霊婆は意味不明の粘ついた低い笑い声を出す。
「こんちは」
チョウの挨拶を無視して霊婆は背中を向けると、寺の中へと案内した。
「ところで今度は何の用だね?」
「友達が」椿はすぐに答えた。「大怪我をしちゃって……身体は生きてるけど魂が、戻って来ないの」
「その鹿みたいなのかね」
「えぇ」
霊婆は担架に乗ったルーシェンを一瞥すると、即答した。
「それは無理だね。とっくに魂は逝ってしまってるよ」
「そんなのないわ! よく診てください!」
椿にそう言われ、霊婆は仕方なさそうにルーシェンを霊堂の中心に置かせ、容態を覗き込んだ。
0425創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 05:48:34.78ID:3wZwfotP
「どうだ?」チョウが聞く。「よくなりそうか?」
「煩い小僧だね。集中できないよ」
暫く霊婆はルーシェンの身体のあちらこちらに手を当てて何かを診ていたが、やがて顔を上げると、言った。
「何とかならないこともない」
「本当か!?」
「……よかった」
喜ぶ二人をくだらなそうに一瞥すると、霊婆は続けた。
「魂が冥界をさまよっている。まぁ、眠ってるようなもんだから苦しんではいないよ」
「それを引き戻して来ることがアンタなら出来るんだな?」チョウが希望に顔を輝かした。
「出来ないこともない」霊婆は無表情に言った。「だが、大仕事だ」
「報酬がいるのね?」椿が言った。
「そうだ。しかも頂くのはちょっとやそっとのものじゃ済まない」
「……って、いうと?」
そう聞いたチョウを霊婆はいきなり指差すと、言った。
「小僧の寿命すべてを頂こうか」
0426創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 06:03:58.30ID:3wZwfotP
「え……」チョウはぽかんとした。「俺の命とルーの魂の……かえっこか……」
「そんなのダメよ」椿が言った。「そんなの……」
霊婆はにたりと笑うと、言った。
「冗談だよ」
「テメェ……!」
「あぁ、冗談さ、ヒヒヒ。出来ないこともないというのは本当だがね。しかしそれで私も死ぬかもしれないんだ。そんな仕事は……ん?」
霊婆は突然、チョウの胸のあたりに目を止めた。
「小僧。お前、面白いものを飼っているな」
「え」
チョウの気が緩んだ瞬間、透けて見えたユージンを、霊婆は目ざとく捉えていた。
「身体のない人間か。これは面白い」
「ど、どうする気だ」チョウが腕でユージンを守ろうとする。
「……よし。その人間を私にくれるなら、冥界へ行く仕事を引き受けよう」霊婆の顔は一つ目の布で見えないが、真剣な空気が伝わって来た。「今度は冗談じゃないぞ」
0427創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 06:15:20.83ID:3wZwfotP
「いいわ」と、椿が即答した。「お願い。ルーの魂を連れ戻して」
「バカか!」チョウか声を上げた。「ユゥは物じゃねぇ!」
「あらら。意見が割れたねぇ」霊婆は困ったように言った。「べつにそいつの命はとらないよ。私のペットとして側に置くだけだ」
「ほら、チョウ。ユゥがここに住むだけの話でしょ」
「椿!? 信じらんねぇ! お前がそんなこと言うなんてよ」
「ほら、ここに住めばいい」霊婆はハムスターの飼育セットみたいなガラス容器を取り出した。「寄生生物のようだが、この中なら身体を出ても生きられるよ? ヒヒヒ」
「ほら、可愛がってもらえそうしゃない?」
「ルーがこうなったのは運命だ!」チョウは強い口調で言った。「でもユゥを捨てるなら、捨てるのは俺達だ! 運命じゃねぇ!」
0428創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 06:30:19.28ID:3wZwfotP
「まぁまぁまぁまぁ」霊婆が提案した。「その人間、ユゥとやら自身に決めてもらったらどうだね?」
「ぼくは……」ユージンがチョウの口を動かして声を出した。
「お前が私のものになってくれたら、お友達が助かるんだよ?」
「ぼく……」
「可愛がってやるよ。ここがきっと気に入るよ」
霊婆は心底からユージンのことを欲しそうに、涎を垂らして迫って来た。
「霊婆」チョウが口を挟んだ。「このままだとルーの魂は絶対に帰って来ないのか?」
「まぁ、ほぼ、絶対だね」霊婆は少し大袈裟な口調で言った。「一厘(0.0001%)の望みがいいとこだね」
「よし、帰ろう」チョウは霊婆に背を向けた。「帰って、ルーの帰りを待とう」
0429創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 06:37:31.40ID:3wZwfotP
「待たんか」霊婆が呼び止めた。「お友達が、何も栄養も摂らず、生きていられると思うのかね?」
「うっ?」チョウはそう言われ、気がついた。
「動かない身体は固まる。何も食べられない身体は痩せ細って行く。待っているうちに、お友達は死んじゃうよ?」
「そうよ」椿が責める口調で言った。「ルーが死ぬか、ユゥが引っ越すかの話でしょ。考えるまでもないわ」
「チョウ……」ユージンは小声で言った。「ぼく……あのひとの物になるよ」
「駄目だ」チョウは即答した。「お前はそんな運命じゃねぇ。そんなの不自然だ」
0431創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 06:48:50.82ID:3wZwfotP
結局、チョウは霊婆にユージンを渡さなかった。
魂が戻らないままのルーシェンを再び担架に乗せて、帰りの舟に乗った。
ユージンは椿があんなことを言い出したのがショックだった。
チョウもショックだったようで、椿と目を合わさない。
椿は舟の縁に座り、困ったような顔をして、ずっとランの背中を撫でている。
……ランの、背中を。
「あーーーっ!?」いきなりチョウが大声を上げた。「お前……魚! ランを返して来るんじゃなかったのかよ!?」
椿がキッとチョウを睨んだ。
0432創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 06:55:54.80ID:3wZwfotP
「ルー……絶対よくなると思ってたのに……」椿は涙をぽろぽろ零しはじめた。「計画が狂っちゃった……」
「けっ……計画!?」チョウが愕然とする。
「うん」椿はこくんと頷いた。「正直に言うね。わたし、チョウを気絶させといて、ランと家出しようと思ってたの」
「は、はぁ!? 家出って……。気絶ってどうやって!?」
「え。……こうやって」椿は手刀で自分の首の後ろを叩く動作をしてみせた。
「そんなもんで気絶するわけねーだろ!」
「え。でも……」
0433創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 07:44:55.19ID:3wZwfotP
「……トンッ、て……やれば……」
そう言いながら椿は舟を降りた。
「手、貸せよ」
チョウがそう言い、二人でルーシェンの担架を下ろす。
「……で?」チョウが目を伏せて言った。「お前の考えてた計画とやら、聞かせてもらいやしょうか?」
0434創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 09:01:10.81ID:7C8VhMWv
we are going out to even think so xoebjcnueb
0435創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 09:24:02.08ID:PbJ9iqTW
      ____   
     /__.))ノヽ   
    .|ミ.l _  ._ i.)  おるりゃー!     _/Z_rュ.ロ  
   (^'ミ/(;・;) (;・;)リ             ,、ヽァrァ//_._._ __
    .しi   r、_) |           人人人ノく/レ' >ン>> `> 
     |  (ニニ' /--、   ≡ ≡ ≡       (≡/'´ | ̄`ヽ  _ 
  ,.-rュノ `ヽ二ノ /; ; ̄了`>―-、_, r---、 て≡ __/   へ_ /・) 
 { l``<ヽ、  ノ/;'; '、'、 .ノ  /_,. イ , , , 〉  (≡ (6   ` _| ̄ ぐぇあ!  
 ',  ノ^   ̄´  、丶 ヽf´、  ゝ'ヽ//// て ≡ゝ    ┌' 
  |  |!:'        ヽl ̄ ̄``ー´^'′ ̄  (  ≡ヽ    └, .:∴∵・o∴ 
  l_,!   ; ',     ';,         ⌒⌒ヽ\ ≡ノゝ、 イ′ 
 ,!  i .'、ゝ、      |  
 !  l| /i'|    ノ^  |  
 `ヽ、_ノ 〉、____ノ"`ゝ
0436創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 12:15:04.20ID:3wZwfotP
椿はその邪悪なる計画の全貌を明かした。
ルーシェンの魂が戻って来たら、チョウの首の後ろをトンッと叩いて気絶させ、ルーシェンがチョウを介抱している間に
隣の『雪の国』へ逃げ、潜み、密かにランを育てる、という、それは壮大で恐ろしいものだった。

「そんだけ?」とチョウが口をぽかんと開けて聞いた。
「そんだけよ」椿が唇を尖らせる。
「……」
「……」
「……駄目だろ」とチョウが言った。「ランを返して来ないと」
「ほら! そう言うと思ったから!」椿が悪者を見る顔で言った。「だから気絶させようと思ったのよ」
「また明日、霊婆の島に行くぞ。あの船頭、引き返せって言っても何も聞こえてねーみてーで……決められた仕事しか出来ねーんだな」
「ランは返さないわ」
「バッ……! お前……」
「返さない」
チョウは困ったように頭を掻くと、椿に軽蔑するような目を向けた。
「お前ってそういう奴だったんだな」
0437創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 12:29:19.55ID:3wZwfotP
「本気でユージンを霊婆に渡して、それでルーが助かればいいって思ったのか?」
椿は俯き、黙り込んだ。
「引っ越しなんて話じゃ済まねーぜ? あんな奴、ユゥを実験動物にするかもしれねぇ」
「……」
「大体お前、ユゥの気持ち、考えたかよ? お前、別の友達助けるために、友達売ろうとしたんだぜ?」
「……ごめんなさい」
「どっちが大事かなんて話じゃねー。皆が幸せになる方法じゃなきゃ、とっちゃいけねぇんじゃねーかなぁ!?」
「ごめんなさい。あたし……」ぽろりと涙が零れた。「自分の計画のことしか考えてなかった……」
チョウは涙を見て黙った。椿は続けて喋った。
「ルーの魂が戻ったの見とかないと……安心して家出できないと……思って……」
家出って安心してするもんじゃないよなぁ、とユージンは思った。
「ごめんね、ユゥ……」椿はぽろぽろと泣き出してしまった。「……ごめんなさい」
「ユゥ」チョウがユージンに言う。「何か言ってやれ」
「一発……」ユージンは押し殺したような声で言った。「殴らして」
椿はこくんと頷くと顔を上げ、涙で濡れた頬を差し出した。
チョウの右腕が勝手に上がり、掌がパーの形に開く。
「勝手に身体動かすなって言ってんだろーが!」
チョウの怒声にユージンは引っ込んだ。
0438創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 16:24:44.57ID:3wZwfotP
「ユゥをあんなとこに置いて来てたら、俺が安心して毎晩眠れんとこだったわ」
「……うん」椿は自分で自分の頬を一発叩いた。
「まぁ」チョウは話を戻す。「明日こそ、ランを返しに行くぞ?」
すると椿は怖い目をして顔を上げた。
「チョウ。……ランの気持ちは考えてくれないの?」
「は?」
「皆が幸せになる方法じゃなきゃ、とっちゃいけないんでしょ?」
「いや。それとこれとは……」
「何が違うって言うの!?」
椿の剣幕に少し圧されながらもチョウは言った。
「だってそいつは世界を壊すだろ? 赤松子が言ってたように」
「だからってランをあそこに返すの?」椿の声は穏やかながら怒気を帯びていた。「それは運命じゃない。わたしが、ランを捨てることだわ」
「だから話が違うって! あそこに返せば、いつか生まれ変わるんだぜ!?」
「でもそれはランじゃない」
「知るか!」
「チョウはランを愛してる?」
「は? 愛してはねーよ」
「じゃあ、わたしのことは愛してる?」
「はっ? はぁっ!?」
「わたしはチョウのこと愛してるよ」
ぶっ倒れかけたチョウにユージンが囁いた。「チョウ! 間違えるな! 『友達として』だ!」
0439創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 16:40:45.50ID:3wZwfotP
「チョウも、ユゥもルーも、生まれ変わったら、もうわたしの愛するひとじゃないじゃない」
「お……おう」チョウはちょっとだけがっかりしながら言った。
「ランも同じ」椿はそう言うとランを抱き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。「わたし達……愛し合ってるのよ」
「あい……あいあい……」チョウは言葉が出て来なかった。
「それに……。赤松子さまにはお話してない方法があるでしょ」
「うん」ユージンが言った。
「ランを幸せにしてあげる方法は二つある」椿は強い目をして言った。「一つは霊婆に返して生まれ変わらせる。もう一つは……」
「人間に返すんだよね?」
「そう」椿は頷いた。「わたし、ランを絶対に生き返らせるんだ」
0440創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 16:53:18.17ID:3wZwfotP
「でも……」暫く考え込んでからチョウが言った。「赤松子に見つかったんだぜ? たぶん、皆にもばらして回ってる」
「だから家出するのよ」
「お前なぁ……」
「でも……ルーがそのままじゃ……ほっといて行けない」
「まぁ」チョウはまた頭を掻いた。「俺ん家まで運ぶのだけは手伝ってもらわねーとな」
「チョウの家に置くの?」
「あぁ。それしかねーだろ。面倒みないといけねーし」
「じゃ、運ぼう」
「あぁ」
そう言うと二人は担架を持ち、立ち上がった。すぐにランが担架の下を泳いで支える。
ランの力がチョウの手にも伝わって来た。
0441創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 17:05:26.43ID:3wZwfotP
五階のチョウの家までの階段を二人でルーシェンを担いで上がった。
チョウが背負い、椿はルーシェンの足が階段にぶつからないよう持ち上げた。

部屋に着くと、チョウのベッドに寝かせた。
チョウが荒い息を整える。
「それで、どうするの?」椿が聞いた。「ルーにご飯、食べさせなきゃ」
「ユゥ」チョウは目を瞑ると、言った。「ルーん中入れ」
「いいの!?」ユージンがびっくりした声を出す。
「仕方ねーだろ。お前がルーに入って、身体動かして、飯食ってやれ。ただし……」チョウは厳しく言った。「半刻(約30分)だけだ」
0442創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 17:18:24.56ID:3wZwfotP
チョウはベッドの上のルーシェンに覆い被さった。
指で強引に口を開かせる。幸い、歯は噛みしめていなかった。
男同士が接吻しているような光景を、椿は口に手を当てながらまじまじと見ている。
「どうだ? ユゥ」チョウは顔を離すと、聞いた。「動けるか?」
アホ面で意識を失っていたルーシェンが目を開け、喋った。
「うん! 大丈夫」ユージンは手を上げて伸びをした。「クスノキのおじいさんが身体は治してくれてるから、なんともない」
「中にルーがいたりは……しねぇ?」
「全然ダメ」ユージンは足をぱたぱたと動かしてみる。「やっぱり冥界をさ迷ってるみたい」
「……そうか」
「あーーーっ!?」
いきなりユージンが背中を向けて叫んだので、チョウも椿も驚いた。
「な、ななな何だよ?」
「どうしたの、ユゥ?」
「いや……」ユージンは振り向き、困ったような顔をして笑った。「なんでもない」
なんだか変な感じがして、股間に手を突っ込んでみたのだった。そこにはユージンのしっくり来るほうのものがあり、指は突き当たらずに、埋まった。
『まさかルー……こんなとこまで嘘ついてたなんて……!』
0443創る名無しに見る名無し
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2019/12/17(火) 20:46:17.95ID:EFKVmb4b
「なんだい? 騒々しい」
「ばあちゃん、悪ィ」入って来たおばあちゃんにチョウが謝る。「こんな夜遅くにうるさくしちまったな」
「あら、椿ちゃん」おばあちゃんは深夜に孫の部屋に女の子がいるのを見ても、普通の反応しかしなかった。
「おばあちゃん、久しぶり」
「うん。久しぶりだねぇ。いつもチョウのお姉ちゃんやってくれて、ありがとねぇ」
「俺のが年上だってば……」
「おや。ルーシェンじゃないか。元気になったのかい」
「おかげさまで」ユージンはぺこりと頭を下げた。
「ばあちゃん、こんな夜中だけど腹減ったんだ。なんかない?」
「あぁ。作り置きの葱餅があるけど、食べるかい?」
「食べる!」三人は同時に言った。
0444創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 07:24:19.89ID:iswhT6+6
おばあちゃんの葱餅は、片栗粉と小麦粉を合わせたものに塩と醤油を加えて水で溶き、
葱とごまを加えて火にかけるというだけの単純なものだったが、ユージンには極楽料理かと思えるほどに染みた。
自分で口を動かして食事するのなんて何年振りなんだろうと思った。
チョウも椿もユージンと同じ表情で、もぐもぐと口を動かしていた。
まったりとした時間があった。
「泊まってけよ」とチョウが言った。
「通報しない?」と椿が睨んだ。
「いいよ。協力してやるよ」
「本当?」
「ランを人間にして生き返らせよう」
「ありがとう」
みんなくたびれていた。
葱餅が片付く頃には三人とも床に転がって寝息を立てていた。
0445創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 07:39:57.79ID:iswhT6+6
「ユゥ、ユゥ」
誰かが身体を揺すっている。
「……ラン兄ィ?」
ユージンは夢を見ている。
「おい、ユゥ」
「……ヒコーキ、気持ちいいよ」
「ユゥ!」
目を開けるとチョウの顔があった。
「……あれ? チョウの顔が……なぜここに……?」
「寝ぼけてんな!」チョウは厳しく言った。「早くルーの身体から出ろ。こっち戻れ」
すっかり日が高かった。椿は先に起きておばあちゃんの手伝いをしているようだ。
赤い魚のランがユージンの頭の上から覗き、クォッと笑うように鳴いた。
0446創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 07:54:56.11ID:iswhT6+6
「オイ」と、ふいに声がした。
いつの間にか窓にメイファンが立っている。
「ズーローなら暫く帰ってないぜ」
チョウの言葉は無視して、メイファンは言った。
「ジジイが危篤だ。早く来い」
0447創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 08:10:21.67ID:iswhT6+6
【主な登場人物まとめ】

・ユージン(李 玉金)……17歳の人間の少年。生まれつき身体を持たない、金色に光る『気』だけの存在。
口さえ開いていれば誰の身体にでも自由に入れる。入る身体がなければすぐに死んでしまう。
金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
現在は海底世界で知り合ったチョウの中に住んでいる。

・チョウ(湫)……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。背が低く、年齢よりも幼く見える。髪の色は白。
秋風を司る仙人のたまご。橙色の『気』を使う。火の能力も使える。
言葉遣いが粗野で、放縦なように見えるが、根は意外なほどに真面目。
椿に恋しているが、気持ちを伝えようとは決してしない。特別に仲良くはなったものの、年下の椿から弟扱いされてしまっている。
ユージンを人間だと知りつつ自分の身体の中に住むことを許している。

・椿(チュン)……16歳の赤いおかっぱの少女。元ユージンの妹で、今は海底世界の住人。
クスノキの老人に助けられ、名門『樹の一族』の養女となる。薄紅色の『気』が使える。人間の記憶はすべて消されている。
真面目で頑張り屋。ユージン曰く顔はそこそこ可愛いが、小うるさくて地味な女の子。
自分を助けたがために死んでしまった人間の青年を生き返らせようと、霊婆の元から青年の魂を貰って来た。
赤い魚の姿をした魂にランと名前をつけ、いつも連れて歩いている。

・ラン(ケ 狼牙)……19歳。ユージンと椿の義兄。赤いイルカに姿を変えた椿を助け、渦潮に呑まれて絶命した。
今は赤い魚の姿をした魂となって、椿に飼われている。

・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ユージン達の叔母にあたるが、頑なにおばさんと呼ぶのを禁止している。
元々は身体があったが、自分で自分を殺してしまい、ユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在になってしまった。
元中国全土に名を轟かせた凄腕の殺し屋。ユージンのことを『六百万年に一人の天才』と呼び、調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる能力を持つ。ランの母親を15年前に殺した。
現在、姉のララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。

・チェンナ(劉 千【口那】)……ユージンの姉であるメイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
現在、メイファンが身体の中に入っている。

・ルーシェン(鹿神)……チョウと椿共通の友達で年齢不詳の若者。10回に9回しか本当のことを言わない嘘つき。チョウ曰く根はいい奴。
木の上から落ちて頭を打ち、意識を失ってから植物鹿人間になってしまった。

・ズーロー(祝熱)……チョウの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中だが、やる気はない。

・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
見かけによらずアイドルオタク。

・祝融(ズーロン)……火を司る仙人であり、戦士。チョウとズーローの師匠。髪の毛が炎で出来ている。

・赤松子(チーソンズ)……雨を司る仙人。見た目はなよなよしていて弱そうだが、祝融と互角の力を持つと言われている。

・霊婆(リンポー)……死者の魂を司る仙人。一つ目を描いた布で顔を隠している。名前は女性だが性別不明の老人。
『気』の海に浮かぶ島に猫とともに一人で住んでいる。
0448創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 08:21:10.15ID:iswhT6+6
ユージンが金色の『気』を込めると、容易くルーシェンの下半身が鹿に変わった。
「乗って!」
「おう、急げ!」
チョウが先に鹿の背に乗り、椿が急いでチョウの腰に手を回して掴まった。
「おじいちゃん……!」
「行くよ」
そう言うとユージンは蹄の音を立て、全速力で駆け出した。
0449創る名無しに見る名無し
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2019/12/18(水) 08:35:39.09ID:iswhT6+6
クスノキの老人はベッドに長い身体を横たえていた。その傍らにメイファンが立ち、見守っている。
「おじいちゃん!」
いつもなら楽しそうに扉を開けて入って来る椿が、悲しそうに飛び込んで来た。
「おお……椿」
老人の声は昨日までとまったく違い、消えてしまうほど弱々しかった。
「俺、フォンおばさんと樹さんに知らせて来る!」入って来たばかりのチョウが駆け出す。
「チョウ、お願い!」
「椿よ」老人は言った。「儂を……許せ」
「……え?」
「ジジイ」メイファンが言った。「そんなんよりやることあんだろ」
「椿」老人は言った。「儂の残りすべての力をお前にやる」
「バカ言わないで」椿にはその意味がわかった。「死なないで」
しかし老人は、椿に手を触れると、その薄紅色の『気』をすべて椿に与えた。
「大切に使え。これを使い切ったら、お前は、ただの人間になってしまう」
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