【魔王】勇者なんていなかったんや……【まおゆう】
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-魔王城-
魔王「勇者なんていなかったんや……」
側近「目をそらさないでくださいよ」
魔王「人間は今どき多数決で勇者を決めるのだろう?」
側近「それは、仕方ないことなんじゃないですか?勝手に選ばれるのは不平等だって」
魔王「先祖代々受け継がれている魔王一族としては非常に怖いな」
側近「魔王様は魔王様らしく独裁政治を貫いてくださいよ」
魔王「あくまで、か……」
側近「そんな感じです」 魔王「勇者は手頃なスライムを倒して経験値を貯めているようだな……」
側近「なんというか、弱腰勇者ですよね……」
魔王「まずは手頃に潰せそうなものから潰していく、立派な戦法だよ」
側近「向上心なんてない勇者のようですけど?」
魔王「威嚇したら引き取ってもらえるかもな」
側近「あそこは、確か獣人さんの管轄でしたよね」
魔王「じゃあ、ちょっと獣人にも手伝ってもらうとするか」 誰が何度も無償で自分の魔力を渡すというのだろう。
命令すれば不可能ではない、しかし命令を繰り返すたび不審は深まり、やがて女神の信仰を捨てる者も現れるだろう。
つまり、負ければ負けるほどジリ貧になる。
「ずいぶんと、人間を研究してるじゃないか、だがその発想も俺がいたから得られたんだよな?」
「……!」
挑発するような物言いの連続に、ついにネオゾーマの指がピクリと動いた。
「しかし二度目の拷問は悪手だったな」
ヘッポコはそう言って目を細める。
最初の拷問、肉体的な苦痛。想像を絶する痛みの中でしかし信仰心は微塵も揺るがなかった。
二度目の拷問、目の前で罪なき人を殺される。確かに精神的な負荷は甚大ではあったが、それでも信仰は揺るがなかった。
「……」
「ケンの死にざまを見ればあの発想に行き着くのは無理もないが、その結果俺はまだこの場所に立っている。 そうだろ?」
ヘッポコは最後の拷問によって
ネオゾーマは信仰を折った神父によって
なぜ戦士ケンが信仰を捨てるに至ったか理解している。その共通認識のもとの言葉だった。
「……そう言った面があるのは否定できんな、あの頃の余は、他の誰かを殺せば心が折れると思っていた、浅はかだったよ。 本来は全く真逆であるとは知らずにな」
どこか心地よさすら感じるこのやり取りにネオゾーマは小さく微笑む。
「そうだ、あの虐殺が今の俺を支えている一部だ」
目の前で無惨に殺された人々の悲鳴は、今もなおヘッポコの深くで響き続けていた。
「まさか誰も知るまいよ、殺すほどに信者はその死を背負ってしまうなど、その結果信仰心が強化されるなどあの時点では判断のしようもあるまい」
「それを踏まえてのあの最後の拷問なわけだ」
「そうだ、殺しては駄目なのだ、殺せばその死を背負ってしまう。救わせなければ信仰は折れない」
ネオゾーマは冷たくそう言い放った。
ヘッポコは、わずかに拳を握る。脳裏にあの村娘たちの安否が掠めた。
「最初の目の前での虐殺さえなければと、今でも悔いているよ」
そんなヘッポコの浅薄な考えを断ち切るようにネオゾーマは言う。
「……そうだな、あの時点であれを食らっていたら、俺もあの神父のように早々に信仰を捨てていただろうな」
ヘッポコは本心からそう思った、自分の所為で死んだ命がなければあの棄教か救済かの選択には耐えられなかっただろう。
「すべては結果の話だ、だが今回は話が違う」
ネオゾーマはそう言って立ち上がった。
「……」
「…殺せば弱体化してゆくのだ、余の手心も期待できぬぞ、それでもやるというのか?」
「……まぁ、勝率は10パーセントってとこかな」
ヘッポコは笑う。この時点ですでに、魔王の能力が想定の10倍である
「……まだ何か、余の知らない策がありそうだな」
先ほどからの勇者の軽い返答に眉を寄せながら、ネオゾーマが言った。
「さぁ、どうだろうな?」
ヘッポコは、肩をすくめて見せる。
「……おしゃべりが過ぎた」
思いのほか長く会話をしてしまったことに、ネオゾーマは違和感を覚える。
(余は…敵と何をこんなにしゃべっているのだ)
「……」
ネオゾーマの体が変態を始めた。
肌が紫色に変色し額には二本の黒い角がちょうど眉の上部から生え出る。 肩甲骨の部分が盛り上がり皮膚を裂くとコウモリのような翼が左右に広がった。
髪が銀髪に染まり、腰のあたりまで伸びる。
「……それで? 変身は終わりか?」
「ずいぶん余裕ではないか」
「まぁ、パワーバランスは今までと変わらないみたいだからな」
ヘッポコはそういうと、先ほどから供給される魔力を体外に放出した。
魔力が勇者の体からほとばしる、白髪が逆立ち、全身の内側から光があふれ出す。
全身にまとった理力の鎧が魔力に呼応し、金色の光を放ち始めた。
「ずいぶんと派手なことだな」
「人の英知のたまものさ」
ヘッポコは理力の剣を腰から引き抜いた。
「ほう」
勇者の持つ剣の形状に、ネオゾーマは声を漏らす。
見たことのない形だった。
緩やかに反った柄の部分には、銃のトリガーがあり、刀身は片刃、峰の部分は円柱状であり、切っ先が銃口になっている。
「行くぞ魔王、……これが最後だ」 金色の魔力を放出し、ふわりと浮き上がるヘッポコ。
対するネオゾーマは翼を高く開き、床を踏みしめた。 その挙動でひび割れる足元。
「…クッ」
ヘッポコは一筋の光となりネオゾーマに突撃する。
対し床を爆裂させヘッポコへ飛び込むネオゾーマ。
衝突地点で弾ける稲妻と漆黒。 激突の衝撃により光と闇の波動が空間に明滅する。 激突する力に耐えきれず二人をを中心に床がめくれあがり、すり鉢状に変形した。
その余波は蛇のように空間をうねり、壁に傷を刻み付ける。
闇が内側から光を弾き飛ばした、力負けしたヘッポコは衝撃波をまき散らしながら吹き飛びから見て斜め上の壁に体を打ち付ける。
「グッ…」
ヘッポコは銃剣の銃口を魔王へ向けると、引き金を絞る。
銃剣から放たれる雷撃弾、稲妻の速度で迫るそれは、何もない空間を通過した。
外れた弾が壁に激突すると、超高熱のプラズマフィールドをその場に作り出した。
「ぬうっ!」
ヘッポコは連続で引き金を絞る。
銃口の先で左右に大きく動き雷弾を避けるネオゾーマは、ヘッポコの目前にいともたやすく到達してみせた。
ネオゾーマの目前で放たれた雷弾。
弾丸を放った余波が大気を震わせる、ゼロ距離、空間を焼き切りながら迫るそれをネオゾーマは拳の一振りで弾き飛ばした。
「――!」
雷弾を弾いたネオゾーマの拳の表面が裂けていた。
魔力を集中した拳の防御力をやや上回る威力を誇る弾丸が、ネオゾーマの顔をわずかに曇らせる。
(……一体どれほどの魔力を圧縮して撃ちだしているのだ)
人の身で。
人の技術で。
(おもしろい)
銃剣を構えるヘッポコと拳を振りあげるネオゾーマの視線が交錯した。
「――」
ネオゾーマは歯を食いしばり、拳を振りぬく。
そして放たれる超高速連撃。
「――ッ」
目にも止まらぬ連拳を受け止めるべく、ヘッポコが動く。
脳内のシナプスを電流操作により超加速。 電気シナプスが走るたびに焼き切れる脳細胞を壊れた端から回復呪文が即座に修復する。
それによってもたらされる常軌を超えた伝達速度に応えるべく、強化呪文と回復呪文の常時並列使用により強化された肉体が駆動する。
本来であれば即死するであろうこの技を、勇者の死に戻りを利用した修行により体得したヘッポコは、人間の限界を超越した動きで魔王を迎え撃つ。
「グォッ」
漆黒を纏う無数の拳と、稲光を纏う銃剣が錯綜する。
まるで花火のように闇と光が連続的に飛び散り、ワンテンポ遅れてヘッポコの背後の壁に幾つものクレーターが出現した。
「ウッ…」
鼻血を噴き出し、必死の形相のヘッポコ。
ネオゾーマが拳を振りぬく、その拳がヘッポコの防御を抜け、腹部に突き刺さった。
「がっ」
漆黒が弾ける、ヘッポコの体が押し出され、半壊した背後の壁を突き破る。
一瞬で音速まで加速したヘッポコの体は、魔王城の壁を何層も貫き場外へと体が投げ出された。 間髪入れず、ネオゾーマが急速接近。
一瞬でヘッポコのいる地点にネオゾーマの体が着弾する。
「ぐっ」
後方に大きく飛び何とか回避したヘッポコ、しかし、ネオゾーマの追撃は終わらない。
「!」
ネオゾーマが自身より切り離した影を利用し、瞬時にヘッポコの後方に移動。
ゼロ加速でヘッポコの背後を奪ったネオゾーマより放たれる魔力を込めた拳が、ヘッポコの背に着弾する。
体を海老ぞらせ、木々を根こそぎ吹き飛ばしながらぶっ飛ぶヘッポコ。
そのヘッポコめがけ、ネオゾーマは手をかざす。
「極大暗黒呪文」
ネオゾーマの手から放たれる、漆黒のエネルギーボール。
それが吹き飛ぶヘッポコに向け空間を削りながら迫る。
ガラスが砕けるような破砕音をまき散らすその魔弾が、ヘッポコに直撃した。
「 」
ヘッポコを起点に、黒球が肥大化する。
瞬く間に直径一キロメートルを覆い尽くしたその漆黒は、その空間にあるすべてのモノを破壊しやがて収束、その場には、巨大なクレーターのみが残った。
「ウロタトモカーオ以上だな…」
クレーターの中央、うずくまるように倒れるヘッポコを見つめ、ネオゾーマは目を細める。
ヘッポコは、理力の剣を杖のように地面に突き立てよろりと立ち上がった。
着弾と同時に回復呪文と防御呪文を連続でかけ続けたが、まったく威力に追いつけなかった。
しかも詠唱する暇がないため、魔力の使用効率は極端に悪い。
そんなことはわかりきっていたことではあるが、それでも、この短時間で想定よりも遥かに多くの魔力を消費してしまった。
(……もう回復に回す余裕もない。 少し早いが……やるしかない)
「極大暗黒呪文」
ヘッポコは、全力で地面を蹴る。
破砕音と共に着弾する暗黒呪文が再度大地を削り取る。
巨大化する漆黒のドームが、回避運動に入ったヘッポコに迫った。
ヘッポコは魔法に飲み込まれぬよう全力で駆ける。
ドームの肥大化が、停止する。
寸でのところで間に合わなかった。
下半身を失いながらも、しかしヘッポコは理力の剣を構えた。
「!」(勇者のあの位置取り…)
ネオゾーマは目を細める。
理力の剣が、込められた魔力に呼応して光り輝く。
その銃口の先は―
(やはり気づいていたか)
ネオゾーマは舌打ちする。
魔王がいつも、魔王の間から動かない理由。
魔王の間を破壊する魔力が備わっているとわかった瞬間、ヘッポコを場外に追いやった理由。
気づかぬ勇者ではないことはわかっていた。
魔王の間には、何か破壊されては困るものがある。
そう結論付けるのも自然である。
そしてそれは正解だ。
しかしこれが策と言うのならば――想定内である。
ネオゾーマは、魔王城の前に残しておいた影の前に瞬間移動する。
「!」
(この状況にだけ関していえば、貴様も想定内なのだろう?)
ネオゾーマは右手に魔力を込めながら口元を歪める。
魔王が避けられないであろう状況で、ヘッポコの出来うる最大攻撃を放つ。
それが圧倒的な実力差の中、ヘッポコに残された最後の策
ただそれは、不意をつければ、の話であろう。
全力の魔力のぶつかり合いを想定した策ではないはずだ。
ヘッポコは構わず銃剣に全魔力を込め引き金を絞る。
理力の剣より吐き出される雷を纏った極大ビームがネオゾーマへと突き進んだ。
対しネオゾーマ、手をかざし、暗黒の波動で迎え撃つ。
抵抗を無理やり突き破る蛇のようにうねるその暗黒と、光溢れる光線が激突する。
黒の魔撃はヘッポコ渾身の魔法攻撃を呆気なく霧散させ、その延長線上の先の勇者を飲み込み滅却した。
「……」
ネオゾーマは眼前、自身の魔法攻撃により荒野と化した大地を見つめ、眉を寄せた。 「お見事です」
ネオゾーマの背後でデスバラモスが口開く。
「……いや、違う」
ネオゾーマは地平線を見つめながらつぶやくようにそう言った。
「……どうかなされましたか?」
腑に落ちない様子のネオゾーマに、デスバラモスは首を傾げた。
「……手応えがなさすぎる」
ネオゾーマは口元に手を当てると、思考を始めた。
何かを見逃している予感がぬぐえなかった。
呪いの装備で狂化していた時の方が、まだ手ごわかったように思う。
想定外の戦力差の為にヘッポコが防戦一方だったのは事実であり、これはヘッポコ自身の口ぶりからも間違いないだろう。
ゆえに誘導も不完全な状態のまま切り札を使った……回避不可能の、ヘッポコ渾身の最大攻撃。
ロジックとしては筋が通る。
しかしあの勇者にしてはあまりにも単純すぎるのではないだろうか。
戦略が筒抜けなのはお互いにわかっていた。その上でのこのお粗末な結末などありえるのか?
多くの敗北を経て、後には引けない決死の作戦のはずだ。あの勇者ならば勝率を上げるために幾重にも策を弄するのは間違いない。
では現状の情報で勇者に不自然な点はなかったか?
一つは最初のあの不必要な会話。
一つはあの手ごたえのない最後の攻撃。
会話した意味……そして最後の攻撃。
ネオゾーマはハッとする。
あれは最大攻撃に見せかけた、ただ範囲と見た目だけに特化した呪文だった?
「……! デスバラモス今の時刻は?」
ネオゾーマは空を見上げ、声を上げる。
「……今の時刻ですか?」
デスバラモスはそういって不思議そうに空を見上げ、太陽の位置を確認した。
「……あ」
デスバラモスは何かに気が付いたように、声を上げた。
ネオゾーマにはそれで十分だった。
「ヘッポコめ」
ネオゾーマは歯噛みする。
すなわち、最初からヘッポコの策のうちだったのだ。
最初の会話、あれでこちらの時間間隔を狂わせた。
現時刻。まだ全人類の魔力を集める時間ではない。
つまり少数の策を知る者のみの魔力で全魔力を集めた様に見せかけ、こちらの魔力を削る戦略だったのだ。
事実、こちらは盛大に魔力を消費してしまった。
「……やってくれる」
目前、先ほどとは比べ物にならない魔力をほとばしらせ転移呪文により着地したヘッポコを見つめ、ネオゾーマは顔をゆがめた。
ヘッポコのひと蹴りで、大地が爆散する。
デスバラモスの目前、激突する魔王と勇者。
その余波を前に、デスバラモスの体が宙に浮かび、歪に折れ曲がった。
(問答無用か―)
ネオゾーマは激突にこらえきれず、体が浮く。
鍔ぜり合ったまま直進、魔王城の外壁を突き破ると、二人は場内を転がった。
ヘッポコは弾けるように魔王から離れると、そのままネオゾーマとは別方向へ床を蹴った。
「!」
ネオゾーマがその方向を妨害するように立ちふさがる。
ヘッポコの理力の剣の一振りをネオゾーマは前腕で受け太刀した。
スパークと、黒い魔力が弾ける。
強大な魔力の追突により壁や床、天井にヒビが走った。
「「……ッ」」
衝撃に互いに後方へ吹き飛ぶ。
地面を削りながら停止する二人。
そして停止と同時に、二人の姿が消える。
爆散する天井
壁を、床を、天井を蹴り、互いを錯綜させる二人。
魔王城を縦横無尽に駆け回り、破壊的な余波をまき散らしながら二人は激突を繰り返す。
ヘッポコの狙いは明白であった。 ネオゾーマなど後回しにし、魔王の間に到達することである。 魔王の間には、破壊されては困る何かがある、それがなんなのかまではわからないが、魔王は明らかにその場所を庇うように戦っている。
その状況こそ、重要だった。
ヘッポコの銃剣の銃口が、魔王の間へ向けられる。
庇うようにその場に転移するネオゾーマ。
放たれる雷弾が、ネオゾーマに着弾する。
不動の弱点がある以上、ネオゾーマはそこを庇いながらの戦いを強いられていた。
「……くそッ」
雷弾の直撃により吹き飛び壁を貫通し、床を転がるネオゾーマ。
その手をヘッポコへかざすと、ネオゾーマの周囲に30を超える光球が現れ射出された。
追尾光弾が、一斉にヘッポコへ迫る。
ヘッポコは跳ねるように跳躍すると、体を錐もみさせ迫る光弾を時に躱し、時に剣で撃ち落とし、時に呪文で迎撃した。
いなしきったヘッポコの背後、拳を振り上げるネオゾーマ。
ヘッポコは咄嗟に体を反転させると、剣の腹で拳を受け止めた。
下から上へかち上げるように振るわれた拳撃に、ヘッポコの体が浮き上がる
ネオゾーマの拳の着弾点を中心に、まるで透明な風船が膨らむ様に空間がゆがんだ。
「吹き飛べ」
やがて空間がガラスの割れるような音と共に爆ぜると、ヘッポコの体は一瞬にして極超音速まで加速し、魔王城の外へ弾き出された。
「!」
ヘッポコとは反対方向に突き進む反撃の雷撃弾が、ネオゾーマの胴体に着弾する。
胴から煙を吐きながら後方に吹き飛んだ魔王は、床を踏み砕いて体を停止させると、忌々しげに上空を睨んだ。
(あの状況で反撃の余裕があるか)
ネオゾーマは右手を開くと、詠唱を始めた。
空気の摩擦熱に体を焼かれ、体の原型を失いながら雲を貫き上空へ上るヘッポコ。
魔力を逆ベクトルに放射する、その結果高度2000メートルにて運動を停止させることができた。
口から噴き出る血液。
ヘッポコは回復呪文により体を回復させる。
ガラスの砕けるような音を、鼓膜がとらえた。
同時、ヘッポコは回復を早々にきりあげ、銃剣の銃口を下へ構え、引き金を絞った。
空間を砕きながら迫る黒い球体、ネオゾーマの究極暗黒呪文と雷撃弾が激突する。
球状に混ざり合った魔法同士が次の瞬間に爆裂し、周囲の雲を波紋状に拡散させた。
拡散した雲の中心より矢のように突進してくるネオゾーマ。
「……ぐっ」
ヘッポコは刃を滑らせネオゾーマの突撃を受け流す。
火花が散り流しきれなかった勢いに体が回転するヘッポコ、その上空を奪ったネオゾーマ、その背後に背負った太陽の光がヘッポコに影を落とす。
「!」
ヘッポコが気が付いたときには、ネオゾーマはその影を利用しヘッポコの目前に瞬間移動していた。
蹴りがヘッポコの脇腹にめり込む。 そのまま蹴りぬかれヘッポコの体は横方向に滑空した。
ネオゾーマは翼をはためかせヘッポコを追う。
ネオゾーマはヘッポコの迎撃の雷弾の連射をを空中縦横に避けながら、瞬く間にヘッポコの目前に到達した。
雲海の上、ネオゾーマの蹴りがヘッポコへと襲い掛かる。
ヘッポコは浮遊に使っていた魔力を解き自由落下することでネオゾーマの蹴りを躱すと、そのまま雲の中に姿を消した。
白い海が放電と共に黒く染まると、黒雲により生成される無数の稲妻が上空のネオゾーマへ向け襲い掛かかる。
「小賢しい」
ネオゾーマは手を下の雲海へとかざす。
黒雲がネオゾーマのかざした手を中心に稲妻諸共霧散し、まぎれていたヘッポコが姿を現した。
落下するヘッポコの背後から入れ違うようにネオゾーマへ向かう100を超える無数の武器群。
転移呪文により射出された武器群に対し、ネオゾーマは腕を振った。
腕の動きと連動するように様々な武器が砕け散った。
(……なんだ?)
砕いた武器群を呪文で吹き飛ばしながら、ネオゾーマは違和感を覚える。
この奇策の連続に思惑を匂いを感じ取った。
ヘッポコを中心に半径一キロの超広範囲放射雷撃が周囲を駆け抜けた。
「……!?」
雷撃自体にダメージはない。ヘッポコの目的は砕かれた武器群の破片に磁力を帯びさせることにあった。 「超電磁呪文…」
ヘッポコはネオゾーマへかざしていた手を閉じる。
場外へ弾き飛ばされた際の反撃の雷弾には細工があり、強力な磁性体となっていた魔王、呪文の効果により周囲に散った破片がそのネオゾーマへと一気に集束する。
「!??」
結果集結した破片により巨大な球体の中に閉じ込められる、視界も塞がり、身動きもとれなくなった。
(体に引き寄せられる破片? なんだこれは? 一粒一粒に効果がある以上破壊しても意味はない――だが俺を殺すことはできない――どうす――いや違う、勇者の目的はそこではない!)
ネオゾーマは城の中に残しておいた影にワープすると、天井の穴を見上げた。
「……!」
詠唱体勢に入ったヘッポコを見止めたネオゾーマは、顔を歪める。
(場外にはじき出されることも織り込み済み……そこからこの形までの絵図があったか……!)
ヘッポコは左手で右手の前腕を支えるように持ち、右腕でまっすぐ構えた銃剣に全魔力を集中させると口を開く。
「極大南無Thunder改!」
そして、引き金を絞った。
銃剣の剣先から放たれる雷を纏った直径10mの円柱状の光線が、大気を焼き切りながら魔王城へ向け突き進む。
空中の戦闘すべてが詠唱するための時間稼ぎ、その結果完全な状態で攻撃できるヘッポコに対し、ネオゾーマは不完全な状況での対応を強制される。
「ぬぉぉぉおおおっ」
咆哮するネオゾーマ、右掌を空へ突出し漆黒の波動を放つ。
直線状に突き進むビームと、不規則に歪みながら大気を犯すように突き進む波動が、空中で激突した。
激突点を中心に球状に混ざり合う光と闇。 際限なく放たれるビームと波動のエネルギーを前に形状を保てず、ヘッポコと魔王を隔てるように波紋状に拡散してゆく。
波動を放出し続けるネオゾーマ、その足場がひび割れ、やがてクレーター状に窪んだ。
ビームを放出し続けるヘッポコ、その引き金を絞ったままの腕の皮膚が裂け、血が噴き出した。
鼻血、吐血、目や耳からも血が噴き出す。大気に放たれた血は瞬く間に蒸発する。
規格外、特大の魔力を一気に長時間放出することに、体が耐えられないのだ。
理力の剣に、ヒビが走った。
ヘッポコは歯を食いしばる。目の前が真っ赤に染り、やがて何も見えなくなった。
耳は音を失い、触覚もあいまいになる。
今、確かに感じるのは魔力を放出し続けているという感覚だけだった。
≪がんばれ!≫
「……!」
不意にヘッポコの内に現れる無数の顔と声、自分の所為で死んでいった者たちが、自分の為に死んでいった者たちが、今まで自分を責め立てるだけだった者たちが、今は自分に声援をくれた。
これは幻覚なのだろう。 だけどどんなに辛く苦しくても、それだけでいくらでもがんばれるとヘッポコは思った。
「ぉぉぉォぉおおおおおおおおおオオオおおおおおォおおーーっッ!!! 」
そしてヘッポコは、すべてを吐き出すように叫んだ。
「ヌォオォ……!」
ネオゾーマの膝が折れる。
魔力が底を尽きかけていることを悟る。
前半戦での浅はかな魔力の消費。
それに加え、魔王の間を庇いながらの戦闘、次々放たれる奇襲への対応、それはヘッポコよりもはるかに多くの魔力を消費したのは間違いない。
いや、それ以前に、左腕を失ったことも大きかった。
完全に――読み負けた。
だが――
だが――っ!
ネオゾーマの脳裏を、自分を嘲る歴代魔王達の顔が掠めた。
こ の ま ま で は 終 わ れ な い
波動がビームに押し負け、散る。
大地に着弾した雷光線は、瞬く間に大地を削りながらドーム状に広がり、魔王城を光で覆い尽くした。 抵抗の消滅を感じたヘッポコは引き金を絞る指の力を緩めた。
ヘッポコの体は糸の切れた人形のように脱力し地上へ向け落下する。
「究極べホーマ」
落下の過程でヘッポコの体が光に包まれ、やがて全快したヘッポコが光から飛び出すと巨大なクレーターの一部に着地した。
「……」
ヘッポコはあたりを見渡す、周囲に魔王の魔力は感じなかった。
(完全に消滅したか……あるいは……)
ヘッポコの視線の先には、不自然に残った魔王の間があった。
天井も壁もすべて消滅しているが、床と王座のみが不自然に残ったその場所。
ヘッポコは歩みを進めると、王座の前に立つ。
「……」
理力の剣の一振りで破壊される王座。王座の下には階段が地下へと延びていた。
階段を下りた先はひらけた洞窟となっおり 巨大なドーム型にくり貫かれた空洞のようであった。
その中央には、巨大な魔法陣が紫色に不気味に発光している。
「……」
ヘッポコは銃剣の銃口を魔法陣に向けると、引き金を引く。
魔法陣の中央に着弾した雷弾がプラズマフィールドを形成し、地面ごと魔法陣を抉り飛ばした。
同時、世界を覆っていた圧力のような物が消える。
(おそらくこれが世界を蝕んでいた魔界領域の発生源だったんだろう。 なるほど魔王は身を挺してこれを守っていたわけだ)
魔法陣の光源を失い闇に閉ざされたドーム……ヘッポコは雷光球を手の平に浮かべ辺りを照らす。
ドームにはいくつもの道が伸びていたが、そのうちの一番大きな入り口の床にヘッポコの目が留まった。
ゆっくりと歩き床に屈み込む、ヘッポコの視線の先には血の跡あった。
その跡を辿るようにヘッポコは歩く、やがてその先に渦を見つけた。
岩壁むき出しの洞窟の最奥に浮き上がる、人ひとりを飲み込めるほどの大きさの青い渦である。
ゲートだ。とヘッポコは確信する。
「……」
ヘッポコは思考する。
この先は、十中八九魔界へ通じていると見てよいだろう。
魔王は言った、今のこの世界なら真の姿でもに耐えられると。
おそらく魔界はより魔王が力を発揮できる環境になっているはずだ。
どうする? 魔王のダメージがどれほどかは分からない、そして、あの魔王よりも上位とされる12匹の魔王と対峙する可能性もある。
あと数分もすれば予備の魔力が供給されるはずだった。 その補給があればあと5分は戦えるだろう。
(……ギリギリだな)
ヘッポコは未知の魔界を前に思考をつづけた。
魔界の様子が判らない以上、先の展開によっては無駄に終わる可能性もある。
撤退した魔王の風体を見た敵がこちらの策略に気づく可能性もゼロではないし、少なくとも警戒はするだろう。
魔族が歯牙にもかけない人間にやられたとなれば、対策を立てるのが自然だ。
つまり戦闘のリスクや魔界侵入の難易度は時間が経つほど上がっていく。
「……」
ヘッポコは未知の世界を前に手が震えるのを自覚し、自虐的に笑った。
タイミングは今しかないんだ、今更怖気づいてどうする。
今やらなければならないことははっきりしていた。
逃げた魔王の状況確認。
それは確実に遂行する必要がある。
ヘッポコは決意を固めると小さく息を吐いた。時間通り魔力が供給されたことを体で確認すると、意を決して渦に体を潜らせた。 ゲートの先、淀んだ空気と瘴気を前にヘッポコは顔をしかめる。
周囲に目を配ると、どこかの建物の中であることがわかる。
石造建築の祠かなにかなのだろう。台形にせり上がった祭壇のような場所に立つヘッポコは、背後を見、青い渦を確認しながらそう思考する。
目の前の階段には、血の道しるべがあった。
血痕はまだ新しく、おそらくあの魔王のものなのであろう。
ヘッポコは一歩を踏み出し、階段を下る。
階段を下りると、左右を石柱の柱が並ぶ石畳の道が前方に伸びていた、その先には開け放たれたままの扉。
扉の先には、城が見える。
こちらの世界の魔王城とよく似た作りの城だ。
祠を出たヘッポコは、濃い赤色の空を背景にそびえたつその城を見上げた。
――大魔王の間
大魔王は冷ややかな視線で、魔力が切れ、息も絶え絶えながら跪くネオゾーマを見つめた。
「よく生きてもどってこれたわね」
傍らに立つ11人の魔王、そのうちの女型の魔王デスロザリーの言葉だった。
もちろん心配しての言葉ではなく、無様な醜態をさらしながらもここに顔を出せたネオゾーマに対しての皮肉である。
ネオゾーマは顔を上げることなくただじっと床を睨み、歯を噛みしめる。
人間ごときに…家畜ごとにきここまでやられ、それでもなお死にきれずここまで逃げてきた。
とんでもない恥さらしである。
なぜ、自分はこれほどの恥をさらしながらもここに来たのか。
今のネオゾーマに明確に説明するだけの理由は思いつかなかった。
(つまり……自分は、想像よりも弱く、卑屈で、臆病者であった…ということなのだろう… )
「もうよい……もう貴様には何も期待をしない」
大魔王ドラゴンクエスタークは低い声でそう言った。 その声音には失望が色濃く次がない事を暗にネオゾーマに告げていた。
「……!」
大魔王の言葉にぷっと数名の魔王が笑い声を漏らす。
「大魔王さま!」
突然大魔王の間の扉が開け放たれ、白い毛並に背中から翼の生えた猿型の魔物が血相を変え駆け込んできた。
「人間です! 人間がぁ―」
魔物の発声は最後まで続かなかった。
口から血を吐き出し、崩れ落ちるように倒れる魔物。
「…!」
その光景に、ドラゴンクエスタークは目を細めた。
倒れた魔物の背後から姿を現す一人の男。
フヒューと過呼吸のような呼吸を繰り返す猿型の魔物をまたぎ、魔王の集結するその場所に一人歩みを進めるその男。
「…馬鹿な」
ネオゾーマは目の前の光景が信じられず、その目を大きく見開いた。
魔界に入られることまでは覚悟していた。
だがそこまでだ、その後はまたインターバルを置いたのちの戦闘になると踏んでいた。
だが現状、勇者はここいいた。
(何を思って、こいつはここにくるのだ?)
ネオゾーマには理解できない。
魔力もほぼ使い果たしたはずだ。
より強大な敵がいることもわかっていたはずだ。
なのに――
なぜ
「……っ」
なぜ《ここ》にくる?
ネオゾーマの全身の毛が逆立つ。
呪いの装備で狂化したヘッポコと戦っていた時にも似た、不気味な予感――
不条理だ、不合理だ、だが――この男は――
「…」
ヘッポコは惨めに床に這いつくばるネオゾーマを一瞥すると、歩みを止めた。
そしてヘッポコはその場所に立った。
13の魔王の視線の注がれる、その場所に。 今までに感じたことのないほどの強大な魔力の集合体を前に、ヘッポコの全身の毛が逆立ち、背筋からせり上がる悪寒に体が震えた。
目の前にうずくまる魔王とは比較にならない魔力量だった。 あまりの強大さにヘッポコの口元に薄く笑さえ浮かぶほどに。
中央に座す巨体の魔王が敵の親玉であることは一目でわかった。
(……それ以外にも……)
ヘッポコは震えそうになる奥歯を噛み締め、視線を横にずらす。
ドラゴンクエスタークを中心に扇型に散開している魔王たち、その中でもひときわ目立つ魔王が三人いた。
首筋まで翠色の鱗で覆われた身長2メートルほどの大男。
銀髪の髪の下鋭い目つきでこちらを睨む男。
赤髪、この集まりのなかで唯一の女の魔王。
この三名が集う魔王たちの中でも突出していた。
魔王の最弱発言、自分を折るための嘘である可能性に賭けていたヘッポコを、打ちのめすほどに圧倒的な魔力量だった。
(これで人型……真の姿で100倍だったか?)
ヘッポコは自身を鼓舞するように魔力を全開で放出する。
ほとばしる魔力、しかし場の空気は全く変わらなかった。
「……これが例の勇者?」
女型の魔王デスロザリーは、表情一つ変えずにそういった。
「……」
ヘッポコとデスロザリーに視線が錯綜する。
その場から消えるデスロザリー。
そしてヘッポコの前に立つと、その額を指ではじいた。
「――!!!???」
額の激痛、滑空する体にヘッポコはしかしすぐに事態を飲み込むことができなかった。
目では追えている。
しかし、体がまったく反応できなかったのだ。
ヘッポコの体がその場から消えた様に吹き飛び、大魔王の間をはじき出されると、広間の壁に体を打ち付けた。
ヘッポコを中心に壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
ヘッポコ目を見開き、額に走った激痛に顔を歪めた。
「…冗談でしょ?」
デスロザリーは嘲笑するようにネオゾーマへ顔を向ける。
デスロザリーの背後、切りかかるヘッポコ。
刃がデスロザリーの首に激突した瞬間、金属音と共に理力の剣が弾かれた。
「―…ッ!?」
想定をはるかに超える強度にヘッポコは目を瞠る。
「……」
振り返るデスロザリー、その手のひらがヘッポコの胸に触れた。
そして指を倒すようにヘッポコを押した。
ヘッポコの体が後方へ加速し、先ほど体を打ち付けた壁に再度激突する。
「がはっ」
口から血を吐き出し、その場に項垂れるヘッポコ。
「……大魔王様、もうよろしいでしょう? 例の勇者とやらの実力もこれで証明されてしまった。 もはやネオゾーマに弁明の余地はない」
「……うむ」
シドームドーの言葉にはそう一言発すると、興味をなくしたように目を閉じ、そのまま動かなくなった。 11人の魔王たちが、その場から解散しようと歩き出す。
「……っ」
その様子に、ヘッポコは歯を食いしばった。
全身から発せられる放電、白い髪が逆立ち、右目から血が滲みだす。
体内に高速で電流を流し、流れる電流のダメージを即座に回復呪文で修復する。 それによって得られる肉体限界を超える機動力でもってデスロザリーへと迫った。
ヘッポコは床を蹴り、壁を弾き直線的な動きでデスロザリーの背後を易々と奪う。
(あら早い)
少し驚いたようにヘッポコを見るデスロザリー。 振るわれる刃がデスロザリーの肩口に激突し弾かれた。
「……ッ」
返しのデスロザリーの掌底をヘッポコは首を曲げ寸でのところで避ける。 耳元を通り過ぎる掌底、その衝撃波だけでヘッポコの顔半分と肩が裂け血が噴き出した。
何気ない一撃が即死クラスであり、その速度も理論上最速であるヘッポコと遜色がなかった。
ネオゾーマはじっと、デスロザリーにいたぶられる勇者を見ていた。
必死に反撃する勇者、血を流しながら、残り少ない魔力で戦っている。
対しデスロザリーは、そんな勇者を嘲るように、攻撃をすべてノーガードで受け止め、殺さないよう注意しながら、まるで虫を痛めつけるように勇者に傷を負わせている。
勝敗は、誰の目にも明らかだった。
それもそうだろう、デスロザリーは魔界序列第5位の実力者だ。
最弱の魔王と互角であるヘッポコに、もとより勝ち目などあるはずがなかった。
「悔しいかい?」
「!」
突然耳元で声を発したヘルプーチンに、ネオゾーマは驚いて視線をむけた。
「君、気づいてないかもしれないけど、あの勇者が来たとき口元が緩んでいたよ」
「え?」
「あー、やっぱり気が付いていなかったか」
「私が……笑っていた? ……なぜ? 笑う?」
視線を床に向け、思考をめぐらすネオゾーマへ向け、ヘルプーチンは口を開いた。
「僕はね、君が苦戦するあの勇者に、興味があったんだ
以前、君からもらったスラウィムがいるだろう?」
魔の物にして勇者の仲間になった貴重なサンプルを、ネオゾーマは魔界に提供していた。
「……もしあの勇者がここに来た理由に、あのスラウィムが関係しているとしたら」
ネオゾーマは、ヘルプーチンの言葉の意味を図りかねていた。
「ひょっとしたら、僕たちはもう、負けているのかもしれない」 ヘルプーチンに問いを発しようとしたネオゾーマは、そこではたと気が付く、その場から離れようとしていた魔王たちが歩みを止め、勇者を見つめていることに
「がはっ」
デスロザリーの拳を腹に貰い、口から内容物を吐き出しながらもヘッポコは彼女から目をそらさなかった。
全方位雷撃が、ヘッポコを中心に空間を駆けめぐる、それを物ともせずに歩を進めるデスロザリー。
拳を振り上げ、ヘッポコへと振りぬく、対しヘッポコは筋肉に電撃を与え体に挙動を強制した。
そこで気が付く、体を覆う透明な何かの存在に。
それに阻まれ、ヘッポコの体が動かない、その頬に着弾するデスロザリーの拳。
大気が振動する、頭蓋ごと吹き飛びそうになる衝撃をヘッポコは回復呪文で何とか繋ぎ止めた。
体が頭を起点に錐もみ回転し、床を無様に転げまわる。(攻撃の瞬間俺の体を見えない何かが覆っている)
ヘッポコは立ち上がりながら、デスロザリーの攻撃を反芻する。
最初の攻撃で体が動かなかった理由がわかった。
こちらに向け迫るデスロザリー、対しヘッポコは床へ銃剣の銃口を向けると引き金を絞った。
破壊された床がすり鉢状に凹み、粉塵が吹き荒れる。 その煙がデスロザリーの持つ透明な鞭をあらわにした。
(あら? 気が付いた?)
(武器は鞭、攻撃の前にあれで全身を縛り俺の動きを止めていた)
振るわれた鞭をかいくぐったヘッポコはデスロザリーへと理力の剣を振り上げる。
(武器の形状と持ち手が分かれば、その軌道を読むことも不可能ではな――)
赤い衝撃波、まるでバラが散るような花吹雪の起点、赤の閃光が理力の剣を粉々に砕きヘッポコの四肢を両断する。
「所詮は遊びよ? 種が分かったところで何を得意になっているのかしら?」
手をかざした姿勢で、デスロザリーはにこやかにそう言った。
回復呪文で失った四肢を瞬間的に接合し、ヘッポコは拳を振り上げる。。
(…まだ折れない?)
その攻撃を額で受けながらも不動のデスロザリーはしかし眉を寄せた。 今まで見てきた勇者達はここまであきらめが悪かっただろうか?とそんなことを考える。
(武器が砕かれた、室内だから転移呪文は使えない……赤い閃光……攻撃は派手な割にダメージは少ない。 ただ初動が見えなかった。 これがこいつの全力の動きだとするなら、その起こりを見極めるしかない)
ヘッポコは次の手を探すべく体を駆動させる。
中空に振るわれるデスロザリーの透明鞭を躱し、払いの蹴りを屈んで避ける。
デスロザリーの懐に入り込んだヘッポコは、その手を彼女の腹部へかざすと、極大の雷撃をお見舞いした。
迸る光と雷鳴、その向こう、直立で立つデスロザリーを前に、ヘッポコの顔が硬直する。
赤い花びらが空間を覆う、その中心、首と胴体を残して分断された手足と共に、ヘッポコの身体が床を転がった。
「……っ」
激痛に歯を食いしばりながらヘッポコは回復呪文で体を回復させる。
(防御呪文が全く役に立たない、攻撃もそうだがこちらの魔力をすべて無効化しているのか? だが敵の呪文が発動する以上常時無効ではないはずだ、攻撃の瞬間に解除している? だがさっきカウンターで無理だった――) (皆が、勇者を見ている?)
周囲の魔王たちがヘッポコの戦う様に足を止める様子に、ネオゾーマは胸打たれた。
「……」
ヘッポコは左手で腰から一つの呪物を取り出す。
(仮説は出来た、後は実証するだけ……魔力的もこれが限界……か)
そして右手を握りしめると、全力で魔力を集中する。
右手から弾ける紫電、雷呪文の集積により右腕がバチバチと音を立てながら発光し始めた。
「……ねぇ、いつまでじっとしているのかしら?」
デスロザリーの手より放たれる赤の閃光。 ヘッポコはその場から横に飛びその攻撃をかわす。
躱しきれず吹き飛んだ足を即座に修復、床を踏みしめデスロザリーへと蹴りぬいた。
紫電が床に走り抜ける。
電磁力の反発を利用した文字道理の最高速度で、発光する右腕を振り上げたヘッポコはデスロザリーの懐へ飛び込む。
対しデスロザリー、鞭を手首で一回転させ自身の周囲を覆うように鞭を展開する。
ヘッポコはその領域の手前で急速停止、停止の反動で上に跳躍し、天井を蹴りぬくと紫電弾ける右腕を鞭の壁へ叩きつけた。
稲妻が轟く、デスロザリーの制空圏がボールのようにゆがみ、ヘッポコの右腕と共にはじけ飛んだ。
空中、鞭を弾いた衝撃で空中に留まるヘッポコへ向け、デスロザリーは手をかざす。
舞い散る花びら、放たれる赤の閃光に対し、ヘッポコは左手に持った呪物をかざした。
ヘッポコの手に握られた掌に収まるサイズの古びた木で縁取りされた鏡。
かつて邪宗教の中で反魔法勢力に大別された一派より押収したヘッポコの切り札の一つだった。
数百の命を血の池に変え、その水を吸わせて育てた樹木により製造されたそれは、あらゆる魔法効果を反射する性質を持つ対呪文特化の呪物となった。
魔法反射の防御呪文は存在するが、回復呪文や補助呪文も弾いてしまうその性質からヘッポコは使用を控えていた。
もし常時回復でなければ魔王戦はまともに戦うこともできず瞬殺で終っていただろう。
その点を補えるのがこの呪物だった。 この呪物の優れた点は反射する面が限られていることにあり。鏡の面に当たる部分の呪文のみを反射するその性質は、敵の攻撃を正面から受けるリスクが伴うが自身への呪文効果を失わずに済む恩恵は計り知れない。
果たして、呪物が砕け散る。
そして赤い閃光が反射された。
赤い花びらがヘッポコとデスロザリーの間で乱れ散る。 その花の噴火から弾かれるように吹き飛ぶ二人。
空中、ヘッポコは体のかじを取り踵から着地する。
床を削りながら後退したデスロザリーは、ヘッポコを睨んだ。 咄嗟に庇うように上げていた腕を下げる。
デスロザリーの体に付く擦り傷、ダメージ自体は大したことはない、少し掻き壊した程度のモノだろう。
しかし、ダメージが通った。
その事実だけで、ヘッポコには十分だった。
ヘッポコは口角を上げ、最後の攻撃を仕掛けるべく行動を開始した。 眼前、女型の魔王の防御について仮説ができた。
こちらの攻撃すべてをノーガードで受け止めた彼女。
彼女自身に傷一つつかないことから、こちらの攻撃は女型の魔王の表面を覆ったエネルギーに相殺されていると考えるのが自然であろう。
このエネルギーバリアは物理的なエネルギーだけでなく魔法も相殺する。
しかしここで疑問が生じる。
もし与えた力を相殺するバリアで全身を覆っているとするなら女型の魔王自身攻撃を行うことができないはずだった。
ここで考えられる仮説は2つ。
一つは攻撃の瞬間にバリアを解除している可能性、しかしそれにはとてつもない精度の魔力コントロールが必要であり、それほどの労力をこの虫けら相手に割くだろうかと疑問が残る。
試しに敵の攻撃に合わせたカウンター気味の雷撃呪文は放つが、しかし彼女には届かなかった。
現状オンオフの切り替えをしている可能性は低い。
となれば残る仮説は一つだった。
考えたくもない事だが、こちらならば前者ほどの労力を使わずに常時攻撃を無効にできる。
右手に渾身の魔力を込めた攻撃、それに対して女型の魔王が鞭で防御の姿勢をとった時に仮説の信頼度が増し、敵の攻撃の反射でダメージが通った瞬間、それは確信に変わった。
女型の魔王を覆うバリアは、ある一定以下の攻撃を無効にするのだと。
これならば常時発動することも可能だし、攻撃の場合はバリアを貫くレベルで放てば済む。
つまりこの事実はこちらの渾身の攻撃よりも、敵の何気ない攻撃の方が遥かに攻撃力が高いことを意味する。
まさに象と蟻だ、敵が余裕を崩さずわざわざいたぶる理由もこの圧倒的な力量差があってのことだろう。
しかし、この絶望的な力の差こそ、付け入る隙であるとヘッポコは思った。
げんにさっさと仕留めればいいモノを、目の前の女型の魔王はこちらの様子をうかがうばかりで仕掛ける様子がない。 これはこちらの手段をすべて潰して圧勝するという慢心に他ならないだろう。
つまり敵のバリアを貫くレベルの攻撃を放てば、今この油断しきっている現状であれば、まとめて殺しきれるかもしれない。
もはや力の差は歴然であり、果たして当初の予定であるすべての世界の人々の魔力を集めたところで戦いになるかどうかすら怪しい状況だった。
魔王達を滅ぼすチャンスは今しかないかもしれない。 ……女神教を棄教する際に発生するエネルギーを利用したある邪教の儀式がある。
教徒を拉致監禁し、拷問の果てに棄教を迫るその邪教は、今は勇者に滅ぼされ存在しないが、その過程でヘッポコはその概要を入手していた。
呪術を込めた特殊な魔方陣に跪かされた教徒は、その場で女神を罵る。
その過程と言葉の選択が絶妙であり、徐々に棄教へ向け進行する儀式に比例して魔方陣を通して魔力が周囲に溢れ出すのだ。
邪教徒達はその魔力を利用して呪具や呪詛を強化してゆく、最終的に放出される魔力量はその教徒の本来持つエネルギー量のおよそ100倍に相当した。
ここで一つの疑問が生じる。 この棄教により発生するこの魔力の出どころはどこなのだろうということだ。
単純に考えるならば、女神との繋がりを断つためにもエネルギーが必要であり、その余剰が溢れ出している。そして本人の持つ魔力量を遥かに超える魔力量であることから、つまりこのエネルギーには信者と繋がっている女神の魔力も含まれているのだろうと推察できた。
ヘッポコはこの方法に運命を感じた。
この邪法の優れた点は、棄教者の本来持つ魔力量に比例して放出量が増えるということと、完全に棄教しなくともエネルギーを徴収できる点だった。
他の信徒と繋がった今の自分のエネルギー量の100倍、それをすべて敵にぶつける事ができれば、目の前の敵達を一掃することも不可能ではないだろう。
呪文は発するためには棄教できない、しかし限界まで女神から魔力を吸い上げることはできる。
ヘッポコは右手の人差し指を左の手の平に押し付ける。
「……古より疑する女神に告げる――」
指から発せられる魔力が、左手の平に魔方陣を刻み付けた。
(……なに?)
目の前、虫の息のはずの勇者から発せられる圧にデスロザリーは目を細めた。
ほぼ死に体、最後と思わる渾身の攻撃も掠り傷をつける程度であり、逆転の根幹である秘蔵の呪具も一度反射であっさりと破壊された。
明らかな満身創痍、しかしそれでも、この勇者がまだ諦めていないどころか、次の手を打とうとしていることにデスロザリーは苛立った。
先ほどから後ろの魔王達がこの戦いに注目していることもその一因である。 みな勇者の戦いに立ち止るだけの価値を感じているということだ。 そしてその価値を生み出したのは外ならぬガルウィ自身であるという自覚が彼女にはあった。
こんなはずではなかった。とデスロザリーは思う。 ネオゾーマの評価を最大限に落とすために適当にいたぶって終わるはずだった。
しかしその油断や慢心すら目の前の勇者に利用されたような気がしてならない。
(いいでしょう、ならとことん付き合おうじゃない、そっちの心が折れるまでね)
目の前、何やらボソボソと呪文を詠唱する勇者を前に、デスロザリーは改めて余裕をもって倒すことを決意する。
本気を出さず、力もさして消費せず、その状態を維持することでしか面目を保てないのだ。
人間(家畜)を相手にするということはそういう事だった。 「ヘッポコキーック!!」
ズムッ
なんと、デスロザリーの腹に大穴が開いた。
「ぐはっ!ちくしょおぉーっ!」 ゴシャア!
ケンはルシールでデスロザリーの脳天を叩き潰した。 ヘッポコ「ケ、ケーン!生きとったんかワレ!?」
ケン「あったりめーよ」
ララ「ズガドーン!」
アナ「ウロタトモカーオ!」
ズドドドドズゴゴゴドドスコスコスコ!!!!
ヘッポコ「み、みんな!」 ……女神教を棄教する際に発生するエネルギーを利用したある邪教の儀式がある。
教徒を拉致監禁し、拷問の果てに棄教を迫るその邪教は、今は勇者に滅ぼされ存在しないが、その過程でヘッポコはその概要を入手していた。
呪術を込めた特殊な魔方陣に跪かされた教徒は、その場で女神を罵る。
その過程と言葉の選択が絶妙であり、徐々に棄教へ向け進行する儀式に比例して魔方陣を通して魔力が周囲に溢れ出すのだ。
邪教徒達はその魔力を利用して呪具や呪詛を強化してゆく、最終的に放出される魔力量はその教徒の本来持つエネルギー量のおよそ100倍に相当した。
ここで一つの疑問が生じる。 この棄教により発生するこの魔力の出どころはどこなのだろうということだ。
単純に考えるならば、女神との繋がりを断つためにもエネルギーが必要であり、その余剰が溢れ出している。そして本人の持つ魔力量を遥かに超える魔力量であることから、つまりこのエネルギーには信者と繋がっている女神の魔力も含まれているのだろうと推察できた。
ヘッポコはこの方法に運命を感じた。
この邪法の優れた点は、棄教者の本来持つ魔力量に比例して放出量が増えるということと、完全に棄教しなくともエネルギーを徴収できる点だった。
他の信徒と繋がった今の自分のエネルギー量の100倍、それをすべて敵にぶつける事ができれば、目の前の敵達を一掃することも不可能ではないだろう。
呪文は発するためには棄教できない、しかし限界まで女神から魔力を吸い上げることはできる。
ヘッポコは右手の人差し指を左の手の平に押し付ける。
「……古より疑する女神に告げる――」
指から発せられる魔力が、左手の平に魔方陣を刻み付けた。
(……なに?)
目の前、虫の息のはずの勇者から発せられる圧にデスロザリーは目を細めた。
ほぼ死に体、最後と思わる渾身の攻撃も掠り傷をつける程度であり、逆転の根幹である秘蔵の呪具も一度反射であっさりと破壊された。
明らかな満身創痍、しかしそれでも、この勇者がまだ諦めていないどころか、次の手を打とうとしていることにデスロザリーは苛立った。
先ほどから後ろの魔王達がこの戦いに注目していることもその一因である。 みな勇者の戦いに立ち止るだけの価値を感じているということだ。 そしてその価値を生み出したのは外ならぬガルウィ自身であるという自覚が彼女にはあった。
こんなはずではなかった。とデスロザリーは思う。 ネオゾーマの評価を最大限に落とすために適当にいたぶって終わるはずだった。
しかしその油断や慢心すら目の前の勇者に利用されたような気がしてならない。
(いいでしょう、ならとことん付き合おうじゃない、そっちの心が折れるまでね)
目の前、何やらボソボソと呪文を詠唱する勇者を前に、デスロザリーは改めて余裕をもって倒すことを決意する。
本気を出さず、力もさして消費せず、その状態を維持することでしか面目を保てないのだ。
人間(家畜)を相手にするということはそういう事だった。 ドラクエ2 〜旅立ち〜
それは、ある晴れた日の昼下がり。
ローレシアの若き王子・ヘッポコは、父王から銅の剣と50Gを渡され、突然城を放り出された。
なんだってこんなことになっちまったんだ…??
とりあえず、外へ出てみたものの、まだ何をどうして良いのか分からない。
ヘッポコは確かに腕に覚えがあった。わずか16歳という年齢でありながら、ローレシアの近衛兵達の誰よりも剣術に長けていた。
が、まさかたった一人で城を放り出される事になるとは……。 事の始まりは、はるか南西の国『ムーンブルク』からやって来たという傷ついた兵士の、不吉な報告だった。
ムーンブルク城が、大神官ハーゴン率いる魔物の軍団に攻め込まれ、陥落した、というのだ。
兵士は瀕死の身体をおしてローレシア王にその事を告げると、まもなく息を引き取った。
話を聞いた王は、すぐに王子のヘッポコを呼び出し、ハーゴンを倒せ、と命じた。
「行け、ヘッポコよ!」
王は妙にノリノリで言った。しわだらけの顔に珍しく赤みがさしている。
「……い、行けって……??」
ヘッポコは呆然としてつぶやいた。
「どうした?まさか、ロトの血を引くおまえが、おじけづいたとでも言うのか!?」
「あのな、親父! 敵は軍団なんだろ!? 俺1人で行ってどうすんだよ!? 殺す気か!?」
ヘッポコは正直びびっていた。
「ロトの勇者はかつてたった一人で竜王を倒したという…」
王は芝居がかった遠い目をしてつぶやいた。
「……あのな。そりゃ、伝説だろ!?」
「いや、この伝説は本当じゃぞ!!」
ロトの血が騒いでいるらしい。王はどこまでもハイテンションだった。
「わしが、もう少し若けりゃ、一緒にいってやるんじゃがなぁ…」
王はそう言って、ひと振りの『銅の剣』を取り出した。
そしておもむろに「むんっ」と言って構えて見せる。…と同時にぐきりと嫌な音がした。
「や、止めとけよっ! 歳なんだからっ」
ヘッポコが慌てて王の手から銅の剣を奪うと、王はヨロヨロと玉座に腰かけた。
ローレシア王はすでに60を超えようという年齢だった。
ヘッポコは歳とってから産まれたたった一人の世継ぎで、今までさんざん可愛がられて育ったのだ。
その大事なヘッポコを、危険なハーゴン征伐の旅へ出そうというのだから、王にもそれなりの覚悟があるはずだった。
――しょうがねぇっ
ヘッポコは覚悟を決めて叫んだ。
「……わかったよ! 行ってやるよ!」
「おお! そうか! 行ってくれるか! それでこそ我が息子じゃ!」
王は目を輝かせて、満足そうに笑った。
そんなわけでヘッポコは王子育ちにもかかわらず、たった一人で旅立つことになってしまった。 そういや、親父のやつ、仲間を探せって言ってたな……。
サマルトリアの王子――同じロトの血筋の隣国の王子ということで、聞いたことはあるが、面識は無い。
ムーンブルクの王女――ムーンブルクは滅ぼされたらしい。生きているのかさえも分からない。が、王女はそれはそれは美しいという評判だった。
ムーンブルクの王女か…。たしか、バッタペっていったっけ? 美しいってのは本当だろうな……?
……しょうがねぇ、とりあえず、行くか! ……まずはサマルトリアからだ!! 「まだホリエモ王子と会えぬのか?ここには戻っていないぞよ」
……あぁっ!?? 「ぞよ」じゃねーよっ、「ぞよ」じゃっっ! てめーの息子だろーがっ!! 出しやがれっ!!!
なんとものんびりとした口調のサマルトリア王の言葉に、ヘッポコは危うく立ち上がって王を怒鳴りつけそうになった。それでも何とか飲み込んで、必死にひざまずいた姿勢を保つ。
ヘッポコがローレシアを旅立ってから、すでに半月が過ぎようとしていた。
王子育ちのヘッポコだったが、やってみれば野宿も意外に平気なものだった。おそらく本人の資質によるものだろう。
モンスターも、この辺りはヘッポコの相手になるような手ごわい奴は居らず、旅は順調かと思われた。
……が。
ホリエモのやろう……!!!
まだ見た事もない隣国の王子に対して、ヘッポコは苛立ちを募らせていた。 ヘッポコはホリエモを犯したくて犯したくて頭がおかしくなりそうでした。
「ああ〜ホリエモ〜犯してえなぁ〜」 ローレシアを旅立ってから、ヘッポコはまず最初にサマルトリア城へ向かった。
そこで、ホリエモ王子に出会う予定だった。……が、そこに王子の姿は無かった。
…しかたなく、
「わしの息子ホリエモ王子もすでに旅立ち、今頃は『勇者の泉』のはずじゃ」
と言う、サマルトリア王の言葉に従い、勇者の泉の湧く洞窟へと向かったのだった。
お互い、ヘンな血筋に生まれちまって大変だよなぁ……。
この時は、自分と同じ境遇のサマルトリアの王子に対して、同情すら覚えていた。
しかし。
勇者の泉へ着いてみると、そこにもホリエモ王子の姿は無かった。
泉を守る老人が一人、ヘッポコを出迎え、
「一足違いであった。ホリエモ王子は今頃ローレシアのお城に向かっているはず」
と言うのだ。洞窟では苦労して最奥へたどり着いただけに、かなりショックだった。
むこうも、俺を探してんのか……! ちっ!
ヘッポコは大急ぎでローレシアに取って返した。
しかし。
「おおヘッポコ! さっきまでサマルトリアの王子が来ていたのじゃぞ! おまえを探して、サマルトリアへ戻ってしまったところじゃ! ささ、早く追いかけるのじゃ!」
んなにぃーーーっ!!
ヘッポコはいいかげん腹が立ってきた。この時点で、ローレシアを旅立ってから既に10日が経過していた。
こんなことなら、最初っからローレシアで待ってりゃ良かったじゃねぇかっっ…!!
ヘッポコは城の者への挨拶もろくにせず、再びサマルトリア城へと取って返したのだ。…そして冒頭へ戻る。 ――あーっ、ちくしょう!!
サマルトリア王の御前から下がると、ヘッポコはぶらぶらと城内を散策しはじめた。
もう急ぐのがバカらしかった。
ホリエモも、ここへ戻って来るかもしれねぇしな。
ブツクサ言いながら歩いていると、後ろ方向、回廊の柱の陰に、人の気配を感じた。
ヘッポコが歩くと、その気配は次の柱、また次の柱へと、隠れながらついてくる。こちらの様子を覗っているようだ。
ヘッポコは曲がり角へさしかかると、曲がりきったところで立ち止まり、その気配を待ち伏せた。
――どすんっ!!
待ち伏せられていることに全く気づかなかったその人物は、真正面からヘッポコにぶつかり、尻餅をついた。
「いったぁ〜い!!」
白いドレスに身を包み、サラサラの茶色の髪を腰までのばした、愛らしい少女が痛そうにお尻をさすっていた。歳は12、3というところか。
「もぉ〜う!急に止まらないでよっ!」
少女は大きな瞳を吊り上げて、可愛いらしい声で抗議した。
ヘッポコは一瞬、少女に見とれてしまった。
「あのな。お、おまえがついて来るからだろ? ……なんの用だよ」
少女は自分の尾行がバレバレだった事を知ると、むぅっと口をとがらせて立ちあがった。
「あなた、ローレシアのヘッポコ王子なんでしょ?」
「……良く、分かったな」
半月も旅して、ヘッポコの格好は既にボロボロだった。もともと旅装束だったとはいえ、とても王子には見えないだろう。
そこへ、回廊をバタバタと走る足音がして、兵士らしい男がやって来た。
「ピンチ姫! こんなところで、なにをなさっておいでです! ……そんな得体の知れない男と口をきいて!!」
男は少女とヘッポコの間に割って入り、ヘッポコをにらみつけた。
「……あ!?」
ヘッポコはそんな無礼な口をきかれたのは初めての経験で、一瞬言葉を返すのが遅れてしまった。慌てて先に、ピンチ姫が口を挟んだ。
「ちょっと! この人、ローレシアの王子なのよ! だめよ! そんなこと言っちゃ」
「え!? 王子…!?」
兵士はじろじろと上から下までヘッポコを見た。すると、急に慌てた様子になって、
「これは、失礼いたしました…!」
と頭を下げた。
(……俺のどこかに、王子らしい所、残ってたか?)
ヘッポコは満足げな顔でうなずいて、兵士を下がらせた。そして、ヘッポコの考えを見透かしたかのように、
「やっぱり、顔じゃないかしら」
と言って、いたずらっぽく笑った。 ヘッポコは王子にいたずらをした。
「あ〜気持ちええ」 しかし、まだ王子に会っていなかった。
ヘッポコ「あー変な夢だった」 泉ピンチ「まさに、前門のTENGA、肛門のディルドって事ね」
ヘッポコ「意味わからん」 「あのね、あたしも連れて行って欲しいの」
ピンチ姫は真剣な面持ちでヘッポコに言った。
「…はぁ?」
「だって、お兄ちゃん、心配なんだもの…」
ピンチ姫はヘッポコの手を取らんばかりだ。
「…ダメだ」
「えぇ〜! どうしてよっ。あたしだって、ロトの血を引いてるのよっ。お兄ちゃんより役に立つんだから!」
「…って言ったって、おまえ、いくつなんだよ…?」
言いながら、妹にここまで言われるホリエモ王子に、ヘッポコは不安を覚え始めた。
「…11」
がくり。ヘッポコは思わず肩を落とした。
「ダメだ、ダメだ!」
「なぁ〜んでよぉぅ!!」
「だっからよぉ〜」
…………。
一時間後。一歩も引かないピンチ姫の説得に失敗したヘッポコは、ホリエモ王子の許しが出れば連れて行く、と約束させられてしまった。 子供達は物語が終わってから次々に言った。
「なにこれ?つまんなかった」
「バカじゃない」
「あーやっと終わったわ」
「時間を無駄にしたわ」 「勝手にスレを乗っとってんじゃねえ!この腐れヘッポコヲタが!!!」
ドクアッッッシュッッッ!!!!
ヘッポコ(笑)ヲタ「ウギャァァァァァァ!!!
!!!!!」
こうして腐れヘッポコ(笑)ヲタは正義の鉄槌によって処刑されたのであった ヘッポコは岩に突き刺さった勇者の剣を見つけた。
「ふんっ!」
そして思いっきり力を入れて剣を引き抜こうとした。
しかし、剣は抜けなかった。 という夢をへっぽこは見ていた。
自分が滅んでいて、未来永劫目覚めることがないことを知らずに。
fin 護人「お前の父、ハッケヨイも勇者の剣を引き抜くことは出来なかった」 「勝手にスレを乗っとってんじゃねえ!この腐れヘッポコヲタが!!!」
ドクアッッッシュッッッ!!!!
ヘッポコ(笑)ヲタ「ウギャァァァァァァ!!!
!!!!!」
こうして腐れヘッポコ(笑)ヲタは正義の鉄槌によって処刑されたのであった
〜おしまい〜 ヘッポコは再び岩に突き刺さった勇者の剣を見つけた。
「ふんっ!」
そして思いっきり力を入れて剣を引き抜こうとした。
すると、剣はスルスルと抜けた。 「勝手にスレを乗っとってんじゃねえ!この腐れヘッポコヲタが!!!」
ドクアッッッシュッッッ!!!!
ヘッポコ(笑)ヲタ「ウギャァァァァァァ!!!
!!!!!」
こうして腐れヘッポコ(笑)ヲタは正義の鉄槌によって処刑されたのであった
〜おしまい〜 ヘッポコは唖然とした。
剣はつかの先からが錆びて崩れさっていたのだ。
ヘッポコ「軽いわけだ・・・」
ヘッポコは絶望して心を病み、引きこもって余生を過ごした。
END ヘッポコは近くの洞窟で岩に突き刺さった勇者の剣を見つけた。
「ふんっ!」
そして思いっきり力を入れて剣を引き抜こうとした。
すると、剣はスルスルと抜けた! 剣はヌルヌルと抜けた。
ヘッポコは気持ちよくなり
剣の出し入れを繰り返した。
ヘッポコは猿のように生涯を剣の出し入れに費やした。
END いや、ラッパは錆びていて音は鳴らないので音は聞こえなかった。 耳をすませば
聴こえる
プォーッ
ヘッポコ「屁した?」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています