僕らは愛とエゴがなければ生きて行けない
ファンタジー恋愛小説です。
行き当たりばったりの思いつきで書いて行きます。
荒らし以外なら何でも飛び入り書き込み大歓迎です。
舞台は架空の多民族国家アルティフィカの首都「ゴッタ・シティ」。
主人公は4人。
・愛田谷 善三(アイタガヤ ゼンゾー)
26歳。落ちこぼれ刑事。警察犬並みの嗅覚を持つ。嗅覚が貴重なためクビにされないが、仕事をすぐにサボる。
女の子にはまったくモテないが、動物にはやたらと好かれる。身長164cm。
・ロイ
銀色の髪をした美しい青年。実は人間ではなく、アニメールという人間の姿をした狼系の動物。そのため運動能力が人間離れしており、喋り方が幼い。
アニメールは野生の王国「ネイトス」にのみ生息し、その地を離れると老化が急速に早まる。それを抑えるためにロイは人間の血を必要とする。
性格は自由気ままで甘えっ子の猫系。それでいて主人に忠義を尽くすところは犬っぽい。見た目は23歳ぐらいの87歳。身長178cm。
・双葉 結(フタバ ユイ)
25歳の女性。ゴッタ・シティで銀行勤めをしている。マルチーズ犬のチョチョと二人暮らし。平凡。
性格はお人好し。困っている人を見ると放っておけない。好きなタイプは頼りがいのある男らしい人。身長153cm。
・エミリィ・ホン
19歳のハーフの女子大生。八頭身のモデル体型だが背は高くない。そのルックスから非常にモテるが、本当の愛を探し求めている。
性格は高飛車。それでいて優しく面倒見がいい面も。どちらかというとダメ男が好き。ただしデブはNG。身長158cm。 アパートの部屋の前で鍵を探している間からドアの向こうでチョチョが騒いでいた。
しかしいつもと声が違う。いつもの嬉しくてたまらない鳴き方ではなく、怒っているような鳴き方だ。
「そいつを部屋に入れるな」と、まるで警告しているようだった。
「入って」
ユイがそう言うと青年は、まるで自分の部屋に帰ったかのように嬉しそうに入った。
「ちょーっ!」ユイが叫ぶ。何事かと青年が振り返る。「靴は脱いで入って!」
あぁ、そうなんだと青年はもどかしそうに靴を脱いだ。
低い柵をしている向こうからチョチョが低く唸り、激しく吠えている。
青年は近づくと、柵の上から「ガウ!」とふざけるように威嚇する声を出した。
するとチョチョは震え上がり、ぎこちなくその場で回りはじめたかと思うと、ごろんとピンクのお腹を見せて床に転がってしまった。
「犬のなつかせ方、上手なのね」
ユイがそう言うと青年はにかっと笑った。
あまり喋らない子だった。それが余計に可愛らしさをブーストさせていた。
「ご飯、食べるかい?」
ユイの喋り方がだんだんお母さんのようになって来た。
青年は「ご飯」と聞くなり銀色の髪を2ヶ所ピンと立て、嬉しそうな笑顔を爆発させた。
「あぁ……でも……」ユイは青年の姿を改めて眺めると、言った。「おふろが先か」 チョチョがお座りをして警備をする曇りガラスの向こうで、ユイと青年の声が響く。
「んふふ、大人しくしなさい」
「あっ、やだ、そんなところ……」
ユイは青年にシャワーを浴びせながら、銀色の髪をワシャワシャと洗っていた。
シャンプーをすべて濯ぎ落とすと、青年は止めていた息をようやく再開し、「あー」と子供みたいな声を出した。
「うわぁ、綺麗になった……っていうかアナタの髪、ホント綺麗だね」
見とれるユイに次の瞬間、悲劇が襲いかかった。青年が頭を物凄い勢いでぶるるっと震わせ、びしょ濡れになったのだ。
「ゆ、油断した」ユイは目と口を力を込めて閉じながら、言った。「でも全部脱いでて助かった」
二人は全裸で浴槽に入ると、ユイが青年の背中を撫でた。
「あなたの名前、何にしようかなぁ」
名前をつける気マンマンの彼女に、背を向けたまま青年が言った。
「ロイだよ」
「えっ?」
「名前。ロイって呼んでね」
「あっ……あぁ、そうか」
ようやく我に返った。そうだ、この子は人間なんだ。なぜか動物を拾ったみたいな感覚になっていた。
というか、自分とそう歳の変わらなさそうな男の子、というよりも、男の人なのだ。
あれっ? 自分、今、物凄いことをしているんじゃ……
そう思った時、ロイが振り返り、青碧の瞳で切なさそうに見つめて来た。
「おねーさんの名前は?」
「あ、ゆ、ユイ。双葉 結だよ」
「ユイ……」
「……え」
「おしっこ」
「え?」
「おしっこ出ちゃうよ! ここでしてい?」
「ままま待て待て待て!」
ユイは急いでロイをトイレへ連れて行った。
「待てっ!」
「出る」
「まだっ!」 浴室の前に立たせてバスタオルで拭く時に初めて気がついた。ロイは結構背が高い。なぜかチョチョと同じぐらいの印象だった。
入口の段差に立って背伸びをしてようやく髪の毛を拭いた。華奢な胸、子供みたいなお腹、股間にぶら下がった立派なソーセージも拭き、爪先まで拭き終わると、さて何を着せようと悩んだ。
女の独り暮らしで、180cmぐらいある男の子に合う服などあるわけがない。脱がせたシャツもジーンズも薄汚れていて、再び着せたくはなかった。
「あっ。あれがあったな」
ユイはそう言うと終わったばかりの夏物をほじくり返した。ミニヨンの大きな絵の入った男物のトランクスを取り出す。
「夏の部屋着といえばコレなんだよね〜。持っててよかった」
穿かせてやると、ロイはいたく気に入ったようで、直接眺めたり姿見に写したりしながらはしゃいだ。
可愛い子犬、拾っちゃったな。ユイは笑顔で見守った。 「さぁ、ご飯にしよっか」
ユイの言葉にロイの顔がぱぁっと輝いた。
ユイが袋からコンビニ弁当を2つ取り出すと、ちょっと項垂れた。しかし文句は言わずに食べはじめる。箸の使い方がまったくなっていないのでフォーク付きスプーンを出してやった。
「家出?」とユイが聞いた。
「イエデ?」とロイは聞き返した。
面倒臭いのでほっといた。
チョチョはユイの周りをウロチョロし、ロイの側には決して近づかなかった。
ロイも興味がないようで、一瞥もせずに弁当をパクパク食べていた。「みずー」と言って立ち上がると、チョチョが低く唸った。
「お茶があるでしょホラ」とユイがペットボトルを差し出してもロイは「みずがいい」と言って聞かなかった。
しかし蛇口をひねって出て来た水を一口飲むと顔を不味そうにしかめ、戻って来ると大人しくお茶を飲んだ。
食事が済むとユイはロイを可愛がった。
口の周りを拭いてやり、爪を切り、頭にブラシをかけてやった。
歯ブラシの使い方を知らなかったので、トラベル用の歯ブラシで磨いてやった。ロイはすべて大人しくされるがままになっていた。
あとは寝るだけの状態になり、ユイがベッドに寝転んで雑誌を読んでいると、そこへロイが覆い被さって来た。
さすがにドギマギして「何よ」と言いながら睨むと、ロイが言った。
「ねぇ、僕、君が食べたい」
「ダメよ。大人しくネンネなさい」
しかしそんな命令など軽く無視して抱きついて来た。
「あ」ユイが甘い息を吐き、思わず声を出してしまう。
その首筋にロイは牙を立てると、音を出して吸い付いた。 ちゅーちゅーと音を立てて首筋を吸われながら、ユイは痺れるような快感に身を任せた。
「ロイ……凄い……」
ユイは吸われながら腰が勝手に動いてしまった。
しかしこんな破廉恥な展開になる予想はまったくしていなかった。男を部屋に連れ込んでおいてこんな言い訳は出来ないかもしれないが、本当に「そんなつもりはなかった」。
「もぉっ、ダメよっ!」
そう言って笑顔で引き離したロイは恍惚の表情を浮かべていた。その口の端から真っ赤なものが滴った。
自分の首筋に手を当て、その手を見る。掌の真ん中にちょんと血がついている。
「あんた……吸血鬼なの?」ユイに嫌悪感はなく、ただびっくりしてそう聞いた。
ロイはそれには答えず、無邪気な目をして首を捻り、「ダメ?」と聞いた。
「うーん」ユイは暫く考え込むと、言った。「ロイならいっかぁ」 愛田谷 善三はウトウトと眠っていた。
暑すぎて1日中クーラーの効いた部屋で眠っていたい季節がようやく終わり、過ごしやすさに1日中眠っていたくなる季節がやって来ていた。
場所は警察本部の捜査会議室。会議の真っ最中である。いつものことなので彼を起こす者は誰もいない。愛田谷は夢の中で刑事部長の話を聞いていた。
「……であり、……は」
ムニャムニャ。
「……と思われる。……の現場は」
ムニャムニャ。
「……と、いうわけで愛田谷刑事の出番だ」
ムニャムニャ。
「愛田谷刑事」
もう食べれないッス。
「アイタガヤァーっ!」
部長に名前を叫ばれ、寝ぼけた顔を上げ、急いで立ち上がる。
「はいっ、先生!」
「先生じゃねーから」
「聞いてませんでした!」
「ドヤ顔で言うことじゃねーから」
疲れたように失笑する他の刑事達の呆れた視線を浴びながら、愛田谷は自分が名前を呼ばれた理由だけはしっかりとわかっていた。
「俺の鼻が必要な事件なんですね?」 それは連続女性殺人事件と名付けられていた。犯人の手掛かりはまったくなかったが、手口と何よりも遺体の有り様が同じだった。
4人目の被害者が出た。愛田谷は初めてその現場に赴くよう命令を受けた。
「はいはい退いてくださいよ」と言いながら現場へ入って行く先輩刑事の後をついて部屋に入ると、なぜか懐かしい匂いがした。
被害者はリビングルームのセンターラグの上で仰向けになって息絶えていた。その姿を見るなり先輩刑事が言った。
「うん、間違いなくヤツの仕業だな」
「嫌だなぁ、見たくねぇなぁ」愛田谷が顔を背けている。「どうせグロいやつでしょ? 今夜の飯がまずくなる」
「とりあえず、まぁ、嗅げや」
先輩刑事にぐいと背中を押され、死体を直視してしまった。 「……何だこれは」
愛田谷は思わず愕然とした。
目の前の死体はあまりにも美しかった。
被害者の34歳女性は胸の前で手を組み、幸せそうな笑みを浮かべ、安らかに瞼を閉じて死んでいた。
その腹部には獣が食べたような穴が空き、醜い内臓がすべて綺麗に抜き取られ、そこからまるで花のように血の痕が50cm四方に開いていた。
「……しかしこの匂いは……覚えがある」
愛田谷は独り言のようにぶつぶつと呟いた。
「この匂いは……!」 だがその臭さは不快な臭さではなく、納豆の臭いに我々日本人がウットリとなるような味わい深い臭さなのである
(ゼーレン・キルケゴール) TVのニュースが事件を報せていた。
通常なら連続殺人事件としてだけ報道され、どんな殺され方をしていたかなど伝えない。
しかしその異常性を伝えるためなのか、綺麗に被害者の内臓がなくなっていたことまでニュースは報道した。
「怖いねぇ」ユイはTVを見ながら呟いた。「これ結構近くだよ」
カレーせんべいを旨そうにパクパク食べていたロイは、そこで初めてTVのほうを見た。
「あー、これ、やったの僕だよ」
「へぇ、そうなのかぁ」
ニュースが終わるとTVは天気予報を映し出した。明日は久しぶりに晴れるらしい。ロイとチョチョを連れてどこへ遊びに行こうかな。ユイはわくわくしていた。 愛川欽也「なるほど・ザ・ワールド!春の祭典スペシャル!」
町田結「警部、これを見てください」
愛川欽也「いや、今は忙しいんだよ。後にしてくれ」
町田結「わかりました」
そう言うと町田はパチンコ屋に入っていった。
遠藤ホン「キンさん、ちょっといいかい?」
愛川欽也「ダメだダメだダメ!消え失せろよ、私の前からさ」
遠藤ホン「わっかりました…」
ロイ・キーン「愛川さ…」
愛川欽也「殺すぞ!」
ロイ・キーン「ソ、ソーリー」
しばらすると、愛川欽也は『割烹きんたま』に電話を掛けた。
トゥルルルルルル…トゥルルルル
アンディ「トゥルルルルルル…」
愛川欽也「お前かい!」 愛川欽也「おまっとさんでした」
きんたま大将「いらっしゃい、ずいぶん早く来られたんですね」
愛川欽也「腹へって死にそうだよ」
きんたま大将「そうは言っても、六時間も早く来られちゃ何も用意できてないよ」
愛川欽也「何だとコラ?」 ズガーン
きんたま大将「ぎゃあ!」
愛川欽也「はい消えた」
愛川警部はリボルバーで大将を撃ち殺した。
ロイ・キーン「ワッツハプン!?」
愛川警部「五月蝿いよ、何でもないって。」
ロイ・キーン「オ、オーケー」
そう言うとロイはダーツバーに入っていった。
愛川欽也「しかし、腹減ったな」
菅原文「おう、愛川ァ。久しぶりじゃのう」
愛川欽也「ぶ、文ちゃん?」
菅原文「ちょっと時間あるか?見せたいもんがあるんじゃ」
愛川欽也「ダメだダメだ、今度にしておくれよ」
菅原文「いーや、見てもらうぞ」 愛川欽也「なんだいコレ…デコ宇宙船?」
菅原文「そうじゃ」
愛川欽也「文ちゃん、あんたまだ免停中じゃないの?」
菅原文「ああ、今日までじゃ…」
愛川欽也「今日までって、明日になれば解けるのに…」
菅原文「今日でなきゃ、できない事もあるんじゃ…」
愛川欽也「そんなに急いで何処行くのよ?」
菅原文「月じゃ」
愛川欽也「何で月なんか行くんだよ」
ロイ・キーン「ワタシ、シッテルネ!」
愛川欽也「黙れ、あっち行ってろ!」
しかし、ロイ・キーンは黙らなかった。
ロイ・キーン「トルコ風呂デショ?TVデ見タヨ」
菅原文「そうじゃ、今日オープンするらしいん
でのう、一番風呂に入ろうと思ってな」
愛川欽也「楽しくなければトルコじゃない」
菅原文「そういう事じゃけん、今から行かんか?」
愛川欽也「うん、行かない」
菅原文「おどりゃ、川崎の家も売っちまうぞ!」
愛川欽也「ありゃ借家だよ!」 ユイは高速道路のサービスエリアに車を停め、網で囲まれたドッグ・ランのスペースにチョチョとロイを放った。
青空の下でようやく2匹は仲良くなってくれようだ。
チョチョが楽しそうに吠えながら、振り返りながらツンツンと脚を伸ばして駆けて行く。
その後からロイがこれまた楽しそうについて行き、チョチョを追い越してふざけて噛みつく真似をした。
チョチョはダッシュでUターンしたが、いとも容易くロイがまたその前へ回る。
ユイはニコニコしながら可愛い2匹のじゃれ合いを眺めていたが、もちろん内心では気づいていた。
ロイ……速すぎない?
……4本足でめっちゃ速く走ってる……。 帰りには焼肉の店へ寄った。チョチョは車の中でお留守番である。お土産に生肉を持って来るからねと二人は店に入った。
「本当にお肉大好きだね……」
とんでもないほどの食欲を発揮するロイを呆れたように眺めながら、ユイは思わず言った。
「それもホルモンばっかり……」
「ないぞー大好き!」
ロイは子供みたいな笑顔を上げて言うと、またホルモンを軽く焼いただけで取り、口に入れた。
「たまらーん!」
「いいけどちゃんと焼きなよ?」
ユイはせっかく注文した特上ロースやカルビをほとんど一人で片付ける羽目ににった。
「ま、あたしもこっちのが好きだから、いいけど」 部屋に帰ると3匹でお風呂に入った。
「チョチョ、おふろ好き?」とロイが聞くと、チョチョは「好きじゃないわい」と言いながらユイにされるかままになっていた。
ベッドにユイが寝転ぶと、まず先住犬のチョチョが顔の前を占領し、次いで下っ端のロイが背中から腕を回した。
「ロイ」ちょっと振り向いてユイが言った。
「ん?」
「キスしてもいい?」
「いいよー。俺からするー」
そう言うとロイは後ろからぐいと振り向かせ、唇にチュッとキスをした。
チョチョが焼き餅を焼くようにユイにすり寄る。
「はいはいチョチョも大好きよ〜」
そう言いながらチョチョにもキスをするユイのお腹を触りながら、ロイが聞いた。
「ユイ」
「ん?」
「ユイの内臓も食べてい?」 ロイはそう言ってユイのお腹に口を当てると、ガウガウとふざけた声を出して頬を埋めた。 ジョキン
愛川欽也はロイ・ヤルホストの首を枝切りバサミで切り落とした
「はい、消えた」 愛田谷は自宅へ帰って来た。アパートではない。借家でもない。その界隈で最も広大な敷地を持つ古い屋敷にたった二人で住んでいる。
愛田谷が玄関を入り、長い廊下に並ぶ最初の扉に入ると、低い電気のハムノイズが部屋に漂っていた。
「あっ! やめろっ! スティー……」
だだっ広い部屋の向こうの壁際にエレキギターを抱えた長髪の男が立っており、愛田谷の制止に構わず右腕を振り下ろした。
爆音が部屋中に轟き、愛田谷は吹っ飛んだ。
「あっ、お帰り、アイタガヤ」
男は気づき、すぐに手を止めた。
「お前……スティーブ……俺を殺す気か」
「わっ。それ、面白いね。爆音で人は殺せるのか? 実験してみよう」
愛田谷は急いでアンプのコンセントを抜いた。
この男の名前はスティーブ・スーパーライト。愛田谷の屋敷に間借りしている居候である。ロックミュージシャンを志望しているが、もう41歳だ。
「窓からアイタガヤが帰って来るのを見てたんだ」
スティーブは言った。
「なんだか元気なさそうだったから、爆音で迎えて元気出して貰おうと思ってさ」
「いらんわ! 近所迷惑だろうが!」
「これだけ広い家でもやっぱり迷惑かな」
「ドーム球場でもホームからバックスクリーンまで届くわ!」
「ごめんねっ」そう言ってスティーブは大声で笑った。 だだっ広い食堂の12人掛けのテーブルで、二人は一つ席を置いて食事をした。
「でもアイタガヤ、本当に元気ないね」
スティーブがチーズバーガーを食べながら言った。
「いっつも元気ないだろ」
愛田谷はコンビニ弁当を食べながら答える。
「そうだけど……特別元気ないよ。どうしたの?」
「いいけど食事の時ぐらいサングラス外せ」
「これはポリシーだよ! ほっといてよ!」
「……ロイの匂いがこの町に現れたんだ」
「ロイって、アイタガヤがいつも話してる……あの?」
「あぁ」
「遠い国にいるはずじゃない! どうして?」
「俺にもわからん……。俺を追って来たのかもな」
「でもそれなら……」スティーブはコーラを口にしながら言う。「嬉しいはずじゃない? なんで元気ないの」
「どうやら」愛田谷は箸を止めた。「人を殺しているらしいんだ」
「え。なんで?」
「わからん……」
そう言うと愛田谷は無理やり元気を出そうとするように再び箸を動かし始めた。暫く食べ物を食べる音だけが広い食堂に響いた。
「ねぇ」スティーブが言った。「その人のこと、もっと詳しく聞かせてよ」
「長い話になる」愛田谷は答えた。「メシが済んだら酒でも飲みながら聞いてくれるか」 愛田谷 希郎という怪人がいた。7年前に亡くなっているが。彼はおよそ150年生きたと言われている。
希郎はまだ多民族国家アルティフィカの建国前に、東の島国エドゥに貿易商人の息子として生まれた。 エドゥ国が滅びる前年、希郎は貿易船で航海中に遭難し、仲間11人とともに見知らぬ大地に漂着した。
そこは巨大なシダ類の葉が大地を覆い、人間の匂いの全くせぬ未開の大陸だった。 「ここはネイトスではないのか」
乗組員の一人がそう言った。
その存在を広く知られながら、誰も開拓しようとは思わぬ自然の大陸。
気候は一年を通して温暖な地域が多く、豊潤に果物が成り繁る肥沃な大地、各地に眠っているであろうと言われる豊富な資源。
遠い未来に人類は資源を求めてこの地にもやって来るであろう。しかし今は誰も見向きもしない。
それには理由があった。 ネイトスについての噂は知っていながら乗組員達は水と食料を求めて上陸した。
すぐに飲める水の湧いている泉が見つかり、噂通りに果物は豊富に生っていた。
潮溜まりには名前はわからないが焼いて食べるととても美味しい魚がいくらでもいて、釣りや狩りをする必要もなかった。
一同は異国へ運ぶ品物を失い、これからどうすべきかを話し合った。しかしここが本当にネイトスならば沖を通りかかる船などあるわけもなく、状況は絶望的だった。
諦めることなく救助を待ち続けるか、この地に住み着くか、あるいは船を手作りして無謀な航海に出るか、それしか選択肢はなかった。
しかし彼ら自身で作れる船など筏に毛が生えた程度のものしか望めず、住み着くにしても彼らは全員が男であったので、年老いて死ぬのを待つだけの選択であった。
そこで希望の火を消さずに救助を待つことを選択したのだが、希望の火はあまりにも儚く消えた。 最初に命を落としたのは船長であった。53歳になる彼は、ある夜、気が狂ったように突然わけのわからないことを叫び出すと、そのまま断崖絶壁から身を投げた。
次いで35歳の船員が、サンドイッチとコーヒーが欲しいと繰り返し呟きながら、岩に自分の頭が割れるまで頭突きを繰り返し、血塗れになって死んだ。
他の仲間も漂着してわずか三日の間に全員が発狂し、自殺した。
四日目になっても残っていたのは希郎と19歳の裕介という船員ただ二人だけであった。 「噂は真だったのだな」
希郎は焚き火で橙色に染まりながら、そう言った。
「次は俺か、それともお前か」
「大丈夫ですよ。助かります」
裕介は笑顔でそう言ったが、不安で笑顔は固まっていた。
乗組員のムードメーカーであった裕介はどんな時でも明るく、笑顔でいなければならない使命感だけで立っているように希郎には見えた。
「信じましょう、明るい未来を。助けはきっと、来ます」
希郎は夜の海を眺めた。真っ暗闇の世界に月はなく、波が浮かべる光さえなく、自分達だけがこの世に浮かび上がっているような気がした。 次の日、希郎が薪を集めて林の中を歩いていると、誰かの視線を感じた。
しかも一人や二人ではない。周囲を窺うと、確かに何かに取り囲まれていた。
戦闘員ではない希郎は震え上がり、叫んだ。
「こっ、怖くないぞ! 出て来てみろ! 俺は武器を持っているぞ!」
腰が引けた動きで手に持った木の棒を構えると、視線の主が一匹だけ姿を現した。
いや、一匹ではなかった。それは一人の人間だった。
「ひ、人がいたのか!」
希郎は木の棒を下げ、戦意のないことを示した。
しかし相手はそんなことはどうでもいいように近づいて来た。
白い髭の老人で、二本足で歩きながら両手を地面につける、猿のような歩き方だった。 老人は全裸だった。しかし陰部や背中には真っ白な毛が生えており、希郎はどんな印象よりも『美しい』という印象を持った。
希郎に触れるぐらいの側まで近づいて来ると、老人は濡れた鼻で胸のあたりの匂いを嗅いだ。
希郎の体はこわばっていたが、不思議と危害を与えられることはないとわかっていた。
老人が甲高く吠えるような声を出し、林のほうへ振り向いた。
するとぞろぞろと、同じように全裸で頭部と背中と陰部にのみ毛を持つ人達が姿を現した。
皆美しく、その美しさは俳優や女優のような美しさではなく、土に汚れた野生動物のような美しさであった。
数えると17人いて、その中には女もいた。
「原住民……なのか」
希郎はさらに敵意のないことを示すため、老人に握手を求めたが、差し出したその手を老人は猫のようにスンスンと嗅いだ。 老人達は希郎を振り返り振り返りしながら歩き出した。
祐介のことが気になったが、とりあえず希郎は後をついて行った。どう見ても彼らが導いてくれていたので。
波の音が遠くなり、獣道は暗い森を抜けて行った。 希郎は集落があるものと期待していた。
しかし案内されるがままに辿り着いたそこには何もなかった。
いや、正しくは開けた野原があり、雨風をしのげる洞穴があった。
だが希郎が期待していた家屋や食卓や布団といった文明的なものは何もなかった。
畑や井戸さえもなく、彼らは火の起こし方も知らないようだった。
老人は希郎を案内し終えると、地べたに座り込み、後ろ足で耳をボリボリと音を立てて掻き始めた。 「あっ、希郎さん」
林の中から同じく彼らに案内されて出て来た祐介が声を上げた。
「おお、君も案内されて来たのか」
呼びに戻る手間が省け、希郎は大いに喜んだ。
「びっくりしましたよ。人がいたなんて」
「しかし、相当原始的だぞ、これは」
希郎は並んで自分達を見つめる彼らを眺めながら言った。男も女も、老いも若きも皆裸で、頭と陰部だけに白い毛が生えている。
「でも、女の子がいますよ」祐介が滅茶苦茶嬉しそうに言った。「しかも可愛い」
「とりあえず」希郎は無視して言った。「彼らに火の起こし方を教えてみよう」 背負っていた薪を下ろし、持っていたマッチと紙を使って火を点けて見せると、彼らは激しく動揺した。
しかし攻撃的な様子を見せたわけではなく、むしろ皆が怖がって泣きそうな顔になった。
「大丈夫ですよ」
希郎は安心させようと笑った。
そして祐介が獲って来ていたウサギの肉を焼いた。一所に集められたウサギの骨を見て彼らがウサギを食べることはわかっていた。
焼いた肉に塩を振り、彼らにふるまうと、無表情だった彼らに笑顔のような表情が浮かんだ。 希郎と祐介はそこに腰を落ち着けた。
海岸にエドゥの国旗を立て、人間界の船が通りかかったら救援に来られるようにはしておいたが、期待はしていなかった。
何しろネイトス近海を通る船など難破船以外にはありえないのだ。 ここにはふかふかの布団もお茶も何もないが、希郎には仲間が出来た。
住人達はどうやら言葉をもたなかったので、希郎は教えることに努めた。
木の葉っぱを指差しながら「はっぱ」と発音すると、一応似たような音が返って来た。
日に日に彼らは文明化しはじめ、次第に人間らしくなって行った。 祐介にとって非常に喜ばしいことには、ここには若い女が何人もいた。
彼女らは大半が美人であり、また素晴らしい身体をもっていた。
全員の臀部に短い銀色のしっぽのようなものがついているのがやや気になったが、おっぱいもおまんこも若い祐介には目の毒ともいえるほどに魅力的なものだった。 長い銀色の髪の白人っぽい顔つきをした10代後半ぐらいの女の子を祐介は特に気に入り、
彼女も祐介を見ると嬉しそうに身体をくっつけて来た。
そのくせ祐介がキスするのは構わないくせに性交を求めると激しく抵抗した。
「ま、女ってこーいうもんだよね」
女性経験のない祐介は聞きかじりの知識でそう納得し、ゆっくり彼女との仲を深めることにした。
彼女に「アヤ」という名前をつけ、その名を呼ぶと遠くからでもアヤは祐介の元へ駆けて来るようになった。 ある月の美しい夜、海を眼下に望む崖の上で、祐介とアヤは寄り添って景色を眺めていた。
海は満ち、風が柔らかく二人を包んでいた。
「君をエドゥに連れて帰りたいなぁ」
祐介がそう呟いてアヤの肩を抱くと、アヤは答えた。
「あうーん」
「あうーん? それ、どういう意味?」
「あうーん、はうーん」
何かいつもと様子が違うので、祐介はアヤの顔を振り返った。
目が充血し、唇がやたらと赤い。何やら艶かしいその唇に祐介はキスをしてみた。
するとアヤは抱きつき、祐介の膝の上に乗って来ると、激しく股間をすりつけて来た。
「い……いいってことなのか!?」
祐介が興奮して押し倒すと、アヤはその腕を払い、四つん這いになって尻を差し出して来た。 銀色のしっぽが上を向き、ピンク色の濡れそぼった性器が丸見えになっているのが月明かりの下でよくわかった。
興奮の高まった祐介は急いで男根を取り出し、そこにあてがう。
しかし入口がどこなのかよくわからず、焦っていると、しかしアヤは急かしもせずに身体を固くしてじっと待っていた。
「ど、どこだ。ここか?」
肛門に入れかけ、アヤが尻を振って抵抗する。
「おっ、おい。どこだ? あっ、ここか!」
男根が濡れた入口を捉え、ずぶりと入り込んだ。
「くぁっ!」とアヤが苦しそうな声を出したが、祐介は止めなかった。
奥まで入り込んだ男根を入口まで出し、また奥まではめ込むのを繰り返した。
「あぁっ! アヤ! 気持ちいいよ!」
パンパンと尻の肉と自分の根本がぶつかり合う音が夜空の下に響いた。
アヤも興奮が高まったのか、首を激しく振ると、振り返って牙を剥いて噛みつこうとして来る。
その赤い口腔と赤い眼がさらなる興奮を誘い、祐介はアヤの膣内に白い精子を大量にぶちまけてしまった。 数日後、祐介は自殺した。
二十歳の誕生日の2日後だった、アヤがまたセックスをさせてくれなくなったので何もすることなく座っていた時、
突然狂ったように意味のないことを叫びはじめると駆け出し、深い谷底へ身を投げたのである。
アヤは彼の死を知っているのか知らないのか、とにかく何も変わったことなどないように生活を続けた。
希郎はとうとう一人だけの漂流者になってしまった。 「俺もそのうち……ああなるのか?」
しかし恐怖はおろか不安すらその胸の中にはなかった。
希郎はこの村が気に入り、村人達の生活スタイルに従い、しきたりも何もない自由な暮らしを享受した。
特に生きる意味はないので、死ぬこともそれほど怖くはないのかもしれなかった。
狩ることと食べること、あとは寝ることしかすることはない。彼らの生活スタイルに流されるならば。
しかし希郎は言葉を忘れてしまうことを拒絶した。
言葉を持たない彼らと遊び、触れ合う中で彼らに言葉を教え、教えることで自分が言葉を忘れることも回避した。 希郎はだんだんと気づきはじめた。
彼らは人間ではない、人間ではありえない。
人間が権力への執着ももたず、皆平等に、何も文化遺跡もなく、生きる意味を求めない暮らしを全う出来る筈がない。
彼らは動物だ。
人間の姿をした動物なのだ。
希郎は彼らを人間と区別して呼称するため、彼らにアニメールという種名をつけた。 俺は人間だ。
何も意味を求めずに生きることは出来ぬ。
俺は彼らを理解し、彼らを研究することに生きよう。
そう決めながらも、希郎は自身が人間として変わり種であることにも改めて気づかされていた。
昔から思っていた、俺は人の上に立ちたいという意志が欠落している。
自分の生きた証を残そうなどという願望も特にない。
何もせずただぼうっと海を見ているだけでも働いた気になれる。
俺はむしろアニメールに近い存在なのかもしれぬな。
だからこそ彼らをこんなにも好きになり、この国に足をつけていても気が狂ったりしないのだ。 それから約半年後、アヤが子供を産んだ。
自分の掘った穴に閉じ籠り、誰も寄せ付けないと思っていたら、いつの間にか産声が聞こえはじめた。
男の子だった。
祐介の子であるに違いなかった。
アニメールには必ずある銀色のしっぽがなかったので。
希郎は男の子に十三(じゅうぞう)と名前をつけ、自分の子のように可愛がった。 人間とアニメールのハーフである十三は、明らかにアニメールとは違っていた。
希郎は実験の意味も込めて、アニメールの子供にも言葉を教えた。
子供達は大人のアニメールよりは上手に言葉を覚え、使ったが、物の名前と自分の欲求を表す言葉以外には興味を持たなかった。
それに比べて十三は、目に見えない概念や、今ここにないけれど未来にはあり得る出来事などについても興味を持った。
物語を好み、希郎が聞かせる人間社会のことにも熱心に耳を傾けた。
算数を教えると夢中で問題を解き、歴史上の英雄に憧れて台詞や動きの真似をした。
十三は希郎が見る限り、完全に人間だった。
それゆえ希郎は恐れた。二十歳の誕生日を迎えた後すぐに自殺した祐介のことが、
ネイトスの大地の魔力に襲われて断崖絶壁からその身を投げた仲間達のことが、頭から離れなかった。 十三は15歳になった。
希郎は53歳になっていた。毎日木に日付を刻み、自分の年齢がわからなくならないよう、気をつけていた。
希郎はいつも十三と、もう一人8歳の女の子を連れていた。
希郎の子……ではない。彼はどうやら子種がないらしく、何度か子作りを試してみたものの、妊娠させるに至らなかった。
女の子は幼くして母を亡くした孤児であった。一人前になるまで希郎が面倒を見ようと側に置いていた。
彼女に希郎は「リル」と名付けた。
他のアニメールが皆白か銀色の髪をしているのに対し、リルは銀色の髪の中に美しい金色の毛を持っていた。 十三とリルは仲がよかった。
正確には十三がリルのことを大好きで、リルはそれを拒まなかった。
崖上から広い海を眺めながら十三が言った。
「リルのこと、お嫁さんにしたいなぁ」
リルは複雑な光をたたえた緑色の瞳で十三を見ると、銀と金の美しい髪を揺らしてまた海のほうを向いた。
十三にはわかっていた。リルに「オヨメサン」なんて概念はわからないし、興味もない。
食えるか、食えないか。好きか、嫌いか。その相手の子を望むか、望まないか。リルにあるのはそれだけだ。
それでも十三はリルの子供離れした端正な横顔に感動を覚え、その髪を撫でても怒らないことに満足を覚えていた。