シンシは夜間の馬車鉄道に乗って、ボルガ市から東のオキニリ町へ行く。
そこがシンシの実家のある町だ。
人気が少ない駅の『昇降場<プラットフォーム>』の椅子に腰掛けて、呆っと馬車の到着を待つシンシの、
直ぐ隣から人影が差す。
シンシが隣を見上げると、そこに居たのはヤナキの呪詛だった。

 「来たのか、ヤナキ……」

 「ああ」

ヤナキの呪詛は短く、それだけ言った後は沈黙した。
シンシは色々と言いたい事や聞きたい事があったが、ここは大人しく黙っている事にした。
やがて馬車が到着して、疎らに人が乗り降りする。

 「えェー、第五魔法都市ボルガ東駅ィ、第五魔法都市ボルガ東駅でェ御座イマす。
  乗客の皆様ァ、お忘れ物の無い様に、御注意願イマす。
  この列車は東行き、東行きで、御座イマす。
  お乗り間違いの無い様に、お気を付け下さいませ」

シンシは徐に立ち上がって、ヤナキの呪詛に呼び掛けた。

 「それじゃ、行こうぜ」

2人は列車に乗り込み、空いた席に座って、オキニリ町に着くまで一休み。
途中、車掌が切符の確認に来たが、ヤナキの呪詛は無視された。
シンシは彼を揶揄う。

 「只乗りかよ。
  便利だな」

 「シンシも死んでみるか?」

 「はは、遠慮しとく」

列車は東へ、東へ。
そしてオキニリ町に停車する。