トップページ創作発表
901コメント1441KB
ロスト・スペラー 20
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/12/07(金) 18:09:05.48ID:81QT8mxd
未だ終わらない


過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0102創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/25(金) 18:39:46.90ID:IS6/rdu+
熱帯森林戦


魔導師会は地道な調査の結果、反逆同盟の拠点と思しき建造物をカターナ地方の森林で発見した。
魔導師会は組織の威信に懸けて、ここで決着を付ける積もりで、慎重に決戦への準備を進めた。
先ず、建造物の周囲に何重にも結界を張り、魔力の流れを完全に支配する必要がある。
結界を張る為の魔法陣は、完成間近で作業を中断する。
複数の結界を一気に発動させる事で、相手の不意を突くのだ。
大魔法陣を描く作業と同時に、魔導師を動員出来る上限まで集めて、特別部隊の編成も行う。
『相談役<アドヴァイザー>』として、現地での作業風景を見ていた魔楽器演奏家レノック・
ダッバーディーは、不安気な面持ちで同行者の親衛隊員に言った。

 「……ここまでしてもルヴィエラを仕留める事は出来ない。
  少しでも同盟の戦力を削ぐ事が目的だと、ここの指揮官は解っているのかな?」

 「そんなにルヴィエラは恐ろしい物なのですか?」

 「君達は今まで何を見ていたのか……って、何も見ていないか……。
  話だけ聞かされても中々信じられないのは分かるけどさ」

レノックが如何にルヴィエラの強大さを訴えても、魔導師は聞く耳を持たない。
否、魔導師だからこそ自分の目で見た物以外は信じられないのだ。
0103創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/25(金) 18:40:53.01ID:IS6/rdu+
魔導師達も八導師から悪魔公爵の恐ろしさを聞いている筈なのだ。
だが、余りにも強大過ぎて、今一つ理解し難いのだろう。
魔導師の中には魔城事件を経験した者も居るのだが、それでも未だルヴィエラの「全力」を、
見た訳では無い。
レノックは溜め息を吐いて言う。

 「僕としては拙速でも速攻した方が良いと思うんだけどな。
  準備に時間を掛けると言う事は、相手にも時間を与えると言う事だよ。
  何時連中に感付かれるかも知れないのに、悠長だ」

 「そうまで言うなら直談判しては?
  私が仲介しますよ」

親衛隊員の提案に、彼は首を横に振った。

 「速攻にもリスクは伴う。
  指揮官は安全策を取りたがるだろう。
  それに僕は外道魔法使いだからね。
  どうも魔導師のエリート達からの覚えは良くない様だ。
  僕の提案と知って頷いてくれるかな?」

長年外道魔法使いと対立して来た魔導師会は、敵に分類される者と手を組む事に拒否感がある。
自負の強いエリートならば一層の事。
魔導師会の誇りに懸けて、出来るだけ自分達だけの手で物事を解決しようと言う意識が働くのだ。
0104創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/25(金) 18:42:11.46ID:IS6/rdu+
親衛隊員は尚も進言する。

 「今後の連携も考えると、偏見を正すのも早い方が良いと思いますが……」

 「しかし、ここまで準備を進めておいて、今から作戦変更して突撃しろと言うのも、
  中々難しい話じゃないか?」

 「それは……、そうでしょうが……」

入念に計画した物を切り捨てて、新しい作戦を選択するのは困難だ。
これまでに掛けた時間と労力が、判断力を鈍らせる。
埋没費用効果と言う物だ。

 「先も言ったけど、僕は戦いが、ここで終わるとは思っていないよ。
  何事も経験さ。
  一度ルヴィエラの『本気』を見ておくのも悪くないだろう」

 「『経験』出来れば良いのですが……」

親衛隊員は全滅の可能性を考えて、小声で零した。
レノックは笑って答える。

 「そう心配する事は無いよ。
  ルヴィエラにとっては人間なんか取るに足らない存在だ。
  卑小な存在を相手に本気で怒る事は、見っ度も無いと言う意識がある。
  それが悪魔貴族なんだ」

そうだと良いのだがと、親衛隊員は心配そうな顔で事の成り行きを見守った。
0105創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/26(土) 19:52:07.47ID:K4eRQXWE
一方、砦の中の者は事前に魔導師会の襲撃を知っていた。
何故なら予知魔法使いのスルト・ロアムが居る為だ。
予知魔法使いが居る以上、密かな企みは無意味だ。
特に、直接攻撃を仕掛ける場合は確実に見抜かれる。
魔導師会に拠点を突き止められる事をスルト・ロアムが察知したのは、その3日前だった。
拠点を突き止められる事は既に避けられず、問題は如何にして被害無く拠点を変更するか、
或いは、魔導師を迎撃するかと言う点に絞られた。
しかしながら、肝心の同盟の長であるマトラ事ルヴィエラには、その気が全く無かった。

 「マトラ様、そろそろ何等かの手を打たれた方が宜しいかと存じます」

彼女は警告をしたスルトに対して、気怠そうな態度で言う。

 「私の手を煩わせる積もりか?
  あの程度の相手、お前達でも何とでもなろう」

 「それでは確実に犠牲が出ます」

犠牲が出ると聞いたルヴィエラは、興味深そうに尋ねる。

 「それは誰だ?」

 「誰と言う話では無く、進んで対処しなければ、全滅も免れないでしょう。
  勿論、貴女を除いての事ですが……」

スルトの説明にも関わらず、彼女の笑みは益々大きくなった。

 「それは面白い!」
0106創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/26(土) 19:53:08.20ID:K4eRQXWE
スルトは予知魔法使いだが、全てを思い通りに出来る訳では無い。
どう足掻いても避け得ぬ運命、動かせぬ障害の様な物はあるのだ。
ルヴィエラの存在が正に、それだった。
マスター・ノートが全知の書になる為の最大の障害は、神の如く絶対の力を持つルヴィエラなのだ。
どれだけ巧みに物事を進めようとも、彼女の存在で全てが無に帰す可能性が残り続ける。

 「スルト、否、マスター・ノートよ、お前に権限を与えよう。
  この困難を乗り越えて見せろ」

 「……分かりました」

スルトは抗議も反論もせずに唯肯く。
こうなる運命からは逃れられなかった。
スルト・ロアムは今、全知の書としての実力を試されているのだ。
彼は残りのメンバーで戦力になりそうな物と、今後役に立ちそうな物を仕分けて、犠牲者を決める。
ニージェルクロームと彼に付いていたディスクリムは離脱中。
サタナルキクリティアとゲヴェールトは実力的に失う訳には行かない。
バレネス・リタには闇の子を育てる役目がある。
スフィカとエグゼラの狐は失っても痛くないが、利用価値はある。
シュバトは何をしても死なないので、構わなくても良い。
そうなると犠牲にして良い一人は、ビュードリュオンだ。
彼を犠牲にしても良いのであれば、何とか魔導師会に勝利出来るだろうと、スルトは考えていた。
0107創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/26(土) 19:53:41.08ID:K4eRQXWE
意外にもスルトが指揮を執る事に反発する者は無かった。
彼の背後には同盟の長であるマトラが居る。
彼女の性格も大体の者は知っているので、反抗しても無意味だと悟っているのだ。
この段階では誰が犠牲になると言う事をスルトは誰にも明かさなかった。
そもそも犠牲が出ると言う事自体を伏せていた。
自分が指揮を執れば全て上手く行くと、「嘘」を吐いた。
予知魔法使いにとって、「嘘」を吐く事は大きな『禁忌<タブー>』である。
自分の予知が正しいと言う証明をする為には、嘘を吐いてはならない為だ。
予知とは正しい事を言うから価値があるのであり、間違った事を言う予知は予知では無い。
予知で嘘を吐けば、忽ち信用を失い、予知魔法使いとしての価値が無くなる。
何故なら、彼はマスター・ノートだから。
そして予知魔法使いは自分の事を占っては行けない。
マスター・ノートは何れ全知の書となるが、それでも所詮は道具に過ぎない。
道具として、より完全な形を目指すのは、道具の義務である。
だが、それと同時に道具は道具としての機能を失ってはならない。
よって彼は誰か1人には真実を告げなくてはならない。
当然ビュードリュオンは除外するとして、秘密を守れる者でなくてはならない。
残念ながらルヴィエラは信用できない。
そこでスルトが選んだ信頼出来る者は……サタナルキクリティアだった。
悪魔の彼女は人間を何とも思わない上に、悪魔らしく「契約」の概念を持っている。
一度交わした約束を違えない。
0108創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/27(日) 18:09:19.29ID:ySJPY9IH
スルトの計画を聞かされたサタナルキクリティアは詰まらなそうな顔で言う。

 「話は終わりか?」

自分の予知は外れないのだと彼は自分に言い聞かせて、心の平静を保った。

 「ああ」

 「何故、私に話した?」

 「それが予知魔法使いの義務なのだ。
  私が予知魔法使いであり続ける為には、予知の正しさを知る者が居なくてはならない。
  事が終わった後で、全て計画通りだと言われも困ろう?」

 「それは確かに。
  しかし、私は思うのだ。
  その話こそ私を欺く為の嘘では無いか?
  真実だと言う保証が、どこにある?」

サタナルキクリティアの疑問に対するスルトの答えは、実に堂々とした物だった。

 「どこにも無いが、信じて貰わねばならぬ。
  私はマトラ様に指揮権を委ねられている」

だが、サタナルキクリティアは人差し指を立て、嫌らしい笑みを浮かべる。

 「投資詐欺の話を知っているか?
  詐欺師が『大豆<ファナハバ>』の先物相場を利用して、金持ちに投資詐欺の話を持ち掛けた。
  私は市場の裏情報を知っている。
  1000万MG預けてくれれば、1週間後に倍にして返すと。
  騙された人物は警察に、詐欺師の予想が5日連続で的中したので信じてしまったと語った。
  警察が調べた所、同じ様な被害者が他に10人は居た。
  詐欺師は一体どうやって予言を的中させたのだろうか?」


※:大豆に相当する作物。
  ダード、ダド豆、ファナ豆とも言う。
  豆には他に、ハバ豆、バガ豆、野豆、黒豆、鞘豆等がある。
  豆を表す一般名詞は「ハバ」。
0109創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/27(日) 18:10:43.04ID:ySJPY9IH
スルトは眉を顰めて答える。

 「先物相場は上がるか下がるかだ。
  どちらか判らなくても、2人に声を掛けて、1人には上がる、もう1人には下がると言えば、
  どちらかは当たる。
  確実に2日連続で当てたいなら、同じ調子で4人に声を掛ければ、1人が残る。
  10人相手に5日連続で当て続けるには、320人が必要だ」

 「逆に言えば、320人に声を掛ければ、10人は確実に騙せるな」

 「私も同じ事をしようとしていると言いたいのか?」

それは余りにも予知魔法使いを馬鹿にしていると、彼は憤った。
サタナルキクリティアは声を抑えて笑う。

 「くっくっく、悪かったよ。
  冗談だ、冗談。
  お前の指示に逆らおうと言う気は初めから無い。
  少し揶揄ってみただけだ。
  予知魔法使いなのだから、その位は解っていた筈だな?」

 「予知は言う程、万能でも完璧でも無い。
  ……今の所は」

 「頼り無いな。
  そんな事では困るぞ。
  お前の指揮に従うと言う事は、お前に命を預けているのだからな」

 「ああ、解っている。
  私に任せておけば、何も間違いは無い」

スルトは自信を持って言ったが、サタナルキクリティアが彼を見る目は酷く冷めていた。
0110創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/27(日) 18:11:58.70ID:ySJPY9IH
魔導師会は順調に準備を進めて、明朝を決戦の時と決めていた。
既に準備は整っており、反逆同盟からの不意の襲撃にも対応出来る様にしている。
魔導師達は夜も寝ずの番を立て、心構えは戦闘状態だった。
事が起こったのは、真夜中の北の時。
その頃、レノックも親衛隊と共に寝ずの番をしていた。
親衛隊員は予てより気になる事があって尋ねる。

 「レノック殿、お休みになっては如何ですか?」

 「いや、平気だよ」

 「……何時、お休みになっています?」

 「何時も休んでいるけど?
  今だって休んでいる様な物じゃないか」

今一つ噛み合わない回答をするレノックに、親衛隊員は一拍置いて強い口調で言った。

 「私が聞いているのは、『眠らなくて大丈夫ですか?』と言う事です。
  ここ数日、私はレノック殿が眠っている所を見ていません」

 「ははは、何を今更。
  僕は一度だって、君達に眠っている姿を見せた事は無いぞ」

 「えっ」

レノックの言う通り、これまでも親衛隊員は彼が眠っている所を見た事が無かった。
しかし、宿に泊まったりしていれば、その間は休んでいる物と思うのが普通だ。
0111創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/28(月) 19:47:33.48ID:m9VxlTOH
そんな下らない話をしている間に、事は静かに進んでいた。
反逆同盟の拠点を取り囲んでいる「北」の部隊が、悪魔サタナルキクリティアと対面する。
北の部隊の指揮官は合図した。

 「そうら、お出でなすったぞ!
  魔法陣を発動させろ!
  子供の見た目だからと言って油断するな!」

この時の為に、魔導師会は入念な準備をした筈だった。
こちらから仕掛ける前に、向こうから仕掛けて来た事も、何等驚く様な事では無い。
魔法陣の内側に閉じ込めれば、大抵の敵は封じ込められる筈だった。
だが、魔法は発動しなかった。
指揮官は狼狽して部下を問い詰める。

 「……どうなっている!?
  魔法陣に魔力が流れていないぞ!」

 「そ、それが……!
  蟻です、無数の蟻が魔法陣の形を歪めています!」

 「蟻!?
  昆虫にしてやられたと言うのか!
  しかし、魔力は感じなかったぞ!
  魔法では無いと言うのか……」

共通魔法の魔法陣を打ち破ったのは、昆虫人スフィカがフェロモンと羽音で指揮する蟻の大群だった。
熱帯の狂暴な蟻の大群が、魔法陣の一部を食い破って、魔法の発動を阻んだのだ。
0112創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/28(月) 19:49:19.17ID:m9VxlTOH
隊長は舌打ちして言う。

 「構うか、相手は一人だ!
  九人で三角陣を取れ!」

共通魔法使いは数が力になる。
複数人で連携すれば、何倍もの力の相手とも互角に戦える。
魔導師一人一人は人間としては優秀だが、それだけの存在だ。
一人が何百人分もの力は持たない。
だから相手の脅威を見誤る。
どんなに強くとも精々自分の数倍程度だろうと。
サタナルキクリティアは含み笑いする。

 「フフフ、可愛い物だな。
  悪魔の恐ろしさを知らないと見える」

彼女は愛らしい子供の体を捨てて、悪魔の力を解放した。
体は見る見る大きくなり、成人男性並みに力強く筋肉質になる。
額の小さな角は見る見る伸びて、凶悪に捻じ曲がる。
口からは牙が、手足の先からは爪が伸び、人の姿から外れて行く。
小さな弦の様な尻尾は固く太く変質して、大蛇の様に畝る。
その背には漆黒の翼が生えている。

 「一人ずつ生爪を剥がす様に甚振り殺してやる」

サタナルキクリティアの魔法資質は平均的な魔導師の十倍や二十倍では利かない。
詰まりは、それだけの人数が束になっても敵わないのだ。
0113創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/28(月) 19:52:19.42ID:m9VxlTOH
拠点の西には石の魔法使いバレネス・リタとエグゼラの狐が、東には昆虫人スフィカに加えて、
血の魔法使いヴァールハイトが向かった。
そしてレノック等が居る拠点の南には、暗黒魔法使いのビュードリュオンが……。

 「どうやら良くない事が起きた様だ」

レノックは冷静に、付き添いの親衛隊員達に告げる。

 「その様ですね……。
  折角準備した魔法陣が無効化されています。
  速攻を仕掛けるべきとのレノック殿の判断は正しかった」

親衛隊員も余り焦りを表さずに答える。
素直に認められてレノックは小さく苦笑い。

 「ハハ、言うだけなら只さ。
  実際に行動に移せなければ何の意味も無い。
  この儘では各個撃破されるぞ」

 「何か妙案はありませんか?」

親衛隊員の問にレノックは淡々と答える。

 「こちらも各個撃破して行くしかない。
  先ずは、こちらからだな」

彼の視線の先にはビュードリュオンの姿があった。
夜闇に紛れて、その姿は明瞭には見えず、魔法資質にも反応は無かったが、確かに居る。

 「気付かれるとは思わなかった。
  見られてしまった物は仕方が無い。
  私は暗黒魔法使いビュードリュオン・ブレクスグ・ウィギーブランゴ。
  悪いが全員ここで死んで貰う」

彼は堂々と名乗って宣戦布告する。
0114創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/29(火) 19:23:26.19ID:eyFgZHKO
身構える親衛隊員の2人に対して、レノックは臨戦態勢を取らない。
物悲し気な瞳で、ビュードリュオンを見詰めて言う。

 「不協和音が聞こえる。
  君は苦しい状態にある様だな」

 「レノック殿、今は話している場合では……」

親衛隊員の忠告を受けて、レノックは小声で謝る。

 「済まない。
  僕も所詮は悪魔なんだ。
  可哀想な彼の声を聞いてやりたくてね」

そうしている間にビュードリュオンは小声で呪文を唱えていた。

 「死の床に臥せる物達よ、我が声に応え目覚めよ……。
  朽ちた体に死せる魂を宿らせ、不滅の使徒となれ」

これを聞いたレノックは小声で親衛隊員に告げる。

 「『死霊術<ネクロマンシー>』だ!」

ビュードリュオンの肉体が変質して、幾つもの生物が合体した怪物になる。
内臓が腐敗して行く奇病に冒された彼は、生き延びる為に他の人間や動物の肉体を継ぎ接ぎして、
どうにか生存に必要な生理機能を保っていた。
彼自身が合成生物の様な物なのだ。
彼の肉体を構成している、それぞれの生物の「部品」を魔法で再生させる事で、怪物の姿になる。
0115創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/29(火) 19:25:11.46ID:eyFgZHKO
ビュードリュオンの奇怪な正体に、親衛隊員達は恐怖を覚えた。
牛や馬、鹿、山羊、或いは犬、猫、猿、そして人間の様な物まで、複数種の動物が体の一部を、
ビュードリュオンに繋がれた状態で蠢いている。
彼の魔法資質も合成した動物の数だけ強化されている。

 「オオオオオオオオオオーーーー!!」

動物の首が、それぞれの鳴き声で吠えると、魔力が揺らいで音の魔法を放つ。
獣魔法の一形態『鳴動<ランブリング>』だ。
複数の動物の鳴き声が共鳴して、より効果の大きい魔法となる。
これは振動分解魔法だ。
振動の共鳴によって大量のエネルギーを発生させ、分子間の結合を断つ。
物理現象との組み合わせの為に、単純に魔法だけで防ぐ事は難しい。
空気の振動を抑える魔法ならば対処可能だが、先制されると詠唱での魔法発動が阻害される。
親衛隊員の2人は何とか空気の壁で自分達の周囲を覆ったが、ここからの反撃は難しく、
一時撤退を考えていた。

 「レノック殿、一旦下がりましょう」

親衛隊員の呼び掛けに、レノックは余裕の表情で言い返す。

 「その必要は無いよ。
  解っているだろう?
  僕が『音』の魔法使いだと言う事を」

彼は大きく息を吸って、指笛を吹いた。
ピーと言う甲高い音と共に、空気の振動が収まる。

 「小僧、貴様徒者では無いな!」

ビュードリュオンはレノックを警戒した。
0116創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/29(火) 19:28:21.45ID:eyFgZHKO
レノックは肩を竦めて答える。

 「一つ忠告しておこう。
  僕は音を自在に操る魔法使いだ。
  君では僕に勝てない。
  その体では尚の事」

 「成る程、貴様は見た目とは違い、相当な実力の魔法使いなのだな。
  態々自らの能力を明かすとは……。
  だが、私とて修行を重ねて来た魔法使い。
  そう簡単に倒されてはやれん」

ビュードリュオンは彼の忠告にも退かず、腕の筋肉から蛇を分離させて投げ付けた。

 「行け!」

蛇は大口を広げて毒牙を剥き、真っ直ぐレノックを目掛けて飛んで行く。
これを難無く避けたレノックは、太鼓の枹(ばち)を取り出し、何も無い空を叩いた。
落雷の様な轟音が響くが、それは丸で意思を持っているかの様に、遠方には拡散して行かず、
ビュードリュオンに向かって行く。

 「ウォオオ、何だ、これは!?
  か、体が撒(ば)ら撒らになる!」

 「君の体は性質の異なる物を魔法で無理遣り繋げているな?
  それが不協和音の正体だ。
  調律の不具合は、全体に悪影響を及ぼす」

 「利いた風な口を叩くな!
  貴様に私の何が分かる!
  生まれ付いて不具を抱え、生きねばならぬ苦しみ、貴様に分かるか!」

ビュードリュオンは崩壊しそうな体を、どうにか繋ぎ止めながら恨みの言葉を吐いた。
0117創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/30(水) 18:32:05.76ID:60FHk6lC
レノックは返事の代わりに2度目を打つ。
毒蛇の群れで繋がれたビュードリュオンの猩々の右手は、朽ちた縄の様に解けて、腐り落ちた。

 「その業、共通魔法使いでは無いな!
  何故、魔導師会に加担している!」

ビュードリュオンの問い掛けに、レノックは肩を竦めて問い返す。

 「それは、こっちの台詞だよ。
  どうして悪魔に加担して、人間の敵になりたがる?」

 「好きでやっている訳では無い!
  私が生き続ける為には、こうするしか無かった!」

腐って行く体を取り替える事で、ビュードリュオンは今日まで生きて来た。
それも全ては内臓が腐敗する奇病の為。

 「僕には魂の年齢が見える。
  君は人間にしては十分に生きたんじゃないのか?
  それ以上は贅沢と言う物だよ」

 「人並みの健康体を手に入れたいと言う願いが、そんなに贅沢か!
  病に苦しめられる事の無い、平穏無事な生活を求める事が、強欲の罪か!」

レノックの言い種(ぐさ)にビュードリュオンは吠えた。
彼は最初から病に苦しむ事の無い平穏な生活、唯それだけを求めていた。
0118創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/30(水) 18:33:41.75ID:60FHk6lC
しかし、レノックは冷淡に切り捨てる。

 「ああ、贅沢だね。
  それだけの為に、どれだけの人を君は犠牲にして来たんだ?
  心も体も満足な人間が、世の中に一体どれだけ居ると思う?
  目耳鼻口、五臓六腑、四肢と五指、頚胸腰の椎、血液と髄液、骨と関節、筋肉と腱、知能と精神、
  皆どこかしらに異常を抱えている。
  寒ければ風邪を引くし、暑ければ熱に中てられる、人間は脾弱な生き物だ。
  完全に健康な時間は一時的な物さ」

 「その一時的な満足さえ、私には与えられなかったのだ!」

 「だからと言って、人を殺して良い事にはならないだろう。
  君の人生は辛い事ばかりだったと言うのか?
  本の一欠片の幸福も味わった事が無いと?」

 「黙れっ、元より解って貰おうとは思っていない!
  ああ、そうだとも!
  所詮は私の我が儘だ!」

ビュードリュオンは開き直って、腐り落ちる左腕をレノックに向けて投げ付けた。
そして魔力を暴走させて自爆させる。
レノックは爆発に合わせる様に枹を振るった。
空気の壁が出現して爆発を防ぎ、同時に音の波動がビュードリュオンを襲う。
今度は馬の右脚が腐り落ちた。

 「未だ死なん!
  こんな所で死ねる物かっ!」

強い生への執着。
それだけでビュードリュオンは今まで生きて来た様な物だ。
0119創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/30(水) 18:36:09.52ID:60FHk6lC
だが、彼は反攻に転じる事も出来ない。
レノックが空を叩く度に、彼の体は制御を失って崩壊して行く。
それでもビュードリュオンは耐えていれば援軍が来てくれると信じた。
予知魔法使いのスルトが立てた作戦に、間違いは無いと信じている為だ。
その信頼は最初から裏切られている。
スルトは最も強力で厄介な敵であるレノックを足止めする目的で、ビュードリュオンを独り、
南側に派遣させた。
四肢と下半身を失い、残るは胸と首から上だけになったビュードリュオンは、這いながら訴える。

 「こ、これが私の真の姿だ……。
  腐り落ちる臓腑を除けば、これしか残らない。
  哀れむが良い、然も無くば、嘲笑うか……」

レノックは無視して空を打った。
ビュードリュオンの心臓が震えて、破裂しそうになる。

 「ぐっ、よ、容赦無しか……!」

 「その心臓も君の物では無い様だな。
  全ての筋肉や臓器が病に冒されていたとは考え難い。
  古くなった物を自分から捨てたと言うのが、本当の所だろう?
  君は長く生き過ぎたんだ」

 「人の一生を勝手に決めるな。
  どこが十分かは私が決める。
  ……暗黒魔法の神髄を見るが良い」

ビュードリュオンは地面に散った肉体に魔力を流して、魔法陣を完成させた。
それは悪魔召喚の魔法陣だ。

 「我が血肉を贄に捧げる。
  出でよ、地に封じられし飽く無き貪よ」
0120創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/31(木) 19:05:59.11ID:dg8f0Fhq
大地が震えて、地の底から何かが湧き出て来る。
それは黒い靄となってビュードリュオンを包み、彼を更なる怪物へと変えて行く。
レノックは親衛隊員の2人に警告した。

 「これは行けない!
  2人とも下がってくれ、ここは僕が何とかする」

 「しかし、レノック殿!」

ビュードリュオンの周囲に集まる不吉な魔力の流れを、親衛隊員の2人も読み取っていたので、
レノックを置いて下がる事には抵抗があった。
2人を退散させる為に、レノックは敢えて強い言葉を使う。

 「君達は足手纏いだと言うんだ!
  僕の心配をする暇があったら、他の人達を助けに行け!」

普段の様子からは想像も出来ない態度に、親衛隊員の2人は衝撃を受けた。
それだけ危機的な状況なのだと理解して、2人は場を離れる決意をする。

 「分かりました。
  レノック殿、お気を付けて」

 「ああ、直ぐに片付ける」

ビュードリュオンの胴体は、地面から生えた巨大な口を持つ鮫の頭の様な物と合体していた。
レノックは彼を睨んで言う。

 「暗黒魔法の知識をどこで仕入れたかと思ったら、そう言う事か……。
  君の強欲が貪を呼び寄せたのか、それとも貪に取り憑かれて道を誤ったのか?
  どちらにせよ、僕は君を倒さなくてはならない。
  光栄だよ、原初の大罪に会えるとは!
  『欲深き物<グーラ-アヴァリティア>』!!」
0121創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/31(木) 19:07:01.53ID:dg8f0Fhq
「貪」とは抑えの利かない欲望である。
全ての生き物が備える物で、生きて行くのには必要不可欠な感情だが、その尽きる事の無い様は、
全てを貪り尽くすが如く。
古代の人々は、これを「貪」と名付けた。
全ての者は、これが持つが為に欲望を抑えられなくなり、罪を犯す。
それとは逆に、「貪」は生まれ付いて具わっている物ではなく、外より齎される物であり、
これこそが生物を「強欲」に誘うのだとも言う。
「貪」が象徴する物は、貪食と貪欲、そして全てを引き付ける重力だ。
「欲しい」と言う衝動に覚えの無い者は居ない。
「貪」は欲しい物を手に入れれば落ち着くが、後に更なる欲望と共に復活する。
この「貪」を拠り所にした悪魔が「グーラヴァリティ」。
全ての生きとし生ける物が持つ、「欲求」を糧にする存在。
生まれ持って避け得ぬ罪業、「原初の大罪」を司る悪魔の一。
求め続け、幾ら得ようと満たされぬ物!
飽く無き強欲と放恣の化身!

 「私は生き続けたい!
  その為ならば、全ての命を食らい尽くす事さえも厭わない!
  おお、万物よ我が糧となれ!
  全テハ我ガ為ニ有リ、軈テ我ハ全テヲ食ラヒテ、完全ナル存在ト化ソウ!」

ビュードリュオンは悪魔と同化して、自らの思考を失っている。
グーラヴァリティは唯、全ての物を呑み込む存在だ。
大地を吸い込み、蟻地獄の様に擂り鉢状の穴を掘ると、天を仰いで全ての物を食らい尽くそうとする。

 「大言壮語も好い加減にするんだな!
  これでも食らえ!」

レノックは『大喇叭<コンクリッシュ>』(※)を抱えて、大音量でグーラヴァリティを攻撃した。


※:Conchlish……大型の金管楽器で、「conchlisica」(conchlis=巻き貝)を語源とする。
  テューバやホルンの類。
0122創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/01/31(木) 19:08:52.07ID:dg8f0Fhq
しかし、グーラヴァリティは全く怯む様子が無い。
この悪魔は音をも食らっている。

 「足リナイ!!
  モット、モット聞カセロ!」

最早ビュードリュオンはグーラヴァリティに付着しているだけだ。
我が儘勝手に吠える声は、彼の胴と同化した巨大な口から発せられている。

 「流石に古の大悪魔は違うな。
  あらゆる攻撃を吸収してしまうのか……」

レノックは冷や汗を掻いた。
グーラヴァリティの強さが伝承通りであれば、この悪魔には全ての攻撃が通じない。
どんな攻撃でも吸収されて、更なる力を与えてしまう。
とにかく地道に有効打を探して行くしか無い。

 (貪を収める方法を何とか考え付かなくては。
  為す術無く見ているだけでは小賢人の名が廃る)

これは知恵比べだ。
レノックはグーラヴァリティでも食らい尽くせない物を何とか見付け出さなくてはならない。
彼が思考している間も、グーラヴァリティは徐々に蟻地獄の半径を拡げて行く。
熱帯の巨木が倒れて蟻地獄に吸い込まれ、折り曲げられてグーラヴァリティの腹に収まる。
それでも一向に満足する様子は無い。

 「モット、モット食ワセロ!!
  全テヲ我ガ内ニ……」

音が効かないと言う事は、衝撃も通じないと言う事。
恐らく熱や冷気での攻撃も無意味であろう。
0123創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/01(金) 19:32:14.74ID:sYYLhWlh
レノックは空中に浮き上がり、悪魔の本性を現した。
彼は鼓動と共に音を発する人間大の奇怪な球体となり、高周波でグーラヴァリティに攻撃を続ける。
耳を劈く様な甲高い音がグーラヴァリティを襲うが、やはり怯む様子は無い。

 「アア、アア、未ダ足リナイ!
  モット聞カセロ!」

グーラヴァリティは振動を吸収して、高熱を蓄え、赤く発光した。

 (効いていない……訳じゃないんだな。
  吸収し切れないエネルギーが熱と光になって漏れている。
  後は奴の固有振動数が判れば……)

レノックは音の高低を変えながら、グーラヴァリティと最も反応する周波数を探る。

 「オオ、オオ……!
  未ダ、モット、モットクレ!!」

グーラヴァリティは愚かにも、自らに最も響く音に反応して、感動の声を上げる。

 (お望み通り、くれてやる!!)

レノックは敢えてグーラヴァリティに飛び込み、その体内に吸収された。
グーラヴァリティの中は暗黒の空間で、それまで取り込まれた物が無造作に漂っている。
丸で重力の無い宇宙空間の様。

 (何と無く覚えがあるな……。
  ああ、ルヴィエラが造った暗黒空間と似ているのか……。
  しかし、あちら程は虚無の空間じゃない)
0124創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/01(金) 19:34:12.59ID:sYYLhWlh
レノックはグーラヴァリティの中で重低音を発する。
心臓の鼓動の様なリズムが、グーラヴァリティの中で反響する。
内側から響く音にグーラヴァリティは困惑した。

 「オッ、オッ、何ダ、コレハ……。
  我ガ内デ膨ラミ続ケル……」

 (媒体は所詮人間。
  容量の拡大には時間が掛かる。
  グーラヴァリティは何度出現しても、同じ運命を辿った。
  宇宙を呑み込める程の無限の可能性を秘めながら、その貪欲さ故に成長し切る前に自滅する。
  恣に貪り食らい、己を律する事が出来ないから、そうならざるを得ない)

 「オフ、オフ……」

グーラヴァリティは内側で反響する音を漏らすまいと、吸収を止めて口を閉ざした。
それでも堪える事が出来ず、口の端から空気が漏れる。

 (音は空気を振動させ、熱を発して体積を増す。
  その苦しみは、饅頭が胃の中で水を吸って膨らむが如し)

 「ゲ、ゲ、ゲゲェ!」

グーラヴァリティは堪らず大口を開けて、吸い込んだ物を吐き出した。
土砂と木片が蟻地獄を埋めて、グーラヴァリティの体は小さく萎む。
そして最後にレノックを吐き出して、グーラヴァリティは消失し、ビュードリュオンの体だけが、
その場に残った。
0125創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/01(金) 19:36:08.49ID:sYYLhWlh
悪魔の力を失ったビュードリュオンは、胸から上だけしか残っておらず、既に虫の息だった。

 「う、うぅ、死にたくない……。
  助けてくれ……」

レノックは球体から出て、人の姿を取る。

 「生き続けるだけならば、人の形に拘る必要は無かった筈だ。
  ……君は人間として生きたかったんだな。
  気持ちは分かるが、しかし、それは叶わぬ望みだ。
  人間は永遠には生きられない……」

 「わ、私は……死ぬのか?
  こんな所で、本当に……」

 「ああ、その通りだ。
  安らかに眠れ」

レノックに見下ろされ、ビュードリュオンは地面を噛む。

 「うぅ、父も母も病に冒された私を見捨てた。
  私は病の身で、独り生き続けなければならなかった……。
  私には愛する者も、守るべき物も無く、唯己が生きる為だけに生きた。
  虚しい一生だった……」

彼の泣き言をレノックは黙って聞いていた。
それが死に行く哀れな者に対する慰めだった。

 「……最後まで、誰も私を救ってはくれないのか……」

ビュードリュオンは虚しさの涙を流しながら事切れた。
0127創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/02(土) 19:07:26.67ID:e++k3oY1
「虚しさから涙を」とか「虚脱感から涙を」とした方が良かったでしょうか?
「悔し涙」はあっても、「虚し涙」は聞いた事がありませんし……。
推敲が足りなかったでしょうか……。
0128創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/02(土) 19:08:54.81ID:e++k3oY1
彼が倒れた後で、レノックの元に隠密魔法使いのフィーゴ・ササンカが現れる。
彼女は主人に対する様に跪いて報告した。

 「レノック殿、魔導師会は撤退を始めました」

 「急襲する積もりが、逆に急襲を受けて、連携に乱れが生じたか……。
  僕等も引き下がるとしよう。
  同盟にはルヴィエラ以外にも、厄介な連中が居る様だ。
  これ程の者を捨て駒に使うとは……」

ササンカはレノックを抱え上げて、その場から去ろうとする。
レノックは驚いて彼女を見上げた。

 「うわっ、何をするんだ!?」

 「撤退するのでしょう?」

 「幾ら子供の姿だからって、抱っ子は止めてくれよ。
  自分で歩ける」

 「しかし、子供の足は知れていましょう」

 「良いんだよ、殿を務める積もりだったんだから」

 「そうですか……」

ササンカは残念そうに彼を下ろす。
役に立ちたいと言う彼女の気持ちは有り難いのだが、子供扱いは何とかならない物かと、
レノックは咳払いをして眉を顰めた。
0129創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/02(土) 19:10:10.61ID:e++k3oY1
反逆同盟の者達は魔導師会を追撃しなかった。
レノックとササンカは何事も無く、後方に退がった魔導師達と合流する。
多くの魔導師は手負いで、治療を受けていた。
レノックは大隊長を探して状況を尋ねる。

 「君が指揮官か?
  戦況を聞きたい」

 「何だ、お前は?」

大隊長は子供が戦場に居る事を不審に思って、眉を顰める。
そこへ親衛隊員が駆け付けて、間に入った。

 「彼は例の『相談役<アドヴァイザー>』です。
  失礼の無い様に、お願いします」

大隊長は露骨に不満気な顔をする。
それは差別意識の表れだ。

 「今頃出て来て何の用だ?」

 「戦況を聞かせてくれ」

 「……各部隊を後退させた。
  今は戦闘行為は中断している」

 「戦果と被害状況は?」

大隊長は質問を続けるレノックを無視して、補佐を呼ぶ。

 「アドワード、こっちに来い!
  お客さんの話を聞いてやれ!」
0130創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/02(土) 19:11:53.65ID:e++k3oY1
大隊長は直ぐに、その場から立ち去った。
素人の相手をしている暇は無いとでも言いた気な態度に、親衛隊員が代わってレノックに謝る。

 「済みません、無駄に自尊心だけは強い様で……」

部外者に口を出されたくないと言うのは、ある種の「職人意識」だ。
自分は責任ある専門家であり事情に通じているので、無責任な一般人の意見は必要無いと決め付ける。
それに部下を率いなければならない立場で、弱味を見せる訳には行かないとも感じている。
レノックは苦笑いで応じる。

 「君が謝る事は無いよ。
  それに彼の気持ちも解る。
  僕だって魔法の知識に関しては煩くなるからね。
  とにかく情報が聞けるなら、誰からでも良いさ」

大隊長に呼ばれた補佐は困惑した様子で、親衛隊員に話し掛けた。

 「えぇと、何の御用でしょう?」

 「いや、私達では無くて、彼の質問に答えて欲しい」

 「はぁ、誰なんです?」

補佐も子供が居る事を不審に思っている。
親衛隊員は溜め息を吐いた。

 「反逆同盟との戦いに於ける、我々魔導師会の相談役に選ばれた方だ。
  八導師直々の御指名である」
0131創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/03(日) 18:14:11.43ID:P/MH9ZmQ
八導師の指名と聞いて、補佐は吃驚して目を剥いた。

 「えっ、こんな子供が……?」

 「見た目に惑わされては行けない。
  彼は旧暦より生きる大魔法使いの一人なのだぞ」

親衛隊員の答に、補佐は信じられないと言う顔で、レノックを真面真面(まじまじ)と見る。
レノックは咳払いをし、改めて尋ねた。

 「拠点を攻めると言う作戦は、どうなったかな?」

 「はぁ、一時中断です」

 「――と言う事は、近い内に再開する?」

 「……分かりません。
  皆、この機会を逸したくないと言う思いは強いのですが、無謀な突撃を繰り返しても、
  被害が増えるだけでしょうから……」

 「今の所、どの位の被害が出ている?」

 「死亡者が2名、負傷者は……軽く50名は超えています。
  中でも厄介なのが、石化した者が十数名程度居る事です」

 「石化?」

 「はい、如何な原理かは不明ですが……。
  魔法での診断の結果、全身が貝素化しているとの事です。
  生死の判断も付かないので、一応は『行動不能』扱いにしています」

対象を石に変える魔法は数多くあるが、これはバレネス・リタの仕業だ。
彼女は瞳に捉えた物を石に変える、石化の魔眼を持つ。
0132創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/03(日) 18:15:42.15ID:P/MH9ZmQ
レノックは続けて質問した。

 「戦果は、どれだけあったかな?」

補佐は苦々しい顔をする。

 「……分かりません。
  交戦して幾らか手傷を負わせたと言う報告はありましたが……。
  少なくとも、敵に止めを刺したと言う報告はありませんでした」

 「敵の戦力は殆ど減っていないと見るべきかな?」

 「率直に言えば、作戦は失敗したと見るべきでしょう。
  直ちに態勢を立て直して挽回する事は難しい状況です」

結論を求めるレノックに対して、補佐は渋々事実を認めた。
レノックは慰めを言う。

 「しかし、全く無駄だったと言う訳じゃない。
  相手方の戦力の全部では無くとも、大部分は判明したと言って良いだろう。
  それに一人は僕が仕留めた」

 「仕留めた……?」

 「ああ。
  取り敢えず、どんな奴等と戦ったのか情報交換しよう。
  相手の姿と戦い方が判れば、後の対策も立て易い」

レノックの提案に補佐は頷き、魔導師達が戦った相手の情報を、正確に彼に伝えた。
0133創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/03(日) 18:17:21.08ID:P/MH9ZmQ
――補佐の話を聞き終えたレノックは言う。

 「小さな女の子が悪魔に変身したと言うのは、恐らくサタナルキクリティア。
  蜂の様な女は昆虫人のスフィカ。
  虫を操る力を持っているらしいから、蟻を使って魔法陣を壊したのも彼女だろう。
  犬を従えていた男は多分だが、ゲヴェールト。
  石化の能力を持つ女はリタ。
  そして僕等が戦ったのは……ビュードリュオン。
  残る1人の女は一寸分からない。
  ヴェラかジャヴァニか、それとも新しいメンバーか、ルヴィエラとは違うと思うが……」

補佐は両腕を組んで低く唸った。

 「ニージェルクロームとディスクリムが居ませんね……」

 「ニージェルクロームは竜の力を解放してカターナで大暴れした後、何処かへと飛び去った。
  もしかしたら、未だ帰還していないとか、何等かの事情で戦えないのかも知れない。
  ディスクリムは……ルヴィエラの創造物だから表に出て来なくても不思議じゃない……。
  確認の為に、もう1度仕掛けたい所だけど……。
  ルヴィエラが出て来たら、どう仕様も無いからなぁ」

悩むレノックに対して、補佐は小声で告げる。

 「大人しく応援を待った方が良いでしょう」

それが賢明な判断だとレノックも頷こうとした時、地響きが起こった。
同時に膨大な魔力の流れを全員が感じる。
魔力観測員が補佐に魔力通信で異変を知らせる。

 「同盟の本拠地から大量の魔力の溢出を確認!」
0134創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/04(月) 19:34:13.87ID:ERwvSJYI
レノックは魔力の溢れ出す源を見詰めて言う。

 「ルヴィエラが動き出したか!」

常識では考えられない、余りに膨大な魔力を目の当たりにして、誰も身動きが取れない。
そもそも地上で魔力が「湧き出る」事が有り得ないのだ。
地上に存在する魔力は限られており、大量の魔力を感知する事は、即ち、周囲の魔力を集める事に、
他ならない。
だが、この現象は違う。
反逆同盟の本拠地から魔力が湧き出している。
親衛隊員も補佐も大隊長さえも言葉を失っていた。
それは畏れと言う感覚だ。
偉大な存在を前にして、冒し難いと感じる心。
強大な存在を前にして、敵わないと感じる心。
人間に限らず、全ての魔法資質を持つ者が感じる、怯懦と平伏、敗北者の精神。
「魔法生命体」としての格の違いを思い知らされ、戦わずして相手を屈服させる程の「力」。
辛うじて、レノックだけが抗える。
彼は呆然としている親衛隊員に声を掛ける。

 「後退して距離を取るんだ!」

 「あ、はい!」

親衛隊員は大隊長を説得して後退する様に指示を出させた。
そこに多くの言葉は要らなかった。
とにかく「恐ろしい」事は誰にでも解るのだ。
0135創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/04(月) 19:39:33.23ID:ERwvSJYI
やがて地響きは大きくなり、大地が割れ裂けるかと思う程に激しく揺れた。
後退した魔導師達は真面に立つ事も出来ず、大地に這って何事も無い事を祈るしか無かった。

 「レ、レノック殿……」

ササンカは震えてレノックに獅噛み付く。
レノックは彼女を安心させるべく、優しく抱き返して囁いた。

 「大丈夫だ。
  何があっても僕が皆を守る」

混乱の極みの中、空が明るさ増して行く怪現象に、誰も彼も奇妙な神聖さを感じていた。
永遠にも思える3点が過ぎ、漸く大地の揺れは収まる。
同時に、深夜の暗闇が戻り、魔導師達の畏怖の感情も嘘の様に消え失せていた。

 「一体何だったんだ……?
  取り敢えず、無事な者の中から4、5人を選んで、調査に向かわせろ」

大隊長は疑問を解消する為、反逆同盟の本拠地に斥候を派遣する。

 「僕も付いて行こう」

レノックが同行を志願すると、大隊長は嫌な顔をしたが、それだけで何も言わずに黙認した。

 「レノック殿、我々も……」

ササンカと親衛隊員もレノックに同行を求めたが、断られる。

 「余り大勢で出掛けては、隠密行動に支障が出る。
  何、心配は要らない。
  僕の予想が正しければ、何も起こらない筈さ」

そう説得されて、一同はレノックを見送った。
0136創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/04(月) 19:40:42.91ID:ERwvSJYI
早朝の森の中は常夏のカターナ地方とは思えない程、静かな冷気に包まれている。
レノックを含めた斥候部隊は、慎重に反逆同盟の本拠地へと向かった。
そこで一行が目にした物は……、

 「き、消えている……?」

何も無い空き地だった。
砦が丸々消失している。

 「逃げられたか……。
  それとも逃げてくれたと言うべきかな」

レノックの独り言に、斥候部隊の者達は複雑な表情をした。
全員「取り逃した」と言う悔しさより、明らかに「見逃してくれた」と言う安堵が勝っていた。
敵は強大で恐ろしい。
魔導師が何百人と集まった所で、勝てる気が全くしなかった。
皆の反応を窺って、レノックは独り思う。

 (少し刺激が強過ぎたか?
  完全に萎縮してしまっている。
  戦える敵と戦うべきでは無い敵を見極めさせる積もりが、これでは戦い自体を忌避し兼ねない。
  どこで出て来るか判らないルヴィエラを恐れて、戦えなくなってしまっては意味が無い)

完全に心を殺している処刑人は、こうした余計な事を考えないだろうが、普通の執行者を含む、
大多数の魔導師は、自分で思考して判断する事を許されている。
故に、強敵を前にして恐怖に足が竦む事もある。
難しい物だとレノックは小さく息を吐いた。
0137創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/04(月) 19:41:02.15ID:ERwvSJYI
ともかく決戦は先送りされた。
反逆同盟の一員であるビュードリュオンは死に、多くの魔導師達が真に恐ろしい物を知った。
否、魔導師達は真に恐ろしい物の片鱗を垣間見たに過ぎない。
未だ本当の恐怖を味わっていないのだ。
これを機に魔導師達が己の分を弁えてくれる事を、レノックは願った。
魔導師が何百人、何千人集まろうと、ルヴィエラを倒す事は不可能なのだ……。
0139創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/05(火) 18:51:34.99ID:EBo0Vnzm
凶事は突然に


所在地不明 反逆同盟の新たな拠点にて


反逆同盟の長マトラは魔導師会に突き止められた拠点を放棄して、極寒の地に魔城を召喚した。
新たな拠点を極寒の地に定めた事に、同盟のメンバー達は不満を口にした。
ゲヴェールトが全員を代表してマトラに抗議する。

 「マトラ様、ここは寒過ぎます。
  拠点とするには不向きかと……」

 「私は何とも無いが?」

魔城の謁見の間にて、玉座に腰掛けたマトラは、気怠い声で答える。
大悪魔には寒さも暑さも関係無いのだ。

 「……不都合があるのは私だけではありません。
  昆虫人のスフィカさんも冷気には弱いでしょう。
  エグゼラの狐も、この寒さには参っています」

 「私に何をしろと言うのか……」

呆れて溜め息を吐く彼女に、ゲヴェールトは改めて訴えた。

 「どこか他の場所に拠点を移す訳には行かないでしょうか?」

 「それは難しいな。
  他の場所では魔導師会に直ぐ嗅ぎ付けられる。
  一々連中の相手をするのは煩わしいよ。
  新たな拠点が欲しければ、自分で造るのだな。
  そろそろ『同盟』の一員として『活躍』しても良い頃だろう?」

マトラは鼻で笑い、ゲヴェールト等の腑甲斐無さを指摘した。
共通魔法社会に反逆する集団の一員でありながら、何の活動もしない事は有り得ないのだ。
0140創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/05(火) 18:52:48.87ID:EBo0Vnzm
ゲヴェールトは反論出来ずに、悄々(すごすご)と立ち去った。
マトラは大きな溜め息を吐き、悉(すっか)り少なくなってしまった同盟のメンバーを思う。

 (ここも寂しくなってしまった物だ。
  弱気の虫が付くのも、解らんでも無い……。
  社会に動揺を与えているのは事実だけど、それだけでは何の利益も無いんだから。
  虚しくもなろうと言う物。
  だけど、尻を叩いて動かしてやらないと行けないってのは、何とも手の掛かる事だねェ。
  ……やっぱり同盟からの離脱者には制裁が必要だったか)

彼女は独り思い立って、玉座から腰を上げると、闇の中に姿を消した。
0141創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/05(火) 18:53:20.50ID:EBo0Vnzm
ブリウォール街道にて


世間を覆う不穏な空気とは裏腹に、晴れた穏やかな日の事。
精霊魔法使いコバルトゥスと、リベラとラントロックの姉弟、未知の魔法使いヘルザ、
そして獣人のテリアと鳥人のフテラの3人と2体は、ブリウォール街道を移動中だった。
獣人テリアと鳥人フテラは人の姿を取って、正体が暴(ば)れない様にしている。
大人しく正体を隠して、執行者との無用な衝突を避ける位の知恵は、2体にもあるのだ。
一行は一応は反逆同盟を止める事を目的としている物の、各地を旅して怪しい噂を聞き付けては、
反逆同盟との関連を調べる程度で、同盟と本格的な敵対はしない積もりだった。
しかし……。
今は未知の魔法使いヘルザが具合を悪くして、無人休憩所でリベラの看病を受けている所。
ヘルザの体調不良の原因は瞭(はっき)りせず、魔法で回復させる事も出来なかった。
どこが悪い訳でも無いのに、何故か魔法資質まで弱っている。
そんな訳で一行は彼女の容体が回復するまで足止めを食っていた。
――ブリウォール街道の中でも、ボルガ地方寄りの所に、森の中を通る道がある。
如何に大街道とは言え、沿道に絶えず商店が並び続けている訳では無い。
寧ろ、商店があるのは長い大街道の中の、本の数通の区間に過ぎず、それ以外は道を切り拓いた、
自然の儘なのが普通だ。
そして、どれだけ人通りが多くても、その様な区間は誰も彼も唯々通り過ぎるだけで、
少し道を外れると、全く人目に付かない。
だから、時々用を足しに道を外れる人が出る。
そんな余談は措いて、そうした「人通りは多いが特に何も無い区間」で一行が小休憩していると、
俄かに空が暗んで、冷たい風が吹き始めた。
天を仰いで眉を顰めるコバルトゥスに、リベラはヘルザから一時離れて問う。

 「一雨来そうですか?」

 「雨なら良いんだけどな……」

彼女は冷たい風と広がる雲に降雨の兆しを見ていたが、優れた魔法資質を持ち、精霊の声を聞ける、
コバルトゥスは恐ろしい物の気配を感じていた。
0142創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/06(水) 19:32:50.88ID:jRrceIgL
彼はリベラに問う。

 「ヘルザちゃんの具合は、どう?」

 「中々良くならない――いえ、寧ろ、酷くなって行ってるみたいで……」

 「彼女は勘が優れているのかも知れない」

暗雲の広がりは世界を覆う様で、昼間だと言うのに、丸で真夜中の如くになった。
吹き付ける冷たい風は、丸で真冬の如く。
流石に、これは奇怪(おか)しいと誰でも気付く。
リベラは不安気にコバルトゥスに身を寄せた。

 「ど、どうなってるんですか、これは……?
  コバルトゥスさん……」

コバルトゥスは彼女の肩を抱いて、冷気の中心を睨む。
そんな2人の様子を見て、ラントロックは不満気な顔をした。
義姉のリベラが他の男を頼るのが面白くないのだ。
その代わりに、フテラとテリアが彼に縋り付く。

 「こ、怖い……。
  マトラ様が来るよ……」

テリアの呟きを聞いて、ラントロックは目を見張る。

 「そんな馬鹿な……。
  あの人が、こんな所に現れるって言うのか?」

敵の親玉が軽々しく出掛けて姿を現すのかと彼は疑った。
しかし、彼女が現れるのであれば、これだけの異変が起きるのも納得出来る。
フテラはラントロックの袖を引っ張って言う。

 「は、早く逃げよう……!
  ここに居たら見付かる!」
0143創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/06(水) 19:34:31.93ID:jRrceIgL
彼女の忠告を受けて、ラントロックはコバルトゥスに呼び掛けた。

 「小父さん、マトラが現れるって!」

 「マトラって、あの女だろう?」

コバルトゥスは一度マトラと対面した事があった。
その時、彼女は精霊魔法に怯んで撤退した。
そこまで脅威になるのかと彼は疑問に思い続けていた。
もしかしたら返り討ちに出来るのでは無いかとも思うのだ。
だが、今の彼はリベラやラントロックを預かっている身。
危険が及ぶのが我が身だけなら未だしも、もしもの事を考えれば、ここで無理は出来ない。
彼はリベラに言う。

 「リベラちゃん、ラントロック達を連れて離れているんだ。
  『あれ』の目的が何かは判らないけれど、徒事じゃない事だけは確かだ」

コバルトゥスの指差す先、暗雲の中心には、真っ黒な雲の塊がある。
そこにマトラ事ルヴィエラが居るのだ。

 「コバルトゥスさんは……?」

 「一寸『あれ』の相手をしてみようと思う」

 「や、止めた方が良いですよ。
  一緒に逃げましょう。
  ヘルザちゃんも連れて――」

 「ヘルザちゃんには構わない方が良い。
  巻き込んでしまうだけだ。
  俺が奴の注意を引き付けておく。
  何れ戦う事になる相手なんだから、少し位は実力を見ておかないとな。
  大丈夫、逃げ足には自信がある」

その余裕の態度が、リベラを逆に益々不安にさせる。
0144創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/06(水) 19:40:22.85ID:jRrceIgL
この儘だとリベラも残り兼ねないので、ラントロックは彼女を急かした。

 「義姉さん、早く!」

リベラは一度ラントロックを見て、再びコバルトゥスに振り返る。

 「無理はしないで下さい」

 「ああ、分かってるよ」

コバルトゥスはウィンクして彼女に背を向け、迫り来る黒雲を見上げた。
彼以外は道を外れて、近くの森の中に駆け込む。
通行人も異変を察知して、足早に先に進んだり、来た道を引き返したりしている。
人気が無くなった大街道の真ん中で、独りコバルトゥスは精霊石を高く掲げた。

 「火の精霊よ、我が願いを聞き届け給え!
  その輝きを以って、闇を払い給わん!」

彼は精霊石を発光させた後、更に呪文を詠唱する。

 「光は集いて一振りの剣となる!」

精霊石は一層輝きを増しながら収束して、一条の光の束となる。
コバルトゥスは精霊石から無限に伸びる光の剣を、黒雲に向けた。
しかし、光は黒雲に吸い込まれるだけで、何の反応も無い。

 「……効いていないのか?」
0145創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/07(木) 18:38:26.28ID:NpJnvyEp
コバルトゥスは光の剣を照射した儘、黒雲からの反撃を待った。
嫌がらせの様な攻撃が効いていたのか、黒雲は彼の頭上に来ると、粘着いた黒い雨を降らせる。

 「うわっ、何だ、こりゃ!?」

コバルトゥスは光の剣を収め、器用に風を操って、黒い雨を浴びない様にした。
大地に溜まった黒い水は、複数の場所に寄り集まって黒い怪物の姿になる。
全部で6体。
それぞれの怪物は異なる姿を取っている。
ある物は犬の様であり、ある物は魚の様であり、又、熊の様であり、蟹の様であり、雄牛の様であり、
百足の様である。
怪物は緩りとした動きで、コバルトゥスを取り囲んだ。
黒雲は彼の頭上を通り過ぎて、大街道を外れ、森の中に向かう。

 (攻撃して来る者を無視してまで、誰を狙っている!?
  ラントロックか、それとも……)

コバルトゥスは再び光の剣を振るい、黒い液体の怪物達を薙ぎ払う。

 「退(ど)けっ!!」

光の剣を浴びた黒い液体の怪物達は、一瞬で蒸発した。
コバルトゥスは急いでリベラ等と合流しようとするが、精霊石が反応しない。
精霊石に込めた力を、今の戦いで使い切ってしまったのだ。
普通なら自然界に存在する魔力を回収する事で、精霊魔法を使うのに支障は出ない筈なのだが、
暗雲の影響で周囲の魔力が悪影響を受けて、利用し難くなっている。
0146創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/07(木) 18:39:31.10ID:NpJnvyEp
コバルトゥスは自分の足で走り、黒雲を追った。
何時もより体が重く、思う様に動けていないと感じるのは、魔法に慣れ過ぎた為か……。

 (俺が駆け付けるまで、無事で居てくれよ、皆!)

彼は祈る様な気持ちで、森の中に駆け込む。
一方、森の中を走っていたリベラ等は、黒雲が自分達を追って来ると理解し始めていた。
テリアは泣き言を漏らす。

 「や、やっぱり、マトラ様に逆らうんじゃなかった……!
  屹度、私達を粛清しに来たんだ!」

それを聞いたラントロックは彼女とフテラに言った。

 「フテラさん、テリアさん、俺達を置いて逃げてくれ。
  この儘、皆揃って全滅する位なら、そっちの方が良い」

フテラとテリアは人間であるリベラとラントロックに足を合わせている。
本気で逃走すれば、もっと遠くに逃げられる筈なのだ。
だが、フテラは頷かない。

 「そんな事は出来ない。
  私達は一緒だ」

お言葉に甘えて逃げ出そうと考えていたテリアは、慌てて言い繕う。

 「そ、そうだよ、そんな卑怯な真似が出来る物か!」

 「でも、この儘だと……」

そんな事を言っている内に、黒雲は一行の頭上まで来て、黒い雨を降らせた。
0147創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/07(木) 18:40:49.53ID:NpJnvyEp
黒い雨は森の木々を濡らしながら、地面に集まって、人の姿を取る。
それは丸で兵士の様だ。
鎧兜を身に着けて、手には槍を持っている。
黒い液体の兵士は数を増やして行き、十数人にもなって、一行を取り囲んだ。
闇は徐々に深まって行き、黒い兵士達をも呑み込んで、夜より暗い闇が辺りを支配する。
2人と2体は体を寄せ合い、お互いの存在を確かめた。
そうでもしなければ、暗闇の中で孤立してしまいそうだった。
闇の中では空も大地も失われ、全てが黒に包まれている。
マトラ事ルヴィエラは、暗闇の底から姿を現した。
リベラとラントロックは身構えるが、フテラとテリアは恐怖に縮み上がっている。
ラントロックは強気にマトラに尋ねた。

 「今更、俺達に何の用だ!」

マトラは不気味に笑って言う。

 「実は、戻って来て貰えないかと思ってな。
  同盟のメンバーも数が減って寂しくなってしまった」

 「そんな事を言っても、もう遅い!
  何も彼も、あんたが同盟の事を真剣に考えて来なかった所為だ!
  だから、皆死んで行ったんじゃないか!」

ラントロックの抗議にも彼女は平然として、申し訳無さを感じさせない。

 「どうも私は去る者を追うのが苦手でな。
  説得して止めてやる事が出来なかった。
  共通魔法使いと積極的に戦おうと言う者は貴重だったと、今更ながら気付いたのだ」

 「俺達を連れ戻して、どうしようって言うんだ?
  共通魔法使いと戦わせようって?
  冗談じゃない!」

言葉だけは反省している風のマトラに、ラントロックは威勢良く啖呵を切る。
0148創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/08(金) 19:09:49.58ID:/eshIdKB
マトラは両腕を胸の前で組んで、困った様に笑った。

 「中々頑固だな。
  そこまで嫌と言う者を無理遣り従わせるのも骨だ。
  『私の』敵になると言う認識で良いのだな?」

脅しを含めた問にも、ラントロックは屈しない。
若さと勢いだけで押し切る。
それはマトラの真の恐ろしさを知らないが故の無謀な勇気だ。

 「ああ!」

マトラは意地悪く笑って、今度はフテラとテリアに目を遣る。

 「お前達も同じか?」

震えて何も言えない2体に対し、彼女は嘲る様に更に問う。

 「私を裏切るのか?」

テリアは恐怖に耐え切れず、言い訳した。

 「い、いえ、そんな積もりは……」

 「では、どう言う積もりだ?
  所詮、お前達は人外の存在。
  人を食らう宿命の怪物だと言うのに、我が膝下を離れて、どうする積もりだったのか」

弱者を詰るマトラは本当に楽しそうだ。
数多の魔法使いの中でも、最も性格が悪いと言われるだけはある。
0149創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/08(金) 19:10:51.88ID:/eshIdKB
リベラはマトラの態度に怒りを覚えて、フテラとテリアの2体を庇い立った。

 「卑怯な!!
  脅して言う事を聞かせるなんて!」

意外な指摘にマトラは向きになって感情を露に反論する。

 「卑怯……?
  小娘がっ、粋がるなよ!!
  悪魔公爵の私に対して卑怯等と……!
  どこが卑怯だって言うんだい、ええ!?
  力弱いからと言って、脅しに屈する奴が悪いんじゃないか!
  悪魔は強者こそが絶対なんだ!
  弱者は踏み躙られて当然なんだよ!」

強大な悪魔貴族を卑怯と面罵する事は、絶対にしては行けない事だ。
誇り高い悪魔貴族は正面からの堂々とした力尽くを好む。
それは悪でも恥でも無く、正しい事なのだ。
フテラとテリアは逆上するマトラに益々怯えてしまった。
テリアは恐怖心を抑えられなくなり、堪らず逃走を図る。
それをマトラが見逃す筈は無く、彼女に向けて黒い雷を落とす。

 「こらっ、逃げるんじゃないよ!
  お前に人間の姿は未だ早かった様だねェ!!」

 「ギャーーッ!!」

落雷を受けたテリアは小さく縮み、一瞬で猫に変えられてしまった。
魔獣ですら無い、極々普通の猫だ。
0150創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/08(金) 19:15:03.35ID:/eshIdKB
知能まで獣以下に後退したテリアは、自分の姿に疑問を持つ事も無く、只管に逃走して、
闇の向こうに姿を消す。
マトラは次にフテラを睨んだ。

 「私に逆らうと言う事は、『あの様に』なると言う事だ……。
  何百何千年生きた魔物だろうと、私の前では小動物も同然。
  魔性を奪われ、命短い畜生に成り下がりたいか?」

それは長い年月を掛けて「成り上がった」フテラには、死刑宣告に近い脅しだった。
テリアを猫に変化させた魔法は、時が経てば解ける様な一時的な物ではない。
不可逆の絶対的で永続的な「退化」だ。
彼女は平伏してマトラに許しを乞う。

 「お、お許し下さい、マトラ様……!」

その姿にリベラとラントロックは衝撃を受ける。
フテラは恐怖の余り、マトラに屈したのだ。
マトラは心底愉快そうに邪悪な笑みを浮かべた。

 「良い良い。
  では、私と来てくれるな?」

フテラは弱々しい瞳で、許しを乞う様にリベラとラントロックの2人を見る。
ラントロックは強気にフテラを見詰めて、首を横に振った。
彼はマトラを睨んで言う。

 「フテラさんは連れて行かせない!」

マトラは高笑いした。

 「ファハハ、可愛いなぁ!
  丸で身分を弁えぬ、無知な子犬の如きよ!」

フテラは蒼い顔でラントロックを止める。

 「止せ、トロウィヤウィッチ!
  私が降れば、それで済むのだ」
0151創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/09(土) 18:47:24.88ID:B5/RrZMs
それは彼女なりに考えた上での行動だった。
自己犠牲の精神にマトラは大いに満足する。

 「そうそう、物分かりが良いな。
  賢い子は好きだよ。
  お出で」

彼女は手招きしてフテラを誘う。
フテラはラントロックに申し訳無さそうな一瞥を呉れて、マトラの元へ歩いて行った。
マトラは彼女の肩を叩いて、リベラとラントロックに振り向かせる。

 「では、私からの命令だ。
  そこの2人を殺せ。
  勿論、聞いてくれるよな?
  我が忠実な下僕よ」

リベラとラントロックは同時に言う。

 「卑劣なっ!!」

 「私が直接手を下しても良いのだが、それでは忠誠心を測れぬからな。
  どうした、何を躊躇う事がある?
  やれ!!」

罵倒も意に介さず、マトラはフテラに改めて命じた。
正か、こうなるとは思わず、フテラはマトラに許しを乞う。

 「マトラ様、どうか、お許しを……」

 「ならぬ!
  同盟を裏切ったのはトロウィヤウィッチも同じ事」
0152創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/09(土) 18:49:03.39ID:B5/RrZMs
必死の哀願もマトラに切り捨てられて、フテラは愈々困り果てた。
リベラとラントロックはマトラを睨んで身構えている。
フテラは己の勇気の無さを呪った。
本人の居ない所では、どれだけ平気で裏切りを働けても、結局強い者には逆らえないのだ。
マトラは何も出来ないフテラに、疑問の言葉を投げ掛ける。

 「何を躊躇う事がある?
  この私以上に恐ろしい物が存在するのか?
  お前が生き続ける為には、私に従う他に無いのだ。
  自分の心に素直になれ」

口では優しく言いながらも、マトラの目は少しも笑っていなかった。
彼女はフテラの本心、戦いから逃げたがる怯懦の心を見抜いているのだ。

 「……お前も人間の姿は未だ早かったか……。
  形(なり)ばかり人でも、心が伴わぬ物を、人とは呼ばぬよ」

天から落ちる黒い雷がフテラを打ち、彼女の姿を1羽の烏に変える。
フテラも又、猫に変えられたテリアの様に、遠くへ飛び去る。
ラントロックはマトラに怒りの言葉を打付けた。

 「何て事をするんだ!!」

 「私は何も悪い事はしていないよ。
  奴等に人間の姿は未だ早かった。
  それだけの事だ。
  恐怖に耐えて戦うでも無く、割り切って私に従う事も出来ず、その心は逃避を望んでいた。
  私は望みを叶えてやっただけ」

彼女の反論は詭弁染みていたが、嘘は無かった。
0153創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/09(土) 18:50:20.21ID:B5/RrZMs
マトラはラントロックを真っ直ぐ見詰めて言う。

 「さて、トロウィヤウィッチ、お前の番だ。
  改めて問おう、お前は私の下に降るか?
  否と答えれば――」

 「断る!!」

言い切らない内に拒否されたので、マトラは少し機嫌を損ねた。

 「命が惜しくない様だな」

 「そんな事は無い!」

 「……えー、詰まり?
  命は惜しいが、私に従うのは嫌だと。
  巫山戯けているのか?」

 「巫山戯けてなんかいない」

 「正か、私に勝てると思っているのか?」

その問にラントロックは答えられなかった。
勝てると言う自信は無い。
だが、ここで弱気に取り憑かれて、屈服する事だけは嫌だった。

 「勝てないと判っていながら、戦うか……。
  それも人間らしいのかもな。
  では、儚く散るが良い」

マトラは片手を上げて、強い圧力を発生させる。
0154創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/10(日) 18:45:17.38ID:VteYXGje
 「何時でも心変わりして良いぞ。
  真綿で首を絞められる様に、熟りと苦しんで行け」

彼女は緩やかに苦しみを増して行かせる事で、2人の変心を望んでいる。
――否、変心が起こるのは副次的な物だ。
実際は、そんな事等、考えてはいない。
彼女は人の苦しむ顔を見たいだけ。
保身と本心との間で葛藤し、保身を優先して屈する姿を見たい。
或いは、本心を貫いて、恨みを持ちながら苦痛に歪む顔を見たいのだ。
リベラはマトラの攻撃を防御する術を持たない。
魔法資質の差が大き過ぎて、防御に魔法を使う事が出来ない。
ラントロックは「裏技」で魔法を使えるが、正面からマトラと当たって打ち克つ事は難しい。
どこかで不意を突く事が出来なければ……。
その時、リベラが隠し持って(存在を忘れて)いた懐剣が輝いた。
ゲントレンから渡された守り刀だ。
攻撃的な魔力の流れを感知して、鞘と刀身に描かれた魔法陣から守護の魔法が自動で発動する。
マトラは驚きつつも、それが脅威で無い事を直ぐに見抜き、小さく笑う。

 「無駄な抵抗を……」

確かに、守り刀の魔法も1点と保たないだろう。
その間に何とか出来ないかとリベラはラントロックに問う。

 「ラント、貴方、何か持ってない?」

 「何かって、俺は道具なんか、そんな……」

何も無いと答えようとした彼は、1つだけある事に気付いた。
0155創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/10(日) 18:47:30.25ID:VteYXGje
彼は懐を漁って小瓶を取り出すと、逆様にして中の水を地面に覆(こぼ)し、水溜まりを作る。
これは魚人のネーラを召喚する為の水だ。
水の正体を知らないマトラは、小首を傾げる。

 「何をしている?」

ラントロックは守り刀の輝きを反射する水溜まりの水面を見詰めた。
そこには見覚えのある風景が映っている。
ソーシェの森の中に建てられたウィローの住家だ。
水溜まりの中では、ネーラがウィローの住家の裏庭にある井戸の傍で、水仕事をしていた。
――水を通じて空間が繋がった瞬間、ネーラはマトラの強力な魔力を感じて震えた。
そして、ラントロックの危機を理解した。
彼女は水が張られた洗濯桶に飛び込むと、瞬時にラントロック等の元に転移する。

 「トロウィヤウィッチ!」

彼女は上半身を水溜まりから出して、ラントロックの足を掴んだ。
そして強い力で水溜まりの中に引き摺り込む。
ラントロックはリベラに手を伸ばして、呼び掛ける。

 「義姉さん、俺に掴まって!
  逃げるよ!」

リベラは彼の手を掴み、諸共にネーラに水の中に引き込まれる。
同時に守り刀が折れて、その効力を失った。

 「ムッ、未だ奴が居たか!!」

マトラはネーラの姿を見て、眉を顰める。
既にリベラとラントロックは水溜まりの中に姿を消した後。
0156創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/10(日) 18:49:08.04ID:VteYXGje
ネーラによってリベラとラントロックは、ウィローの住家に転移させられた。
洗濯桶の中から飛び出した2人は、芝の上に転がって、肩で息をする。
ネーラは直ぐに洗濯桶を引っ繰り返し、水鏡を封じて、マトラが追跡出来ない様にした。

 「あ、有り難う、ネーラさん。
  助かったよ……」

ラントロックは安堵の息を吐きながら、ネーラに礼を言う。
ネーラは彼を睨んで厳しい言葉を打付けた。

 「私が居なければ主は殺されていた」

 「あ、ああ」

それは否定出来ない事実だ。
ラントロックは肯かざるを得ない。

 「もう危険な事は止めてくれ……。
  私は主を失いたくはないよ」

真剣なネーラの訴えに、彼は怯んだ。
反逆同盟と戦っていれば、何れルヴィエラとの衝突は避けられなくなる。
それでもラントロックは首を横に振り、彼女を抱き締めながら言う。

 「有り難う、ネーラさん。
  俺の事を心配してくれて。
  でも、俺は逃げ出す訳には行かない。
  解ってくれないか?」

ネーラは何も言えなくなり、抱かれる儘だ。
その様子にリベラは女誑しだなと思いながら、義弟に冷めた視線を送っていた。
0157創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/11(月) 18:32:53.65ID:uzqulgfT
2人を取り逃したマトラは小さく息を吐く。

 「まあ良い、2体は始末した。
  次第に野生に帰り、永遠に元に戻る事はあるまい」

彼女は全く興味が失せた様に引き揚げる。
黒雲は瞬く間に収まり、晴天が戻った。
凍える様に冷たい風も穏やかで温かい物に変わる。
マトラが存在していた痕跡は影も無い。
彼女が創り出した空間では、時間の流れが歪む。
長らく話し合っていた様に思えても、現実の時間では1点も経過していない。
悪魔公爵の能力を以ってすれば、その位の事は容易に可能なのだ。
コバルトゥスがリベラ等の居た場所に駆け付けた時には、既に誰も居なかった。

 「遅かったか……!」

彼は焦燥を露にして、力の戻った精霊石を高く掲げた。

 「応えてくれ、リベラちゃん!」

彼はリベラにも精霊石を持たせている。
精霊石同士は感応して、通信機の様な役割も果たす。
もし無事ならば応答がある筈だ。
精霊石の中を覗き込むと、彼女が持つ精霊石の風景が映り込む……。
0158創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/11(月) 18:34:14.68ID:uzqulgfT
ウィローの住家で休んでいたリベラは、バックパックからの魔力反応に気付いて、中を漁り、
輝く精霊石を取り出した。
精霊石を見詰めると、その中にコバルトゥスの顔が映る。

 「あ、コバルトゥスさん!
  大丈夫ですか?」

 「大丈夫かって、こっちの台詞だよ!
  全員無事なのかい?」

コバルトゥスの問にリベラは表情を曇らせた。

 「……全員ではありません。
  フテラさんとテリアさんが……」

 「彼女達が?」

 「動物に変えられてしまって……。
  どこかに逃げ出した儘なんです。
  その辺に猫と烏が居ませんか?」

コバルトゥスは辺りを見回したが、それらしい物は見当たらない。
魔力の反応を探ってみても、特に引っ掛かる物は無かった。

 「いや、全然……分からない。
  とにかくリベラちゃん達だけでも無事で良かった。
  今、どこに居る?」

 「ウィローさんの家です」

 「そりゃ豪い遠くに……。
  直ぐ、そっちに向かうよ」

 「ヘルザちゃんの事、忘れないで下さい」

 「分かってる、分かってる」
0159創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/11(月) 18:35:21.41ID:uzqulgfT
そう返事をした彼は精霊石による通信を終えて、ヘルザの元に引き返した。
ヘルザは起き上がって、不安気な顔で待っていた。
彼女はコバルトゥスを認めると、急いで駆け寄る。

 「コバルトゥスさん、皆は無事ですか!?」

 「ああ、どうにか遠くに逃げた様だ。
  ……でも、フテラとテリアが……」

殺されてしまったのかと早合点して、ヘルザはショックを受けた顔で口元を押さえた。
コバルトゥスは慌てて言葉を継ぎ足す。

 「いや、死んでしまった訳じゃなくて、動物に姿を変えさせられてしまったらしい。
  どこに逃げたのか……。
  とにかくラント達と合流しよう。
  所で、もう具合は良いのかい?」

彼の問にヘルザは俯いて答える。

 「はい……。
  雲が晴れると同時に、気分も良くなって……」

 「それは良かった」

安堵するコバルトゥスだったが、ヘルザは強く否定した。

 「良くありません!
  私は恥ずかしいです。
  私も戦わないと行けない時に、自分だけ気分悪くなって倒れているなんて……」

彼女は自分の体調が悪化した原因に心当たりがある様子だった。
0160創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/12(火) 18:34:06.72ID:SSt0q3lj
コバルトゥスも確信までは持っていないが、何と無く彼女の体調不良の原因は察している。
恐らくは、マトラ事ルヴィエラの強大な魔法資質に中てられて、本能的に身を守る対応をしたのだ。
言い方は悪いが、所謂「仮病」、狸寝入りの様な物だ。
魔法資質を抑えて、相手に見付からない様に弱体化した様に振る舞う。
意図して行っている訳では無く、本能的に身に付いた物だから、自分で制御も出来ない。
コバルトゥスはヘルザを慰めた。

 「でも、それで助かったとも言える。
  もしかしたら君は、俺達より早く予兆を掴んでいるのかも知れない。
  魔法資質が優れているのか、それとも他の感覚とのリンクが鋭敏で繊細なのか……。
  どちらにしても、上手く利用出来れば、例えば不意打ちを防いだり、活用方法はあると思う」

 「私でも、お役に立てるんですか?
  どんな事でもします!」

 「ああ、そう言う事は余り言わない様にしようね。
  何でもとか、どんな事でもとか、そう言うのは」

コバルトゥスは苦笑いして、彼女の肩に手を置く。

 「これからラント達と合流しに行く。
  今はソーシェの森に居るらしい」

 「ソーシェの森?」

 「……魔女の婆さんの家だよ」

 「ええっ、そんな遠くに……って、あっ、ネーラさんか!」

遠隔地に瞬間移動する魔法をヘルザは知っていた。
0161創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/12(火) 18:35:04.67ID:SSt0q3lj
コバルトゥスとヘルザはレノックの助力で、空を旅してソーシェの森に飛んだ。
フテラとテリアを失い、一行は再びウィローの住家に戻される。
そこで全員で改めて、反逆同盟と戦う旅の危険に就いて、話し合う事となった。
ラントロックは正直に、マトラが自分達を襲った理由を語る。

 「マトラは俺達を裏切り者として始末しようとしていた。
  今回は逃げられたけど、次は分からない。
  ヘルザ、それでも未だ俺と来るかい?」

ヘルザは即断で肯いた。

 「私も裏切り者なんだし……。
  私にも出来る事があるなら。
  どんなに危険でも良いよ」

次にラントロックはコバルトゥスとリベラを見る。

 「小父さんと義姉さんも、良いの?
  俺達と一緒に居ると、又マトラに狙われるかも知れない」

リベラは強気に答えた。

 「だからって、家族を見捨てる人が居るの?
  余計に放って置けないでしょう」

コバルトゥスも続いて頷く。

 「敵の親玉が向こうから出向いてくれるなら、好都合じゃないか」

ラントロックは何だか嬉しくなって、含羞みながら答えた。

 「有り難う、皆」
0162創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/12(火) 18:35:36.81ID:SSt0q3lj
それを見ていたネーラは、ラントロックに改めて水を詰めた小瓶を渡す。

 「主の力になりたいと思っているのは、私も同じだよ。
  フテラとテリアの事は残念だったけど、私の力が必要になったら、何時でも呼んでくれ」

ラントロックは小瓶を受け取りつつ、この場に残る彼女が心配で言った。

 「ネーラさんこそ大丈夫なのかい?
  もし、ここにマトラが現れたら……」

 「私には水鏡の魔法があるから大丈夫。
  海でも川でも、どこにでも逃げられる」

遣り取りを傍で聞いていたウィローは眉を顰める。

 「私が大丈夫じゃないんだけどね……」

リベラは申し訳無さそうに、彼女に言う。

 「ウィローさんも私達と一緒に行きませんか?」

 「ヘッ、冗談だよ。
  若い子には付いて行けないさ。
  私も旧い魔法使いの一人、自分の事は自分で何とかするさね」

ウィローは苦笑いして断った。
こうして一行は再び反逆同盟と戦う決意を新たにする。
人の姿を失って逃走してしまったフテラとテリアも探しながら……。
0164創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/13(水) 18:30:32.21ID:9LNLgkWn
悪魔の支配する街


所在地不明 極北の地 反逆同盟の拠点にて


反逆同盟の拠点に帰還したルヴィエラを待っていたのは、血の魔法使いゲヴェールトの体を借りた、
彼の祖先ヴァールハイトだった。

 「マトラ公、どこに行っていた?」

 「裏切り者を処分しにな」

 「誰の事だ?」

 「B3Fのフテラとテリアだ。
  魔性を奪い、動物に戻してやった」

マトラは失敗したラントロックの事は口にせず、恰も目的は完全に達成したかの様に答える。
ヴァールハイトの顔が少し緊張した。
マトラは彼の顔を見て意地悪く笑う。

 「お前達も私に処分されたくなければ、少しは役に立って見せろ。
  どうすれば私に『貢献』出来るのか考えるのだな」

それは何も行動を起こさなければ、何れ処分すると言う宣言とヴァールハイトは受け取った。

 「……分かった。
  私も無為に過ごしていた訳では無い。
  温めていた計画を実行に移すとしよう」

 「期待しているぞ」

漸く動き出した彼に、マトラは満足して頷いた。
そして相手を思い通りに動かすには、やはり恐怖が必要なのだと確信したのだった。
0165創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/13(水) 18:31:07.33ID:9LNLgkWn
ブリンガー地方北東部の都市マールティンにて


マールティン市はブリンガー地方の中でも古い景観を残した都市である。
現在でも妖獣から街を守る為の外壁が残っており、その様は旧暦の城塞都市を思わせる。
外壁は補修を繰り返して、復興期の外観を保っているが、これは観光の為であり、今時妖獣の襲撃に、
怯える様な人は居ない。
しかしながら、ブリンガー地方の中でも開発が遅く、長らく妖獣が脅威だった事実があり、
それ故に他の都市が外壁を撤去した後も、ここには外壁が残った。
マールティン市は北にシェルフ山脈、南にベル川に繋がるワルル川、東西にドゥーテの森があり、
宛ら陸の孤島であった。
ドゥーテの森は『猜疑』を意味する名の通り、人を惑わす森とされており、行方不明者が多発する、
不気味な森とされている。
迷信深い田舎者達は、この森の開発には乗り気で無かった。
地理的にシェルフ山脈を越える事は論外。
その為に他都市との交流には南のワルル川を越える必要があり、これがマールティン市周辺の、
開発が進まなかった理由である。
今ではワルル川に橋が架けられ、交通の便も幾らか良くなったが、マールティン市は辺境都市と言う、
扱いに変わりは無い。
0166創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/13(水) 18:32:36.30ID:9LNLgkWn
ヴァールハイトが狙ったのは、このマールティン市だった。
余り人の交流が活発で無く、都市を囲む外壁もある為に人の出入りの管理がし易い。
領地にするなら、ここを候補の一つにと彼は決めていた。
自分の血を飲ませた者を操ると言う、彼の特殊な魔法の性質は、近代化された都市の掌握に、
とても都合が好い。
田舎の小村では精々井戸水に血を混ぜる位しか方法は無かったが、上水道の整備された所では、
主要な配水管に血液を混ぜるだけで良い。
彼の血は1杯の水に1滴垂らすだけで効果がある。
これを飲んだ者はヴァールハイトの命令で、自由意思を失って動く人形の様になる。
血液の摂取を繰り返し、より支配が強まれば、記憶や意識の改竄も行える。
それも命令が下るまでは、全く自覚が無く、問題無く日常生活が送れるので、もしかしたら、
一生操られていると気付かないかも知れない。
その地域で暮らしていれば、水道の水を飲まない者は殆ど居ない。
ヴァールハイトは水道水に血液を混ぜてから、定期的にマールティン市を訪れて、自分の血の支配が、
どの程度まで浸透しているか確かめた。
そして、市内の殆ど全員が血の支配下に置かれた事を認識して、密かに行動に移った。
彼は市役所にて戸籍を改竄し、昔から馴染みのあった人物の様に振る舞い、やがては市長よりも、
遥かに権力を持つ影の存在となった。
0167創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/14(木) 19:50:57.63ID:anPmDBgf
それは引退した政治家の様な存在だ。
実質的な権力を持たない筈のに発言力と影響力があり、影で有力者達を動かす……。
もし正気の人間が居たなら、聞いた事も無い様な人物が何時の間にか、マールティン市の大物として、
君臨している事を奇妙に思うだろう。
しかし、この市内に暮らしている人間は、彼の存在を疑問に思う事が出来ない……。
否、1人だけ居た。
それは市内の魔法道具店の店員マトリ・タカラだった。
タカラはボルガ地方出身の魔導師で、マールティン市の水が体に合わなかった。
故に、水道水を口にする事は無く、態々飲料水を雑貨屋で買っていた。
念には念を入れて、調理に使う水まで売り物の飲料水を使う位の徹底振り。
この為にタカラはヴァールハイトの血の魔法に影響されずに済んでいたのである。
彼女が異変に気付いたのは、店長との何気無い会話中だった。

 「タカラ君、今日は例の集会に出掛けるから、留守を宜しく」

 「例のって何ですか?」

 「あれだよ、マイストルさんの」

 「マイストル?」

 「あれ?
  タカラ君は知らないの?
  マイストル・レッドールさんだよ。
  超有名人じゃないか」

タカラは彼が何を言っているか解らず、気味悪く感じた。
0168創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/14(木) 19:51:56.21ID:anPmDBgf
店長は半笑いで丁寧に説明する。

 「知らないって事は無いだろう?
  タカラ君、ここに来て何年?」

 「えー、4年ですが……」

 「4年も居たら、どこかで話位は聞いてると思うけどなぁ?
  マールティン市では、とにかくマイストルさんに話を通さないと事が進まないんだよ」

 「初耳です」

 「最初に説明したと思うけどなー?」

 「どんな人なんですか?」

 「全く知らないの!?
  ウーム……。
  でも、余り人前に姿を現す人ではないから、有り得ない事では無いのかな……」

タカラは自分の記憶を疑い、何度も自分自身に問い直してみたが、知らない物は知らない。
店長は更に意味不明な説明を始める。

 「いや、しかし、数月に一度は集会があるからな……。
  知らない筈は無いんだよ」

 「集会も初耳なんですけど……。
  そんな習慣ありませんでしたよね?」

 「いや、あったよ?
  タカラ君、大丈夫?」

自分が奇怪しいのかと、タカラは段々自信が無くなって来た。
0169創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/14(木) 19:53:36.98ID:anPmDBgf
彼女が腑に落ちない心持ちで店番をしていると、顔馴染みの客が話し掛けて来る。

 「今日は、タカラさん。
  店長は?」

 「集会です」

 「あぁ、マイストルさんの所か!
  そうだった、そうだった。
  集会の日だったね」

この客もマイストルと言う人物を知っている。
タカラは愈々自分に自信が無くなって来た。
彼女は馴染み客に問う。

 「集会って何をするんですか?」

 「えっ、知らないのかい?
  タカラさんは一寸前に来たばかりだから仕方無いのかな?
  市内の有力者、詰まり、市長とか地区長とか社長とか、大きな店だと支社長の事もあるけど、
  そう言う人達がマイストルさんの呼び掛けで集まって、色々話し合うんだよ。
  街の将来とか、何か事業を興そうとか、そう言う事で後々問題が起こらない様にとかね。
  マイストルさんは調整役って所かな」

やはり聞いた事が無いと、タカラは首を捻った。
4年も暮らしていて、一度たりとも、そんな話は耳にしなかった。
最近始まった習慣なら未だ解るが、そうでも無い。
暫く途絶えていて、最近になって再び始まったと言う訳でも無い。
0170創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/15(金) 19:02:06.01ID:BZ4Ab673
夕方に帰って来た店長に、タカラは尋ねる。

 「お帰りなさい。
  集会の様子は、どうでしたか?」

 「はは、どうって事は無いよ。
  近況を報告して、食事なんかして、それで解散さ。
  飲み会みたいな物だねぇ」

店長の顔は仄り赤く、少し飲んだ後の様だ。
こんな事は今まで一度も無かった。
この店長は真面目な人柄で、勤務中に酒を飲む事は有り得なかった。
集会に出掛けるのは、休養扱いなのだろうか?
それとも仕事だと考えているのか?
タカラは疑いの眼差しを向けて言う。

 「勤務中に飲酒は良くないですよ」

 「あー、いやいや、今日は休暇って事にしとくから。
  固い事言わないで。
  勤務中じゃないから、良いの良いの。
  何時もの事だよ」

飲酒の所為で好い加減になっているのかと彼女は怪しんだ。
「休暇と言う事にしておく」と言う台詞も有り得ない。
店長は公私を確り区切る人だった。
休むなら休むで、最初から決めておく人だ。
飲酒したから休暇と言う事にしようと考える、自堕落な人では無い。
そもそも酒を飲む集会に参加するのが初めてだと言うのに。
0171創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/15(金) 19:03:18.81ID:BZ4Ab673
マイストルと言う人物が何者なのか、タカラは店長に尋ねた。

 「店長、マイストルさんは何をしていた人なんですか?」

 「知らないよ。
  だけど、私が来た時から、今みたいな感じだったから……。
  元市長とか議員とか、そんな所じゃないか?
  魔導師って事は無いからなぁ」

 「店長、何時からマールティン市に勤務してました?」

 「10年位前から」

 「マイストルさんは、どんな感じの人なんです?
  性格とか容姿とか……」

 「年齢にしては若々しい人だよ。
  50歳位だったかな?
  60歳だったかも……。
  とにかく、その位の人だ。
  性格は気削(きさく)だけど、妙な威圧感って言うか、近寄り難い雰囲気がある。
  見た目は白髪交じりで細身だけど、背筋の伸びた人で、若い頃は持てたんだろうなぁって……。
  そうそう、ジョイエルと言う、お孫さんが居るんだ。
  彼の若い頃に、よく似ているらしいけど、余り姿を見せないらしいから、詳しい事は分からない」

そこまで語れると言う事は、少なくともマイストルは実在しているのだろうと感じる。
架空の人物では無い。
では、どうしてタカラは彼の事を知らなかったのか?
偶々知る機会を逸し続けただけなのか?
彼女は混乱の中で徐々にマイストルの存在を認めつつあった。
0172創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/15(金) 19:05:34.30ID:BZ4Ab673
それが覆るのは、翌日の事。
魔法道具店に魔導機の定期発注をしようとしていた時だった。
タカラは店長に尋ねる。

 「発注は先月と同じで良いでしょうか?」

 「あ、待ってくれ!
  在庫それ程減ってないから、今月は要らないよ」

 「えーと、どれの発注を止めるんですか?」

 「どれじゃなくて、要らない」

 「……0って事ですか?
  えっ、全部?
  新製品とか安くなってるのとかありますけど……」

彼女は耳を疑った。
この魔法道具店はマールティン市で魔導機を扱う唯一の店舗だ。
使い捨ての魔力石の様な消耗品まで取り寄せないと言う事は先ず無い。
所が、店長は浅りと切り捨てる。

 「要らない、要らない」

 「無くなったら困りません?
  在庫があると言われても、不測の事態に備えて、常に1月分は余裕を確保しておくって……。
  そう言う話でしたよね?」

欠品があっては市民生活に混乱が生じるのではと、彼女は懸念していた。
事故や災害で納品が遅れる事は有り得るし、運送だけで無く、生産に問題が生じる場合もある。
それは極々常識的な判断だ。

 「これからは方針を変えようと思ってね。
  不良在庫が積み上がるのは良くない。
  欠品が出たら、その時は、その時だ」

店長は楽観的だが、本部から叱責を受けるのではないかと、タカラは心配する。
どうも店長の様子は奇怪しい。
それと言うのも、謎の集会に出掛けてから……。
0173創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/16(土) 19:30:49.84ID:KXMBvXfO
更に翌日、仕事休みのタカラが市内を歩いていると、工事現場に出会した。
そこは最近、魔法陣強化の工事を行ったばかりの所で、何か不手際でもあったのかと彼女は心配する。
一応魔導師であるタカラは、工事現場の交通警備員に話し掛けた。

 「済みません、責任者の方は、どこですか?」

 「えっ、何の用です?」

 「この工事は何なのかと思って。
  最近、工事したばかりですよね?
  何かミスでもあったんですか?」

 「いえ、私には分かりません」

 「……ですから、話の分かる方は、どこですかと」

警備員は迷惑そうな顔をしたが、タカラは引き下がる積もりは無かった。
とても嫌な予感がするのだ。

 「少し待っていて下さい」

警備員は渋々責任者を呼びに行った。
通信機を使わないのかと、タカラは不思議がる。
数点して、警備員は同じく迷惑そうな顔をした現場責任者を連れて、戻って来た。

 「一体、何なんですか?」

責任者は溜め息交じりに問う。
0174創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/16(土) 19:31:51.87ID:KXMBvXfO
タカラは穏やかな口調を心掛けて、彼に尋ねた。

 「この工事は何をしてるんですか?
  魔法陣の強化工事は先月終わった筈ですよね?」

責任者は面倒臭そうに答える。

 「あー、魔法陣の結界が完全じゃなかったんで、張り直しをしようって事になりまして」

 「魔導師会から?」

 「えー、そうなんじゃないでしょうか?」

タカラは彼の回答に嘘がある事を見抜いた。
視線を逸らして、嫌そうな顔をしているのは、追及を避けたがっている証拠。
彼女は鎌を掛ける。

 「魔導師会から、その様な指示があったとは聞いていません」

魔導師会が魔法陣の更新を決定しても、魔法道具店に連絡する事は無い。
同じ魔導師会に属する組織でも、全く無関係の部署と業務なのだから。
責任者は困った顔になって言い訳する。

 「知りませんよ。
  やれと言われたから、やってるんです」

 「誰に?」

 「市長じゃないんですか?
  それか市議会?
  他に道路工事の予算を下ろせる人は居ないでしょう」

ここでも彼は惚けている。
0175創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/16(土) 19:33:55.69ID:KXMBvXfO
中々本当の事を言おうとしない責任者に、タカラは溜め息を吐いた。

 「では、市議会の議事録を見れば経緯が判りますね?」

 「知りませんよ。
  そうじゃないんですか?」

タカラは舌打ちして、彼に詰め寄った。
彼女は魔法資質を高めて凄み、精神的な圧迫感を与える。

 「嘘を吐かないで下さい。
  魔導師に隠し事は無駄です。
  この工事が誰の指示で行われたのか、貴方は知っています」

そして質問をするのでは無く、強気に断定した。

 「わ、私は言われた通りの事をするだけです……。
  社長の指示ですよ……」

 「そう言う事じゃないんですよ。
  その社長が誰の指示を受けていたのか、貴方は知っていますよね?」

 「そ、そこまで判ってるなら、貴女も知ってるでしょう……?
  態々私の口から言わせる必要があるんですか?」

ここまで言ったら、もう自白したも同然だ。
この街で「最も影響力のある人物」は、1人しか居ない。

 (マイストルか……)

念の為に彼女は市役所に赴いて、市議会に議事録の確認をしに行く。
0176創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/17(日) 19:51:34.62ID:T2apEXXM
真面に市議会を通ったのか、それとも議会を無視して横車を押したのか、どちらにしても、
後で更に魔導師会にも確認を求める必要がある。
市役所に着いたタカラは議事録の提出を求めた。
しかし、市議会の議事録には魔法陣を張り直すだとか、魔法陣に問題があると言う様な事は、
一切書かれていなかった。
未だ議事録に書かれない内に、即日工事が行われると言う事があるのかと言えば、先ず無い。
だが、絶対に無いとは言い切れない。
反共通魔法社会組織が暗躍している今、魔法陣の欠陥は重大な危機に繋がる。
魔導師会への連絡を後回しにする事も有り得るかも知れない。
こう言う時に問題が起こらない様に、議事録には正式な文書化する前の、当日の議会の速記をその儘、
議事録に載せる事がある。
それも出来ない場合は、何日に何の議題で市議会が開かれたかと言う事だけでも、書き記しておく。
そうした痕跡も無いと言う事は、市議会で魔法陣の何や彼やが議題になった事は無いと言う事だ。
市役所を後にしたタカラは、次に魔導師会に確認を求める事にした。
これには通報の意味合いもある。
もし邪悪な企みがあるなら、魔導師会が暴いて打ち砕いてくれるだろうと、彼女は期待した。
0177創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/17(日) 19:54:10.93ID:T2apEXXM
魔導師会への連絡は魔力通信によって行うのだが、携帯魔力通信機は比較的高価である。
殆どの魔力通信機は備え付けの物だ。
今は一家に一台は固定の魔力通信機がある時代だが、少し古い家や田舎、貧しい家になると、
魔力通信機が無くとも珍しくは無い。
設置の為の初期費用が高価であり、通信費に上乗せして分割支払いで返済する事になるのだが、
これが中々緊(キツ)いのである。
既に建築された家に後から据え付けるより、新築に設置する方が安価で済むと言う事情もあり、
固定魔力通信機の普及率は都市部でも6割前後と言う所。
優れた魔法資質を持つ魔導師であれば、通信機も必要無いのだが、そんな者は中々居ない。
だが、魔法資質が余り高くない者でも、通信機無しで魔力通信を無料で使える裏技がある。
それは……魔力通信の中継基地の近くで、直接魔力ラジオウェーブに乗る方法だ。
上手くやらないと混信したり、通信内容が漏れる虞があるので、そうそう試そうとする者は居ないが、
タカラは魔導師なので、その技量に関しては問題は無かった。
は独り暮らしで固定の魔力通信機を持っていなかった彼女は、市内にある中継基地を探した。
市内の中継基地は市の中心部にある。
他の中継基地は山の中なので、これが最も利用し易い。
そう彼女は思っていたのだが、この中継基地でも工事が行われていた。
タカラは驚きと共に、恐怖に近い感情を抱き、交通警備員に食って掛かる。

 「何故、工事をしているんですか!?」

 「えぇ、私に聞かれても……。
  危ないですから中に入らないで下さい」

 「責任者を呼んで下さい!
  一体これは、どう言う事ですか!」

タカラは何者か(恐らくはマイストル)が、マールティン市を孤立させようとしていると感じた。
0178創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/17(日) 19:55:17.74ID:T2apEXXM
彼女の剣幕に圧されて、警備員は工事の責任者を呼んで来る。

 「これは誰の指示ですか!?
  魔導師会は何も許可していませんよ!!」

 「そう言われても……。
  私達も仕事だから、やっているだけでして」

 「どこの誰が、やれと言った!?
  こんな事!!」

タカラは責任者に詰め寄り、怒号を放って威圧した。
責任者は後退りしながら、口篭もる。

 「い、いえ、それは……」

 「誰だっ!!」

 「マ、マイストルさんです……。
  魔法陣に欠陥があるから、全ての関連施設を見直すと……。
  工事費用も何とか工面するからと言う話で……」

一体どこに、そんな金があるのかとタカラは疑った。
マイストルは一体どれだけの大人物なのか?
金も権力も持った大物が、全く正体を知られる事も無く、隠居していたと言うのか?
何とか魔導師会に、この異様さを伝えなくてはならないと、彼女は思い切って街を出る事にした。
折角の貴重な休日を潰して、何をしているのかと言う思いはあったが、街に危機が迫っているのだ。
0179創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/18(月) 20:03:31.88ID:Fzmbq7D6
タカラは誰も言わずにマールティン市を脱出する積もりだった。
この街の住人は皆、奇怪しくなっている。
街の出身者だけに限らず、店長までも。
タカラが街を取り囲む外壁を通り抜けようとした所、普段は居ない都市警察の門番が居た。
それも1人や2人では無く、5人程度の集団で。
彼女は困惑する。

 (どうして都市警察が?
  私を外に出さない様に……?
  いやいや、それは流石に考え難い。
  もしかして誰も街から出さない気?)

魔法で門を飛び越えても良いのだが、それより先に事情を知っておこうと、彼女は敢えて自ら、
都市警察に話し掛けた。

 「今日は。
  どうしたんですか?
  何か事件でも?」

都市警察の男性警官は、一礼をして応じる。

 「いえ、最近各地で外道魔法使いの反共通魔法社会組織が暗躍していると言う事で。
  都市警察も魔導師会と協力して、不審人物が居ないかを見張る事になったんです。
  幸い、マールティン市には外壁が残っていますから、ここで人の出入りを監視しようと。
  取り敢えず、ここを通る人には身分証を提示して貰う様にしています」

 「そう言う風に魔導師会から要請が?」

タカラは疑心暗鬼になっていた。
0180創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/19(火) 19:11:24.78ID:aO0bzLDr
警官は自信に満ちた笑顔で答える。

 「具体的な要請があった訳では無いんですけど、都市警察でも出来る事があるんじゃないかと。
  我々都市警察には魔導師会の執行者程の信頼はありませんから……。
  こう言う事で少しでも市民を守る事が出来れば」

 「誰の発案なんですか?」

 「えっと、誰とかじゃなくて、都市警察は都市警察で、出来る事をやって行こうって言う、
  都市警察の自発的な……」

 「本当に自発的なんですか?」

ここでもマイストルの意向が働いているのではと、彼女は疑っていた。
警官は正直に答えようとして、難しい顔になった。

 「……上からの命令って言われたら、それまでなんですけど……。
  えー、詰まり、都市警察全体の動きと言いますか……。
  魔導師会に任せるんじゃなくて、我々も何かしないと存在価値が疑われるって話で……」

 「マイストルさんとは無関係?」

 「それは……どうなんでしょう?
  一寸、分かりません」

マイストルとは無関係なのかと、タカラは安堵する。
そう、幾らマイストルでも、街の全てを掌握する事は、恐らく不可能なのだ。
何も彼もがマイストルの仕業と決め付けてしまうと、今度は味方を失う。
タカラは改めて通行許可を求めた。

 「所で、ブリンガー市まで行きたいんですけど、通して貰えますか?」

 「ブリンガー市に何をしに?」
0181創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/19(火) 19:16:52.67ID:aO0bzLDr
都市警察の問に、彼女は眉を顰める。

 「そこまで言う必要があるんですか?」

 「差し支えなければ、教えて頂けると有り難いです」

丸で戒厳令だと彼女は呆れるが、強ち間違いでも無い。
共通魔法社会は危険な状況にあるのだ。
タカラの態度は、自分の地域が被害に遭っていないからと言う、無関心から来る物に過ぎない。

 「何と言われても困るんですけど……。
  ここを通る全員に一々確認してるんですか?」

 「ええ、はい」

 「えー、じゃあ、買い物って事で。
  身分証の提示が必要なら、はい」

タカラは警官の求めに応じて、適当に理由を付けて、身分証も提示した。
警官は用紙に書き留めて、通行を許可する。

 「どうぞ、お通り下さい」

 「大変ですね」

 「ええ、はい」

2人は互いに愛想笑いする。
こうしてタカラは漸くマールティン市から脱出した。
0182創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/20(水) 19:04:39.14ID:lOeaRz3H
ブリンガー市に着いた彼女は、直ちにブリンガー地方魔導師会本部に駆け込んだ。
そしてマイストル・レッドールなる人物の存在とマールティン市の状況を報告した。
数日の調査の結果、その様な人物は実在する物の、戸籍は最近になって作られた事が判明。
魔導師会は既に音信不通となっているマールティン市に向けて、偵察の為に執行者1部隊を派遣した。
タカラは事態が解決するまでブリンガー市に留まる事に。
所が、送り込んだ執行者が帰って来ない。
連絡はマールティン市到着で途絶えた儘。
これは愈々深刻だと考えた魔導師会は、執行者5部隊、処刑人2部隊の中隊の派遣を決定した。
魔導師会は反逆同盟の一員ゲヴェールトを把握していたが、彼の血の魔法に関する情報は、
全くと言って良い程、持っていなかった。
ゲヴェールトの人格にヴァールハイトが宿っている事も。
マールティン市解放部隊と名付けられた中隊は、これから戦う敵に関して何の情報も無い儘に、
マールティン市に向かった。
そして……、やはり帰って来なかった。
何より奇妙な事は、部隊が突入する前のマールティン市には、普段と変わった様子が、
全く見られない事だった。
魔導師会が送り込んだ執行者の部隊は、連絡を絶つ直前まで映像記録を残していたが、
見慣れない者達が街を支配している訳では無いし、市民が困窮している訳でも無い。
市に出入りする門を見張っているのは都市警察で、これは素直に執行者の指示に従った。
全く戦闘が行われていない所か、敵らしき者の姿も見えない。
そして宿に一泊した翌日に、執行者自らの手によって映像が遮断され、音信不通になる。
0183創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/20(水) 19:05:28.91ID:lOeaRz3H
一体何が原因なのか、ブリンガー魔導師会には全く理解出来なかった。
お手上げ状態だった魔導師会は、遂に相談役レノック・ダッバーディーを招聘して、
助言を求める事になった。
しかしながら、レノックも又、残された映像だけでは何とも判断出来なかった。

 「特に何をされた訳でも無いのに、不思議だねぇ……。
  こう言うのは条件付きで発動する魔法かも知れない。
  何等かの条件が満たされた段階で、魔法の効果が表れるんだ。
  それまでは魔力の流れを感じさせない」

 「それが何なのかを知りたい訳ですが……」

役に立たないなと少し苛立った調子で、執行者の部長はレノックに言う。
レノックは何度も映像が保存された記録石を再生して、やがて答える。

 「ウム、解らない!
  全く解らないから、僕が直接マールティン市に行こう!
  それでマイストルとやらに会ってみようじゃないか!」

 「大丈夫ですか?
  逆に刈られないで下さいよ(※)」

 「多分、大丈夫さ。
  何かあるとしたら、恐らく宿だ」

彼は解らないなりに、予想を付けていた。


※:英語の諺「羊毛を取りに行って、刈られて帰って来る」より。
  ミイラ取りがミイラになる。
0184創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/20(水) 19:07:39.78ID:lOeaRz3H
レノックは何時もの親衛隊の2人は連れずに、隠密魔法使いのフィーゴ・ササンカと、更に、
1人の男性執行者パルティーンと共にマールティン市へと向かった。
そして門に近付く前に、ササンカだけが別行動を取る。
レノックと執行者は普通に都市警察に話を聞きに行った。
先ず都市警察が2人を呼び止める。
彼等はササンカには気付かない。
彼女の隠密魔法は完全に気配を絶つのだ。
門に近付こうとするレノックと執行者に、都市警察は質問する。

 「止まって下さい、身分証を拝見させて下さい」

都市警察に異変は感じられない。
何者かに操られている訳では無い。
執行者は手帳を見せながら問う。

 「執行者だ。
  これは何の為にやっている?」

 「何って、治安維持の為です。
  最近何かと物騒ですから、貴方々ばかりに任せっ切りでは居られないと……」

 「地方警察からの指示か?」

 「明確な指示があった訳ではありませんが、我々も何もしない訳には行かないので」

警官は緊張した面持ちで答える。
その態度には何かを隠そうと言う意図は無いが、対抗心の様な物が感じられた。
0185創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/21(木) 21:47:28.92ID:L1gV5mH9
執行者は足を止めて、警官と熟り話し合った。

 「先に執行者の部隊が来ていた筈だ。
  それも結構な人数の。
  今は何をしている?」

 「街に駐留しています」

 「何だと?」

 「『何だと』と言われても困りますけど……。
  お仕事じゃないんですか?」

執行者の部隊が揃いも揃って、無断で都市に駐留する事が有り得るかと言えば、無い。
あってはならない事だ。

 「そんな指示は出していない。
  今、どこに居る?」

 「どこって……市内のホテルでは?」

執行者は小さく舌打ちして苛立ちを露にした。
警官は苦笑いする。

 「執行者が命令無視ですか……」

 「何か事情があるなら、それを聞かなくてはならない。
  通って良いな?」

執行者の問に警官はレノックを一瞥した。
0186創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/21(木) 21:48:06.50ID:L1gV5mH9
警官は執行者に視線を戻して問う。

 「そこの子供は?
  お子さん……では無いですよね?」

 「当たり前だ。
  この子は幼く見えても我々の協力者だ」

執行者の答を聞いた警官は疑わしい目付きになる。

 「協力者?」

 「私達は、この街で何が起こっているかを調べに来た。
  この子は魔法に関しては人並み外れた才能がある。
  身分は私が保証する」

 「あの、先に来た執行者を連れ戻しに訳じゃないんですか?」

警官は執行者の目的を怪しんだ。
それに対して執行者は堂々と答える。

 「あのな、執行者が命令を無視して街に駐留していると言う事が、異常事態なんだ。
  何かあったと思わない方が、奇怪しいだろう」

 「はぁ、いや、何も無いですけど……」

警官の反応は淡白で呑気な物だ。
危機感が全く無い。
普通なら、執行者が大勢街に押し掛けて、帰らない事を不安に思う物だろうに。
0187創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/21(木) 21:48:57.74ID:L1gV5mH9
外壁の門を潜って街に入ったレノックと執行者パルティーンは、先ず大きなホテルを探した。
多数の執行者が宿泊出来る様なホテルは、マールティン市では限られている。
そして片っ端から聞き込みをして回った。
結果、オテル・マルタンと言う豪華なホテルに、大勢の執行者が滞在していると聞く。
2人は早速、オテル・マルタンに乗り込んだ。
執行者パルティーンは受付に中隊長のフォーコン課長を呼ぶ様に指示する。
そして、フォーコン課長が現れると、周囲の目も憚らずに怒号を放った。

 「手前、フォーコン!!
  どう言う積もりだ、この野郎!!」

 「あ、いや、これには深い訳がありまして」

フォーコン課長は執行者パルティーンの剣幕に圧されて言い訳する。
レノックと共にマールティン市に来た、この執行者パルティーンは「部長補佐」だ。

 「おう、言ってみろ!
  下らない理由だったら、打ん殴ってやる!」

フォーコン課長は委縮して答えた。

 「この街を調査しましたが、異常はありませんでした」

 「『ありませんでした』じゃねえぞ!!
  マイストルには会えたんだろうな!?」

 「はい、会えました。
  そこで彼に依頼された訳です。
  この街に滞在してくれないかと」

 「はぁ?
  馬鹿か、手前は!?
  手前の上司は誰だ、言ってみろ!!
  上司の了解を得るより前に、どこの誰とも分からん様な奴の言う事を聞くのか!!」

フォーコンの様子は明らかに変だった。
そもそも執行者は命令外の事は出来ない様になっている。
下っ端なら未だしも、課長と言う責任ある立場で、それも処刑人まで引き連れて集団行動する者が、
無断で行動して許される訳が無いのだ。
0188創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/22(金) 19:16:54.37ID:XyhbX+sQ
フォーコンは敬礼しながら言う。

 「私の上司はオーネスト・ブルク部長です!」

 「部長は何と言った!?」

 「何も命じられてはおりません!」

 「弁解出来る物ならしてみろ!」

 「はい、この街では魔力通信が使えず、連絡が出来ませんでした!」

 「『出来ませんでした』じゃないだろうが!!
  だったら街から出て連絡せんか!!」

 「しかしながら、街の外は危険です!」

余りに稚拙な言い訳を真剣にされて、パルティーンは失笑してしまった。

 「危険って……、お前、何が居ると言うんだ?」

 「今、共通魔法社会には大きな危機が迫っています」

 「その位は知っているよ。
  具体的な危機があるなら言ってみろ」

 「具体的……?」

フォーコンは困惑して、暫く考え込んだ。
0189創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/22(金) 19:18:14.62ID:XyhbX+sQ
フォーコン課長は真面目な男だった。
彼は何時でも真剣なのだ。
嘘を言ったり、誤魔化したりするのは得意では無い。
それはパルティーンも知っている。
パルティーンは大きな溜め息を吐いて、フォーコンに命じる。

 「部下を連れて、本部に引き揚げろ。
  そこで検査を受けるんだ。
  良いな?」

 「……はい、分かりました。
  どうかしていたみたいです……」

フォーコンは漸く、自分が理屈の通らない変な事を言っているのだと自覚した。

 「良いんだ、この街は普通じゃない。
  一見平穏な様で、恐ろしい何かが潜んでいる。
  それが何なのか……俺が暴く」

フォーコンは悄々と踵を返し、部下に指示を出しに行った。
後ろで様子を見ていたレノックが、執行者パルティーンに声を掛ける。

 「洗脳かな?
  意識の掏り替えか」

 「しかし、魔力の流れは感じられなかった。
  そちらの見立てでは、どうだ?」

 「僕も魔力は感じなかった。
  詰まり、遠隔操作と言う訳じゃない。
  問題は、どの段階で感覚を狂わされたかと言う事だ」

レノックと執行者パルティーンは頷き合う。
0190創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/22(金) 19:19:21.80ID:XyhbX+sQ
それからフォーコン課長が率いる部隊は、揃ってホテルのロビーに集まり……。
レノックとパルティーンを包囲した。
パルティーンは驚いて、フォーコンに問う。

 「これは何の真似だ?」

 「パルティーンさん、貴方は本当に本部からの指令を受けたのですか?」

 「何を一体……」

 「そこの子供は誰です?」

 「彼を疑っているのか?
  お前の関知する事では無い……と言っても、聞いてくれそうには無いな。
  いや、何を言っても今は信じられないだろう」

パルティーンは全ての事情を察した。
フォーコンは自分達が正義だと信じている。
否、フォーコンだけでなく、彼の部隊全員が、そうなのだ。

 「正直に話して頂ければ、信じるかも知れません」

 「……彼は反共通魔法社会組織に対抗する為に、魔導師会が招聘した相談役だ。
  丁度、今みたいな事態を解決する為にな」

 「それを証明する方法はありますか?」

そう問われたパルティーンの代わりに、レノックは執行者から預かった徽章を掲げて、
堂々と進み出た。

 「これだ」

この徽章は執行者が部外者の手を借りる事になった際、信頼出来る協力者の証として渡す物だ。
0191創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/23(土) 19:11:49.66ID:OGp/wHIj
しかしと言うか、案の定と言うか、フォーコン課長は彼を信用しなかった。

 「信用出来ません。
  もしかしたら、本部も侵食されているかも知れない」

 「この野郎!」

パルティーンは頑迷な彼に怒るが、ここでは多勢に無勢だ。
部長補佐と言う地位も、反意の前には実体の無い権力なのである。

 「僕が何とかしようか?」

レノックが意地悪く執行者パルティーンに尋ねた。
パルティーンは渋々ながら頷く。

 「……頼む」

 「よし来た」

その場でレノックは1組の『銅鉢<ジャン>』(※)を取り出すと、打ち合わせて大きく鳴らした。
不意打ちの様に大音撃を食らわされ、その場の全員が同時に一瞬で気絶する。
パルティーンもホテルの受付も。
レノックは倒れたパルティーンを揺すって起こした。

 「おーい、起きてくれよ」

パルティーンは吃驚した顔で跳ね起きる。


※:シンバルの事。
  漢字では銅盤、鐃鉢、銅鉢とも表記する。
  盤は皿、鉢(ハチ)は「金」偏に「バツ」(「跋」、「祓」の旁)の代字か?
  打ち合わせたり、枹で打ったりして音を鳴らす。
  ファイセアルスでの名称「ジャン」は音由来。
  ピャトジャン、ピャジャンとも言う。
0192創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/23(土) 19:13:30.00ID:OGp/wHIj
彼は周囲を見回してレノックに状況を尋ねた。

 「何が起こった?」

 「何って、僕の魔法で皆に気絶して貰っただけだよ」

 「ウーム、恐ろしい魔法だ……」

 「恐ろしいって、君が頼むと言ったんじゃないか?
  とにかくマイストルに会おう。
  奴が諸悪の根源だ」

レノックに促されて、執行者パルティーンはホテルを後にする。
彼は落ち込んだ表情で、浮ら浮ら歩いていた。
レノックは心配して声を掛ける。

 「どうしたんだい?
  何か異変でも感じるのか」

彼の問に執行者パルティーンは俯き加減で答えた。

 「少しショックを受けている。
  フォーコンは、あんな奴じゃなかったんだ。
  職務に忠実で真面目な男だったんだよ」

 「ハハハ、部下に刃を向けられて、ショックかい?」

 「ああ、そうだよ……。
  私達の信頼関係は、その程度だったのかと思うと悲しくなってな。
  表面上は忠実な部下でも、内心では不満を溜め込んでいたのかも知れん……」

 「深く考えない方が良い。
  彼等も正気に返れば、大慌てで許しを乞うよ」

 「そうだな、あいつ等の泣きっ面を拝んでやるとするか」

レノックに励まされて、パルティーンは少し元気を取り戻した。
0193創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/23(土) 19:14:47.41ID:OGp/wHIj
マールティン市から脱出したマトリ・タカラの話では、何時の間にか街中の全員がマイストルを、
認知して尊敬する様になっていたと言う。
しかし、街中では何の異変も感じられない。
共通魔法の結界は破壊されているが、それだけだ。
強力な魔法が街全体を覆っている風では無い。
その事を奇妙に思いながら、執行者パルティーンは市民に聞き込みをして、マイストルの居場所を、
尋ねて回った。
所が、誰に聞いても明確には答えない。

 「そこの君、マイストル・レッドールと言う人を知っているか?」

 「はい、知ってますけど、何か?」

 「その人の家は、どこだろう?」

 「どうして、そんな事を知りたがるんですか?
  貴方は街の人じゃありませんね?」

 「それが何だと言うんだ?」

 「一寸、教えられません」

 「私は執行者だ、怪しい者じゃない」

 「……済みません、失礼します」

こんな調子で、パルティーンが身分を明かしても、市民は誰も話してくれなかった。
マイストルを知らないと言う事は、即ち市民では無いと言う事、それだけで何故か警戒される。
これも記憶や意識の改変の所為なのかと、パルティーンは恐ろしくなった。
0194創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/24(日) 19:13:05.36ID:Z5PNfwj8
結局、マイストルの居場所は掴めない儘……。
執行者パルティーンは途方に暮れた。

 「俺独りで、どうしろってんだ……」

 「君は独りじゃないぞ」

彼の隣でレノックが、にやりと笑う。
子供らしくない笑みに、パルティーンは安心感より悪寒が走った。
それを見てレノックは残念そうな顔になる。

 「どうも君は、心の中では外道魔法使いの手を借りたくないと思っている様だね……。
  執行者としての矜持って奴なのかい?」

 「共通魔法社会を守るのは、共通魔法使いだ。
  外道魔法使いの手を借りる事は、自分達だけでは共通魔法社会を守り切れない事を意味する」

 「気持ちは解るよ?
  僕達だって、身内の問題には執行者に首を突っ込まれたくない。
  だけど、状況をよく考えなよ」

 「解っている……。
  一緒にマイストルを探す方法を考えてくれ」

パルティーンの依頼にレノックは大きく頷いた。

 「それで良い。
  しかし、マイストルは普段は能力(ちから)を抑えて潜伏しているみたいだ。
  探し出すのは容易じゃないだろう」

 「お手上げか?」

 「いや、策はある」

レノックは嫌らしい笑みを浮かべた。
0195創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/24(日) 19:14:12.72ID:Z5PNfwj8
パルティーンは嫌な予感がした物の、取り敢えず聞くだけ聞いてみる。

 「何だ?」

 「相手が人を操るなら、僕達も人を操れば良いじゃないか?
  共通魔法にもあるんだろう?
  自白させる魔法とか、洗脳する魔法とか」

レノックの案にパルティーンは困り顔になった。

 「いや、しかし……」

人を操る魔法はA級禁断共通魔法である。
禁呪の使用には慎重にならなければならない。

 「緊急事態には許可されるんだろう?
  あれ、独自判断や裁量が認められていない?」

 「一応は私にも権限はあるが……」

大体、課長以上の執行者には、禁断共通魔法の使用を許可出来る権限がある。
そして上位の役職程、多くの魔法の使用を許可出来る。
但し、報告書の作成が面倒臭い。
部下にやらせる分には構わないが、自分が使うとなると……。
躊躇うパルティーンをレノックは責付く。

 「迷ってる場合かな?
  これは明らかに異常だよ」

 「……一旦、引き返すのは?
  大隊を編成して一気に攻め込めば……」

パルティーンは弱気に提案した。
0196創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/24(日) 19:17:06.83ID:Z5PNfwj8
レノックは首を横に振る。

 「お勧めしない。
  相手にも時間を与えてしまう。
  ここには処刑人も居るんだぞ」

集団でマールティン市に攻め込もうとすれば、フォーコン率いる処刑人を含めた中隊が、
敵に回る可能性が非常に高い。
そうなれば大混乱は必至だ。
市民にも被害が出るかも知れない。
故に彼は反対した。

 「逃げるのは何時でも出来る。
  とにかく最低でもマイストルを見付けて、どんな奴か、何を企んでいるのか突き止めなければ」

レノックに説得された執行者パルティーンは自信無さそうに小さく頷いた。

 「解った。
  こうなったら、なる様になれだ」

彼は半ば自棄に決断する。
そして片っ端から市民を捕まえて、信頼の魔法でマイストルの居場所を尋ねた。
所が、誰もマイストルの自宅を知らなかった。
徹底して自分に関する情報を隠しているのだ。
そもそもマイストルが実在しているのかも、疑わしくなって来た。
0197創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/25(月) 19:51:39.49ID:6Z0PP0Tk
散々空振りに終わり、疲弊した顔の執行者パルティーンに対して、レノックは嫌らしく言う。

 「僕が何とかしようか?」

パルティーンは執行者として、安易に外道魔法を頼りたくなかった。
しかしながら、彼に打つ手は無い。
これなら自分が禁呪を使う必要は無かったのではと、彼はレノックを疑う。

 「……自分で何とか出来るなら、最初から――」

 「ハハハ、そんな事、君が許さないだろう。
  何事も自分で試す事は大事だ。
  それが解らない君では無い」

レノックの言う事は正しい。
最初からレノックが何とかしようとしても、パルティーンは反対した。
外道魔法を頼るのは、共通魔法の敗北に等しい為だ。
黙り込んだパルティーンを見て、レノックは意地悪く言う。

 「とにかく許可されたと受け取ろう。
  この街で一番人が集まる所に行くよ」

彼はパルティーンと共に、市内の中央広場に向かった。
道中、彼は竪琴を奏で始める。
その音色は心地好く、街の人々は何事かと彼とパルティーンの後を付いて歩く。
人数は少しずつ増えて行き、最初は十数人だったのが、数十人、百人、千人になる。
0198創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/25(月) 19:52:44.63ID:6Z0PP0Tk
中央広場に建てられた、今は機能していない魔法陣の塔に登り、レノックは唄を吟じ始めた。

 「おお、美しきマールティン!
  偉大なるマイストルの街!
  彼の名を知る者よ、来たれ、来たれ!」

市民は彼の音楽に合わせて合唱する。

 「マイストル、マイストル!」

マイストルを称える様な歌に、執行者パルティーンは恐怖を感じた。

 「何をしている、レノック!!」

レノックはテレパシーで答える。

 (君も一緒に歌うと良い。
  これは僕の舞台だ。
  強要はしないよ。
  その気が無いなら、舞台の袖で、静かに見守っていてくれ)

彼は歌と演奏を続ける。
パルティーンは塔の真下に隠れて、人々の様子を観察した。
何か起きたら、彼が自分で止めないと行けない。
今の彼にはレノックに悪意が無い事を願う事しか出来ない。

 「マイストルは何者か?
  彼を知る者よ、来たれ、来たれ!
  我こそはと思わむ者は進み出よ!」
0199創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/25(月) 20:17:33.27ID:6Z0PP0Tk
レノックが市民に呼び掛けると、何人かの者が人を掻き分けて、塔の前に現れた。
レノックは一人一人に問い掛ける。

 「偉大なるマイストル、マイストルの勲功(いさお)とは?
  何を以って、彼は偉大か?」

 「故は知らねど、偉大なり!
  何事か成して、ここに在らむ!」

 「其はマイストルを知らぬなり。
  無知の無知を恥ずべし、無知を知るべし。
  誰ぞ、誰ぞ、彼の勲功を知らぬか!」

 「マイストルは偉大なり!
  偉大なるは、唯それを以って偉大なり!
  大河の悠然なる如く、大樹の聳える如くなり!
  美しき野の花の、故無くして美しき如くなり!」

それは丸で演劇だ。
レノックが問い、市民が答える。
だが、誰もマイストルが何故尊敬されているのかを答えられない。
とにかく偉大だ、偉大だと称えるだけだ。

 「笑止、人は人なり、大河に非ず、大樹に非ず!
  我が目、未だ彼を見ず。
  マイストル、彼は何処か?
  彼を知る者よ、来たれ、来たれ!
  誰ぞ、我に彼の偉大なるを知らしめむ!」

そんなにマイストルが偉大だと言うのなら、彼の姿を見せろとレノックは挑発する。
0200創る名無しに見る名無し
垢版 |
2019/02/26(火) 18:57:13.04ID:JGx0fItn
市民が入れ替わり進み出る。
これも又、演劇の様だ。

 「偉大なるマイストル、彼の所在は明かせず!
  偉大なるは敵多く、我等誓いて彼を守らむ!」

 「敵、敵とは何か?
  善き人の『善き』所以は、敵の少なきに因る!
  マイストルの敵多きは何故か!」

 「偉大なるマイストルはマールティンの要なり!
  彼無くしてマールティンは無し!
  故に我等は彼を守らむ!」

 「否、マールティンはマイストルに非ず、マイストルはマールティンに非ず!
  マイストル無くしてマールティン在り、先ずマールティン在りき。
  マイストルは後より来るも、誰一人として、その時を知らず。
  彼を知る者よ、来たれ、来たれ!
  何時よりマイストルはマールティンに在りか?」

 「何時かは知らねど、何れかなり!
  100年に満たず、10年より古く!」

 「然れど、誰も彼を語れず。
  真に奇妙、奇怪なり。
  彼を知る者よ、来たれ、来たれ!
  誰ぞ我に彼の由来を語らぬか!」

レノックの問に対する返事は無かった。
市民達は誰一人答えられない事に困惑している。
レノックは改めて呼び掛ける。

 「マイストルは何処か?
  彼を知る者よ、来たれ、来たれ!」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況