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TRPG系実験室 2

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0001創る名無しに見る名無し
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2018/09/07(金) 22:56:07.99ID:c8v0uQxh
TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください

使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)
0349九辺 津夜子 ◆C1C0iyWcug
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2020/02/26(水) 23:16:43.78ID:az1oIH21
幽霊なんて居ないと思うし、妖怪なんて笑い話だと思ってきた
居ないからこそ、心霊スポット巡りをするのも怖くなかったし、祟りなんてものを恐れずにいられた
だからこそ、今になって思う。『なんて自分は浅はかだったんだろう』と

「ここもハズレ……本当、どうなってるのよ、このホテルは」

手に持ったポラトイドカメラをのファインダー越しに世界を眺めながら、私は反対側に在る扉を目指して部屋を進む
一歩一歩、警戒しながら。物音を立てない様に、慎重に。
多分、今の私の姿を肉眼で見る人が居たら笑う事だろう。「何も無い部屋で、何をおっかなびっくり進んでいるのか」と
だが、私から言わせれば、そんな風に決めつけてかかる奴らこそが嘲笑の対象だ

だって、私の様に進まなければ、部屋の中を這い回る無数の顔の無い白い影に掴まってしまうのだろうから
『肉眼では見えない』この世ならざる彼らに掴まってしまえば、何をされるか判ったものじゃないのだから

そのままなんとか部屋を横切った私は、元から開いていた扉を潜りゆっくりと閉じる
パタリ、と。僅かな軋みと共に扉は完全に閉まり

「ひっ!?」

直後に鳴り響いた、閉まったドアの向こう側から沢山の何かがぶつかってきた音。それに思わず声を漏らしそうになる
音は暫く鳴り続け、その間私は息を潜めていたが、どうやら彼らはドアを開く事は出来ないらしい
息を吐き、胸に手を当てて鳴り響く心臓を落ち着けながら、私は薄暗いホテルの廊下を歩き出す

「……ここから脱出できたら、もう二度とホラースポットなんて行かないわ」

そう吐き捨てながら、私は次の部屋の扉を開く。次こそは出口である事を祈って。どうか生きて帰れるように願いつつ
0350◆C1C0iyWcug
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2020/02/26(水) 23:20:06.80ID:az1oIH21
最初のレスだから長めに書いたけど多分次はどちゃくそ短く書く

>>347
良いと思うぜい。でもコテ付けようぜコテ
>>348
参加してモリモリ逝こうず
0351須賀 見舞  ◆J1Bja7ezw7s5
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2020/02/27(木) 16:57:32.79ID:b4woqmg5
>>348 探索者が増えるのは喜ばしいことだ。

近くにある扉が開いた音がする。
慌てて廊下に出るも何もおらずゲンナリした瞬間。何かが扉か壁にぶつかったような音がした
その音でハッとした。不用意に出たら危ない。頭で理解したくなかったが、認めざるを得ない。
人ならざるもの達の蔓延るこの廃ビル
「なんなんだよ…」私は思ったより冷静だった。いや冷静になっていると無意識的な自己暗示をかけた
少なくとも何かが襲ってくるわけではない元の部屋に戻った。
テッシュで顔を拭き、体液を取り除く。肩に何か当たる。まるで古屋の雨宿りのような感触に
幾分か安心感を覚える…いや違う。これは水じゃない。それは
目玉であった。上を見ると赤黒き血肉が目玉を排出している
「っ!」謎の目眩に耐えながら残りの力を振り絞り廊下に出た。
そこで意識が消える。


良さげだな。これなら単独スレ作っても、いけるか?
疑問も払拭されたしキャラテンプレでも作って置いておくか
0352久城 隼人 ◆ZqEfuUDy4w
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2020/02/27(木) 22:23:58.05ID:fO1Q4ysD
名前:久城 隼人 (クジョウ ハヤト)
年齢:19歳
性別:男
身長:175cm
体重:67kg
職業:大学生
性格:冷静でもの静か
装備:ヴァイオリン、スマホ、現金約3万、タロットカード
容姿の特徴・風貌:黒髪 アンダーリムの眼鏡
簡単なキャラ解説:音大生、学内の交響楽団にヴァイオリン奏者として所属している。
            たまたま見かけた怪しい外観のホテルに、つい足を踏み入れてしまう。


338だがとりあえずテンプレだけ投下してみた。
導入は作成中だけど、投下はここでいいの?
0354久城 隼人 ◆ZqEfuUDy4w
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2020/02/28(金) 06:17:17.11ID:fyyYRT1j
【導入投下です。どうぞよろしく】


「どなたか……いらっしゃいませんかぁ……」

カウンターの向こう側に、そっと声をかけてみる。
やっぱり……誰も居ない? 居ないよなあ……これじゃあ……

高そうな石で出来たカウンターには白い埃が積もってるし、ロビーの椅子もテーブルもボロボロ。
床の絨毯も、毛羽だったり穴が空いたりで見る影もない。

どうしてこんな事になったんだろう?
僕が家族とここに泊ったのはつい2週間前だ。
経営破綻したのか何だか知らないけど、でも急にこんなになるかなあ……

僕はエントランスに向かって歩き出した。
さっき女子高生(?)がここに入ってくのが見えたのも、きっと見間違えだ。
こんなお化け屋敷みたいな廃ビルにわざわざやってくる物好きなんて僕くらいだろう。
いや、でも……せっかく来たんだから……いいかな?

ケースから取り出したヴァイオリンを構えてみる。
赤い陽が照らす無人のロビー、すっかり枯れてしまった観葉植物の鉢。
こんな場所で一度弾いてみたいと思ってたんだ。

……ギィ……と弓を当てた弦が、いつもと違う音を鳴らした。
変な空気を感じて見回すして……え……うそ……窓の外に……街が無い……!?

ドシン、と上の方で物音がした。
エレベータのドアは半分開いたまま動きそうにない。
非常口の表示があるドアを開けると、上に続く螺旋の階段。
迷わず駆け上がる。さっきの女の子は見間違いなんかじゃなかったんだ。

すぐに2階に着いた。
客室が並ぶ長い廊下をの真ん中に、誰かが倒れている。

「君、大丈夫!?」

ゆすって見ても反応がない。ここは……救急車を呼ぶところかも。
でも取り出したスマホの表示は圏外……って……嘘でしょ!?
0355須賀 見舞  ◆J1Bja7ezw7s5
垢版 |
2020/02/28(金) 14:25:49.58ID:U6uizLNJ
目が覚める。目の前で私より一回り大きい男子があたふたしている。
とりあえず声をかけようとするが、声が出ない。いや、声だけじゃない腕や足・指先・目蓋さえ動かない
目は半開きで眼球運動ができず、男子になにか伝えることも叶わなかった。
あの男子は携帯の電波でも探しているのか螺旋階段の方へ向かって行った。
視界から男子が消える。脳と感覚器は正常に働いているのになぜか体のみが動かなかった。
いや考えろ私、この状況最悪だぞ。もし何か迫ってきても逃げられないし、丸呑みでもされれば
感覚は生きているから地獄のような苦しみが待っている。状況最悪だ。
落ち着け私、まず、あの男子に助けてもらうのがいいかもな。いやもしかしたらあの男子も化け物の類で
私に危害を加えるかもしれない。となると、今すべきことは【あの男子に気づかれずこの場から逃走する事】かな
モゾモゾと懐で何かが動く。蛇だ。小型で制服の裏に入っては私を驚かす愛蛇だ。その蛇が私の手のひらに乗る。
蛇に気づいた男子が蛇を掴んだ。その瞬間触れ合った皮膚の感触を感じると共に私の固まった体が動くようになった
「あ、あの…」私は愛蛇を取り返し、いつでもジャブを繰り出して逃げれるように、身構えながら数歩男子から離れた
単独スレ建てようと思ったら何故かエラー出たんですよね。はい…
0356◆J1Bja7ezw7s5
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2020/02/28(金) 14:27:46.61ID:U6uizLNJ
あ、改行できてませんね。
「単独スレ建てようと思ったら何故かエラー出たんですよね。はい…」のところは
本文ではないのですいません…
0357九辺 津夜子 ◆C1C0iyWcug
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2020/02/28(金) 23:41:10.36ID:WPTt6l6H
>「どなたか……いらっしゃいませんかぁ……」
「っ!!?」
壁に手を当てながら廊下を歩いていると、曲がり角の先から突然男性の声が聞こえた
このホテルを彷徨ってもう2日。警戒をし続けたうえに長い間まともな人間の声なんて聞かなかったせいで、私の体は反射的に身を隠そうとしてしまう
廊下には隠れる場所なんてないというのに……滑稽な行動を取る自分を情けなく思いつつ、そのまま暫しの時間が過ぎた
……。………。
何も起きない。ならば、もしかして、ひょっとして
【自分以外に生きた人間が居る】のだろうか
警戒と僅かな期待を胸に秘め、恐る恐る曲がり角の先を覗き見る
そこに見えるのは、相変わらず長い廊下と無数の扉
けれど、一つだけこれまでの景色と変わっている点があった
並ぶ扉の一つが、開いていたのだ
恐怖が半分、期待がもう半分。私はそっと扉の中を覗き見る

>「君、大丈夫!?」
>「あ、あの…」

――――人だ!部屋の中には、二人の人間がいた!
男女が一人づつ。見たところ、男性の方は大学生くらいの年だろうか。ギターケースの様な物を手に持ち、女性へと手を伸ばしている
女性の方は、倒れた体勢で男性の手を取るか悩んでいるように見える
確かな人間の姿に私は駆け出そうとし……だけど、部屋に入る一歩手前で足を止めてしまった
何故だろう。手を伸ばせば助かるかもしれないのに、声を掛ければ救われるかもしれないのに
自分の行動への疑問を抱きつつ、私は室内の二人のやりとりを眺め
【それ】に気付いた
あれだけ会話を交わしているのに―――彼等は口を全く動かしていなかった。口を開いてすらいないのに、部屋には声が響いていた
背中に氷を入れられたような悪寒を覚えつつ、私は扉の前から後ずさる
ゆっくりと何歩か下がり、やがて逃げる為に走り出す

「どなたか……いらっしゃいませんかぁ……」「君、大丈夫!?」「あ、あの…」
「どなたか……いらっしゃいませんかぁ……」「君、大丈夫!?」「あ、あの…」
「どなたか……いらっしゃいませんかぁ……」「君、大丈夫!?」「あ、あの…」

遠く後ろから聞こえてくる声は、同じ会話を何度も繰り返している
きっと【アレ】は罠だったんだろう
まるでDVDを繰り返し再生するように、このホテルで何時か起きた出来事を再生し、それに惹かれる人間を待っているんだ
……恐怖と怒りを感じながら、私は乱れた呼吸と精神を整える為に歩を進める
目的地は6階――といっても本当に6階なのかは判らないのだけれども、とにかくそこに存在している自販機コーナー
このホテルの中で見つけた、現状私が唯一安全に過ごせているセーフゾーンだ
0358久城 隼人 ◆ZqEfuUDy4w
垢版 |
2020/02/29(土) 06:52:58.39ID:xfdA8BfN
僕はすぐに立ち上がり、スマホを上にかざしながらゆっくりと歩いてみた。
ホテルって、場所によって繋がる場所とそうでない場所があったりするよね?
でも……駄目だ。階段も何処も駄目。
廊下の突き当りも駄目だ。
すりガラスの窓を開けてみようかと思ったけど、エントランスから見えた景色を思い出してやめた。
あれは見渡す限りの荒野だった。赤い砂だけが延々と広がる砂漠に似た荒野。
……信じられないことに、このホテルは僕達の住む世界とは違う場所に存在しているんだ。
過去か、未来か、この世でもない異界なのかどうかは分からないけど。
もしそうなら携帯の電波なんかある筈がない。

仕方なく少女のところに戻る。
やっぱりピクリともしない。眼は少し開いてるのに、こっちを見ようともしない。
だけど微かに胴体が上下してる。
息をしてるなら死体じゃない。たぶん気を失っているだけだ。
学校でやらされた救命の実習を思い出す。
たしか仰向けにして……人工呼吸と心臓マッサージ。
……でもこの女子は実習用の人形じゃない、本物だ。触ったりして大丈夫か?
もし彼女にちゃんと意識があって、僕のやったことを見られていたら、後で問題が起こるかも?
いやいや、そんな事を心配してる場合じゃない。
ここは異界で、外には助けてくれる大人は居ない。僕がどうにかするしかない、そうだろ?
命が大事だ。言い訳は後でいくらでも出来る。

そんなこんなでやっと決意を固めた僕は、彼女の肩に手をかけた。
そこはべっとりとした何かで濡れていた。

――血? 怪我してるのか?

でも傷らしいものは見当たらない。
手についたぬるぬるを絨毯で拭いながら、僕は彼女の胸の辺りがもぞもぞ動いてるのに気付いた。
動くそれがにゅっとその首を出した時、その正体に気付いた。

「ぅわ……!」

飛び退いた弾みで内ポケットのカードの一枚が、零れて落ちる。
スルスルと彼女の胴体を横切って、その掌に乗る生き物は小さな一匹の蛇。
蛇だよ蛇。
不吉の象徴。
こんなのが女の子の身体に纏わりついて、いい事がある訳がない。

僕は咄嗟に蛇を掴んだ。その瞬間に驚くべきことが起きた。女の子が身体を起こしたんだ。
茫然と見守る僕の手から、彼女が蛇をひったくる。
蛇は彼女に甘えるようにその手に絡まっている。

「あ、あの…」

僕の呼びかけに彼女は答えない。何故か両手を拳にして構えつつ、後退る。
警戒されたんだ。当然だ。彼女はやっぱり僕の行動を全部見ていたんだ。

立ち上がろうとして、でも床に落ちていたタロットカードに気付いた。

このカードは――

僕は絵柄を彼女に見えるようにして突き出した。

「愚者のカード。その意味は『今はあれこれ考えず行動すべし』。まずは話を聞かせて? ここで何があったんだ?」
0359須賀 見舞  ◆J1Bja7ezw7s5
垢版 |
2020/02/29(土) 09:48:47.44ID:5q18N/5q
体が動かなくなったのはおそらく肩に当たったあの目玉のせいだろう。
病気は感染力だったりが高いものほど治せるものはすぐ治るらしい。今回は治す条件が
『人と素肌で触れる』ということだったと思われる。肩に手を当ててみるとニョロニョロ
としたものが付いている。おそらく目玉関連のものだろう。私は目の前の現状に目を向けた

あの男子の今までの行動から怪異とかではなさそうだが、警戒することで損はないだろう
「話を聞くならまず自分から話すのが筋じゃないの」
一度言ってみたかったこのセリフ。互いに軽い自己紹介を終えた所で、これからどうするか
を考えた。こんな状況になっている時にいつもの、まぁ表の顔?をしている余裕はない。

幸いにも近くには螺旋階段がある。階段の入り口には謎の監視カメラが付いているが下手に
手を出すわけにもいかない。とても小さな人の声がどこかから反響している。
がすぐに消えた。「とりあえず上の階に上がろう」久城 隼人に呼びかける。
階段があるはずの部屋に入ると、久城 隼人はこちらに何か伝えようとしていた
…がなにも聞こえなかった。

そして扉が閉まった時に気づく、非常口のドアはこんなのじゃない。
この部屋は明らかに【エレベーター】だ。そんな、入る前は絶対に階段だったのに。
いや落ち着け、『開』のボタンを押せば…いやボタンがない。ボタンは一つとしてない
エレベーターは無慈悲にも動き出す。階を示すはずの液晶には『↑пять』と出ていた

途中エレベーターが止まる。扉が開き太った灰色の肌をしていて手には缶詰が大量に入っ
た袋をさげている、頭のない人型のナニカが入ってくる。出ようとしても大きい体に阻まれ
て出られない。一度こちらを見るような動きをし粘液に塗れた手で頭を掴んでくる。
こっちもアッパーをかけるとなにもしてこなくなった。
エレベーターが止まり、扉が開くとヤツは出て行った。
この階はさっきいた所と違う雰囲気で、なんというか孤独を感じた。ヤツは右の手前から
3番目の部屋に入って行った。緊張が解けガクっと膝から崩れ落ちた。
0360九辺 津夜子 ◆C1C0iyWcug
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2020/03/01(日) 17:26:33.27ID:Vq0NgAY3
6階。私が安全地帯と認識しているそのフロアは、一片が20m程の正方形の一室で形作られている
打ちっぱなしのコンクリ部屋で、天井に電灯はなく四方にびっしりと自動販売機が並べられているのが特徴だ
自販機の種類は様々で、よく見知った飲み物やファーストフードを始めとして、御菓子、野菜など、様々なものが売られている
この部屋を見つけられた事は不幸中の幸いだった
怪異は現れず、食糧も確保できる
正直、このフロアを見つけられなければ私はとっくの昔に命を落としていただろう
もっとも、知らない文字で書かれた気味の悪い缶が売っているあたり、ここもまともとは程遠いのだけれど……
気を取り直し、先程の階から走って逃げてきた事で乾いた喉を潤すために、私は手近な販売機でお茶のペットボトルの購入ボタンを押す
お金も入れていないのにガタンと音が鳴り、商品が出てきて

すると、いつもの通り【ルーレット】が始まった

部屋に並んだ自販機の一つが赤く光る
光は直ぐに消え、次はその右隣の自販機が赤く光る
次の自販機も同じように光り、赤い明滅は繰り返されていく
それは十数秒ほども続き――――不意に、私の2つ隣の自販機で光は止まった
その直後、光が止まった自販機はブザーの様な音を鳴らし、点っていた明かりを消す
天井にライトがないので、電気が消えた自販機の前は暗闇になる

その暗闇の中で何が起きているのかは私にはわからないし、解りたくもない
一つ言えるのは、ライトが消えた自販機は再点灯した後、その形状も商品も全く別の物になっているという事だ

多分だけど、もしもルーレットに当たってしまえば、きっとロクでもない結果になるのだろう
リスクは高い。だけど、それでも生き残るうえではこの部屋の機能を活用しなくてはならない
当たらなかった事に感謝しながら私はペットボトルのお茶を口に含み

「……ぬるいわね、これ」

常温だった事に眉を潜めるのだった
0361久城 隼人 ◆ZqEfuUDy4w
垢版 |
2020/03/01(日) 22:10:19.76ID:wMdkOCEG
>「話を聞くならまず自分から話すのが筋じゃないの」

澄んだ眼をじっとこちらに向けたままの少女。その表情は相変わらず硬い。
……考えが甘かった。女子は占い事が好きだから、こういうカードに興味を持つんじゃないかって期待したんだ。
でも彼女の主張も当然だ。名乗るときは自分から。そりゃそうだよね。

「僕は久城隼人。歳は19。ヴァイオリンぐらいしか能の無い音大生さ。趣味はタロット占い」

すると、少しは心を許してくれたのか。
彼女も手短に答えてくれた。須賀、見舞という名前だという事と、16歳だって事。蛇は彼女のペットだとも。
でもそれ以上の事は話してくれなかった。まだ警戒されているのか、元々殻に閉じこもるタイプなのか。
まあ……僕もあまり社交的とは言えないけど……この非常事態。
せめて何があったのかだけでも聞いておきたい。彼女はここでは先輩なんだし。

そう思って口を開きかけた僕は上を見上げた。
音がする。
これは……声だ。ボソボソとくぐもった……低い男の声。変だ。聞き覚えがあるような? 上の階に誰か居る?
須賀さんにも聴こえたんだろう。とりあえず上の階に上がろうと僕を促し駆け出した。
素早い身のこなしだった。
あっと言う間に非常口に向かい、重そうな音を立てて押し開けられた扉の向こう側に姿が消えるまで、ほんの数秒。

あわてて続こうとした僕は足を止めた。いつの間にか扉が引き戸になっていたんだ。
隙間から見える空間も階段なんかじゃない、縦長の狭い個室。
縦一列に並ぶ、各階のボタン……これはエレベータ? 
上を見れば、確かに「非常口」の表示。その下には監視カメラ。

「変だ、階段じゃない。戻った方がいいんじゃない?」

呼びかけてみたけど、須賀さんは「何を言ってるんだろう」的な顔して振り向いただけ。
仕方ない、と乗り込んで……あれ?

そこはやっぱり階段だった。須賀さんの姿は消えている。
トントンと音がしたから振り向けば、客室ドアのひとつが音を立てている。
内側から誰かが叩いている!? 閉じ込められた人間が!?

ノブを回してグッと引くと、ドアは意外にも簡単に開いた。
でも誰も居ない。
ずるっと足が滑って、足元を見た僕は飛び上がった。ピンポン大の「目玉」がたくさん落ちていたんだ!
ぬるぬるした気味の悪い粘液に塗れた生々しい目玉。
そういえば須賀さんの肩はこれで濡れてなかったか? 彼女が動けなくなっていたのと、この目玉には関係が?
そう思い至った時、僕は咄嗟にヴァイオリンケースを盾にした。
同時にぶち当たる柔らかい無数のそれ。
――理解した。このフロアの客室には入ってはいけない!

無我夢中でドアを閉じる。
ケースにひっついた目玉を振り落とし、強い視線を感じて見上げれば、さっきのカメラがじっとこちらを見つめている。
僕を――僕達を監視している誰かがいる。
入り込んだ人間を狙う誰か。間取りを自在に変える事の出来る誰か。

そう思ったとき、ぞっとしたんだ。
このホテルそのものが、その「誰か」なんじゃないかと。
古びた館が、突然新築のように新しく生まれ変わる。住んでいた人間を食い、その命を糧として。
そんな映画を見たのはいつだったか。
僕は走った。階段でも、エレベータでも何でもいい。このフロア(2階)から移動する為に。

再度飛び込んだ階段は階段のまま。
一足飛びに駆け上がる。
須賀さんが上に居る。さっき聞こえた声の主もいる筈だ。
とにかく誰かと合流する必要がある。協力してこのホテルから逃れる術を見つけるんだ。
でなければみんな死ぬ。
0362須賀 見舞  ◆J1Bja7ezw7s5
垢版 |
2020/03/02(月) 09:41:54.11ID:5C8Mfttv
しばらく経って膝が動くようになってから立ち上がる。
まずここはどの階なのかそれが知りたい。確か、もといた階が2階で上昇したように見えたから
4〜5階か?とにかく人と離れてしまった。
…お腹が減った。ここに入ってきてから色々な最悪な目に遭って消耗したんだろう。
すると左の5番目の扉から、楽しそうな声と美味しそうな匂いが漏れてくる。
多分…いや絶対罠だろう。しかしうまく行けば罠をかい潜り、食べ物を手に入れれるだろう
頭が熱かった。だからなのかこんな甘い思考をして、まんまと扉を開いた。
「すいませ〜ん食べ物少し分けてください」しかも自分から呼びかける。食欲に抗えない異常だ。 
アパートの一室のようなところに出るとカップラーメンと割り箸、お湯がが置いてある。
体が勝手に動き、3分も待たずに食べ始める。
7杯目に入ったところで気持ち悪くなり、やめようとしても体が反応しない。
頭が痛い、熱い。けれども食べる。愛蛇が異常を察しているのか腕らへんを噛み続ける。
しばらくして吐き気と共に半分くらい食べたもの吐いた。体も動かない
幸いにも吐物は服にはかからず、体も強く意識すれば動く。多分私の愛蛇の毒かもしれない
愛蛇が毒蛇だったことに驚きつつまた違う所で吐いた。出ようとするも、[ノコスナ]と赤い字のプレートが
かかっていて出られない。また頭が熱くなり異常な食欲が出始める。横を見ると洗面台、
望みに掛けて頭を洗う。水は血を混ぜたような薄い赤色だったが頭の熱は取れた。ついでに髪も少し赤くなった
もしかしたらと思い、蛇口を全開にする。しばらく経ってカチャっと音がする扉を開けて
出てみると、壁一面に許さないの赤い文字。横を見るとエレベーターの所から
太った灰色の首のない奴らが迫ってくる。一部の扉も勝手に開く。
どうやら、機嫌をこの階全体の機嫌を損ねてしまったらしい。ヤバイと思い、
反対側の方面の扉に走り入り込み逃げ込む。
0363九辺 津夜子 ◆C1C0iyWcug
垢版 |
2020/03/03(火) 23:26:28.82ID:SwarbSLm
「さて、と。食糧も飲み物も十分……気は乗らないけど、そろそろ探索を再開しようかしら」

自販機から補充した食糧を鞄に入れて背負う
鞄の紐が肩に食い込み若干痛いけれど、背に腹は代えられない
食糧が得られるフロアが他に有るとは限らないのだから
そのまま大きく深呼吸をして階段へと向かうが

「……? 何か、様子がおかしいわね」

どうにも騒がしい
私が居た6階の下のフロアには、文字通り何もない筈だ
入口と思わしき非常ドアは有るけど、開いてもコンクリの壁があるだけ
叩いても蹴っても何も起きなかった
だというのに、今はその非常ドアの向こうから音がする
大勢の人間が走り回っているような、そんな音

予感めいた何かを感じて、階段を数歩上へと上がる
そして鞄から自販機で手に入れた【マグロの刺身】の缶詰を取り出して構えた
缶詰に生魚なんて怖くて食べられたものじゃなかったけれど、この重量は投げれば武器になるだろう

案の状、数秒後に先が無かった非常口が開かれた
それと同時に私は缶詰を力いっぱい投擲して―――――え!?

「に、人間!?」

扉から飛び出して来たのは女の子だった
髪から赤い液体を垂らして蛇を伴うという妙な姿だったけれど、確かに生きた人間の女の子……に見える
私と同じくらいの年齢だろうか、どこか切羽詰まった様子で――あ、マズい!

とっさに投擲する手を止めたが、缶詰は慣性の法則に従って私の手をするりと抜けだしていってしまった
缶詰はカランカランと音を鳴らして階段を転がり、そのまま非常口の扉の中へと吸い込まれていった
その瞬間、先程まで聞こえていた奇妙なざわめきがパタりと止んだ
私は状況が理解出来ないまま、階段をまた一歩上がってから飛び出して来た女の子に尋ねる

「……。はじめまして、私は九辺津夜子。荒井高校の学生で新聞部よ」
「それで、一応聞くけど貴女は人間でいいのかしら?」

おでん缶を鞄から取り出し、女の子に向けて投擲の姿勢で構えながら尋ねてみる
この子の様子が奇妙であれば投げて攻撃しよう。おかしな行動をしても投げる
まだ、眼前の存在が人間と決まった訳じゃない。だから、警戒は緩めない
0364久城 隼人 ◆ZqEfuUDy4w
垢版 |
2020/03/04(水) 06:49:11.16ID:41RcuCBt
このホテルには意思がある。
人間同士を引き離し、孤立させ、その様子を眺めほくそ笑む……そんな悪意が。

それを実感したのは駆け上がってすぐの事だった。
見上げた先のプレートの表示は3F。上に続く階段がない。
まさか。
さっき見たエレベータのボタンは6〜7Fまであった。非常階段が3Fまでというのは有り得ない。
幻覚でもなさそうだ。
行く手を塞ぐコンクリの壁は……冷たい……確かな質量を持った壁だ。先へを進めない。
ここで降りろという事か? 
もしそうなら須賀さんらがここに居る可能性は低いがしかし……戻っても仕方がない。
少しでも合流の可能性がある方へ行くしかない。

防火扉なんだろう、やたらと思いドアを引いて開ければ、そこはやはり3階。仕様は2階と同じ。
注意深く歩を進めると、扉のひとつが勝手に開いた。順路はこっちだと言わんばかりだ。
ドアには31Rのプレート。Rってなんだろう?
まあいいさ。
入れと言うなら見てやろう。何かヒントがあるのかも知れない。

目玉の飛来に警戒しつつ、部屋の中を覗き込む。
打ちっ放しのコンクリートで覆われた……ダンジョンの一室を思わせる空間。
部屋一面に散らばっている白いこれは……骨か。人間の骨。つまり、ここに入ればこうなる……と。

普通に考えれば引き返すところだ。中に入るなんてとんでもない。
でも数秒後、僕は部屋の奥に座り込んでいた。
勝手に身体が動いたわけじゃない。夢中で飛び込んだんだ。
だってそこには……一冊のダイヤリーブックが落ちていたんだ!

趣味のいい革張りのカバー、そこに貼られた肉球のシール。
半年前に猫カフェで知り合った彼女からもらったものと同じ。
極めつけはカバー裏に書かれたネーム。
だからこれは……壁に寄り掛かって座っているこの一体のミイラは……彼女だ。
木乃、伊代。
母校の修学旅行に同伴すると言ったきり、連絡が取れなくなった。
まさかこのホテルに……泊まってたなんて……

カサカサに乾いた手足にそっと触れる。
長い髪も、銀縁の眼鏡も、確かに伊代だ。3つ年上の……僕の彼女。どうして……何故こんなことに…………

日記に眼を通し終わったその時、ザワリと空間が震えた。身体を蝕む何かが……満ちるのが解る。
ドアが音を立てて閉じる。散らばる骨が……ひとつ、ふたつと崩れていく。
もう逃げ場がない事を実感する。助からないなら……せめてと、彼女の隣に並んで座る。
ここに案内するなんて、ホテルも粋なことをする、なんて能天気に思いながらね。

キン、と何かが音を立てた。
見れば彼女の眼鏡が床に落ちている。
その音に答えるようにピン、と震えたのはケースの中の楽器だ。促されるようにその楽器を取り出す。
ここで奏でるべき曲なら決まってる。レクイエムだ。モーツァルトがいいだろう。

ヴァイオリン特有の音の広がりが、部屋を空気を震わせた。
突き抜けるような悲しみと、決然とした意思を併せ持つ彼のレクイエム。
まさか僕自身の鎮魂歌になるなんて。
不思議だね、渇いていた部屋の空気が……変わっていく。まるで森のせせらぎだ。

ふと目を開けると、部屋には僕一人だけ。
散らばる骨も、彼女のミイラも消えている。開いた日記表だけがポツンと床に落ちている。
僕はそのノートにそっと礼をして、部屋を出た。

非常口のドアが開く。4階へと続く階段が見える。
なるほど、このヴァイオリンも少しは役に立つらしい。
0365須賀 見舞  ◆J1Bja7ezw7s5
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2020/03/04(水) 10:31:57.36ID:cKkRGfKW
扉を開けた先は思い描いていたほど最悪なところではなかった。
それどころか、大変な収穫である。

「……。はじめまして、私は九辺津夜子。荒井高校の学生で新聞部よ」
「それで、一応聞くけど貴女は人間でいいのかしら?」

彼女…九辺さんは缶詰を投げる構えをとりながらこう聞いてきた

「私はちゃんとした人間よ…それにほら」
私は生徒手帳を見せる。すると少しは信用してくれたのか缶詰を鞄の中に入れ警戒を解いてくれた
いや安心している場合じゃない。追ってきたあの怪物達が…音は全くしない
どうやら非常口を超えたら追ってこなくなるのかも
非常口はいつのまにかしまっているし、違うエリアには基本入ってこれないのか?
それか入った瞬間私を襲った忌まわしき呪いの缶詰が効いたのかもしれない
おそらくあの缶詰は九辺さんが投げたものなのだろう
そりゃ扉の向こうから何かが迫ってきたら迎撃するよな、私だってそうする
あの缶詰はこれから聖なる缶詰と呼ぶことにしよう。
九辺さんはおもむろに缶詰を手に取り私に渡してきた。

「食べるか?」
「ありがとうございます」

おでん缶を手に入れた
だけれどさっきの件で食欲は消え去ってしまったのでポケットに入れておく
それにしてもこの部屋は自動販売機が大量にある部屋だ。
自動販売機を見つけたらすることといえば、そうだね小銭漁りだね
愛蛇には自販機の下あたりを漁ってもらう、私はお釣りが出るところを漁っておく
九辺さんはため息を吐きながら階段に座ってこちらを観察している
しばらくすると愛蛇が口に何か咥えて持ってきた。
それを受け取って見ると、どうやら薬莢のようだ。もしかしたら拳銃も落ちているかもしれない
九辺さんにそれを伝えるとなんでも『がん』という怪しげ缶詰が売っていたと話す。
もしそれが銃の方のgunならかなりの助けになる。
かなり探したががんの缶詰は見つからず手に入れたのは愛蛇が持ってきた
何も書かれていない小さなノートだった。
あれか、さっきいたミイラの人みたいな遺留品か?それとも山とかにある誰が登ったかノートみたいなのか?
「ロクでもない結果にあったのかもしれないな」
九辺さんはそういうと私がきた方じゃない扉をくぐっていった
私はあの久城だったかな、に伝えるためにノートに『この先に行ってます。by須賀 見舞』
と扉の前に置いておいた。
0366九辺 津夜子 ◆C1C0iyWcug
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2020/03/05(木) 22:11:16.44ID:wy+SJLjt
人に会えた事は素直に嬉しい
残念なのは目の前のこの子……須賀見舞さんが、ホテルからの脱出経路を知らなかった事
所詮ははおでん缶を通貨代わりにした交渉だから、彼女が話してくれた事が全て真実だとは限らないけど、それでも出入り口の有無で嘘を付く理由はないと思う
だって、それを知っているのならもっと私に食料品を要求する事が出来るのだから

「その……ガンは癌の可能性も有るから、危険だと思うわよ?」

ともかく、降って沸いた安息と他人が居るというこの安心感
異常な空間でささくれ立った精神を落ち着ける為に、私は暫くのあいだ、動画サイトで見た蛇使いよりも器用に蛇と交流する須賀さんを温いお茶を飲みながら眺めていたのだけれど、彼女の飼い蛇が持ってきたノートを見て我に返る
……そうだ。いつまでもこうしている訳にはいかない。
だって、このホテルの中にいる以上は、本当の安全なんて無いに等しいのだから
ノートの持ち主のようになりたくなければ、歩みを止める訳にはいかない

「須賀さん。私はそろそろ探索に出るけれど、貴女はどうするの?もちろん、付いてきてくれるのならその方が助かるのだけれど」

一応、彼女に声を掛けてから私は扉を潜り、今度は階段を下では無く上へと登る
緑色の非常灯で薄ぼんやりと照らされた非常階段は不気味な事このうえないけれど、それでも進まないといけない
そしてやけに長い階段を登り切ると、次のフロアへとつながる窓付きの扉が有った。警戒しつつもガラス窓から部屋の中を覗きこむと

「えっ、屋上………?」

まだ上に続く階段はあるというのに、窓の外に見える風景はどう見ても建物の屋上だった
困惑しつつもドアの取っ手を握りつつ、須賀さんへと振り向く

「本当に屋上に繋がってるのなら脱出の手掛かりになるかもしれないけど……貴女はどう思う?」
0367久城 隼人 ◆ZqEfuUDy4w
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2020/03/06(金) 06:55:48.22ID:cyC5uOVd
上に続く階段を登り始めて数十分。一向に上のフロアに辿り着く気配がない。
階段の折り返しはすべてが只の踊り場だ。出るドアが無いんだ。
一旦登るのを止め、階段のひとつに腰かける。
汗ばむシャツのボタンを外して体温を逃がしながら……ふと見ると踊り場の窓に黒い影が映ってる。
スリガラスだからはっきりとは見えないけど、間違いなく鳥だ。
窓枠に止まり、餌を探すカラスか、鳩か。
ってことは……エントランスから見えた荒野は単なる幻。
一歩出れば、そこは荒野じゃない。外に出られさえすれば助かるって事だ。

窓をコツンと叩いてみる。鳥はすぐに居なくなった。
強く叩いてみる。相当厚いガラス……だね、びくともしない。
このハードケースを投げつけて見ようかとも思ったけど……やめた。
一応カーボンファイバー素材ではあるけど、あれをぶち破るほど頑丈とは思えない。
楽器ごと台無しになってしまえば後々困るだろう。さっきはこれのお陰で助かったんだ。

「喉が……乾いたな」

思わず出た呟き。化け物よりも、そっちの方が問題かも。
このまま何処にも出られなかったその時は、餓死か、渇いて死ぬかだ。
人間は水無しでどれくらい生きられる……?
でも立ち止まって考えたって仕方がない。無駄でもいい、とにかく上に向かって歩こうと振り向いた。

「――――イタ(痛)ッ!!!」

突然の落石。
額を押さえて蹲る。床にゴロリと転がる缶詰の缶。
マグロの……刺身……? 誰かが上から投げつけた!?
そうか、今だ! 今登ればきっと――

予想通り、フロアに続く扉があった。迷わず開ける。プレートの表示は「6F」。
そこは廊下の無い、だだっ広い四角い空間。ずらりと並ぶ自販機の群。
人の気配は……無い。
ため息をつきながら、でもこの事態は最悪なんかじゃないと思い直す。水分補給のチャンスだと。

財布を覗けば万札が3枚だけ。小銭もない。
自販機はすべて……カードが使えないタイプ。いやいや、このホテルでそんな常識!

イチバチで「美味しい水」のボタンを押す。ごとッと音がして、見ればちゃんとボトルが出ている。
とたん、すべての機体が順繰りに光り出した。
何事かと見るうちに、その光がいまボタンを押した自販機で止まり――
何も起きない。
僕は水のペットボトルを取り出して、渇いた喉に流し込み……

「――アツ(熱)ッ!!!」

たまらずボトルを放り出す。
掴んだボトルはキンキンなのに、口に入れたそれは煮え立つお湯だったんだ。

しばらく苦痛にのたうち回り、四方を彷徨ううちに反対側に扉があるのに気付いた。
扉の足元に置かれた一冊のノートにも。

「あ!!」

感激のあまり叫んでしまう。開きっぱなしのそのノートには、こう書かれていたんだ。

『この先に行ってます。by須賀 見舞』

僕は扉を開けた。今度の今度こそ会える、そんな期待を込めて。
0368須賀 見舞 ◆J1Bja7ezw7s5
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2020/03/06(金) 18:38:29.09ID:deb6SjxG
…貴女はどう思う?」
外が屋上の可能性があるとのことだがもしそうなら脱出の可能性があるということ
脱出できるならそれに越したことはない。しかし、この異界がそう簡単に脱出させてくれるか?
いやここ以外に可能性のある所はない。
私は「少なくとも脱出できる可能性があるなら出る価値はある」
そういうと九辺さんは覚悟を決めたようで扉を開いた…
…外に出ることはできた、だが何か妙だ。高度はかなりある筈なのに風ひとつ吹かない。
どうやら九辺さんも違和感を感じていたようであたりを警戒している。
空は気持ち悪いほどに青々しい。
九辺さんはガラケーを取り出して、電話をかけようとしているが電波は全くないようだ
しばらく探索していると、手記を見つけた。乱雑な字でこう書いてある
『ずいぶん繰り返してきた。この手記を読んでいる人がいるのなら一つ頼みがある。
屋上にしばらくいたら、巨大な手が現れてその手に触れたら1階に飛ばされる。そのたびに
このホテル…くたばっちまった俺の仲間はビルだか廃墟だか言ってたがこの世界はクソッタレ
な環境になっていく段々と異形や怪異が現れるようになってきた。俺の仲間もそいつらに全員
やられた何回も繰り返してどうやら俺はおかしくなっちまったみたいだ。次目覚めるのが天国
だと信じて俺はここから飛び降りる。
…さて頼みだが…このホテルの4階に秘密があると仲間が口走っていた。
ただ俺らではそこに行く術は知らないし知りたくもない。俺が死んでその先が四階かもしれない
仲間は四階らしきところの壁から人の声が聞こえたらしいんだ。それが死んだ仲間に似ていたんだとよ
…四階に行って欲しいんだ…もしそこから出ていけるなら脱出してくれ…
私達のかわりに生きてくれ…』
急に扉が開く。中から久城 隼人が飛び出して来る。なかなかに汗だくな姿をしている。
私は九辺さんにこの久城隼人の説明をしつつ、この手記を見ながらこれからどうするかを
話し合う事にした。
0370創る名無しに見る名無し
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2020/07/24(金) 18:36:53.07ID:1jLUhCGN
夏の勢いで考えた実験室企画。
ロボット版ガルパンみたいなのがやりたくて……。

【ロボットスクール・ライフ!】
西暦2100年。
ロボット工学は隆盛を極め、人型機動兵器『テクターフレーム』を生み出した。
軍事兵器として開発されたこのロボットは瞬く間に一般社会にも浸透。
組み換え・改造容易なこの兵器は遂に学校にも姿を現した。

今や高等学校にロボット部があるのは珍しくない――。
パイロットを目指す者、ロボットが好きな者、部活動推薦が欲しい者。
理由は様々だが、とにかく彼らはロボットを愛し、ロボットに乗って戦う!
さぁ、青春をロボットで燃やせ!


ジャンル:SFロボットアクション
コンセプト:機動兵器青春群像劇
期間(目安):短い
GM:なし
決定リール:なし
○日ルール:一週間(宣言すれば延長も可)
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし
0371創る名無しに見る名無し
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2020/07/24(金) 18:38:08.95ID:1jLUhCGN
【キャラクターテンプレート】

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
特技:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【ロボットテンプレート】

機体名:
機体タイプ:
装備:
機能:
解説:


【テンプレ記入例】

名前:空島碧(そらしまあおい)
年齢:15
性別:女
身長:160
体重:50
性格:元気満点かっとびガール
特技:天然
所属:清涼高校1年A組
所持品:操縦桿(本物)、学校の鞄
容姿の特徴・風貌:亜麻色の髪に碧眼。
簡単なキャラ解説:
ロボットが大好きな高校1年生!
胸に燃え上がるロボット魂を「かっとび」と形容する。
操縦技術は天才と下手の紙一重だが、天然でえらいことをする。
コールサインはソラリス(あまり呼んでくれないらしい)。


機体名:VTF-02(愛称:アマルフィ)
機体タイプ:可変式小型機体
全高:6メートル
装備:
・ガンキャリバー/銃剣つき突撃銃。
・サブマシンガン/予備の携行用短銃。
・マルチミサイルポッド/全20発の対地対空ミサイル。
・アサルトナイフ/二本内蔵。緊急用近接装備。
機能:航空形態への可変機構
解説:
型式はやや古いが、対地対空戦闘に優れた可変式機動兵器。
飛行機型に変形することで長距離高速移動を可能としており、
この形態は他の小型機体を乗せて運搬する能力も有している。
反面火力に乏しく、重装甲機や大型機に対して決定打を持たないという弱点を持つ。
パーソナルカラーは空色。
0372創る名無しに見る名無し
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2020/07/24(金) 18:39:21.60ID:1jLUhCGN
2100年。ロボット工学が隆盛を極めた熱い時代。
一方で少子化による人口減少でゴーストタウンが増えた日本には、機動兵器の演習場が多く存在する。
東京にほど近いこの第七演習場もそうである。

演習場外周にある観客席のモニターに映るは、火花を散らすロボットたち。
快晴を切り裂いてVTF-02が空を舞い、その形を徐々に人型へと変えていく。
パイロットはスラスターを吹かして急降下。眼下のロボットにガンキャリバーの銃剣を突き立てる。
動力を貫かれた切り裂かれたロボットは機能を停止。脱出機構が働いて撃墜された。

「すごい!すごい!かっこいいーっ!私も動かしたい!」

「そうだね。高校生になってロボット部に入れば、碧も動かせるかも知れないな」

興奮しテンション爆上げの娘を宥めるように、父は頭を撫でた。
忘れもしない。両親に連れて行ってもらった12歳の思い出。
あの時胸に灯ったかっとぶような魂の衝動を忘れられない!
空島碧は、この時を今か今かと待っていた……。
高校に入学する、この時を!

「なのに、なんでロボットがないわけぇぇぇーーーーっっ!!!!??」

「いやぁ、ごめんなさい。全国大会で大鳳学園にボコボコにされちゃって。
 負けるだけなら良いんだけど保有機体がスクラップになるくらい完膚無きまでに負けちゃったの」

桜吹雪が舞い散る春に、碧は絶句した。
あの時のかっとびを胸に、頑張って勉強してロボット部の強豪、清涼高校に入学したというのに。
顧問の第一発声はその要たるロボット、肝要たる機動兵器、『テクターフレーム』がないと言うのだ。
清涼vs大鳳はテレビで中継されず結果だけが報道されたが、裏でそんな激戦があったとは!
つくづくチケットを買い損ねた自分が恨めしい。

「いや〜そういう訳で悪いんだけど、ロボット動かすのはしばらく我慢して。
 予算はあるから冬には最新機体が揃うかな。あとうちに残ってるのなんて――……」

「そんなに待てませんっ!!!!」

冷房の効いた部屋に碧の怒声がこだました。情熱が暴発した。
顧問は一瞬呆気に取られたが、何かを思いついたらしく、愉快な顔をした。
0373創る名無しに見る名無し
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2020/07/24(金) 18:40:24.45ID:1jLUhCGN
清涼高校は某県の山奥に存在する学校で、ロボット部の練習場も近くに存在する。
山を降りればスクラップ屋もあり、まさにロボット・マニアに向けた仕様と言える。
山奥の練習場、森の外れに、苔むした鉄塊の上半身が埋まっていた。
空色をした鉄に繁茂する植物を顧問はさっさっと払う。

「先生、これって……!」

「たぶんVTF-02ね。私の代から結構管理が杜撰でさぁ……。
 昔の機体とかその辺に結構転がしちゃったままなのよね……。
 同じ型式の機体、まだどっかにあるんじゃないかな」

碧の瞳がぱっと輝いた。ロボットに乗れる!あの憧れのVTF-02に!
VTF-02といえば、稀代の天才パイロットと呼ばれた出雲あい選手の愛機なのだ!
学生時代に彼女が使っていたという操縦桿を、碧は宝物としていつも持ち歩いている。

「あの……!これってレストアするってことですよね!」

「うん、まぁ、そんな感じ。貴女も部員だから手伝ってもらうけどね〜」

「勿論ですっ!!あの、これって頑張れば頭数とか揃う感じですか!?」

顧問の青葉はえ、と変な声を出してしまった。
妙なことを言う生徒だ――。と思考で嫌な予感を拭った。

「えっと……どうする気かしら?」

「大鳳学園にリベンジしましょう!……練習試合で!!」

輝く青の瞳はどこまでも純粋で眩しかった。
アホなことを……。言い掛けたが頑張って黙った。いや言って良かった。
けれどその無謀とも言える愚直なまでの一途な心を妨害するほど、青葉は荒んでいなかった。

「えーっと……機体が揃えばね?機体が揃えば……あはは」

――この後、どんな機体を揃え、どのように戦ったか……。
それは清涼高校と大鳳学園のみぞ知る。
0375◆IiWdxl1r76
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2020/10/19(月) 18:34:48.01ID:TTZPWC6Y
【レトロファンタジー番外編:紅炎の神殿】

サマリア王国。勇者発祥の地として知られるイース大陸の国。
その東西南北には、火水風土を司る四神を祀る神殿が存在している。
四神殿のひとつ、南の『紅炎の神殿』――……そこには未だ見ぬ伝説の装備が眠っている。

その噂を耳にした一人の少年が、深い森をかき分けて訪れたのはいつだったか。
蔦が絡みつき苔むした神殿の柱を手でなぞって、そこが伝説の神殿だと確信する。

ありふれた旅装姿に栗色の髪。青い双眸には強い意志を漲らせている。
彼の名はレイン。どこにでもいる冒険者の一人である。

「よっ……と」

崩落した階段を跳躍で飛び降りて着地。
まるで玉座へと続くような長い広間が伸びている。
その終点には老朽化していささか見るに堪えない罅割れた祭壇。

祭壇に刻まれた神代文字は円環を描いて配され、魔法陣であることを示している。
神代文字には疎いが、それが魔法陣であるならば魔力で動くのが道理。
学校では危険な仕掛けや罠の恐れもあるため、分からないものを無闇に動かすなと教えられたが……。

ここは無鉄砲で行くことを選んだ。
魔力を送ると、ごごん、と作動する音がして、地下へ続く階段が現れた。
予想的中。レインはよしよしと頷いて階段を降りていく。

地下はありていに言ってダンジョンになっているようだ。
石壁で作られた神代の迷宮。まだ地上に神々がいた時代に造られたもの。
なぜそんなものを造るのだろうか、とは愚にもつかぬ思考だ。
答えは大事な財宝を隠すためである。

バインダーに挟んだ無地の羊皮紙に地図を描きながら、着実に道を把握していく。
魔物らしい魔物はいない。神殿に魔物がいるとするなら、それは侵入者を追い払うためのもの。
0376◆IiWdxl1r76
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2020/10/19(月) 18:36:02.46ID:TTZPWC6Y
迷路に一角に入った瞬間、一筋の光が閃いた。
反射的にスウェーで回避するも、空間に数本ぱらぱらと栗色の前髪が舞う。
ぎらり。灯りに照らされて薄闇で鈍く光るのは錆びれたはがねの剣だ。

「ひぇぇ……っ」

レインの頭の中で記憶のページがぱらぱらと捲れていく。
やや錆びた鎧、生気を感じない挙動、しかし周囲に瘴気はなし。
以上三点から洞察するに、リビングアーマーのようなアンデッドではない。

長きに渡りこの神殿を守護する騎士の魔物――。
侵入者を追い払うテンプルガーディアン。
死霊の怨念ではなく魔法で動く鎧だ。

羊皮紙を素早くしまうと腰から同じくはがねの剣を抜いた。
テンプルガーディアンが剣を大きく振り下ろす。
剣と剣が何度も鍔迫り合い、大きくかち合う。

「ふっ!」

攻撃と攻撃の間隙を見逃さず、刺突を繰り出す。
頭と胴を繋ぐ箇所に刺した剣をてこの原理で跳ね上げる。
テンプルガーディアンの"目"を司る兜が宙を舞う。

「今だっっ!」

渾身の力をこめて唐竹割り。
振り下ろされた必殺の一撃は動く鎧の肩口を裂いた。
からん……と錆びれた剣を落として、神殿の守護者は静止する。
危なかった。逆説的に、この先には大事なものが眠っているに違いない。

剣を鞘に収めると慎重に歩を進めていく。
道の左右には壁龕が設けられており、火がくべられている。
煌々と燃ゆる火は浄化を象徴し、神殿に祀られる炎神を意味する。
0377◆IiWdxl1r76
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2020/10/19(月) 18:37:45.12ID:TTZPWC6Y
近い。この先には自分が求めてやまないものがある。
伝説の魔法武器、紅炎の剣『スヴァローグ』……あらゆるものを燃やし尽くす炎の剣。
まだ神々が地上にいた時代、炎神を信仰する者達が奉納のため生み出したという一振り。
祭具として扱われていたそうだが、ひとたび剣を振るえば炎が舞い、あらゆる魔を浄化したとも。

レインはそれがどうしても欲しい。
自身の目的のため。友との約束を果たすため。

やがて大広間に辿り着くと、レインの額に汗が滲んだ。
中央には紅の剣が突き立っていて、防具が共に祀られている。
広間に感じるこの熱気は、祀られている紅の剣と防具によるものか。
伝説の剣を引き抜こうと近づくと、空間から声が響いてきた。

「……――汝、炎神フラマルスを信奉する者か。答えよ」

全てを見通すかのような厳かな声。
信心深い方でないのもきっとばれているのだろう。
けど臆していては武器を手に入れることなど出来はしない。

「我が名はレイン!魔王を倒すため力を集める者!
 この神殿に眠る紅炎の剣をどうか頂戴したい!」

正直すぎたか。
祀られている防具の隙間から紅炎が噴出し、人の形を成していく。
紅炎は民族衣装のような防具を身に纏って眼前に突き立つ大剣を引き抜いた。

「神殿に足を踏み入れし者よ、なれば『紅炎の剣士』に示してみよ!
 その身に宿りし勇気が、どれほどの強さであるかをッ!」

紅炎の剣士が『スヴァローグ』を構えると、刀身が灼熱を帯びた。
これはやばい。レインは咄嗟にはがねの剣を抜いたが、これではどうにもならない。
空間に向かってぶん、と灼熱の剣を振るえば、剣先から炎の刃が飛来した。

「……――避けるしか、ないっ!」

慌てて左斜め前方へ大跳躍。片手で受け身をとりつつ、紅炎の剣士に肉薄する。
袈裟斬りを浴びせようと剣を振り下ろすが、籠手を纏った腕で強引に振り払われた。
0378◆IiWdxl1r76
垢版 |
2020/10/19(月) 18:39:00.05ID:TTZPWC6Y
大きく弾き飛ばされて壁面近くまで吹っ飛んだ。
じん、と手が痺れるのを感じる。なんて馬鹿力だ……。

籠手で振り払われただけで剣が刃毀れしている。
"炎の刃"と"籠手"。迂闊に近づくのが危険なのは誰でも分かる。

「此れは『豪腕の籠手』。真正面から挑むのは愚か者と心得よ」

噂にはない情報だ、とレインは思った。
ここにきて一層欲しくなってしまう自分は馬鹿なのか。
だが、こんな強い相手、何の旨味もないのに戦いたくはない。

「愚かでも……やるしかない時もあるっ!」

立ち上がると、刃毀れした剣が虚空に消えた。
次の瞬間、魔法陣が浮かび上がると、燐光を散らせて武器が出現する。
これはレインが唯一使える魔法。武器や道具を呼び出す召喚魔法だ。

重量感をもって石畳に落下した武器は、鉄球。ただの鉄球ではない。
鎖に繋がれた先に柄があり、レインはそれを握っている。
モーニングスター。高い破壊力をもつ打撃武器。

「こいつでどついてどついて……どつきまくる!」

鎖を掴んでぶん、と鉄球を振り回すや高速で投擲。
が、紅炎の剣士が首を少し横にずらすと、鉄の塊は後方に猛進した。
剣士は走るでもなく悠々と大剣を携えて近づいてくる。

「まだまだ!モーニングスター・リバースブレイク!」

鎖を横に引っ張ると鎖を伝って遠心力が働く。
レインの一回転と共に、鉄球もまた円軌道を描いて――……。
再度、横薙ぎの一閃として紅炎の剣士へと迫る。

「むうっ……!」

質量を秘めた鉄塊を防御すべく空いている掌で受け止めた。
流石は『豪腕の籠手』といったところだろうか。
並みの人間では腕を折る芸当を平気でやってのける。
0379◆IiWdxl1r76
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2020/10/19(月) 18:40:41.60ID:TTZPWC6Y
がっちり掴んだ鉄球を『紅炎の剣士』は離さない。
――意志を持った炎の化身は、瞳のない瞳で目を細めた。
眼前の対戦者から目を離したつもりはなかったのだが。

気づけばレインは二つ目のモーニングスターを召喚。
左手で鎖を手繰り、こちらへ鉄球を放っているではないか。

"鉄球を防御する時"は誰もが意識を本体から鉄球へ僅かにズラす。
その盲点を突いたミスディレクション。レインの巧妙な罠だった。

結果。第二の鉄球が紅炎の剣士のどてっぱらに命中。
怯んだ隙をついて二撃、三撃、四撃と連続で叩き込んでいく。
これで倒せねば勝機はないと踏んだレインは一気呵成に攻め立てる。

「舐……めるなぁぁぁぁぁぁっ!!」

怒号と共に全身から大量に炎が噴き出た。
その勢いで鉄球の勢いは殺され、弾き返されてしまう。
慌てて鉄球を召喚魔法で転送して消すと、鉄の盾を召喚。
噴き出た炎を盾で受け止めながら、レインは再度肉薄した。

「自害する気か!なれば介錯仕る!」

「いいや!俺は……あなたを倒して先へ進む!」

振り下ろされた『スヴァローグ』を鉄の盾で受け止め――られない。
触れた途端、雪のように溶解してしまうのだ。それでも構わない。
レインは再び盾を召喚した。溶解。召喚。溶解。召喚。溶解。召喚。

「俺には負けられない理由がある!どうしても……負ける訳にはいかない!」

鉄球で散々与えたダメージのようなものは確実に累積しているはず。
最後の一撃を食らわせる隙だけでいい。どうか俺よ耐えてくれ。
紅炎の剣『スヴァローグ』の炎がやがてレインを焼き始めた。

「約束したんだ!強くなって……必ず使命を果たすって!
 だから俺は!絶対に負けられないんだっ!!」
0380◆IiWdxl1r76
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2020/10/19(月) 18:42:44.56ID:TTZPWC6Y
外套を焼き、防具を焼き、肌を焼く。それでもレインは止まらない。
『スヴァローグ』の刀身がレインの身体に達したと同時。
レインは紅炎の剣士のある箇所にはがねの剣の一太刀を命中させていた。

それはモーニングスターでも狙い続けていた箇所――。
防具と防具の結び目。炎の化身の肉体を繋ぐ結節点だ。

相手は防具を纏った炎だが、物理攻撃が意味を為さない炎がなぜ防具を纏う。
つまり、こうだ。炎は紅炎の剣士の意識。防具は肉体。剣は武器。

結び目が解けた今、紅炎の剣士はどうなるか。
肉体を維持できず、消滅するしかない!

「……見事なり……汝、紅炎の剣に相応しき心と力を持つ者。
 魔王を打倒するために新たな『紅炎の剣士』を名乗るがよい……」

「……ありがとう……死にそうだけどね……」

「……ふ。運命が汝をまだ殺さぬ。
 勇者よ、炎神の加護があらんことを……!」

ふっと炎が消え失せ、防具が周囲に散乱した。
残されたのは地面に突き立った紅炎の剣『スヴァローグ』と。
大火傷を負い、薬草を食んで傷を癒そうとするレインだけだった。

……――"召喚の勇者"の切り札に三つの魔法武器がある。
『紅炎の剣』『清冽の槍』『天空の聖弓』。
これはそれを手に入れるための短い冒険譚である。


【本編でできない話をやってみたかった……という感じです】
【ついでに本スレの宣伝も兼ねて出張ということで、失礼しました】
0383◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/05(月) 17:57:45.17ID:tVUiwe7N
ロールの練習がてら、実験室をお借りします
ちょっとしたロールや手軽に遊びたい人向けの企画だよ
1レスだけ落とすとかそんなスタイルでもおkだよ

【企画:無限迷宮へようこそ】

無限迷宮――――。
それはかつて存在した魔王が創ったという伝説のダンジョン。
次元の狭間にあり、あらゆる世界から人や、財宝や、資源が漂着する。
迷宮は階層と魔物を増やしながら侵入者を阻む。

入り口や出口、階層から階層へは『ポータル』と呼ばれる転移装置で繋がっている。
ただし、ポータルの転移先は不定期で変わるためどこへ移動するかわからない。
そのため、迷宮に入るのは簡単だが脱出は容易ではないとよく言われている。
低階層ほど魔物は弱いので、勝手に集落や国を作る者もいる。

冒険者たちは様々な思惑を抱えて迷宮へとやってくる。
巨万の富を求める者、下界にいられなくなった者、好奇心だけで来た者など。
君もまた、その一人なのである。


ジャンル:ファンタジー
コンセプト:ロールの練習やお手軽に遊びたい人向けに
期間(目安):未定
GM:なし
決定リール:なし
○日ルール:7日(宣言すれば延長可)
      なお参加者が一人の場合は不定期とする
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり
避難所の有無:なし
参加人数:1人以上
0384◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/05(月) 18:02:51.69ID:tVUiwe7N
【テンプレート】

名前:
種族:
年齢:
性別:
身長:
体重:
性格:
職業:
目標:
能力:(A〜Eで評価)
装備:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:



【テンプレート記入例】

名前:エール・ミストルテイン
種族:人間
年齢:16
性別:女
身長:152
体重:49
性格:大らか。正義感は人並み
職業:銃士
目標:姉を見つけ出す
能力:
砲術B……砲や銃を操る能力。高いほど正確に狙える。
体術C……徒手空拳の能力。平均的軍人と同じ能力をもつ。
魔力C……潜在する魔力量。生まれつき人並みの魔力をもつ。
算盤D……お金を回す能力。無駄遣いはしないが根っからの貧乏。

装備:
携行魔導砲『アルヴィス』
魔力をプラズマなどの攻撃魔法に変換する投射武器。
小さい臼砲に持ち手と引き金をつけたような見た目で色は青。
意外と軽い。

容姿の特徴・風貌:
白金の髪に空色の隊服。顔立ちにはまだ幼さが残る。

簡単なキャラ解説:
北方大陸出身の銃士。無限迷宮で失踪した姉を探してやってきた。
銃士になった理由は実家が貧乏のため、軍属なら食いっぱぐれないと思ったから。
雪国育ちで寒いのには慣れているが都会をよく知らない田舎者。
冒険者としても完全に初心者。右も左も分からない。
0385◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/05(月) 18:06:30.20ID:tVUiwe7N
見渡す限りの草原が広がっていた。
そよ風が草木を優しく揺らし、頬を撫でる。

風があたたかい――後ろを振り返ると、石造りの社がある。
社の中では魔法陣がきらきらと碧い光を放っていた。
転移の魔法陣だ。もう何度もあの社を見たが、間違いない。

牧歌的かつ草木以外何もない空間に拍子抜けしたが、ここが『無限迷宮』らしい。
かのダンジョンは、一度入ると出られない、伝説の迷宮として有名だ。
魔王が創ったこの広大な空間には、巨万の富が眠っているという。
すこし歩くと、崖下に町並みが広がっているのが見えた。

「うわ、うわぁ。町だ。ここって本当に迷宮なのかな?」

自問の答えはない。
目指す当てもなし、とりあえずはあの崖下の町へ行くことにした。
と、いって、このままロッククライミングで降りるわけにもいくまい。
大きく迂回する形になるが遠目に見えるあの斜面を下っていくべきだろう。

何時間かかるのやら……。
道らしきところを進んでいると、どこからかゴトゴトと音がする。
町の方角からだが――しめた。あれは荷車の音に違いない。
全力で飛び跳ねながら手を振って、あらん限りの声で叫んだ。

「おーい!おーい!乗せてくださぁい!」

瞬間、矢が肩を掠めた。身体が凍りつく。
荷車は商人や羊飼い辺りが曳いているのかと思ったが、全然違った。
その矮躯に、緑っぽい体色、下賤な笑い声。ゴブリンだ。

なんと荷車には蓑巻きにした人間が乗せてある。
少女は不幸にも人攫いの途中を目撃してしまったのだ。
ゴブリン達は荷車から飛び降りると、棍棒や弓矢を構えて襲い掛かってきた!

「う、うわぁーーーーっ!?」

少女の名はエール・ミストルテイン。どこにでもいるちょっと運のない女の子だ。
エールは予想と反した結果に驚きの叫び声を上げるのであった。
0386◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/10(土) 02:43:26.94ID:vQqn2pYW
襲ってきたゴブリンの数は実に三体。
めいめい武装して、いたいけな少女へと殺到する。
つい驚いて叫んでしまったがダンジョンに魔物がいるのは当然だ。

(やるしか……ないっ!)

エールは覚悟を決めて、飛び掛かってきた一体を見据える。
そしてタイミングを合わせて――棍棒が振り下ろされるや、それより早く。
エールが放った蹴りがジャストで顔面を捉えた。

「ゴブぅーっ!?」

奇怪な叫び声を上げつつ、蹴られた一体が紙屑みたいに吹っ飛んでいく。
だいたいのゴブリンは一メートルにも満たないことが多く、体格も良くない。
そんな小型の魔物が人間様の蹴りを食えばこうなるのは当然の帰結だ。

だが、彼らは概して悪知恵が働き、冒険者を困らせるもの。
残りの二体のうち片割れは草の長い草原に紛れて背後に回り込んでいた。
そして今度こそ後頭部に棍棒を打ち付けんと奇襲をかけ――

「せぇい!」

――られなかった。
想定内とでも言わんばかりに、左腕の肘打ちがゴブリンの胴を射抜く。
そして怯んだところでゴブリンの胸倉を掴んで、弓を慌てて構えた最後の一匹へ投擲!
ゴブリン二体の額と額が激突し、二体の意識は途絶した。

「大丈夫ですか、いま解きますねっ!」

ゴブリン三体を見事な体術で撃破したエールは、蓑巻きにされた人の救助に向かう。
縄を解いてあげると、「ありがとう、助かったよ」とお礼を言われた。
ちょっと照れくさいが、嫌々受けた戦闘訓練が役に立ったようで嬉しい。
0387エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/10(土) 02:49:57.64ID:vQqn2pYW
――荷車をゴトゴト揺らしながら、舗装もされていない道を往く。
感謝の印とばかりにちゃっかり荷車に乗せてもらい、町までの道程は随分楽だ。

「君は探索にきた冒険者なのかい?あまり見ない顔だね」

「あ……はい。銃士のエールと申します」

「だから強いのかぁ。若いのに凄いなぁ」

助けた人は背負っている筒状の物体を一瞥してそう言った。
エールは駆け出しの冒険者だと謙遜する。話を聞くとその人は崖下の町に住んでいて、
放牧していた家畜を守ろうとしたところ、返り討ちにあい攫われたらしい。
そのどうにも生活感溢れる話に、エールはここが本当にダンジョンなのかと疑った。

「あの……迷宮内に住んでるんですか?」

「まぁね。この無限迷宮はとにかく広大で、何でもあるからね。
 外には簡単に出られないから自然と町やら集落やらの拠点ができるんだよ」

助けた人は故郷を失った流浪の民で、迷宮に流れ着いてもう五年になるのだとか。
曰く、ここは迷宮の一階にあたる草原エリアで、エールのような冒険者がよく訪れるという。

「本格的に探索を始める前に町で準備するといいよ。
 階層によっては拠点がないところもあるからね」

やがて崖下に辿り着くと、乗せてくれたことに感謝し、町の門を潜った。

「無限迷宮1F、緑の町エヴァーグリーンへようこそ。
 何もないところだけど、ゆっくりしていってね」

助けた人はそう言うと、荷車を引っ張って去っていった。
さっそく冒険者が集まりそうな場所を探しはじめる。たぶん酒場あたりだろう。
エールはこんな拠点が迷宮内にあるなら、案外早く見つかるかもしれないな、と思った。

彼女の目的は一獲千金でもなければ冒険心でもない。
この無限迷宮に挑んだきり行方不明になった姉を探しに来たのだ。


【エール:無限迷宮1Fの拠点に辿り着く】
【ぼちぼちやりますのでいつでも気軽にご参加ください!】
0388エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/17(土) 00:05:36.91ID:0rg5Zhao
迷宮内に築かれた冒険者たちの拠点、エヴァーグリーン。
のどかな町の風景は外の世界とそう変わらず、木造の家々が立ち並ぶ。

酒場は探せばすぐに見つかった。外からでも喧騒が漏れてくる。
扉を開けるとギィ、と古びた音が鳴って視線が一気に集まるのを感じた。
エールは気にした様子もなく、空いているカウンターの一角に座る。

「お嬢さん、見かけない顔だね。冒険者の方かい?」

「はい。銃士のエールと申します」

店主に尋ねられ、定型句を述べると、飲み物でも注文して情報収集をはじめようと思った。
中には十数人程度の武装した人たち――おそらく冒険者――がいる。

「おーい。レオン、あんたの出番だ。新顔の冒険者だってさぁ」

いざ注文しようとすると、店主が人の名前を呼んだので出鼻を挫かれた。
するとそそくさと帽子を被った紳士が店の奥から姿を現す。
若い男性だ。頬に切り傷があって、精悍な顔立ちをしている。

「おおっと、はじめまして。俺はレオン!しがない情報屋さぁ。
 ここで冒険者の面倒も見てるがね。無限迷宮にははじめて来たのかい?」

渡りに船だ。肯定すると情報屋に姉を探すためやってきたのだと言った。
姉の名はカノン。故郷を守る元銃士で、今は冒険者として国々を転々と旅している。
そしてこの無限迷宮に挑んだきり行方不明になったのだ。

「難儀な話だねぇ。その姉さんに関する情報、あるけど聞くかい?
 お金はかかるけどね。まぁ、その辺の問題もあって俺が来たんだがな」

「……どういうことですか?」

エールは小首を傾げた。
0389エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/17(土) 00:07:55.19ID:0rg5Zhao
ごほん、と情報屋のレオンは咳ばらいをする。

「この無限迷宮では専用の通貨しか流通してねぇんだ。色々な世界の住人が集まるからな。
 多元世界共通の金なんて無いし、不便だから統一しようってんで『メロ』って金貨しか使えねーのよ」

レオンは懐から金貨をひとつ取り出した。表面には迷宮のような独特の紋様が彫られている。
通貨単位『メロ』は迷路が訛ったものが由来だと説明してくれたが、そんなことはどうでもいい。
問題はエールは故郷の世界のお金しかもっていないということだ。
換金所などはないそうで、金が欲しければ働くか商売でもはじめるしかないらしい。

「迷宮と名はついているがこのダンジョンは一個の世界並みに広大だぜ。
 何をするにしても資金は必要になってくる……そこでだ。
 俺は冒険者向けの依頼も斡旋してるんだが、受けてみないかい?」

「……報酬額はいくらなんですか?」

「毎度あり。報酬額は2000メロだよ」

姉の情報は500メロで構わないと言われた。つまり1500メロ手に入る計算だ。
お釣りがもらえるならそんなに悪い話ではないだろうと考え、気軽に引き受けた。

「もうじき魔王の創った疑似太陽が別の階層を照らす時間になる……。
 そうすりゃこの階層は夜だ。魔物の活動も活発になるだろう。
 嬢ちゃんの仕事は夜に紛れて町に侵入しようとする魔物の撃退だ」

次の朝までこの町の警護をすること。それが依頼内容らしい。
引き受けるのは一人ではなく、冒険者何名かで守ることになるだろうと言われた。
話を聞くと冒険者の中には探索に来たのはいいが、迷宮を脱出できず、
仕方なく魔物退治で金を稼ぎ、糊口を凌ぐ者も多いらしい。

(待っててねお姉ちゃん……!今すぐに見つけ出すから!)

無論、エールにその気は微塵もなかった。
0390創る名無しに見る名無し
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2021/04/17(土) 01:58:02.50ID:1SBOZoCa
支援
0391エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/23(金) 22:51:55.32ID:Adet2WPB
無限迷宮1F、草原エリアに夜が訪れた。
疑似太陽が沈むと同時、月のような衛星が階層を微かに照らしはじめる。

屈強な男達に混じって、エールは町の外のだだっ広い夜の草原を眺めていた。
町は四方を木の柵で囲っていて、一応これが魔物除けになっているらしい。
ないよりはマシだろうが防備としてあまりに薄弱である。
だから冒険者たちは柵に沿って何名かずつに別れ、魔物の侵入を防ぐ算段だ。

「もう遭遇してるだろうが、主な魔物はゴブリンやスライムだな。
 弱いが数だけは多い。うっかり町に侵入させねぇように気をつけるんだぞ」

冒険者の一人に説明を受けてエールは静かに頷いた。
背負っていた巨大な筒をずん、と地面に立てかけ、柵にもたれ掛かる。
この仕事は長丁場になる。ずっと気を張っていても仕方ない。
故郷で警邏や見張りの仕事は何度も経験しているので慣れっこだった。


……一方、ゴブリンの集落では。

小鬼たちに取り囲まれた、略奪品の戦槌と円盾を装備せし緑肌の怪物が一匹――。
体躯は成人男性ほど。筋肉は隆々としている。彼もまたゴブリンである。
ゴブリンの上位種、群れを率いるゴブリンキングという種だ。

人間程度の体格を有し人語を話せる程度に知能が高い。
まだどこか愛嬌のあったゴブリンの面影は最早ない。
凶悪な貌を際立たせるかのように、配下の小鬼たちに向かって叫ぶ。

「機は熟した!今は亡き魔王様の迷宮に巣食う、
 塵人間共を一掃する好機が遂に訪れたでゴブ!」

ゴブリンたちの拍手と歓声が上がる。
波がひくように静寂が訪れたところでゴブリンキングは再び叫んだ。

「今宵の我らはただの小鬼ではない!何故なら――……。
 魔王様が遺した秘宝、『闇の欠片』が加護を与えてくれるからゴブ!」

闇色に輝く水晶が埋め込まれた戦槌を掲げると、地面に向かって振り下ろす。
暗黒の波動がゴブリンの集落を駆け巡り、小鬼たちの目が爛々と妖しく輝きだす。
矮躯は膨れ上がっていき、ゴブリンキングと相違ない体格へと急成長していく。

「ククク……素晴らしい力よ。全員ホブゴブリンに進化しやがったゴブ。
 これさえあれば負けは無し!さぁーッ、いざエヴァーグリーンを滅ぼしに!」

宵闇の草原に紛れて武装したホブゴブリンの一団は緑の町へと向かう。
遥か過去、魔王に仕えていた記憶を頼りに、自分たちの領土を奪回すべく。
0392創る名無しに見る名無し
垢版 |
2021/04/23(金) 23:29:16.96ID:1Ix7eiR5
見てる
頑張れ
0393ダヤン
垢版 |
2021/04/28(水) 23:43:09.62ID:4N2Hidz1
名前:ダヤン
種族:獣人族(猫種)
年齢:11
性別:男
身長:145
体重:45
性格:猫っぽい
職業:冒険者(能力的にはスカウト)
目標:地上に憧れている
能力:
短剣術C:ダガー二刀流で戦う
軽業C:猫なので
魔力C:目くらまし、鍵開け等の便利魔法を少々
装備:
容姿の特徴・風貌:灰色の毛並みの猫耳猫尻尾、銀髪の少年
簡単なキャラ解説:
物心ついた時から迷宮にいた。
冒険者として生計を立てているが、地上に憧れている。

>「もう遭遇してるだろうが、主な魔物はゴブリンやスライムだな。
 弱いが数だけは多い。うっかり町に侵入させねぇように気をつけるんだぞ」

屈強な冒険者達に混ざって、明らかに場違いな者がいる。
猫耳猫尻尾が生えたまだ幼いと言っていい少年だ。
獣人族猫種。見た目はファンシーだが生まれつき高い身体能力を持つ。

「ははは、楽勝楽勝! おねーちゃんは新入り?
なーに、この階層に出てくるのは雑魚ばっかだから心配することないって!」

そんな風に呑気に喋っていたが突然ぴくっと耳を動かし、目を細める。

「来たにゃ……!」

草原の向こうから、無数の光が見える。怪しく光るホブゴブリンの目だ。

「つーか、でかくね!?」

それは見慣れたゴブリンではなくホブゴブリンだからだ。
0394エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/04/29(木) 10:04:45.44ID:SsznVNM0
草原を吹き抜ける風が、途端に厳しくなった気がする。
夜は魔物の姿をくらます帳となり、静かにその魔手を伸ばしてくる。
姉のように木々や動物と会話できるわけではないが、何か――嫌な予感がする。

>「ははは、楽勝楽勝! おねーちゃんは新入り?
>なーに、この階層に出てくるのは雑魚ばっかだから心配することないって!」

警護に集まった冒険者といっても、種族は様々である。
わざわざ列挙はしないが、人間の方が珍しいと感じたくらいだ。
中でも自分より背丈の低い、獣人の少年が冒険者なのには驚いた。
もっとも華奢なのはエールとて同じことなのだが……。

「うん、エールって言うんだよ。よろしくね」

不安を掻き消す少年の明るい声が、エールを元気づけた。
迷宮内という環境ゆえか必要以上に臆病になっていたのかもしれない。
低階層で出現する魔物が弱いのは散々聞いた話であり、心配することなど何もない。
と、思った矢先。獣人の少年が突然耳をぴくりと動かし、目を細めて言う。

>「来たにゃ……!」

「な、何も見えないよ……!?」

無理もない。
据えつけてあるランタンは町内を照らすだけで、周囲は完全なる闇。
警護用に置いている焚き火も遠くまでは照らせない。
猫の獣人ゆえ夜目が効くのか、少年はいち早く魔物を捉えた。

>「つーか、でかくね!?」

「ただのゴブリンとかスライムじゃないの……?」

いわく、敵は見慣れたゴブリンではなく上位種のホブゴブリンらしい。
知能はゴブリンと同程度だが、人間ほどの体格を持ち、ゴブリンと同じく数で攻めてくる。
装備品の多くは略奪品であり、接近中のホブゴブリンは腰蓑に刀剣類や棍棒といった出で立ちだ。
風に混じって土を踏む音が聞こえてくる。50か?100か?相当な数がいると考えるべきだろう。

「まずいよ……ホブゴブリンの強さは武装した人間の成人男性くらいって話だよ。
 そんな魔物に大挙して攻め込まれたら防衛ラインが崩壊しちゃう」

対してこちらは十数名程度しかいない。
しかも分散して町の周囲に配置しているから、防備はかなり手薄。
もし一点突破で攻め込まれてしまったら敗北は自明の理だ。
エールは焚き火の前でじっと思案していたが、やがて静かに口を開いた。

「敵の正確な数と位置って分かりませんか?後はなるべく足止めしてほしいかも……。
 そうすれば、私の支援砲撃でなんとかできるよ。偵察とか斥候の得意な人がいればだけど……」

そう言って、地面に立てかけている魔導砲にぽん、と触れた。
エールは銃士として今まで強力な竜や魔物と戦ってきた経験がある。
剣や魔法は得意でないけれども、『火力』の一点においては見劣りしない自信がある。

ただ、全ては敵の状況次第だ。
魔物が纏まった集団で行動しているのか。軍隊のように部隊を組んでいるのか。
それとも散開してエヴァーグリーンを取り囲もうとでもしているのか。
いくら力を持とうとも、闇の中で敵を知る術がなければ役に立たない。


【わーい。参加してくれてありがとー】
【魔物は基本的にNPCってやつだから自由に描写して大丈夫だよ】
0395ダヤン
垢版 |
2021/04/29(木) 18:27:58.22ID:ojZUX94l
>「ただのゴブリンとかスライムじゃないの……?」

「あの大きさはホブゴブリン……ゴブリンの上位種だ!
群れの中に何匹かいることはあってもあの数で攻めてくるなんて!」

>「まずいよ……ホブゴブリンの強さは武装した人間の成人男性くらいって話だよ。
 そんな魔物に大挙して攻め込まれたら防衛ラインが崩壊しちゃう」

“武装した人間の成人男性くらい”と言えば魔物としては大したことはないのではないかと一瞬思ってしまうが、それが数え切れないほどいる。
対するこちらはたったの十数名、しかも冒険者とは言っても普段ザコしか相手にしない低階層の冒険者、実態は街の警備集団のようなものだ。

>「敵の正確な数と位置って分かりませんか?後はなるべく足止めしてほしいかも……。
 そうすれば、私の支援砲撃でなんとかできるよ。偵察とか斥候の得意な人がいればだけど……」

「斥候か……ダヤン、行ってくれるか?」

「任せろにゃ!」

冒険者、と呼ばれる者の中には文字通りに色んなエリアを渡り歩いて冒険している者もいるが、特定の街の冒険者ギルドに所属し依頼を受けて生活している者も多い。
よって同じ街の冒険者同士は依頼で一緒になる時も多く、必然的に顔見知りになるのだった。
ダヤンと呼ばれた少年は、冒険者パーティに例えるとスカウトに近い技能を持つ。
ダヤンは、足音を立てずに街の外に駆けて言った。
徒党を組んで攻めてきているゴブリンの群れから気付かれない程度の距離を保ちながら、敵の全貌を探るべく迂回する。
今までに遭遇したゴブリンの群れとは明らかに違うことがすぐに分かった。
各自好き勝手に突撃するのではなく、軍隊のように隊列を組んでいるのだ。
群れの最後部では、おそらく略奪品だろう他とは一閃を画す立派な戦槌と円盾を装備した貫禄あるゴブリンが、数体のホブゴブリンに守られるように囲まれている。
その時だった。

「……ネズミが紛れ込んでいるようだなゴブ。皆の衆、行けーっ!」

充分な距離を保ち一切足音を立てていないはずなのに、気付かれた。
『闇の欠片』の加護は戦闘能力以外の感知能力等にも及ぶのかもしれない。
取り巻きのホブゴブリンが2体ほど襲い掛かってきた。
寸前で頭上高くジャンプして避けたため、ホブゴブリン同士が頭をぶつける。
0396ダヤン
垢版 |
2021/04/29(木) 18:29:07.66ID:ojZUX94l
「いてえっ! やりやがったなゴブ……!」

「ネズミじゃなくて猫です!」

「なんだ猫か……って言うと思ったかゴブ! 『闇の欠片』の秘密を知られたからには生かしてはおけんゴブ!」

「闇の欠片ってにゃんだ?」

ホブゴブリンがキングのようなゴブリンの戦鎚の先を指さしながら熱弁をふるう。

「見よ、あのご威光! 聞いて驚け、魔王様が遺した秘宝で我らに力を「コラ! ペラペラ喋るんじゃないゴブ!」

闇の欠片の加護を受けても、知能にはゴブリンの面影が残っている模様。

「スモーク・ボム!!」

「わっ、なんだゴブ!」「ゲホゲホ! 待てーゴブ!」

ダヤンが目くらましの呪文を唱えると、辺りに煙幕が立ち込める。その隙に猫ダッシュで走り去った。

「あちゃー、急がなきゃ!」

街に戻ると、すでに交戦が始まっていた。
その中でも、大きな魔導砲を抱えたエールは割とすぐに見つかった。

「分かったことは……まともに相手して勝てる数じゃない。
部隊後方にキングっぽいのが控えてる。『闇の欠片』っていうのを持っててそれでみんなを強化してるんだってさ。さ、行くにゃ」

ダヤンはニヤリと笑った。

「どこへって? もちろんキングのところさ。道中の敵はオイラが適当にあしらうにゃ。
キング一匹倒せば勝ちなら……その魔導砲があればいけるんじゃニャい!?」

【よろしくにゃ】
0397エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/01(土) 14:13:41.01ID:YvCTkQi5
敵の位置と数さえわかれば接敵前に魔導砲で一網打尽にできる――。
というのがエールの考えだったが、周囲は素直に受け入れてくれたようで、
獣人の少年、もといダヤンが斥候として様子を見にいってくれる運びとなった。

しかし、しょせんは付け焼刃的な対応策である。
そう上手くいくはずもなく、ダヤンが戻る前に敵が町に攻め込んでくる。
他の冒険者同様、エールもまた応戦することとなった。

(暗闇で遠くは見えないから……。
 町に侵入しようとする奴を片端から撃ち抜く!)

柵の上に乗ると巨大な筒を構えてホブゴブリンの一匹に照準を合わせる。
魔力を充填してトリガーを引くと、青白い閃光が筒先から放たれた。
――プラズマ弾。高威力の雷系魔法を投射する、携行魔導砲の基本攻撃である。
閃光はホブゴブリンの身体を貫き、瞬く間に消し炭に変えてしまう。

「こうなったらグミ撃ちだよ!町には指一本触れさせないからね!」

意を決してそう叫ぶが、はっきりいって自棄の部類に入る。
敵の全容は分からないしどれだけ倒せばいいか分からない。
『何も分からない』という暗闇の荒野を突き進んでも待つのは敗北。
ダヤンが戻ってきたのはそんな時である。

「ダヤン!敵のことは分かったの……!?」

忍びの者の遅い到着に思わず声を張り上げた。

>「分かったことは……まともに相手して勝てる数じゃない。
>部隊後方にキングっぽいのが控えてる。『闇の欠片』っていうのを持っててそれでみんなを強化してるんだってさ。さ、行くにゃ」

「行くって……どこへ?」

疑問符を浮かべるエールとは対照的に、ダヤンは不敵に微笑んで答えた。

>「どこへって? もちろんキングのところさ。道中の敵はオイラが適当にあしらうにゃ。
>キング一匹倒せば勝ちなら……その魔導砲があればいけるんじゃニャい!?」
0398エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/01(土) 14:15:57.73ID:YvCTkQi5
話を整理すると、こういうことらしい。敵を率いているのはゴブリンの上位種、ゴブリンキング。
ゴブリンキングは『闇の欠片』というアイテムでゴブリン達をホブゴブリンに変えてしまった。
ならば一か八か、群れを率いるキングを倒して強化を解こうという考えなのだろう。

ゴブリンキングの強さは成人男性数人分程度と聞いたことがある。
魔導砲を携えたエールであれば、なるほど確かに倒せないことはないだろう。
だが、倒したとて強化が解ける保証はなし、分の悪い賭けには違いない。

「……分かった。この状況を打開するにはそうするしかないね。
 ダヤン、案内して!ゴブリンキングは私が倒すよ!」

魔導砲を担いで柵から飛び降りると、獣人の少年と共に暗い草原へ駆け出した。
――ホブゴブリンの一団まで近づくと、確かに戦槌を持ったゴブリンキングが確認できる。

「……さっきの猫かゴブ。味方を連れてきたのか?
 ゴーブゴブゴブ、面白いことになってきたなぁ……!」

目を瞑ったままゴブリンキングが呟く。
静かに瞼を開くと、護衛のホブゴブリンを退けて跳躍した。
ざざぁ!と草原を踏みしめて着地すると、エールを指差す。

「その武器、貴様銃士だろう。銃士とは因縁があってな……。
 かつてカノンとかいう女に同胞を殲滅されかけた恨みがあるんだゴブ。
 ホブゴブリン程度では相手になるまい。この俺自らが片付けてやろう……!」

戦槌を教鞭のようにパシパシと片手に打ち付ける。
エールはその名に目を見開く。間違いなく姉の名だった。

「貴方は姉さんのことを知ってるの……!?教えて!姉さんはどこにいるの!?
 私はここで行方不明になった姉さんを探してやって来たの!」

「そうか……通りで面影があるゴブ。ククク……奴の居場所など知らんが……。
 このゴブリンキング様が貴様を地獄へ送ってやるゴブ!!!!」
0399エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/01(土) 14:19:32.85ID:YvCTkQi5
ゴブリンキングが戦槌をエール目掛けて勢いよく振り下ろす。
大振りだが威力のある一撃!それを咄嗟にスウェーで躱してバックステップ。
視認できるギリギリまで距離を取ると、魔導砲を構えて照準をゴブリンキングへと合わせる。

「これでも食らえっ!」

青白い閃光が尾を引いて敵へ迫る。
必殺の弾丸は過たずキングを消し炭に変えんとして――。
――なんとキングは円盾を軽く振って、プラズマを弾き飛ばした!

「ククク……今何かしたか?」

戦槌に宿した『闇の欠片』は、ゴブリンキングの力を何倍にも高めていた。
知覚もさることながら、身体能力も通常の種を遥かに超えている。
今やトロールやオーガにも匹敵する能力を有していると考えていいだろう。

「っ……プラズマ弾が効かないなら――……」

「フン、銃士の手の内などお見通しゴブ……!」

キングが大きく後退すると闇に溶けるように姿をくらましてしまう。
思わず目を細めて照準器から目を離す。どこからともなくキングの声が響いた。

「あーあぁ。残念ゴブなぁ。その型の魔導砲に暗視スコープなんてないもんなぁ。
 さぁどうする。どう出る。どう対処する。何もなければ楽に殺してやるぞ……?」

「……位置さえ分かれば『あれ』で仕留められるのに……!」

月明かりが微かに照らすだけの暗い夜。
周囲は何も見えず、エールは夜目が効かない。
キングは背後から笑みを浮かべて戦槌を勢いよく振り下ろす。
――地面へ。そのインパクトは衝撃波となってエールとダヤンに迫る。

「『あれ』を使わせる暇なんてくれてやる訳ねぇだろッ!
 砕けろ、粉微塵に!微粒子ほどに細かくしてやるゴブッ!!」

攻撃の方向が分からないエールには回避の術もない。
ただ闇の中で動揺することしかできなかった。


【ゴブリンキング:闇に紛れて衝撃波を不意打ち】
【エール:敵の居場所が分からずおろおろしています】
0400ダヤン
垢版 |
2021/05/02(日) 21:54:59.80ID:91VyBvmf
>「……分かった。この状況を打開するにはそうするしかないね。
 ダヤン、案内して!ゴブリンキングは私が倒すよ!」

ダヤンの分の悪い賭けに対して、エールは頼もしい答えを返した。
ダヤンは足場の悪いフィールドを踏破したり襲い掛かってくる雑魚をあしらったりは得意だが、強敵を倒すだけの火力はない。
反面、大型の魔導砲を扱う銃士のエールは、強力な火力を持つと思われる。

「こっちにゃ!」

二人は夜の草原を駆ける。
幸い道中でホブゴブリンに気付かれることもなく、ゴブリンキングのところまでたどり着いた。

>「……さっきの猫かゴブ。味方を連れてきたのか?
 ゴーブゴブゴブ、面白いことになってきたなぁ……!」

「流石、気付くのが早いにゃ……ライト!」

道中でホブゴブリンに気付かれては面倒ということで使わずにいた明かりの呪文を唱える。
ダヤンを中心に半径2〜3メートルほどが魔法の明かりで照らされた。

「今すぐみんなの強化を解いて進軍をやめにゃ! そうすれば命だけは助けてやらないこともにゃい!」

>「その武器、貴様銃士だろう。銃士とは因縁があってな……。
 かつてカノンとかいう女に同胞を殲滅されかけた恨みがあるんだゴブ。
 ホブゴブリン程度では相手になるまい。この俺自らが片付けてやろう……!」

>「貴方は姉さんのことを知ってるの……!?教えて!姉さんはどこにいるの!?
 私はここで行方不明になった姉さんを探してやって来たの!」

思わぬところで姉の名が出たことで、エールは思わずゴブリンキングに歩み寄る。
銃使いということで接近戦は得意ではないと思っているダヤンは、注意を促す。

「エール、近付きすぎだにゃ……! 下がって!」

>「そうか……通りで面影があるゴブ。ククク……奴の居場所など知らんが……。
 このゴブリンキング様が貴様を地獄へ送ってやるゴブ!!!!」

戦槌が近くに来ていたエールに向かって振り下ろされるが、エールはそれを難なく避けた。
どうやら銃の扱いだけではなくかなりの戦闘訓練を積んでいるようだ。
更にプラズマ弾の一撃を放った。

>「これでも食らえっ!」

が、ゴブリンキングは盾を軽く振るだけでそれを弾き飛ばした。

>「ククク……今何かしたか?」

>「っ……プラズマ弾が効かないなら――……」

>「フン、銃士の手の内などお見通しゴブ……!」
0401ダヤン
垢版 |
2021/05/02(日) 21:56:49.66ID:91VyBvmf
このゴブリンキングは以前銃士のカノンに群れを殲滅させられかけた経験がある。
銃士の戦闘スタイルは知っているということだろう。
キングは大きく後退し、ライトの効果範囲から出てしまった。これではエールから見れば、全く視認できない。

>「あーあぁ。残念ゴブなぁ。その型の魔導砲に暗視スコープなんてないもんなぁ。
 さぁどうする。どう出る。どう対処する。何もなければ楽に殺してやるぞ……?」

>「……位置さえ分かれば『あれ』で仕留められるのに……!」

『あれ』が何なのかはダヤンには分からないが、エールはプラズマ弾以上に強力な技を持っているようだ。

>「『あれ』を使わせる暇なんてくれてやる訳ねぇだろッ!
 砕けろ、粉微塵に!微粒子ほどに細かくしてやるゴブッ!!」

キングが戦槌を地面に叩きつけると、衝撃派が地面を走る。

「あぶにゃい!!」

ダヤンはエールに体当たりして一緒に地面に転がった。

「無事かにゃ!? アイツ、遠距離攻撃も出来るのか……!
見えさえすれば仕留められるんだにゃ!? なら任せにゃ!」

ダヤンはキングのところまで駆け寄ると、2本のダガーを抜き放ち果敢に切りかかる。
が、闇の欠片によって強化されたゴブリンキングの皮膚は固く、ほぼ攻撃は通らない。
キングは余裕をぶっこいて避ける素振りすら見せない。

「どうしたどうしたぁ、蚊でも止まったかぁゴブ!」

容赦なく振り下ろされる戦槌。
ダヤンはゴブリンキングの足元を駆けずり回り、連撃で振り下ろされる槌を何とか避ける。

「にぎゃっ!」

途中でバランスを崩して転び、それでも転がって避ける。
0402ダヤン
垢版 |
2021/05/02(日) 21:58:41.36ID:91VyBvmf
「なかなかしぶといなゴブ……だがそろそろ終わりだゴブ!」

「スモーク・ボム!」

ひときわ大きく戦槌を振り上げた瞬間、ダヤンは煙幕の呪文を唱えた。
キングはそのままお構い無しに戦槌を振り下ろすが、獲物を仕留めた感触はない。

「む、外したか……だが無駄無駄ァ! その辺にいるのは分かっているゴブ!」

戦槌をそこら中に振り下ろしまくる。
小さい者が体格差のある相手と戦う時は、足元を駆けずり回るのがセオリーらしい。
丁度先ほど、この猫がやっていたように。
と、不意に、頭の上に何かが乗った感触がした。

「どこにいるって?」

ダヤンがキングの頭の上に両足キックしつつ着地。
煙幕に紛れて、まず攻撃を転がって避け、猫ジャンプして頭の上に乗ったという単純明快な経緯だ。

「なぬぅ!? どこに乗ってるゴブ! 降りろゴブ!」

頭上というのは意外と死角である。
焦ったキングはなんとか振り払おうと戦槌を普段とは逆方向に下から上方向に振るおうとしてバランスを崩し……

「あばばばばばばゴブ!」

そんな中で、煙幕の効果が切れた。ライトの効果は継続しているので、この光景はエールから丸見えだ。
腕をぐるぐる回して転倒するかしないか瀬戸際のキング。ダヤンはその頭上からひらりと飛び降りながら叫んだ。

「今だにゃ!」
0403エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/03(月) 00:38:27.59ID:BLAEYhjy
闇の中から放たれた衝撃波が駆け抜けていく――!
草原を掻き分け、地を走ってエールとダヤン目掛けて襲い掛かる。

>「あぶにゃい!!」

間一髪、ダヤンがエールに体当たり。
二人は一緒にゴロゴロと草原を転がり難を逃れる。

>「無事かにゃ!? アイツ、遠距離攻撃も出来るのか……!
>見えさえすれば仕留められるんだにゃ!? なら任せにゃ!」

「な、なんとか……でもどうする気なの……!?」

ダヤンはキングがいると思しき暗闇へ疾走して、二本のダガーを抜き放つ。
現在、彼を中心として半径二、三メートル程は魔法の光で照らされている。
よって二人の攻防は夜目の効かないエールにも容易に視認できた。

『闇の欠片』の力で防御力も強化されているのか、キングはダガーを躱しもしない。
対してダヤンは小柄を活かして足下を俊敏に駆け回り、なんとか戦槌を回避し続けている。
あの体格差だ。一発でも当たれば致命傷だろう。エールは気が気でない。

(……けど今は、ダヤンの力を信じるしかない!)

そして魔導砲を構え直したエールは、魔力の充填を開始する。
エールの『あれ』、銃士共通の必殺技は、溜めに時間がかかるのだ。

>「なかなかしぶといなゴブ……だがそろそろ終わりだゴブ!」

一方、ダヤンとゴブリンキングの攻防も佳境を迎えていた。
とどめとばかりに戦槌を振りかぶった瞬間、魔法で煙幕が焚かれる。
出鱈目に戦槌を振り下ろしまくるが、ダヤンはそこにおらず――。
0404エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/03(月) 00:42:00.91ID:BLAEYhjy
>「なぬぅ!? どこに乗ってるゴブ! 降りろゴブ!」

そう、ダヤンはキングの頭上にいた。
慌てて戦槌を振り上げ、攻撃を仕掛けるも重心が崩れてキングはバランスを崩す。
ちょうど良いタイミングで煙幕の効果が終了すると、エールの目には見えた。
ダヤンが頭からひらりと飛び降りる瞬間を。

>「今だにゃ!」

猫の俊敏性を活かして上手く翻弄することに成功。
ライトの効果のおかげで位置も丸わかりだ。

「ありがとうダヤン!ここからでもよーく見えるよ!」

魔力の充填は完了している。後は魔導砲の筒先をキングへと向けて照準を合わせるだけだ。
ようやくバランスを持ち直したのか、こちらの発射準備に気づいたキングが驚く。

「なぬっ、あああああぁぁぁぁぁ!?しまったああぁぁぁぁ!!」

「行っけぇぇぇぇっ!ハイペリオンバスターーーーッ!!!!」

叫んだ名は、銃士の必殺の一撃。竜鱗さえ破壊する特大の荷電粒子砲だ。
どおっ!と膨大な奔流が放たれると、狙い過たずキングへと迫る。
やけくそで戦槌を地面に振り下ろして衝撃波を放つも、ビームは易々とそれを飲み込んだ。

「これでは七賢者に『闇の欠片』を貰った意味が……!
 たかが猫と子供風情に……!こんなはずでは、こんなはずでは〜〜〜〜っ!!」

キングもまたビームに飲み込まれると、肉体が微粒子レベルで消し飛んでいく。
光の奔流は煌々と周囲を照らしてホブゴブリン達に本能的に敗北を報せた。

「ゴ、ゴブ……今から敵討ちに切り替えるゴブ……?」

「い、いや……あんなビーム出す奴と戦うのは嫌ゴブ……」
0405エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/03(月) 00:44:19.01ID:BLAEYhjy
……――草原の外れ。
光の奔流に吹き飛ばされ、肉体の大部分が消滅したゴブリンキング。
すでに意識はなく、その傍らには武器であった戦槌が横たわるのみ。

ふわりと草原に降り立ったのは一人の若い男性。
顔の半分を仮面で覆い、真っ白なローブを纏っている。

「何をするかと思えば拠点の襲撃とは……懲りない奴だ。
 君も魔王に憑りつかれた一人だったのかもしれないな……」

男は最後に「回収」と呟いて手を翳す。
戦槌に埋め込まれた欠片が宙に浮き、男の手に吸い込まれる。
欠片が手品のように消え去ると、『白衣の男』はローブを翻して去っていく。
まるで誰かに見られるのを好まぬかのように。

「……もう夜明けか。一刻も早く彼女を見つけなければ」

見上げた空は段々と白んでいき、地平線の彼方から太陽が顔を覗かせていた。
他の階層を照らし終えた偽の太陽は、再びこの階層を照らしはじめるのだ――。
それは依頼の終了をも告げていた。

「見てダヤン、太陽だよ。終わったんだね……」

地平線を指差すとその場にへたりこむ。
『ハイペリオンバスター』は全魔力を要する一度きりの技。エールは疲労していた。
日の出と一緒にホブゴブリンが姿を元に戻していくのを見て安心したのもあるのだろう。
ゴブリンへと退化した魔物達は敵わないと判断して三々五々に逃げていく。

「おーい!お前さん達、大変だったみたいだな。
 依頼完了だ、今日も町を守ってくれてありがとよ!」

町の方角から小走りでやって来たのは情報屋のレオンだ。
感謝を手短に述べると、情報代を差っ引いた1500メロを手渡してくれた。
0406エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/03(月) 00:46:20.15ID:BLAEYhjy
再び立ち上がって魔導砲を担ぎ、レオンに詰め寄る。
姉に関することも知りたいが『闇の欠片』というアイテムのことも引っ掛かった。
レオンなら何か分かるかもしれない、とエールは問い詰める。

「キングは『闇の欠片』というアイテムを持っていたそうです。
 情報屋さん、何か知りませんか?なんだか気になって」

「うん?……うーむ。この迷宮で時折見つかるアイテムって聞いたことがあるな。
 なんでもそいつは魔王の力の残滓で、持つ者にとんでもねぇ力を与えるとか……」

だが、とレオンは言葉を付け足す。
欠片は所持者に力を与えるが精神を汚染する。
最後に待っているのは破滅だけだと聞いた記憶があるという。

「危ない代物に関わるのはやめとこーぜ。
 欠片を集めてる集団もいるらしいが、胡散臭いだけだしな。
 特に君の場合、必要な情報は姉さんの居場所だろう?」

「ま、まぁ……確かにそうですけど」

「それで本題だが。君の姉さんは冒険者の中でも腕利きでな。
 知ってる奴はちゃんと知ってるのさ。俺は前に9Fの城下町エリアで彼女と話した。
 それが俺の持ってる情報だよ……他の階層に行ってなきゃ、すぐ会えるかもしれないな」

「城下町エリアですね……!わかりました」

姉の生存が確定したことをエールは喜んだ。
レオンとの話を終えると、ダヤンの方へ振り向く。

「一緒に戦ってくれてありがとう。でも私……もう行かないと。
 お姉ちゃんを見つけて元の世界に帰らないといけないんだ」

自由を好む姉は嫌がるかもしれないが。
この迷宮で彷徨い続けるくらいなら、故郷で姉と暮らしたい。
雪が降り積もる、あの何もない村へと帰るべきなのだ。

「……それじゃあ、ね」

二人に手を振ると、崖上のポータルへ歩き出した。


【1F攻略完了!物語の舞台は次の階層に移ります】
0407ダヤン
垢版 |
2021/05/03(月) 22:56:10.86ID:qw1QqNov
>「行っけぇぇぇぇっ!ハイペリオンバスターーーーッ!!!!」

エールの必殺の一撃が放たれ、膨大な光の奔流にキングは跡形もなく飲み込まれた。

「すっげぇえええ! かっけぇえええええ!」

>「これでは七賢者に『闇の欠片』を貰った意味が……!
 たかが猫と子供風情に……!こんなはずでは、こんなはずでは〜〜〜〜っ!!」

キングは意味深な言葉を残して息絶えた。

「さてと、闇の欠片とやらを……」

あとは闇の欠片に働きかけるなり破壊するなりして、ゴブリン達の強化の解除をしなければ。
と思ったが、見る限りキングのいた場所には何も残ってはいない。

「……全部消し飛んだか」

実際には少し離れた場所に吹き飛ばされていたのだが、ダヤンもエールも気が付かなかった。

>「見てダヤン、太陽だよ。終わったんだね……」

朝日に照らされた草原に、散り散りに逃げていくゴブリン達の姿が見える。

「ホブゴブリンもゴブリンに戻ってるみたい、もう安心にゃ……!」

>「おーい!お前さん達、大変だったみたいだな。
 依頼完了だ、今日も町を守ってくれてありがとよ!」

情報屋のレオンがやってくる。

>「キングは『闇の欠片』というアイテムを持っていたそうです。
 情報屋さん、何か知りませんか?なんだか気になって」

>「うん?……うーむ。この迷宮で時折見つかるアイテムって聞いたことがあるな。
 なんでもそいつは魔王の力の残滓で、持つ者にとんでもねぇ力を与えるとか……」

「アイツ、死に際に七賢者がどうとかって言ってた……! バックでヤバい奴らが動いてるんじゃニャい!?」

>「危ない代物に関わるのはやめとこーぜ。
 欠片を集めてる集団もいるらしいが、胡散臭いだけだしな。
 特に君の場合、必要な情報は姉さんの居場所だろう?」

>「ま、まぁ……確かにそうですけど」

>「それで本題だが。君の姉さんは冒険者の中でも腕利きでな。
 知ってる奴はちゃんと知ってるのさ。俺は前に9Fの城下町エリアで彼女と話した。
 それが俺の持ってる情報だよ……他の階層に行ってなきゃ、すぐ会えるかもしれないな」

>「城下町エリアですね……!わかりました」

>「一緒に戦ってくれてありがとう。でも私……もう行かないと。
 お姉ちゃんを見つけて元の世界に帰らないといけないんだ」
>「……それじゃあ、ね」
0408ダヤン
垢版 |
2021/05/03(月) 23:01:56.46ID:qw1QqNov
エールはそのまま次の階層へ行こうとする。必殺技を撃ってフラフラだったはずだ。
ダヤンは両手を広げて通せんぼした。

「ちょーっと待ったー! そのままじゃ野垂れ死ぬのがオチだにゃ。
町に戻って今貰ったお金で準備を整えてから行くにゃ」

エヴァ―グリーンは最低階層の町ということで、迷宮新参者が最初に立ち寄って準備を整える拠点にもなっているのだ。
最初の町だけあって大した物は売ってないのだが、緑の町、の名に違わず薬草は各種揃っている。

「ただいまにゃー」

酒場兼冒険者の店に帰ると、マスターが出迎えた。

「おお、無事だったか。聞いたぞ、今回大変だったようだな……。はいよ、今回の報酬だ」

ダヤンはマスターから報酬を受けとり、宿屋になっている2階の一室に入っていく。

「オイラと同室で良ければ今夜はここで休むといいにゃ。お代はタダにゃ」

ダヤンは物心ついた時にはマスターに拾われていたため、必然的に冒険者となった。
宿屋の一室を自室としてあてがわれており、常に依頼を受けては家賃を差っ引いた報酬を受け取っているというわけだ。
最初から迷宮で生まれたのか、物心付く前に迷宮に連れて来られたのかは分からない。

「……エールはお姉ちゃんを探してるんだね。お姉ちゃんってどんな感じかにゃあ」

ダヤンには兄弟はいない。正確には存在はする可能性はあるが、少なくとも面識はない。
それどころか、両親も記憶にない。

「それでお姉ちゃんを見つけたら元の世界……地上に帰るんだにゃ……。
本物の太陽、どんなのかにゃあ……」

次の日、出発するエールを見送りにダヤンは付いてきていた。
町の入口まで来たところで見送るかと思いきや……たたっと先に走り出てエールを振り返る。

「さ、行くにゃ!」

エールが戸惑う暇もなく、どこからともなく酒場のマスターが登場して言う。

「どうか連れて行ってやってくれ。そいつは昔から地上に憧れていてな……。
ここでお前さんが現れたのも何かの縁だろう」

「にゃにゃ!? バレてた!?」

「そりゃお前、その大荷物を見たら丸わかりだ。……ついにこの時が来たんだな」

「マスター……、元気でにゃ!」

ちなみにダヤンが背負っている袋には、エヴァ―グリーン名物の薬草とかがたくさん詰まっている。
こうして頼もしい(?)仲間が加わったのであった。
0409エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/04(火) 12:59:21.93ID:LCPbQzh5
>「ちょーっと待ったー! そのままじゃ野垂れ死ぬのがオチだにゃ。
>町に戻って今貰ったお金で準備を整えてから行くにゃ」

たしかに、今は魔力もゼロだし所持品もお金と魔導砲しかない。
これから先、待ち受ける罠や魔物のことを考えれば準備は不十分といえる。
年若いが冒険者として無限迷宮を生き抜いてきた者の言葉だ。
耳を傾ける価値はあるだろう。

「う、うん……そうするよ」

そうしてとぼとぼとダヤンの後ろをついていく。
到着したのは酒場を兼ねた冒険者の店だ。
マスターが気前よく出迎えてくれる。

>「オイラと同室で良ければ今夜はここで休むといいにゃ。お代はタダにゃ」

「ありがとう。ダヤンは優しいんだね」

椅子に座り込むと、エールとダヤンはお互いの身の上話を交わした。
ダヤンは物心ついた頃から迷宮にいるらしく、兄弟はおろか両親の顔も知らないらしい。
マスターが後見人のようなものなのだろう、と納得して、エールは自分のことを話す。

>「……エールはお姉ちゃんを探してるんだね。お姉ちゃんってどんな感じかにゃあ」

「お姉ちゃんは優しくて繊細で……自由を愛する人だった。
 何を考えているか分からない時もあるけれど、私のために色々なことをしてくれるんだ」

家は貧乏で共働きだったから姉が親代わりだった。
そういえば、姉はエールの我儘をよく聞いてくれたものだ。
海に行きたいといえば一緒に行き、星が見たいといえば一緒に天体観測へ出掛けた。
二人はいつも一緒で、エールのやりたいことは何でもしてくれた。

「だから今度は私がお姉ちゃんを助ける番!
 お姉ちゃんはきっと迷宮を抜け出せなくて困ってるはずだもの」

>「それでお姉ちゃんを見つけたら元の世界……地上に帰るんだにゃ……。
>本物の太陽、どんなのかにゃあ……」

呟いた憧憬は間違いなくダヤンにとって大切なものだった。
0410エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/04(火) 13:03:15.22ID:LCPbQzh5
次の日――有り金はたいて整えた装備を身につけ、酒場を出る。
見送りにダヤンもついてきてくれたが、なんだか大荷物だ。
町の入り口まで来ると足取り軽やかにエールを追い抜いて振り返る。

>「さ、行くにゃ!」

あえて言及は避けていたが、ダヤンもまた自分の目的のため進むことを選んだのだ。
どこからともなく酒場のマスターが登場して、エールにこう言った。

>「どうか連れて行ってやってくれ。そいつは昔から地上に憧れていてな……。
>ここでお前さんが現れたのも何かの縁だろう」

「分かったよ、ダヤン。お姉ちゃんを見つけて一緒に地上へ行こう!」

こうして猫の獣人ダヤンが仲間に加わり、二人は崖上にあるポータルまで歩きはじめた。
そこはエールが迷宮へ来るときに使ったものだが、ポータルの転移先は不定期で変わるものだ。
ここへ来てもう数日経つため、さすがに地上へは繋がっていないだろう。

「ポータルの転移先はランダムだから……。
 もしかしたらこの転移で9Fまで行けちゃうかもしれないんだね」

裏を返せばいつまでたっても9Fに着かない、という可能性もある。
全ては運命の女神の悪戯次第。エールは意を決してポータルへ飛び込んだ。


――――――…………。

身体がふわっと軽くなったかと思うと、身体が浮き、目の前の景色が一瞬にして変わる。
緩やかに着地してポータルから出ると、そこには見渡す限りの森が広がっている。

「……ここは何階なんだろう……?城下町って雰囲気じゃないけど……」

生い茂る樹々を掻き分けて辺りを軽く確かめる。
何も分からないので諦めて迷宮の地図を取り出す。
エヴァーグリーンで売っていたもので、踏破済みエリアの詳細が記載されている。
0411エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/04(火) 13:07:08.75ID:LCPbQzh5
地図を読むかぎり2Fの森林エリア……だと思われる。
草原エリアと同じで強い魔物はおらず、踏破は容易とのこと。

「ここのポータルはしばらく1Fに繋がったままだろうし……。
 他のポータルがないか探してみようかな……?」

ダヤンの方を向くと同時。どこからともなく悲鳴が聴こえてくる。
女性の声だ。「助けて」としきりに叫んでいる。

「あっちから声がするよ。見過ごすわけにはいかない、行ってみよう!」

声のする方へ走り出すと、樹々の景色がどんどんと変わっていく。
瑞々しく生気を保っていた木はだんだんと薄暗く、枯れ木が混じり出す。
すると視界に白っぽい糸が見えて、エールは慌てて立ち止まる。

糸がバリケードのように張り巡らされていた。
不用意に触ろうとした時、また女性の声がして頭上を向く。

「た、助けてください!お願いです!」

見れば、僧侶服を着た金髪の女性が樹上の蜘蛛の巣に吊るされている。
その光景を目の当たりにしてエールはようやく合点がいった。

「もしかして影蜘蛛の巣……!?」

影蜘蛛。枯れ果てた森や洞窟に巣食う巨大な蜘蛛の魔物だ。
顎に毒をもっており、熟練の冒険者でも足元を掬われることがあるという。
また粘性のある糸は捕獲、逃走、罠など多様な用途をもっている。

やがて侵入者に気づいた影蜘蛛たちが木々の隙間から姿を現し始めた。
一、二、たくさん。しかもめちゃくちゃでかい。3メートル以上は余裕である。

「うわ……ど、どうしよう?すごい数だよ……!」

などと呑気なことを言っていると、
大量の影蜘蛛が木々から急降下し強襲してきた――!


【2Fの森林エリアに到着】
【蜘蛛魔物に囚われた僧侶を救出せよ】
0412ダヤン
垢版 |
2021/05/05(水) 20:14:08.53ID:NslIdS1N
道中で薬草の解説等をしながらポータルに向かう。

「これ? エヴァーグリーン名物の薬草だにゃ。
傷を治すキュアハーブ、毒消しのデトックスハーブ、魔力回復のマジカルハーブ、
それから…… 一時的に能力値を上昇させるブーストハーブなんてのもあるよ」

最後のは安全性は大丈夫なのだろうか。……地上だったら規制されそうな気がしなくもない。
何はともあれ、崖上にあるポータルには、何事もなく辿り着いた。

>「ポータルの転移先はランダムだから……。
 もしかしたらこの転移で9Fまで行けちゃうかもしれないんだね」

「にゃはは、そうなったらラッキーだにゃあ」

今までの冒険者達の経験から、ランダムとはいってもその確率には偏りがあると考えられている。
近い階層ほど繋がりやすく、離れた階層ほど繋がりにくいらしい。
しかし出口だけはこの法則にあてはまらず、エヴァーグリーンのある1Fはしばしば地上から人が来るが、別に脱出しやすいわけではない。
かつて多くの冒険者が地上から人が来た直後を狙ってポータルに入ってみたが、地上にはつながっていなかったらしい。
この迷宮が脱出は大変難しいと言われる所以だ。
尚、階層には1F、2Fのように便宜上数字が振られているが、実際には物理的に上に積み重なったり
あるいは下に潜ったりしているわけではなく、イメージ的に浅い順に数字が振られているようだ。
ポータルに入ると、着いた先は、見渡す限りの森だった。

>「……ここは何階なんだろう……?城下町って雰囲気じゃないけど……」

「……多分2Fかあ。まあ現実はそんにゃもんか。9Fに一歩近づいただけでもよしとするにゃ」

>「ここのポータルはしばらく1Fに繋がったままだろうし……。
 他のポータルがないか探してみようかな……?」

「それがいい……にゃにゃ!?」

>「あっちから声がするよ。見過ごすわけにはいかない、行ってみよう!」

駆けつけてみると、糸がバリケードのように張り巡らされており、僧侶と思しき女性が蜘蛛の糸に吊るされていた。
0413ダヤン
垢版 |
2021/05/05(水) 20:16:00.18ID:NslIdS1N
>「た、助けてください!お願いです!」

「今助けるにゃ!」

目の前の糸をダガーで切断しながら女性の方に近づいていく。

>「もしかして影蜘蛛の巣……!?」

「どこから出てくるか分からにゃい。噛まれないように気を付けるにゃ……!」

と言った矢先、木々の隙間から影蜘蛛が姿を現し始めた。

>「うわ……ど、どうしよう?すごい数だよ……!」

「これは……まずいにゃあ」

更に、大量の影蜘蛛が上から急降下してくる。

「エール、砲撃で糸を片っ端から焼き切るにゃ!」

影蜘蛛が生息する森や洞窟、これらの場所の共通点は、樹や天井、壁面に糸が張れるということだ。
影蜘蛛の機動力の要は糸を駆使したワイヤーアクションにあり、
足で地面を這う速度自体はあまり早くはない、というより普段糸に頼っているので遅い。
糸を全て焼き切ってしまえば人間の足でも逃げ切ることは可能だろう。
ダヤンは糸を切断されて機動力を失った蜘蛛を踏み台にし、僧侶が吊るされている場所の近くの木に飛び乗る。
そして枝を伝って僧侶の元へ行き、ダガーで彼女を吊るしている蜘蛛の糸を切断しようとして……はたと気付く。
糸を切ったら落下するという当然の事実に!

「えーと、着地できるにゃ……?」

幸い簀巻きになっていたり意識不明というわけではなく、何か所かを吊るされているだけなので、着地の動作自体は可能だろう。
それに、多少体術の心得がある者なら無事に着地できそうな高さではある。
あとは本人にその心得があるかどうかだが……。
大丈夫そうならこのまま糸を切断。無理と言われたらその時考えよう。
0414エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/10(月) 22:28:16.24ID:MkpI7M1T
脚がうじゃうじゃしたでかい怪物が大量に落下してくるという恐怖!
魔物退治に慣れた冒険者でも思考停止しかねないシチュエーション。

>「エール、砲撃で糸を片っ端から焼き切るにゃ!」

「りょ、りょーかい!」

ダヤンのアドバイスにはっと我を取り戻す。
背負っていた魔導砲を構えてプラズマ弾を発射する。
青白い光が尾を引いて次々と蜘蛛の糸を焼き切っていく。

ぼとん、と次々に地面に落下する影蜘蛛。
ひとたび糸から離れてしまえばあの巨体だ。
森の中で俊敏に動くのは難しいだろう。

>「えーと、着地できるにゃ……?」

「だだだ、大丈夫です……お願いしますっ」

僧侶の女性は十字を切ってそう答えた。
神に祈りを捧げているあたり大丈夫ではなさそうだが……。
四の五の言っている暇はない。足が遅いとはいえ地面は影蜘蛛だらけだ。

ダガーで太い蜘蛛の糸が切断されると、僧侶の女性が落下していく。
着地の拍子にしりもちをついたみたいだが大事には至っていない。

「よーし。今の内に逃げるよ!」

「……そ、その……無闇に逃げてはだめです。
 この枯れた森の木々はみんな意地悪なんです……!」
0415エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/10(月) 22:29:44.93ID:MkpI7M1T
僧侶の女性はおどおどした様子で立ち上がると、話を続ける。

「この森は侵入者を迷わせようとするんです。
 さらに魔物をけしかけて、じわじわと弱らせていく」

背後の空を指差すと、その先には天を衝く巨大な樹があった。
この森の枯れた木々とは違い、遠目でも分かるほど瑞々しく生気に満ち溢れている。

「あれを目指してください。そうすれば麓の拠点……。
 世界樹の町ウッドベリーに辿り着けるはずです」

「あの樹を目指せばいいんですね!?」

この階層は道なき道も多い。
森で迷う冒険者は後を絶たず、そんな時目印になるのが世界樹だ。
空を見上げればどこを目指すと拠点に帰れるのか一目瞭然だからである。

一同はひたすら逃げる。鈍くも追跡してくる蜘蛛達は、
景色が生気ある木々に変わるとともに追いかけてこなくなった。
町に到着して一息ついたところで、僧侶の女性は深々と頭を下げて感謝を述べる。

「……申し遅れました。私、ドルイド僧のアイリスと申します。
 お二人は冒険者の方ですか?助けて頂いてありがとうございます」

「いえいえ。私は銃士のエールです。困った時は助け合いですよっ!」

アイリスはこの町の住民らしく、お礼に家に泊めてくれると言った。
ちょうど今は所持金がない。宿代がかからなくて助かった。

ウッドベリーの一角にある僧侶アイリスの家にて。
夕食をとりながら、彼女は色々なことを語ってくれた。
0416エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/10(月) 22:30:54.88ID:MkpI7M1T
ウッドベリーの住民の多くはドルイドであり、自然を崇拝している。
ドルイドとは自然との交感能力をもつ特殊な僧侶のことである。
元々は地上に住んでいたのだが、環境破壊が進み、故郷を追われてしまった。
そして各地を転々とした結果この無限迷宮に流れ着いたらしい。

「ここは我々にとって最後の安息の地なのです。
 ですが、今は2階の森すらも急速に朽ちつつあります……。
 お二人も見たでしょう。影蜘蛛の住処となった『枯れた森』を」

原因を調査していた友人も行方不明になってしまったという。
アイリスは友人を探して枯れた森に入ったところを影蜘蛛に襲われたのだ。

「あの……お二人は腕が立つと見えます。
 よろしければ友人の捜索を手伝ってくれないでしょうか?
 報酬は出します。その……2000メロくらいなら用意できるかと」

思いがけない頼みにエールはどうしようか思案する。
姉探しには関係ないがどうにも見過ごしておけない。
大切な人を心配する気持ちはエールにも分かる。

「……分かりました。一緒にご友人を探しましょう!」

こうして『枯れた森』の調査をする運びとなったのである。
次の日、早速件の森へ向かうと、薄暗い朽ちた木々の中へ分け入っていく。

「奥を目指して進みましょう。何かあるかもしれません。
 私が言うのもなんですが、影蜘蛛の巣には注意してください」
0417エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/10(月) 22:32:41.99ID:MkpI7M1T
枯れた森の奥を目指して進むと、がさがさと大きな音が響く。
樹木だ。森の樹木が一様に動きだしている。
エールは反射的に魔導砲を構えて周囲を警戒する。

「これは……木の魔物(トレント)の群れです!」

アイリスが叫ぶ。そう、周囲の木々はすべて魔物だったのだ。
幹が目を見開き、太い枝は手に、根は足となる。
ざわめきのような音は魔物の呻き声だ。

「……また森に侵入してきたのね。
 一度は上手く逃げたようだけど、もう逃がさない」

不意に女性の声がした。
見ればトレントの太い木の枝に、僧侶風の出で立ちの女性が座っている。
顔はどこか青白く生気を感じさせない。服装から察するにドルイドだ。
アイリスは顔を綻ばせて、女性の下へと駆け寄る。

「アネモネ、無事だったのね!あれは私の友人です。
 お二人とも……少しだけ待ってください!」

「……寄るなっ!私はもう今までの弱い私じゃない。
 そう、私は『枯れた森』の支配者。気安く話しかけないでっ」

「な……何を言ってるの……?」

アネモネと呼ばれた女性が森の奥へ消えていくと、トレント達が立ち塞がる。
そして巨大な枝の腕を振りかぶってダヤン目掛けて振り下ろす!

「……世界樹も、森も、全て腐蝕して滅ぼす。
 アイリス……せめて貴女だけは優しく殺してあげる」

枯れた森に響く声は、どこまでも冷徹で残忍だった。


【僧侶アイリスと共に友人を捜索する】
【友人を発見するも木の魔物トレントに襲われる】
0418ダヤン
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2021/05/12(水) 22:02:45.48ID:xkqLBMOG
>「だだだ、大丈夫です……お願いしますっ」

あまり大丈夫ではなさそうだが、ダヤンに人一人引っ張り上げて担いで降りられるほどの膂力はないので、他に手段もない。
まあ、下は石畳等の固い地面ではなく土なので、なんとかなるだろう。

「じゃあいくにゃ!」

ダガーで一気に糸を切断する。幸い女性は大きな怪我もなく着地することができた。
ダヤンも続いて飛び降りる。こんな物騒な場所からは早いところおさらばだ。

>「よーし。今の内に逃げるよ!」

>「……そ、その……無闇に逃げてはだめです。
 この枯れた森の木々はみんな意地悪なんです……!」
>「この森は侵入者を迷わせようとするんです。
 さらに魔物をけしかけて、じわじわと弱らせていく」

「にゃんと……! ただの森じゃないんだな……」

>「あれを目指してください。そうすれば麓の拠点……。
 世界樹の町ウッドベリーに辿り着けるはずです」

>「あの樹を目指せばいいんですね!?」

「にゃるほど! 確かにそれなら迷わない!」

それからひたすら巨大な樹を目指して逃げ、気が付けば蜘蛛たちは追いかけてこなくなっていた。
もしも女性の助言がなくやみくもに逃げていたら危なかったかもしれない。

「ここまで来ればもう大丈夫かにゃ……?」

>「……申し遅れました。私、ドルイド僧のアイリスと申します。
 お二人は冒険者の方ですか?助けて頂いてありがとうございます」

>「いえいえ。私は銃士のエールです。困った時は助け合いですよっ!」

「ダヤンにゃ。冒険者の分類でいうとスカウトってやつに近いらしいにゃ。
こっちこそ森の危険性を教えてくれて助かったよ!」

アイリスが泊めてくれるということで、家に案内される。
泊めてくれるのみならず、夕食もご馳走になった。

「うわぁ、美味しそうにゃ! いただきまーす!」

夕食をとりながら、アイリスは色々なことを語ってくれた。

「地上も色々大変なんだにゃあ……」

アイリスが迷宮に来た経緯を聞き、地上に憧れるダヤンは複雑な気持ちになった。
人々が迷宮に来る経緯は本当に様々である。
元々は魔王が作ったダンジョンではあるが、もはやダンジョンというより
地上とは異なる位相に存在するもう一つの世界と言った方が近いのかもしれない。
0419ダヤン
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2021/05/12(水) 22:03:52.92ID:xkqLBMOG
>「ここは我々にとって最後の安息の地なのです。
 ですが、今は2階の森すらも急速に朽ちつつあります……。
 お二人も見たでしょう。影蜘蛛の住処となった『枯れた森』を」

「うーん……でもこの感じだと地上みたいな環境破壊ってわけでもなさそうにゃ……
何か犯人がいるんじゃないかにゃ!?」

同じようなことは皆考えているようで、原因の調査に乗り出す者もいるという。
そんな中、原因を調査していた友人が行方不明になってしまったらしい。

>「あの……お二人は腕が立つと見えます。
 よろしければ友人の捜索を手伝ってくれないでしょうか?
 報酬は出します。その……2000メロくらいなら用意できるかと」

「それは……」

予想外の依頼の申し出に、暫し逡巡する。
ダヤンの最終的な目的は地上に行くことだが、脱出できるかは運によるところが大きいので、先を急いだところで早く脱出できるわけでもない。
付いていったらいつか地上に行けそうという漠然とした直感で、エールに付いてきたのだった。
つまりダヤンには特に先を急ぐ理由は無い。
しかし、エールには姉を探すという明確な目的があり、今この時にも姉が窮地に陥っているかもしれないのだ。
ダヤンはエールの様子を伺った。

>「……分かりました。一緒にご友人を探しましょう!」

「さっすがエールにゃ……!
そういえば頼まれた依頼は受けてみるのがいいっていつもマスター言ってたにゃ。
一見本来の目的に関係なくてもどこで繋がるか分からないんだって」

ところで本人は気付いていないが、ダヤンは地上に行くのが目的なら、わざわざ姉探しが目的のエールに付いてこずとも、
今までにたくさんいたであろう単純に脱出を目指す冒険者に付いていく方が良かったはずだ。
マスターの言葉に影響されているのか、冒険そのものに憧れているのか、はたまた姉探しを手伝いたいと思ったのか。

こうして次の日、三人は森へ向かう。

>「奥を目指して進みましょう。何かあるかもしれません。
 私が言うのもなんですが、影蜘蛛の巣には注意してください」

しばらく進むと、木々が一斉に動き出した。

「うわわ!?」

>「これは……木の魔物(トレント)の群れです!」

>「……また森に侵入してきたのね。
 一度は上手く逃げたようだけど、もう逃がさない」

不意に聞こえてきた女性の声。
見たところ僧侶風の出で立ちの人間の女性だが、顔は青白く生気がないように見える。
ダヤンは警戒を強めるが、アイリスが女性のもとへ駆け寄る。
0420ダヤン
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2021/05/12(水) 22:05:25.79ID:xkqLBMOG
>「アネモネ、無事だったのね!あれは私の友人です。
 お二人とも……少しだけ待ってください!」

「危にゃい! 普通じゃない雰囲気がするにゃ!」

>「……寄るなっ!私はもう今までの弱い私じゃない。
 そう、私は『枯れた森』の支配者。気安く話しかけないでっ」

>「な……何を言ってるの……?」

森の奥へと消えていく女性。追おうとするも、トレント達が立ちふさがり行く手を阻む。
トレントの一体が巨大な枝の腕を振り下ろしてきた。
直撃すれば軽く叩きつぶされてしまうだろうその一撃を、素早くサイドステップで避けるが――

「にゃんっ!!」

避けた場所に他のトレントの枝が薙ぎ払われ、吹っ飛ばされた。
2,3回転転がって、ようやく起き上がる。

「あいたたにゃ……」

どこからともなく、女性の声が響いてきた。

>「……世界樹も、森も、全て腐蝕して滅ぼす。
 アイリス……せめて貴女だけは優しく殺してあげる」

この森は最後の安息の地で、アイリスは大事な友達のはず。

「放っておけにゃい……もしかしたら闇の欠片が関わっているのかも!」

所持者に強大な力を与えるが精神を汚染し、最後には破滅に誘うという闇の欠片。
まだこの件に関与しているかは分からないが、状況としては闇の欠片の特徴に当てはまる。
が、今はこの状況を打破するのが最優先だ。トレント達が一行を亡き者にせんと迫ってくる。

「エール、相手は木だから火とか雷が弱点にゃ! 魔導砲で強行突破……の前に」

ダヤンは、ふと昨晩のアイリスの話を思い出した。

「アイリスにゃん、自然との交感能力があるんだったにゃ!? アイツらと話せるにゃ!?」

とはいってもこの状況なので交感自体できるか分からないし
出来たとしても話が通じないかもしれないが、試してみるに越したことはないだろう。
最終的に強行突破になるにしても、何らかの情報が手に入るかもしれない。
0421エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/16(日) 23:37:11.61ID:wsY5LhaD
振るわれたトレント達の攻撃が被弾して、ダヤンが吹っ飛んでいく。
にも関わらず大きな怪我を免れたのは威力を上手く殺していたからか。

>「放っておけにゃい……もしかしたら闇の欠片が関わっているのかも!」

「レオンさんが言っていた精神汚染ってやつだね。
 欠片が原因で人格が変わってしまったのかも……」

実際のところどうなっているのかは依然として不明だ。
だが、欠片を持っているとなれば、もう弱い自分ではないという言葉にも当てはまる。
今は立ち塞がるトレント達をなんとか対処しなくては。

>「エール、相手は木だから火とか雷が弱点にゃ! 魔導砲で強行突破……の前に」

ダヤンはアイリスの方を振り向いた。

>「アイリスにゃん、自然との交感能力があるんだったにゃ!? アイツらと話せるにゃ!?」

トレント達の精神に干渉することで情報収集しようという魂胆なのだろう。
ただし、相手は普通の自然ではなく魔物化した木々だ。
心身に何らかの負担がかかることをアイリスは知っていた。

「……わ、わかりました。魔物相手に能力を使うのは未経験ですが、やってみます。
 もしかしたらアネモネのことも何か分かるかもしれません……!」

目を閉じて杖を構え、意識を集中させはじめた。
放出された魔力が微かに光を帯びてアイリスの周囲をぼうと照らす。
交感に成功すると、聴こえてきたのはトレント達が唱える歌のような言葉だった。

『えんや!こらや!"森の支配者"の意のままに!森は我らのものだ!』

『そうだ!そうだ!"大老の魔樹(エルダートレント)"がやがて目を覚ます!』

『おいしょ!こらしょ!"闇の欠片"は我ら魔樹(トレント)に味方する!』

「――ちょっ、ちょっと……アイリスさんの様子が変だよっ!」

どんどん生気を失い、がくがくと身体を痙攣させ始めるアイリス。
エールは交感を打ち切るため魔導砲の筒先をトレント達へ向けた。
0422エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/16(日) 23:39:20.47ID:wsY5LhaD
魔力を充填して、砲に刻まれた術式を起動。
ただし、今回使用するのはいつものプラズマ弾ではない。
放たれたのは火炎。紅蓮の炎が勢いよくトレントへ放出された。
――――魔導砲の機能のひとつ。火炎放射である。

「ギャアアアーッ!」

火はあっという間にトレント達に燃え広がる。
断末魔のような叫び声を上げて魔物の木々はその場に沈んでいった。

「……はっ。た、助かりました……ありがとうございます」

交感を打ち切られたアイリスは安堵した様子で目を覚ました。
胸に手を当てて気を落ちつけてから、再び話を続ける。

「……さきほどの交感で分かったことがあります。
 お二人とも、急いでアネモネを追いましょう。そして目を覚まさせなければ。
 このまま放置しておけば2階の森すべてが枯れてしまう……それだけは防ぎたいのです」

アイリスはトレント達が交感で話した言葉をそのまま二人に伝えた。
ダヤンの読み通り、闇の欠片が裏で関わっているのは間違いないようだ。
そして、トレントの上位種たるエルダートレントという魔物の存在。

「よもや、かの魔物がこの階に眠っていたとは……言うなれば奴は森の暴君です。
 どこまでも地中に根を張り巡らせて養分を吸い、他の木々を枯らしていく。
 さらに全身から瘴気を放ち瞬く間にトレントを増やすのです」

『枯れた森』が急速に拡がっていたのもエルダートレントが原因だろう。
残された問題は誰が『闇の欠片』を所持しているかということだ。

「……『闇の欠片』が危険な代物だというのは、私もアネモネも聞いたことがあります。
 アネモネ自ら欠片に手を出したとは考えられません。きっと何か理由があるはずです……!」
0423エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/16(日) 23:45:36.15ID:wsY5LhaD
一同はアネモネが消えた方向へと歩を進める。
奇しくもそれは『枯れた森』の奥へと続いていた。
そして森の最深部に辿り着いた頃――……。

「……なに?貴女達まだ生きてたの?まぁいいわ。
 もっと養分を吸わせたかったけど……先にこいつを覚醒させましょうか」

太い木の枝に生気のない僧侶の女性が座る。アネモネだ。
座っている大樹は、おそらく件のエルダートレントだろう。
森の養分を吸っているのか幹がどくん、どくん、と脈打っている。
そして木の幹の中央には『闇の欠片』が埋め込まれていた。

――三人は知らないことだが、アネモネは調査で『枯れた森』と何度も交感していた。
交感能力で心を通わせるということは、すなわち心を無防備にすることであり、悪影響も大きい。
不用意にエルダートレントに交感したとき、アネモネは『闇の欠片』の精神汚染をモロに受けた。
そして精神の均衡を崩し、破滅を望む人間になってしまった。

「ふふふ……刺激的な接触だったわ。おかげで自分の気持ちに気づけた……。
 私はこの樹と共に忌まわしいドルイドを滅ぼす。それが望みなの。
 交感能力の低い私を迫害した屈辱、まだ忘れていないわ」

「うそよっ!貴女を虐めてた人達とは森を出る時に別れたもの!
 アネモネは……罪のない人達に怒りをぶつけるような性格じゃない!」

「さぁ……?元の私ってどんな性格だっけ……?忘れちゃった……」

呆けたような顔でアイリスを見つめる。その表情にやっぱり生気はなくて。
トレント達を操るため交感を続けるアネモネに、まともな思考能力はなかった。
あるのは『闇の欠片』を持つエルダートレントに植えられた悪意だけだ。
アネモネは支配者を自称して魔物を操っているようで、逆に操られているのだ。

杖でエルダートレントの根をとん、と突くと、静かに幹の目が開かれる。
目覚めた大木は木の葉をざわざわと動かし、ゆっくりと屹立していく。
少なくとも20メートルはあろうか。その威容はエールを驚かせるのに十分だった。

「で、でかい……!正攻法で倒せるのこれ……!?」

目を丸くして思わず二、三歩あとずさる。

「矮小な貴女達では無理でしょうね。蟻が巨象に挑むようなものよ。
 大人しく殺されてしまう方がいいわ……そして次は世界樹の町を滅ぼすのよ!」

アネモネが杖を指揮棒のように振り回せば、エルダートレントが木の葉を飛ばした。
はらはらと舞い散るのではなく、矢のように鋭く、直線に三人目掛けて。
木の葉はまさしく鋭利な刃物だった。


【『枯れた森』に到着するもエルダートレントに襲われる】
【エルダートレントの幹に『闇の欠片』が埋められている】
【自身の木の葉を鋭利な刃物のように射出して攻撃】
0424エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/16(日) 23:48:08.59ID:wsY5LhaD
おまけ:無限迷宮の構造について(設定案)

無限迷宮の各エリアは階層と呼ばれているが、実際に階層構造というわけでない。
構造としては螺旋階段に近く、中心には『天の柱』と呼ばれる支柱が建っている。
このため外側から迷宮を見た場合、塔のように見えるようだ。

そして塔の周囲には疑似太陽と月に似た衛星が公転している。
各階ごとと外界とは空間魔法によって隔絶されており、
現段階ではポータルでのみ移動可能らしい。
0425エール
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2021/05/17(月) 00:47:49.29ID:Z6xrAJ0o
×枯れた森に到着
◯枯れた森の奥に到着
失礼しました
0426ダヤン
垢版 |
2021/05/19(水) 23:15:46.19ID:rpTQhLP2
>「……わ、わかりました。魔物相手に能力を使うのは未経験ですが、やってみます。
 もしかしたらアネモネのことも何か分かるかもしれません……!」

トレント達との交信を試みるアイリス。
しかし、魔物との交信は危険が伴う。尋常ではない様子で痙攣しはじめた。

>「――ちょっ、ちょっと……アイリスさんの様子が変だよっ!」

「アイリスにゃん!? もういいにゃ!」

アイリスの肩を揺さぶるが、元に戻る気配はない。
自分の意思では交信を断ち切れないのかもしれない。

「エール、魔導砲発射にゃーっ!!」

ダヤンが叫ぶのとほぼ同時に、エールが火炎放射を放つ。
効果はてきめんで、トレント達はあっという間に燃え尽きた。

>「……はっ。た、助かりました……ありがとうございます」

「大丈夫だったにゃ!? 危ないことを頼んじゃったにゃあ……」

危ないところだったが、冒した危険に見合う収穫はあったようだ。

>「……さきほどの交感で分かったことがあります。
 お二人とも、急いでアネモネを追いましょう。そして目を覚まさせなければ。
 このまま放置しておけば2階の森すべてが枯れてしまう……それだけは防ぎたいのです」

「にゃに!?」

この階にはエルダートレントというトレントの上位種がおり、やはり闇の欠片がかかわっているという。

「アネモネにゃんが闇の欠片を使ってエルダートレントを操っているのにゃ……!?」

>「……『闇の欠片』が危険な代物だというのは、私もアネモネも聞いたことがあります。
 アネモネ自ら欠片に手を出したとは考えられません。きっと何か理由があるはずです……!」

一行はアネモネが消えた方向へと歩みを進める。
トレント達はエールの火炎放射を恐れているのか、何事もなく最深部へとたどり着く。
そこでは、エルダートレントと思われる大樹に腰かけ、アネモネが待ち構えていた。

>「……なに?貴女達まだ生きてたの?まぁいいわ。
 もっと養分を吸わせたかったけど……先にこいつを覚醒させましょうか」

ダヤンは、大樹の幹に埋まっているものに見覚えがあった。
ゴブリンキングの戦槌の先に付いていたものと一緒だ。

「闇の欠片……!」
0427ダヤン
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2021/05/19(水) 23:17:39.40ID:rpTQhLP2
>「ふふふ……刺激的な接触だったわ。おかげで自分の気持ちに気づけた……。
 私はこの樹と共に忌まわしいドルイドを滅ぼす。それが望みなの。
 交感能力の低い私を迫害した屈辱、まだ忘れていないわ」

この言葉から、アネモネはエルダートレントと交信したことでこうなったと考えられる。
アイリス曰く、アネモネ自ら欠片に手を出したとは考えられない、とのこと。
すでに闇の欠片に汚染されたエルダートレントと交信したことでアネモネもその影響を受けたと考えるのが妥当だろう。

>「うそよっ!貴女を虐めてた人達とは森を出る時に別れたもの!
 アネモネは……罪のない人達に怒りをぶつけるような性格じゃない!」

>「さぁ……?元の私ってどんな性格だっけ……?忘れちゃった……」

「アネモネにゃん! 君はその闇の欠片の影響を受けてるんだにゃ!
それは持ち主に強大な力を与えるけど最後には破滅するらしいにゃ!」

アネモネに軽く突かれ、エルダートレントが目を覚まし静かに動き始める。

>「で、でかい……!正攻法で倒せるのこれ……!?」

エルダートレントから鋭い刃のような木の葉が一直線に飛んでくる。

「二人とも伏せにゃっ!!」

ダヤンは叫びながら地面に伏せた。風切り音をたてて頭上を木の葉がかすめていく。
人間を超える動体視力で、木の葉の動線をいちはやく見抜いたのだ。
幸い、まだエルダートレントからある程度距離があったのと足元を狙われなかったのでこの避け方が通用した。
が、そう何度もは通用しないだろう。
今度は地面すれすれを狙ってくるかもしれないし、
弧を描いたり普通に木の葉が舞い落ちるような不規則な動きなど、直線以外の動線で仕掛けてくるかもしれない。

「正攻法では勝ち目がないなら……闇の欠片を狙うにゃッ!!」

エルダートレントは少なくとも20メートルはあり、闇の欠片はその中ほどに埋まっているため、
ダヤンでは狙うことが難しいが、エールの砲撃ならそれが可能であろう。
ダヤンはというと、根を小突くときに地上に降りてきていたアネモネに向かっていく。

「必殺! 猫パーンチ!」

と、猫パンチを撃つと見せかけて寸前で手を引っ込め、代わりにアネモネの杖を掴んで奪おうとする。

「と見せかけて杖ボッシュートにゃー!」

本当は逆かもしれないが、表向きはアネモネがトレント達を操っているように見えている。
そして、これも深い意味はないのかもしれないが、杖を使って操っているようにも見える。
同じドルイドであるアイリスは特に杖を使っている様子は無いが、
アネモネは一般的なドルイドより交感能力が低いらしく、杖を使うことでそれを補っているとも考えられる。
そこで、杖を奪うことでいくらか状況が好転しないかと考えたのだった。
0428ダヤン(舞台裏)
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2021/05/19(水) 23:23:02.35ID:rpTQhLP2
>424
おおっ、かっけーにゃ!
ダンジョンでありながら中に街もあって人が生活してる感じ
ダンジョンRPGと普通のRPGのいいとこ取りみたいで好きだにゃー
0429エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/23(日) 22:31:58.96ID:sCVuNb1n
>「二人とも伏せにゃっ!!」

叫び声を聞いて、アイリスを庇うようにその場に伏せる。
エルダートレントが放った鋭利な木の葉は頭上を通過していった。
ダヤンの優れた反射神経がなければ、今頃切り刻まれていただろう。

>「正攻法では勝ち目がないなら……闇の欠片を狙うにゃッ!!」

と、ダヤンは言ってエルダートレント目掛けて疾駆する。
狙うは地面に降り立ったアネモネのようだ。

「援護するよ!」

接近戦を仕掛けるダヤンを守るべく、プラズマ弾を何度も投射。
エルダートレントは怯みこそすれど大したダメージはないらしい。
巨木は鬱陶しそうに枝葉をゆさゆさと揺らすだけだ。

>「必殺! 猫パーンチ!」

「ちっ、私を狙ってるの?無駄なことを……」

とはいえ、小兵の大して痛くなさそうなパンチである。
アネモネは油断した。杖で適当に追い払おうとした瞬間。

>「と見せかけて杖ボッシュートにゃー!」

猫パンチの手がひょいと引っ込み杖を引っ掴んだ。
咄嗟に力を入れて抵抗するが、しょせん非力な僧侶である。
ダヤンは見事、交感に用いている杖をスティールすることに成功した!

「な……なんてことを。杖がないと交感が途切れてしまう……!
 エルダートレントを操れなくなる!そんなことをしたら……」

杖を奪われ、戦闘能力を喪失したアネモネは地に這いつくばる。
エルダートレントとの交感が途切れたことで、『闇の欠片』の精神汚染も無くなった。
その影響なのか、生気が少しずつ戻り始めているように見えた。
0430エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/23(日) 22:34:10.49ID:sCVuNb1n
どこか冷静さを取り戻した顔で、ぽつりと呟く。

「……『力の暴走』が、始まる……」

アネモネの背後でエルダートレントが蠢きはじめる。
がさがさと枝葉を揺らして、その幹を急激に太くしていく。
『生長』している。足から伸びる根が、際限なく森の養分を吸っている。
こうなっては止まらない。森の暴君という異称通り、土地の養分が枯渇するまで。

「……皆、この階から逃げるのよ。
 交感能力でなんとか制御していたけど、もう駄目……。
 『闇の欠片』で強化されたあいつは誰にも止められない……」

「……アネモネ、正気に戻ったの……?」

アイリスの問いかけにアネモネは静かに頷いた。
杖を失い交感が解けたことで、欠片の呪縛から解き放たれたのだろう。

「ミイラ取りがミイラになるとはこの事ね……自分が嫌になるわ。
 私の力量では魔物の制御も不十分だったし、欠片の影響も跳ね返せなか……」

そこまで話したところで、アイリスはひしっとアネモネを抱き寄せた。
ただ「良かった」と。ぼろぼろと涙を流しながらそう言った。

「……嬉しいけれど、喜んでる場合じゃないよアイリス……。
 また安息の場所を追われてしまうのよ……」

「いいもん!アネモネが無事ならそれでもいい!」

暴走し生長し続けるエルダートレントを無視して、喜び合う二人……。
エールは咳払いをして、アネモネとアイリスに話しかける。

「おっほん。逃げる必要はないですよ、二人とも!
 状況は厳しいですが、私の魔導砲でなんとかなります!」

そう。最後の切り札――荷電粒子砲『ハイペリオンバスター』なら。
『闇の欠片』ごとエルダートレントを吹き飛ばす事も不可能ではない。
だが、エール一人分の魔力ではそれほどの出力を賄うことは不可能だろう。
0431エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/23(日) 22:36:31.96ID:sCVuNb1n
「三人分!最低で三人分の全魔力があればきっと倒せるはず……!」

「なるほどね……けど、そういう魔法って"溜め"に時間がかかるんじゃないかしら?
 今は無視してくれてるけど、攻撃の気配を察したらあいつも先手を打ってくると思うわ」

「でも……それしかないよ。アネモネ……」

アネモネは指を顎に添えて思案すると静かに口を開いた。

「……一人、陽動がいるわね。相手の目を欺く"忍びの者"が必要だわ。
 さっき私から杖を奪った猫ちゃんなんて適任じゃないかしら」

「確かにダヤンなら出来るかもしれない。けど……」

エールは躊躇いから言葉を濁したが、それは仲間の実力を疑うということでもある。
だからアネモネの案を否定せず、最後にはこう言うことにした。

「ダヤン……お願い。1分!1分だけ時間を稼いで……!」

こうして作戦の段取りは決まった。
ダヤンが陽動としてエルダートレントを引きつけている間に、
アイリス、アネモネ、エール三人分の魔力で『ハイペリオンバスター』を放つ。

「魔力、充填開始!」

魔導砲に魔力を充填し始めるとエルダートレントが気づいたらしい。
幹の節々から瘴気を放ち始め、周囲の木々が俄かに魔樹(トレント)化していく。

「キェェェェ……!クキキキッ!!」

奇怪な声を発して誕生したトレントたちは、立ち塞がるダヤンを包囲し始める。
エルダートレントは瘴気を振り撒きながら哄笑した。
最早我が生長を止める者はいないと。

木の魔物たるトレント達から見ればダヤンなど矮小な障害物に過ぎない。
魔物化して間もないということもあって完全に舐め切っていた。
トレントのうち一体が大股で接近すると、無造作に蹴り飛ばそうと根の足を突き出した。


【アネモネが正気に戻るも、エルダートレントが暴走する】
【三人で『ハイペリオンバスター』を放つべく魔力充填開始】
【エルダートレントの能力で周囲の木々がトレント化しダヤンに襲い掛かる】
0432ダヤン
垢版 |
2021/05/27(木) 22:51:18.42ID:7pupviQs
ダヤンは杖のスティールに成功した。
スティールといったら盗みを本業とするシーフのイメージが強いが、
このように武器奪いが出来ると戦いにおいても大変役に立つ。
そもそも、スカウトは斥候、シーフは盗賊で本来の意味は全然違うはずなのだが、
冒険者の技能名としては、往々にして同じ技能をどっちで呼ぶかの違いだけだったりする。
そして杖を奪ったのは結果的には大正解であったようだ。

>「な……なんてことを。杖がないと交感が途切れてしまう……!
 エルダートレントを操れなくなる!そんなことをしたら……」

ここまでは単にエルダートレントの操作権を失って悔しがっているようにも解釈できるが……
徐々に生気を取り戻しているようにも見える。
そして、決定的な一言を呟いた。

>「……『力の暴走』が、始まる……」

「力の……暴走!?」

エルダートレントが不気味に成長を始める。

「にゃにゃ!? これ以上成長してどうするつもりにゃ!」

>「……皆、この階から逃げるのよ。
 交感能力でなんとか制御していたけど、もう駄目……。
 『闇の欠片』で強化されたあいつは誰にも止められない……」

>「……アネモネ、正気に戻ったの……?」

>「ミイラ取りがミイラになるとはこの事ね……自分が嫌になるわ。
 私の力量では魔物の制御も不十分だったし、欠片の影響も跳ね返せなか……」

みなまで言わせず、アイリスがアネモネを抱き寄せる。
アネモネは確かに正気を失っていたが、ただ一方的に操られていただけではない。
交感が途切れた途端にエルダートレントが暴走を始めたということは、
闇の欠片の影響を受けて洗脳されたような言動をしながらも、
心のどこかに正気の部分が残っていて同時にエルダートレントの暴走を抑えてもいたのだろう。

>「……嬉しいけれど、喜んでる場合じゃないよアイリス……。
 また安息の場所を追われてしまうのよ……」

>「いいもん!アネモネが無事ならそれでもいい!」

アネモネが闇の欠片の影響を受けながらも、今まで必死にエルダートレントの暴走を抑え守っていた森だ。
このままエルダートレントの暴走を許せば、ウッドベリーもどうなるかは分からない。
しかし、暴走したエルダートレントをどうにかできるとも思えない。
諦めて逃げるしかないのだろうか。
ダヤンが逡巡していると、エールが力強く言い放った。
0433ダヤン
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2021/05/27(木) 22:52:42.43ID:7pupviQs
>「おっほん。逃げる必要はないですよ、二人とも!
 状況は厳しいですが、私の魔導砲でなんとかなります!」

「にゃんだって!?」

『ハイペリオンバスター』の強力さはダヤンも見ていたので知っている。
が、単純に大きさから考えても、今回のエルダートレントは前回のゴブリンキングとは桁違いに思える。

>「三人分!最低で三人分の全魔力があればきっと倒せるはず……!」

「そういうことも出来るんだにゃ……。じゃあ三人と言わず四人でいけばいいにゃ!」

ドルイドのアイリスアネモネに加え、ダヤンもスカウト魔法が使える。
魔力を充填するには悪くないメンバーが揃っている。
しかし、アネモネが懸念事項を口にする。

>「なるほどね……けど、そういう魔法って"溜め"に時間がかかるんじゃないかしら?
 今は無視してくれてるけど、攻撃の気配を察したらあいつも先手を打ってくると思うわ」

>「でも……それしかないよ。アネモネ……」

>「……一人、陽動がいるわね。相手の目を欺く"忍びの者"が必要だわ。
 さっき私から杖を奪った猫ちゃんなんて適任じゃないかしら」

>「確かにダヤンなら出来るかもしれない。けど……」

失敗すれば確実に森はエルダートレントの支配下、下手すりゃ全員この場でお陀仏なので
慎重になるのは当たり前だが、優しいエールのこと、純粋にダヤンの身を案じてもいるのだろう。

「エール、オイラなら大丈夫だにゃ」

>「ダヤン……お願い。1分!1分だけ時間を稼いで……!」

「任せろにゃん!」

ダヤンは自分の胸をどんっと叩いて力強く請け負った。
根拠のない自信ではなく、勝算はある。
ついに、最初の町から持ってきた薬草が役に立つ時が来た。
ダヤンは袋の中から薬草を一枚取り出し、ぱくっと食べた。
0434ダヤン
垢版 |
2021/05/27(木) 22:54:06.47ID:7pupviQs
「いつ使う? 今だにゃ!」

食べたのは、ブーストハーブ。
名前の通り、全能力値を一定時間ブーストさせる薬草である。
が、効果が切れた後はしばらくヘロヘロになってしまうので、使いどころはかなり限られている。
具体的には、普通のままでは勝てない強敵を倒さなければならず、
その強敵さえ倒せばその探索では以後大した戦闘はないと思われる場合だ。
少しだけ時間を稼げばよく、
エルダートレントを倒せばトレント達も大人しくなると思わる今の状況はまさに使いどころであった。

>「魔力、充填開始!」

エール達が魔力を充填し始めると同時に、ダヤンはエルダートレントの前にわざと派手に飛び出した。

「闇の欠片はいただくにゃ! それが嫌ならかかって……こいにゃぁああああああああ!!」

>「キェェェェ……!クキキキッ!!」

トレント達がダヤンを包囲する。
ということは、陽動としては今のところうまくいっているということだ。
トレントの一体が接近し、根の足で蹴り飛ばさんとする。
ブースト中のダヤンはそれを難なくジャンプで避け、その根を足場に更に飛ぶ。

「にゃあっ!」

空中でダガーを振るいトレントの枝を切り落とす。
更に他のトレントが振るってきた枝を足場にし、縦横無尽に跳び回りながら枝を切り飛ばし気を引く。
この調子なら割と楽勝かと思われたが、それは最初トレント達がダヤンを舐めきっていたため。
トレント達が次第に本気になるにしたがって、苦戦を強いられる。

「にゃ!?」

トレントの根に足を引っかけて転んだ。
起き上がろうとするも、次々と伸びてくる根に身動きを阻まれる。
ついに、トレントの一体が魔力の充填をしている3人の方に向かう。

「シャドウ・スティッチ!」

ダヤンはダガーを投げつけるも、トレントには届かず手前の地面に刺さった。
しかし、それこそが狙いだった。
3人に襲い掛かる寸前で、トレントはその場に縫いつけられたように、足(根)を止める。
相手の影に刃を突きさし動きを止める、スカウト魔法の一種だ。
敵の抵抗が勝ってしまえば効果を発揮しないので、効いたのは今がブースト状態だからこそと思われる。
が、これも一度きり。ダヤンは完全に根や枝に包囲され身動きが取れなくなってしまった。
一方トレントは無数にいる。
一体動けなくなったところで関係ないとばかりに、次のトレントが3人に迫る――
0435エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/29(土) 21:34:20.69ID:qGT1fiN4
エヴァーグリーン名産品のひとつ、その名もブーストハーブ。
ダヤンが食んだそれは一時的に各種能力を向上する効果があるという。
その効果によって力を漲らせると、トレントを縦横無尽に翻弄しはじめた。

「いいよぉ……!ダヤン、もうちょっとだけ待ってて!」

魔導砲を構えて照準をエルダートレントに合わせる。
その手にはアイリスとアネモネの手が添えられており、三人分の魔力が籠っている。
充填率は半分といったところか。あと30秒程度ダヤンは耐えなければならならい。

>「にゃ!?」

その時だった。ダヤンがトレントの根に躓き転倒してしまった。
さらに根が伸びてきて起き上がるのを防ぐ徹底ぶりだ。

「やばいっ……!気づかれた!」

トレント達も流石に気づいたらしい。
ダヤンと戦っていた一体がこちらにやってくる。

>「シャドウ・スティッチ!」

ダヤンはすかさずダガーを投擲すると、トレントの影に刃が突き立つ。
いわゆる影縫いと呼ばれるものだ。影を縛ることで相手の動きを封じる魔法である。
だがその安心も束の間。トレントは無数に存在し、たった一体が動けなくなったに過ぎない。
焼け石に水に過ぎず、また新たな一体がエール達目掛けて突進してくる。

「あと10秒で充填完了するのにぃぃぃ!?」

魔力の充填中は無防備な状態だ。選択肢は二つ。
充填を止めて逃げるか、このままぶっ放してしまうか。
どちらにせよ成功の確率は限りなく低い。
0436エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/29(土) 21:36:42.38ID:qGT1fiN4
「ど、どうしますエールさん!?」

「貴女の決断に任せるわ……!」

アイリスとアネモネの声に押されて、決心を固める。
エールは冷静に照準を合わせ直した。

「こうなったらだめでもともと!やってやるんだからっ!」

トリガーを引くと魔導砲から夥しい光の奔流が放たれた。
接近するトレントを飲み込み、エルダートレントへ迫る。
やや弧を描いた軌道で直撃したそれを大老の魔樹はモロに食らった。

「ハイペリオンバスターッ!!いっけぇぇぇぇーーーーっ!」

閃光、爆発……炎と共にもうもうと立ち昇る煙。
固唾を飲んで様子を見守っていると、視界が徐々に晴れていく。

「ご、ごめん皆……やっぱりだめみたい……っ」

現れたのは闇の欠片が怪しく輝きを放ちつつ、回復する姿。
エルダートレントは幹の半身が吹き飛び、燃え盛りながらも未だ健在!
充填が不十分のままでは、やはり倒し切ることは不可能だった。

「闇の欠片の力で回復しているの……!?」

「まずいわ……退路も断たれたようね」

アネモネが諦念を込めてそう言った。まずい。
充填中の間にトレント達の包囲網が完成してしまっている。
エールは作戦失敗を悟り思わず目を瞑る。
0437エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/05/29(土) 21:40:18.14ID:qGT1fiN4
――その時だった。空から一人の人間が舞い降りたのは。
顔の右半分を仮面で覆った、白衣姿の若い男だった。
男はエール達を守るようにエルダートレントを阻んだ。

「一部始終見ていたが、この戦いは君の負けでいいだろう。
 エルダートレント……その『闇の欠片』は回収させてもらうよ」

男が手を翳すと、エルダートレントが苦しみの奇声を発しはじめる。
やがて幹に埋め込まれていた欠片がひとりでに動きだし、男の手に吸い込まれていく。
欠片を失い回復が不可能になったことでエルダートレントは断末魔の叫びを上げて焼失した。

「主は死んだ。魔樹達よ、早く散るがいい」

白衣の男がそう言い放つと、エール達を囲っていたトレント達が三々五々に去っていく。
助かったのだろうか。警戒を解かないままお互い様子を窺っていると、
沈黙に耐え切れずエールが口を開くことにした。

「助けてくださってありがとうございます。
 あの……貴方は冒険者なんですか?」

「勘違いしないでくれ。君達を助けたつもりはないし、私は冒険者じゃない。
 命が惜しければ……『闇の欠片』には関わらないことだ」

冷たい語調で言うなり、白衣の男はその場からまやかしのように消えた。
――おそらくは任意の座標へ瞬間移動する転移魔法だろう。
どこへ去ったのかは分からないが、これで戦いは終わったのだ。

「……とにかく、助かって良かったよ。
 皆ごめん……私のせいで危うく死ぬところだった」

意気消沈した様子だった。だがアイリスは首を横に振る。
ダヤンとエールがいなければアネモネを助けられなかったと。
アネモネもまた、二人のおかげで正気を取り戻せたと感謝した。
0438エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/05/29(土) 21:42:57.47ID:qGT1fiN4
ふと焼け死んだエルダートレントを見ると、その奥に石造りの社があった。
ポータルだ。まさか枯れた森の奥地にも存在しているとは。
依頼が完了した今、この階での用も済んだ。次のステージへ進むべきだろう。

「あ……!ポータルだよ!ダヤン、次の階へ行こう!」

とりあえず元気を取り戻したエールは、ポータルへと走っていく。
報酬の2000メロが入った袋を携えて待ち受けるのは如何なる階層か。
アイリスとアネモネの二人に手を振ると、二人もまた手を振った。

「エールさん、ダヤンさん、お気をつけて!
 お二人に幸運があらんことを!」

「無茶はしないでね!
 気が向いたらいつでも帰って来なさい!」

社の中できらきらと光る魔法陣へ飛び込む。
姉であるカノンを見つけ出すため、9階の城下町を目指して。


――――――…………。

浮遊感を伴って地面に着地すると、目の前には広大な湖が広がっていた。
地図で確認すればそこが4階の湖沼エリアであることがわかる。

「湖の外周をぐるっと回ろう。そうすれば町に辿り着けるはずだよ」

喜び勇んでやって来たはいいが、まだ戦闘の疲労が抜けていない。
日が落ちるまでに宿でもとって十分に休息するべきだろう、とエールは思った。
目指すは4階の拠点、水の町ローレライだ。


【エルダートレントを倒し損ねるも謎の男に助けられる】
【舞台は2階の森林エリアから4階の湖沼エリアへと移ります】
0439ダヤン
垢版 |
2021/05/31(月) 21:32:43.03ID:4+Gungr1
>「ハイペリオンバスターッ!!いっけぇぇぇぇーーーーっ!」

エール達が、ハイペリオンバスターを発射する。
充填が完了していたのかはダヤンには分からないが、完了していなくてもそうするしかない状況。
凄まじい爆発が巻き起こり、エルダートレントは煙に包まれる。

「やったかにゃ!?」

晴れていく煙の中から現れたのは、闇の欠片によって回復しつつあるエルダートレント。
典型的な、”敵に大技を放って大爆発が起こるもやれてない状況”が再現されてしまった。

「そんにゃ……っ」

自分がもっと上手く陽動できていればあるいは、と思うと、悔やんでも悔やみきれない。
万事休すと思われたその時だった。
空から白衣姿の若い人間の男性が舞い降りる。
見る限りではそうだが、正確には本当に若いのかも、本当に人間かどうかすらも分からない。
何しろ顔の右半分を仮面で覆っており、只物ではない雰囲気を纏っているのだ。
そしてこの世界には見た目通りの年齢ではない人間(例:高位の魔術師)やら、人間そっくりな外見の異種族も存在する。

>「一部始終見ていたが、この戦いは君の負けでいいだろう。
 エルダートレント……その『闇の欠片』は回収させてもらうよ」

地面に這いつくばったまま様子を見ていると、闇の欠片が謎の男の手に吸い込まれたではないか。
エルダートレントは今までのしぶとさが嘘のように、あっさりと焼失した。

>「主は死んだ。魔樹達よ、早く散るがいい」

トレント達が解散し、ダヤンはようやく動けるようになった。
男の意図は分からないが、とりあえず絶体絶命の状況から助けられたことになる。
しかしまだ安心はできない。この男、身も蓋もなく言ってしまえば見るからに怪しい。
一同を助けたのは何らかの目的のために生け捕りにするため、なんてこともあり得なくは無い。

>「助けてくださってありがとうございます。
 あの……貴方は冒険者なんですか?」

>「勘違いしないでくれ。君達を助けたつもりはないし、私は冒険者じゃない。
 命が惜しければ……『闇の欠片』には関わらないことだ」

結果的に危惧していたようなことは起こらず、男はそのまま姿をかき消した。

「た、助かったにゃ……」

ダヤンはのろのろと立ち上がり、地面に突き刺さっているダガーを回収し、
ついでにその辺に放り投げていた薬草の袋を拾い上げる。
0440ダヤン
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2021/05/31(月) 21:34:38.95ID:4+Gungr1
>「……とにかく、助かって良かったよ。
 皆ごめん……私のせいで危うく死ぬところだった」

「エールのせいじゃにゃい! オイラがこけなきゃよかったんだにゃ!」

そんな二人を遮るように、アイリスとアネモネは二人に感謝を告げる。
依頼達成となったので、報酬の2000メロも受け取った。
焼け死んだエルダートレントの奥に、ポータルがあった。

>「あ……!ポータルだよ!ダヤン、次の階へ行こう!」

エールにとっては先を急ぐ旅だ。
ポータルを見つけたとなれば、すぐに次の階層に行きたいだろう。

>「エールさん、ダヤンさん、お気をつけて!
 お二人に幸運があらんことを!」

>「無茶はしないでね!
 気が向いたらいつでも帰って来なさい!」

「二人とも、ありがとにゃー!」

アイリスとアネモネに手を振って、二人は魔法陣へ飛び込んだ。

「ここは……?」

目の前に広がるのは海……じゃなくて、よく見るとぐるりと陸で囲まれている。
広大な湖のようだった。

「4階……3階じゃなかった分ちょっとラッキーだにゃ」

>「湖の外周をぐるっと回ろう。そうすれば町に辿り着けるはずだよ」

「見たところモンスターも出て来にゃさそうで良かった」

エールはハイペリオンバスターを使った直後、ダヤンはブーストハーブの反動でヘロヘロである。
モンスターが活発になる夜になる前には町についてしまうのが得策だろう。
取り留めもない会話をしながら湖畔を行く。
0441ダヤン
垢版 |
2021/05/31(月) 21:36:56.96ID:4+Gungr1
「あの半仮面、何だったのかにゃあ。黒幕にも思えるけど……」

“これでは七賢者に『闇の欠片』を貰った意味が”とのゴブリンキングの死に際の言葉
“欠片を集めてる集団もいるらしい”との情報屋レオンの言葉が思い出される。
そして“一部始終見ていたが、この戦いは君の負けでいいだろう。エルダートレント……その『闇の欠片』は回収させてもらうよ”との半仮面の男の言葉。
この言葉から考察する限り、闇の欠片を持つエルダートレントを監視していたものの、期待外れだったから見限ったように思える。
更には、エルダートレントに闇の欠片を与えた張本人という可能性すらある。
しかし、この推理でいくと一つの大きな疑問が浮上する。

「そうだとしたら何のためにゃ……?」

単純に破壊を撒き散らしたいのであれば、こちらを助けるようなことはせずに
エルダートレントに加勢しておけばよかったはずだ。
それに結果的に助けられている以上、悪い奴と断定するのも気が引けた。

「考えても仕方にゃいか。闇の欠片には色んな意味で関わらにゃい方がよさそう」

色んな意味でというのは、単純に闇の欠片に強化されたモンスターが強すぎてヤバいのと、
七賢者やら闇の欠片を集めている組織やらのなんやかんやに巻き込まれてもヤバい、の両方の意味である。

「ま、心配しなくてもそんな立て続けに出くわすことなんてにゃいか。にゃはは!」

なんか盛大にフラグを立てた気がしたが、そんなことにはダヤンは気付いていないのであった。
そうこうしているうちに、前方に街が見えてきた。
0442エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/06/07(月) 00:06:28.86ID:pEemHxp1
白い霧がうっすらと視界を覆う中を二人はとぼとぼと歩いていく。
取り留めない会話を続けていると、そのうち『白衣の男』や『闇の欠片』の話になった。
ここに来たばかりのエールにとって、どちらも分からないことだらけだった。
迷宮で暮らしているダヤンが知らない素振りなのだから曖昧な返事しかできない。

>「あの半仮面、何だったのかにゃあ。黒幕にも思えるけど……」

「それは分からないけど……闇の欠片の事を、何か知ってるのかもしれない。
 でないと"関わるな"なんて忠告は言えない……と思う。たぶん……」

>「考えても仕方にゃいか。闇の欠片には色んな意味で関わらにゃい方がよさそう」

ダヤンの言っていることはもっともだった。
依頼の都合上戦っただけで、本来は姉探しに何ら関係のないことだ。
だから今後は無関係だとスルーできるし、エールも基本そのスタンスだ。

「でも……もし。もしだよダヤン。これはちょっとした可能性の話だよ。
 目の前に『闇の欠片』のせいで傷ついている人がいたら……私は助けたいと思う」

何のために辛い思いをして銃士になったのか。
問われたら『お金』と答えるが、きつい訓練を乗り越えられたのはそれだけじゃない。
それはきっと大切な人を。苦しんでいる人を助けられるからだ。理不尽な破壊に立ち向かえるからだ。
銃士で良かったと思えるのはそれくらいではあるが……。

>「ま、心配しなくてもそんな立て続けに出くわすことなんてにゃいか。にゃはは!」

「えへ。そうだよね。そんな偶然あるわけないよ」

そして辿り着いたのが4階の拠点、水の町ローレライである。
湖畔にある静かな町で、門を潜るとすぐ宿屋が見えた。
疲労が溜まった重い足取りで宿の扉を開けると、店の主人と手続きを済ませる。
0443エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/06/07(月) 00:08:19.21ID:pEemHxp1
「ご夕食の準備を致しますので、それまでお部屋か大広間でお待ちください。
 準備ができましたら係の者が案内します……。これが部屋の鍵です」

鍵を受け取ると、エールは店の主人に大広間で待つと言っておいた。
部屋の方が断然リラックスできるが、公共の空間を選んだのは情報収集のためだ。

「えへへ。こういう時は他の冒険者と交流するといいって聞いたことあるんだ。
 他愛ない雑談の中に思いがけない情報があるかもしれないんだって」

姉の情報を求めているというより、『冒険者らしさ』に憧れているだけである。
大広間に向かうと、予想通り何名かの宿泊客がくつろいでいた。
賭けに興じる者やただ座って休んでいる者、ひそひそと会話をする者。
何をしているかは様々だが、ともかくエールは空いているソファに腰かけた。

「君達は冒険者かな?若いのにやるねぇ〜。こっちに来なよ、ポーカーやろうぜ」

「やめとけやめとけ!そいつはイカサマが得意でよぉ、カモを探してるだけだよ」

「何階からきたんだ?あまり見ない顔だね。迷宮には来たばかりかい?」

思ったより積極的にアクションがあった。
年若いことと、冒険者というと男性が多い(偏見)からか。
エールがみんなとの会話から得た情報はこの階に関するエピソードだ。

4階はかつて地上の西方大陸に存在していた。
かの土地は古くから聖剣を守る『湖の乙女』の伝説が眠っており、
その力を恐れた魔王が誰にも渡すまいとして土地ごと無限迷宮に閉じ込めたという。
――そして伝説は伝説のまま湖で眠り続けることになった。

「あそこに座ってる奴を見てみろよ。騎士のウォドレーってんだが……可哀想に。
 湖の聖剣伝説を聞いて最近来たらしいが、湖の主が凶暴になっててよ。
 まともに探索なんて出来ねぇんだわ。主の退治も任されてるようだが十中八九死ぬぜ」

「主はきっと『闇の欠片』の影響を受けているのだろう。
 怪しい魔法使いが湖に何かを落としていたという目撃証言もある」

――宿泊客達は命が惜しいならあれには関わらないこった、と締めくくって去っていく。
どうやらダヤンと同じ考えの者は多いらしい。それが普通であり当然とも言える。
だが……エールはダヤンに目配せした。「あの騎士さんにお節介焼いてもいいかな?」みたいな目だ。


【4階の拠点に到着。情報収集を行う】
0444ダヤン
垢版 |
2021/06/10(木) 23:55:32.95ID:xYCqX0sS
>「でも……もし。もしだよダヤン。これはちょっとした可能性の話だよ。
 目の前に『闇の欠片』のせいで傷ついている人がいたら……私は助けたいと思う」

「エール……」

例えば、エヴァ―グリーンで依頼を受けたのはもちろん迷宮での路銀を稼ぐために違いないだろうが、あんなに大変なことになるとは思っていなかったはず。
それなのに、必死に街の人々を守ろうとしていて、ダヤンのうまくいく保証のない賭けにもついてきてくれた。
姉を探す先を急ぐ旅であるにもかかわらず、アイリスの依頼も迷わず受けた。
強大な力を持つエルダートレントにも、逃げずに立ち向かう道を選んだ――
根底に誰かを助けたいという想いがなければ出来ないことだ。
それは、何かと物騒なこの迷宮においては、命知らずで危険な傾向なのかもしれない。
現に、枯れた森では白衣の男が現れなければどうなっていたか分からないというのに。
でも、ダヤンの目にはエールがキラキラして見えた。
ああ、そうか――だから自分はこの少女に付いてきたのかもしれない。
なんていうことに本人が気付いたのかは定かではないが。

「ま、心配しなくてもそんな立て続けに出くわすことなんてにゃいか。にゃはは!」

そう言って笑う様は見ようによっては照れ隠しのように見えなくも無かった。

>「えへ。そうだよね。そんな偶然あるわけないよ」

そんなこんなで、二人して盛大にフラグを立てつつ、水の町にたどりつく。

「ついたにゃー!」

>「ご夕食の準備を致しますので、それまでお部屋か大広間でお待ちください。
 準備ができましたら係の者が案内します……。これが部屋の鍵です」

>「えへへ。こういう時は他の冒険者と交流するといいって聞いたことあるんだ。
 他愛ない雑談の中に思いがけない情報があるかもしれないんだって」

「おおっ、リアルに冒険する方の冒険者っぽいにゃー!」

ダヤンは物心ついた時から冒険者とはいっても特定の町に身を置いて依頼を受けるタイプの冒険者。
リアルに冒険する方の冒険者らしさに大喜びしていた。

>「君達は冒険者かな?若いのにやるねぇ〜。こっちに来なよ、ポーカーやろうぜ」
>「やめとけやめとけ!そいつはイカサマが得意でよぉ、カモを探してるだけだよ」
>「何階からきたんだ?あまり見ない顔だね。迷宮には来たばかりかい?」

「にゃは。可愛いからってナンパは禁止にゃ!
そりゃあエールはピカピカの新米だけどベテラン冒険者のオイラがついてるんだにゃ!」

尚、少なくともダヤン目線ではエールは美少女であり、よってこの”可愛い”は事実を述べているだけなので全く深い意味はない。
こんな感じでワイワイしつつ、情報も集まってきた。
0445ダヤン
垢版 |
2021/06/10(木) 23:57:37.85ID:xYCqX0sS
「聖剣……めっちゃ冒険者っぽい響き……!
土地ごと封じ込めるなんて魔王ってやっぱりすごいんだにゃ〜」

>「あそこに座ってる奴を見てみろよ。騎士のウォドレーってんだが……可哀想に。
 湖の聖剣伝説を聞いて最近来たらしいが、湖の主が凶暴になっててよ。
 まともに探索なんて出来ねぇんだわ。主の退治も任されてるようだが十中八九死ぬぜ」

「うーん、何も死ぬまで頑張らにゃくても無理そうなら諦めたらいいんじゃないかにゃ……?
命あってのものだねにゃ」

騎士という立場上何の成果もあげずにのこのこ帰るわけにはいかないのかもしれないが、
その手のしがらみとは無縁のダヤンは首をかしげた。
あるいは、単に我が身を顧みないお人よしの超重症バージョンなのかもしれないが。

>「主はきっと『闇の欠片』の影響を受けているのだろう。
 怪しい魔法使いが湖に何かを落としていたという目撃証言もある」

「出た――! 闇の欠片!」

エールがお節介を焼きたそうな目でこちらを見ている……!
それに、いくらなんでも死ぬのはかわいそうだ。
皆、命が惜しいなら関わらない方がいいと思っているようで、騎士に話しかける者は誰もいない。

「えぇっ!? 誰も止めてあげないのにゃ!?」

ダヤンは騎士に歩み寄り、死なないように引き留めにかかる。

「湖の主の退治に来たんだってにゃ?
もしも噂が本当なら主はとても普通の冒険者には太刀打ちできにゃいから無理しにゃいほうがいいと思うにゃ。
オイラたち、森林エリアで危うく死にかけたにゃ」

ミイラ取りがミイラになる予感しかしない。
0446エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/06/16(水) 20:25:57.44ID:pQWQTuOM
大広間の一角に座っている騎士の下へダヤンが歩み寄っていく。

>「湖の主の退治に来たんだってにゃ?
>もしも噂が本当なら主はとても普通の冒険者には太刀打ちできにゃいから無理しにゃいほうがいいと思うにゃ。
>オイラたち、森林エリアで危うく死にかけたにゃ」

「むぅ……君は冒険者か。確かに私は湖のヌシを退治するつもりだが……。
 心配は無用だよ、剣の腕には自信がある。誰かに聖剣を渡したくないしな」

名をウォドレーと言ったその騎士は腕を組みつつ返答した。
まるで聞く耳をもたないといった感じだ。

「申し遅れました。私はエール、こちらはダヤンです。
 考え直した方がいいと思います。今の主はとても危険ですよ……!」

「闇の欠片とやらか。見たことがないのでよく知らないが……。
 まぁ、君達が生き残っているなら私はもっと大丈夫さ……ははは!」

などと失礼なことを言いながらウォドレーは去っていった。
どうやら騎士の夕食の支度ができたらしい。

「どうしよう……無益な血が流れるかも……っ」

大広間の椅子に座り込んで頭を抱えた。騎士にまるで危機感が足りていない……。
武勲や幻の武器を求めてここまでやって来たのだから、自信があるのは当然だろう。
だがしかし。闇の欠片を持つ魔物と二度交戦したから分かる。
彼はおおよそ無事ではいられないだろう。

「……こうなったら仕方ない……」

エールはそう言って椅子に座り込んだ。
その表情は何かの覚悟を決めた様子であった。
0447エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/06/16(水) 20:30:02.83ID:pQWQTuOM
次の日。
湖の主を倒し、聖剣を手に入れるためウォドレーは小舟に乗って岸を離れた。
その様子を部屋の窓から眺めていたエールは装備を整えて宿屋を飛び出す。

「私……ウォドレーさんの後を追うよ。気になって仕方なくて。
 無事ならそれで良いんだけど……なんだか心配なの!」

姉に会った最後の日、家を去る後ろ姿と妙に重なってしまう。
それっきりどこかに消えてしまうみたいで、気が気でないのだ。
重症のお節介にでも罹患したのかな――とふと思いながら、湖へと駆けた。

誰も使ってなさそうな小舟を一艘無断で拝借すると、エールもまた舟を漕ぎ出す。
4階の湖は広大だ。海と見紛うかのようなそれは600平方キロメートル超に及ぶらしい。

時刻はまだ早朝。湖沼全体は白い霧で覆われている。
視界が悪くウォドレーを乗せた小舟はすぐに見えなくなってしまった。

「あわわっ、見失っちゃった。どこにいるんだろ……」

不穏な気配や瘴気は感じない。いたって平穏だ。
だが、もしかしたら水棲魔物が突然襲ってくるかもしれない。
エールは周囲の警戒を怠らず、慎重に舟を漕いでいた。

しばらくしてである。風もないのに舟が大きく揺れはじめた。
ゴトゴトと船体が音を鳴らし、エールは驚いて漕ぐのを止めた。

「……うん?」

舟の縁に掴まって水面を覗き見ると、水底で巨大な影が動いているのが分かった。
こんな小舟など容易に丸呑みできそうなほどの、あまりに大きな影……!

「そういえば……湖の主のことをよく聞いてなかったよ……」

巨大な影が徐々に大きくなってくる。水面へ向かって上昇しているのだ。
その背びれが水面から勢いよく顔を覗かせ、水が盛り上がるとエールの舟はあっさり転覆した。

「うわあぁぁぁぁぁーっ!!!?」

――なぜこんな寄り道をしてしまったのか。さすがに内心で後悔する。
水中へ無造作にダイブしながら、エールはその魔物と目が合った。
あまりに巨大で鋭い瞳に、七色に鈍く光る鱗。悠々と水中を掻く刃のごとき鰭。
魚だ。全長百メートルの巨大な魚の魔物。それが湖の主の正体なのである。


【騎士ウォドレーに説得を試みるも失敗】
【心配になって追いかけるが湖の主と遭遇して舟が転覆する】
0448ダヤン
垢版 |
2021/06/21(月) 21:38:53.50ID:63fSKHHl
>「闇の欠片とやらか。見たことがないのでよく知らないが……。
 まぁ、君達が生き残っているなら私はもっと大丈夫さ……ははは!」

「生き残れたのは運が良かっただけにゃよ!?」

騎士のしがらみや崇高な使命感などではなく超ポジティブ(?)なだけだった。
他の誰かに聖剣を渡したくないということで、一緒に行く誰かを見繕ってパーティを組む気もなさそうだ。
仮に心配だから一緒に行くと申し出たところで「そんな事を言って分け前狙いだろう」と断られるのがオチだろう。

>「どうしよう……無益な血が流れるかも……っ」

「あれ、誰が何を言っても聞きそうににゃいぞ……。
まあ、あの騎士さん実際に超強いのかもしれにゃいし……
もしそうだったらこんなペーペーが下手に首を突っ込んだら
逆に足を引っ張ったりしてそれこそ余計なおせっかいになるにゃ」

>「……こうなったら仕方ない……」

何かを決意したようなエールに禄でもない予感がしたダヤンだったが、
幸いその夜は大人しく床に就いたのであった。
しかし安心したのもつかの間、次の日。何やらエールが早朝からごそごそしている。

>「私……ウォドレーさんの後を追うよ。気になって仕方なくて。
 無事ならそれで良いんだけど……なんだか心配なの!」

「エール、待てにゃ!」

ダヤンの制止もお構いなしに湖へと駆けていくエール。
冒険者の依頼には通常、危険度に見合った報酬額が設定されている。
正式に依頼を受けていても報酬以上の危険を冒すことは並大抵ではないが
今回は依頼も受けていないのに何の見返りもなく危険に飛び込もうとしている!
エールが船をこぎ出そうとしたとき、とんっと軽やかに船に着地する者があった。

「一人は危ないにゃ」

「待てにゃ」は一人では行くなという意味だったらしい。
二人で船をこぐも、すぐにウォドレーの小舟をすぐに見失ってしまった。

>「あわわっ、見失っちゃった。どこにいるんだろ……」

エールは湖の中央部に向かって船をこぎ進めていく。

「あんまり岸から離れたらあぶにゃいよ……」

>「……うん?」

気付けば巨大な魚の真上にいた。
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