タイトル「恋の股間」

 すっかり夜です。暗い部屋のベッドにはキミヒコ君が寝ていました。大きないびきをかいています。時に息がとまると苦しそうな顔で、もぞもぞと動いていました。
「……俺は……悪くない」
 顔を左右に振りながら寝言をつぶやきました。体にかけていたタオルケットはけられて腰のあたりまで下がっています。
 そのタオルケットの一部が盛りあがりました。ゆっくりと上のほうに動いて、出てきました。頭の先っぽまで皮をかぶったキミヒコ君の息子でした。
 息子はうな垂れています。先端から長々と、ため息をつきました。
「……行くか」
 けむくじゃらの睾丸を左右に動かして歩きます。胸を通ってアゴに飛び乗りました。頬のふくらみを踏み締めて額に到着。今度はベッドの棚に飛び移りました。そこからカーテンの中に潜り込み、窓枠に移動します。
 窓は少しだけ開いていました。息子は難なく通ってバルコニーに出ました。隅に置かれた園芸用の道具を足場にして手すりの上まで来ました。
 息子は曲がっていた体を起こしました。空にはポツポツと星が見えます。少し欠けた月も出ていました。
「雨の心配はないな」
 手すりに沿って息子は歩きました。仕切り板の手前で引き返そうとして動きを止めました。
 すすり泣くような声が聞こえてきたのです。手すりは隣まで繋がっていました。息子は悩ましげにぷるぷると震えて、思い切った一歩を踏み出しました。
 息子は再び止まりました。手すりのところに丸まった女陰がいました。全体を小刻みに動かし、湿っぽい音を立てています。
 息子はそろりと近づいて言いました。
「何か、悲しいことでも」
「ダメ、こっちに来ないで」
 強い拒絶を含んだ声が返ってきました。息子はしょんぼりとして、くるりと向きを変えました。
「……ごめんなさい。少し、待って」
 歩き始めたところで声をかけられました。息子が振り返ると女陰が丸まった姿で近づいてきました。
「急に大きな声を出して、ごめんなさい」
「それは構わない。泣いていた理由を教えて欲しい」
「……すごく恥ずかしいことなんだけど」
 とても小さい声でした。息子は急かさないで言葉を待ちます。
「その……わたしのビラビラが大きくて、それを見られるのがイヤで……男性がキライなわけじゃないのに……」
 息子は理解したように頷きました。
「俺も女性には縁がない。だからという訳ではないが見せてもらえないか、そのビラビラを」
「でも、恥ずかしい……」
 丸まった姿で体を左右に振ります。息子は近づきました。
「俺を引き止めた。その決意が揺らぐ前に、君の本当の姿を見せてはくれないか」
「そう、よね。わかったわ。これがわたしの本当の姿よ」
 女陰は全てをさらけ出しました。ほんのりと赤くなったビラビラが震えています。愛らしいチョウのようでした。
「きれいだ」
「そんなの、ウソよ」
 チョウが激しく羽ばたきます。
「吸い込まれそうだよ」
「そんなの……本当に?」
「がまんが、できない……」
 息子は女陰に触れました。ビラビラに挟まれて大きくなりました。皮から頭を突きだし、全身でよろこびを表現します。
「あ、そんなに動いたら、ぬれちゃうよぉ」
「こんな雨はキライじゃない。もっと、俺をぬらしてくれ」
 息子は女陰の小さな突起に頭を何度もぶつけます。グリグリと押し込みました。
「あ、ああ、いい。好き、これ、好き」
「俺も、いい。意識が、飛びそうだ」
「いっしょに、ああ、飛んで!」
 息子と女陰は大きな声をあげました。ビラビラにみちびかれて一緒に飛んだのでした。

 翌朝、キミヒコ君はいつも通りに目覚めました。元気な息子を見てにんまりとしました。
 着ていたパジャマを脱ぎ捨ててスーツに着替えます。髪のセットが終わると、すぐに部屋を出ました。
 通路の先にはエレベーターがあります。一人のスーツ姿の女性が待っていました。キミヒコ君は急いで隣に並びました。
「おはようございます」
 キミヒコ君の声に女性が顔を向けました。
「おはよう、ございます……」
 上の空のような声が返ってきました。女性のほおが赤らんでいます。キミヒコ君も同じでした。
 二人が見つめ合っていると涼しげな音が鳴りました。エレベーターの扉が開きます。
 少し遅れて二人は乗り込みました。その視線はお互いの股間に向いていました。 (了)