「はい、間違いないです。
この臭い、間違いなくここです。」
「臭い?」

もう一度問おうとすると前方から無数の矢が飛んでくる。
車両の装甲は射抜けるものではないが、窓に関してはちょっと心配だ。

「大尉、前方警戒の成龍2が、設置中なのか移動するバリケードと武装した一団を確認。
攻撃を受けたので後退中。」

最後尾座席にいる通信兵が伝えてくる。
成龍はパジェロに着けたユニット名だ。
トラゴの方には長城だ。

「成龍1は、成龍2の後退を援護。小隊は降車!!
連中を殲滅してやれ。
長城2は待機。
長城1は、腹を奴等に向けて制圧射撃開始!!」

新香港武装警察の装備は、基本的に長年日本警察が押収した銃火器を供与されたものである。
一応はちゃんと使えるように整備や修理を行ってはいるが、些か不揃いなのと夜間用の装備がない点が弱点とはいえる。
銃座からの制圧射撃が行われる中、自らもバスを降りた湯大尉は背中にRPG−26携帯式ロケットランチャーを背負った隊員に命令する。

「長引かせる訳にはいかない。
RPGでバリケードを粉砕して、成龍1、成龍2を突っ込ませる。
合図と共に撃てよ・・・」

湯大尉はもともとは軍人でも人民武装警察官でもない。
学生の頃に学生の義務である軍事教練を受けて、兵役の経験があっただけだ。
叔母か日本に爆買いに出掛けるから荷物持ちとして動員されたら転移に巻き込まれてしまった口だ。
その後は、帝国との戦争が始まり日本政府が募集した第一外国人師団に志願して今に至る。
転移に巻き込まれて路頭に迷った親戚一同で一番の出世頭であり、今でも彼等の生活を支える大黒柱なのだ。
こんなところで死ぬわけには行かない。
だから弾薬の損耗を気にする上官達の顔を立てて出し惜しみするつもりもまったく無い。
各車両や隊員の配置を確認すると声を張り上げる。

「今だ、撃て!!」

その弾頭はバリケードに吸い込まれるように飛んでいき大爆発を巻き起こす。
爆風で目の前に福岡県警のシールが、飛んできたのを目にして苦笑してしまう。
当然の事だが、このRPG−26も日本警察の押収品である。


陸上自衛隊
偵察小隊
陸路を行く自衛隊偵察部隊の車両は予想以上に走りやすい道を進んでいた。

「急拵えの用だが、道が整備されてて助かったな。」

赤井一尉の言葉に酒井二尉も感心したように頷く。

「侯爵領に入って途中から急にですね。岩とか倒木が道の外に片付けられています。」

まるで我々のような車両が通ったことがあるみたいだった。
赤井一尉は各車両への無線マイクを手に取る。

「各車、良く聞け。
この調子なら夜明けには着けそうだ。
最低限の人員を残し、睡眠を取って鋭気を養え。
朝から忙しくなるぞ。」