ロスト・スペラー 18
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
探索を再開する場所を決めて下さい。
地下4階から始める場合は、右、左、真ん中の、どの道を進むかも決めて下さい。 コバルトゥス
探索3回目
調子:好調
耐久力:11
魔力:16 洞窟に入ったコバルトゥスは、直ぐに時計の時間を確かめた。
時刻は南東の時半角を指している。
(これが正確な時刻かは判らないな。
経過が判り易い様に、針を戻しておこう)
彼は時計の摘み(竜頭)を回して、丁度南東の時に合わせた。
本当に時計が動いているか確かめる為に、時計を耳に当てると、時を刻む音がする。
(良し)
コバルトゥスは階段を下りて、下層を目指した。
地下2階に着くと、コバルトゥスは時間を確認する。
(2点……って所だな。
1階層自体は広い訳じゃないし、道も罠も判っているし、こんな物か)
同様にして、地下3階でも確認。
(合わせて、3点経過。
特に奇怪しな所は無いと思う。
問題は、地上に出た後か)
少し歩き、地下3階の最初の分岐路に出て、ここの階段前には仕掛けがあった事を、
コバルトゥスは思い出した。
(もう1回、仕掛けを動かさないと行けないか?
それに化け物が復活しているかも知れない)
彼は気配を探ってみるが、前回の様に何かが居る感じはしない。 コバルトゥスは真っ直ぐ階段まで向かってみる事にした。
気配はしなかった物の、化け物に奇襲されないか年の為に警戒していたが、何事も無く階段に着く。
化け物は再配置されていなかったし、仕掛けも動かされていた。
(カシエが通った後だから……?
いや、何か変だな。
それじゃ俺が仕掛けを動かしたのは一体?
カシエも俺も同じ道を通ってる筈。
それなのに、丸で『同じ構造の別の洞窟』を攻略していたみたいだ)
考えても分からないと、コバルトゥスは疑問を置いて、地下4階への階段を下りた。
(……やっぱり少し圧迫感がある。
深い階層に行くに連れて、洞窟全体の魔法的な仕掛けの効果が強くなっている?)
不安は多いが、足を止めずに移動する。
地下4階の3分岐で、時計を再々確認。
(4点経過。
1針まで後1点。
今から探索を始めて、地上まで戻る時間を考えると、最短でも3針は経過する。
さて、どうなってる事やら)
コバルトゥスは時計を懐に収めると、分岐路を真っ直ぐ進んだ。
耐久力:10
魔力:16
【行動表参照】 【有利判定】
地下4階の空気は、それまでの階層よりも重く湿っている様に感じられる。
苦手な暗闇の中で自分が気弱になっているのか、それとも先程から続く圧迫感の所為なのか、
コバルトゥスには判別が付かない。
暫く道を歩くと、突き当たりに出会す。
そこで道は左右に分かれている。
どちらへ進もうかとコバルトゥスは足を止めた。
【洞察力判定】 【失敗】
そこで彼は違和感を覚えたが、その正体が何かまでは掴めなかった。
精霊の声を聞いて周囲を探りたい所だが、謎の圧迫感の影響か、精霊の声が聞こえ難くなっている。
コバルトゥスは仕方無く、精霊石を取り出して、訊ねてみる事にした。
(精霊よ、教えてくれ。
ここには何が隠されている?)
本当に精霊が言葉を発する訳では無いが、どこか怪しい所があれば精霊が反応する。
【再判定】 【成功】
精霊石は正面の突き当たりの壁に、何かあると訴えていた。
コバルトゥスが壁に近付くと、淡く輝く格子状の魔法陣が浮かび上がる。
どうやら彼の精霊魔法に反応した様だ。
(何だ、これは……)
見た事も無い魔法陣を、彼は呆然と見詰めて溜め息を吐く。
(罠?
それとも上の階みたいに、先に進む為の装置か?)
触れて良い物やら迷い、格子の1本1本を静かに観察する。
それは檻の様にも棋盤の様にも見える。
【魔法知識判定】 【失敗】
これを解明出来る知識を、コバルトゥスは持ち合わせていなかった。
取り敢えず、直接手で触れる事は止めておく。
(精霊の力で、どうにか出来ないか……?)
コバルトゥスは壁から少し距離を取り、再び精霊石を手にして、精霊に語り掛けた。
「I1EE1・J3K1B7D67――……」
見えざる精霊の手が、コバルトゥスの代わりに壁に浮かんだ文様に触れる。
そうすると、精霊が触れた部分の格子が動いて、格子の図形が変化する。
【再判定】 【失敗】
罠では無さそうだと、コバルトゥスは察した。
(罠じゃないなら、先に進む為の仕掛けかな?)
そう当たりを付けて、彼は素手で格子状の文様を弄り始める。
しかし、文様は変化する物の、どう解いた物か分からない。
(適当に構ってたんじゃ駄目かぁ……)
コバルトゥスは両腕を組んで文様を睨み、小さく唸る。
「ムゥ……、どうした物かなぁ」
耐久力:10
魔力:14 解けるまで再挑戦するか、諦めて他の道を進むか、決めて下さい。
再挑戦には魔力を1消費します。 冒険者として挑戦しよう(罠に掛からなければ魔力は余りがちだし) ここを避けては先に進めないと直感したコバルトゥスは、どうにか解いてやろうと知恵を絞った。
長らく魔法陣を見詰めながら、格子を動かしていた彼は、突如閃く。
「あっ!」
格子が図形から外れそうな事に気付いたのだ。
【これ(↓)が】
┌┼┼┬┬┼┐
│┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼│
┼┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┤
└┼┴┴┼─┘
【こんな感じ(↓)に】
┌┼┼┬┬┼┐
│││││┼┼────
┼┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼│
┼┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┤
└┼┴┴┼─┘
一度要領が分かれば、後は簡単だった。
格子を外せるだけ外すと、最終的に長方形が2つ並んだ、両開きの扉の様な図形が残る。
(それで……?
これから、どうするんだ?)
コバルトゥスは少し考えて、扉の形をしているのだから、格子と同様に縦か横に動くのではと思った。 そこで頭に浮かんだのが、「引き戸」である。
ここはボルガ地方なので、ダブル・ドアよりもスライディング・ドアの方が一般的だ。
最後の仕上げの積もりで、コバルトゥスは図形の扉を開く。
……所が、何度やってみても動かない。
開かずに右か左に動くのかと試してみたが、何も変わらない。
上下にも動かない。
(えぇ、ここまで来て詰まるのか……)
引き戸では無いのかなと、今度は押してみるも反応は無い。
(時間を掛けさせるだけの罠だったとか?)
そんな馬鹿な事は無いだろうと、コバルトゥスは図形の上から壁を叩いた。
(この壁は精霊の力を遮断している。
壁の向こうに何があるのか、判らない様にしてるんだ。
絶対に何か隠してある。
そうじゃないと困るぜ……。
押しても駄目なら――)
彼は悪足掻きに図形の扉を手前に引いてみようとするも、平面の図形をどう引っ張れば良いのかと、
手を止める。
(もしかして――)
数極考え、コバルトゥスは思い付きを行動に移してみた。
注目したのは、図形を両開きの扉の様に見せていた真ん中の棒。
(これが『取っ手』か!)
淡く輝く棒状の「取っ手」に指を掛けて引くと、重い手応えがある。 両開きの扉に似た図形は、魔法の取っ手だった。
それを確り掴んで引くと、壁と完全に同化していたドアが浮き出る。
平面だった壁に切れ目が入り、滑らかに手前に動く。
石壁のドアは、その厚さの割に驚く程軽い。
これも魔法の仕掛けなのだろう。
「フー……」
難問から解放されたコバルトゥスは、大きな溜め息を吐いた。
嫌に手間取ってしまったが、今は気にしない事にする。
とにかく、これで前に進めるのだから。
ドアの先を覗き、魔法の明かりで照らしてみると、更に下に続く階段が見えた。
(この先は地下5階か)
予想通り、これが先に進む道に繋がる仕掛けだった事は嬉しいが、彼はカシエの忠告を思い出す。
(彼女は重い空気が何とか言ってたな。
何にせよ、行ってみれば判るだろう。
行ってみれば……)
彼の胸を幽かな不安が過ぎる。
耐久力:10
魔力:13 この階層の探索を続けるか、思い切って地下5階に進むか、選択して下さい。
この階層の探索を続ける場合は、どの分岐から調べるかも選んで下さい。 コバルトゥスは一度深呼吸をして、気合を入れた。
(良し、行くぞ!)
そして扉を潜った後で、ある事実に気付いて立ち止まる。
魔法の扉は手を離すと、自動的に閉まる様になっている……。
勝手に鍵が掛かっては堪らないと、彼は扉を片手で押さえつつ、挟む物を探した。
幸い、ここは洞窟の中。
適当に土や小石を閊えさせておけば、完全に閉まる事はあるまいと考える。
足元を見ると、丁度拳大の石が転がっている。
それをコバルトゥスは閉まって行く扉に咬ませた。
石が確り扉を食い止めたのを確認して、コバルトゥスは階段を下りる。
耐久力:9
魔力:13 階段を一段下りる度に、コバルトゥスは圧迫感が強くなって行くのを感じた。
(……凄い不快感だ。
気分が悪くなる)
カシエの言っていた事は本当だったと、彼は自らの胸元を押さえながら認める。
この不快感は、「自然とは異なる魔力の流れ」を魔法資質が鋭敏に読み取ってしまい、
発生する物である。
他の感覚で譬えるなら、不快な雑音や激しい明滅に近い。
余りの不快さに、コバルトゥスは精霊石の力を使う事を躊躇わなかった。
自分の周囲だけでも、精霊魔法の流れで支配する事で、不自然な魔力の流れの影響を薄める。
これは有効な手段ではある。
常に魔力を消費する事を除けば。 階段が終わると、真っ直ぐの通路が続いていた。
見た目だけは、これまでと余り変わりが無いのだが、コバルトゥスには暗さが増した様に感じられる。
地下深くに来たと言う事実と、不快な魔力の流れが、そう錯覚させるのだ。
時計を確認すると、1針が過ぎていた。
(未だ1針なのか、もう1針なのか、判んねぇなぁ)
溜め息が漏れる。
(嫌な所だ。
ここから先、こんな感じなのか……。
一体どこまで続いてるんだ?
そんなに深くないと良いが)
洞窟の静かさは相変わらず。
虫一匹存在しない通路を、コバルトゥスは独り歩く。
彼は度々足を止めて、背後を振り返る。
暗闇の恐怖が彼の精神を圧迫する。
耐久力:8
魔力:12 暫く歩くと、突き当たりがあった。
道は右側に折れている。
上の階にあった隠し通路の様な物は無い。
今の所は罠も無い様だが、こんな所で重傷を負う様な罠に嵌まれば、命が危ういと彼は警戒する。
「敵」に遭遇する事も避けたい。
どちらにしろ、今は道形に進む事しか出来ない。
コバルトゥスは微かな音も聞き逃さない様に、呼吸を静め、足音も消して移動する。
耐久力:7
魔力:11 右折して少し進むと、分岐路があった。
真っ直ぐ続く道と、右折する道がある。
どちらの道からも、何の気配も感じられないし、差異も判らない。
それは魔力の流れが乱れている所為なのかも知れないし、本当に何も無いのかも知れない。
今のコバルトゥスには、その判断が出来ないのだ。
(参ったな、こりゃ……。
直感も働かない。
運に任せるしか無いってのか?)
コバルトゥスは小さく唸った。
耐久力:6
魔力:10 彼は真っ直ぐ進もうと決心する。
周囲を警戒しながら、1歩ずつ足元を確かめる様に移動する。
行く先に危険な物が待ち構えていない事を願いながら。
【行動表参照】 【成功】
暫く歩いたコバルトゥスは、数身先で再び道が右折している事に気付いた。
(今度も右折か……)
忍び足で曲がり角の先を慎重に覗き見る……と、踏み出した足の下が少し沈む感覚があった。
(罠か!?)
罠を踏んでしまったのかとコバルトゥスは焦るも、何も起こらない。
(……足を退かしたら、ドカンって事は無いよな)
地雷でも埋められているのか、彼は魔法資質で足下を確かめたが、危険そうな物は無い。
しかし、ここまで罠は無く、そろそろ配置されているのではないかと予想。
(不気味だ。
素早く動けば、罠が発動しても避けられるか?
深手を負いたくはないが、未だ余裕のある今なら魔法で回復出来る)
罠では無いと断じる事は出来ない。
(1、2の3!!)
コバルトゥスは勢いを付け、低く地面に飛び込む様に前転した。
機敏な動作で一回転して振り向き、周囲の様子を窺う。
(……何も起きない?)
洞窟内は変わらず静寂が支配している。 コバルトゥスは立ち上がると、服を叩いて土汚れを落とした。
(罠じゃなかったのか?
それとも不発だっただけ?
大きな仕掛けの一部って事も……。
どうなってんのかな)
彼は真顔で考え込み、もう一度踏んでみようかと思うも、それで罠が作動したら馬鹿みたいだと思い、
今は先に進む事にした。
耐久力:5
魔力:9 又少し進むと、この階層2度目の分岐点に差し掛かる。
真っ直ぐ続く道と、右に折れる道。
右の道には何があるかと覗き込もうとした所、再び足が僅かに沈んだ。
(わっ、又だ!)
2度目なので、驚きや焦りは控え目だが、罠の可能性を完全に排除する訳には行かない。
(これで罠なのか、そうじゃないのか、明確になる筈だ)
コバルトゥスは先と同様に、飛び込み前転で素早く仕掛けから離れた。
(……やっぱり何も起こらないじゃないか)
一体何の為の物なのかと、彼は怪しむ。
(今度も不発って事は無かろう。
油断を誘っているのかも知れないが……)
幾ら考えても、分からない物は分からない。
コバルトゥスは小さく息を吐くと、進むべき2つの道を交互に見た。
先の分岐と同じく、幾ら感覚を研ぎ澄ましても、どちらの道からも有益な情報は何も得られない。
耐久力:4
魔力:8 (こっちにしよう、何と無く)
コバルトゥスは真っ直ぐ進む事にした。
少し歩いて、彼は自然と注意が足元に向いている事に気付く。
(下ばっかりじゃなくて、上も気を付けないと行けないか?
上から何か降って来ないとは限らないしなぁ……。
吊り天井とかあるかも)
少しだけ沈む奇妙な地面は、足元を警戒させて他への注意を疎かにさせる為の仕掛けなのかと、
コバルトゥスは考えた。
(本当に、そうなのか?
分かんねえなぁ……)
そんな調子で暫く歩いていると、突き当たりに土壁が見える。
道は右に折れており、分岐路は見当たらない。
これまでの経験から、ここにも少しだけ沈む地面があるのではと、コバルトゥスは予想した。
しかし、曲がり角まで来ても、そんな様子は無い。
(……ん?
ここには無いのか?
それとも踏み外した?)
彼は肩透かしを食って、靄々した気持ちになる。
耐久力:3
魔力:7 角を曲がると、少し先に障害物の気配があった。
道の真ん中に、大きな物が置かれている。
だが、完全に道を塞いでいる訳では無く、狭い隙間がある。
(岩石が置かれているのか?)
設置物は周辺の土壁と類似した、硬い物質である事も解る。
前進して近付いてみると、やはり岩石の様だ。
(障害物にしては雑な置き方だな)
周辺の壁や天井に大きな窪みは無く、剥がれ落ちた物では無い。
徒の岩石ではあるまいとコバルトゥスは怪しみ、慎重に接近した。
【行動表参照】 【失敗】
約2身の距離まで近付いた所、岩石が動き始める。
それと同時に、高速の石礫がコバルトゥスに襲い掛かった。
【戦闘能力判定】 【回避失敗】
即座に防御姿勢を取ったコバルトゥスだが、石礫を回避する事は困難だった。
動きの制限される洞窟内で、散弾の様に散(ば)ら撒かれる石礫。
更に魔法資質も思う様に利かないのだから、これは仕方が無い。
ここが広い地上で、何の妨害も無ければと、コバルトゥスは恨まずには居られない。
礫は彼の服の上から、痛烈な打撃を浴びせる。
頭部は何とか庇えた物の、腕に2発、脚に1発。
骨が折れたのでは無いかと思う程の衝撃がある。
コバルトゥスは「敵」を睨んだ。
手足の生えた、大人の男性よりも大きい岩石の塊が、丸で番人の様に立ち開(はだ)かっている。
(石の怪物!?
こいつも魔法生命体か!)
自分に不利な環境で、傷を負って戦い続けるのは得策では無いと判断したコバルトゥスは、
撤退する事にした。
幸い、相手は動きが鈍そうだ。
打撃を受けた己の手足は痛みはする物の、走駆に支障がある程では無い。
耐久力:0
魔力:6
【耐久力が尽きたので撤退】 コバルトゥスは急いで1つ上の階層まで走った。
石の怪物が追って来る様子は無い。
階段を上り切って、強い圧迫感が弱まったと同時に、彼は安堵の息を吐く。
(フー、やれやれ、治療しないと)
服の上から打撃を受けた所を触ると、強い痛みがある。
(大丈夫、折れてはいない。
恐らく痣になっているだけ)
コバルトゥスは自己診断して、精霊魔法による回復を試みた。
「F3CG3A4・H2F1H4C5――」
彼は呪文を唱えながら移動する。
幾らか緊張が緩んだ所為か、打撃を受けた箇所が痛み始めるが、魔法の効果で徐々に治まる。
とにかく地上に出る事が優先だと、コバルトゥスは真っ直ぐ来た道を戻った。
これまでと同様、障害となる物も、敵と遭遇する事も無く、無事に彼は帰還する。 洞窟から出たコバルトゥスを、カシエが出迎える。
「お帰り、バル。
頬っ辺、どうしたの?」
彼女はコバルトゥスに歩み寄り、その頬に手を添えようとした。
「頬が、どうしたって?」
コバルトゥスは反射的にカシエの手を払い、自分で頬を撫でてみる。
しかし、特に変化は感じないし、手にも何も付いていないので、何の事を言われているのか解らない。
カシエは怪訝な顔をして言う。
「傷が付いてるよ」
石礫が掠ったのだろうと、コバルトゥスは理解した。
「何でも無い。
何とも無いから、大丈夫さ」
彼は強がりを言い、笑って見せる。
石の怪物に痛手を負わされ撤退した事を、正直に話す気にはなれなかった。
だが、カシエに忠告だけは確りする。
「それよりカシエ、俺の方は石の化け物に出会した。
多分、魔法生命体だと思う。
階層が深くなるに連れて、敵は手強くなるみたいだ」
「有り難う、心に留めておくね」
カシエは礼を言うと、コバルトゥスと擦れ違い、洞窟に入って行った。 コバルトゥスはラビゾーから少し離れた所で腰を下ろす。
それをラビゾーは不審の目で見つつ、彼に話し掛けた。
「何か見付かったか?」
コバルトゥスは沈黙して答えなかった。
何も得られずに、魔法生命体から逃げ戻って来たと正直に告白する事は、躊躇われたのだ。
彼の反応でラビゾーは察したのか、それ以上は問うて来なかった。
気不味い沈黙が続く。
体力と精霊石を回復しながら、この空気を変えられる話題を探していたコバルトゥスは、
時計の事を思い出した。
徐に懐から時計を取り出し、現在の時刻を確認する。
(南東の時、4針。
……そんな物か)
これまで何角も探索していた気になっていたのは錯覚だったと、コバルトゥスは認めざるを得ない。
しかし、未だ洞窟内の時間の経過が地上と同じと決まった訳では無い。
彼は念の為、ラビゾーにも確認を求める。
「先輩、先輩!
俺が洞窟に入って出て来るまで、何針掛かりました?」
ラビゾーは緩慢な所作で、自分の時計を取り出す。
「あー、2針は掛かってないな」
その答を聞いたコバルトゥスは、思った通りだと笑みを浮かべた。 彼はラビゾーに近寄り、自分の時計を見せ付けた。
「先輩、これ見て下さい」
「どうした、壊れたか?
安物だったからなぁ」
時刻が全く合っていないので、時計が壊れたのかと誤解するラビゾー。
コバルトゥスは苦笑して訂正する。
「いや、そうじゃなくて、俺が洞窟に入った時には南東の時だったんスよ」
コバルトゥスが何を言いたいのか解らず、暫く困った顔をしていたラビゾーだったが、
やがて気付いた。
「あぁ、4針か……。
時計の進み具合が正常なら、時間が狂っている事になるな」
但しを付けるラビゾーに、コバルトゥスは眉を顰める。
「だから、狂ってるんスよ!」
彼は確信を持って断じるが、ラビゾーは頷かない。
「強い磁場の影響を受けているかも知れない。
特に時計の様な機械は狂い易いんだ」
中々の頑固者である。 コバルトゥスは不満を吐いた。
「どうして信じてくれないんスか?」
ラビゾーは困り顔で応える。
「信じていない訳じゃなくて……。
時間が狂っていようが、それは別に良いんだ。
僕に不都合がある訳じゃない。
でも、そう断じるのは早計じゃないかと」
「どうすれば納得してくれるんスか?」
コバルトゥスは意地でも洞窟の中は時間の流れが狂う事を、証明しようとした。
決して大袈裟に物を言っている訳では無いと、解って貰いたいのだ。
ラビゾーは少し考えてから言う。
「磁場が狂ってない事を証明出来たら良い訳だから……。
そうだな、方位磁針が狂っていなければ、証明になるかな。
方位磁針も狂い易いから、余り良い案とは言い難いけど、電磁気を発生させなければ……。
コバギ、時計を貸してくれないか?」
「どうするんスか?」
「いや、磁気で狂ったんなら、脱磁しないと行けないだろう?」
「だつじ?」
「磁気を取り除くんだよ」
機械に詳しくないコバルトゥスは、訳も解らない儘、時計をラビゾーに差し出した。 ラビゾーは詳しい説明をする。
「強い磁場に当てられると、金属部品が磁気を帯びてしまう。
そうすると精密な動作に支障が出るんだ。
正確に時を刻めない状態で、『今の時刻』だけを合わせても無意味だ」
彼は共通魔法で、時計の磁気を除去する。
脱磁の魔法は、主に機械を修理する技士が使う魔法だ。
それをコバルトゥスは黙って見物していた。
(知らない呪文だ。
弱い雷精が反応している。
これで磁気が抜けるのか……)
この程度なら自分でも出来そうだと、彼は思った。
「……これで良し。
コバギ、時計を持った事は無いのか」
ラビゾーは時計をコバルトゥスに返すと同時に尋ねる。
コバルトゥスは時計を受け取りつつ答えた。
「俺には精霊が付いてるんで」
精霊魔法使いである彼は、天体の動きや気温の変化で、大凡の時刻を把握出来る。
勤め人でも商売人でもないから、それで困った事は一度も無い。
明るい内に活動して、暗くなったら宿を探すと言う、原始的な生活をしている流れ者だ。 ラビゾーは眉を顰めて、口の端に微笑を浮かべ、小さな溜め息を吐いた。
その意味をコバルトゥスは考える。
「大多数の共通魔法使い」と同質の、「大人」としての自覚が無い事を笑われたのか?
それとも「狭い社会の常識」に囚われない事への羨望なのだろうか?
どちらにしても、コバルトゥスは今の自分を変える積もりは無い。
その後、暫しコバルトゥスはラビゾーを見詰めていたが、やがて堪え兼ね、自ら尋ねた。
「あの、先輩……?」
「何だ?」
「方位磁針は?」
「あるぞ」
「いや、呉れないんスか?」
「何で?」
コバルトゥスは当然の様に、ラビゾーから方位磁針を渡して貰えると思い込んでいた。
「いやいや、方位磁針が無いと、時間の流れが狂ってる事の証明が出来ないじゃないッスか」
「別に僕は困らないが……」
「もしかして、買えと?」
「もしかしても何も、その通りだが」
ラビゾーは呆れて笑う。 彼の反応を意地悪く感じたコバルトゥスは、大袈裟に驚き、失望して見せた。
「なぁんで、そんなに吝嗇なんスかぁ!?」
「だって、カシエさんと勝負してんだろう?」
飽くまで公平性を欠く真似は出来ないと主張するラビゾーに、コバルトゥスは問う。
「じゃ、カシエが居なかったら良いんスか?」
「えぇ……?
そりゃ、多少は融通を利かせてやっても良いと思うが」
自分が嫌われている訳では無のだと悟り、コバルトゥスは安心しつつも、強請(ねだ)りは止めない。
「でも、洞窟の時間が狂ってる事と、カシエとの勝負は無関係っしょ?」
「何が有利に働くか判らんからなぁ……。
それに只では面白くない」
只では無理と聞いた彼は、嫌らしくラビゾーに囁く。
「そんじゃ、俺が財宝を手に入れたら、先輩にも分けて上げますよ」
「駄目だ。
僕はカシエさんと先に契約した。
商売は信用だ。
彼女を裏切る事は出来ない」
「ハァ、相変わらず真面目腐って」
押しには弱い癖に、一度決めたら中々譲らないのが、このラビゾーと言う男。
コバルトゥスは呆れて彼を茶化すのだった。 それからコバルトゥスはラビゾーから少し離れて、再び回復に努めた。
両目を瞑って心を静かに保ち、深呼吸を繰り返して、全身の強張りを解く。
人里離れた山の中、水と風の音、そして鳥の鳴き声しか聞こえる物は無い……。
否、ラビゾーがバックパックを漁る音がする。
その後に聞こえる咀嚼音。
ラビゾーは何か固い物を齧っている。
水筒から茶を飲む音もする。
コバルトゥスは嫌でも空腹を意識して、目を瞑った儘、ラビゾーに話し掛けた。
「……先輩」
「どうした?」
「何、食ってるんスか?」
「パワー・プレニッシュメント(※)。
一般的には略してパワプレと言うな。
携行食だよ」
「何で食ってるんスか?」
「何でも何も、僕が買った物だし」
「商品じゃないんスか?」
「商品は商品だが、自分で買ったんだから良いじゃないか……。
自分で金を払って、自分で受け取っても仕方が無いし。
未だ未だ数には余裕がある、無くなりはしないよ」
コバルトゥスは自分が腹を空かせているのに、その横で他人が物を食べているのが、
気に食わなかった。
※:ヘルス・ヒーラー(健康食品会社)の商品名。
『Power Plenishments』。 不機嫌なコバルトゥスに、「欲しければ買えば良い」とラビゾーは言わない。
「……あぁ悪かった」
大人しく詫びて、食べ掛けの携行食を片付ける。
空腹の者を前に当て付ける様に食事をするのは、購買意欲を唆(そそ)る行為だ。
その目的は果たしたのかと、コバルトゥスは独り深読みして不快な気分になった。
空腹は人から温厚さと冷静さを奪うのだ。
ラビゾーは計算高い人間では無いと、彼は後になって悟る。
雑念は集中力を乱し、魔法の効果を薄れさせる。
これでは行けないと、彼は反省した。
魔法で体力を十分に回復させれば、少しは空腹が紛れるだろうと思い直し、再び集中力を高める。
太陽は明るく、風は穏やかだ。
雄大な自然に自身を溶け込ませれば、些事に煩う心も洗われる。
(食い物位、この洞窟の探索が終われば分けて貰えるだろう)
コバルトゥスは妙な希望的観測に目覚め、苛立ちを収めた。 カシエが洞窟に入ってから約2針半後、彼女は洞窟から出て来る。
彼女の体の所々には浅い傷が見られ、表情は悩まし気だった。
そんな様子のカシエを目にするや、コバルトゥスは彼女に駆け寄って、真剣な声で尋ねる。
「どうしたんだ、カシエ!
その傷は!?」
「……私と同じ姿をした物が居たの」
「同じ姿?!」
「6階層目の通路で、私を鏡に映した様な……。
背格好も装備も全く同じ、私の分身みたいな……」
「カシエ、君は探索を止めた方が良い」
コバルトゥスは本心からカシエを心配していた。
しかし、彼女は頷かない。
「それは嫌。
私だって冒険者、この程度は覚悟してる。
心配しないで。
何と無く、終わりが近い気がするの」
カシエは気丈に振る舞い、優しくコバルトゥスを押し返した。
そして弱々しい足取りでラビゾーに歩み寄り、財宝を見せる。
コバルトゥスは暫し立ち呆けていたが、やがて気を取り直し、洞窟に入った。 コバルトゥス
探索4回目
調子:普通
耐久力:11
魔力:16 コバルトゥスは真っ直ぐ地下5階を目指した。
これまでと同様に、化け物や仕掛けが復活していたりはしないし、罠の配置も変わっていない。
地下4階の隠し扉も、普通に開く様になっていた。
地下5階の不快感には相変わらず慣れないが、見知った道なら通り抜けるのも早い。
この階層の最初の分岐に差し掛かった彼は、今度は右折してみる事にした。
罠は見付からず、敵にも出会(くわ)さない儘、暫く歩いていると、突き当たりが見える。
道は左側に続いていた。
右側は土の壁。
(これは、もしかして?)
前に通った道と繋がっているのではと、コバルトゥスは直感する。
それが正しいか確かめる為に、彼は左折して真っ直ぐ進んでみる事にした。
耐久力:10
魔力:15 コバルトゥスが分岐路を右折して暫く歩くと、通路が右に折れている場所に出る。
(これが前回通った道。
ここに少し沈む地面がある……っと!
あった、あった)
予想を裏切られなかったので、コバルトゥスは少し満足した。
その儘道形に進むと、真っ直ぐと右に曲がる分岐路がある。
地面には1本の燐寸が置かれている。
(やっぱり同じ道じゃないか……っとォ!?)
彼が燐寸に近付くと、僅かに地面が沈み込む感覚がある。
(油断していた……。
しかし、変だな。
何で、あっちから来た時は作動しなかった?
踏み忘れる訳は無いのに)
自分の記憶力に自信を持っているコバルトゥスは、踏み忘れでは無いと断定して、
右に続く道を見詰めた。
(左回りで何も無かったって事は、右回りに行けば何かあるのか?)
罠かも知れないと思いつつ、彼は直感に従う。
地面に置いた燐寸は水分を吸収して湿気っていたので、回収しなかった。 分岐路を右折して真っ直ぐ進んだ彼は、通路が右折している場所に出る。
(この先に行くと、元に戻る。
それだけで何も起こらなかったら、馬鹿みたいだなぁ)
無駄に時間だけ食うのは避けたい物だと、コバルトゥスは思った。
そして、曲がり角を曲がろうとした時……、
「おっと」
3箇所目の沈む地面を踏む。
その直後、前方で地響きがした。
何かが動いている。
驚いて罠かと身構えるコバルトゥスだったが、何も起こらない儘、地響きは収まった。
10極に満たない間の事。
コバルトゥスは何が起こったのか確かめる為に前進する。
暫し後、突き当たりと左右に分かれる道が見えるが、交差点の地面にはには大穴が開いている。
(何だ、こりゃぁ?
階段?)
恐る恐る穴に近付いて中を覗き込むと、更に下層へと続く階段の様だった。
ここが見知らぬ場所では無い証拠に、地面には湿気た燐寸が置かれている。
コバルトゥスは全てを理解した。
(沈む地面は、この階段を出現させる為の仕掛けだったのか!
正しい道順で踏んで行かないと、下の階に行けない様になっているんだな)
面倒な仕掛けだと思いつつ、これで先に進めると、彼は安堵する。 階段を下りるか、この階層の未だ探索が終わっていない場所に行くか、選択して下さい。 大変申し訳ありません
>>154の次には以下の文章が入ります。
予想通り、左折した先には突き当たりがあり、道が左右に分かれていた。
(ここで右側に行くと石の怪物が居て、左側は元に戻る筈だ)
コバルトゥスは本当に同じ道だと言う確証を得る為に、足が少し沈む地面を慎重に探した。
(この辺りに……。
あれ?
無いぞ?)
所が、どこにも無いので彼は混乱する。
(どうなってんだ?
違う道に出たとか?
いや、急な上りや下りは無かったし、魔力場の変化も……)
未知の魔法的な仕掛けが多いとは言え、違う場所に飛ばされて、全く気付かないと言う事があるか、
コバルトゥスは思案した。
そして暫く考え、ある事を思い付く。
(……そうだ!)
コバルトゥスは、その場に燐寸を1本置いて、来た道を引き返した。
そして、最初の分岐路に戻ると、そこにも燐寸を1本置く。
(これで同じ道を通ったのか判るぞ!)
我ながら妙案を閃いた物だと自賛しつつ、彼は分岐路を右折して、右回りに戻って来れるか、
確かめようとした。
これを挟んで>>155、>>156に続きます コバルトゥスは慎重に階段を下りた。
もし地下5階よりも不快感が強くなったら、どうしようかと彼は悩む。
カシエが言うには「終わりが近い」らしいが、それは彼女の個人的な感想であり、正しい保証は無い。
本当に終わりが近いのであれば、好ましい事ではあるが……。
(いや、好いとは限らないな?
カシエが先行してる現状、先に最深部に到達される可能性もある)
悶々とした気持ちで歩いている内に、階段は終わり、コバルトゥスは地下6階に出る。
これまでと変わらない土と岩の通路が、3つある。
不快感は地下5階と殆ど変わらず、少なくとも急激に強くなったと言う事は無い。
3つの通路は、コバルトゥスから見て右、左、正面に配置されている。
後ろは階段だ。
どの道を進もうかと、コバルトゥスは足を止めて考えた。
耐久力:9
魔力:14 何と無く、左に進んでみようとコバルトゥスは決めた。
彼はカシエの言う、「自分と同じ姿の物」を想起して警戒する。
それは一体、どんな物なのだろうか?
コバルトゥスの前にも、カシエの姿で現れるのか、それともコバルトゥスの姿に変身するのか?
強さは如何程だろうか?
身体能力も同程度になるのだろうか、それとも姿を似せるだけで全く違うのか?
カシエは幻覚を見せられたのではないか?
あれこれと可能性を考えるコバルトゥスだったが、彼の行く先は行き止まりだった。
【行動表参照】 【失敗】
直ぐには引き返さず、何か無いかと目を凝らすコバルトゥス。
しかし、特に気になる物は見当たらない。
(罠も敵も無しか……。
唯の行き止まり?)
本当に何も無いのかと、彼は精霊の力を借りて、改めて何か無いか探知する。
【再判定】 【成功】
精霊は行き止まりの右隅に、周囲の土や岩石とは異質な物があると示している。
コバルトゥスは徐に近付いて、正体を確認した。
(あぁ、土と似た色で判らなかった。
見付かり難い様に、偽装したんだろうか?
それとも時間の経過で自然に同化してしまったのか)
それは地下3階にあった物と同じ様な、石板だった。
(罠じゃないよな?
どっちにしても、触ってみるしか無いが)
押そうか引こうか迷ったコバルトゥスは、取り敢えず引いてみる事にする。
(何か起きても、直ぐ逃げられる様に……)
彼は慎重に石板に指を掛けて引っ張った。
【力判定】 【成功】
恐る恐る、少しずつ引き出してみようと思ったコバルトゥスだが、石板は地下3階の物より重い。
覚悟を決めて一息に引き出すしか無いと、彼は腰を溜め、全身の力で石板を引いた。
「フンッ!!」
石板は数節だけ引き出されて、そこで止まる。
同時に、同じ階層の遙か遠くで、地響きの様な音がする。
一方で周辺の精霊に変化は無く、危険が迫っている感じは無い。
(どこが動いた?)
だが、どこかで何かが変わったのは事実である。
(他の所を調べてみるしか無さそうだな)
コバルトゥスは来た道を引き返し、分岐路に戻った。
右は階段、左と正面は未探索の通路。
さて、どうしようかと彼は思案する。
耐久力:8
魔力:12 コバルトゥスは直進する事にした。
カシエの言う「自分の姿をした何か」は、未だ現れない。
この先に居るのかも知れないと、彼は警戒する。
暫く歩いた所、突き当たりに出会す。
又も行き止まりかとコバルトゥスは思ったが、今度は左側に道が続いている様子。
彼は慎重に角を曲がって、先に進んだ。
耐久力:7
魔力:11
【行動表参照】 【通常判定】
角を曲がると、真っ直ぐの道が続く。
コバルトゥスは前方を警戒して歩くが、何も現れる気配は無い。
(嫌に静かだな。
そう言えば、仕掛けばかりで、暫く罠を見ていない)
そんな事を思いながら、彼は前進を続ける。
不快な圧力には相変わらず慣れないが、これだけならば然程重大な脅威にはならない。
【洞察力判定】 【失敗】
そう慢心したのが不味かったのか、コバルトゥスは罠を発動させてしまった。
左側の壁が一斉に倒れて来る!
「わわっ、嘘だろ!?」
壁が倒れる範囲は広く、どんなに素早く移動しても回避は出来そうにない。
これは腕力で押さえるしか無いと、コバルトゥスは覚悟を決めた。
「うおおおおおおお!!」
両手を突き出して、倒れ込む壁を受け止める。
【力判定】 【失敗】
しかし、壁は彼の腕力で受け止めるには重過ぎた。
勢いに負けて、簡単に押し潰されそうになる。
「つ、潰されて堪るかぁああっ!!」
コバルトゥスは精霊石の力を引き出した。
不可視の力が、彼と共に倒れて来る壁を支える。
【再判定】 【失敗】
それでも無駄だった。
精霊の力を借りるのが、遅かったのかも知れない。
……どう仕様も無かったのだ。
これまでの罠とは違い、壁が一斉に倒れて来るのは大掛かり過ぎて、想定外も想定外。
コバルトゥスは岩壁の下敷きになってしまった。
(くっ、苦しい……)
こんな所では誰も助けに来ない。
彼に圧し掛かる岩壁は、益々重たくなって行く様。
死んで堪るかと、コバルトゥスは精神を集中させ、魔法剣を使う。
短剣を抜き、岩壁に押し当て、四角に切り抜く。
岩壁はコバルトゥスが居た部分を残して、地面に倒れた。
「えいっ!」
コバルトゥスは切り抜いた岩壁の一部を捨て、両脚を伸ばす。
「フー」
大きな溜め息を吐いた彼は、倒れた岩壁を乗り越えて、先に進んだ。
耐久力:2
魔力:7
【行動表参照】 【通常判定】
罠を越えた先は、行き止まりだった。
右も左も岩壁で、どうやっても進めそうに無い。
目の前には錆付いた宝箱が置いてある。
(宝箱か……。
絶対怪しい)
彼は警戒したが、「宝箱」を開けない選択は無かった。
(でも、俺は冒険者だ。
お宝を目前に撤退は出来ない)
先ずは罠が無いか、そして、どうやって開けるのか調べる。
耐久力:1
魔力:6
【洞察力判定】 【成功】
魔法資質も用いて念入りに観察した所、特に仕掛けの様な物は無いが、鍵が掛かっていると判明。
錆付いているので、上手く開けられるかは判らないが、コバルトゥスは取り敢えず開錠を試みた。
冒険者であるコバルトゥスは、鍵開け道具を持っている。
(こんな時の為の鍵開け技術だ)
自分の技術を発揮出来る機会が訪れた事を、彼は少し嬉しく思った。
【機敏さ判定】 【失敗】
所が、錆が原因なのか、中々鍵は開かない。
(……いやいや、そんな馬鹿な)
これは自分の腕が悪いのでは無く、頑固に錆付いている所為だと、コバルトゥスは誰にするで無く、
言い訳した。
彼は大きく深呼吸をして、心を落ち着ける。
(そろそろ疲れて来たし、早々と魔法で開けてしまおう)
コバルトゥスは鍵開け道具を片付け、精霊石を握り締めて、宝箱の鍵に触れた。
【再判定】 【自動成功】
彼は空いた手で、燐寸を取り出す。
燐寸に含まれる燃素に気素を過剰に反応させ、それに水を加えると苛性の液体が出来る。
その化学反応を土と風と水の精霊魔法で行うのだ。
これによって錆を落とすのである。
錆を落としたら、精霊の手で直接鍵を解除する。
鍵開け技術も何も無いが、そんな事は気にしないコバルトゥスだった。
それよりも箱の中身への興味が勝る。
(こんな所に、態々こんな物が置かれてるんだ。
それなりの物じゃなきゃ困るぜ)
彼は期待を持って、宝箱の蓋に手を掛けた。
【財宝判定】 箱の中にあった物は、錆びた金属の食器だった。
赤錆びた皿が1枚と、匙が2本。
(どう見ても瓦落多〔ガラクタ〕じゃないか!
いや、物凄い掘り出し物の可能性もあるのか?
それにしたって、こんなに錆びてたら……)
余り高く売れそうにないので、コバルトゥスは落胆する。
彼は一つ息を吐くと、来た道を引き返した。
何時までも落ち込んでは居られない。
心身共に疲労しており、精霊石の力も尽きたので、早く戻らなければならないのだ。
精霊の守り無しに、不快な圧力に長く堪え続ける自信は無い。
耐久力:0
魔力:0
【耐久力と魔力が尽きたので帰還】 地上に戻ったコバルトゥスに、ラビゾーが声を掛けて来る。
「戻ったか、コバギ。
どうだった?」
コバルトゥスは彼に応える前に、カシエに目を遣る。
彼女は直立して両目を閉じ、小声で何事か呟いていた。
精霊が反応している事から、彼女は何等かの魔法を使っているのだろうと推測する。
邪魔をしては行けないと、コバルトゥスは彼女には触れず、ラビゾーに尋ねた。
「カシエは何してるんスか?」
「回復魔法を使ってるんだ。
体力の回復と、傷の治療を同時に行っている。
直に終わると思うよ」
「そうッスか」
カシエが見ていない今の内だと、コバルトゥスは洞窟の中で見付けた食器を、ラビゾーに見せる。
「所で、先輩……こんなん見付けたんスけど」
ラビゾーは受け取らずに眉を顰めた。
「いや、見付けたって、お前」
こんな塵みたいな物を渡されても困るだろうなとコバルトゥスも思ったが、それでも依頼する。
「とにかく鑑定して下さい。
宝箱に入ってたんッスよ、何かある筈です」
「宝箱?」
ラビゾーは低く唸りながら、気が進まない様子で、皿と匙を手に取った。 ラビゾーが難しい顔で鑑定している間に、カシエは回復を終えてコバルトゥスに声を掛ける。
「あら、バル?
帰ってたの?」
どうやら魔法に集中していたので、コバルトゥスの帰還に気付かなかった様。
彼女は真っ直ぐコバルトゥスを見詰めて尋ねる。
「ねぇ、どの辺りまで行けた?」
近付いて来るカシエに、自分が持ち帰った身窄らしい道具を見られまいと、コバルトゥスは自ら、
彼女に歩み寄った。
「地下6階まで。
未だ君が言ってた様な奴には出会してないけど――」
コバルトゥスの答を聞き流し、カシエは彼の服を軽く叩(はた)く。
「服が汚れてるよ。
土埃が付いてる。
転んだ?」
「いや、そんな、止してくれよ」
世話を焼こうとする彼女に、コバルトゥスは羞恥を覚えて押し返した。
そして、自分で服の汚れを叩き落とし、綺麗になった事を示す。
「もう良いだろう?」
「ええ、そうね。
御免なさい」
コバルトゥスが迷惑そうな顔をすると、カシエは小さく笑って、洞窟に向かった。 やれやれと溜め息を吐いてコバルトゥスが振り向くと、ラビゾーが嫌らしい笑みを浮かべていた。
「何笑ってんスか」
コバルトゥスが不機嫌な声で言うと、ラビゾーは弁解する。
「微笑ましいと思ってな」
どうも調子が狂って行けないと、コバルトゥスは頭を掻いて、話題を切り替えた。
「それで、鑑定した結果は?」
ラビゾーは困った顔で言った。
「皿も匙も極普通の鉄の食器だ。
少し『不銹<ステインレス>』鋼の性質がある。
何時の時代の物か判らないから、何とも言えないが……。
そう高値では売れないと思う」
「ステンレス?」
「沈色し難いと言う意味だ。
復興期辺り、錆び難い鉄の食器と言う事で、保管されていたんじゃないだろうか?
そうじゃなければ鉄屑だよ。
これ自体に大した値段は付けられない。
錆びてるし、錆を取ったとしても……」
コバルトゥスは詳しい説明よりも、値段が知りたい。
「幾ら位になりそうッスか?
幾らで買ってくれます?」
率直な問に、ラビゾーは少し考え込む。
「100、いや、200、150……。
ウーム、200が限度だ」 コバルトゥスは大きな溜め息を吐いた。
「そんな物(もん)ッスか……」
我が身に置き換えても、こんな塵屑に金を払う価値は無いと思うので、鑑定価格に文句は付けない。
「ああ、期待に応えられなくて悪かったな。
売るのか?」
「はい、買い取って下さい。
こんなん持ってても仕様も無いッス」
鉄屑に用は無いと、彼は言い値で売り飛ばし、ラビゾーから200MGを受け取る。
これで所持金は300MG。
ラビゾーはコバルトゥスに問い掛けた。
「大した物は買えないかも知れないが、何か買うか?」
コバルトゥスは暫し思案した。 300MGで何を買うか決めて下さい。
値段は>>91を参照。 彼は長らく考えて結論を出す。
「それじゃ、魔力探査機を下さい」
「お前の魔法資質なら必要無い物だと思うが……。
欲しいと言うなら、売らない訳には行くまい」
ラビゾーはL字形の針金の様な物を2本、コバルトゥスに渡す。
受け取ったコバルトゥスは、効果を疑った。
「本当に、こんな物で?」
「知らん。
ここで試してみたら、どうだ?」
ラビゾーの提案に、コバルトゥスは半信半疑――否、殆ど疑いしか持たずに乗った。
何も感じ取れない鉄屑だったら、返品しようと思っての事。
「使い方は、先ず拳を握って、人差し指を前に突き出す。
そして、棒の短い方を三本の指で軽く握り、長い方を人差し指の上に乗せる感じで持つ。
もう片方の手も同じ様にして……」
魔力探査機を持ったコバルトゥスは、こんなので何が判るのかと呆れ返った。
しかし、疑う心に逆らう様に、棒が勝手に動き始める。
「おおっ!?
動きましたよ、先輩!」
彼の手に握られた魔力探査機は、揃って洞窟の中を指した。
「こ、これ、どう言う事ッスか!?」 驚愕して興奮気味に尋ねるコバルトゥスに、ラビゾーは困惑する。
「え、分からん……。
僕は真面に使った事無いし……」
「洞窟の中の魔法的な何かに反応してるんスかね?」
「そうかも知れないなぁ」
「これは使えそうッスね。
両手が塞がるのが難点ッスけど。
精霊を宿したら、もっと面白い物になるかな?」
コバルトゥスは甚く魔力探査機を気に入って、次の洞窟探索に心を弾ませた。
その為に彼は嬉々(いそいそ)と回復に専念する。
浮き立つ心は精神の集中を乱すが、精霊魔法使いのコバルトゥスは、それを問題にしない。
喜びや希望、期待の心を、理想的な魔法の発動環境を妨げる物とは捉えない所が、
精霊魔法と共通魔法との大きな違いの一である。
前向きな希望の心は精霊を活発にさせ、コバルトゥスの回復を早める。
(共通魔法使いも面白そうな物を作るじゃないか)
彼は内心で共通魔法使いへの評価を少し上げた。 数点と経たずに完全に回復したコバルトゥスは、今度は精霊石に力を取り戻させる。
その間、黙って動かずにいるのは暇なので、彼はラビゾーに話し掛けた。
「やー、良い買い物をさせて貰いましたよ!」
「良かったな」
魔力探査機の効果を余り信じていなかったラビゾーは、複雑な表情で答える。
そんな事は気にせず、コバルトゥスは彼に尋ねた。
「他にも、面白そうな物は無いんスか?」
「……どうだろうなぁ?
それは偶々お前と相性が良かったんだと思う。
普通の人にとっては、詰まらない物だよ」
ラビゾーの言う通り、実際に共通魔法使いで魔力探査機を頼りにしている者は殆ど居ない。
専門家は高性能で本格的な魔導機を使う。
こうした簡素な造りの物は、素人や暇人が遊び感覚で使う程度だ。
「共通魔法使いってのは、物の価値が判らないと言うか、勿体無い事をしてるッスねぇ」
利いた風な口を叩くコバルトゥスに、ラビゾーは穏やかに反論する。
「もっと性能の良い物があるからな。
こんなのは玩具みたいな物だよ。
でも、お前にとっては、そっちの方が合うのかも知れないな」 皮肉を言われたのかと思い、コバルトゥスは少し表情を曇らせる。
「おれには玩具が似合いだってんスか?」
ラビゾーは慌てて弁解した。
「嫌味ではなく……。
共通魔法技術の粋を集めた、高性能で精密な『一級品』よりも、そうじゃない単純な……、
簡素と言うか、素朴な物の方が、精霊にとっては具合が良いんだろうって事だよ」
コバルトゥスは納得して頷く。
「ああ、それはあるかも知れないッス。
どうも魔導機ってのは味気無いっつーか、色気が無いっつーか、詰まらないんスよね。
凄い働きをするんだろうなってのは解るんスけど」
精霊魔法使いには精霊魔法使いの、共通魔法使いには共通魔法使いの価値観があるのだ。
ラビゾーはコバルトゥスに言う。
「良さそうな物があったら、教えるよ……と言っても、そう頻繁に顔を合わせる訳じゃないから、
何時になるか、憶えているかも怪しいがな」
「ハハ、期待はしませんよ」
「何にしても、只では上げられないぞ?」
「はいはい、俺も余り高い物は買えませんよ?」
こうして異なる価値観を持つ者と普通に話し合える事を、コバルトゥスは嬉しく思っていた。 少しの間を置いて、彼は素直に自らの心情を告白する。
「……俺、先輩に会えて良かったと思います」
急に真面目な話をされたラビゾーは、面食らって訝る。
「どうした?
何で今、そんな話を?」
「何でって、何と無く、そう思ったんで。
よく考えたら、今まで言った事無かったかなって」
「そんな改まって言わなくても」
コバルトゥスは基本的には自分の感情に素直な人間だ。
感謝の気持ちを伝えたいと思ったら、口に出す事を躊躇わない。
「先輩は、どう思ってんスか?
俺の事」
「ええぇ……」
気味悪がり眉を顰めるラビゾーを、コバルトゥスは真っ直ぐ見詰める。
「正直に言って下さい。
どうなんスか?」
「どうって……」
「何か、こう、あるっしょ?
良い人だとか、一緒に居て楽しいとか」
ラビゾーは苦笑いするばかりで、何も答えない。 コバルトゥスはラビゾーの表情から、内心を読み取った。
「急に聞かれても困るって感じッスか?
でも、先輩は顔に出易いから、何考えてるか大体解りますよ。
言いたい事はあるけど、言い難い事なんスね?」
ラビゾーは難しい顔をして何度も考え込み、迷っている様子だったが、やがて言う。
「お前の事は、仕様が無い奴だと思っている。
初対面から馴れ馴れしかったし、軽い男だと思っていた。
人間的には苦手で、余り良い印象では無かったな」
「今は?」
「今は――……。
今も余り変わってはいない。
でも、何度も行動を共にして、幾らか親しくなって来たとは思っている。
性格とか、色々な事が解って来て、少なくとも苦手では無くなった」
「フム、それで?」
「友達、友人……と言うよりは、弟分かな。
魔法の実力は、お前の方が上だから、そんな言われ方は気に入らないかも知れないが」
「いや、ンな事ァ無いッスよ」
「僕も先輩、先輩と頼られて悪い気はしない。
余り頼られても困るが……。
今の関係が丁度良いと思う」
「へー」
「実は『先輩』と呼ばれると、何と無く学生時代を思い出して、複雑な気持ちになる」
「学生時代?」
適当に相槌を打てば、勝手に詳しく語ってくれるので、コバルトゥスは面白半分で話を促した。 ラビゾーは学生時代の思い出を語る。
「解るとは思うが、僕は魔法資質が低かったんで、学校では結構苦労したんだ。
後輩にも甘く見られてたし、嘗めた口を利く奴も居たよ。
全員が全員、そうって訳じゃなかったし、嫌われてるって訳でもなかったんだけどな。
寧ろ、慕われて……いや、侮られていたが故の『狎れ』とも言えるか……。
適当に持ち上げておけば、扱い易いってな」
彼の経験した心労を思い、コバルトゥスは慰めを言った。
「俺は違いますよ」
「……そう、だな」
ラビゾーは小さく頷き、溜め息を吐いた。
「暗い話になった。
話を戻そう。
お前をどう思うかだったな、コバギ。
……昔の事は扨措き、今、お前の事を悪くは思っていない。
今まで通りの関係を続けたいと思っている」
「ええ、俺も」
コバルトゥスは同意して、手を差し伸べた。
親愛の握手だと遅れて理解したラビゾーは、彼の手を取る。
「これからも宜しく頼む」
「俺の方こそ。
……所で、初対面の俺って、そんなに印象悪かったッスか?」
「……ハハ」
質問を苦笑いで濁すラビゾーに、コバルトゥスは若干の不満を持ちつつも、ここで深く追及して、
好い雰囲気で終わりそうだった話を拗らせても詰まらないと、水に流した。 そんな話をしている内に、カシエが地上に戻る。
彼女は面白くなさそうな顔で、洞窟から出て来た。
コバルトゥスはカシエに近寄り、声を掛ける。
「カシエ、どうだった?
その様子だと余り捗々しくなかったみたいだけど」
「解ってるなら聞かないで」
カシエは倦んざりした様子で応えた。
未だ先を越されていないだろう事を読み取り、無自覚に嬉しそうな振る舞いをしてしまったのかと、
コバルトゥスは反省する。
「あぁ、御免、御免」
機嫌の悪い女性に執拗く付き纏うのは逆効果と知っている彼は、浅りと話を打ち切って、
ラビゾーに断りを入れた。
「それじゃ、先輩!
俺、探索に行って来ます!」
「応、行ってらっしゃい!
気を付けてなー!」
コバルトゥスは魔力探査機を手に持って、意気揚々と洞窟に向かう。 コバルトゥス
探索5回目
調子:好調
耐久力:11
魔力:16 洞窟に入ったコバルトゥスは、真っ直ぐ下の階層へと向かった。
不思議な事に、魔力探査機は常に彼の行く先を示している。
(……これは?
もしかして、「地下への階段」を指し示しているのか?)
魔力探査機は地下の強力な魔力場に誘導されているのだろうかと、コバルトゥスは考えた。
彼は何の障害も無く、魔力探査機に導かれる儘、地下5階まで下りる。
地下5階の仕掛けは、どうなっている事かとコバルトゥスは心配したが、最初の角を曲がって、
真っ直ぐ進むと、分岐路に階段があった。
(ここでも仕掛けは元に戻らないのか……。
カシエは俺より先に地下6階に行ってた筈だよな?
洞窟が人間を識別して、仕掛けを元に戻したり、解除済みに変えたりしている?
そんな事が有り得るのか?
それよりは進まなかった分岐に別の道があると考える方が、現実的なんだが……)
とにかく謎の多い洞窟だと、コバルトゥスは溜め息を吐いた。
目の前の階段を下り、地下6階に出た彼は、分岐路で立ち止まる。
魔力探査機は正面を指し示している。
(仕掛けは元に戻らない……なら、真っ直ぐ進むべきだな)
この先に地下への階段があると、コバルトゥスは確信した。
他の道は既に調べた後なので、無ければ困る。 正面の道を真っ直ぐ進むと、魔力探査機が左方向に少し曲がり始めた。
その儘歩いていると、突き当たりが見え、その左側に道が続いている事が判る。
(地下4階みたいに、実は壁が通れるって事は無いみたいだな)
コバルトゥスは道形に進んだ。
耐久力:10
魔力:15 左折すると暫く真っ直ぐの道が続いている。
(どうやら、この洞窟は殆ど真っ直ぐの道と直角の曲がり角で構成されてるみたいだな。
洞窟全体の魔法的な作用と関係してるんだろうか?)
そんな事を考えながら、コバルトゥスが道を歩いていると、又も魔力探査機に反応がある。
今度は少しずつ右側に曲がり始めている。
(道が右折しているのか?)
彼の予想通り、少し歩いた先には突き当たりがあり、通路は直角に右折していた。
(もっと早くから、魔力探査機を買ってたら、探索が楽だったのかな)
今更思っても詮無い事だと思いつつ、コバルトゥスは道形に進み続ける。
耐久力:9
魔力:14 それから少し歩くと、又も通路が右折していた。
(何度も曲がり道を通らされるのは、遠回りさせられてるみたいで嫌なんだよなぁ……)
内心で文句を垂れながら、コバルトゥスは角を曲がろうとする。
(ムッ!?
何だ、この気配は……)
しかし、その直前で足を止めた。
曲がり角から異様な気配を感じるのだ。
それは実体のある物では無いらしく、容貌が掴めない。
【行動表参照】 【有利判定】
コバルトゥスはカシエの言っていた、「自分と同じ姿の物」を思い出していた。
(『あれ』が、この先に居るのか?
……だったら、先手必勝だ)
彼は魔力探査機を仕舞い、代わりに両手に短剣を握り締め、タイミングを計った。
(向こうから動き出す気配は無い。
……1、2、3!)
勢い良く角から飛び出し、相手を視認すると同時に短剣を振り抜く。
その筈だったが、コバルトゥスは手を止めてしまった。
止めざるを得なかった。
通路の先には黒い靄が立ち込めていた。
どこを攻撃して良いのか判らない。
当て推量で、靄を両断するべく短剣を振るったが、靄には効果が無かった。
【機敏さ判定】 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています