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ロスト・スペラー 18
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0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/02/08(木) 18:42:15.87ID:S22fm2qA
夢も希望もないファンタジー

過去スレ

https://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
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http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
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http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
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http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
0201創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/17(土) 19:01:21.63ID:utv6pB0O
【敵の先制】

彼の目の前で、靄は徐々に人の形を取る。
その輪郭はコバルトゥスに似ていた。

 (実体化するのを待つしか無いのか?
  それでも……俺が勝つ!)

彼は強く念じ、人型の靄を睨む。
次第に濃くなる靄を見て、彼は再び短剣を構えた。
魔法剣は距離を選ばない。
到底刃が届かない位置からでも、斬撃を当てられる。
負ける道理は無い。
そう思った瞬間、影が揺らいだ。

【戦闘能力判定】
0202創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/17(土) 19:09:11.11ID:utv6pB0O
【回避成功】

コバルトゥスは直感的に危険を察知し、瞬時に身を低くした。
鋭い裂空音で、屈んだ頭上の空気が裂けたのが判る。
下手をすれば、首が飛んでいた。
靄は既に実体化している。
それは何から何まで、「今のコバルトゥス」に酷似している。

 (魔法剣まで使えるってか!)

コバルトゥスは恐怖を感じたが、それより先に手を動かしていた。
回避と同時の反撃である。

 (避けるなよ!)

彼は強く念じ、短剣を振り抜く。

【戦闘能力判定】
0203創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/17(土) 19:25:22.68ID:utv6pB0O
【成功】

瞬間、靄で出来たコバルトゥスの首が飛んだ。
自分の姿をした物を自分で殺すと言う奇妙な感覚に、コバルトゥスは複雑な表情をする。
靄で出来たコバルトゥスは、その場に倒れて動かなくなった。

 (復活しないよな?)

コバルトゥスは警戒を解かず、短剣を構えて暫し様子を窺う。
靄で出来たコバルトゥスの死体は、徐々に黒い靄に戻り、掻き消えて行った。

 (……終わったか)

その跡には、小さく光る物が落ちている。
何だろうと思い、コバルトゥスは片方の短剣を鞘に納めて、近付いて見た。

【財宝判定】
0204創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/17(土) 19:32:05.53ID:utv6pB0O
拾い上げてみると、それは銀色の金属の塊だった。
中身は詰まっている様で、確りとした重さがある。
前にカシエが持ち帰った物と似ている。

 (あれも魔法生命体だったのか?
  これが核?)

気味の悪さを感じながらも、コバルトゥスは持って行く事にした。
その場に置いて行くのも気持ちが悪い。
もし復活しそうでも、これを真っ二つにしてしまえば、阻止出来ると考えた。


耐久力:8
魔力:13
0205創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/18(日) 17:04:23.56ID:8GEjLmA5
変身する靄の化け物が居た先にも、未だ道は真っ直ぐ続いている。
コバルトゥスは金属塊を、襷掛けしたバッグの片方に納め、前進する事にした。
もう片方の短剣も鞘に納め、魔力探査機を持つ。
魔力探査機は前方を指している。
この儘進んで良い様だ。
暫く歩くと、行き止まりに突き当たる。
床には地下に続く階段がある。

 (この下か……)

魔力探査機は階段を指し続けている。
コバルトゥスは慎重に階段を下りた。


耐久力:7
魔力:12
0206創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/18(日) 17:06:39.20ID:8GEjLmA5
地下7階は4身平方の小部屋になっていた。
正面には強固な石の扉が見える。
コバルトゥスは罠を警戒しながら、扉に触れた。

 (……精霊の力を通さないみたいだな。
  魔法剣では斬れないか)

どこかに扉を開く仕掛けが無いかと辺りを見回すと、扉に文字が刻まれている事に気付く。

 (……『合言葉を記せ』。
  『頭は北で、足は南』。
  『宝には目も呉れず、脇目も振らず、仕掛けを解き、真っ直ぐ我が元へ』。
  『創造主が待つ』……)

意味深な事が書かれているが、最後だけが読み取れない。

 (『Tuesdi』……誤字かな?
  それとも、どこかの言語の音写?)

コバルトゥスは暫し考える。
0207創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/18(日) 17:08:28.15ID:8GEjLmA5
ここからは洞窟の探索では無く、謎解きが主目的になります。
合言葉が判った人は、それを書き込んで下さい。
どの時点でも構いません。
0208創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/19(月) 18:09:56.01ID:tLlyXN1S
彼は考え事をしながら、この小部屋の中を調べて回った。
しかし、他に仕掛けは無いし、罠らしい物も無い。
魔力探査機は扉を指し示し続けている。
ここに長居しても仕方が無いと認めたコバルトゥスは、一旦引き返す事にした。
その時、彼は礑(はた)と気付く。

 (そう言えば、圧力が無くなっている?)

恐らくは地下7階には、不快な圧力を働かせる仕掛けが無いのだろうと、コバルトゥスは予想した。
彼は階段を上ったが、その最中にも不快感を催す事が無い。
それは地下6階に出ても同じだった。

 (……圧力が消えた。
  地下7階に到達したら、解除される仕組みだったのか?)

地下6階に何か変化は無いかと、歩き回ってみたが、特に何も無い。

 (無駄足だったか……。
  とにかく一旦地上に戻ろう)

地下5階でも圧力は消えている。
地下4階の僅かな違和感さえも。

 (何も無くなったのは良いんだが、逆に怖いなぁ……)

空寒い物を感じながら、コバルトゥスは地上を目指した。
0209創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/19(月) 18:14:26.06ID:tLlyXN1S
洞窟から出た彼は、ラビゾーの隣で座り込んでいるカシエに話し掛ける。

 「カシエ」

 「どうしたの、バル?」

カシエの機嫌は直っている様だ。
彼女はコバルトゥスを心配して、怪訝な顔をしている。

 「俺は地下7階まで行った。
  そこは小さな小部屋になってて、他には何も無かった。
  多分最下層なんだと思う」

コバルトゥスの発言に、カシエは少し落胆した。

 「あーあ、到頭(とうとう)先を越されちゃったかぁ……。
  でも、『思う』って、どう言う事?」

 「地下7階には扉があって――」

 「待った!」

カシエの疑問に素直に答えようとしたコバルトゥスだが、当の彼女に止められる。
どうした事かと訝るコバルトゥスに、カシエは言った。

 「未だ扉は開けてないんだよね?」

 「ああ」

 「それじゃあ、先に扉を開けた方が勝ちな訳だ」

彼女は爽やかに笑う。
0210創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/19(月) 18:15:30.98ID:tLlyXN1S
コバルトゥスは吃驚して、愛想笑いも忘れた。

 「えっ」

 「フフフ、取り敢えず私も地下7階に行ってみるね。
  もしかしたら、扉の先には未だ下があるのかも知れない」

 「ああ、無いとは言い切れないが――」

話が終わらない内に、カシエは立ち上がった。
彼女は今直ぐにでも、洞窟に向かいたい気持ちの様だ。
彼女の旺盛な冒険心に、コバルトゥスは呆れて、協力の要請を諦める。

 「気を付けて、カシエ」

 「有り難う、バル!」

カシエは勇んで洞窟の中へと入って行った。
0211創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/19(月) 18:15:57.27ID:tLlyXN1S
彼女を見送ったコバルトゥスは、ラビゾーに声を掛ける。

 「先輩、こんな物を手に入れたんスけど」

そして、バッグに仕舞った金属の塊を取り出した。

 「鑑定して下さい」

ラビゾーは金属の塊を受け取り、真面真面と見詰める。

 「これは多分、カシエさんが持って帰った物と一緒だな。
  洞窟の中の化け物が落としたのか?」

彼の問いに、コバルトゥスは頷いた。

 「はい、俺の姿を真似る、黒い靄みたいな奴が」

ラビゾーは相槌を打って応える。

 「どうやら洞窟の中の化け物は全部、宝石や金属を核とする魔法生命体みたいだな。
  この金属の塊の中にも、魔法陣が組み込まれているんだろう」

 「で、お幾らなんスか?」

 「500MGだ」

ラビゾーは大き目の硬貨を一枚、コバルトゥスに渡した。
値段はカシエが持って帰った物を買い取った時と同じなので、コバルトゥスは文句を言わない。
彼は輝く500MG硬貨を見詰めて、思案する。

 (さて、何を買おうか……。
  謎解きの手助けになる物が良いな)
0213創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/19(月) 20:18:15.74ID:lzQNOd0q
謎解きは難しい……
『頭は北で、足は南』は、この姿勢で扉の文字を見ろという事かな?
扉が北側にあるのなら『Tuesdi』は上下反転して見えて『!psan⊥』のような形になるはず
Tがtreasureの略なら、宝には目も呉れないので⊥を除いて『!psan』?
でも、これだと最初の!が意味不明か……うーん

とりあえず、方位磁針を購入
0214創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/20(火) 19:52:59.50ID:6B0prdO7
コバルトゥスは両腕を胸の前で組み、低く唸る。

 (扉には『北』と『南』ってあったから、方位が関係してるんだろうな)

彼は決断して、ラビゾーに500MG硬貨を渡した。

 「先輩、方位磁針を下さい」

それを聞いたラビゾーは、呆れた笑みを浮かべる。

 「未だ、あの事を気にしていたのか?」

 「あの事?」

何の事か解らず、コバルトゥスは眉を顰めた。
見当違いな事を言ってしまったと、ラビゾーは気不味そうに苦笑いする。

 「……違うのか?
  ほら、時間の流れが狂うとか何とか」

 「ああ、その事ッスか……。
  それより、今は地下の扉を開きたいんスよ。
  何か謎々みたいな事が書いてありまして」

 「方位磁針があれば、その謎を解けるのか?」

 「多分、何等かの『取っ掛かり<シャンセ>』は掴めるんじゃないかと」

コバルトゥスと話ながら、ラビゾーはバックパックから方位磁針を取り出した。
そして、200MGの釣銭と共に、コバルトゥスに渡す。

 「はい」
0215創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/20(火) 19:54:23.61ID:6B0prdO7
 「どうも」

コバルトゥスは小さく礼をして、方位磁針と釣銭を受け取った。
彼は先ず、方位磁針が正しいか確かめる。

 「先輩、今何時ッスか?」

 「あー、南西の時だな」

懐中時計を取り出して答えるラビゾー。
コバルトゥスは方位磁針に目を遣る。

 (磁針は正しい方角を指している。
  この洞窟は西北西に向いてるな)

体力も精霊力も然程消耗していなかったので、コバルトゥスは早速洞窟に入ってみる事にした。

 「それじゃ先輩、一寸行って来ます」

 「カシエさんの帰りを待たなくて良いのか?」

 「交互に探索しなきゃ行けないとか、そんな取り決めはしてませんよ」

疑問を口にするラビゾーに、コバルトゥスは正論で返す。
これまでは完全回復に時間が掛かっていただけで、カシエの帰還を待つ義務は無いのだ。
それにコバルトゥスには、カシエと同時に洞窟に入って、確かめたい事もあった。
0216創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/20(火) 19:55:18.18ID:6B0prdO7
コバルトゥスは洞窟に入り、地下1階に出た。
最初の通路は西側に伸びている。
そして、右折すると北、もう一度右折すると、東を向く。

 (想定通りだな)

少し歩くと北と東に分岐する道があり、東に直進すると、通路が左折して北に向かう。
その先に地下2階へ下りる階段がある。
地下2階に出ると、直ぐに分岐路だ。
片方は南に、片方は西に続いている。
地下3階に下りる階段に続くのは、西の道だ。
西に進むと左折して南に向かう。
その先は右折して西を向く。
更に先も右折して、今度は北を向く。

 (……変な所は無いな)

コバルトゥスは地下3階に下りた。
最初の通路は東に伸びている。
暫く進むと分岐路があり、東に直進すれば、階段に通じる道を開く仕掛けがある。
右折して南に向かえば、隠された地下への階段がある。
隠し階段の前には分岐路があり、東と西に進める。
0217創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/21(水) 17:18:09.65ID:FNKAd+1m
隠し階段を下りれば、地下4階だ。
ここに来る度に感じていた僅かな圧迫感は、やはり無くなっている。
地下4階には先ず、3つに分かれた道があり、それぞれ西と北と東に伸びている。
北に進むと、突き当たりで道が左右に分かれるが、壁には隠し扉がある。
この仕掛けは既に解明して解除済みだ。

 (魔法の取っ手が消えている……)

隠し扉を開く魔法の取っ手は消えており、扉は開けっ放しになっている。

 (出る時は気にしなかったけど……。
  開かないし、閉まらない。
  重い石の壁の様になっている。
  ……魔法的な効果が完全に消失したのか)

コバルトゥスは北に進み、地下5階への階段を下りた。
0218創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/21(水) 17:19:40.72ID:FNKAd+1m
彼は圧迫感の消えた地下5階に出る。
最初の通路は西を向いている。
そこから北に向かうと、北と東に道が分かれている。
分岐点には階段があり、地下6階に続いている。
コバルトゥスが階段に近付くと、下からカシエが上がって来る所だった。

 「あら、バル?
  どうしたの?」

 「どうもしてないよ。
  普通に、探索に入っただけさ」

 「そう……。
  貴方の言う通り、地下7階には扉があった。
  『合言葉』が判らないと明かないみたい。
  それと、洞窟の中の圧迫感が消えてる」

 「ああ、そうだね。
  理由は判らないけど。
  丸で役目を終えたみたいだ」

カシエとコバルトゥスは、自分達が同じ体験をしている事を確かめ合った。
カシエは彼に尋ねる。

 「バル、貴方は『合言葉』が何か判った?」

 「いや、未だ。
  今、調べてる所だよ」

 「調べてる――って事は、心当たりでもあるの?」

 「無いけど……。
  とにかく色々考えて、やってみないと」
0219創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/21(水) 17:21:18.79ID:FNKAd+1m
コバルトゥスの答に、カシエは大きく頷いた。

 「そうだよね。
  私も負けてられない。
  それじゃ、私は一旦上に戻るから」

 「あ……」

コバルトゥスは協力しないかと呼び掛けたかったが、彼女は早々と立ち去ってしまった。

 (『先輩冒険者』なんだから、彼女とは確り白黒付けるべきなのかなぁ……。
  カシエの方は、それを望んでるみたいだけど)

小さく溜め息を漏らした彼は、この階層を改めて見回す。
分岐路を北に進めば、右折して東を向く。
西に進めば、左折して北を向く。
2つの道は繋がっていて、その交差点には東に向かう道がある。
その先は右折して南を向き、更に先では人型の石の化け物が待ち構えていた。

 (そう言えば、あの化け物は倒してなかったけど、未だ居るのか?)

気にはなる物の、確認は帰りで良いかと思い直し、コバルトゥスは先に地下6階に下りてみる。
0220創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/21(水) 17:24:06.94ID:FNKAd+1m
地下6階に出ると、道が左右と正面の3方向に分かれている。
正面の道は南、左の道は東、右の道は西だ。
東の道には仕掛けがあった。
西の道は左折して南を向き、宝箱に辿り着く。
正面の道を進むと、左折して東を向き、少し進むと今度は右折して南を向く。
更に少し進むと又右折して西を向く。
コバルトゥスは今、地下7階に下りる階段の前に立っている。

 (さて、寄り道せずに真っ直ぐ、ここまで来た訳だが……。
  何か変わった所はあったかな?)
0221創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/22(木) 18:18:30.58ID:R7YAwjgx
どうだったかと彼は考えながら、地下7階に下りる。

 (合言葉……。
  やっぱり気になるのは最後の文字列だよなぁ)

地下7階の小部屋では、方位磁針は固く閉ざされた扉の方を向いている。
扉に描かれた『Tuesdi』をコバルトゥスは見詰めた。

 (この文字列……。
  何かに似てないか?
  文字と考えるから行けないのか?)

コバルトゥスは『Tuesdi』に類似した物を思い出そうとしたが、中々思い出せない。

 (T、u、e、s、d、i……?
  6つの文字が表す物とは一体……。
  最後に『.』が打ってあるけど、これは終止符だよな?)

実際には目にした物ではないのかも知れない。

 (『頭は北』、『足は南』……。
  地図に書くと、北は上で南は下になる訳だけど、だから何だって話だよな……。
  『宝には目も呉れず、脇目も振らず、仕掛けを解き、真っ直ぐ我が元へ』……。
  寄り道はしていないし、仕掛けは既に解いてあるぞ?)

彼は暫し立ち止まって、閃きを待った。
0222創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/23(金) 18:03:25.17ID:3CdoGfdl
しかし、これと言って思い付く事は無い。

 (仕方無い、戻るか……)

コバルトゥスは地下5階まで引き返した。

 (一寸、行ってない道に寄ってみるかな。
  あの石の化け物が、未だ居るのか気になるし)

彼は階段から北に向かい、突き当りまで進む。
右折する曲がり角に来た所で、彼は周辺を調べた。

 (……地面が沈む感じは無いな。
  もう階段が現れた後だから、2度作動させる必要は無いって事か)

隠し階段を出現させる仕掛けが、再び作動する事は無い様である。
コバルトゥスは道形に、東へと進んだ。
分岐路を通り過ぎ、突き当たりまで東に進むと、通路は右に折れる。
その先には、石の化け物が待ち構えている筈だった。
しかし、角を曲がっても気配を感じない。

 (奇怪しいな?
  どこかに移動した?)

人より大きな岩石の塊に、気付かない訳は無い。
どこかを彷徨(うろつ)いているのであれば、直ぐに判る。
0223創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/23(金) 18:04:17.19ID:3CdoGfdl
コバルトゥスは不安に思いつつも、道を真っ直ぐ進んだ。
暫く歩くと行き止まりに着く。

 (ここには何も無いのか?)

所謂『外れ』の道なのかと、コバルトゥスは疑った。
だが、そうでは無い可能性も彼は考えた。

 (石の化け物が消えてるって事は、ここに有った何かも消えてしまったのかも知れない)

地下7階に進んだ事で、洞窟内の仕掛けは全て停止した。
それと同時に、化け物や財宝も消えてしまった……と言う事が、無いとは限らない。

 (その通りだったとして、だから何だって話だよなぁ……。
  今となっては、どう仕様も無い。
  碌な財宝が無かったし、他に宝があったとしても、惜しむ様な物じゃなかったのかも知れない)

コバルトゥスは自分を慰め、来た道を戻る。
地下4階に出た彼は、ここでも通っていない道に寄ってみた。
開きっ放しの隠し扉を出て右折すると、西に進む道だ。
その先は右折して北に向かう。
北に少し歩くと、何も無い行き止まりだった。
道を戻り、今度は東に直進すると、その先は左折して、又北に向かう。
北に少し歩くと、ここも何も無い行き止まり。

 (本当に何も無いのか……?
  カシエにも話を聞いてみないと)

コバルトゥスは疑問を抱きつつ、今度は3階に上がる階段前の道を右折する。
0224創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/23(金) 18:05:41.67ID:3CdoGfdl
右折して西に少し進むと、行き止まりだと判る。
引き返して、今度は東に真っ直ぐ進むと、こちらも行き止まり。
どちらにも何も無かった。

 (……これは何かあったけど、無くなったと考えた方が良いのか?)

コバルトゥスは首を傾げ、頭を悩ませながら、地下3階に上がる。
地下3階に上がって直ぐの分岐路を、彼は右折した。
方位磁針では、通路は東向きとなっている。
少し歩くと、通路が左折して北を向く。
ここは何も無い行き止まりだ。
引き返して、西に真っ直ぐ進むと、突き当たりがあり、右折して北を向く。
ここも何も無い行き止まりだ。

 (全部が全部外れって可能性も無くは無いのか……?)

彼は首を捻りながら、地下2階に戻ろうとした。
その前に、この階層の仕掛けには何か変化が無いかと、寄ってみる事にした。
仕掛けの前まで来たコバルトゥスは、石板を叩いたり、引いたりしてみる。
しかし、本の僅かも動かない。

 (もう仕掛けは動かない……。
  予想通りだ。
  意外でも何でも無い。
  これも『成果』と言って良いのか……)

コバルトゥスは2階への階段を上る。
0225創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/23(金) 18:07:11.58ID:3CdoGfdl
2階に上がったコバルトゥスは、1階への階段前の分岐路まで戻り、南に進んでみた。
暫く真っ直ぐの道が続き、その先は行き止まりになっている。
南の壁の隙間から、少しだけ明かりが漏れている。
壁を隔てた向こうは、外の様だ。

 (弱いけど隙間風が吹いてる。
  暗い洞窟の中で、ここだけ少し明るい。
  気分が落ち着く)

しかし、特に何かある訳ではない。
ここも何も無い行き止まりだ。
コバルトゥスは溜め息を吐いて、地下1階に上がる。
そして、最後に残った最初の分岐を、北に進んだ。
少し歩くと、通路は左折して西に向かう。
その先は案の定、何も無い行き止まり。

 (やれやれ、無駄足だったか)

全ての寄り道が無駄足と判り、コバルトゥスは肩を落として、地上に戻った。
0226創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/23(金) 18:07:36.04ID:3CdoGfdl
洞窟から出たコバルトゥスに、カシエが話し掛けて来る。

 「バル、謎は解けた?」

 「いいや、カシエは?」

コバルトゥスが尋ね返すと、彼女は得意気に笑う。

 「察しは付いてるの」

 「本当に?」

 「本当、本当」

カシエは相当自信がある様子だ。

 「私、洞窟の中を迷わない様に、確りマッピングして来たんだ」

一体彼女は何を掴んだんだのか?
コバルトゥスは訝り、両腕を胸の前で組む。
0229創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/24(土) 15:57:05.48ID:7q90MNM+
カシエの発言から彼は閃いた。

 (あぁ、そう言う事か!)

感動を押し殺して、コバルトゥスはカシエを誘う。

 「それじゃ、一緒に行って確かめてみようか」

カシエは意地悪く笑った。

 「取り分は8:2で良いよね?」

 「君の予想が合ってるとは限らないだろう?
  俺も今、判ったんだ」

強がるコバルトゥスを彼女は疑う。

 「本当かなぁ?」

 「本当、本当。
  道々説明しようか?」

 「それじゃ、御高説賜るとしましょうか」

カシエは微笑んで、洞窟に向かう。
コバルトゥスも彼女と並んで歩いた。
0230創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/24(土) 16:01:09.52ID:7q90MNM+
洞窟に入って直ぐ、カシエはコバルトゥスを気遣う。

 「バル、確認しておきたいんだけど……。
  貴方は今、洞窟から出て来たばかりなのに、休憩しなくて大丈夫なの?」

カシエの持つ『提燈<ランタン>』の明かりが、洞窟を照らす。
コバルトゥスは彼女に身を寄せて答えた。

 「大丈夫、そんなに消耗してない」

それは嘘だが、今はカシエと行動を共にしているので、精霊魔法で明かりを灯さなくて良い。
その分の精霊力で体力の回復を行える。
コバルトゥスは軽度の暗所恐怖症なので、明かりを大きくしなければ安心出来ないが、
傍に人が居れば不安は軽減される。
しかし、黙っているのも気不味いので、コバルトゥスはカシエに合言葉の解説を始めた。

 「あの文字は階段までの道程を表していたんだ。
  『頭は北、足は南』とは、上下の事。
  地下1階は西、北、東、東、北と進んで、『d』の様になる。
  『宝には目も呉れず』だから、寄り道はしない」

 「そうそう」

2人は地下2階に下りる。

 「ここは西、南、西、北で、『u』の様になる」

 「うん」

コバルトゥスの解説に、カシエは頷くだけ。
丸で子供の自慢話を聞き流す母親の様だが、コバルトゥスは気にしなかった。
とにかく暗い場所で沈黙が続く事に、彼は耐えられないのだ。
0231創る名無しに見る名無し
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2018/03/24(土) 16:02:49.69ID:7q90MNM+
地下3階は次の階層に進むだけなら、東、南と進めば良いが、「仕掛けを解く」必要がある。
よって、順路は東、東、そして西に戻って南となる。
出来上がるのは『T』。
同様に上の階層から順に並べて行くと、d、u、T、i、e、sとなる。
「Tuesdi」の並べ替えだ。
カシエも理解しているので、解説には時間を要さない。
直ぐに話題が途切れるので、コバルトゥスは別の話も始めた。

 「所でカシエ、今までの探索で、『外れ』の道には行ったかな?」

 「『外れ』って、地下に続く階段じゃない道の事?
  それとも化け物が待ち構えていた道の事かしら?」

 「いや、何も無かった道とか無かった?
  何にも無くて、唯の行き止まりだった道」

 「私が行った道の先には、大体何かしらあったけど?
  化け物だったり、宝箱だったり」

カシエの返事を聞いて、コバルトゥスは思案する。

 「宝箱って開けたら消える?」

 「そんな訳無いじゃない」

彼は先の探索では、空の宝箱も見付けられなかった。

 (倒してもいない化け物が消えてたみたいに、宝箱も消えてしまったのか)

考え込むコバルトゥスを気にして、カシエが尋ねる。

 「どうしたの、バル?」

 「いや、何でも無い。
  どうでも良い事さ」

取り逃した財宝があるかも知れないと彼は思ったが、それをカシエに教えても仕方の無い事だと、
切り捨てた。
過ぎた時間は戻らないのだ。
0232創る名無しに見る名無し
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2018/03/24(土) 16:05:36.78ID:7q90MNM+
コバルトゥスには、もう1つ気になる事がある。

 「カシエ。
  この洞窟で、どんな化け物に遭った?」

 「私が見たのは、アメーバみたいなのと、蝙蝠みたいなのと、私の姿をしたの」

カシエの答を聞いて、コバルトゥスは頷く。

 「俺もアメーバみたいなのと、俺の姿を真似る奴は相手にした。
  ……って事は、俺も君も同じ奴と戦った訳だ。
  そして、一度倒したら二度は遭遇しなかった」

 「2体居たんじゃないの?」

 「そうじゃないと思うぜ。
  2体と言えば、2体なのかも知れないけど、2体だけじゃないって言うか……。
  例えば、地下3階と4階と5階と6階の仕掛け。
  あれ、カシエは全部解いて、先に進んだんだろう?」

 「ええ」

何か引っ掛かる所でもあるのだろうかと、カシエは少し考えて、礑と気付いた。

 「あっ、バルも解いたんだ!
  そうじゃないと、合言葉は解らない筈だもんね」

 「一度解いた仕掛けは、元に戻らなかった」

 「そうだね」

 「でも、カシエも俺も同じ仕掛けを解いた」

 「……どうなってるの?」

 「『創造主』に会えば解るんじゃないかな」

どうなっているか等、コバルトゥスにも解らない。
唯言えるのは、力の強い魔法使いが、この洞窟を作ったと言う事位だ。
0233創る名無しに見る名無し
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2018/03/25(日) 15:35:30.03ID:5Eme44Ip
地下7階に着いた2人は、扉の前に立つ。

 「カシエ、合言葉が解ったのは良いけど、『記す』って何をすれば良いと思う?」

コバルトゥスの問い掛けに、カシエは唇に指を当てて考える。

 「扉に刻まれている『Tuesdi』を、どうにかすれば良いんじゃないかしら?」

 「例えば、こんな風に?」

カシエの返答を聞いたコバルトゥスは、『duTies』の順に、『Tuesdi』に触れてみた。
そうすると、触れた文字が青白く発光する。

 「……前に調べた時は、こんな事は起こらなかったんだが」

紛れ当たりを防ぐ為に、『正答』を認識していなければ、反応しない仕組みだったのかも知れない。
コバルトゥスは一寸吃驚したが、最後に『.』に触れる。
瞬間、地響きと共に重々しく扉が左右に開く。
僅かに開いた扉の隙間からは、眩い光が溢れる。
何が出て来るのかとコバルトゥスとカシエは身構え、扉から少し離れた。

 「よくぞ辿り着いた。
  知恵と勇気を持つ者よ」

完全に扉が開くと、中から青白く発光する霊体が姿を現した。
0234創る名無しに見る名無し
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2018/03/25(日) 15:38:49.37ID:5Eme44Ip
コバルトゥスは霊体が取る初老の男性の姿に、見覚えがある。

 「あ、あんたは地図をくれた……」

それは彼に洞窟の場所を記した地図を渡した、浮浪者に似ていた。
コバルトゥスの言葉に、霊体は反応する。

 「君は私に会ったのか?
  成る程、それで我が元に辿り着いた訳だな」

霊体はカシエにも目を向けると、2人に名乗った。

 「私は『迷宮侯<フューア・シンキス>』。
  偉大なる『迷宮公<デュース・シンキス>』の分身にして、探求心の探究者。
  そして、この洞窟を創った物だ」

コバルトゥスは兼ねてからの疑問を、迷宮侯に打付ける。

 「洞窟の仕掛けも、化け物も、お宝も、全部あんたが用意したのか?」

 「その通りだ。
  小(ささ)やかな物だがね。
  簡単過ぎたかな?」

迷宮侯の問い掛けに、コバルトゥスは半笑いで答えた。

 「暇潰しにはなったさ」

 「それは結構」

褒め言葉と受け取るには手厳しい表現だが、迷宮侯は満足気に頷く。
全ては彼が仕組んだ事なのだ。
0235創る名無しに見る名無し
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2018/03/25(日) 15:59:53.42ID:5Eme44Ip
コバルトゥスは更に問うた。

 「何の為に、そんな事を?」

迷宮侯は淀み無く答える。

 「我が主、迷宮公の為だ。
  迷宮公は自ら迷宮に入り、自身をその中に封じられた。
  長き時の果てに、迷宮は誰も迷宮公に到達出来ない程に深まった。
  今となっては迷宮公だけが、迷宮公の迷宮に挑み続けている」

彼の発言内容は、コバルトゥスには理解し難かった。
迷宮公とやらが迷宮に入って、その迷宮に迷宮公自身が挑んでいると言う。
それと迷宮侯が、この洞窟を作った事が、どう繋がるのか?

 「訳が分からん……。
  迷宮公を迷宮から救いたいのか?」

 「救うと言うのは正しくないが、大凡の理解は、それで良い。
  私は迷宮を創る事で、迷宮公の心を知ろうとしている」

心を救うには、先ず迷宮公と対面しなくてはならないと思うのだがと、コバルトゥスは不思議がる。
何を差し置いても、迷宮公と会わない事には始まらないのではと。
コバルトゥスの隣で、カシエも理解に苦しんで、難しい顔をしている。
0236創る名無しに見る名無し
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2018/03/25(日) 16:01:47.65ID:5Eme44Ip
2人の態度を気にする様子も無く、迷宮侯は告げた。

 「ここまで来てくれた君達には、褒美を与えよう。
  何でも望みを言ってみ給え。
  勿論、限界はあるが」

真っ先にカシエが問う。

 「どの位までの事なら、叶えて貰えますか?」

 「不老不死は無理でも、風邪を引かない位には出来る。
  大富豪は無理でも、一寸した財産を与える位は出来る。
  その程度だ」

迷宮侯の答を聞いた彼女は、即座に願った。

 「じゃあ、風邪を引かない様にして下さい」

 「では、これを……」

迷宮侯はカシエの願いを叶えようとする。

 「待ったっ!!」

それにコバルトゥスが待ったを掛けた。

 「彼女の願いを叶えたら、俺の願いは?
  どうなるんだ?」

迷宮侯は鷹揚に笑う。
 
 「心配せずとも、君の願いも叶えるよ」

 「お、おう、それなら良いけど……」

自分の願いも聞いて貰えると分かって、コバルトゥスは大人しく口を閉ざした。
0237創る名無しに見る名無し
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2018/03/25(日) 16:02:23.82ID:5Eme44Ip
迷宮侯はカシエに向き直って、彼女に向けて、宙に浮く発光体を差し出した。

 「受け取ると良い」

カシエは困惑しつつも、発光体を両手で包む様に受け取る。
それは彼女の手の中で徐々に実体化して、綺麗な『首飾り<ペンダント>』になった。

 「これを身に着けていれば、病魔に悩まされる事は無くなる」

 「有り難う御座います」

カシエは丁寧に礼を言って、早速首飾りを身に着けた。

 「但し、過信しない様に。
  身を守ろうと言う心構えが無ければ、どんな方法も無意味だ」

 「はい」

迷宮侯の忠告をカシエは素直に受け止める。
コバルトゥスは小声で彼女に尋ねた。

 「そんなんで良いのかい、カシエ?」

 「健康は何物にも代え難い財産だと思うけど……」

余り病気にならないコバルトゥスには、カシエの願いが無欲な物に思えてならない。
変わった願い事をする物だと、彼は溜め息を吐いた。

 「さて、君は何を願う?」

迷宮侯はコバルトゥスの方を向いて、話し掛ける。
0238創る名無しに見る名無し
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2018/03/26(月) 19:41:25.56ID:xUHLIiqI
コバルトゥスは暫し思案して、こう答えた。

 「一生、金に困らない様にしてくれるか?」

強欲な願いに、迷宮侯は少し困った様子で言う。

 「私は共通魔法使いが使う通貨の偽造は出来ないが……」

唯一大陸の共通通貨である「MG」は、魔導師会が管理している。
当然、偽造対策が厳重に施されており、容易に真似られる物では無い。

 「解ってるよ。
  何も偽造しなくたって、金になる物をくれりゃ良いんだ」

コバルトゥスの要求に、迷宮侯は忠告をした。

 「しかし、一生困らないとなると、一寸した財産では済まない。
  高価な金属や宝石類を大量に売り捌くと怪しまれる。
  MGを管理している魔導師会は、当然それ等の流通も監視している。
  疑わしければ産地や製造方法を調査される」

 「嫌に、その辺の事情に詳しいんだな。
  出来ないってのか」

コバルトゥスは眉を顰め、頼りにならない奴だと呆れる。
だが、迷宮侯には妙案がある様で、自信に満ちた表情で言った。

 「君には、これを上げよう」
0239創る名無しに見る名無し
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2018/03/26(月) 19:44:35.74ID:xUHLIiqI
迷宮侯が徐に両手を合わせると、その間に青白い光が生じる。
それは次第に大きくなって、直径2手程の光球になった。
迷宮侯は光球を両手で包む様に持ち、コバルトゥスに差し出す。

 「受け取るが良い」

何を貰えるのだろうと、コバルトゥスは不安と期待の混じった感情で、光球に触れた。
それは彼の手の中で、徐々に実体化して行く。
その正体は小さな壷だった。

 「陶器?
  これが高く売れるのか?」

陶芸品の価値が解らないコバルトゥスは、これが値打ち物が判別出来ない。
迷宮侯は小さく笑う。

 「これは魔法の壷だ。
  中に土を入れて蓋をし、一日寝かせておけば、金属や宝石が出来る。
  金や白金と言った高価な物では無いが」

 「銀や銅なら出来るってか?」

 「銀や銅が出来る訳では無いが、そんな所だ」

金や白金が貰えるなら、そちらの方が良いのではと、コバルトゥスは考えた。
この壷を貰っておいても、損は無い事は確かだが……。
0240創る名無しに見る名無し
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2018/03/26(月) 19:46:21.30ID:xUHLIiqI
丸で商品を売り込む営業員の様に、迷宮侯は利点を挙げる。

 「水晶、琥珀、翡翠、瑪瑙。
  石や土を変換して、そう言った物が出来上がる。
  仕上がり具合に依るが、買い叩かれても壷一杯で3000MGは下るまい。
  一度に大金を得られる訳では無いが、故に一度に失う事も無い」

 「……分かったよ、有り難く頂いとこう」

コバルトゥスは納得して、壷を収めた。
その様子を見届けた迷宮侯は、2人に告げる。

 「さて、私は最後に、この洞窟を片付ねばならない。
  早く脱出して離れた方が良い。
  君達が冒険を続けるならば、どこか別の場所で会う事もあろう。
  然(さ)らば」

迷宮侯の霊体は見る見る弱まり、消失した。
扉の向こうは、何も無い狭い空間だった。
コバルトゥスは呆然としているカシエに話し掛ける。

 「早く出よう、カシエ」

 「ええ」

頷いた彼女の手を引いて、コバルトゥスは駆け足で洞窟から出た。
0241創る名無しに見る名無し
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2018/03/27(火) 18:38:04.30ID:dxXxsy8R
洞窟の主である迷宮侯が消えた為か、洞窟の中には精霊が戻っている。
コバルトゥスは洞窟の全貌を容易に把握出来る様になっていた。
洞窟から飛び出した2人は、ラビゾーに呼び掛ける。

 「先輩!」

 「ワーロックさん!」

彼は驚いた顔で、2人を見た。

 「どうした、そんなに慌てて?
  何か不味い事でも起きたか」

 「とにかく、ここから離れますよ!」

コバルトゥスはカシエから離れ、ワーロックの腕を掴むと、強引に引っ張って、共に崖から飛び降りる。

 「えぇっ!?
  おっ、わ、な、何を!?!?」

カシエも2人に続いて、飛び降りた。
コバルトゥスとカシエは、それぞれ魔法を使って、断崖から離れた場所に着地する。
重い荷物を背負っていたラビゾーも、尻餅を搗きながらも無事に着地した。

 「痛たたたっ、どうしたってんだよ、コバギ……」

準備も心構えも無い儘に、訳も解らず飛び降りさせられたラビゾーは、不満気に抗議する。
0242創る名無しに見る名無し
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2018/03/27(火) 18:40:01.95ID:dxXxsy8R
コバルトゥスは無言で後ろを振り返り、洞窟のある断崖を見上げた。
カシエも彼と同じ動作をする。
2人の様子を見て、ラビゾーも洞窟がある位置を見上げた。

 「どうしたんだ、2人共?
  何か――」

一体何なのかとラビゾーが尋ねようとした所で、断崖が崩落し始めた。
地鳴りと共に、崖が脆く崩れて行く。

 「わぁ……」

その場に留まっていたら、どうなっていた事かと、3人共、安堵と恐怖の混じった溜め息を吐いた。

 「……助かったよ。
  有り難う、コバギ」

ラビゾーは素直にコバルトゥスに礼を言う。
それが疼(むず)痒く、コバルトゥスは決まりの悪い笑みを浮かべて答えた。

 「いやぁ、礼なんて良いッスよ」

続けて、ラビゾーは彼に問う。

 「それで洞窟の探索は、どうなったんだ?
  財宝は見付けられたのか?」

 「ええ、まあ」

財宝と言っても鑑定が必要な物では無いので、コバルトゥスは詳細を語らなかった。
他人を信用しない彼は、それなりに親しいラビゾーが相手でも――否、相手が親しい者からこそ、
『土を詰めて1日放置するだけで、宝石類に変えてくれる魔法の壷』と言う欲望を刺激する様な物を、
見せたくなかった。
0243創る名無しに見る名無し
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2018/03/27(火) 18:42:21.43ID:dxXxsy8R
ラビゾーはコバルトゥスが手に入れた「財宝」が何かを追及せず、カシエに話を振る。

 「カシエさんも?」

 「はい。
  これです」

カシエは自らの首に掛けた首飾りを見せる。

 「あの洞窟の最深部に、洞窟を造ったって言う人が居て、その人から貰ったんですよ。
  ここまで辿り着いた御褒美みたいな感じで、願いを叶えてくれるって。
  だから、この健康になる……健康で居られる(?)ペンダントを貰いました」

 「へー、そんな事が……」

彼女はラビゾーに対して、有りの儘に事情を話した。
それを聞いたラビゾーは当然、コバルトゥスに尋ねる。

 「コバギは何を貰ったんだ?」

 「いや、俺は……」

コバルトゥスは言い淀んだ。
金に目が眩んだ願い事をしたと知られたくなかったし、壷の存在も知られたくなかった。

 「まあ、無理して聞こうとは思わないが……」

ラビゾーは気を利かせて、回答しなくても良いと言う。
そこまで知られて恥ずかしい物では無いので、彼の心遣いに複雑な気持ちになりながらも、
コバルトゥスは一応安堵した。
カシエも配慮の積もりか、余計な事は言い出さない。
0244創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/27(火) 18:43:10.97ID:dxXxsy8R
ラビゾーは一拍置いて、改めてカシエに話し掛ける。

 「それじゃあ、カシエさん。
  これで契約は終わりで良いですか?」

 「はい、有り難う御座いました」

2人は互いに礼をし合った。

 「商品の扱いは、どうしましょう?
  カシエさんが持って行きたい物があれば――」

 「はい、使いそうな物は貰って行きますね。
  後の処分はワーロックさんに、お任せします」

 「分かりました」

その後に2人は残った商品を分け合って、別れようとする。

 「……こんな所ですかね?」

 「ええ、又会いましょう、ワーロックさん」

 「お元気で、カシエさん」
0245創る名無しに見る名無し
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2018/03/27(火) 18:43:42.39ID:dxXxsy8R
最後の選択です
ラビゾーに付いて行くか、カシエに付いて行くか、選んで下さい
0248創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/29(木) 19:08:36.86ID:azSwof96
ラビゾーとカシエは、それぞれ別の方向に歩き始める。
カシエはマンリガタリ町の方角へ向かっているが、ラビゾーは……?
気になったコバルトゥスは、彼に話し掛けた。

 「先輩、どこ行くんスか?」

 「僕は山を越えて、向こうの町へ行くよ」

もう日が山に掛かろうかと言うのに、険しい道を選ぶのかと、コバルトゥスは呆れた。

 「大丈夫なんスか?」

 「獣が出ると言う話は聞かない。
  距離的には、こっちの方が近い筈だ。
  僕の事は良いから、お前はカシエさんを」

 「言われなくても、その積もりッス。
  じゃ、先輩気を付けて」

コバルトゥスはラビゾーと別れて、カシエを追う。
彼の事は心配ではあるが、男同士で連るんで、女を置いて行こうとは思わなかった。
0249創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/29(木) 19:11:26.69ID:azSwof96
カシエに追い付いたコバルトゥスは、彼女の横に並んで歩く。
カシエは振り向いて話し掛けた。

 「あら、バル。
  貴方もマンリガタリに戻るの?」

 「ああ、今晩どうかな、一緒に?」

同じ宿、同じ部屋に泊まらせてくれないかと、コバルトゥスはカシエを誘う。

 「別に良いけど。
  宿代は?」

 「割り勘で」

彼は絶対に自分の方が多く金を払う積もりは無い。
カシエは苦笑した。

 「相変わらずなのね。
  何の為に『壷』を貰ったの?」

 「君は素直だな。
  壷が説明通りの効果を発揮するとは限らないぜ?」

怪しい魔法使いの霊の言い分を疑わない彼女の純真さを、コバルトゥスは微笑ましく思いつつも、
鋭く忠告した。
若い頃から一人旅を続けて来た彼は、「騙される」事を強く警戒する癖が付いている。
0250創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/29(木) 19:14:39.49ID:azSwof96
カシエはコバルトゥスに憐れむ様な視線を向けた。

 「疑り深いのね。
  現実的と言うべきかしら?」

 「冒険者は現実的じゃないと、やってけない。
  何事に対しても、先ずは疑ってみる姿勢で行かないと、命を落とすぞ。
  冗談でも何でも無くてさ」

コバルトゥスは敢えて恐ろし気な言い方をして、彼女を脅す。
様々な事を経験した、冒険者の先輩として。
カシエは足を止め、コバルトゥスの瞳を見詰めて、静かに問い掛けた。

 「バル、どうして『先輩』に壷の事を教えなかったの?
  彼『も』信用出来ない人?」

 「えっ、いや、そう言う訳じゃ……」

意外な質問に、彼は目を白黒させる。
そんな風に見られていたとは思わなかった。
だが、そう受け取られても仕方が無い気がして、「先輩」の名誉の為に弁解する。

 「先輩は『良い人』さ。
  壷の事は――」

どうして壷の事を教えなかったのか、コバルトゥスは自問する。
それは何故か?
0251創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/29(木) 19:20:04.41ID:azSwof96
人は自分の行動の一つ一つを、意識して行っている訳ではない。
「何と無く」実行している事が殆どだ。
何かをするにしろ、何もしないにしろ、その動機を一々言語化するのは難しい。

 「金が絡むと人は変わるんだ。
  その人と長く付き合いを続けたいなら、金の話はしちゃ行けない。
  常識だろう?」

彼は一般論で自己の正当化を試みた。
所が、カシエは疑問を差し挟む。

 「そうかな?」

コバルトゥスは戸惑った。
彼にとって、ラビゾーは信用出来る人物だ。
金に目が眩む様な愚かな人では無い……と思いたいが……。

 「それに、あの人は商売人だから。
  こんな物があるなんて、知らない方が良い」

そう言いながらコバルトゥスは、ラビゾーを信じられない自分を、嫌な奴だと感じた。

 「そうかもね……」

カシエはコバルトゥスの言い分に理解を示すも、当の彼は上の空。

 (『人を信じる』か……)

本当の信頼とは何だろうかと、妙に哲学的な事をコバルトゥスは考えた。
ラビゾーが目の色を変えて金に執着する醜い姿を見たくない。
しかし、本当に醜いのは、他人を信用出来ずに、そんな妄想をしてしまう自分ではないのか……。
醜悪さは何時も自分の内にあり、それを他者に投影するから、不信が生まれる。
自分は一生、心を許せる人が出来ないのではないかと、コバルトゥスは恐ろしくなった。
彼は自らの邪心を呼び覚ました、「悪しき」壷を割ってしまいたい衝動に駆られるが、悲しいかな、
金銭に拘る彼の浅ましい心が、それを許さない。

 (……切羽詰まって、どう仕様も無くなったら使おう。
  それまでは使わないでおこう)

彼は曖昧な妥協をして、小さな壷をバッグの中に封印した。
0252創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/29(木) 19:21:03.75ID:azSwof96
「コバルトゥスの冒険」は、これで終わりです。
拙い進行でしたが、お付き合い有り難う御座いました。
エンディングは3つ考えていました。
他は、単独で洞窟の謎を解いた場合と、謎が解けなかった場合です。
0253創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/29(木) 19:30:37.74ID:azSwof96
反省点は判定を面倒にしてしまった事と、配分を失敗した事です。
判定その他に使った表を上げておきます。

https://u6.getuploader.com/sousaku/download/944

「こんな風に決めました」と言うだけの物なので、その内消します。
裁定ミスで、この通りに判定していない所もあるかも知れません。
御容赦下さい。
0254創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/30(金) 18:30:15.53ID:S2aBQOTc
遅垂/遅弛(ちんたら)


暢(の)んびりしている様を表した言葉です。
語源は幾つか考えられ、その一つが「チンタラ蒸留器」です。
正式名称は「兜釜式蒸留器」。
樽形の覆いに逆さ円錐状の蓋をして、覆いの中で醸造酒を熱します。
逆さ円錐状の蓋には水を注いでおきます。
そうすると、蒸発した水分とアルコールが蓋で冷やされ、円錐の先に集まって垂れて来ます。
それを樋(とい)で覆いの外に流し、器に溜めます。
こうして蒸留酒が出来上がると言う訳です。
蒸気で「チンチンと音が鳴る」事を「チンタラ」の語源とする説がありますが、多少疑問です。
これは鉄蓋の鍋や薬缶を熱すると、蒸気で蓋が「チンチン」と鳴る事から、「沸騰する位に熱い」事を、
「チンチン」と表現した物と混同したと思われます。
「チンタラ蒸留器」の名は薩摩の方言で、遅い事を「ちんちん」と言った事に由来するとされています。
「ちんちん」の語源は「遅々(ちち)」で、これが「ちぃちぃ」から「ちんちん」に変化したそうです。
「たら」は「垂れる」事で、「ちんたら」は「遅く垂れる」の意味。
チンタラ蒸留器とは、少しずつしか蒸留酒が集まらない事を指して、そう呼ばれる様になりました。
しかし、「たらたら」には元々「行動が遅い様子」を表す意味があります。
これの語源も「垂れる」、「液体が少しずつ流れる様子」、「張りが無く弛んでいる様子」で、
「だらだら」、「とろとろ」にも通じます。
「ちんたら」は蒸留器とは別に、「ちんちん(遅い)」と「たらたら(弛んでいる)」を合わせた物とも、
考えられる事を記しておきます。
0255創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/03/30(金) 18:31:59.68ID:S2aBQOTc
焦(じ)り焦(じ)り


「じりじり」は物を熱する様子と、少しずつ物事が進行する様子の2つの意味があります。
前者は「じりじりと太陽が照り付ける」、後者は「じりじりと期日が迫る」の様に言います。
物事が遅々として進まない事を焦る気持ち、「焦(じ)れる」に関係する言葉です。
「じわじわ」とも通じます。
前者と後者を区別する為に、「擦り付ける」と言う意味の「躙(にじ)る」を用いて、
後者を「躙り躙り」としても良いかも知れません。


糞(ば)っちい/糞(ばっ)ちい


語源は「汚い」と言う意味の「糞(ばば)しい」です。
それが変化して、「ばばちい」、「ばばっちい」、「ばっちい」等となりました。
「糞(ばば)」は字の通り、排泄物、「糞(くそ、ふん)」の事です。
ネコババの「ババ」も同じと言われます。
「泥」や「汚れ」を言う事もあり、「糞塗(ばばまみ)れ」の様に使われます。
0256創る名無しに見る名無し
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2018/03/30(金) 18:32:28.31ID:S2aBQOTc
脱磁(消磁)


脱磁と消磁は、どちらも磁気を取り除く事を言い、同じ意味で使われます。
消磁は字の通り、磁性を消す事です。
その反対に磁性を付加する事は「着磁」なので、「着脱」で、「脱磁」とも言う様です。
「磁性を消す」と言っても完全に消す事は難しいらしく、対極の磁性を弱めつつ交互に与える事で、
影響を出来るだけ少なくする方法が一般的との事です。
0257創る名無しに見る名無し
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2018/03/31(土) 19:28:33.96ID:ip+0NQvj
終末への誘い


ティナー地方ボルクラム街道にて


ボルガ地方とグラマー地方を繋ぐボルクラム街道の傍の小道を、水鳥の親子が歩いていた。
道行く人々は、それを微笑ましく見守っていたが、野良の小猫が雛を掻っ攫った。
猫は雛を銜えて茂みに隠れ、水鳥の親子は散り散りになった。
誰も何も出来ずに、それを見ているだけだった。
猫は本能の儘に狩りを行ったのであり、これを咎める事は出来ない。
残酷だが、愛らしい猫とて、食わねば生きて行けないのだ。
皆、知っている。
奇跡の魔法使いチカ・キララ・リリンは、偶々その現場を目撃してしまった。
しかし、彼女にも何も出来はしない。
彼女は猫を追い掛けて、雛を解放させる事が出来る。
だからと言って、その行動が何になる訳でも無い。
猫が獲物を狩る事は悪ではない。
水鳥とて魚や虫を食らっている。
可愛い、可愛くないと言う主観を盾に、命の重さを決め付ける事は愚かだ。
人は動かし難い現実を前に、無力感を噛み締めるのみ。
奇跡の魔法使いであるチカも同じく。

 「諦めるのか?」

嫌な気分で俯いた彼女に、声が掛かった。
チカの視線の先には、見た目10代前半の、少年の様な格好をした少女が居る。

 「誰だ?」

警戒して問い掛けるチカに、女の子は自らの魔法を名乗った。

 「言葉の魔法使い」
0258創る名無しに見る名無し
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2018/03/31(土) 19:29:17.49ID:ip+0NQvj
相手が同類である事に、チカは気を緩めるも、話し相手をする気にはなれなかった。

 「今は気分が悪い。
  放って置いてくれないか」

彼女は魔城事件以後、反逆同盟から距離を置いた。
共通魔法社会への復讐を心の支えに生きて来た彼女は、今更その正しさに迷っていた。
幾ら考えても、どうするのが良いのか分からない。
復讐と称して残酷な行為を愉しむ気にはなれない。
嘗ては、そんな事は全く気にしなかったのに、今は何も彼もが恐ろしい。
だが、共通魔法使いを許す気にもなれない。
過去と現在に折り合いが付けられず、チカは苦しんでいた。
言葉の魔法使いは、冷淡に突き放されても、構わず声を掛ける。

 「どうして雛を助けなかった?」

チカは舌打ちして、言葉の魔法使いに言い返す。

 「自然の物の成り行きは、自然に任せる他に無い。
  私が雛を助けても、猫は別の所で他の物を襲う。
  腹を空かせている限り」

 「そんな事は理由にならない。
  君は本心では助けたいと思っていたのに、理性で止めてしまった。
  どうしてかと聞いているんだ」

 「……無意味だから」
0259創る名無しに見る名無し
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2018/03/31(土) 19:29:56.70ID:ip+0NQvj
苦々しく吐き捨てる様に言ったチカに、言葉の魔法使いは尚も続けた。

 「よく解っているじゃないか……。
  世の中に意味のある事なんか、何一つ有りはしない。
  それなのに、君は未だ下らない事に拘り続けるのか」

 「下らなくなんかっ……」

復讐の事を言われていると思い、チカは反発した。
彼女の両親は共通魔法使いに追われて死した。
共通魔法使い達には、その報いを受けさせなければならない。
そう信じて孤独な戦いを続けて来た。

 「共通魔法使い共を許せと言うのか!」

チカは拳を強く握り締め、黒い魔力を纏う。
黒い魔力は心が怒りと憎しみに染まり切った証。
心の中だけに留まらず、溢れ出した分が魔力をも黒く染めるのだ。
言葉の魔法使いは惚けて、小さく笑った。

 「何の話?
  そんな事は言ってないけど」

その人を小馬鹿にした態度が、今のチカには我慢ならない。

 「もう良い」

彼女は言葉の魔法使いから視線を逸らして、足早に去ろうとする。
0261創る名無しに見る名無し
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2018/04/01(日) 17:51:17.99ID:ePnA/3Tg
言葉の魔法使いは「呼び止めた」。

 「意地を張るのは止めたら?
  本当は好い加減、疲れて来てるんだろう?
  怒りも、憎しみも、恨みも、悲しみも、所詮は有限の物なんだ」

チカは足を止め、唖然として立ち尽くす。
言葉の魔法使いは真実を言い当てていた。

 「300年は人間には長過ぎる。
  君は保(も)った方だよ。
  よくも300年も。
  どんな感情も、そんなに長続きはしない。
  やがて輝きを失い、乾いて擦り切れ、味気無い物になってしまう。
  だが、それで良い、それが正しい。
  君は本当の意味で、『魔法使い』になろうとしているんだ。
  お目出度う、歓迎するよ」

突然の祝福に、チカは戸惑う。
彼女は振り返って、言葉の魔法使いを凝視する。

 「本当の……、魔法使い……?」

 「君は人間を超越した存在になる」

 「超越……?
  解らない、何を言っている?」

チカは「真の魔法使い」に就いての事を、何も知らないのだ。
魔法を使うだけが、魔法使いではない。
神が居た、巨人が居た、人間が居た、悪魔が居た。
それだけが真実ではない。
0262創る名無しに見る名無し
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2018/04/01(日) 17:52:37.66ID:ePnA/3Tg
チカは念の為に確認した。

 「貴女は反逆同盟の者では……」

 「無い。
  あんな無粋な連中と一緒にしないでくれ給い。
  しかし、共通魔法使いの味方と言う訳でも無い。
  どちらにも付かない、中立の者だ」

「中立」と言われ、チカの心は揺れた。
共通魔法使いと反逆同盟の争いに興味を失いつつあった彼女は、心の底では復讐に代わる、
新たな生き方、価値観を求めていた。
目の前の者が、それを齎してくれるのではないかと期待したのだ。
言葉の魔法使いはチカを誘惑する。

 「もう復讐は止めよう。
  300年間、君は孤独に耐えて戦い続けた。
  もう十分だ、誰も君を責めたりはしない」

甘い言葉にチカの心は大きく傾くも、倒れるまでには至らない。

 「……ここで止めてしまったら、父や母の無念は、どこへ行く?
  私の300年は何だったのだ?」

 「全ては泡沫だよ。
  君の御両親も、君の300年も、君が犯した罪も、何も彼も過去の出来事。
  記憶の彼方に消え去る定めの物に過ぎない。
  そんな物に囚われ続ける事は無い」

言葉の魔法使いの囁きに、チカは虚無感と虚脱感を覚える。
抗い難い超然とした巨大な渦流に呑まれて、精神が摩滅して行く様な錯覚に陥る。
0263創る名無しに見る名無し
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2018/04/01(日) 18:00:30.10ID:ePnA/3Tg
チカは虚無の先にある、達観を捉えつつあった。
彼女は後一歩踏み出せば、真の魔法使いに至れる境地にあった。
言葉の魔法使いとの出会いは偶然の物で、それも少し言葉を交わしただけに過ぎないのだが、
真の魔法使いになる切っ掛けとは、本当に些細な物なのだ。
しかし、彼女は「後一歩」の踏み出しを躊躇する。
自らの300年を虚無に帰して良い物か、父母の無念を晴らさずにおいて良い物か?
踏み出した先には、多くの魔法使い達と共に、敬愛して止まない師が居る。
その一歩で師と同じ境地に至り、対等な存在になれるとチカは直観していた。
彼女は師との過去を回想する。
そこには復讐に囚われる以前の幸せだった日々がある。
だが、それをチカは自ら捨て去ったのだ。
生地を追われた父の、母の無念を想えば、悲嘆の慟哭を抑える事が出来ない。

 「あ、ア゛ァ……、オ、オオ゛ォォ……!!」

チカは人目を憚らず、その場で泣き崩れた。
言葉の魔法使いは彼女を哀れみ、銅錆の魔法(※)を掛けて、衆目から逃れさせる。
過去を振り切らない限り、チカは永遠に真の魔法使いにはなれない。
自らの幸福のみを考え、復讐心を捨て去ろうとしても、全ての根源である出生から目を逸らせない。
彼女にとって、過去の幸福と現在の復讐は地続きであり、決して切り離せる物ではないのだ。


※:輝く金色と反対の暗い青緑色から、人を目立たなくさせる魔法の総称。
  共通魔法に於いては、「対象を人の意識から外す魔法」で、扱いの難しい上級魔法。
  尚、「銅錆」の読みは「どうさび」で、緑青(ろくしょう)の事。
0264創る名無しに見る名無し
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2018/04/02(月) 18:47:02.72ID:YASq3Tbe
人は自らを成形する過去無しには、存在し得ない。
過去の無い者は空虚。
チカが真の魔法使いに生まれ変わるには、復讐鬼と成り果てた「今」を否定しなければならない。
だが、復讐を遂げぬ儘では、彼女は新しい自分を肯定出来ない。
自らを否定するにしろ、肯定するにしろ、先ず成し遂げなくては始まらないのだ。
全てが終わって、漸く彼女は自分を受容出来る。
しかし、何を以って復讐は終わりを迎えるのだろうか?
「共通魔法社会」と言う途方も無い物を仇敵と定めてしまったが為に、チカが復讐を果たすのは、
事実上不可能になってしまった。
もう彼女は詰みに陥っているのだ。
言葉の魔法使いは、チカに同情して優しく囁いた。

 「未だ人の心が生きているのだな。
  終わらせられない理由があるのか……。
  好きなだけ時間を掛けるが良い」

そう告げると、言葉の魔法使いは姿を消す。
俯くチカの耳に、可弱い猫の鳴き声が聞こえた。
水鳥の雛を襲った、あの猫が何食わぬ顔で通りに戻り、道行く人に愛想を振り撒いて歩いている。

 (醜い。
  どうして世界は欺瞞に満ちているのだろう……。
  己が裡に醜悪さを包み隠し、その事実から目を逸らして、平気な振りをしている)

真の魔法使いになると言う事は、その極致である。
あらゆる柵を乗り越え、善悪をも超越し、欺瞞の衣を着て平静を装うのだ。
そうなる事は自分には出来ないと、チカは確信した。
0265創る名無しに見る名無し
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2018/04/02(月) 18:48:54.05ID:YASq3Tbe
チカも又、醜い生き物であった。
彼女は復讐の名の下に、様々な悪行を積み重ねて来た。

 (私は『外道』と蔑まれて来た者達が味わった苦しみを、共通魔法使い共にも与えたかった。
  故郷を追われ、父母を失う悲しみを思い知らせたかった。
  それが『過ち』だった。
  悪魔共の言う通りだった。
  私は復讐に悦びを見出だし、自分の心を慰めていた)

彼女は漸く自分の「悪」と向き合う。

 (今、私の手には全てを終わらせる術がある。
  何を躊躇う事がある?
  こんな世界、滅んだ方が良いではないか……。
  今までの私は間違っていた。
  共通魔法使い共を痛め付けよう、苦しめようと思い続けて来た。
  憎しみを以って憎しみを晴らそうとするから、終わらなかった)

思い切れば、絶えず心の中に掛かっていた靄が、俄かに晴れる。

 (終わりにしよう。
  『明日の私』の為に。
  悦びも悲しみも要らない。
  全てを消し去り、怨みも憎しみも忘れて、『終わらせよう』)

今、初めてチカは「愛」を捨てる決意をした。
真の魔法使いになる為に。
0266創る名無しに見る名無し
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2018/04/02(月) 18:55:18.88ID:YASq3Tbe
第四魔法都市ティナー バルバング工業区にて


そして彼女は、五度ワーロックと対面する。
全ての決着を付ける為に。
廃屋が立ち並ぶ心(うら)寂れた通りで、彼女は待ち構えていた。

 「やあ、ラヴィゾール」

穏やかな調子の呼び掛けに、ワーロックは声の主がチカとは思わず、反応する。

 「ラヴィズ――オ゛ォッ!?
  貴女は……!」

振り向いて漸く正体に気付き、慌てて身構える彼に、チカは冷静に告げる。

 「今日は戦いに来たのではない。
  ……否、お前と戦う為に赴いた事は、過去一度も無かったな」

自分が発した言葉の可笑しさに、彼女は独り自嘲した。
呆気に取られているワーロックに、彼女は改めて告げる。

 「今日は宣言をしに来た。
  決着を付けよう、ラヴィゾール。
  それと――」

話の途中で、チカは不意にワーロックの背後に目を遣った。
その先には2人の師である老魔法使い、アラ・マハラータ・マハマハリトが居る。

 「師匠、貴方とも」

チカの言葉を聞いて、初めてワーロックは振り返り、師の姿を認めて驚愕した。

 「師匠!?
  何故ここに!」

マハマハリトはワーロックには応えず、真剣な表情でチカを見詰めている。
0267創る名無しに見る名無し
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2018/04/03(火) 18:31:40.01ID:nn/Wja8u
ワーロックはマハマハリトとチカに挟まれる形で、居心地の悪さを感じ、数歩横に移動して、
マハマハリトとチカを結ぶ直線上から外れた。
3人共、口を利かず、緊張した空気になる。
最初に沈黙を破ったのは、マハマハリト。
彼はチカに向かって話し掛ける。

 「漸っと会えたな」

 「私を追って来て下さったのですか?」

 「そんな所じゃな」

 「私を止める為に?」

 「そうじゃな」

淡々とした両者の遣り取りを、ワーロックは傍で大人しく聞いていた。
チカは徐に、懐から一冊の魔法書を取り出して、ワーロックとマハマハリトに見せ付ける。
魔法書は縦1足×横1手×厚さ1節で、懐に自然に収まる様な大きさでは無いので、
どこに仕舞っていたのかとワーロックは訝った。
魔法使いとは不思議な物なのだ。
チカは口の端に小さな笑みを浮かべて、書の内容を説明する。

 「これには世界を終わらせる魔法が記されている。
  嘘や冗談ではない。
  地上を跡形も無く消し飛ばせる」

 「世界を……終わらせる?」

一々反応するワーロックとは対照的に、マハマハリトの表情は変わらない。
真っ直ぐチカを見詰め続けている。
チカはワーロックとマハマハリトに交互に視線を向けて言った。

 「私達は決着を付けねばならない。
  幸い、ここに居る者は皆、同じ心を持っている様だ。
  時と場所は既に定めてある。
  1週後、カターナで」
0269創る名無しに見る名無し
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2018/04/03(火) 18:33:31.62ID:nn/Wja8u
彼女の唐突な宣言に、ワーロックは目を剥いて驚いた。

 「カターナって、どこで!?」

 「その位は自分で探し当てろ」

チカがワーロックに向ける瞳は冷たい……かと思えば、彼女は行き成り破顔して言う。

 「私は共通魔法使いを絶対に許さない。
  共通魔法使いは絶滅させる。
  この『逆天<オーバースロー・オブ・ヘヴン>』の魔法でな。
  魔法大戦の再現だ。
  止めたくば追って来い!」

 「逆天!?
  魔法大戦!?
  一体、何を……って、あっ!」

ワーロックの問には答えず、チカはマントを翻して姿を消す。
マハマハリトは彼女が居た位置を見詰めた儘。
ワーロックは恐る恐る、マハマハリトに声を掛けた。

 「師匠、お久し振りです」

 「ウム」

 「又、会えて嬉しいです」

 「儂としては、甚だ不本意な再会じゃがな」

素直に師との再会を喜ぶ彼とは対照的に、マハマハリトの表情は硬い。
0270創る名無しに見る名無し
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2018/04/03(火) 18:34:49.55ID:nn/Wja8u
再会を不本意と言われ、ワーロックは少し気落ちした。
マハマハリトは漸く表情を緩めて、彼に言い訳する。

 「誤解するでない。
  この様な形で会いたくは無かったと言う事じゃ。
  『もう会う事は無い』と格好付けたにのぉ……」

苦笑いするマハマハリトに、ワーロックは尋ねた。

 「あの人も師匠の弟子だと言うのは、本当ですか?」

マハマハリトは気不味そうに答えた。

 「『元』弟子じゃよ。
  大昔に破門した。
  本当は儂独りで片付ける積もりじゃったが、こんな事になって済まんの」

 「いいえ、私は別に何とも……」

 「お前さんには、お前さんで、やらねばならん事があろうに」

それはワーロックの息子ラントロックの事だ。
ワーロックはマハマハリトに息子の話をした覚えは無いが、人の心を読む位は当然の様にする、
師の事なので、全て知られている前提で話に応じた。
確かにマハマハリトの言う通り、今のワーロックは他人事に関わっている暇は無い。

 「いえ、あの人の事は私にとっても無関係ではありません。
  彼女は反逆同盟の一員です」

しかし、チカから反逆同盟の内情を聞き出せれば、息子を取り戻す事に繋がると、
ワーロックは理屈を捏ねた。
マハマハリトの表情が苦々しい物に変わる。

 「儂が腑甲斐無いばかりに、本当に済まん。
  あの馬鹿弟子め」

幾ら破門したと言っても、やはり未だ彼の中では、チカは弟子なのだとワーロックは感じた。
0271創る名無しに見る名無し
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2018/04/04(水) 18:38:10.47ID:dBkD04nY
師が悪弟子にも情を残している事を彼は嬉しく思うも、同時に謝罪してばかりの態度には、
寂しさを覚える。

 「謝る必要はありません。
  それより、早く彼女を止めに行きましょう。
  1週後にカターナ地方で……詳しくは判りませんが、何か大きな事件を起こす積もりです」

ワーロックに急かされ、マハマハリトは項垂れて従う。

 「『逆天の魔法』……。
  あれが本物ならば、地上は無事では済まん。
  そして、奴は本気と来た。
  儂が……、否、『儂等』で何とかせねばな」

徐々に言葉に力強さが戻るマハマハリトを見て、ワーロックは安堵した。
師と仰ぐ人物が、何時までも塞いだ儘では不安になるのだ。
最寄の駅に向かって歩きながら、2人は会話した。

 「その『逆天』と言う魔法が何なのか、師匠は御存知なのですか?」

 「お前さんは知らんのか?
  魔法大戦の号砲となった魔法の事を」

ワーロックは古い記憶を呼び起こす。
魔法大戦の伝承の詳細は、公学校では教わらない。
教科書には「魔法大戦」があった事、その結果、旧い文明が全て滅んでしまった事しか、
書かれていない。
だが、魔法大戦の伝承は昔話の体で、常識として知っている者が多い。
ワーロックも共通魔法使いの多分に漏れず、その一人であった。

 「えぇと、3箇月を掛けて唱えたと言う、あの――」

 「そう、それじゃ。
  天空から地上に星を落とす大魔法。
  彼奴が如何にして、手に入れたのかは知らんが……」
0272創る名無しに見る名無し
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2018/04/04(水) 18:39:33.49ID:dBkD04nY
伝承が事実であれば、3月も猶予があるのではとワーロックは思った。

 「発動までに3月掛かるなら、未だ余裕がありますね」

その発言をマハマハリトは戒める。

 「あれは天体の周期に合わせたんじゃよ。
  13星の1つ、クリフトスを地上に落とすのに、それだけの時を要したと言う事。
  早めようと思えば、幾らでも早められる。
  奴が1週後と言い切った以上、1週後に実行するじゃろうな」

そこまでの力がチカにあるのかと、ワーロックは疑問に思った。

 「本当に1週後に出来るんでしょうか……?」

 「何も拘らず、何も顧みなければ」

 「ど、どうやって止めましょう?
  魔導師会に頼んでみましょうか?
  今、私達は魔導師会と協力関係にあるんです。
  話すと長くなりますが……、あぁ、反逆同盟の話を先にしないと行けないか……」

チカをどう抑えるか相談する前に、現状をどう説明した物か、ワーロックは頭を悩ませる。
何しろ、マハマハリトとは十数年振りの再会だ。
その間に多くの出来事があった。

 「こんな時で無ければ、緩(ゆっく)りと話したい所なんですが……」

 「解っておる。
  多くを語らずとも、必要な事だけ言えば良い」

ワーロックとマハマハリトは駅で馬車鉄道に乗り込み、カターナ地方へと向かう。
高速で走行する馬車に揺られ、2人は今日までの事を語り合った。
0273創る名無しに見る名無し
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2018/04/04(水) 18:41:39.64ID:dBkD04nY
「あれから色々ありまして、私は所帯を持ちました。今は娘が1人、息子が1人居ます」

「一人称も変わったな」

「気分的な物です。人の親になって、変わらなくてはと言う思いが強くなりました」

「俗になった」

「元から俗な性格でしたよ……。師匠、反逆同盟なる組織は御存知でしょうか?」

「噂には聞いておる」

「共通魔法社会を転覆させようと言う、旧い魔法使い達の集団らしいのですが……」

「ウム」

「リーダーは『ルヴィエラ』と言う悪魔だそうです」

「あの性悪か」

「面識が?」

「まぁ、のぅ……。碌でも無い奴じゃよ。お前さんも気を付ける事じゃ」

「はい。そのルヴィエラ率いる反逆同盟と戦う為に、私達は魔導師会と一時的な協力関係を、
 結んだのです」
0274創る名無しに見る名無し
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2018/04/05(木) 18:16:50.31ID:Cd2bXNjW
「私『達』?」

「はい。反逆同盟の増長を快く思わない、共通魔法社会の外で生きる者達です」

「呼び掛けたのは、差し詰めレノック辺りかな?」

「はい。幾らかは私も関係しましたが」

「……儂は己の愚かしさが嫌になるよ。今の今まで、呑気に構えておった」

「過去を悔やむのは後回しです。今は前だけを見ましょう」

「そうじゃな。こうなってしまった以上は、この命に代えてもチカを止める」

「あの、師匠、魔導師会に協力して貰いましょう。その方が確実です」

「我が儘を言わせて貰えるなら、それは止して欲しい」

「お気持ちは解ります。師匠と彼女、師弟の間の事です。しかし――」

「儂を信じて任せてはくれんか」

「……解りました。でも一応、連絡だけはしておきますよ」
0275創る名無しに見る名無し
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2018/04/05(木) 18:18:53.25ID:Cd2bXNjW
「ルヴィエラは、どの位の強さなんでしょう?」

「悪魔の中でも強い方じゃな。元々は、そうでも無かったが……。強力な悪魔の魂を取り込み、
 手の付けられん化け物になった。真面に戦おうとは思わん事じゃ」

「……師匠も『悪魔』なんですか?」

「大昔には、そう呼ばれた事もあったよ。真面な人間は100年生きれば長い方で、200を越せば、
 化け物じゃろう。『普通の人間は何千年も生きられない』。常識じゃな」

「人間とは違うって事ですか」

「同じとは言い難い」

「私は何も知らないで、他の魔法使いの皆さんと、同じ様な存在になりたいと思っていました。
 虎に施しを受けた猫は、自分も虎の仲間だと錯覚するのでしょうか?」

「そんな事を思っとったんか……」

「結局、私は『新しい魔法使い』になりました。そうならざるを得なかった、他に道が無かったのです」

「それは自己の形に拘った結果じゃよ。望んで『成った』んじゃろう? 成らない道もあった。
 成れる道もあった」

「はい。後悔している訳ではありません。但(ただ)、以前(まえ)から何と無く思っていたんです。
 私は師匠や他の魔法使いの皆さんとは根本的に違うと」

「君は――」

「今は何とも思っていません。私は『私』である事に、誇りを持っています。済みません、
 変な話をしました。昔の感傷を思い出しただけです」
0276創る名無しに見る名無し
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2018/04/05(木) 18:20:03.29ID:Cd2bXNjW
「所で、13星って何ですか?」

「黄道に輝く13の星じゃ」

「12星では?」

「シーゾス、ベルデス、カロメス、カタイギダス、アクティス、イシストス、スタテロス、ボーリアス、
 シクロス、ブラディス、メノス、アルゴス……。クリフトスが堕ちて、12星となった」

「旧暦では13星だった?」

「古くは12星じゃった。クリフトスだけ発見が遅れた」

「そのクリフトスが『逆天の魔法』で……」

「信じられんか?」

「その後、地上は……?」

「海に沈んだ。伝承の通りじゃな。多くの命が失われた」

「クリフトスが落ちて、魔法大戦が『始まった』? 『終わった』の間違いでは……?」

「いや、『始まった』んじゃよ。魔法の世界が訪れ、地上の法則は出たら目になった」

「法則が……出たら目に?」

「解らんか?」

「想像も付きません」

「……『途方も無い物<テラトディア>』と相対した時の為に、君には教えておこう。魔法の世界とは――」
0278創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/04/06(金) 18:42:28.69ID:1Ono0h+x
動乱の後に


所在地不明 反逆同盟の拠点にて


第四魔法都市ティナーで、協和会を隠れ蓑に重大な事件を起こした反逆同盟の一同は、
協和会が潰れた後、再び拠点に戻った。
血の魔法使いヴァールハイトは、マトラに告げる。

 「やはり魔導師会を叩き潰さぬ限りは、地上で思う様に振る舞う事は難しい」

協和会を利用してティナー地方を支配しようと言う、『彼の』企みは失敗した。
人、物、金で企業を抱き込めても、魔導師会を止められないのでは、意味が無い。
マトラは嫌らしい笑みを浮かべて、ヴァールハイトに言った。

 「そう焦るでない。
  所詮は人間、我が力の前では滓に過ぎぬ」

 「なれば、その力を揮って頂きたいのですが」

 「私は今、試している所なのだよ。
  どこまでなら『許される』のか……。
  我が居城を召喚した際は、直ぐ聖君に嗅ぎ付けられた。
  流石に、あの位になると看過されぬらしい」

マトラは己の強大な力を振るうのに、配慮している。
彼女等「悪魔」は、本来地上に存在してはならない物。
旧暦の様に、人類の危機には「神」の介入があるのではないかと恐れている。
神の力は絶大だ。
「弱い」悪魔は認識されただけで、存在を保てなくなる。
「強い」悪魔でも睨まれるだけで、消滅してしまう。
恐らくは、マトラでさえも。
0279創る名無しに見る名無し
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2018/04/06(金) 18:44:52.34ID:1Ono0h+x
 「しかし、聖君の器は既に――」

もう聖君が現れる事は無いのではないかと、ヴァールハイトは疑問を差し挟む。
マトラは真顔で答えた。

 「器の有無は問題にならぬ。
  アダムズ君が魔導師会の支部を壊滅させた時、神の介入があった。
  神が力を揮うのに、器を介す必要は無い。
  どうしても『魔導師会』を倒したいと言うならば、私以外の物を使うのだな。
  フェレトリやクリティア程度ならば、全力を出した所で神に目は付けられまい。
  私の手駒を貸してやる事も出来る」

彼女の言う「手駒」とは、影の魔物の事だ。
ヴァールハイトは暫し思案して言った。

 「……未だ決戦には早い。
  戦力を整えた所で、正面から当たるのは下策。
  大人しく時を待つとしよう」

慎重さを発揮し引き下がった彼を見て、マトラは内心で小馬鹿にする。

 (自らの力で戦えぬ者は哀れよの)

これでは面白くないと、マトラは溜め息を吐いた。
力が弱くとも、暴走する位の無謀さが欲しいと彼女は思う。
好戦的なアダマスゼロットや、共通魔法社会に恨みを持つチカは望み通りの人材だったが、
如何せん可愛気が無かった。
0280創る名無しに見る名無し
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2018/04/06(金) 18:46:45.02ID:1Ono0h+x
同盟の面子は皆それなりに賢く、B3Fであっても、魔導師会と正面から当たる事には、
難色を示すだろう。
もっと単純で後を顧みない者を、マトラは欲していた。
しかし、唯々諾々と命令に従うだけの存在も面白くない。
我が儘な彼女の真の目的は退屈を凌ぐ事であった。
地上が混乱する所を見物したいのであり、支配しようと言う気は更々無い。
どうした物かと悩むマトラに、B3Fのテリアが駆け寄る。

 「マトラ様、大変、大変!」

 「何事だ?」

少し湧く湧くしながら、マトラはテリアの言葉に耳を傾けた。

 「トロウィヤウィッチが脱走したんだ!」

 「それで?」

 「そ、それで……?
  えぇと、連れ戻さなくて良いのか……?」

困惑するテリアが面白く、マトラは態と意地悪を言う。

 「分かっているならば、そうすれば良かろう」

 「いや、でも、あの、トロウィヤウィッチは手強いから……」

 「何だ、見す見す逃したのか?」

反論出来ずに小さくなるテリアを見下して、マトラは呆れた。

 (どいつも、こいつも、自力で何とかしようとは思わないのかねェ)
0281創る名無しに見る名無し
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2018/04/07(土) 17:33:56.57ID:zh76fRAj
彼女は深い溜め息を吐き、テリアを突き放す。

 「離れた者は仕方あるまい。
  トロウィヤウィッチが居なくなった所で、私は構わぬよ。
  人を操るだけなら、他にも出来る者は居るしな」

 「そ、そんなぁ!
  ネーラとフテラも一緒に行ったんだよ!
  スフィカは残ってくれたけど……」

テリアの必死の訴えに、マトラは顎に手を遣り思案した。

 (誰が抜けようと、どうでも良いんだけどねェ。
  余り離反者が多い様では、組織としての体面に関わるか)

考えを纏めた彼女は、テリアに告げる。

 「そうだな、ネーラとフテラには戻って来て貰おうか……。
  B3FがB2では寂しかろう」

テリアの表情が俄かに明るくなった。

 「はいっ!」

 「では、行くが良い」

マトラの言葉にテリアは再び戸惑う。
無慈悲で無情なマトラは、どうした事かと訝った。

 「何だ、未だ何かあるのか?」
0282創る名無しに見る名無し
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2018/04/07(土) 17:36:51.62ID:zh76fRAj
テリアは怖ず怖ずと口を利く。

 「あっ、あの……。
  マトラ様は協力してくれないの?」

 「何故、私が」

マトラは驚いた顔で理由を問うた。
テリアは非常に気不味そうに、辿々しく答える。

 「いや、だって、その、トロウィヤウィッチは手強いし……」

 「あぁ、魅了の力か……。
  敵に回すと厄介な物だな」

彼女は数極の間を置いて反応し、気怠るそうに溜め息を吐いて、小さく唸った。

 「ムー、気乗りせんなぁ……。
  誰か魅了の効かなそうな奴を適当に連れて行け。
  私の指示と言う事にして構わん」

叱叱(しっしっ)と追い払う仕草をされたテリアは、仕方が無くマトラの前から去った。
余程口が上手くない限り、マトラを翻意させて動かすのは難しい。
テリアが執拗に食い下がらなかったのは、明らかに「上位」の存在を恐れている為だ。
実力に天地の開きがあるので、変に機嫌を損ねてしまうと、命に関わる。
マトラとて安易に他者の命を奪いはしないが、「基準」が人間の倫理とは大きく異なる。
0283創る名無しに見る名無し
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2018/04/07(土) 17:46:52.20ID:zh76fRAj
テリアが去った後、マトラは留守中に他に変わった事は無かったかと、全員の顔を見に行った。
トロウィヤウィッチ・ラントロックと共に、ヘルザ・ティンバーまで姿を消していた事には少し驚いたが、
他に大きな動きは無い。
ラントロックとヘルザが脱退した事を、大きな問題と捉えている者も少なかった。
最後にマトラは予知魔法使いのジャヴァニ・ダールミカの部屋を訪ねる。
ラントロック等の離脱が同盟の今後に、どの様な影響を及ぼすか聞いておきたかったのだ。
しかし、彼女がジャヴァニと会う事は叶わなかった。
ジャヴァニの部屋から出て来たのは、朽葉色のローブを着て、顎鬚を長く垂らした、銀髪の老翁。

 「誰だ?」

マトラは眉を顰め、些かの動揺もせず、堂々と質問した。
老翁も又、堂々と名乗る。

 「我は予知魔法使いスルト・ロアム。
  全知の魔法書マスター・ノートの使い」

 「ジャヴァニは、どうした?」

 「死んだ。
  奴はマスター・ノートを持ちながら、未来を御し切れなかった。
  マスター・ノートの使いには相応しくない」

ここでは初めてマトラは吃驚する。
つい先程まで一緒だった彼女が既に居ない事に。

 「貴様は何者だ?」

 「先程言った通り。
  我はマスター・ノートの使い。
  他の何者でも無い」

ジャヴァニと同じ事を言うのだなと、マトラは訝った。
0284創る名無しに見る名無し
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2018/04/08(日) 18:15:37.46ID:ZXp1FMeE
スルトの態度は、丸でジャヴァニと「同じ性質を持つ」別人の様だ。
彼女と同じく、特別に魔法資質が高い訳でも無い。
「生まれ変わり」と言っても良いかも知れない。
それにしては老いているが……。

 「ジャヴァニを、どこへ遣った?」

マトラの問に、スルトは無感情に答える。

 「奴は死んだ。
  もう、どこにも居ない」

マトラは眉を顰める。

 「そうでは無くてだな、死体を如何に処理したのかと聞いておる」

 「無い」

 「無い?
  消したのか」

 「そうだ。
  灰燼に帰した」

成る程そう言う事かと、彼女は納得した。
ジャヴァニは真面な人間では無く、マスター・ノートと言う魔法書の一部なのだ。
自らの運命を書の一部に取り込まれた、哀れな人間。
人間を取り込む程の力を持つ奇怪な魔法書は、魔法暦では殆ど見られなくなったが、
旧暦では稀に見られた。
0285創る名無しに見る名無し
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2018/04/08(日) 18:17:58.25ID:ZXp1FMeE
一つの疑問が解消された所で、マトラはスルトに依願する。

 「解った、マスター・ノートを見せてくれないか?」

スルトは即座にノートをローブの裾から取り出し、マトラに渡した。
しかし、マトラは受け取らない。

 「それでは無い。
  『本物の』マスター・ノートだ」

マトラはマスター・ノートが只のノート・ブックでは無い事を確信している。
ジャヴァニが何時も抱えていたノートが、本物のマスター・ノートでは無かった事も。

 「そう簡単には見せられないか?
  私とてマスター・ノートが貴重な物である事は理解している。
  安心しろ、破いたりはしない」

先から反応しないスルトを見て、警戒されていると思ったマトラは「約束」をした。
高位の悪魔貴族は、自身の誇りに掛けて「約束」を守る。
謀は力で及ばない弱者の業と認識している為だ。
だが、スルトはマトラを嘲る様に言う。

 「判らんのか?
  悪魔公爵も存外鈍い物だな」

挑発的な言動にマトラは少々機嫌を損ねた。

 「何だと?」

命が惜しくないのかと、彼女はスルトを威圧するが、丸で通じない。
恐れ知らずの不敵な態度に、マトラはスルトの実力を試そうとした。
0286創る名無しに見る名無し
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2018/04/08(日) 18:19:32.32ID:ZXp1FMeE
 「ジャヴァニの後を追わせてくれようか」

爪の尖った指先をスルトの額に突き付けるも、彼は平然と言って退ける。

 「先程マスター・ノートを『破いたりはしない』と言ったばかりなのに?」

 「如何な理屈だ。
  己はノートの一部であるから、傷付けてはならぬと言うか」

 「……そんな所だな」

奇妙な間を置いて、スルトは肯定した。
マトラの理屈では、「スルトがノートの一部だから彼を傷付けられない」と言う事は無い。
所詮スルトはノートが作り出した分身で、ノートその物では無い。
しかし、スルトの余裕を目の当たりにして、彼女は考えを改めた。
彼が「ノートその物では無いか」と言う疑いを持ったのだ。
マスター・ノートは単なる魔法書を超越した存在なのだと、マトラは漸く理解する。

 「面白い。
  『マスター・ノート』よ、お前は何を目指している?」

彼女は「マスター・ノート」に、真の目的を問うた。
スルトは即答する。

 「マスター・ノートは未だ名ばかりなり。
  我等は、これの『完成』を目指している。
  即ち、完全なる全知の書、『真実の書』の完成である。
  真実を一つ記録する度、書は完成に近付く」
0287創る名無しに見る名無し
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2018/04/09(月) 18:21:54.82ID:l3MTTpoG
それは途方も無い目論見だ。
マトラは溜め息を吐いた。

 「訊き方が悪かったかな。
  何の利があって同盟に加わった?」

ジャヴァニは自らマトラに協調を提案した。
自分ならばマトラの大きな企みに力添え出来ると。
「彼女が」予知魔法使いの復権を考えているなら解るが、マスター・ノートが本体となれば、
話は変わって来る。
スルトは口の端に小さな笑みを浮かべて答えた。

 「予知魔法使いは、思うが儘に未来を描く。
  故に、真の予知魔法使いは一人で良い。
  魔導師会には既に一人付いている
  他にも、又一人……。
  生き残るのは誰か」

マスター・ノートは真実の書たらんとする自らの地位を、脅かす物の存在を認知していた。
今、それぞれの勢力に予知魔法使いが付いているのだ。

 「では、早速『占って』貰おうか?」

マトラの問い掛けに、スルトは無言で頷く。
予知魔法使い達の静かな戦いは、既に始まっていたのだ。
0288創る名無しに見る名無し
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2018/04/09(月) 18:23:34.82ID:l3MTTpoG
叱叱(しっしっ)


追い払う時の「しっしっ」です。
語源は不明ですが、狩りで獲物を追い立てる時や、猟犬を嗾ける時に、「しきしき」、
「けしけし」等と言った事に由来するかも知れません。
少し調べてみましたが、中国語で似た音の掛け声は見当たりませんでした。
詰まり、漢字は当て字と言う事です(調査不足の可能性もありますが)。
因みに、「嗾(けしか)ける」の語源は、上述の「けしけし」+「掛ける」らしいです。
0290創る名無しに見る名無し
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2018/04/10(火) 18:16:16.58ID:+b5ZaLHE
金の魔法


唯一大陸に於ける紙幣の普及は、開花期の中頃を過ぎてから。
それまでは「紙の金」を不安視する者が多かった。
多くの地域で「カネ」と言えば、金銀銅、その他の貴金属や宝石類を加工した物であった。
引換券や借用書と言った証文の類もカネの代わりになったが、これは特殊な事例である。
復興期ならば尚の事、貨幣の取引は活発で無く、作物や家畜が標準的な交換対象だった。
例えば、家を建てて貰うのに家畜数頭を分ける、税金として米や麦を支払う等。
開花期になっても、量産される紙の金は当てにならないと、紙幣を態々硬貨に崩して、
持ち歩く者が珍しくなかった。
今となっては馬鹿な話だが、100MG硬貨7〜8枚と1000MG紙幣が普通に交換された。
店によっては、「紙幣お断り」の所もあった。
客は紙幣を消費したがり、逆に硬貨を集めたがった。
硬貨の価値に疑問が生じたのは、共通魔法の発達で幾らかの貴金属や宝石類が、
人工的に作れる様になってから。
これに次いで、魔法暦200年記念に魔導師会が「新硬貨」を発行し、漸く紙幣と硬貨の価値は、
金額の表示通りになった。
0291創る名無しに見る名無し
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2018/04/10(火) 18:17:32.74ID:+b5ZaLHE
物欲、財産欲は古くからあるが、金銭欲は比較的新しい概念である。
「カネ」は誰かが価値を担保して、広く流通しなければ、交換対象になり得ない。
貴金属や宝石類も所謂「贅沢品」であり、幾ら持っていた所で腹は膨れない。
実際に食べられる物や、食べ物を作れる土地の方が遙かに価値があった時代があった。
しかし、暮らしが豊かになれば、贅沢品の価値は上がって行く。
特に必要な物でも無いのに、「皆が求めている」と言う理由だけで、所有欲を掻き立てられる。
それを持っている事が、社会的なステータスに繋がる。
こうした性質は人間に限らない。
不必要に大きな角や牙を持つ動物も同じ事だ。
その中で「人間はカネを集める」と言うだけの事かも知れない。
そんな人間の「金銭欲」に特化した魔法使いが居る。
金銭欲の魔法使いクリス・カルタ・ノミズマである。
0292創る名無しに見る名無し
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2018/04/10(火) 18:19:02.51ID:+b5ZaLHE
悪魔プロストは、人間を操るには金を利用すれば良いと考え、クリス・カルタ・ノミズマと名乗って、
地上に降臨した。
同じ様な悪魔は、旧暦には沢山居た。
名誉の悪魔ケラト・エラフィオンは人間の名誉欲を煽り、人を操った。
法律と義務の悪魔アポストロンは人間の責任感を利用して、人を操った。
情動の悪魔アガトティタは人間の正義感や同情心を利用して、人を操った。
失敗の悪魔ミ・コイゼーテとミ・クラジオンは人間の過ちを利用して、人を操った。
これ等5体の悪魔は、社会悪の悪魔と呼ばれ、人を不幸にする最悪の存在と言われた。
0293創る名無しに見る名無し
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2018/04/11(水) 19:16:27.13ID:cQpNfl4p
第五魔法都市ボルガの繁華街にて


ボルガ市の街角で、コイン当ての賭け事をしている、ローブ姿の怪しい男が居た。
彼は紫色の『布<クロス>』が掛けられた小さな台の上に、2枚のコインを置く。
片方は本物の金のコイン、もう片方は金色のコインだが、両方とも見た目は全く同じで、
見分けが付かない。
これを器の中に入れて、何度も撹拌し、どちらが本物の金か当てさせる。
コインの直径は0.5節、厚さは0.05節。
この大きさの金貨の唯一大陸に於ける価値は、現在2〜3万MG。
1000MGを賭けてコインを1枚選ばせるが、片方は金色の鍍金をしただけの『霊銀<アムレティコン>』。
精々100MGの価値があれば良い方。
男は道行く人に声を掛け、丸損はしないと囁いて、賭けに誘う。
ティナー市を始め多くの都市で、この様な不特定人を相手にした「賭け事」は禁止されている。
都市警察に見付かれば、只では済まない。
しかし、悪党は「見付からなければ良い」と考える。
市民の間でも、地下で大金が動く賭博は大罪だが、小額(1000MG以下)を賭けて遊ぶ位は、
許しても良いでは無いかと言う空気があるので、中々撲滅には至らない。
さて、男は「片方は本物の金貨」と言うが、それは真実なのだろうか?
「見分けが付かない」のであれば、両方偽物でも気付かれない。
その事実に気付いた客は、この男を疑うだろう。

 「本当に片方は本物の金なのか?」

これに対して男は、こう答える。

 「本物ですとも。
  金の比重は分かりますか?
  石や鉄よりも遙かに重い」

そう言って彼はコインを天秤に掛ける。
天秤は釣り合わず、片側に大きく傾く。
それでも用心深い者は、尚も疑うだろう。

 「確かに比重は違う様だが、金とは限らない」
0294創る名無しに見る名無し
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2018/04/11(水) 19:18:01.47ID:cQpNfl4p
これに対して男は、こう答える。

 「用心深い事は大変結構な事です。
  何事も疑って掛かる姿勢が無ければ、騙されてしまう。
  1000MGは決して馬鹿に出来ない額ですから。
  いや、100MGであろうと、10MGであろうと、唯の1MGであろうとも、『塵も積もれば山となる』、
  元い『小銭も貯めれば大金』と申します故。
  しかし、困りましたな。
  この場に鑑定士でも居れば良いのですが、そうそう都合好くは……」

口上を述べて、態とらしく周囲を見回すと、彼は小さく笑う。

 「仕方がありませんな。
  尚も疑われるのでしたら、結構。
  真面目な方は、この様な遊びに加わってはなりません。
  私とて損をする覚悟なのです。
  偽物のコインも只ではありませんからな」

男はローブの裾から大量の偽のコインを取り出して見せる。

 「偽物は皆、同じ重さ。
  本物は1枚だけ。
  これが無くなったら終わりです」

普通に考えれば、こんな商売は長く続かない。
何の仕掛けも無い単なるコイン当てならば、確率は五分と五分で、10人も挑戦しない内に、
金貨は失われてしまう。
詰まりは、何等かの如何様をしている。
0295創る名無しに見る名無し
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2018/04/11(水) 19:20:02.78ID:cQpNfl4p
それを見破ってやろうと、客は賭けに乗る。

 「いや、試してみよう」

 「中々度胸がありますね。
  1000MG頂きます」

 「ああ」

客は金貨と判っている方を注視して、見失わない様にする。
男はローブの裾を捲くって留め、裾の中で操作をしていない事を見せ付けて、先ず器を取り出す。
鈍い銀色の器は『混合酒<カクテル>』の『撹拌器<シェイカー>』その儘だ。

 「そいつを見せてくれ」

客はシェイカーを指して、仕掛けが無いか疑う。

 「どうぞ、どうぞ、心行くまで検めて下さい」

当然予測していた様に、男はシェイカーを客に渡す。
客は何度もシェイカーを見詰め、余す所無く触れ、開いたり閉じたりして動作も確かめる。
数点掛けて、漸く仕掛けが無い事を認めた客は、シェイカーを男に返す。

 「もう宜しいですか?」

 「ああ」

男の挑発的な言動を客は受け流す。
仕掛けは無かったのだから、これ以上疑っても始まらない。

 「では、始めますよ」

男は満足気に頷いて、天秤に乗っていた2枚のコインをシェイカーに入れる。
鍍金が剥げるのでは無いかと思う程の勢いで、彼はシェイカーを振る。
0296創る名無しに見る名無し
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2018/04/12(木) 18:31:02.66ID:MLKNHoHx
シェイカーから出て来た2枚のコインを見て、客は唸る。
全く見分けが付かないのだ。
それは当然。
最初から、そうだった。
無言でコインを睨み続ける客を、男は急かす。

 「どっちを取るんです?
  早く決めて下さいよ。
  失うとしても1000MGです。
  その1000MGに困る程、貧乏してる様には見えませんが?」

何時の間にか、周りには野次馬が集まり始めている。
1000MGを惜しがっていると誤解されてはならないと、客は当たりも外れも五分と信じて、
片方のコインを手に取る。
客は男の反応を窺うが、特に何もしない。
軽薄そうな笑みを浮かべるだけ。
沈黙に堪え兼ねて、客は尋ねる。

 「これは本物か?」

 「どうぞ、お確かめになって下さい」

男は天秤の片側に偽物の金貨を乗せる。
これと釣り合えば、偽物と言う訳だ。
客は慎重にコインを天秤の空いた皿に乗せる。
……天秤は釣り合って動かない。
客は小さく溜め息を吐き、コインには見向きもせずに帰る。

 「あっ、お客さん、コインは要らないんですか?」

 「どうせ偽物だろう。
  そんな物、要らないよ」

男の呼び掛けに対して、客は投げ遣りに応えて去って行く。
どの客も大凡この様な同じ反応をする。
疑うだけ疑い、結局何も見抜けずに偽の金貨を掴まされる。
0297創る名無しに見る名無し
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2018/04/12(木) 18:31:55.86ID:MLKNHoHx
それを何度か繰り返し、男が優越の笑みを浮かべてコインを回収していると、新しい客が現れた。

 「次は俺の番だ」

彼は1000MG紙幣を男に向けて差し出す。
男は又獲物が掛かったと、心の中で舌を出し、紙幣を受け取った。

 「こっちが本物の金のコイン、こっちは只の『金色の』コイン。
  よく見て下さい。
  これから2枚を器の中に入れます。
  それで、器から出した2枚の内、どちらか選んだ方を差し上げます」

改めて説明する男に、新たな客は言う。

 「一々説明しなくても良い」

男は嫌らしく笑って、シェイカーの中に2枚のコインを収めた。
彼はシェイカーを振りながら、客に話し掛ける。

 「所で、お客さんは魔導師ですね?」

職業を言い当てられた客は、驚いて目を見張る。

 「何故判った?」

 「私が怖い物は、警察と執行者。
  こう言う仕事をしていると、その気配に敏感になるんです」

 「へぇー」

魔導師の客は感嘆の息を吐いた。
0298創る名無しに見る名無し
垢版 |
2018/04/12(木) 18:33:56.86ID:MLKNHoHx
男は饒舌に喋り続ける。

 「過去にも魔導師の方と、コイン当てをした事があるんですよ。
  皆さん余程魔法に自信があるのか、必ずと言って良い程、魔法を使って何とか本物の金を、
  当てようとなさいます」

それを聞いた魔導師の客は、企みを見抜かれたのかと焦った。
彼は正に魔法を使って金を当てようとしていた。
先程、男が本物の金のコインと、金色のコインを見せた時に、密かに魔法で本物の方に、
目印を付けておいたのだ。

 「さて、選んで頂きましょう」

男がシェイカーから取り出した2枚のコインには、魔法が掛かっていなかった。
嫌な予感が的中した魔導師は、苦笑いして2枚のコインを見詰める。

 「そんなに迷う事ですか?
  所詮、確率は2分の1です」

魔導師はシェイカーに目を遣るが、特に魔法的な仕掛けがある様には見えなかった。
男が魔法を解除した気配も読み取れなかったので、これは相手が上だと認めざるを得ない。

 (ああっ、儘よ!)

考えても判らないので、魔導師は思い切って片方のコインを手にした。
この魔導師も「金」に馴染みが無いので、手に取っただけでは真贋の判別が付かない。
緊張した表情で、彼は男に尋ねる。

 「どうだ?」
0299創る名無しに見る名無し
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2018/04/13(金) 18:29:52.66ID:aJQYcBSA
男は無言で天秤を指した。
その片側には霊銀のコインが乗せられている……。
魔導師は固唾を飲んで、慎重に空いた片側に、手にしたコインを乗せた。
天秤は釣り合ってしまう。
彼は大きな溜め息を吐き、その場から立ち去った。
そこへ透かさず、小さな男の子が現れる。

 「小父さん、僕も!」

その手には1000MG紙幣が握られている。
男は苦笑いして諭す。

 「止めときなよ、坊や。
  お金は大事に使う物だよ」

虚業で子供から金を巻き上げては行けないと言う良心が、彼にもあるのだ。

 「自信あるよ!
  絶対当てる!」

男の子は紙幣を男に押し付けた。
男は困った顔をして言う。

 「仕様が無いな。
  1回だけ、外れたら二度と賭け事なんかするんじゃないぞ。
  小父さんとの約束だ」

 「分かった!」

男の子が素直に頷いたので、男は2枚のコインをシェイカーに納めた。
0300創る名無しに見る名無し
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2018/04/13(金) 18:34:48.16ID:aJQYcBSA
それを男の子は見咎める。

 「小父さん、金貨入れてよ」

彼は小さな手で、台の上に無造作に置かれた金貨を指した。
男は驚いた顔で子供を見詰める。

 「判るのか?」

 「『目を離さないで』見てたよ」

彼は客の様子を見て、隙有らばコインを掏り替えていた。
全ては手先の器用さが為せる業。
シェイカーにコインを入れるのも、隙を作る工程の1つ。
客はシェイカーに仕掛けが無いか疑い、コインから目を離す。
相手が子供だからと言って、油断は出来ないと、男は気を引き締める。

 「よく見てたね。
  コインは全部見た目が同じだから、小父さんも偶に間違えちゃうんだ」

彼は言い訳をして、改めて本物の金貨をシェイカーに入れた。
男の子は真剣にシェイカーを見詰めている。
男はシェイカーを振って、2枚のコインを台の上に置いた。

 「さて、どっちだ?」

男の子は、にやりと笑ってシェイカーを指す。

 「こっち!」

シェイカーには3枚のコインが入っていたのだ。
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