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雲ひとつない青空は悲しい。
そう語る人がいるけれど、それはその人の内に抱える虚無感がそう感じさせるのだと思う。
何故なら、空は何も語らないのだから。
今は青空が恋しい。傾けた傘から雲に覆われた空を仰ぎながら女はそう思った。
昨夜から降り始めた雨は、未だに小雨ながらも降り続いている。
公園の片隅でその女はある人物を待っていた。
それほど広くはないけれど、晴れた日なら家族連れで賑うこの公園も、さすがに今日は人影も疎らだ。
隣接するコンビニエンスストアの照明の明るさが、余計に寂しさを際立たせている。
濡れたベンチに座るわけにもいかない。だが約束の時間は過ぎているにも関わらず、相手は現れない。
……このコート、派手だったかしら……
女は少し後悔していた。今日会う人物とは初対面なのだ。目印として赤いコートを選んだのだが、色を失った雨の日の街角では余計に目立っている。
友人からの紹介だが、携帯の番号を知らないため連絡の取りようもない。しばらくコンビ二で待とうかと考えていた時、不意に後ろから男の声がした。
「あのコンビ二を利用したことはありますか?」
振り返ると、透明なビニール傘を差した何とも冴えない男が立っていた。歳は二十代前半ぐらいだろうか。ジーンズに白シャツ、紺のジャケットに寝癖のある髪。野暮ったい。
「実は先程、あのコンビニでこの傘を買ったんですが、あそこの店員は愛想が悪いんですよ」
「それがどうしたというんですか?私には関係ありません」
ナンパならお断り。女は足早にコンビニに向けて歩き出した。
「ちょっと待ってください!夏樹さんですよね?」
自らの名前を呼ばれて、女はその足を止めた。
「浅川夏樹さんですよね?」
男は再び語りかける。
「あの……もしかして?」
女は訝しげに問い返す。
「いやぁ、遅れて申し訳ありませんでした。私が鳴滝慎吾です。依頼主はモデル級の美人だと聞いておりましたので、探し出すのに苦労しました」
初対面の人間に対して失礼極まりない。なんてデリカシーの無い男なのだろう。
「どういう意味ですか?」
怒りを露わにして問う女に構わず、男は本題へと話を移した。
「さっそくですが、例の写真を拝見させていただけますか?」
不機嫌ながらも女はバッグから一枚の写真を取り出し、目の前の男へと手渡した。
その写真には小さな女の子とその母親らしき女性が写っている。
「なるほど……モデル級の美人とはお姉さんの事だったんですね……」