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講評。

2003字。語りの出来は精良であった。
「喜劇、言い逃れを多用する不倫もの」が課された作品だ。

作者には前回から一貫して、情報効果の測量および統御、その勘所を掴むことを求めており、
今回の課題は、読者の愉悦を引き出すという主題を以ってして、情報操舵の能力を確認・向上させんとした。

不倫している夫とその妻、といった題材を用いて読者を笑わせる展開の常套としては、
不倫を露見させそうになった夫が無理な言い逃れを繰り返し、知らず袋小路に入り込む、
或いは、不倫の事実を知らない妻の何気ない言葉が辛辣な意味と成って夫を戦慄させる、等の構成が見られる。

これら作中人物の間抜けさを笑う愉悦は、人物らの知らない情報を「観察者」となった読者が知っている、その差から生ずる。
喜劇の大きな勘所の一つは、すなわち観る側を情報優位とする点にあるのだ。
喜劇の作者が如何なる情報の差を作り、如何に転がし、どの時点まで引き付け差を破綻させるか、その見立ての正確さによって作品の力は計測される。

さて、上記観点から見たとき、提出作品の序盤は、語り手となった猫が「観察者」の役割を果たしたと言えよう。
不倫の言い逃れ等という事態は当事者には笑えない訳であるから、読者の視点を第三者にセットした作者の選択は正しい。
しかし作中、夫と妻の諍いは、情報差を生んだものの十分な諧謔を含む域までは転がされない。
この「転がし」が難関であったか、猫の変貌をもってして怪談の色を濃くする展開は窮余の策に思われた。

期限遵守のためか、課題を掻い潜った弊害と言わざるを得まいが、作品を怪談と見ても、夫婦のライトな諍いに中盤以上を尽くした構成配分は筋悪である。
ただし評価基準は「読者の情動を喚起するための緻密な情報の戦略」でもあったから、序盤の視点選択、
「長く生きてると」「長生きすると」「皿の油に顔を突っ込もうとして」などの伏線演出を部分的に評価し、課題は五割の達成と判定した。

作者は、読者の目を愉しませる技能を持っている。それはスレッドの反応から十分に自覚できるであろう。
自信にして良いのだが、その筆致は、読む者の心に作品の動きを伝導するに至って初めて真価を持つものだ。
次の課題には「災害、悲恋もの、2500字程度」と大きな枠を提示する。作者には、読者の反応に集中した作品を引き続き期待する。期限は二月十五日まで。