魔導戦士の俺、失業する!

長きにわたる魔族との戦いが勇者率いる王国魔導軍の活躍により集結して早1ヶ月、人々の生活は平穏を取り戻していた。ただ俺を除いて…。

ここは王都ゴチャンネルの外れ、スラムの一角にあるボロい3階建てのアパート。
1階には偏屈な婆さんが営む魔法武具店があるが客が来たのを見たことはない。
その3階に俺の部屋はある。今にも崩れ落ちそうなゴテゴテとした外観の期待を裏切らない茶色く汚らしい内装。
部屋の壁や天井には8本足のゴキブリチョンモドキが走り回っておりとても人間の住める環境ではない。
しかし窓の外へ目を移せば朝日に照らされた白壁が美しく王城が遠くにそびえ立っているのが見える。
王都広しと言えどもこれほど眺めの良い部屋に住んでいる人間はなかなかいないだろう。
今日は快晴。街は平和だ。さて、通りの向かいのカフェでモーニングでも飲んでくるかと部屋を出たところで、背丈60センチほどのゴブリンと出くわした。
王都の郵便屋さんだ。
「郵便でごわす」
そう言うとゴブリンは羊皮紙の手紙を俺に渡し、ちょこちょこと短い脚を動かして5歳児のように階段を下りて行った。
下級魔導戦士の俺に手紙が来るなんて珍しいこともあるものだ。しかも封には国王ワトキンス家の紋章。
俺の手は期待と不安でワナワナとふるえた。
「もしかして、魔王討伐の功績を認められて王城召喚とか……?」
そんな淡い期待を抱きながら恐る恐る封を切る俺。

下級魔導戦士ナロウ・アンカラノベ殿
この度の対魔王戦争における貴殿ら魔導戦士の尽力と活躍に大変感謝する。
君たちの活躍なくして現在の平和はあり得なかったと信ずる。
ゆえにここに感謝状を贈った次第である。
そうは言っても先の戦争により王国の財力が著しく消耗したこともまた周知の事実であり、ついては下記の組織を来月までに解体することをここに通知する。
王国魔導群
王国歩兵団
王国戦車団
以上の組織に属する者は王国より配給されていた魔導武具ならびに魔導武器を速やかに返却すること。
                             王国軍編成人事課

俺は驚きのあまりアパートの薄暗い廊下で手紙を見つめたまましばらく動けなかった。
そして魂の抜けたような身体でゆらゆらと部屋に戻るとベッドにうつ伏せでドサッと倒れ込んだ。
「こんなことってあるかよ。命がけで王国のために戦った戦士への報いが、これか?」
ゴロッと寝返りを打って天井を見つめているとかつての戦友の顔が思い出された。
『ナロウ!俺はもうダメだ、お前は先に行け!そして生きろ!王国の未来を!」
その未来がこれですよ。なーんか全部バカらしくなっちゃった。


誰か続き書いて。