【TRPG】バンパイアを殲滅せよ【現代ファンタジー】 [無断転載禁止]©2ch.net
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こんな風に男の人に抱き付くの、初めてかも。
ホントよ?
正直に言うとね? 過去の諸々はぜんぶ打算。医者として勇気づける為とか……ヴァンプに変えて欲しいからとか。
でもこれは違う。さっきから何度もドキドキして落ち着かなくて、そしていま触れ合ってみて、「この人だ!」って思った。
歯止めなんか効かない。吸血鬼になって、奴らに殺される事になっても後悔しない。
いまこの時を逃したら、もう二度と会えない。そんな気がして。
だからストレートに聞いちゃった。あたしの事好き? って。
「え?」
「許嫁とか抜きにして、好き? 嫌い?」
「……困ったな。少なくとも嫌いじゃないけど」
困ったなんて嘘。眼が黄金(こがね)に染まってるもの。鼓動がはっきり伝わってくるもの。
……必死に唇を噛みしめて、何かを――たぶん牙を隠そうとするその仕草、裕也もしてた。
彼は言ってたわ。血の欲求は性の欲求に勝るって。そんな人が、相手の血を吸わずにいられる理由(わけ)。
それはその相手をとても――大切に思ってるからだって。
いきなりきつく抱きしめられた。
もう駄目。止められない。
無我夢中で求めあう二人きりの時間。針が時を刻む音。これ以上の時があたし達にあるかしら?
息をはずませ、でも彼は冷静さを無くさない。それともまた……装ってるだけ?
部屋の外には決して漏れない二人の会話。
そうよね、内緒話にはもってこいの体勢だもの。
「沢口が何をしても、何を言ってきても……抵抗しないでくれないか」
「……どうして?」
「わたしは一族を守りたい。そのためには血を流さずに交渉する必要があるんだ」
「……その大事な仲間の中に……あたしも入ってる?」
「そりゃあ朝香は……田中さんに頼まれた人だから……ね」
頼まれた人だなんて。
でもあたしの事を「朝香」って呼んでくれた。照れた顔なんかしてる。
ほんと言うとあたし、ちょっぴり期待してた。その気になってくれないかなって。でも彼は最後まで「血の欲求」を抑えてのけた。
手首に嵌められた銀の手錠が痛むみたい。そっと触れたら、フッと息をついて。
「そのままずっと握ってて」、だって。 熱を持った赤い手錠が、ヒンヤリとした冷たさを取り戻した、そんな時だったかしら。
ドアが叩かれ、勢いよく開かれたの。
んもう……デリカシーも何もあったものじゃないわ! 返事も待たずに開けるなんて!
「容体は戻ったようですね。まさかここで……お楽しみとは」
――えっ!? どうして解ったの!? って、あはっ! あたし、シャツのボタン全開だった!
慌ててボタン留めて、髪を撫でつける。
でも菅さんったら、あたしと違ってぜんっぜん悪びれないの。
スッと立ちあがって、ベルトのバックルをカチャッと嵌めながら沢口を見返して、「なにか問題でも?」なんて言い返したりして。
沢口は菅さんの顔睨みつけたまま、後ろの黒服達に顎をしゃくった。
「調べて下さい。首に痕(あと)がないかどうか」
怖い顔したそいつらが駆け寄って来て乱暴に腕を掴んだわ。
髪掴まれて仰向けにされて、そして上から順番にブラウスのボタンを外されたの。
奴らの視線が首や胸元に集まって鳥肌が立ったけど……でもあたしはされるがままにさせた。菅さんの言いつけどおりに。
男達が沢口に向きなおって、首を横に振る。
まさかって顔した沢口があたしと菅さんを見比べて、そして何故だか勝ち誇ったような笑みを浮かべて。
「一緒に来て貰いますよ。貴方の……最後の晴れの舞台だ」
背筋を伸ばしてネクタイを正した菅さんの肩と腕をガッチリと掴まえる男達。
後ろ手に手錠の金具を止められた彼の眼がチラリとあたしを見る。
あたしは……軽く頷いて見せた。 午後1時。
姫の背中に乗っかって広場のど真ん中に陣取った俺は、右耳に装着している無線の通話キーを押した。
敷地外があんまギャアギャアうるせぇからよ。
『ボス、こちら如月だ。外で騒いでる奴らどうすりゃいい?』
『こちら沢口。報道関係者か?』
『そうだ。カメラと記者がウヨウヨ居やがる』
『入れてやれ。今から菅を連れて外に出る』
『正気か!? ここ、戦場だぜぇ!?』
『昼間に出歩く個体は限られている。いいか? 参議院側昇降口だ。我々を優先して報道するよう伝えてくれ』
あんまり楽観的で寒気を覚えたぜ。
確かに昼も夜も動けるヴァンプは希少だ。伯爵、司令、桜子、3体の他に確認はされてねぇ。
桜子は死んだ。司令は例の作業に没頭中。
だが余裕かましても居られねェ。日本は広ぇし、サーヴァントってもんも居んだぞ?
伯爵もだ。沢口は対ヴァンプ用の拘束具って奴を信用しすぎてね? クソったれ伯爵自身が開発したワッパ(手錠)をよおぉ。
『どうした伍長。返答しろ』
『……了解だ。だが後悔すんなよ』
今度は左耳のキーを押す。各小隊長とリンクする無線の方だ。
『如月だ。門番、聞いてるか?』
『こちら、門前の第2小隊、指示をどうぞ』
『報道入れろ。伯爵の野郎を全国の皆さまにお見せするんだとよ』
『……了解しました。彼らの入場を許可します。護衛付けますか?』
『んなコトしたらキリがねぇ、自己責任って言っとけ。サーヴァントは入れんなよ? 以上だ』
『了解。門を解錠します』
門が開く音がしたと思ったら命知らずどもがドっと押し入ってきやがった。
TVじゃ馴染みのアナウンサーに、でけぇカメラ担ぐカメラマン、長ぇマイク持った音声。
NNK……朝テレ……帝都にスポーツ……っておいおい……! スマホかざしたパンピー(一般人)まで入ってきてんぞ!?
正門近くで待機する結弦がこっちうかがってやがる。
隊員らの視線が一斉に俺を向く。第2小隊長は応答しねぇ。対応に追われてんだか、騒ぎに巻き込まれたんだか、
……沢口の事言えねぇぜ。NNKに限定すりゃ良かったのよ。
「本業以外は出てけ! 物見遊山じゃねーぞ!!?」
って怒鳴りつけたが何の効果もありゃしねぇ。
俺や兵士にマイク向ける奴、議事堂背景に自撮りする奴。状況解ってんのか?
歓声が上がった。見りゃあ昇降口んとこに、沢口と黒服の男どもと……あの伯爵が立ってやがる。 フラッシュの眩しい光が網膜を貫いた。たまらず顔をそむけ、眼を閉じる。
すぐ横で張り上げられた沢口の声。
「吸対法に基づく『緊急事態宣言』によりこの場を預かりました、防衛省副大臣 沢口憲一です。
事前に申し上げた通り、ヴァンパイアの首魁――伯爵と呼ばれる個体の捕獲に成功致しました」
沢口の口上に場が静まる。彼に促されたのか、両脇の男達が後ろ手のままのわたしの身体を前方へと押しやる。
ざわめき立つ群衆。
「副大臣! こちらは厚生労働相の菅公隆氏ではないですか!?」
「この方がヴァンパイアの伯爵だったという事でしょうか!?」
再び焚かれる無数のフラッシュ。
……やめてくれ。霞の向こうから光を届ける……あの太陽の方がまだマシだ。
「御察しのとおり、菅公隆厚労大臣がヴァンパイアであり、その統領でした。我々も驚きを隠せずに居る次第です」
「本当に菅大臣がヴァンパイアなのですか!? 根拠はあるのですか!?」
「彼自身が認めています」
「ヴァンパイアは昼外に出られない筈では?」
「弱点を克服した幹部に関してはその限りではありません。現在、2体の個体が陽の光に耐性を持つと報告を受けています」
再び静まり返る記者達。慌てて下がる者も居る。当然だろう。ヴァンパイアの怪力と性質は広く知られている。
「大丈夫なのですか!? 彼をこの場に置くのは危険ではありませんか!?」
「御安心を。この拘束具はヴァンパイアの弱点である銀を使用したもの。人並み以上の力は出せません」
沢口がわたしの背を記者達に向けて見せながら説明する。
感嘆の籠もるどよめきと共に、彼らの眼がこの手首のあたりに集中する。
カチャリと鳴る冷たい金具。……決していい気分じゃない。
「報道関係の方々、陽が沈めば奴らも動く。ここが戦場となる可能性がある。しかしあの陽が高いうちは――安全です」
「今後の彼の扱いはどうするのですか!? ヴァンパイアとは言え、閣僚の一員であった菅大臣を簡単に処断出来るのですか!?」
「それについては菅大臣もとい菅伯爵殿がご自身の進退についてご説明致します。皆様のご質問に答える準備もあるとの事です」
わたしはさらに一歩、前に出た。いきなり強く背中を押されたんだ。
よろめいて膝を突くこの両肩を抑えつける男達。
言葉とは裏腹な手荒な扱い、このわたしに対して……こんな屈辱的な格好を強いるとは。
……見ていろ。思う通りになどさせるものか。 容量が尽きましたので、創作発表板での活動を終了いたします。
以下、下記のスレッドが投下場になります。
終わりまであともう少しではありますが、引き続き御愛読のほど、宜しくお願い致します。
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/9925/1488064303/ 伯爵はこのピンチをどう切り抜けるのか!?
いまだ明かされぬ田中社主の正体とは!?
次回、「柏木局長がもたらした福音」をお楽しみに!! 浅香「なんであたしが予告に出ないのよ! ちょっと! 聞いてる!?」 結弦「……先生はまだいいです。僕なんかすっかりNPC化しちゃって」 浅香「知らないわよ! 娘ちゃんの事忘れちゃった最悪パパの事なんか!」 結弦「え!? 娘って……だれ? ……あ……あたまが……急に……」
浅香「いっけなーい!! このままだとネタばれしちゃうわ! なに!? こんなに頑張ってるのに、どうして落ちないのよ!」 菅「それ以上の発言は慎んでもらえますか? 浅香さん?」
魁人「伯爵! てめっ!」
菅「君も居たのか」
魁人「てめぇこそ、とっ捕まったくせにシャシャり出やがって!」
菅「……この汚い手を放すんだ道産子が」
魁人「んだとぉ……北海道バカにしたな? いいトコだぜ? 俺の眼がいいのはあの広大な大地のお陰だぜ? ついでにイモも旨い」 菅「残念だが、人間の血液以外に食指が動かないんでね」
魁人「……ほんとかあ? じゃああのネズミとコウモリどもはどうなんだ?」
菅「……は?」
魁人「チューチュー吸ったんだろお? 毛むくじゃらのネズミのをよ? ネズミだけに、ちゅーちゅーってな!」
菅「……貴様。わたしの可愛い……アルジャーノンを愚弄する気か?」
魁人「喧嘩売ったんはそっちだろ! オモテ出やがれ!」
菅「……望むところだ」 パリッと糊のきいた黒いタキシード。
麻生君、相変わらずそういうカッコ、似合うわねぇ……
あたしは彼をぼんやり眺めてた。
マイク片手に、「お忙しい中ようこそ」とか、「癒しとなれば幸い」とか言うのを。そして「5曲続けてお聴きください」って。
舞台袖からトコトコ歩いてきた秋桜ちゃんが、彼からマイクを受け取って。
「続けて」って事は、一曲弾くたびに拍手しなくてもいいって事よね?
うっかり寝ちゃっても怒られないって事よね?
え? どうしてそんな事って……ほら、クラシック、しかもピアノの曲とか……ついウトウトしちゃうじゃない?
しちゃうわよ〜
知らない曲は特に。別に退屈とかそんなんじゃなくて、子守唄にしか聴こえないから?
小さい時からそう。
起きてる自信なんかこれっぽっちも。
ほらね、初っ端からこれだもの。透き通るような硬質の……キラキラした音。それがもう……こんなに……遠い。
気付いたらあたし、湖の畔に立ってた。
……また来ちゃった。
あの時。桜子さんのピアノの音を、舞台袖で聴いた、あの時。
灰色の空に、一面の湖面。深い……どこまでも深くて青い湖。
ぐるりとあたしを囲む水平線。もしかしてこれ、湖じゃなくて……海?
どこか遠くで鳴るピアノの音。
音に合わせて、ひとつ、ふたつと重なる波紋。
波間から垣間見える水の底で……誰かが呼ぶの。
ここがあたしの帰るべき場所だって。
足を踏み出す。
あの時は、柏木さんに肩をギュッとされて我に返ったっけ。
触れた水は冷たくなんかなくって。あたたかで。
どんどん身体が沈んでいくのに、まるで抵抗がない。
すっごく馴染む。まるで、自分自身の体液にでも漬かってるみたいに。
でもね、あわや首までって時に、ぐっ! っと左手を掴まれたの。
気付いたらあたし、びっしょり汗をかいて座ってた。
眩しい舞台のライト。
ここはコンサートホール。
光の粒を照り返すグランドピアノ。
座ったまま、手を膝に置く麻生君。
隣を見れば……あたしの手を握りしめたまま……じっと前を向いてる田中さん。
どういう状況かしら。
あたしが居眠りしてる間に、終わっちゃったのかしら。
にしてはおかしいわ。
誰も拍手しようとしないもの。
感動しすぎて……って理由にしても、タメが長すぎない?
そう思って見回せば、座る人達がみんな、舞台を見たままボーっとしてる。
田中さんの向こうに座る、宗とハムくん、そのまた向こうに座る魁人も同じ。
まるで人形みたいに、眼を見開いて。
あの時と同じだわ。
あの時も、桜子さんの音を聴いた人達がこんな――
『音ってもんは……恐ろしいもんや……』
ボソリと呟いた田中さんが、そっとあたしの手からその手を離した。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています