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ジャスティスバトルロワイアル Part3
0001創る名無しに見る名無し
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2010/11/23(火) 23:12:03ID:1WfGSVzJ
1 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2010/09/04(土) 19:25:00 ID:uDrCIUCg [1/6]
「正義と悪はどちらが強いのか」
そんな単純かつ深淵なテーマを元にバトルロワイヤルを行うリレー小説企画です。
この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14034/

まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/justicerowa/pages/1.html

前スレ
ジャスティスバトルロワイアル Part2
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1283595900/
0373創る名無しに見る名無し
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2011/06/25(土) 15:24:01.12ID:t+c64e1C
予約キター
0374 ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 14:55:35.87ID:qpkOTcwO
黒神めだか、衛宮士郎、ヨハン・リーベルトを投下します。
0375正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 14:58:14.81ID:qpkOTcwO


1/喪失『私にとって必要な――――』


 ――――放送が終わった。

 告げられた死者は十二名。その中に、自分の知人はいない。
 だが、それは決して喜ぶべき事ではない。
 たった六時間。それだけの間に十二人もの人間が死んだのだ。
 その中に、誰かにとっての大切な人が入ってない方がおかしく、そしてそれは――――

「…………ぜん……きち……?」

 複数人で行動している自分“たち”でさえ、例外ではない。

 黒神めだかが、茫然と立ちつくしていた。
 あの毅然とした態度の面影は何処にもない。
 どこにでもいる当たり前の少女の様に、ただ静かに涙を流していた。

「……黒神…………」
 その様子を見ていられず黒神に声をかけるも、言葉が続かない。
 大丈夫か。などとは口が裂けても言えない。
 確認するまでもない。

 彼女は――――大切な誰かを失ったのだ。

 ニナもそれを判っているのか、声をかける様子はない。
 朝焼けを迎えるカフェテリアは、ただ静かに、声無き慟哭を響かせていた。



0376正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:00:48.33ID:qpkOTcwO


「すまない、迷惑をかけた」
 あれから数分。動揺の落ち着いた黒神は、静かにそう言って謝った。

「気にしなくていいって。それより、もしまだ辛いなら休んでていいからな」
「そうですよ。無理をして体を壊してしてしまっては元も子もありません」
「……心遣い、感謝します。けれど休んでいる暇はありません。これ以上誰かを死なせる訳にはいかいきませんから。
 大丈夫です。いきなり倒れるようなへまはしませんので」
「……わかった。けど無茶だけはするなよ。限界だと思ったら、無理やりにでも休ませるからな」

 黒神に今までの覇気はない。だが、今はこれ以上休めと言ったところで黒神は聞かないだろう。
 それに、何かをしていた方が心を紛らわせる事も出来るだろう。
 心配は拭えないが、それなら無茶をし過ぎないよう俺が気をつけていればいいだけだ。


 黒神が頷いたのを確認して、今後の方針を練る。
 本来、こういったリーダーシップを執るのは黒神の方が得意なのだろうけど、今の彼女にそれは酷だ。

「それじゃあまず今後の方針についてだけど、二人とも、放送に関して何か気付いた事はないか?」
 今の黒神がいる状況では聞きづらいが、それでも聞かなければならない。
 この殺し合いを止める為には、今はすこしでも情報が必要だ。

「私からは特にない。ただ、あの放送は『嘘』ではないだろう。
 ………何故なら、嘘をつく意味が………無い………」
 絞り出すような声。
 きっと彼女は、何度も放送が嘘である可能性を何度も考えたのだろう。
 その上での断言。絞り出すような声は、信じたくないと思う心の、せめてもの抵抗だ。

 強いんだな、と。
 誇張でも何でもなく、純粋にそう思った。
0377正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:01:34.36ID:qpkOTcwO


「ニナの方はどうだ? 何か、気付いた事とかあったか?」
 ニナの方へ向き、問いかける。
 放送が流れた瞬間は黒神に気を取られていたが、今見た限りでは、ニナに黒神の様な悲しみの色は見られない。

「私の方もありません。ただ……」
「ただ?」
 何か思い中る事でもあったのか、言葉尻を濁す。

「ただ、テンマと呼ばれた方の事が気になったんです」
「気になるって、知り合いなのか?」
「いえ、放送で聞こえた声は違います。
 私の探している人は天馬賢三と言う人ですが、放送の声の人ではありません。
 ただ、名簿にはテンマと呼べる方が二人いますので、もう一人の方ではないかと」
 言われて名簿を確認すれば、成る程、確かに “テンマ”が二人いる。

「………なあ。この天馬賢三って人、ニナの彼氏か?」
 天馬賢三の名前を言った時のニナの表情が気になり、つい思った事が口から出てしまった。

「――い、いえ。違います! 確かに私の恩師とも言える人ですけど、恋人ではありません」
「そ、そうか。悪い、変に勘ぐっちまった」
 驚いたような顔をしながらも、両手と首を振ってニナは否定した。
 ニナの表情がどこか大切な人を見るようだったのでそう思ったのだが、どうやら思い違いだったらしい。

「そうだぞ、衛宮上級生。女物の服を着ているが、彼は男性だ。
 天馬賢三という人は、はその名前から察するに男性だろう。彼が同性愛者でもない限り、恋人と言う事はあるまい」
「――――――――!」
「…………へ!?」
 黒神の言葉に、思わず声を失う。
 それはニナも同様で、目を大きく見開いて驚いている。

「それ本当か? ニナさんが男性だっていうのは」
「……ええ、本当です。実は私、家庭の事情で女性として育てられていたんです。
 けどよく判りましたね。私が男性だと気付く人は滅多にいないのに」
「確かに私も最初は女性かと思ったが、こうして向かい合えばすぐに判る」
「いや、それは黒神だけだと思うぞ?」
 黒神の思わぬ観察力に驚きつつも、それをまったく自覚していない発言に思わず呆れた。



0378正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:02:47.46ID:qpkOTcwO


「では、今後の方針は昆虫男と学生服の少年の行方を捜索しつつ、放送の有った現場の探索をする。これで問題ないな」

 時間が経って、ある程度調子を取り戻した黒神が仕切る。
 その言い方は俺を諫めているようでもある。

 いや、事実諫めているのだろう。
 ジョーカーを殺さなければならないと考える俺と、誰であっても殺す事を良しとしない黒神。
 お互いの目的は同じで、その差異はおそらくたった一つ。
 だが、その一つが致命的な違いとなっているのだろう。

「ああ、俺は問題ない」
 放送は気になるし、当然学生服の安否も気になる。
 黒神の言った行動方針に異論はない。

 現状、たった一つの致命は明確な問題とはなっていない。だが、いつそれが表面化するかも判らない。
 それが問題となって救えぬ誰かを出す前に、近い内に必ず解決しなければならないだろう。


 しかし、それでも疑問は残る。
 どうして俺は――――黒神めだかの事が、こんなにも気にくわないのだろう。



0379正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:04:04.18ID:qpkOTcwO


「人吉善吉さんとは、どんな人だったのですか?」
 行動方針を決め終え、出発の準備を整えていると、ニナが唐突にそんな事を訊いてきた。

「――――! ち、ちょっとニナさん!」
「構いません。……いずれは、話さなくてはいけない事ですから」
 思わず声を荒げるが、黒神は首を振ってそれを止めた。
 彼女も解っているのだろう。どれだけ話を先延ばしにしようと、結局のところ、いつかは絶対に話さなければならない、ということに。

「一言で言ってしまえば、善吉は「私にとって必要な人間」でした」
 そう言って黒神めだかは、心を静かに、遠くを見つめ、想いを馳せた。


「私と善吉は、いわゆる幼馴染だった」
 彼と初めて会ったのは、十五年前。私と彼は、それからずっと一緒に居た。
 そしてこれからも一緒に居るのだと、理由もなく思っていた。

「私は成長の速い子供で、人より多くの事が出来た。
 だからその分、人より多く頑張って、人より多く成果を出してきた」
 そしてその分。人は私を恐れ、私から離れていった。

「そんな私について来れる人など、そうはいなかった。
 それでも善吉は、文句を言いながらも傍にいてくれて」
 誰よりも“完璧”だった私は、誰にも心配される事はなかった。
 そんな中、彼だけが私を心配してくれた。

「善吉がいなければ、私は「私」には成らなかった。
 善吉がいなければ、私は別の「何か」に成っていた」
 人生に意味など無いのだと。そう諦めていた私に、夢をくれた。

「だから善吉は、「私にとって必要な人間」でした」
 彼に初めて会ったとき、私は彼に救われた。

 “きっときみは、みんなを幸せにするために生まれてきたんだよ!”

 だから私はその言葉を私の目標にして、その言葉に恥じないように生きてきた。
 だから私は、彼に恥じない様に、これからもそうやって生きていくのだとに誓った。
 だから―――
0380正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:07:07.05ID:qpkOTcwO

「――――黒神さん。善吉さんに、会いたくはありませんか?」
「――――え?」
 だから黒神めだかは、ニナ・フォルトナーが言った言葉を、理解する事が出来なかった。

 会いたくない訳がない。もし会えるのなら、何をしてでも会いたい。
 けれど善吉は死んでしまって、もう二度と会えない。
 そんなわかり切ったことを、彼はどうして訊くのか。

「会わせてあげましょうか?」
 そう、まるで天使が囁く様な声で、ニナが言った。
 ガチリ、と何かしらのギミックが軋む音が聞こえた。

 テレビや映画などで聞き慣れたその音に、背筋が凍りつく。
 その音に、ニナの言葉に混乱した黒神は気付いていない。

「黒神、危ない!」
 咄嗟に黒神を抱き込み、床へと伏せる。直後、銃声が二度響いた。
 躱し切れなかった銃弾がデイバックへと当たり、その中身を巻き散らかす。
 続く銃撃はない。いまだに混乱している黒神を庇いながら、凶弾の撃ち手へと目を向ける。

「ニナさん。あんた、一体どういうつもりだ」

 そこには、右手に警察が持つような拳銃を構えた、ニナ・フォルトナーがいた。
 その表情は変わらず笑顔のまま。その事実に、感情が冷えていくのが実感できる。

 ニナは拳銃を構えたまま、微動だにしない。
 拳銃の性能をよく理解しているのか、避けるには近く、攻めるには遠い距離を維持している。

 手の届く範囲には地図やメモ帳など、ただの紙切れしかない。
 武器や盾になりそうな物は、どれも一歩以上の距離を必要とする場所に落ちている。

 つまり手詰まり。普通の人間には、どうする事も出来ない状況だ。

「なんでこんな事をした」
「ああ、それはね、彼女が“僕”を知ってしまったからだよ」
「僕を……知った……?」

 その答えに首をかしげるが、すぐに続きが来た。
 即ち、ニナ・フォルトナーの目的だ。

「僕の目的はね、『完全なる自殺』なんだ。だから、少しでも“僕”のことを知っている人間は、全て殺さなきゃいけないんだ。
 それなのに彼女は僕の性別に気付いてしまった。なら、もし“本物のニナ・フォルトナー”に出会ってしまえば、僕の正体に気付いてしまうかもしれない。
 だから、あなた達には死んでもらわなくちゃいけないんだ」
「…………そうか」
「それじゃあ、出逢ったばかりだけど、さようなら」
 声は酷く淡々としている。
 それはニナ・フォルトナー――名前も知らない男にとって、当たり前の事なのだろう。
 それを証明するかのように、男は水鉄砲でも撃つかの様に、あまりにも軽く引き金を引いた。

 朝のカフェテリアに似つかわしくない、乾いた音が再度響き渡った。
0381正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:08:12.17ID:qpkOTcwO


 ―――直前、

「―――同調(トレース)―――」

 既に準備の出来ていた魔術回路をスタートさせる。
 床に放り出された地図を拾い眼前へと広げ、強化の魔術を叩き込む。

「―――完了(オン)―――!」

 防げるはずのない銃弾を防ぐ。
 当たり前の物理法則を無視して火花が飛ぶ。
 魔力を籠め過ぎたのか、鋼鉄並みに強化された地図が千々に破け散る。

 戦闘開始だ。舞い散る紙片が床に落ちる前に、俺は敵へと駆け出した。


2/行動論理『なまえのないかいぶつ』


 男が銃を撃ちながら、逃げるように後退する。
 途中に在った白と黒の二つの短剣を拾い、弾丸の射線上に置く。
 拳銃から撃ち出された弾丸は、当然の様に弾道を遮った白い短剣に防がれた。


 衛宮士郎は弓において射を外した事は一度しかない。その一度も、予め外れる事が判っていた。
 それはつまり、自身の矢が何処に中るかを予測できるということ。
 逆に言えば、他人の矢でもある程度は何処に中るか予想できるということだ。


 続く弾丸も黒い短剣で弾く。
 敵との距離は残り三歩。
 その時点で見切りを付けたのか、男は銃を手放すと、デイバックから黒い剣を取り出した。
 柄尻から切っ先までを漆黒に染め、赤い文様を脈打たせるソレは、その外見とは裏腹に、どこまでも尊い魔力を纏わせている。

 ――――おそらくは宝具。
 聖杯戦争におけるランサーの槍と同じ、“貴き現想(ノーブル・ファンタズム)”。
 その切れ味は、そこら辺の名剣など足元にも及ばないだろう。
 たとえ持ち主が素人だろうと、その脅威は推して余りある。
 だが――――

「………っ!」
 振り下ろされた剣を正面から受け止める。
 受け止めた剣には、亀裂一つ入っていない。
 男の方から驚きの声が聞こえた。
0382正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:09:29.36ID:qpkOTcwO


 驚く事ではない。
 相手の剣が宝具なら、こちらの剣もまた宝具。
 聖杯戦争においてアーチャーが用いていた、錬鉄の夫婦剣。

 陰剣莫耶、陽剣干将。
 際立った能力こそないものの、剣としての頑丈さは折り紙つきだ。
 たとえその剣がどれほどの名剣でも、一撃二撃で砕かれる事はない。


 驚愕の間に、男の剣を弾き飛ばす。
 不意を突かれた男は容易く剣を手放し、その身体を曝け出した。
 そこに渾身の力で体当たりを入れる。

「ぐうっ………!」
 男は壁に叩きつけられ、呻き声を上げる。
 即座に干将を男の肩ごと壁へと突き刺す。
 そしてもう一方の莫耶を、男へと突き付ける。

「一つ、聞かせろ。お前は今までも、そうやって人を殺してきたのか?」
 身動きの取れない男は、きょとんとした顔をしたあと、すぐに笑顔へと変わった。

「うん、そうだよ。僕は“怪物”だからね。“怪物”が人を殺すのは、当然の事でしょう?」
「……………………」
 当然の様に返された返答。それで理解した。
 こいつもジョーカーと同じ壊れた人間なのだと。
 つまりは、殺さなければいけない“悪”だということを。

「悪いな、俺はお前を殺さなくちゃいけない」
「それは、なんでかな?」
「俺は“正義の味方”だからな。当たり前の様に誰かを傷つけるヤツを、許す訳にはいかないんだ」
 俺にとっては決まりきった回答。
 男にとっては何かが意外だったのだろう。大きく目を見開いている。

「―――ああ、そうか。君も“怪物”なんだね」
「………ああ、そうかもな」
 男は得心がいったように頷き、俺はそれを肯定した。
 なぜなら、


 ――――誰かを救うためならば、俺も、当たり前のように人を殺せるからだ。
  それのどこが、目の前の“怪物”と違うというのだろう。


「じゃあな。別に、恨んでくれても構わない」
「恨まないよ。だって、“正義の味方(ヒーロー)”が“怪物(モンスター)”を倒すのは当たり前の事でしょう?」
 それもそうだ、と頷き、莫耶を振り下ろした。

 莫耶が名前も知らない男へと迫る。
 その白刃は、容易に男の体を切り裂き、その命を散らすだろう。
 男にそれを止める術は無く、また、その意志があるようにも見えない。
0383正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:11:16.55ID:qpkOTcwO


 だがその刃は、男へと届く直前に横から割り込んだ別の刃によって止められた。
 すぐに後方へ跳び、距離を取る。

「どういうつもりだ、黒神」
「どうもこうもあるか! 貴様、今何をしようとした!」
 男を庇いながら黄金の剣を構える黒神を睨み付ける。
 それに対し、黒神めだかは怒りを見せながらこちらを睨み返してきた。
 そこにはやはり覇気はなく、いまだ立ち直り切っていないことが伺える。

「何をって、見たままだが」
「ッ……貴様……!」
「黒神の方こそ、何で邪魔をするんだ。
 そこをどいてくれ。黒神に、そいつを守る理由なんてないはずだろ」
「関係無いと、言ったはずだ」
「………そうか。なら、あんたも敵だ」
 深呼吸を一つ。それで感情を凍らせ、表情を無にして告げる。
 これはいずれ起こった問題が、今ここで起きたにすぎない。

 ………出来る事なら、彼女とは敵対したくなかった。
 だが、こうして問題が表面化した以上、今ここで黒神との決着付ける。



0384正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 15:12:25.03ID:qpkOTcwO


 黒神へと一足で踏み込み、莫耶を振り下ろす。
 狙いは剣を持つ右腕。流石の黒神でもすぐには応戦出来ない。
 腕を狙った理由は、彼女を殺す為ではなく無力化するためだ。
 これまでの行動から鑑みても、今ここで彼女を失うのは惜しい。

「なっ――――!」

 だが、黒神へと振り下ろされた刃は、当然の様に黄金の剣に弾かれた。
 その事に驚きつつも、即座に回り込む様に移動しつつ斬り込む。
 しかし黒神は人間離れした反応速度で、先ほどと同じように短剣を防ぎつつ回り込んできた。

「チィ――ッ!」

 見誤った。
 黒神の反応速度は俺以上だ。

 否。その程度では済まされない。黒神は斬り結ぶ中で、俺の短剣を奪おうとまでしてくる。
 その予備動作すら感じさせない動きは、明らかに人間の限界を超えている。

「この……っ!」

 俺がそんな黒神に対応できているのは、既に俺がサーヴァントと言う“人間以上の存同士の戦い”を見慣れていたのと同時に、精神的な理由からだろう、黒神の動きが精彩を欠いているからにすぎない。

 このままでは勝てない。
 長剣と短剣。反射神経の差。カフェの中という、戦闘を行うには狭い場所。
 それらの要素が、黒神に有利に働いている。
0385正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◆UOJEIq.Rys
垢版 |
2011/06/27(月) 15:13:19.31ID:qpkOTcwO

 後方へと飛び退いて距離を取り、僅かに乱れた息を整える。
 追撃はない。黒神の目的が男を守ることである以上、それは当然だろう。
 こちらの得物が短剣である以上、一刀では足りない。かと言って銃器は持っておらず、仮に持っていたとしても、普通の銃弾では黒神ならば弾ける可能性がある。

 その圧倒的に不利な状況の中、黒神をどうにか退け、男を殺す方法を模索しようとして、

「…………だ」

 黒神が僅かに俯いて、呟くように口を開いた。
 今の彼女に戦う意志はない。否。元より黒神は、戦意など持っていなかった。
 あるのはただ、純然たる疑問だけ。

「なぜだ。なぜ彼を殺そうとする、衛宮士郎!」
「…………、まだそんな事を言っているのか黒神。こいつの行動も、考えも解っただろう。命を狙われたって言うのに、よくそんな事が言えるな」
「そんな事は関係ないと言ったはずだ!
 私は誰も死なせないと誓った! たとえそれが、どれ程の悪人であっても、だ!
 貴様の方こそ、なぜ彼を殺そうとする!」

 黒神の言葉に呆れ、同時に羨ましくも思う。
 俺には、その道を貫き通す事が出来なかった。
 俺に出来た事は、ただ見殺す事だけだったから。

 ―――けど、だからと言って、引き下がる事は出来ない。

「判り切った事を聞くな黒神。そいつはジョーカーと同じで、どうしようもなく壊れた、“救えない人間”だ。どう頑張った所で人殺しを止める事は出来ない。なら、前にも言ったように殺すしかないだろう。
 それともお前には有るって言うのか? この殺し合いを強要された世界で、そいつを抑えながら、誰も死なせずにすむ方法が」
「それは………」
 黒神が口籠る。
 聡明な彼女の事だ。その意味を当然理解しているだろう。


 例えば、ここに銀行強盗と十人の人質がいたとする。
 当然、人質全員を救うことは困難だ。生半可な方法では必ず救えぬ誰かが出てしまう。
 だが、もし仮に人質十人を救えたとしても、それでも救えぬ者は出てきてしまうのだ。

 そう。人質を救われてしまった強盗だ。
 強盗を救うと言うことは人質を見捨てると言うことで、人質を救うと言う事は強盗を切り捨てると言うこと。
 どちらも救う方法など、皆無に等しい。
0386正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
垢版 |
2011/06/27(月) 17:56:03.86ID:Ovu4xDLf
これより、代理投下を行います


 だが黒神は、その両方を救いたいと言っているのだ。
 その過程に、どれ程の犠牲が生まれ得るかを理解したうえで。

「お前だって解っているんだろう、全てを救うことが出来ないって事は。
 ……なら。そいつを生かして余計な荷物を背負うよりも、今ここで殺して身を軽くした方が犠牲も出ないし、より多くの人を救える。
 黒神の言いたい事は解る。けど、俺はお前みたいに、一縷の希望に縋って被害を広げる事は出来ない。
 そんな決断を先延ばしにする弱さが、逆に救えたかもしれない人間を死なせる事になるんだ」
「――――――――」

 放っておけば十人の人が死ぬ。
 それを、予め一人の命を絶つ事で九人を救えるのなら、それこそが最善。
 他の考えは全て打算と妥協にまみれた失策だ。

 黒神の言い分は正しい。
 どちらがより多くを救えるか、という事ではなく、誰かを救うという点で、黒神の願いこそが正しく、それは――――

 ―――それは。
 かつて衛宮士郎(おれ)がずっと憧れてきて、心の奥で、諦めていた過去(げんそう)ではなかったか?

「――――違う。貴方は、間違っている」
「黒神……?」
「私は犠牲など出させない。
 貴方の方こそ、やりもしない内に結論を出す衛宮上級生こそ、弱いのではないのですか」
「っ――――!」

 そうして漸く気付いた。
 多大に共感できる彼女の、いったい何が気に食わなかったのか。
 その答えに。

「私は、自分が“みんなを幸せにするために生まれてきた”のだと信じている。
 だからこそ、たとえ誰であろうと、手の届く所にいる限り絶対に死なせるつもりはない!」
「……………………」

 つまるところ、黒神めだかは衛宮士郎(おれじしん)だったのだ。
 全てを救うのだと、幼い夢を見ていた頃の、理想の具現。
0387正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
垢版 |
2011/06/27(月) 17:56:29.47ID:Ovu4xDLf

「ああ、そうだな――――俺は弱い。
 どうしようもなく弱いから、味方をした人間しか救えないんだ」
「…………?」

 正義の味方は、味方をした人間しか救えない。
 そんな当たり前の事実が、この上ない程に悔しい。

 ――――敵も味方もない。目の前に居る全ての命を救うのだと。
 その、かつてのエミヤシロウが果たせなかった夢を、黒神めだかは掲げている。
 その羨望こそが、この感情の正体だったのだ。

「もし俺が、お前の様に強かったら―――」
 遠い夜空の星を眺めるように、黒神めだかという少女を見つめる。
 そして。


「――――俺は、桜を見殺しにせずに済んだかもしれないのにな」


 そう、心からの後悔を口にした。



3/現実『切り捨てたモノ』


「………桜とは、誰ですか?」
 黒神が恐る恐る、と言った口調で聞いてくる。
 理解しているのだろう。その名前が、“黒神めだかにとっての人吉善吉”だと言うことに。
 黙っている理由もない。むしろ話さなければ、黒神は納得しないだろう。
 故に、真っ直ぐに彼女を見据え口にした。

「…………彼女は―――間桐桜は、年下の後輩で、親友の妹で、俺の妹分で、そして――――」

 俺が守りたかったもの。
 俺にとって大切だったもの。
 失うことさえ、思いつかなかったもの。
 そして―――

0388正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
垢版 |
2011/06/27(月) 17:56:55.75ID:Ovu4xDLf
「――――俺の好きだった女の子だ」

 それを俺は、正義の味方という理想の為に、斬り捨てた。


 黒神は、目に見えて狼狽している。
 その表情は、何か聞き間違いをしたのでは、と疑っているようでさえある。

「………好きだった女の子? それを……見殺した?」
「ああ、その通りだ」
「っ――――――――!」
 息を飲む。衛宮士郎の言葉、その行動に、口にするべき言葉を失っている。
 当然だろう。容易く理解できる事ではない。容易に納得できる事でもない。

 それでも理解しようと――したいと願うなら、

「それは………何故」
 出来る事は、ただ、その理由を問う事だけだ。
 たとえその結果、聞くべきではない事を聞いてしまうとしても。

「―――だって、俺は―――」
 零れ出た己の声は、ただ虚ろな、伽藍の洞を吹き抜ける隙間風のようだった。
 怒りもなかった。悲しみもなかった。当然だ。衛宮士郎の中にはもう何もない。
 あるのはただ、愛した者を切り捨ててまで張り通した、薄っぺらな理想だけ。

「俺は―――正義の味方に―――なるから、だ」

 その空虚な誓いだけが、今の衛宮士郎を生かす全てだった。

「せいぎの………みかた、だと…………?」
 黒神は顔を伏せ、肩を震わせている。
 否応なしに高まる感情を、どうにか抑えている。

「貴様は、そんなモノの為に、自分が愛した少女を、見殺したと言うのか………」
「……………………」
 黒神の問いに無言で返す。
 答えるまでもない、と言外に告げる。
 それを受け、黒神は抑えきれなくなった感情を爆発させた。

「ふざけるな、衛宮士郎! そんなものが“正義の味方”であってたまるか!」
 激情を顕わに、剣を振り上げ斬りかかってくる。
 いや、その表現は正しくない。黒神は剣の刃を向けずに、その腹で叩き付けるように打ち抜いてくる。


0389正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
垢版 |
2011/06/27(月) 17:57:30.73ID:Ovu4xDLf
「くっ――――!」
 咄嗟に短剣で受けるも、その勢いにたまらず引き下がる。
 そこへ、烈火怒涛と黒神の剣が襲いかかる――――!

 繰り出される黒神の剣を防ぐ事しかできない。
 反撃を試みれば、その隙に黒神の剣が躰を打つ。
 いや、そもそも反撃にまわれるだけの余裕などない。
 黒神の剣に込められた力は、莫耶を握る手を一撃ごとに痺れさせる。

 だが決着は、剣を取り落とすより早くついた。
 黒神の剣圧に耐えられず、片膝をつく。
 そこへ、黒神は止めとばかりに剣を振り落とす。

 必倒(そ)の一撃を、莫耶を両腕で支える事で受け止める。
 戦いはそれで終りだ。
 黒神の剣を受け止めたものの、その圧力に動く事が出来ない。
 短剣を支える両腕を僅かでも緩めれば、黒神の剣が俺の頭を強打する。

「ぐ――――づ…………!」
 両腕に力を籠め、黒神の一撃を食い止める。
 額に汗が滲み、呼吸が千々に乱れる。
「――――――――」
 対して、黒神は呼吸さえ乱れていない。
 こと身体能力において、俺は黒神に大きく劣っている。

「――――なぜだ、衛宮士郎。好きな子を守るのは当然の事だろう。だと言うのに、なぜ貴様はその少女を見殺した!」
「……好きな子を守るのは当然、か」

 そう、好きな子を守るのは当然だ。そんな事、俺だって知っていた。
 だが俺は、そんな当たり前の事を、守れなかったのだ。

 両腕に一層力を籠める。
 そのまま一度だけ黒神を見上げ、

「だって、仕方ないだろう。
 桜は外道に堕ちてしまった。自分が生きるために、他者を犠牲にする存在(モノ)になってしまったんだ」

0390正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 17:57:57.03ID:Ovu4xDLf

 真っ直ぐに、昏い目をしてそう告げる。
 魔術師でない黒神めだかに、その言葉を正しく理解する事は出来ない。
 解るのはただ、衛宮士郎が愛した少女が人を殺す存在になったのだと言うことと。
 その言葉に込められた、深い慟哭だけだ。

「―――そこに、桜自身の意思は関係ない。桜の体は、己が生き延びるために桜の心を無視して人の命を喰らっていく」

 俺の前でだけ笑っていた少女。
 その影で、どれだけ泣いていたのかさえ、俺は知らなかった。
 決して声を上げず、顔にも出さず、絶対に知られたくないと願いながら、けれど、それでも助けを求めていたのに。

 ――――先輩。もし私が、悪い人になったら――――

 俺は、何一つ気づく事が出来なかった――――気づこうとすらしなかった。
 そして気付いた時にはもう手遅れで、俺にはどうする事も出来なかった。
 ………いや、気付いた所で、どうしようもなかった。
 桜もそれを分かっていたのだろう。

 ――――はい。先輩になら、いいです。

 桜は言った。俺ならいい。俺にならば、殺されてもいいと。
 それなのに俺は、彼女のそんな願いすら、叶えてやれなかった。
 彼女にとっての最後の救いさえ、与えてやれなかった。
 俺に出来た事は、ただ、彼女の死を許容する事だけだった。

「…………俺には、桜を救う術がなかった。桜の人喰いを止めるには、殺すしかなかった」

 誰かの味方をすることは誰かの味方をしないということで、
 誰かの味方になるということは誰かの敵になるとうことだ。
 衛宮士郎が正義の味方を張り通す限り、間桐桜は、倒さなければならない敵だった。

「だから殺した。誰よりも死んでほしくないと願ったまま、大勢の為に桜には死んで貰った」

 より多くの人を救う為に。十年前の惨劇を繰り返さない為に。正義の味方になる為に。
 顔も知らない誰かの為に――――


 ――――誰よりも愛した少女を、見殺した。

0391正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 17:58:37.48ID:Ovu4xDLf

 真っ直ぐに、昏い目をしてそう告げる。
 魔術師でない黒神めだかに、その言葉を正しく理解する事は出来ない。
 解るのはただ、衛宮士郎が愛した少女が人を殺す存在になったのだと言うことと。
 その言葉に込められた、深い慟哭だけだ。

「―――そこに、桜自身の意思は関係ない。桜の体は、己が生き延びるために桜の心を無視して人の命を喰らっていく」

 俺の前でだけ笑っていた少女。
 その影で、どれだけ泣いていたのかさえ、俺は知らなかった。
 決して声を上げず、顔にも出さず、絶対に知られたくないと願いながら、けれど、それでも助けを求めていたのに。

 ――――先輩。もし私が、悪い人になったら――――

 俺は、何一つ気づく事が出来なかった――――気づこうとすらしなかった。
 そして気付いた時にはもう手遅れで、俺にはどうする事も出来なかった。
 ………いや、気付いた所で、どうしようもなかった。
 桜もそれを分かっていたのだろう。

 ――――はい。先輩になら、いいです。

 桜は言った。俺ならいい。俺にならば、殺されてもいいと。
 それなのに俺は、彼女のそんな願いすら、叶えてやれなかった。
 彼女にとっての最後の救いさえ、与えてやれなかった。
 俺に出来た事は、ただ、彼女の死を許容する事だけだった。

「…………俺には、桜を救う術がなかった。桜の人喰いを止めるには、殺すしかなかった」

 誰かの味方をすることは誰かの味方をしないということで、
 誰かの味方になるということは誰かの敵になるとうことだ。
 衛宮士郎が正義の味方を張り通す限り、間桐桜は、倒さなければならない敵だった。

「だから殺した。誰よりも死んでほしくないと願ったまま、大勢の為に桜には死んで貰った」

 より多くの人を救う為に。十年前の惨劇を繰り返さない為に。正義の味方になる為に。
 顔も知らない誰かの為に――――


 ――――誰よりも愛した少女を、見殺した。

0392正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 17:59:23.92ID:Ovu4xDLf
上はミスです、失礼



 それこそが黒髪めだかが感じた不快感の正体。
 より多くの人々を救う為に、自らの感情を殺して決を下せる、“セイギノミカタ”という理想だった。

「衛宮……………」
 黒神の剣が緩む。
「ふっ――――!」
 その隙に立ち上がり、自由になった足で黒神を蹴り飛ばす。
「っ――――!」
 吹き飛ばされつつも、黒神は危なげなく着地する。
 状況は先ほどと変わらない。
 男を殺そうとする俺と、壁に縫いつけられた男を背にする黒神。
 互いの距離は、またも五メートルほどの間合いとなった。

「……………………」
 黒神に先ほどまでの怒気はない。
 それでも油断なく莫耶の切っ先を突き付け、決別の言葉を口にする。

「俺にはもう、たった一つの理想(モノ)しか残ってない」

 ――――正義の味方になる。

「その為ならば、どんな事でも成し遂げてみせる。それがより多くの人を救う為ならば、悉くを受け入れて、その存在を切り捨てよう」
「………衛宮………お前は、本当にそれで――――」
「その為に、たとえこの世の全ての悪を担うことになろうとも―――構わない。
 それでより多くの人が救えるのなら、俺は喜んで引き受ける」
「…………ッ」
 黒神が息を飲む。
 その言葉の重み、そこに込められた意志と覚悟を、否応なしに理解させられた。
 黒神めだかは、もはや自分に衛宮士郎を止める言葉がない事を理解してしまった。

「―――― I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」

 自然と浮かび上がる言葉。恐らくは衛宮士郎の未来を暗示する呪文を、
 心を静かに、鉄に変えて口にした。

 ――――それで終わり。
 衛宮士郎と黒髪めだかの道は違えた。きっと二度と、同じ道を歩くことはない。
 同じモノを夢見た少年と少女は、今ここに、完全に敵同士となったのだ。

0393正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 17:59:52.41ID:Ovu4xDLf

4/理想『正義の味方』


 ―――踏み込んだ。

 身体能力で衛宮士郎は黒神めだかに敵わない。それを承知で地面を蹴った。
 勝算はある。
 黒神は俺を殺さない。
 彼女が不殺を謳う以上、どれだけ攻撃を受けようと、死ぬことはあり得ない。
 後はただ、俺の体が動く内に黒神の隙を見つけ、渾身の一撃を炸裂させるだけだ。


 打ち下ろす陰剣莫耶。
 その白刃の刃に必殺の意思を籠めて叩き込む。

 ―――だが。

 渾身の力で繰り出された短剣は、
 渾身の力で止められた。

「……なんで避けようとしない」
 何を思ったのか、黒神は両腕をだらりと下げている。
 攻撃も、防御も、回避すらもする様子がない。
 俺が剣を止めなければ、彼女は確実に首を断ち切られていただろう。

「――――あなたから、攻撃を受ける理由がありません。故に、避ける理由がありません」

 黒髪めだかはそう答えた。
 そのまま右手の剣を手放す。
 手放された剣は、容易く床へと突き刺さる。
 そしてカラになった右手を、俺へと差し出してきた。

「衛宮士郎。確かに私には、あなたの絶望も、覚悟も、その理想にかけた意志の重さも、真に理解することは出来ないでしょう。
 けど、今ならまだ間に合うはずだ。あなたの本当の願いを取り戻せるはずだ」
「……………………」
「あなた一人の力で足りないのなら、私が力を貸します。
 あなたが味方を出来なかった人は、私が味方になって救います。
 私が手伝います。誰も傷つかないように。誰も悲しまないように。誰もが幸せになれるように。
 ……あなたの夢が叶うように。
 だから――――」

 戻って来い、と。
 手を伸ばしている。
 名前を呼んでいる。

0394正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:00:33.81ID:Ovu4xDLf
 孤独の道を歩もうとする俺を、
 黒神めだかは、今なお救おうとしていた。

 貫いた。
 躊躇わず、微塵も情を零さず、黒神の体に短剣を突き刺した。

 抵抗はなかった。
 きっかりと一撃で、黒神の体を貫いた。

「――――――――、―――」

 思い出があった。
 ちゃんと、今でも生きている感情があった。
 忘れようのない、彼女との日々がすぐ近くにあってくれた。

 あの手を取れば、あの優しかった日常に戻れたのかもしれない。
 この剣を下せば、かつての自分に戻れたのかもしれない。
 全てを救うのだと、幼い夢を懐いてたあの頃に。
 だが………それだけは出来ない。


 ――――そんな事は、絶対に許されない。


 俺はこの道を選んだ。
 より多くを救うために彼女を殺した。
 愛した人を、最期まで俺を想ってくれた少女を、理想のために切り捨てた。

 間桐桜。

 俺が、誰よりも救いたいと願った、
 俺には、決して救うことの出来なかった、
 ―――誰よりも、衛宮士郎の近くにいた少女。

 ―――その死を。
 無意味なモノにすることだけは、してはならない。

「――――けど、黒神」

 切り捨てたものに見合うだけの人々を、一生涯救い続ける。
 矛盾は捻じれていく一方で、いつか破綻するのは目に見えている。

0395正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:03:12.77ID:Ovu4xDLf
 それでも――――みっともなく、滑稽で無価値なまま、奪った責任を果たしてみせる。

 結末はきっと、幸福には終わらない。
 ただ、この理想が報われないとしても、立ち止まる事だけはしないと誓う。

「――――ありがとう。お前のようなやつがいてくれて、本当によかった」

 ……剣から伝わる意思が消える。
 黒神めだかは最期までその手を伸ばし、俺の名を口にしながら、その瞳を閉じていった。





 短剣から手を放し、黒神の体を横たえる。
 その様子を見ていた男が口を開いた。

「いいのかい? 彼女、まだ生きてるよ」
「ああ、そうだな」
「止めは刺さないんだ。優しいんだね」
「違うな。これはただの甘さだ」
 そう、甘さだ。
 もし彼女が生き残れば、確実に俺の障害になると判っている。
 判っているのに俺は、彼女に生きていて欲しいと思っていた。


 床に突き立った黄金の剣を引き抜く。それと同時に、その剣の情報が流れ込んできた。

 ―――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”。

 かのアーサー王が担い、そして湖の妖精へと返却されたはずの、最強の聖剣。
 いかなる理由でこれが此処にあるのかは判らない。
 だがこの剣を手にした瞬間。俺の内にある何かが、共鳴するように熱くなったのを感じた。

0396正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:05:20.77ID:Ovu4xDLf
 聖剣を構える。
 黄金の光を放つ刀身は、俺の心を映すかのように、その輝きを鈍らせている。

「Dr.天馬やニナじゃないのが残念だけど、あなたの様な人に殺されるのなら、ぼくとしては上等な方かな」
 お互いに、語り合う言葉はもうない。だからそれは、何の意味もない独り言だ。
 微塵の躊躇も、一切の容赦もなく、聖剣を振り上げる。
 同時に男が、右手の人差し指を眉間に当てた。


「――――あなたには見える……“終わりの風景”が……」

 ――――瞬間、一面の赤い荒野を幻視した。


 赤錆びの様な大地。
 舞い上がる火の粉。
 空では巨大な歯車が軋みを上げ、
 辺りには無限にも等しい数の剣が乱立している。

 それは男が見続けていたモノとは違ったが、間違いなく、一つの“終わりの風景”だった。


 肩からわき腹までを一気に切り裂く。
 せめて苦しまぬようにと、一撃で息の根を止める。

 男はそれを、何の抵抗もなく受けいれた。
 自らを“怪物”と言った男は、どこかあっけなく、その命を終わらせた。
 最期に見たその死に顔は、なぜか、揺り篭で眠る子供のように見えた。





 男のデイバックを拾い、中身を確認して背負う。
 それに散らばった、まだ使える支給品を納めていく。
 当然干将も男の死体から抜き取り、デイバックへと納める。

 そこでふと重要な事に思い至り、聖剣で男の首を刎ねて首輪を取り外す。
 この殺し合いを終わらせるだけでなく、主催者も倒すのであれば、首輪の解除は絶対条件だ。
 今は調べる事が出来なくても、いずれ必ず必要になるだろう。


 最後に一目、黒神を見る。
 黒神は出血が酷く、突き刺さった短剣を抜けば、すぐに出血死するだろう。
 今も息は絶え絶えで、もう長くはないことが容易に理解できる。

 だが、もし生き延びる事が出来たのなら、その道を選べなかった俺の代わりに、その道を歩いて欲しいと思った。
 だから彼女に突き刺さった短剣はそのままに。彼女のデイバックにも手を出さないでいた。

0397正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:07:34.62ID:Ovu4xDLf

 カフェから外へ出る。
 空へと昇っていく太陽が。否。視界に映る世界全てが、どこか色褪せて見えた。

 今後の行動方針としては、まずは可能な限り労力を少なく、ジョーカーを殺せる手段を見つけ出す。
 ライフル系の銃か、なければ弓でもいい。狙撃の出来るモノが望ましい。
 聖剣の真名を解放すれば確実だが、それでは後が続かない。
 この殺し合いに加担する人物がどれだけいるか判らない以上、そんな無駄は出来ない。
 ましてや上には主催者もいる。使うべき時は厳選しなければ。

 デイバックからビートチェイサー2000を取り出し、エンジンをかける。
 説明書によれば、未確認生命体第4号専用に開発されたモンスターバイクらしい。
 だが藤村組にある大型バイクに比べれば、倒れても自力で起こせる分扱いは容易い。
 ……もっとも。その性能を限界まで引き出せるかは、また別の話なのだが。


 アクセルターンで車体を回し、くすんだ太陽に背を向ける。
 ――――さあ、行こう。もう後戻りはできない。



0398正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:32:41.18ID:hGpAD0Ve



【ヨハン・リーベルト@MONSTR 死亡】

【E-6/市街・南西部:朝】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康、魔力消費(小)、鉄の決意
 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ
 [道具]:基本支給品、干将@Fate/stay night、S&W/M37チーフス スペシャル(1/5)@未来日記、ヨハン・リーベルトの首輪、不明支給品(確認済み)0?2
 [思考・状況]
 基本行動方針:“正義の味方”として、あらゆる手段を使って殺し合いを止める。
 1:ジョーカーを確実に殺せる手段を探す。
 2:ジョーカーのような悪人は殺す。
 3:バットマンを探す。
 4:昆虫男と少年のその後が気になる。
 5:エクスカリバーは滅多な事では使えない。だが、必要とあらば………
 6:もし黒神が生きていたら――――
[備考]
 ※参戦時期はBADEND【30】『正義の味方』END後です。
 ※干将と莫耶は引き合っています。


【干将・莫耶@Fate/stay night】
衛宮士郎に支給。
陰陽二振りの夫婦剣。黒い方が陽剣・干将、白い方が陰剣・莫耶。
磁石の様に互いに引き合う性質を持ち、二つ揃いで装備すると対魔力・対物理が上昇する。

【エクスカリバー@Fate/stay night】
夜神粧裕に支給。
“約束された勝利の剣”。聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置する伝説の剣。
所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光によって形成された“断層”を、全てを切断する“究極の斬撃”として放つ。指向性エネルギー兵器とも言える。
伝承にある湖の妖精と同様、善と悪両方の属性を有するため、所有者の属性によってその姿を変える(善は黄金、悪は漆黒、中庸は不明)。

【ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ】
衛宮士郎に支給。
未確認生命体第4号(クウガ)専用に開発したバイク。
最高時速420kmを誇るが、最高時速は制限によって半減されており、
また100km/h を超えると30秒で急停止し、30分間起動不能となる。
始動キーは取り外し可能な右レバー「トライアクセラー」。
これは警棒の代わりとしても使用できる。
0399正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:34:42.64ID:hGpAD0Ve





5/約束『めだかボックス』


 ――――――――気がつけば。

 どこか見覚えのある、けれど箱庭学園のものとは違う教室に居た。
 ついでに言えば、今着ている制服も箱庭学園の物ではない。

「………わたしは―――」
 なぜこんな所にいるのか。そう考えて、考えるまでもない事に思い至った。
 そう、考えるまでもない。なぜなら――――

「そうだったな。私は、死んだのだったな」
 出来れば否定したい答えを口にする。
 今見ている光景は、今際の際の夢のような物なのだろう。
 だとすれば、ここが死後の世界の様なモノなのかと納得して、

「いやいや、そんな訳ないだろ。相変わらずだな、めだかちゃん」

 不意に聞こえた声に、体が跳ね上がった。
 声の方向に振り返り見えた姿に、思わず視界が滲んだ。
 振りかえった先には、

「…………善吉」
「よ、こんな所でどうしたんだ? めだかちゃん」

 当たり前の様に、手を上げて挨拶をする善吉の姿があった。
 それを見て、自分はやっぱり死んだのだと確信した。

「いいや。めだかちゃんは死んでねえぜ」
 だがそれを、善吉は笑って否定した。
 驚いた。どうやら私はまだ死んでなかったらしい。
 その知り合いというのも気になるが、今それは重要な事ではないだろう。

「なら、どうしてここに?」
「それはな、めだかちゃんがあまりにも落ち込んでいたから、元気づけようと思ったんだ。
 つっても、何言ったらいいか分かんねえんだけどな」
 そう言うと善吉は、私の前の席へと座りこんだ。
0400正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:36:43.80ID:hGpAD0Ve

「…………ああ、そうだ。
 なあ、めだかちゃん。俺からの相談、受け付けてくれるか?」
「………え?」
「“24時間365日、誰からの相談でも受け付けるし、どんな気持ちでも受け止める”。それが、生徒会会長就任の時の公約だったよな。
 なら、今この時だって有効だぜ」
 私を真っ直ぐに見据えて言う。

「めだかちゃん、このくだらねぇ殺し合いを終わらせてくれ。
 何の後腐れもなく。二度と同じ事が出来ないように。当然、問答無用のハッピーエンドでな」
「――――――――」
「こんな悲しみしか生まないような実験なんかブチ壊しちまってくれ。
 俺はもう死んじまったから無理だけど、お前はまだ生きてるからな。
 それに俺は、お前がこんな所で諦める奴じゃねえって信じてる」

 その言葉が胸を打つ。
 善吉は、私が立ち上がる理由を次々と積み上げてくれた。
 黒神めだかは、まだ終わっていないのだと教えてくれた。

「俺はな、お前はみんなを幸せにするために生まれてきたんだって信じてんだ。初めて会った時からずっと。今も馬鹿みたいにな」

 それは十三年前、彼が教えてくれた、私の生きる意味だった。
 その言葉があったから、私は私になったのだ。

「だからと言って衛宮士郎みたいに、自分を犠牲にする様な事は止めてくれよ。
 みんなを幸せにするために、お前が傷ついたり、痛い思いをしたり、泣いたりする事はね~んだよ。
 その“みんな”の中には、お前もちゃんと入ってるんだから、みんなを幸せにするためには、まずはお前が幸せにならなきゃな」
「……………………」

 善吉はずっと私を心配してくれていた。
 その意味を、私はずっと勘違いしていたらしい。

 ずっと誰かを幸せにするために頑張ってきた。そのために今まで生きていた。
 その中で、自分の幸せなど考えた事もなかった。そんな事よりも、誰かを幸せにできる事の方が嬉しかった。
 そんな自分を顧みない私を、善吉は心配してくれたのだ。


「………ああ、そうだな。その通りだ」
 座りっぱなしだった席から立ち上がる。
 私はまだ生きていて、挫けていた心も起き上がって、生徒からの相談も受けた。
 ここに居る理由は、もうどこにもない。

「手数をかけたな、善吉」
「はあ? いつもの事だよ、めだかちゃん。
 けどまあ、こんなんで元気を出してくれたんなら、それでよかったぜ」

 いつものような、呆れた声。
 それだけのことが、この上ない程嬉しかった。

 人吉善吉は私にとって必要な人間だ。
 今までずっとそうだったし、これからもずっとそうだろう。
 その事実が変わる事は、きっとない。

 けれどこの先の未来に、善吉はいない。
 それだけが、どうしようもなく悲しかった。
0401正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys氏 代理投下
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2011/06/27(月) 18:38:46.69ID:hGpAD0Ve


「けど、自分で言っておいてなんだけどよ……大丈夫か、めだかちゃん?」
「大丈夫だ、善吉。出来ない事は、やらない理由にはならない。
 1%の可能性さえなくとも。たとえ成功率がマイナスだろうと、私は絶対に諦めない」
「そっか」
 なら大丈夫だと、安堵の表情を見せる。
 心配していないのではない。信用しているのだ。
 黒神めだかはもう、精神的に負ける事はないと確信しているのだ。



 教室の出入り口。開け放たれた扉の前へと立つ。
 そこに廊下はなく、ただ暗闇があるだけだ。
 ここから出れば、夢から覚めるのだろう。

「ところでめだかちゃん。お前は何のために生まれてきた?」
「むろん、見知らぬ他人の役に立つため」

 唐突な質問に、迷うことなく凛と答える。
 生徒会長だからでも、善吉にそう言われたからでもなく、私がそうしたいから。
 他の誰かの為でなく、私自身の幸せのためにそうするのだと、臆面もなく胸を張る。

「みんなと一緒に! 私も幸せになる!!」

 あなたも私も、みんなが幸せでありますように。
 そんな、子供のような願い。叶うはずのない夢物語を叶えに行く。

 その様はまさに威風堂々。先ほどまであった陰りはもう微塵も感じられなかった。


「――――――――」
「……………………」
 互いに言葉は尽きた。語るべき事はもうない。
 後はただ、戦いの場に舞い戻るだけだ。
 だがその前に―――

「善吉。一つ、言って欲しい事がある」
「ん? 何を言って欲しんだ? 何でも言ってやるぜ」
「がんばれと、言って欲しい」
 その一言があれば、この先二度と善吉に会えなくても、がんばることが出来るだろう。

 善吉は少しだけ目を見開き、今までで一番の笑顔を見せた。

「がんばれ、めだかちゃん」
「うん、がんばる」
 強く、一歩を踏み出す。
 同時に視界が白く染まり、体が浮き上がる様な感覚を覚えた。
 その中で、

「じゃあな。――――好きだぜ、めだかちゃん」

 そんな、大切な言葉を聞いた。



0402正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 18:40:47.46ID:hGpAD0Ve


 目が覚めた。
 寝ぼけた頭のまま体を起こそうとして、腹部に走った激痛で一気に覚醒した。
 同時に、瞬時に周囲の状況を把握する。

 周囲は赤く染まり、ガラクタになった支給品ガ散乱している。
 その奥には首の跳ねられた死体が一つ。それが誰のものかは確認するまでもない。

「……衛宮、士郎」
 無意識に彼の名を呟いていた。
 彼は、“怪物”になろうとしているのだ。“セイギノミカタ”という名の、怪物に―――

 彼の理想(プラス)はオーバーフローし、彼自身の願いさえ飲み込んでいる。
 そして器から零れた水は、いつか器そのものを壊してしまう。
 それはもはや過負荷(マイナス)と同じだ。

 だがそれでもまだ取り返しは付く。
 それはまだ私が生きている事が証拠だ。

 本当に彼が手段を選ばないなら、障害となるだろう私の息の根を完全に止めていたはずだ。
 なのに彼は、私の腹部に突き刺さった短剣も、私のデイバックにも手を付けずに去っていった。
 きっと彼は、彼本人にもわからない所でまだ躊躇っている。今もまだ、誰も殺したくないのだと願っているのだろう。
 彼はまだ取り返しがつく。きっと改心させる事が出来るだろう。
 だから――――問題なのは私の方。

 あの時、私は挿げ替えたのだ。
 善吉が死んだという放送を聞いて、心の折れていた私は、目の前の現実に逃避した。
 今までの方針を盾にして、善吉が死んだという言葉から目を背けて、衛宮士郎へと縋っていたのだ。

 そんな言葉が、心を鉄にした衛宮士郎に届くはずがなかった。

 そう、衛宮士郎が強かったのではない。
 そんな、理由を他人に求めた私の心が弱かった。
 つまるところ私は、戦う前から負けていたのだ。

 彼はきっと、私以上の苦しみを背負って、あの結論へと至った。
 ならば彼と対等になるには、私も善吉の死を受け入れなければならないのだ。

「ッ――、―――――、―――ッッ!!!」

 そう考えただけで、胃液が喉元までせり上がり、腸がねじ切られる様に苦しみ、涙が止め処なく眼球を濡らす。
 けれど、これを受け入れなければ衛宮士郎は説得できない。
 これを受け入れなければ、私はもう、一歩も立ち行かない。


 けれど―――立ち止まる事も、もう出来ない。


 がんばる、と誓った。
 あれがただの夢でも、偽物であっても変らない。
 黒神めだかは、人吉善吉にがんばると言ったのだ。
 だからもう、決して立ち止まる事はしない。
0403正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 18:42:48.29ID:hGpAD0Ve



 傷が広がらない様に、テーブルを支えにして慎重に体を起こし、壁伝いに台所へと向かう。
 何よりもまず、腹部に刺さった短剣が危険だ。なにしろ傷が深い。
 これが刺さったままではまともに動く事が出来ず、だが下手に抜けば大出血して死に至るだろう。
 だからと言って、このままでいるわけにもいかない。今すぐにでも傷を塞ぐ必要がある。

 台所で止血の準備を整えた後、慎重に上着を脱ぎ、腹部に突き刺さった短剣に手を掛ける。
 出血して死ぬのなら、それより先に傷を塞げばいいだけの話だ。

「……………………。
 ッ――――――――!」
 深呼吸を一つ。
 それで覚悟を決め、一気に腹部の短剣を引き抜く。直後、傷口から血が噴き出す。
 だがすぐに腹筋に渾身の力を籠め、その筋力で一時的に止血する。
 そこにコンロで熱しておいた包丁を当て、傷を焼く。

「ギィッ――――、ッ――――ッ!」
 歯を食いしばって声を抑える。
 あまりの熱さに、もはや痛みしか感じない。
 それによって視界が明滅し、意識が飛びそうになる。

「グゥッ――――――――ッ!」
 それを耐える。
 傷が完全に塞がるか、包丁の熱が冷めるまで、焼けた鉄を傷口に当て続ける。
 その後にしっかりと濡らして冷やしたタオルで応急手当をする。

「はあ――――はあ――――はあ――――」
 荒い息を吐く。額からは汗がだらだらと流れている。
 だが、これで傷は塞がった。よほどの無茶をしない限り、傷は開かないだろう。


 デイバックから全身を覆う黒タイツを取り出し、服の下に着込む。
 この黒衣はあらゆる環境に耐えられる性能を持つらしい。
 全身を覆い隠すような服は好みではないが、贅沢は言っていられない。

 武器となるのは、衛宮士郎が残していった短剣だけ。
 大概の相手なら素手でもどうにかできる自信はあるが、この殺し合いを止めるというのが無理難題である以上、万全の対策を取る必要がある。

 他にデイバックに入っていたのは、自分の携帯だけ。
 電波はなぜか三本立っているが、この会場の外に繋がるとも思えない。
 おそらくは、ハズレに分類される支給品なのだろう。


 カフェから外へ出る。
 周囲に人影は見えず、また気配もない。
 それを解った上で、決意を新たに声を上げる。

「衛宮士郎。貴様がそのやり方で殺し合いを止めると言うのなら、ああ、それで良い。
 ならば私も、私のやり方でこの殺し合いを、ひいては貴様を止めてみせる!

 ――――箱庭学園生徒会会長、黒神めだか。これより、生徒会を執行する!!!」

 黒神めだかは凛と胸を張り、燦然と輝く太陽へと向かって歩き出した。
0404正義の味方 ‐Crime avenger‐ ◇UOJEIq.Rys
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2011/06/27(月) 18:44:50.42ID:hGpAD0Ve



【E-6/市街・北東部:早朝】

【黒神めだか@めだかボックス】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:腹部に深い刺し傷(焼いて止血済み)、強い決意、深い喪失感
 [装備]:莫耶@Fate/stay night、黒鬼@めだかボックス
 [道具]:基本支給品、黒神めだかの携帯電話@めだかボックス
 [思考・状況]
 基本行動方針:誰も死なせずに殺し合いを止める
 1:衛宮士郎を止める。誰も殺させない
 2:バットマンを探す
 3:衛宮士郎に強い共感と不快感
 4:昆虫男と少年のその後が気になる。
 [備考]
 ※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジョーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。
 ※干将と莫耶は引き合っています。


【黒神めだかの携帯電話@めだかボックス】
黒神めだかに支給。
第73箱で黒神めだかが使用していた携帯電話。

【全方位型実験服『黒鬼(ブラックオウガ)』@めだかボックス】
黒神めだかに支給。
白衣ならぬ黒衣。低温にも高温にも低湿度にも高湿度にも、北極だろうと南極だろうと砂漠だろうと高山だろうと、ありとあらゆる環境に耐えうる性能を持つ。
カミソリ程度の切れ味の刃物なら、余裕で防げる防刃能力もある。
0406創る名無しに見る名無し
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2011/06/27(月) 19:51:41.57ID:Ovu4xDLf
代理投下引き継ぎ、ありがとうございます

そして、投下乙です!
士郎……まさかそんな時期からの参戦とは。しかもそんな彼にエクスカリバーとか、とんでもない支給品が渡ったな
正直めだかちゃん死ぬかと思ったけど、見事に立ち上がったか。
見所が豊富な大作、見事でした!
そしてもう一度、投下乙です!
0407創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/06/27(月) 23:08:53.32ID:dxTzGuRy
投下乙です。

ここでヨハン退場。
これは出会った人物が悪かった。
DIO様と再び指でつんしたかっただろうに…。


士郎が見事に切嗣というかアーチャーへの道を突っ走り、
逆にアーチャーが士郎の生き方を求め始める…。

それがすごい皮肉であり、このロワのテーマらしいと思いました。
0408創る名無しに見る名無し
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2011/06/28(火) 03:07:58.41ID:jmspKBkO
投下乙。
そ う き た か!
士郎がなんだか不安なキャラ付けだと思ったらよもや鉄心モードだったとは。
今の士郎はめだかとの対比であり、今のアーチャーとの対比でもある。参戦時期って大事だな!
ヨハン、自分に死を与えたのが「なまえのないかいぶつ」だったのは幸運だと言うべきか…
めだかちゃん、マジファイト。地味にお姉さまも応援してるぞ!
0410創る名無しに見る名無し
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2011/06/28(火) 18:35:49.22ID:m394tWlE
投下乙です!
鉄心士郎きたああああああああああ!!
というか三者三様、それぞれの思想と理想と生きざまが凄かった。
正義って面白っ!
0411創る名無しに見る名無し
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2011/06/28(火) 21:23:56.17ID:JGA0nJjo
投下乙です

今まで不明だったがここでその参戦時期は反則だろおおおおおォ!!
アーチャーの参戦時期と比べてこれは皮肉過ぎるw
そしてめだかちゃんもまた己の正義ゆえに士郎を止めようとするが…相手が悪すぎる…
いやあ、大作投下乙でした
0412創る名無しに見る名無し
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2011/06/28(火) 22:31:53.16ID:EEQ4TCg8
投下乙!
正義の反対はまた別の正義とはよく言ったもので……
士郎とアーチャーの対比、士郎とめだかちゃんの対比が際立つな
関係性に目が行きがちだけどめだかちゃん自分で莫耶ひっこ抜いて傷口焼くとかなかなか無茶やってるw
凛の字と善吉の言葉背負ってがんばってほしい所
なまえのない怪物ヨハンはここで暗躍終了か
こいつの死を知ったらDrテンマはどうするんだろうな
DIO様に名前呼んでもらえてよかったね。ヨハン、素敵な名前だから。
0413創る名無しに見る名無し
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2011/06/29(水) 13:07:36.96ID:enbSKhKo
乙ー
まさかヨハンがこんな序盤で脱落するとは……
わりとDIO様と絡んだ人間がバンバン死んでる辺り案外死亡フラグっぽいのかなぁ
誤字報告ってここでしていいんでしょうか?
“貴き現想(ノーブル・ファンタズム)”ってなってたのは多分幻想かなぁと。
0414創る名無しに見る名無し
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2011/06/30(木) 07:23:21.43ID:ssi0uo4m
ブラボー…おおブラボー…
戦闘の技量ではなく精神力の差で勝敗が分かれましたね
正義vs正義ってのも面白っ!まさにジャスティスロワ
0415創る名無しに見る名無し
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2011/07/01(金) 22:15:22.35ID:3t28XdAP
投下乙
よりにもよって鉄心モードw
アーチャーはこの士郎を見たらどう思うだろうな
HFルートの士郎なら言峰とかはむしろ積極的に協力してくれそうだが
あの二人すげえ気が合うし
めだかちゃんこのロワで数少ないの熱血正統派だなあ
まあほかの面子がひどすぎるだけかもしれんがw
0416創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/01(金) 22:59:29.56ID:CL8q/5+I
笛は専門外なんだがこのルートの士郎がどうとかアーチャーがどうとか判らないんだが
0417創る名無しに見る名無し
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2011/07/02(土) 05:49:12.47ID:jwVoV8k6
”世界の敵”と化した桜を切り捨てるか、それでも守るのかを迫られた士郎が、前者を選んだ時のエンドが
通称鉄の心エンド
この士郎には、もはや正義を貫く以外の選択肢は残されていない
戦闘力的には最弱の士郎かもしれんが、精神力は異常
言峰をして奴の優勝は間違いないと言わしめるほど
(まぁあいつは切嗣スキーだから話半分だけど)
0418創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/02(土) 07:44:54.98ID:FT5YH6Ex
>>415

ここの書き手皆ドSばかりだから、熱血正義を掲げると、全力でいじめにかかってくる…
ほかの正義勢が体たらくなのは書き手いじめの結果であって…って、
あれ…本当の敵って書き手じゃねぇ?
0419創る名無しに見る名無し
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2011/07/02(土) 08:53:24.32ID:Gavqy/sp
逆にシャッハさんとか鉄心士郎は揺るぎなく正義を執行してくれそうだな
一般人を犠牲にしてでもw
0420創る名無しに見る名無し
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2011/07/02(土) 14:50:34.23ID:QVyQ55pE
タイガー「・・・・・・・・・・・・」
ワカメ「・・・・・・・・・・・・」
アーチャー「・・・・・・別に、泣いてしまっても構わんのだろう?」
0422創る名無しに見る名無し
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2011/07/03(日) 21:23:30.03ID:fGyz96+p
桜への想いを自覚した後だから知ってたと思う
桜が自分から告ったはず…
と思ったけど、ワカメがどうとかは言われてなかったかも
0423創る名無しに見る名無し
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2011/07/05(火) 13:27:33.24ID:BzAFvpf3
予約キター
0424創る名無しに見る名無し
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2011/07/07(木) 00:23:11.43ID:sPvehBma
感想遅れた…
正義とは何か?というテーマが合う話だなあ…もちろん良い意味で

是非DIOはヨハンの死体から血を吸って欲しいとネタバレに近い願望。
0425 ◆uBMOCQkEHY
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2011/07/11(月) 19:31:36.44ID:EY67R91Y
お久しぶりです。
作品が完成しましたので投下します。
0426悪魔はみな優しいのだっ……! 1
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2011/07/11(月) 19:36:43.68ID:EY67R91Y
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

かつて人だったと思えないほどに黒く煤焦げた塊を前に、なのはは膝をつき、泣き崩れた。
塊の名は賀来巌。
杳馬によって精神に闇一滴を落とされ、理性を失った賀来は幻想のメフィストフェレスをなのはに見出し、襲いかかった。
その殺気たるや、主人を守るために、一人、千の軍勢に立ち向かう歴戦の武者そのものであり、烈火の如き猛々しさであった。
賀来はそのつもりであっただろう。
それが神に仕える己の使命であり、世界を平和に導く唯一の方法であったのだから。

しかし、なのはが賀来の思いなど知る由もない。
分かるのは突然現れた男性が嬉しそうに自分を殴り飛ばすという事実だけだ。
なのはが己の身を守るために、咄嗟にデバイスを発動させてしまったのは至極当然のことであった。

「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ……」
なのははポロポロと涙をこぼす。
一人の尊い命を奪ってしまった。
もし、彼とちゃんと話をしていれば、自分が説得していれば、こんなことにはならなかった。
自分の浅はかさが、最悪の状況を作り出してしまった。
なのはの胸に襲いかかるのは、幼き少女にはあまりにも重すぎる自責の念であった。
0427悪魔はみな優しいのだっ……! 2
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2011/07/11(月) 19:41:31.97ID:EY67R91Y
「クゥ!!あのヘボ役者がっ!!!」
公園の外れにある木の上で、杳馬は顔をむくらせながら、地団太を踏んでいた。
賀来が放送室を飛び出した後、その後を追っていたのだ。
どんなマーブルを生み出すのかを見届けるために――。

「あーあ、せっかくこっちがお膳立てしてやったって言うのにさぁ……
俺の労力返してくれよっ!!!」
杳馬は駄々っ子のように両手足、そして漆黒の羽をばたつかせる。
杳馬にとって、賀来に闇一滴を施したのは一種のギャンブルであった。
賀来の愚かすぎるほどに周りを顧みない信仰心が、邪悪に染まればどんな動きを見せるのか。
相反するエネルギーがぶつかり合い、嵐のような局面を生み出すのではないのか。
杳馬は賀来の活躍に期待していたのだが、結果はこの様だ。
特に何かをするでもなく、一人の少女に襲いかかり、そのまま自滅してしまった。

「いきなり強敵に突っ込むってバカだろっ!」
杳馬は尚も賀来を罵る。
言うなれば、賭けた馬券が外れてしまった悔しさに等しい。
そう、杳馬にとって賀来という一人の精神を崩壊させたのは、ちょっとした勝利の余韻を得るためにギャンブルに金を賭けることと同等なのだ。
一人の人生と刹那の快楽。
通常の人間では比較すらしない価値観を、平気で同じ天秤に乗せてしまう感性。
この歪んだ感性こそ、杳馬の恐ろしさである。
0428悪魔はみな優しいのだっ……! 3
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2011/07/11(月) 19:44:24.75ID:EY67R91Y
「それにしてもなぁ……」
杳馬は空を見上げる。
空は朝日が差し込み始め、藤紫色をした陰翳を西へ追いやり始めている。
「どうやって抜け出すかだが……」
杳馬の正体は時の神『カイロス』。
しかし、神と言っても、兄であり、もう一人の時の神である『クロノス』によって地上に墜とされ、人間としての生死を何度も繰り返し続けている。
肉体こそは人間であっても、時の神である。
時空の切れ目ぐらいであれば、察知することができる。
放送室やテレビ局で見た映像の数々から、ここに集う者が時空を越えていることは一目瞭然である。
彼らを呼ぶためには時空を切り開けなければならない。
それにもかかわらず、時空は切れ目どころか歪みすらない完璧な空間であった。
傷どころか凹凸すらない滑らかな陶器に触れているような感覚――杳馬はこの世界の時空の切れ目を見定めることができなかった。
「まぁ、探知できないのはこいつのせいだと思うんだがねェ……」
杳馬は不快そうに首輪を指でつまむ。
この首輪をされてから、杳馬の小宇宙は思うように発揮できなくなっていた。
0429悪魔はみな優しいのだっ……! 4
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2011/07/11(月) 19:53:01.43ID:EY67R91Y
「それにテンマの小宇宙を感じることができねェ……あいつも同じ状況ってところか……」
杳馬がテンマを重要視する理由――テンマの魂が神殺しの力を宿しているためである。
杳馬は自分の存在を抹消させた兄に復讐するため、テンマを生み出し、その力を引き立たせるため、冥王ハーデスと戦女神アテナの戦いを導いた。
その思惑通り、テンマは数々の苦難から神殺しの力――神聖衣を得る一歩手前までたどり着くことができた。
後は妻、パルティータとの戦いによって、テンマが小宇宙を最大限にまで燃やせば、その聖衣は神聖衣となり、冥王ハーデス、そして、時の神クロノスを倒すはず――
「……だったのによぉ。この実験とやらのせいで全部計画倒れだっ!」
杳馬は口角から牙のように犬歯をギリギリとむき出す。
初めこそはハーデス――アローンがテンマの意志を確かめるために用意したゲームであろうと思っていた。
だからこそ、この“催し”が終われば、再び、聖戦に挑むことができると高を括っていた。
しかし、実験が進むにつれて色々と不可解な点も見えてきた。
0430悪魔はみな優しいのだっ……! 5
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2011/07/11(月) 19:54:35.25ID:EY67R91Y
何処にいてもその存在を確認できるほどに大きかったテンマの小宇宙が感じられなくなった点、そして、この実験でテンマ以上の能力者を大量に泳がせている点である。
アローンはテンマとの全力の最終決戦を望んでいた。
それ故に、テンマの能力を落とすとは考えられないし、それを妨害する者を集めるとも考えられない。
何よりも、芸術を愛するアローンとしては考えられない、小汚く無秩序な会場。
ゲームの会場を漂っているうちに、これがアローンの合意のもとに行われているとは思えにくくなっていた。
むしろ、テンマや杳馬を駒の一つ程度にしか見なしていない第三者により、アローンの意志に反して拉致されたと考えるのが濃厚になってきた。
もし、アローンの意志によるものではない舞台――時の神クロノスに通じる世界なければ、ここに長居する理由はない。
とっとと、神殺しの力を秘めたテンマを見つけ、元の世界に戻らなくてならない。
しかし、その方法は闇に閉ざされたままである。
0431悪魔はみな優しいのだっ……! 6
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2011/07/11(月) 19:56:20.46ID:EY67R91Y
「あーぁ、今回の人生も失敗になっちまうのかねェ……」
杳馬は気だるそうに背中を伸ばす。
これまで杳馬は天上界へ戻る方法を探し、人界を彷徨い続けてきた。
しかし、どの人生においても、突破口を見つけ出す前に、人生のタイムリミットをむかえてしまっていた。
今回の実験も、今までの人生とは趣が違えど、出口が見えない世界を彷徨い続けていることに変わりはない。
むしろ、捕らわれた空間の範囲が狭いだけにより悪質だ。
「いつになったら、俺は神に戻れるんだか……」
杳馬は再び、空を見上げた。
空はこの世界を覆うように広がり、このまま見上げ続けていれば、空に押し潰されてしまうのではないのかという錯覚さえ起こしてしまう。
神には戻れない――人間の人生を操る演出家ではなく、舞台の上で脚本に踊らされる道化を演じ続けているしかない。
果てしなく広がる蒼穹はその事実を杳馬に見せつけていた。
0432悪魔はみな優しいのだっ……! 7
垢版 |
2011/07/11(月) 19:58:56.22ID:EY67R91Y
「まぁ、いっかっ!!まだ時間はあることだしよっ!!」
杳馬は気を取り直すように、パンと手を叩いた。
「んはっ!まずはあの娘にちょっかいを出してみるとしますかっ!!!」
大きな力を秘めながらも、罪の意識に押し潰されそうな少女。
面白味も何もない大根役者が最後に残してくれたマーブルの原石。
この少女を大女優に仕立てずに、どうすればいいのか。
主催者が用意した実験は自分の欲求を満たすもので実に溢れている。
抜け出す方法を探るのも、テンマを見つけ出すのも、ここで飽きるまで遊んでからでも遅くはない。
高遠と同じようになのはに興味を示した杳馬はそのまま軽やかに地上へ降りたったのであった。
0433悪魔はみな優しいのだっ……! 8
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2011/07/11(月) 20:05:04.16ID:EY67R91Y
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…」
なのはは何度も詫びの言葉を繰り返す。
泣きながら、なのはの心の奥では低く、殺意が込められた言葉が響いている。

――もしかしたら、何らかの誤解があったのかもしれない。

――貴方がこんなことしなければ、誤解が解けたかもしれない。

――貴方はそれを奪ってしまった。

――貴方は人として最低のことをしたのよ!!

なのはの正義感はどこまでもなのはを弾圧し続けていた。
彼女がどんなに悲鳴を上げようとも容赦なく、その心をギリギリと締め付ける。
少女は泣くことでしか、それに反論できなかった。
「私っ…私っ……」

「キ……キミはなんてことを……」
突然耳に飛び込んできた、砂をジャリと踏みしめる音と驚愕に震え上がる声。
「えっ……」
反応したなのはは思わず振り返る。
目の前に立っていたのは無精ひげを生やしたタキシードの男性。
男性はとんでもない場面に出くわしてしまったと言わんばかりに蒼白の表情を浮かばせ、一歩、また一歩と後ずさりしている。
あきらかになのはを危険人物と見なしていた。
0434悪魔はみな優しいのだっ……! 9
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2011/07/11(月) 20:07:02.33ID:EY67R91Y
「ま……待って下さいっ!!!これには事情があるんですっ!!!」
なのはは慌てて男性を呼びとめた。
確かになのはは人を殺めたばかりだ。
これは否定できない。
けれど、その行為に殺意はなかった。
私は殺し合いに乗ってはいない。
残虐な人間じゃない。
その痛切な思いは震える声と涙が雄弁に語っていた。
「キ…キミは……」
男性はなのはの心意を察したのであろう。
なのはと同じ視線になるように身を屈めた。
「俺の名前は杳馬……もしよかったら、話してくれねェか?……キミのこと……」
杳馬と名乗った男は屈託のない笑顔をなのはに向ける。
なのはの言葉を受け入れようとしている証しだった。
「杳馬……さん……」
なのはの喉が再び、少しずつ震えあがる。
この実験では殺し合いが強要されている。
本来なら一目散に逃げてしまうだろう。
もし、強力な武器を持っていれば、己の身を守るために、凶悪な殺人鬼であるなのはに襲いかかっていたのかもしれない。
しかし、杳馬はそのどちらも選択しなかった。
この疑心暗鬼に溢れる世界で、その情けがどれほど温かく、傷ついた少女の心を癒してくれるのか。
「わ…私……実は……」
なのはは堰を切ったかのように、泣きじゃくりながらこれまでの経緯を説明した。
男性の顔が邪な笑みで歪んでいたとも知らずに――。
0435悪魔はみな優しいのだっ……! 10
垢版 |
2011/07/11(月) 20:09:00.41ID:EY67R91Y
「……というわけなんです……」
「つまり、友人の二人の内、アリサちゃんが放送で呼ばれてしまい、せめてもう一人の友人であるすずかちゃんを守りたいと思ったキミは、一緒に行動していたグループから抜け出し、そのすずかちゃんと探していた……。
その道中、突然、その男が襲いかかってきた……」
杳馬はなのはが持つデバイスS2Uを指差す。
「魔法をピカーって出す……その……デバイスって武器だっけ……?
本来、それは非殺傷設定ということができて、相手の身体を吹っ飛ばすことができても、死に至らせることはない……
けれど、なぜかそれが設定できず、結果、この男は死んでしまった……」
「はい……」
なのはは少女らしい愛らしい仕草でこくりと大きく頷く。
杳馬は困ったようにため息をついた。
「やり過ぎた感はあるが……とにかく自己防衛ってことはよく分かった。
………それにしてもなぁ……」
杳馬は頭をかきながら、死体となのはを見比べる。
「魔法とやらはすごいな……人が丸焦げ。というより、炭だな、こりゃ。
こいつの身内だって、そいつと判断してくれるか……」
0436悪魔はみな優しいのだっ……! 11
垢版 |
2011/07/11(月) 20:12:01.18ID:EY67R91Y
杳馬の感心に対して、なのはは口を閉ざす。
もし、非設定設定であったならば――。
私はこの人やこの人の身内の方を悲しませることをしてしまったのだ。
杳馬の素直すぎる感想はなのはの自責の念を呼び覚ましてしまっていた。
「あ……やばっ……!」
今更ながら、杳馬は自らの失言に気がつく。
手を押さえ、強引にたどたどしく話をすり替えた。
「えっと……その……魔法って身を守るのには最高の能力だよなっ!!なっ!!
ほら……現時点で、12人の人間が死んでいて……
えーと、もしかしたら、なのはちゃんみたいに、身を守るために殺しちまった奴もいるかもしれないがさ……
悪い奴が、弱い奴を襲っちまうとも考えられる……例えば、さっきの放送のやりとりみてェに……さ……」
「放送……」
なのはの中で、汚れがこびりつく様な違和感を覚えた。
この違和感は何だろう。
思いめぐらすうちに、その答えが自然と口から飛び出していた。
「貴方の声によく似ている……放送で襲われていた人……テンマって人と……」
0437悪魔はみな優しいのだっ……! 12
垢版 |
2011/07/11(月) 20:15:11.34ID:EY67R91Y
「ほう……」
杳馬は思わず、目を細める。
「確かに似ているかもな……」
杳馬は失笑混じりに喉に手を当てた。
「放送はかなりくぐもり声だったから確かなことは言えないが……
おそらく、俺の息子……テンマだ……」
「えっ…息子さんも参加されていたんですかっ!」
なのはの素っ頓狂な声に対して、杳馬は黙って頷く。
「俺と息子は声がそっくりでね。
よく言われたよ……二人の声は聞きわけができないってね……」
杳馬ははにかむように穏やかに苦笑した。
「杳馬さん……」
なのはは髪を降ろすと母親とよく似ている。
まだ、親に甘えたい年頃の少女。
自分と家族の共通点が見つかれば、素直に嬉しいものである。
杳馬の過去を噛みしめているかのような微笑は、いかに息子であるテンマを愛しているか、容易に伝わった。
しかし、だからこそ、理解できない点がある。
それは――
「どうして、息子さん…助けにいかないのですか……」
なのはは射抜くように杳馬を見据える。
「さっき貴方は“放送のやりとりのように”悪い奴が、弱い奴を襲ってしまっているって言っていましたよね。
襲われている相手が息子さんということを知っていながら。
どうして平然としていられるのですか……」
なのはの声に込められた不審の響きは、杳馬への非難も含まれていた。
0438悪魔はみな優しいのだっ……! 13
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2011/07/11(月) 20:17:29.68ID:EY67R91Y
「なのはちゃん……」
杳馬はぐっと息を呑み、胸に秘めていたある思いを口にした。
「俺は……その事実を認めたくねェのかもしれないな……」
杳馬は瞳に哀愁を滲ませ、遠くを見つめる。
「俺も放送を聞いた時、“テンマ”ってのは息子じゃないかと思ったさ。
だが、この実験ではもう一人の“テンマ”……天馬賢三って奴も参加している……
放送での“テンマ”は息も絶え絶えで、訴えた直後に放送が切れたってことは口を塞がれた……おろらく殺されたんだろう……
その事実を突き付けられた時、心が切り裂かれ、狂いそうになった。
そんな時、ふと、こんな言葉が過ったのさ……
“殺されたのはこの天馬賢三って奴だ……テンマなんかじゃねェっ!!”ってな……
そしたら、心が軽くなった……」
杳馬は立ち眩みをしたかのように額に手をやった。
「俺はあの声が息子じゃないって言い聞かせることで、自分を保ってきた……
こういう逃げ方しか知らねェのさ……俺って……」
手の隙間から垣間見える杳馬の表情は自嘲と悔しさが入り混じっているかのようだった。

0439悪魔はみな優しいのだっ……! 14
垢版 |
2011/07/11(月) 20:20:31.66ID:EY67R91Y
「杳馬さん……」
なのはは憐憫の眼差しで杳馬を見つめる。
人は時に物事を自分の都合のいいように解釈してしまう。
杳馬のどこか突き放したかのような言い回しはまさにそれであり、親友のフェイトも母親からの虐待を未熟な自分への教育と解釈し、受け入れてきた過去がある。
この現実逃避は誰しもが一度は通ってしまう道なのだ。
けれど、なのはは知っている。
それでは物事は解決しないと――。
「気持ちは分かります。ただ、現実から目を逸らしていたら……。もし、すぐにでも向かえば、息子さんは助かるかも――」
「皆が君みたいに魔法を使えるワケじゃねェんだっ!!!!」
突如、なのはの言葉を遮り、杳馬は込み上げる怒りをぶつけるかのように吠えた。
0440悪魔はみな優しいのだっ……! 15
垢版 |
2011/07/11(月) 20:22:00.96ID:EY67R91Y
「えっ……」
杳馬の怒りに、なのははビクッと肩を震わせ、青ざめる。
ギリギリと歯をむき出しにしながら、杳馬は捲し立てた。
「この場にはな、君みたいに簡単に人を殺しちまう奴がウジャウジャいるっ!!!
キミはいいさっ!!!!魔法で相手を燃やせば済むんだからなっ!!!!
けど、俺が行って何になるっ!!!!
どうせ、指で蟻を潰すみてェに殺されるのが関の山っ!!!!
自分の物差しだけで語るんじゃ……」
ここまで叫び、杳馬はハッと我に返った。
「すまない……」
少女相手に大人気なかったことを恥入るように杳馬は俯く。
俯いたまま、ぽつりぽつりと漏れるような声で呟いた。
「行こうと思った……けど、怖かった……
あのときだってそうさ……
俺も賀来って男に殺される……俺も含めて皆そうさ……
自分の命が何よりも愛おしい……
これが魔法を使うことができない普通の人間の考えさ……」
杳馬は忠実に作られた石膏像のような、一切の感情が欠いた虚無でなのはを見つめ、止めとも言える言葉を投げ捨てた。
「キミに凡人の気持ちなんて……分からない……」
0441悪魔はみな優しいのだっ……! 16
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2011/07/11(月) 20:25:35.38ID:EY67R91Y
「あっ……」
なのはの心の中で何かが深く抉れた。
なのははまざまざと自分と他人の感覚の違いを見せつけられてしまった。
魔術師として『天才』と呼べるほどの素質を持ち、かつ、それを最大限に高めたなのはに対し、杳馬は魔力を持たない一般人。
なのはの揺るがない信念と強靭な精神は彼女の生まれつきの気質でもあるかもしれないが、魔法少女としての自負心もかかわっていた。
本来、杳馬のように保身に満ちた怯えこそ正常な反応なのだ。

(私……杳馬さんの立場を考えず、酷いことを……)
なのははふと、自分が魔法少女として戦う決心を新たにした事件を思い出した。
なのはが魔法少女になりたてだった頃、暴走したジュエルシードが巨大な樹木のように根を広げ、街を呑みこんでしまう事件があった。
ディバインバスターにより、ジュエルシードを封印することに成功したが、街は壊滅的な被害を受けるとともに、多くのけが人を出してしまった。
その現状を目の当たりにして、なのはは誓ったのだ。

――自分なりの精一杯ではなく、本当の全力でジュエルシードを集めたい――大切な人たちを守るために!
0442悪魔はみな優しいのだっ……! 17
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2011/07/11(月) 20:47:39.30ID:mblo4OBu
一般人の杳馬はなのはが守りたい人々と同じ立場。
自分は彼らを守るために魔法少女になったのではないのか。
なのはの心の中で熱き思いが燃え上がった。
それは弱者を助けたい、幸せにしたいと願う慈悲の精神――正義の炎。
「私、テンマさんを救いたいっ!!!杳馬さんの助けになりたいのっ!!!」
少女のものとは思えない若獅子の如き咆哮。
静寂に包まれた空気はその力強さで電流が走ったかのようにビリビリに震える。
なのはの魔力が空気をを伝って広がっていくようであった。
「なのはちゃん……」
杳馬は暫し呆然とするも、次第に瞳に生気が蘇る。
なのはの言葉に答えるように深く頷いた。
「ありがとう……キミがいてくれたら百人力だ……そうだっ!!!」
杳馬はディバックから地図を取り出し、地面に広げた。
「もしかしたら、キミの友達を見つけられるかもしれないっ!!」
「えっ、すずかちゃんをっ!!!」
杳馬の言葉は晴天の霹靂。
なのはは頬を高揚させ、身を乗り出した。
おごそかな口調で杳馬は告げた。
「なァに、放送で呼び掛けるんだ……」
0443悪魔はみな優しいのだっ……! 18
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2011/07/11(月) 21:18:20.64ID:EY67R91Y
杳馬はH-4のテレビ局を指差した。
「今、思い出したことなんだが、テンマがいると思われるテレビ局……
実は俺もかなり前に立ち寄っていて、そこで『特設スタジオ』って部屋を見つけちまった。
ここでは自分の思い通りの放送を作ることができて、多数のエリアに受信が可能っ!
有難いことに、投影装置ってものが働いて、画面がなくても伝えてくれるって代物だっ!
まァ、欠点は放送エリアや伝えたい相手の指定はできない――つまり、ランダム配信ってところだが、このフィールドは全100マス。
仮に1放送につき、1マス配信と考えれば……
ちょっとばっかし、めんどくさいが、100回放送を流せば、ほぼ、全域に行き渡る。
これで運よくすずかちゃんが見ていれば、キミの元に来てくれるかもしれない。
俺がテレビ局でテンマを探している間に、キミはこの放送ですずかちゃんに呼び掛ける。
ほォら、完璧な作戦だろっ?」
“どうだ!”と言わんばかりに杳馬は自慢げに胸を張る。
杳馬の無邪気な意見に対して、なのはは戸惑いの色を隠せない。
「それはそうですが……」
0444悪魔はみな優しいのだっ……! 19
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2011/07/11(月) 21:20:48.50ID:EY67R91Y
確かにこの放送で呼び掛け、もし、すずかが近くにいれば、合流できるかもしれない。
しかし、それは近くにいればの話だ。
今、あの地には危険人物“賀来巌”が潜んでいる可能性が高い。
そうでなくても、放送をきっかけにあの周辺には様々な人物が集まっているはずである。
すずかが戦力のある人物と行動を共にしていれば、問題ないが、もし、彼女が単身で不用意にテレビ局へ来てしまったら――
「すずかちゃんは私と違って普通の女の子……私の放送のせいで危ない目にあうかも……
だから、あまり得策とは言えないと思います……」
「む……」
杳馬は探偵が推理をしているかのように顎に手を当て逡巡する。
なのはの話をやっと理解できたのか、大げさに驚嘆した。
「それは気付かなかったァっ!実にキミの言う通りだっ!!」
杳馬は “いやァ、キミは賢い!”“俺も見習わねェとなっ!!”などとなのはの洞察力を褒めたたえながらも、尾びれに“けれど……”と付け加える。
「どうやって、この広大なフィールドを探すんだい?
まさか、当てもなく、彷徨い続ける気かい?
それは実に効率が悪い。
その間にも、すずかちゃんは危険に晒されてしまうかもしれないのにさ……」
0445悪魔はみな優しいのだっ……! 20
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2011/07/11(月) 21:22:55.71ID:EY67R91Y
「そ……そうなんですが……」
杳馬が言っていることも一理ある。
なのはは魔力によって空を飛ぶことができるので、移動時間は短縮できる。
しかし、それでもすずかの存在を見逃してしまう可能性はある。
行き当たりばったりの探索は不必要な魔力の消費としか言わざるを得ない。
もし、散々彷徨った挙句に見つけたとしても、魔力を消費していれば、いざという時、すずかを守ることは難しい。
デメリットは大いにあった。
「なァ……なのはちゃん……今、キミの言葉で思いついたんだけどさァ……」
杳馬はなのはの迷いの兆しを嗅ぎつけると、囁くように呟いた。
あと2人殺して、“特別報酬”ですずかちゃんを捜す……って方法もあるよな?」

――3人を殺した報酬で、自分とお友達の所属するグループを知り、もしHorが居なければ、他の参加者を手当たり次第に殺して実験を終わらせれば良いんですよ。

「それは……」
突き刺さされたような衝撃がなのはの胸を襲う。
杳馬の言葉はまさに高遠がなのはに説いた言葉そのもの。
気付くと、心臓が木々のざわめきのように大きく脈打っている。
「人を殺すのは……」
0446悪魔はみな優しいのだっ……! 21
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2011/07/11(月) 21:39:54.38ID:mblo4OBu
殺人――なのはが避けなければならない、この世で最も下劣な行為だ。
現時点で、なのははその下劣な行為を半ば事故同然で犯している。
これ以上、罪を重ねたくはない。

「ん〜これもダメかァ……」
杳馬はなのはの動揺に満ちた表情を眺めながら、無邪気な笑みを口元にたたえた。
「キミの気持ちも分かるが他に方法があるかい?
効率的にすずかちゃんを見つける方法……
もしあるなら、教えてほしいなァ?おじさんにさァ……」

「……」
思い付くわけがない。
なのははしらみつぶしに探す方法しか考えていなかったのだから。
なのはは俯き、杳馬も納得してくれる答えを必死に探し続ける。
しかし、杳馬はなのはがそれを見つける前に、更なる追撃に乗り出していた。
「んっ?あれれ〜?そう言えば、さっきキミ、言っていたよね?
“私、テンマさんを救いたいっ!!!杳馬さんの助けになりたいのっ!!!”って。
もし、キミがすずかちゃんの捜索を優先させたら、テンマはどうなるんだい?
まさか、俺を守りたいって言っていながら、魔力を持たない俺を見捨てるつもりかい?」
杳馬の口元が恍惚に歪んだ。
「キミは……嘘つきなんだね……」
「!!」
なのはに電流走る。
確かに先程なのはは杳馬に対する同情と正義感から宣言してしまっている。
なんと後先無い口約束をしてしまったのか。
水に浮いた脂のようにぐにゃりと歪むような目眩が襲う。
破約という不誠実な行動をなのはがとれるはずもなかった。
こうなった以上、なのはの選択は一つ――。
0447悪魔はみな優しいのだっ……! 22
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2011/07/11(月) 21:41:45.72ID:mblo4OBu
「一緒にテレビ局に行きます……テンマさんを探しましょう……」

放送をするかどうかは分からない。
けれど、探すと約束した以上、そちらの方は確実に果たさなければならない。
「やっほうっ!!ありがとうなっ!!」
杳馬は改めて小躍りして喜びを身体一杯で表わす。
それをなのはは無気力な視線で見つめ続けていた。

(すっごく……変だな……)
不思議な感覚だった。
元々そういうつもりであったにもかかわらず――何一つ変わっていないにもかかわらず、どこか敗北感を覚えてしまう。
数分たらずのやりとりではあったが、身体に泥がのしかかったような気だるさを感じてしまった。

「んひっ!なのはちゃんっ!やっぱりキミは物事を客観的に判断できる賢い子だっ!」
杳馬は“俺はテンマを探して、なのはちゃんは放送をする〜”と鼻歌交じりに口ずさみながら、笑顔を振りまく。
なのはの魔法に絶対的な信頼を置いているようだ。
「あ……ありがとうございます……」
杳馬の計画には納得がいかない点もあるが、なのはを信用した上での提案である手前、無碍にもできない。
自分の感情と板挟みにされたなのはは憂欝に顰める。
「ん〜?なのはちゃんっ!」
杳馬はなのはの心の揺らぎを見透かしているかのように穏やかに微笑する。
0448悪魔はみな優しいのだっ……! 23
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2011/07/11(月) 21:44:13.59ID:EY67R91Y
「分かっているぜ。
なのはちゃんにとって今回のことは苦渋の決断だったってことぐらい。
最善とは言え、欠点がある作戦――なのはちゃんが言うようにタイミングが悪ければ、お友達を却って危ない目に合わせる可能性があるからな。
だから、俺もキミが放送している時は支援するつもりだ。
窓から怪しい奴が入ってこないか見張っていたりとかな……って、俺、弱ェからそれくらいしかできねェけどよ……」
杳馬は“それにさ……”とはにかみながら、手を広げる。
「キミは確かに殺人を犯した。
けど、これから悪い奴を倒して多くの人を助ければ、チャラになる。そうだろ?」
「チャラになる……」
罪は消し去ることは出来ない。
しかし、薄めることはできる。
しかも、高遠の時とは違い、今度はなのはの倫理感に反しない方法で――。
なのはにとって、杳馬の何気ない一言は蕩けてしまいそうなほどに優しく魅惑的な言葉であった。
(より多くの人間を保護し続ければ――)
償う一歩すら踏み出していないにもかかわらず、罪を償いきった解放感が吹き抜ける。
0449悪魔はみな優しいのだっ……! 24
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2011/07/11(月) 21:47:54.02ID:EY67R91Y
「なのはちゃん……だから……」
おちゃらけな態度を一転、杳馬はなのはの前に膝を付いた。
「どうか……息子を救ってくれっ!その魔法で悪党どもを倒してくれっ!!
キミにしかできないことなんだ……」
深々と頭を下げた杳馬はまさに子を思う父の姿。
杳馬は元々、おどけて場を盛り上げる性格なのだろう。
その杳馬が真摯な姿勢で本音をさらけ出したのだ。
なのはの能力に全てを賭けて――。
杳馬が誠意を尽くそうとしているのであれば、なのはもそれに応えなくてはならない。

「杳馬さん……私、頑張ります!!」
なのはは力強く宣言する。
杳馬は弾けるように顔をあげた。
「あぁ……ありがとう……」
杳馬は安堵したように上瞼をたるませる。

(これで良かったかもしれない……)
なのはは安息に近いため息を漏らして、目を閉じる。
今できることは、目の前の問題に対して最善を尽くすこと。
自分にはそれを完遂させられるだけの力がある。
(それに……)
なのはは自身の胸に手を当てた。
杳馬やテンマのために力を発揮する。
それを目標として掲げた時、内なる罵声がぴたりと収まっていた。
自分の中で芽生えた新しい使命。
もし、その使命を果たせば、殺してしまった男性も報われるはず――。
大義名分は今や彼女の理性を保つ助けとなっていた。
0450悪魔はみな優しいのだっ……! 25
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2011/07/11(月) 21:51:39.65ID:EY67R91Y
「じゃあ、行こうぜ!!なのはちゃん!!」
杳馬は手を差しだす。
それに触れようとする瞬間、なのはは黒こげの死体に目をやった。
「この方はどうしたら……」
「あぁ…彼か……」
杳馬の顔から笑みが消える。
「申し訳ないが、今、彼の組織は燃え切ってしまっている。
もし持ちあげようとすれば、バラバラに砕けて、より人としての原型を失っちまう……
彼の人間としての尊厳を失わせるわけにはいかねェ……」
「そうですか……」
できれば、この死体を弔うことはできないかと考えたが、動かさない方がいい以上、放置するしかない。
死体が人々の目に晒されることに罪悪感、自分の罪が知られてしまうのではないかという恐怖を覚えるも、やむを得ないことなのだと自分に言い聞かせる。
「ごめんなさい……」
死体にペコリと頭を下げ、なのはは歩み始めた。
0451悪魔はみな優しいのだっ……! 26
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2011/07/11(月) 21:52:46.15ID:mblo4OBu
【Gー5/公園内:朝】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:疲労(小)、頬に擦過傷。目が少し痛む。
 [装備]:聖祥大附属小学校制服、S2U@魔法少女リリカルなのはシリーズ、核金(シリアルナンバーLXI)@武装錬金
 [道具]:基本支給品一式
 [思考・状況]
 基本行動方針:すずかとの合流と、この場所からの脱出(?)
1:テレビ局へ向かう。
2:テンマを助ける。

【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦。
※魔法の非殺傷設定はできません。
※核金@武装錬金は武藤カズキと蝶野攻爵しか武装錬金にできません。
※テレビ局で放送するかどうかははっきり決めておりません。

【杳馬@聖闘士星矢 冥王神話】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、フクロウのストラップ@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いというマーブル模様の渦が作り出すサプライズを見たい!
 1:Dr.テンマが執着するヨハンに会ってみたい。
 2:会場のマーブルが濃くなったら、面白そうな奴に特別スタジオの存在を伝える。
 3:息子テンマは見つかったら、それはそれで嬉しいかも。
0452 ◆uBMOCQkEHY
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2011/07/11(月) 21:59:24.61ID:EY67R91Y
こちらで以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。

もし、誤字や矛盾点などありましたら、ご指摘よろしくお願い致します。
0453創る名無しに見る名無し
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2011/07/11(月) 22:11:42.12ID:Z3rXmXml
投下乙です

……………………えーと、これは”杳馬が人を殺して動揺しているなのはを落ち着かせてメンタルケアした”って事なのか?
0454創る名無しに見る名無し
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2011/07/12(火) 02:24:45.64ID:QaBp9Y2E
投下乙です

これは次で堕とす為に持ち上げたんだろうか?
せめてヨウマが心の中でそう言ってるシーンがあれば…判り難いかな
次の書き手次第かな
0455 ◆uBMOCQkEHY
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2011/07/12(火) 06:28:54.22ID:Z9OJBHtA
おはようございます。

ご連絡ありがとうございます。
初期は杳馬の独白シーンも考えておりましたが、小物臭くなるかなって思って削除しました。

前の段階から杳馬は面白そうな人間は放送させてみたいという描写があり、それで伝わるかなと思っていたので。

もし、展開に問題があるのでしたら、破棄して頂いても構いません。
0456創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/12(火) 15:12:11.15ID:ycX9dUB0
展開そのものに問題は無いけど独白シーンはいるんじゃないの
悪党がどういう風に相手を堕とそうと考えてるのか重要だと思う
0457創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/12(火) 17:21:23.69ID:dsPYlT6X
原作もヨウマ何考えてんだかよくわからんこのおっさん!ってのが持ち味だったから独白はあっても最後にちょろっとぐらいでいいと思う
なのはちゃん陥れようとして演技してる描写の割合が多くて一瞬良い人に見えかけたw

それよりよっぽどの事がない限りあまり書き手が自分で破棄持ち出さない方がいい気がする
本人が致命的な点を見つけたんじゃなくて、皆が気に入らないなら〜って簡単に破棄する風潮作ったら後の書き手が辛くなる
0458創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/12(火) 17:55:07.73ID:ycX9dUB0
破棄するほどではないよ
ヨウマがなのはちゃんを貶める為に一度持ち上げた…みたいなのを最後に独白してくれたら問題ないと思う
0459創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/12(火) 17:59:20.16ID:qjPnIJZ7
218 名前: ◆KKid85tGwY[] 投稿日:2011/07/12(火) 17:27:45 ID:AHrPIXlI [2/2]
お久しぶりです。

◆uBMOCQkEHY氏投下乙です。
氏が投下された作品に関して、本スレで少し紛糾している様なので改めてこちらで話をさせて貰いたいと思います。

まず作品そのものに矛盾などの問題は見受けられませんでした。
ただ杳馬の行動に関して幾つか疑問点を。

杳馬は他の参加者に「闇の一滴」を植えつけて精神的に堕とし、それによってマーブルを作り出そうとするのが
原作からの変わらない基本的な方針だと私は解釈していました。
そしてなのはの作品直前までの状況としては、それまでの作品の描写から
賀来を殺したことや他の要因もあって、極度に動揺して安定を欠いた状態だったはずです。
しかし杳馬のなのはに対する対応を客観的に見れば、動揺しているなのはを落ち着かせて
賀来を殺したことにも精神的に整理を付けさせているようにしか思えません。
これは杳馬の性格的にどうなんだろうと言う疑問はあります。

杳馬に裏の思惑やその後の展望があれば話は別ですが、作品自体からはそういった部分は読み取れませんでした。
またそういった場合、ある程度具体的に杳馬の思惑が描写されなければ
リレーとして考えれば問題があるかなと。

無論、キャラクター解釈などは個々によって違いが有るでしょうが
ただ作品の修正や破棄などは本スレでよりこちらで話し合うべきだと考えてこちらに書き込みました。




議論スレより転載
これ以降は向こうで
0460 ◆uBMOCQkEHY
垢版 |
2011/07/12(火) 23:07:33.87ID:Z9OJBHtA
皆様、ご意見ありがとうございます。

私なりの意見を議論スレに書きましたので、目を通して頂けると幸いです。
0461創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/13(水) 16:50:48.78ID:iZc/JUh6
仮投下スレに作品が来てるな
しばらく時間置いて問題無ければ投下かな
それと>>1さんお帰り
0462創る名無しに見る名無し
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2011/07/13(水) 21:52:17.95ID:PatZDggm
いやいやいや
何で何事も無かったかのようにしているの?
前回の予約ぶっちぎったことは無視?
意味がわからんマジで
おかえりとかいう>>461が自演にしか見えん
0463創る名無しに見る名無し
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2011/07/13(水) 22:05:05.18ID:k94cjXVo
そんな喧嘩腰で荒れるようなこと書くなよ
まあ一言欲しかったのは確かだけどさ
0464創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/14(木) 10:31:38.22ID:PfbHxWL1
なんというか、また議論で予約が停滞するようなことになるんじゃないかと心配
議論自体が必要なんだろうとは思うけど、違和感に対して容赦無いよね
0465創る名無しに見る名無し
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2011/07/14(木) 11:20:55.19ID:ShoG223y
まあ、難しい話だよね
確かに非殺傷設定で戦ったり、厳しいリハビリに耐えたりする精神的強さは持ってるっちゃ持ってるんだが
だからといって、それが殺人という最大の禁忌をあっさり乗り越えることになるかといえば……
なんだかんだ言ってもまだ小学生だぜ、なのちゃん
0466創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/07/15(金) 00:45:16.71ID:Y1Hm9+7X
代理投下します
0468:とるにたりないもの ◇yCCMqGf/Qs 代理
垢版 |
2011/07/15(金) 00:47:12.42ID:Y1Hm9+7X



―――今夜、一人の『警官』が死んだ
―――彼の名は『ジェームズ=ゴードン』

地下水路に響く、放送よりその名を聞いた時、
『バットマン』こと、『ブルース=ウェイン』に脳に渡来したのは、
哀しみでも、怒りでも無く、強烈な『疲労感』だった。

狂気にも似た鋼の精神力で抑えつけていた怪我による痛みと疲労が、
堰を切った様に、怒涛となってバットマンの体に襲いかかってくる。

倒れ、力なく地に伏せる事すら無かったが、思わず下水道の緩いアーチを描く壁面に彼はその身を預けた。

―――『ジェームズ=ゴードン』

『シカゴ』から『ゴッサム』へとやってきた男。
今時珍しい程の『正義感』と『職業意識』をもった男であり、
数少ない『本物の警官』の一人であった男。

そして、『バットマン』にとっては本当に僅かな心を許せる『戦友』であり、『理解者』であった男。
その彼が、死んだのだ。

「…………」

不思議と、悲しみも怒りもわかない。涙も出なかった。
有り得ない事では無かった。“あの”『ポイズン・アイビー』すら、読み上げられた死者の名簿の中にあったのだ。
如何に鋼の意志を持った警察官であったとしても、彼が死ぬ事は充分にありえた事なのだ。

この殺し合いの場に限った話では無い。
バットマンとゴードンの相手にしていたゴッサムの闇は余りに深く、そしてどす黒い。
命を狙われ、死に瀕した経験も、もはや両手の指で数える事が出来ない程であった。
いつも、死と隣合わせだった。そして自分も、ゴードンも、それを了解していた。

その上で、自分達は戦い続けて来たのだ。
『悪』と――――

そしてゴードンは死んだ。
病んだ社会、どうしようもない世界を、その病巣を最前線で見ながら、戦い続けた男は死んだのだ。
『ジェイソン=トッド』と同じ様に、自分を置いて先に逝ってしまった。

この、終わりの無い、血を吐きながら続けるマラソンの様な、戦いの最中で。

バットマンの肩に、戦友の死が、重みとなってのしかかる。
暗い視界は暗さを増して、天井が酷く低くなった様に錯覚する。
まるで、自分を押し潰さんとせんが為に。
空気は、その冷たさを増して、彼の肺腑を穿つ。

もう、止めにしないか――――心の中で誰かが囁く。
0469:とるにたりないもの ◇yCCMqGf/Qs 代理
垢版 |
2011/07/15(金) 00:47:52.05ID:Y1Hm9+7X

何も変わらない『ゴッサム』
また一人、また一人と欠けて行く戦友達。
自分の元を去った、ディック・グレイソン
悪に堕ちた、ハーヴィー=デント。
道化師に殺された、ジェイソン=トッド。
そして、ゴードン……

これまでの戦いに意味はあったのか?
自分達は、対症療法を続けてきただけではないのか?
彼らの死に、本当に意味などあったのか?

凄まじい、徒労感。

―――お前はもう充分やった
―――誰にも感謝されずとも
―――時に汚なくののしられ、蔑まれようとも
―――『正しい』ことをやってきた筈だ
―――もう充分だろう
―――戦いの果てに、誰にも看取られず、こんな地獄で死ぬのが俺達の運命(さだめ)なら
―――例え、途中で投げ出しても

―――誰も……

囁きはそこで止まる。
一匹の蝙蝠が意識を過り、
銃声と共に、父と母は血の海に沈む。

バットマンは膝をつかない。
バットマンは立ち上がる。
その、マスクに隠されぬ口元に浮かぶのは、獣の様な牙剥く微笑み。
0470:とるにたりないもの ◇yCCMqGf/Qs 代理
垢版 |
2011/07/15(金) 00:48:54.23ID:Y1Hm9+7X



『――――あなたが誰かは知らないが、信じて欲しい。
これが連中の策略でない事を証明する手だては無いが、構うものか。
私は私だ。
あなたが誰かは知らないが、愛している。
鉛筆が一本だけある。
連中に見つからなかった小さな鉛筆。
私は女だ。体の中に隠した。
二度とこんなチャンスがあるとは思えないから、私の事を洗いざらい書いておこう。
これは私の書く唯一の自伝だ。
それをトイレットペーパーに書いてるなんて……

私は1957年ノッティンガムで生まれた。雨の多い土地だ。
11歳試験に通って女子用グラマースクールに入った。
女優になりたいと思っていた。
学校で、最初のガールフレンドが出来た。
名前はサラ。
その時、私は15で彼女は14だったが、同じワトソン先生のクラスにいた。
手の綺麗な子だった。
生物学教室で瓶詰めのウサギの胎児を眺めながら、
ハード先生が、「それは思春期のはしかの様なものだ、いずれ卒業する」
と言うのを聞いた。サラは卒業したが…私はしなかった。
1976年、私は隠すのをやめ、当時の恋人クリスティンを両親に紹介した。
1週間後、演劇学校に通うためロンドンに引っ越した。
母は心を引き裂かれたと詰った。
だが大事なのは、自分に誠実である事だと思ったのだ。
そんなに身勝手だろうか?
それは自分に残された最後の財産だ。
最後の、わずかな1インチだが…その中でだけは自由でいられる。』
0471:とるにたりないもの ◇yCCMqGf/Qs 代理
垢版 |
2011/07/15(金) 00:50:16.34ID:Y1Hm9+7X



―――みんなに『笑顔』でいて欲しい
―――ただ、それだけが望みだった
―――だけど

『“テンマ”っ!貴様っ!』

その言葉を最後に、ぶつ切り状に放送は終えられた。
それは、グリマー、のぞみ、善吉の、三人の死体を、丁度、街外れの森に埋め終えた所であった。

―――『12人』
のぞみ、善吉、グリマーらを含めての、これまでに、この『実験』の生んだ死者の数であった。
それは、未確認達との戦いの最中に出た死者に比べれば、随分と少ない数かもしれない。
しかしである。

―――『お前に、仮面ライダーである資格はない』

『クウガ』とよく似た姿をもった戦士…『本郷猛』に言われた言葉が、五代雄介の胸の傷を抉る。
未確認生命体第42号との戦いのさなかで覚えた、意識を覆い尽くす様な怒りと、
それと同時に、心をそのまま深海へと沈めてしまった様な哀しみが、
五代の心の内に渦巻いて、酷い吐き気がした。

「――――『12人』か」
「多いか少ないかは解らないが……」
「いずれにせよ―――」

五代の隣で、吉良吉影が呟く。
その内心はどうあれ、その顔は傷ましそうに歪められている。

―――『12人』
その数字が、その数の死が、その数の人生が、五代の肩に圧し掛かる。

―――『お前に、仮面ライダーである資格はない』

その言葉が、またも胸を刺す。

未確認との戦いの際にも、何度も感じた無力感。
嗚呼……それでもなお。

「吉良さん」

五代が、傍らの吉良へと話しかけた。

「さっきも言いましたけど……俺、改めて言いますよ」

―――恐れるだけの歴史をゼロに巻き戻す英雄
―――『闇の種族/グロンギ』を討つ『凄まじき戦士』

―――にも関わらず、誰よりも優しく、誰よりも暴力を嫌う男
それでもなお、男が戦う事を選ぶのは―――

「俺、戦います」
「吉良さんや折原さんのいう、善い人たちのグループを作って、こんな事をする奴らと……戦います」

―――ただひたすらに、はるかなる愛にかけて
0472:とるにたりないもの ◇yCCMqGf/Qs 代理
垢版 |
2011/07/15(金) 00:51:05.68ID:Y1Hm9+7X

「だから見てて下さいよ」
「俺の――――『変身』」

そうして、五代は、親指を立てた。
その顔に、悲壮さえ感じられる笑顔を浮かべながら。



『……ロンドン…ロンドンでは幸せだった。
1981年にシンデレラのダンディニ役をやった。
最初の出演だった。
世界は目まぐるしく変転し、熱いライトの向こうに見えない観客がひしめていて、何もかもが魅力的だった。
エキサイティングだったが、私は孤独だった。
夜にはクルーインや他のクラブに行ったが、そこでもあまり溶け込めなかった。
どこに行っても落ち着かなかった。
そういう場所に集まる人の大部分は、ただゲイである事に満足していた。
私はそれ以上を求めていたのだ。
仕事はうまくいった。
映画に出て、やがて大きな役がつきはじめた。
1986年には「ソルト・フラッツ」という映画に出演した。
賞は取ったが、客足はさっぱりだった。
その仕事でルースに出会った。
私達は愛し合った。
同棲して、ヴァレンタインにはバラを贈ってくれた。
満ち足りていた。人生最良の3年間だったと思う。
1988年に戦争があった。
それからバラは手に入らなくなった。
誰の手にも…』
0473:とるにたりないもの ◇yCCMqGf/Qs 代理
垢版 |
2011/07/15(金) 00:51:47.82ID:Y1Hm9+7X



バットマンは膝をつかない。
彼は、アーチャーを援護する為に、再び下水道を駆け始める。
時間経過から考えるに、勝敗は兎も角、もう戦いは終わっているかもしれない。
それでも、彼は、その足を止める事は無い。

ジェームズ=ゴードンは死んだ。
ならば、だからこそ、道半ばで逝った戦友の死を無意味にしない為にも、自分は走り続けなければならない。
彼の魂の安らぎの為にも、この許されざる『実験』を打破せねばならない。

―――『バットマン』に止まる事は許されない
―――この世から全ての『悪』が消え去る、その在り得ざる時まで
―――この五体が砕け散って、戦いの果てで地に斃れ伏す、その時まで

バットマンは走る。
その足を支えるのは、とるにたりない…ちっぽけな『信念』。


五代雄介、『クウガ』は膝をつかない。
彼もまた、この『実験』を打ち破るべく、動きだす。
これ以上、誰かが犠牲にならない為に。

―――こんな馬鹿げた事の為に
―――もうこれ以上、誰かが傷つき、命を奪われ、泣いているのを
―――自分はこれ以上、許す事が出来ないから

誰かの『笑顔』を護る為に。
その親指を天へと立てて、哀しみを越えて、『青空』となる為に。

『凄まじき戦士』は歩きだす。
その足を支えるのは、とるにたりない、ちっぽけな『愛』。



―――その陰で、記憶の無い亡霊は、一人我が道を往き
―――怪物を心の奥に宿した少女は、未だ眠り姫を演ず
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