甚五郎は、さらに三角形の各頂点から糸を引き、相対する辺に結びつけようとしている。

「綾、ちっと代わってくれるか。鈴は儂が鳴らしといたる」
「え……どうしたら、ええのん?」
糸の端を渡され、綾は不安そうな顔をした。

「糸の長さをよう見てな、一番短くなるとこで留めるんや」
「???」
綾はますます困った顔になった。

「ええか、こうして斜めにするんと、ここらへんで直角に交わるんとでは、必要な長さが違うやろ。
儂は目で見てそれが分からん、お前が目で見て結んだほうが早いし確実や」

甚五郎の意図するところはなんとなく理解したものの、綾はやはり躊躇った。

今、甚五郎が行なっているのは、この妖かしを破る咒いである。
うまく出来なかったら……という思いが頭から離れない。

甚五郎は、
「左端の角と右側の角、どっちが大きく開いとる?」
と尋ねた。

綾は、辺の両側を見やった。木釘に結び付けられた糸が成す角の大きさを目視で比べ、

「え……右ちゃうん?」
と答えた。

「せやな。計算どおりや」
「なんなん……、またおかしなこと起きたか、思ったやん」

「お前の目はちゃんとあてになる、いうことや。さ、ちゃっちゃとやってくれるか」

綾は、観念したように作業を進めた。


かくして、広間の中には三角形に糸が巡らされ、さらにその中を、血で染めた糸が計六本、張られたわけである。




(図2)
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