3/3
「ねえ、今日さ、学校の近くに喫茶店がオープンするんだってさー」
僕はいつものように、電車越しのあの子を探していたとき、またも声をかけてきたのが沙也加だ。
「いつもいつも同じ電車に乗るなよなー」
「しかたないでしょ、通学一緒なんだしー」
それもそうだが、こう毎日一緒だと気分が……。
「ねえねえ、気分転換になるかも……」
こいつはやっぱり千里眼だ。人の心を読めるに違いない。
「かわいい喫茶店が……」
おまえに似合わないって……と言いかけたとき
満員の人波に押されるままに僕の方に押し付けられた沙也加の指が、僕の指に触れた。
倒れそうになった沙也加の顔が僕の学生服の胸に寄り添うようになって。
すぐに沙也加は「ゴメン」と小声で離れて、でも満員の中では、
離れようとしても自然と僕と沙也加が向きあう格好になったまま。
僕はなぜか胸がドキドキしてきた自分に戸惑った。
胸の鼓動に合わせるかのようにガタンゴトンガタンゴトンと、やけに電車の音が耳に大きく響き、
揺れるたびに、恥ずかしそうに俯く沙也加が僕に触れることになる。
暫く二人は黙ったままでいたが、やがて、僕の口から出た言葉はこうだった。
「帰りに、そのお店、一緒に寄っていかない?」
「帰りに、そのお店、一緒に寄っていかない?」
沙也加の口から出た言葉もタイミングよくハモるように僕と声が揃っていた。
沙也加の頬がポッと赤くなって、また恥ずかしそうに俯いた。
僕ははじめて沙也加をかわいいと思った。
いや、もしかしたら、ずっと前から……。
僕はその日から、電車越しのあの子を見ることはなくなった。(了)