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ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目
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0001創る名無しに見る名無し
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2010/09/04(土) 19:25:18ID:3s3/5B4U
時代はうなぎよりウーパールーパー!ミ(゜θ゜)彡
モバイラーもあるよ!(εё)

前スレ:ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1249981120/
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/864.html

前々スレ:俺スーパーモバイラー
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239426090/
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/149.html

関連レス:これから書いていこう
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239915589/1-51

+(・─・)+ +(・◇・)+ +(×o×)+ ……。
0104「 グレートサラマンダーZ 」
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2010/12/21(火) 00:05:59ID:UB4+wEUN

「 …………。」

 うぱ倫子が指した先に近づくにつれ、人の集団であることが明らかになってくる。
しかしモニターに映る影に違和感を覚え、うぱ太郎は何も言葉に出来なかった。

「あ、馬だ!」
うぱ民子が第一声をあげた。

――……なんで馬?

 馬に乗る者、馬を従えている者。向かい合うように数人。
競馬や乗馬、馬が珍しいわけではない。しかしイベント以外で実際に人が乗っているところを見た
のは初めてだった。

「……コスプレ?」
うぱ民子が続けた。

――時代劇とか映画のロケ? テレビカメラ関わるとろくなことならないからやだな。
  
 2頭の馬。1頭に乗るのは女、1頭を従えてるのは男2人。向かい合うのは4人。
次第に明確になる輪郭。背を向けている4人の衣服はおよそ現代的なものとはかけ離れていた。

「何だろ、山賊のコスプレかな?」
「ごめん民ちゃん。ちょっと静かにしててくれないかな」
「はーい」
少しだけ苛つく。
察したのかうぱ民子は返事の後、無言になる。

 4人の毛皮の男。
上品なコートとはまったく無縁な、純粋に衣服、防寒着としての野性味あふれる毛皮。
そして手にする凶暴そうな武器。

――なんで石斧? やっぱりなんかの撮影? 善良な村人と山賊っていうか悪者の対立かな?
  って、そんなこと気にしてる場合じゃない。ここが何処か聞かないと……。

 謎の集団はもうすぐそこだった。

 馬に乗る少女と眼が合う。
豆鉄砲を喰らったような表情から、一転して笑顔が弾けた。

 もののけ姫。
黄色がかった白い布をまとい、腰をベルト代わりの赤いたすきで絞っている。
民族的なアクセサリーで身を飾る姿はインディアンやアイヌの衣装を思わせる。
ビジュアル的に合致しているかは判らないが、うぱ倫子の言い表しは間違いではないと思えた。

 善良な村人チームの男2人も存在に気がついたのか大きく眼を見開いた。
グレートサラマンダーZに背を向けている悪者チームの4人はいっこうに気づく気配がない。
声を掛けなきゃと思う反面、善良な村人チームが身に着けている衣装が妙に気になった。

――あの服なんて言ったっけ?
 
 日常的に眼にするものではない。しかしどこかで見たことのある服装だった。
ああそうだ。と、うぱ太郎は思い出す。

――あれは確か、古代服……?
0107「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/01/18(火) 15:50:22ID:mLxCW2RE
 枯れ野原に空と山。
周囲にテレビカメラや撮影クルーの姿は見えないが、見渡す限り電信柱はおろか人造物の一切無い
風景は古代劇の撮影にはもってこいの場所に思えた。

――撮影の邪魔してるかもしれないけどここ何処なのか聞かないと。
  あの女の人グレートサラマンダーZ見て笑ったからたぶん大丈夫。とりあえず声掛けよう……

 毛皮姿の4人の背中はもう5メートルほどに迫っている。
地面から見上げる格好で思い切ってうぱ太郎は謎の集団に声を掛けた。

「すいません。僕、通りすがりの大山椒魚なんですけど……。ちょっと道教えてくれませんか?」

 馬に乗る少女、善良な村人チーム男2人が目を丸くした。

 背後からの声に、4人の毛皮男が一斉に振り返った。

「うわっ、なんだこいつ!」
「ば、化け物!」
いきなり現れたグレートサラマンダーZに、下っ端顔の毛皮男2人が悲鳴に近い声をあげる。

「……いまなんか喋ったか?」
「……いや、なにも」
唖然としながらリーダー格と思われる毛皮男が隣の毛皮男に聞く。
目を疑いながらも問われた男は返事を返す。
「じゃあなにか? このイモリの化け物が喋ったっていうのか?」
「……さぁ?」

――イモリの化け物って……

 予想外の反応にうぱ太郎は戸惑う。
モニターに映る毛皮男4人はだらしなく口を開けて固まっていた。
その奥の馬に乗る少女と善良な村人チーム2人も目を丸くしたままだった。
再び話しかける。しかし動揺のせいか思わずどもる。

「あ、あの、通りすがりの大山椒魚なんですけど……。て、テレビに出てましたけど見たことないですか?」

「……喋った!?」
うぱ太郎が話し終わるやいなや、毛皮男達が揃ってつぶやいた。

「えっ? あ、あの、涙の大山椒魚って一時テレビで流行りましたよね? あれ僕なんですけど……」
昔テレビに出ていた有名人。それで自己紹介は終わるはずだった。
だがうぱ太郎の思い通りにはまったく事が進まなかった。

「お、おいコラ、おめぇ何者だ? さっきからなに訳わかんねぇこと言いやがる!?」
うぱ太郎の言葉を無視してリーダー格の毛皮男がグレートサラマンダーZに怒鳴りつける。
しかし荒い口調のわりには表情に余裕が無い。
0108「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/01/18(火) 15:50:42ID:mLxCW2RE
「タ、タカオまずいよ、こいつオロチ様だ。変なことするとばちがあたる!」
下っ端顔の1人がリーダー格の男に青い顔で捲くし立てた。
とたんに謎の集団にどよめきが起こる。

「お、オロチ様だとぉ!? 嘘こけ。そんなのいるわけねー!!!」
「じゃあどっかの神様だ。まずいって、祟られるって!!!」
下っ端顔はおどおどしながら涙声で訴えた。
「う、うるせー! 神様なんているわけねー!!!」
リーダー格の男が焦り声で言い返す。
「じゃあ何なんだよこいつっ!絶対まずいって! 俺、祟られたくないから帰る!!!」
「待て、コラ!!!」
呼び止める声を振り切って、下っ端顔の男はグレートサラマンダーZと目を合わせないようにしながら
一目散に逃げ出した。

「……おろちって聞いたことあるけど何だっけ?」
4人の毛皮男が揉めはじめた隙にうぱ太郎は誰に向けるわけでもなくおろちの意味を尋ねた。
すぐにうぱ華子が答える。
「……大蛇(だいじゃ)って書いておろち。あたしも詳しくないけど確か蛇の化け物だったはず」 
「なんでおろち……。大山椒魚知らないのかな……?」
コックピットで首をかしげているうぱ太郎の前で、毛皮男達はさらに揉めはじめた。
その脇で善良な村人チームは目を丸くしたまま、ただの傍観者になっている。

「オオシカとか、このオロチとか、これだからチィミコにちょっかい出すのいやなんだよ。
食い物獲りに来て逆に化け物に喰われたくねーから俺も帰る。タカオ、祟られたら村に帰ってくんなよ!」
「なんだとコラ! 待て、逃げんな!!!」
オロチと言い出した男に続き、2人目の下っ端顔もグレートサラマンダーZから顔をそむけ走り出した。

「……オロチかどうか知らんが、俺らも逃げたほうがいいんじゃないか? かなりでかいぞ、こいつ」
「う、うるせー。ここまで来て何も獲らずに帰れるか!」
「……そうか。付き合ってられん。俺も化け物には関わりたくねーから帰る。せいぜい喰われねーようにしろ」
「おめぇもか!!!」
恐怖は顔に出さないものの、3人目の毛皮男もタカオと呼ばれた男に背を向け、先に逃げた男達を追った。
 いまいち状況を理解できないうぱ太郎の前に、善良な村人チーム3人と1人の毛皮男が残る。
善良な村人チームの男2人はいまだに狐につままれたような顔をしている。

「まったく、どいつもこいつも根性なしが! やいコラ、チィミコ! この化け物はお前の知り合いか?
お前が呼んだのか?オロチなのか?神様なのか?はっきりしやがれこの野郎!!!」
逃げ去った男を目で追った後、1人残った毛皮男は向きを替え馬に乗る少女に向かってがなりたてた。

「うーん、知り合いだったら楽しそうだけど違うな。っていうかタカオがいっつも悪さするから
懲らしめに来たんじゃないのか? 私の村ではオロチ様に祟られるようなことしてないし」
チィミコと呼ばれた少女はちらちらとグレートサラマンダーZを見ながら答えた。
「な、なんだとコラ! 人を悪人みたいに言うな、この野郎!!!」
気に障ることを言われたのか毛皮男の声がひと際大きくなる。
0109「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/01/18(火) 15:51:02ID:mLxCW2RE
「あはははは、悪人そのものだろ。私たちが死ぬおもいで北の国から運んできたお米様の種を
力ずくで持ってこうとしてるんだからな」
「だから、何度も言ってるだろうちょびっとでいいから分けてくれって!!!」
「はんっ!何がちょびっとだ。いきなり半分持って行こうとしたくせして!」
「だーかーらー、困ったときはお互い様だろ。お前の村と俺の村の付き合いもあるし」
「だーかーらー分けないとは言ってないだろ。だけど私も何度も言っただろう。種のまま持ってったら
お前ら全部食べちゃうからお米様の芽が出て苗に育ったら分けるって。それにさらした木の実なら
だいぶあるから持っていっていいよって」
「けっ! いまさら木の実なんて喰えるかよ!!!」
「しるかっ! だいたいお前ら後先考えずにお米ばっか食べるからそうなるんだよ。それにどう考えても
お米の出来はお前の村のほうが良かっただろうに。なんで植える種もほとんど無い私の村がお前んとこに
お米やらなきゃならないんだよ!!!」
「ぬおー……」

「……なんかよくわからないけど、揉めてるみたいだね」
モニターに映る毛皮男と馬に乗る少女のやり取りをうぱ太郎は呆け顔で眺めていた。
「……よくわからないけど話を聞く限り馬の女の子に分がありそうね」
答えたうぱ華子もやはり呆け顔である。
突如湧き上がった謎の集団のオロチ騒動米騒動に、うぱ太郎は当初の目的を完全に見失っていた。

「……わかった。もういい」
「……わかるのが遅すぎだ。まぁ心配するな、お米様の苗はちゃんと分けるから。北の国のお米様だ、
私の村のお米よりちょっとは寒さには強いだろ。お日様の機嫌次第だけどな」
「わかった、助かる。……ところでチィミコ。あの化け物、お前の知り合いでも何でもないんだよな?」
諍いが収まったのか、馬の上の少女といがみ合っていた毛皮男がグレートサラマンダーZに視線を戻した。

「……? 知り合いではないが…… 何だ?」
「じゃあ、俺の好きにしていいんだな?」
「……好きにって、何する気だ?」
馬に乗る少女は訝しげに毛皮男に問い直した。
右手に持つ石斧を左手に持ち替え、毛皮男は背中にしょっていた別の石斧の柄に手をかけた。

「……こいつはオロチじゃねぇ。なんかの間違いでたまたま陸に上がってしまった魚だ。ちょっとでかいがな。
だから俺がぶっ殺して村に持って帰る。あんだけでかけりゃしばらく魚には困らんだろ」

――!?っ

 耳を疑った。
いきなりの展開にうぱ太郎はコックピットで身を硬くした。

「なっ、なに言ってる! やめろ、ばちがあたるぞ!!!」
愕然とし、馬に乗る少女が叫ぶ。
「うるせー!」
しかし毛皮男は聞く耳を持たなかった。

「おい、魚。悪いがおめーには俺の村の食い物になってもらう。おめーも運が悪いな、
俺様と出会わなきゃ長生きできたのによ!!!」
啖呵を切り、毛皮男は両腕の石斧を振り上げた。

「タカオやめろっ!!!」
悲痛な声が枯野に響き渡る。
しかし、すでに石斧はグレートサラマンダーZを捉えていた。
0110「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/01/18(火) 15:51:25ID:mLxCW2RE
――どうしてこうなるんだ……? 僕はなにもしていないのに……?

 コックピットの中でうぱ太郎のエラが虹色に輝く。
 思考よりも早く身体が動いていた。
 猛然と踏み込み振り下ろされた毛皮男の石斧を、左にハンドルを切ってわずかな差でかわす。
 躊躇わずアクセル全開、瞬時、跳ねるボタン。
 グレートサラマンダーZ、ケンカ中の猫さながらに横っ飛び。

「……と、跳んだァ???」
石斧を地面に打ちつけたまま呆然と毛皮男がつぶやいた。

――此処は何処だ? なんで石斧なんだ? テレビの撮影じゃないのかっ!?

 グレートサラマンダーZ着地。うぱ太郎、逆ハンドルをあてて姿勢を正す。
 条件反射。
 すぐさま立つボタン。そして。



「「「 ――!? 」」」
 

 恐れしものが地に立った。

 恐ろし口が天を仰いだ。


 謎の集団4人が言葉を失った。
もはやグレートサラマンダーZの一挙一動が畏怖そのものだった。

「……オロチ様か。……まさか本当にいるとはな」
「……鬼だ」
馬の手綱を引きグレートサラマンダーZの様子を伺っていた善良な村人2人が、悪夢を
見たかのようにつぶやく。

「……ツギ。チィミコちゃんを守るぞ」
相方の男に声をかけ、善良な村人の1人が馬にくくり付けていた弓を手にした。
「……テン。……俺たちだけでやれるのか?」
不安を隠そうともせず、もう1人の善良な村人も弓を取った。

「やらなきゃ喰われるだけだ。見ろあれを。……俺達は神様の怒りに触れちまったんだ」

 それは異形だった。
ある者はナマズの化け物と言い、ある者はワニの突然変異と言った。
全てのものを飲み込まんとする大きく開いた巨大な口は、禍々しい蝿取り草を想わせ、ぬめり
がかった黒に近い赤茶色の身体と、巨大な頭部に比べあまりにも貧弱な手足は、おたまじゃくしの
でき損ないを想わせた。
 まったく見当のつかない場所で、自分の常識が通用しない相手に石斧を振り下ろされる。
無意識にうぱ太郎はグレートサラマンダーZ立ち上がらせ、大きく口を開いた。
それはうぱ太郎に出来る唯一の自衛手段だった。
 毛皮男、善良な村人2人、馬に乗った少女。
初めて目にしたグレートサラマンダーZの威嚇ポーズは、激しく荒ぶり怒り狂う邪神の姿にしか見えなかった。
0113創る名無しに見る名無し
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2011/01/25(火) 03:10:26ID:labPZwqj
     
   +( ・Д・)+
    /С  つ
 |\/   ノ
 \__し つ
0114創る名無しに見る名無し
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2011/01/25(火) 03:31:34ID:labPZwqj
   __
 /:::::::::::::\  ガショーン
 ェェェェ ::::::::\    ガショーン
 "-‐一''::::::::::::\
   Σ:::::::::::::::::::\_/ヽ
    ヽ、:::::::::::::::::::::::::/
    ∠:::::);;;;;;;;;;;;;;/
0117「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/04(金) 15:58:33ID:06o+A+e0

――弓矢!?

 うぱ太郎、咄嗟に跳ねるボタン連打。

――善良な村人役じゃないのか!?

 石斧に続き、視聴覚モニターにいにしえの武器が映る。
素早く距離を取りグレートサラマンダーZ、威嚇ポーズを続け謎の集団を牽制する。



「お、おめぇら何してる。あいつは俺がぶっ殺すんだよ!!!」
弓を手にする善良な村人2人に気づき、斧をかわされ呆然としていた毛皮男が怒鳴り散らした。

「……お前もさっさと自分の村に帰れ。邪魔だ」
だが毛皮男には目もくれず、そう言って善良な村人は矢じりのつき具合を確認する。

「……邪魔だと? ……テン、随分偉くなったもんだな。てめえ何様のつもりだ!!!」
思いもよらぬ屈辱的な返事に毛皮男の斧が震える。
しかし、テンと呼ばれた男は手を止めなかった。

「……お前の斧じゃ無理だと言ってるんだ。あの大きさあの動き、下手すりゃあいつはクマより強い。
だから俺とツギで弓で弱らせてから仕留める。お前の出番は無い。もう一度言う。邪魔だ、帰れ」
「けっ、偉そうにっ! 頭かち割ればいいだけだろうがっ!弓なんていらねーよっ!!!」
男に激怒し、毛皮男が凄む。
だが待っていたのは温厚そうな顔立ちに似合わない村人の蔑むような眼差しだった。

「タカオ、いい加減にしろ。お前の斧をオロチ様は難なくよけた。お前の斧はオロチ様に通用しない。
……だいたいお前がオロチ様に手をだすからこんなことになった。食い物を持って帰りたいのはわかるが
少しは周りのことも考えろ」
善良な村人が冷たく言い放つ。だが毛皮男も退かなかった。
「うるせーっ!次は必ずぶっ殺す!!!」

「お前ら、もうやめろ」
「「 ――!?」」

 一触即発な雰囲気の中、馬に乗る少女が割ってはいる。
「……テン、ツギ。オロチ様を倒そうなんて考えるな、弓を置け。タカオ、お前も斧を捨てろ」
穏やかな口調ながらも、険しい表情で少女は男たちに語りかけた。

「しかし!!!」
「はぁ?ふざけんなっ!!!」
テンと呼ばれた男と毛皮男がこぞって反発する。
そんな2人をことさらなだめるように少女は続けた。

「しかしじゃない。これ以上オロチ様を怒らせてどうする? テン、お前も言っただろう、クマより
強いって。私たちのかなう相手じゃないのは私が見たってわかる。
 それとタカオ。お前はすぐに自分の村に帰れ。お前がいると話がややこしくなる。オロチ様には私が
謝っておくから心配するな」
「…………」
少女の声に、テンと呼ばれた男は口をつぐむ。

「はぁ?チィミコ、お前何言ってんだ!? あんな化け物に話し通じるわけねーだろうがっ!!!」
だが、毛皮男はここぞとばかりに少女に激しく噛み付いた。
0118「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/04(金) 15:59:47ID:06o+A+e0

「……それはお前が聞く耳を持ってないだけだ」
荒れる毛皮男を見て、馬の上で寂しそうに少女は笑う。

「もう忘れたか? 話をしてきたのはオロチ様からだぞ。それをお前が何も聞きもしないでいきなり
斧振り上げたんだ。誰だってびっくりする。オロチ様が怒るのも当たり前のことだ。
……タカオ。すぐ帰らないなら悪いがお前の村にお米はやらん。木の実もだ」
笑顔から一転、瞬きもせず無慈悲な瞳で少女は毛皮男を見つめ続けた。

「……ちっ、わかったよ。……ま、せいぜい喰われないようにがんばれや」

 観念したかのように毛皮男は少女から目を逸らす。
そして捨て台詞を残し、馬の上の少女に背を向けた。

「……チィミコちゃん。……本当に大丈夫なのか?」
走り去る毛皮男を目で追いながら、ツギと呼ばれた男が少女に問いかける。
「大丈夫だ。ちゃんと話せばわかってもらえるさ」

 少女の表情から険が消えた。
手入れのなされてない太眉、ちょっと大きめの桃色の唇。
まだ随所にあどけなさの残る顔に笑みが戻る。

「……しかし」
いまだにいつでも飛びかからんばかりに牙を剥き構えているグレートサラマンダーZを
遠巻きにしながら、男は不安げにつぶやく。

「……テン、ツギ。確かにお前らから見れば私は若造だ、頼りないだろう。
それでも私は村を治める巫女だ。ものを見る目はお前らより持っているつもりでいる。私を信じろ。
それにあれだ、このオオシカの時と同じだよ。あはははは、あんときはひどい目に遭ったな」
不安視する善良な村人2人をよそに、馬に乗る少女は笑いながら馬の首筋をぽんぽんと叩いた。

「近寄れば蹴ろうとする、だけど離れれば寂しそうにする。誰かに構ってもらいたかったんだよ。
あの後、運んでも運んでもきりが無いくらい水はがぶがぶ飲むわ草はもしゃもしゃ食べるわで私らが
疲れて死にそうになったけどオオシカたちもいまじゃ村一番の働き者だ。
 ……あのオロチ様も誰かに構ってもらいたいんだ。もし人を喰うだけの化け物だったら私たちは
とっくの昔に喰われてたはずだ。たぶん何か困ったことがあって私たちと話がしたかったんだろう。
大丈夫だ、心配するな。だからお願いだ、弓を置いてくれ。オロチ様と争う必要はどこにもない」
そう言って少女は目を閉じ、小さく頭を下げる。

「……わかった」
「……チィミコちゃんがそう言うなら」
しばしの沈黙の後、少女に従い善良な村人2人は腰をおろし静かに弓を地に置いた。

「ありがとう」
手短に礼を言う。そして馬に乗る少女はグレートサラマンダーZを見つめ、手綱を握り直した。
0119「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/04(金) 16:01:00ID:06o+A+e0

――訳がわからない? なんでこんなことに

「にあっ……!?」
グレートサラマンダーZのコックピットに間抜けな声が漏れる。

「……太郎ちゃん、ちょっと頭冷やしたら? エラ光りっぱなしよ?」
硬い表情で視聴覚モニターを凝視していたうぱ太郎をうぱ華子が指で突付いた。

「えっ? あ。……でも」
小馬鹿にされたようなうぱ華子の言動にむっとして振り返る。
そして拗ねた子供のようにうぱ太郎は口をどもらせる。

「……でもじゃないわよ。まぁ今までひどい目に遭ってそうなる気持ちはわかるけど、
無理に戦う必要あるの?もっと大きく構えなさいよ。それにあの人たちに聞きたいこと
あるんでしょ、いま逃したらこんな山奥で次いつ人に会えるか分らないわよ?」
「…………」
「別に媚を売れとは言わないけど、こっちから歩みよるぐらいはしてもいいんじゃない?」
「…………」

 うぱ華子が言うことは充分理解できた。
しかしまったく知らない場所で、いきなり浴びせられた殺意がうぱ太郎を頑なにさせた。

「オロチさまーっ。私は近くの村に住むチィミコという者だー。私の話していることがわかるなら
さっきのことを謝りたいんだー。そっちにいってもいいかー?」

 突然、コックピットに少女の叫び声が響く。
視聴覚モニターには馬の上で両手を口にそえた少女と、弓を置いた善良な村人2人が映されていた。

「ほら、あの人たち武器捨てたわよ。斧振り回した馬鹿もとっくの昔にいなくなったし……」
諭すようにうぱ華子が話しかける。

「…………うん」

 いまひとつ納得しきれていない。
それでもうぱ華子に促されるまま、うぱ太郎は渋々とグレートサラマンダーZの口を閉じ姿勢に戻した。
0120「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2011/02/04(金) 16:02:13ID:06o+A+e0

 閉じた口を了解の合図と見たのか、馬に乗る少女と、馬を連れた善良な村人2人はゆっくりと
グレートサラマンダーZに近づいた。そして5メートルほど手前で歩みを止めた。

「オロチ様、さっきはすまなかった。私たちはオロチ様と争う気はまったくないんだ。
もし良かったら私と話をしてくれないか?」
馬に乗ったまま、臆することのない笑顔で少女はグレートサラマンダーZに話しかける。
隣にいる馬を連れた男2人はどことなく表情が硬い。

――なんでさっきからオロチなんだ? 涙の大山椒魚知らないのか?

 此処は何処なのか?
それが今一番必要とする情報だった。
しかしオロチという言葉が気にかかり、うぱ太郎は自らが演じた涙の大山椒魚を前に出した。

「……あの、さっきから僕のことオロチオロチ言ってるけど違います。僕は大山椒魚です。
それにチイミコさんでしたっけ? さっき僕のこと見て笑いましたよね。テレビで見て涙の大山椒魚
のこと知ってたんじゃないんですか? っていうかこれテレビの撮影ですよね?」

うぱ太郎の質問に、馬の上の少女は額に手をあてて考え込む。そして口を開く。

「……すまない。ちょっと聞いていいか?」
「……何ですか?」

「私の名前はチィミコという。私は自分のことを話すとき私という。オロチ様は自分のことをぼくと
言うのか?」
「……えぇ」
自身を僕と呼ぶ者に抵抗がある人が多少いるのは理解している。
しかし少女の口ぶりにうぱ太郎は何か違和を覚えた。

「それでオロチ様はオーサンショーウオという名前なのか?」
「…………まぁ、そうです」
違和感がさらに募る。

「わかった、ありがとう。えーと、さっき笑ったのは私の癖なんだ」
「癖?」
「すまない。いままで見たことのない不思議なものや変わったものを見つけると楽しくなって
つい笑っちゃうんだ。なんと言えばいいかな、知らないことを憶えて嬉しくなるっていうか。
それで一番分らないことを聞きたいんだが、あの、さっきから何回か言ってるけどてれびって何かな?」
「は?」

 ありえない返答にうぱ太郎は耳を疑った。

「いや、あの、すまない。……私、てれびって知らないんだ。何だろう?」
「……嘘でしょ?」
「いや本当に。……てれびって何だ?」
申し訳なさそうに少女はグレートサラマンダーZに尋ねる。

――ふざけてるのか……?

「いまどき馬乗って馬連れて、石斧振り回して弓矢出して、テレビの撮影以外考えられないじゃないですかっ!」

 キレ気味のうぱ太郎の声に善良な村人2人が一斉に身構える。
しかしそれを右手で制し馬に乗る少女は静かにグレートサラマンダーZに語りかけた。
「オロチ様。オロチ様が怒るのもしょうがない、私たちはまだ知らないことが多すぎるんだ」
0121「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2011/02/04(金) 16:03:28ID:06o+A+e0

――なんなんだ? 話はできるけど話がまるで通じない……

「それでオロチ様すまない。また少し聞きたいんだが?」
「…………何ですか?」
言葉を見出せないうぱ太郎をよそに、馬の上の少女はさらにグレートサラマンダーZに問いかけた。

「オロチ様、見たことあるかな? 山の奥に住んでて黒くて大きくて強い奴なんだ。
普段は4つ足で歩くんだけど、人を襲うときなんかは立ち上がって、がおーぐおーって手で殴る奴が
いるんだけど。……オロチ様わかるかな?」
ジェスチャーゲームのように少女は馬の上でがおーがおーと言いながら両手を動かした。

「…………熊ですか?」
意味不明な質問に怪訝そうな顔でうぱ太郎は答える。

「そうクマクマっ! 私たちもあいつをクマと呼んでるんだ。それで私が乗っているこいつだけど……」
そう言って少女は情けない笑顔で自らが乗る馬を指差した。

「……馬じゃないんですか?」
「ウマ?」
「……どっからどう見ても馬ですよね?」
あまりのくだらなさに、うぱ太郎は投げ遣り気味に答えた。

「大きいシカ……」
「は?」
「大きいシカかなって……」
「いや、だから鹿なわけないじゃないですか? 馬じゃないんですかっ!」
うぱ太郎の声に苛立ちが混じる。

「……そうか。……ウマか」
「……?」
うぱ太郎の返事に、手綱を震わせて馬に乗る少女が小さく笑った。

「そうか!ウマって言うんだっ!!!」
「うわっ、危なっ!?」

 いきなり少女の乗る馬が大きく跳ねた。
そして少女の笑い声とともに駆け出した。

――なんなんだ…………?

 突飛な少女の行動に、うぱ太郎はただただその後ろ姿を見送るしか出来なかった。
残された善良な村人2人は渋い表情で互いに顔を見合わせていた。

「あはははは、ごめんオオシカ! 私、間違ってた。いまからお前はウマだっ!!!
さすが神様、オロチ様は物知りだ。凄い、凄いぞ! あはははははははははーっ!!!」
疾走する馬の上で長い髪をなびかせながら、大声で少女は笑い続ける。

「大鹿って……。馬知らないとかテレビ知らないなんてありえない。一体いつの時代だ?」
狂ったように馬を操る少女を遠目に、うぱ太郎はつぶやいた。

 そして、はっとする。
  
「……いつの ……時代?」

 自ら口にした言葉を繰り返す。
刹那、うぱ太郎の胸が、とくんと高鳴った。
0123創る名無しに見る名無し
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2011/02/04(金) 16:09:18ID:EYw0erY7
投下乙
ついに気付いたかうぱ太郎…
0124「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:32:18ID:1QX1Hy15

――ありえない……

 感じ続けた違和感のひとつひとつが、組み合わせパズルのピースのように次々と型にはまっていく。

――タイムスリップなんて……

そして自ら導き出した答えに、コックピットの中でうぱ太郎は愕然とする。

「オロチ様、さっきはすまなかった。俺はチィミコと同じ村に住むテンという者だ。隣はツギという。
弓は取ったがうちの巫女様が言うとおりオロチ様と争う気はない。どうか怒りを静めてほしい。
 それとうちの巫女様さっきから笑いっぱなしだが、けしてオロチ様をからかってるわけじゃない。
すまない。まだまだ子供で楽しいことがあるとすぐ笑ってしまうんだ。許してやってほしい」

 硬い表情のまま馬を連れた片割れの男が、ぴくりとも動かないグレートサラマンダーZに話しかけた。
しかし混乱まっ最中のうぱ太郎に話を返せる余裕はどこにもなかった。

「……オロチ様?」

「……え? ……あ。 ……あ、あの、すいません。……ここ何処ですか?」

 期待していた返事を得られなかったのか男は困惑気味に笑顔を浮かべる。
そして気を取り直すかのように咳払いをし、うぱ太郎の質問に答え始めた。
「俺たちの住む村のすぐ近くだ。山に囲まれた小さな村だが」

「あの、そういうことじゃなくて、東京とか埼玉とか横浜とか…………」

――テレビどころか馬さえ知らない時代の人に地名とか通じるのか?

 話しの途中で疑問が湧き、うぱ太郎の口が止まる。

「すまない。ちょっとわからないな」
しばし考え込んでいた男の口からうぱ太郎の想像通りの返事が漏れた。

「あ、いや、すいません。あまり気にしないでください……」

――何処っていうか、いつだ? 石斧に弓。馬も知らない。石器時代なのか……?

「オロチさまーっ!!!」
「うわっ、危なっ!?」

唐突に、少女の乗る馬が地響きとともにグレートサラマンダーZの前に立ち止まった。
0125「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:33:44ID:1QX1Hy15

「オロチ様はどこの神様なんだ?どこに宿るんだ?川?沼?ここの近く?遊びに行っていいか?」
「?????」 

 目前を馬に踏み込まれコックピットで肝を冷やしてるうぱ太郎に構わず、馬の上から少女は目を輝かせ
ながら捲くし立てた。

「チィミコちゃん、いい加減にしてくれ!」
グレートサラマンダーZの様子を察してか、会話を遮られた男が厳しい声を少女に向ける。
「さっきタカオにあれだけ言いながらチィミコちゃんもタカオと同じことをやってる。ちょっと間違えば
オロチ様を蹴ってたかもしれないんだぞ。チィミコちゃん。オオシカから降りてくれ。話はそれからだ」

しかし男の声を気にもせず、少女は馬の上で笑う。
「あはははは、テン。オオシカじゃなくてこれはウマだ」
「そういうことを言ってるんじゃないっ!!!」

 怒声が響いた。

「……ごめんなさい」

 思わぬ怒りに呆気にとられ、少女は小さな声で男に詫びた。
軽い身のこなしで馬から降り手綱を脇に挟み込む。作務衣のような白い衣服の乱れを整え、
腰の巻いた赤いたすきと首飾りをたしかめ、そして頬にかかった髪を両手で後ろに流した。

「……これでいいか?」
姿勢を正し、少女は男に確認する。
「あぁ。……チィミコちゃん。神様に会えて嬉しいのはわかるが、もう少し巫女らしくしてくれ」
「……うん、すまない。これから気をつける」
男の返事に、幼さを残す凛々しい顔に少しだけ笑みが戻る。

「……あの。僕は……、僕は神様じゃないです」
成り行きを眺め頃合を見計らっていたうぱ太郎が少女達に話しかける。
 混乱はいまだ続いている。
しかしやたらと神様と呼ばれることにうぱ太郎は抵抗と不安があった。

「え、そうなのか? 人と話せるから神様だと思ったけど。あ、じゃあどっかの主かな?
それでオロチ様はどこから来たんだ?」
そう言って少女は手綱をツギと呼ばれた者に託し、子犬の相手でもするかのようにグレートサラマンダーZ
の前でしゃがみこんだ。

「え? ……あ、あの。 ……み、未来の国から」
視聴覚モニターに少女の姿がアップで映る。あまりの顔の近さにうぱ太郎は思わずしりぞく。
「ミライ? ミライって国から来たのか?」
しゃがみこんだまま不思議そうな表情で、少女はグレートサラマンダーZを見つめ続けた。

――未来も通じないのか…………?

「…………まぁ、あの。……そんなところです」

 どぎまぎしながら答える。
思考や言葉とは裏腹に、カメラ目線のアイドルを見てるような気恥ずかしさから、
無意識にうぱ太郎はブレーキを踏みオートマシフトをバックに入れていた。
0126「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:35:37ID:1QX1Hy15

「それでオロチ様これからどこに行くんだ?」
「……未来に帰りつもりだけど、…………ここが何処かわからなくて」
心配そうに見つめる少女の顔から逃れるように、じりじりとうぱ太郎はグレートサラマンダーZを後退させた。
しかし連動してるかのように少女もしゃがんだままずいずいと距離を詰め、うぱ太郎の小さな努力はまるで
意味をなさなかった。

「道がわからなくなったのか?」
少女に問われる。
だが未来という言葉が通じない時点でうぱ太郎は説明する気力を完全に失っていた。
「…………まぁ、そんなところです」
真っ直ぐな瞳から目を逸らし、うぱ太郎は力なく答えた。

 すっと少女が立ち上がる。

「だったら私の村に来ないか?」

「「「 えっ!? 」」」
予想だにしない少女の発言に、うぱ太郎と男2人が同時に声をあげた。

「チィミコちゃん!!!」
「だめだ。村長(むらおさ)に怒られる!」
馬を連れた男2人が一斉に少女に詰め寄る。

「あはは、大丈夫。村長には私が話すから」
真剣な表情の男2人を、いたって能天気な笑顔で少女は諭した。
しかし間髪いれずツギと呼ばれた男が反論する。

「だめだ、許しが出るわけない。 ……オロチ様の前で言うのもなんだが、……オロチ様は怖すぎる」
「「「 !? 」」」

 場を静めるには、たった一言で充分だった。
少女と男2人の会話が途切れた。それが答えだった。

――結局ここでも化け物あつかいか……。

 うぱ太郎の口からため息が漏れる。

 化け物。
うぱるぱ救出活動初期からずっと言われ続けていた。充分慣れていたはずだった。
 優しい言葉が欲しい訳じゃない。ちょっとでいいから判ってもらいたかっただけ……。
想いをめぐらせ、うぱ太郎は静かに笑う。

「……オロチ様」
立ち尽くす少女から笑みが消えていた。いつものことだとコックピットでうぱ太郎は眼を伏せる。
 少女の口が開く。
しかし聴こえてきたのは耐え難い、より残酷な言葉だった。

「オロチ様は人を喰ったりするのか?」

―― !!!っ

 うぱ太郎のエラが虹色に輝く。

「僕は人を食べたりしないっ!!!」
「僕”は”人”を”食”べ”た”り”し”な”い”っ”!”!”!”」

 グレートサラマンダーZ共鳴、空気が震える。
 狼の遠吠えのように、悲しげに風が吹き抜けた。
0127「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:36:56ID:1QX1Hy15

「ぐおっ!」
「鎮まれっ!」
突然の風に2頭の馬が怯えだす。必死の形相で2人の男は手綱を押さえる。
地を蹴りつける蹄の音に、いななきが連鎖する。

 しかしそんな中、少女はひとり高笑いをあげた。

「あはははは、なーんだ、じゃあ大丈夫だよ。別にオロチ様そんな怖くないし」
「は……?」

 あっけらかんと話す少女にうぱ太郎は返す言葉を忘れる。

「テン、ツギ。オロチ様は大事なお米の種を悪者から守ってくれた恩のある人だ。ちゃんと
お礼しないとそれこそばちがあたるぞ。大丈夫。きちんとわけを話せば村長もわかってくれるさ」
笑いながら少女は男2人に叫びかける。

「「!!!っ」」
だが馬をなだめるのに手一杯で、男達は返事さえままならなかった。
暴れる馬に悪戦苦闘する男達を横目で見てケラケラと笑う。そしてグレートサラマンダーZに向き直り
少女は微笑んだ。

「ということでオロチ様。お礼もしたいし良かったら私の村に来てくれないか?」

――ダメだ。もうなにがなんだか……。

 混沌と混乱。
いくら冷静になったつもりでも目の前の現実が許さなかった。
 リーダーシップ、責任感。
もはやそんなのはどうでもよかった。一刻も早くこちら側の者と対話したかった。

「…………あの、ちょっと待っててください。すぐ戻ります」

そう言ってうぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かし、少女から離れた。



「あの、みんなモニター見てわかってると思うんだけど、いまとんでもない状況になってて、
それでみんなの意見を聞きたいっていうか、どうしようかなって思って……」

 少女から20メートルほど距離を取ったところでうぱ太郎はグレートサラマンダーZを停めた。
そして振り向き、後部座席のうぱ華子たちに話しかけた。

「そうね。あたしもまるでSF映画のヒロインになった気分よ」
何のためらいもなくうぱ華子は即答する。

「太郎ちゃん、わたし喋っていいの?」
うぱ民子が手を挙げてうぱ太郎に尋ねる。
「は? 何それ……?」
意味がわからずうぱ太郎はうぱ民子に聞き返す。
「何それって、ひどいなー。さっき、静かにしろボケ!ってキレてたじゃん」
「そんなこと言って…… 言いました、ごめんなさい」

「ま、そんなことどうでもいいわ。……まず、そうね、みんな気づいてると思うけど、今あたしたちが
陥っている状況を一般的にどういうか揃って言ってみましょうか?」
動揺から立ち直れないうぱ太郎を差し置いて、うぱ華子がコックピット内を仕切り始めた。
0128「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:37:56ID:1QX1Hy15

「……うん」
「はーい」
「…………」

 返事を確認し、うぱ華子が続ける。
「それじゃあ、あたしのせーの、に合わせて頂戴。いい? ……せーの!」

「タイムスリップ」
「タイムトラベル」
「ワープ!」
「……ワームホール通過」

「……民ちゃん、ワープって微妙に違う気がする。……倫ちゃん、ワームホールって何かな?」
「みんな似たようなものだから言葉の違いはこの際どうでもいいわ」
解説をはじめようとしたうぱ倫子を遮り、うぱ華子が言い切る。

「……それで、これからどうしようかと思って」
うぱ倫子を不憫に思いながらも、うぱ太郎はそのまま話を続けた。

「どうするもこうするも、あの人たちについて行くしか選択肢はないんじゃないの?
とりあえず生活の基盤を築かないとみんな野垂れ死によ。……それにうまく立ち回れば
あたしたちは神になれるわ」
「は?」

「華ちゃん、神様になってなんかいいことあるの?」
うぱ太郎の声を押しのけて、すぐさまうぱ民子がうぱ華子に聞いた。
「ご老人の屋敷にいたときみたいな贅沢はできないけど、その代わり誰からも命令されることは
なくなるわ。逆にあたしたちが人間に命令できる立場になるのよ」
そう言いながらうぱ華子は不敵に笑った。

「うわー、華ちゃん悪人顔だー」
「おほほ、なんとでもおっしゃいなさい。まぁご老人の屋敷に比べれば生活水準はガタ落ちになるけど
上手くいけば人間をアゴで使えるわ」
得意げな顔でうぱ華子は力説する。

「マジでー? もしかしてウハウハのハーレム状態?」
「ちょっと違うけど、まぁそんなところね」
うぱ華子に同調するように、返事を聞いたうぱ民子もにやりといかがわしい笑みを浮かべた。

「……華ちゃん。もう嫌なことしなくていいの?」

 会話に入れなかったうぱ倫子がぽつりとつぶやく。
一瞬の沈黙の後、うぱ民子は真顔に戻り、うぱ華子は小さく息を吐いた。

「……倫ちゃん。倫ちゃんが好きなCDもDVDもこの世界には無いわ。でも、もう誰からも命令
されたり嫌なことを強要されることはないの。ここにご老人はいない。自由な世界よ」
ふざけた口調をやめ、うぱ倫子に向けてうぱ華子は静かに答える。

 返事はない。
0129「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:39:01ID:1QX1Hy15

「…………あの。何で華ちゃんはこの世界に住むことが前提なの? 普通帰りたいって思わないかな?」
沈黙に耐えかねて、うぱ太郎が口を開いた。

「……太郎ちゃんは元の世界に戻りたいの?」
「基地のみんなも心配してると思うし当然僕は戻るつもりでいる。ていうか普通そう思わないかな?」

 あたり前のこと。別に間違っていない。
話しながらうぱ太郎は胸の中で思う。そんなうぱ太郎にうぱ華子は儚げな笑顔を見せた。

「……太郎ちゃんは王国出身で帰る場所があるからね。でもね、あたしたちにはもう帰る場所なんて無いの。
もし元の世界に戻れたとしても、あたしたちを待ってる人なんて誰もいない。ペットショップに送られて
新しい飼い主に飼われるだけよ。そこから新しく人間関係を構築する労力を考えたら、この世界でおもしろ
おかしく暮らしていくほうが気が楽だわ。
 それに残酷だけど、事実を言うならあたしたちはもう戻れないわ。それは太郎ちゃんも判ってるはずよ。
あたしたちが乗っていたタイムマシンはもう壊れてしまったんだから」

――壊れた……?

 うぱ華子の言葉に、うぱ太郎の鼓動が大きく波打つ。
 
【 リピートモーター切り離し中。至急サービスマンにお知らせください 】

 視聴覚モニター下部に表示されたエラーメッセージが、分裂増殖を繰り返すアメーバーのように
うぱ太郎の視界を赤く侵していく。

――壊れた……。

「…………でも」

 赤の残像に眩暈を覚えながら、消え入りそうな声で、それでもうぱ太郎は食い下がる。
しかしすがるものが何ひとつないそれは、うぱ華子にとって無抵抗な相槌に過ぎなかった。

「映画とかの受け売りだけど、もし元の世界に戻るとしたらタイムスリップしたその時と同じ
条件下でこのロボットを動かす必要があるわ。それでも成功するかどうかはやってみなきゃ分らない。
 高速道路ぶっ飛ばして吹っ飛んだ弾みでタイムスリップしたと思うんだけど、モーターが壊れて
高速道路も無い状態でそれを再現するのは事実上不可能よ」

「…………」
うぱ太郎は押し黙る。構わずうぱ華子は続ける。

「考える時間はたっぷりあるわ。嫌になるくらいにね。でもとりあえずねぐらと食糧ぐらい確保
しなきゃ先には進めないの。太郎ちゃん。あたしはなにも独裁者になって人類を支配したいわけじゃないわ。
静かに暮らせてたまに人から崇められるくらいの立場がほしいだけ。要は誰にも邪魔されずあたしの
好きなようにのんびり生きていけたらそれでいいの。
 太郎ちゃんが戻りたい気持ちは分るし戻れたらいいなと思う。戻る方法を模索するのも反対はしない。
ただ此処がいつの時代か分らないけど、この世界でも帰れる場所を作っておいて損はないと思うわ」

「……随分口が回るようだけど、華ちゃんはタイムスリップだって最初から気づいてたの?」
重たげに、恨めしげに、うぱ太郎の口が開いた。
しかしさして気にもせず、うぱ華子はうなだれるうぱ太郎の問いに答える。

「太郎ちゃんよりちょっと早いくらいじゃない? 目覚めたときからなんか変だなって思ってはいたけど
それは太郎ちゃんも同じでしょ。それに太郎ちゃんが矢面に立ってくれたからね。ワンクッション置いて
傍から見てればそれなりに考えることは出来るわ。全然意味合いは違うけど過去に似たような経験もしてるし」
0130「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:40:02ID:1QX1Hy15

「……わかった」

 力なくうぱ太郎はそう言って頷く。
憐れみも同情の色も見せずにうぱ華子は話を進める。

「早速だけど、あたしたちは未来という名の国から海を越えてやってきた旅人ってことでよろしく」
「……旅人?」

「そう。テレビも馬も知らない時代よ。いちいちあたしたちのこと説明しても埒が明かないのは確実だわ。
設定って訳じゃないけど海を時に替えればそのまんまあたしたちのことだからそんなに違和感ないでしょ」
「なんかカッコいい!」
「……旅人って、意味通じるかな?」
うぱ華子の提案にうぱ民子は楽しげに食いつき、うぱ太郎は疑問を返した。

「北の国とか言ってたから大丈夫だと思うけどね。
太郎ちゃん、そろそろ戻ったほうがいいわね、こっち見てるし。それであの女の子の村に着くまで
しばらく話しかけないでもらって頂戴。その間いろいろみんなで作戦立てましょう」

 うぱ華子に言われうぱ太郎はモニターを確認する。
落ち着いたのか2頭の馬は男達に手綱を引かれおとなしくしていた。隣でチィミコと呼ばれた少女が
難しい顔で立っている。

――どっちにしろとりあえず先に進まなきゃ。悩んでてもしょうがない。

 強い意志があるわけでもなく、流されるままの決断だった。

「……わかった。そうする」

心に言い聞かせ、滲んだ手の汗を拭い、うぱ太郎はゆっくりとグレートサラマンダーZを前進させた。



「すいません、お待たせしました。……あの、僕、ほんとにあなた方の村に行ってもいいんですか?」
少女の前に出る。馬はおとなしく頭を垂れている。3人とも神妙な顔つきでグレートサラマンダーZを待っていた。
うぱ太郎が話しかけた途端、少女の顔は笑みで溢れかえった。

「うん、来てくれ。私いろいろ話聞きたいんだ。好きなだけいてくれて構わない」
少し前進と胸の中で唱える。そしてうぱ太郎は少女にずっと気になっていることを聞く。

0131「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/02/14(月) 22:41:22ID:1QX1Hy15

「そうですか。じゃあ、あの、よろしくお願いします。それでちょっと聞きたいんですけど、いま
何年ですか?」
「何年?」
うぱ太郎の問いに少女は少しだけ首をかしげた。

「えぇ。西暦とか和暦とか……」
「うーん、ちょっとわからないな。……ちなみに私は生まれて15年になる。そこにいるテンは25年、
ツギは20年だ」

――さすがに無理か……。カレンダーなんかありそうにないし。

 期待はしていなかった。気を取り直してうぱ太郎はすぐに次の質問に移る。

「ああ、わかりました。あとひとつ。ここはこれから暖かくなりますか?それとも寒くなりますか?」
「これからどんどん暖かくなるよ。オロチ様はなんといってるかわからないけど、私の村では
分かれの日って言ってるんだ」
「わかれの日?」
聞きなれない言葉にうぱ太郎は問い返す。

「そう、明日のことなんだけどちょうど昼と夜が半分になるんだ。それで明日からどんどん昼の時が
長くなる。春の分かれの日でお米作りの始まりなんだ。忙しくなるけどやっぱり春は嬉しい。
それで明日なんだけど、分かれの日の祭りやるからオロチ様も入ってくれないかな。きっと楽しいよ」

――春分の日!?

「うん、ありがとう。……それで僕、馬の後ろ付いて行きますけど、考えないといけない事あって話
できないんでしばらく話しかけないでくれますか」
「うーん、そうなんだ。……あ。オロチ様は走れるのか? オオシカ…じゃなくてウマ走るの速いぞ?」
「あ、大丈夫。馬ぐらいには走れます。はぐれたり逃げたりはしないですから心配しないでください」
「そうかわかった。まぁもうすぐだから私たちもゆっくり行くよ」
 
 男2人に目配せをし、少女は出発する準備を始めた。

「オロチ様、私はチィミコと言う。まだ小さいがこれでも村の中では巫女をやってて偉いんだ。
なんかあったら気にせず私に話してくれ。それと大きい男がツギで髭もじゃがテンだ。
私といつも一緒に祭り旅に出てるから道をよく知ってるしウマの扱いにも慣れている。なんか聞きたい
ことがあったらいつでも言ってくれ」

――明日が春分の日なら今日は3月の19日か20日。時間も夕暮れになれば大体合わせられる。

 よし。と心の中で叫ぶ。
日付が分かったところで元の時代に戻れることはない。それでもうぱ太郎は素早くナビの日付を
3月20日に修正した。

「じゃあ、行こうか」
颯爽とチィミコは馬の背を跨ぐ。
荷物を積んだ馬の手綱を取り、早足でテンとツギが歩き始めた。

「えぇ、よろしく」
馬の上で振り向いたチィミコにそう声をかけ、うぱ太郎はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
0134「グレートサラマンダーZ」
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2011/03/01(火) 00:47:31.30ID:oM++3WLR

「グレートサラマンダーZ。……グレサラ様。グレマン様。サラマン様。こんなところかしら」
「わたしグレマン様がいい」
「いや民ちゃんに聞いてないから。太郎ちゃんはどれがいい?」
「……どれがって、どういうこと?」
「グレートサラマンダーって、いちいち長ったらしいからね。呼びやすいように愛称決めておいたほう
楽でしょ。別にオロチ様でもいいならいいけど」
「……だったら、僕もグレマン様でいいよ」
「了解。じゃあグレマン様っていうことでよろしく」

 春の息吹を感じる枯野をテンとツギが先導し、馬に乗ったチィミコが後に続く。
うぱ太郎は離れ過ぎないようにアクセルワークに気をつけながら追走していく。
 時折チィミコは振り返り、グレートサラマンダーZが無事に付いてきているか確認する。
その度に、意中の物を手に家路を急ぐ趣味人のように、チィミコはにまにまと頬を緩ませていた。

「うぱ太郎はグレマン様に乗って世界中を旅をしていた。その道中、家を追い出されたうぱ華子たちと出会う。
どこか静かに暮らせるところで降ろしてと願ううぱ華子たち。わかったとうぱ太郎は快く承諾した。
しかし思わぬ事態に遭遇する。突然の嵐がグレマン様を襲い、傷つき見知らぬ場所へ吹き飛ばされてしまったのだ。
 ごめんとうぱ太郎はうぱ華子たちに謝罪する。しかしうぱ華子たちはうぱ太郎を責めもせず大丈夫、
ここで暮らせるからと笑って見せた。しばし悔いていたうぱ太郎だがすぐに前へ進もうと意を固める。
小さな村の巫女にお世話になりながらグレマン様の傷の手当てを行い、旅を続けるべく準備をはじめた。
そして……。

……完璧だわ」

 モニターに映るチィミコたちの姿を気にもせず、うぱ華子はうぱ太郎たちを相手に熱弁を振るう。

「よくもまぁぽんぽんぽんぽん口から出まかせ出せるもんだね」
モニターを見ながら皮肉混じりにうぱ太郎は言い放つ。
「出まかせとは失礼ね。もし太郎ちゃんが元の時代に戻ることになっても不自然ならないように考えたつもりよ。
それに西暦とか和暦とかの年号どころか未来さえ通じない時代の人にあたしたちのこときちんと説明したって
わかるわけないじゃない。それとも太郎ちゃん何かいい考えある?」
「それは……。ないけど……」
しかし、いとも簡単にうぱ華子に言いくるまれる。

「それで最終的にあたしたち姿晒さないとダメなんだけど、人がいっぱいいるとこでいきなりあたしたち
出ても収拾つかなくなるのは目に見えてるから、最初はあの女の子の前だけにしましょう。
か弱い存在だけどいろんなことを知ってるって思い知らせればもうこっちのものよ。チィミコちゃんだっけ?
自分で偉いって言うほどだから彼女を取り込めば後は貰ったようなものね」
「……そんなにうまく事が進むかな?」
「大丈夫でしょ。オロチ様でもう神様扱いだからあたしたちもそれに便乗すればいいだけのことよ」
懐疑的なうぱ太郎に対し、自らの案を疑いもせずうぱ華子は余裕の表情で答えた。

「太郎ちゃん、ここって何年前?江戸時代?」
会話が途切れると同時にうぱ民子がうぱ太郎に尋ねた。
「江戸時代って……」
「だってわたし昔のことよくわからないもん」
0135「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/03/01(火) 00:49:49.46ID:oM++3WLR

「僕もあまり詳しくないけど、……紀元前の世界だと思う」
「紀元前?」
ぴんと来なかったのかうぱ民子はうぱ太郎に聞き返す。
「大雑把に言えば2000年以上前の時代ってことね」
「……うん」
すぐにうぱ華子のフォローが入り、モニターを見つめたままうぱ太郎がうなずく。

「どうしてそう思うの?」
「マンガ読んだだけのいい加減な知識で申し訳ないんだけど、中国の紀元前の人で始皇帝って
人がいて、それでそのマンガではその時代もう馬もいたし剣もあって立派な服も着てるんだ。
それに比べてここの人は馬は知らないしみすぼらしいし格好だし石斧というか石器使ってるくらい
だから古代っていうか原始時代じゃないかなって思ってる」

 年号や未来という概念が通用しない時代。
正確な年代を確かめる術などどこにもあるはずがなかった。
 
「ふーん。そういえば中国4000年の歴史って聞いたことあるなー」
「……うん。そのぐらい昔かもっと前かもしれない」
うぱ民子の返事にうなずく。
 古代、原始時代と口にした。
しかし紀元前の世界と予想しただけで、それが何千年何万年前の時代なのか具体的な年代はうぱ太郎も
まったく見当がついていなかった。
「……太郎ちゃん。あまり詳しく知らないけどワームホールって時空と時空とか、次元と次元を
結ぶトンネルみたいなものなの。だからその出口っていうか入り口見つければ元の時代に戻れると思う」
「は?」

 唐突にうぱ倫子が話し始める。

――ワームホール? さっき言いかけたこと?

 突然話をふられうぱ太郎とうぱ民子は無言になる。

 しかしコックピットに訪れかけた静寂はうぱ華子のひと言で打破される。

「……絵空事ね」

――!?

「ワームホール入り口って親切丁寧に看板が出ていればいいけどね。でも当然看板なんて出てるわけ
ないしそういうスポットがあるかどうかも定かじゃない。下手すれば死ぬまで幻を追いかけてそれで
終わってしまうかもしれないのよ。……ワームホールの入り口を探すなんて雲をつかむより難しい話よ」
「…………でも」

「うん、倫ちゃん、ありがとう。なんとなくワームホールって分かった。でもいまはチィミコちゃん
の村に行って居場所を確保しようと思う。明日にでも僕たちが最初に気がついた場所に行ってみるよ。
もしかしたらなんか帰れるヒントがあるかもしれないし」

 努めて明るくうぱ太郎はうぱ倫子に語りかけた。
うぱ倫子が元の時代に戻りたいのかどうかは判らない。それでも先刻の自分を見ているかのように
うぱ倫子の気持ちは理解できた。そして過去の体験からか極度に現実を直視するうぱ華子の姿勢も
否定は出来なかった。
0136「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/03/01(火) 00:51:25.70ID:oM++3WLR

「あたしもそれに賛成ね。時間はあるし焦る必要はないわ。居場所キープできれば余裕持って動けるしね。
ところで太郎ちゃん、このロボット延々と動いてるけど燃料補給はしなくていいの?何で動いてるわけ?」
うぱ太郎の提案に賛同し、うぱ華子は話を進めていく。
うぱ倫子も懐疑や苦渋の色は見せず何事もなかったように静かになった。

「えーと、恒久回転モーターとか言ってた。なんか一度回り始めたら半永久的に回り続けるんだって。
それでそれだけだと力が足りないんで補助モーター付けてパワーを引き出してるみたい。補助モーター
2基ついててそのうちの片方が壊れて切り離しになってるけど、いまのところそんなに影響はないよ。
自給自足って言うか常時モーター回ってるんでそれでバッテリー充電してまたモーター回すって感じ」
うぱ松から聞いた話を思い出し、あやふやながらもうぱ太郎は質問に答える。

「……つくづく太郎ちゃんのとこのボスは凄いわね。恒久回転なんてノーベル賞ものよ」
「そうなの? なんかオリハルコンとかオリアキコンとか怪しい金属使ってるみたいだけど」
「幻の金属って訳ね……。吹っ飛んだはずみで不思議パワーが炸裂して、結果タイムスリップ発動かしら?」
頬に手をあてうぱ華子は考え込む。つられてかうぱ倫子とうぱ民子も難しい顔になった。

「……うん。暴走させたつもりはないけど結果こうなってしまった訳だし。……ごめん、僕が悪いんだ」

 タイムスリップという予期せぬ事態に巻き込んでしまったという事実。
その心苦しさからうぱ太郎はモニターを見ながらも小さな声で、されど確かな声で謝った。

 どうしてこうなってしまったのか。
誰かのせいにして糾弾すれば楽になれるのだろうか。

 口にする者は誰もいない。

 ふたつの時代の狭間で、沈黙が切なく流れ続けた。
そして静かにうぱ華子が話し始める。

「……別に太郎ちゃんを責めるつもりはないわよ。逆にグレマン様と一緒に全員あの世行きが
確定だったのにご老人の魔の手から逃れてみんな無事に生きてるんだから太郎ちゃんは
ミッションクリアでいいんじゃない? ……後はこれからどうするかだけよ、何も問題はないわ」

「……華ちゃんは切り替えが早いっていうか逞しいよね。全然動じていないみたいだし」
モニターから目を離すつもりはなかった。しかし振り返る勇気もなかった。
運命共同体の慰みあいに過ぎなかった。それでもうぱ華子のひと言がうぱ太郎の心を救った。

「単に諦めるのが早いだけで別に逞しくなんかないわ。それにチィミコちゃんの村の乗っ取り失敗したと
しても適当な沼でも見つけてそこでミミズとかメダカでも食べて暮らせばいいだけのことよ。難しく
考える必要はないわ。ということでこの話はおしまいね」

「……うん、ありがとう」

 少しだけうぱ太郎に笑みが戻る。
そして気を取り直し、先に進むべくすぐに話を続けた。
0137「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/03/01(火) 00:53:02.29ID:oM++3WLR

「それで話し変わるんだけど、グレマン様乗っていきなりチィミコちゃんの村に行ったらまたさっき
みたいにオロチオロチって大騒ぎになると思うんだ。だから一旦間をおいて誰かに説明して貰ってから
村に入ったほうがいいと思ってて、それをチィミコちゃんにお願いしようと思ってるんだけど」
「そうね。無意味な衝突は避けたいからそれで行きましょう」
「あと余計な心配かもしれないけどタイムパドラックスとかってあるよね?」
「確か過去を改ざんして矛盾が生じたらどうなるのかって感じのやつね」
「うん。そういうの気にするレベルじゃないほどの大昔だとは思うけど念のため対策は必要かなと」
「何千年単位の昔の時代だしあまり深刻に考える必要はないんじゃないかしら。むやみやたらと未来の
ことを話したり通じない言葉をいちいち無駄に説明したりしなければそれでいいと思うけどね。
ただこのロボットに乗ってるときは極力争いごとに関わらないほうがいいわ。その気はなくても
純粋に人を傷つけることになるから」
「うん、そうだね。気をつける」

 うぱ太郎、うぱ華子とで会話が連なる。
うぱ民子うぱ倫子は話に加わろうともせずぼんやりと視聴覚モニターを眺めている。
「倫ちゃん、民ちゃん聞いてる?」
ひと段落着いたところでうぱ華子はそ知らぬ顔のうぱ民子たちに話を聞いているか確認した。

「聞いてるよー。わたしたちは未来という名前の国から来た旅人で、グレマン様が壊れちゃってここに
不時着して、グレマン様直ったら未来という名前の国に帰るつもりで、難しい言葉はあまり使わないで
余計なことはあまり喋らないようにってことでしょ?」
心外そうなそぶりも見せずうぱ民子はうぱ華子の呼びかけに答えた。

「まぁ大体そんなところね。倫ちゃんは?」
「……大丈夫。……地動説唱えたりはしない」
「……地動説って」
理解を得た言い回しではあるが、意表をつくうぱ倫子の返事にうぱ華子は苦笑いを浮かべる。
そしてコックピットのメンバーに更に理解を促すよう話を続けた。
「文化や文明に関してはノータッチでお願いね。聞かれてもなるべく適当にお茶を濁して。
それと生活習慣は村のルールに従いましょう。あと太郎ちゃん、村の人にも敬語禁止ね。チィミコちゃんの
口ぶりからすればたぶん敬語なんて使ってないわ」
「うん、そうする」

 電柱も高圧線の鉄塔もない山々。道なき道を馬を連れて走る男たち、馬を駆る少女。
視聴覚モニターにはほんの数時間前には考えられなかった異質な太古の光景が映されている。
その一方で現代という時間軸に取り残されたコックピットの中、うぱ華子を中心に対応策がまとまっていく。

「基本方針はこんなとこかしら。あとは村にあたしたちを食おうとする馬鹿がいないことを願うわ」
「うん。……あと、ひとつだけいいかな?」
ナビの時計を見ながらうぱ太郎がうぱ華子に問いかけた。

「何かしら?」
「さっき僕たちの姿晒すって言ってたけど、どのタイミングでコックピットから出る?」
「そうね、村に行ってチィミコちゃんと二人きりの状態で出るのが望ましいからそういう状況を
作り出せるか探りいれてくれないかしら」
「了解。……じゃあこれからチィミコちゃんに声かけてみるよ」

――ちょっと緊張するな。……詐欺師になった気分だ。

 チィミコの村に移動を始めて20分ほど経過していた。
 深呼吸をひとつ。
そして意を決めてうぱ太郎は前を走るチィミコに向けて大きく叫んだ。
0138「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/03/01(火) 00:54:34.86ID:oM++3WLR

「あのーっ、チィミコちゃん。ちょっといいかな?」

 グレートサラマンダーZを通し山間にうぱ太郎の声が響いた。
どうどうとなだめる声とともに勢いを落としながら2頭の馬が止まる。
呼びかけられたチィミコはすぐに馬から降りる。

「オロチ様、もう話していいのか?」
嬉々とし、チィミコはグレートサラマンダーZの前に駆け寄りしゃがみこんだ。
「えぇ、どうも。……それで、あと村までどのくらいかな?」
相変わらずの顔の近さに苦笑いしながらうぱ太郎は村への距離を聞く。

「もうすぐだ。オロチ様見えるかな、あの山のふもとだ」
そう言ってチィミコは後方の山を指差す。近いとは言えないが途方に暮れるほどの距離でもない。
「あ、うん、わかった。そんな遠くなさそうだね。……それでちょっとお願いがあるんだ」
「何だろう?」

 うぱ華子との会話を頭の中で整理しながらうぱ太郎は話し出す。

「チィミコちゃんの村に呼んでくれたのはすごく嬉しいし助かるんだけど、あの、さっきのことも
あるしいきなり僕が行ったら村の人たち驚いて怖がると思うんだ。それで出来れば誰か先に行って
僕のこと話しておいて貰いたいんだ、怖くないよって。
 それと僕、大山椒魚なんだけどオロチじゃなくてグレマンって名前なんだ。だからこれからは
オロチ様じゃなくてグレマン様って呼んでほしくて」
うぱ太郎の声にチィミコはしゃがんだまま両手で顔を覆い考え込む。そして理解したのか
軽く両手を叩いて答えた。

「わかった。オロチ様でもオーサンショーウオでもなくてグレマン様な。
あとグレマン様のことはテンとツギを先に行かせて村の者に話してもらうよ。それでいいか?」
「うん、それでお願いしたいな」

 うぱ太郎の返事とともにチィミコは立ち上がった。そして振り向きテンとツギに声をかける。
「ということでテン、ツギ。お前たち先に帰ってグレマン様のこと村の衆に話しておいてくれないか?」

「……あぁ。……だけどチィミコちゃん、俺はうまく伝えられないかもしれないぞ?」
チィミコの指示に荷馬の手綱を持ったテンが答えた。
しかし不満や不安があるのか返事は今ひとつ煮え切らない。

「大丈夫。タカオにお米横取りされそうになったところを助けてもらったって言えばみんなわかって
くれるさ。これは間違いのないことだ。それにグレマン様はオロチじゃない。怖くないよ」
屈託のない笑顔でチィミコはテンを諭す。しかしテンとツギの表情はまだ硬いままだった。
「わかった。よし、村までもう少しだ、急ぐぞツギ」
「……あぁ」
特に反論もせずチィミコに背を向け、テンはツギを従えてすぐに発とうとした。

「あのっ!」
「「!?」」

 荷馬とともに駆け出そうとした2人にグレートサラマンダーZから声がかかる。
足を止め、手綱を引いたままゆっくりとテンとツギは振り返った。
0139「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/03/01(火) 00:55:56.40ID:oM++3WLR

「テン、ツギ。あの、さっきはすいませんでした。僕もみんなと争う気はなかったんだ。でもいきなり
石斧で殴られそうになってつい立ち上がったけど、いつもはおとなしいから怖くないから大丈夫です」

 スムーズに村に受け入れてもらおうとうぱ太郎はテンとツギに怖くないとアピールする。
しかし呼び捨てに慣れてないせいかその口調はぎこちない。
 相容れないものがあるのかうぱ太郎の声にテンとツギは振り返っただけでその場から動こうとはしなかった。
グレートサラマンダーZに呼び止められたテンの口が開く。

「……こっちこそすまなかった。村の衆にはちゃんと話すからどうか村に寄ってくれ。先に行ってる」
照れ隠しなのかテンの口元に少しだけ微笑が浮かぶ。うつむき加減のツギはグレートサラマンダーZと
目を合わせようともしなかった。
そしてうぱ太郎の返事を待つこともなく2人はすぐさま振り返り荷馬とともに駆け出した。

 走り去る馬の後姿を見送りながらうぱ太郎は改めて頭の中を整理し始める。
残されたチィミコは馬を撫でながらグレートサラマンダーZの様子を伺っていた。

「……チィミコちゃん、ちょっといいかな?」
「何だ?」
まるで恋人の声を待っていたかのようにチィミコの表情が明るくなる。
「チィミコちゃんの村に行ったらちょっと大切なこと話さないとダメなんだ。それでチィミコちゃんと
2人きりで話したいんだけどそういうところはあるかな?」
「私1人で住んでるけど、私の家の中でいいか?」
躊躇いもせずチィミコはうぱ太郎の質問に答えた。

「……うん。……ごめん」
あまりにも真っ直ぐな純朴さにあてられ、うぱ太郎は思わず謝罪の言葉を口にする。
「大切なことって何かな。なんかドキドキするな。いま誰もいないけどここじゃ話せないことなのか?」
「……うん。出来れば落ち着いて話したくて」
騙しているつもりはなかった。
しかし罪の意識をあらわすかのようにうぱ太郎の胸の鼓動は早まっていた。

「わかった、話は家に帰ってから聞こう。じゃあ私たちもそろそろ行こうか?」
「……うん」

 よいしょとひと声かけ、しかし苦もせず馬の背にまたがりチィミコは手綱をさばく。
散歩でもするかのようなゆったりとした脚でチィミコの馬が歩み始めた。

――とりあえず第一段階突破……。

 僅かに心苦しさを覚えながらも順調に話が進みうぱ太郎は胸をなでおろした。
そしてアクセルをゆっくりと踏み込み、チィミコの馬の隣を歩いた。
0142「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:10:17.55ID:fkDrFDOq

 チィミコの乗る馬。うぱ太郎が操るグレートサラマンダーZ。
西日になりつつある穏やかな光を受けながら、互いの距離に足を踏み入れることもなく
山に囲まれた平地を並んで進んでいく。

「ところでグレマン様の国は何処にあるんだ?」
馬の上からチィミコがグレートサラマンダーZに問いかける。
好奇心か未知なる者への憧憬か、チィミコの瞳は期待の色で溢れかえっている。
早速きたかと思いながら、うぱ太郎はうぱ華子の提案した設定を暗唱し質問に答えた。

「……海の向こうにあるよ」
「えっ、ホントに!?」

 グレートサラマンダーZの返答にチィミコは目を丸くする。
乗り主の意を理解したのか、チィミコを乗せた馬は静かに立ち止まる。

「え? ……う、うん」
驚きの声と突然立ち止まった馬にうぱ太郎は戸惑う。しかし戸惑いを隠せないうちにさらに
チィミコから怒涛の質問が繰り出された。

「凄い凄い凄いっ!!! あーん、グレマン様わかるかな?お日様が昇る海?それともお日様が
沈む海?どっちの海越えて来たの?どっちどっち?どうやって来たの?」
「えっ? ……あ、あの」
思いもよらぬチィミコの反応と早口に捲くし立てられ、うぱ太郎は言葉の意味を見失う。

「お日様の昇る海は太平洋、沈むのは日本海よ!」
動揺するうぱ太郎を見かねてか、すぐに後ろの席でうぱ華子が小声でつぶやいた。
「!?」

――太平洋越えてアメリカは無理。日本海越えて中国なら行けそう。

「……えーと、ここから見たらお日様が沈むほうかな?」
うぱ華子の助言を基にうぱ太郎はどうにかチィミコの質問に答えた。
「凄ーいっ!!!もしかして大陸から来たの?海どうやって渡ったの?泳いで?飛んで?」
うぱ太郎の一言一句にチィミコは激しく興奮する。
だがチィミコの驚きぶりに怯みつつも、うぱ太郎は落ち着きを取り戻しはじめた。

「……泳いだり飛んだりしてたんだけど、嵐に遭っちゃって」
「嵐?」
「……うん。凄い風がいきなり吹いてそれで吹き飛ばされちゃって、気がついたらここにいたんだ」

――大丈夫、設定通り言えている。

「……そうか」

 チィミコの笑顔に少しだけ憂いが滲んだ。

「……確かにそよぐ風はいい風だけど、強い風が吹くといろいろ大変になるからな。私の村でも強い
雨と風で稲が倒れて酷い目に遭うことがあるよ」
「……あの、そういえばさっき北の国のお米がなんとかって言ってたけど?」
チィミコの変化を見逃さずに、うぱ太郎は話題を切り替える。

「ああ、あれな。よそはどうか知らないけど私の村のあたりは前の夏凄く寒くて、いつもの年の
半分ぐらいしかお米が取れなくてな。それでいつも祭り旅に行っている北の国の村々から種になる
お米を少しずつわけてもらったんだ。いまはその帰り道だ。とんだ邪魔者がはいったけど」
うぱ太郎の予想通りチィミコは話に食いついてくる。
暗い話題にもかかわらず、喋り好きなのかチィミコの舌は滑らかに回り続けた。
0143「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:11:40.44ID:fkDrFDOq

「じゃあ、いま食べるお米無いの?」
「いや、ちゃんと数えてるし少ないけどあるよ。でも前はお米に木の実が混じってるって
感じだったけど、今は木の実にお米がちょっと混じってるって感じであまり美味しくないんだ。
種になるお米もあるんだけど育ちが悪かった稲の種だし、またお米が取れないとそれこそ大変な
ことになるから仲良くしてもらってる村から種わけてもらったんだ。それに北の国のお米だから
少しは寒さにも強いかなって思ってな」
「……大変だね」
馬の上で諦めたかのように笑うチィミコに、うぱ太郎は同情の声をかける。

「しょうがないよ。どんなに祈ったってお日様には逆らえないし……。
でも、もう春だしこれからいっぱい食べ物とれるようになるからお米の残りが少なくても何とかなるさ。
大丈夫だよ、そんな困ってはないから」

――逞しいというか楽観的というかポジティブというか……。なんか考え方が華ちゃんに似てる。

 さして悲壮感も見せずさばさばと語るチィミコを見て、うぱ太郎は後席のうぱ華子を気にかける。

「あ、グレマン様は何食べるんだ? なんかいっぱい食べそうだな」
言葉の止まったグレートサラマンダーZに今度はチィミコが問いかけた。
「……えーと、僕は何も食べなくていいんだ」
一瞬考えた後、うぱ太郎はそう答える。
「ん……? 何も食べなくていいって何も食べないのか?お腹すかないのか?」
「……うん。ちょっと分りにくいからチィミコちゃんの家に行ってから話すよ。さっき言った大切な
ことでもあるし」
頭の中に準備していた返事でうぱ太郎はチィミコの質問をうやむやにする。

「……そうか、わかった」
曖昧な返事を問い詰めることもなく、チィミコは小さくうなずいた。
そしてすでに友達同士であるかのようにグレートサラマンダーZを顎で促し、軽く手綱を振った。

「でも驚いたなぁ。人のほかにも人の言葉喋る奴がいるなんてびっくりだ。グレマン様の国じゃ
人の言葉喋る生き物いっぱいいるのか?」
再び歩み始めた馬の上で楽しそうに笑みを浮かべチィミコが尋ねる。
うぱ太郎もグレートサラマンダーZを動かしながら答える。

「いや、ほとんどいないよ。人の言葉を喋れるのは限られてるから」
「やっぱりそうか。あ、もしかしてグレマン様ウマの喋ってることわかる?」
「いや、僕も馬とは喋れない」
「そうか、神様っていうかどっかの主ぽいからわかるかなって思ったけど、やっぱり無理か」
「……チィミコちゃん、馬のこと知らなかったみたいだけどこの馬はどうしたの?」
チィミコを取り込む。
うぱ華子の言葉は確かに頭にあった。しかし特にそれを意識することもなくうぱ太郎は自然に
チィミコとの会話を進めていた。

「祭り旅の途中で見つけたんだ」
「さっきも言ってたけど祭り旅ってなに?」
「私の村の巫女は夏に北の国の村をまわって踊りを舞うのが慣わしでさ、それを祭り旅って言ってる。
このウマは前の前の夏だけど北の国に向かう砂浜でぐったりしてるところを見つけたんだ。
それで水やったり草やったり世話したらその後私たちについて来てな。それで可愛いから北の国一緒に
まわって村に連れて帰ってきたんだ。
6匹倒れてたんだけどそのうち2匹は助けてやることが出来なかった。かわいそうなことしたなって
思うけど残った4匹はなついてくれたから、たぶん私たちのことを許してくれてると思う。
祭り旅はひたすら歩くことになるから凄くきつかったんだ。でも今はウマが私たちを運んでくれるから
歩くのも半分になって楽になったし北の国に着くのも早くなった。ちゃんと水と食べ物と休みやってれば
ウマは何も言わないで動いてくれるんだ。もうウマのいない暮らしには戻れないよ」
そう言ってチィミコはぽんぽんと馬の肩口を叩く。
チィミコの話が分っているかのように、馬はぶるると小さく鼻息を鳴らし応えた。
0144「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:12:37.57ID:fkDrFDOq

――野生の馬って簡単に人になつくのか? それとも、もともと人に飼われてた馬だったのかな?

「グレマン様、ちょっとだけ急いでいいか?」
「あ、うん」
会話が途切れた後チィミコは空を仰ぎ、あたりをぐるりと見渡した。
「すまない。今の速さでも暗くなる前に着くけど村の衆やテンとツギを待たせるのは悪いから」
「チィミコちゃんに任せるよ。僕はついていくだけだし」
ありのままにうぱ太郎は答えた。その返事にチィミコの手が動く。
ゆったりとした歩調から一転、軽快に馬の脚が回り始めた。

 淡い色合いの空、眩しさを失った太陽。
チィミコの言葉と視聴覚モニターの映像から午後4時頃と見当をつけナビの時計を合わせた。
そして馬に遅れないように、うぱ太郎は少しだけ強くアクセルを踏み込んだ。



――凄いとこ来ちゃったな……。

 薄暗い森を走り、小さな峠を越えた。
そこで突如眼下に広がった光景に、うぱ太郎は軽い眩暈を覚えた。

 奥深い山間の村。
案内がなければ間違いなく素通りするだろうと思われる山道を抜けた場所にその村はあった。
 きのこのかさのような屋根をもつ住居と思われしきものと、高床式の建物が連なり、
神社の鳥居のような、不思議な形で組み合わされた背の高い柱が数箇所に立っている。
そして田畑と思われる平地が山の隙間を縫うように奥へ奥へと続いている。

「おっ、やってるやってる」 
見晴らしのいい高台の上、チィミコは両手をぶんぶんと大きく振り始めた。
広場らしき場所に多数の人が集まっている。その者たちを相手にしているのか、馬を連れたテンと
ツギと思われる人影が集団と少し距離を取って立っている。

「グレマン様。すぐに私の家にいってもいいし、村人を見たいならあそこにいってもいい。
どうしようか?」
傍らのグレートサラマンダーZにそう話しかけチィミコは群衆を指差した。
「うん、村の人に声かけておきたいな。そのあとでチィミコちゃんの家にいきたいと思う」
第一印象は大切だからと、うぱ太郎はうぱ華子に相談せずに即答する。
同じ考えだったのかうぱ華子も後ろの席でその判断に小さく頷いた。

「わかった。じゃあ私の後ろに付いてきてくれ。私がちょっとグレマン様のこと話すからそのあと
なんか喋ってもらえるかな。みんなびっくりするぞ。えへへ、どんな顔するか楽しみだ」
いたずらっ子のように無邪気な笑みでチィミコは馬を繰り出した。
そして、馬の上でただいまーと大きな声で叫びながら右手を振り続けた。
0145「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2011/04/15(金) 12:13:41.31ID:fkDrFDOq

「もう笑っちゃうくらい凄いとこだね」
チィミコが先に行ったことを確かめ、うぱ太郎は振り返りうぱ華子たちの反応を見る。
「風情があっていいんじゃない? スローライフとかロハスな生活を満喫できるわよ」
「……そういう問題じゃない気がする」
あまりにも想像とかけ離れた世界だったのか、うぱ華子の返事に珍しくうぱ倫子が口を挟んだ。
「倫ちゃんはいままで不健康な生活だったからここで静養すればいいよ。わたしはそうだな、
とりあえず冒険する!」

――なんていうか……

 呑気だね。と出掛かった声をうぱ太郎は飲み込んだ。
脱力しそうなうぱ民子の提案。しかしそんなうぱ民子の声に何度か助けられたのも事実だった。
途方に暮れる時期は過ぎた。あとはこれからどうするか。と胸に秘め、話を進める。
「えっと、とりあえず村の人の前で手短に挨拶するんで、何か思うことがあったら教えてくれないかな」
「任せるわ。なんだかんだで太郎ちゃん対応できてるから問題ないでしょ」
「はーい、リーダーにお任せしまーす」
「…………」
三者三様の答えが返ってくる。
「……うん。じゃあ、行きます」
視聴覚モニターを見つめ距離を確認する。そしてハンドルを握り直しうぱ太郎はチィミコの馬を追った。



「ただいまー。いやー疲れた疲れた」
「チィミコちゃん、また変なの拾ったきたの?」

 4、50人ほど集まった村人の前でチィミコは馬から降りた。
馬の世話係なのかテンが駆け寄り、チィミコから手綱を受け取る。
 幼児から青年壮年、年寄りまで。
男女問わず集まった村人の服装はいずれも薄汚れた白い布が基本だった。季節に合わせた重ね着や毛皮、
中には藁で編み込んだマントのようなもので身を包んだ者もいる。

 チィミコに話しかけたのは5、6歳と思われる幼い少女だった。
少女の声にチィミコは苦笑いを浮かべながらも、しかしすぐに鼻高々に話し始めた。
「変なの言うな。聞いてびっくり見てびっくり。オオシカも凄かったけど今度はもっと凄いぞ!」
そしてくるりと振り返る。

 得体の知れない何か。
近づくにつれ、住民のどよめきが強くなる。しかし構わずチィミコはグレートサラマンダーZを
手招きする。

「聞いたと思うけど、さっきタカオたちといざこざがあってそのとき助けてもらったんだ。
それでそのお礼もかねてうちの村にしばらく居てもらおうと思ってる。
名前はグレマン様。みんなもそう呼んでくれ。怖そうに見えるけど実は全然怖くなくて優しいから
心配しなくていいよ。それではグレマン様どうぞー!」
「おおー!?」

 高まるどよめき。
その中をうぱ太郎はゆっくりとグレートサラマンダーZを前進させ、チィミコの隣に構えた。
0146「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2011/04/15(金) 12:14:43.64ID:fkDrFDOq

 自慢の友達でも紹介するようにチィミコは得意げな顔で村人達を見渡した。
歓迎の拍手なんて期待はしていない、ほんの少しでいいから受け入れてもらえれば。とうぱ太郎は
願いを込め、ゆっくりと口を開いた。

「あの、こんにちは。僕、グレマンって言います。どうぞよろしく」

 人とはかけ離れた何かが言葉を口にした。
一瞬の沈黙のあと、集まった村人からより一掃のどよめきが沸き起こる。

「喋った。本当に喋った……」
「こんにちは」
「嘘だろ……」
「でっかいなぁ……」

 未知なるものとの対峙。
確かに極端に怯える者はいない。しかし歓迎の笑みを浮かべる者もほとんどいなかった。
僅かに聞こえた好意的な声は恐れを知らない子供たちだけである。

――ちょっと甘かったか……

 奇異なものを指差すような視線とひそひそ話が横行する。
事前に説明されていた筈だが、予想を上回ったのか村人のざわめきが止む気配はない。
コックピットの中で、この場をどう乗り越えようかとうぱ太郎は考える。

「チィミコちゃん、グレマン様っていっしょに遊んでくれるの?」
「ごめん。実はまだそこまで仲良くないんだ。だからこれからグレマン様と話しして聞いてみる。
でも今日はもう遅いからどっちにしろだめだよ」
コックピットでうぱ太郎が思案する最中、少女がチィミコに近寄り話しかけた。
グレートサラマンダーZの挨拶にこんにちはと返した唯一の者である。

――前に似たことがあったな。……その子ちゃん。嬉しかったからまだ覚えてる。

「チィミコ」

 うぱ太郎が明日にでも一緒に遊ぼうかと言おうとした寸前、男の声が広場に響いた。
けして大声でがなりたてた訳でもない。しかしその一声で広場のざわめきは瞬く間に消え去った。

 少し腰の曲がった老齢な男が、杖を片手に群集を割りチィミコの前に立つ。
そしてグレートサラマンダーZを見下ろしたあと難ありげな表情で口を開いた。

「……おまえ、本当にその者を村に置くつもりなのか?」

 男の声に、一瞬、眉間にしわがよる。
だが、すぐに笑顔を作りチィミコはさらりと男に言いのけた。
「ああ。グレマン様は恩のある人だし、それにちょっと困ってるみたいだからしばらく村に
居てもらうつもりでいる。明日の祭りも一緒に出てもらうつもりだ」
「テンとツギにそのグレマン様は強い風を起こしたと聞いた。その者は村に災いをもたらす
のではないか?」
返事を良しとせず、男は厳しい表情でチィミコに問い続ける。
しかし、何の問題も無いようにチィミコはひょうひょうと答えた。
「大丈夫だよ村長。グレマン様が風を起こしたのは私が怒らせるようなことを聞いたからで
グレマン様のせいじゃない。私が悪いんだ」
「怒らせるようなこと?」
そう言ったチィミコに、眉をひそめ村長は聞き返す。
0147「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:15:53.50ID:fkDrFDOq

「ああ。グレマン様の前で申し訳ないけど、さすがに人喰いを連れて帰る訳にはいかないから
聞いたんだ、人を喰うのかって。そしたら本気で怒られた。凄いよ、びりびりきた。
でもそれでグレマン様は嘘をついてないって分ったんだ。悪い奴ならそこで嘘ついて入り
込もうとする。でもグレマン様にそれはない。正直な人だよ。だから心配しなくていい」

 テンとツギを含め村人たちは村長とチィミコのやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
その中で険しい表情の村長に動じることなく、チィミコは己の主張を言いきった。


―― …………。

 罪悪感のあらわれか、うぱ太郎は視聴覚モニターに映るチィミコを直視できず下を向く。

「……どうやらお飾りの巫女って訳でもなさそうね」
小さな舌打ちのあと、誰に聞かせるわけでもなくうぱ華子は小声でつぶやく。


「……しかしだな」
グレートサラマンダーZの前、それでもチィミコの返事に村長は不安を隠そうとしなかった。
「いや、村長は心配しすぎだよ。オオシカの時もそうだったけど、そうやって新しいことを
受け入れようとしないのはもったいないよ。大丈夫、私に任せてくれ。グレマン様が来たせいで
村に災いが起こるなんてことはないから」

 村長とチィミコの視線がぶつかる。
見守る村人に、その間に割って入れる者はいない。チィミコに素直だが頑固なところがあるのは
村の誰もが知っている事実だった。

 我慢比べの沈黙の後、村長の口から大きくため息が漏れる。

「……いつもいつもしょうがない奴だな。わかった、チィミコに任せよう。その代わり少しでも
怪しいことが起きたらグレマン様には悪いがすぐに出て行ってもらうぞ」
「うん、ありがとう」
 硬い表情が解け、チィミコはにっこりと微笑む。
笑顔に誤魔化されているのは承知しているかのように村長もしぶしぶと苦笑いを浮かべる。

「あの、お世話になります。どうぞよろしく」
2人の会話が終わるやいなや、うぱ太郎は間髪いれず少し見上げる姿勢で村長に話しかけた。
ばつの悪そうな顔をしながらも、村長は言葉を貰ったグレートサラマンダーZに答えた。

「……グレマン様といったか。テンとツギから話は聞いたが、タカオのことはすまなかった。
いまはよその村に住むがもともとはこの村の生まれでな。村分れで新しい村に行ったが
あいつのことはよく知っておる。しかしいくらなんでもいきなり斧を向けたのは許されないことだ。
今度あったらわしも一言言っておこう。
この村にはタカオのようにいきなり暴れたりする者はいない。どうぞゆっくり休んでいってくれ」
「どうもありがとう。あの僕も余程のことがないかぎり暴れたりしないので、あまり
心配しないでいいですから」

――ちょっと胸が痛いけど、ここまでくれば……

 深く息を吐き、うぱ太郎は視聴覚モニターを見つめ直した。
不意に突付かれて後ろを振り返ると、うぱ華子が無言で親指を立てていた。
0148「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2011/04/15(金) 12:17:00.11ID:fkDrFDOq

「よし、話は決まりだ。村長ありがとう!」

 話を打ち切るようにチィミコは大袈裟に声を張り上げた。
そしてまだざわつきの残る広場の中、隣に村長とグレートサラマンダーZを置いたまま、続けて
村人たちに向けて話し始めた。

「まずみんなにひとつ謝らないといけないんだ。グレマン様から聞いたんだけど、オオシカだけど
本当はウマって言うらしいんだ。でももうみんなオオシカって呼び慣れてるからそれでいいと思う。
ただ、本当はウマって言うことはちゃんと憶えててほしいんだ。ごめん、私が間違ったこと教え
ちゃったせいだけどそのほうがオオシカも喜ぶと思うから」
「ウ……マ?」
「変な名前」
チィミコの発表に先程までとは違った和やかなざわめきがおこった。
振られた話を種に大人たちは笑顔で談笑し、子供たちは声を揃えてはやしたて始めた。

 場の雰囲気が変わりチィミコは満足そうに頷く。
「グレマン様は私たちの知らないこといっぱい知ってるんだ。だから私はしばらくグレマン様と
一緒にいて話を聞きたいと思っている。なので今日は私とグレマン様2人きりにしてもらいたい。
それと明日の祭りはいつも通りやるから男衆も女衆もお備えをよろしく頼む。お米が少ないから
焼き米は食べられないけど、お神酒はいっぱい作って寝かせてある。ちょっと薄めたけどね。
だから楽しくやれるはずだ。
もうすぐ田植えも始まるから元気に乗り切れるようにみんなで一緒に祈ろう!」

「おおー!」
チィミコの声に、一斉に歓声が沸きあがった。

「チィミコちゃんたち間に合ってよかった」
「やっぱり祭りがねえと田植えは始まらないからな」
「飲みすぎんなよ」
「お米の代わりに豆か栗でも焼こうかしら」
「うーん俺の家の藁、濡れてて燃えないかもしれん」
グレートサラマンダーZの存在も忘れ、集まった村人たちはおもいおもいに話し始めた。
村長とチィミコはその光景を穏やかな表情で眺めていた。そして思い出したようにチィミコは
手綱を引いたテンとツギに声をかけた。

「テン、ツギ。私はこれからグレマン様と話をするから、悪いけどオオシカから荷物降ろして
休ませてやってくれないか。それと北のお米は蔵に入れておいてくれ。明日の祭りの時にうちの
お米と一緒に祓うから。
それが終わったらゆっくり休んでくれ。もしお神酒ほしいならやるぞ。私たちがんばったからな、
前祝だ、罰も当たるまい」

 チィミコの声にテンは一仕事を終えた安堵の表情を見せた。
一方のツギは充実感よりも疲労感を色濃く匂わせていた。
「ああ、わかった。俺はお神酒はいい。久々の家だ、みんなとゆっくり過ごすさ。ツギはどうだ?」
「俺もいいな。それよりいまはすぐにでも横になりたいよ」
2人の返事にチィミコは少しだけ残念そうな顔をする。
「……そうだな、雪道はつらかったもんな。テン、ツギ、オオシカのおかげだよ、ありがとう。
最後に仕事言いつけて悪いけどあとちょっと頼む」
「ああ、大丈夫だ。なんてことはない」
「テン、さっさとやっつけてしまおうぜ」
「ああ」
そう言って男2人は小さく手を振り、馬を連れチィミコに背をむけた。
0149「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:18:03.21ID:fkDrFDOq

「……そいつがグレマン様かい? ずいぶんおっかなそうだな」
テンとツギが去った後、入れ替わり鹿の毛皮を纏った男がチィミコに声をかけてきた。
「あっ、火起こし。ただいま」
チィミコとさほど背丈はかわらない。だが、ぶ厚い胸板に丸太のような太い腕とただならぬ
体躯を持つ男だった。怖そうと言った割にはまたっく物怖じしている気配はなく、温厚そうな
丸顔ながらも、どこか攻撃的な雰囲気を漂わせていた。
グレートサラマンダーZをちらりと見て、男はチィミコに用件を伝えた。

「チィミコ。家の前に火皿置いてあるからな。炭多くしたからしばらく明るいと思うぜ」
「おおっ、ありがとう。あとお神酒のほうはどうだ?ちゃんと仕上がったか?」
火起こしの声にチィミコの表情がぱっと華やぐ。
そんなチィミコを見て火起こしはにやりと笑う。

「ああ。まぁ前の巫女様に比べればまだまだだがチィミコの割には美味く仕上がってたぜ。
毎日味見して気持ちよく酔えたからな、上出来だ」
「……お前毎日酔っ払うまで味見してたのか?」
驚いた顔でチィミコは火起こしに聞き返した。さもありんと火起こしは堂々と答える。
「あたりまえだ。任されたんだからな、きっちり仕事はしたぜ。ちょっと飲みすぎたかもしれんが」
「……おまえは本当にがっつり飲むからな。まぁしょうがないか、他に任せられる人もいないし」
「はは、大丈夫だぜ、祭りの分はちゃんと残してある。まぁ俺もちょっと水で薄めたが」
そう言って火起こしは笑う。最後の一言にがっくりと肩を落とし、チィミコは深くため息をつく。

「ところで、グレマン様はだいぶ強そうだな。タカオの斧当たらなかったって聞いたけど本当か?」
火起こしの話が切り替わった。話題をふられるかもしれないとコックピットの中で
うぱ太郎はごくりとつばを飲み、2人の会話に集中する。
「ああ、本当だ。……火起こし。お前も変なちょっかい出すなよ」
何か思うところがあるのかチィミコは表情に少しだけ不安の色を滲ませていた。
「俺をタカオと一緒にするなよ、そんなことするか」

「あの、グレマンって言います。どうぞよろしく」
チィミコの隣から機嫌を伺うように、うぱ太郎は火起こしに話しかけた。
「おお、本当に喋れるんだな。こいつは凄い。俺は火起こしだ。そのまんま火を起こすのが
俺の仕事でだから火起こし。簡単だろ? あと前は村の守人(もりびと)もやっていた」
難しいそぶりも見せず、火起こしは普通の人同様にグレートサラマンダーZに接してきた。
 マッチもライターも無い時代、火起こしの名前の由来は理解できた。そのまま話の弾みで
うぱ太郎は守人の意味合いについて尋ねてみる。

「あの、守人って」
「あ、グレマン様。あとで私が教えるよ」
会話にチィミコが割ってはいる。
話を遮られたことを別段気にもせず、火起こしはグレートサラマンダーZに話しかける。
「グレマン様、明日祭り出るんだろ? 俺と力比べしようぜ」
そう言って火起こしは己の力を誇示するように右腕を曲げ力こぶを作った。

「火起こし。お前ほんと力比べ好きだな。でもグレマン様とは無しだ。大事なお客様だからな」
笑みを浮かべたまま、チィミコは火起こしを軽く睨めつけた。
「そうか、それは残念だな。グレマン様、気が向いたらでいいんでいつかやろうぜ。この村で俺が
負けるわけにはいかないからな」
「……はいはい。力自慢はいいから行った行った」
邪魔者を払いのけるような仕草でチィミコは手を振る。
「はいはい、わかったよ。じゃあグレマン様、明日な」
チィミコの邪険な扱いにも慣れているのか火起こしは陽気に、しかしどこか挑戦的な口調でグレート
サラマンダーZに話しかけ去っていった。

「まったく、そんなに力自慢したいのかね男は……」
火起こしの後ろ姿を呆れ顔で眺めながらチィミコは呟く。
0150「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:19:00.36ID:fkDrFDOq

――ガラが悪いって訳じゃないけど、明らかに挑発されてる……

「……えーと、力比べってどうやるんだろう?」
火起こしを見送りながら、うぱ太郎は力比べの方法をチィミコに聞く。
「綱引きだよ。祭りのとき男たちはそれで遊ぶんだ。お神酒飲んで酔っ払ってからやるから
滅茶苦茶でな。まぁほとんど笑って終わりなんだけど、たまにもめることがあるんだ。
村で一番強いのが火起こしでな。ツギがその次に強い。あとは似たりよったり。
 守人というのは村を守る者のことなんだ。滅多にないことだけど、たまによそ者が村に
入り込むことがある。そのときは頭になって村を守る。それが守人の仕事だ。いまはテンが
守人の長(おさ)なんだけどその前は火起こしが長だったんだ。いまでも争いごとは自分が
一番強いって思ってるよ。そういう気持ちがないと勤まらない仕事だったから……」
しんみりとチィミコは語る。どことなく寂しさを思わせる遠い目をしていた。

「相手になるか分らないけどやってみてもいいかな。村の人と仲良くしたいし」

 あまり思い出したくないことだが、うぱ太郎は警察と一戦交えた時を頭に浮かべていた。
立ち上がったグレートサラマンダーZにロープが巻かれ、動けなくされそうになった。
しかしパワーにものを言わせ力技で振り切った。
相手がどんなに力がありそうでも一対一ならたぶん負けないと心の中で思い浮かべる。

「グレマン様は優しいっていうか、いい人だな」
言葉の止まったグレートサラマンダーZをまじまじと見つめながらチィミコが答えた。
「え……? まぁ、その、……嫌われたくないから」
コックピットの中でうぱ太郎の心が揺るぐ。

「あはは、グレマン様は本当に正直だな。知らない場所で知らない人と仲良くするのって
意外と大変だし疲れるよな、私もそうだ。だから無理しなくてもいいよ、気が向いたらでいい」

―― ……チィミコちゃんの方がよっぽど優しいよ。

 チィミコの笑顔が眩しくてうぱ太郎は返事が出来なかった。
嫌われたくない、仲良くしたい。確かにそう思っている。しかしそれは純粋なものではない。

「……うん。……じゃあその時にどうするか決めるよ」
間をおいたあと、歯切れの悪い返事がグレートサラマンダーZからなされた。
気にも留めずチィミコは答える。
「ああ、それでいいよ。……じゃあそろそろ私の家に行こうか」
「……うん」
うぱ太郎の声にチィミコはあっちだと家の方向を指差し歩き始めた。
半歩遅れてチィミコの背中を追うようにうぱ太郎はゆっくりとアクセルに力を入れた。

「……太郎ちゃん、先手必勝よ。彼女の家に入ったらすぐにここから降りてあたしたちの
姿を見せるわよ」
チィミコの後ろを歩き始めた矢先、うぱ華子が小声でうぱ太郎に話しかける。
だが、うぱ太郎は振り返らず無言で頷くだけだった。
「……チィミコちゃんっていい人だね」
「……うん」
うぱ華子にならってうぱ民子とうぱ倫子も小声で会話を交わし始める。
しかしその時間も僅かなものだった。5分と歩かないうちに地面からかやぶき屋根が生えている
ような家の前でチィミコは立ち止まった。
0151「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/04/15(金) 12:20:08.50ID:fkDrFDOq

「ここが私の家だ。いま家に火入れるからグレマン様ちょっと待っててな」

――竪穴式住宅……?

 遠目で見て理解はしたつもりだった。
だが実物を目の前にして、その異様さとある種の迫力にうぱ太郎は困惑を隠せなかった。
 7、8メーター四方の葦やススキの束で造られた小山のような、屋根だけで窓はおろか
壁といえる部位も見あたらない家だった。
少し離れた場所には木造の壁を持ち、宙に浮いたような高床式の建物が並んでいる。

「……太郎ちゃん、さっきも言ったけど家に入ったらすぐにグレマン様から降りるわよ」
チィミコが家に入った隙を見て、うぱ華子はうぱ太郎に話しかける。
「……うん。わかってる。……大事な話しって事で降りたら改めて自己紹介するよ」
上の空でぼんやりとうぱ太郎は答える。

「太郎ちゃんは人と一緒に暮らしたことは無いわよね?」
もやもやしているうぱ太郎に、小声ながらもいつになく険しい声でうぱ華子は確認する。
「……うん」
「あたしたちを見てチィミコちゃんは間違いなく笑うわ。でもキレたりしちゃ駄目よ。
それとこのロボット越しだと感じないかもしれないけど、人はあたしたちより遥かに大きいわ。
むこうに悪気が無くてもちょっとしたことで致命傷になる程のダメージ受けることも起こりえる。
だからきちんと距離をとってやたらと触られることがないようにしなさいよ」
「……了解」

 気がつけば西の空に太陽の姿はなく、東の空は夜の始まりを告げていた。
コックピットでうぱ華子が口やかましくうぱ太郎に話している最中、チィミコは大好きな友人でも
迎えるような笑顔で家の前に置かれた炭の乗った大きめな皿3枚を家の中に運び入れていた。
そしてしばらく後、招き入れる準備が整ったのか入り口から離れた場所で待機していた
グレートサラマンダーZに叫びかけた。

「グレマン様、どうぞ入ってくれ」
「……うん、じゃあお邪魔します」

 すぐには向かわず、うぱ太郎は振り返り小声でうぱ華子たちに話しかけた。
「じゃあ、これから行くんでみんなよろしく」
「つかみがOKならあとは貰ったようなものよ。あんまり緊張しないようにしなさいよ」
「ヤバイ、わたしがドキドキしてきた」
「……民ちゃんはあんまり関係ないと思う」
「ひどいなー。わたしだって当事者のひとりじゃん」

 相変わらずのうぱ民子とうぱ倫子は無視し、うぱ太郎は姿勢を戻し視聴覚モニターを見た。
チィミコがドア代わりの藁で編まれたすだれのようなものを手で押さえ、笑顔で待っている。

――疲れたな……。でもここでしくじれば元も子もないから慎重に。

 チィミコの脇、家の中を覗き込む。
暗くてよくわからないが極端な段差は無く、入り口の横幅も含め、中に入るのに苦労はなさそうだった。
 ため息混じりの深呼吸をひとつ。
そしてうぱ太郎は何も言わずじわりとアクセルを踏み込んだ。
0152創る名無しに見る名無し
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2011/04/15(金) 12:22:39.33ID:U+fWjl6x
今日はここまで。

規制のせいもあるが、久しぶりにそれこそ一年ぶりに他所へ投下したらそれで満足
してしまい、すっかりここが停滞してしまった。
0153創る名無しに見る名無し
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2011/04/15(金) 18:01:17.35ID:uZWYE/V3
0160「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:03:51.94ID:GKvmSnu1

――ちょっと暗いな……。

 入り口対面。かまどや暖炉と呼ぶには少し大雑把な作りの炉の中で薪が燃されていた。
火皿と呼ばれた皿の上でも赤く焼けた炭と木片が控えめ灯りを揺らめかせている。
 視聴覚モニターの補正機能が働き、屋内の様子が明らかになってくる。
部屋の中央と四隅に太い柱。縄で縛り組み上げられたはりと垂木。
かまど付近を除き壁や床は藁で覆われ、単純な作りの棚には土器と思われる雑貨物が整然と並んでいる。
室内は楕円状で12、3畳ほどの広さがある。しかし低い屋根のせいで壁際の天井には余裕がなく、
キャンプテントの中にいるような狭苦しさをうぱ太郎は覚えた。

「グレマン様は火、大丈夫か?」
少し居心地の悪そうなグレートサラマンダーZにチィミコは笑顔で尋ねる。
「あ……うん、大丈夫」
「じゃあこの上で休んでくれ。長さ全然足りないけど」
そう言ってチィミコはかまどの前で広げられた毛皮の敷物をぱんぱんとはたいた。
「……うん。ありがとう」
全長3メートル強のグレートサラマンダーZ。迂闊に動かせば酷いことになるのは目に見えていた。
しっぽに細心の注意を払い、うぱ太郎はそっとアクセルを踏み込む。

「グレマン様はホントに食べるものいらないのか?」
かまどの前で落ち着いたグレートサラマンダーZに問いかけながらもチィミコの視線は、床に並んだ
いくつかの器を追っていた。

「うん。大丈夫」
チィミコの素振りなど気にもせずうぱ太郎は即答する。
グレートサラマンダーZの返事に、チィミコは少し困ったように小さく笑う。
「……えーと、私お腹すいちゃってさ。それで私のぶん火起こしが気を利かせてここにあるんだけど、
私、食べてもいいかな?」

 もう外はとっくに日が暮れている。
だが、コックピットから降りることで頭の中がいっぱいなうぱ太郎には、チィミコの食事のことを
気にする余裕などどこにも無かった。
「チィミコちゃん。その前にちょっと大事なこと話していいかな?」

「……えーと、食べる用意だけはしていいか? 火にかけるだけだからすぐ終わる」
家主と言う立場も忘れたかのように、チィミコは遠慮がちにグレートサラマンダーZに聞き返す。

―― ……落ち着け、はやるな。……先手必勝だけど焦っちゃ駄目だ。

「……ごめん、どうぞ。……僕、気がきかなくて」
小声のチィミコにうぱ太郎は思わず心の中で猛省する。
グレートサラマンダーZの返事を受け、チィミコは土鍋を火にかけ串の入った魚を炙るように炭のそばに置いた。
言葉通り手短に準備を終わらせ、改めてグレートサラマンダーZの正面に座り直す。
「これでよしと。グレマン様、私はもういいぞ」
「あ。ありがとう。……じゃあ、ちょっとややこしいけどこれから大事なこと話します」

――なるべく分りやすいように……。

 心の中で何度もつぶやく。
手持ちの限られた設定の中、理論整然と上手に説明できるとは思っていない。
しかしいまだ釈然としない世界でも、自分の役割を務めようとうぱ太郎は必死に言葉を探した。
そしてモニターに映る少女に向けて、うぱ太郎はゆっくりと話し始めた。
0161「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:04:51.56ID:GKvmSnu1

「……チィミコちゃんは遠くに出かけるとき、たぶん馬に乗って行くよね?」
「ああ、そうだな。遠くに出るときはほとんどウマに乗って行くな」

 グレートサラマンダーZの質問に、火の具合を見ながらチィミコは明朗に答える。
返事を確認し少し頼りない灯りの中、うぱ太郎は淡々と話しを続けた。

「チィミコちゃんがあっちに行きたいと思って馬に合図すれば馬はチィミコちゃんの思ったほうに
動いてくれるよね?」
「ああ。でもそうなるまでだいぶ苦労したけどな。嫌がって落とされたときは死ぬかと思った」
しかしそれもいい思い出なのか、チィミコは目を細め笑う。

「だけど馬に乗ってどっかに行ってもチィミコちゃんはチィミコちゃんで馬は馬だよね?」
「……ああ。ウマはウマだし私は私だ。……それでいいのか?」
当たり前のことをいかにもらしく問うグレートサラマンダーZを、チィミコは僅かに首をかしげ
少し訝しげに見つめ返した。

「うん。馬は馬だしチィミコちゃんはチィミコちゃんだよね。それでちょっとややこしくなるんで
今まで黙ってたけど、チィミコちゃんが馬に乗るように僕もグレマン様に乗ってるんだ。
いまチィミコちゃんの前にいるグレマン様はグレマン様なんだけど、いまチィミコちゃんと話しを
しているのはグレマン様じゃなくて、グレマン様に乗っている中の人なんだ。グレマン様は自分では
全然喋らなくて代わりに僕が喋ってるんだ」

――ちょっと唐突だったかも……。

「グレマン様に……乗ってる……?」

 チィミコの顔つきが明らかに変わった。
理解を得ているかは分らない。だが、うぱ太郎はそのまま話を続けることしかできなかった。

「うん。チィミコちゃんは馬に乗ってあちこち行ったり、旅に出て遠くまで行ったりする。
それと同じように、僕、うぱ太郎って名前だけど、僕もグレマン様に乗って旅をしてるんだ」
「……うぱたろう?」
「うん。それが僕の名前なんだ。チィミコちゃんが馬に乗るように、僕、うぱ太郎も
グレマン様に乗ってるんだ。あと僕のほかにも3人グレマン様に乗ってるんだ」
「わからないな。……グレマン様に乗ってるって?」

 笑顔はすでに消えていた。
 困惑。
チィミコの表情が疑念が混じる。

「うん、ごめん。僕が降りないとよく分らないと思う。だからこれからグレマン様から降りるよ」
「……降りる?」
「うん。……ごめん、いまグレマン様の口開けるからちょっと離れてくれるかな。これから降りるから」
「…………」

 理解不能、意味不明。
そう言いたげなチィミコが視聴覚モニターに映っていた。

――話しがきちんと着地できなかったけどしょうがない。あとは野となれ山となれ!

 コックピットの中、うぱ太郎は振り返り目配せする。
うぱ華子、うぱ民子、うぱ倫子それぞれが無言でうなずく。
モニターでチィミコの位置を確認する。近すぎず遠すぎず程々の場所であぐらをかいて座っている。

 おもむろにうぱ太郎はグレートサラマンダーZの口開閉スイッチを押した。

 目の前の怪物が大きく口を開いた。
その姿は一度見た。それでもその禍々しさにチィミコは大きく後ろにのけぞった。
0162「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:06:20.23ID:GKvmSnu1

――大丈夫、なんとかなる!

 胸の奥で、強く自分を奮い立たせる。
そしてうぱ華子たちを確認しうぱ太郎は勢いに任せ、半ばやけ気味にグレートサラマンダーZの
コックピットから降りた。ぞろぞろとよたよたと、うぱ華子たちが小亀の行列のように続く。

「?????」

 足の生えたナマズ。
それが想像の限界だった。
だが、1匹を除きあまりにも華やかでありえない奇異な体色が自ら引き出した答えを否定する。
 怪物の口の中から突如現れた小さな、そして珍妙な客。
謎の笑顔を浮かべるその4匹を、ただぽかんと口を開け眺めることしかチィミコには出来なかった。

――思ったより大きいな……

 あぐらをかいたまま瞬きもせず愕然とするチィミコを見上げる。
 15歳の少女。
しかしその姿は、人間と共に暮らしたことのないうぱ太郎を圧倒させるには充分だった。

 いつのまにかうぱ華子たちはうぱ太郎の隣に並び、ピンク、黄色、白とグレートサラマンダーZの前で
隊列を組んでいる。

「こんにちはっ!」
「……こんにちは」

「――!?」

 なんの前触れも無くうぱ民子から威勢のいい挨拶が飛び出した。うぱ倫子もそれに続く。
しかし突然の女声にチィミコはびくりと体を震わせ座ったまま口をぱくぱくとさせるだけだった。
「……あの、……こんにちは。僕、うぱ太郎っていいます」
うぱ民子たちに遅れをとりながらも自己紹介の一声を発した。
 視聴覚モニター越しに何度も人と話し、渡り合い、やりあってきた。
だがグレートサラマンダーZという鎧を外したうぱ太郎のその声は、か弱く力ないものだった。

 凛とした太い眉。印象的な黒い瞳。桃色の少し大きめな唇。
しかし一向に驚き顔のままで、チィミコに笑顔が戻ってきそうな気配はない。
うぱ太郎もある種の気まずさを感じ無言になる。しかしすぐに顔をあげ、再びチィミコに話しかけた。
「……チィミコちゃん、こんにちは。僕、うぱ太郎っていいます」
名を呼び、改めて名乗る。
「――!?」
相変わらずチィミコは問われるたびに体を震わせるだけだった。

「………………」
うぱ華子たちのフォローは無い。名案も思い浮かばない。
仕方なくうぱ太郎はチィミコを見上げ、ひたすら一方的に喋り始めた。
「チィミコちゃん。僕のことは太郎ちゃんって呼んでください。グレマン様に乗ってあちこち
行ったり旅したりしてます。あと僕の隣のピン…赤っぽいのが華ちゃん。黄色の子が民ちゃ……?」

「……喋った。……ナマズ。……足はえてる」
放心状態のチィミコからやっと言葉が出る。しかし会話はまったく噛み合わない。
「…………」
うぱ太郎は押し黙る。
しかしその返事に困った僅かな時間、瞬く間にチィミコの頬は紅潮し大きく膨らんだ。

「……ダメだこりゃ」
無言のうぱ太郎の隣でうぱ華子が言い捨てる。それと同時だった。
0163「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:07:25.60ID:GKvmSnu1

「ぶふっ! あはっ、あーははははっ!」
薄暗い室内には不釣合いな大きな笑い声が響いた。

「あははははっ、何、何っ? 神様??? うははははっ!」

 指をさされ笑われる。

――まぁ案の定と言うか、予想通りって言うか、想定内っていうか。

 そう思いながら、うぱ太郎から諦めに似た大きなため息が漏れた。

「へっ変な顔、うははははっ!」

 腹をかかえてチィミコは笑う。しかしたいして怒りや憤りは感じなかった。
いいか悪いかは別として、とりあえず事は進展したと苦笑しながらもうぱ太郎は胸を撫で下ろす。
ただ、そう思ううぱ太郎とは対照的にうぱ華子とうぱ民子は怒りをあらわにしていた。

「……別に慣れてるからいいけどね。でもチィミコちゃんてちょっと馬鹿っぽいよね?」
言葉とは裏腹に、憮然とした表情でうぱ民子はチィミコを激しく睨めつけていた。
「うふふ、太郎ちゃん。キレちゃ駄目よ、キレちゃ……」
冷静を装っているが、うぱ華子の頬も明らかに引きつっている。

――みんな沸点低すぎ……。

 華ちゃんさっきの注意はなんだったんだよと、うぱ太郎は心の中で笑う。

「……可愛い」
「「「 は? 」」」
突然、うぱ倫子がぽつりとつぶやいた。

「……箸が転がってもおかしい年頃だから」
チィミコをかばうように、うぱ華子、うぱ民子をなだめるかのようにうぱ倫子が続ける。

「……これだから、不思議ちゃんは」
少し間をおいた後、そう言ってうぱ華子はくすりと笑い、うぱ民子からは諦めたようにため息が漏れた。
依然チィミコはひたすら笑い続けている。しかしうぱ倫子の一言で場にはびこっていた怒気が薄れた。

「……まぁいいわ。珍しいものを見たら笑ってしまうって言ってたからね。ちょっとのあいだ辛抱よ」
冷静さを取り戻し、周りに言い聞かせるようにうぱ華子は声に出す。
「いやー、なんか止まりそうな気しないけどなー」
「そのうち止まるんじゃないかな?」
うぱ民子、うぱ太郎が思ったままに答える。

「あーははははっ! うひゃひゃひゃひゃっ!」
「……チィミコちゃん?」
「へっ変な顔、神様!うははははっ!」

 うぱ華子たちが呆れる中、まるで唯一の理解者でもあるかのように、うぱ倫子は笑い転げるチィミコに
そっと声を掛ける。

「……あの、……チィミコちゃん?」
「あははは、はひっ? えぶふっッ!!!」

「「「 ――!? 」」」

 突然、チィミコが派手に噴出した。
0164「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:09:00.01ID:GKvmSnu1

「げへっ、げほっ、げほっ」

 呼びかけに答えようとして息継ぎが狂ったのか、うぱ太郎たちの前でチィミコが激しく
咳き込み始めた。

「ごふっ! げほっ、げほっ、げほっ」
「あはは、やっぱ馬鹿だ」
咳き込むチィミコの前で、いい気味だと言わんばかりにうぱ民子は冷笑する。

 しかし悠長に構えてる暇はない。
幼子のように手で口を覆うことも知らず、つばを飛ばし激しく咳き込むチィミコはうぱ太郎たちに
とってもはや災いをもたらす狂った巨人でしかなかった。
 
「ごほっごほっ!!!……ぶへっ! げほっ、げほっ」
「退避よ退避っ!」
飛び交うつばと衝撃波にうぱ華子が血相を変えて叫ぶ。
「ぶふっ! ごほっ、ごほっ」
「うわー……」
「汚いなー、もー」
雨宿りでもするかのように、そそくさとうぱ太郎たちは開いたままのグレートサラマンダーZの
口の中に逃げ込んだ。そして手の施しようのない巨人の行く末を見守った。

「えぶ、ふ、ぶはっ!!!」
「……チィミコちゃん大丈夫?」
グレートサラマンダーZの中からうぱ倫子が咳の止まらないチィミコに話しかける。

「ひっ、……げほっ、げほっ、げほっ!」
「……チィミコちゃん?」
むせる原因になってしまったことを気にしてか、うぱ倫子は心配顔で呼びかける。

「げんげんっ! ……げへっ、ごほん。……げんっ!!!」
聞くに堪えない酷い声が少女の口から発せられる。
「……おほん、ううん、あはん。 げんげんっ!!!  ……ふー。死ぬかと思った」
だがそれで喉の具合を取り戻したのか、チィミコは薄く滲んだ涙を拭いグレートサラマンダーZの前に
座り直した。

「……チィミコちゃん?」
幾度とうぱ倫子は呼びかける。

「もう大丈夫だ。えーと白の子は……」
頭をかがめ、チィミコはグレートサラマンダーZの口の中を覗き込む。
「……うぱ倫子。……倫ちゃんて呼んでもらえれば」
もじもじと、少しはみかみながらうぱ倫子は答える。

「リンちゃんな、わかった。それにしても凄いな。グレマン様どうなってんだ?
やっぱりオロチ様か? 丸呑みした魚戻したのか? って言うかなんでナマズが喋るんだ?」
0165「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:10:05.04ID:GKvmSnu1

「……チィミコちゃん、もう喉は大丈夫かな? つばとかせき飛んでくるとちょっと
僕たち辛いんだけど……」
巨大な顔を目の前にして若干動揺しながらも、うぱ太郎はチィミコに話しかける。
「もう心配ない。それよりタロウちゃんでいいのかな?」
「……うん」

 会話がまわり始める。
うぱ倫子は咳が止まったのよほどが嬉しかったのか、瞳をキラキラと輝かせチィミコを見つめていた。
人との直接対話に慣れてないせいか、うぱ太郎は怯えた子猫のようにチィミコの挙動を伺っていた。
 謎の笑顔を浮かべるウーパールーパー。
しかしその表情から心情を察することは不可能に近い。
困惑気味なうぱ太郎には気づきもせず、チィミコは興奮を隠し切れず盛大に喋り始めた。

「グレマン様も凄いけどタロウちゃんたちも凄いな。なんか足生えてるし、角みたいなのも生えてるし、
なんて言っても人の言葉話せるし。やっぱりタロウちゃんたちは神様じゃないのか!?」

――古代の日本にウーパールーパーなんているわけないし。僕以外派手な色だし。でも……

「……僕は、……僕たちは神様でもナマズでもないよ」

「分りやすく言えば、そうね、あたし達は蛙の仲間よ。赤い腹のイモリでもいいわ」
歯切れの悪いうぱ太郎にとって代わり、すぐさま隣のうぱ華子が話し始めた。

「凄い色だな。えーと、なんて呼べばいい?」
うろたえ、そして笑い転げていたのが嘘のようにチィミコは笑顔でうぱ華子に尋ねた。
「褒め言葉として受け取っておくわ。あたしはうぱ華子。華ちゃんて呼んでちょうだい」
うぱ太郎を押しのけただけあって、うぱ華子の会話運びには余裕がある。

「わかった。でもハナちゃん、カエルってけろけろ鳴くカエルだよな? 全然似てないけど?」
「チィミコちゃん、大人になる前の蛙の姿見たことない?」
「大人になる前……?」
うぱ華子の問いかけにチィミコはよりいっそう顔を近づけて聞き返した。
うぱ太郎は少したじろぐ。だがうぱ華子は会話の主導権を握るかのように堂々と振舞う。

「そう。春に田んぼとか水たまりで泳いでるわよね、頭にしっぽがついたような変なの。
それが次第に手足が生えてきて、その代わりしっぽがどんどん縮んでいく。そして最後にはしっぽも消えて、
大人の蛙として生きていく。小さいから気にもしてないかもしれないけどチィミコちゃんは手足が
生え始めた頃の蛙って見たことない?」
「あーあるある。あはは、そう言われればおたまじゃくしってとぼけた顔してるもんな」
幼生期の蛙の様子を思い出し納得したのか、チィミコは笑顔でぱちりと手を合わせた。

「とぼけた顔ってひどいなー」
「あはは、ごめんごめん。菜の花みたいだな、名前は?」
チィミコの返事に不満を覚えたのかうぱ民子が口を挟む。

「わたしはうぱ民子。民ちゃんでいいよ。て言うか、チィミコちゃん、あんた笑いすぎ。
わたし達のこと変な顔とか凄い色って言うけど、それはチィミコちゃんが世の中のことを知らないだけで
変な顔の生き物なんて他に数え切れないくらいうようよいるよ。
まぁ笑われるのは慣れてるけどチィミコちゃん、珍しいもの見たら笑うって癖は直したほうがいいね。
わたし達は別にいいけど相手が違ったら取り返しのつかないことに成りかねないよ?」
いつになく真剣な表情でうぱ民子はチィミコに忠告する。
「あはは、ごめんなさい。ところで、もしかしてみんなは南の海の生まれなのか?」
しかしチィミコはあっさり受け流し話題を変えた。

「…………」
グレートサラマンダーZの中、一瞬、顔を見合わせる。
そしてチィミコの質問にうぱ太郎が返した。
0166「 グレートサラマンダーZ 」
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2011/09/16(金) 23:10:51.68ID:GKvmSnu1

「……どうしてそう思うのかな?」
「いや、私も見たことはないんだけど、南の海に行くと凄い色した魚がうようよ泳いでいるって
聞いたことがあるんだ。タロウちゃんは魚っぽいけどハナちゃん達みたいな色の魚は私の村の近くじゃ
見ることないからもしかしたらって思ってさ」

――熱帯魚のことかな? テレビどころか本だってあるわけないからそう思われても仕方ないか……

「たしかにもともとの生まれは海の向こうのここよりはずっと南のところよ。
ただ、さっき言ったようにあたし達は蛙の仲間で魚じゃないわ。海じゃなくて沼で生まれたのよ」
思案中で言葉が出ないうぱ太郎に代わり、うぱ華子が答えた。
チィミコからすぐさま次の質問が飛んでくる。

「沼か。じゃあ、海にかかわらず南の国には凄い色した生き物がいっぱいいるってことなのか?」
「いっぱいってことでもないけどここの村よりは確かに多くいるでしょうね。
でもそれはさっき民ちゃんも言ったけどチィミコちゃんが知らないだけであたし達にとっては別に
珍しいことでも何でもないの。それに何も凄い色をしてるのはあたし達だけじゃないわ。
……でも、その話しを始めると物凄く長くなるから今は駄目ね。
ところでチィミコちゃん、喉はもう大丈夫かしら? あたし達グレマン様から出ても大丈夫?」
何か思惑があるのかそう答えてうぱ華子は会話の流れを断ち切った。

「ああ、すまない、もう大丈夫だ。さっきはごめんなさい」
うぱ華子の声にチィミコは真顔に戻り詫びを入れる。そしてうぱ太郎たちが出やすいようにと
後ずさりして場所をあけた。

「大丈夫そうね。なら、みんな出ましょうか?」
うぱ華子の呼びかけに応え、うぱ太郎たちはまたよたよたとチィミコの前に出た。
「みんな面白いって言うか、なんか可愛いな」
あらためて出揃ったうぱ太郎たちをチィミコはまじまじと見つめる。

「えへへ」
「……ありがとう」
「…………」

――社交辞令……? 民ちゃんと倫ちゃんは分りやすいな。

 チィミコの言葉にうぱ民子とうぱ倫子は照れたような仕草を見せる。
しかし、和気あいあいと成りつつある場でうぱ華子はその言葉にふれもせず真剣な表情で話し始めた。

「チィミコちゃん。大事な話しまだ終わってないんだけど続けていいかしら?」
0169創る名無しに見る名無し
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2011/09/17(土) 12:48:29.72ID:abb7vJTO
投下乙!
0173創る名無しに見る名無し
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2011/12/12(月) 11:01:38.36ID:qZrNTFuj
「ウーパー(以下略)」という名称は、創価学会員が珍獣ブーム当時に銭儲けを企んで
日本で商標登録した、根拠も何も無い「偽名」である。しかも当人は借金踏み倒して夜逃げしたらしい。

学校や家庭でも、この動物を飼う際には、教育上カルト信者の付けた偽名を常用するのはいかがなものか?
アホロートルが嫌なら、メキシコサラマンダーと呼べばいい。
0174創る名無しに見る名無し
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2011/12/12(月) 16:06:26.22ID:f3aLEawu
メキシコサラマンダー、つまりウーパールーパーは流通名。
メキシコ語で「愛の使者」。商標でもなんでもねーよバーカバーカ
0175創る名無しに見る名無し
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2011/12/16(金) 08:29:45.69ID:Ya81dHRr
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0176創る名無しに見る名無し
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2012/01/30(月) 19:18:43.25ID:cxWJt0pw
t
0177「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:09:39.81ID:tuSg0i0y

「ああ、すまない。続けてくれ」
「さっきグレマン様、海を渡ってる途中で嵐に遭って風で吹き飛ばされてしまって気がついたら
ここにいた。って言ったわよね?」
「ああ。それで帰り道がわからなくなったんだろう?」

 藁で覆われた床や壁。暖房と照明をかねた、暖炉やかまどと呼ぶには少し抵抗のある薪の燃やし場。
部屋の片隅に置かれたつやの無いさまざまな形の土器や木器。
 しかし現代社会とはおよそかけ離れた異質な住居の中にあってもうぱ華子はまるで意に介さず、
チィミコの返事を聞き朗々と話を続けた。その隣でうぱ太郎は心もとなげに二人のやり取りに耳を傾けている。

「そう。でもそれもそうなんだけど実はもっと困ったことになってしまっててね。グレマン様、
風に吹き飛ばされたはずみで怪我しちゃったのよ」
「怪我……?」

 疑問を感じたのか、チィミコはうぱ華子からグレートサラマンダーZに視線を移した。

「……そう。グレマン様ぴんぴんしてるからそう見えないかもしれないけどね。
海を渡るってすごい大変なことなのよ。どんなに大きな船でも大波とか強い風を受けてひっくり
返ったり、そのまま海の底に沈んじゃうことがいっぱいあるわ。だからもし帰り道が分っても怪我したままの
グレマン様に乗って海を渡るなんてそれこそ死にに行くようなものなのよ」

 グレートサラマンダーZに怪我らしき外傷は見当たらない。
それでも会話の流れに従い、チィミコはグレートサラマンダーZを眺めながら同情を思わせる静かな声で答えた。
「……海を渡るのは命がけっていうからな。聞いた話だけど」
「そう、命懸けよ。それで大事な話というかお願いなんだけど、あたし達グレマン様の怪我が
治るまでこの村にいていいかしら?」

―― それにうまく立ち回ればあたしたちは神になれるわ。

 うぱ華子の声が蘇る。とくんと鼓動が波打つ。
騙そうとしているわけではない。ただ通じない言葉を分り易くして、過去の人間に助けを求めてるだけ。
そう強く、うぱ太郎は心の中で唱えた。

「ああ、別にいいよ。始めからそのつもりだったし」
揺れ動くうぱ太郎のことなど眼中にないように、チィミコは二つ返事で快く承諾した。
 了解は得た。
しかしそれで良しとせず、うぱ華子は伏し目がちに話を重ねた。

「ありがとう。……でもね、ここが一番大事なとこなんだけど、もしかしたらグレマン様の怪我
治らないかもしれないのよ」
「……治らない?」
「そう。むしろ一生治らないって思ってたほうがいいくらいだわ」

 まだ幼さを匂わせる顔から笑みが消える。
ぱちりぱちりと焼けた炭の砕ける音だけ薄暗い部屋に響いた。

 交渉。もしくはぎりぎりのやりとり。
自分の踏み込めない沈黙に堪えきれず、うぱ太郎は思わずごくりとつばを飲む。
 少し陰のあるうぱ華子の返事にチィミコはなにか重大な会議でもしているかのように、
腕を組み眉間にしわを寄せ、そして答えた。

「……グレマン様に効くか分らないけど私の村には痛くなくなる薬あるぞ、私作ってるんだけど。
どっか痛いんなら飲ませてみるか?」
0178「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:10:44.83ID:tuSg0i0y

――こんな時代に薬なんてあるのか? 薬草とか……?

 グレートサラマンダーZに薬が効くことはない。
ただ薬を作ってると言う意外な返事に、うぱ太郎は腕を組んだままのチィミコを食い入るように見つめ直した。

「……ありがたいけど薬は効かないと思うの。そうね、人に例えるなら歯が1本欠けたような感じなのよ。
ちょっと喋りづらかったり食べ物食べづらいけど、そのうち慣れてくる。でも欠けた歯はもう元に戻る
ことはない」
「……歯か。確かに欠けたり抜いたりしたら歯は元通りにはならないな。……じゃあ、もしかしたら
グレマン様の歯が治らない限りハナちゃんたちは大陸に帰れないってことか?」
「実際怪我してるのは歯じゃないけど、そうなるかもしれないわね。まだ決まったわけじゃないけど」
腕組みをほどき両手で顔を覆った。そしてチィミコは手を離し姿勢を正した。

「……そうか。……まぁそうだな、田植えが始まるまでは暇だしこの村でゆっくり休んでればいいよ。
それからのあとのことはおいおい考えていこう。いずれにしてもハナちゃんやタロウちゃん達は
大事なお客様だから村のことは気にしないでいい」
 僅かに静寂があった。
しかしそう言った後、何事も無かったようにチィミコに笑顔が戻った。

――華ちゃんもチィミコちゃんも話が早いな。……だけど信用してもらえるのは嬉しいけど
  こんなに簡単に決めちゃっていいのかな?

「太郎ちゃん、田植えってゴールデンウィークの頃よね?」

 不意にうぱ華子から小声が飛んでくる。

「……えーと、たぶんその頃だと思う。準備とかあるからもっと前のこと言ってるかもしれないけど」
「明日が春分の日ということだから余裕で半月以上はあるわね。とりあえずはOKとしましょうか?」
「……うん」
何か得体の知れないわだかまりを感じながらも、うぱ華子の呼びかけにうぱ太郎は小さくうなずいた。
 だがその一方で、うぱ倫子は憧れの人を見るような眼差しをチィミコに向けたままで、うぱ民子は
つまらなそうにエラをいじっている。

「……じゃあチィミコちゃん、先のことはどうなるか分らないけどしばらくお世話になるわ。よろしくね」
うぱ倫子とうぱ民子の態度に少し顔をしかめながらも、うぱ華子はチィミコに礼をつくした。
手のひらで軽く胸元を叩きチィミコもそれに応える。
「ああ。小さいことは気にしないでゆっくりしてってくれ。私も大陸の話とか聞きたいし」
「ねーねー、チィミコちゃん。お水ある? わたし喉乾いた」

――うわー、またかよ……。

 唐突にうぱ民子がうぱ華子とチィミコの会話に割り込んできた。
小さな舌打ちが出る。それを悟られないようにうぱ太郎は黙って下を向く。

「あー、ごめんごめん。気がつかなかったな、今出すよ」
だがうぱ太郎のそんな小さな悪態など気づく訳もなく、チィミコはいかにもすまなさそうに立ち上がり、
棚から小さめの洗面器のような皿を持ち出しうぱ太郎たちの前に置いた。そして壁沿いに置かれた取っ手の
付いた壷に手を掛ける。
「かなり冷たいと思うけどいいか……?」
そう言いながら、チィミコは壷に入った水を両手で皿に注ぎ始めた。

 水を注がれたのを見届け、うぱ民子は皿に近づき縁に両手をかける。
そして心配顔のチィミコが見守る前で、身を乗り出しそっと水に口をつけた。
0179「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:11:41.33ID:tuSg0i0y

「おー! いい水だ」
「おっ、そうか? いい水か!?」
うぱ民子の一言に、チィミコの声が弾む。
「うん。すがすがしい山の水だね。みんなも飲めば?」
なぜか得意顔でうぱ民子はうぱ太郎たちに水を勧めた。
一通り顔を見合わせたあと、うぱ太郎たちも皿に近寄り四方からそれぞれ水を飲み始めた。

「当然といえば当然だけど薬臭さは全然ないわね。確かにいい水だわ」
「……おいしい」
「うん、いい水だと思う」
「チィミコちゃん、あとその焼いてる魚食べていい? ちょっとでいいんだけど」

 先に水を飲み終え一息ついたうぱ民子が客人としての立場を利用してか、それとも単に
遠慮を知らないだけなのか、魚を食べたいと何の気兼ねもなくチィミコに無心する。

――結局、民ちゃんはいつでも誰とでもあの調子なんだ。

「いいよ。うちの村で獲れた魚じゃなくて海の魚だけどいいか?」
うぱ民子の注文に特に嫌な顔もせず、チィミコは焼き上げ中の開いた魚の串を手にした。

――僕もあんな風にふてぶてしくしてた方がいいのかな? ……出来そうにないけど。

 遠慮という言葉を知らなさそうなうぱ民子を横目で見る。
浅ましい図々しいと思う反面、場の空気を読まないで好き勝手に発言するうぱ民子を
うぱ太郎はどこか羨ましくも思う。

「うん、いいよ。それで太郎ちゃん、ちょっと味見してみて」
「え……? ……僕?」
いきなりうぱ民子に問いかけられ、言葉が詰まる。
「うん。脂多そうだから合うかどうかってことで」
「……うん。まぁ、いいけど」
焼いていた魚は小ぶりな鯵の開きのようなもので問題はなにも感じなかった。
少し空腹を感じていたこともあり、流れのままにうぱ太郎は味見役を引き受けた。

 大切な話。
それが済んだことを理解しているように、チィミコはうぱ太郎とうぱ民子の話をにこやかな顔で
やり過ごし、楽しそうに焼いた魚の身を素手でほぐし、息を吹きかけて冷ました。
そして一切れを指でつまみ、瞳を輝かせながらそっとうぱ太郎の前に差し出した。

「このくらいでいいか?」
「あー、あの、……もうちょっと小さくしてもらえるかな、口に入らないから」
少し高い位置で出された魚の身はとても一口で食べられる大きさではなかった。
うぱ太郎の注文を聞きチィミコはふんふんと鼻歌を歌いながら、つまんでいた魚の身を更にほぐした。

「このくらいか?」
「……うん、それで」
満面の笑みでチィミコはあぐらをかいたままぺたりと身体を折り曲げた。
そしてゆっくりとうぱ太郎の前に魚を出した。

「じゃあ、どうぞ」
「……ありがとう。いただきます」

 まだ悠然と構えられるほど人との直接対話には慣れていない。
ただチィミコに悪意や危害を加えられるような気配はまったく感じられなかった。
 恐る恐るではあるがうぱ太郎は両手をあげ、木の実を大事そうにかかえるリスのようにチィミコの
指から魚の身を受け取った。
0180「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:12:38.78ID:tuSg0i0y

「ん?」
「……?」

 無事に魚は受け取れたはずだった。
しかし魚の身を持つうぱ太郎の上空で、笑顔から一変、チィミコの瞳に険しさが混じった。

「んんっ?」
疑問符を残し、今度は身を乗り出してうぱ太郎の足のあたりを注目する。
「……な、何かな?」
大きな瞳にじろじろと見られ、うぱ太郎は不安げにチィミコに尋ねた。

「ぶふっ!」
「な、何っ!?」
思わず貰った魚の身を落としそうになる。うぱ太郎の前でなぜか突然チィミコが噴き出した。

「うはははは、足の指5本あるのに手の指4本しかないっ!何で何で!?」

―― …………。

 魚を手にして固まっているうぱ太郎の前でチィミコが豪快に笑い始めた。

 初めて見るウーパールーパー。
単純でありきたりな疑問。笑われてはいるが貶されている訳ではないと理解はしている。
しかし蓄積した疲労からか、ふてくされたような小声がうぱ太郎の口から漏れた。

「……何でって言われても。……生まれつきこうだから」

「じゃあ聞くけどチィミコちゃんの手の指はどうして5本あるのかしら? その気になれば別に
4本でも生きていくうえではそんなに困らないんじゃない?」
疲れや苛立ちが見え隠れするうぱ太郎の返答にうぱ華子がすかさず助け舟を出した。

「……何でだろ? ……そう聞かれれば答えられないな」
笑うのを止め、そう言ってチィミコは顔の前で両手を大きく開いた。そして5本あるのを確認する
かのように両手の指を1本1本折り始めた。
「チィミコちゃんが答えられないのと同じことよ。太郎ちゃんが言った通り生まれつきこうだから。
それにあたしたちは蛙の仲間って言ったわよね。たいていの蛙も手の指は4本、足の指は5本だわ」
「……そうなのか? 蛙の足の指も5本あるんだ、知らなかった」

「ねーねー。指の話はもういいからさぁ、魚食べようよ。せっかくばらしてくれたんだから」
食べ物を目の前にしながら話が脱線していくのを嫌ったのか、うぱ民子がこれ見よがしにうんざりした
声で言い放った。
「あはは、ごめんごめん。タロウちゃん食べてみてくれ。海の魚だ、美味いぞ!」
うぱ民子の声にばつが悪そうに謝り、チィミコはまた笑顔でうぱ太郎に魚を勧めなおした。

「……うん。……じゃあ、いただきます」
手にした魚の身からは僅かな熱と焼いた脂の匂いが漂っている。
言われるがままにうぱ太郎は口の中に放り込んだ。

「……あ、美味しいや」
「ホント?」
「うん。脂もそんなきつくないし、焼いてあるから噛みごたえもあるし」
「じゃー、わたしも食べる」
0181「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:13:32.29ID:tuSg0i0y

 うぱ太郎の感想を聞き、うぱ民子は皿の脇に寄せられた魚の身を取った。
すぐにうぱ華子うぱ倫子も集まり、皿に手を伸ばした。

「なかなかいけるわね」
「……おいしい」

そんなうぱ太郎たちをチィミコは何も言わずにこやかに眺めている。
「ご馳走様でした」
「えっ、もういいのか?」
しかし二切れほどで食べるのを終えたうぱ民子に驚きの声をあげる。

「うん。わたしそんなに食べなくても大丈夫だから。美味しかったよ」
「そうか……」
皿に盛られた魚の身は半分も減っていない。
うぱ太郎は三口目をほおばっているが、うぱ華子たちはそれぞれ二切れ食べて終わりだった。

「……タロウちゃん達は魚の他になに食べるんだ? 好きなものとかあるのか?」
魚を気に入らなかったと思ったのかチィミコはうぱ太郎に食べ物の嗜好を確認する。
口に含んでいた魚をごくりと飲み込む。そしてしばらくうぱ太郎は考え込む。

「……えーと、ミミズとか小さい魚とか、あとはあまり固くない虫とかかな?」
「ミミズをきれいに洗って、叩いて動かなくしてくれればそれでいいわ。あと魚はいま食べた
みたいに身のところ小さくほぐしてくれれば海の魚でも川の魚でもどっちでも構わない。
でもさっき民ちゃんが言ったけど、あたしたち体も小さいしそんなに多くはいらないのよ。
1日1回、今ぐらいのものが食べられたらそれでお腹いっぱいよ。2、3日食べなくても
なんてことないから」
うぱ太郎の声に続き、うぱ華子が解説をつけ加えた。

「ミミズってにょろにょろするミミズだよな? そんなんでいいんだ」
「ええ、それで構わないわ。ただ細くて短いミミズよ。大きいのは食べきれないから」
「そうか。それなら私一人でも出来るな」
うぱ華子の声にチィミコはふむふむとうなずく。
そしてうぱ太郎たちを見つめ返したあと、グレートサラマンダーZに視線を移した。

「……あとはグレマン様だな」

――……あれだけじゃ納得してくれないよな。

 グレマン様は何も食べなくていい。
少し困ったようなチィミコのつぶやきを聞き、うぱ太郎はまだ自分の姿を晒す前にチィミコに
向けて言ったことを思い出していた。
そして少し間を置き頭の中を整理して、頬に手をあて考え込んでいるチィミコに話しかけた。

「グレマン様は僕の言うことしか聞かないから、グレマン様のことは気にしなくていいよ。
チィミコちゃん。あとで大きい川があるところ教えてくれないかな。そしたら僕がグレマン様に乗って
水やったり食べ物やったりするから」
 多くは語らなかった。
チィミコに説明しても理解してもらえるとは思えなかった。
0182「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:14:25.05ID:tuSg0i0y

「……それでいいのか?」
少し不思議そうにチィミコは真顔でうぱ太郎に問い返す。
尻尾を含めれば大人の倍近くありそうな体とそれこそ化け物じみた巨大な口。
グレートサラマンダーZが肉、魚、なんでも食い尽くす大食漢に見えるのは仕方のないことだろう。
「うん。それでいいよ」
しかし疑問を受け流すように、うぱ太郎はさらりと答えた。

「そういえばさっきからグレマン様、口開けたまま動かないけど怪我してるせいか?」
うぱ太郎の返事を素直に受け入れたのか、チィミコの口から新たなる疑問が湧き出る。

 にわかに信じがたいことではあるが何千年も前の時代にいる。
素性を隠す必要はない。しかしロボットという言葉を説明する気力もなく、うぱ太郎は単刀直入に
ありのまま答えた。
「……えーと、グレマン様は僕の言うことしか聞かないって言うか、僕が乗らないと動かないんだ」
「またまたー。オオシカって言うかウマなんてほったらかしにしたらどこにでも遊びに行くぞ?
やっと最近になってちゃんと帰ってくるようになったけど」
うぱ太郎の返事にチィミコは大袈裟に疑うような声をあげた。
軽く笑いながらすぐにうぱ太郎はチィミコの疑問に答えた。

「あ、ホントに。今だったらグレマン様にさわってもうんともすんとも言わないよ」
「……ホントに? ……さわってみてもいいか?」
「うん、どうぞ」
うぱ太郎の声にチィミコは口を開けたままのグレートサラマンダーZに近づき、恐る恐る
右手で頭を撫でた。
 グレートサラマンダーZはぴくりとも動かない。
怪訝な顔つきのまま、更に無理矢理押さえつけるようにチィミコはグレートサラマンダーZ
の頭を撫でた。しかしうぱ太郎の言うとおりグレートサラマンダーZは微動だにしなかった。

「……凄いな。……どうやってしつけたんだ?」

 種明かし。しかしそんな言葉も通じるか不明な時代。
グレートサラマンダーZの前でぽかんと口を開けているチィミコが急に滑稽に思え、うぱ太郎は声を出して笑った。

「ぷっ、あはははは」
「ん? なんか私変なこと言ったか?」
「あー、ごめんごめん。なんでもないんだ」 

――ロボットって言ったところで通じるわけないし。操り人形って言ったって分らないだろうし……

「さっきも言ったけどグレマン様は僕が乗らないと動かないんだ。だからグレマン様の世話は
僕にしか出来ないんだ。僕がやるからグレマン様のことは気にしなくていいよ」
「グレマン様はオオシカみたいに機嫌悪かったら勝手にどっか走って逃げたり暴れたりしないのか?」
不思議そうな顔でチィミコはうぱ太郎に問いかけた。
「うん、それは大丈夫。いきなり暴れたりはしないよ」

――僕しだいだけど……。

「……本当か?」
素性の知れないものを村におくことになるためか、チィミコはうぱ太郎に念を押すように確認する。
0183「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2012/02/15(水) 00:15:15.47ID:tuSg0i0y

「チィミコちゃん。信じられないかもしれないけどグレマン様は太郎ちゃんの言うことしか聞かないよ。
だからわたし達とかチィミコちゃんが動けって言っても、動かそうとして叩いたりしても絶対動かないよ。
馬だったらチィミコちゃんの言うこと聞くかもしれないけどグレマン様はチィミコちゃんに動かすことは
出来ないね。なんだったら叩いてみてもいいよ」

 なぜかうぱ太郎の隣でうぱ民子が自慢げに喋りだした。
そしてチィミコに気づかれないように、下がれとでも言いたげに手のひらをくいくいと動かした。
 うぱ民子の仕草の意図はすぐ理解できた。
グレートサラマンダーZから距離をとれば自動で口は閉まる。その瞬間、閉まれと言えば、いかにも
言うことをきいたように見える。
 距離感覚は身体が憶えている。
しかし1メートルも後ずさるのは骨が折れるし、どうみても不自然極まりないことでもある。

――まったく人使い荒いな、こっちの身にもなってよ。

 心の中で愚痴りながらも、うぱ太郎は人知れず後ずさりを始めた。
案の定チィミコは軽く拳を握り、遠慮がちにグレートサラマンダーZを叩き始めた。
「チィミコちゃん、グレマン様って硬いから程々にしないと怪我するよ?」
適当に見えて実は結構観察しているんだなと、チィミコに注意を促すうぱ民子をうぱ太郎は
ちょっとだけ見直した。そしてじわじわと後退し、あとわずかという位置で待機する。

「……チィミコちゃん。叩きすぎ」
「手痛くしても知らないわよ」
反応の無いグレートサラマンダーZを意地でも動かすつもりなのかチィミコは無言で拳を振り続けている。
双方を心配してかうぱ倫子とうぱ華子が声を掛けた。しかし返事は無い。

「チィミコちゃん。いくらなんでもそんなに叩いたらグレマン様痛いから」
貸したおもちゃが無下に扱われているような怒りを感じ、うぱ太郎は語気を強めた。
注意にはっとし、行き場の失った拳をごまかすようにチィミコはその手で頭をかいた。
「チィミコちゃん、危ないから気をつけて。グレマン様、口閉じて」
反省は見える。大人げないとも思う。
だがうぱ太郎は意地悪を意地悪で返すように、そう言って一気に後退した。

「うわっ!?」

 うぱ太郎の声と共にグレートサラマンダーZの巨大な口が威勢よく閉じた。
驚き飛びのく。はずみでチィミコは派手にしりもちをついた。

「あはは、だから言ったじゃーん。グレマン様は太郎ちゃんの言うことしか聞かないよって」
「……チィミコちゃん。グレマン様が口開いているときはなるべく近づかないようにしてちょうだい。
グレマン様は人を食べたりしない。だけどグレマン様にイタズラしようとして口に手とか入れたら
簡単に食いちぎるからね。村の人たちにもあとで話さないといけないわね」
したり顔でうぱ民子は笑い、冷めた口調でうぱ華子は話しかける。
だがチィミコは足をだらしなく広げ、ただ呆然とグレートサラマンダーZを見てるだけだった。
0184「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2012/02/15(水) 00:16:14.60ID:tuSg0i0y

「……チィミコちゃん、そのまま離れてて。……グレマン様、口開けて」

 続けざまにそう言って、うぱ太郎は一歩前に出た。
 声と同時にグレートサラマンダーZが大きく口を開いた。

「――!?」

 怪物。そうとしか呼べないものが激しく動いた。
のけぞりしりぞく。そして命令を下した奇妙な生き物に目を向ける。
「……本当にタロウちゃんの言うことしか聞かないんだな」
いまだ半信半疑な表情でぼんやりとチィミコはつぶやいた。

「 …………。」

――ちょっとやりすぎたかな……

 チィミコと目が合う。
前いた場所から明らかに離れた場所にいる。しかしチィミコはまるで気づいていない。
そしてついさっきまで見せていたあどけない笑顔も、戻って来そうな気配はなかった。

「ねーねー、太郎ちゃん、まだ水飲む?」
「えっ? ……僕はもういいけど」
不自然に映らないようにじわじわと前進しているうぱ太郎に、うぱ民子からまったく脈略のない
話が振られた。

「そう?じゃあ、水浴びしていい?」
うぱ民子は水の入った器をちらりと見る。
「あ、うん。僕は別にいいけど」
「……わたしも水入りたい」
「僕は構わないよ。華ちゃんは?」
「どうぞ。あたしも飲み水はもう要らないわ」
うぱ太郎とうぱ華子の返事にうぱ民子とうぱ倫子はそそくさと水を飲んだ皿に向かう。
そして少し窮屈そうに、それでも嬉しそうに並んで半身を水に沈めた。

「うはー、生き返るー」
「……気持ちいい」

「……タロウちゃんたちはいつもは水の中で暮らしてるのか?」
気の抜けたうぱ民子の声に険しい表情が緩み、チィミコに笑顔が戻った。
「うーん……。元々は水の中だったんだけどいろいろあって、今は水の外でも大丈夫。
まぁ、蛙と同じだと思ってもらえればいいかな」
派手にグレートサラマンダーZを動かし、脅かせたことを少し悔いている。
ここぞとばかりにうぱ太郎はチィミコへの気遣いの言葉を探しだす。

「……ところでチィミコちゃん。チィミコちゃんはご飯食べなくていいのかな? なんか火に
かけっぱなしだけど。もう充分煮えてるんじゃないかな」
「あーっ、忘れてた!」
うぱ太郎の声にチィミコは勢い良く立ち上がり、藁で編まれた鍋つかみのような手袋をはめ、
急いで火に掛けていた鍋を下ろした。

「タロウちゃん、ホントに魚もういらないのか?」
そして今度は身がほぐされた魚の乗る皿を手に取り、チィミコはうぱ太郎に尋ねた。
「うん、僕はもういいけど」
食べろと言われれば食べられるが、胃袋はもう充分満たされている。
遠慮しているわけでもなくうぱ太郎は素直に答えた。
0185「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:17:20.57ID:tuSg0i0y

「じゃあ私残り食べていいか?」
「うん」
うぱ太郎の返事にあからさまにチィミコの顔つきが変わる。
「じゃあ、こんだけ明日の分ということで」
手袋を外しチィミコは素手で魚の身を少しとりわけ皿の隅に寄せた。
そして皮や頭のついた焼き魚をそのまま鍋に入れ、近くにあった木製の大きなへらの
ようなもので鍋をかき回し始めた。

「うはは、あったかいの久しぶりだな。いただきます」

 左手に再び藁の手袋をはめ鍋を押さえる。
すぐに右手でへらを持ち、チィミコは鍋から中身をすくった。

――おかゆ……?

 鍋の中身は見える位置にない。
ただスプーン状のへらにはわずかに乳白色の汁がついているのが分る。
ふうふうと息を吹きかけ、チィミコは嬉しそうに口元にへらを運んだ。

「うわちちちっ!」
まだ熱さが取れていなかったのか、一口すすって慌ててチィミコはへらから顔を離した。
繰り返し息をかけ、そしてまた口を近づける。
「うん、フキだ。やっぱ春はこれだな」

――春でフキと言えば、ふきのとう……?

「海の魚も久しぶりだな」
二三口すすったあとチィミコは左手の手袋を外した。そして鍋からすでに原型をとどめていない
焼き魚をすくい上げ、空いている皿に寄せた。

――えっ……?

 うぱ太郎たちを気にすることもなく、チィミコは魚の頭を片手で取り、わずかについた皮や肉を
そぎ落とすようにしゃぶり始めた。

「……チィミコちゃんは魚の頭まで食べるんだ?」
小ぶりな魚で、それほど大きいものではない。
手にした魚の頭をチィミコは猫のように犬歯のあたりでがしがしと噛んでいる。
そしてうぱ太郎の質問に食べかけの骨を置き、チィミコは右手の指を軽く舐めた。
「食べるよ。っていうか村の者全員食べるぞ。歯が少なくなった年寄りは無理だけど。何か変か?」

――ふきのとうに魚の骨。昔の人って何でも食べるんだ……

「……いや、別に変じゃないけど。……美味しいのかな?」
 野蛮。
ふとそんな言葉が脳裏をよぎる。
そして米の作が悪かったとチィミコが言ってたことも思い出す。
「美味しいぞ。そんな大きくなくて骨もそんな硬くないしな。それに硬いところはあとで炙って
食べるんだ。これがまたカリカリして香ばしくて旨いんだ」
「……ふーん。僕には無理だな」
「チィミコちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
うぱ太郎が気のない返事をした直後、うぱ華子がチィミコに問いかける。
0186「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:18:04.15ID:tuSg0i0y

「何だろう。食べながらでもいいか?」
「いいわよ、そのままでいいから聞いててちょうだい」
うぱ華子の声に再びチィミコはへらを手にした。そして鍋をかき回してはへらを口に運んだ。
頃合を見計らい、うぱ華子は問いかける。

「さっきはご馳走様、美味しかったわ。ところでこの魚、海の魚って言ってたわよね。ここに来るまで
海はなかったと思うんだけど、この村の近くに海があるのかしら?」
「近くはないけどオオシカで行けば1日はかからない。夏だったらその気になれば行って帰ってこれるくらいだ」
ずるずるとお粥のようなものをすすりながらチィミコは答える。
そういえば海はなかったなと、二人の会話を何の気なしにうぱ太郎はやり過ごす。

「その海はお日様が昇る海? それとも沈む海?」

―― !?

 うぱ華子の問いかけにはっとする。
そしてチィミコの返事を聞き漏らさないようにうぱ太郎は耳に意識を集中させる。

「昇る海だ。沈む海はずっと遠い。オオシカで行っても6日いや7日は見たほうがいいな。……ウマだった」
「そう、ありがとう。あとこの村は冬、雪は降るのかしら?」
「いや、うちの村は山に囲まれてるけどそんなに降らないな。北の国みたいにずっと真っ白って
ことは滅多にないよ。降ってもお日様が出たら2、3日ですぐ消える」

――季節感は高速を走ってたところとほぼ一緒……。
  何千年何万年前か分らないけど場所的にはタイムスリップする前とほぼ同じか……?

「ありがとう。ごめんね、ご飯食べてるところなのに。って、あら?」
唐突にうぱ華子の声が止まった。
少しでもこの世界の情報が欲しかった。すぐうぱ太郎は聞き返す。
「どうしたの?」
「まったくお気楽極楽なご身分だこと。やけに静かだと思ったら寝てるわ、こいつら」
そう言ってうぱ華子はくいと後方を指差した。
「あちゃー」
指の先では皿の上で何事も無かったような寝顔を浮かべ、うぱ民子とうぱ倫子が重なりあって眠っていた。

 ふう。とうぱ華子からため息が漏れる。
「まあ、しょうがないわね、長い1日だったし。確かに疲れたわ。チィミコちゃん、お皿まだある?
あたしも疲れたから民ちゃんたちみたいに休みたいんだけど」
「あるよ。水、注げばいいか?」
鍋を置き、すぐにチィミコは立ち上がる。

「えぇ、お願いするわ。太郎ちゃんも疲れたんじゃない?」
「……うん、……まぁ」
少しうんざりした表情でうぱ華子がつぶやく。
この世界のことを探る腹づもりが水を差され、うぱ太郎の返事は曖昧になる
「はい、どうぞ」
ベッド代わりの水の張られた皿がチィミコによって手際よく用意された。
すぐにでも眠りに入りたいのか、うぱ華子はありがとうとチィミコに礼を言い、うぱ太郎を横目に
水の張られた皿に乗り上げた。そして取り残されたうぱ太郎に一声掛ける。
0187「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:21:00.60ID:VADjoWcU

「なんだったら太郎ちゃん、一緒に寝る?」

 思いもよらぬ言葉がうぱ太郎を直撃する。

「は……? な、な、何言ってんのさ?」
予期せぬ誘いにうぱ太郎はうろたえる。だがうぱ華子は意地悪げに笑いながら、更に追い討ちを掛ける。
「あら、恥ずかしがらなくていいのよ、太郎ちゃん?」
「そっ、そ、そんなんじゃないし。い、いいよ僕グレマン様の中で寝るし考えたいことあるし」
あきらかに動揺し早口で捲くし立てるうぱ太郎を見て、うぱ華子はぷっと小さく吹き出した。
「そう。まあそれもいいかもね。チィミコちゃん、明日チィミコちゃんが起きたらあたしたちも
起こしてくれないかしら。それで明日、村の人たちにあたしたちのこと教えてくれない?」

「……ああ、分った。明るくなる前に起きるけど大丈夫か?」
どこか心残りがあるような残念そうな顔でチィミコはうぱ華子に確認する。
「大丈夫よ。ところで太郎ちゃん、邪魔になるからグレマン様、外に出したほういいんじゃない?」
そう言ってうぱ華子は部屋の真ん中に堂々と鎮座するグレートサラマンダーZに顔を向けた。

「え? ……あ、うん。……そうするよ」
「タロウちゃん、大丈夫だぞ。私一人だし寝る場所あるし別にグレマン様邪魔じゃないぞ?」
 確かにうぱ華子の言うとおりだった。
チィミコからすぐに問題ないと声が入る。しかし、からかわれた気恥ずかしさも手伝って
うぱ太郎は少し意固地になって答えた。

「あ、大丈夫。本当にちょっと一人で考えたいことあるからグレマン様外に出してその中で寝るよ」
「そうか。外暗いけど大丈夫か?」
少し心配そうにチィミコはうぱ太郎に尋ねる。ことなげにうぱ太郎は答える。
「うん、大丈夫。じゃあチィミコちゃん、明日みんな起こしたら僕のところにも来てくれないかな。
この家の周りの邪魔にならなさそうなとこで寝てるから」
「ああ分った。でも本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。グレマン様の中だったら怖いことないし」
頑なさに気づいたのか、チィミコはうぱ太郎をとどめようと言葉を繰り返す。
しかしうぱ太郎は、その声を振り切るようにグレートサラマンダーZに乗り込み、口を閉じた。

「……分った。別に家の周りそんな邪魔になるものないけど気をつけてな。いま入り口開ける」
「うん、ありがとう」
押し切られるようにチィミコは立ち上がり、家の入り口に進んだ。
うぱ華子たちに注意を払いながらゆっくりとうぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かした。

「じゃあタロウちゃん、気をつけてな」
「うん、ありがとう。みんなおやすみなさい」
入り口の藁編みのすだれのようなものを手で押さえ、チィミコはグレートサラマンダーZを見送りに出た。
 入り口から漏れた光が地面を照らした。しかし、数メートルほどの状況が分るぐらいで行く先は
見事なまでの暗闇だった。

「太郎ちゃん、道草しないでちゃんと寝なさいよ?」

 踏み出そうとした瞬間、コックピットのモニタースピーカーからうぱ華子から声が流れた。
疲れのせいか、すぐにでも眠りにつける安堵感からか、何もかもが急にわずらわしく感じて
うぱ太郎の口から思わず本音が飛び出した。
0188「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:21:48.95ID:VADjoWcU

「……うるさいなー」
「なんか言った?」
「何でもないよ。おやすみ」
苦笑いを浮かべ立っているチィミコにおやすみと一声掛けて、うぱ太郎はゆっくりと
グレートサラマンダーZを前進させた。
 視聴覚モニターにはかすかに星影が映っているだけだった。それでもうぱ太郎はただ闇雲に
アクセルを踏み続けた。

「ちぇっ、なんだよみんな好き勝手にやりたい放題でさ。大体僕なんて人間と一緒に暮らしたこと
ないし急に人前で寝ろたって寝れないよ。それに何だよあれ。ふざけるのも大概にしろってんだ」

 ほとんど無言のうぱ倫子。空気を読まずに好き勝手に発言行動するうぱ民子。
そしてまともだと思ってたのに最後の最後でからかうようなこと平然と言ううぱ華子。
腹立たしさのままにうぱ太郎の独り言は荒くなる。

「だいたい何なんだよここ。街灯のひとつも無いなんて何て田舎だよ!」

 補正が入り視聴覚モニターがかろうじて明るくなる。
しかし、わずかに星の数が増え、空と地面の境界が分るくらいで真っ暗と言っていい状態だった。

そしてコックピットにただ1人となり溜まった毒を吐き出せたおかげか、うぱ太郎は冷静さを取り戻した。

「……まいったな。……本当に真っ暗だ」

――本当に電気どころか火を起こすことさえままならない時代なんだ……

 無意識に、踏んでいたアクセルを戻した。
安全運転を常に心がけている。煽るようなまねもしたことはない。危ないと思ったらすぐに止まる。
 腹の虫が治まらないままにグレートサラマンダーZを進ませた。
しかしそれでも身体に染み込んだ安全意識がアクセルをコントロールしていた。
独り言でぼやいたのも十数秒なはずだった。

――30メートルも進んでないはずだけど……。ここで大丈夫か?

 視聴覚モニターを凝視する。
空と地面との区別はついている。しかし見渡す限り地上から光を出すものは一切無く、一寸先さえ闇だった。

「たぶん大丈夫と思うけど一応コックピットから出て確認したほうがいいな。星が出てるから
肉眼だったらもうちょっと見えると思うし」

 誰に聞かせるでもなく独り言を言う。
ナビの時計表示を見る。午後8時をわずかに過ぎている。
 チィミコの家は、他の家から少し離れたところにあった。間違いは無いはずだった。
しかし、もし他所の家の前にグレートサラマンダーZを停めていたらと思うと確認せずにはいられない。

「大丈夫だと思うけど念のため……」
そうつぶやき、うぱ太郎はグレートサラマンダーZの口を開け、コックピットから降りはじめた。
0189「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/15(水) 00:22:57.17ID:VADjoWcU

「――!?」

 その神々しさに息が止まった。

「…………凄い。……本当に星が落ちてきそうだ」

 未知の色彩がうぱ太郎を貫く。
果てしなく深い紺碧の瑠璃の中で、うぱ太郎の存在をあざ笑うかのように幾千もの星が瞬いていた。
 力を抜けばそのまま宙に吸い込まれ、小さな星屑に変えられてしまいそうな感覚に見舞われ、
うぱ太郎は思わず身体を硬くして身構えた。

 神話の時代。

 見上げた先の星空は、あまりにも美しく、あまりにも荘厳で、
そしてまるで終焉の時を迎えたかのように、あまりにも絶望的だった。



「ははっ。あははははっ!」

 暗闇に空虚な笑い声が響く。

「くくくっ、どおりで携帯もナビも動かないわけだ。そりゃそうだ、石器時代に携帯の基地局とか
GPS衛星とかある訳ないし」

 充分理解したつもりでいた。
しかし心のどこかで、まだ覚めない夢の中にいると思っていた。
リセットスイッチを押せばテレビの電源を切るように虚構は消えると信じていた。

 全ては繋がり、世界は完結する。
もう突きつけられた現実から目をそらすには、ただ、笑うしかなかった。



「あはは、あはははは。タイムスリップってありえない。いったい何の罰ゲームですか?うぱ松さん!」

―― 僕はもう……

「くくくっ、参ったな、星座図鑑持ってくればよかった。北斗七星くらいしか分らな……い」
 
 空に向け強がりを吐く。
しかし成すすべもなく、いにしえの静寂に紛れ消えていった。



 かすかな光がひとすじとなって低い空を流れた。

 星に願いは届かない。
季節外れのホタルのように儚く消えたその光は、うぱ太郎の頬を伝う涙だった。

0191創る名無しに見る名無し
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2012/02/24(金) 21:19:30.26ID:psxIOpd9
お帰りー
0192「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/24(金) 23:02:49.27ID:rbSNxtEl

「あたーらしい朝がきた きぼーおのあさーだ!」

―― …………。

「よろこーびに胸をひーらけ 大空あおげー!」

―― ……うるさいなー。

「ラジオーの声にー 健やーかな胸をー!」

―― ……まったく、ラジオ体操の歌なんてどこの小学生だよ!

「このかおーるかぜーにひらーけよ それ、いち、にぃ、さんっ! 太郎ちゃんおはよー!!!」

―― っ!?

「……太郎ちゃん、お早う」
「グレマン様、タロウちゃん、起きてるか?」

―― …………。

 著しく理解不能。

「はいはいはいっ!寝ぼけてんじゃないわよ。ちゃっちゃと起きなさい、ちゃっちゃと!」
「うえっ! お、おはよう……?」

 両手で大きな皿を持つ少女が、淡い薄闇の中で微笑んでいた。
皿の上には、白、黄色、ピンクのウーパールーパーが並んでいる。

 それが映し出されるのは、
グレートサラマンダーZコックピットの視聴覚モニター。

―― ……そうか。……そうなんだ。

 混乱が解け、それは諦めに代わる。

 タイムスリップというあまりにも馬鹿げた現実に打ちひしがれた。
ただ星空を見続けた。そして逆境に立ち向かう冒険者のようにもなれずに、逃げるようにコックピットへ
退いた。もうその後のことはよく憶えていない。


「……ゴメンゴメン、ちょっと寝ぼけてた。って随分早いな、みんな眠くないの?」
目をこすりながら見るナビの時計表示は00年3月21日午前5時10分。
白み始めた空からすれば時間に大きな狂いはなさそうだった。
「水が合うのかなー、目覚めバッチリ絶好調!って感じ」
「……気持ちよく眠れた」
「早寝早起きは健康への第一歩よ。それより太郎ちゃん、チィミコちゃんが話したいことあるんだって。
チィミコちゃんちに戻るわよ。大丈夫?寝ぼけてない?」
三者三様の返事が返ってくる。
身体をほぐし、シート位置を確認しながらうぱ太郎は答えた。

「うん、大丈夫だけど。……話って何かな?」
「それは全員揃ってからのお楽しみみたいだよ、チィミコちゃん教えてくれないもん」
「ふーん」
モニターに映るチィミコを見る。
昨日と同じ白い服を着て穏やかな笑顔を浮かべている。しかし会話に入ろうとはしない。
0193「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/24(金) 23:03:29.10ID:rbSNxtEl

 グレートサラマンダーZを少し動かし周囲を確認する。見るかぎりチィミコの家まで20メーターほど。
少し離れて村人のものと思われる住居が点在しているが、今のところ人の姿は無い。
「えーと。じゃあ行こうか?」
「行こう行こう。うおー、なんか燃えてきた!」
「……民ちゃん、意味わかんない」
「はいはい、ちゃっちゃとぱっぱと。無駄口叩かない」
皿の上のうぱ華子たちのやり取りに苦笑いを浮かべながら、チィミコはうぱ太郎の声にうなずき、歩き始めた。
後を追うように、うぱ太郎もゆっくりとアクセルを踏み込んだ。


「太郎ちゃん、魚の残りあるよ、食べれば?」
「うん、ありがとう。……とりあえず水が欲しいかな」

 グレートサラマンダーZから降りた直後にうぱ民子から声を掛けられる。
すでにうぱ民子たちは朝の身支度が済んでいたのか、チィミコの前に並び話が始まるのを待っている。
 用意されていた水に入った後、一番小さな魚の身を選んで口に放り込んだ。
そしてうぱ太郎は身を整え、うぱ華子の隣についた。

「じゃあ、みんないいか?」
うぱ太郎が列に加わったところでチィミコは確認する。
小さな返事があがる。一呼吸置き、うぱ太郎たちの前でチィミコは笑顔を振りまく。
「昨日なんで指5本あるのかって話なっただろ? それで私考えたんだ。そしたら肝心なこと
忘れてたことに気づいてさ。それでその話、したいと思うんだ」

――話があるって、それ……?

 別にどうでもいいように思えた。
うぱ太郎同様に拍子抜けしたのか、チィミコの語り掛けにうぱ華子たちも無言でうなずくだけだった。
しかしそんな心中など知るはずもなくチィミコは意気揚々と話し始めた。

「私の指は5本ある。両手で10本だ。でも、なぜ指5本なのかは解らない。昨日タロウちゃんや
ハナちゃんがはじめから4本だったからって言ったけど、その通りで私の指も始めから4本だったら
気にしないし、たぶんそんな困ってないと思う。……だけど、やっぱりそれじゃいろいろと困るんだ」
 まるで答えになっていなかった。
しかし誰も口に出すことはなく、沈黙を相づちに代えた。
変わらずチィミコは楽しそうに喋り続けた。

「話は変わるけど、タロウちゃんとこでも分かれの日ってあるのか?」
「……言い方は違うけど、……あるよ」
昨日の説明で今日が春分の日ということは承知している。全員で顔を見合わせた後、うぱ太郎が代表で答えた。
「じゃあ今日が分かれの日だよって誰が教えてくれるんだ?」
「えーと、カレン……。いや、あの、……教えてくれる人がいるんだ。今日は何の日だよって」
 カレンダー、新聞、テレビラジオ、時計、何もない時代。そう答えるのが精一杯だった。
すぐにそうそうと、うぱ太郎に同意するつぶやきがうぱ民子から聴こえた。その声にチィミコの
瞳がよりいっそう輝きを増した。

「そうだろ? お日様の加減で何となく今日かなって思うけど、やっぱり教えてくれる人いないと
分らないよな?」
「……うん、そうだね。……気にしてないときは教えてもらわないと分らないと思う」
「そうだろ? それでな、その今日は何の日だよって村人に教えるのが私の仕事なんだ。
話戻るけど、なぜ指が5本なのかは解らない。だけど日にちを数えるには指が5本じゃないと困るんだ」
0194「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/24(金) 23:04:12.73ID:rbSNxtEl

「日にちを数える……?」
イベントを心待ちに、カレンダーを見つめあと何日と数えることはある。
だがそれはチィミコの意図することとは明らかに意味合いが異なるだろう。
「そう。ホントのところ指だけじゃすぐ忘れるから木とか石も使うんだけど、元となるのは両手なんだ」
「……チィミコちゃん、今日が春の分かれの日なんでしょ? 次に来るのは夏の分かれの日よね?
その日まで指でどうやって数えるのかしら?」
うぱ太郎の隣で静かに耳を傾けていたうぱ華子がチィミコに問う。
うぱ華子の質問に、チィミコは得意気な笑顔を浮かべ、胸の前で大きく両手の指を開いた。

「うはは、ハナちゃんたち指4本だから数えづらいかもしれないけど、数え方教えるから指5本の
つもりで一緒にやってみてもらいたいんだ。分かれの日の次の日から数えるってことで。
 うちの村は4日働いて1日休むのが決まりなんだ。田植えと米の刈り取りのときは忙しくて
そうならないときもあるけど、4日働き1日休む4日働いて1日休むを繰り返すんだ」
そう言ってチィミコはうぱ太郎たちに見せるように手を突き出し、数を数えながら右手の親指から
順番に折り始めた。

――10日で2日休みか。

「それで、両手の指が全部折れたら、一区切りになるんだ。それで今度はそれを9回数えるんだ」
「1、2、3、4、休み、1、2、3、4、休み。で一区切り。それを9回数える。と」
うぱ民子とうぱ倫子が口にしながら指を折り数えはじめた。
「そう。それで右手でも左手でも、親指でも小指でもどっちでもいいんだけど最後に残った指が
分かれの日になるんだ」
「……なるほどね。分ったわ」

――10日で一区切り。それを9回で90日。それに1日足して91日。
  だいたい3ヶ月、期間的には問題無い。

「それでな、今度は分かれの日が何回来たかを数えるんだ。うちの村は春の分かれの日が
一番目で冬の分かれの日が最後になるんだ。それをまた指で数えるんだ。春、夏、秋、冬。
そしたらまた指が1本余るだろ? その日が、一年の分かれの日だ」
春、夏、秋、冬と声に出しチィミコは指を折った。そして最後に小指を見せびらかすようにして、
ゆっくりと折り曲げた。

――91の4倍、364。プラス1。 ……凄いな、365日であってる。

「凄いわね……。あたしたちのとことは数え方違うけど数は合ってるわ」
「うはは。でもな、まだ続きあるんだ。なんか知らないけどこの数え方で行くと何十年もすると
ちょっとずつお日様の位置がずれちゃうんだ。なんか大昔の人が気づいたらしいんだ。
村長が言うにはやぐらで見る限り1年じゃあまり差はないけど20年もすればはっきり差が出るらしいんだ。
それを直すために」
「一年の分かれの日を指で数えて、4年目に小指の分を1日足すのね?」

――うるう年のことも知っているのか……?

「そう、当たり」
そう言ってチィミコはうぱ華子に向けてぱちぱちと拍手を贈った。
「凄いよな、昔の人ってそこまで解ってたんだ。私なんかたぶん巫女になって数え方聞かなかったら
一生気づいてないと思う。っていうか人任せにするしな。
ということで、答えにはなってないけどやっぱり指は5本ないと困るんだ」
「ありがとう、面白かったわ」
「……逆算?」
「凄いな、僕も教えてもらわないと気づかなかったと思う」
単純な指遊びの計算だが確かに辻褄は合っていた。素直にうぱ太郎は感服する。
感心の声に気を良くしたのか、チィミコはうぱ太郎たちの前で得意げに腕を組み、うんうんとうなずいた。
0195「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/24(金) 23:05:00.51ID:rbSNxtEl

「ねーねー、チィミコちゃん。太郎ちゃんは何故4本か分らないって言ったけど実は理由があるんだ。
……聞きたい?」

 そんな自慢げな笑顔のチィミコに、少し意地悪そうにうぱ民子が話し掛けた。

――実は負けず嫌い……?

 探るようにうぱ太郎はうぱ民子を眺めた。
何をどう力説するのか期待する半面、どこか不安もある。
「聞きたい聞きたい。何で何で?」
うぱ太郎の心配をよそに、チィミコはうぱ民子の前に手をつき身を乗り出した。
えへんと咳払いをひとつ。早速うぱ民子が語り始めた。

「チィミコちゃん、龍って知ってる?」
「リュウ?」
「そう。わたし達からすれば神様みたいな生き物なんだけどね。聞いたことあるかな?」
「あー、なんか聞いたことあるな。おっきい蛇みたい奴で空も飛べるんだろ?」
「そうそう。でも大きい蛇なんてもんじゃないね、それこそグレマン様の何倍も何十倍もあるんだ。
それで、格好は蛇っぽいんだけどちゃんと手足もついてるんだ」
「凄いな。大陸にはそんなのいっぱいいるのか?」
「まあね。でも、さっき言ったように神様みたいなものだから滅多に見ることは出来ないよ」
「……そうか。……大陸の神様もやっぱり人前には出てこないんだな」

――いきなり龍か。ドラゴンじゃないだけましだけど大丈夫かな……?

 神妙な顔つきでチィミコはうぱ民子の話を聞いている。
話の展開が読めず、うぱ太郎は不安げにちらりとうぱ民子を見た。同様に感じたのか横目で覗く
うぱ華子と目が合い、思わず揃って苦笑する。
そしてうぱ太郎たちを気にすることもなく、うぱ民子はチィミコ相手に淡々と話を続けた。

「そう。まず見ることは出来ないね。でさー、その神様だけど五爪の龍って呼ばれてるんだ」
「ごそうのりゅう?」
「そう。それでねー、五爪って爪が五つあるってことで、わたし達と違って手の指が5本あるんだ。
……チィミコちゃん、もし6本指の人がいたらどう思う?」
「えっ?」
突然の問いかけにチィミコは押し黙る。
そして手のひらを開き、何度も5本の指の動きを確認した。

「……そうだな、びっくりって言うかちょっと怖いと思うかもしれない」
「でしょー? わたし達も同じで、指が4本なのが普通なわけ。だから指5本の五爪の龍は怖いって
言うか特別な神様なんだ。
 それでね、わたし達は神様でもなくて特別でもないから指が4本しかないんだ。それにみんながみんな
5本指だったら誰が五爪の龍かわかんなくなっちゃうでしょ? だからわたし達の指は4本なんだ」
「……なるほど。……じゃあタミちゃんたちとか、そこら辺うろちょろしてるトカゲやイモリで
指5本な奴いたら神様なのか?」
「違うよ。わたし達の手の指はもう4本って決まってるんだ。あと手の指5本のイモリとかトカゲ
いるかもしれないけど人の言葉話せないはずだから神様じゃないね。
でも指5本の奴は珍しいから見つけてもそっとしてあげたほうがいいよ。神様の友達だったりするから」

――五爪の龍って中国の言い伝えだっけ?

 うぱ華子の話が無事に着地できそうで、とりあえずうぱ太郎は胸を撫で下ろす。
チィミコも納得できたのか、話を結びに入ろうとしていた。
「なるほどな。やっぱりよその国の話って面白いな。ゴソウノリュウか。私も見てみたいな」
「チィミコちゃんは会わないほうがいいね」
「ん? 何でだ?」
しかしうぱ民子の即答に、少し不服そうに聞き返した。
0196「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/24(金) 23:05:58.01ID:rbSNxtEl

「五爪の龍はあくまでわたし達の神様だからね。わたし達が見れば神様だ!って思うけど、
チィミコちゃんが見たら化け物だ!って思うかもしれないでしょ? そうやって五爪の龍を怒らせた人が
いたみたいで、ばちがあたって目が潰れちゃったって話も聞いたことあるしね」
「……そうか。……神様の世界もおっかないな」
うぱ民子の説明に不機嫌そうな表情が消え、チィミコに神妙さが戻った。
だがうぱ民子はとどめを刺すように言葉を続けた。

「そう、怖いよ。……チィミコちゃん、わたし達グレマン様から降りたとき思いっきり笑ったじゃん?
別にね、わたし達神様じゃないし、笑われるのも慣れてるから別にいいんだけどね。
 でも、もしグレマン様に乗ってたのが怒りっぽい神様だったら今頃間違いなくチィミコちゃんの目は
潰されてるよ、笑った罰だってね。
だから神様に会いたい気持ちはわかるけど無理に会おうとはしないほうがいいよ。怖いこともあるから。
……ってことで、この話はおしまい」

――さわらぬ神に祟り無しか。上手いことまとめたな。
  っていうか笑われたこと絶対根に持ってるし。なんかチィミコちゃん落ち込んでるし。 

 胸の中で苦笑しながら、横目で隣のうぱ華子を様子を確認する。
特に不満そうな顔もせず黙って話を聞いていた。さらに隣では、うわの空でうぱ倫子がぼーっとしている。
そう言えばと昨日の夜のことを思い出し、うぱ太郎はチィミコに話を切り出した。

「ごめん。ちょっと話変わるんだけど、チィミコちゃん。あとで大きい川があるところ教えてくれないかな?
それと、僕たちとチィミコちゃんが会った場所にも行っておきたいんだ。ちょっと僕、道憶えてなくて。
グレマン様乗ってついていくから出来れば馬に乗って連れてってくれないかな?」
うぱ太郎の問いかけで、チィミコに笑顔が戻る。すぐ、気を取り直したように声が返ってきた。
「いいよ。でも私祭りの準備あるからテンでもいいか?」

――テンか。昨日あまりうまく話せなかったけど……

「あ、うん。テンが大丈夫なら」
案内人がチィミコでないことに不安を覚えた。
ただ何事も一筋縄ではいかないことは分っている。人見知りな性格を隠すようにうぱ太郎は明るく答えた。

「わかった。あとで話しておくよ。それでな、タロウちゃんたちさ、もうちょっとで石置きが始まるんだ。
そのときタロウちゃんたちのこと村のみんなに教えたいと思うんだけど、いいか?」
「チィミコちゃん、石置きってなーに?」
「あ、さっき話しただろ、日にち数えるの指だけじゃすぐ忘れるって。それで今日は分かれの日で
祭りの日だから村のみんなで今年も春を迎えたよって、やぐらの広場に分れの日のしるしの石を置くんだ。
 村長と男衆の仕事だから私なにもしなくていいんだけど、夜の祭りの準備で私ちょっと忙しくなるから
いまのうちに教えたいと思ってな。村人みんな集まるし」
人に説明するのが好きなのか、うぱ民子の質問にチィミコは楽しそうに答えた。
すぐさま今度はうぱ華子から要望が出る。

「ええ、それでいいわ。ただお願いっていうか気をつけてもらいたいことがあるんだけどいいかしら?」
「なんだ?」
「チィミコちゃんがあたし達見て笑ったように、あたし達面白い顔してて珍しい色してるでしょ?
そうすると寄ってくるのよ、子供がね。それで大抵の子供はあたし達にさわろうとするわ。
 まぁ、さわるだけならいいんだけど、中には無理矢理引っ張って遊ぼうとする子も出てくるの。
もしそんなことされたら、小さいしあたし達なんかすぐに怪我して死んじゃうのよ。
だからこう言っちゃなんだけど、小さい子供はなるべくあたし達に近づけないで頂戴。
お互い気をつけていれば嫌な思いはしないで済むはずだから」
0197「 グレートサラマンダーZ 」
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2012/02/24(金) 23:06:42.21ID:rbSNxtEl

 思い当たるふしがあるのかしばらくチィミコは黙り込んだ。
そして姿勢をただし、あらたまった口調で答えた。

「わかった。うん、確かに小さい頃はヘビ捕まえて振り回して遊んでたな。あとでちゃんと食べたけど。
石置きの時みんなにちゃんと言うよ。そうだな、私と一緒じゃないと近づけさせないようにする。
それにこの家は巫女の家で余程のことがない限り誰もはいらないから大丈夫だ。心配しなくていい」

―― 蛇を、ちゃんと食べた……?

 真面目な顔でチィミコは大丈夫と言い切った。
しかし、何気ない一言が小さな棘となってうぱ太郎の胸に突き刺さる。
思わず隣を見る。しかしうぱ華子たちに動揺の色は無い。

――いや、魚の頭も食べてるんだ。……気にするな。

 その時だった。
遠雷のような響きが、かすかに空気を振るわせた。

「お、始まったな。そうだな、とりあえずみんな昨日みたいにグレマン様に乗ってついてきてくれないか?
石置きが終わったら村人に話するから」

 チィミコが立ち上がる。
軽く衣服をはたく。髪の毛を少し気にする。そしてうぱ太郎たちに向けて微笑む。
 どんどん、どんどん。と、太鼓と思われる音が次第に大きくなっていく。
その響きに煽られるように、うぱ太郎の心臓が脈打つ。

――もう何回繰り返したろう? ……僕に足りないのは勇気と覚悟だ。腹をくくれっ!

「うん、分った。じゃあみんなグレマン様に乗ろうか?」
さりげなくうぱ華子たちに声を掛けた。
「はーい、出発シンコー!」
「……民ちゃん。いちいちうるさい」
「はいはいはいっ、無駄口叩かない。ちゃっちゃっと、ぱっぱと」

 まるで遠足気分だなと心の中で笑う。
そして不安と緊張をひた隠し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZに乗り込んだ。
0201創る名無しに見る名無し
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2012/03/30(金) 19:37:15.11ID:LgVLc2E7
                      
                           
 < ̄ ̄ ̄ヽ, '  ̄ ̄ ̄ヽ / ̄ ̄ ̄>
.<ニニニニニV            Vニニニニニニ>
. <____{ ●      ● }、___>
       八  、___,  八        < うぱと契約して
        ヽ、 _  _ .ノ           モバイル適正者になるうぱ
          ,'    '. 
0202創る名無しに見る名無し
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2012/04/18(水) 00:13:22.23ID:+L+3tjzw
うーうーうぱうぱ
0203「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2012/04/18(水) 00:30:42.83ID:gZEGwHFi

―― ストーンサークル……? 時計、いや……

 視聴覚モニターには、時計の文字盤に似た直径5メートルほどの円状に並べられた石と、その周りを
取り囲むように座っている子供達。そしてその子供を見守る大勢の人々の姿が映っていた。
 12時3時6時9時の場所にはそれぞれひと目で大きいと分る石が陣取っている。そしてその延長線上
には鳥居ように組み合わされた背の高い柱が立っていた。

 グレートサラマンダーZに乗り込んだうぱ太郎たちが案内されたのは、石置きという行事が行なわれる
場所から少し離れた土手のような、先の広場を見下ろすには都合のいい場所だった。
 チィミコと共にその場に着いたが村人達はグレートサラマンダーZに特に興味を示すこともなく、
おのおの談笑に夢中だった。当のチィミコは村長に話をしてくるとすぐにその場から離れ、広場へ駆けていった。
 ナビの時計表示は午前6時を廻ってしばらく経つ。
かすかに混じる薄い蜜柑色の光もやがては消えゆき、抜けるような空色に変わるだろう。

「ねーねー、あれって日時計?」
「……たぶんカレンダー。10日ごとに石置いて春分の日用に大きい石置くと思う。
あとあの柱は太陽の位置見るためだと思う。チィミコちゃんそんなこと言ってたから。
……ピラミッドなんかもそんな役割果たしているから昔の人の知恵で太陽の位置測ってるんだと思う」

 すでに完成している石の円12時から3時までの外周を、更になぞるように石が置かれている。
区切りの日となる今日、内側の円と同様3時の位置に大きな石を置くことになるだろうと容易に推測できた。

「倫ちゃん詳しいね。古代文明とか好きなの?」
コックピットの中、モニターを見つめたまま、それでも機嫌を伺うようにうぱ太郎はうぱ倫子に話しかける。
「……知ってることしか解らない」
「あはは。そりゃそうだよね……」
しかしながら、いまだうぱ倫子との会話の距離感は掴めていない。
気を取り直し今度はうぱ華子に話題を振ってみる。

「華ちゃんはストーンサークルとか古代文明とかそういうの興味ある?」
「残念ながら興味はないわね。それに忘れてるかも知れないけどあたしはメキシコ生まれよ。
地元の古代の話だってろくに解らないのに日本の古代のことなんか知ったこっちゃないわ」
さばさばとうぱ華子は答えた。
しまったと苦笑いを浮かべながらもうぱ太郎は続ける。

「あ、そう言えばそうだったね。……メキシコってなんだろ? サボテンとかアステカとか
しか思いつかないな」
「普通そんなもんでしょ? あえて言えばマヤ文明が有名だけど、あたしもB級雑誌の人類滅亡
とかのゴシップ記事読んでそんなのあったなってレベルだからたいそうなことは言えないわ」
「マヤ文明か……。僕も何かで読んだ気がするな。なんで人類滅亡するんだっけ?」
「……長期暦。マヤ文明でもいろんなこよみの計算があって、その中で一番長い何千年単位で
計算される長期暦の終わる時が2012年の冬至の頃。
 長期暦の終わりが来たら新しいこよみを迎えるために全てのものが終わって新しく生まれ変わる。
って、輪廻転生みたいな思想もマヤ文明の一部にあって、それで人類滅亡に繋がってるんだと思う。
……わたしは大丈夫だと思うけど」
0204「 グレートサラマンダーZ 」
垢版 |
2012/04/18(水) 00:31:17.66ID:gZEGwHFi

―― ワームホールとか言ってたしやっぱ好きなんだ。でも、それ言ったらまた止まるから……

 不自然にならないように少し考えてうぱ太郎は口を開く。

「なるほど。でもさっきのチィミコちゃんの1年の数え方もそうだけど、星とか月とか太陽見て
こよみ計算するなんて凄いよね、古代の人って。そう言えば三蔵法師だっけ? 日食の日わかってて
それ利用して妖怪退治するの」
「……そう。でも三蔵法師は実在したみたいだけど西遊記はフィクションだから、その時代の人が
日食や月食の正確な日にち理解してたかどうかはわからない」
ほんのちょっとだがうぱ倫子の声が弾んだように思えた。

「ふーん、なるほど。……ちなみに倫ちゃんは日食の日とか計算できるの?」
「……季節ごとの星座の位置とかは知ってるけど、日食月食の日までは解らない」
「さすがにそこまでは無理だよね」
「……うん」
 少し近づけたかなと、心の中でガッツポーズをとる。
そしてさらに盛り上げようと、うぱ太郎は昨日の夜のことを話し始めた。

「昨日倫ちゃんたちすぐ寝ちゃったけど、僕あのあと外に出てみたんだ。
なんて言うか、なんかびびっちゃうぐらいに星が凄かった。ちょっと怖いって思うほどだったもん。
僕は北斗七星とオリオン座ぐらいしか分らないけど下手なプラネタリウムより凄いんじゃないかな。
倫ちゃんも夜になったら見てみればいいと思うよ。大袈裟じゃなくてびっくりすると思うから」
「あはははは。朝っぱらからチィミコちゃん元気だなー」

 唐突にうぱ民子が笑い出した。

―― 朝っぱらからジャイアンリサイタル開いてる民ちゃんほうがよっぽど元気だよ。
   って言うか空気読めよ。

 何事かとモニターを見れば、村長との話が終わったのかこちらに向け走ってくるチィミコの姿が
小さく映し出されていた。
 そしてうぱ太郎が苦々しく思うことも束の間、無邪気な子鹿のようにあっという間に土手の
斜面を駆け上り、チィミコはグレートサラマンダーZの隣に立った。

「……お待たせ。……えーと、タロウちゃん以外にも聴こえているんだよな?」
吐く息はまだ白い。はぁはぁと少しあがった息をチィミコは身だしなみと共に整える。
「えーと、うん。大丈夫。みんな声も聴こえるし石置きの広場も見えてるよ」
「つくづく凄いな。一体どうなってんだグレマン様って?」
「……まぁ、いろいろと。持って生まれた力というか」
「あはは、そうなんだ」

 返事を深く追求しようともせずチィミコは明るく笑う。
そして合図を送るように大きく両手を振った後、通常姿勢のグレートサラマンダーZの隣に膝を
かかえ座り込んだ。
 しばらく止んでいた太鼓の音がひとつ響き、ざわついていた村人達が静まりかえる。
間もなく村長と思われる男が石の円の中央に立ち、話を始めた。しかしそれほど長い話でもなく、
連打される太鼓の音と一緒に円から外れていく。

「さあ、石置きの始まりだ。面白いと思うからみんなで見ててくれ」
身体をひねり覗き込むようにしてチィミコはグレートサラマンダーZに話しかけた。
「うん」
平然と返事はするが、モニターいっぱいに映るチィミコの笑顔に戸惑いうぱ太郎は思わずのけぞる。
「チィミコちゃんっていちいち顔近いよねー」
「……可愛い」
「眉毛の手入れぐらいしないのかしら?」
マイクが音を拾わないことをいいことに、うぱ太郎の後ろでは好き勝手に言い放っている。
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