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【気軽に】お題創作総合スレ【気楽に】
0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2010/08/16(月) 22:37:51ID:lcnMwUff
とにかくお題に沿って創作するスレです
絵でも文章でも消化方法はなんでもあり
お題消化は一個ずつでもまとめて複数個でもご自由にどうぞ
消化お題が他人とかぶっても気にしない

※お題ではないリクエストに関しては別スレでどうぞ
0234夏のない年2/3
垢版 |
2011/05/07(土) 18:09:53.44ID:K6oY4bCY
真夜中、男の子は誰かの声を聞いた気がして目を覚ました。
一緒の床で寝ている男の子の家族たちは、熟睡しているようだった。
こうした雑魚寝を、この国の庶民は普通に行っている

そのはずだが、男の子は自分の両親の気配が床の中から消えていることに気づいた。
用を足しにでもいったのだろうかと思ったが、二人同伴でいくのも妙な話だ。

兄弟たちを起こさないように床を抜け出し、男の子は家の外の様子を伺った。
村の中に松明を持った村人たちが歩いていた。
こんな時間に大人たちが一体何をしているのか気にはなったが、
男の子は余計な詮索をする危険を案じて思いとどまり、寝床に戻ろうとした。

そのとき男の子は見た。夜の村の中にいる女の子。
大人たちに腕を掴まれ、どこかに連れて行かれる女の子の姿を。

「何をしてるんだお前!」 「離してくれっ!」
男の子は失敗した。村の外の森で尾行に気づいた彼の父親に捕まってしまった。

「女の子をどこに連れていくんだ!」
ある嫌な予感がしていたが、男の子はそれを口に出すことができなかった。

「あの子は、口減らしされることになった。これは村の決定だ」
聞きたくなかった言葉の宣告。男の子は一瞬気を失いそうになった。

凶作の年の食糧問題に対し、村の大人たちが出した答えは老人と女の子たちの間引きだった。
肉体労働へ従事できない者たちを切り捨て。
大人たちは自分の家族を見捨て、生き延びる選択をしたという信じがたい事実。

「……させねえ。女の子を犠牲になんてさせねえ!」
父親の腕に噛み千切るつもりで喰らい付き、男の子は身体の拘束から抜け出した。
0235夏のない年3/3
垢版 |
2011/05/07(土) 18:10:57.35ID:K6oY4bCY
「女の子!」 「……男くん?」
ついに大切な少女のもとに辿り着いた。
あたりを取り囲んだ大人たちからの不穏な視線を受け流しつつ、男の子は言葉を続ける。

「お前を口減らしになんてさせない。俺が助けてやる、だから……」
「黙れ!」村長が一喝する。
「お前は村の掟に従わず反抗した、これだけでも重罰は免れん。だが、ここで引き返せば
命だけは助けてやる」
「……村長さんそれは無理」 「お前、何言ってやがる!」
動揺して息子を殴りつけようとした父親を、村長は威圧する視線で制止させた。
「今言ったことを、もう一度言うがいい」
「俺は掟に従わない!」
「なら情けはかけん。皆の衆、掟を破った者を制裁せよ!」

男の子は奮戦した。大人相手に全力をもって戦った。
だが、戦闘力の絶対的な差、数の差。子ども一人では覆せない必然、超えられない壁だった。

「男くん……ごめん……ごめんね」
いつもは気丈なはずの女の子が泣いている。
「……俺が好きでやったことだし……気にすんな」
制裁の痛々しい痕で身動きのとれない男の子が応じる。
「……好きだったんだ……お前のこと……」
「……あたしもだよ」
その言葉を聞いたとき、死ぬことへの不安や身体の傷の痛みも忘れるくらい、
男の子は幸せな気分になった。想い人からの愛の言葉はそれだけの効果があった。

男の子と女の子は、身体を縄で結ばれたまま村外れの崖から突き落とされた。
二人は互いを抱きしめ合い、あの世での再会を願い、そして意識を失った。
0236お題 海1/3
垢版 |
2011/05/08(日) 00:34:59.43ID:MKZ7BZ5I
>>7
海の中に浮かぶ島だった。
近くに散らばる島嶼群がちらほら見えるものの、そこまで辿り着くには舟を使うか、直接泳ぐか、
いずれにせよ手間がかかる。

島の中には頑丈な木の柵を要する、海賊たちの砦があった。
その柵を背後に、俺は前方の有様を見てため息をつく。
獲物を追い詰める鮫のような目つきをした海賊たちが、俺に向かって槍や剣を構えていた。
つまり逃げ道がなかった。

「小僧、殴り込みとは舐めた真似してくれたな」
副首領らしい年長の海賊が出てきた。
「おかしら殺って楽に死ねると思うなよ。お前は手足を切った後、鮫の餌になってもらう、
もちろん生きたままでな」
「アンタらの趣味につきあうつもりはねぇよ」
俺は海賊たちに気づかれないよう、おもむろに左手を壁へ押し当てていた。
「崩れろッ!」
言葉とともに、発生した衝撃と大音響が柵を吹き飛ばした。

「て、てめぇ魔法戦士か!」
敵の正体をようやく知った海賊たちに動揺が走る。
この大陸で、魔法という秘匿された技術を使う集団は、一般人の畏怖の対象となっている。
狙い通り、効果はまずまずだ。
「あばよっ」
隙を見逃さず、新しくできた経路から俺は逃げ出した。

砦を出たものの、まだ問題は解決したわけではなかった。
逃げ道の先には絶壁、さらに島を囲む海という天然の障壁がある。
舟を止めてあった入り江とは正反対の方角に来てしまっていた。
「待てやゴルァ、タマとったる!!」
ついに狼狽状態から回復した海賊たちが、追跡を開始したようだ。
もはや、一か八かの行動に出るしかなかった。そうしなければ、砦、海という
二重の檻の突破は成らない……。
無謀は承知で、俺は絶壁からの身投げを選択した。
0237お題 海2/3
垢版 |
2011/05/08(日) 00:35:41.37ID:MKZ7BZ5I
息苦しさは増すばかりだった。
海に飛び込んでから運よく生き残ったものの、身に着けた鎧や荷の重さで俺は水に沈みそうになった。
必死に水中で装備を外して身軽になろうとするが、慌てれば慌てるほど作業ははかどらない。
(こんなところで俺は死ぬのか……)
身体の力が抜け、意識がだんだんと薄れていく。
途切れる瞬間、何かが俺の身体を掴むような感触がした。

  ×  ×  ×

島嶼の間の青い海を健康そうな褐色の肌をした少女が泳いでいた。
磯に上がってきた少女は、ほぼ全裸といっていい格好だった。
身に着けているものといったら、腰を隠している布と魚篭くらいなもので、まだほっそりしている手足と、
成熟していない身体が丸見えだった。
俺は慌てて目を逸らした。
「あっ、旦那〜。起きてたんですか」
磯においてあった上着を身に着けた少女が声をかけてきた。

少女は沿岸に住み、島嶼一帯を漁場としている海女だった。
海女少女の漁村は、海賊たちに貢物を収めることでその襲撃から免れているらしかった。
この国では珍しいことでもなく、日常的に行われていることだった。貴族や領主の中にも、
盗賊と結託する連中がいるくらいなのだから。

「なぜ俺を助けた」
焼けた魚を頬張る海女少女に俺は尋ねた。小屋の炉辺の炎にを映す少女の瞳がこちらを見る。
「旦那はアタシを疑ってるの?」
「打算のない人の親切を信じれるほど俺は純粋じゃないんだ」
少女は笑った。
「安心して、旦那を海賊に突き出したりしないよ。アタシはそこまで落ちぶれてないって」
「お前の本心が聞きたい」
しばしの間の後、海女少女は言った。
「目の前で人が死ぬのを見るのは嫌なんだ。それが、どんな人だとしても」
海女少女には家族がいなかった。疫病で死んだのか、海賊に殺されでもしたのか。
気になったがついに聞くことはできなかった。
0238お題 海3/3
垢版 |
2011/05/08(日) 00:36:16.63ID:MKZ7BZ5I
近くで海女少女の身体の匂いがした。潮の香りと、ほんのりとした汗の芳香。
「旦那、起きてる?」
俺は目を凝らして少女の居るらしき場所を見ようとした。
そのとき、雲間から差し込んだ月の光が室内に差し込んだ。
月光で浮かび上がった昼間見たときと同じ、いや違う。生まれたときと同じ姿、つまり全裸だった。
「……やめときな、俺はそんな価値のある男じゃねぇ」
心の中でもやつくものを感じながらも、俺は寝返りをうった。
「あたし、見ていたんだ。旦那が海賊の砦に乗り込むところ」
少女は告白した。
「だから、旦那の強さも分かる。アタシはそこに惹かれたんだ。だから旦那となら……」
背中に海女少女の気配を感じた俺は、しばらく女を抱いていなかったことを思い出し、
抑えていた欲情に火がつき始めるのを感じた。
「……いいだろう。男として一夜、お前と過ごそう」

互いの身体を互いの手がなぞっていく。
俺と少女は身を重ね激しい情熱をかわし、そして愛し合った。


――日の出前、傍らで幸せそうに眠る少女を残して、俺は小屋を後にした。
0240お題「空」1/3
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2011/05/08(日) 14:04:13.00ID:MKZ7BZ5I
合宿所の北側にあるベッドにはある噂があった。
そのベッドには呪いがかかっているため、年中湿っていて乾燥剤を使ってもすぐ湿気で元に戻ってしまうらしい。
不幸にも寝てしまった人は、決まって恐ろしい出来事に遭遇するという話だった。

わたしの後輩にいた背が小さいけど気の強い娘は、オカルトの類に決まって否定的だった。
合宿所の呪いのベッドの噂も、彼女は誰かが面白半分で広めた作り話と一笑していた。

「後輩ちゃん、本当にそこで寝るの?」
部活動の合宿の最中、自ら呪いのベッドを選んだ後輩をわたしは心配した。
「だって部屋が埋まっちゃったんだから、仕方ないじゃないですか」
間の悪いことに複数の部活の合宿が重なったため、部屋の定員に余裕がなくなってしまったのだ。
「で、でも……」 「じゃあ、二人一緒にねんねしたら?」
部員の一人が言うと部屋にいた全員がどっと笑う。
「もう、からかわないで下さいよ!」
後輩ちゃんは相手の冗談に反応を見せながら、やれやれと肩をおろしている。
わたしは、一緒に寝るのは満更でもないかもと一瞬思った後、慌てて自分の考えを否定した。

――いっそ一緒に寝ておけばよかった。あんなことになるくらいなら。

その夜、わたしは寝苦しさを感じて眠ることができずにいた。昔から外出すると、
こうして寝つけなくなることがよくあった。
わたし以外の全員はとっくに寝てしまい、かすかな寝息が聞こえてくる。
気を紛らわすため、寝返りをうったときだった。

「うぅん……」

呻き声が聞こえた。
しかも、後輩ちゃんの寝ている呪いのベッドの方からだ。
不意にベッドの怪談を思い出して嫌な予感がしたものの、わたしは後輩ちゃんが寝言を言ったのかも
しれないと考えた。

「……ぁあっ」
今度は声だけではなく、布団の中で何かがごそごそ動く音が聞こえた気がした。
わたしは脳裏である種の下品な推測をしたが、すぐに打ち消す。後輩ちゃんの人となりからそんなことは考えられない。
きっと後輩ちゃんは寝相が悪いのだろうと、わたしは思い込もうとした。

後輩ちゃんの呻き声と布団が擦れる音はまだ続いている。
いつまで立っても収まる気配がないことにわたしは不気味さを感じ始めていた。
もしかしたら後輩ちゃんは病気で、真夜中に急性の発作を起こして死にそうになっているのでは。
常識的な理由を思いついたわたしは、ついに起きて後輩ちゃんの寝床を確認しに行った。
0241お題「空」2/3
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2011/05/08(日) 14:04:53.83ID:MKZ7BZ5I
後輩ちゃんはベッドの中で苦しそうに悶え、汗をかいている。
わたしはベッドの脇から垂れ下がった後輩ちゃんの華奢な手を掴み、気持ちを落ち着かせようとした。

――シュル、シュル

そのとき、後輩ちゃんの寝間着の裾から紐のようなものが一瞬覗き、引っ込んでいくのを見た気がした。
わたしは驚いて手を引っ込めた。後輩ちゃんの服の中に何かが入り込んでいる気配を感じた。
直感的に助けなければならないこと悟り、わたしは後輩ちゃんのベッドから布団をはがした。

その下にあった光景を見たとき、思わず正気を失いそうになった。

黒いうどんのような塊がうねうねと動き回っている。
後輩ちゃん小さな身体をびっしりと覆い隠す触手の群体。
「ん……んっ」
ごそごそと服の中をこする音がして、後輩ちゃんの首元からぬるりと触手がのぞく。
触手の先端には目がついていた。
ギョロリとした眼球と視線が合ったとき、わたしは気絶した。

  ×  ×  ×

朝、床の上で目を覚ましたわたしは、みんなからしばらく寝相の悪さをからかわれることになってしまった。

後輩ちゃんは何事もなかったかのように、起きたばかりの部員たちと談笑していた。
直接本人に詮索することは躊躇われるので、わたしは念のため、呪いのベッドを調べてみた。
触手の影も形もなく、ちょっと湿っぽいただのベッドだった。
きっと夢だったのだろう。わたしは自分に言い聞かせ、この一件は忘れることに決めた。


異変に気づいたのは、数週間後のことだった。
最近、後輩ちゃんはめっきり口数が減った。部員が冗談を言っても、ああ、うん、といった感じの
無気力な返事しか返してこない。
一人でぼんやりしていることも多くなった。

「後輩ちゃん、最近どうしたの?」
部活で孤立しつつある後輩ちゃんを心配し、わたしは声をかけた。
「ええと……先輩ですか」
その気だるそうな声に、かつての気丈さは感じられなかった。
「どうしたんだろうあたし……最近、何やってもぼーっとしちゃって」
「気は進まないかもしれないけど、病院に行ってみたら?」
「……はい、でもその前に……しなければならないことがあるんです」
急にわたしを見据えた後輩ちゃんの虚ろな目を見て、わたしはどきりとした。
0242お題「空」3/3
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2011/05/08(日) 14:06:37.25ID:MKZ7BZ5I
「どんなことをするの?」 「……簡単なことです……先輩も協力して下さい」
後輩ちゃんが突然、わたしに抱きついてきた。
咄嗟のことに混乱し身動きとれないわたしに、後輩ちゃんは唇を近づけつつあった。
校舎裏で人目がないとはいえ、なぜか赤面してしまう。
いや、わたしはこうなるのを無意識のうちに期待していたのではないか。
「……後輩ちゃんほんとにいいの?」 「はい」
ぬくもりが感じられる距離まで近づいていた、後輩ちゃんのかわいらしい唇が動く。

――目。

何かの見間違いと思いたかった。有り得るはずがなかった。
後輩ちゃんの口の中から、合宿所のベッドでみた眼球がこちらを見ていた。
急に後輩ちゃんの腕に恐ろしい力がこめられ、強引に口づけされそうになる。
「――やめてっ!」
わたしは思わず後輩ちゃんを突き飛ばしていた。

放心。
あれは夢じゃなかったの、そんな、なんで後輩ちゃんが……。
錯乱しつつ、倒れている後輩ちゃんから離れようとする。

そのとき、後輩ちゃんの身体が跳ね上がった。
ぬるり。
後輩ちゃんの口の中から目玉の触手が這い出てきた。
いや一匹だけじゃない。
鼻からも、耳からも、ありとあらゆる身体の穴から、目玉の触手が次々に飛び出してくる。

もうその場に留まっていられなかった。
命の危険を感じる叫び声を上げて、わたしは逃走した。

  ×  ×  ×

後輩ちゃんは変死体となって校舎裏で発見された。
司法解剖を行ったところ、身体の中の内臓がきれいになくなっていて、
そのまま剥製にできるような状態だったそうだ。
翌日、「空」の死体事件という見出しが新聞に載った。

わたしは精神を病んでしまったが、どうにか学校に通えるまでは回復できた。
でもあの日以来、麺類を食べられるとアレルギーにおそわれるという後遺症が残ってしまった。
0244創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/05/09(月) 11:46:46.36ID:7F/8DXp4
>>243
お読み下さりありがとうございますm(__)m


マイペースだけど、どんどん投下していきます
次は「砂漠の屋台」>>13
0245砂漠の屋台 1/3
垢版 |
2011/05/09(月) 11:47:20.75ID:7F/8DXp4
あるところに一人の偏屈な錬金術師の男がいた。
死んだ親の遺産を浪費しながら研究に没頭する生活を続けるうち、
錬金術師は助手が欲しくなった。
たまたま奴隷市場を訪れたとき、素直そうな女児の奴隷を見つけたので、錬金術師は買い取り
助手として育てることにした。

年月が経ち女児はすくすくと育ち、愛嬌のあるかわいらしい娘になった。
独身だった錬金術師は、次第に助手に対し、異性として意識するようになっていた。
しかし、一方で助手を女として見るのに抵抗も感じていた。助手を実の娘のように育ててきたからだ。
二律背反する感情に、錬金術師は悩んでいた。

――だが彼の葛藤は、意外な形で解決することとなる。


「先生、完全に囲まれています!」
「ぬかったか……まさか本気で攻め込んでくるとはな」
錬金術師は、研究所に向かって踏み込もうとしている兵士たちの姿を苦々しげに睨んだ。

数百年栄華を誇った帝国の庇護の下、学問としての錬金術は発達してきた。
だが今は事情が違う。
寒冷期の到来による農作物の不作、辺境で活発化している亜人種族の侵入、相次ぐ地方反乱により、
衰亡の危機に差し掛かっていた。
政治の混乱に手を焼いた帝国は、それまで寛容だった思想・文化の統制によって政治体制を補強しようとする。
その中心となったのが、帝国国教会だった。
合理性を追求する錬金術師たちは、国教会の神官たちと教義上の解釈をめぐりしばしば対立していた。
それが、今日のような錬金術迫害の原因となっていた。

二人は研究所の地下工房へと逃げ込んだ。機密の高い実験を扱う場所なので、入り口は隠し扉になっており、
簡単に見つけられることはないはずだった。
「わたしたち、これからどうなるんでしょうか……」
動揺している助手を落ち着かせるため、錬金術師は手を握った。
「ここに隠れてやりすごしたら都市を出よう。田舎でひっそり暮らしてれば、連中に見つかることもないさ」
そのとき階段の上で、隠し扉に何かがぶつかる音した。
扉が軋み壊れ始める無慈悲な音。二人は自分たちが追い詰められたことを悟った。
「……まだだ、まだ終わっていない」
錬金術師は怯えている助手を連れて、地下工房の最奥に向かう。
そこには助手に見せるのは初めての練成陣があった。
「先生……この練成陣は?」
「これは研究中だった、合成生物(キメラ)の練成陣だ」
「もしかして、合成生物をつくって、敵をやっつけてもらうんですか?」
「それは無理だ。まだこの陣は完全に解明できていない。そんな状況で練成すれば、下手をしたら僕たちが
食い殺される可能性だってある」
「じゃあ、どうやって」
「僕自身がキメラになるんだ」
錬金術師の真意を聞いた助手は、驚きの表情で沈黙した。
「時間はない練成を始めるぞ」
実験に使うつもりだった蛇の入った籠を、錬金術師は陣上に置く。
「い、いいんですか? もしも先生の身に何かあったら……」
扉の破られる音が聞こえた。
階段を駆け下りる足音が迫ってくる。
「かまうもんか、神官たちに拷問されるよりなら化け物として生きる方を選ぶ」
錬金術師は集中し、陣を発動させる術式を構築する。
生じた光の渦に包まれながら、錬金術師は練成の起動が成功を確信する。
そのとき助手の悲鳴が聞こえた。
彼女は陣の外にいたはずなのに光の渦に巻き込まれているではないか。
練成陣は未完成だったのだ。
「助手ーっ!!!」
叫び声を上げたまま錬金術師は、光の渦へのみこまれた。
0246砂漠の屋台 2/3
垢版 |
2011/05/09(月) 11:48:32.12ID:7F/8DXp4
地下工房に降りてきた侵入者たちは、今しがた奥で錬金術が使われたことを察知していた。
「用心しろよ。見た目はひ弱な連中でも、どんな黒魔術を使うか分からんからな」
国教会に従わない錬金術は、魔の力を根源とする『黒魔術』だと兵士たちは教えられていた。

「隊長、何かがいます!」
危機を知らせた先頭の兵士が、突然、鱗のついた丸太のようなものに一撃をくらって吹き飛ばされる。

――ずるり。

奥で何かが這う音がした。
兵士たちは自分の正気が失われ、血の気が引いていくのを感じていた。

それは、牛馬を軽々と丸呑みしそうな大きさのある双頭の大蛇(アンフィスビーナ)だった。
大蛇の左の頭には人間の男の上半身が、右の頭には女の上半身がついている。
「逃げろ!」
得体の知れない相手に向かっていくほど、兵士たちも馬鹿ではなく、隊長の叫び声と同時に大慌てで退却を始めた。

  ×  ×  ×

「すまない、君には取り返しのつかないことをしてしまった……」
洞窟に響く錬金術師の悔悟の言葉を、助手は黙って聞いていた。
二人は地下工房から出た後、街を脱出し荒野の洞窟に身を落ち着けた。

「いや、ゆるしてはくれないだろう。どんな償いをしても取り返せることじゃない」
「先生、わたし決めていたんです」
ようやく助手が口を開いた。
「先生は奴隷の私を実の家族のように扱ってくださいました。そればかりか読み書きまで教えてくださり、
わたしは多くの知識を得ることができました。そのときから決めたのです、この方に生涯お仕えすると」
錬金術師の手を、少女の白く繊細な手が握る。
「もし先生がお一人で合成生物になられていたとしても、わたしは仕えるのをやめるつもりはありませんでした。
むしろ、こうして先生と一つの身体になれて……感謝しています。だからわたしはこの姿でも先生にお仕え――」
「助手、君はもう奴隷じゃない。だから仕えるのではなく……」
錬金術師は一拍置いて言った。
「僕の伴侶として生きてくれないか?」


双頭の大蛇は、さらに人里から離れた場所を探して南の砂漠にあった遺跡に住み着き、それから数百年の時が流れた。
夫婦の契りを結んだ錬金術師と助手は老いることなく、合成獣になる前と同じ姿のままだった。
合成獣となった二人の生殖機能は失われており、子を成すことができないことが分かって嗚咽する助手を、
錬金術師は懸命になぐさめた。

風の便りで帝国が滅んだことを錬金術師は知った。
帝国領内には地方軍閥や、亜人の王たちが群雄割拠し、あいつぐ戦乱で人口は減少、
文明の知識や技術が失われていく暗黒時代となっているらしかった。

しばらくして、元帝国領に多数の信者を擁していた帝国国教会の干渉により、戦乱は下火になった。
そのことは思わぬ形で、錬金術師たちにも影響を与えることとなる。
二人の住処に、勇者と称して乗り込んでくる人間たちが現れ始めた。
古えの頃より数が減ったとはいえ、辺境開拓の妨げとなる魔物の類いは人間にとって脅威だった。
さらに国教会は、隠れ住む黒魔術師たちの残党狩りに力を注いでいた。
この二つの需要が、魔物退治・黒魔術狩りを生業とする、勇者という職業を誕生させる。

勇者たちの侵入に手を焼いた双頭の大蛇は、住処の遺跡を防御施設として強化することを決意する。
錬金術の知識を総動員して、侵入者を撃退する罠を仕掛けた。
それまではあまり干渉しなかった近辺の魔物たちを従えて徒党を組み、施設の防衛に当たらせた。
近場のオアシスや街道沿いに、宿屋や屋台を設置して情報収集を強化する、『砂漠の屋台』計画も実行した。
堅固な要塞として生まれ変わった遺跡は、幾人もの勇者を撃退することに成功する。
いつしか人間たちは、錬金術師たちのことを、双頭の魔王と呼び恐れるようになっていた。
0247砂漠の屋台 3/3
垢版 |
2011/05/09(月) 11:49:28.20ID:7F/8DXp4
だが、人間の勇者たちは年月が過ぎるごとに強くなっていった。
侵出してきた亜人との交雑がすすみ、身体能力が強化され、血族の秘術を魔術体系に取り込んだ。
一時期衰退していた技術も、帝国の頃の水準まで持ち直した。
各地での魔物や黒魔術狩りでの戦闘経験が蓄積された。

――そして、ついに魔王の王国にも最後の日が訪れる。

要塞が始まって以来の無残な敗北。
いつも先頭に立ち自ら戦う双頭の魔王がたった数人の人間に敗れ、命からがら逃げる羽目になったのだ。
魔王の撤退により前線は崩壊、勇者たちは罠を次々と無効化し、混乱する魔物たちを各個撃破していった。

――ぬるり。
双頭の魔王は、身体を引きずるようにして要塞の脱出通路へと向かっていた。
這った後には流れ出た血の跡がついていた。
「……まるで、あの日のようだな」
息を切らせた錬金術師は、自分たちが化け物になったときを思い出し自嘲した。
大蛇の全身には無数の矢が突き刺さり、数本の槍が腹をつらぬいている。尾の先は無残にも切断されていた。
「……先生、そんなこと言わないで下さい」
以前とは違い助手は怯えていない。だが、その声に気力はなかった。
錬金術師は、自分たちの生命力が失われつつあることを悟っていた。
そして、隠し通路まであと少しというところで、ついに苦みの呻き声を上げた大蛇は、地に倒れ伏してしまった。

錬金術師は数百年のあいだ助手と過ごした日々を思い出していた。
それは錬金術師の人生で、もっとも幸福なときだった。
このまま死んでも悔いはなかった。
「……先生を……死なせません。わたしが……身を捧げます」
「……っ!」
錬金術師は失いかけていた意識を取り戻し、助手の意図を悟った。
元々助手は、不慮の事故で練成されていたため、合成生物としての結びつきが薄かった。
後に錬金術師は、既存の練成陣の応用で助手の融合を解除できる可能性に気づき、研究に打ち込むものの、
結局断念せざるを得なかった。
助手を分離させる練成陣は分かったものの、大蛇から切り離した途端、助手は不老不死を失い死んでしまう
ことが分かったからだ。
「……わたしが分離すれば……その分の生命力が……先生のものになります」
「だめだ、やめるんだ!」
そう錬金術師は言いたかったが、声までは出せなかった。戦いで助手を庇い傷を負いすぎていた。
助手の吐息と唇の感触がした。別れの口づけだった。
「……さようなら」
別れの言葉とともに、助手の構築した練成陣が発動した。

  ×  ×  ×

勇者たちが駆けつけたときには、そこに錬金術師の姿はなく、血の跡も消えていた。
残されていたのは、屍蝋化したまま美しい姿を保った、若い娘のミイラだった。

――その後、錬金術師の姿を見たものはいない。

勇者たちは戦利品として持ち帰ったミイラは、いつしか魔王のミイラと呼ばれるようになり、
今でも神殿に保管されているという。
0248創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/05/09(月) 17:25:37.88ID:pheJ5fAi
逃げ延びたなら間違いなく死者蘇生の術を研究してるんだろうなw
0249創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/05/10(火) 01:29:13.60ID:3X41oYYj
>>248
そしてホムンクルスが誕生して……

>>19お題
「残暑」
「観測史上最高」
「暑さで二か月前に換えたばかりのHDがまたクラッシュして創作環境あぼーんパート2」
投下します

なお(※15禁)相当の描写が入るので、苦手な方はスルー推奨
0250【R15】残暑 1/4
垢版 |
2011/05/10(火) 01:29:50.72ID:3X41oYYj
部屋の中は蒸し暑いサウナと化している。
窓を全開にしているが、そよ風すら入ってこない無風状態。
よりにもよって昨日クーラーが故障してしまったことを、メガネ少女は恨んだ。

「だぁぁぁぁぁっ、あづぃぃぃぃぃぃぃ」
奇声を上げながら机の前でのたうちまわってしまう。
汗まみれになった、Tシャツと下着がべたりとつく感触が気持ち悪かった。
九月に入っても気温は一行に下がる気配がなかった。
今年は観測史上最高の猛暑のせいか、残暑も厳しすぎる。

メガネ少女の前にはコミックスタジオを起動し、異常な音を立ててファンを回すPCがあった。
明後日の連休中に同人即売会への参加をひかえ、少女は漫画を描いている。
だがお世辞にもいいとはいえない製作環境下では、集中力に支障が生じつつあった。
正午も過ぎ、日中で最も気温が上がるときである。
アイスパックや扇風機を用意してみたが、しょせん付け焼刃だった。

そんな風に室温と格闘していたとき、突然PCの挙動がおかしくなり始める。
警告音がならず電源も落ちず、制御不能。そして画面に出るエラーメッセージ。
「……またHDクラッシュ? 勘弁してよぉ!」
悲痛の絶叫。
少女は二ヶ月前に壊れたHDを買い換えたばかりだった。

  ×  ×  ×

「それで俺のPC使わせろと?」
押しかけてきた訪問者から話を聞いて、少年はやれやれといった表情をした。
「だって頼めるの少年君しかいないし……」
シャワーを浴びて外出用の服に着替えたメガネ少女は懇願する。
傍らには何やら物がつめこまれたキャリーケースが置かれていた。
「今度の賞に出す原稿のアシ手伝うからさぁ」
考え込む素振りを見せた少年に、少女はねだる様な声で言う。
悪くない条件だと少年は思った。
「うーん。で、どのくらい使うつもり?」
「最悪、土曜の深夜まで……」
抵抗のある表情になる少年。
「長いな。でも俺、週末バイト入ってるしな……」
「いいよ、わたし一人でなんとかなるって」
「親がゆるすと思ってんのか?」
「うちの親からはOKもらったよ。昔から知ってる少年くんなら安心できるって。少年くんのお母さんは
今から説得する予定」

「ええ、いいんですか? ありがとうございます!」
メガネ少女は話をしてから数秒で少年宅にとまる許可を得た。
「いや、何でそうなるんだよ」
ガッツポーズをとる少女と、笑いながら「うまくやりなさいよ」と肩を叩いてきた母親に、
少年は突っ込みを入れた。
0251【R15】残暑 2/4
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2011/05/10(火) 01:31:26.45ID:3X41oYYj
冷房のきいた部屋。
メモリスティックをさしたPCの前で、メガネ少女は一心不乱に原稿へ向かっている。
下書きは終わっているようだが、ペン入れはあまり進んでいない。
効果線・スクリーントーン、背景の類いは真っ白なままだった。
「おいおい、この調子で間に合うのかよ」
思わず少年はつぶやいた。

「少年君、なんか言った?」
先輩の同僚女性に呼ばれ、少年はわれに返る。
今少年がいるのはファストフード店のカウンターだった。
「す、すみません」
メガネ少女のことを回想していたことは伏せて謝罪する。
「でも、まだ暑いからなんかぼーっとしちゃうよね」
店内から客が消えたためか、同僚女性は世間話を始めた。
「ええ、昼間のうちは遊びに出歩くのもためらっちゃいますよ」
「遊びに行くってもしかして彼女と?」
めざとい詮索。同僚女性とはそういうプライベートな話題もかわす仲だった。
「彼女……っていうか、幼なじみってやつですけど」
「へぇ、まだそこまでってわけじゃないんだ」
半分は嘘だった。
自分の中で、少女へ恋愛の意識が芽生えつつあることを、少年は感じとってた。
だから数日部屋をかすなどという、無茶な頼みも聞き入れてみせた。
今の片思いの状態を脱して、少女に好かれたかった。

同僚女性と雑談を終えてから、少年は再び幼なじみのことを考えていた。
どう考えてもあの量を一人でこなすのは無理がある。ラノベ作家が一日で20DP書くくらい無茶である。
だが、もしも自分が協力すれば。
アシスタントになって、トーンを貼ったり背景を書けば。
――無理も可能になる。

(くそっ、仕事に集中できねぇ!)
少年は心の中で毒づいた。
義務と感情の間での板ばさみ。
葛藤は長時間にわたって続いたが、最後に勝ったのは感情だった。
客入りが少ないのを見越して少年は言った。
「同僚さんお願いです。俺を早退させてくれませんか? それと、明日のシフトを何とか替わって下さい。
どうしても休まなきゃいけない用事ができました」


「結局バイト早引きしてきちゃったわけ?」
無謀な行動にメガネ少女は呆れ返ったようだった。
「同僚の人にはいつもシフトの肩代わりをしあげてたのさ。それがこういうときに生きてくる」
トレス台の上で、少年は写真から線を抜き出している。
「ふぅん」
少女はすぐ興味を原稿のペン入れに戻した。
ペンタブレットをなぞる音と、鉛筆の作業する音だけが、部屋の中に響き続ける。
気がつくと日は沈んでいた。描く。母親のつくった夕飯を食べた。描く。風呂に入った。描く。深夜になった。描く。
ドリンク剤を飲んだ。描く。空が白んできた。描く。明るくなって街中で人の動く気配がし出した。描く。
気がつくとうたた寝していた。描く。描く。描く……。
0252【R15】残暑 3/4
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2011/05/10(火) 01:32:08.26ID:3X41oYYj
少年が目を覚ましたとき、メガネ少女は爆睡していた。
原稿はどうにか土曜の朝にはできあがった。あとはコピーして製本するだけ。
なので、少年たちは昼の間久々の快眠をとっていた。

メガネ少女のTシャツはめくれており、ヘソ出し状態のまま床で横になっていた。
その光景を見た少年の頭で何かが弾ける。
陶器のようにきれいな白い腹部には、男にない艶やかさが感じられた。
幼い頃の海水浴で、一緒に着替えをしたときを思い出す。少女の肌はあのときと同じままだった。

(いかん、何を考えとるんだ俺は)
少年は自分に湧き上がってきた欲情を必死に打ち消す。
このまま露出した腹部をみていると邪な気持ちがわいてきてしょうがないので、メガネ少女の着衣を正そうとしたとき、
徹夜の疲れのせいか足元がふらつき転んでしまう。
鼻先と唇に柔らかい感触が伝わり、自分の置かれた状況を把握し、硬直する。
顔面が少女の腹に密着していた。
少年は目を覚まさないでくれと懇願した。
「……なに……しているの?」
だが祈りは通じず、少女は目を覚ましてしまった。

万事休すだった。
(わざとじゃない、って言っても絶対信じてくれないだろうな……)
こうなったらノリでいくしかないと少年は覚悟を決めた。
「……きれいだったんだ。俺、少女のことを……好きになっちまってた」
しっかりとメガネ少女の目を見る。だが、そこからは怯えが感じられた。
「こうして一緒の部屋に一日中いて、自分の気持ちを抑えなきゃいけなくて、頭がおかしくなりそうだった。
だから起きたとき、子どものときしたみたいに少女の匂いをかいでみたい、そう思ったんだ……」
言ってることは変態そのものだよな、と少年は内心突っ込みを入れた。
告白するにしたってもっとまともなやり方があったはずだった。
恥ずかしさと、怖さで目を背けそうになったが、少年は思いとどまった。
「俺を嫌っても構わない。少女がもう近づくなって言うなら、俺は二度と近づかない。約束する」
「……馬鹿」
ようやく言葉を少女が発した。
「いつもわたしの我侭を聞いてくれる少年くんに、そんなこと言うわけないじゃん。そこまで恩知らずじゃないよ」
ペンだこのできた少女の細い手が、少年の手を握った。
「……だから、わたしにも我侭言ってみて」
0253【R15】残暑 4/4
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2011/05/10(火) 01:32:44.28ID:3X41oYYj
メガネ少女のヘソに舌が触れたとき、熱い体温と塩辛い汗の味がした。
「んんっ!」
華奢な身体がびくりと動く。
「ごめん、くすぐったかった?」
相手の服をめくりながら重なり合っていた少年は、様子を案じて中断する。
「なんか慣れないなあ、他人からさらわれるの」
子どもの頃から少女はくすぐったがりだった。
「でも続けて。少年くんとなら克服できそう」
「わかった」と呟き、少年はペッティングを再開した。

身体の触れ合いっこという範囲なら、幼いころのメガネ少女と既に何回かあった。
ままごとごっこのとき演技が白熱しすぎた少年は、メガネ少女に対して実の母親のように甘えてしまった。
あのときは、男と女という意識も、家族と友人という概念の違いもよく把握できていなかったが……。

最初のうちは少年が愛撫する側だったが、しばらくしてメガネ少女も相手への愛撫を始めた。
互いに服の中に手を入れてまさぐり合い、肌の感触を確かめる。
全裸になったりはしない。今回は純潔の証を奪わないのが二人の約束だった。
下着の内側を探ろうとしたとき、少女は躊躇する表情を見せた。
いつもだったら遠慮して手を引いただろうが、今の少年は本能に支配されていた。

――その日少年は、初めて少女の大事な部分の感触を知った。


汗と体液がまみれた身体をシャワーのお湯が洗い流していく。
まるで体育で激しい運動をしたあとのように疲れていた。
少年は全裸の肉体を見つめながら、少女の手が触れた感触を思い出し、興奮し、
そしてハッとした。
浴室で独りになり冷静さを取り戻しつつあった少年は、そのとき自分の行動に漠然とした不安を感じ始めていた。

大切な友人という関係を、肉体関係の恋人へと変化させたこと、これは正しかったのだろうか。
一時期の情欲に流されて、取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
そして、メガネ少女は本心では肉体関係を望んでいなかったのではなかったのだろうか。

これからメガネ少女を見るたび、性行為のことを思い出してしまうだろう。
その度、自分は獣のように興奮し、雌として少女を見るだろう。

身体に痕は残さず楽しむ、思春期の火遊びのようなものと最初は思っていた。
だが純粋な友人としてのメガネ少女は、もうこの世界にはいない。
永遠に失われてしまったのだ。
0254創る名無しに見る名無し
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2011/05/10(火) 18:04:29.19ID:mKzL01Ts
やたら言葉がストレートでワロタ
ペッ(ryてwww
めがね少女舐めたいよめがね少女、眼鏡のつるの部分とか
0255創る名無しに見る名無し
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2011/05/12(木) 18:02:14.19ID:86vslmZN
>>254
うん、言い回しがあからさますぎたね(´・ω・`)


>>21
「潜水型神話」
「世界巨人型神話」
「宇宙卵型神話」
投下します
0256お題 宇宙卵型神話1/4
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2011/05/12(木) 18:03:01.03ID:86vslmZN
老人が植民団へ参加してから、すでに地球単位で数十年の月日が経っていた。

新しい土地は故郷に比べれて寒冷だったが、土地の広さでは勝っていた。
妻や仲間たちとともに、危険な野生生物を駆除し、荒地を開墾し、作物を育て、機械設備を建設した。
今では子や孫ができ、他星にまで取引先は広がった。
たとえ老人が死んだとしても、息子がしっかり後をついでくれるだろう。
自分が一生かけて築き上げた農場を、老人は満足そうに見渡していた。
老人が空の異変に気づいたのは、そのようなときだった。

最初、地平線の隅にあった黒雲が急速に広がり始め、あっという間に空の半分を覆い尽くした。
灰色の雨雲といった類いではなく、工場の煙突から出る黒煙のような雲だった。
「親父、なんだあの雲?」
空の異様さに気づいた家族たちが老人の元に集まってくる。
老人の頭の中では警鐘がなった。
「念のためだ。みんな作業をやめて家に避難しろ」
そのとき黒雲が空全体を埋め尽くす。
辺りに、くもりの夜のような闇の空間が出現する。
「……おじいちゃん、あたしたちどうなるの?」
「ほら、家までもう少しだから安心するんだよ」
怯えている孫の幼女を抱き上げ、老人は暗い道を手探りで進んだ。
そのとき、平野の向こうから何かが近づいてくる気配がした。
「急げ!」
暗闇でも構わず、老人は急いで家までたどり着こうとした。
だがあと一歩というところで転んでしまう。
とっさに孫を庇うようにして地面に伏せ、老人は気配の正体を確かめようとした。

気配が間近に迫ったとき老人は見た。
それは平地を飲み込みながら押し寄せてくる、津波のような黒雲の塊だった。

  ×  ×  ×

人類が宇宙に進出してから数世紀が過ぎた、スペオペ暦253.5.11。

宇宙探査船ソウハツ号は、新しい恒星系で発見した奇妙な小惑星を調査していた。
小惑星が変わっているのはその形。
デコボコしたジャガイモのようなものではなく、完全な球体の形をしていることだ。
しかも地殻は珪素でなく、発見されていない未知の物質で構成されていた。

そろそろ惑星上に簡易上陸基地をつくろうかと、ソウハツ号の艦長が考えていたとき、
地球連邦の司令部から緊急通信が入った。

内容は、近くにあるオダイ星系の植民地が、原因不明の災害で全滅したというものだった。
連邦政府はいまだ被害の実態を把握できずにいた。
共同体が丸ごと消滅してしまったため、組織的な情報伝達がまったく機能していないらしい。
調査任務は最低限にとどめ、すぐ現地の救助へ向かうよう艦長は指示を受けた。
0257お題 宇宙卵型神話2/4
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2011/05/12(木) 18:03:45.67ID:86vslmZN
「艦長! 探査機が……小惑星上の生命反応を探知しました」
そのとき、オペレーターが驚愕の表情のままスクリーンに釘付けになった。
惑星上に送り込んだ自走型探査機のカメラが、人のような形をしたものを映し出している。
「なんだあれは?」
「ライブラリに該当データなし。未知の生命体です」
「馬鹿な、あの小惑星には大気がないんだぞ……」
なぜ生命体が生存できるのか、艦長は理解できなかった。

『――あなたたちは何をしにきたの? ボクをどうするつもりなの?』
そのとき、頭の中で子どもの声がした。
艦長は、生命体がテレパシーを用いて接触してきたのだと判断する。
「我々は調査をしに来ただけだ。君と敵対するつもりはない」
『――ほんとう?』
「本当だ。もし君が、我々の調査を望まないと言うなら、黙ってこの宙域から立ち去ろう」
『――待って、それはダメ!』
いきなり子どもの口調に必死さが混じった。
『――ボクのおねがいを聞いて。でないと、ボク死んじゃう』
「どういうことだ?」
『――星の海のむこうで、黒い悪魔がボクのことねらってるんだ。このままじゃ悪魔に食べられちゃうよ』
「黒い悪魔とは一体何だ?」
『――悪魔は悪魔だよ。とにかくボクの言うとおりにして。じゃないと君たちも食べられちゃうよ』
「分かった、我々も注意しよう。ところで、お願いとは一体何かね?」
悪魔とは、何らかの危険な宇宙生物のことらしいと推測した艦長は、もう一つの質問に移った。
『――それは、とってきてもらいたいものがあるんだ』

  ×  ×  ×

謎の生命体『スフィア(球体)』――便宜上そう呼ぶことになった――が要求したものは、
近くの惑星から数トンの土壌を運ぶことだった。
「しかし、そんなもん何に使うんだ?」
「さあね」
派遣された採集班のメンバーたちも、スフィアの意図が理解できなかった。
艦長もいろいろ質問したらしいが、とくに要領のある答えが得られなかったそうだ。
心理学者は、生命体の精神年齢が幼児と同レベルだという結論を下した。
だが、土壌の採取自体とくに難題というわけでもないため、採取班が派遣され今に至る。

惑星での仕事はすぐ終わり、採集班たちが帰還しようとした矢先のことだった。
「班長、センサーが惑星に接近する存在をとらえました」
オペレーターの発言が、船内に緊張感をもたらす。
「宇宙船か?」
「いえ、もっと巨大なものです。分析によるとガス雲状のかたまりかと思われます」
「ガス雲がなぜこんな場所に出現する?」
「分かりません。ガス雲の進路を予測すると、船は確実にのみ込まれてしまいます」
星間ガスは未知の物質の塊だ。
エネルギーシールドを装備している本船ならまだしも、小型船が接触したらひとたまりもない。
「ただちに発進しろ。速度は最大で」 「了解」
0258お題 宇宙卵型神話3/4
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2011/05/12(木) 18:04:24.16ID:86vslmZN
  ×  ×  ×

『――悪魔だ! 悪魔が来たよ!』
スフィアが騒ぎ始めのは、小型船からの緊急連絡が入ったときとほぼ同じだった。
「悪魔とはあの星間ガスのことなのか?」
緊迫した声で尋ねる艦長。
『――うん、あいつはボクを食べようとしてるんだ。このままじゃ、出かけた人もみんな食べられちゃうよ!』
「艦長、急いで採取班を救出に向かいましょう」
副官の進言を聞き、艦長は探査船を発進させた。

スクリーンに映し出されたガス雲は、オリオン座の暗黒星雲のように漆黒だった。
「生体反応を感知しました。どうやらガス雲状の生命体のようです」
「なるほど、あの大きさなら小惑星ごと丸呑みしてしまうはずだ」
探査船には、既に戦闘態勢がしかれている。
ガス雲生命体は、圧倒的な速度で採集班の小型船に迫りつつあった。
「こちら採集班、このままでは追いつかれます。支援攻撃を要請します」
「わかった。宇宙魚雷発射」
探査船の発射管から、核兵器の数倍の威力を持つ反物質魚雷が数発発射される。
狙いを違うべくもなく、ガス雲にすべて命中する魚雷。
「……なぜ爆発しない」
反物質による爆発が発生しないことに艦長は疑念を抱く。
「いえ魚雷は爆発しています。しかし、その爆発エネルギーが一瞬のうちに吸収されてしまったので、
何も起きていないように見えただけです。ガス雲生命体に魚雷攻撃は通用しません」
「ならば反物質砲掃射」
探査船の搭載兵器で最大の火力をほこる反物質兵器が発射される。
宇宙空間を貫くエネルギーの帯。
さすがに効き目があったようで、ガス雲は速度を落とし静止した。
小型船の収容は無事成功したが、その間ガス雲は再び進行速度を上げつつ探査船に迫ってきた。
再び発射される反物質砲。
「ガス雲の速度が落ちません」
「なんだと?」
「反物質砲に耐性をつけたようです。このままの速度では、いずれ本艦に追いつきます」
兵器をすべて無効化され、手づまりの状態になった艦長は歯噛みした。

『――待って、まだあきらめないで』
小惑星の近くまで逃げてきたとき、再びスフィアが接触してきた。
『――ボクに星の土をおくれ。そうすれば君たちをたすけてあげられる』
「本当か、一体どうやって?」
藁にもすがる思いで艦長は尋ねる。
『――君たちの持ってきた土をとりこめば、ボクの卵がかえる。そうしたら、あの黒い悪魔なんて敵じゃない』
スフィアの言う卵とは一体何なのか、艦長は見当がつかない。
だが一か八か、その申し出にのるしか選択は残されていない状況。
艦長は即決した。
「出力最大で反物質砲掃射。本艦の動力が落ちてもかまわん。宇宙魚雷もありったけ発射しろ」
なりふり構わない捨て身の総攻撃。
再びガス雲生命体を静止させるのに成功する。
それと同時に、採集班から受け取った土壌入りのコンテナを、スフィア運ぶ指示を下していた。
「さて、スフィアから援護がくるのが先か、ガス雲生命体が動くのが先か……」
静止した探査船の中で艦長はつぶやいた。
0259お題 宇宙卵型神話4/4
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2011/05/12(木) 18:05:02.19ID:86vslmZN
だが、望みに反して先に動いたのはガス雲生命体の方だった。
「艦長、ガス雲生命体が本艦に侵食を始めました」
「乗組員の避難はすすんでいるか?」
念のために事前に下しておいた、脱出ポッドによる避難の進行状況を確認する。
「船内で数名犠牲者がでているもようですが、乗組員の脱出は50%完了しました」
「そうか、ならばそろそろ君も避難したまえ」
「……艦長、その指示には従えません。最後までお供させていただきます」
「そうか、すまんな……」
艦橋を黒いガスがのみこんだのはそれから数分後のことだった。

  ×  ×  ×

『――ごめんなさい、ボクのせいでなかまをしなせてしまった』
ガス雲にのみこまれるソウハツ号の最後を見て、失意に沈む船員たちに、スフィアの声が聞こえた。
『――艦長はボクに君たちのことをたのんでいた。だから、ボクが君たちをまもる』
そのとき船員たちは、球体小惑星に異変が生じたのに気づいた。
地殻の表面にヒビが生じ、まるで卵の殻のように割れていく。
殻がやぶれた内側から、超新星のような閃光が発生し、船員たちの目をくらました。
しばらくして視力が回復した船員たちが見たものは、黒色ではなく、海のような青色のガス雲だった。
黒いガス雲に迫る、青いガス雲。
みるみるうちに黒いガス雲は侵食され、溶けるようにして消えていき、完全に無くなった。
あまりにも唐突なできごとに、船員一同は言葉を失っている。
しばらくして、青いガス雲は急に収縮し出した。
周囲に散らばっていた地殻がその中心に集まり出す。
圧縮された中心には固体のようなものが生じ、巨大化を始めた。
数時間後、脱出ポッドの前には、一つの地球型惑星が誕生していた。

ガス雲から生じた惑星は海と土ばかりだったが、気候は人類の生息に適していたため、
ポッドで着陸した船員たちは、救助隊がくるまで非常食でしのぎながら、何とか生き延びることができた。


この出来事により惑星卵型生命体の存在が確認され、人類の宇宙学に新しい進歩をもたらすこととなる。
0261創る名無しに見る名無し
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2011/05/17(火) 13:49:53.36ID:TbtLCQW7
「おい、おかしらが呼んでるぞ」
突然の伝言に、ザンバラ髪の男は緊張した。
「おかしらが? 一体どんな用件なんだ?」
「それは、おかしらから直接聞いてくれ。黙って俺についてこい」
疑念はあったが拒むわけにもいかず伝言役の指示に従う。
山奥に一つの村を丸ごと移したかのような居住地があり、老若男女を問わず多数の住人が暮らしている。
普通の村と違うのは、周囲の地形を利用した柵や堀といった防御設備があることだった。
その山砦の奥に築かれた郭を、ザンバラ男は訪れた。
「ようザンバラ。今日は折り入って話がある」
手下の訪問に気づき、山賊のかしらは気さくに微笑みかけてきた。だが、仁王像のようなその眼は、ザンバラ男を推し量るようにじっと見据えている。
「なんなりとお申し付け下さい」
頭を垂れて恭順の意を見せる。組織の掟に従う以外の選択肢は存在しない。
「お前の実家が菓子屋ってのは本当か?」
想定していなかった質問をされ、ザンバラ男は面食らった。
「……へぇ、たしかに実家は菓子屋でした。ガキの頃から饅頭やら団子やらをつくらされたもんです」
山賊になって以来、他人と菓子の話をしたのはこれが初めてだった。
一度、仲間に食べさせる菓子を作ろうかとも考えたが、町と違い器具や材料の調達が思うように行かず断念していた。
「ザンバラ、峠に茶屋をひらけ」
かしらの返答に、一瞬思考が停止する。
「……茶屋ですか?」
「そうだ、金はこちらで用意してやる。茶屋の運営はお前の好きにやっていい。給仕として砦から女を一人回してやろう」
「ですがおかしら、何だってわざわざ茶屋をつくるんで?」
不可解な命令に戸惑ったザンバラは、相手の意図を尋ねた。
「勘違いするな、別に道楽でやらせるわけじゃねぇ。最近、ここら辺の大名や土豪の動きがあわただしくなってきた。いずれ戦が起こるのは間違いねぇ。そのとき俺は一旗上げるつもりよ」
そのとき、ザンバラはかしらの野心を悟った。田舎の山賊で満足せず、さらに上を目指そうというのだ。
「だからお前には、街道で茶屋をやる傍ら遠国の情報も集めてもらう。茶屋は俺の計画の根幹、これなくしては俺の目的は達成できん。それを肝に命じてあたれ」
「承知しましたおかしら」
出自が菓子屋という身分が思いもよらぬ展開をもたらしたことに、ザンバラ男は驚き嬉しさを感じていた。
0263創る名無しに見る名無し
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2011/05/18(水) 13:06:36.53ID:7BDJw8Dq
気まぐれで人里に下りてきたムササビが、人間に飼育されているモモンガと出会った。

「情けない奴、人間なんぞに飼いならされおって」
ムササビはモモンガを見下しながら言った。

「ワシらが歳を経ると野衾と呼ばれ、人間たちが恐れる妖怪となる。だがお前たちは種族の誇りを失い、人間に媚を売っている。親類として恥ずかしいことよ」

それにモモンガが答えて言うには、
「貴方こそ、鳥獣保護法という人間の法律に守られているのに、よくそんなことが言えますね」

煩わしく理想論を押しつけてくる輩に、この話は適用できる。
0264創る名無しに見る名無し
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2011/05/23(月) 00:24:00.19ID:dVdIPWLj
ああもう今何かつかめそうだったのに
0267創る名無しに見る名無し
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2011/06/14(火) 15:53:10.59ID:UZeeMaKT
久々に「文才無いのに小説書く」スレに行こうとしたら見つけられなかった。
ここでいいのかな
0269創る名無しに見る名無し
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2011/06/14(火) 16:25:04.19ID:UZeeMaKT
文才で検索かけたらでてくるのに、なんもひっかからんかった

たまにクオリティの高い文学作品書く奴がいて、好きだったのに
0270創る名無しに見る名無し
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2011/06/14(火) 16:30:08.81ID:UZeeMaKT
IDがうぜー
0271梅雨
垢版 |
2011/06/15(水) 23:40:29.14ID:tMagMRzq
梅雨がカラリとしていた。

じめじめどんよりずぶずぶした梅雨があったかと思えば、そんなこともあったね、とまぁ、カラリとした態度だ。
梅雨の奴は意外と素直なのかも知れない。
じめじめどんよりずぶずぶした梅雨の頃に散々、梅雨は嫌だ、と呟いたのが聞こえていたのかもしれない。

悪いことをしただろうか?
悪気はなかったのだが、嫌悪が勝ったのだから仕方あるまい。
しかし水不足にでもなっては困る。
私は梅雨に謝ることにした。

梅雨に謝ることにはしたが梅雨とは何処にいるのだろう。
今いるのは確かだけども何処にいるのかわからない。
いや、此処にもいるには違いないのだけど、はたして誰なのかどれなのかがわからない。
まずは神社に出向いた。
赤い潜りが鳥居なのに、室内の戸のレイルが鴨居なのは何故だろう。
鴨の方が屋外が似合いそうだけど、鳥のほうが括りが広いから、合っているといえばあっているのか。
鳥居は潜らず、石段の横に咲いたアジサイを探る。まさぐる。
いた。梅雨だ。
梅雨を代表するお方、蝸牛だ。
蝸牛はカラリに飽きてアジサイの木陰でひっそりしていた。
私は蝸牛にお水を掛けた。家から持ってきたやわこいキャベツを横に置いた。
「梅雨もいいものですね」
私はそっぽをむき、いかにも独り言です、という様相を演出して、そう呟いた。
私はアジサイを見た。
そうだ、彼女達アジサイも、梅雨に違いない。
水を掛けてあげた。
「梅雨はいい。梅雨はいいねぇ」
私は聞かせるように呟いて、神社をあとにした。

午後には少しだけ夕立が降った。

終わり
0272創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/06/15(水) 23:52:07.92ID:lTWUWzNz
ちょっと意味がわかりづらいな
特に二文目は、文法的にどこかおかしい気がする
0273創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/06/23(木) 17:33:12.83ID:IXuDB80k
>>271
おとぎ話っぽくて良いと思ったな

たしかに文法というか、細かい言い回しが気になるかも。けど、それは簡単に直せると思う
こういう、なんつーかな、雰囲気で読ませる感じ? すごく良いと思った

また書いてくださいな!
0278梅雨2
垢版 |
2011/06/26(日) 16:01:59.98ID:pzaNOCNj
私は梅雨だ。
つい先だって梅雨になり、このまま梅雨であり続け、七月あたりには梅雨の役目を終えるだろう。

役目を無事に終えると、ウジガミさまがジンツウリキを分けてくださる。
私は是非にジンツウリキでもって叶えたい夢がある。
しかしながら、私のようなのんびり屋は、いくら梅雨を任されても、せかせか動くことは出来ない。
生来の鈍間に抗えぬのだ。

梅雨の任期においては、アマツマガミカミの御加護を受け何度でも黄泉還りが利くと言うが、私はなんとしてもジンツウリキがほしかった。
死んでいる間に梅雨が晴れ、生き返るまでに七月になっては、ウジガミさまに申し訳がたたない。
私は大事を取って、紫紺の花が咲く木陰に隠れた。
家の口に糊を垂らし、障子を貼った。
私は梅雨を篭城して過ごす事に決めた。

私の篭城は不意の雨によって破られた。
ざあざあと水が流れ、家の口の障子がずぶずぶに解けた。
やくやく外に這い出てみると、女が私の家に水を浴びせていた。
女はこんなことを言う。

「梅雨も良いものですね」

当たり前だ、私の御役目が悪いものであるはずがあるか。
しかし、私は気がついた。
梅雨がカラリとしているではないか。
どういうことだ。
私は更に気がついた。
私が、梅雨を私の家の中に、閉じ込めてしまっていたのだ。
ありがとう、ヒトの女、私は梅雨を閉じたまま七月を迎えるところだった。
女は私の側にやわらかな葉を置き、紫紺の花に水をかけ、どこかへ行ってしまった。

その日夕立が降った。
私は梅雨を勤め、ジンツウリキをもらった。
念願のジンツウリキで、私はカタツムリを辞め、キセルガイに生まれ変わった。
0280創る名無しに見る名無し
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2011/06/28(火) 01:09:24.51ID:CrtqPiBi
最近は雰囲気童話みたいな話にレス貰えなくなってきたなぁ
方向性変えるか
誰かお題ちょうだいな
0282HANA子  ◆zvLTXEoOaA
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2011/06/28(火) 23:14:12.18ID:3V7oVWMn
「わたしは梅雨の空は嫌い」
女はそう言った。
「俺は好きだな」
男は反論した。
海を臨むテラスから外を覗く、二人。
もうじき空はどこまでも透き通る夏の顔を見せるだろう。
だが今はまだ夏ではない。空は夏の手前で足踏みをしていて、灰色の俯き顔を見せている。
雨は止まないでいた。
「雨の匂いが好きだな。雨粒に撃たれるままにするのもいい」
「雨粒なら撃たれても死なないものね」
茶化すように女は笑う。
フンと男はそっぽを向いた。
「ロマンティックってヤツさ」
「貴方にロマンティックなんてのがわかるの?」
ケタケタと女は心から愉快そうに笑い声を上げた。
少し憮然とした顔で、でもさもあらんといった顔で男も少し笑った。
「昔そんな映画があったろう?」
「雨に唄えば、でしょ」
そんなタイトルだったかなと言い、男はソファから立ち上がる。
女はテラスの側から離れないでいて、相変わらず降りしきる雨空を見つめ続けている。
「I'm singin' in the rain Just singin' in the rain……」
「What a glorious feelin' I'm happy again」
男が歌い始めのフレーズを口ずさむ。
それに続いて女はその続きのフレーズを口ずさんだ。
「雨に唄おう、雨に唄えば……」
「素敵な気持ちに、幸せな気持ちになれるんだ……」
でもやっぱり梅雨の空は嫌いよ、と言って女は仇でも見るかのように雨空を睨み続ける。
男はどうしてさ、と聞き返す。
その視線もずっと変わらず女を捉えたままだ。
「わたしは晴れている空の方が好き。日本の6月は嫌いよ……地中海の6月はずっときれいなお天気が続くのよ」
「向こうの6月か……確か一年でいちばん天気の良い日が続く月なんだよな」
「そうよ、わたしはあっちの6月が一番好き。お天気が続くし、復活祭もあるし、それに……」
「ジューンブライドの6月でもあるし、な」
女の視線が初めて男を向いた。
「6月、june、ジュノー……結婚を守護する女神の月、か。6月に結婚する女は祝福されるんだってな」
男の言葉に女の言葉は返らない。
「なぜあの男なんだ、なんてのは聞くだけ野暮ってものか。なぁ、組織を裏切って本気で幸せになれると思ったのか?」
「…………」
「答えてはくれないのか」
「答えても貴方にはわからないでしょう?」
また女が笑った。
「だって、貴方にロマンティックなんて言葉の意味──わかりそうにはないもの」
男は、笑わなかった。
雨は止まない。
そして乾いた銃声が灰色の空の下で、雨音の中に、消えた。



「お掃除ごくろうさま」
狐顔の組織の女は興味深そうに男の顔を覗き込んだ。覗き込んで首を傾げ、そして窓の外へと視線を向けた。
「雨、止まないネェ……いいかげん嫌になるネェ」
「そうだ、な」
報告という要件が済んだ男は部屋を出ようとする。不意にその男の背中に組織の女が声をかけた。
「あんた、雨は好きかい?」
相変わらず降りしきる雨、灰色の空が一瞬、男は一瞥して踵を返す。
振り返らないまま、男は答えた。
「俺は、梅雨の空なんて嫌いさ……」
言葉はそれだけで、雨は飽きもせず降り続いている。
夏はまだ遠い。
0284創る名無しに見る名無し
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2011/06/29(水) 10:34:40.42ID:RAFJXYE6
後味悪い話だな
0289なんの変哲もない一コマ
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2011/08/12(金) 06:45:16.75ID:jOHIcylg
 目を開くと、いつもの天井。
いつものベッドから起き上がり、いつもの洗面所で顔を洗う。
我ながら変化のない日々を送っている。
きっとこの後はスーツを着て、いつもの電車に揺られ、いつもの仕事をして、いつも通りの生活を送るのだろう。
少し物憂げに感じるが、生活を維持するためには仕方がない。

 私はうんざりしながら家を出た。
ふと、道の脇に女性が立っているのに気づく。
隣の部屋の女子大生だった。
立ち尽くしている彼女に、私は思わず声をかけていた。
「やぁ、おはよう」
「あ、おはようございます」
落としていた視線を上げ、挨拶を返してくれた。
「何を見ていたんだい?」
「お花が……」
彼女の足下に視線を落とすと、電柱の陰に花が咲いていた。
「へぇ、綺麗ですね」
「ええ、とっても」
たったそれだけの会話だったが、うんざりした気分は吹き飛んでいた。
私は再び挨拶を交わし、駅に向かって歩いていった。

 上司に残業を押し付けられ、やや遅くなってしまった帰り道。
家の近くまで来て、それに気づく。
今朝、挨拶を交わした女子大生だ。
彼女は今朝と同じ場所で、同じ花を見つめていた。
「やぁ、こんばんは」
「あら、今朝も会いましたね」
「その花、気に入ってもらえましたか?」
「はい、とても気に入りました」
「それは良かった」
短い会話の後、私は満足して家に入っていった。

 翌日。
昨日と同じように家を出る。
違うのは、彼女の姿がないことだけ。
傷だらけの電柱の陰には、広口ビンに生けられた花が咲いていた。
0291創る名無しに見る名無し
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2011/08/20(土) 05:04:29.44ID:u7TB4UP1
してもいい? なんて言葉は使わないんだ。

しました! なら使ってもいいッ!
0292創る名無しに見る名無し
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2011/08/22(月) 10:22:15.24ID:8reKzDg8
その花気に入ってもらえましたか、だと相手にあげた花みたいになってちょっと変かな。
0293創る名無しに見る名無し
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2011/08/22(月) 12:16:59.39ID:kLW/5qnt
>>290
なんという奇特な
好きにしちゃってかまいませんぜ

>>292
彼女=交通事故で亡くなってるという設定です(最後の行で暗示)
だから花は彼が…というわけで、そのセリフですね。何気ない日常に見える非日常というのが裏テーマです
やっぱ力不足だなぁ…
0294創る名無しに見る名無し
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2011/08/26(金) 23:00:10.95ID:sA7G3oE2
だれかお題くれ
0296創る名無しに見る名無し
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2011/08/27(土) 03:42:07.53ID:cqELkH5D
了解。その記事はもう見ちゃってる。
あと酔いすぎた。明日かあさってに書く。
0297創る名無しに見る名無し
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2011/08/27(土) 05:54:19.45ID:goTkQCLl
「向かいのマンションの女が双眼鏡でこっち見てるっぽいんだが」

俺は、下半身を露出してその女を見ながら、思い切りオナニーしてみた。
女はそれでも微動だにせず、監視を続けている。
だが、それでいい。
ということはあの女刑事は、俺を容疑者と思い込んでいるわけだな。
俺の射精の瞬間をじっくり味わうのもいいが、
いい加減俺が真犯人の影武者だってことに気づけよ。
0299296 ◆1Zl.BYGSMk
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2011/08/28(日) 05:21:09.80ID:uiIJtZDC
やっと書けた。


推敲と分割貼り付けやるだけの体力残ってないので
昼過ぎに投下する
0300 ◆qUTDQkoRHmdu
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2011/08/28(日) 14:03:46.12ID:uiIJtZDC
お題
「向かいのマンションの女が双眼鏡でこっち見てるっぽいんだが」


 ネットゲームで知り合った女と会ってからわずか二ヶ月。
女が俺のマンションの向かいにある集合住宅から俺の部屋を
双眼鏡でのぞいている。

二ヶ月前
「柏木さんっておっしゃるんですね」
 針金のように痩せた女がスープを銀のスプーンですくって
口に運んだ。細く脂っ気のない喉が動いているのを見ると
なぜだかにわとりの首を連想してしまう。
「はい、あらためましてよろしくですトロミさん」
 ネットゲーム内で使っている名前そのままで、トロミは本名も
歳も「いえ、あの、それは」とはぐらかして教えてくれなかった。
二十歳そこそこだろうが、ひどく痩せてキャミソールの上に
羽織ったカーディガンから肩の骨の形がわかる。胸元には
薄い皮が覆っただけの胸骨がまざまざと浮いている。
「でも、こんなレストランで食事なんて財布がちょっと不安です」
 トロミは否定するように慌てて手を振った。カーディガンが
ずるりと肘まで落ちて棒きれのような前腕があらわになる。
「いえ、それは本当に気になさらないでください。会いたいって
無理言って会ってもらったのは私なんですから。気にせずに
楽しみましょう」
 現実で会うという提案に少し不安のあった俺だったが、おいしい
スープをだすレストランがあるのだが一人では入りにくいという
誘い文句で、なんとなくまともな人であるというイメージを持って
しまった。そしてその文句通り、ROYALという名の古い洋館造りの
瀟洒なレストランで食事をすることになった。
0301 ◆qUTDQkoRHmdu
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2011/08/28(日) 14:06:22.53ID:uiIJtZDC
「私スープって好きなんですよ。具合の悪いときもいただけるし、
それに野菜や肉のうまみみたいのが全部溶け出しててすごく力を
もらえるっていうか」
「自分でも料理するんですか」
「はい趣味です。家庭菜園もやってるんですよ」
「すごいですね」
「でも家庭菜園なんて格好つけていっちゃいましたけど、プランターで
香草を育ててる程度ですよ。ルッコラとかバジルとか」
 普通の二十歳女だったら生き生き話してるように見えたのだろうが
トロミの場合は違った。ほお骨の浮いて目が大きくなっている顔と
ぱさぱさでフケの浮いた髪、時折意味もなくぎょろぎょろ目を動かす癖、
これらが相まって熱心にしゃべる姿が狂信者のようだった。
 コース料理は次々運ばれてくるが、トロミは前菜のスープ以外には
ほとんど手をつけなかった。俺はといえば目の前のトロミが悪い意味で
気になって、何を食べたか定かではなくなっていた。
「次どこ行きましょうか」
 レストランを出るとトロミが訊いてきた。時刻はまだ夜の八時半だった。
「すいません、僕電車がなくなっちゃうんで」
「えっ、もうですか」
「はい、すいません」
 これはあながち嘘ではなかった。お互いの住所は隣県だったが、端と端
で俺の住んでいるところまで特急を使っても二時間以上はかかった。
トロミは物足りなさそうな顔をしていたが納得してくれた。
「この次はもっと中間地点で早い時間に会いましょうよ。今日はかなり
私寄りでしたし」
「そうですね。そうしましょう」
 お互いの連絡先を交換して別れたが、俺にはもう会うつもりはなかった。
0302 ◆qUTDQkoRHmdu
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2011/08/28(日) 14:07:29.98ID:uiIJtZDC
一ヶ月前
 ネットゲーム内でトロミがしつこいほど絡んでくるので、嫌になって
そのゲームはやらなくなっていた。代わりに携帯のメールや着信が
トロミの名前で埋まるようになっていた。メールの内容はまた食事に
行きましょうとか新しい料理のレシピを考案中だとかのほかに、寂しい
会いたい連絡くださいという類の言葉が連なっていた。電話の留守電
は無言の息づかいだったり、ガンガン何かをたたきつける、それは
恐らく携帯を床かテーブルにでも打ちつけている音だった。とにかく
まともな留守電は入っていなかった。
 そんなことがあり当然携帯の番号もアドレスも変えた。こうしてようやく
気味の悪い女とも縁が切れた。
 だが、それから何日もしないうちにトロミが現れた。現れたというより
目撃したのだ。夕方、散歩がてらスーパーまで買い物に行った。そこで
晩ご飯の材料を買おうと商品棚を物色していると、ふと視線を感じた。
横を見ると向こうの商品棚の陰から顔だけ出ている、笑っているトロミの顔が。
全身が総毛立った。顔はすぐに引っ込んだ。ぱさぱさの髪も線を引いて
商品棚の向こうに消えた。怖かったがその姿を確認せずにそのままに
するのはもっと怖かった。トロミのあとを追うようにして走った。
 どうも逃げられてしまったようで、しばらく店内を探したがトロミは
いなかった。涼しい店内のなかで俺の顔にはべっとりと流れない汗が
膜を張っていた。
0303 ◆qUTDQkoRHmdu
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2011/08/28(日) 14:08:10.80ID:uiIJtZDC
二週間前
 電話にはまた無言電話がかかってくるようになった。怒りと焦りのような
恐怖が一日中去らない。何日かそんな状態が続いてから、意を決して
電話にでた。お互いしばしの沈黙のあと俺から切り出した。
「トロミさんですよね。嫌がらせみたく電話するのやめてもらえませんか」
「わぁ、柏木さんだあ」
 ゆっくりと抑揚のない声が返ってきた。
「今ちょうどスープ作ってるんですけど、うちに来ませんかあ。ちゃんと
骨から炊き出してすごくいい味になってきてるんですよお」
「何を言ってるんだ!もう勘弁してくれ!」
 俺は温厚な性格を自負しているが限界だった。
「柏木さん、最近すごくつらそう。あまり食事も摂ってないし。いつも頭抱えて
お酒飲んでますよね。ウィスキーのマッカランっていうの」
 意味がわからなかった。なぜそんなことを知っているのか、ウィスキーの
銘柄まで当たっている。
「そんな時こそスープがいいですよ。素材の命が抽出されてますから、
元気がでますよ。お向かいさんなんですから遠慮せずに食べにきてくださいよ」
 声が出なかった。まさかとは思いながらベランダから目の前にある
集合住宅のベランダに目を走らせた。俺の部屋のちょうど真っ正面に
あたる部屋に骸骨のような女が立っていて、双眼鏡でこっちを見ながら
携帯を耳にあてている。自分の口からなんとも情けない叫びともいえない声がでた。
「お、お、お前ずっと見てたのか」
「柏木さんのことはずっと見守ってますよお」
「ふざけるな!警察に相談するからな!」
 電話をきってから真っ二つに携帯をへし折った。
 すぐに警察に行って相談すると、実害がないので何もしてもらえないと
思ったがしっかり対応してくれて、トロミの家まで行って注意してくれる
ことになった。
 対応は迅速で、翌日からトロミの部屋のカーテンは閉めっぱなしになった。
ただし、薄いレースのカーテンを透かしてトロミの細すぎるシルエットが
うっすらとこちらを見ていた。両膝で立って、肘を横に張って双眼鏡を
構えている。ベランダの隅の日陰になっているところだけ、
プランターに植えられた香草が緑を放っていた。
0304 ◆qUTDQkoRHmdu
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2011/08/28(日) 14:10:00.20ID:uiIJtZDC
そして
 俺はまるきりノイローゼになってしまった。こちらの部屋のカーテンも
閉めっきりにしているが、隙間から向かいをのぞくと常に双眼鏡を構えた
トロミのシルエットがこっちをうかがっている。それは朝も昼も夜も夜中もだ。
とくに夜は恐ろしい。部屋の照明がトロミのシルエットをより鮮明にするからだ。
黒い十字架が影絵になって浮かびあがる。
 ついに引っ越す決断をした夜のこと、配達日指定の郵便が届いた。
宛名のない茶封筒に鍵と一枚のメモが入っていた。
メモには招待状と書かれていた。

             招待状
  
  のうこうでおいしいスープを作りました。
  ROYALのスープにひけをとらない出来だと思います。
  ついに納得のいくレシピを完成させました。
  手間暇おしまず
  やさしい気持ちをこめて育てた
  ルッコラやバジルも使いました。
  
    P.S スープは三日かけて作りました。待ってます。

 トロミからの招待状で間違いないだろう。家の鍵まで添えてある。
ベランダから向かいを見ると微動だにせずにこちらに双眼鏡をむけている
シルエットがある。プランターの香草はなくなっていた。
 怖かったが、行ってやろうと思った。行って殴り飛ばしてやろうと思った。
引っ越すという決断が大胆な勇気を生んでいた。
 防護のために腹と背中側に厚めの雑誌を仕込んで家を出た。目的の
部屋の前まで来ると変なニオイがした。豚骨でも炊き出しているのかと
思ったがそれとも違う異様なニオイだった。震える指でチャイムを鳴らして
待ったがトロミはでてこなかった。ドアに耳をあててみても何も聞こえなかった。
覚悟を決めて鍵を使ってドアを開けた。
 ムッと熱い空気と濃厚なニオイが体を包んだ。肺の奥まで落ちてくるような、
質量のあるニオイに吐きそうになりながら、土足のまま奥に進んだ。
0305 ◆qUTDQkoRHmdu
垢版 |
2011/08/28(日) 14:12:25.36ID:uiIJtZDC
リビングのドアを開けると、両膝で立って双眼鏡で俺の部屋を見ているトロミの
うしろ姿があった。裸体に白いワイシャツ一枚だけ羽織っていた。何も言わず
乱暴に肩をつかんでこっちをむかせた。
「うわっ!」
 むかせた勢いでシャツがずれ、双眼鏡が落ち、髪の毛がずるりと全部床に落ちた。
それはマネキンだった。ポーズをとらせたマネキンが俺の部屋にむけてあったのだ。
部屋中に響く声で怒鳴った。
「おい!いい加減にしろ!でてこい!」
 部屋を見渡しても家具らしきものも存在せず、対面式のキッチンのコンロには
大きな寸胴が見受けられるだけだった。一応、寸胴の中身も確認したが中には
何も入っていなかった。クローゼットの扉も蹴り飛ばして壊してみたが、そこにも
いなかった。それどころか部屋の中はまるで気配がなかった。
 いぶかしみながらトイレも調べたがやはりいない。残るは浴室だけだった。
浴室の扉の前に来るとそこだけ異様だった。扉は内側からガムテープで目張り
されてほとんど隙間が無く、磨りガラスにもガムテープが貼ってあった。
わずかな隙間から蒸気とニオイが漏れ出ている。これが部屋に入ったときの
熱気とニオイの元だろう。そして何か転がりながらぶつかるゴロンゴロンという
音が聞こえる。押しても開かないので何度か体当たりをした。すると派手な音を
たててドアが開いた。
 瞬間、高温の蒸気と激臭で体が押し戻された。とじこめられていた蒸気が
もうもうと浴室から押し寄せてきた。臭いも凄まじく胃の中のものが勝手に
出てきそうだった。
 蒸気が浴室の外にいってしまうと徐々に地獄が姿を現す。
 人間のスープだった。人間が浴槽の中で煮えている。
 浴槽に引っかかっている上半身はトロミのものだろう、皮が剥がれて
肩胛骨も肋骨も露出している。ぱさぱさだった髪はつややかに濡れて湯気が
上がっている。
 浴槽の赤黒い湯は沸騰していて全体の三分の一ほどに減っている。黄色い
アクが沸騰のリズムに合わせて湯の表面で揺れる。香草とおぼしきものも
さび色に染まって漂っていた。ゴロンゴロンという音の正体はどうやらばらばらに
なってしまった下半身の骨が、沸騰の対流で浴槽にぶつかっている音のようだった。
 骨も、内臓も、情念すらも溶け出した人間のスープをトロミは三日間をかけて
完成せしめた。

 俺は胃の中のものを吹きだしながら外に転び出た。
 コンクリートの床に反吐と共に沈んだ俺の眼前に、ポケットから
ひとりでに抜け出た招待状が目に入る・・・・・・。
 この先、忘れることはできないだろう。あのスープも、招待状のメッセージも。
0306 ◆qUTDQkoRHmdu
垢版 |
2011/08/28(日) 14:17:28.70ID:uiIJtZDC
以上です。トリ間違えたが296です。
さらにタイトルも入れ忘れた。「おむかいさん」です。
半年ぶりに書いて、すげえ時間かかった。

おちが弱かったかな。

BNSKスレ探したら立ってたけど、速攻おちてるみたいだった。
そっちがあるならそっちでも書きたいぜ!
0307以下、名無しに変わりまして創発民がうんたら
垢版 |
2011/08/28(日) 17:40:55.16ID:W6K5gdEz
投下乙!
無茶ぶりお題をしっかりホラーに仕立ててくれてありがとう!
細部もしっかり推敲されてて良かったッスヨ〜
0308 ◆qUTDQkoRHmdu
垢版 |
2011/08/28(日) 21:05:01.29ID:uiIJtZDC
嬉しい感想ありがとう
招待状のたて読みはきづいてくれたかな
0310創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/09/02(金) 05:35:36.42ID:5kBaE+Ut
お題>>295
 
向かいのマンションの女は、何故か私を見つめている。
私も双眼鏡で女を見つめる。
最初にこんなことをやり始めたのは女の方だ。
女は私を見つめることによって何かが満たされているはず。でないとこんな意味もないことをするはずがない。
女がニヤリと笑い私も笑う。
女が双眼鏡を外す、私も外す。
女が叫ぶ、私も叫ぶ。
女が歌うと、私も歌う。
女が首を絞められる…と、私も首を絞められる。
(女のベランダに居る奴が私のベランダに居るわけがない!のに!なんで?)

そして私は気づく
(ここはあの女を映す鏡だ)
(やだ!死にたくない!死にたくない!)

女が死ぬと、私も死ぬ。
0312創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/10/09(日) 09:48:14.77ID:uTHqTQ2Y
【あの感動をもう一度】
知ってるかい? 昔の映画館は1回入場すれば、その映画が1日中見ていら
れた。だから面白い映画は2回、3回と見ていられたんだよ。だから単純に
考えて何度も感動できたはずだ。
でもその方法には欠点があってね、2回目、3回目と同じ映画を見ているう
ちに感動が劣化していくんだ。
で、これに対する根本的な解決法を考えたんだが、最初の感動と同一の感動
を得るには、その記憶を消してやり直せばいいということにたどり着いたわ
けさ。
「それがこの薬なの?」
多恵子は不審げに、梶浦が差し出した瓶の中の錠剤を見た。
「いやならいいんだぞ。無理に飲まなくても。ただバイト代は入らんからな」
「わかったわよ。ここで引き下がるわけにはいかないわ。それにこれはあなたが作った薬ですもの」
多恵子は錠剤を口に放り込み、水で一気に流し込んだ。
どん!
多恵子は急に力が抜けたかのように、椅子に尻を落とした。
虚ろだった、目が。
「どうした?」
多恵子は言葉を無くしていた。それが一時的なことではないことは、三日
経ってわかった。
どうやら多恵子は、映画1本どころか、彼女自身の、人生という映画の大半
を忘れてしまったようだ。
「失敗か。まだまだ臨床実験を重ねる必要があるな」
梶浦は記憶の初期化された多恵子を妻として引き取り、さらなる実験の繰り
返しに没頭した。
0313創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/10/12(水) 23:31:48.62ID:rrBkrxpQ
止まってるぜ
0314創る名無しに見る名無し
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2011/10/13(木) 22:11:23.90ID:NQiuipRl
お題クレクレ
0315創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/10/14(金) 05:39:57.97ID:+6HJJ6R8
お題『広子は僕を許してくれない』
0316創る名無しに見る名無し
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2011/10/16(日) 14:19:00.65ID:v/D7E13M
僕は広子の膣内に射精し、事を終えた。
避妊具を使わないのはいつものことだ。
「じゃあ僕は帰るよ。このことはくれぐれもご主人には内緒でね。まあ彼は
今、上海にいるから、ばれることはないと思うけど」
「あ……待ってよ」
いつもとは違う広子の口調が、去りかける僕を呼び止めた。
何気なく振り返ったとき、僕はまだ自分の命があと200秒しか残されてい
ないことは思いもしなかった。
「ごめんね、ヒロシ……」
振り返ると同時に、広子は僕に向かって発砲した。
随分大型の銃だったような気がする。
僕は後方に吹っ飛び、あたりには僕の血が飛び散ったようだ。
僕の血は青い。何かのカクテルのように飲みたくなるようだ、と前に広子が
つぶやいたことがある。
広子は僕を撃っておきながら動揺し、嗚咽した。
「ごめんね、ヒロシ。もう私、あなたとの関係を続けられない……」
ガチャ。
扉が開かれた。
僕はすぐに、侵入者が誰か気づいた。
「貴様……新型か?」
新型は礼儀正しく頷く。
「ヒロシ君だったね。少々手荒だったが、これが一番劇的だと思ってね。
知っての通り、僕らアンドロイドは製品じゃない。人の感情を豊かにするパ
ートナーだ。だから別れ際もこれくらいドラマチックに演出する必要があっ
た。これは広子のリクエストでもあるんだよ」
「まだ……契約期間が切れて…ない」
「残念だが君は違反を犯している。君に責任はないんだがね。オーナーが君
の倫理回路をいじったようだ。君は複数の女性を相手にしているだろう。
それはダメなんだよ」
まだ裸の広子がシーツをまとって美貌の新型に抱きつく。彼は僕とは違って
金髪である。
アンドロイドは嫉妬しない。
美しい、と僕は思った。
僕の視野はぼやけ、彼にすがりつく彼女が泣いているのか新たな喜びに期待
しているのかはわからない。
ただ言えることは。

広子は僕を許してくれない。

それだけだ。
さようならーーーー
0317お題『広子は僕を許してくれない』 1
垢版 |
2011/10/17(月) 13:29:44.56ID:kOqbl3u5
「あのさ、あたしたちさ」
その日は僕たちは
「これから幼馴染じゃなくって、普通の友達でいようよ」
幼馴染から、普通の友達になった。


『広子は僕を許してくれない』


空は青く、どこまでも青く、時々白い雲が青い空を自由に泳いでいる。
「んもー。そんなに空ばっかり見てたら犬のウンコ踏んじゃうよ?」
いつもの通学路、いつもの空間、いつもの会話。
「ばっか。んなもん踏むか。あともう少し後ろ歩けよな!恥ずかしいだろ!」
「やだよ。ウンコ踏んで困るとこ見たいもんね。だから離れないよ〜」
「ウンコ踏んだらお前の靴につけるからな」
「最低〜!女の子の靴にウンコつけるなんて最低〜!」
「女の子がウンコウンコ言うな。このウンコ女」
「なぁ〜ん〜で〜すってぇ〜!」
物心ついた頃からずっと一緒だった幼馴染の広子と何気ない話を繰り返しながら通学路を進む。
広子と学校に行って、授業が終わったら広子と一緒に帰って、暇だったら広子と遊んで、また次の日学校に広子と一緒に登校する。
ずっと一緒に居すぎるせいで、周囲の目線は「それが当然」という感じになってしまい、浮ついた噂話をされるレベルにならなかった。
「…ん?なんだこれ」
それが、当たり前だと思っていた。それが、日常だと思っていた。
「なになに?どしたん?」
今までもずっと広子と一緒で、これからもずっと広子と一緒だと思ってた。
「これ…手紙…?」
「え?え?うっそー!え!?これもしかして…ラブレターじゃない?」
靴箱に入っていたその手紙を見つけるまでは。


「……はぁ〜……」
「どしたん?いつも一緒の広子ちゃんとケンカでもしたか?」
「いや……。ケンカらしいケンカもしたことねーよ…はぁ…」
クラスメートとため息混じりに言葉を交わしながら、考える。
(何だこれ…ラブレターって……絶対イタズラか何かだろ…)
今までラブレターなんてもらったことも無いし、2月14日にチョコレートをもらったことなんて…広子と親からもらうぐらいだった。両方義理だったが。
イタズラだと割り切って破り捨ててしまうことは簡単だ。けれど、もし本物だったら?
本物だったらどうする?中身はどんな事が書いてあるんだろう?相手は誰だろう?
知ってる子なのか?知らない子なのか?
そんな考えと同時に、広子の顔が思い浮かんでは消えていく。
そのせいで、いつも以上に授業が耳に入らずずっと上の空だった。
昼休みになり、母親が作ってくれた弁当を食べ終えて人気の無い場所へと行き、微かに震える手で花柄の封筒の封を切る。
期待なんてしない。どうせイタズラに決まってる。でも、読むだけ。読むだけだから。
そんな事を自分に言い聞かせ、一枚の手紙を取り出し、読む。
綺麗な文字で文章は短い。でも、相手の意思をハッキリと感じ取る事が出来る文面だった。
そして最後に差出人の名前を見て、声が出なかった。
差出人の名前は、広子の同級生の女の子だった―。
0318お題『広子は僕を許してくれない』 2
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2011/10/17(月) 13:30:44.80ID:kOqbl3u5
「ね!ね!それで誰からのラブレターだったの?」
「あー、まだ読んでない」
下校時、並んで歩く広子は興味津々といった表情で問いかけてくる。
「いやーまさかあんたがラブレターをもらうなんてねぇ〜。すごい時代になったもんだ」
「どういう意味だそりゃ。お前だってラブレターくらいもらったことあるだろ?」
突然のラブレター、差出人は広子の同級生の女の子。広子とよく喋ってるのを見たことがあるし、僕も何度か話した事がある。
「あはは、ラブレターなんてもらった事、無いよ。あ!でもでも!」
「うん?」
でもやっぱり、少し話した事がある程度で、特別意識する子でも無かった。
確たる証拠も無いのにイタズラだと思い込んで手紙を破り捨ててしまうと、その子の思いを踏みにじってしまいそうで出来なかった。
「ほら、覚えてる?あたしたちがまだまだこ〜んなに小さいときにさ、手紙くれたじゃない?クレヨンで描いた手紙」
「ばっか!いくつの時の話してんだよ!」
「懐かしいな〜。クレヨンで紙がくしゃくしゃになっちゃって、読めなかったんだよね」
お互いを見続けてきた。小さい頃の失敗なんかも、こうして笑い話に昇華できる程の仲。
昔はただ照れくさかった。でも、時が経つにつれて安心感が僕の中で生まれた。
笑う時も、泣く時も、楽しい時も、愚痴をこぼす時も、いつも傍にいてくれたのは広子だった。
もらった手紙の返事の選択をした時、隣にいるのは、広子ではなく広子の同級生の女の子になるかもしれない。
「……」
「……」
自然と訪れる、沈黙。こういう時、先に口火を切るのはいつも広子だった。
「…ね。いっこ聞いていい?」
「うん」
いっこ聞いていい?と聞くのも、広子の子供の頃からの癖。
「手紙の返事、どうするの?」
「…ん、まだ読んでないって。読んでから決める」
「…そっか」
広子は友達以上に信頼している、親友。
広子の同級生の女の子は、明るく、話やすかったのが印象に残っている。
でも、やっぱり顔見知り程度の仲。
「……」
「……」
再び沈黙。二人の足音だけが、静かな町並みの中で響く。
そう、広子は親友なのだ。幼馴染で、親友。でも、同級生の女の子は、ラブレターを出してくれた。
「……って、思ってたんだけど、ね」
「え?」
じゃあ、今この頭がモヤモヤする感じは、何なのだろう。
「変わらないって、思ってた」
「…何が?」
広子は、伏し目がちに話しながら、僕の返事に軽く頭を左右に振った。
頭のモヤモヤが、少し増した気がした。
「でも変わらないわけがないんだよね。ううん、変わらなくちゃいけない」
「広子、あの」
「うん!早く手紙の返事出してあげなよ!女の子泣かせるような真似したら怒るかんね!っと、あたしはこっちだからもう行くね。また明日!」
「おま、…ったく」
広子は一方的に捲くし立てて走り去ってしまった。
(変わらない、か)
帰宅して、自分の部屋に戻って制服姿のままベッドに飛び込む。
(それは僕だって、思ってたよ)
0319お題『広子は僕を許してくれない』 3
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2011/10/17(月) 13:31:47.19ID:kOqbl3u5
『おままごとしたい〜!』
『え〜やだよおままごとなんて。カリレンジャーごっこやろうぜ!』
『い〜や〜!おままごとがいいの!はい、おかえりなさい!』
『ちぇー。おままごとはきょうだけだかんな!』
『うん!ありがとっ!』


『ここ、ぼくのひみつきちにしようとおもうんだ!』
『わーー!すごーーい!!ひみっつきちっ!ひみっつきちっ!』
『ひろことぼくだけのひみつだかんな!みんなにはないしょだぞ!』
『うんっ!』


『いってぇ……』
『ヒック…グスッ……ごめんね…ごめんね……』
『泣くなって!悪いやつはやっつけたから、もう泣くな!』
『でもっ……でもっ…ヒックッ』
『泣くのやめないと、ぜっこうだぞ!』
『やだ…やだぁ…ぐすっ……もうっ泣かないっからっ』

『変わらないって思ってた。でも、変わらなきゃいけないんだよね』
『広子…?』
『…うん!これからもずっと友達でいようね!』
『広子!待てよ!僕は――!』

「…っ!広子っ!」
勢いよく飛び起きたせいで、少し目眩がした。
体が汗ばんでシャツに張り付き、気持ち悪い。
コチ…コチ…と時計が秒針を刻む音だけが、部屋に響いていた。
「……夢にまで見るとか、重症だなこりゃあ…」
今までずっと一緒だった幼馴染にして、親友。
どんなことでも話し合えた。男だとか女だとかを無視した関係が心地良かった。
変わりたくなんてなかった。今のままが良かった。
けれど、変わろうとしている。時間が経つにつれて、お互いに大人になっていく。
いままでも、これからも変わらないと思っていたのは、希望だった。
広子の同級生の女の子からもらった、ラブレター。
僕はこれにどう答えればいいのか。迷うはずもないのに、迷うフリをする。
物心ついた頃から一緒にいる広子。今までも、これからも、ずっと一緒なのが当たり前だと思っていた。
子供の頃は、恥ずかしさ故に後ろからついてくる広子をいつも泣かしていた。
けれどある日、別の男子に広子がイジメられているのを見て、凄く腹が立って広子をイジメている男子とケンカした。
それ以来『広子を泣かしちゃいけない』と自分の中で決めた。
誰かを好きになる―そんな年頃になっても、僕はそんな気持ちが広子に芽生えることは、無かった。
クラスメートに一度『広子ちゃんの事、好きなの?』とか『広子ちゃんと付き合ってるの?』と聞かれたことがあるけれど
僕は、広子を女の子として見る以前に親友として見ていた。その期間が長すぎたから、聞かれても何も感じなかった。
―そんな建前的な考えを、並べ立てる。
広子を「幼馴染の親友」ではなく「好きな女の子」と意識していたのは、いつからだろうか。
好きだと言って、今のこの心地よい関係が崩れたらと考えると、怖くてたまらなかった。
だからこそ、今までどおりの幼馴染の親友でありたいと思った。このままの関係が良いと願った。
『でも変わらないわけがないんだよね。ううん、変わらなくちゃいけない』
別れ際に言った広子の言葉が、頭をよぎる。
(……広子の同級生の子に、話をしにいこう)
窓から明るくなり始めた空を見上げながら、僕は決意を固めた―。
0320お題『広子は僕を許してくれない』 4
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2011/10/17(月) 13:33:46.42ID:kOqbl3u5

「おっはよー!今日もいい天気だね!」
毎朝聞きすぎて、飽きるのではないかと思うほどの元気な声に、手をあげて応える。
「うーいー。おはようさん。広子は無駄に元気だねぇ」
「元気があたしの取り柄だからね!えっへん!」
いつもの登校時間。今日も広子と一緒。
広子は昨日の帰り際に見せた少しだけ寂しそうな表情を、今は笑顔に変えている。
空元気なのはすぐにわかった。けれど、それも広子の気遣いと知っているだけに胸が少しだけ痛くなった。
―昼休み
弁当を食べ終え、手紙に書かれていた待ち合わせ場所へと向かう。そこには広子の同級生―佐藤さんがいた。
「やっ。来てくれて嬉しいよ。あんがと」
「いやいやこっちこそ。手紙くれて嬉しかったよ」
佐藤さんは僕を見つけると右手を軽くふり緊張した様子もなく挨拶をしてきた。
ここに来るギリギリまでは、イタズラじゃないかと疑っていたのだが―。
「あ〜。あの手紙イタズラじゃないか〜って疑ってたでしょー。心外だなぁ〜」
「え、いやぁ…まぁ、やっぱり思うよ。突然だったもん」
考えていたことを言い当てられ、ドキリとする。それでも佐藤さんは可笑しそうに言った。
「いやはや、我ながら乙女ちっくなことをしたもんだと思ったさ〜。それで、ここに来たってことは返事をもらえるってことでいいのかな?」
「うん。一晩じっくり考えてきたよ」
誰もいない、待ち合わせ場所の視聴覚室。
お互いを、見つめる。佐藤さんは、僕の言葉を待っている。
そして僕は、嘘偽りの無い心からの言葉を、佐藤さんに告げた―。


放課後、広子と帰ろうと思い広子を待つものの、来ない。
いつもこの時間になると元気な声で『帰ろー!』とクラスに入ってくるのに、来ない。
「あんれ?広子ちゃん今日来ないな?さてはケンカでもしたんだろ?」
「してねーっつーの」
クラスメートの軽口も流しつつ、待つ。

―10分経過―

(遅いな。日直にでも当たったかな?)
自分のクラスを出て、広子のクラスへと向かう。
廊下で、見知った人に出会った。
「あ、佐藤さん。広子見なかった?」
「広子?うんや、広子ならもう帰ったよ?」
「そっか。ありがと!」
今まで、広子が何も言わずに帰ることなんて、無かった。
友達と帰るときでも、必ず一言言って帰るような律儀なやつが、何も言わずに帰った。
ざわざわと胸をくすぐる変な感覚があった。
「…がんばれ〜。あたしゃ応援してるよ」
走り去る男の子の背中を見つめながら、佐藤は呟く。その眼差しは、どこまでも優しかった。
0321お題『広子は僕を許してくれない』 5
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2011/10/17(月) 13:36:45.25ID:kOqbl3u5
「はっ…はぁっ…はあ…!…広子っ!!」
「へ…わっ!!」
下校時に毎日通る道を全速力で走り、先を歩いていた広子の名前を呼ぶ。
すると、僕を見た途端広子が走り出した。
「このっ…待てって!広子!!」
「……っ!」
追いかけっこでは、昔から僕のほうが速かった。
広子がどんなに走る練習をしても、いつもこっそりと広子以上に走る練習をしていたから。
広子に置いていかれるのが、すごく嫌だったから。
「待てったら!!」
「……ぅっ」
広子の右腕を掴むと、広子は大人しくなった。
「どうしたんだよ一人で帰って…。体の具合でも悪いのか?」
「……」
俯きながら頭を左右に振る。そのせいで表情はわからなかった。
「…何か、あったか?」
「……っ!」
今まで無かったこと。こんな広子は、見たことが無かった。
だからなるべく優しく、問いかける。
すると、広子の体がビクリと震えたかと思うと、静かに顔を上げ、両目に涙を溜めて、静かに言った。
「あのさ、あたしたちさ」
その日は僕たちは
「幼馴染じゃなくって、普通の友達でいようよ」
幼馴染から、普通の友達になった。
「…え?」
「……」
久しぶりに見た広子の泣き顔。
そして、初めて言われた言葉。
広子は掴んでいた僕の腕を振りほどき、走り去っていった。
後にはただ、呆然と立ち尽くす僕だけが残った―。

それから、広子と僕は話さなくなった。
登校時も、学校にいるときも、下校時も、広子は僕を避けるようになった。
理由は、よくわからない。考えても、何が原因なのかわからない。
昔は広子を泣かせていた。けれど、どんな時でも、次の日には仲直りしていた。
けれど今回は違う。今の状況になって、一週間が経とうとしている。
無理に広子に会おうとすれば、広子を傷つけるかもしれない。
でも、一番恐れていたことが、今実際に起こっている。
広子と最後に別れた日以来、ずっと上の空だった。
隣にいつもいた人がいない。それだけで、ポッカリと胸に穴が開いたような―。
「やっ。青春少年」
「…へ?あ、佐藤…さん?」
昼休み、教室で窓から空を眺めていたら、背中を軽く叩かれた。
窓から目線を移すと、いつからそこにいたのか。いつも穏やかな表情をしている佐藤さんがいた。
「今、ちょっち時間いい?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「ここじゃアレだし、ちょっと移動しよっか」
そう促されて、また視聴覚教室へと移動する。
「広子の事なんだけどさ」
「…うん」
チクリと胸が痛んだ。呼び出されてから、広子の話題だろうと思っていたけれども、実際に話してみると、辛い。
「広子がさ、ずっと元気無いんだよね」
「……うん」
一週間前、告白された場所で、告白された子と、同じ立ち場所で話をするのは、不思議な気分だった。
「で、あんたは何してるのさ」
「え?」
穏やかだった佐藤さんの視線が、鋭く僕を射抜く。
「はぁ〜鈍いねぇ。あんた、あたしを振った時に何て言ったか覚えてる?」
「うん…覚えてる」
そう、僕はあの時、佐藤さんに自分の意思をハッキリと告げたんだ―。
0322お題『広子は僕を許してくれない』 6
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2011/10/17(月) 13:38:27.25ID:kOqbl3u5

『ごめん、佐藤さん。僕、好きな人がいるんだ』
『…っちゃ〜。見事に玉砕か〜ちょっとは望みがあるかと思ったんだけどねぇ。それで好きな子って、広子?』
玉砕したのに、どこか可笑しそうに笑う佐藤さん。きっとサッパリとした性格なんだろうな、と思った。
『…うん。僕、広子の事…好き…みたいだ』
『みたいだ、じゃダメだよ。好きなの?そうじゃないの?好きじゃないなら、あたし諦めきれないよ』
穏やかな笑顔でも、澄んだ目はどこまでも真剣だった。
『ごめん。好きなんだ、広子のこと』
『幼馴染で好き、友達として好き、とかじゃなくって?』
胸のモヤモヤを吐き出すように、言葉を続ける。
『うん。もう気付いた頃から好きだった。好きで好きで、どうしようもないくらい、好きだ』
『あーその言葉は本人に聞かせてやんなさい。今のあたしにゃ重すぎるさー』
『あぅ…ごめん』
『広子も幸せもんだねぇ。ここまで思ってもらえるなんてさ。今のセリフ、あたしに言ってほしかったくらいだよ』
どこか寂しそうに呟く佐藤さんの姿に、改めて申し訳ないことをしたと感じる。
『ああ、あたしを振ったからって気にしないでね。そういうのはきちんと割り切るからさ』
また考えていることを言われた。
『君、結構顔に出るからわかりやすいんよ。そういうとこも広子と似てるねぇ』
佐藤さんは穏やかに話し続ける。もし、もし今と違ったカタチで出会っていたら、違った関係になっていたかもしれない。
そんなことを思うのは、野暮ったいかもしれないが。
『そんなわけで…ごめんね、佐藤さん』
『うんや、いいよいいよー。あたしも気持ちの整理できたし。ありがとね』
どこまでも穏やかな顔で、佐藤さんと手を振り合い、別れた―。


「それで、広子には告ったんでしょ?」
「いや、まだ…」
「え、まだなの?告ったから広子あんな風になってるんじゃないの?」
佐藤さんはあっけらかんと言ってのける。いやでも、告白と言われましてもですね。
僕は佐藤さんに、一週間前のことを話した。
「なるほど、ね。そしてまだ告る段階まで行けてないわけなんだ」
「…今の関係が壊れるのが、怖くってさ。ずっとずっと一緒にいたから、今更好きだー!って言っても、ね」
そう、怖かった。そして何より、振られるかもしれないと考えると、怖くてたまらなかった。
「広子もさ、僕のこと好きってわけじゃないかもしれないし、振られたときのことを考えると―いてっ!」
話している途中に、佐藤さんの右手チョップが僕の額に当たった。
「それは臆病なだけだよ。それに、なんでその言葉をあたしに言えるのに広子には言えないの?あのね、いいこと教えたげる」
穏やかだった佐藤さんの表情が、真剣なものに変わる。
「変わらないものなんて、無いんだよ。だからこそ、どんな結果になっても『変化』を受け入れなきゃいけない。それが良い方向に転がるか悪い方向に転がるかは、神様もわかんない」
言葉の一つ一つに、重みがあった。説得力があった。
「変えたくないと思うのは、ただの逃げだよ。今の君はただ『変化』から逃げてる。あたしは、君に自分の思いを伝えたよ。変化を恐れずに」
「…っ!」
変わらないもの。変わろうとしているもの。ずっと一緒にいてくれた幼馴染にして親友。
0323お題『広子は僕を許してくれない』 7
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2011/10/17(月) 13:39:28.20ID:kOqbl3u5
佐藤さんの言うとおりだ。自分の中でグルグル考えてただけで、一番大事なことを、一番伝えたい人に伝えられてないじゃないか!
僕は今まで何をウダウダ考えていたんだろう。
今やるべきことは何なのか。そして誰に何を伝えなければならないのか。それが何なのか、今ハッキリとわかった。
「佐藤さん…僕…」
「あー、いい。今度美味しいケーキおごってくれたらそれでいい。ホラ、分かったらさっさと行く!昼休み終わっちゃうよ!」
手を叩き、話はおしまいとばかりに佐藤さんは動き出す。
「佐藤さん、ほんとごめん。ありがとうっ!!」
佐藤さんに手を振りながら、視聴覚教室を後にする。佐藤さんには何度もお世話になった。今度、広子が知ってる美味しいケーキ屋さんに連れていっておごろう。
(そういえば…なんで佐藤さんが僕の事なんか好きになったのか……聞くのも野暮ったいか)
決意を胸に、教室へと戻る。今、僕自身がやらなければいけないことを考えながら。
「……うん。これでいい。これで、いい」
視聴覚教室に一人残った佐藤は、誰に言うでもなく呟いていた。
「ホント、ピエロだよ。恋のキューピットなんかに…なれないよ…」
俯きながら呟く佐藤の目には、涙が少しずつ溜まっていった。
「全く、見てられないよ…。あんたら二人がさっさとくっつかないから、変な虫が近づく…あたしみたいな、ね」
小さく鼻をすすりながら、人差し指で左右の目に溜まった涙を拭う。
「広子と楽しそうに話す姿が、好きだったなぁ…。それに、広子だけ特別なんじゃなくて、誰にでも優しい。あたしにも」
白い天井を見上げながら、好きになって、生まれて初めてラブレターを出して、生まれて初めて告白をした男の子のことを思う。
「うん。でも良かった。これで良かったんだ…広子も…あの人も、これで……これ…で…ひっく…ぐすっ…」
佐藤は蹲り、チャイムが鳴り響くまで声を押し殺して泣き続けていた。


「―以上が、流星が流れる原因と考えられている」
退屈な授業。これが終わったら、広子と話をしよう。佐藤さんが作ってくれたキッカケを、無駄にはしない。
「そういえば、今夜あたり流れ星が見えるんじゃないか?」
僕は考える。考え続ける。変わらないものは無いなら、変化を受け入れる努力をしなければならない。
そして、変わるのを恐れるのではなく、変われる勇気を持たないといけない。
幼馴染と親友という関係を、壊そう。そして、ただ壊すだけじゃなくて、更に一歩踏み込んだカタチにしたい。
結果を恐れてはいけない。それを教えてくれた人が、いた。彼女は結果を恐れずに真摯に真正面からぶつかってくれた。
今の僕は、ただ結果を恐れて目を背けているだけに過ぎない。それは、一番やってはいけないこと。
僕も、真正面から広子にぶつかろう。例えそれが、どんな結果になろうとも―。
0324お題『広子は僕を許してくれない』 8
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2011/10/17(月) 13:40:28.15ID:kOqbl3u5
「広子っ!」
全ての授業が終わり、生徒たちが帰宅する中、真っ先に広子のクラスへと向かう。教室の入り口で、入り口近くの席にいた広子の名前を叫ぶと
佐藤さんや他のクラスメートと話をしていた広子の肩がビクリと震えた。
「一緒に帰ろう。いいか?」
「う、うん。みんなごめんね。また明日」
一週間ぶりのまともな会話。そのせいか、若干広子が緊張しているのがわかる。
荷物を持ち、席を立って広子がこっちに来る時、広子の後ろにいた佐藤さんがグッと右手を握り、親指を上に立てて軽くウィンクをしていた。
『がんばれっ!』
『ありがとうっ!』
そのサインに、僕も同じように返す。佐藤さんは、良い人だった。
「……」
「……」
帰り道。何となく気まずい雰囲気がお互いにあった。けれどこのままじゃダメなんだ。
「こうして一緒に帰るの、なんか久しぶりだなぁ」
「…そだねぇ」
先に口火を切ったのは、僕だった。
「そういえばよー昔もさ、かくれんぼやっててさ、広子が鬼の時、僕が先に帰っちゃって広子すんげー怒った時あったよな」
「…うん…そんな事も、あったね」
いつも昔の話をするのは、広子のほうだった。今は、立場が逆転している。
「それで、次の日もすねまくってて、全然口きいてくれなくって、僕も泣きながら謝ったっけ」
「…あはは。あの時はホントに怒ったよ」
広子はやっぱりどこかぎこちない。今のこの状況なったのは、僕のせいなんだ。
「……」
「……」
再び訪れる、沈黙。今この場所で、一番言いたかったことを言うために広子に気付かれないよう軽く深呼吸する。
「んで、さ。今日の夜、暇?ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「えっ?…夜?うん、あんまり遅くでなければ大丈夫…だと思う」
ちょっと戸惑いつつも、広子は了承してくれる。その返事に安堵し、胸を撫で下ろす。
その後は、お互い別れるまで他愛もない話を僕が一方的にしていた。広子は相槌を打ったり、時々返事をしてくれた。
多分、嫌われていないとは思う。もしも嫌われていたとしたら、こうして一緒に帰ってくれていない子だから。
自分でも呆れるくらいの楽観的思考だけれども、今はそうでも思わなければ、言葉が続かない。


家の窓から、夕日が見え始める時間帯。
僕は親に頼んでアルバムを貸してもらい、昔の写真を眺めていた。僕の隣には、不安そうな顔で僕の袖を掴む女の子の姿があった。
「うっし、行くか!」
夕日が見え始めたら、夜になるのは早い。身支度を整え親に夕飯までに帰ると告げて家を出る。
目指すは広子の家。そして、向き合ってぶつけよう。自分自身の気持ちの全てを―。
0325お題『広子は僕を許してくれない』 9
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2011/10/17(月) 13:41:28.61ID:kOqbl3u5
「あの、広子いますか?」
「ええ、ちょっと待ってね〜」
広子の家に着き、インターホンを押すと広子のお母さんが応えた。名前を言うと嬉しそうに返事をしてくれた。
そのままだとインターホン越しに話が始まってしまうので、広子を呼んできてもらうことにした。
しばらくすると、ドタドタと音が聞こえ、ドアが開き広子が出てくる。
「お、お待たせ!」
「んや、いいよ。悪いね、夜に呼び出して」
玄関のカギを閉めながら、少しだけソワソワしている広子になるべく優しく話す。
「えっと…それで、どこか行くの?」
「うん、ちょっとな。よっしゃ!行くか!!」
「へ?…わっ!」
少し大きめに声を出して、力が入りすぎないように広子の左手を握って歩き出す。広子は驚いてつんのめりかけていた。
「ん……どこいくの?」
「ナイショ」
久しぶりに握った広子の手は、記憶の中の手よりも少し大きくなっていた。それでも女の子らしい、小さな手だった。
最初は引かれるままだった広子の手が、きゅっと僕の手を握り返してくれたことが嬉しかった。
時刻は日没。既に周りは暗くなっている。予想以上に暗くなるのが早い。
「……」
「……」
お互いに、沈黙。でも今はこの沈黙がありがたい。手から広子の温もりが伝わってくるから。
緊張して手が汗ばんでないかどうかが心配だった。目的の場所は街中にある土手の端。
「足元滑るから、気をつけてね」
「…うん、だいじょうぶ」
子供の頃に来たとき、この先には何があるんだろうってワクワクした。けれど、大きくなって来てみるとほんのすこし上りにくいだけの坂道だった。
「着いた。久しぶりだなぁ、この場所に来るのも」
「覚えててくれたんだ、この場所」
そこは、僕が子供の頃に見つけて秘密基地にしようと決めた場所。土手の端で、少し離れた場所で鉄製の壁に挟まれて電車が橋の上を走っていくのを見るのが、好きだった。
そして何よりも好きだったのは
「そういえば、あの頃は言わなかったんだけどさ。広子、上見てみ」
「上…?…わぁ!」
ここから見る星が、大好きだった。夜にこっそり来て、後から親にすごく怒られたけど。
久しぶりに見たけれども、その美しさは色あせることは無かった。
変わらないものは確かにある。けれども、僕たちは変わる。変わってしまう。それは大人への『変化』
「あの、さ。広子」
「…うん」
しばしお互いに満天の夜空に見惚れていたけれども、僕は視線を広子に移しゆっくりと話す。広子も空から僕に視線を移して、お互いに向き合う。
心臓が凄い速度で鼓動しているのがよくわかる。色々言いたいこと、伝えたいことがあったはずなのに頭が真っ白になってしまう。
それでも僕は一歩を踏み出す。勇気を振り絞って、前に。
「僕、広子のこと好きだ」
0326お題『広子は僕を許してくれない』 10
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2011/10/17(月) 13:42:14.04ID:kOqbl3u5
「え…?」
変わってしまうのなら、受け入れよう。そして、向き合おう。
「ずっと昔から好きでした。付き合ってください」
「…えっ……えっ……ちょっとだけ、待って……」
広子は俯き、人差し指で目をこする。そして顔を上げ鼻をすすりながら言った。
「……あたしっ…あたしでっ……いいのっ…?」
広子は、昔から泣き虫だった。
「広子じゃなきゃイヤだ。僕は広子が好きなんだ」
「でもっ…ぐすっ……他の子に……告白されたんじゃ……」
違う。違うんだ広子。
「それも断った。僕が、広子を好きだったから」
「……あはっ……ぐすっ…あたし、バカみたい……君を好きな人がいるなら、身を引こうって思って…あんなこと…ひっくっ…言ったっのに…」
広子の言葉を聞くのが辛くって、これ以上、広子に辛いことを言わせるのがイヤで
「うん。もう気にしてない。気にしてないよ」
「うぅ…うっ……うぅっ……」
広子を、抱きしめた。広子の体は小さく震えてて、そうさせてしまったのが自分だとわかって、軽く自己嫌悪に陥る。
「あのっね……あたしもっ……ずっとずっと…君のこと、好きだったんだよ…」
「広子……」
一度体を離し、もう一度抱きしめる。今度は、広子も腕を僕の背中にまわして抱きしめてくれる。
広子の温もりと、早い心臓の鼓動が、伝わってくる。
「……あのね、あたし、怖かったんだ。君に好きだって言うと、今の関係が壊れてしまいそうで」
「それは僕だって同じだったよ」
泣き止んだ広子は、抱き合ったままゆっくりと話し始めた。
「あたしたちはただの幼馴染で、それ以上の関係にはなれないんじゃないかって…。もし君に振られたらどうしようって」
「僕も、同じこと考えてた」
ああ、なんだ。結局僕たちは
「変わらないって思ってたものが、急に変わっちゃう。隣にいつもいてくれた人が突然いなくなっちゃう。それを考えるだけで、とても怖かった」
「うん、うん」
同じ所を、グルグルと回っていただけなんだと気付かされた。
「佐藤さんとか、他の子たちにもいっぱい相談したんだけど、みんなさっさと告白しちゃえー!ってそればっかりで…」
「それが出来たらすごい楽だったんだけどね。お互い」
広子の頭を撫でながら、改めて思う。幼馴染以上に、親友以上に、一人の女の子として愛しいと。
「そしたら、ラブレターが入ってて…頭が真っ白になって、他の誰かが君のことを好きなんだって思った途端、あたしは傍にいちゃいけないって思っちゃって…」
「なんで?」
「だって……幼馴染なだけだし……お邪魔虫になっちゃうし……それに何より……あたしの隣に君がいなくなっちゃうのが凄くイヤで…」
「ああ、それで」
あの時、幼馴染から、ただの友達になろうって言ったのか。
それは、不器用な広子なりの気遣いだった。
「でも……離れちゃったらどんどん不安みたいなのが膨らんできて、いてもたってもいられなくなった時に、君に呼び出されて」
「うん」
「久しぶりに手を握ってくれて、嬉しかった。秘密基地に連れてきてくれて、すごく嬉しかった」
「うん、うん」
「好きだっていってくれて、とっても…嬉しかったよぉ…」
再びぐずりだす広子の頭を撫で続ける。
「…ぐすっ……あのね、好きだよ…大好き…!」
「ああ。僕もだよ。好きだ。これ以上ないくらい、大好きだ」
満天の星空の下、僕たちは変わった。幼馴染から友達へと変わり、友達から恋人へと変わった。
変わらないものはない。人が子供から大人になるように、大人から老人になるように。
僕たちは今、子供から大人への階段を一歩ずつ進んでいる。その過程で、変わってしまい失くしてしまうものもある。
けれど、失くしてしまわないように努力することはできる。
結果を恐れてはいけない。前に進む勇気を精一杯にかかげて、向き合おう。
そうすればきっと、変えていけるから。良い未来へと。自分たちの望む最高の未来へと―。
0327お題『広子は僕を許してくれない』 Last
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2011/10/17(月) 14:02:37.11ID:kOqbl3u5
空は青く、どこまでも青く、時々白い雲が青い空を自由に泳いでいる。
「んもー。そんなに空ばっかり見てたら犬のウンコ踏んじゃうよ?」
いつもの通学路、いつもの空間、いつもの会話。
「ばっか。んなもん踏むか。それに手繋いでるから広子もウンコ踏むんだぞ?」
「ふ〜んだ。あたしはそんなドジしないもんね〜だ」
「ウンコ踏んだらお前の靴につけるからな」
「最低〜!彼女の靴にウンコつけるなんて最低〜!」
「女の子がウンコウンコ言うな。このウンコ女」
「なぁ〜ん〜で〜すってぇ〜!」
これが、僕の望んだ結果。
これが、僕を勇気を持って踏み出した一歩。
ただ一つだけ、予想外に嬉しかったのは
「あーそうそう」
嬉しそうに広子が僕の前に立って、言った広子の言葉。
「昔っからずっと好きだっていうサイン出してたのに、あたしの気持ちにずっと気付いてくれなかったんだから、それに責任とってくれるまで許さないんだからね!」
満面の笑顔で、そんな事を言うから、たまらず笑った。
「もー!わーらーうーなー!」
「あははっごめんごめん。ほら、遅刻するぞ!」
そして走り出す。どこまでも青い空の下で、彼女と一緒に。
広子が許してくれるまで、ずっと一緒にいよう。
許してくれても、ずっと一緒にいよう。そういう『変化』を出来るように、僕は努力し続けようと思った。


広子は僕を許してくれない END
0328創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/10/17(月) 19:34:38.86ID:Ie4w7jN/
ながいごう
0329創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/11/21(月) 02:41:11.69ID:Q9x/PDEd
>>327
ええのう
面白かった
0330創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/01/02(月) 22:25:17.29ID:N3H7uBwd
お題「しずかちゃんは萌えているか?」
0334しずかちゃんは萌えているか?
垢版 |
2012/02/26(日) 22:13:46.45ID:4smFWc1g
「ねえお祖父さま」
 長身の美少女は祖父に甘えて抱きついた。
「なんだねしずか。子供じゃあるまいし」
「私ね、欲しいものがあるの」
「やれやれ、またその話か」
「いいでしょ、ねえお願い」
「お前は飽き性だからな。またすぐに気が変わる。切りがない」
 その時、窓ガラスを突き破ってターザンのような絶叫とともに何者かが飛び込んできた。
「あー!あー!あー!」
 侵入した黒ずくめの忍者男は、すぐに孫娘のほうを捕まえ、彼女のこめかみに銃のような物を突きつけた。
「久しぶりだな。迅教授。俺だよ、忘れたとは言わせない。梶沢岳史だよ」
 迅は眼鏡の奥から目を見開いた。
「君か、梶沢なのか、あの――」遠い過去を再現するのも束の間、
「あのときの恨みを晴らしに来たぜ。こいつは孫か。随分きれいな玉だな。ならお前を苦しめるのに好都合だ」
「よせ、あれは事故だったんじゃ。亡くなった君の家族にはすまなかったと思っておる」
「そんな事はどうでもいい。あれから俺の人生は滅茶苦茶だよ。でも今日が最後だ。何もかもな」
「何をする気だ? しずかは普通の子じゃない。頼むから止めてくれ」
「花火を上げてやるよ。俺の命の最終章としてな。そしてお前の残りの人生も散るんだ」
 梶沢の銃はチューブがついており、背中のタンクに繋がっていた。
 梶沢が引き金を引くと、銃の先から小さな火が点った。火炎放射器に違いなかった。
「わはははは! よく見てろよ。お前の目の前で、きれいな宝物を燃やしてやるから」
 梶沢はしずかを突き飛ばすと、火炎放射器の引き金を一杯に引いた。迸る炎がしずかの体を直撃し、少女はドレスごと炎に呑まれた。
「しずかー!」
 しかし悲鳴をあげて悶え苦しむかと思いきや、しずかは平然と炎を受け入れていた。
 顔にかかった蜘蛛の巣を取るような仕草をする程度なのはどういうことか。
「な、なんだお前? 熱くないのか」
 一瞬たじろぐ梶沢に、彼女は猛然と抱きつき、梶沢ごと火だるまになる。
「ぎゃあああっ!」これは梶沢の悲鳴であった。
 二人は揉み合いながら窓際に退いていき、そして梶沢の侵入した窓から一緒に飛び出していった。
 ここは三階である。地面に激突する音がした。
 迅が慌てて階段を駆けおり、外に出ると、全ては終わっていた。
 梶沢岳史は全身に火傷を負った上に墜落死。
 そして《しずかだったモノ》は、自分の上に覆い被さる男の焼死体を退けて、ゆっくりと立ち上がるところだった。
「オ祖父サマ、オ怪我ハアリマセンカ?」声帯に障害が起きている。
「おお、しずか、コアは無事だったようだな。すぐにチェックするから整備室に来なさい」
 迅は、しずかの素体を、高熱も構わず抱きしめた。
 今までしずかを形作っていた外皮は焼け落ち、彼女は骸骨のような金属の本体を露わにしていた。
 それでも迅にとって、しずかはしずかであった。
「オ祖父サマ、今度コソしずかノオ願イヲ聞イテイタダケマスワネ。私ニ新シイすきん・すーつを作ッテ下サイ」
 コアを偽装する精巧な人型の着ぐるみをスキン・スーツという。
「わかったよ。確かお前のリクエストは萌え系だったね。いいよ。なんでも作ってあげるから――」
 ロボット工学の権威、迅博士は涙を流して《義娘》の無事を喜んだという。
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