良く晴れたその日、手枕京香は二月二十五日に死のうと決めた。
 別になにか理由があった訳ではない。主婦が「その日の献立は何にしようかしら」的なノリでぼんやりと思いついたのだった。
 そうだ、二月二十五日に死のう、と。
 そうと決まればと京香はカレンダーを確認した。今日は二月十八日だった。
 まだ一週間の猶予があったので、さっそく支度を整えることにした。
 まず、死に方を考えなければならなかった。
 京香は紙とシャープペンシルを用意して思いつく限りの死ぬ方法を書き出してみた。
 首吊自殺、飛び降り自殺、ピストル自殺、練炭自殺、硫化水素自殺、睡眠薬自殺、リストカット……。
 どれもぱっとしなかった。基本的に京香は痛いのは苦手だったし、練炭自殺と硫化水素は死に至るその瞬間まで意識は保ったままだと聞いたことがあり怖くてできそうもない。
そもそもピストル自殺に至っては実現不可能だった。
 唯一、首吊自殺だけは簡単に実行できそうな気がしたが、首の閉まる瞬間が酷く痛そうなので却下することにした。
 そこで京香はある事実に思い至った。
 (そうだ、あれを使えばなんとかなるかもしれない)
 そうして、京香は二月二十五日に死ぬ計画を立て、実行に移すことにした。

 二月二十五日。
 京香は空港にてフライトの手続きを終え、飛行機に乗り込もうとしていた。
 待合ロビーには老若男女さまざまな事情を抱えた者たちが思い思いにそれぞれの人生を謳歌していた。
 彼らまたは彼女らはいつか死ぬのだ。全員自分は死ぬはずがないと思っているのだろうが、そうではない。
 人はいつか死ぬ。それは世界の唯一変わらない法則であり、摂理だ。
 死とは生の対義語ではない、むしろ同義語である。死とは生のもう一つの側面でしかない。
 彼らまたは彼女らはそのことを肝に銘じて生きるべきである。
 京香がロビーを見渡しながらぼんやりとそんなことを考えていると、
 
 「―――うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 怒声とも奇声ともつかない声が空港ロビー中に響き渡った。
 その声の主は京香に猛烈なタックルを食らわせると同時に叫ぶのをやめた。
 その直後に今度は周りにいた客たちが悲鳴を上げ始めた。
 京香と謎の男は重なるように倒れており、京香の胸には深々と男の握ったサバイバルナイフが突き刺さっていた。
 周りの客たちの悲鳴が不協和音を奏で酷い激痛が波のように押し寄せるなか京香は妖艶な笑みを浮かべていた。

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